トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Cowboys カウボーイたち

アメリカ映画 (2020)

『Just Charlie(ジャスト・チャーリー/僕、女の子になるはずだった!)』(2017)、『Out of Time(アウト・オブ・タイム)』(2020)に次ぎ、3作目のトランスジェンダーもの。ただし、前2作が、男の子→女の子という流れであったのに対し、ここでは、女の子→男の子と逆の流れ。その場合、常識的には子役は女の子が演じるものだが、この映画では、男の子になってからの逃避行に重点を置いているため、少年が女の子を “過去の回想シーン” という形で演じている。男の子になって髪をばっさり切り、理解のある父と一緒に大自然の中に逃げ込んだ後に挿入される回想シーンは計7回。それによって、事件の1年ほど前からの状況が説明される。この回想は、その直前に起きた “現在” のシーンに関連する形で挿入されるので、観ていて分かり易い。これについては、使用する写真の左端に色を付けて、どれが現在(白)で、どれが過去(黄)かを分かり易くした。映画の撮影は、映画の設定と同じモンタナ州のカナダ国境近くのグレイシャー国立公園。大自然の素晴らしさを見事に映像化している。ドラマの方は、トランスジェンダーの前2作は、何れも父親が大反対するが、今回は、主人公が女の子なので、母親が強く反対する。同性の親が反対するというのは、ある意味分かり易いのだが、実際にはどうなのであろう? 「トランスジェンダーに優しい社会」というのは世界共通の目標だが、それが自分の息子や娘で起きた場合、ある程度悩むのは仕方がないことかもしれない。

ここでは、映画の進行ではなく、実際の時間軸に沿って記述する。①10歳のジョーは いつも悲しげな少女だが、父のトロイには甘えている。②彼女は 時々 男の子の服を着てみたりする。父に 初めて「私は男の子なの」と打ち明け、最初は混乱した父も最後には認める。③父は、母のサリーにそのことを話すが、母は全否定。④スーパーの衣料品コーナーの試着室で 父が選んだ男の子の服を着ていたジョーは、トロイの義兄の息子に見られて侮辱されたため顔を叩き、その後の喧嘩に父が介入。止めようとした義兄を肘で叩いたら、階段を転げ落ちてしまい、怒った義兄はトロイを告発し トロイは逮捕・裁判・刑務所収監される。⑤母サリーは、夫に不信感を抱き、ジョーを一度も刑務所の面会に連れて行かない。ジョーが、スーパーの玩具コーナーで男の子のおもちゃや本を買いたいと言うと 強く拒絶する。⑥父トロイが刑務所から解放されても、サリーは迎えにも行かないし 家にも入れない。1週間に1回だけジョーに会いに来ることだけ許す。トロイは、精神科医から躁うつ病との診断を受け、日に何度も薬を服用している。⑦トロイはサリーの頑なな態度を変えるよう頼むが、全く聞いてもらえない。⑧サリーは、週1回の面会も止めさせようとするが、それを聞いたジョーは怒って 髪を短く切ってしまう。そして、父と一緒に行きたいとピックアップトラックに乗り込むが、父から、後で迎えに来ると言われ、家に戻る。⑨その日の真夜中、父はジョーを迎えに来る。その夜は、父の親友の家で父と一緒に泊る。⑩翌早朝、父は、親友の白馬とライフルを無断で借り、トラックを私道に残して山に入って行く。⑪母は、ジョーがいないことに気付くと警察に通報し、刑事に求められて 1年前に撮った写真を渡す。⑫トロイのトラックが見つかり、刑事はその中からカウボーイ姿のジョーの写真を見つけて驚く。⑬トロイはカナダ国境を目指していたが、そのための食料を用意して来なかったため、お腹の空いたジョーが魚を獲ろうと真夜中に渓流に行き、溺れかけ、救おうとしたトロイが大切な薬を落としてしまう。⑭翌日、薬を飲まなかったトロイは、躁状態になり、ジョーから不審に思われる。不信感は日が経つにつれ強くなる。⑮自分の置かれた状況に過敏になったジョーは、トロイが用を足しに行った際、物音がしたのでライフルを撃ち、それが人に当たりケガをさせてしまう。⑯その結果、2人の居場所が警察に分かり、SWATが出動する。トロイはうつ状態になり、ジョーは不安で仕方がない。⑰刑事は2人を発見し、話し合いを持とうとするが、血気にはやったSWATが先走ってトロイを撃ち負傷させる。⑱保護されたジョーは、“改心” したサリーにより “男の子”として学校行きのスクールバスに乗る。幸い、ジョーは受け入れられ、微笑む。⑲トロイは傷が治り、児童誘拐の罪で刑務所に入れられる。サリーはジョーを連れて面会に行き、家族として、短いが楽しい時を過ごす。

ジョーこと、ジョシー・ジョンソンというトランスジェンダーの少女を演じるのは、撮影時10歳のサーシャ・ナイト(Sasha Knight)。れっきとした男の子だ。トランスジェンダーの男の子を、少年が演じるのは当然だが、トランスジェンダーの女の子を少年が演じるのは、それだけ聞くと異常に思える。しかし、映画のメインパートは、カナダ国境近くのモンタナ州グレイシャー国立公園を彷徨する父と “息子” の物語なので、敢えて少年を選んだのであろう。しかし、多くのアメリカの映画評を見ていると、映画をいい加減に観ただけで書いているのか、男の子のトランスジェンダーと勘違いしているお粗末なものが大半を占めている。母親との関係を 「her transgender son Joe」 など書いてあるので、確信犯と言える。サーシャ・ナイトは、映画初出演にして L.A. Outfest映画祭でGrand Jury Award(最優秀演技)を獲得している。全体に暗い感じの多い役だが、サーシャは、自分はジョーと違って明るくて活動的な性格だと 述べている。サーシャらしい写真は、コロナ禍のためWEBインタビューの低解像度のものしか存在しない。これを見ると、“男の子” になってからの長めの金髪(?)は本人のものだ。

あらすじ

グレイシャー国立公園の高台からの俯瞰映像に続き、トロイ(父)とジョーの2人が映る。「どうだ、この景色?」。「きれいだね」。「きれい過ぎるくらいだろ」(1枚目の写真)。ここでカメラ・アングルが変わりと、先ほどの俯瞰映像は2人が見ている風景だと分かる。この30秒ほどの短いシーンの後、場面はガラリと変わり、ベッドで寝ていたサリーが目覚まし時計(8時47分と表示)の音で目が覚める。サリーは、慌てて起きると、仕事に遅刻しそうなので、大急ぎで出かける用意をする。その間も、「ジョー、仕事に遅れちゃう」などの言葉をジョーに叫ぶが、一向に返事がない。そこで、「ジョー、聞いてるの?」と言いながら部屋を見に行くと、ジョーはいなくて、窓が開いている(2枚目の写真)。タイトルが表示され、12時間ほど過去に戻り、昨夜、トロイとジョーのピックアップトラックが夜道を走る車窓からの眺めが短く映り、続いて、ライフルの手入れをしているロバートが映る。依存症のグループカウンセリングで一緒だった友人だ。玄関をノックする音でロバートがドアを開けると、そこには寝てしまったジョーを抱いたトロイがいた(3枚目の写真、矢印はジョーの寝姿)。別居しているサリーの家に留まることに我慢できなくなったジョーを、サリーが寝ている間に救い出してやったのだ。トロイは、一晩泊めてくれるよう頼む。ジョーをソファに寝かせた後で、2人は少し話し合う。その中で、トロイは、ジョーとキャンプの旅に出かけると打ち明ける。ロバートは、その旅の間、トロイが乗って来たピックアップトラックを放置してもらっては困ると釘を刺す。その後、トロイが薬を飲む場面がある。映画の中で数回ある同様のシーンの1回目だが、これは彼の躁うつ病を抑えるための大切な薬だ。
  
  
  

翌朝、ロバートが起きてくると、2人の姿はどこにもなく、「すぐに戻る」という簡単なメモが残されていた。そして、あれほど言ったのに、ピックアップトラックは放置されたまま、そして、納屋で1頭だけ大事に飼っていた白馬が消えていた。このシーンでは直接出てこないが、ロバートが昨夜手入れしていたライフルを、後でトロイが持っていることから、ライフルも黙って持ち出して来たことになる。そして、映画は、冒頭の場面に戻り、馬に跨ったトロイとジョーは、雄大な自然の中を進んで行く(1枚目の写真)。ジョー:「カナダのこと覚えてないよ」。トロイ:「まだ赤ん坊だったからな。だが、気に入ってたぞ」。「そうなの?」。「ああ。その冒険心は、カナダで身に着けたんじゃないかな。早く、もう一度、見せてやりたいよ」〔この辺りからカナダ国境までは30キロ程度〕。ここで、場面はサリーの家に変わる。地元警察の女性刑事フェイスがジョーの失踪の件で話を聞いている(2枚目の写真)。「元夫との状況について、もう少し話して下さい」という問い掛けに対し、「まだ、離婚していません」と答えるので、別居中だと分かる。サリーは、1週間に1度、トロイがジョーに会いに来ることを認めていた〔裁判所の判断は、その必要なし〕。「それは、とても寛大でしたね」。「私はバカでした。彼は、娘を誘拐したんです」 。
  
  

トロイは、渓流に沿った場所でお昼を食べることにし、荷物を降ろす。そして、まず薬を飲むと、リュックの中から豆の缶詰を取り出し、蓋を開けてからジョーに渡す(1枚目の写真)。「これ、温めるの?」。「いいや、火は焚かない。注意を引きたくないからな」。「カウボーイは、豆を食べるんだよね」。「ああ」。「じゃあ、おなら出ちゃうよ」。「そうだな。お前さん、俺の風下に座ってくれるといいんだが」。「残念でした」。こう言うと、ジョーは、ニコニコしながら おならをする。そのあと、トロイは地図を見て、場所を確かめる。ジョーが、「どのくらいかかるの?」と訊くと(2枚目の写真)、「長くても3日だな」と言われ、思ったより大変だと驚く。次のシーンは、サリーの家での続き。誘拐事件の報道に使うための写真の提供を求められたサリーは、アルバムの中から1枚の写真を取り出してフェイス刑事に渡す。「何歳ですか?」。「10歳」。「可愛い娘さんですね」(3枚目の写真)。
  
  
  

この写真を契機に、映画は過去に戻る。過去の映像は、写真の左側に黄色の帯を縦に入れることで、現在進行中の内容とは区別する。この映画の中で、過去を振り返るシーンは計7回登場する。それらのシーンは、すべて、その直前の現在のシーンを説明するために挿入されている。写真を撮影した日、ジョーの家には父トロイ、トロイの義兄で上司のジェリーとその家族も一緒だ。サリーは、ジョーの肩を抱くと、「私たちピッタリ息が合ってる。2人とも可愛いでしょ」と、別居前だったトロイに言う(1枚目の写真)ジェリーは「あんたの お人形さんみたいだ」と言い、サリーに叱られる。そのあと、ジェリーは、トロイに向かって「彼女、レジ待ちの列に並んでる。持ってる物は4つ。ゴムプール、パドルボール、ポテトチップ、大人用のおむつ」と つまらないジョークを言うが、ジョーは不信感を持ってジェリーを見ている(2枚目の写真)。さらに、そのあと、ジェリーの奥さんが サリーとジョーのツーショットを撮る(3枚目の写真)。フェイス刑事に渡した写真とは違うが、着ている服は同じ。
  
  
  

その日の夜、両親は、屋外での食事の後片付けをしている。ジョーは居間に行くと服を脱いで下着だけになる(1枚目の写真)。両親は、キッチンでキスし合っている。ジョーは、余ったクッキーを取りに来て、サリーからは 「1つだけよ」と言われ、トロイからは 「おい、パジャマを着ろよ。寝る時間だぞ」と言われる。トロイは、ゴミ出しをした後、ジョーの様子を見に部屋に行く。ジョーがあんまり不機嫌な顔をしているので、「待てよ、悲しい顔コンテストで優勝する気だな?」とおどけてみせ、「どうやるか、教えてくれよ」。この言葉でジョーも笑顔になる。しばらくしてサリーが様子を見に行くと、トロイがジョーの横に寝て、「2人のカウボーイがいて、火の周りに座ってココアを飲んでる。2人とも、一日中炎天下で金を探してて、くたびれ果てたんだ。2人が見上げると、空には流れ星が…」と話す。すると、ジョーがそれを受けて、「そしたら、2人のうちの1人が、メールを受け取ったの。あれは、流れ星じゃなくって、UFOだって」(2枚目の写真)。サリーは、ジョーを1人で眠らせようとするが、ジョーは 「眠るまで一緒にいてくれる?」とトロイに甘える。サリーは、仕方なくその場を去るが、ジョーが母より父の方が好きなことがよく分かる。
  
  

ここから、現在。TVで女性キャスターが、「不幸にして、レイバー・デー〔9月の第1月曜日〕が、一人の母親にとって悪夢に変わってしまいました。11歳の地元の少女、ジョシー・ジョンソンが今朝早く寝室からいなくなりました…」と報じている(1枚目の写真)。一方、警察のフェイス刑事のもとには、役に立ちそうな一報が入った(2枚目の写真)。それは、ロバートの家のすぐ近くに放置されていたトロイのピックアップトラックに関する情報だった〔電話したのはロバートではなく、たまたま通りがかった若者〕。そこに、ロバートが車で帰ってくる。そして、フェイスを見て、「どうかしましたか?」と尋ねる。「フラットヘッド郡警察のフェイス・エリクソン刑事です」。ファイスは、ロバートの家に入り いろいろと質問する。「じゃあ、トロイが来て、トラックを置いていった?」。「ああ」。「彼は本当に1人だった?」。「ああ」〔トロイとジョーを守って嘘をついている〕。「いつ取りに来ると?」。「知らんね」。「どうやって出てったんです? 歩いて? それとも、誰かに乗せてもらって?」。「知らんね。いつの間にか いなくなってた」。「あなたの私道にトラックを放置されて、不愉快だったのでは?」。「特に異常だとは何も」〔ここも嘘〕。壁には、白馬に乗ったロバートの写真が、額に入れて飾ってある。トロイが無断で持ち出した馬だ。「素敵な馬ですね」。「ああ、いい奴だった」〔盗まれたことは、隠している〕
  
  

その白馬に乗った2人。ジョーが、「パパ、馬が疲れてる」と指摘したので、トロイは、渋々 「分かった、ここでキャンプしよう」と賛同する。2人は、近くの渓流まで歩いて行く(1枚目の写真、矢印はジョー、その左にトロイ)〔大自然が美しい〕。さっそくトロイが薬を飲む。「薬 飲んでるの?」。「そうなんだ。毎日飲んでる。心配するな。気分が落ち着く」。ジョーは、水の中に大きな魚を見つけて、興奮する。竿を用意しながら、トロイは、「怯えさせるんじゃないぞ」と注意する。ジョーは、魚に飽きると 「撃とうよ」と言って、ライフルに手をかける。トロイは、「まだ 銃に触るんじゃない」と止めるが、ジョーは 「でも、撃ち方知ってるよ」と反論。「引き金の引き方は知ってても、撃てる訳じゃない」。その時、対岸に現れた3人のトレッカーの1人から 「トレイルを見失ったみたいなんだ」と 助言を求められる。トロイは、「あんたたちの後ろじゃないかな」とテキトーに答える。「俺たち、オハイオからシアトルまでのトレイルを全部制覇するつもりなんだ」〔3000キロ以上ある〕「あんたたちは、どこから来たんだね?」。「アイダホ〔モンタナの隣の州〕〔嘘〕。「ここで 釣りしていいなんて知らなかったな」。「のんびり過ごしてるだけだ」(2枚目の写真)。一方、ロバートの家から出たフェイス刑事はピックアップトラックの車内を徹底的に調べ、トロイとカウボーイ姿の少年が映った写真を見つける(3枚目の写真)。
  
  
  

この写真を契機に、映画は再び過去に戻る。場所は ボーリング場。トロイとジェリーが対戦している。その間、サリーとジェリーの妻、ジョーは脇に座っているが、サリーは 自分が働いているカフェかバーで、カリフォルニアからの観光客の男が客として入って来た時のことを話している(1枚目の写真)。ボーリングの場面は中途半端に終わり〔何のために挿入されたのか分からない〕、次のシーンは、ジョーが学校の廊下を早足で歩いて来て、遺失物保管室にこっそりと入る(2枚目の写真)。として、バッグの中から男の子の上下の服を取り出すと、鏡の前で着てみる(3枚目の写真)。
  
  
  

夜、未舗装の広いスペースで、トロイのピックアップトラックが爆走している。助手席に乗っているのはジョー。「運転してみたいか?」。「ぜんぜん」。「だから、来たんじゃないのか?」。「話がしたかったから」。「何が、話したいんだ?」。「明日、ママに言ってくれない? ドレスなんか もう着たくないって」。「いいとも。だけど、教会に行くとか、パーティの時は着なきゃダメだぞ」。「パパ、ドレスが着たい?」。「まさか。何で俺がドレスなんか着るんだ?」。「そうでしょ? パパは男だから。男はドレスなんか着ない」。「そうだ」。「だから、私もドレスなんか着ない」。「分かった、お前さんはトムボーイ〔男の子のように振る舞いたい女の子〕なんだ。なら、ドレスなんか着なくてもいい」。「私は、トムボーイじゃない。トムボーイは女の子の一種でしょ。でも、私は女の子じゃない」(1枚目の写真)。「言ってることが分からんぞ」。「エイリアンが冗談で 私を女の子の体の中に入れたんじゃないかって時々思うの」。「お前さん、エイリアンに さらわれたのか?」。「パパ!」。「何だ」。「私は間違った体に入ってる。いい、私は男の子なの!」(2枚目の写真)。これで、すぐにトロイが理解した訳ではない。最初は、思春期のホルモンの変化による混乱を疑う。しかし、ジョーは、「混乱なんかしてない。自分のことぐらい分かってる」と否定する。そして、さらに、「ごめんなさい。でも、私のせいじゃない」と謝る。トロイは、真剣な顔になり、「大丈夫か?」と訊く。「私のこと、信じてないんだ」。「信じるよ」。「信じてない」。「信じる。約束する」。これで、2人の間には強い絆が生まれる。重要な場面なので、台詞の割愛は極力避けた。
  
  

フェイス刑事が、サリーの家を訪れる(1枚目の写真)。目的は、ピックアップトラックに中で見つけた写真について。「この写真、見たことありますか?」と尋ねる。サリーは、首を横に振り、「いいえ」と答える。「その写真に映っているのはお嬢さんですか?」。「そうです。時々、トムボーイみたいな服を着るのが好きでした。でも、こんな姿で家の外に出したことはありません」。「この子が、ドナルドダックの格好をしてても いいんです。大事なことは、この写真のような姿でいる可能性があるかどうかなんです。最初にお借りした写真と比べると、全くの別人のように見えますから」。「可能性は大いにあります。今じゃ、髪の毛も短く切ってますから」。「ショートカットですって? とても重要な情報なんですよ。まだ伺っていないことで、他に重要なことはありませんか?」。サリーは何も答えない。「何か思いついたことがあれば、何でも結構ですから電話して下さいね」。刑事は、捜査には、新しい写真を使うと言って去って行く。サリーは、思わず頭を抱える(2枚目の写真)。
  
  

この “男の子のような恰好” を契機に、映画は3度目の過去に戻る。2度目の過去と同じ日の夜、トロイは ジョーが打ち明けたことを サリーに話す。サリーが、真面目に取り合わないと、「ジョーが俺に話したことを、聞いたろ?」と、再度強調する。それに対し、サリーは、「ジョーはカウボーイハットが好き。だから何? あの子は、あんたのようになりたいだけ。あなたはそれを誤解してる」と、全くジョーの言ったことを理解しない発言をする。「違うったら。ジョーは、自分が男の子だと言ったんだ。ジョーは、間違った体に入ってると思ってる。まるで、他人の体の中に入り込んだエイリアンみたいに。『ボディ・スナッチャー』って、映画があったろ」。「『ボディ・スナッチャー』ですって? トロイ、あんた何言ってるの?」。ベッドで2人の話を聞いているジョーは悲しそうだ(1枚目の写真)。サリーは、見当違いの話を続ける。「カウボーイになるって、ジョーはきっと素敵だって思ったのよ。真夜中に盗んだ車で飛ばしたり、仲間とバーに行ったり、釣りや狩りもする。あの子にとって、あんたはヒーローなの。家で皿を洗ったり、トイレの掃除をしてる胸くそ悪いママと比較したら、男の子になりたいと思ったって不思議はない。ジョーにとって、あたしはゴミなの」。トロイは、「君は関係ない!」と言うが、サリーには全く通じない。だから、彼女が ジョーにお休みを言いに行った時にも、無理解を繰り返す。「ねえ、何か言いたいことある?」。「ない」(2枚目の写真)。彼女は 「ママが あんたの年頃の時、あたしと母さんはペギー・リーを聴くのが好きだった」から始め、ペギー・リーのようになりたいと思ったけど、結局は 下らない夢だったと くどくど話したあとで、「あなたは、人生で たった一人の人間にしかなれない。体は一つしかないの。あなたは一つの道を歩んできた。神様お決めになった道を。これからも、それを歩み続けるのよ」と、言い聞かせるように話す。これでは 絶望的なので、ジョーは何も言わない。
  
  

1日目の夜のテントの中で。周囲は真っ暗だ。ジョーが、「パパ、お腹空いた。明日は、魚 獲ろうよ」と声をかける。「ああ、そうしよう」。そして 「大好きだぞ」と付け加え、ジョーも 「大好きだよ」と受ける(1枚目の写真)。しかし、父が眠ってしまうと、ジョーは起き出してLEDのヘッドライトだけを頼りに、釣り竿を持つと渓流に入って行く〔なぜ? お腹が空いたから? 獲っても料理などできないのに〕。次のシーン。ジョーが溺れて叫ぶ声で、トロイが目を覚ます。「パパ、助けて!」。トロイは、何が起きたのか さっぱり分からない。それでも、ヘッドライトを頭に付けると、悲鳴のする方に向かって 「ジョー!」と叫びながら、真っ暗な森を小走りに進む。「パパ!」。「ジョー! どこだ?」。渓流に達すると、ヘッドライトが急流の中で光っている。ジョーは渓流に入って行った後、転ぶかどうかして流されたのだ。トロイはそのまま渓流の中に入って行く。そして、足をすくわれて流される(2枚目の写真、左の矢印はジョー、右の矢印はトロイ。分かり易いように増感したが、実際はもっと真っ暗)。ジョーは、何とか岩にしがみつき、そこにトロイが助けに来る。2人は寒さに震えながらテントに向かう。途中で、トロイは大事な薬のビンが胸ポケットに入っていないことに気付き、「すぐ戻る。どこにも行くな」と言い、薬を探しに戻る。ジョーは、「どこに行くの?」と訊くが(3枚目の写真)、トロイは何も答えない。結局、薬ビンは見つからなかった。トロイは思わず川原に座り込み、「くそっ!」と ののしる。
  
  
  

映画は、ここで4度目の過去に。このシーンの冒頭で、トロイはジェリーと一緒に落ち葉集めのバイトをやっている。次には、ロバートに誘われてアル中のグループセラピーにも参加する〔トロイはアル中ではないが、助けにならないかと誘われた〕。トロイは、その何れにおいても、異常なほどの “躁状態” を感じさせる。そして、このパートのメイン・シーンであるスーパーの衣料品コーナーでの騒動に入って行く。シーンの初めには、サリーとジョーの2人だけがいて、サリーがピンクのブーツを、「これ、試してみて」と言ってジョーに渡すと(1枚目の写真)、ジョーはそれを床に叩きつける。「ブーツを床に投げないの」。そこに、トロイが、「遅れてごめん」と言いながらやって来る。「40分も遅刻よ」。仕事のあるサリーは、すぐに出て行く。サリーの姿が消えると、トロイはジョーの座っている長椅子に置いてあったピンク色のブーツを棚にしまうと、ジョーが選んだカウボーイにぴったりのブーツを、「とってもいいぞ」と褒め、履いた後で歩いて様子を見させる。その次は、男性用のチェックシャツを3着持って来て合わせてみる(2枚目の写真)。そこに、ジェリーが息子を連れてやって来る。ジョーは試着室のドアを閉める。ジョーが、一番地味な色のチェックシャツを着て、ズボンのベルトを締め終わった頃、ドアがガタガタする。ジョー:「パパ?」(3枚目の写真)。しかし、それはトロイではなくジェリーの息子で、彼は、仕切り板の下をくぐって試着室の中に入ってくる。「なんだよ、その服。ダイク〔男性的に振舞おうとする女性〕みたいだな」。「ダイクじゃない」。「でも、ダイクみたいだぞ」。ジョーは、「ダイクじゃない!」と言って、息子の顔を叩く。怒った息子は、「ダイク!」と大声で言い、2人で揉み合いになる。すると、急にドアが開き、トロイが 「このクソガキ、何してやがる!」と怒鳴りつける(4枚目の写真)。
  
  
  
  

息子は逃げ、トロイは追いかける。ジョーは 「パパ、やめて!」と叫ぶが、躁状態にあるトロイは、息子を捉まえると 「何であんなことした? 大人のつもりか? ホントの大人が何するか見せてやろうか?」と脅し、止めようと肩を抑えたジェリーの顔を、振り向きざま、肘で強く叩く。あおりを食ったジェリーは、そのまま階段を転げ落ちる(1枚目の写真)。「そんなつもりじゃ…」。ジョーは、その光景を悲しそうに見ている(2枚目の写真)。結局、傷害事件として警察が呼ばれる。ジェリーは、「トイレから出てくると、奴が、俺の息子を襲ってた。止めようとしたら、俺を殺そうとした」と、実際にあったことを誇張し、“過失致死” で告発する。手錠をはめられて連行されるトロイは、ジョーに手を振る(3・4枚目の写真)。映画の中では説明がないが、トロイは収監されるが過失致死にはならなかった〔1年で出所〕。しかし、精神科医の診断で躁うつ病とみなされ、その時から薬を飲み始めたようだ。また、サリーとの別居もこれを契機に始まったらしい〔映画の中で、状況の説明は一切ない〕
  
  
  
  

2日目。雄大な自然の中に、“点” として映る2人の素晴らしい映像(1枚目の写真)。一方TVでは、9月2日にジョーを拉致した犯人として、トロイの顔が映し出される〔レイバー・デーに拉致なので9月の第1月曜日が2日なのは2019年〕。フェイス刑事が見ているトロイの調書には、「診断: 躁うつ病(執心、奇矯な行動)、処置: 話し合い療法(週1回)、精神科医(週1回)」と書かれている。食べる物がないため、トロイはキャンプに来ている車にこっそり接近し、中から食料を盗み出す。そのあとで、横に置いてあった新聞を手に取ると、そこには、カウボーイ姿のジョーの写真が、一面に掲載されていた(2枚目の写真)。自分達のテントに戻ったトロイは、盗んできたものを1つ1つ取り出してみせる。「豆の缶詰、クラッカー、チョコバー、ジャーキー〔薫製肉〕」(3枚目の写真)。ジョーは、一緒に入っていた新聞を取り上げる。「お前さんの写真だ。俺のトラックから持ち出したに違いない。てことは、ロバートの家に行ったってことだ。彼は味方だから 心配はいらん。だが、俺たち 無法者だな」(4枚目の写真)。
  
  
  
  

5度目の過去。ジョーが、スーパーの玩具コーナーで、おもちゃのピストルを手にしていると、サリーが カートを押しながら近寄ってきて、「何してるの?」と訊く。「これ、買っていい?」(1枚目の写真)。「そんなの要らない」。ジョーは横の棚のY字型のパチンコを取り上げ、「これなら? たったの1ドル。家に帰ったら、貯めておいたお金で払うから」と言う。ところが、サリーは、棚からスパークル・ガールズという女の子の人形を選ぶと、「これにしたら? 可愛いでしょ」と勧める(2枚目の写真)。「そんなの欲しくない」。「じゃあ、今日は、おもちゃを買うのやめましょ」。ジョーはピストルとパチンコをカートに放り入れると、「これは?」と言って1冊の本を見せる。本の題名は『カウボーイ・トム』。「ダメ。そんな本も要らない。棚に戻しなさい」。「なぜ? パパなら買ってくれる」。「他の女の子が遊びに来たら、こんなおもちゃで遊びたくないし、そんな本も読みたがらない。お友だち、欲しいんでしょ?」(3枚目の写真)。「そんなバカな子 いらない」。サリーは、すべて棚に戻させる。ジョーは怒って店から出て行く。
  
  
  

場面は変わり、刑務所の駐車場でトロイが座っていると、そこにロバートが車で迎えに来る。トロイが、どこに仮住まいを設けたのかは分からない。サリーの家では、サリーがジョーに何かをしようとして、何度も手を払い除けられる。「やめなさい! 長いことパパに会ってないから、変な気がするでしょ。興奮しで当然。あたしも興奮してる」と言うが、ジョーの賛同は得られない。そこに、車の音がして、トロイが運転するピックアップトラックが家の前に停まる。エンジンを切ったトロイが真っ先にしたことは、薬を飲むこと。これまでに何度も観たシーンだが、すべて「現在」の場面だったので、「過去」の場面としては、これが最初。ジェリーにケガを負わせたことで、医者の診断を受け、処方された薬だ〔その大切な薬が、ジョーを救おうと渓流に入ったことで紛失した〕。トロイが玄関をノックすると、出てきたサリーは、ジョーが裏庭にいると教える。2人が会うのはほぼ1年ぶり。サリーは、トロイが収監されている間、一度もジョーを刑務所に行かせなかった。2人の会話の主な部分。「会いたかった。ママがズボンを捨てちゃったの」(1枚目の写真)〔この写真が、一番少女らしい。演じているのが少年とは信じがたい〕。「ホントなのか?」。「うん」。「ひどいな」。「ママは、魔女じゃないかな」。「魔女なんかじゃない。美しい女性だ。お前さんのことを、まだ理解してないだけだ。そのうち、変わる」。「あのね、パパ、誰も私に訊いてくれない… パパと住みたいのか、ママと住みたいか… そんなの不公平…」。トロイは、「ジョー、パパは頑張る」と言うと、「じゃあ、来週」と言ってトラックに向かう」。ジョーは、「パパ、待って!」と叫ぶと、走って行ってトロイに抱きつく。その機会に、トロイは、ハンカチに包んだものをジョーに渡し、「ほら、これ後で」と小声で言う(2枚目の写真、矢印は小さな包み)。ジョーは、地下室に降りて行くと、ハンカチを開いて中身を見る。それは、バッファローの頭の絵柄を打ち出した ズボンのベルトのバックルだった(3枚目の写真)。
  
  
  

3日目のテントでの朝。トロイは、目立たないように作った焚火でココアを作ると、テントに入って行き、「お早うさん!」と、躁状態でジョーを起こす。ジョーをくすぐったり、突飛な歌を口ずさんだりしたので、薬の効果が完全に消えたようだ。そして、地図を見せ、「国境のそばまで来たぞ」と言い、指で示すのだが、そのやり方がまた突飛。心配になったジョーは 「大丈夫なの?」と訊く(1枚目の写真)。「大丈夫か、だと? お前さんがいて、国境は近い。大丈夫を超えとる」(2枚目の写真)。「ちょっと興奮してない?」。「お前さんを起こそうとしただけさ」。「いつもと何だか違ってた。薬飲んだの 見てないけど」。「もちろん、飲んださ」〔嘘〕「ほら、おいで」。ジョーの目は、疑いに満ちている(3枚目の写真)。その時、遠くで雷のゴロゴロという音が響く。
  
  
  

6度目の過去。ジョーが学校に出かけた午後、トロイがサリーの家にやって来る。外は雨。ちょうどサリーが家を出ようと傘をさしたところだった。トロイは自分の行動を詫び、「俺は、生まれ変わって良くなった。ちょっとだけでも話してくれ。5分でいい」と頼む。2人は、ピックアップトラックの中で愛し合う。そのあと、トロイは、「俺は、来週 新しい仕事を始める。だから、今夜一緒に食事に出かけよう」と誘うが、サリーは 「あたしたち、外食なんかしないのよ」と断る。「なぜだ? 忙しいからか?」。「ジョーをまともに戻そうとし始めたところだから」(1枚目の写真)。「サリー、君は神様じゃない。それに、ジョーは、君が思い通りにこねくり回せる粘土の塊じゃない。ジョーはジョーだ」(2枚目の写真)。
  
  

3日目のテントでの夜。トロイがカナダの大自然の話を始める。心配になったジョーが、「私たち、そこに住むの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「バカンスで行く積りはない」。「ママに、連絡できる?」。「お前さんのママは、俺みたいに理解もしてくれてないし、優しくもなかった。どうしてなんだと思う?」。「パパだって、時々 ごちゃごちゃするよ」。「ああ、俺はごちゃごちゃだ。どっちつかずだからな。パンの両面にバターを塗ってるようなもんだ。だが、お前さんだって ごちゃごちゃだぞ。それでも、俺は構わんと思った。普通のパパなら、違っただろうがな」(2枚目の写真)。トロイが言わんとすることは、ジョー思いの内容なのだが、それを躁状態で話すため、どうしても異常に聞こえてしまう。ジョーは、嫌気がさして横になる。
  
  

7度目、最後の「過去」。映画の冒頭、サリーがジョーの部屋に行き、窓が開いているのを発見する前夜のシーンだ。キッチンで、サリーがトロイに向かって一種の最終宣告をしている。「ジョーは思春期を迎えようとしてる。あの子にとって辛い時期になるわ。だから、裁判所の訪問許可が出るまでは、あの子に会わないのがベストだと思う」。「おいおい、何だと?」(1枚目の写真)。「こんなことしたくないけど、トロイ、あんたが良いお手本だとは思えないの」。その会話をこっそり聞いていたジョーは、頭にきて、「私、パパと一緒に住みたい」と激しい口調で言う(2枚目の写真)。「ジョー、部屋に戻りなさい」。そして、「トロイ、出てって」と、サリーが目を逸らした隙に、ジョーは、キッチンに置いてあったハサミを素早く取り、そのまま部屋に駆け込んでドアを閉める。部屋の前では、サリーとトロイが口論を始める。「は、動揺したんだ!」。「彼女は、でしょ! 出っててよ、トロイ!」。「イヤだ! 住宅ローンを払ったのは俺だぞ!」。「今は、あたしが払ってる」。その時、ドアが開き、髪を短く切ったジョーが姿を見せると、サリーに向かって、「大嫌いだ!!」と叫ぶ。その言葉に、思わずサリーは、ジョーの頬を引っ叩く(3枚目の写真)。叩いた後で、自分のしたことを悔いたサリーは、申し訳なさそうに「ジョー」と言うが、ジョーは、そのまま走って玄関から飛び出し(4枚目の写真)、トロイのピックアップトラックに乗ってしまう。
  
  
  
  

サリーは、「そんなつもりじゃなかったの、ごめんなさい」「車から降りてちょうだい」と言う一方で、運転席に乗り込んだトロイに向かっては、「トロイ、もし、その子を連れて行ったら、警察に電話するわよ」と警告する。ジョーは 「パパ、行こうよ」と催促するが、トロイは 「できない」と断る。「行こうよ。パパならできる」。「ごめんよ」。「こんなトコ、いたくない」。「ホントに一緒に来たいのか?」。「そう」(1枚目の写真)。「分かった。今はマズい。また戻ってくる。準備しとけ。今は、トラックから降りるんだ」。この言葉で、ジョーは素直に車を降りる。サリーは、トロイに「ありがとう」と声をかけ、ジョーには 「髪を揃えて欲しい?」と訊くが、ジョーは無視して自分の部屋に直行する。そして、真夜中、ジョーがベッドに寝ていると、車のライトが点いたり消えたりする(2枚目の写真)。ジョーは、すぐにベッドから出ると〔服を着たまま横になっていた〕、窓辺に行く。外では、ピックアップトラックがヘッドライトで合図を送っていた(3枚目の写真)。そして、翌朝、サリーがジョーの部屋に行き、開きっ放しになった窓に気付く。ここからは、すべて「現在」で、過去のシーンはない。
  
  
  

ジョーの逃亡から4日目。サリーは、スーパーに行くと、ジョーが欲しがっていた 『カウボーイ・トム』を手に取り(1枚目の写真)、そのままカートに入れる。その他、棚にあった男の子用のおもちゃや、ジョーがお小遣いで買うと言っていたパチンコなどを片っ端からカートに入れ、レジに持って行く(2枚目の写真)。サリーが、「男性」としてのジョーを受け入れたことを示している。
  
  

一方、森の中の2人。馬に乗っていると、トロイが、「おしっこに行く。お前さんも行くか?」と言い出す。「ううん」。トロイは馬を降りると、ジョーに馬を任せて そそくさと消える。ジョーは、馬のロープを木に巻き付けると リュックを地面に置くが、枝の折れる音にハッとする。続いて、何かが動くカサカサという音も聞こえる。トロイから、カナダの熊のことを聞かされていたジョーは、心配になり、ライフルを取り出し、引き金に指を置いて構える。そして、次に音がした方に銃口を向けて発砲する(1枚目の写真)。ジョーにとって恐ろしいことに、それは熊ではなくて人間で、草むらの中に傷を負って仰向けに倒れていた。発砲音にびっくりしたトロイが駆け付け、男が持っていたトランシーバーを取り上げ(2枚目の写真、矢印)、自分のスボンのベルトを引き抜くと、弾の入った左脚上部を縛って止血する。ジョーは 茫然としてそれを見ている(3枚目の写真)。トロイは、トランシーバーに向かって、「メーデー、撃たれた」と叫ぶと、ジョーを連れて渓流まで行き、血に染まった両手を洗うが、ジョーの茫然自失状態は変わらない。
  
  
  

撃たれた男がどのようにして発見・搬送されたのかは不明だが、フェイス刑事が入院先の病室を訪れる。そして、「父親を見ましたか?」と質問する。「ああ、走って戻って来ると、ガキを捉まえ、馬に乗って去った」。フェイスは、「馬に乗って行ったのですか?」と驚く。TVでは、ジョーと父親がカナダ国境を目指していることが分かったと報じ、その簡単な地図を示す。この周辺のグーグルの航空写真上で、TVの略図の位置関係を示すと、3枚目の写真のようになる。捜索エリアが、国境に極めて近いことが分かる。濃い緑色は森林なので、山の中ということも。なお、青い実線はハイウェイ、点線は山道。現場には、SWAT〔警察の特殊部隊。特殊火器を装備し、凶悪事件など特殊任務に機動的に対応するための警察部隊〕が出動しているが(4枚目の写真)、いくらライフルを持っているからといって、少しやり過ぎのような気もする。
  
  
  
  

馬に乗った2人。ジョーは、トランシーバーの音声を聞いているトロイに、「パパ、あの人 死んだの? 僕、殺しちゃった?」と、必死に尋ねる(1枚目の写真)。「静かに」。音声は途切れがちで、「…危険人物…」「…白馬に…」などが聞こえてくる程度。しかし、白馬という言葉があったことから、トロイは、馬を置いて徒歩で進むことにする。ジョーは、「熊に食べられちゃうよ」と反対するが、トロイは馬の尻を叩いて自分達から遠くに行かせる。SWATでなくて、地元の警官達も別途捜索に加わっている。フェイス刑事は、柔らかい土についた馬の足跡に気付き、一人で追跡を始める。トロイとジョーは、渓流に沿って歩いている(2枚目の写真)。そのあと、倒木の多い地帯を進んでいる時、トロイが、「カナダに着いたら、名前を新しくしなくちゃな」と言い出し、その名前 「リンゴ・マダガスカル」を巡って下手な冗談をくどくど話す。ジョーは 「なぜ、薬 飲むの止めたの?」と訊く。「ちゃんと飲んでるぞ」。「飲んでない。知ってる」。「飲んでる」。「飲んでない。パパは、嘘しかつかない! 今、どこにいるかだって知らない!」。トロイは、荷物を地面に叩きつけるように置くと、「分かった。正直に言おう。大したことじゃないが、薬は失くした。お前さんを助けに川に入った時に失くした。だが、どうだっていい。俺たち仲間だからな」。ジョーは、自分のためにトロイが大事な薬を失くしたことが分かった直後なのに、詫びると思いきや、「こんなの、誘拐じゃないか!」と非難する。「お前さんが、来たいと言ったんだぞ!」。「誘拐だよ!」。「すべて合意した上でだった!」。「カナダに着いたら何する気だった? 何も決めてないじゃないか! 警察には追われてるし。守ってくれると信じてたのに!」(3枚目の写真)。トロイは、無計画な自分を恥じて、「悪かった」と謝るが、急に躁から “うつ状態” に変わってしまい、「何したらいいか、全く分からん!」と泣き出してしまう。ジョーは、「パパ! 何とかなる」と言って、気合を入れるしかなくなる。
  
  
  

足跡を追って行ったフェイスは、遂に白馬を見つける(1枚目の写真)。以後、フェイスは白馬に乗って、今度はブーツの足跡を頼りに追跡を始める。一方、ジョーとトロイは、ぬかるんだ泥の上を歩いている。率先して歩いているのはジョーの方で、トロイは気もそぞろ。ガチョウの群れの鳴き声でトロイが足を止めると、「ほら、行くよ」と手を引く(2枚目の写真)。泥地を抜けると、渓流沿いの砂利の川原に出る。一方、朝のTVを見て 「捜索エリア」まで急いで車で駆け付けたサリーは、これから一体どうなるのだろうかと心配でたまらない(3枚目の写真)。
  
  
  

渓流の右岸を白馬に乗って遡っていたフェイスは、遂に、川の浅瀬を歩いている2人を発見する(1枚目の写真、矢印)〔なぜ、川の中に入ったのだろうか?〕。しかし、SWATに連絡すると2人の安全が保証されないと思い、トランシーバーで連絡はしない。次のシーンでは、2人は川の中ではなく、川岸の少し奥の砂利場を歩いている。トロイが、「これで道は合ってるのか?」と訊く。「そう思うよ。地図によれば」。ここで、トロイが座り込んでしまう。ジョーは、「もうすぐだよ。行こうよ。さあ」と手を引っ張るが、トロイは立たない。「大丈夫、やり遂げられるよ。あとちょっとだ」(2枚目の写真)。トロイはようやく立ち上がり、2人は川原に出る。ジョーは、対岸に白い馬がいるのに気付く。誰も乗っていない。すると、いきなり銃声がする。ジョーが音のした方を見ると、そこは対岸の水際で、フェイスがピストルを空に向けていた(3枚目の写真)〔ジョーは、それが誰かは知らない〕。トロイは、慌ててライフルをフェイスに向け、「銃を下に置け!」と叫ぶ。ジョー:「あの女(ひと)、警官だよ」。「分かっとる。もっといるに違いない」。対岸のフェイスが、「銃は置いたわ!」と叫ぶ。渓流の音が大きくて、トロイには分からない。そこで、「何て言ってる? 俺には聞こえん」とジョーに訊く。ジョーは、それには答えず、フェイスに向かって、「ほっといてよ!」と叫ぶ。「助けに来たのよ!」。「行っちゃって!」(4枚目の写真)。「話し合いましょ!」。「刑務所なんかに行かない!」。「私を信じて!」。「行っちゃって!」。そして、トロイに対しては、「パパ、すぐ逃げようよ。他にもピストル持ってるかも」と催促。フェイス:「あなたたちの状況は理解してる。助けてあげられるわ!」。トロイは 「俺は疲れた。ごめんよ」と、思考停止状態に。
  
  
  
  

フェイスが、「そっちへ行くわ!」と言い、ジョーが、「OK! 一緒に行くよ!」と叫んだ時(1枚目の写真)、山の稜線に “お邪魔虫” のSWATが現われる(2枚目の写真、矢印)。彼らは、川原にも出現〔いつの間に?〕。そして、フェイスの交渉など無視し、いきなり発砲。トロイは左下腹部を撃たれる。フェイスは、無念そうに「休戦!」と叫ぶ。ジョーは、倒れたトロイに 「パパ!」と叫んで駆け寄る(3枚目の写真)。「大丈夫だ、心配するな」。「パパ」。「何ていい子なんだ」。「大好きだよ」。トロイが気を失うと、ジョーは泣きながら 「パパ!」と何度も呼びかける。そして、SWATが近づいてきたのを感じると、振り返ってライフルを構え、「パパに触るな!」と怒鳴る(4枚目の写真)。
  
  
  
  

それから、数ヶ月後。ジョーは、鏡の前で、如何にも男の子といった服を着ている(1枚目の写真)。そして、サリーと一緒に車に乗り込む(2枚目の写真)。
  
  

そして、刑務所の家族面会室。トロイが連れて来られて手錠を外される(1枚目の写真)。腹部を撃たれたトロイが完全に回復しているので、前節で「数ヶ月」と表現した。その様子を、ジョーが嬉しそうに見ている。そして、3人はテーブルを囲んで座る。トロイ:「俺のトラックは? 運転してるのか?」。ジョー:「恐ろしいよ」。「恐ろしい? 砂利道にはぴったりだろ?」(2枚目の写真)。「、運転免許 取ったのよ」〔モンタナ州の免許取得年齢は14歳/ジョーは11歳のハズだが?〕。「そうなのか? 凄いじゃないか」。そして、「そのシャツ、好きだぞ」。「ありがと」。「学校は楽しいか?」。「さあ」。サリーが 「家で後れを取り戻すのが大変」と説明する。トロイは、カレッジから、刑務所内の教室に教えにくる人がいて、勉強していると話す。ジョーは、ニコニコしながら、「何を学んでるの?」と訊く(3枚目の写真)。「ただの基礎だ。ただ、これは手始めで、ここを出た後も続ける」。「模範囚なの?」。「ああ、ウルトラ模範囚だ。お前さんは?」。「まあね」。ここで、面会時間は終了。立ち上がったトロイに、ジョーが抱き着く。「バァイ」。「またな」。トロイは再び手錠をはめられ、連れ去られる。ジョーが、じっと見送る〔それにしても、なぜ刑務所に? 何も悪いことはしていないと思うが? “誘拐” は、サリーが誤解だったと言えば済むのでは?〕
  
  
  

最後のシーンは、恐らく、前節よりは過去。ジョーが “じっと見送った” のは、過去を思い出していたのだろう。その過去とは、事件が終わってからしばらくして、男の子として初登校の日の朝。2人で朝食をとりながら、サリーは、「もし、気が変わったら、すぐ事務室に行くのよ。電話をくれたら、すぐ迎えに行くから」と言葉をかける。「大丈夫だよ」(1枚目の写真)。「でも、連れて行きたいわ」。「いいよ。ママ、きっと 向こうで泣き出すもん」。「泣かないわ」。「今だって、泣いてるよ」。結局、ジョーは、家の前に停まったスクールバスに1人で乗る(2枚目の写真)。
  
  

ジョーは、みんなの反応が怖くて、おどおどしながら一番後ろの席に向かう(1枚目の写真)。そして、席に座ると、1人の男の子が 「やあ」と声をかける。隣には女の子もいて、「パパ、大変だったわね」と言ってくれる。「ありがと」。男の子:「気になってたんだけど… 旅のこと、話してくれない?」。「いいよ」。その声に、大勢の子がジョーを振り返って見る(2枚目の写真)。ジョーは、自分が受け入れられたことに、笑顔を見せる(3枚目の写真)〔このシーンが、前節の刑務所より後のハズがない。事件から数ヶ月が経っていれば、ジョーの父を心配したり、旅のことは訊かないだろう〕。映画は、ここで終わる。
  
  
  

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  アメリカ の先頭に戻る          2020年代前半 の先頭に戻る

ページの先頭へ