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14+ 14歳の初恋

ロシア映画 (2015)

グレブ・カリュージニ(Gleb Kalyuzhnyy)が主演する純愛ロマンス映画。2015年に制作されたとは思えないほどストレートなラブ・ストーリー。主人公のリョーシャは14歳の中学生ながら、女の子に話しかけたこともないほどの「おくて」の男の子。それが、ある日、別な中学の14歳の女の子ヴィカをひと目見て好きになる。リョーシャがヴィカの情報を知るのは、WEBから。そして、携帯で隠し撮りをしたり、仲良くなってからは、びっくり映像を作ってネット上で配信する。そこには現代性が感じられる。しかし、全体は2人の出会いから、障害を乗り超えて、お互いを好きになるまでに特化したストリーで、古典的ですらある。一番雰囲気が似ているのは、スウェーデン映画『En Kärlekshistoria(純愛日記)』(1970)かもしれない。オートバイのシーン、ダンスパーティでのシーン、お酒を飲み音楽をかけてラブするシーンなど、オマージュとして使ったのかと思うほど似ているが、1970年の2人の方がずっと進んでいる。手持ちの少年と少女のラブストーリーを年代順に並べてみると、一番古いのが『純愛日記』で、続いて『小さな恋のメロディ』(1971)、『小さな初恋/トロカデロ広場の青いレモン』(1978)、『リトル・ロマンス』(1979)、『ルーカスの初恋メモリー』(1986)、『ルドヴィックの世界』(1993)、『5歳の時、僕は自殺した』(1994)、『小鳥』(1997)、『灯台へ』(1999)、『目立たないヒーロー』(2003)、『小さな恋のものがたり』(2005)などが思い浮かぶ。しかし、そのほとんどは、2人の淡い恋だけでなく、それにまつわる様々なストーリーが映画を盛り上げているが、『14+』は104分という長尺にもかからず、余分な部分はほとんどない。ただひたすらに、2人の恋路だけを淡々と追っている。しかも、きわめて控え目に。それが現代に作られたというのは、驚きですらある。

第307学校〔モスクワの中学には固有の校名はない〕に通う14歳のリョーシャは、仲間3人とふざけ合って漫然と過しているハンサムだが平凡な中学生。3人が公園で時間つぶしをしている時、すぐ近くを3人組の少女が通りかかる。リョーシャはその中の1人にひと目で惹かれる。3人で後をつけていくと、第201学校の番長ヴォルコフ(通称オオカミ〔Volkovはvolk(狼)に由来する〕)ら3人の怖そうな上級生が少女3人組に絡んでいる。3人組は、第201番学校の生徒なのだ。とても手が出せる相手ではないが、家に帰ったリョーシャはWEBサイトから、学校名「201」、年齢「14~15」、性別「女性」と入力、Вика Викулечкаのフェイスブックに辿り着く。ヴィカ、自分と同じ14歳だ。そこには 多くの個性的な写真が投稿されている。翌日、リョーシャは地下鉄の通路に立ってヴィカの現れるのを待つ。そして、彼女が現れるとずっと後をつけていく。しかし、ヴィカのアパートの前には、「オオカミ」達が陣取っていた。彼らに興味のないヴィカはさっさとアパートに入るが、リョーシャが近づける雰囲気ではない。翌日、リョーシャは友達2人の力を借りることにした。2人が「オオカミ」達の気をそらしている隙に、何とかヴィカのアパートに潜り込んだのだ。そして、彼女の帰宅をじっと待つ。しかし、ヴィカが帰ってきても、恥ずかしくて声すらかけられない。リョーシャは、友達の1人に頼んで、第201番学校のダンスパーティにこっそり紛れ込み、ヴィカにダンスを申し込む。ヴィカは踊ってくれたが、リョーシャは顔すらまともに合わせられない。そして、リョーシャを待っていたのは、「オオカミ」による制裁だった。一緒に行って、とばっちりで制裁まで受けた友達とアパートでゲームをしていると、そこにヴィカの代理人が現れ、お詫びの言葉と、携帯の番号を書いた紙を渡してくれる。リョーシャは大喜びだ。「オオカミ」たちのいない所で、3人+3人で楽しく過す。ある夜。リョーシャは ヴィカをオートバイに乗せてアパートまで送る。そこには「オオカミ」たちがいたが、間一髪で建物に逃げ込むことができたか〔自動ロック〕。ヴィカはリョーシャをアパートに一時避難させる。ヴィカの部屋に入ったリョーシャは、コチコチで何もできないばかりか、早々に帰ると言い出す。部屋を出た所で 向き合う2人。しびれの切れたヴィカは「抱いて」と声をかけ、別れのキスも主導する。リョーシャはアパートの裏口から抜け出すが、「オオカミ」たち5人が待ち伏せていて囲まれる。偶然通りかかったパトカーからの質問に、リョーシャが「話してるだけです」と答え、それが「評価」されて、何事もなく解放される。そして、恐らく数日後、リョーシャの部屋にヴィカがやって来る。リョーシャはヴィカと話が進む。用意しておいたリキュールを2人で飲み、ムードのある音楽をかけて踊る。そして…

グレブ・カリュージニの映画初出演作。年齢は不詳だが、映画の設定とほぼ同じであろう。役柄にぴったりのハンサム・ボーイだ。


あらすじ

朝、だらしのない格好でベッドに寝ているリョーシャ。部屋の中の棚は、脱ぎ捨てた服がぐちゃぐちゃに押し込まれている。母は、「起きなさい」と入って来ると、床に落ちていたジーンズを拾って畳み、「起きなさいったら!」と強く体を揺するが、全くの不反応。ところが、「あなたのオートバイ、盗まれたわよ」と言うと、飛び起きる。結局、目覚めていたのに、ぐずぐず寝たフリをしていただけ。「盗まれたの?!」。「早く起きて。でないと、また学校に遅刻よ」。その言葉で、またバタンするリョーシャ(1枚目の写真)。学校では、数学の授業中。教師は、最初にセクシー素数〔5と11のように、差が6の素数のペアのこと〕について言及し、その後、単項式〔2abのように+を含まない式〕を黒板に書いていく。ただ、言葉と書いている内容がズレているし、セクシー素数と単項式とは何の関係もない〔教えている内容に整合性はない〕。リョーシャが、一緒の机に座っているドロンと 授業そっちのけで笑っていると(2枚目の写真)、キレた教師が黒板をドンと叩き、黒板消しを投げつける。シーン自体に意味はないが、リョーシャとドロンの仲の良さと不真面目ぶりが良く分かる。
  
  

リョーシャとドロンにヴィチクを加えた3人は、仲良し3人組み。学校が終っても、暇で 何もすることがない。公園の回転イスに座り、ゆっくりと回しながら、歩道のブロックに唾を吐いて飛距離を競っている(1枚目の写真)。如何にも怠惰な感じだ。すると向こうから、同じ年頃の少女3人組が歩いてくる。見たことのない顔だ。3人の目が急に生き生きとして、少女たちに注がれる(2枚目の写真)。「TVのワイドショーの女の子 覚えてる? 12歳の」。「赤ちゃんいるのよ!」。「何てこと!」。「ウチのクラスにも結婚してる子いるわ」。「ウッソー!」。こんな会話をしながら通り過ぎて行く。ドロン:「イカすじゃないか」。何となく後ろをついて行く3人(3枚目の写真)。リョーシャは、3人のうち黒いタンクトップの少女に惹かれる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

女子3人組は食料品店に入っていく。リョーシャたちもすかさず入って行き、レジの列に並ぶ(1枚目の写真)。3人のうち、一番年長の女性が、「風船ガム、チュッパチャプス〔棒付きキャンディ〕、ジン・トニック3本」と注文する。無愛想な店員が、「18歳なの?」と訊く。「見りゃ分かるでしょ」。「身分証」。「ねえ、そんなモン、どこに入れるのよ? パンティの中?」。店員は仕方なく商品を渡す。ドロンの番となり、「ヒマワリの種子1袋と 『ビール#9』〔アルコール度数8%〕」 と注文する。店員は何も言わずにじっとドロンの顔を見ると、おもむろにビンを取り出す。「やった」とばかりに顔を見合わせ、「ありがとう」と言って意気揚々と引き揚げかけるが、頼んだものと違っている。「おばさん、これ『ビール#0』〔ノン・アルコール〕だ」(2枚目の写真)。「そうよ、おじさん」〔おばさんと言われたことに対する皮肉〕。「『ビール#9』を頼んだんだけど」。「それで?」。「パパに頼まれたんだ」。「消えな。それとも警備員を呼ぼうか?」と凄まれ、3人はすごすごと出て行った。
  
  

店を出て見渡すと、3人組は、黒シャツの丸坊主(ボス)や 黒タンクトップの丸坊主(No.2)らに絡まれている。反抗心の強いヴィチクが携帯の音量をMAXにして音楽を流す。あまりにうるさいので、黒シャツが睨み付ける(1枚目の写真)。怖くなったリョーシャが、「何のつもりだ。音を下げろ」と言う(2枚目の写真)。音楽が止むと、「ガンつけ」も止む。リョーシャ:「あいつが 『オオカミ』か?」。ドロン:「そうだ」。「他の奴らは?」。「知らん」。「あいつら、きっと201番校だ」。「これからケンカに行くんじゃないのか?」。「ケンカって? 僕らの学校とか?」。「ああ」。3人組と「お兄さん」たちはトタン板で囲まれた原っぱのような所に入って行く。そこには10名ちょっとずつの男生徒が向かい合っていた。黒シャツ側:「あいつら、ひねりつぶしてやる!」。それに対し、もう一方は、「まとまれば、負けないぞ!」。何となく弱そうだ。そして、乱闘が始まる。黒シャツ側が圧倒的に強い。3人組は黒シャツ側を応援している。リョーシャは、その姿を、フェンスの外からこっそり携帯で撮影(3枚目の写真)。
  
  
  

アパートに帰ったリョーシャが、母とTVを見ている。『Tabor ukhodit v nebo(ジプシーは天国の近くに住む)』(1976)という映画だ。場面は、始まってから75分目。Raddaが「そんな目で私を見ないで。頭をくらくらさせてあげる」と言ってスカートを下げ始めるシーン。別に変な映画ではないのだが、編み物をしていた母が上半身裸のRaddaに気付き、「チャンネルを替えて、お願い」と頼む。「ママ、どうして?」。「言われた通りになさい」。リョーシャは素直に従うが、自分の部屋に行こうとする。母は、編んでいたセーターをリョーシャに合わせてみる〔このセーターは、映画の最後に再登場する〕。部屋に入ったリョーシャがしたことは、昼間に撮影した女の子を見ること(1・2枚目の写真)。そして、パソコンで学校名に「201」と入れ、その先に現れた年齢欄2ヶ所で、「14以上」「15以下」を選択、性別は「女性」を選択。名前とプロフィール写真の一覧が表示される。リョーシャは簡単に「彼女」を見つけることができた。名前は「Vika Wikulečka」、ヴィカだ。クリックすると、様々な写真が投稿されている。内容から、個性的な少女だと分かる。リョーシャは写真に惹きつけられる(水着姿も)。画面に魅入っていると、急にドアが開けられ、母が入ってくる。「話があるの。人生何でも試せと言うけど、ママは反対。あなたは もう大きいの。だから 知っておくべきよ。3つの重要なこと。アルコールと麻薬と女性。もう大人なんだから、誰かを好きになるわ。でも、体の触れ合いは慎重にしないと…」。リョーシャは、イアホンで聴いているネット上の音楽の音量を上げ、母の声が聞こえないようにする。そんな中、母が取り出したのは、『思春期の少年』という性教育の絵本。リョーシャは、何も聞こえないままパラパラとめくる。リョーシャは本をしまい、その後も母が何か話す。つい、頷いてしまうリョーシャ。母は、変だと思い、イヤホンを引っ張って外し、「ママの話、聞いてた?」と訊く。「聞いてたよ」。「じゃあ、なぜ頷いたの?」。「頷いた?」。「見てるって」。「何を?」。「ウェブサイト」。「どんな?」。「ポルノよ!」。少し失敗はあったが、母が出て行った後、リョーシャはヴィカの写真を見続ける。
  
  
  

翌日、リョーシャは、ヴィカに会った時にどう話すかを練習している。「やあ、僕 リョーシャ。君は、ヴィカだよね?」「うん、僕はサイキックなんだ。それは冗談。ネットで調べたんだ」「驚かないで。君をずっと待ってたんだ。君がここを通るんじゃないかって。だって201番校だろ?」「僕は307番校さ。仲良くないよね」「今夜 予定入ってる? どこか行こうよ」「それいいね。メモしとかないと」「じゃ、今夜電話するから。バイ!」。もちろん、こんな風にはいくはずもなかった。リョーシャは、確かに地下鉄の駅の出口で ヴィカを隠れて待っていた。しかし、声などかけらず、ヴィカはそのまま通り過ぎていく。ストーカーのように後をつけるリョーシャ。信号待ちの場所では、結構間近に寄っている(1枚目の写真)。歩道を歩くヴィカのポニーテールが 左右に揺れるのが印象的だ(2枚目の写真)。後方約10数メートルだが、ヴィカは気付いたようだ。路上のキヨスクで買い物し、リョーシャが慌ててしゃがみ込んで靴のヒモをいじっている間に姿を消す。必死で捜したリョーシャはヴィカを見つけるが、そこには恐ろしい現実が待っていた。ヴィカのアパートの前の公園に、「オオオカ」ら4人の怖そうな201番校生が陣取っている。そして、ヴィカに「こっちへ来い」と呼びかける。「俺様が読んでるんだ、来い」「来るんだ! 聞こえねぇのか!」。ヴィカはすべて無視してアパートの玄関に行くと、ロックを解除して中に入って行く。その姿をじっと見ているリョーシャ(3枚目の写真)。ヴィカが「オオカミ」たちを嫌っているのは朗報だが、彼らがいてはおいそれと近づけない。
  
  
  

その後、リョーシャがアパートに帰ると、母は、片足をケガした松葉杖の中年男を連れ込み、酒を飲んで楽しそうに話している。リョーシャは、そうした母の姿に不審感を抱き、自室に閉じ籠もる。母は、弁解しようとリョーシャの部屋に行き、「気分を害した?」。「ううん」。「どこか悪いの?」。「悪くない」。「あの人、もうちょっと一緒にいても構わない?」。「何で訊くのさ? 好きなようにしろよ!」。母は、息子が「反対」なんだと分かる。そして、酔った勢いで絡むのをやめない男の顔を引っぱたく。こっそり見ていたリョーシャに、母の「けじめ」はプラスに作用したのだろうか? 部屋に戻ったリョーシャは、ヴィカの投稿写真を見続ける。昔と違い、ネット時代は、「好きな相手」を、「相手の了解がなくても」見ることができるので、恋愛感情は加速する。リョーシャは、翌日、2人の友達に頼み込んで、かく乱作戦を実行する。ドロンには、リョーシャのオートバイでヴィカのアパートまで行ってもらい、後ろに乗ったヴィチクは、「オオカミ」たち4人のそば、アパートの玄関とは反対側から、大音量で音楽を鳴らす。騒音を撒き散らす2人を、4人組は睨んで威嚇する(1枚目の写真)。その間にリョーシャは気付かれずに玄関に到達するが、困ったことに、自動ロックがかかっていて、どうやってもドアが開かない(2枚目の写真)。ドロンたちが追い払われ、4人の視線が戻りかけたところで、幸い中からドアが開き、太ったおじさんが出てくる。リョーシャは入れ違いに中に入ることができた。ヴィカが帰宅するまでの間、リョーシャは階段に座って、紙に書いた文句を暗唱している。「やあ、ヴィカ、僕、リョーシャ。ずっと待ってたんだ。君に会いたくて」「君のことが好きだった。どうしても会いたくて、来ちゃった」。その時、階段の窓から、ヴィカが歩いてくるのが見える。そして、玄関が開く音。それに続いてエレベーターの上昇音。リョーシャは、ヴィカの部屋が何階にあるのか知らないので、下層階で待っていたが、エレベーターが止まらないので、階段を駈け上がる。5階上がった所で、階段を降りて来るヴィカとばったり会う。リョーシャには、声をかける勇気などない。目をそらしてそのまま、息を切らしながらゆっくり階段を上がって行く。ヴィカは、階段の踊り場にあるダスト・シュートにゴミを持ってきただけなので、振り返って不審げに見ている(3枚目の写真)。リョーシャは少し上がったところで、階段室の隙間から下を覗いて見る(4枚目の写真)。すると、ヴィカも下から上を覗く。慌てて顔を引っ込めるリョーシャ。ヴィカは部屋に入ってしまう。成果は、ヴィカの部屋が分かっただけ。声はかけられなかった。
  
  
  
  

その晩も、リョーシャはパソコンに釘付けとなり、ヴィカの写真に見とれる(1枚目の写真)。「メッセージを送る」をクリックする勇気もない。翌日、学校では、授業が映画鑑賞の場になっている。映画は『戦争と平和』(1967)。長い映画なので、一部分だけの鑑賞だが、なぜか、教師が選んだのは第2部の舞踏会の場面。ナターシャがアンドレイとワルツを踊り、お互いに一目惚れするシーンだ。これが教育上どのような意味を持つかは別として、恋するリョーシャにとっては大きな刺激となった(2枚目の写真)。
  
  

第201学校のダンスパーティの夜。リョーシャはドロンに頼み込み 一緒にトイレから会場に忍び込む。会場には多くの生徒たちが集まっていたが、中にヴィカがいるのを発見。相手は誰もいない。リョーシャは意を決すると、フードを取り、大きく一息ついて(1枚目の写真)、そのまま、会場の真ん中を横切ってヴィカに向かって歩いて行った。3人組の1人が、ヴィカを肘で付いて、リョーシャの接近を知らせる。リョーシャはヴィカの目の前に来ると、「踊る?」と声かけ。ヴィカはためらうが、それでも、フロアの中央に出て行き、リョーシャと向かい合って踊り始める(2枚目の写真)。しかし、折角ここまできたのに、リョーシャはいつも斜め下を見て、ヴィカと目を合わせることができない。そして、会話もゼロ。これでは、ヴィカも面白くない。踊りの途中で去って行った。リョーシャが壁際に戻ると ドロンの姿がない。そのうちに、3人組の1人がやってきて、「ここ出ましょ。ヴィカが呼んでる。話があるって」と声をかける。ウキウキしてついて行くと、そこには「オオカミ」たちが怖い顔をして待っていた(3枚目の写真)。脇を見ると、ドロンがうずくまり、口から血を流している。これはもう、覚悟するしかない。
  
  
  

場面は、リョーシャのアパートに変わる。母が電話で別居中の夫に怒鳴っている。「あんたの息子が殴られて血だらけなのよ! ボコボコにやられたの! 顔をやられたのよ! この呑んだくれの役立たず!」。そして、「パパと話なさい」と、電話をリョーシャに渡す。リョーシャ:「やあ、パパ。大丈夫。ママは大げさなんだ」「ううん、ホント、何でもない。ちょっと押し合っただけさ」「ダメ! 学校には行かないで! 自分で何とかする!」(1枚目の写真)。電話が終わると、母が来て、「めまいは?」。「ないよ」。「ホントに?」。「うん」。母は、怒りを、リョーシャの部屋の中が乱雑なまま放置されていることに転嫁し、怒鳴りまくって出て行く。この後、ようやくリョーシャの顔が映される。左目の周りが黒いアザになり、「パンダ目」になっている(2枚目の写真)。
  
  

リョーシャがドロンと一緒にTVゲームで遊んでいる。2人ともパンダ目だが、やられた日に比べ、色が薄くなっている(1枚目の写真)。ゲームが終わると、2人は狭いベランダから外を見ている。リョーシャのアパートの前の公園のベンチには、ヴィチクが1人うなだれて座っている。リョーシャ:「あいつ、呼ぼうか?」。ドロンは反対する。一緒にダンスパーティに来なかったからだ。そこに3人組が現れる。そして、1人がヴィチクに話しかける。ヴィチクは、真っ直ぐにリョーシャの部屋を指差した(2枚目の写真)。リョーシャは慌てて顔を引っ込める。次に覗くと、3人の姿はどこにもない。代わりに、部屋のベルが鳴る。ドロンが右代表で、部屋から出て行く。3人組は、先にパーティでリョーシャを呼びにきた女性。1対1の話し合いだ。「こんなことになって、謝りたいワケ。起きて欲しくなかった。仕方なかったの。ウルフに言われたらノーと言えない」。そして、「これ、リョーシャに渡して」と、折った紙をドロンに渡す。「ヴィカがね、3人組同士、一緒になったらって。それにホント、ごめんねって言ってた」。それでもドロンが何も言わないので、「何で、黙ってんの?」と訊く。ドロンは欠けた前歯を見せる。女性は、「ひどいわね」 と思わず笑う。後で、リョーシャが紙切れを開くと、そこには、「ごめんなさい。よければ電話してね、ヴィカ」の文字と 電話番号が書かれていた。リョーシャは、「やった!!」と小躍りする(3枚目の写真)。
  
  
  

次は、3人組同士で、「びっくり映像」を作って楽しんでいる光景。最初の映像は、ヴィチクの携帯の前で、5人が、「ダメだ、やめろ!」。「お願い、やめて!」。「バカ、何する気だ!」。「あそこには人がいるのよ!」と叫び、悲鳴を上げて5人が逃げると、5人の背後でベンチに座っていた3人の老人めがけて何かが飛んでいき(1枚目の写真)、爆発するというもの。2つ目の映像は、リョーシャの撮影。5人が警官とパトカーの周りに立って空を見上げていると、「逃げろ」と声がかかり、上から大きな球が落ちてきて地面にめり込む(2枚目の写真)〔ヴィチクだけが犠牲者〕。最後の映像は、公園の6角の花壇の真ん中にヴィチクが立ち、4人が囲んで両手を挙げると、空からヴィチク目がけて稲妻が落ちてくる(3枚目の写真)〔ヴィチクだけが犠牲者〕。何れも、ネット配信するための映像だろう。
  
  
  

その後も、2人+3人でいろいろとふざけ合う〔ヴィチクは、なぜか仲間外れ〕。その合間に、リョーシャはヴィカと寄り添うように座り、ヴィカが手にサインペンで模様を描いているのを眺めている(1枚目の写真)。リョーシャの目は、手の絵から、ヴィカの横顔に移り(2枚目の写真)、しばらく見とれていた後で、胸まで下りて行く。雷鳴がして、急に雨が降り出す。雨の中で、キャーキャー言いながら、びしょ濡れになる5人〔ヴィチクは加わらない〕。最後は、仲良く5人で記念写真(3枚目の写真)。
  
  
  

夜のシーン。リョーシャのオートバイにヴィカが乗っている。結構いいムードだ。オートバイが路線バスと並走する時、ヴィカは、バスの中で抱き会っている男女の姿を見て、思わずリョーシャに寄り添う(1枚目の写真)。幹線道路をまたぐ橋の上に並んで立つ2人。お互い顔を向き合うのだが、リョーシャにはそれ以上進む勇気がない(2枚目の写真)。何となく気まずい時が流れる。そして、オートバイはヴィカのアパートに近付く。少し手前で停まり、「送ってくよ」。「ううん、来ないで。一人で行く。ウルフがいるわ」。「アホのウルフだろ。待ってて」。そう言うと、リョーシャはオートバイを茂みの中に隠しに行く。隠し終わり、「さあ、行こう」。アパート前の歩道を玄関に向かって歩く。「ほら、誰もいない」。確かに公園にはいなかったが、彼らは建物の前に陣取っていた。「スーパーマンのロメオか」〔リョーシャのTシャツがスーパーマンのコスチューム〕。玄関に向かって必死に逃げる2人。ヴィカがロックを解除し、リョーシャが続く(3枚目の写真)。間一髪で、ドアは閉まり、追っ手は締め出された。
  
  
  

2人が、息せき切ってヴィカの家に飛び込むと、そこには、怖そうな父親と、意地悪そうな息子が立っていた(1・2枚目の写真)。ヴィカ:「パパ、彼 リョーシャよ。しばらく中にいていい?」。リョーシャ:「今晩は」。父:「何時か知ってるのか?」。ヴィカ:「ほんの数分でいいから。ホントよ」。父親は何も言わず、僅かに頷く。ヴィカ:「ありがとう、パパ」。TVでサッカーを見ている父に、ヴィカは、「パパ、部屋に行っていい? 半時間だけだから。ホントよ」「いい?」。返事は一切ない。しかし、ノーとは言われなかったので、ヴィカはリョーシャを部屋に連れて行く。ムードのあるライトを点け、音楽を流し、メインの照明を消す。すごくいいムードなのに、リョーシャはヴィカの描いた絵を褒めたり、写真に感心するだけ(3枚目の写真)。「どうして部屋中にパズルが?」。「パパのホビーなの。気が休まるって」。リョーシャは、「パパ・ホビット?」と冗談を言って笑わせる〔体型がホビット的かも〕。「どんな仕事?」。返事は刑務所のコック。今度は、リョーシャの父親のことを訊かれる。父は別居中なので、白状するまでに時間がかかる。そして、何となく気まずくなり、「そろそろ行かないと」と言い出す。「もう遅いし、君の両親にも悪いだろ」。「ウルフは どうするの?」。「大丈夫さ」。「ならいいけど」。「ごめん、行かないと」。何かを期待していたヴィカは、がっかりだ。部屋を出て、TVを見ている父に、「リョーシャが帰るわ。エレベーターまで送って行っていい?」。「早くしろ」。
  
  
  

ヴィカは、ドアを開けて自分だけ出てみて、外に誰もいないことを確かめる。そして、踊り場まで一緒に下りる(1枚目の写真)。「上に行くよ」。「なぜ?」。「屋上に出て、別の階段から外に出るんだ。奴ら、この下で見張ってるだろ」。「危なくない?」。「ぜんぜん」。「行くよ」。「気をつけて」。その時、リョーシャは壁の落書きに気付く。「ヴィカ、お前はクソの売春婦だ」と書いてある。ヴィカ:「嘘よ」。リョーシャ:「分かってる」。リョーシャは、じっと立っているだけなので、ヴィカは「抱いて」と声をかける。戸惑いながらも抱くリョーシャに、ヴィカはしがみつく(2枚目の写真)。ドアが開き、弟が、「ヴィカ、パパが呼んでるぞ」と声をかける〔踊り場なので、抱擁は見えない〕。その声に体を離した2人。今度は、額同士を合わせる。息と息とが混じり、顔が近付き、ヴィカから先にキスをする(3枚目の写真)。そして抱き合う。弟が再び呼ぶ。2人はもう一度キスする。ヴィカ:「行かないと」。弟:「ヴィカ!」。3度目の一番長いキス。そして、ヴィカは階段を上がって行った。リョーシャは、ヴィカの唇に触れた自分の唇を指で触れる。すごくナイーブな感じだ。
  
  
  

リョーシャは、隠しておいたオートバイに最も近い出口を少し開け、誰もいないかどうか確かめる(1枚目の写真)。そして茂みに入って行くと、そこには「オオカミ」とNo.2が待ち構えていた。リョーシャが外に押し出されると、別の仲間がリョーシャのオートバイに乗って現われ、反対側からは、さらに2人が現れ、5人に取り囲まれる(2枚目の写真)。リョーシャはオートバイを蹴飛ばして果敢に逃げ出すが、大きな広告の前に追い詰められる。リョーシャは、落ちていたビール瓶を壁に打ち付けて割り、武器として手に持って近付かないように振り回す(3枚目の写真)。1対5では先が見えているので、「オオカミ」は からかうように威嚇するだけだ。こんな状態で捉まったら、半殺しは免れない。そこに、パトカーが通りかかる。5人は、威嚇をやめ、手を下げ肩を丸めてうつむく。何もしていないという意思表示だ。リョーシャだけは、割れた瓶を構えたままの戦闘体形。パトカーが停車し、しばらく様子を見ていた警官が、ドアを開けて、「どうなってる?」と質問する。リョーシャは、瓶を構えたまま、「何も」と答える。「本当か?」。「ええ。話してるだけです」(4枚目の写真)。「分かった」。そして、パトカーは、それ以上追及せずに去って行く。「オオカミ」は、「じゃあ、話そうか」と言うと、襲いかかるなフリをするが、ニヤリと笑うと、仲間に「よし、行くぞ」と呼びかける。そして、オートバイに乗った手下には、「返してやれ」。「なんで?」。「俺が言うからだ」。奇跡的に何事もなく解放されたリョーシャは、その場にへたり込む。リョーシャが帰宅すると、伯母がいて、2人はぐでんぐでんに酔っている。しかし、この挿話(5分間)は、全く意味のない寄り道なのでカットする。
  
  
  
  

次のシーンは、「Happy Birthday, Sweet Sixteen」の軽快な歌とともに始まる。リョーシャは、ゴミの散乱した部屋を、整理整頓や掃除ではなく、手当たり次第に隠すことによってきれいにしている(1・2枚目の写真)。一方、ヴィカは、鏡を見ながら お化粧に余念がない(3枚目の写真)。
  
  
  

リョーシャは、近くの地下鉄の駅までお出迎え。ホームに降り立ったヴィカを自分の部屋に連れて行く。奇跡的にきれいになっている。部屋の中で、ヴィカが色々なものに興味を示し、それに嬉々としてリョーシャが応える様子を見ていると、2人はすっかり恋人同士だ。ひとしきり遊んだ後、リョーシャが「飲み物はどう?」と訊く。彼が扉を開けると、入っていたのはチェリーリキュール〔アルコール度数20%以上〕と、生のラスベリー。リョーシャがリキュールをコップに注ぎ、ヴィカは「何に 乾杯する?」と訊く。「今夜に」。「大人みたいね」。そして、2人は乾杯する(1枚目の写真)。「次は、何するの?」。リョーシャが取り出したのは、テープレコーダー。「これパパの。20年前ので、ロシア製のテープレコーダー1号なんだ」。「カセットなの?」。「うん」。そして、カセットテープを取り出す。カセットの背には、「愛の時間のための音楽」と英語で書いてある〔父が昔書いたもの〕。2人は、愛の音楽に合わせて踊り始める。最初の気まずかったダンスとは違い、顔をピッタリ寄せ、目と目を見ながら踊る(2枚目の写真)。いつしかダンスは止み、2人は鼻と鼻を合わせ、そして徐々にキスに(3枚目の写真)…
  
  
  

どのくらい時間が経ったか分からないが、外はまだ明るい。カメラが下を向くと、そこには、ベッドの上に横たわる2人の姿が映る(1枚目の写真)。そこに、母が帰ってくる。母が最初に気付いたのは、キッチン・テーブルの上に置かれた、ほとんど空のチェリーリキュールと、ほとんどなくなったラズベリー。こんな強いお酒を1人で空けるなんて、と呆れる。「誰かを思い出させるわね… そうだ、あんたのパパと同じね」「思い知らせてやる」。そう言って息子の部屋に行こうとした母は、部屋の外に置いてあるハンドバッグに気付く。お酒と女性の2つが並べば、何を意味するかは明白だ。母は、覚悟を決めて、息子の部屋のドアをそっと開けてみる。ベッドの上の2人の寝姿を見る母の顔は 悲しそうだ。じっと見ていると、ヴィカの目が開く。大量のお酒を飲んで寝てしまったので、意識は朦朧として、「リョーシャの母に見られている」という自覚はまだない。母は、頭を少し下げて 「今日は」と囁き、ドアを閉める。ヴィカは、だんだん意識がはっきりして、自分の状態に気付くと、急いでTシャツを着る。一方、母は、自分の部屋のイスとソファーの間に座り込んで、いったいどうすべきか考えている(2枚目の写真)。事態があまりに急に進んだため、驚き以外の何物でもないからだ。壁に貼られた子供時代のリョーシャの写真を見て、思わず嗚咽をもらす。ヴィカは、すやすやと寝ているリョーシャを起こそうとする(3枚目の写真)。
  
  
  

目覚めて微笑んだリョーシャに、ヴィカは「ママが帰ったみたいよ」と話しかける。その言葉の意味が理解すると、リョーシャは跳ね起き、必死にTシャツを着ようとするが、あせるのでうまく着ることができない(1枚目の写真)。ヴィカ:「もう、家にいないじゃないかな」。息子の部屋でガタガタ音のするのに気付いた母は、泣くのをやめて涙を拭うと、急いで家から出て行った。入れ違いに、リョーシャがドアを開け、アパートの中の様子を窺う。誰もいないが、仕上げから戻って来た手編みのセーターが置いてある〔映画の初めで母が編んでいたセーター〕。リョーシャは袋からセーターを取り出すと、嬉しそうに手に取って見る(2枚目の写真)。そして、セーターを持ったまま窓に近付き、外の公園を見下ろす。ベンチには、母が座っていた。母は、一瞬 自分のアパートを見上げると、トボトボと立ち去って行った。リョーシャは、母の編んだセーターを来てヴィカの前に現れる。元気のない顔のリョーシャに、ヴィカは、「ママは?」と尋ねる。リョーシャは肩をすくめる。「大丈夫なの?」。今度は 頷く。それを見て、ヴィカに微笑が戻る(3枚目の写真)。そして、リョーシャにも。2人の愛が今後ともずっと続くであろうことを予感させて。
  
  
  

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