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Anibal (TV) アニバル/弟になったインディアン

フランス映画 (2000)

アンゲラン・ドゥミュルネール(Enguerran Demeulenaere)が主演するドラマ。しかし、題名のアニバルは、アンゲランではなく、彼の弟になるペルーから養子でもらわれてきたインディオの少年の名前。このアニバル君は、フランス語も、スペイン語も話せないので、題名になってはいても主役ではない。映画は、アンゲラン演じるスウィティ少年が、父から徹底的に疎外されつつ、突然できた「弟」に反撥し、戸惑い、アニバルが喘息で苦しむのを見て同情するようになり、やがて弟として認めるようになるまでを暖かく描いている。唯一の腹立たしい悪役は父親。子供の映画には、時として、箸にも棒にもかからない父親が登場するが、この父親もその1人。逆に、観ていて気持ちがいいのは、医師と俳優と判事。この3人は、スウィティ少年をいろいろな面で支えてくれる。日本では、TV映画は格下扱いだが、ヨーロッパの場合、TV公開と一般公開の間で出来栄えに差はない。ただ、この正規版のDVDはひどすぎる。ビットレートが異様に低いため、少しでも「動き」があると、像が二重になってしまう〔この映画にはフランス語字幕は存在しない。不正確な英語字幕に依存していりため、誤訳があるかも〕

映画プロデューサーとして活躍する父を持つエドガーことスウィティは11歳。学校に馴染めず、時々自宅学習もしている。一番の趣味は、広大な庭で花を育てること。大邸宅には、常勤で女中、コック、庭師、運転手が雇われているが、スウィティはいつも庭師と一緒に庭仕事。父はそんなスウィティに完全に失望している。この「父」は本当の父親なのか、母の連れ子なのか、よく分からない。父が母に対してスウィティのことを話す時は、毎回、「Ton fils(君の息子)」と言い、名前を使わない。これは、スウィティが実子なら異様な表現だ。父のスウィティに対する邪険なまでの素っ気なさから見るに、継子と考えた方が分かりやすい。そんなスウィティは、ある日、母から、来週ペルーに行き、養子にする子を連れてくると打ち明けられる。それも、今まで遊び場所だった隣の部屋をいきなり片付け始めた理由を問い詰めての結果だった。その横暴ともいえるやり方にスウィティは腹を立てる。スウィティの弟になるわけなので、普通なら、事前承諾、せめて何らかのネゴシくらいあってしかるべき状況だ。義父はスウィティなど眼中になく、母はいい加減な性分なので、直前通知となった次第。ペルーから養子のアニバルを連れ帰る時、空港まで出迎えに来させられるが、スウィティは声をかけるのを拒む。アニバルが家に着いてからも、スウィティは接触を拒み続ける。そして、アニバルに付けられた語学教師を困らせようとした悪戯が義父の逆鱗に触れ、秋の新学期から全寮制の学校にいかされることになってしまう。スウィティは、アニバルが小さな体で10キロ以上ある庭用の石を運ぶのを見て、庭師と3人で石運びをするが、その最中にアニバルが足の上に石を落としてしまい、義父はスウィティのせいにして引っ叩く。アニバルの足が治った頃、隣の部屋で寝ていたスウィティは、アニバルの苦しむ音で目が覚める。アニバルは、重症のぜんそくだった。発症の原因は、見知らぬ土地で楽しくない暮らしを送っていることによる心因的なものに加え、スウィティがせっせと世話をしている花壇から出る大量の花粉も影響しているらしい。スウィティが世界中で一番好きな人は、俳優のロジェ・アナン(Roger Hanin)。父の映画にいつも出ていることから、小さい頃から顔見知りで、いつも可愛がってもらえる。彼は、全寮制の学校への入学をキャンセルする偽手紙を作ってくれ、アニバルと親しくなる手伝いもしてくれる。しかし、ロジェがいなくなると情勢は一気に悪化する。ある日、父と母は激しい口論をしている。妻のバカ息子は園芸キチガイ、ペルーから連れて来た方は病院通い。この自分勝手な夫は、2人目の子供も見放そうとしている。そして、喘息の原因をスウィティの花に押し付けて非難する。これを漏れ聞いたスウィティは、喘息が自分の責任だと思い込み、丹精して育ててきた花をことごとく引っこ抜いてしまう。義父はその行為も非難し、全寮制の学校の入学の確認を取ろうとして、辞退届けの存在を知る。義父はスウィティを詐欺師扱いして引っ叩く。その夜、スウィティはアニバルと一緒に家を逃げ出す。ロジェにお金を出してもらって、アニバルをペルーに帰し、そこで一緒に住もうと思ったのだ。しかし、喘息の吸入器を忘れてきたスウィティは、薬屋に入ったところで通報され警察に捕まり、判事が処分を決めることになる。この判事がとてもよくできた女性で、スウィティの「思い」を100%理解し、スウィティとアニバルとは不可分の存在で、一緒の学校に通わせるべきとの判断を下す。判事の家でスウィティは娘のクレアに紹介され、2人はすぐに相違相愛に。そのお返しに、スウィティは「ロジェの大ファン」の判事を、ロジェに会わせる。スウィティとアニバルの兄弟には、この先明るい未来が待っていると思わせて、映画は終る。ロジェ・アナンは2015年に89歳で他界したが、フランスのTVと映画で活躍した人気俳優で、実名での登場。とてもいい味を出している。

アンゲラン・ドゥミュルネールは、撮影時11歳。巻き毛の金髪と、とび色のパッチリした目が印象的な美少年。表情も多様だが、時に笑顔が可愛い。台詞の多い難役を見事にこなしている。しかし、活躍したのは10歳から12歳にかけての3年間。すべてTVだけ。


あらすじ

乗馬を楽しむ人、テニスを楽しむ人が映り、きれいな花壇園の奥のプールでは大勢の客が集っている。スウィティと庭師がバラの手入れに勤しんでいると、プールサイドから「スウィティ」と呼ぶ声が聞こえる。庭師:「行かないのかい?」。「ヤだよ。映画の連中なんか嫌いだ」(1枚目の写真)。母は話していた俳優に不満をぶつける。「何て子なの。1日中庭よ! 木と花。そればっかり」。スウィティもぶつぶつ文句を言っている。「この家はいつもザワザワ。もうウンザリだ」。女優:「息子さん、学校に行ってないの?」と訊く。ということは、今日は平日だ。「その話はやめて。可哀相な先生〔個人教師〕は、夏休みを待ち望んでる。数学の授業の時、黒板に正方形を描いてスウィティに「二乗」の説明を求めたの〔正方形の面積=“辺の長さ”の二乗〕。そしたら、何て答えたと思う? そんなのただの正方形だって」。いつも親しくしている庭師は、「一緒にいなくていいのかい?」とサジェストする。「もう言ったろ。映画の連中は嫌いなんだ。スクリーンで観てるだけならいいんだけど」。女優:「新しい坊やのこと、何て思ってるの?」。「まだ打ち明けてないの」(2枚目の写真)〔周知の養子の話を、一番肝心な息子には隠している〕。庭師:「連中みんなが同じじゃないだろ?」。「そんなんだ。ロジェ・アナンだけは別。彼は、俳優だけど素敵」(3枚目の写真)。女優:「先送りなんてダメよ」。「明日、話すわ」。母は、もう一度呼びかける。「スウィティ、今すぐ来なさい。そんな子に育てた覚えはないわ」。母は、父に頼む。「エドガー、ここに来なさい」。庭師:「お父さんに呼ばれたら、行かなくっちゃな」。スウィティは渋々プールサイドに向かう。
  
  
  

その夜、スウィティが寝ていると、隣の部屋が騒々しい。ベッドから起き上がってドアを開けると、母がいた。「いったい何の音? 僕の『お遊び』室で、何してるの?」。部屋の中は、鉄道模型をはじめとしてオモチャが散乱し、母は、縫いぐるみをダンボールに入れている最中だった(1枚目の写真)。「このオモチャ、全部箱にしまおった方がいいんじゃない?」。「どうして?」。「何年もここにあるけど、もう遊んでないでしょ」。「だから?」。「だから、お父さんと2人で考えたの。ここを可愛い寝室にしようって」。「ママ、何か隠してない?」。「あのね、スウィティ」。こう言うと、母は、スウィティの足元まで来て座りこむ。「お話があるの。もっと前に話すべきだったんだけど、デリケートなことだから…」。「赤ちゃんができるの?」。「そうじゃないわ」。「じゃあ、何なの?」。母は、無理して笑顔を作り、「お父さんと2人は… 決めたのよ… 養子を取るって」。「冗談だよね?」(2枚目の写真)。「本当なの。ちっちゃなインディアンなの」。「何だって?」。「来週2人でペルーに行くの。一緒に空港まで来ていいのよ」。そこまで聞いたスウィティは、憤然とベッドに戻る。
  
  

母は、ベッドサイドまで来て、「私たち、あなたに弟が欲しかったんだけど、無理だったの」と説明する。スウィティは難しい顔で枕を抱いたまま(1枚目の写真)。「お医者さんが、リスクが大き過ぎるって」。「チビのインディアンにリスクはないの?」。「バカなこと言わないで。弟ができるなんて、素敵じゃないの。面倒見たり、一緒に遊んだりできるのよ」。「野蛮人と?」。「違うわよ、インカの子なの。インカは偉大な文明よ」。「文明なんかどうだっていい! そんな子、僕の弟になんかするもんか!」(2枚目の写真)。その時、いきなり父が現れ、スウィティの態度をなじる。この父親、今まで何も説明して来なかったくせに、いきなり、違う人種の弟ができると言われて動揺する11歳の息子を非難することしかしない。母はすぐに部屋から追い出すが、スウィティの心は傷つく。
  
  

その週の別な日、スウィティはいつものように、庭師の手伝いに大わらわ。手押し車で深紅のケイトウと緑のコニファーの株を運んでいる。庭園の境界までくると、庭師を「リュカ!」と呼び、コニファーの株を渡す(1枚目の写真)。かなり重そう。すると、後ろで声がする。作業員が車から子供部屋の家具を運び出している。スウィティは、「僕が小さかった頃、父さんはあんな風にいろいろ買ってくれた。新しいオモチャも毎日ね」とリュカに話す(2枚目の写真)。この父、スウィティの実父なのか義父なのかよく分からないが、後者の場合でも、少なくとも5年以上前から一緒に暮らし、「冷戦状態」になるまでは、結構優しかったらしい。後ろに停まっている車は、イギリス製のディムラーDS420。かつて、イギリス王室御用達のリムジンとして使用されていた最高級車だ。この車を持っているというだけで、スウィティの父の映画プロヂューサーが如何に大物で、かつ、権威主義的なことが分かる。だから、彼は、スウィティが「下らない」ガーデニングなんかに熱中しているのが許せない。
  
  

父母が、養子にする子の部屋の飾り付けをしていると、隣のスウィティの部屋でガサゴソ音がする。不審に思ってドアを開けると〔ノックなどはしない〕、スウィティが “Mega Fupper Dome” というゲーム〔架空〕の大きな箱を片付けようとしている。「何してるの?」。「おもちゃを物置に入れるんだ」(1枚目の写真)〔物置⇒庭園の中にある小屋〕。父は、なぜか、「そのままにしておけ」と命じる。「インカに、いじられたくない」(2枚目の写真)。父は、もう一度命令をくり返す。怒ったスウィティは、箱を投げ捨てて部屋から出て行く。
  
  

父が自室〔庭に面した温室のような部屋〕で読み物をしていると、スウィティが入って来て、部屋中に置いてある植物や花瓶の花にジョウロと小型の噴霧器で「水やり」を始める。父にはそれが煩わしくてたまらない。最後の大きな花瓶に水をやっていると、遂に、「やめろ」と命じる。「イライラする」。スウィティはわざと噴霧をくり返す。怒った父は読んでいたペーパーブックを花瓶に投げつけ、花瓶は床に落ちて粉々に。怒ったスウィティは(1枚目の写真)、「なんで、こんなことしたんだ、ヒキョー者!」と言って襲いかかる。「大事にしてるの知ってて! こんちくしょう!」。11歳の子供なので、とても敵わないが、全身で怒りをぶつける。騒ぎを聞きつけた母が入って来た時、スウィティは部屋から外に出ようとガラス戸に体当たりし、ガラスを粉々にする(2枚目の写真)。地面に倒れたスウィティの顔は、割れたガラスで傷だらけ(3枚目の写真)。しかし、心配して抱きかかえたのは母親で、父は後ろで立っているだけ。この辺りから、「義父説」が浮上する。
  
  
  

スウィティと母が病院から出てくる。スウィティの着ているものが違うし、ケガはかなりひどかったので、その週いっぱい入院していたのだろう。父は、車の中で携帯で仕事の指示をしていて、「自分のせいでケガをさせた」息子を迎えにも行かない。まさに、冷血動物。スウィティは、車の中の父を見て、「なんで彼がいるの?」と母に訊く〔パパとは言わない〕。「これから一緒に空港に行くのよ。戻ってくるまで一人でいて欲しくなかったから、一緒に来て、空港のホテルに泊まるの」。スウィティの行動が不安なので、ペルーから養子を連れ帰るまで空港のホテルに缶詰にするという方針だ。3人が着いた空港はシャルル・ド・ゴール。母は、「2週間で戻るわ」とスウィティに話す。「弟とすぐ友だちになれるわよ」。父が早く来いと催促するが、母は続ける。「スペイン語の家庭教師をつけるわ。月曜から毎朝1時間よ。そうそれば、弟とコミュニケーションがとれるでしょ」(1枚目の写真)。「コミュニケーション? 話すつもりなんか一切ないからね」。「お互い理解し合わないと」。そして、ようやく、「顔のキズに気をつけてね」。母は、同行している運転手に、「私たちの離陸を見守ったら、すぐにホテルに直行して。2時間と目を離しちゃダメよ」と命じる。スウィティは、2人が出国ゲートをくぐるのを見ながら、運転手に「スペイン語の教師? 僕をインカの通訳にする気なんだ」とブツブツ。そして、2人の姿が消えると、「ホテルなんかには行かないから。もし、家に連れ帰らなかったら、空港で大騒ぎを起こしてやる」と脅す。「でも、お母様の話を聞いたでしょ?」。その途端、スウィティは絶叫する(2枚目の写真)。運転手は必死でとめ、家に帰ることに合意する。車がノルマンディーの家に着いた時には、もう真っ暗。車から降りたスウィティに、運転手は、「このことが知れたら、私はクビですよ」と言う。「大丈夫。帰ったなんて分かるハズないよ」(3枚目の写真)〔ホテルの請求書で分かると思うのだが、そんな細かいものまでチェックしないのかも〕
  
  
  

再び空港で。リマからのエア・フランス543便が到着し、しばらくして、父母が真ん中に小さな子供を連れてエスカレーターから現れる。2人はインディオの子を空中に上げて「高い高い」をする(1枚目の写真)。3人が入国ゲートから出てくると、スウィティは約束通り待っていた。母は、飛んで行って抱きしめる。そして、養子の前まで連れて行く。「これがアニバルよ」。そして、「キスしてあげなさい」。スウィティは、何もせず、アニバルを睨むようにじっと見ている(2枚目の写真)。父は、イライラして、「さあ、キスしろ」と命じる。スウィティは、意固地になって何もしない(3枚目の写真)。それを見た父は腹を立て、顔を背けると、何も言わずにアニバルを乗せたカートを前に出す。置いていかれた母とスウィティは顔を寄せ合う。
  
  
  

車は家に到着。家の前で3人の使用人が並んでいる。車が停車すると、スウィティは車から逃げるように出て行く。何時間も車内で一緒だったので耐えられなかったのかも。3人のうち最初にアニバルに紹介されたのは、スペイン語の教師。教師は、スペイン語で自己紹介し、最後に、「分かった?」と訊くが、アニバルは無反応。実は、これは両親が如何にいい加減かを示す結果。ペルーの公用語は3つ。そのうち、インカ帝国を築いた人々が話すのはケチュア語。だから、スペンイ語の教師など何の役にも立たない。里親になるのに、自分の養子が何語を話すかも知らないとは、いい加減すぎる。スペイン語の教師は、スペイン人でペルー人ではないので、相手が小さな子供で疲れているのだと思い、言葉が通じていないとは考えもせず、掃除係のソランジュと、料理係のマチルダ、庭師のリュカと紹介していく。そして最後に、一緒に手をつないで家の中へ(1枚目の写真)。「いっぱいオモチャがあるよ」。スウィティの隣の部屋は、小さな子供部屋になっていた〔広大な屋敷なのに、子供部屋だけなぜこんなに小さいのだろう?〕。母は、「こっちは、お兄ちゃんよ」と言って、境のドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。「スウィティ、ドアを開けなさい」。ドアは開かない。仕方なく、一旦廊下に出て、正面入口から中に入る。「どうしたの?」。スウィティは口もきかない(2枚目の写真)。母は、強制的に境のドアを開ける。すると、スウィティはベッドから起き上がって、さっさ部屋を出て行く。思い切りバタンとドアを閉めて。
  
  

庭の前のテーブルで4人が食事をとっている。アニバルは、首にまいたナプキンをソースでベトベトにしながら手づかみで食べている。それを見ながら、スウィティは、「彼に幾ら払ったの?」と尋ねる(1枚目の写真)。母は、「そんな言い方はやめなさい。何て恐ろしい」とたしなめる。「子供は売り物じゃないの。選ぶこともできなかった」。「そうだろうね〔C'est ça〕」。これは、「選べなかった」に対応して、手づかみを皮肉った言葉。スウィティは、さらに、「ペルー人は、どうして外国人なんかに手放したのかな? 本物のインカなんだから高いハズだ」。ここで、父に向かって、「手押し車いっぱいのお金と交換したんだよね?」と嫌味。怒った父は、「エドガー、引っ叩かれたいのか?」と言う。スウィティは、さっと立ち上がると、「僕には、一銭も払ってないだろ」(2枚目の写真)「もし払ってたら、僕なんかより、ずっと素敵で、可愛くて、ウンザリしない子を選べたろうからね」と、叫ぶように言って走り去る(3枚目の写真)。父はカッとして立ち上がるが、母に制止される。どうみても実父とは思えない。
  
  
  

その日の夜、ベッドサイドで、母は何とかスウィティに理解を求める。最初は、「悲惨な状況から救い出したの。同じような子が100万人もいるのよ」と話す〔1999年の報告書でペルーの人口は2600万人。アニバルと似た5~9歳児はうち約320万人。ケチュア人の人口比は22.7%なので、約70万人。全員が悲惨な孤児のハズはないので、「100万」は過大〕。これに対し、スウィティは、「もし100万もいるなら、それは彼ら自身の問題だ。隣にいる1人は、僕の問題じゃない」と反論。次に、母は歴史を持ち出す。500年前まで〔正確には1526年にピサロが来るまで〕栄えてきた文明がスペイン人によって完全に破壊されたという悲劇だ。それに対して、スウィティは、「スペイン人が500年前にやったバカは、僕の責任じゃない」(1枚目の写真)。最後に母は、「お願い、面倒を見てあげてよ」。「正直言って、ベビーシッターになる気はないよ」。この日の勝負は母の負け。「明日、また話しましょう」と言って立ち去る。スウィティは、母がいなくなると、すぐにベッドから起き上がり、廊下に母がいないことを確かめ、アニバルとの境のドアを開ける。アニバルはゴム手袋で遊んでいる。その時、それまで聞こえていたスプリンクラーの音が急に止む〔父が命じて止めさせた?〕。スウィティは、パジャマのまま庭まで走って行き、スプリンクラーの栓を開ける。その物音を聞き、父が窓から怒って顔を出す。「エドガー、そんなことはやめて、すぐ部屋に戻れ!」。スウィティは、その父を睨みつける。しばらく睨み合いは続き、スウィティはその場を立ち去る。プンプンして部屋に戻ると、ドアの境にアニバルが立ってゴム手袋を振り回しながら、スウィティを見ている(2枚目の写真)。スウィティは、「そんな怖い目で、なんで僕をじっと見るんだ?」と厳しい声で訊く(3枚目の写真)。フランス語の意味は分からなくても、「何てバカな目だ! 行っちまえ!!」と言われ、最後に怒鳴られると逃げて行く。アニバルにとっても、遠い異国に連れて来られ、周りに同族はゼロ。ケチュア語を誰も話さず、わけの分からない言葉で怒鳴られる。すごく怖いに違いない。お互いが犠牲者だ。
  
  
  

翌日、スウィティが、庭師のリュカと花の世話をしていると、父母が、空港の時のようにアニバルに「高い高い」をしながら現れる。スウィティは、「また始まった。空港でもやってた。インカ人が、喜んでると思ってるのかな?」と批判する〔両親が「高い高い」したのは到着ゲートの手前なので、スウィティからは見えない場所。アニバルに会ってからは、そんなことをする雰囲気ではなかった。だからこの発言は脚本のミス〕。その後、スウィティがベゴニアの根元に「カット敷きわら」をまいているのを見て、何も知らない母が、「私のベゴニアに何してるの? その枯れ草、何よ! すぐ取りなさい。汚らしい!」と怒鳴る。スウィティが、熱から守るためと言っても、何をバカなと信じない。リュカが「バカげていません。彼の言う通りです」と擁護してようやく黙るが、謝ろうともしない。そのうちに、アニバルが「カット敷きわら」を食べ始め、「そんなの食べちゃダメ、ウサギじゃないのよ」と止めに入る。それを聞いたスウィティは、「ウサギじゃない、ただのバカだ」と言うと(1枚目の写真)、父は「エドガー!」と怒鳴る。そして、母に向かって、「君の息子には我慢できん。花キチガイだ。ロクなことにならんぞ!」〔ここで、初めて「君の息子」という表現が出る。その後の言い方もひどい。とても、実子とは思えない〕。この後、リュカは、「バカ扱いはやめなさい。あの子のことをもっと知ってあげないと」とアドバイスする(2枚目の写真)。
  
  

次の朝、スウィティがパジャマ姿のまま「境」のドアの鍵穴から覗くと、フランス語の家庭教師がアニバルに「パパ」と「ママ」を教え込もうと必死になっている。アニバルは、靴下が珍しいので、教師の話などまるで聞いていない。「1週間ともたないぞ」。そこに、車が到着する音が聞こえる。それは、いつもの掛かりつけ医。スウィティの大の友だちでもある。迎えに出た母が「急に熱が出て。38.5度ですよ」と説明しているのが見える。スウィティはニヤリと笑い、ベッドに直行する。しばらくして部屋まで来た医師は、「軽い風邪です。これから処方箋を書きます」と診断し、母を部屋から外に出す。そして、2人きりになりと、ニヤリと笑いかけ、「私以上に健康だろ?」。スウィティもニコニコ顔になる。「体温計は、どうやったんだい?」。「ランプだよ」。「なるほどな」と言うと、「じゃあ、いつもの治療だ」と言い、家から持ってきた「フクシャ〔アカバナ科〕の挿し木」を「元気になる薬」として渡す。「待ってたろ」。「うん」(1枚目の写真、矢印は挿し木の小鉢)。「この前、持って来てくれたベゴニアのこと覚えてるでしょ? 今、ベランダで満開なんだよ」。「この次は、もっと我慢するんだぞ。ピスタチオの種は時間がかかるからな」。「池は終わったの?」。「ああ、ホテイアオイとハスを植えたんだ」。「見に行っていい?」。「治ったらな」。2人とも庭づくりが大好き、医師はユーモアたっぷりの好人物だ。しかし、「弟の方はどうなんだい?」と訊かれると、スウィティの笑顔が消える(2枚目の写真)。「あんなの弟じゃないよ。今は、家庭教師が1日中ぺちゃくちゃやってるけど、あいつ一言も話せないんだ」。「スペイン語はダメなのか?」。「ぜんぜん。だから出てった。いてもしょうがなかったから」。「じゃあ、打つ手はなしってことか」。医師は処方箋を書き終わる。「これからお母さんに渡してくる。ただの形式だから、飲んじゃダメだぞ。分かってるな?」。スウィティがニッコリする(3枚目の写真)。
  
  
  

アニバルは、女優たちの間で大人気(1枚目の写真)。そのすぐ裏の庭園では、スウィティが、「あいつを抱いたり、キスして遊んでる。ラグビーのボールをパス回ししてるみたいだ」とリュカに批判がましく話す(2枚目の写真)。その時、母から、「スウィティ、何してるの? いらっしゃい」と声がかかる。スウィティは出て行く前に、「映画の連中に出す食事はいつも同じなんだ」とリュカに耳打ちする。
  
  

翌日の朝食時、アニバルの家庭教師が到着する。アニバルの顔に食べ物がいっぱいついているので、ソランジュは慌てている。スウィティは、急に思いつき、アニバルの手を引っ張って自分の部屋まで駆け上がる。そして、引き出しを開けると中から白のソフト耳栓を取り出す。「これやるよ。僕はいっぱい持ってる。お客がある時に使うんだ。ゴミみたいな話、聞かされなくてすむだろ」。何されるか心配するアニバルの耳にスウィティは耳栓を突っ込み、「ほら、よくなった」と笑いかける(1枚目の写真、矢印は耳栓)。スウィティが庭で使う石を運んでいると、家庭教師が「もうウンザリ。二度と来るもんですか」と言いながら、車に乗って出て行くのが見える。それと入れ替わりに父が出てきて、「エドガー、私の部屋に来るんだ。今すぐ!」と厳しい声がかかる。父の机の上には白のソフト耳栓が2個置いてある。「お前がバカをする奴だとは知ってたが、“pervers”(背徳的な人間)だとは知らなかった。“pervers”は犯罪者だ」と、たかが耳栓に汚い言葉を羅列する。そして、母に耳栓を見せながら、「5歳の無防備な子に、これだぞ」。スウィティには、「説明しろ」と強く促す。スウィティは黙ったまま。「お前がやったことの重大性を分かってるのか? 弟になぜこんなことをした?」。まだ、黙ったまま。「そうか。言わないんだな。じゃあ、よく聞いてろ。お前が “amende honorable”(直訳は、名誉ある改心→正式な謝罪)をしないなら、夏休みの後、全寮制の学校にぶち込んでやる」(2枚目の写真)「アニバルに近づくのは禁止する。分かったな?」。それでも、黙ったまま。「もういい、失せろ!」。スウィティは、肩を怒らせて立ち去る。スウィティは、「“amende honorable”だって! 何が言いたいんだ!」とカッカしながら庭に向かう。そして。リュカに向かって、「あのチビに接近禁止なら、どうやって仲直りできるんだよ!」と八つ当たり。スウィティが一番不安なのは、自分がいなくなったら、花がどうなるかということ。その時、遅まきながら、母の争う声が響いてくる。「私の息子を、そんなトコにやるもんですか!」。「で、どうなると思う? そこらの学校に行かせたって、バカやらかして放校になるだけじゃないか!」。「構うもんですか! 私のスウィティを全寮制の学校なんかには入れません!」。「それしかないんだ! 毎年こんなことのくり返し! とても我慢できん! ルーアン行きだ!」(3枚目の写真)〔ルーアンで全寮制といえば、有名なジャン=バティスト・ド・ラ・サール校(Pensionnat Jean-Baptiste-de-La-Salle)だろう。鹿児島の名門校ラ・サールも、聖ジャン=バティスト・ド・ラ・サールに由来している〕
  
  
  

スウィティがリュカと話していると、アニバルが1人で庭に入って来た。スウィティは、「聞いてないのか? 僕はお前に近づけないんだ!」と怒鳴るように言う。ところが、アニバルは、動こうとしない。恐らくスウィティが唯一の子供なので〔怒鳴られても意味は分からないので〕、親近感を持っているのだろう。リュカは、いち早くそれに気付き、「きっと私たちを手伝いたいんだ」と言い、手をつないで、「一緒においで」と石を積んだカートの方に連れて行く。スウィティは、「彼には石は重すぎるよ」と心配する。そんな声にはお構いなしに、リュカは荷台に乗せた石を「ほら、持って」と渡す。「どうかしてる! 10キロはあるよ!」。しかし、アニバルは慣れているのか平気で運ぶ。それを見たスウィティは、アニバルを見直し、「えらいじゃないか、強いんだな」と褒める(1枚目の写真)。それからは、アニバルが荷台からスウィティのところまで石を運び、スウィティは、インカが如何に大きな石で巧みに建物を作ったかをリュカに話す。お陰で、アニバルに目が届かなくなる。アニバルが数個目に運ぼうとした石は、それまでの石より大きかった。何とか荷台から出すが、持ち上げきれずにそのままアニバルの足の上に落下。痛さでアニバルは大声で泣き出す。2人はすぐに駆けつけるが(2枚目の写真、矢印は落ちた石)、事故の主因はリュカの判断ミス。スウィティも話に夢中になるべきではなかった。泣き声を聞いて両親が飛び出してくる。母は、アニバルを抱いて家に向かい、ワンテンポ遅れて着いた父は、「彼に何をした?」と言いながら、いきなりスウィティの頬を引っ叩く(3枚目の写真、矢印はアニバルを抱いて行く母)。リュカは、「この子のせいじゃありません。悪いのは私です」と言うが、父は、詫びもせず、「部屋に行ってろ!」と命じる。スウィティは、「僕のせいじゃない!」と抗議するが、「部屋に戻れと、言ったハズだ!」と怒鳴る〔いくら連れ子だからといって、これではあまりにひどすぎる。もし、実子だとしたら、鬼畜〕
  
  
  

その日、もしくは、数日後、足に包帯を巻き、松葉杖をもったアニバルが家に戻ってくる。そして、翌朝、庭で朝食をとっていると、母が寄って来て、「お父さんが、もう一度チャンスをくれるって。あなたが、アニバルに対する態度を改めれば、全寮制の学校に入れる決心を変えてもらえそうよ」と耳打ちする(1枚目の写真)。父は、その話さえ打ち切るように急かす〔もともと、父には妥協するつもりなどない〕。これから2人でロンドンに向かうため、飛行機に間に合わなくなるのを恐れているのだ。両親が不在になった夜、スウィティは、隣の部屋から聞こえる異様な音で目が覚める。アニバルがひどい喘息の発作で、呼吸困難になっていた。スウィティは、濡らしたタオルを取って来て汗まみれのアニバルの顔を拭いてやる(2枚目の写真)。そして、これではダメだと悟ると、父の部屋に行き、アドレス帳を見て医師の電話番号を探し、電話をかける(3枚目の写真)。「エドガーです。弟のことです。両親はいません。息ができないんです」と叫ぶように言う。次のシーンでは、医師がアニバルを診察している。スウィティが心配そうに訊く。「彼、死んじゃうの?」。医師は、微笑みながら、「違うとも」と言い、「頭の下に枕を入れるなんて、よくやったな」と褒める。そして、「これを渡しておこう」と言って吸入器を渡す。「もし、また発作が起きたら、ここを口の中に少し入れて、こっちを押すんだ(4枚目の写真)。そして、1回試しに押してみせる。スウィティは、そのままアニバルに付き添って一夜を過ごす。
  
  
  
  

数日後、プールで。スウィティがプールに飛び込み、横で、アニバルが、「ジャンプ!」とはっきりしないフランス語ではしゃいでいる。それを聞いたスウィティは、もう一度飛び込んでみせる。スウィティは、アニバルの被っていた帽子をとると、プールの水につけて冷やしてやる。そこに両親が帰ってくる。スウィティは2人に会うのを避け、リュカに近寄る。父は、元気そうなアニバルを見て、「ほらな、急いで戻る必要なんかなかったんだ。あのヤブ医者め。喘息だと? どこも悪くないじゃないか!」とひとくさり文句を言う。それを耳にしたスウィティは、リュカに、「次の発作を見てるがいいや」と不満をもらす(1枚目の写真)。そして、その夜、再び発作が起きる(2枚目の写真)。スウィティは呼びに行き、「アニバルが死んじゃう! 息ができない!」と大げさに叫ぶ。多分、医師を侮った父に対する復讐の意味を込めて、オーバーに脅したのだろう。父は慌てて救急車を呼ぶ。
  
  

スウィティは医師の庭を見に行く。池のところに来たスウィティに、医師は、「どう思う?」と訊く。「すごいね」。そして、持ってきたプレゼントを見せる。「君は、絶対に手ぶらで来ないんだな」。それはクレマチスだった。「先生、好きでしょ」。「植えておくれ。君が一番詳しいんだから」。「どこに?」。「どこでも好きな所に」。穴を掘り終えた時、医師はジュースを持って来ると、「このためだけに来たんじゃないだろ?」と訊く。「彼、先週は、ひどかった。君は、あまり歓迎してなかったよな?」。「両親が、品質保証付きで買わなかったのは、僕の責任じゃないよ」。「喘息のこと知ってるかい? 抑圧された愛の叫びなんだ。息ができなくて苦しんでいるのは、君に何かを伝えたいんだ。彼は、君を好きになりたいのに、君はそれを避けてる。違うかい? 彼が病気なのが、君のせいだなんて言うつもりはない。ただ、彼を助けられるのは、君だけだと思うんだ」。この最後の「正しい」言葉を聞いている時のスウィティの表情は、最高にキュートだ(2枚目の写真)。その真面目な顔を見た医師は、『コロンブス以前のアメリカの地図』(1995年)という本をスウィティに見せ、数年前にマチュ・ピチュ遺跡を訪れた時の感動をスウィティに話して聞かせる。そして、本をプレゼントする。
  
  

ある日、スウィティが外から戻って来ると、乗ってきた自転車を放り出し、「ロジェ!」と叫んで走り出す。「スウィティ、会いに来たぞ!」。スウィティは、憮然とした表情の父の前を通りすぎ、ロジェ・アナンに抱きつく(1枚目の写真)。「僕の誕生日までいてくれる?」。「無理だな。3日後に撮影が始まるんだ」。「そんな、撮影待てないの?」。「パパに聞くがいい。プロデューサーなんだから」。この言葉でスウィティはきっぱりあきらめる。そして、「今ならいいの?」と訊く。「いいとも、庭を見に行こう。君の最新の傑作をみせてくれ」。ロジェ・アナンは撮影時74歳。すごく元気だ。「今は、弟がいるんだって?」。「弟じゃないよ。バーゲンで買ったんだ」。「こらこら、バカ言うんじゃない」。その後、両親とロジェが庭で昼食をとっている。ロジェは、映画の冒頭で母が女優に話していた、「正方形」の逸話を聞き、「信じられん。彼、そう言ったのか?」と大喜び? 「素晴らしい。『そんなのただの正方形だ』? あんたの息子は天才だ。いつも言ってるだろ。彼の庭を見たか? 彼には園芸の才がある。いつか、みんながエドガーのことを口にするぞ。ル・ノートルのように語られるようになるだろう」〔ル・ノートルは、ヴェルサイユに代表される「フランス式庭園」を生んだフランス最大の造園家〕。そこに、スウィティが現れる。「ああ、モーツアルトが来た。さあ、座って、このワインを試飲するがいい」。ロジェが手に持っていたのは、1978年のグラーヴのグランクリュ。飛び抜けて有名なのはシャトー・オー・ブリオンだが、もしそうならそう言うはずなので、別のシャトーだろう。ラベルは隠されて見えない。母はワインを飲むには、まだ子供だと反対するが、「いつかは学ばないと」と言い、グラスに注ぐ(2枚目の写真)。
  
  

ロジェとスウィティの2つ目のシーン。スウィティが父の部屋からこっそり持ち出したタイプライターで、ロジェが手紙を打っている。打ち終えた手紙をロジェが読み上げる。「拝啓。現在の家庭状況に鑑みまして、誠に遺憾ではありますが、息子エドガー・ソマンの貴校への入学を辞退するに至りましたことを お知らせします。敬具。ユーグ・ソマン」(1・2枚目の写真)。「どう思う?」。「サイコー」。「じゃあ、タイプライターを戻し、着替えをして、郵便局まで出しに行こう」。因みに、父の署名は、ロジェがいつも出演契約する時に熟知しているので、簡単に偽造できる。こうした手紙を作らなければならないということは、先日の母の「決心を変えてもらえそうよ」という言葉が、母の思い込みか、父の嘘だったことが分かる。ロジェ・アナンは本物の人気俳優だけあって、動作や口ぶりの1つ1つが素晴らしい。
  
  

ロジェとスウィティの3つ目のシーン。自転車に乗って2人が仲良く帰ってくる。母から、「どこに行ってたの? ずっと捜してたのよ」。ロジェは、「村に行ってたんだ」〔村の郵便局に行ってきたので嘘にはならない〕。ロジェの最初のシーンでは、アニバルは病院での定期検査に行っていて不在だったため、この時が2人の初対面。ロジェは如何にも親しげにアニバルに接すると、いきなり肩に乗せる。心配過多症の母はオロオロするが、ロジェは、スウィティも連れて3人だけで散歩に出かける。「重くないよね?」。「羽より軽い。インカの羽だな」。「神のインチみたい」。「何だって?」。「インチだよ。インカの太陽の神」(1枚目の写真)。「ペルーの専門家になったのか?」。「お医者さんから本をもらったんだ」。そして、スペイン人がインカの黄金を全部盗み、インカ人を皆殺しにしたと話した後で、「スペイン人は太陽の子たちを、ユダヤみたいにホロコーストしたんだ。ヒットラーはスペイン人だったかも」と言い出す。ロジェは、その種の罪は人類に共通した負の部分だと教える。2人が話していると、アニバルが、「シッティ、シッティ」と言って、スウィティに向かって手を伸ばす。「どうして欲しいのかな?」(2枚目の写真)。「彼が欲しがってるのは、君さ」。「僕の名前呼んだの、初めてだよ」。「受け取れ」。スウィティはアニバルを肩に乗せる(3枚目の写真)。「家中で、君が一番好かれてるのは確かだな」。
  
  
  

ロジェが去った日の夜、スウィティがインカの本を読んでいると、アニバルが発作を起こす。スウィティは、枕元に置いてあった吸入器をアニバルの口に入れる(1枚目の写真)。しかし、何度プッシュしても、発作がとまらない。両親を呼びに行こうと部屋を出ようとしたスウィティを止めたのは、アニバルだった。「シッティ、ビョーイン、ダメ」と必死で叫んだのだ。スウィティは、「分かった、病院には行かない」と引き返すと、アニバルに向かって、「息を吸って」。お腹を押しながら、「空気を出して」と、ゆっくりと呼吸するよう声をかける(2枚目の写真)。「怖がらずに。僕みたいにゆっくり息するんだ」「なんか別のこと考えて。インカの歴史を話してあげる」。スウィティが本で読んだことを話している間にアニバルの呼吸が楽になっていく。発作の止まったアニバルはスウィティの髪の毛を1本ちぎり、口に入れて食べてしまう。薬を使わずに発作を止めたことを褒めるスウィティに向かって、アニバルは嬉しそうに微笑む(3枚目の写真)。朝食になっても2人が起きてこないので、母が見に行くと、2人は仲良く手をつないで寝ていた(4枚目の写真)。母は嬉しそうに微笑むが、なぜそれを義夫に話さなかったのだろう?〔話してない証拠に、夫は、スウィティの全寮制学校行きに対しストップをかけていない〕
  
  
  
  

ある日、スウィティが、リュカに唐突に質問する。「臓器移植のTV番組見た?」(1枚目の写真)。「わしはTVなんか見んのでな。音楽を聴いてる方がいい」。「両親が話してたんだ。アニバルは肺感染症なんだって」。「肺感染症?」。「僕にもさっぱり。先生に電話して説明してもらったけど、やっぱり分かんない」。そして、変わったことを言い始める。「心臓が1つで生きてけるのに、なんで2つ肺が要るのかな?」。「何が言いたい?」。「アニバルの肺がうまく動かないんなら、僕のを1つあげたらどうかな?」。「移植には、生きてる人からじゃなく健康で死んだ人の臓器を使うんだ」。「じゃあ、タバコ吸うのやめるよ」(2枚目の写真)。この言葉にリュカは過敏に反応する。「吸ってるのか? いつから? 答えなさい」。「昨日から。だけど、もう吸わない。弟に汚れた肺を渡したくないから」。「なんでそんな話になる?」。「単純さ。僕が死んでも庭が大丈夫なように、アニバルにしっかり教え込む。そしたら、僕は自殺する。タバコを吸ってなきゃ、健康な肺が持てるだろ。そしたら、みんなみたいに普通に息ができる」(3枚目の写真)。リュカは、スウィティの邪念を振り払うべく、庭の仕事に専念させる。
  
  
  

分岐点となる重要な場面。スウィティがリュカに言われて、手押し車を押しながら堆肥を取りに行くと、父の部屋から両親の怒鳴り合う声が聞こえてくる。「この養子は愚行の最たるものだ! 何度となく言っただろうが!」(1枚目の写真)。「ひどいこと言うわね! 子供がもうできないのは、私のせいじゃないわ! 赤ちゃんが健康だって保証がなくたって、私は構わなかったのよ!」。ここで、卑怯な夫は、スウィティに攻撃の矛先を向ける。「あれは、健康だけが取り柄だからな!」。「『あれ』じゃなくて『彼』よ。彼に愛想をつかしたから、もう1人もらったんでしょ!」。「で、どうなった? 花のことしか頭にない大バカ野郎に、3日に1度病院通いの喘息児が増えただけじゃないか! しかも、喘息の原因は、お前の息子が育ててる花ときてる!」。「私の息子は、あなたの息子でもあるのよ! そして、弟の病気には責任なんか絶対ないわ!」。「じゃあ見てみろ! あの大量の花から花粉が飛び散ってるんだぞ。喘息の原因のな!」(2枚目の写真、涙が出ている)。その夜、スウィティは、アニバルにインカの昔話を聞かせる。アニバルが眠ると、「僕はどうしたらいいと思う〔Qu'est ce que tu veux faut faire〕?」と自問するように声をかける。そして場面は一転。スウィティは、これまで丹精込めて育ててきた花の株を次から次に引き抜き、投げ捨てている(3枚目の写真)。「呪われた花め!」「何しでかしたか分かってるのか!?」「アニバルを喘息にしたんだぞ!」。
  
  
  

朝起きてきた両親は、庭の惨状に驚愕する(1枚目の写真)。リュカが、その真ん中で、半分死んだようになって、座り込んでいる。父は、「リュカ、何が起きた?」と尋ねる。「分かりません。何も聞こえませんでした」。母が、「警察に電話しないと」と父に呼びかける。父は、庭園の真ん中にあるスウィティの物置の扉を開ける。中には、スウィティが足を抱えてうずくまっていた(2枚目の写真)。「ここで、何をやってる?」。返事がない。「訊いてるんだ! パジャマのまま、なんで庭の真ん中にいる。答えろ」。「警察に電話する必要はないよ。僕がやったんだ」。
  
  

父は直ちに部屋に行くと、ルーアンの学校に電話する。「お早う。校長と話せますか? ユーグ・ソマンです。私の息子エドガー・ソマンの受け入れを確認したいと思いまして」。校長が出る。「お早うございます、校長先生、電話しましたのは…」。ここで相手がなにか話す〔断り状が届いたと話したに違いない〕。「何と言われました?」(1枚目の写真)。追加で何か話される〔署名入りの正式な手紙とでも言ったのかも〕。「分かりました。はい。ありがとう」。父は、母に連れられて歩いているスウィティを見つけると、「エドガー! ここに来い!」と呼びつける。そして、スウィティが前に立つと、思い切り頬を叩く(2枚目の写真)。スウィティは、悲しくなって走り去る。母は、「なぜ叩いたの?」と詰問する。「君の息子は、破壊者というだけでなく偽造者だ。奴が何をしたか知ってるか? ルーアンの校長に手紙を送りつけて、入学をキャンセルしたんだ。私の署名を偽造してな。あのチンピラに言っとけ。顔も見たくないとな」。
  
  

その夜、スウィティはアニバルを起こす。「起きろ、時間だ。ペルーに行くぞ」。スウィティはアニバルに小さなリュックを負わせ、自分もリュックを背負うと、裏口からこっそりと出て行く(1枚目の写真)。「僕らはリマには行かない。大きな街だから喘息によくない。クスコに行くんだ。インカの首都だぞ。それとも、お前が生まれたアヤクチョにするか? 一緒にいるんだから、どこだっていいんだ」(2枚目の写真)。夕方が近くなり、2人は広大なヒマワリ畑の端の野道を歩いている。「この道がいいや。ヒマワリきれいだろ。でも、お日様がたっぷり当たらないと、しおれちゃうんだ。明日になったらシャンとするさ」。翌朝、太陽に照らされて一面に広がるヒマワリ畑が俯瞰撮影される。そして、ドラム缶の上に立ったアニバルが、それを見ている。日陰になる場所で毛布の上に寝ていたスウィティが目を覚ます(3枚目の写真)。
  
  
  

スウィティは、ヒマワリを眺めているアニバルに気付き、ニコニコしながら寄って行く。ドラム缶の上に乗ると、一緒にヒマワリを眺める。「きれいだろ?」。そして、「待ってろ」と言い、地面に降りると、ヒマワリの花を茎ごと折り、アニバルに渡す(1枚目の写真)。「それ、食べるなよ。朝食用にビスケットを取ってくるからな」。スウィティがいなくなると、アニバルはドラム缶に腰を降ろして、ヒマワリの匂いを嗅ぎ始める。しかし、それは、大量の花粉を吸い込む結果となった。すぐに喘息の発作が始まる。スウィティは、「何て、バカだったんだ!」と自分を責め、アニバルからヒマワリを取り上げる、リュックまで走るが、吸入器を入れ忘れたのに気付く。スウィティは、畑に向かって、「ヒマワリのバカ野郎!」と叫ぶと、アニバルの前に戻り、何とか気をそらせようと、ヒマワリを描いたゴッホの話を始める(2枚目の写真)。ゴッホの話の要点は、ゴットとテオの兄弟が如何に仲良く、テオがゴッホを支えゴッホが死ぬと、テオも後を追うように死んだという話〔テオはゴッホの弟だが、このたとえ話では、スウィティがテオになっている〕。スウィティの懸命の呼びかけが効を奏し、発作は収まる。アニバルはスウィティにお礼のキスをして微笑む(3枚目の写真)。
  
  
  

スウィティは、ブランジー=ル=シャトー(Blangy Le Château)〔自宅の南東南30キロ〕の町を1人で歩いている。万一のために吸入器を購入するためだ。薬屋に入ると、店の主人が、「いらっしゃい」と声をかける。「弟の吸入器。喘息なんだ」(1枚目の写真)。「見てみよう」と言って中に引っ込んだ店主は、すぐに警察に通報する。次のシーンでは、スウィティが駆けつけた警官2人に連行される。スウィティはパトカーに乗せられる前に振り向くと、店主に向かって「ユダ!」と怒鳴る。警官に、「ほら、乗るんだ」と言われ、スウィティは、「僕、刑務所に入らされるの?」と訊く(2枚目の写真)。「まず、弟の居場所を話すんだな。それから、判事のところに連れて行く。どうするかは判事が決める」。
  
  

判事は、中年の女性。警官が付き添い廊下で待たされていた2人を、オフィスに招じ入れる。児童福祉担当の判事らしく、とても気さくだ。テーブルに座らせると、2人の間に腰をかがめて同じ目線となり、「お腹空いてるでしょ。何か食べたい?」と尋ねる。スウィティは、「ユダに会う前に、僕たち食べたから」と答える。「ユダって?」。「薬剤師。警察を呼んだんだ」。「ほんとに要らないの?」。「ええ、ありがとう。あなたが、お腹空いてるなら、いろいろあるよ。ソーセージ、パテ、トマト、果物、ビスケット、チョコレート。カマンベールも少し残ってる。弟用なんだ。いつも欲しがるから」。それを聞いたアニバルが何度も頷いてみせる。「ペルーじゃ、満足に食べられないからね」(1枚目の写真)。「じゃあ、みんなでピクニックしましょうか」。そう言うと、判事はスウィティのリュックサックを取り上げ、中から食料を取り出し、テーブルの上に並べる。といっても、食べるのは自分一人なので、テーブルの半分、自分の前だけだ(2枚目の写真)。会話がはずんでいる。「じゃあ、花は置いてきちゃったの?」。「僕がいなくても育つから。でも、弟は、ぼくが世話しないと死んじゃう。喘息がひどいから、ペルーに戻さないと。彼小さいから、一緒に行くんだ。他に、世話する人いないでしょ?」。この間も、判事はパテをほおばり続ける。「でも、ペルーに行くには、お金が要るでしょ?」。「ロジェに借りるつもり。彼なら、何でも言うこと聞いてくれる」。「ロジェって?」。「ロジェ・アナン、知らないの?」(3枚目の写真)。「俳優の?」。「そうだよ」。「ロジェ・アナンを知ってるの?」。「友だちだよ」。ここでアニバルが何度も頷く。判事は、ロジェの大ファンだったので、その話に興味津々。スウィティは、「こうすれば? 次に彼が来た時、あなたを招待するよ。電話番号教えてもらえたら、電話するから」。判事は、喜んで名刺を渡す。そして、このあと医者の診察があると告げる。「僕、病気なんかじゃないよ」。「心配しないで、すぐ済むから」。判事は医者をオフィスに入れ、スウィティには、これから両親に電話して、迎えに来てもらうと告げる。それを聞いたスウィティ。「父さん? 僕、殺されちゃう」。「そんなことないわよ」。「彼のこと 知らないでしょ」。判事は笑って出て行くが、医者に「パテを試して。絶品よ」と教える。判事のスウィティに対する「好感度」は100%。弟思いで優しい。ロジェ友だちで、会わせてくれるかも。前半はオフィシャル、後半はプライベート。公私混同かもしれないが。
  
  
  

医者は、フランスパンにたっぷりパテを塗って話している。「じゃあ、判事さんは、君が私に話したこと、全部知ってるんだね?」。「食べる間、いっぱい時間があったから、庭のこと、弟のこと、全寮制の学校のこと、全部話したよ」(1枚目の写真)。「そりゃ、忙しかったな」(2枚目の写真)。このお医者さんは、食べるのに忙しい。スウィティの話に満足し、今回の「逃避」行に何ら問題はないと考えている。その時、ドアが開いて、判事が、「ちょっと来てもらえない」と呼ぶ。半分開いたままのドアから、判事のイライラした言葉が聞こえてくる。「今、両親と話したの。彼らの父親が何て言ったと思う!? 私が、子供たちが見つかったと告げ、迎えに来てもらえないかと話したら、公式の歓迎会があるからどこにも行けないと言ったのよ! 一晩、面倒みてくれないかって!」(3枚目の写真)「最低ね! 彼の本性が分かったわ」。「子供たちは、どうするんだね?」。
  
  
  

判事は、自分の家に2人を連れて行く。半端な時間に帰って来た母を、2人の女の子が迎えに出てくる。判事は、娘たちの背後に回ると、スウィティに向かって「こちらはクレア」、アニバルに向かって「こちらはリズ」と、紹介する。「家出した問題児」ではなく、「娘たちの友だち」扱いだ。「こちらはエドガー。お母さんはスウィティって呼んでるの」(1枚目の写真)。スウィティはクレアに満面の笑顔を見せる(2枚目の写真)。判事は、リズに「キスしたら」と促し、リズはアニバルの頬にキスする。アニバルは、リズのおさげの髪を興味深げに触わる。今度は、クレアに「キスしたら」。一目見た時からスウィティが気に入っていたクレアは、恥ずかしげに頬にキスする。女の子にキスされたことのないスウィティはぼうっとなる。判事は、「クレア、お客さんのこと任せたわ」と言ってオフィスに戻って行く。クレアは、さっそく、スウィティの手を引いて家の中に連れて行く。
  
  

翌日。判事は両親を前にして仲裁案を出す。事実認定をした後で、「私どもの心理学者は、私の分析に完全に同意しています。この子供達は、いかなる事情があろうと引き離せません。小さなアニバルにとって、エドガーの存在は生命に関わります」(1枚目の写真)「そこで、私は以下のように決定しました。同意して下さることを望みます。あと2週間で新学期が始まります。今日、私は子供達をここカーンの学校に連れて行きます」。ここで、父親の携帯が鳴り出し、さらにひんしゅくを買う。「事情を考慮し、校長は2人が学校で昼食をとることを認めました。これにより、エドガーはずっと弟の安全を確認でき、夕方には一緒に帰宅できます」(2・3枚目の写真)「私は、カブールのお宅を定期的に訪れます。子供達の状況を確認するためです。父は不満なようだが、何も言わない。了解されたと判断した判事は、「合意できてホッとしました。これ以上はお引き止めしません」と言って会合を終える。因みに、カーン(Caen)は、カブールから約20キロ西南西にある人口10万ほどの歴史的な町。4枚目の写真は、私が撮影したカーンのサン=テティエンヌ教会堂(Église St-Etienne)。初期ゴシックで有名なシャルトルより70年早く建設が始まり、交差リブ・ヴォールトの先駆的な姿が見られる。
  
  
  
  

父は、憤懣やる方ないといった顔で、一番に部屋を出て行く。今まで何もしなかった母は、「どうもありがとうございます」と判事に心から感謝する。そして、スウィティは、「家に来る時、娘さんを連れて来てもらえません?」と頼む。よく分からないといった顔をする判事。しかし、スウィティが、「特に、クレアを」と言うと、すぐに事情を察し、「そんな必要はないわ。いつも会えるから」と告げる。今度は、スウィティが 何のことか分からない。しかし、判事が「学校で」と付け加えると、満面の笑顔になり(1枚目の写真)、判事に抱きつく。2週間後、学校が始まる。母に送られてきたスウィティは、クレアの姿を見つけると、アニバスの手を引いたまま駆け寄り、両方の頬にキスする(2枚目の写真)。スウィティの校舎と、アニバルの校舎は離れているが、スウィティはぎりぎりまでアニバルに付き添い、心配しないよう言い聞かせる。担任の教師が寄って来ると、「チョークの粉を吸い込まないよう、黒板に近づけないで」と頼む。「心配しないで、分かってるわ」(3枚目の写真)。面倒見のいいお兄ちゃんだ。最後に、「もしゼーゼーやり始めたら、呼んでね。5Bだから」と言い、自分のクラスにギリギリ間に合う。
  
  
  

次のシーンは、スウィティの誕生日。スウィティがプレゼントの包み紙を破る。「すごいや、『Le bon jardinier』だ!」(1枚目の写真、矢印は開いたページ)〔1992年刊行の『Le bon jardinier』の153版。初版は1760年に遡る歴史的名著。2882ページ〕。隣で見ていた年上の子は、「何だつまらない」と言うが、スウィティは本の1冊を持って、「見て、先生、ロジェが誕生祝いにくれたんだ!」と言いながら医師に見せに行く。2分冊なので、残りの1冊をアニバルが抱えて付いて行く。医師は、「どこで見つけたんだ? こんなの手に入らんぞ」と感心する(2枚目の写真、左端にわずかに本を見ている医師の顔が映っている)。「彼に不可能はないよ」。「借りていいか?」。「家に置いときたいんだ」。「じゃあ、次に君が病気になった時に読ませてもらおう」。その時、判事の車が車寄せに入ってくるのが見える。スウィティとアニバルは走って迎えに行く。スウィティは、判事から両頬にキスしてもらうと、「来ていただいてありがとう」とお礼を言う。判事は、クレアに、「今、プレゼントを渡したら?」と勧める。クレアは、黄色い花の咲いている鉢を贈る(3枚目の写真、矢印の下に花)。「これ、プリンセスって呼ぶよ」。
  
  
  

その時、奥の方から、2人の男性が大きな声で話しているのが聞こえてくる。スウィティは、「僕からのプレゼントだよ。あなたのために、パリに電話して来てもらったんだ」と説明する。そして、判事の手を引き、ロジェの方に連れて行く。ロジェと庭師のリュカはペタンク〔金属製のブールを投げ合うフランス発祥の球技〕をしている。スウィティは、ロジェの前まで行くと、「僕の友だちのロジェ・アナンを紹介するね」と言って、2人を引き合わせる。ロジェは、「マダム」と言って判事の手を取り、口づけするが、判事は緊張して口もきけない。「ペタンクしませんか?」。「喜んで」。リュカは持っていたブールを判事に渡していなくなる。スウィティも、「僕たち、行くね」と言って2人だけにする。最初は顔がこわばり、コチコチだった判事だが、言われたようにブールを投げてみて、当たってからは急にリラックスする。それを離れて見ていたスウィティは、「彼って、サイコーにいい人なんだ。敵う人なんかいない」とクレアに言うが、クレアの目は、うっとりとスウィティに釘付けなっている(3枚目の写真、矢印は花の鉢)。
  
  

小学校の授業中。教師がホワイトボードに問題を書き、誰かに解かせようとしている。スウィティは、隣の子に、「もし当たったら、僕は終わりだ」と囁くと、教師から見えないよう、頭を低くする。その時、ドアがノックされ、ロジェが現れる。「お早う、私は、ロジェ・アナンです」。人気のお茶の間俳優なので、教師は緊張し、生徒たちもびっくりする。カーンはパリの西北西200キロなので、雰囲気としては、飛騨高山〔東京の西北西230キロ。人口9万はカーンとほぼ同じ。歴史的重要性もほぼ同じ〕の小学校に、『寅さん』シリーズの渥美清が突然現れたようなものだ。驚くのも無理はない。「ソマン君を探しています。校長先生の特別許可はもらっています」。そう言うと教室の中に入って行き、スウィティに、「そこ片付けて。アニバルと一緒にレストランに行くぞ」と声をかける。そして、再び教師の前に行くと、「迷惑をかけましたな。それじゃ、さよなら、先生」とほがらかに声をかけ、スウィティと一緒に教室を出て行く。廊下からガラス越しに生徒たちに手を振るので、生徒たちも手を振って答える。まさに、国民的な俳優だ。後で、スウィティは人気者になるに違いない。スウィティとアニバルがディムラーまで行くと、中には判事とクレアとリズが乗っていた。ロジェは、「私がペタンクに勝った時、2人でこのサプライズを計画したんだ」と説明する。「彼女と校長さんとはツーカーだから、君を救い出すのは簡単だった」。「父さんは反対しなかった?」。「私の言うことを拒めるハズないだろ」(1枚目の写真)。スウィティが乗り込むと、「何か食べてから、泳ぎに行くぞ!」と声をかける。子供たちからは一斉に歓声があがる。その後、何があったのかは映されない。次のシーンでは、夕方遅くなってロジェ、スウィティ、アニバルの3人を乗せたディムラーが門の前に到着する。車から降りたスウィティは、ロジェに、「すごく楽しかった」。「そりゃ嬉しいな」(2枚目の写真)。「あなたと判事さんは、どうしてこんなことまでしてくれたの?」。「誕生日プレゼントさ」。「だけど、もう素敵な本、もらったよ」。「そりゃ、別物だ。今日のプレゼントは、いつまでも残るだろ。ここと…」。ロジェはスウィティの額に触れる。「ここに」。今度は胸に触れる。ロジェがスウィティを招き寄せる。そして指で、スウィティの涙を拭う(3枚目の写真、矢印の先に涙)。「宝にするよ」。スウィティとアニバルは、門を開け、名残り惜し気に入って行く。
  
  
  

授業中、教師が走ってスウィティを呼びにくる。アニバルが喘息発作を起こしたのだ。スウィティは全力で走る。教室に入ると、アニバルのそばにいた生徒たちを追い払い、バッグから吸入器を取り出して吸わせる。そして、アニバルを机の上に座らせ、「見てろ」と言うと(1枚目の写真)、「クスコに行ったら、ここが一緒に住む宮殿だ」と言いながら、黒板に絵を描いていく〔この時、駆けつけた父母が見ているのは、カーンと自宅が20キロ離れていることを考えるとあり得ない〕。スウィティは描きながら話し続けているので、アニバルの発作が止まって微笑みながら見ているのに気付かない(2枚目の写真)。ふと、振り返った瞬間の表情が一番素敵(3枚目の写真)。アニバルは、机を降りて教壇に上がると、横にある丸イスを動かしてその上に乗る。そして、黒板の空いたスペースに太陽を描く〔太陽神インチ?〕。そして、その下に小さな自分と、大きなお兄ちゃんを描く。最後に、自分の下に英語で「ME」、お兄ちゃんの下には「SiTi〔スウィティと言えないので、いつもシッティと呼んでいる〕」と書き足す(4枚目の写真)。そして、じっと顔を見る。2人の兄弟の強い絆を象徴するシーンだ。映画の最後にはカミユの有名な言葉が示される。「Je ne connais qu'un devoir, c'est celui d'aimer.(僕がすべき唯一のこと、それは愛すること)」。
  
  
  
  

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