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Ballon バルーン/東ドイツからの脱出

ドイツ映画 (2018)

西ドイツ国境まで最短で24キロにあるペスネック(Pößneck)の町に住むシュトレイツェク(Strelzyk)とヴェッツェル(Wetzel)の一家8人は、1979年9月15日(土)の深夜の2時32分、町の南23.5キロにある東独オーバーレムニッツ(Oberlemnitz)の西の高地から自作の熱気球で飛び立ち、一時高度2000メートルに達するが、気球のてっぺんに開いた穴と、燃料が底をついたため17.7キロ南南東の西独ナイラ(Naila)西方に3時頃に着陸する。この歴史的快挙は、当時話題となり、すぐに、ディズニーが『Night Crossing(気球の8人)』(1982)という映画を作った。シュトレイツェクは1942年生まれ、ヴェッツェルは1955年生まれで、2人の間にはかなりの年齢差がある。それと、着地の際にヴェッツェルがふくらはぎの肉離れで1週間ほど入院し、シュトレイツェクが一手にマスコミ対応を引き受けたため、ヴェッツェルは陰に隠れた存在となってしまう。ピーター・シュトレイツェクは2017年に74歳で死亡したが、ヴェッツェルが重い口を開いて、「脱出に至る経緯」をウェブ上で公開したのは、脱出成功30周年の2009年のこと。グンター・ヴェッツェルのサイト(https://www.ballonflucht.de/en/home.html)では、如何に苦労したかが、非常に詳しく説明されている。そこから、簡単にピックアップすると、ピーターとグンターが東ドイツからの脱出を本格的に考えるようになったのは1978年に入ってから。しかし、方法が思いつかない。そこにグンターの妻ペトラの姉(1958年に東ドイツを出てアメリカに帰化)が、里帰りで訪れた時、持ってきた新聞にアルバカーキ国際バルーンフェスタの記事が載っていた。グンターは、厳重な国境を突破するのは、これしかないと考える。しかし、バルーンに関する情報は何もない。①気球の材料は何で、どうやって縫合するのか? ②バーナーの構造はどうなっていて、燃料は何を使うのか? ③4人の大人と4人の子供を乗せるには、どれだけの大きさが必要なのか? ④空気が布から抜けるのをどう防ぐか、それに、そもそも、どうやって膨らますのか? などなど、数え上げればきりがない。現在、日本では、公認さえているものだけでも18ものバルーンフェスタが開催されているが、そうした所に既製品を買って参加するのとは訳が違う。すべてを1から、しかも秘密裏に作らなければならない。最初に構想されたバルーンは1800立方メートルの大きさ。気球はレザーウェアの裏地で作られた。8人が乗るバスケット〔Korb:籠〕は、1.4m×1.4m、厚さ0.8mmの鋼板に4本のL形鋼を溶接し、そこにロープを5段に巻いて転落を防止した。バーナーをどうするか、見当もつかなかったので、直径12センチのストーブ用の金属煙突2本を、細いパイプでプロパンガスのボンベにつないだ。しかし、熱を送り込んで気球を膨らますことはできなかった。2つ目のバルーンは2200立方メートルの大きさ。生地にはタフタを用いた。バイクを解体・改造した送風機を使って、何とか気球は膨らんだが、バーナーが弱くてすぐに縮んでしまう。グンターは、仕事の関係で、一時構想自体をあきらめる。それを変えたのは、翌1979年7月27日にドイツ人民警察が情報提供を求めたバルーンに関わる幾つかの作業部品。自分たちが秘密警察シュタージに追われていると思ったグンターは、3つ目のバルーンの構想を固めると、8月13日医者に行き、胃が痛いからと嘘をつき、9月16日まで仕事を休めるよう手配する。バルーンの規模は最大の4200立方メートル。1300平方メートルの布が必要となる。西南西16キロにあるザールフェルト(Saalfeld)という町で100メートルのタフタを買おうとして怪しまれ、不安にさいなまれる。それ以後は、1回に少量の布しか買わないようにするため、ピーター、その妻のドリス、グンターの妻のペトラが布を求めて東ドイツ中の店を回り、それをグンターが電動ミシンで縫合する作業が続く。グンターの病気休暇は16日までだが、15日になり、急に風向きが北風に変わる〔西ドイツに向かって吹く〕。そこで、大急ぎで未完成部分を繕い、その日の夜、オーバーレムニッツの西方にあるバールナー高地(Bahrener Höhe)に車とバイクで向かう(1台に8人は乗れない)。午前1時半に作業を始め、気球は僅か5分で完全に膨らむ。離陸は2時32分。下の地図は、一番上が、2人が住んでいたペスネック。中央より下がオーバーレムニッツ西の高地。一番下がナイラ西方の着地点。濃い青が国境だ。気球の滞空時間は30分弱で飛んだ距離は短いが、それでも平均時速35キロで飛び、見事に国境を「被弾圏外」の高空で超えた。映画化に当たっては、グンターの書いた事実に沿った形で進行し、①飛行に失敗して他の脱出法を探ったり、②シュタージに追われていると恐れたり、③大量に布を買おうとして怪しまれて逃げたり、④小分けにして布を買ったり、⑤バーナーの改良に苦労したり、⑥最後は車とバイクで行くとか、⑦離陸時に4本あるロープの1本が切れなくて布にバーナーの火が燃え移り、そのせいで気球のてっぺんを塞ぐ布がはがれてしなうなど、そのまま映画に取り入れられている。事実と違うのは、①飛ばないはずの2つ目のバルーンにシュトレイツェク一家4人が乗り込み、国境のごく手前で落ちる、②シュトレイツェク家の前にシュタージが住んでいて、その娘と長男のフランクが親しい、③シュタージの追跡が事実よりも遥かに厳しく、それだけ観ていてハラハラさせられる、の3点。映画化にあたっては「華」も必要なので、このくらいの改変は、「改善」とみなすことができる。映画の評価が高いだけあり、見ごたえのある作品に仕上がっている。右上の写真は、着陸の翌10月21日に地元で行われた記念祭の様子。バルーンのカラフルな布や、バスケットとバーナーは、2017年からレーゲンスブルクのバイエルン歴史博物館に展示されている(右の写真)。

ピーター・シュトレイツェクとグンター・ヴェッツェルは、2年かけてバルーンによる東独脱出を目指し、バルーンは遂に完成した。設計と縫製はグンター、バーナーやバスケットなど鉄を使って “作る” 部分はピーターの役割だった。ピーターの長男フランクが「青年式」を迎えたお祝いの日、風向きが、稀な北風に変わる。それまで、北風は吹かないと思って半ばあきらめていたピーターは、嬉々としてグンターの家に行く。しかし、グンターの返事は意外なものだった。再計算したところ、今のバルーンでは大人4人、子供4人を乗せるのは無理だという。ピーターは「4人なら?」と訊き、「4人なら行ける」という返事を得ると、今あるバルーンを使って、自分の一家だけで脱出しようと決心する。風向きがいつ変わるか分からないので、ピーターはその夜、車に一家を乗せ、バルーンを置いた小さなトレーラーを牽いて、こっそりと家を出る。向かいの家には悪名高いシュタージのシンパがいるので気取られないようにしないといけない。途中、故障したトラックの運転手が助けてくれと合図するが、命がけの作戦中なので無視して通り過ぎる。住んでいるペスネックの南14キロの地点にある “離陸予定地” まで来ると、ピーターはフランクに手伝わせ、バルーンをバーナーと送風機を使って膨らませる。バスケットに4人が乗り込むと、バルーンは順調に1700メートルまで上昇する。しかし、明るいバルーンを下界から見えないようにしようと雲の中に入ったのが失敗で、水分がバルーンの布地に付着して重くなり、それと時を同じくしてバーナーの火が消えてしまい、バルーンは急速に降下。国境のすぐ手前の森に着地(墜落)する。夜の移動は危険なので、明け方になるまで待ってから移動を開始し、10キロ以上歩いて出発点に戻る。幸い、放置した自動車は誰にも見られていなかった。一家は、ひっそりと家に戻る。気球による脱出を断念したピーターは、長男フランクの提案を受け、“政治的迫害を受けた難民” としてアメリカ大使館に助けてもらおうと考え、一家で東ベルリンに行く。そして、厳重に警備された大使館前の通りまで行き、“救助要請” のメモを入れたタバコの箱を大使館に入っていくアベックに託したが、音沙汰なしに終わり、落胆して故郷の町に戻る。しかし、事態は急を要していた。実は、気球落下の翌日、ピーターの妻ドリスが、いつも飲んでいる薬の箱が家にないことに気付き(気球の落下地点に落としてきた)、大騒ぎを起こしていた。薬は、甲状腺腫にかかわる特殊な薬なので、身元がバレる可能性が高い。見に迫っているかもしれない危険から逃れるためには、もう一度バルーンに挑戦するしかない。そこで、ピーターはすぐにグンターを訪れて相談する。グンターは、「新しいバルーンには4200立方メートルの大きさが必要だ。1300平方メートルの布が要る」と言う。そのためには、大量の布を、疑われないよう、少量ずつ、別々の町に行って調達しないといけない。しかも、グンターは6週間後に徴兵のため出頭しないといけない。二家族の4人にとっては、寝る暇もないほどの忙しい日々が始まる。しかし、“バルーンによる国外脱出未遂の反逆者” の捜査を指揮しているシュタージの中佐の方も、どんどん捜査対象の地域を狭めて行く。最初の脱出行の際にすれ違ったトラックの運転手の証言(大人2人、子供2人という構成と、車種)、布地屋の一つの女店主の証言(車のナンバープレートから地域の限定)、決定打となったのはガスボンベのラベルの復元で、そこからペスネックと断定される。後は、薬局で甲状腺腫の患者の処方箋を入手して個別に調査するだけだ。その頃、バルーンの縫製はほぼ終わっていた。北風も運良く吹き始める。決行は “明日” の予定だったが、フランクが “向かいのシュタージの娘” にお別れに行った時、たまたま父親が帰ってきて、薬局で捜査中だという話を聞き込む。それを知った母は、自分の存在がバレるのは間近だと悟り、ピーターは出発を “今夜” に変更。それでも、タイミングはぎりぎりで、シュタージの中佐がピーターの家に来た時に、一家はグンターの家族を迎えに行っていて、かろうじて逮捕を脱がれた。二家族は、そのまま車とバイクで30キロ以上離れた、1回目の時よりはもっと西独国境に近い高地まで行く。そして、各地から集めた布で作ったカラフルな大型バルーンを膨らませ、離陸する。ピーターの脱出を知った中佐もヘリコプターで捜索するが、空間は広く、目標は小さく、見つけた時には、2000メートルの高度を西独に向かって飛行中だった。直ちに、想定区域の国境警備隊に非常警戒が命じられる。バルーンは、その後、1回目の時と同じようにバーナーの火が消え、それとともに、中佐の視界からも消え、急速に落下を始める。そして、1回目の時と同じように、森の中に着地(墜落)する。国境は無事越えたのか? ピーターとグンターが南に向かって歩いて行くと、出会ったのは西独警察のジープだった。

シュトレイツェク家の次男フィッチャーことアンドレスを演じるのは、ティルマン・ドブラー(Tilman Döbler)。2006年生まれで撮影は2017年の9-11月なので、実話と同じ11歳。しかし、似ているのはそこまで。【右の写真は、下記の『Zuckersand』出演時のティルマン】フィッチャーは、脇役なので、誰がやってもいいと思うのだが、製作陣はなぜか、プラチナ・ブロンドのティルマンを選んだ。上の写真は、脱出直後のシュトレイツェク一家の4人。矢印がアンドレスだが、両親や兄そっくりの黒っぽい髪、映画では母は赤毛に近い金髪だが、父は濃い茶髪。こんなプラチナ・ブロンドの子が生まれるはずがない。可愛くもないティルマンをなぜ選んだのだろう。奇しくも、ティルマンが主役で2017年に公開されたTV映画『Zuckersand』で、彼は、1970年代末の東ドイツの少年を演じている。内容は全く違うが、偶然の一致というには、あまりにも似すぎている。何か関連があるのだろうか? 因みに、上の写真で、右端の兄フランクを演じているJonas Holdenriederは撮影時18歳。実話は15歳だし、一般専門学校を卒業するという映画の設定でも15歳。この年代で3歳の差はあまりに大きく、こちらもしっくりこない。一方、ヴェッツェル家の長男ピーターを演じるのはティル・パッツ(Till Patz)【右の写真】。実話では5歳。実年齢は不明。映画の経験はごく僅か。下の写真は、脱出直後のヴェッツェル一家の4人。矢印がピーターで、映画のティルの方が少し可愛いが、こちらも実際とは違って金髪。ただ、映画では、母のペトラも金髪なので違和感はない。

あらすじ

東ドイツ南部にある人口1万ほどの町ペスネックでは、学校で「青年式(Jugendweihe)」が行われている〔成人式(18歳)よりは若いので、青年式は暫定訳〕。式典が行われている講堂のステージには、「社会主義は若者の未来(Der Sozialismus ist die Zukunft der Jugend)」と書かれている。東ドイツの教育制度では、6歳で男女共学の一般専門学校に入学し、それが10年生になるまで続く。そういう意味では、当時の多くの若者にとって、この青年式は、一つの区切りだった。式は、在校生の中でも年下の少年少女の合唱で始まり(1枚目の写真、矢印はシュトレイツェク家の11歳の次男、通称フィッチャー)、次いで校長の訓辞。最初の言葉は、「ゲーテはこう言っている」で始まる。「あなたは、毎日、少なくとも1つの歌を聞き、良い詩を1つ読み、素晴らしい絵を1枚見なさい。そして、もしできるなら、賢明な言葉を幾つか口にしなさい」〔校長が引用したドイツ語は、ゲーテの言葉とかなり違っている〕。次に引用したのが、レーニンの、「学べ、学べ、そして、学び続けるのだ」。その後は、社会主義礼賛の言葉。それが終わると、小さな青い冊子を見せ、「これがあれば、パブでビールが飲めだけでなく、今後は、君たちの行動に責任が伴う」と述べ、最前列の3列に座った8年生42名を起立させる(2枚目の写真)。その中にはシュトレイツェク家の長男フランクもいる。校長は、「君たちは、ドイツ民主共和国の若き市民として、社会主義の偉大で崇高な理念のために、革命の成果を守り、生かし、高めていけるか?」と問いかける。「はい、誓います」。ここで、映画のタイトルが表示される。そして、空色のヴァルトブルクという東独唯一の粗悪な国産車で、式を終えて帰宅する一家が映る。シュトレイツェク家の父、37歳のピーターが運転し、助手席には、ピーターの向かいの家に住むエリック・バウマンが乗る。彼は、悪名高きシュタージの協力者だ。後部座席には、ピーターの妻ドリスと エリックの妻が乗り、真ん中にフィッチャーが座っている。エリックは、夏休みの使い方についてピーターに訊く。エリックはブルガリアの黒海に行くことを楽しみにしている。エリックの妻から、「まだ、予約はとってないの?」と訊かれたドリスは、「難しくて」と答える(3枚目の写真)。それを聞いたエリックは、「エリック、旅がしたい」と言ってくれと、機嫌よく話しかける。「すると、俺が、『どこに?』と訊く。そしたら、あんた、どう言う? ほら言えよ。どこに行きたい?」。ピーターは、言葉を濁す。エリックは、「ベルリン、ドイツ民主共和国の首都」と誇らし気に言う。ドリスは、「素敵ね」と相槌を打つ。「ほらな。俺は、旅行代理店にいる友達に電話する。シュトレイツェク一家を、ベルリン・シティ・ホテルに頼むってな。ツアー客の行くフロアじゃないぞ。最上階だ。西ベルリンが真正面に見える。凄いだろ?」〔後で、ストーリーに関係する〕

家の前で車から降りたエリックは、「いつでも呼んでくれ」と言って、握手する(1枚目の写真)。そこに、ピーターの長男フランクが、エリックの娘クララの新しいバイクに乗せてもらって到着する。2人とも、今日、青年式を迎えた同級生同士で、家が向かい側の幼馴染(おさななじみ)ということもあって仲がいい。バイクから降りたフランクは、「何て素敵なプレゼントなんだ」と、クララを羨ましがる(2枚目の写真)。クララは、「あなたの新しい時計も素敵よ」と、格差のあるプレゼントを何とかカバーする。エリックの妻は、2人を見て、「素敵なカップルね」と夫に話す。その時、空を見上げたクララの弟が、10個の青い風船を見て、南に向かって飛んでいると指摘する、それを見たピーターの表情が変わる。北風は、この時期にはあまり吹かない貴重な風だからだ。ピーターは、ドリスに、「風向きが変わった。至急グンターと会わないと」と囁く。楽しそうに風船を見ていたフィッチャーに(3枚目の写真)、母は、「私たち、すぐに戻る」と声をかける。エリックは、「今日は、お祝いの日なんだ。一緒に来ないか」と誘うが、ピーターは、「義理の母を迎えに、駅に行かないと」と、後で合流すると答える。「約束だぞ」。フランクは弟に新しい腕時計を見せる。それは、滞空時間をチェックするため、ストップウォッチになっていた。フィッチャーは、「僕も青年式で、こんなの欲しいな」と羨ましがる。

ピーターとドリスは、ヴェッツェル家に行く。13歳年下のグンターの意見は、「危険すぎる」というもの。「何だと? 冗談だろ?」。「うまくいかない」。「待てよ、グンター、君が計算したんだぞ。バルーンは、もうウチの地下に置いてある」。「計算をやり直したんだ。危険すぎる」。「なあ、この4週間、北風を待ってたんだぞ!」。「バルーンは少し小さ過ぎた。8人を乗せるのは無理だ」。「信じられん」。「信じてくれ。全員は乗れないんだ。我々は行かない」(1枚目の写真)。「4人なら?」。「4人なら行ける」。それを聞いたピーターは自分の一家4人での決行を決意する〔ここだけは、実話と違っている。実話の “飛ばなかった” 2つ目のバルーンからの自由な創作〕。「グンター、今後は一切の接触を絶とう。でないと、君に迷惑がかかるかもしれん。電話も手紙もなしだ」。そこに、遊びに行っていた5歳のピーターが帰ってきて、「パパ!」と言って抱きつく(2枚目の写真)。「凧をあげてきたよ」。すぐ後から、一緒に凧揚げをしてきた祖父母が現れる。ピーターとドリスは、準備があるので早々に別れを告げる。家では、フランクとフィッチャーが、ボード・ゲームをしながら両親の帰宅を待っていた。兄の駒が進んでいった先が、「監獄行き」だったので、弟は笑うが、兄はそうなったらどうしようと暗い顔になる。「ただのゲームじゃないか」〔弟は、バルーンのことを一切知らされていない〕。そこに両親が帰宅し、兄は結果を聞きに席を立つ。フランク:「どうなったの?」。フィッチャー:「何が?」。父:「部屋に行ってろ」。「いったい…」。母:「フランクと話があるの」。「だけど、なぜ?」(3枚目の写真)。「フィッチャー、2階よ」。1人疎外されたフィッチャーは、怒って2階に上がっていく。父は、フランクに、①グンターは来ない、②今夜、4人だけで行く、と告げる。さらに、6時の天気予報で確認するまでに 荷造りを終えるよう命じる。

部屋に行ったフランクが、ある程度荷造りをすると、クララへのお別れの手紙を書き始める(1枚目の写真)。壁の時計が夜の9時35分を指す。母は、フランクの腕時計を熱心に操作しているフィッチャーの前に座る。そして、「さっきは、ごめんね。でも、びっくりさせたかったの」と謝る。「今夜はキャンプに行くのよ」。「どこに?」。「森」。その頃、ガレージでは、父とフランクが 4人が乗るバスケットにバーナーを積み込んでいる。一段落したので、兄が弟を探しに行く。すると、母と話しているのが聞こえる。「バイクに乗っていい?」。「夜の森じゃ、乗れないわ」。「僕のBMX〔モトクロス用〕バイクなら、根っこの上だってフルスピードで走れるよ」。それを見た兄は、日中に書いたクララへの手紙を、こっそりお向かいのフェンスの郵便受けに入れにいく(3枚目の写真)。

一家は、空色のヴァルトブルクに、バスケットを乗せた超小型のトレーラーを連結し、深夜に出発する(1枚目の写真)。郊外の道路を走っていると、エンジントラブルを起こしたらしきトラックが道路脇に停まり、運転手が懐中電灯を振って合図するが、ピーターは無視して通過する(2枚目の写真)。ピーターが離陸予定地点〔実話の2回目は、ペスネックの南南東14キロの地点(LiebschützとZiegenrückの間)〕に着いた頃、グンターの義父は、仲のいい息子に話しかけていた。「お母さんは君のことを心配してたぞ。私もだ」。「そんなの無用ですよ」。「君が元気だと、お母さんは幸せそうだ。だから、いつも元気にしている義務があるぞ」。グンターは、義父に、「あなたは幸せですか?」と尋ねる。「無論、幸せだとも。自分の家があり、小さな庭もある。君のお母さんと一緒だし、君もいる。これだけあれば十分だ」(3枚目の写真)「だが、君には君の考えがあるだろう。人生は これからだからな。お母さんには内緒だぞ」。「あなたから、こんなこと言われたのは初めてですよ」。「いつもじゃないさ」。

車の中で眠ってしまったフィッチャーが、後部ドアを開けて外に出ると、車の後方では、白くて巨大なバルーンが真夜中の闇の中で輝いている(1枚目の写真)。息子が起きたことを知り、母がやってくる。「何してるの?」(2枚目の写真)。「サプライズよ」。「キャンプに行くんじゃなかったの?」。「もっと楽しわよ。あれに乗って西ドイツに行くの」。「兵隊に撃たれない?」。「向こうに行けばBMXバイクが手に入るわ」。母はフィッチャーの手を引いてバルーンに向かう(3枚目の写真)。2人は、すぐにバスケットの隅に乗る。

バスケットの四隅は4本のロープで地面に固定してある。父と兄は、まず対向する2本のロープをナイフで同時に切断し、次いで、残った2本も同時に切断する。バルーンは、一気に上昇を始める(1枚目の写真)。すぐに、父が、「フランク、時間を計ってるか?」と訊き、兄は急いでストップウォッチを押す。車はどんどん小さくなり、高度計は約300メートルを指す。あまりに明るいので、下から見ればすぐに分かる。母が、「すごく明るいわね。何キロも先から見えてしまう」と危惧する(2枚目の写真)。「そうだな、もっと高く上がろう。雲の中まで」。父はバーナーを全開にし、バルーンは急上昇して雲の中に突入する(3枚目の写真)。

雲の中に入ったため、下界からは見えにくくなる。フィッチャーは、思わず「寒いよ」とSOS。「今、どのくらいの高さだ?」(1枚目の写真)。兄が高度計を見ると1700メートル。「飛行時間は?」。「14分」。「なら、半分は来たな。高度を下げる時が来たら、知らせろ」。最初に異変に気付いたのはフィッチャーだった。ガスボンベに水滴が落ちるのを見て、バルーンを見上げると、顔にも水滴がかかる。「何かが落ちてくるよ」(2枚目の写真)。父が立ち上がって見てみると、バルーンの布とロープとの結び目に水滴が付いている。「湿度が高いせいだ。雲から出ないと」。兄:「これって防水布なの? もし、水分を吸収したら、すごく重くなるんじゃない?」。「高度はどうなってる?」。高度計は1700を指していたが、トントン叩くと いきなり1300に変わる。「よく分からないよ」。バルーンは、明らかに急速に高度を下げていた。高度計は、800、700となり、600まで下がったところで、バーナーの火が消えかかる。ガスボンベとバーナーを接続するパイプが凍り付いたためだ。そこで、何とか温めようと、父はパイプを両手で握りしめる(3枚目の写真)。遂に火が消えてしまったので、「マッチを」と言って手を離すと、凍結した金属パイプを強く握っていたため、皮膚が剥がれてしまう。しかも、マッチの火は風で吹き消される。そして、間髪を置かずバルーンは森に突入する。バスケットが木のてっぺんに衝突し、枝に当たりながら地表まで落下する〔もう一度書くが、実話では、2回目のバルーンは飛行できなかったので、これは映画だけのフィクション〕

幸い、誰もけがをせずに着地し、4人は 落下したバルーンの脇で無事を喜んで抱き合う(1枚目の写真)。しかし、一番の問題は、国境を無事に越えることができたか、という点だ。暗い森の中なので、判断のしようがない。飛行時間は32分。これも、ぎりぎりの数値。しかし、木の隙間から、長い鉄条網のフェンスが続いているのが見える(2枚目の写真)。そして、コンパスを出すと、フェンスは南側にある。父は、「あと数メートルで、やり遂げられたのに」と悔しがる。母:「どうするの?」。フィッチャー:「見つかったら?」。フランク:「すぐに出発点に戻らないと」。父:「少なくとも10キロ先だ。どこに仕掛けのワイヤーがあるかもしれん。明るくなるまで待とう」。こうして、4人は、明け方までバルーンの脇で夜を過ごす(3枚目の写真)。

若干明るくなると、一家はすぐに森から抜け出す。近くには、「立入禁止区域」と書かれた標識が立っている。そこには、「許可を受けない者の、立ち入り、乗り入れ、写真撮影を禁ずる。違反者は罰せられる」と付帯事項が記されている(1枚目の写真)。一家は、森から出ると、延々と原っぱを歩き、ある程度明るくなった頃、リープシュッツ駅の前の線路を歩いている(2枚目の写真)。一家が、その町の中を歩いている頃には(3枚目の写真)、早起きの人は窓を開け始める。レッカー車が横を通って行ったので〔3枚目の写真で、父の左側に見えている〕、母は、自分たちが野原に乗り捨ててきた車を回収に行ったのでは と恐れる。

一家は、昨夜、車を乗り捨てた場所まで戻ってくる。そして、誰もいないことを確かめると、車に走り寄る(1枚目の写真)。膨らます時に使用したガスボンベと送風機、係留用の支柱4本を、トレーラーに入れて布で覆う。途中で濁った池の横に来た時、送風機は邪魔になるだけなので、池に投げ捨てる(2枚目の写真、矢印)。右の写真は実物。最終的に、何のトラブルもなくペスネックの町まで戻ってくると、ガレージに目立つトレーラーをしまい込む(3枚目の写真)。この先、観ていてハラハラするのが、兄フランクが昨晩 郵便受けに入れたクララ宛の手紙の回収。早く取り戻さないと大変なことになる。幸い、まだ向かいの家では誰も起きていないので、郵便受けの上部の蓋を開け、指を突っ込むが、狭くて手が中に入らない。幸い、取り出し口から手紙が地面に落ち、拾うことができた。父は、そうしたことを一切知らないが、もし知られたら、ただでは済まされなかっただろう。家族全員を危機に陥れる可能性があったことを、一存でやってしまったから。

朝食の用意をしながら、ドリスは、「何て運が悪いの。最悪だわ。幸い、バレずに済んだけど」と夫に話しかける。ピーターは、「冷静でいよう。前と同じように」。「してるわよ!」。「だが、もうちょっとだった」。「もう終わったのよ」。ここで、子供たちの方を見る。「普通の生活に戻らないと。あなたたち、明日は学校に行き、私たちは仕事に戻る」(1枚目の写真)。その頃、バルーンの落下地点には、国境警備隊や警察の車両が乗り付け、ヘリコプターにはシュタージのザイダー中佐が乗っていた(2枚目の写真、矢印はバルーンの残骸)〔ついでながら、KGBの少佐時代のプーチンは、シュタージの中佐でもあった〕。ヘリから降りた中佐は、出迎えた国境警備隊の中尉に対し、これほどの重大な案件の連絡が遅過ぎたことに対し嫌味を言う。現地で捜査を指揮していた担当者からは、①ゴンドラの下の草がしおれてないので、到着は昨夜の間だった、②ゴンドラの横に錠剤入りの薬の容器が落ちていた、③ガスボンベの製造番号は削り取ってある、の3点が報告される(3枚目の写真)。中佐は、薬は医務部、残りは犯罪科学捜査部に送り、現場の周囲500メートルについて、どんな破片も見逃さないよう指示する。それが終わると、再び中尉をじわじわといたぶる〔国家保安省で、中佐にまで登りつめただけあり、人間性のカケラもない 実に嫌な人物〕

ピーターが車のところにいると、エリックが寄ってきて、「昨夜は、来なかったな」と、責めるように言う。「お義母さんに何かあったのか? 今、どこにいる?」。ピーターは、昨日は適当に嘘をついたので、義母など家に来ていない。そこで、駅で転んで気分が悪くなったので、義母の住んでいるゲーラ〔ペスネックの北東40キロ〕の病院まで車で送ったと誤魔化す。両手の包帯についても訊かれると、「悪いことは重なるもので、滑った」と適当に答える。その後、ようやくエリックは本来の目的を話す。つまり、買ったなばかりのカラーTVで、西側の放送が見れないので、電気製品に詳しいピーターに何とかして欲しいという依頼だ。ピーターは快諾する。昼食の時、フィッチャーは、「嘘はつくべきじゃないよね」と言い出す。父:「そうだ。嘘はよくない」。「なら、どうして、ずっと僕に嘘をついてたの?」(1枚目の写真)。母:「何を言い出すの?」。「真実を話してくれなかった」。父:「いいか、真実ってのは、なかなか複雑なんだ。真実を話すことはできないんだ… この国ではな」。フィッチャーは、寂しそうに「そんなこと、訊いてない」と言うと(2枚目の写真)、食べる気をなくして席を立つ。母は心配して後を追い、2人だけになった父とフランクの間で、話題は別な方向に進む。フランク:「ベルリンの西ドイツの代表部はどう?」。父:「アメリカ大使館より厳重に警備されてるさ」。「なら、大使館を試そうよ。アメリカは、政治的な迫害を受けた人々を受け入れてるよね」(3枚目の写真)。「それがいい。コンタクトできるかもしれん」〔解説のグンター・ヴェッツェルのサイトで、グンター自身は、2回目の失敗の後、構想自体をあきらめる。そして、模索した他の脱出方法は飛行機によるものだった。そのサイトにはピーターのことはほとんど書かれていないが、「彼らが外国の大使館を通して逃げようと試みたことは知らなかった」とのみ書かれている。そういう意味では、シュトレイツェク一家はアメリカ大使館経由での脱出を模索したのは実話に基づいたエピソードだ。ただし、詳しい経緯は不明〕

フィッチャーを心配した母は、息子の部屋に行く。フィッチャーは、元気なく、ベッドに座っていた。母は、息子の前に座り込むと、「もし、あなたが “言わないでもいいこと” を口にすると、みんなが危ないことになるかもしれない。でも、ママはあなたを信頼してるから、話すわ。だから、あなたも、わたしたちを信頼して欲しいの。あなたに黙っていたのは、あなたを守ろうとしたからよ」(1枚目の写真)。こうして息子を納得させ、気分良く洗面台に立った母は、ガラスのコップに水を入れ、薬を飲もうと 扉が鏡になったキャビネットを開ける。しかし、そこには いつもの薬がない! バルーンに乗る時に持っていって、落下した時に落としたのだ! それに気付いた母の手から、コップが床に落ちて粉々になる。その音で、ピーターが何事かと見に来る。「大丈夫か?」。「私の薬」。「それが?」。「私… 甲状腺の薬をバッグに… 森の中で落としたんだわ」(2枚目の写真)。「名前が書いてあったのか?」。「いいえ、でも処方箋を見れば…」。「ゴンドラには指紋も残ってる」。「あんなこと、すべきじゃなかった。私たち、何て親なの?」。「悪い両親じゃないぞ。悪いのは運命だ」。ドリスは、薬のことは自分のせいなのに、夫と激しい口論を始める〔違和感がある〕。ドリスが激高した理由は、捕まった時に、子供たちがどんな目に遭うか心配になったから。その背景には、彼女の兄か弟が14歳で刑務所に入れられた時、出所したら、歯を1本残らず抜かれていたという残酷な思い出がある。最後に泣き崩れた母を見て、心配したフィッチャーが寄ってくる。母は、息子を失うものかと、フィッチャーを抱きしめる(3枚目の写真)。父は、その2人を抱き、「心配するな、誰も ウチには来ない」と慰める。

翌日、中佐は、兵士を呼び出して尋問する。「お前は、なぜ警報を出さなかった? 非番だった? 勤務が終わり、ガールフレンドのことでも考えてた?」と意地悪く言った後で、国境警備の兵士の対応を書いた紙を読み上げさせる。「国境に侵入しようとする如何なる試みも阻止されるべきであり、そのためには侵入を止めさせ、あるいは、殺すために、あらゆる手立てを尽くす義務がある。反逆者は非常に危険な存在なので、この義務は、周到かつ徹底的に履行せよ。集団の中に女性や子供がいても、それは反逆者がしばしば利用する手段なので、火器の使用をためらうな」〔旧東独の政治体制が如何に非人道的で、脱出したいと思う人が如何に多かったかが良く分かる。そして、それを阻止しなければ体制が崩壊してしまうと焦る政府の残忍性も〕。ここで、場面は、エリックの家に変わる。ピーターがPALデコーダーを取り付け、西側の放送をカラーで見られるようにする〔東ドイツでは、1977年以降、PAL方式に対応したTVの販売が許可されたので、1978年に新規購入したTVになぜ西側のカラー放送が映らなかったのかは不明。この部分は実話でなく映画の創作のため、細かな年度の整合性まで考えていなかった→このシーンを入れた目的は、この後のピーターの行為につなげるため〕。大喜びのエリックに対し、ピーターは、一昨日エリックが話したベルリン旅行の手配の話を持ち出し、ホテルの予約をしてもらう。一方、シュタージの会議室では、中佐を中心に、分析の専門家が集まって議論している(1枚目の写真)。1人の男が立ち上がり、「我々の同志の計算によれば、バルーンは40分以上滞空していなかった。風向きを考えると、この何れかの場所から出発したと考えられる」と言い、地図上にマークされた4つのポイントと、それを囲むエリアを示す(2枚目の写真、矢印は着地点)。中佐は、布地を販売する店について尋ね、今日中にリストを作成すると回答される。問題は、バルーンの横で発見された薬(3枚目の写真)。「医学部門の見解では、対象者は30から40歳の女性で、恐らく体重過多。甲状腺手術の傷跡が首にある可能性大」。ここで、画面は、ベルリンに行くため一家で車に乗り込むドリスの映像に変わる。彼女の首には傷跡が残っている〔実話では、この段階でシュタージは、こんな詳しい情報は察知していない〕

一家は、エリックのコネでベルリンに到着する。最初に写されるのは、ブランデンブルク門の向こうに高さ368メートルのベルリンテレビ塔が聳える構図(1枚目の写真)。テレビ塔は、東ベルリンのシンボルとして建てられたものなので、これはかつての西ベルリンから見た映像だ。一家は、Hotel Stadt Berlin〔37階建て。東ベルリンのシンボルとして1976年に完成。現在のPark Inn Hotel〕に乗り付ける(2枚目の写真)。エリックが言っていたように最上階かどうかは分からないが、フィッチャーの顔の右のガラスに20階建て以上のビルが映っていて(3枚目の写真)、部屋はそれより高いので、ほぼ約束通りだったことが分かる。部屋は普通のツインルームなので、兄弟はエキストラベットになるが、それが置けるだけのスペースはある。

父と兄は、さっそく1階ロビーにある公衆電話スペースに行き、置いてある電話帳で “Botschaft der Vereinigten Staaten von Amerika(アメリカ大使館)” のアドレスが、“108 Neutstädtische Kirchstr. 4-5” だと知る(1枚目の写真、矢印は「アメリカ」の文字)。そこは、ホテルの西南西約2キロ、ブランデンブルク門の近くだ。父は、さっそくホテルでもらった地図で位置を確かめる(2枚目の写真)〔道幅がすごく広く描かれた旅行者用の地図なので、写真の指が地図上で300メートルくらいあり、指している範囲は結構広い〕。父は、部屋に戻ると、アメリカ大使館で渡す紙を書く。「我々は追跡されています。助けて下さい。インターホテル・シュタット・ベルリン 3507号室」〔35階の部屋?〕(3枚目の写真)。母が、「私たち、アメリカ大使館に入って行けるの?」と問題提起をする。フランクは、「図書館があるから、出入り自由だよ」と、何も知らないまま、いい加減なことを言う。父は、それほど甘くはなく、書いた紙をタバコの箱の中に入れ、「誰とも話さない。この箱を渡すだけだ」と言う。母:「なぜ、直接 電話しないの?」。父:「盗聴される」。母:「箱を渡せば、アメリカ人は来てくれるの?」。「ああ」〔楽天的というか、無知と言うか…〕

一家4人は、ノイシュテッティシャ・キルヒ通りの大使館前の一角に入る。入口には警官のボックスがあり、パトカーも停まっている(1枚目の写真、4人の背後にあるのが警官のボックス)。通りを歩いている人はほとんどいない。父もバカではないので、大使館とは反対側の歩道を歩いているが、物々しさはひしひしと感じる。ちょうど大使館から出てきた人がいて、警官に呼び止められて身分証をチェックされている。それを見た父は、大使館の中には絶対入れないと悟る。大使館の正面の向かい側に停まった自動車からは、シュタージが、先程の男の写真を望遠カメラで撮影している。街区の出口にある警官のボックスに近づいた時、父が一芝居打つ。わざと道に迷った風を装い、大きな声で、「道に迷っちまった」と言って、手に持った地図を見る。その時、角を曲がって男女2人が笑って話しながら街区に入って来る。フランクは、「タバコの箱を」と言って父からメモ入りの箱をもらうと、「注意を逸らして」と言って、道の反対側に渡る。父は、ボックスをノックして「すみません」と声をかけ、母が、「ペルガモン博物館〔850m東北東〕に行きたいのですが」と、道に迷ったお上りさんを装う。一方、道を渡ったフランクは、アベックが近づいてくると、靴紐を結ぶ振りをしてしゃがみ込み(2枚目の写真)、すれ違いざま、女性が肩から掛けたバッグの中にタバコの箱を押し入れる。女性は当然気付くが、盗まれたわけではないので、そのまま男性と一緒に大使館に入って行く。フィッチャーは、兄の大成功をニコニコして見ていて(3枚目の写真)、父に「いくぞ」と腕を引っ張られる。その頃、ペスネックの町では、食料品を買うため長い列に並んだグンターの妻ペトラが、バルーンでの国境脱出失敗が話題になっていることを知り愕然とする〔約束通り、ピーターはグンターとの接触を一切絶っていた〕。家に戻ったペトラは、夜になり、夫に、「ピーターの家に行くべき?」と尋ねる〔ベルリンに行っていることも知らない〕。グンターは、「『接触を絶つ』という約束だ」と拒否し、「行かせるべきじゃなかった」と悔やむ。

ピーターは、その日の残りの時間を、ホテルのベッドに横になり、連絡を心待ちにして無為に過ごしている。母とフィッチャーは、その前のテーブルでチェッカーで遊んでいる(1枚目の写真)。アメリカ大使館から掛かってくるハズの電話は、ちっともこない。ようやく掛かってきた電話は、ホテルのフロントから。「お渡しするものがあります」との内容。父が期待して降りて行くと、父が電話ボクッスに忘れた財布が戻ってきただけ。「運が良かったですな」と言って返却される(2枚目の写真、矢印は財布)。真夜中になり、窓の前に立ち尽くす父。絶望が襲う。こうなると、なぜあと数100メートル、バルーンを浮かせておけなかったかが悔やまれる。2度目の失敗に思わず泣き出した父を見て、フランクが電気スタンドを点ける。フィッチャー:「でも、飛んだじゃない」。フランク:「雲の湿気さえなければ、成功してた」。フィッチャーは、ベッドを出て父の横に座ると、決定的な一言を言う。「もう一つ、バルーンを作ろうよ」(3枚目の写真)。父は、バカにしたように笑う。フランク:「やれるよ」。「時間がない。あのバルーンに2年かかったんだぞ」。「だけど、作り方はもう分かった」。「グンターの助けがないと」。「なら、頼もうよ。あの人たちだって脱出したがってる。もっと大きなバルーンを作ればいいんだ」。

一家は、ベルリンで、さっそくバルーン用の布を買おうとする。店員は、「うちはテント用のナイロンは扱っていません。タフタ生地だけです〔恐らく、ナイロン・タフタ/密に平織で織った生地〕。いかほど必要ですか?」と訊く。父:「200メートル」。この異常に大きな数値は疑念を招く。「倉庫を見てきましょう」。母は、目の前にあるタフタだけで200メートル以上あることに気付き、店員の言葉に疑問を抱く。そして、店員を見ていると、ガラスで囲まれた事務室に入っていき、店長らしき男に何事か話すと、店長はこちらを見てどこかに電話をかけ始める。母は、父に、「出ましょ」と言い、強引に手を引っ張って店の外に連れ出すか〔解説で述べた実話(ザールフェルトの町での苦い体験)の変形〕。一家は、すぐに空色のヴァルトブルクに戻る(2枚目の写真)。父は車をすぐに出さず、「一体どうした?」と文句を言う。「彼女は、倉庫に電話したんじゃない。布なら店頭にあったわ。私たちが大量の布を買おうとしたから、どこかに知らせていたの」。フランクは、「これからは、10メートルか20メートルにしないと」と言うが、父は、「それじゃ、クリスマスまでに終わらないぞ」と反論。母は、フランクに加勢し、「分担すればいい。1人が20メートル買うなら、疑念を招かない」と提案する(3枚目の写真)。ザイダー中佐の元には、ベルリンで、ある家族が200メートルのタフタ生地を買おうとして突然姿を消した、と報告が入る。中佐は、一家がもう一度やろうとしているのだと考える。

ピーターは、グンター家を訪れる。ペトラにバルーンがちゃんと飛んだから、一緒に行こうと嬉しそうに話しかけるピーターの横に座っていたグンターは、「兵役がある」と言い出し、楽観気分を吹っ飛ばす。「いつから?」。「6週間後」〔実話でも、軍隊から健康診断の紙が来て、11月から徴兵が始まるところだったと書かれている/東独のNVA (国家人民軍)では、18歳から26歳までのほぼすべての男性(グンタ-は24歳)に対し、その期間中18ヶ月間の兵役が義務付けられていた〕。ピーターは、「俺たちはシュタージに追われている。早かれ遅かれ、捕まってしまう」と窮状を訴える(1枚目の写真)。グンターは、ペトラに、「万一の時は、僕なしで行くんだ」と言う。「あなたなしじゃ、行かないわ」。「でも、期限までに兵舎に現れないと逮捕される。君は、2人の子供と行くんだ。向こうでお母さんに会えるだろう」。「そんなの嫌よ」。グンターは、立ち上がると、「傘の布とテントのナイロンを使えば、軽くなる」と言って、新しい計算書を取り出す。その中に飛行機の簡単な設計図も混じっているのは、実話に合わせたもの。グンターは、新しいバルーンに対する計算値をピーターに見せる。ここは、実話と全く同じで、「新しいバルーンには4200立方メートルの大きさが必要だ。1300平方メートルの布が要る」と説明する。「この辺りの店は、多量の布を扱っていない。1度に7とか12とか15メートルしか買うな。切る必要がないから手間が省ける。送風機は回収しよう。もう一度使えるかもしれない」。ここで、ピーターとフランクが、池に捨てた送風機を池から回収するシーンが挿入される(2枚目の写真)。グンター:「バーナーを何とかしないと。ガスの圧力の問題の解決が必要だ。バスケットを新調する必要がある」。映像は、グンターの設計図に従って、ピーターとフランクがバスケットを組み立てる場面となる。この間、グンターはミシンでせっせとバルーンを縫う。ドリスとペトラは、紙に書かれた長いリストの町の店を順番に訪れて、少量の布を買う。だから、色はまちまち。ミシンは足踏みから電動に替わる。3枚目の写真は、ペトラが買ってきた布(矢印)をベッドの上に置いたところ。グンターは、ミシンと格闘中。バスケットが完成し、クララは床板の厚さが0.8ミリと薄いことにびっくりするが、実話では第一号のバルーンの時から厚さ0.8ミリのプラスチック被覆金属シート〔kunststoffbeschichtetes Blech〕だった。

フランクが、クララに誘われて凧揚げに行き、クララの方からキスをする。その後、フランクは父とバーナーの調整に森の中の空き地に行く。しかし、バーナーのバルブをどう調整しても、圧力が上がらず炎は小さなままだ(1枚目の写真)。フランク:「なぜ、圧力を上げられないの?」。「ボンベが凍るからだ」。「なら、温めたら?」。「ヒーターが付かん」。「他には思いつかないよ」。ここで、父が嫌味を言う。「他のことを考えてるからだ」。「それって、クララのことじゃないよね?」。「関係大有りだ。クララの親爺はシュタージのシンパだぞ!」。「クララは悪くない!」。「いいか、もうクララとは会うな。分かったか?」。憮然としたフランクが、プロパンガスのボンベから、ホースを外した時、引き抜いた時の力でボンベが倒れ、一瞬、逆さまになった時、ガスが漏れる音がする。それを見たフランクは、ボンベを逆さまにして接続することを提案する。ガスは、圧力が足りないと、ボンベの底で液化して凍ってしまう。そこで、ボンベを逆にし、液化したガスを底から出せば、圧力が増して炎が大きくなるというのがフランクの思い付きだ。早速実行すると、以前と比べ高い炎が上がる(2枚目の写真)。この成功に、父は大喜び。今までの不機嫌が吹き飛ぶ。その頃、家では、フィッチャーが母に、「もし、西独が気に入らなかったら、またここに戻って来れる?」と訊いている(3枚目の写真)。「絶対、気に入るわ」。「友達と、会えなくなる。お祖父ちゃんやお祖母ちゃんとも」。「みんな理解してくれるわ」。「さよならも言っちゃだめ?」。「何も知らない方がいいの。でないと、刑務所に入れられるわ」〔映画には登場しないが、ピーターの弟、妹、義弟の3人は逮捕され、何も関与していなかったのに、「脱出扶助」の罪で2年半の懲役刑に処せられた〕。そこに、ピーターとグンターがバルーンの布を持って入ってきて、地下室に運び入れる。グンターの家の隣人が、常時聞こえてくるミシンの音に好奇の質問を寄せたからだ〔ミシンの部屋は2階にあった〕。ここは、地下室なので、シュタージのシンパが向かいにいても、その心配はない。

別の日、クララが、「湖に行くけど、一緒に来ない?」と誘いに来る。フランクは、父に厳重に止められていたので、断腸の思いで断る。場面は、5歳になるピーター・ヴェッツェルが預けられている保育所に替わる。預けられている10人の子供たちが歌い終わると、真ん中に座った保育士の女性が、「次はリーナの番」と言う。「ママは郵便局で働いてる。わたしは、切手を集めてる」。「パパは?」。「パパも」。「パパも郵便局なの?」。「ううん。切手を集めてる」。「じゃあ、ピーターは?」。「パパのお仕事は?」。「裁縫屋さん〔Näher〕」。「救急車の運転じゃなかった?」。「それもしてる。でも、1日中ミシンの前に座ってる」(1枚目の写真)。「ほんとに?」。「うん」。「何を縫ってるの?」。緊迫した音が流れる。ピーターは肩をすくめると、「話しちゃいけないんだ」と答える(2枚目の写真)。「でも、何でもいいから話してよ」。その夜、ペトラは、ドリスに、「あと5日で、兵舎に行かないと。こんなの無理よ」と絶望した心を打ち明ける。ドリスは、「その前までにバルーンを仕上げればいい」と言うが、「でも、北風が吹かないと」と、この時期としては不可能に近い条件を悲しむ。「徴兵されてしまい、あの人なしで行くハメになるわ。そしたら、子供たちは、父親なしで大きくなるの」と泣き始める。そして、今日のことを打ち明ける。「今日、保育園で訊かれたの。両親の仕事は何かって。ピーターシェン〔ドリスの夫のピーターと区別するため、「小ピーター」といういみの “chen” をピーターの後に付けた〕ったら、パパは裁縫屋さんだって」(3枚目の写真)「彼には、キャンプ場のテントをいっぱい縫ってるって話しておいたの」。すると、くたくたになったグンターが地下室から上がってくる。ピーターは、「この男は、ミシンそのものだ」と健闘を称える。そして、ペトラと一緒に帰る時、なぜ夜遅くまでいたかシュタージ野郎に疑われるといけないので、酒に酔った振りをして、大声を奇声をあげるよう4人で打ち合わせる。

中佐を中心としたシュタージの調査の状況がまとめて示される。最初は、バルーンの出発前、深夜の道路で呼び止めようとしたトラックの運転手に対する取り調べ。「バルーンについては、何も知りません! 何度言わせるんです?」。「トラックが壊れたんだな?」。「はい、エンジンがイカれちまって」。「で、真夜中に、そこで立ってたんだな? 何時頃だ?」(1枚目の写真)。「11時ちょい前」。「車は何台も通ったのか?」。「1台だけです」。「トレーラー付きだな?」。「トレーラー付きです」。「どんな車だった?」。「真っ暗だったんで…」。尋問の場面はここで終わり、中佐と部下の会話の中で、車種はヴァルトブルク〔東独製はそれしかないので参考にならない〕、乗っていたのは男と女と子供2人、ということが分かっただけ。ただし、4人の構成は、ベルリンの店で大量の布地を買おうとして逃げた家族と同じだと確認された。その後のシーンで、ペトラが見ている新聞の記事は、グンター・ヴェッツェルのサイトにあった右の写真と極めて良く似ている。グンターは、「動転するな。どこにでもあるものばかりだ」と安心させるが、ドリスは、こんな風に改造した気圧計はないわ」と心配を煽る。「作業はできるだけ急いでいる。布が足りないだけだ。いつ手に入る」。ピーター:「今日中に何とかする」。「じゃあ、明日までに完了する」。次が、ある布地屋のシーン。シュタージに車を見せられた女店主は(2枚目の写真、矢印は車の写真)、車種がヴァルトブルクだと確認する。そして、ナンバープレートにゲラ(Gera)〔ペスネックの北約40キロ〕地区の表示があったことも告げる。さらに決定打は、犯罪科学捜査部からの報告。ガスボンベのナンバーは削り取られていたが、表面が溶けて変形したラベルを解析し、「LPG配給/ELG金属加工 ペスネック」という文字を読み取ったこと(3枚目の写真、上が変形したラベル)。係官が、ペスネックの位置を地図上に長いビンで打ち込むと、それは予想範囲の台形のちょうど真上、まさにぴったりの位置にあった(4枚目の写真、矢印は長いピン)。中佐は、的をペスネックに絞り、徹底的な調査を命じる。

薬局での調査は部下に任せ、中佐は、子供から何か訊き出せないかと保育所に向かう。保育士に、「最悪のことが起きるのを予防するための質問だ」と前置きし、「自分の家で何か変なことが起きていると言った子はいなかったか?」と尋ねる。「どういうことです?」。「例えば、両親が機械いじりを始めたとか、縫物をしているとか」。その時、床をおもちゃのボールが転がってきて、中佐が足で止める。そのボールを取りに近づいてきたのが、何と、この前の発表で父のことを「裁縫屋さん」と言ったピーター。観客をハラハラさせる一瞬だ。「君の名前は?」と中佐に訊かれ、保育士を見たピーター(1枚目の写真)。「ピーター」。「家族の名は?」。保育士は、ボールを渡して向こうに行かせる。そして、ピーターが母に教えられた通りに答えたであろう「キャンプ場のテント」という言葉を信じ、大佐には、該当者は誰もいないと答える。次いで、中佐は町一番の薬局に行く。部下が待っていて、「6人が甲状腺治療を受けているそうです」と報告する。中佐は、親類などで薬を分け合っているであろう人数を薬剤師に直接質問し、よくは分からないが恐らく200人程度と教えられる(2枚目の写真)。部下は、薬剤師から渡されるカード順に1人ずつ車で見分に行き、それが終わると、また薬局に戻ってきて次のカードを受け取るという効率の悪い方法で調査する。ちょうどその場に居合わせたエリックも、自分の町で大変な不祥事が起きていると知らされる。一方、ピーターは時間になったのでラジオで天気予報を聞く。「バイエルン地方を突如襲った寒冷前線により、今週いっぱい時速30キロ〔風速8メートル〕程度の北風が続くでしょう」。ピーターは、「北風だ!」と喜び、地下でミシンを動かしているグンターに知らせに走る。「グンター! 始まったぞ! 北風だ!」(3枚目の写真)。

その後、フランクは思い切った行動に出る。雨の中、クララに会いに行き、「もし、西独に脱出できるんだったら、僕と一緒に行くかい?」と訊いたのだ。「いったい何のこと?」。「君の席はあるんだ。すぐに決めてよ」。こんなことをいきなり訊かれて、誰でも答えられるハズがない。それが本当の話なら、簡単には決められないだろうし、悪質なワナかもしれない。そこに、クララの父のエリックが車で帰ってくる。玄関で2人は出会う。クララ:「どうかしたの?」。エリック:「雨カッパを取りにきた」。「薬局に行くの?」。「そうだ」。「頭痛薬、買ってきて」。「分かった」。フランクは、車に乗ろうとするエリックを見る(1枚目の写真)。そして、クララに、「お父さん、薬局で何してるの?」と訊く。「誰かを捜してる」。この言葉で、フランクは母が甲状腺の薬をバルーンの落下地点で落としたことを思い出す。そして、すぐに家に戻ると、「シュタージが薬局で誰かを捜してる」と緊急報告する。父:「なぜ分かった?」。「クララから」。「会うなといったじゃ…」。ドリスは、このバカな問責を遮り、「奴ら、処方箋を調べてる」と核心をつく(2枚目の写真)。ちょうど、その場にいたグンターは、「明日まで待てないな」と言う。ドリス:「今晩まで待てる?」。「誰かがペトラに伝えないと」。フランク:「僕が行くよ」。父は、フランクの代わりに、トレーラーの準備をフィッチャーに手伝わせる(3枚目の写真)。

グンターは、何とか夕方まで仕上げようと、ミシンの前で奮闘している。そこに、フィッチャーと一緒に降りてきたピーターが、「風が強くなってきた。それだけ早く脱出できる」と嬉しそうに教える。一方、縫合では大きなが起きていた。それぞれの布の長さが微妙に違い、末端(バルーンの頂部)で閉合できなくなったのだ(1枚目の写真、矢印は、分かりにくいが “一種の穴”)。それを見たフィッチャーは、「大きな穴だね」と驚く(2枚目の写真)。グンターは、「上からこの布で覆う」、と言って赤い布を見せる(3枚目の写真)。

薬剤師から、最後の名前が部下に渡される。部下A:「もう、これで最後です」。部下B→A:「生地屋の婆さんが間違ってたのかも」。A:「それとも、どこか他の場所で薬を入手していたとか」。中佐は、「何か、見逃していたのかもな」と言いつつ、名前を書いた紙を手に取って見る。そこには、「ドリス・シュトレイツェク」と書かれてあった。その名前を聞いたエリックは、「シュトレイツェク? そりゃ、お向かいさんだ」と驚く。中佐は、「車はあるのか?」と訊く。「空色のヴァルトブルクです」。「職業は?」。「電気技師。発明家です」。その言葉にピンときた中佐は、部下とともに車に乗り込む。そして、エリックに先導させ、その後について行く。シュトレイツェク家の前には、シュタージの車やパトカーも合わせ、5-6台の車が集結する(2枚目の写真)。中佐は玄関のベルを鳴らし、応答がないと分かると、すぐに部下に命じて鍵を開けさせる。中に踏み込んだ部下は、一番怪しい地下室に駆け下りて行く。そして、1階を調べていた中佐を大声で呼ぶ。地下室にはミシンがあり、布の切れ端も残っていた(家族は誰もいない)。ここでバルーンが作られていたことは明らかだ。中佐は、向かいに住んでいながら、何も気づかなかったエリックを睨みつける。「息子のフランクとは、午後に会ったばかりです。最近、男と、その奥さんも… よく来てたみたいです…」と、しどろもどろ。中佐は、「その男に名前はあるのか?」と、冷たく訊く。「グンター・ヴェッツェル」です。中佐は、部下に、「しらみつぶしの調査だ〔Großfahndung〕。トレーラーを牽いた空色のヴァルトブルク。道路を封鎖し、ヴェッツェルを捕まえろ。国境守備隊に警戒警報だ。ヘリを呼べ」と立て続けに命令を発する(3枚目の写真)。

一方、仕上がったバルーンをトレーラーに乗せたシュトレイツェク一家とグンターは、そのままヴェッツェル家に行く。予めフランクが準備を告げに行ったにもかかわらず、ヴェッツェル家では準備がなかなか整わず、ピーターはイライラする。ようやく玄関のドアが開き、グンターがペトラと子供たちを連れて出てくる。ピーターの車には全員が乗れないので、車にはピーター、2人の女性と、小さな子供3人が乗り、グンターのバイクには、グンターとフランクが乗る(1枚目の写真、後ろがバイク、先に行くのがトレーラーを牽いた車)。グンターは、「寄るところがある」と言い、すぐに分かれる。ピーターの車が角を曲がろうとすると、その先にパトカーが停まって検問をしている(2枚目の写真、矢印は警官)〔こうした切羽詰まった状況は、映画だけで、実話ではない〕。もちろん、曲がらずに直進する。一方、グンターは、二度と会えない父母の姿を一目見ようとする(3枚目の写真、窓からチラと見るだけ)。その後、グンターたちの乗ったチエコスロバキア製のヤワ〔Java〕というメーカーのモペットは、離陸地まで、実走行距離で33キロもある山道に耐えられず、“加熱するとピストンが詰まる” というトラブルを起こし、時々、2人で走りながら押して冷やしながら、集合点まで何とか辿り着く〔実話と同じ〕

先に離陸地まで到着したピーターたちは、バーナーとガスボンベ乗せたバスケットをトレーラーから降ろすと、バルーンを積んだトレーラーをゆっくりと前に出し、バルーンを細長い筒状に拡げていく(1枚目の写真)。そして、トレーラーに残ったバルーンの先端部を草原に置くと、車を邪魔にならないよう少し前に出す。ここで、グンターとフランクが到着する。大人たち全員でバスケットに行くと、バーナーに火を点け、送風機で熱風をバルーンの中に送り込む。バルーンは徐々に膨らんでいく(2枚目の写真)。2人の女性が縁を支えて閉じないようにし、ピーターがバーナーを持っている3枚目の写真が、とてもカラフルで美しい(3枚目の写真)。

バルーンが垂直になると、車の中に残しておいたペトラの2人の幼い子供が連れて来られる。5歳の小ピーターはバスケットの角に立ち(1枚目の写真)、2歳のアンドレアスはクララが抱いて乗る。フィッチャーは、如何にも先輩らしく、「これは熱気球なんだ。怖くなんかないぞ」と小ピーターに教える(2枚目の写真)。全員が乗り込んだところで、初めて全景が映る(3枚目の写真)。

グンターとフランクが、対向する2本のロープを切り、次に、残ったロープを切ろうとした時、事故が起きる。グンターはロープを切ったのに、フランクの側のロープがナイフのせいか、切り方が悪かったのか、切れなかったのだ。お陰で、バルーンは、1本のロープで固定された形となり、斜めに傾く。フランクは切るのをあきらめ、ロープを係留している鉄棒を力まかせに抜く。この結果、①鉄棒がフランクの顔面に当たってけがをさせただけでなく、②バルーンが斜めになったのでバーナーの火がバルーンの最下部の生地に着火し、危うく大事に至るところだった(消火器で消し止めた)〔実話と同じ〕。バルーンの、もう1つの欠陥も露呈した。それは、バルーンの頂部が、“熱で膨らんだバルーンの圧力の集約点” となったため、開いた穴を塞ぐために最後に縫い付けた赤い布が、ちぎれてしまい、穴が開いたままになってしまったこと(1枚目の写真、矢印)。そのため、そこから熱せられた空気が逃げてしまい、バーナーを連続して点けていなくてならなくなった〔実話と同じ/映画では触れられていないが、「この穴にも関わらず、バルーンの高度はどんどん上がり、高度2000メートルに達した。上空では、期待していたように時速50キロ(風速14メートル)の風が先へと進ませてくれた」と書かれている〕。一方、中佐の乗ったヘリでは、乗務員がバルーンの光を発見する(2枚目の写真、指の先の矢印の先の点がバルーン)。そのバルーンでは、バーナーが間欠的に消えるようになった(3枚目の写真、前もそれで失敗したので、心配そうな2人)。グンターは、「燃料が凍結したんだ」と言う〔外気温はマイナス8度〕。バーナーは何度か炎を出すが、すぐに消え、不安定な加熱のため気球の高度が下がり始める。

ピーターは、カセット式のガスバーナーに火を点け、それでバーナーをあぶり、グンターがガスボンベをガタガタ揺らす(1枚目の写真、矢印はガスバーナーの火)。それで、しばらくは火が点いたものの弱々しく(2枚目の写真)、遂に完全に消えてしまう。中佐のヘリもバルーンを見失う。乗組員は燃料切れを示唆、中佐は、大量動員で落下するであろうバルーンの捜索を命じる。計8人を乗せたバルーンは、急速に降下し、森がどんどん近づいてくる。そして、森の木々にぶつかる(3枚目の写真)。

地面に落ちた時にバスケットから投げ出されたグンターは、ふくらはぎの肉離れを起こす。それ以外の7人は、バスケットの中に留まり、けがをせずに済んだ(1枚目の写真、矢印はグンター。その右上がバスケット、その先にバルーンの残骸が伸びている)。グンターを助けに行ったピーターに、ドリスが、「越えたの?」と尋ねる。ピーターは、フランクに「何分飛んだ?」と訊く。「28分」〔実話では約30分〕(2枚目の写真、左がフランク、右がフィッチャー)。これだけでは、成功したのか失敗したのか判断できない。一方、東ドイツの国境地帯の森では、犬を連れた兵士が大勢で捜索を始めていた(3枚目の写真)。

ピーターとグンターは、コンパスで南の方角に向かう。すぐに、未舗装の道に出る。しかも、向こうからジープが走ってくる。2人は道路の真ん中に立って、ジープを停める(1枚目の写真)。降りてきた警官が、「そこで何してる?」と訊く。ピーターが、「ここは、西〔Westen〕ですか?」と訊くと、相手は、「いいや、オーバーフランケン〔Oberfranken〕だ」と答える〔オーバーフランケンは、西ドイツの行政区〕。それを聞いた2人は、「やった!」「西にいる!」と抱き合って喜ぶ(2枚目の写真)。グンターは照明弾を打ち上げ、残る6人にこっちにくるよう合図するが、その位置を遠くからみた中佐は、逃げられたと分かりがっかりする。そのあと、母親と子供たちが抱き合って喜ぶ姿が映る(3枚目の写真)。この短いシーンの後、映画は一気に10年後に飛ぶ。ピーターとドリスが嬉しそうにTVを見ている。内容は、日本人が想像するようなホーネッカーの退陣(1989年10月18日)でもベルリンの壁崩壊(同11月9日)でもなく、9月30日に起きたこと。西ドイツのゲンシャー外相が、チェコスロバキアのプラハの西ドイツ大使館のバルコニーで、4000人の東独市民を前に行ったスピーチ。「同胞の皆さん。私たちは、皆さんのドイツ連邦共和国(西独)への出発が今日可能になったと お知らせするために来ました」。このスピーチの背景には、8月19日ハンガリー・オーストリア国境が非公式に開放されたことがある〔東独→チェコ→ハンガリー→オーストリア→西独というルート〕。映画は、ベルリンの壁が崩壊した翌日、グンターが、東独の両親に会いに行こうと、ペトラと一緒にセスナに乗って飛び立つところで終わる。

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