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Cápsulas ヘロインカプセル

グアテマラ映画 (2011)

グアテマラ唯一の「子役」が主人公になった映画。唯一ということで紹介することに決めたが、映画としての出来は今一歩〔受賞歴ゼロ。IMDBは6.8〕。ただ、如何にもと言うとグアテマラには失礼かもしれないが、麻薬と銃が横行する社会が「子供」の映画でも描かれていることは衝撃的だ。現在、外務省の海外安全情報(危険情報)では、レベル1。つまり、大した危険性はないということだが、「青少年凶悪犯罪集団マラスによる麻薬関連犯罪/首都グアテマラ市を中心に殺人事件等凶悪犯罪が頻発」と書いてある。この映画にはマラスは出てこないが、主人公フォンシの義父はヘロインを密売しているし、フォンシの乳母代わりだった家政婦ヤヤの子供たちは大麻に溺れ拳銃を振りかざすミニ・ギャングだ。これが2011年の「現代」とは信じ難い。そして、そら恐ろしくもある。映画は、①自作ビデオ作りが趣味と実益を兼ねているフォンシが、ヤヤの長男のトトに参加を求めて撮影中に、突発事態からトトが人を撲殺、それをフォンシが撮影してしまったこと、②抗争に破れた義父が一家3人でアメリカに逃げようとする時、妻ルペとフォンシにヘロインカプセルを飲ませて「運び屋」に仕立てたこと、③フォンシのアメリカ行きのパスポートを発効させるため、実の父親のサインが必要となったこと、の3者が入り乱れて進行する。①で、殺人罪に問われることを恐れたトトは、ビデオを確保しようとする。③で、5年以上も音信不通だった実父のジャコは、フォンシを見て、「自分を見直してもらおう」と勝手に決める。そして、②で、アメリカに飛ぶはずだったフォンシは、ジャコによって空港から「拉致」され、トトもフォンシを追うためルペを「拉致」して後を追う。最後には、アメリカで排出するはずだったヘロインカプセルが、フォンシとルペを苦しめる。ストーリーは、展開に無理があるかもしれないが、縦横に溢れる「グアテマラらしさ」は、他では味わえない特徴になっている。一例をあげれば、フォンシの実父のジャコが傾倒するマヤ文明に基づく「自然と共生する生き方」。最後に、時折、「グァテマラ」という表記を見かけるが、スペイン語での発音は、「グァ」でなく「グア」が正しい。

フォンシは、首都グアテマラシティのインターナショナル・スクールに通っている。帰校時には、保安上、運転手付きの頑丈な車が一斉に並ぶ特権階級のための学校だ。フォンシの毎日は、趣味のビデオ撮影に追われている。級友に戦闘シーンを演じさせ、その映像をパソコンで処理し、特殊効果を加えて級友に売って稼ぐ。その目的は、大嫌いな義父(「ママのボーイフレンド」)と母ルペを引き離し、本当の父を捜すため。しかし、母は、息子の「想い」を全く相手にしない。父は、「クズ」で、勝手に出て行ったと言って。フォンシは、幼い頃から、家政婦のヤヤの家に出入りして、同年のピコと親しかったが、その姉や兄が大きくなって不良化していた。それでも、フォンシは、より迫力のある戦闘シーンを撮影したくて、兄のトトに出演を頼み、早朝、学校の運動場の一角で級友を交えて撮影を開始する。ところが、それが学校のガードマンに見つかり、トトとピコは不法侵入者として扱われ、怒ったトトがガードマンをバットで叩いて殺してしまう。最悪だったのは、そのシーンをフォンシが撮影していたこと。トトは、それが公表されたら、自分が殺人罪になると恐れる。一方、フォンシの義父は、敵対するグループから家族もろとも抹殺すると予告され、アメリカへの脱出を決める。しかし、手持ちの現金は少なく、ヘロインをカプセルに詰めて妻ルペに運ばせることに。義父は、ルペとフォンシが極貧の生活を送っていた時に助けてやり、その見返りに、ルペには運び屋をさせていた過去があった。今度は、大きくなったから、フォンシにも運び屋をさせると2人に通告する。母ルペは大反対するが、フォンシは母を助けようと、内緒でカプセルを飲む。また、フォンシのパスポートには、実父のサインがないと効力がないことが分かり、急きょ、父のジャコが捜し出されて連れて来られる。彼は、ヒッピーのような暮らしをしていた。大きくなったフォンシに初めて会ったジャコは、息子に、「あんたはサイテーだ」と言われ、息子の考え方を変えようと決心する。アメリカに発つべく、空港に行った義父とルペとフォンシ。最初にさらわれたのはフォンシ。さらったのはジャコ。森の中にある小屋に連れて行き、1日だけ一緒に過そうとする。次にさらわれたのはルペ。さらったのはトトとその「もっと悪い」姉のネナ。一行はジャコの後を追って森へと入って行く。ジャコが余分なことさえしなければ、3人はアメリカに入国できていただろうから、すべては、ジャコの、「息子に良く思われたい」という自己中心的な発想が生んだ「不測の事態」だ。そして、2人がヘロインカプセルを飲んでいたことから、「不測の事態」は「惨事」へと発展する。

フォンシを演じるセバスチャン・ヘレダ(Sebastián Gereda)に関する情報は皆無。正直言って、演技が巧いとはとても言えない。


あらすじ

映画の冒頭、タイトルが表示される前に、布に包まれた重量物が板にくくりつけられ、森の中を父子と思われる2人によって斜面を下っていく様子が短く映される(写真)。その意味は、最後になってようやく判明する。
  

本編は、いきなり、「飛べ! 伏せろ!」と声がし、「カット!」。ここで、ビデオのファインダー映像となり、地面に置かれたカメラから、撮影者のフォンシが戦闘グループの少年たちの中に出て行って、「動きが遅すぎる。リッチーはもっと早い。君はもっと高くから」と何人かに矢継ぎ早やに命令する(1枚目の写真、矢印はフォンシ)。その後も、撮影シーンや、自宅に帰ってコンピュータでそれを編集・加工するシーンが、細かなカットの切り替えで表現される。フォンシは、ノートパソコンを学校のロッカールームのような場所に持ち込み、他の生徒に仕上がった映像を見せている。フォンシは、隣の子から、お金をもらっている(2枚目の写真、矢印はお金)。フォンシは、監督のように撮影・編集し、加工してリアルにした映像を生徒たちに売ってお金を稼いでいる。加工の特徴は、撃たれた「俳優」役の少年の顔に血しぶきをつけること。爆発のシーンの合成もある。フォンシは、他の生徒にも、「ビデオ、欲しいのか欲しくないのか?」と迫る。「高すぎる」。別な子が、「200でどうだ?」と訊く〔グアテマラの通貨はケツァル、撮影時のレートで、200ケツァル≒2070円。2010年の1人当たりのGDPは、グアテマラは日本の15分の1。そういう意味では200ケツァルは高額だ〕。フォンシは、「300」と答える。
  
  

学校が終わり、生徒たちが出てくると、そこにはSUV車がずらりと並んでいる。正面には「ウィンザー(Windsor)インターナショナル・スクール」の表示も。ここは首都グアテマラシティの金持ちの子供が集まってくる学校なのだ。だから、フォンシは高価なビデオ資材を持っているし、高いビデオでも売れる。フォンシも、護衛兼運転手のカルロスと、家政婦のヤヤの2人が迎えに来ている(1枚目の写真)。車のことは良く知らないが、トヨタのランドクルーザー・プラドに似ている。車の中で、家政婦が護衛に、「もう家に住めなくなりそう」と話している。ヤヤは住み込みではなく、貧民街に自分の家がある。最近は、娘のネナが悪に染まり、住み辛くなっている。雇い主のルペから、息子のフォンシを連れて行くなとも言われている。しかし、フォンシは、「ヤヤ、これから君の家に行くんだよね? ピコの宿題を助けてやらないと」と訊く(2枚目の写真)。ルペ以上にフォンシの世話をしてきたヤヤは、甘く、「はい。でもまず、ママのお店ですよ」とOKを出す。詳しい説明はないが、恐らくフォンシは、昔ヤヤの家に行った時、同年代のピコと親しくなったのであろう。
  
  

画面はいきなり、麻薬の密輸の現場に変わる。白い粉を計測し(1枚目の写真)、人形の中に詰めたり、ピメントの中に詰めたり(2枚目の写真)、花束や、果ては、死体をくり抜いて詰めようとする(3枚目の写真、矢印)。前者の人形やピメントは、箱詰めにされ、大量に運ばれて行く。日本では想像もつかない恐ろしい現実だ。
  
  
  

母の店に寄ったフォンシは、ヤヤの家に向かう。映像で見ていても、周辺の環境がどんどんと悪くなる。ヤヤの家の前で車を降りたフォンシはビデオカメラを離さず、どんな物でも撮影する。そこに、ピコが出てくる。「ビデオで稼げたか?」。「まだ足りない。もっと稼がないと」。「じゃあ、もっとビデオ撮らないとな」。「もし、見つけられなかったら?」。「心配すんな。君の父さんの手がかり 見つけたぞ」。そう言って、ピコが紙切れを渡す。説明は全くないが、フォンシがお金を貯めているのは、母を連れて家を出て自分の本当の父親に会いに行くためのようだ〔父は何年も前に家を出て行って音沙汰がない〕。フォンシ:「ヤヤは、もう何年もパパを見てないって」。ピコは、「希望を持たなくっちゃ」と慰める。「少なくとも、こんなの抱えなくていい」(1枚目の写真)。「こんなの」とは、2人の目の前で、麻薬漬けになり横たわっているピコの父〔ヤヤの夫〕。2人は家の中に入って行く。そこには、ピコの兄トトがいる。ピコは、「遠くまで行くのにお金が要るんだ」と話しかけ、フォンシが「助けてよ、分け前は払うから」と続ける。ピコの弟が、トトの腕にタトゥーを入れている。グアテマラの有名な青少年凶悪犯罪集団「マラス」は全身にタトゥーをしているので、トトはまだ「マラス」ではない。ただのチンピラだ。フォンシは、それもビデオに撮る。ピコの弟はそれを見て、「フォンシはスケボーとバイクを持ってるが、ぼくらにゃネラがついてるぞ」と、ラップのようにリズムをつけて話す。フォンシは、「金持ちのどこが悪い? 頭からっぽのロクデナシのために働かなくていいぞ」と返し(2枚目の写真、矢印はビデオ)、トトが、「お前は母ちゃんトコに逃げ帰れ、女の子みたいに甘やかしてくれるぞ」と返す。フォンシは最後にもう一度、「君らは、僕らが違ってると思ってる、だけど、父さんがいないのはそっくりだ」。その役立たずの父の前に、ヤヤが現れる。その時、ネラが帰ってくる。ネラは、母であるヤヤに向かい、「ごらん。あんたのために飼い慣らしてやったよ」とダメ親爺を指す。「頼んでないわ」。「今や、あたいが、家長なんだよ。とっとと給料を渡しな」。恐ろしい娘だ。家の中では、フォンシのビデオを見たトトが、「お前の金持ちのガキどもが、インクでタトゥーしてるじゃねえか」と冷やかす。「やめろ。これは僕の商売なんだ」。「商売? いいだろ、お前を助けてやる。しこたま寄こせよ」。これは、トトが「悪漢」として、フォンシのビデオに出演することを意味している。明日、朝6時に学校での撮影が決まる。そこに、ヤヤを「二度と顔を見せるな」と言って追い払ったネラが入ってくる。そして、紙巻き大麻に火を点けると、フォンシに吸わせようとするが、彼が断ると、「負け犬」と蔑む。明日の撮影のことを耳に挟むと、「なんで金が要るんだい? 何でも持ってるじゃないか」と言うと、紙巻き大麻の入った袋を渡し、「これを、金持ちの友達に売りゃあ、もっと金になるよ」と押し付ける。フォンシは投げ返す。ネラは、フォンシの胸ぐらをつかむと、「お聞き、このクソガキ、あたいらの一味になる気がないんなら、二度と来るんじゃない」と言って(3枚目の写真)、バッグの中に無理矢理 袋を突っ込む。
  
  
  

フォンシの家では、大変なことが起きていた。母ルペの夫、フォンシの義父のシモンがパソコンをつけると、動画付きのメールが届いていた。「俺たちをハメたと思ったら大間違いだ。貴様と家族の最後を見るがいい」。そして、男が刀で首を切られるビデオが流れる(1枚目の写真、矢印は刀)。このことから、フォンシの母ルペの再婚相手は、極めてヤクザな仕事をしていることが分かる。それ故の贅沢な生活だった。身の危険を悟ったシモンは、金庫を開けると札束とヘロインの包みを取り出す(2枚目の写真、矢印はヘロイン)。シモンは妻子と共にヘロインを隠し持ってアメリカに逃げるつもりだ。
  
  

その夜、フォンシがビデオの編集をしていると、母が、部屋に入って来て、いきなり、「坊や」と言って頭を抱いてキスする。フォンシはヘッドホンをして作業をしていたので、母が入って来たことに気付かなかった。そこで、「今度から、鍵をかけるよ」と怒る。母からは、逆に、「ヤヤの家に行くのは、禁止よ。あそこの連中は、もう無邪気な子供じゃない」と叱られる。「おしゃべりしてるだけだよ」。「二度と行っちゃダメ」。さらに、「こんな暴力的で下らないビデオ売ってるの?」とも。「僕は、お金を貯めて、母さんをここから出すんだ」。「どこに連れてくの? ここで、幸せなのに」。「僕、ママのことが恥ずかしい」(1枚目の写真)。フォンシは義父の「汚い仕事」や「そのお陰の贅沢な暮らし」のことに気付いていたのだろうか? 母には後ろめたい思いがあり、その反動からフォンシの頬を叩く。「そんな言い方、二度とするんじゃないの!」。部屋を出た母は、美術品を磨いているヤヤに、「なぜ、フォンシを家に連れてったの? 禁じたでしょ。あんたの子は、みんな大きくなった」と文句を言うが、ヤヤは何も答えない。シモンの怒鳴り声が聞こえたので、そこを離れて寝室に向かう。シモンが怒鳴ったのは、夕食のスープが遅いから。ルペが、フォンシの希望でタマル〔トウモロコシで作る伝統食。トルティーヤは焼くが、タマルは蒸す〕に代わったと返事をすると、「甘やかし過ぎだ」と批判する。「あの年には、俺はもう働いてた。街に出てって鍛えられんといかん。奴が、俺たちを助ける番だと思わんか?」(2枚目の写真)。母は、「あの子のことを決めるのは、あんたじゃない」と庇うが雲行きは怪しい。その頃、フォンシは、父が残していったインディオ風のネックレスを首にかけると、「やあ、息子よ」と父になった真似をする。彼は、父のことが好きなのだ。ただ、覚えているのは、うんと小さい頃、父に連れて行ってもらった海で溺れそうになるシーン(夢で見る)。翌朝、フォンシがまだベッドで寝ていると、母が部屋に入って来てキスをして起こす〔朝6時の撮影と言っていたので、それよりも相当早い時間となる〕。「フォンシ起きて」。「なぜ、こんなに早く?」。「学校に行く前に、スーツケースに荷物を詰めてちょうだい。緊急事態なの」。「また? この前と同じじゃない。行きたくないよ」。「約束する、失うものは何もないの」。「ママのボーイフレンドの物なんか欲しくない」。「私と彼の物よ。ママも一緒に働いてるから」。フォンシは、「僕とママの2人だけだった時は、ママが泣いたことなかった」と言い、さらに、「僕がパパを見つけ出したら…」と始めると、母は強い調子で止めさせる。「言ったでしょ、あの男はクズだって。捜すのは止めなさい。彼は私たちを捨てたの。あなたのことを知ろうともしなかった。彼のことは忘れて! 言われた通りに荷造りなさい!」(3枚目の写真)。こうして、フォンシは、学校から帰り次第、アメリカに向かって発つことになる。
  
  
  

フォンシが早朝学校のテニスコートに行くと、級友4人とトトとパコが揃っていた。お互いが初対面だ。挨拶して2つのチームに分かれる。用意された機関銃のおもちゃを構えて撮影しようとするが、ピコが弾倉を落としてしまい(1枚目の写真、矢印はフォンシが構えたビデオ)、「カット」。ここで、映画は一旦別のシーンに移行する〔後述〕。再開された撮影シーンでは、トトがおもちゃの銃など使わず、荒っぽく生徒たちを足蹴にしている。その時、「そこで、何やってる!」という大人の声が入る。学校のガードマンだ。「そこの2人、どうやって入り込んだ? 誰が入れた?」(2枚目の写真、矢印は心配そうなフォンシ)。生徒たちは制服を着ていて、2人はいつものシャツ姿なのですぐに区別がつく。ガードマンがトトの腕を取って「誰が入れた?」と問い詰め、フォンシには「クラスに行ってろ、立ち去れ」と命じる。トトと警備員が1対1で争い、トトが地面に突き飛ばされる。警備員がピコを捕まえようと後ろを見せた隙に、トトは芝の上に転がっていたバットを拾うと、渾身の力でガードマンの頭を叩く。力のセーブを知らないハイティーンの一撃はガードマンの命を奪う。ピコ:「何やったんだ?!」。トト:「くそっ!」。2人とフォンシは、破れたフェンスから外に出て、バラバラに逃げる。木の下に隠れたフォンシは、先ほど撮ったビデオを確認する。そこには、トトがガードマンを殺すシーンが映っていた。それを見て、フォンシは頭を抱える(3枚目の写真)。
  
  
  

映画のこの部分は、2つの異なるシーンが平行して描かれているので、順不同で紹介する。先ずは、「早朝学校のテニスコート」のシーンの直前に、フォンシが出かけた後、自宅に機関銃が浴びせられる短いシーンが入る(1枚目の写真)。これで、一家が危機に瀕していることがはっきりする。もう一刻の猶予もならない。「早朝学校のテニスコート」のシーンPart 1の後は、再びフォンシの自宅に移行。そこでは、義父が部下で護衛のカルロスと話している。テーブルの上には、現金が積んである。「これじゃ足りん」。そして、置いてあった3人分のパスポートをチェックする。そして、いきなり立ち上がると、部屋に入って来ていた妻ルペに怒鳴る。「何やってるんだ、ルペ! このパスポートには、フォンシの父親の署名が要るじゃないか!」(2枚目の写真、矢印はフォンシのパスポート)。このあと2人は罵り合うが、その中で、ルペが「あんた、どこの馬の骨だったか忘れたの?」と言い、夫シモンが「お前こそ、この国に来た時は極貧だったじゃないか」と切り返すくだりがある。ということは、シモンはグアテマラの貧民窟から成り上がった「やくざ」で、ヘロインで財をなしたらしいことが分かる一方、ルペとフォンシは、エルサルバドルやホンジュラス、あるいはベリーズのような隣国から難民のようにやって来て、最初の夫ジャコとも貧しく暮らしていたらしいと推測できる。ルペは、フォンシには黙っていたが、ジャコがどこにいるか知っていたので、カルロスに旅券事務所に連れて来るよう命じる。次のシーンでは、髪も髭も伸び放題、半裸で暮らしているジャコの姿が紹介される。「早朝学校のテニスコート」のシーンPart 2の殺人事件の後は、カルロスが、教えられた住所に行く。住民の女性は、「あのキ印かい? あいつなら、この家を私らに売って、屋上で寝てるよ」と2階の屋上の派手なテントを指す。カルロスが上がって行くと、ちょうどジャコは全裸で太陽と風を満喫していた。隣の3階のベランダには、「汚いヒッピー」と書いた紙も貼ってある。周辺の嫌われ者だ。カルロスは、置いてあったバスタオルを取ると、「これを巻け、下衆野郎」と投げつける。「今すぐお前が要るんだ!」。カルロスは、ゆっくりと腰に巻くと、「攻撃的になるのはやめて、もっと安らかになって魂と同化するんだ」と、ヒッピー的に応える。「君のボスは、俺の息子の面倒を見てるか?」。「ましだ」。「俺より ましか?」。「急ぐんだな」(3枚目の写真)。
  
  
  

隠れていたフォンシは、カルロスからの携帯を受けて姿を現し、車に乗り込む。その車には、変なヒッピーが乗っていた。フォンシは、「この人、誰?」とカルロスに訊くが、返事はない。「どこに向かってるの?」。返事はない。「カルロス、どうなってるの?」。「こっちが知りたい。学校で何があったんだ?」。今度は、フォンシが口を閉ざす。フォンシは、「この人、何やったの?」ともう一度カルロスに訊く。「何もだ! この12年間、何もしてこなかった」。さらに、「見覚えがあるか、フォンシ? 君のパパだ」(1枚目の写真、横長なので中央でカット)。フォンシは、今まで手を尽くして父を捜してきた。しかし、いざ、当人が隣に座っているのに、フォンシの顔には一片の喜びもない。「父」が黙って何も言わないことに失望したのか? 尋常でない風体に失望したのか? 車を降りてからも、その失望は続く。フォンシがボンネット座って、「うんざりだ、その上、待たされて イライラする…」と、イヤホンで音楽を聴きながらラップ調で口ずさんでいると、「父」が目の前に来て、フォンシが口ずさんだことをくり返し、ニヤニヤしながら、「フォンシ、聞けよ、リズムだぞ」と笑いかける。これが、長い間、自分を無視してきた「父」? フォンシは、「あんたはサイテーだ」と吐き捨てる。これまで「偶像視」してきたので、失望は大きかった。そこに、シモンの車で母が到着する。「急げよ。空港に出かけるまで、あと1時間しかない」。母に会ったフォンシは、「あんなの僕のパパじゃない!」と嘆く(2枚目の写真)。「言ったでしょ」〔前回の発言:「言ったでしょ、あの男はクズだって」〕。そして、4人は、入国管理所に入っていく。ジャコが、ルペに、「何を焦ってる?」と訊く。「あんたに関係ない」。2人が口論している間に、フォンシにピコからメールが入る。「トトがカメラを欲しがってる」。「父」は、結局、書類にサインする(3枚目の写真、矢印)。「父」は、ルペに、「どこに行くんだ? フォンシともっと会っていたい。もう立ち直った。チャンスをくれ」と頼むが、追い払われる。
  
  
  

家に戻った3人が部屋にいると、そこにカルロスが箱を持って入ってくる。「終わったか?」。「はい」。そして、箱から、ヘロイン・カプセルの入ったポリ袋を取り出す(1枚目の写真、矢印はカプセル)。「終わった」というのは、ヘロインを小分けして、ラテックス製の硬くて小さなカプセルに機械封入する作業のことだった。コンドームのようなものに詰める安易な方法だと、漏れ出した場合に、人体に回復できないダメージを与えるために考案された手法だ。そこを見たルペは、「もう二度としないって言ったでしょ」と強い調子で言う。「これ、何なの? ヘロイン?」。それに対するシモンの返事は恐ろしいものだった。「落ち着けよ。大ピンチなんだ。他の手もあるぞ。その子にも少し飲ませりゃいい」。「何ですって! 気でも狂ったの? 絶対ダメ!」。「そろそろ大人になる時だ」。そう言うと、立ち上がってフォンシの頭に手を置く。「いつも ママを手伝いたいと言ってたな」(2枚目の写真)「お前の親爺には絶望したろ? 今こそ、ビジネスを覚える時だ」。そして、ルペには、「どうしても、これを運ばないといかんのだ」と話す。覚悟を決めたルペは、「分かった。私が全部運び、フォンシにはさせない」と言う。「ダメだ!」。「嫌よ!」。「落ち着け!」。「あの子にやらせたら、あんたを殺してやる。まだ準備ができてない。簡単じゃないのよ!」。「分かった、やらせん。いいな?」。そして、わめくルペと一緒に部屋から出て行く。カルロスと2人だけになったフォンシは、「僕やるよ」と声をかける。カルロスは、フォンシをイスに座らせ、ブドウの実を1つ取ると、それを2種類の液体に漬け、「まず、ブドウで練習だ」と言って渡す。カルロスは、顎を上げて飲み込めと仕草で示す。ブドウが終わると、次は、カプセル(親指の先ほどの大きさ)を また液体に漬け、フォンシに渡す。それを、フォンシはブドウの時と同じように上を向いて静かに飲み込む(3枚目の写真、矢印はカプセル)。フォンシが飲んだのは結局3個だけだった。部屋に戻った母は、カプセルが減っているようには見えないので、フォンシが飲まされたとは思わない。しかし、自分が飲まなくてはならないカプセルが山ほどあるので、溜息をつく。イギリスの科学技術系のタブロイド版ウエブサイト『The Inquirer』には、2013.4.14付けで、「麻薬を飲み込み、お尻に詰まる前に知っておくべきこと」という、皮肉たっぷりの記事があったので、一部を紹介する。「何個運べるか、それは誰にも分からない。一般には50-100個とされるが、200個(2.3キロ)以上を消化管に詰めて逮捕された者もいる」「麻薬のカプセルを飲み込んだ時、それがどのくらいの間体内に留められるかは、文字通り運び屋の腸の不屈の忍耐力によって決まる。通常は、1-2日だが、運び屋が自暴自棄になりさえすれば5日(拷問に等しい)にまで延長可能とされる」。フォンシとルペには、この後、思わぬ事態が待ち受けており、そのため、排出できないカプセルに苦しむことになる。4枚目の写真は、空港でのX線撮影で判明したヘロインカプセル。
  
  
  
  

屋上に戻ったヒッピーのジャコは、息子との出会いのことを考えていて、一念発起する。鏡の前に座ったジャコは、長く伸びた髭をハサミで切り(1枚目の写真)、ある程度短くなってからは、かみそりできれいに剃り上げる。そして、まともな服を着れば、もう別人だ(2枚目の写真)。そして、おんぼろジープに乗って、どこかに出かける。一方、ネナが仕切っている家では、ピコが、「僕が、フォンシからビデオをもらうよ」と言うが、トトは、「お前は奴そっくりだ」と信用せず、ネナは「フォンシはビデオを売るかもよ」と脅す。トトは「くそ、殺人で捕まっちまう!」と真っ青だ。ネナは「安心しな」と言うと、棚から拳銃を取り出してトトに渡す。2挺目はピコに渡すが(3枚目の写真、矢印は拳銃)、すぐに弟に奪われる。グアテマラは銃器の所持が認められている銃社会のため、こんなことが平気でまかり通る。
  
  
  

次のシーンは、空港。ジャコがターミナル内でフォンシを捜している。一方、フォンシは、シモンやルペと3人でカフェのテーブルに座っている。フォンシが、「トイレに行かないと」と言い出す(1枚目の写真)。「ちびっちゃう」。シモン:「いいだろう。まだ時間はある」。ルペ:「1人じゃ行かせられない」。「行ってこい、何も起きやしない」。フォンシは1人でトイレに向かう。これは大きな間違いだった。ジャコが気付いて後を追ったのだ。ルペも昔の夫の顔は覚えているので、「あれって、ジャコ?」と疑うが、シモンは、「ここにいるはずがない」と相手にしない。ジャコはトイレに入って行くと、個室の中のフォンシに、「見せたいものがある。お前のおじいちゃんの形見だぞ。お前にやる」とラップ風に声をかける。そんな話など信じないフォンシは、「そんなの見たくない」と言い、個室から出てくる。ジャコは、いきなりフォンシを捕まえると、「一緒に来い。一言でもしゃべったら、叫ぶぞ」(2枚目の写真)「そしたら、お前の母さんは、大ピンチだ」と脅し、連行する。帰りが遅いので、心配した母がトイレに見にくると、そこには誰もいない。その頃、フォンシはジープに乗せられていた。一旦、助手席に入らされると、ジャコが運転席に入るまでに逃げようとするが、中からはドアが開かない。フォンシには、もうどうしようもない(3枚目の写真)。これは、まさに拉致だ。話がややこしくなるのは、ネナとトトもフォンシを捕まえようとしている点。そのフォンシが、いるはずの空港からいなくなる。
  
  
  

空港に残されたシモンは、フォンシが消えてイライラしている。ルペ:「言ったわよね。『何もお気やしない』って」。そう言うと、携帯をかけるが、ジープの中では、ジャコが「出るな!」と命令する。ジャコの本心は、息子がいなくなる前に、自分に対する誤解を解いて欲しいだけなのだが、それが、フォンシとルぺにとって如何に危険なことになるかの認識は全くない。そういう意味では、外観は変わっても中身はヒッピーで、自分本位なままだ。ジープの中では、フォンシは、ジャコの言葉には耳を貸さず、「僕を戻せ!」「飛行機に乗らないと! あんたとは行けない!」と怒鳴る。ジャコは、「次の飛行機に乗りゃあいい。気楽にしろよ。何てことない」。次と言っても、それは「明日の」という意味だ。一晩立てば、カプセルは下腹部まで下りてくる〔フォンシには、そこまでの認識はない〕。トトは、ピコと一緒にフォンシの家に行き、ただ一人残っている母のヤヤに、「みんなどこに行ったの?」と尋ねる。「空港よ。さよなら言いたいなら」。こうして、悪党姉弟も空港に向かう。一方、空港では、搭乗ゲートの前で、シモンとルペが争っている。シモンの頭にあるのは、計画通り飛行機に乗ること。だから、「カルロスに捜させる」と言ってルペを納得させようとする。しかし、ルペは、息子を置いてアメリカに行くことを頑強に反対。「飛行機に乗る前に、あの子を見つけるわ」(1枚目の写真)。自分勝手なシモンはルペに見切りをつけ、1人でさっさと搭乗ゲートに向かう。唖然とするルペに、シモンが最後にかけた言葉は、「運んでるものに注意するんだな」。ルペは大量のカプセルを飲んでいる。時間内に下剤を飲んで排出しないと、大変な苦しみを味わうことになる〔ルペには、その認識は十分にある〕。ルペは、すぐにフォンシが見つかると思っていたが、ターミナルの外に出たところで悪党姉弟に出会う。「フォンシがいなくなった。助けて」というルペに、トトは拳銃を突きつけ(2枚目の写真、矢印は拳銃)、「嘘つくな」と言って、無理矢理 車に乗せる。
  
  

一方のジープの中。「お前は俺のフォンシだ」。「僕は、あんたなんか どうでもいい。僕を帰せ!」。「母さんは、俺のことを話さなかったのか?」。「話すもんか。僕にとって、あんたは、誰でもない。パパはいないんだ!」。「傷つくな」。車は市街地を見下ろす山道にさしかかり、急坂の途中でポンコツジープは動かなくなる。「ここで、降りるぞ。そんなに遠くない」。そう言うと、助手席のドアを開けてフォンシを外に出す。ジャコが持ち物を出している隙に、フォンシは携帯で母に電話をかける。「ママ、僕、ジャコと森にいるよ。町のそばのリッチーの家のそばだ」。ここまで話し、ジャコに携帯を奪われる(1枚目の写真、矢印は携帯)。一方、悪党姉弟の車に乗せられたルペは、「奴は何て言った?」と銃で脅され、「パパと一緒にいる」としか答えない。そこで、ネナは、ルペの口に大口径の銃を押し込み、どこにいるか話せと迫る(2枚目の写真)。実に凶暴だ。それでも母は口を閉ざしたまま。今度は、ピコが、「僕たち、フォンシに渡したいものがあるだけ。彼やおばさんを傷つける気なんてないよ」と言う。
  
  

フォンシは、ジャコに連れられて森の中に入って行く。所々、木の幹に矢印が付いているので、ジャコにとっては勝手知ったる道なき道だということが分かる。この場面の最初で、フォンシはヘッドホンで典型的なラテン・ポップスを聴いている(1枚目の写真)。一方のジャコは、クラシックの声楽。ジャコは、フォンシが何を聴いているかイヤホンでチェックし、「これ何だ?」と訊く。「年寄には分からない」。「俺は、交響曲やソプラノの方がいいな。魂に響く。音楽好きは、お前の祖父母からの贈り物だ」。フォンシが初めて聞く話だ。次に、ジャコがフォンシに教えたのは、着生植物のこと〔寄生植物ではない〕。ジャコは、「環境との調和」という表現を使う。さらに、深呼吸して、「気」を体に取り込めとも。しかし、それはフォンシをイライラさせただけ。「なぜ、今なのさ? なんで昨日とか、もっと前にしなかった?」(2枚目の写真)。「今あるのは、今日。今現在。お互いを知り合える絶好の瞬間だ。今しないと、お前とは永久に おさらばだ。とにかく話そう。俺はいい親爺じゃなかったが、それは、楽な人生じゃなかったからだ。だが、宇宙が、この機会を与えてくれた。分かるか?」。「くそくらえ! あんた、僕の何知ってる?」(3枚目の写真)「ホントに、楽な人生じゃなかったんならザマミロだ。僕と知り合いたい? 笑わせるな」。ジャコの弁解は、何度も会おうとしたが、ルペが会わせなかった、というもの。でも。フォンシにはどうでもいいことだ。「いつ、連れ帰るんだ?」。すると、上空を飛行機が飛ぶ音が聞こえる。空を見上げるフォンシ。ジャコが寄って来て、「ママが行くぞ」と言う。その瞬間を捉えてフォンシは逃げ出す。ジャコは、「遅くなる。安全な場所へ行くぞ」と声をかけるが、そんなことでは出て来ない。ジャコは、フォンシが残していったバッグの中を覗き、ネナが突っ込んだ紙巻き大麻を見て誤解する。次いで自分のネックレスを見つけ、首にかける。最後にノートパソコンを取り出し、画像処理されたビデオを感心して見ながら歩いていて崖から落ちる。ジャコにケガはなかったが、パソコンは壊れてしまう。それを見たフォンシは、怒ってジャコを置き去りにしようとするが、ジャコがケガしたフリをしたので、可哀想だと思って助けてやる。騙されて嘆くフォンシを、ジャコは、「約束する。明日、帰してやる」と慰める。フォンシは、ジャコがネックレスをかけているのに気付く。「これは、お前のだ。俺が作ってやった。だが、ルペは、これでお前がケガすると思った。あいつは心配性だからな」。この言葉で、ようやくフォンシが、「女性だから」とまともに応じる。
  
  
  

ネナとトトが、ルペに道案内をさせ、遂にジャコの停車しておいたジープを発見する(写真、矢印はジープ)。「彼の車よ」。そこから、一行はジャコの後を追って山の中に入って行く。昔、ルペがジャコと一緒に来たことがあるという設定だ。しかし、それは、少なくとも5年以上前の話だし、道など全くついていないので、いくら幹に矢印が彫られていても、追跡は非常に困難だろう。
  

フォンシは、「今日中には帰してもらえない」と割り切ると、ジャコが示す「自然のサイクル」にも次第に興味を示すようになる。その最初のシーンが、地面にころがる朽ちた木に住みついた甲虫。「見てみろ 面白いぞ。ここでは『輪』が閉じてる。苔が木を分解し、甲虫がそれを助けて土に戻す」。フォンシは甲虫を手にとって眺める(1枚目の写真)。「生命のサイクルだ」。ジャコは両手を拡げると、ゆっくりと回りながら、「お前には素質がある。ビデオはよく出来てた〔さっき、パソコンで見た〕。将来、そっちに進め」と言う。それを、同じように回りながらフォンシも聞いている(2枚目の写真)。「どうして、ママと別れたの?」。「もっと、お前に構って欲しがってた。ある日、何も言わずに立ち去った。さよならもなしだ」。くるくる回っていてバランスを崩して草の上に倒れたフォンシは、何かにかぶれて腕が痒くなる。ジャコは、草をナイフで切ってくると、白くてドロっとした液汁を、「毒を中和する」といって塗る(3枚目の写真、矢印)。痒みが収まる。「植物が怒りを静めたんだ」。「どうやって知ったの?」。「お前が知らないことは一杯ある。俺のことだって何も知らん」「ルペは、こんな美しい場所に 連れて来なかっただろ? あいつは、ここが好きだった」。
  
  
  

ジャコは、フォンシを古い小屋の前に連れて来る。そして、ドアに立てかけてあった棒を外す(1枚目の写真)。中に入ると、屋根は落ち、空が見える。壁には、「Mi felicidad consste en que se apreciar lo que tengo y no deseo con exceso lo que no tengo(幸せとは、持っているものに感謝し、持っていないものに多くを望まないこと)」と書いてある。「ここ、あんたの場所?」。「ここには、親爺に連れて来られた。親爺がベートーベンを聴いてる間、俺は森の中を自由に走り回ってた」(2枚面の写真)。フォンシは、これまで母から聞かされていなかった祖父母のことを聞かされる。そこで分かったことは、祖父母が音楽家で、村々を廻って音楽を聴かせていたが、戦争で殺されたこと〔ゲリラと政府軍の内戦→1960-96年の間に殺された〕。「その時、俺は、お前と同じ年齢で、一人ぼっちになった」。さらに、父親を喜ばせようと音楽家になりたいと言ったが、本当は生物学者になりたかった、とも話す〔どちらも果たせず、落伍者になった〕。その時、フォンシに「運び屋」としての最初の「不吉な兆候」が現れる。腹痛が始まったのだ(3枚目の写真)。「トイレに行きたいのか? 一緒に行くぞ。パパだからな。動物を見張らないといかん」。
  
  
  

ジャコは、少しでも腹痛に効くと思い、焚き火でハーブティーを作る。「きっと気分が良くなるぞ、ウサちゃん」。これは、フォンシが、小さい時に母が使った愛称なので、「やめてよ」と反発する。ジャコは、それは自分が言い出したと話す。「ウサギは、お前の誕生日から決まるマヤのデイ・サインだ」(1枚目の写真)〔デイ・サインは、西洋占星術の12星座のようなもので、20のデイ・サインからなる。このうち、8番目がウサギで、ある英語サイトによれば、『ウサギは、賢さと賭け事と競争のサイン。精神が活発で、いつも何かをやっていないと気がすまない。音楽とユーモアが大好きだが、議論好きでもあり、時には自己破壊的になる』とある〕。一方、ジャコのデイ・サインはシカ〔7番目。『コミュニティや家族をとても大切に思う反面、自由奔放で放浪癖もある。個人主義的で、無遠慮、創造的、かなり好色、芸術家肌の変人。個人主義と家族の間でバランスを取ることが重要』〕。フォンシよりジャコの方が、デイ・サインの内容とよく似ている。そのあと、フォンシは、「僕、どうやって産まれたの?」と訊く。どう答えたらいいか分からないジャコは、「他の赤ちゃんと同じで泣きながら出てきた」と言って笑わせる(2枚目の写真)。ただ、話が妊娠中の思い出になると、フォンシから、「なぜ、別れたの?」「なぜ、何も送って寄こさなかったの?」と責められる。「お前のママが好きな話題だな。物質主義の女だからな」。「僕らが生きてくためにママがしたこと知ってりゃ、笑えないぞ!」。「そうかな? お前のパソコンや携帯、上流っぽい態度見てると、ルペが金に困ってたようには見えないぞ」。「何も知らないくせに!」。「お前だってだ!」。「ママは、欲しいものは何でもくれた」。「要らないものばかりだ。金は、世の中で最も重要なものじゃない」。「靴の一足も送って 寄こさなかったくせに」(3枚目の写真)。2人の間の溝は、なかなか埋まらない。最初の頃のシーンで、ビルの屋上で裸で暮らしていたジャコのヒッピー振りを見ると、ただ単に自由になりたいために、妻と幼い息子を放り出し、自分の殻に閉じ籠もっていたとしか思えない。
  
  
  

ジャコは、前に見つけた紙巻き大麻を取り出して火を点けると、「これは、お前の大麻か?」と尋ねる。「僕のじゃない」。大麻を平気で吸うジャコは、やはりどう見てもヒッピーだ。その時、フォンシを2度目の腹痛が襲う。「今日は、僕の人生最悪の日だ!」。その頃、ルペは悪党姉弟から逃げ出すことに成功していたが、やはり腹痛に襲われる。辺りは薄暗くなり、フォンシは小屋の中で横になり、腹部の激痛に苦しむ(1枚目の写真)。ジャコには何もできない。突然フォンシが起き上がり、森の茂みの中に入って行く。一方、ジャコは、小屋に残り、1人でフォンシのビデオに向かい、何事かを話している。ジャコが、森に倒れているフォンシに、「どうした?」と訊くと、「幾つある?」という返事(2枚目の写真)。「何を言ってる?」。そうは言ったが、何となくピンときたジャコは、先ほどフォンシが入って行った茂みを見に行く。そこには、便と一緒に排出されたヘロインカプセルが3個落ちていた(3枚目の写真、矢印)。急いでフォンシのところに戻ったジャコは、「3個だけだ。何個飲んだ? ルペの奴、何てことさせたんだ!」。「違う、ママは知らない。僕、3個しか飲み込めなかった」。「奴らに やらされたのか?」。ジャコは、フォンシを小屋の中に寝せる。「ママは知らない。ママを助けたかった。僕、ものすごく悪いことしちゃったから」(4枚目の写真)。
  
  
  
  

翌朝、早く起きたジャコは、ネックレスを外すとフォンシのバッグに戻し、横にリンゴ2個を置き、拾ってきて洗ったヘロインカプセルを入れた袋を自分のバッグに入れる(1枚目の写真、矢印)。そして、この自分勝手で卑怯な男は、こっそりと逃げ出す。確かに、「翌日には帰す」と言っていたが、結局、フォンシの世話をする気などは毛頭なく、ただ、父親らしさを見せつけたかっただけなのだ。しかし、ジャコが小屋を出た時、何とか近くまで辿り着いたルペが呼び止める。ルペは、木にもたれて苦しんでいた。ジャコが周囲を調べると、木の葉の中に血まみれの8個のヘロインカプセルが落ちている。「あれで全部か?」。「違う」。「病院に行かないと」。しかし、持ち上げようとしても、ルペは動くことができない。「ルペ、君が良くならないと、誰がフォンシの面倒を見る?」。「あんたよ。世界中で あんたしかいない」。「ダメだ、ルペ、俺は役立たずだ。俺にはできない… 頼む…」。「あんたしかいないの」(2枚目の写真)。そして、ルペは死ぬ。どうして死んだのだろう? ラテックス製の硬いカプセルに機械封入されているので、『自暴自棄になりさえすれば5日』は体内に入れておけるはず。飲み込んで丸1日も経たないのに、中のヘロインが溶け出し、急性中毒で死ぬことはありえない〔この映画の最大の弱点の一つ〕
  
  

朝 起きたフォンシは、ジャコの姿がどこにもなく、リンゴが2個置いてあるので、父が自分を置いて逃げたと思い込む(実際、正しいのだが)。そして、リンゴを壁に叩きつけて悔しがる。しかし、そこにジャコが母を引きずって入ってくる。「ママ、どうしたの?」と泣きそうな声で訊く。ジャコは、母を横たえる(1枚目の写真)。フォンシはジャコの顔を見る(2枚目の写真)。「ごめんな、フォンシ」。事態を悟ったフォンシは、母にすがりついて泣く。「お願い、ママ、目を開けて。起きてよ…」。ジャコは、小屋にあったもので担架を作り、その上に遺体を乗せ、上から布で覆い、落ちないように何箇所かで縛り付ける。ジャコは、悪党姉弟が近くにいるとは知らないので、ジープまで運んで行こうと思ったのだ。ジャコとフォンシは、担架の頭部側をそれぞれ持ち、足の側は地面に付けたまま、引きずって行く(3枚目の写真)。映画の冒頭に映されたのは、この場面だ。
  
  
  

2人と遺体は、途中で、悪党姉弟+ピコとその弟に遭う(1枚目の写真)。3挺の拳銃がジャコに向けられる(持ってないのはピコだけ)。フォンシは、それを制止し、悲しそうな目でピコを見る(2枚目の写真)。自分が付き合ってきたヤヤの子供たちが、如何に悪漢なのかをようやく悟ったのだ(トトの殺人は偶発事態ではなかった)。ジャコは、フォンシとピコの3人で遺体を引きずり始めるが、トトが、「カメラを寄こせ!」とフォンシのバッグを奪う。そして、中からビデオを取り出して再生するが、映っていたのは昨夜のジャコの一人撮りだった〔トトの殺人映像の入ったSDメモリーは前日にフォンシが取り出し、それを落とし、ジャコが拾って持っている〕。トト:「ここには入ってねえ」。ネナ:「ほらね、もう売ったのさ」。その言葉で、トトは、フォンシに飛びかかる。フォンシを庇おうとしたジャコを撃ったのは、不良と化したピコの弟。「ごめん」と言うが、今度はフォンシが弟に飛びかかる。さっそくトトが引き離し、「よくも、コケにしてくれたな!」と拳銃を向ける。その時、ジャコが拾ったSDメモリーを、「これのことか?」と見せる。トトは、ビデオを再生し、自分が映っていることを確かめる(3枚目の写真、矢印は、ピコが拾った拳銃を奪おうとする弟)。その後、トトはフォンシにジャコを拳銃で撃たせようとするが〔意味不明~説得力ゼロ〕、フォンシから出た3個のヘロインカプセルを渡し、フォンシを自由にさせる〔逃げ出す〕。3人は、ヘロインカプセルを見て喜ぶ(4枚目の写真、矢印はカプセル)。トトは、「残りはどこにある?」と迫る。「木の陰だ」。ネナは、トトに、ジャコに案内させて残りを持って来いと命じる。そして、ナイフでルペの腹を割く。それを見たピコは、自分の姉が恐ろしくなって逃げ出す。ジャコは、トトを小屋のそばの8個のヘロインカプセルまで案内し、トトが拾っている間に逃げ出す。
  
  
  
  

フォンシは道路まで逃げてきて、そこでホッとして休んでいる(1枚目の写真)。バッグを開き、ビデオを取り出して再生してみる。そこには、昨夜ジャコが一人で撮った映像が入っていた。「フォンシ、知っておいて欲しかった。俺は毎日起きる度に、いい人間になろうとした。とても難しかった。俺は、いろいろやってみた。施設にも行ったが できなかった。もう一度、俺にチャンスをくれ。ごめんな」。それを見て、フォンシが微笑む(2枚目の写真)。映画は、この先、訳が分からなくなる。車が停まる音がし、男の声で短い言葉があり、フォンシはにっこりする。しかし、この部分だけ、字幕が付いていない! 私には、スペイン語のヒヤリングはできない。一体、誰が、何と言ったのだろう? 可能性①。逃げたジャコ。可能性②。なぜかこの場所が分かったカルロス。可能性③。親切そうな警官。この3人くらいしか、フォンシが微笑む可能性はない〔車で来で、大人の声→ピコではない〕。その声だが、何度聞いても、ジャコやカルロスとは同定はできない。そして、これが誰かということは、映画の最後のシーンにも関わってくる。最後、フォンシとジャコが海岸に立って花を持っている(4枚目の写真)。ジャコが、ルペの最後の願いを聞いて、フォンシを引き取ったことを意味するように見えるのだが、背後に流れるラップの歌詞は相反している。「♪どこに行こう? 北へ? 当てもなく。それでどうなろうが、進まないと。父さんは誰? 捜したけど見つからなかった」。フォンシがジャコと暮らすことにしたのなら、合致しない。「♪僕の未来は? 誰が決めるの? 僕はひとりぼっち。いろいろ捜したけど、どうなるか分からない。でも、このままでいい。みんな昔のまま 通りも 家も…」。ラップは似たような調子で、エンドクレジットの間 延々と続く。それが全く無意味だとも思えない。やはり、最後の字幕がないことが最大のネックになっている。こんな不備なDVDを作った会社に怒り心頭だ。
  
  
  

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