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Childstar チャイルド・スター

カナダ映画 (2004)

謙虚で繊細な役が得意のマーク・レンドール(Mark Rendall)が、その正反対の、鼻持ちならない売れっ子のNo.1子役を演じるコミカル+シリアスなドラマ。前者だけなら、マークは全くのミス・キャストだが、後者の部分でマークの持ち味が出ている。マークが演じるテイラーは、子役として人気の頂点にあるが、12歳になり、変声期が近付き、「消耗品」としてのハリウッド子役の「賞味期限」に近付いている。彼のエージェント会社もそれに気付いているし、テイラーも馬鹿げた役回りにうんざりし始めていた。熱心なのは、テイラーを「金のなる木」と思っているステージママの母親だけだ。そんなテイラーに派手なアクション映画の主演のオファーがかかり、撮影のためカナダに出向いたところから映画は始まる。因みに、映画もカナダ制作なら、マークもカナダ人。しかし、映画のテーマは、搾取されるハリウッドの子役だ。テイラーには、主役らしく運転手つきのリムジンが与えられるが、その運転手リックが、この映画の真の主役。単なる職業運転手ではなく、大学の教鞭を捨て、自主映画を作りたくて運転手にまで落ちぶれた「人生の敗残者」。輝かしいテイラー、欲の塊の母、そして負け犬のリックの3人が1台の車に乗り合わせたことから、その後の3人の人生が変わる。テイラーは、つまらない映画作りより、思春期に入った少年らしく、女の子に興味があり、大人の共演者の「配慮」によって紹介された年上のナタリーに関心を抱く。リックからは、大人の俳優を目指すよう勧められが、こちらの方は、年端がいかないのでまだ理解できない。リックはテイラーの母とベッドを共にしたことから、テイラーの法定後見人にさせられ、テイラーがナタリーと消えた時には、責任を取らされかかる。一方、母は、テイラーの失踪を利用して、より有利な再契約を結ぼうと画策する。物語は、テイラーとナタリーの思惑の違いが表面化し、訣別した挙句、テイラーがリックに救いを求めた段階で、「傲慢なチャイルドスター」から「悩めるチャイルドスター」へと様変わりする。そして、最後にテイラーが安住の地を求めて向かった「父親」の家は、思わぬ場所だった。映画は、リックがショートフィルムの監督としてデビューし、テイラーに映像のメッセージを贈る場面で終わる。

変声期直前のトップ子役スター、テイラー。彼が所属する事務所は、価値が残っているうちに儲けようと、『The First Son(大統領の息子)』の主演者に押し込む。そして、テイラーと母は、ロスから、撮影地であるカナダへと向かう。空港で待っていたのは、リックという中年の運転手。スタジオに連れて来られたテイラーは大歓迎を受け、スタッフに紹介される。母は、途中からリックに命じて、家捜しに出かける。ホテル暮らしは息子に良くないという論法だ。理想の家を見つけた母は、そのままリックをベッドへと誘う。撮影が始まると、テイラーは、疲れを理由に、課せられた授業をボイコット。その不遜な態度に、担当の教師が3人変わったところで代役がいなくなり、リックが昔大学で教えていたことから、テイラーの勉強係に指名される。その上、母親からは、テイラーの法定後見人にもさせられる。テイラーにとって、初体験ともいえる苛酷な撮影が終わった日、リックは その疲れた姿を見て、バーに連れて行き、内緒でビールをおごる。しかし、もう1人、テイラーのことを思っている人間がいた。気はいいが、常識的とはいえない共演者のチップが、テイラーに良かれと、若い女性ナタリーにお金を払って相手をさせたのだ。2人だけになり、最初は如何にも経験ありげに振舞っていたテイラーだったが、実際に、ナタリーが服を脱ぎ、自分も脱ぐことになると、たじろいでしまう。そして、その夜を境に、スタジオには現れなくなる。テイラー、ナタリーと一緒に田舎にドライブに行き仲良く過す。しかし、夜のレストランで、2人の間に大きな行き違いのあることが分かる。12歳のテイラーにとって、母はステージママに徹し、離婚した父はお金をせびるだけの存在。家族の絆は、テイラーの人気の根源である長寿TV番組『Family Differences(みんないろいろ、僕らの家族)』の中でしか味わえない。しかし、彼は、ナタリーの中に家族を思わせる何かを感じたのだ。だから、ナタリーをガールフレンドにしたいと願う。一方ナタリーは、2流のモデルでしかない自分が、『Family Differences』に出演できるかもしれない機会だと考える。そして、テイラーが昨夜「子供」でしかなかったことから、付き合う相手だとは思っていない。テイラーが、この「違い」を悟った時、怒ってナタリーを追い払う。そして、泥酔してリックに救いを求める。しかし、酔いが覚めたテイラーは、ロスに帰りたいと主張し、ガソリンにシロップを混入させてエンストさせ、母の元には戻らせないようにする。エンストした車の中で話し合う中で、テイラーはリックの映画への情熱を知るが、映画のもつメッセージ性を理解するには幼すぎた。2人が深く知り合う機会は、テイラーがリックを三脚で叩いて昏倒させたことで終わる。そして、迎えにきた母は、自分なりの思惑からテイラーを連れてロスに戻る。それは、テイラーの「失踪」を、「親権のない父親による誘拐」と捉えた報道に便乗し、契約の更改を狙ったからだ。警察はテイラーの父親の家にSWATを派遣するが、テイラーがいたのは、『Family Differences』で永年父親役をしてきた男優の家だった。その後、映画は何とか完成。『Family Differences』のプレミアの日。リックは、本編の上演の前に、テイラーの尽力で自作のショートフィルムの上映を許された。それは、テイラーに「新たな方向性」を示唆するものだった。この映画には字幕がないので、ヒヤリングに頼った。間違いがあれば容赦願いたい。

マーク・レンドールは、好きな子役の1人だ。『Touching Wild Horses(野生の馬との邂逅)』、『The  Interrogation of Michael Crowe(マイケル・クロウへの尋問)』は、マークなしには存在しえなかったと言えるほど、役柄に合っていた。決して派手ではないが、心の揺れを見事に表現できる名子役の一人だと思っている。この映画では、生意気な役柄を演じイメージが壊れてしまう一面もあるが、子役の「幻」のような侘しさを表現する箇所では、マークらしさを見ることができる。テイラーは12歳という設定だが、撮影時(2003.10)、1988.10.21生まれのマークは、何と15歳だった。晩熟(おくて)のマークは年齢以下に見え、この年にして声変わり前だ〔DVDの特典映像では声変わりしている〕。そういう意味では、この映画は、マークにとっても、「子役として最後の映画」だった。スターとしての性格はマ逆だが、映画のシチュエーションはとてもよく似ている。マークは、成人しても俳優として活躍しているが、『Algonquin』(2013)という、如何にもマークにぴったりの映画で主演した以外は、残念ながら ずっと脇役に甘んじている。


あらすじ

映画は、プレミア上映会場でのスピーチから始まる。「懐かしい顔が拝見できますね。映画関係者の方々の姿も。私、実は、少し神経質になっています。この映画をご覧になって、腹を立てられる方があるかもしれないので… だから、少しご説明しましょう。このアイディアがどこから来て、どうして映画を作るべきだと思ったのかを。ご心配なく。私も、自分の映画の紹介を長々と続ける監督は嫌いです。だから、誓います。そんなことはしません。しかし、この場合…」。ここで場面は、スピーチをしていた1人の男性が、ひと気のない工業港の片隅で小型の8ミリカメラを使って撮影しているシーンに一瞬変わり、次に大きな会議室で新作映画の企画が、絵コンテを使って紹介されている。テロリストによって誘拐されたアメリカ大統領を、ファースト・ソン(大統領令息)が救出するという内容だ。ただし、ここは映画制作会社ではなく、大手のタレント・エージェント会社。新作映画の主役になる子役として、契約している俳優の誰を推すかを決める会議だ(1枚目の写真)。正面に座っているのは社長。その左に座っているのが、今回の映画の人選担当者。彼の主張は、人気絶頂の子役テイラー・ブランドン・バーンズを使うこと。なぜかといえば、「この子は、生物的な時限爆弾です。いつ声変わりするか分かりません」。この役を逃したら、後はないという理由で、社長はこの決定を了承する。厳しい世界の一端を垣間見せてくれる。ここでテイラーのヒットTV番組『Family Differences(みんないろいろ、僕らの家族)』の一部が映る(2枚目の写真)。そこに登場する父は、テイラーにとって、番組とは離れた「理想の父親像」だ〔重要な伏線〕。映像は小刻みに変わり、8ミリカメラを持った男性が、撮影を終え、リムジンのトランクに片付ける(3枚目の写真、矢印は三脚)ところで導入部は終わる。この男性の名前はリック。職業はリムジンの運転手。演じているのは、この映画の監督・脚本を兼ねたDon McKellarで、真の主役でもある。運転手だが、本人は、「more than just a driver」だと考えている。4年間、大学の映画学科のようなところで教えた後、自分で映画を撮りたいと思って大学を辞め、今は、リムジンの運転手をしながら敗残者としての日々を送っている。
  
  
  

ロスからトロントに飛ぶ飛行機の中。天井のプロジェクターには、『Family Differences』が映されている(1枚目の写真、矢印はプロジェクターに映っているテイラー)。テイラーは、ビジネス・クラスに母と並んで座り〔ファースト・クラスのない機種〕、ヘッドホンを付けて音楽を聴いている。スチュワーデスが寄ってきて、「申し訳ありませんが、着陸前にはヘッドホンを外して下さい」と声をかける。反応が全くないので、「いいですか、坊っちゃん、申し訳ありませんが、航空安全規定で、すべての電子機器は…」と言いかけると、「墜落する?」。「いいえ、まさか」。「邪魔だよ〔Fuck off〕」(2枚目の写真)。そして、「スカイ・ウェイトレス〔空の給仕係〕に用がある時は、ボタン押すよ」。子供にこんな言い方をされたことが信じられないスチュワーデスは、「何ですって〔Excuse me〕?)と批判がましく聞くが、テイラーは何事もなかったように「行っていいよ〔You're excused.〕」と追い払う(3枚目の写真)。わずかこれだけだが、短いシーンで、この子役が如何に生意気かがよく分かる〔「excuse」による切り返しが効いている〕
  
  
  

空港の到着ロビーのドアが開くと、テイラーの目の前で少女達が歓声を上げて待ち構えている(1枚目の写真)。お忍びのハズなので、一緒に来た母は、「どうして分かったのかしら?」。疑問はすぐに解けた。迎えに来たリムジンの運転手リックが、テイラーのフルネームを書いた紙を掲げて待っていたのだ。テイラーがサイン責めにあっている横で、母はリックに、「あなた、新顔でしょ?」。「リック・シラーです」(2枚目の写真、矢印はテイラー)。「映画は初めて?」。「映画の運転手は初めてです」。「そうなの? 普段は何してるの? 監督?」〔冷やかし〕。車は、ゆっくりと空港内を走り出す。リックは、「大きなボードを使ったこと謝ります。まさか、あんなことになるとは…」と言いかけるが、その時、走行路にファンの女の子が入って来て、ボンネットに上がってくる。車の後ろにも、数10人が走って付いてくる。母は、「リック、次に空港に映画スターを迎えに行く時は、制作会社の名前を書くといいわ」と教示(3枚目の写真、リヤウィンドーには追っかけの女の子が映っている)。
  
  
  

撮影中のスタジオにテイラーが到着する。最初に出迎えたのは担当プロデューサーのフィリップ、彼が、通路を歩きながら他のメンバーを紹介していく〔テイラーは、すぐに彼を「フィル」と愛称で呼び始める。手馴れたというか、生意気というか…〕。フィリップが最初に紹介したのが、エージェント会社のティム(1枚目の写真、左がフィリップ、右がティム)。助監督まで来たところで、広い場所に出る。フィリップは、「みんな、注目してくれ」と全員の注意を喚起。そして、「『The First Son(大統領の息子)』の主演者を紹介できることは、私の喜びであり名誉なことです。魅力ある若者にして、次世代の大スター、テイラー・ブランドン・バーンズ氏に盛大な拍手を!」と声をかけ、拍手に応えてテイラーが、初めて、子供らしい笑顔を見せる(2枚目の写真)。そして、「拍手は演技にとっておいて」と言って、笑わせる。それを端で見ていた母のところに「歓迎の品」が持って来られ、母はそれを「彼に渡して」とリックに持たせる。そして、「私を家に連れてって」と告げる(3枚目の写真)。「何ですって?」。「あんた、私の運転手でしょ?」。「あの子の運転手です」。母は、息子も了解済みだと言って強引にリックを連れて家探しに出かける。フィリップによる紹介は、その後、テーラーのスタント、勉強係、ヘアドレッサー、メイク担当、「大統領」役の俳優、チップへと続く。チップはテイラーとは旧知の仲らしく、指パッチンをし、胸と胸とをぶつけ合う。そして、テイラーを傍らに連れて行くと、「この前の夜、君を賞賛してる素敵な女性〔sweet ladies〕と会ったんだ。分かるかい? 失望はさせないよ」と意味深に 会うよう勧める〔大きな伏線〕。フィリップが最後に引き合わせたのがシドニー。「僕は、君の『Family Differences』の大ファンだ」。テイラーが、「それで、あんたは?」と訊くと、シドニーは「僕は、監督だ」と答える。とてもコミカルな場面だ。一方、母とリックのペア。リックは、「あの子に、誰かが付いていなくていいんですか?」と、早々とスタジオを離れたことを心配する。「誰かがいるわ」。「そういう意味ではなく、法定後見人のことです… 母親のような」。「初日くらい、ルールを破らなくっちゃ」。そして、リムジンの助手席に乗ると、自らが 「息子の人生に寄生して のうのうと生きるステージママ」の一員だったと話す。しかし、自己反省の弁はそこまで。会社側はホテルに住まわせたいだろうが、ホテルは子供のいる場所ではないと主張する〔母はホテルにいたくない〕。「テイラーは両親の離婚を受け入れようと、辛い思いをしてる」とも打ち明ける〔伏線〕。だから、「素敵な家と素敵な環境が必要なの。ホテルじゃなくてね」。そして、母の要望にぴったりの立派な家がみつかる。スタジオでは、テイラーの母親と連絡が取れないのでフィリップが困り果てているが、母は、家の中に入り、モダンな内装に満足し、リックがかつて大学で教えていて辞めたことも聞き出す。「運転手になるため?」。「映画作りのためです」。「助けてあげられるかも」。「きっと、できますよ」。「私個人のフルタイムの運転手になれるかも。それでどう?」。母は、さらに、リックが独身であることを確かめると、「2階へいらっしゃいよ。寝室にいるわ」と誘う。売れっ子の子役の母親の中にはひどい人もいるが、この映画の母は その典型的存在だ。
  
  
  

スタジオではテイラーの撮影が始まる。大統領の息子らしいスーツ姿だ。場面が変わり、勉強係が「Mr. Budge」と書かれた小さな黒板を前に、「これから長い付き合いになるな。撮影の合間にこのトレイラーで会おう。幸いなことに、生徒は君だけだ。1対1。混雑した教室なんかじゃない」と、にこやかに語りかけている。そして、短い撮影シーン。すると、勉強係が男性から女性に交替。「あなたとバッジさんの間に何があったか知らないけど、私の経験だとコミュニケーション不足ね」。さらに、短い撮影シーン。今度は黒板に、名前以外に、「①文法、宿題、②5章、木曜まで、③エッセイ」と書いてある。「私を脅せると思うか? 悪ガキだってバレてるんだ。前の教師とは違うぞ。何が起ころうが、明日ここで待ってるからな」。テイラーの次の撮影は、軍服姿だ(1枚目の写真、ブルースクリーンに星条旗の一部)。スタジオ関係者が、コーヒールームにいる母の元を訪れる。「バーマンさん。お話があります」〔テイラーの姓と違う→芸名か?〕。「いいわ。話して」。「今日は、勉強係が来てません」。「テイラーは一人?」。「誰も 来たがりません。態度が悪いと苦情が出てまして…」。「態度って?」。「授業をボイコットします」。「冗談でしょ、12歳の子供なのよ」。「ええ、でも、とても失礼なことです」。「私が来た国アメリカでは子供を咎めないわ。もしテイラーの教育に問題があるとしたら、それはシステムの欠陥よ」。そして、「幾ら払ってるの?」と尋ねる。「学校の先生と同じ額です」。「そうだと思ったわ。もっと払いなさいよ。必要なだけ」。外に出た男は、待機しているリックに「高校出たか?」と尋ねる。「大学で4年教えた」。それを聞くと、しめしめとばかり、「ちょっと来てくれるか?」と連れて行く。結局、次の勉強係りはリックに決まった。撮影の合間にベッドで横になっているテイラーのところに行き、そのことを話すリック。「冗談だろ? 僕の知性への侮辱だ」(2枚目の写真)。「私にとってもだ」。テイラーはリックが手に持っている物に目をとめる。「それ何だい?」。「これは私の大事な1972製のテクニカラー・スーパー6で、個人的な記録を撮るのに使ってる。もし君が望むなら、使い方を教えるよ」と言って、テイラーを撮影する。「子供に映画作りを奨励するバカがどこにいる?」。「興味を持つと思ったんだ」。「カメラを止めろ」。そして、テイラーは、「勉強係りに要求するのは、仕事をすることだ」と生意気そうに言う。「どんな仕事だ?」。「テーブルの上に本がいっぱいあるだろ。学期末にカリフォルニア州は7年生用のテストを送ってくる。合格しなかったら、最悪だ」。リックは、それは大変だと同情し、『ライ麦畑でつかまえて』を選び出す。「それを選ぶと思ったよ。負け犬や社会からのはみ出し者にぴったりだ」(3枚目の写真)。テイラーは、「座って、最初のページから声を出して読んでくれ」と命令する。「君がすべきことだろ?」。「いいか、僕は、毎日台本を覚えるのに大変なんだ。トレイラーに来た時くらい リラックスしたい。読むのに時間を潰すにはごめんだ」。「私は召使じゃない」。「お抱え運転手って何様なんだ?」。「生意気言うな。私は先生だ、君が読め」。「違うと思うな、キザ男〔I don’t think so, dude.〕」。「何だって?」。「言われた通りにしてろ」。「しないと?」。「クビだ」。「クビにはできん。君に雇われてはいない」。「ママならクビにできる」。「理由は? 宿題をやってくれないからか?」。「何かをしたことにすればいい」。「どんな?」。「悪いことさ。暴行するとか」。「言ったらいい」。「信じるぞ。僕はいい役者だ」。「好きにしろ。やれよ」。「信じるぞ」。「そうは思わん」。「なんでさ?」。「彼女とヤッてる仲だからさ〔Because I'm fucking her.〕」。この凄い言葉に、何も言えなくなるテイラー(4枚目の写真)。
  
  
  
  

次は、子役のとっての苛酷な撮影環境が紹介される場面。「ゲームで培ったテクニックを使い、本物の戦闘機に乗って父の大統領を救い出す」という筋書きなので、戦闘機で戦うシーンを撮影する必要がある。そこで作られたコックピットの実物大模型。自由に回転・横揺れができる。しかし、その中に入ったテイラーにとっては辛い試練だった。撮影の始まる直前、母は、リックに、午後は用事があるから、テイラーの面倒を見てくれと頼む。そして、テイク・ワンの撮影開始。テイラーを閉じ込めた模型は、時々、フラッシュライトや、火花を浴びながら大きく揺れる。母は、1通の書類をリックに渡し、サインするよう求める。それは、リックをテイラーの法定後見人にする書類だった。この書類がないと、母は、撮影の際、息子に付き添っていなくてはならない。撮影は一旦 中断。監督は、「もっと激しくいこう」と言う。一方、テイラーは、喉が渇いたので、飲みつけの「ペリエ」〔フランスのミネラルウォーター〕を欲しがるが、マイクの調子が悪くて伝わらない。監督からの、「今度は、もっと怖がって欲しい」との要求だけが伝わる。「機体をもっと回そう」。結局、度重なるSOSを無視する形で撮影が再開される。テイラーは演技ではなく本気で怖がる。見ているリックは、「これじゃ、まるで中世の拷問機だな」。機体は90度以上回転し(1枚目の写真)、そこに、「火花」との声がかかる。テイラーは思わず悲鳴を上げる。そして、一番傾いた時に、「パパ!」と絶叫(2枚目の写真)。監督:「爆発」。銃撃されたような大きな音がする。そこでようやく「カット」。チップは手を叩いて、「素晴らしい演技だ!」と讃える。しかし、監督は、もう一度やり直したがる。「今度は、子供みたいに泣いてもらおう」。母は、息子が心配になり、模型の前に出て行くと、「おしまい。もう十分よ」と止めるが、テイラーは負け惜しみで「ママ、これクールだよ」と言ってしまい、それを聞いた母は、「それでこそ、わが子ね。じゃあ、あと3回よ。最大でも」と監督に話す。失言に思わず目を閉じるテイラー(3枚目の写真)。子役も大変だ。母は、リックのサインをもらったので、「あとはよろしく」とスタジオを後にする。
  
  
  

テイラーが疲れた格好で、メイク室に座っている。ノックの音がしてリックが顔を覗かせる。「ここで、何してる?」。「顔のメイクをとってくれる人を待ってる」。部屋に入って来たリックは、「今日は、大変だったな。大丈夫か?」と訊く(1枚目の写真)。頷くテイラー。「何か、私にできることは?」。「メイクをとってくれる人を呼んできて」。「もちろん」。そして、部屋を出る前、「チップが一緒に来たいそうだ。君さえ良ければだが。ママはいない。だから私たちだけだ」と話す。テイラーは、「あんたが特権的にアクセスできるのは、僕が認めたからだ。僕の目的に使えると思ったからね」。「何に使うんだ?」。テイラーは ため息をつくと、「女性のことで手助けが要る〔I need help for the ladies.〕」と本音を打ち明ける。変声期を前にした少年は、年頃でもあるのだ。場面はリムジンに移る。チップはルーフから身を乗り出してリムジンを満喫している。リックは運転しながら、「私には、会話のコツを巧く教えられる自信がない」と正直に話すと、テイラーは「基本テクニックだけでいいんだ」と言う。「私には、基本テクニックなんかない。女性はみんな違うからね。女性を口説くプロじゃないんだ」。「ママを口説いただろ」(3枚目の写真)〔実際には、口説かれた〕。「ああ、だけど、テクニックを弄した訳じゃない」。「ママが『ふしだら』だって言ってる?」。「違う。そんなつもりじゃ… 何が知りたいんだ?」。
  
  
  

酒場でテイラーとリックが向かい合って座っている。テイラー:「どうやったら、ぴったりの女の子を見つけられる?」。「ぴったりだって?」。そこで、「一杯だけだ。内緒だぞ」とビールで乾杯。「この仕事だと、年頃の女の子は少ないんだ。同じ年じゃないと背が合わない」。さして、さらに、「意味のある関係にしたいんだ〔I want meaning for relationship.〕」とも(1枚目の写真)。リックは、「幾つだ?」と訊き、「12」と知ると、「意味は、そのうちにできる。今は、そんなこと考えずに、楽しめばいい」とアドバイス。その時、チップが、3人の女性を連れて2人の前に現れる。そして、年齢の割に小ぶりの金髪の女性ナタリーを、「君の大ファンだ」と紹介する。「私も女優なの。モデル兼のね。あなた、本物のテイラー・ブランドン・バーンズ?」。「ああ」(2枚目の写真)。その時、リックが、携帯を手に「テイラー、お母さんが呼んでる」と会話に終止符を打つ。車まで歩いて戻りながら、リックは、「私の君へのアドバイスは、『リラックスすることを学べ』だ。プレッシャーがかかっていることは分かるが、気を休めないと体にも悪い」「如何にのんびりと付き合うかを覚え、楽しまなきゃ。ただ楽しめばいい」。「セックスのこと?」。「違うな… まあ、それも含めてだ。とにかく経験を積むことだ」。家に着き、車を降りたテイラーは、「僕が未経験だって、どうやって分かった?」。「12歳の子が経験などしない」。「僕、セックスのこと知ってるよ。他にもいっぱい。クリトリスだって」。リックは、知識ではなく、実行こそ大切だと告げ、家に入る。「冷静になることを学べ。そうすれば、相応しい相手が現れた時、どうしたらいいかが分かる」。「誰が相応しいか、どうやったら分かる?」。「自然と分かる」。「そんな うまく行かないよ」(3枚目の写真)。リックは、テイラーは金持ちで有名でハンサムだから、気にすることなんか何もないと鼓舞し、「2階で私を待っていてくれる女性」〔テイラーの母〕の元へ上がって行く。
  
  
  

1階で一人になったテイラーは、ビデオ・ゲームの音をMAXにして遊んでいると思わせ、家を抜け出し酒場に戻る。がっかりしていたチップが、「テイラー、遊ぼうぜ!」と気勢を上げる。テイラーは、さっそくナタリーと踊り始める。2人は気が合って踊り続ける。それを見ていたチップの連れの女性が、「あの子、夢中ね」と言うと、チップがナタリーに「やれ」と合図。ナタリーは、「2人だけで過さない?」と誘う(1枚目の写真)。「うん、それいいね」。「あなたと私で、どこかに行きましょ」。「賛成」。それを聞いていたチップは、「今夜は、テイラーにとって凄い夜になるぞ」と連れの女性に囁く。すべてチップの計画通りに進んでいる。テイラーはナタリーを撮影スタジオに連れて行く。そして最後に入って行ったのが、大統領執務室のセット。テイラーは、「じゃあ、始めようか」と言ってコートを脱ぐ。ナタリー:「あのね… 私、売春婦じゃないわ」。「そんなこと、思ってもないよ」。「でも、あなたのお友だちから お金もらってる。かなりね。彼、どうかしてるのよ」。ナタリーは上着を脱いでブラジャーだけになる。目の前でそんな姿を見たテイラーは、動揺してしまう。ナタリーは、テイラーに近付いていき(2枚目の写真)、頬を撫でる。「前にやったことあるのよね〔Are you sure you've have done that before〕?」。「うん、ホントさ。何回もだよ。だけど、忘れちゃったトコ、あるかも」。「思い出させてあげる」。ナタリーは、床の絨毯へと誘うが、テイラーは、「できれば、外で待っててもらえる?」と頼む。「外で?」。「そう。部屋の外で。服を脱ぐ間」。「後ろ向いて目を閉じてるのは?」。「いいよ、そうして」。テイラーは、内心困ってしまうが、それでも靴を脱ぎ始める。「楽しいわよ」。ナタリーが振り向いたので、「目を閉じてて」。テイラーは決死の思いで、上半身裸になる(3枚目の写真)。そして、そのままの姿で、ナタリーに近付き、一緒に横になる(4枚目の写真)。露出度も少ないので、健全で、とてもコミカルなシーンだ。生意気なテイラーとは、全く別のテイラーの姿が見られる。
  
  
  
  

映画では、テイラーの次の短い登場シーン〔わずか10秒〕まで7分ある。その間の内容は、①母とリックは寝過ごしてしまい、10時になっても寝ている。②9時に始まる予定だったテイラーのサイン会には、長い列ができているのに本人が現れない。③母の元に電話が入り、リックが慌てて見に行くとテイラーのベッドは空〔寝た形跡がない〕。④サイン会場では謝りのアナウンス。メインとなるのは、その後の プロデューサーのフィリップとリックの話し合いだ〔母も同席〕。最初、フィリップは激しくリックを叱咤する。「これ〔サイン会に欠席〕は、小さな問題では済まされない」。「分かっています」。「君がどうやってこの職にありついたかは知らんが、君には あの子の法定後見人として責任がある」。「分かっています」。「『分かっています』などと言うな。君の理解力には大いに疑問がある。『分かって』いる人間なら、子供をバーなんかに連れて行かないし、サイン会を忘れもしない」。さらに、主演のテイラーが子供で、1日6時間しか使えないことが如何に大変かを強調した上で、「明日の朝は、間違いなく連れて来い。スタジオは俺のに噛み付くし、マスコミにも噛み付かれ、金も消えていく」。これは失言だった。リックは反撃に転じる。「悪いが、フィル、なんで私があんたのを庇わなきゃならん」。そして、母にも「スザンヌ?」と声を掛け、「私も、おなんかどうでもいい」との応援を得る。「テイラーを捜すのは、彼が12歳の子供で、いなくなったからだ。あんたや、あんたのくだらない映画や、あんたのスケジュールのためじゃない」と強硬に出た上で、「いますぐクビにするか、手助けするか、どちらかだ」と迫る。リックには、母親が味方に付いているので、フィリップは融和の道を選び、「何がして欲しい?」と訊く。リックが欲しかったのはナタリーに関する情報だった。そして、リックと母親との会話の中で重要なのは最後の部分。「ところで、彼の父親は?」。「テイラーの父親は、テイラーの仕事のことで 何一つサポートして来なかった」。その直後に電話のシーンが挿入される。初めて登場する男性〔Eric Stoltz〕が、誰かと話している。「本気なのか? 金の話なんだろうな? 突然の電話は受けないって 知ってるよな。いいか、これが金の話なら、嬉しいんだが、できれば弁護士の前で話しあった方がいい。分かるな? もう一つ。もしスザンヌ〔テイラーの母〕が裏にいるのなら、これほど卑劣なやり方はないって言ってやれ。父と息子の関係を、金を得るのに利用するなんてな。そうか。どうもありがとう。会って、是非 このことを、話し合いたい。望みも聞こうじゃないか。聴きに来いよ。すごいバンドだぞ。ありがとう。出資ししてくれて。だが、今はスケジュールが詰まってる」。ここまで聞いていて、次の言葉には耳を疑った。「I love you too, son.」。男が電話を切ると、テイラーが携帯を置くシーンに切り替わる(1枚目の写真)。この会話が、父親と12歳の息子の会話だったとは、信じ難い。テイラーの見切りをつけたような顔も印象的だ〔如何にもマーク・レンドールらしい〕。リックは、ナタリーが半分ヌードで自動車雑誌の宣伝用の写真を撮っている場所を訪れる。そして、ナタリーに昨夜の出来事を訊く。「チップから、楽しませてやれと言われたの」。「ヤッた、ヤラなかった?」。「何のこと?」。「楽しんだのか?」。「ええ、スタジオなんて見たことなかったから」。「そんな話、してるんじゃない」。「分からないの。つまりね… テイラーはとっても可愛いいし、すごく頑張ったんだけど、うまくいかなくて…」(2枚目の写真)。「12歳なんだぞ」。そして、その後は、①一緒に朝食をとり、②ナタリーは撮影の仕事に向かい、③テイラーは帰宅した、と答える。結局、テイラーの居場所は分からなかった。しかし、ナタリーがリックと別れ、控え室に戻ると、そこにはテイラーがいた。「帰った?」。「嘘つくのは嫌い。悪いことよ」。「女優になりたいって言ったろ」。そして、「どこかに行こう」とねだる。「生活のために働いてるの」。「構うもんか。車持ってるだろ。楽しまなきゃ」(3枚目の写真)。
  
  
  

ナタリー:「どこ行くの?」。テイラー:「どこに行きたい?」。「タチヒ」。「車で行けるとこだよ」。「そうね、田舎にしましょ」。ここで、試写室のシーンに変わる。特殊効果の完成した『The First Son』の一部が流され、最後の部分は、エアフォース・ワンの機内での大統領役の俳優の「臭い」アドリブ演技。観ていたプロデューサーのフィリップは激怒し、明日までに解決しろと監督に命じて試写室を出て行く。出てきたフィリップを待っていたのはリック。リックが、テイラーの昨夜の行動のことでチップに質問したいと話すと、ただでさえ頭に来ていたフィリップは、チップの電話番号を教え、「チップと話したら、伝言を伝えてくれるか?」と訊き、「ええ」との返事で、「クビだと言ってやれ」。一方、テイラーはナタリーの緑のニュービートルに乗っている。「有名人ってクールよね。好きなことができて、好きな所に行ける」。「いつもじゃないよ」。「どうして? お金持ちでしょ?」。「今日は特別なんだ。君がいるからね」(1枚目の写真)「何でも 君の好きなことをしよう」。「開拓者の村に行きましょ」。そこでの2人は恋人同士のように仲良く過す(2枚目の写真)。スタッフの1人が「TVの子だね?」と訊くと、「違うよ」。場面は、リックとチップの会話に変わる。チップ:「テイラーは娼婦と残して、俺は女と出かけた」。リック:「娼婦って言った?」。「だと思う」。「ナタリーは売春婦なのか?」。「そう思う。金を渡したからな」。「12歳の子に売春婦を買った?」。「ああ、あの夜は、全部俺が払った」。そして、「俺が仕向けたんじゃない。望みを叶えてやっただけだ」。リックは、「ところで、クビになったぞ」と言い捨てて別れる。母親の待つリムジンに戻ったリック。母は、「テイラーの契約を再交渉するいい機会かも」と言い出す。「これで、テイラーが如何に大事か悟ったハズよ。もちろん無事でいて欲しいけど」。テイラーの子役としての生命が消えようとしている時、現状認識の欠けた母親だ。そして、リックが「もし、無事じゃなかったら?」と言うと、「無事よ」。「どうして分かる?」。「母親だから」。その後、2人の会話は徐々に険悪に。「私のこと、いい母親じゃないと思ってるわね? 私の態度、気にくわない? 泣くべき? その方が相応しいわね。わが子が行方不明なんだから。ワーワー泣かないと。泣くのなんか簡単よ。テイラーには5歳の時から泣き方を教えたわ」(3枚目の写真)。ステージママの怖さがよく分かる。
  
  
  

その頃、テイラーとナタリーは、郊外のレストランに入っていた。水で乾杯し、「最高の日だったね」(1枚目の写真)。「楽しかったわ」。テイラーは真顔になり、「真剣な話がしたい」と切り出す。ナタリーは、ウェイターに「飲物を1杯お願い。マティーニのダブルロックを」と頼む。それを聞いたテイラーが「僕もそれに」と言ったので、「身分証を拝見します」と言われてしまい、ナタリーは「見た目より年上なの、脳下垂体〔pituitary〕の異常で」と取り繕う。いい気になったテイラーは、上等のシャンパンを持ってくること、その代わり、厨房に1本進呈し、ボーイにはチップを100ドルやると言い出す。ナタリーに中断した会話の続きを促され、「昨夜のこと、考えてたんだ」。「悩まないで」。「すべては完璧じゃなかったけど、でも、とても有意義だった」。「私もよ」。「説明はしにくいんだけど、君だって感じたハズだ。僕の人生に必要なものだ。ナタリー、僕は家族が欲しい〔I want start a family〕」。「start a family」の訳の第一選択肢は「子供が欲しい」だが、ここでは「家族のように付き合いたい」というような意味。しかし、ナタリーは全く別の受けとめ方をしてしまう。テイラーの人気TV番組『Family Differences』の話だと思ってしまったのだ。「私も、家族について、あることを考えてたの」。そして、番組の中で、テイラーの姉がアフガニスタンで死んだことを取り上げ、「私、あなたの新しいお姉さんになれるかも」と、期待感たっぶりに話す。ナタリーは、女優になりたいのだ。テイラー:「ワケが分かんない〔That doesn't make any sense.〕」。「深く考えたワケじゃないの。脚本家に任せるわ」。「ナタリー、僕が『家族が欲しい』って言ったのは、そんな意味じゃない」。「そうね、でも… テイラー、言いにくいけど、あなた ちょっと年下なの〔Taylor, I don't know. You're a little young.〕」(2枚目の写真、鼻によったシワが小バカにした感じを与える)。「ナタリー、僕は、ガールフレンドになってと頼んだだけなんだ」。「多分、あなたのお姉さんになら…」。テイラーは、ナタリーが欲得ずくで話していると思い込む。「僕を もて遊んだのか〔Did you play me〕? そうなのか、雌狐?」。「テイラー、あなたのこと大事にしてるって、知ってるでしょ」。「失せろ、アバズレ! 他の甘いパパさんでも捜すんだな〔Find yourself some other sugar daddy〕!」(3枚目の写真)。この言葉で、ナタリーは去って行く。テイラーは、届いたシャンパンを1人で飲み始める。やけ酒だ。
  
  
  

リックがチップから没収した携帯に、待望の電話が入る。テイラーはナタリーに連絡しようと思ったのだ。リックは、ハイウェイ27沿いの開拓者村にあるレストランにいると告げ、「1人で来てくれ。誰かと来たら、それが誰でも自殺するぞ。本気だ」と言う。ハイウェイ27はトロントと北のバリーを結ぶ延長2.9キロの道路なので、見つけるのは容易だ。テイラーは店の電話機に張り付き、「僕がバカだった!」(1枚目の写真)「全部ダメにしちゃった! 僕を利用しようとしてると思ったから、失せろって言っちゃった!」「あんたの言った通りにやったのに、うまくいかなかった。行っちゃった。僕が愛した たった一人の女性なのに」。これはもう、泣き上戸の状態だ。しかし、リックが店に着くと、テイラーは笑い上戸に変身し、テイラーが有名な子役だと知った店の大勢のスタッフと盛り上がっていた(2枚目の写真)。リックは、店側からしっかりお金をふんだくられ、大騒ぎしているテイラーをなだめすかしてリムジンに乗せる。2人きりになったテイラーは、生意気で「きかん気」に戻る。「帰らないぞ」。「帰るんだ」。「空港に連れて行け。運転手、聞こえてるか!?」。「黙れ、テイラー」。テイラーは、運転席に身を乗り出して、「空港に連れて行くんだ、このゲス野郎!」と怒鳴り、リックは、「黙れ、この酔っ払い! に連れて帰る」と怒鳴り返す(3枚目の写真)。「僕のはロスだ」。リックは、「運転手は 飛行機の切符なんか買えない」と言いながら、ガラスのパーティションを閉めようとする。パーティションに手をかけたテイラーは、「運転手、これを下げろ!」と叫ぶが、その時、エンジンの調子がおかしくなり、車がストップする。原因は、車に乗る前、テイラーが給油口からチョコレート・シロップを入れたため。牽引車を呼ぶしかないが、夜なので いつになるか分からない。
  
  
  

テイラーとリックは、リムジンの中に並んで横になり、話をしている。「テイラー、どうしたんだ? なぜ こんなことをした?」。「言わない? ママにもだよ?」。「約束する」。「こんなこと、もう嫌になったんだ」。「逃げ出したこと?」。「俳優業。有名人。楽しくなくなった」。「やめろよ。続けなくていい」。「僕を当てにしてる人が いっぱいいる。マネージャー、エージェント、それにパパのバンド。ママは、一週間で飢え死にだ」「もう、満足できないんだ。こんなバカげたことするの。子供じゃないんだ」。「もっと大人の映画に出たらどうだ?」。「ポルノ映画?」。「違う。大人が観る映画、メッセージ性のある映画だ」。「僕がそんな映画に出たって、誰も見たがらないよ」。「自分のためにやるんだ。自分を表現できるチャンスだぞ」(1枚目の写真)。それを聞いたテイラーは、リックが撮影した8ミリを観たくなる。リックは、リムジンの中に置いてあった自作ビデオをTVに映す。短編映画のタイトルは、『The Stupidity of God(神の愚かさ)』。未完成版だ。12歳の少年には、理解困難な抽象的な内容なので、解説を聞きながらテイラーはウトウトし始める(2枚目の写真)。リックは、「少し歩いて来る」と言ってリムジンを降りると、母親に電話をかけ、テイラーを見つけたことを報告する。テイラーが落ち着き、眠っていること。車が故障して、今どこにいるかということ、等々。しかし、テイラーは、その時までに、こっそりとリックの背後から近付き、リックが振り向きざま、三脚で頭を強打した(3枚目の写真)。テイラーは、リックの落とした携帯に出て、「やあ、ママ」と言う。そして、今度は、正真正銘の行方不明に。この時、映画は76分30秒。次に登場するのは、84分23秒なので、8分近いブランクがある。
  
  
  

ブランクの最初は、リックの入院先。リックが病室で気がつくと、そこに、テイラーのエージェント会社の社長と、プロデューサーのフィリップがいて、テイラーはどこかと詰問する。リックは2人を追い出し、自分もすぐに退院するが、フィリップが待ち構えていて、テイラーに関するヒントを得ようとする。「私は知らん。母親と話せ」。「電話に出ない」。「なら、父親と話せ」。「カリフォルニアだぞ」。「テイラーは行きたがってた」。「これに 父親が関与してると?」。「テイラーは、父親のことで手を焼いてたみたいだ」。「分かった。親権問題で躍起になった父親が、自分の息子を誘拐したと言うんだな」。「そんなことは言ってない」。「任せろ。後はこっちの問題だ」。フィリップは「誘拐事件」として警察に届けることに決める。次に、一瞬だが、母親が、空港のチケットカウンターで、ロス行きの切符を2枚購入する姿が映る(テイラーは映らない)。最後は、リックが自分の家に戻ると、そこには、なぜか、ナタリーがいた〔ナタリーが、どうやってリックの家を知ったのかは不明。来た理由も不明〕。TVでは、テイラーの失踪のニュースが流れている。『Family Differences』のシーンも映るが、それを見たリックは、「テイラーは養子だが、家族の一員としてすごく幸せそうだ」。「テイラーにとって、家族ってすごく大事なの。きっと、TVみたいな完璧な家族が欲しいのね」。そして、警察がロスで捜査しているとの報道に、「警察はきっと見つけるわ」と言う。「どこで?」。「パパの家よ」。「そうは思わん。旅行するか?」。「警察は、間違った場所を捜してるの?」。「間違ってるのは、父親だ」。この謎の言葉に続き、顔にアボガドのパックをし、目にキュウリの輪切りをのせ、タバコをくわえさせてもらっているテイラーの姿が映る(1枚目の写真、映っているのは使用人の手)。それと重なるように、テイラーの父親の自宅で練習をしているバンドが映される。そして、SWATがチャイムを押し、ロスのTVのレポーターが、父親の家の前から中継をしている(2枚目の写真)。次に映るのは、顔のパックが終わり、ガーデンチェアに横になり、タバコをふかしているテイラー(3枚目の写真、煙がくっきりと映っている)。チャイムが鳴り、テイラーが、「パパ、チャイムが鳴ってる」と声をかける。バンドの方も、チャイムが鳴るが、演奏しているので聞こえない。応答がないのでSWATが家に突入する。バンドのメンバーは、突然の乱入で恐怖におののいている。
  
  
  

一方、「正しい」父親の家では、チャイムの音に応えて1人の男性がドアを開ける。開けたのは、『Family Differences』の番組でテイラーの父親役をしていた俳優だ。チャイムを鳴らしたのは、リックとナタリー。「これはこれは、強盗さんかな〔What do we have here? Plunderers〕?」。ナタリー:「信じられない」。男性:「想像してたより素敵かな? 君は、ガールフレンドだね?」。「ええ、会いにきました」。「彼も待っとるぞ。くつろぎなさい〔Make yourself at home.〕」(1枚目の写真)。「で、君は…」。「リック、運転手です」。「運転手のリックか。じゃあ車で待ってればいい」。「私は、運転手以上の存在です〔I’m more than just a driver〕」。こうして、リックも招じ入れられた。海を見晴らす崖の上に建つ豪邸だ。男性は、リックに、「この番組に出たいのか?」と訊く。「ええ、彼女の方が」。「ああ、そこにいる。見てるのは楽しいな」。テイラーとナタリーがキスしている(2枚目の写真)。「テイラーには きっとプラスになる」。この後、彼が「子役」についてリックに語る言葉は、この映画の要の部分だ。「私は、あの子達たちを知ってる。一緒に仕事して、困難をやり抜いてきたからな。賞賛するに値する。だが、思春期に達すると、 我々は(チューインガムのように)噛んで吐き出し、残りの人生をタブロイド誌の餌食にしてきた。子役は、アメリカの『いけにえの小羊』なんだ〔They're sacrificial lambs of America〕」。そして、テイラーについて、「先は短い。栄光の瞬間は去りつつある。テイラーもそれを知ってるから、ナーバスになってる。陰毛も生え始めた」と評する(3枚目の写真)。リックは、海岸にいるテイラーの母に会いに行く。そして、今回の顛末について、「失望しなかったとは とても言えない〔I can't say I'm not a little bit disappointed.〕」と切り出す。母は、「血を流したままで 道路に置き去りにしてごめんなさい」と謝り。この言葉から、母がテイラーを迎えに来て、家に戻って荷造りし、2人で空港に行ったことが分かる。リックが、「信頼してくれなったことが悔しい」と言うと、母は「あなたは、いっぱい質問されると分かってた。知らなければ咎められないでしょ〔Your ignorance was your protection〕」と巧くかわす。テイラーの行方不明を、契約を再交渉に利用したのかとの問いには、これまでの契約は児童虐待そのもので、「誰も、テイラーの利益のため戦わないから、私がしたの」と自己弁護(4枚目の写真)。「息子を身代金代わりにしたのか? 会社を脅したのか、告訴されるぞ?」。「彼らは何も知らないわ」。「私が黙ってればな」。「業界で働きたくはない?」。「悪くないね〔Maybe I do.〕」。
  
  
  
  

そして、映画は、冒頭のプレミア上映会場でのスピーチに戻る。最初にプレミア会場の様子が映し出され、リムジンから降りるテイラーの晴れ晴れしい姿も映る。ナタリーも一緒だ。上映会場では、司会者が通常の開幕とは違った説明をしている。「『The First Son』の上映に先立ち、特別なお楽しみがあります。テイラー・ブランドン・バーンズは唯のスターではなく、同世代で最高の俳優ですが、同時に芸術の賛美者でもあります。私が『The First Son』のプロデューサーを引き継いだ時、彼がやってきて、プレミアの前にショートフィルムを上映できないかと尋ねました。テイラー・ブランドン・バーンズに頼まれて、断れるでしょうか」。ここで会場が笑う。「それでは、ショートフィルムの監督を紹介しましょう。リック・シラー、運転手のリックとして知られています」。リックがステージに上がり、映画の冒頭スピーチをくり返す。最後の「しかし、この場合〔But (maybe) in this case〕…」〔冒頭のスピーチでは「maybe」が入っていたが、このスピーチでは抜けている〕まで来た時、テイラーが、「もう始めたら? 前置きが、フィルムより長くなっちゃう」と冷やかす(1枚目の写真)。これには会場も大笑い。リックは、「分かりました。ただ、これだけは申し上げたい」と前置きし、「機会を与えてくれてありがとう、テイラー。これは君に捧げるフィルムだ。そして、君の跡を継ぐすべての若者に〔for all those who follow your footsteps〕」(2枚目の写真)。テイラーは一瞬戸惑い(3枚目の写真)、そして、拍手する。ショートフィルムが始まる。タイトルは、『child star』。出演者はテイラー1人。場面は、かつて、テイラーのトレイラーで、リックが最初に8ミリカメラを撮影したシーンから始まる。ベッドに寝転んだテイラーが、「子供に映画作りを奨励するバカがどこにいる?〔No responsible adult encourage a child to make movies、直訳すれば、責任ある大人は、子供に映画作りなんか勧めない〕」と批判し、「カメラを止めろ」と怒ったシーンだ。そこで映画は終る。残念ながら、続きがどうなったのかは分からない。
  
  
  

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