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Demolition 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

アメリカ映画 (2015)

映画の原題 “Demolition” は物理的な破壊、特に建物の解体・取り壊し・爆破などを現わす言葉だが、何かの状態が完全に終わりを告げるという意味にも使われる言葉だ。この映画では、それがあらゆる場面に使われている。冒頭の、デイヴィスと妻の空虚な会話は、2人の関係が修復不可能なまでに壊れていることが分かる。その直後に、妻は脇見運転で事故死する。デイヴィスにとって妻は空気のような存在だったので、その死に対しても、無感動でしかいられない。しかし、表面上は鉄面皮にも見えるデイヴィスだが、その心は徐々に崩壊を始めていた。誰もが憧れる住まいを持ち、会社と家を往復し、妻の父の社長の元で、エリート証券マンとして未来が約束されていた生活。そこに内在する、仕事以外には何の価値観もない灰色の人生の “殻” に、ひびが入り始める。最初は、妻に指摘されていた故障した冷蔵庫の修理から始まった奇行は、会社のトイレのドアや仕事用のコンピュータの解体に至って公然の事実となる。さらには、お金を払ってまで、建物の解体工事に参加させてもらい、破壊することに喜びを見出すようになる。一方、ふとしたことで親しくなったシングルマザーのカレンは、デイヴィスに、「初めて他人に関心を持つ」という人間らしさを与える。そして、その13歳になる息子クリスは、デイヴィスに対して、「初めて胸襟を開いた」人となる。このクリスという、一種の相棒を得たことで、デイヴィスは2人揃って楽しく自宅を解体し始める。解体の作業の途中で休んでいる時、クリスがデイヴィスの口を手で笑顔に変えるのは、友達同士でありたいという親近感だろう。映画は、残り15分になり、亡き妻の不倫を知ったデイヴィスが、これで互角だと感じ、さらに、妻が運転席のサンバイザーの裏に貼っておいたメモを見て、自分も少しは愛されていたと悟って喜ぶ。デイヴィスは、妻の思い出を残すために、かつてデートしていた頃に乗って楽しかった回転木馬を解体から救う。一方、クリスは、ゲイであることがバレ、集団暴行を受けて入院する。ケガから回復したクリスのデイヴィスへのプレゼントは、彼に大掛かりなビル群の爆破解体を見せ、自分の母との関係を進めるよう促すこと。この映画には、ウエブ上に感想文が氾濫しているが、回転木馬のシーンで終えるべきとの意見には呆れる。ここで終われば、単なるノスタルジーにしかならない。最後の爆破でクリスがデイヴィスに男として新たな矜持の道を与えてこそ、この “都会でぬくぬくと育っただけのダメ男” デイヴィスの未来が示されるのに。なお、サンバイザーのメモの言葉 「If it's rainy, you won't see me, If it's sunny, you'll think of me」 が日本語のタイトルになっているが、これは、①映画の本質からズレている。②訳自体が間違っている、の2点でお粗末の限り。因みに、このメモの意味は、「雨の日はこのメモは見えない。晴れた日に、(サンバイザーを上げて)このメモを見つけたら、私のことも思い出して」くらいの軽い意味。

クリス役は、ジュダ・ルイス(Judah Lewis)。母は、なぜか、「15よ。でも、12に見え、やることは21」と言うが、実際には、2001年5月22日生まれ。撮影は2014年の秋なので13歳だ〔だから、上で13と書いた〕。ゲイであることを意識し始めた少年の役なので、中性的な美少年のジュダにはピッタリ。ジュダは、Netflix配信の『The Babysitter(ザ・ベビーシッター)』(2017)で主役のコールを演じている。この時の設定は12歳だが、撮影は2015年の秋なので、実際には14歳。この映画よりちょうど1年後だ。雰囲気は全く違っている(下の写真)。


あらすじ (関連部分のみ)

デイヴィスは、初めてカレンの家に泊まる。寝室も一緒だが、そこにはツインベッドが置いてあり、カレンは別々のベッドに寝るよう拘る。朝になってデイヴィスが目を覚まし、キッチンに行くと少年が朝食をとっている。そこで、デイヴィスは、「君がクリスだね?」と声をかける。すると、クリスは、いきなり、「ママとファックした〔You fuckin' my mom〕?」と訊く。「いいや。私達は、眠っただけだ」。「彼女、マジいかれてるfuckin' crazy〕」(1枚目の写真)「気付いてなんいなら言っとくけど、超マリファナ中毒fuckin' pot head〕なんだ。クソfuckin'・マリファナだと後ろめたいんで、自分じゃ大麻って言ってるけど」。「“fuck” を使い過ぎるぞ」。「それが?」。「正しい使い方じゃない」。「アホ抜かす気か〔The fuck does that mean〕?」。「また、言ったな。“fuck” はすごい言葉だが、使い過ぎると価値がなくなるし、バカだと思われる」(2枚目の写真)。「くそったれFuck you〕」。「また やった。言われても何も感じないが、それを言うとバカ丸出しだぞ」。映画が始まってから46分後のシーンだ。クリスは、エンドクレジットで4番目に出てくる重要な役だが、登場は、映画が半分近くにまで進んでからだ。
 

別の日、デイヴィスがカレンの家を訪れると、玄関のドアの外まで音楽が聞こえる。ボブ・ディランの『It’s All Over Now, Baby Blue』だ。デイヴィスは、邪魔をしないよう、そっと階段を上がって行く(1枚目の写真)。2階では、クリスが姿見の前で熱狂的に踊っている(2枚目の写真)。この歌には、「現在の自分に別れを告げて、新しい一歩を踏み出そう」という意味がある。クリスは、自分がゲイではないかと自覚し始めている。そのクリスの気持ちを、よく代弁した選曲だ。
 

デイヴィスは、せっかく来たので、物置小屋の前で、ガーデンチェアに横になっている。この小屋には、クリスのドラムセットが置いてある。彼は、聴くだけでなく、自分で演奏もする。クリスは、裏口(?)から出てきて、そこに “お邪魔虫” がいるのを見つけると、タバコを吸いながら、「ここ、あんたの家になったの?」と訊く。「いいや。学校に行かなくていいのか?」。「停学中」。「何で?」。「真実を言ったんだ。中東での軍事情勢について発表させられた」。「何を話したんだ?」。「6月5日。ヘルマンド州〔アフガニスタン〕での巡回中…」。クリスは、棚から軍用車の模型と、人形を2体取り出す。「ダン・ドヴィアック中尉のハマー〔米軍の大型軍用車〕が、道の片側に停車。女の子を助けるためさ」。模型と人形を地面に並べる。そして、手に赤い筒〔爆竹〕を持ち、「仰天したのは、その子が60ポンド〔27キロ〕の爆発物を体に巻きつけていたんだ」と言う(1枚目の写真、矢印)。そして、赤い筒を車の上に置くと、タバコの火を点ける。爆竹は大きな音で爆発し、デイヴィスをびっくりさせる。「ハマーは炎に包まれた」。そう言うと、スプレーを持って来て、それに火を点け、車を焼け焦がす。「アフガン市民は、『アメリカに死を』と連呼。ドヴィアックと部下を生きたまま焼かれた」。デイヴィスは拍手し、「それで停学?」と訊く。クリスはタバコを深々と吸うと(2枚目の写真)、投げ捨てて立ち去る。
 

ようやくカレンが帰宅し、夕飯の用意を始めるが、オーブンの中は真っ黒こげ。それでも、クリスとデイヴィスが向かい合って座ったテーブルに、カレンがちゃんとした料理を運んで来る。クリスの前に皿を置きながら、「今日は、いい日だった?」と訊き、もう1つの皿をデイヴィスに渡す。そして、「短い休暇は楽しめた?」と言いながら、クリスの髪をくりくりっと触る。カレンは、もう一度キッチンに行き、自分の皿と、サラダの皿を持って来る。「ほら、元気出して。今日、何してたの?」。ここまでクリスは何も答えない。「校長先生と話したわ。テルジャン先生だったかな? すごく思いやりがあって、親身になってくれる方ね。いい知らせよ。月曜から学校に戻れるわ。数週間、カウンセリングを受けなくちゃいけないけど。軽い罰で済んだじゃないの」。「悪い知らせの方は?」。「何のこと?」。「なんだよ、とぼけまくって。ボーイフレンド兼ボスが街から出てる間に、知らない奴〔random guy〕がウチで食ってるってのに、レズの校長と仲良く話してきたって自慢話かよ」(1枚目の写真)。「何よそれ。いい加減になさい〔Gimme a break〕!」。「デイヴィスはお友達よ。友達だから 一緒にいるんじゃないの」。「見え見えだ」。「この人は奥さんを亡くしたばかりなのよ。同情ぐらいなさい、このクソガキ〔you little shit〕!」。母は言い過ぎたことに気付き、すぐに謝って席を立つ。2人きりになり、気まずい空気が流れるが、クリスが、「奥さん、死んだトコなの?」と訊くと、雰囲気が変わる。「ああ」。「何で?」。「交通事故による激しい頭部損傷」。「あんたに言われたこと、考えてたんだ。F ワード〔f で始まる下品な単語〕を適切に使ってないってやつ」(2枚目の写真)。「で、何て思った?」。「そうかもって」。それを聞いたデイヴィスは、手元にあったビンを、乾杯という意味で持ち上げる(3枚目の写真)。クリスは、フォークを置くと、皿の横のコップを持ってそれに応える。2人の間に心が通じ合った重要な一瞬だ。
  

別の日、クリスが浴室の鏡に口紅で三重の円を描き、母のボスが家に置いていったピストルを持ち出して構えてみる(1枚目の写真)。三重丸の中心に銃口が来るように構え、引き金を引く〔もちろん、弾は入っていない〕。それにあきると、今度は、円を描くのに使った口紅を取り上げ、唇に塗ろうとする(2枚目の写真、矢印)。すると、ドアが突然に開いたので、クリスは慌てて口紅を隠す。それは、デイヴィスだった。「何だよ! プライバシーもないのか?」。「わぁ、ごめん。てっきり… てっきり学校に行ったかと」。「個人的な休暇さ」。拳銃を見たデイヴィスは、「それは何?」と訊く。「別に」。「見せて」。クリスは渋々渡し、「カール〔母の会社のボス〕のだ」と言う。デイヴィスは、銃を構えてみる。クリスは、「拳銃、撃ったことある?」と尋ねる(3枚目の写真)。ネッカチーフにペンダントは、まるで女の子のよう。口紅も塗ろうとしていた。やはり、クリスにはホモっ気がある。
  

デイヴィスは、クリスを車に乗せて山まで連れて行く。そして、まず、自ら、倒木目がけて何発も撃つ。その後、弾を再装填し、「君の番だ」と銃を渡す。クリスは、右手だけで2発撃つ(1枚目の写真、銃口が赤いのは発射直後)。4発目と5発目は左手で支えて撃つ。目標のないものを撃つのに飽きたクリスは、「何か狙おうとよ」とせがむ。「どんなもの?」。「さあ… 鹿とか」。「この辺にいるとは思えんな」。「リスはどう?」。デイヴィスは車〔ポルシェ・カイエン〕に戻ると、防弾チョッキを身につけ、自ら標的になる。10メートルほど離れた所に立って、さあ、とばかりに構える〔チョッキでカバーされる範囲は 体全体の4分の1しかないので、素人相手には極めて危険な行為〕。クリスは、右手だけで構える。「カウントダウンした方がいい?」。「さあな。好きなようにしろ」。「じゃあ、びっくりで」。クリスは撃とうとするが弾が出ない。デイヴィスは、「安全装置が入ったままだ」と言い、“さあ、撃て” と身構えた格好を止め、腕を伸ばして指図する。「左側にあるやつ。そのレバーを下げて…」。クリスは、引き金に指をかけていたらしく、いきなり銃が発射される(2枚目の写真、矢印は発射時の火)。身構えていなかったデイヴィスは、意表を突かれて叫び声を上げる。幸い、弾はチョッキに当たった。「どんな感じ?」。「超すごい! 痛いけど、気持ちいい痛みだ。まるで誰かが…」。その時、クリスが、また、いきなり撃ち、デイヴィスはヨロヨロする。「サプライズだ!」。「君は、めちゃめちゃなfucked-up〕ガキだな」(3枚目の写真)。「あんたこそ、めちゃめちゃな大人だ」。これで、2人はますます親しくなる。
  

カレンの家に戻ったデイヴィスが、防弾チョッキの下の肌がまだ痛いので、どうなっているのか鏡で見ていると、下からドラムの音が聞こえてくる。窓から覗くとクリスが物置小屋でドラムセットを叩いている。デイヴィスは、クリスの前まで来て、演奏の様子を見る(1枚目の写真)。曲は、ガヴァメント・ミュール(Gov’t Mule)のロック・ミュージック『Mr. Big』。デイヴィスは、体が自然に動き出し、車の上に登ったり(2枚目の写真)、小屋の真ん中の柱にぶら下がって体を左右に振ったりする(3枚目の写真、矢印)。最後は、あまりに気にいったので、クリスがコンピュータで曲をダウンロードし、デイヴィスの携帯に入れる。翌日、デイヴィスが通勤電車や街の中で、ヘッドホンで曲を楽しむ様が映される。よほど気に入ったのだろう。お陰で、会社で大失敗をするが。
  

別の日、デイヴィスは、クリスを連れてスーパーに買物に行く。「どうして、こんなもんばっか買うの?」。「商売道具といったトコかな、わがフレンド」。「どんな商売するの?」(1枚目の写真)。「破壊、ぶっ壊し… 君は、何かをボコボコに壊したいって思ったことないか?」(2・3枚目の写真)。このシーンは、後の “デイヴィス家の破壊” につながる重要なシーンだが、もう一つ重要なシーンが次にくる。
  

クリスは、「デイヴィス、もし僕が質問したら、ストレートに答えてくれる? 何にでも正直なのが、信条なんだよね」と訊く(1枚目の写真)。「ああ、そうだ」。ここで、クリスは、これまで母にも打ち明けなかった質問をする。「僕、ゲイだと思う?」。その真剣な顔を見て、デイヴィスは返事に窮する。「分からんな、クリス。君は、自分がゲイだって思うのか?」。「分かんない。たぶんそうかも。あんたに訊けば、教えてくれると思って」。「それじゃ、一緒に答えを見つけよう。女の子は好きか?」。「どうかな。ジェニファー・ハイメンは可愛い。僕にいちゃついたり、Tシャツを通してブラの形を見たりする。だからといって、好きなのか、じゃれてるだけかは 分かんない」。「学校の男の子達はどう? 好きだったり、魅力を感じる子はいる?」。「年下のアンドリュー・ホワイトかな。僕ら、同じ体育のクラスで、一緒に着替えないといけない」。「着替えてる時、彼を見る?」。「ううん」。「じゃあ、君はゲイじゃないと思うな、クリス」。「見ないように我慢してる。見るなって言い聞かせて」。「それは、よくあることさ。君はまだ若いから、何にでも好奇心が…」。「僕、口の中に彼のチンポ入れてみたいって、時々思うんだ」(2枚目の写真)。「そうか。なら話は別だ。君はきっとゲイだろう。あるいは、バイセクシュアルかも。どっちにしろ、ひどい虐めの対象になるかもしれん。私の助言としては、これから数年間は、女の子が好きなフリをするんだな(3枚目の写真)。
  

その後、買った道具を持ち、2人はデイヴィスの豪華な自宅に行く。「これから何するの?」。デイヴィスは、大型ハンマーを取り上げると、「結婚をバラバラにする」と言いながら、ガラス製のキッチンの台を破壊し始める。それを見たクリスは、少し小さめのハンマーを使い、壁を壊し始める。2人の破壊はあらゆるものに及ぶ。クリスは、金槌を機械に向かって投げたり(1枚目の写真)、釘抜きを大型TVに投げつけたり、オーブンを引っ張って倒したりする(2枚目の写真)。破壊の限りを尽くした2人。一段落すると、クリスは、「やったね〔Fuckin' A〕」と言う(3枚目の写真)。デイヴィス:「悪くない。続けるんだ〔Keep at it〕」。
  

2人が、かつて窓があったところに座って休憩している。デイヴィスが、ちっとも嬉しそうな顔をしていないのに気付いたクリスは、デイヴィスのすぐ近くに寄り、デイヴィスの顔に向かって両手を伸ばす(1枚目の写真、矢印は黒のマニキュア)。そして、デイヴィスのへの字型の口を、笑っているように変える(2枚目の写真)。これで、2人は一心同体の仲間であることが良く分かる。“何でも楽しんでやらなくちゃ!”。クリスは、デイヴィスにもっと笑顔になって欲しかったに違いない。
 

作業を終えて2人がカレンの家に戻ってくる。クリス:「学校が終わって、デイヴィスが迎えに来たんだ」(1枚目の写真)。デイヴィス:「家のことで、いろいろ手伝ってもらってた」。カレンは、自分にすら他人のようにしか接しなくなっていた息子を、こんなに変えてくれたことに、「ありがとう」と感謝する。そして、クリスが疲れてソファで寝むってしまったところに行くと、愛しげに髪を撫ぜ(2枚目の写真)、頬にキスする。
 

翌日、2人がデイヴィスの家の前でブルドーザーの到着を待っている。デイヴィスは、普通の人ならそうするように、ブルドーザーと作業員を雇うのではなく、ネット通販のeBayで ブルドーザーを買ったのだ(1枚目の写真)。「マニュアル付きだといいんだが」。デイヴィスは、トレーラーで運ばれてきたブルドーザーに乗り、さっそく家の外壁を壊し始める。それを見たクリスは、思わず笑みがもれる(2枚目の写真)。クリスの想像を遥かに超えた “めちゃめちゃ” ぶりに呆れたのだろう。実際、近所の人も、何事かと様子を窺っている。ブルドーザーは、壁を壊して突入した時、突然、動かなくなる(3枚目の写真)。クリスは、ブルドーザーに近づいていき、「マニュアルと保証書は?」と指摘する。
  

ブルドーザーが使えなくなったデイヴィスは、2階の妻の部屋を壊し始めるが、床に落ちた医者からの封筒の中に、胎児の超音波検査の写真を見つける(1枚目の写真、矢印)。妻は、妊娠したことを自分に隠していたのだ。それを突然知らされたデイヴィスの心は千々に乱れる。その様子をクリスが見る(2枚目の写真)。見られていることに気付いたデイヴィスは、暗い顔のまま、何も言わない。恐らく、作業はそこで中断したのであろう。車で帰る途中、クリスがスマホで聴き始めた音楽を、カーラジオから大音量で流し、助手席の前の部分を両手で叩いてノリに乗るが(3枚目の写真)、デイヴィスは、この前と違って無関心。それほど、妊娠のショックは大きかった。道路がカーブし、正面に太陽がきて眩しかったので、サンバイザーを下げる。そこに何か貼ってあるが(4枚目の写真、矢印)、デイヴィスは邪魔なので、すぐに丸めて床に投げ捨てる。
   

カレンの家に戻ったデイヴィスは、その日の夜に妻の実家で開催される “娘の名を冠した奨学金の授与式” 用に、身支度をする。クリスは、デイヴィスが出かける前に1人でそっと出かける。それが悲劇につながるとは思いもしないで。デイヴィスは、非常識にも、カレンを伴って授与式に出かける。そこは、亡き娘を偲ぶ会でもあった。娘の父は、デイヴィスが、こともあろうに女性同伴で来たことに激怒する。一方、カレンには1人の若い男が、安い服と安いタバコを見て気安く声をかけ、「おっぱいに触っていい?」などと不埒な発言をし、カレンを怒らせる。そして、授与式が始まり。3人の授与者のうち3人目が、先ほどの不埒な男だったので、カレンは思わず、選考のお粗末さに笑い出し、「失礼」と言って家から出て行く。デイヴィスは、この記念すべき第1回目の授与式を、さらにぶち壊す。「彼女、妊娠してるって言いました?」(1枚目の写真、矢印はデイヴィス)「去年です」。両親の返事がないので、「知ってました?」と、再度問う。義父母は、互いに見合う〔父は知らなく、母は知っていた〕。「なぜ、僕に言わなかった?」。それだけ言うと、デイヴィスは会場から出て行く。外に出ようとするデイヴィスに、後ろから義母が声をかける。「なぜか知りたい?」。そして、「あなたの子じゃなかった。他の誰かと会ってた。私が彼女に中絶させた」と打ち明け(2枚目の写真)、最後に、「産めばよかったのに」と、デイヴィスに恨みをぶつける。一方、一緒に来て初めて娘の不倫を知った義父は、ショックでその場に座り込む。
 

一方、クリスが向かった先はダンスパーティー。激しく踊る姿が断片的に紹介される(1・2枚目の写真、矢印は巨大なリング型イヤリング)。しかし、口紅をつけているわけでもなく、このようなロック風のダンスの場なら、それほど目立たない出で立ちだ。なのに、電車で帰宅中のカレンの携帯に突然電話が入る。母は、必死の形相で電車を降り、プラットホームを全速で走る。向かった先は病院。ニューヨーク市消防局〔救急医療が重要な職務〕の職員に運ばれていく “顔を破壊されたクリス” が一瞬映る。母はICUには近づけない。駆けつけたデイヴィスが、「彼、どう?」と訊くと、「ほとんど何も教えてもらえない。まだ手術中なの。6人がかりでボコボコに殴られたって。全部 私のせいなんだわ。私がひどい仕事fuckin' job/自販機の苦情係〕してるから」。ここで、母親の名前が呼ばれ、カレンは病室で麻酔で眠っているクリスに会いに行く。母は、「ねえ聞いて。二度と、誰にも傷付けさせない。ママも傷付けない。あなたらしく してくれるだけでいいの。ママ、改心する。約束よ」と謝る(3枚目の写真)。
  

病院を出て、車に乗ったデイヴィスは、運転席の下に落ちていた丸めた紙に気付く。開いてみると、それは妻が書き残したメモだった。「雨の日はこのメモは見えない。晴れた日に、このメモを見つけたら、私のことも思い出して」(1枚目の写真)。妻は、いつもメモを書いていたが、生前、デイヴィスは一度も目を留めたことがなかった。妻は他の男とセックスして子供まで作ったが、このメモはデイヴィスへの冷蔵庫内の水漏れ修理の要求などではなく、「私のこともをたまには思い出して」と語りかけるものだった。これを見たデイヴィスは、妻との間に “愛” が存在したことを初めて知り、喜びに浸る(2枚目の写真)。そして、憎み嫌われていると分かっている妻の父に会ってもらい、妻の記念に、取り壊されそうになっていた回転木馬を復活させ、「Julia’s Carousel(ジュリア〔妻の名〕の回転木馬)」と銘打って一般公開する(3枚目の写真、矢印はジュリアの名)。
  

映画の最後、デイヴィスはクリスからの手紙を読んでいる(1枚目の写真)。「デイヴィスへ。手紙ありがとう。僕、ゆっくりと、着実に回復してる。ひどい目に遭ったけど、自分らしくあれて良かった。ところで、ママはカール〔ボス〕と別れたよ、参考までに〔FYI〕〔母と付き合えと勧めている〕。小さなプレゼントがあるんだ。今週の土曜、午前11時ちょうどに54番埠頭に来て。すごいから」。見物人のカウントダウンが始まり、「1」のあとに対岸で爆発音がし、海岸沿いに建っていたビル4棟が同時に爆破解体される(2枚目の写真、矢印)。デイヴィスの姿を、離れた所からクリスが双眼鏡で見ている。「追伸 僕らクールだね」(3枚目の写真)。この最後の台詞は、“Go fuck youeself”。99%以上の確率で、相手を罵る言葉として使われる。一番多いのは、「くたばれ!」「黙れ!」。しかし、これでは意味をなさない。日本版のDVDでは、字幕が「ファッキン楽しんで」。吹替えが「くそ楽しんで」だが、楽しんでという意味にはどうしてもならない。“urbandictionary” によれば、22の使用例が上がっているが、21個は罵る言葉。唯一の例外が、「In New England〔ニューヨークは含まれないが、すぐ隣接している〕, it's used amongst friends to tell them, "we're cool" "it's all good"」というもの。デイヴィスとクリスは破壊マニア。その最大の “demolition” を見て、2人がいかにクールかを自画自賛している。これこそ、“Demolition” というタイトルの映画に相応しいラスト台詞だと思う。映画のエンドロールのすべてが終ってから、「心を込めて。デイヴィス・C・ミッチェル」という言葉が入るのも、これを受けたものだ。
  

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