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Drømmen 我ら打ち勝たん

デンマーク映画 (2006)

13才のイェーヌス・ディシン・ラスケ(Janus Dissing Rathke)が主役を演じるデンマークの名画。18の賞を獲得し、イェーヌス自身、大人の俳優を対象としたデンマーク・アカデミー賞とデンマーク映画批評家協会賞の主演男優賞の候補になっている。1969年のデンマークの片田舎における権威を笠に着た校長と、キング牧師に心酔し正義を信じて対決する少年の話だ。感動すること間違いなし。私の一番好きな映画だ。

田舎の学校にいたフリッツは、学年が1つ上がり、町の学校に転校することになった。ちょうどその数日前、父が精神的な病で入院したばかりだった。その学校は、鬼のような校長の支配下にあった。規律は絶対で、それに違反した者には厳しい体罰が加えられる。初日、髪が長いことを注意され、田舎育ちということも手伝って生徒達からも目を付けられるフリッツ。その一部生徒の仕掛けた悪戯の結果、校長から耳を裂かれるような激しい体罰を受ける。それに対して母が抗議しても無視される。それどころか、フリッツは校長から問題児扱いまで。こうした校長の行動に疑問を持つ教師の勧めで教育委員会に訴えるが、それも校長と結託した教育長により、逆に精神疾患のある父の暴行だとされてしまう。それでもフリッツは、正義が勝つと信じて自ら正しいと思う道に勇気を持って突き進む。映画の英語題名で、映画の中でフリッツ達が歌う「我ら打ち勝たん(We Shall Overcome)」は、1960年代にアフリカ系アメリカ人公民権運動のシンボルとして歌われたゴスペル。信ずれば勝つ、恐れなければ勝つ。それを地でいった映画だ。

イェーヌス・ディシン・ラスケは、典型的な北欧の(金髪碧眼の)美少年。大ケガをしてからモヒカン風の髪型になるのが少し残念だ。しかし、演技の巧さは圧倒的で、映画全体の牽引力になっている。公開は同年だが、数年後の製作の『スカイマスター』は長髪の超美少年として知られているが、映画の質も演技の質もはるかにこちらの方が上である。あらすじは、一番好きな映画なので、写真の量がかなり増えてしまった。


あらすじ

夏休み。フリッツと話していた父の様子が急におかしくなった。いつもの精神疾患の再発だ。母が、職場である学校から駆けつける。そして、泣いているフリッツに「今は、辛いでしょうけど、きっと良くなるわ」「それまで、4人で頑張りましょう」と声をかける。そこからが映画のオープニング。主要キャストの名前が流れる間、フリッツが納屋のロープにぶら下がったまま無表情に揺れているシーンが映される。その無表情さの中に、心のショックの大きさが分かる。流れる歌は『路地の 暗い突き当たり(At the Dark End of the Street)』。ピッタリと合っている。
  

フリッツの一家は、中古のTVを買い、夏休み中珍しげにTVを見て過ごした。フリッツは、昨年起きたキング牧師暗殺と、公民権運動の激化についての番組を興味深く見ている。夏休みが終わり、新学期が始まる。今年から6年生のフリッツは、町の小学校に通うことになった。組分けの時、耳が隠れる長髪に、校長から「君は、床屋に行くべきだったな」と咎められる。教室に入ると、在校生に、「田舎者は後ろの席だ。それにお前、女みたいだな」とバカにされる。そこに入ってきたのが校長。夏休みにやったこと、について順に話させ、フリッツの番に。「フリッツ、君の過ごし方は?」。「テレビを買いました」と恐る恐る答えて、ニコっとする。彼が笑うシーンはほとんどないので貴重だ。しかし、「教育的な話だな」と皮肉られて当惑する。
  
  

フリッツに一目惚れした教育長の娘イーブンは、一緒にフリッツの家を覘きに行き、祖父母の家にも立ち寄る。「おじいちゃんは、ずっとベッドに寝たきり」「だけど、夜になると、つまみ食いにウロウロ」と、初めてできた彼女にうきうきしながら話す。
  

幸せなシーンはここで終わり。翌朝フリッツが遅刻して登校すると、廊下でばったり新任の見習い教師スヴェールに会う。先生は「誰にも会っとらんだろ。急いで」と見逃してくれる。中では体操服の生徒が動きまわっている。その中から3人が寄ってくると、親しげに「来いよ」と誘う。そして、物置き部屋の壁の一部を外して一緒に中に入ると、「そっと行って、隙間から見てみろ。口はきくな」「こんな機会は、二度とないぞ」と言う。何本もある鉄の棒をかいくぐって先端の隙間まで行くと、そこから見えたのは女子生徒の更衣室だった。後ろでほくそ笑む3人。見とれていると、指笛の音とともに、フリッツがいるボックスごと更衣室に一気に押し出された。実はロッカーの裏に入っていたのだ。悪ガキは、「安心しろ。お前が男か、確かめるだけさ」と怒鳴ったが、事態は安心どころではなかった。女の子に床に転がされ、水をかけられ、ズボンを脱がされかける。フリッツが必死で更衣室を逃げ出しところで、校長に捕まり、耳を痛いほど引っ張られたまま校長室に連行。次にフリッツが発見されたのはトイレだった。スヴェール先生がこじ開けると、そこでは血まみれになったフリッツが泣いていた〔以下、連続写真〕。
  
  
  
  
  

スヴェールは、フリッツを急いで病院に連れていく。ケガを診た医者は、「校長がやったのなら、これは、一線を越えた行為だ」と言う。「可哀想に。耳が上下で引き裂かれている。縫合しないと。左の頬も腫れ上がっている」。そこへ母も駆けつけ、手術後、車で家に連れて帰る。家に着くとフリッツは車を飛び出し、大好きな森へ走っていく。しばらく気を静めていると父の声が聞こえる。父が退院したのだ。抱き合って喜ぶフリッツだが、「耳を裂かれた日の父の帰宅」は、後で深刻な問題に発展していく。
  
  

父は学校に抗議に行こうとするが、母は、「学校は私の職場よ。みんなに顔向けできないわ」と止める。さらに、「髪を切ってたら、こんなこと起きなかった」と髪も切ろうとする。しかし、「どうせ 起きたんだ。畜生!  僕の耳だぞ!」叫ぶ息子を見て、遂に学校へ。校長に謝罪を求めるも、逆に「自分の立場をわきまえなさい。息子さんをちゃんと躾けられないから、我々がしたのです」と諌められる始末。警察も学校の問題だと取り合ってくれない。そんな不幸な家に、スヴェール先生が見舞いに来てくれる。部屋の隅で、殻に閉じこもったいたフリッツを、自分の車に乗せ学校に連れて行き、髪を切ってやる。当時はまだモヒカン刈は存在しなかったので、その先駆的な髪型だ。生徒達には「ロバの髪」とからかわれるが。担当の音楽の時間になると、先生は生徒には楽器を渡し、フリッツに主役をふって、ロックを歌わせてやる。「♪おいらは、呑み助の敗残者」と嬉しそうに歌うフリッツ。先生は自分の家にも連れて行き、「どれでも、貸してあげる」とレコードを勧める。フリッツは、キング牧師の演説集を選んだ〔以下、連続写真〕。
  
  
  

家族の信頼を得たスヴェールは、どうしたらいいか相談を受ける。「私なら、教育委員会に提訴して決着を付けます」。かくして、父母と、被害者のフリッツの3人は、イーブンの父でもある教育長の家に直訴に行く。「教育委員会は、辞めさせるか罰するべきだ」と言う父に対し、「私ならやめておく。彼と戦って勝てるとは思えない」と乗り気でない教育長。
  

校長の仕返しは迅速だった。職員会議を開き、「わしの評価では、フリッツ・ヨハンスンには問題がある」と切り出し、最終的に「規律上の問題」という名目で「特殊学級」に移すと決めてしまう。その命令書を母親に手渡し、「こんなことは、したくないのだが」「常識が通じなくなってきたので」と言う。「常識」とは、自分を教育委員会に訴えるような行為を指している。「特殊学級」では、校長がフリッツに、つきっきりでアンデルセンの『父さんのすることは、いつもよし』を教えている。道徳教育だ。しかし、フリッツにはそんな話を聴く気は全くない。ここで、スヴェール先生がもう一度助け舟。「特殊学級」に行かせたことは、『学校法』の規定、すなわち、「特殊学級については、両親と相談せよと」という条項に違反していると教える。父はフリッツを連れて、教室会議に乗り込み、「フリッツを、直ちに元に戻せ!」と怒鳴った〔以下、連続写真〕。
  
  
  

第3幕はもっと陰湿だった。母が突然クビになったのだ。学校と対立している人間には、「職業上の守秘義務」が守れない可能性があるので、適任ではないという論理だ。歯が立たないと悔しがる母。ここで、学期末の学芸会の場面が挿入される。一連の行事が終わってから、スヴェール先生の肝いりで6年生が歌を披露する。それが『我ら打ち勝たん(We Shall Overcome)』だ。「♪我ら打ち勝たん、我ら打ち勝たん」「♪我ら打ち勝たん、いつの日か」「♪心に深く 我は信ずる」「♪いつの日か、我ら打ち勝たん」…。校長はもちろん憮然とした顔だ。
  

いよいよ教育委員会が開催される。校長に対する告白を受け、査問会を開くかどうかを決めるための会議だ。委員長は、開催否決の方針で会議を誘導しようとするが、女性委員の反発もあり、査問会の開催が賛成多数で可決される。それを盗み見ていたイーブンが、すぐにフリッツに電話をくれる。フリッツは飛び上がって喜ぶ。父は、自分の農園で開いた秋の収穫祭で、「困難な時期に助けてくれたフレディー・スヴェールに乾杯」と発言、数十人の出席者で『久しき昔(日本では、蛍の光)』を合唱する。
  
  

この幸せな一時は、期待して出席した査問会で崩れ去る。査問会に証人として出られるのは、成人に限るという規則を悪用し、事件当時、校長がフリッツの耳をつかんで部屋に引きずり込むのを見ていた秘書を、母親の病気という口実で欠席させ、もう一人の目撃者スヴェールには、見習い期間中であることで圧力をかけたのだ。査問会でスヴェールは、「何か見ましたか?」と訊かれ、「かなり離れていたので、はっきりとは」と逃げてしまう。その証言を受けて、校長と教育長は逆襲に出た。フリッツがケガをした日に父親が退院した事実を捻じ曲げ、フリッツの耳を裂いたのは精神異常の父親で、フリッツはケガをした状態で学校に来た、という筋書きだ。医師の診断書を読み上げて攻撃する校長に、父は精神的に不安定となり、退室してしまう。母は、「この、恥さらし!」と言って後に続いた。
  

強制入院された父。絶望して登校したフリッツだが、思うところがあった。教室にやって来た校長が、生徒に賛美歌を歌わせようとするが、誰も歌わない。生徒はみんな何が起こったか知っていて、教育委員会がやった汚い芝居も知っていたからだ。「お前達、歌うんだ。分かったか?」「いいか!  今すぐ!」と怒鳴って机を叩く。誰も応じないので、フリッツに矛先を向け、「フリッツ。減らず口は どうなった?」と訊く。フリッツは校長を睨み、一言、「嘘付き」。怒った校長は、フリッツを前に呼び出し、「本気で、わしに盾突く気か?」「わしに、対抗できると 思うのか?」。そして、フリッツはまた、「嘘付き」。力まかせに頬をぶたれ、床に倒れるフリッツ。生徒達は、座れとの命令を無視して立ったまま見ている。沈黙の抗議なのだ。やっとの思いで立ち上がったフリッツ。校長を睨んで、「嘘付き」。そして殴打。席に戻れと言われても、「嘘つき」。そして殴打。鼻血で顔を赤く染めながら、毅然として、「嘘付き」。殴打と「嘘付き」のくり返しがあまりに悲惨なので、生徒達も涙で正視できない。しかし、激しい連打の途中で、校長は心臓発作を起した。
  
  

校長は、そのまま校長室で死亡。最後の言葉は「嘘付き」だった。生徒全員を講堂に集め、教育長が校長の突然の死を告げると、生徒達は大歓声。悪魔が去ったのだ。そこで再び流れる『路地の 暗い突き当たり』が耳に心地よい。
  

ラスト・シーンは父が入院中の病院。「パパを連れに来た」と微笑むフリッツ。それに対し、「出るのが怖い」と父。「一緒じゃなきゃ、帰らない」。「できない」。「もうちょっと、ここに、居させてあげたら?」と母。そして、重要な言葉でフリッツが締めくくる。「ここにいれば、あいつが勝ったことになるんだよ」「行こう、パパ」「家に、戻ろうよ」。
  
  

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