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Icebox アイスボックス/ホンジュラスから逃れて

アメリカ映画 (2018)

中米諸国からの難民の大移動「キャラバン」が発生した2018年10月の2ヶ月前に公開された映画。スウェーデンの監督は、かつて父親が、ポーランドから政治難民としてスウェーデンに逃れてきたという経験の持ち主。2019年6月21日に、AP、CNN、ニューヨークタイムズ、ニューズウィーク誌、タイム誌、24日にNBCニュース、ワシントンポストなどが、子供が拘置所に監禁されている信じられない状況を伝えて全米を震撼させたが、この映画はその9ヶ月前に、アイスボックスの異名を持つ非人道的な児童待機房の実態を、非アメリカ人ならではの客観的、かつ、鋭い視点で映画化した。当然ながら、アメリカ人が主体のIMDbで評価は高くなく、現在559人で5.7という数値だが、これは、自分の国の恥部を見たくないという意識と、国民の40%以上が愚昧(ぐまい)の某大統領を支持する共和党員だという現実を反映した結果であろう。彼らにとっては、メキシコや中米からの難民は悪であり、勝手に国境を破って侵入した者は、子供といえども犯罪者なのだから。映画では、アリゾナ州フェニックス近郊の農場で、劣悪な居住環境下で、官憲に怯えながら働く叔父の姿も描かれる。生まれ故郷ホンジュラスで無理矢理に広域暴力団の手下にされた主人公オスカルと、気弱な叔父が結びついた結果は、さらなる悲劇だった。なお、この映画は、アメリカ映画にもかかわらず、全編の99%がスペイン語で話される。そのため、対応する英語字幕が映像に焼き付けられている。翻訳にあたっては、スペイン語字幕は存在しないので、ポルトガル語字幕を参考にした。

オスカルは、ある日突然、ホンジュラスで最も凶悪とされる「MS-13」を想定したギャング団により最下級の構成員にされ、胸に「XVII」の入れ墨をされる〔MS-13をもじっている〕。そして、3週間後。オスカルは、組織から逃げ出して学校に現れたが、すぐに学校全体がギャングからの襲撃を受け、自宅まで逃げ帰る。両親は、その日の夜には、オスカルをアメリカに密入国させる業者のトラックに息子を乗せる。オスカルはアリゾナ州の国境フェンスを十数人の同行者と共に超えるが、業者が用意した自転車で夜の砂漠を走るうち、タイヤがパンクしてしまう。オスカルは、連れ戻されるのを嫌がって逃げ出し、翌日、真昼の砂漠をさまよっていると、国境巡視隊のドローンに発見され、待機房に拘留される。そこは、“体育館がフェンスで仕切られて房になった” ような集団監房で、夜は、アルミ箔1枚で寒さに震えて眠らなくてならない場所だった。初入所者の特典として電話をかけることが許されたオスカルは、アメリカにいる母の弟である叔父に電話をかけるが留守録で通じない。翌日には報道陣の見学があり、その際、オスカルは電話のことで騒ぎ立て、特例として2日続けての電話が認められる。それでも、叔父には通じない。がっかりしたオスカルに、女性記者がこっそりと名刺を渡す。記者は、オスカルから内部事情を訊き出そうと思って渡したのだが、オスカルはそれを逆手に取り、記者が “収容者に話しかけてはならない” という規則を破ったことをバラすと脅し、叔父を捜すことを認めさせる。一方、悪いことも起きる。週に1度か2度のシャワーの日が来て、嫌がるオスカーは裸にされ、胸の入れ墨が見られ、同房者からの集団リンチに遭う。MS-13は、中南米全体で嫌われている組織なので、全員から敵視されたのだ。幸い、女性記者の調査は素早く、数日後には、オスカルは待機房を出て、“オスカルの亡命の可否を決める審問” までの2日間、叔父の保護下に置かれることになる。しかし、オスカルが連れて行かれた場所は、大きな農場で働く季節労働者用の粗末な小屋。アメリカは移民で成り立っている国だが、新たに加わろうとすると、“高度な知識や財産” がない限り、大変な場所だということがよく分かる。警察事に関わることを怖れる叔父は、審問に必要な書類には渋々サインするが、裁判所までは連れて行っても、中に入ることは断固拒否する。そして、1人だけで審問に出たオスカルは、ホンジュラスから逃げる必要があったことを説明する中で、うっかりギャングのことを話してしまい、結果的に亡命は不許可になる。その結果が、“甥がギャングの一員であったことによるもの” だと知った叔父は、かつて自分を世話してくれた牧場主に頼み込み、オスカルを1000キロ以上離れた場所で、単純労働者として働かせることにする。オスカルは、学校にも行けないと知らされるが、いつの日か、ホンジュラスにいる家族をアメリカに呼び寄せるため、自分が頑張ろうと決心するのだった。

オスカルを演じるアンソニー・ゴンザレス(Anthony Gonzalez)は、ロス生まれ(2004.9.23)のアメリカ人。撮影時期は不明だが、映画の上映は2018.9(トロント国際映画祭)なので、恐らく13歳。映画での12歳という設定とほぼ一致している。アンソニーは、アニメーション映画『Coco(リメンバー・ミー)』(2017)で主役のミゲルの声を演じて高く評価されたが、本格的な映画出演はこれが初めて。幸福に育ったアメリカの少年が、悲惨なアメリカ難民を上手く演じている。

あらすじ

映画の冒頭、何もない小部屋の中で体に入れ墨をしたヤクザな男たちが少年を床に抑え込んでいる(1枚目の写真)。少年は嫌がって「いやだ!」と叫ぶ。「黙れ! さもないと、お前の家族を細切れにするぞ!」「お前は、俺達の手下になるんだ」。男の1人は、少年が叫ぶのを無視して胸に入れ墨を入れる(2枚目の写真)。この段階で、説明は全くない。後で、この場所はホンジュラス、少年は無理矢理ギャングの手下にされてようとしていたのだと分かる。ホンジュラスは、外務省の「海外安全ホームページ」で「レベル2」、すなわち、「不要不急の渡航は止めてください。渡航する場合には特別な注意を払うとともに、十分な安全対策をとってください」に分類されている。「犯罪発生状況」の項には、「凶悪犯罪の中心となっているのは、青少年凶悪犯罪集団『マラス(Maras)』で、縄張りや銃器・薬物密売を巡る組織間での対立抗争により、銃器を使用した殺人事件が頻発し、流れ弾で無関係の一般市民が死亡するケースも発生しています」と書かれている。また、朝日新聞のサイト「GLOBE」の2018.4.27の記事には、「殺人率、2年連続世界最悪… (マラスによる)殺害と報復の応酬が続き、米国に逃げる子供や家族連れの移民が後を絶たない…」「体中、そして、顔にまで『13』や『18』といった組織名の一部を彫り込んだ入れ墨…」とある〔一部抜き出し〕。ここで「13」というのは、最も凶悪とされる「MS-13」(マラ・サルバトクチャ)と「Barrio 18」(バリオ18)という2大組織のこと。少年の胸に彫られているのは、「XVII(17)」なので、これらとは抵触しないよう中間の数値を採用したのかもしれない。少年は12歳だが、「A Boundless Battlefield(終わりなき戦場)」というサイトの2018.11.18の記事の主役は、12歳で自ら進んでバリオ18に入った男が21歳になって離脱しようする時の苦労を、海外のジャーナリストが綴ったもの。映画の少年も同じ12歳でギャングに入っている(こちらは、強制徴用なので、もっと悲惨)。なぜ、冒頭で詳しく背景を説明するのか? それは、映画の中では何も説明がないため。
  
  

「3週間後」と表示され、学校での授業シーンに変わる。女性教師が、生徒に課した「夏」をテーマにした作文を、黒板の前に立たせて発表させていると、突然ドアが開き、先ほどの少年が入ってくる。教師は、「お早う、オスカル」と、声をかける(1枚目の写真、矢印)。オスカルは、「お早うございます、ゴメス先生」と言って、教室の中に入って来る。「制服はどうしたの?」〔全員白のシャツ〕。「洗濯中です」。「お母さんは、あなたの調子が悪いっておっしゃってたわ。もう、良くなったの?」〔母は、ギャングに脅されて学校にはそう伝えたが、実際は、その間、オスカルはギャングの手下として働かされていた〕。オスカルが僅かに頷くと、教師はそれ以上追及せず席に着かせる。オスカルが座ると、隣の子が、「よお、どうしたんだ?」と訊く。オスカルは何も言わない。隣の子は紙切れを渡して「舐めろ」と言う。「何で」。「後で、僕が舐める。そしたら、病気になって、家にいられる」。「ホントは、病気じゃない」。その時、窓の外から、「おい、オスカル」と呼ぶ声が聞こえる。「ここだな!」。その時、発表している子が終わり、次に当たったのが、オスカルの隣の子。その子は、宿題がやってなかったので、教壇に立つと、即席で無意味なことを話し始める。生徒が笑い始めりと、いきなり教室の窓ガラスに銃弾が撃ち込まれ、ガラスが割れ、生徒達は机に伏せる(2枚目の写真)。窓の外から、「オスカル! 出て来い! さもないと殺すぞ!」という声が聞こえる〔オスカルは、ギャングから逃げて学校に来た〕。銃弾が、次々と撃ち込まれる。オスカルを含めた生徒達は廊下に逃げる。「出て来い! 死にたいのか?!」。オスカルが出口に向かうと、そこにはギャングが待っている。「いたぞ! 捕まえろ!」(3枚目の写真、矢印はギャング)。オスカルは必死に逃げる。「戻って来い!」。オスカルは物置の窓から外に脱出する。そして、タイトルが表示される。
  
  
  

家に逃げ帰ったオスカルを見た父は、「彼だ! 戻ったぞ!」と叫び、息子を抱きしめる。その声を聞き、母が飛び出して来て、「坊や、大丈夫? どこにいたの?」と言いながら、抱きしめる。妹も兄に抱き着く(1枚目の写真)。オスカルは、「ハイメ、会いたかった」と言って、妹を抱きしめる。父は、「学校には行くなと言ったろ! 奴らに見つからなかったろうな?」と訊くが、オスカルは何も言えない。取り敢えず、外にいるのは危険なので、家に入る。部屋の中で、オスカルは上半身裸になり、ベッドに座っている。映画では、ここで初めて、彼の胸に大きく「XVII」と、組員のマークが彫られていることが分かる。隣の部屋からは、父の声が聞こえる。「お前の弟に電話しろ。今夜、息子を出発させると伝えるんだ」。母は、「嫌よ。そんなことできない」と反対する。「まだ子供なのよ。私たちが必要だわ」。「学校も襲ったんだぞ! すぐここも見つかる! 今夜発たせないと! 話して来い!」。「もう、聞こえてるわ」。両親と別れると知ったオスカルは涙が止まらない(2枚目の写真、鼻の先端は涙)。母が部屋に入ってくると、オスカルは急いでシャツを着る。母は、オスカルの隣に座ると、「その入れ墨、誰にも見せちゃダメ。叔父さんにもよ」と注意する。そして、「あなたが悪いんじゃない。奴らが、あなたに何をさせたとしても、あなたに罪はない」と慰める。「母さんと一緒にいたい」。母は、「私を見なさい」と冷静な顔で言うと、「あなたは、もう子供ではいられない。こうなったら、大人にならないと」(3枚目の写真)「生き残るためよ」と、涙を押さえて気丈に励ます。「もう泣かないで。私は泣かないわ。すぐに一緒になれると知ってるから」と言い、オスカルの手を握りしめる。その後、オスカルの寝室に移り、母は、ナップサックに必要なものを詰める。横では、父が、闇業者に、「ああ、余分に払う。だけど、今夜じゃなくちゃ困る」と携帯で話している。そこに、妹がさよならを言いに入ってくる。オスカルは妹を抱きしめ、そこに父が割り込む。オスカルが幸せな顔を見せるのは、この時だけだ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

その夜、アメリカ国境行きのトラックの近くまで来た時、母は、「叔父さんの電話番号持ってる?」と訊く。「ポケットの中」。「失くすかもしれないから、靴の中に入れなさい」。オスカルはすぐ靴を脱ぎ、紙を靴の中に入れる(1枚目の写真、矢印)。母は、お金を出すと、「下着の中に入れて」と言って渡す。父は、出発までぎりぎりの時間の中で、オスカルに、「誰も信用するな。誰とも話すな。だが、離れるんじゃない。何かを頼まれたら、ノーと言え。一緒に行こうと言われても、行くんじゃない。停まっても、トラックを離れるな。トラックに入っている間だけ眠れ」と、早口で注意すると、今生の別れとばかりに抱きしめる。「お前は、素晴らしい心を持った子だ」。母は、ここにきて、涙が止まらず、オスカルを抱いて放したがらない。それでも、時間がオーバーしているので、引き離されてトラックに乗せられる〔2018.12.4付けの報道機関のサイトによると、ホンジュラスからアメリカへの密入国者が闇業者に払うお金は30万円ほど。同年のホンジュラスの都市住民の平均月収は約2.1万円なので14ヶ月分の収入にあたる。そのサイトには、こうした原因をそもそも作ったのは、もともとロサンゼルスで形成されたMS-13を、1990年代のエルサルバドルでの内戦終了をきっかけとしてクリントン政権が強制送還したから。さらに、その元を辿れば、レーガン政権時代にホンジュラスの隣国ニカラグアの左翼サンディニスタ政権を倒すための軍事介入の結果、アメリカへの合法的なホンジュラス移民が増加した経緯がある。アメリカが2度にわたって関与し、その結果として生じたホンジュラスからの難民を、トランプ政権が違法移民と断定する政策を進め、アメリカ国民の40%はそれを支持している。何という矛盾、何という忘れっぽさ、何という非情さ〕
  
  

〔オスカルの出発地点が首都のテグシガルパからだとすれば、アメリカ国境までは、直線距離でも3000キロを超える。到底1日では辿り着かない距離だ〕。トラックの中は、時間にかかわらず常に真っ暗(1枚目の写真)。夜、突然、トラックの後部が開けられる。懐中電灯をかざして乗り込んできた男たち。正体は分からない。「女はどこだ?」。運転手が、「ここにいるだけだ」と言うが、「こんな、くそ婆あじゃ役に立たん」と、相手にしない。男たちは中に入っていく。オスカルは、女性ではないが、顔を隠す(2枚目の写真)。「他の奴らは、どこに隠した?」。他にも中年女性を見つけるが、「何て醜いんだ」と罵る。一番奥に隠れていた若い女性が見つかって引っ張り出される。トラックの後部は再び締まり、トラックは再び走り始め、オスカルは眠る(3枚目の写真)。この映画では、こうした実態の分からない出来事が 説明なく描かれる。
  
  
  

再度、トラックの後部が開けられと、目の前に砂漠のような荒れ地が広がっている。全員が立ち上がり、トラックを降りる。オスカルは最後になり、高い荷台の上から辺りを見回す(1枚目の写真)。降りた男たちは、すぐに小便を始める。全員は、すぐに歩くよう命じられ、「次に行く所で、アメリカで入り用なものは何でも買えるぞ」と告げられる。全員が辿り着いた掘っ立て小屋のような場所では、奥にいろいろなものが販売用に並んでいる。「全部アメリカ製だ」。オスカルが、小さな袋を手に取ると、「それは水に混ぜて使う。脱水状態にならない」と説明される(2枚目の写真、矢印)。オスカルが、四角い箱を手に取ると、「音楽が好きか? ゲームは?」と訊かれるので、その種のものだろう〔何かは分からない〕。オスカルは、少し考えて戻す。横にいた店のもう一人の男が、「賢い子だな。ここに並んでるガラクタの大半は、うまく動かない」と話しかける(3枚目の写真)。
  
  
  

夕方で辺りが暗くなった頃、全員は国境に連れて行かれる。国境の高い鉄柵にはハシゴが2つ掛けてある。男はメキシコ側に1人、アメリカ側に1人いる(1枚目の写真)。メキシコ側の男が、「いいか、お前ら。そろそろ時間だ。昼間は隠れろ。夜間は 話すな、吸うな、明かりをつけるな。遅れずについて来い。でないと置いていくぞ。助けに戻ったりはしない。分かったか? 注意しろ。奴らは、地面にセンサーをつけるかもしれん。自転車に乗ったら、すぐに行け」(2枚目の写真、矢印はオスカル)。そして、2人ずつハシゴを登り、アメリカ側に行かせる。最初の組が、アメリカ側のハシゴに移ると、2番目の組に行かせる。オスカルは、その2組目だった。ハシゴの上まで登ると、これから入るアメリカをじっと見てしまい、急かされる(3枚目の写真、右に映っているのは 先に自転車に乗った男)。転落の危険があるのは、てっぺんで向きを変え、アメリカ側のハシゴに移る時だ。下に降りたオスカルは、柵に沿って置いてある自転車を1台選び、それに乗って出発する。
  
  
  

暗い中、自転車で走る一団。突然、パンクの音が聞こえる。それと同時に、オスカルが自転車から降りる。すぐに、男たちの1人が、「ボス、ガキを待たないと。また停まってますよ」と報告する。すぐにボスがやってくる。先ほど、売店でオスカルを賢いと褒めた男だ。「どうした?」。「何も。元気だよ」。「そうか? 俺たちの足を引っ張ってるぞ。これ以上、待っておれん」。「ついていくよ」。「ちょっと待て。自転車を調べる」(1枚目の写真、矢印はオスカルの自転車)「こりゃいかん。タイヤがパンクしてる。これじゃ砂漠を越えられんぞ」。「叔父さんが待ってる」。「どこにいる?」。「エイトン・フィールズ、フェニックスの郊外」。「フェニックスまで2日かかる。それじゃ無理だ。こうしよう。俺と一緒に戻って、一緒に働こう。新品の自転車を買ってやる」。その時、誰かがタバコに火を点ける。ボスが制止しに行った時を逃さず、オスカルは走って逃げる(3枚目の写真、矢印はオスカル)。一旦暗闇に紛れると、もうどこにいるか分からなくなる。「ここには砂漠しかないぞ。お前は死んじまうぞ!」の声が、空しく響く。
  
  

日中になり、灼熱の乾燥地をオスカルは歩き続ける。何かの機械音がするが、オスカルが見回しても、何もない(1枚目の写真)。そのうち、ゴミが散乱した場所に来る。オスカルが落ちている物を必死に調べると、中に飲み残しの液体の入ったボトルがある。オスカルは、越境前の店で買った薬を入れ(2枚目の写真、矢印は薬)、中身を消毒してから飲む。これで、喉の絶望的な渇きは収まったが、地面に座り込んだ時に空を見上げると、目に入ったのは何とドローン。その報告を受けて、国境巡視隊の車がすぐにやってくる。オスカルは急いで逃げ出し(3枚目の写真)、女性の係官に捕まるが、手に噛みついて逃げる。今度は、男性の係官と2人がかりで捕まってしまう。
  
  
  

オスカルは、違法入国した子供が収容される待機房のある建物に連れて行かれる(1枚目の写真)。オスカルは、さっそく身体に何か持っていないか簡単な検査を受ける。別の係官が、「何か書類は?〔英語は赤字と検査官に訊くと、「ない」と答える。訊いた方の係官は、オスカルのバックパックの中を調べている。幸い、違法なものは入っていない。調べていた係官は、「マルケスに噛みついたんだって?」と面白そうに、もう1人に話しかける。相手は、「ああ」と言って笑う。オスカルは、パソコンを前にした係官の前に連れて行かれる。「名前?」。「オスカル・フェルナンデス」。「国籍?」。言葉の意味が分からない。「どこから来た?」。「ホンジュラス」。「年齢?」。「12」。ここで、指紋を取られる。「合衆国に親戚はいるか?」。「叔父さん」。「彼の名前は?」。「マニュエル・フェルナンデス」。ここで、係官は重要な質問をする。「ホンジュラスで安全に危機を覚えるなら、君には保護を求める権利がある。戻るのは恐ろしいか?」。「はい」。「なぜ?」。「悪い奴ら」。「(スペイン語が)読めるか?」。オスカルは頷く。係官は、病院の問診票のようなものを渡す〔クリップボードに筆記用具と書類をはさんだもの〕。「悪い奴らって何だ? ギャングのことか?」。「はい」。「OK。君は、判事の審問を受ける権利がある。両親とコンタクトする権利がある。弁護士を付ける権利がある。ただし、その費用の面倒まではみない。我々は、君の弁護士の費用は払わん。分かったか?」。「OK」。「判事の審問を受けたいか?」。「はい」(2枚目の写真)。「そこに、署名しろ。OK。オスカル・フェルナンデス。264-499-838。何か質問はあるか?」。「僕、これから、どうなるの?」。「審問の結果次第だ」。機械的としか言いようのない形式的なやりとりの後、オスカルは両側がフェンスになった中央の通路を連行される(3枚目の写真)。
  
  
  

新入りが来ると、収容されている子供たちが、フェンス際に集まってくる。「どこから来た?」「名前は?」という声に混じり、「今日、まだ電話かけてない!」「ボス、電話かけさせろよ」などの要望も聞こえる。係官は、フェンスの扉の1つを開けると、中にオスカルを入れる。男性の係官は、通路をはさんだ反対側のフェンスにいる年上の子に、「構うんじゃないぞ」と注意する。しかし、その子は、「新入りに電話をかけさせてやれよ!」と係官に言う。「だめだ」。「やれるじゃないか」。「やめるんだ」。その子は、オスカルに向かって直接声をかける。「おい、お前、電話かけたいだろ? 彼らは、電話をかけさせてくれる」。それを聞いたオスカルは、「僕、叔父さんに電話しないと! お願い!」とフェンス越しに係官に頼む。「今すぐかけないといけないんだ! お願い!」。大きな子も、「規則に従えよ」と支援してくれる。その言葉が効いたのか、次のシーンで、オスカルは電話室にいる。そこには10台の電話が1つの長細い机の上に対面して置かれていて、子供たちが無料で電話をかけられるようになっている。オスカルは靴の中に隠しておいた “叔父の電話番号を書いた紙” を取り出す。オスカルは、その番号に電話をかけるが(1枚目の写真、矢印)、留守録になっている。「もしもし、叔父さん。オスカルだ。聞いて。出入国管理に捕まっちゃった」。ここまで言うと、隣の子に、「悪いけど」と声をかける。その子が振り向くと、「ここは、どんな名前の場所?」と訊く。しかし、その子も、「Nで始まる名前だけど…」というだけで、おぼつかない。そこで、「ここの名前は分からないけど、すごく大きな建物なんだ。子供たちがいっぱい。僕を迎えに来てくれれば、審問までの間 ここを出られるんだって」〔これまでの会話にはなかった〕「また、電話するよ」。受話器を置くと、オスカルは、また隣の子に、「どうやったら、ホンジュラスにかけられる?」と訊く。その子は、1枚の紙を示す。それは、中南米の国際電話番号を書いた紙で、ホンジュラスなら「504」だと分かる。幸い、電話口には母が出た。母は嬉しさのあまり一方的に話す。「アメリカからだわ! あなたなの?」。「そうだよ、ママ」(2枚目の写真)。「やったのね! 叔父さんと一緒! 嬉しいわ。何て偉い子なの!」。「ママ…」。「叔父さんに感謝しないと。すごく危険なのよ。グリーンカードをもらえるチャンスを危険にさらしたの。お礼が言いたいから、代わって」。ここで、オスカルは、本当のことが言えなくなる。「ここには、いないんだ」。「どこにいるの?」「今、仕事中」。その後も、母の一方的な話は続くが、耐えられなくなったオスカルは、叔父の電話代が嵩むからと言って、電話を切る。
  
  

食事の時間。子供たちは、トレイに好きなものをとって、テーブルに座っていく。オスカルは、さっき電話のところで教えてくれた子を見つけると、「君、“りゅうじ” 見た? その人、見つけないと。きっと、僕を助けてくれる」と尋ねる(1枚目の写真)。「“りょうじ(領事)” だよ。今はいないけど、すぐに来るよ。合衆国にいる子供たちみんなの面倒を見てるんだ」。それを聞いたオスカルは、1つ後ろのテーブルに座る〔その子の横には、座るスペースがない〕。それを見た子は、自分のトレイを持つと、オスカルの隣に座る。そして、「領事館の人たちは、ここにいる全員のリストを持ってるんだ。心配するな」と教えてくれる。そこに、“最初に電話のことを教えてくれた大きな子” がやって来て、「おい、ガキども。お前らバカか。俺たちは全員送り帰されるんだぞ」と言う。オスカルの隣の子は、「僕のいとこは、ちゃんといるよ」と反論する。「ホントか? そりゃ大したもんだ。いとこによろしく言っといてくれ」。そう言うと、隣な子のトレイに置いてあった飲み物を勝手に取り上げて飲む。大きな子は、オスカルを向くと、「お前、捕まった時に暴れたそうだな。ホントか?」と訊く。オスカルは、自分の飲み物も、その子に取られそうになったので、飲み口を何度も舐めて汚す(2枚目の写真、矢印は大きな子に飲まれた飲み物のボトル)。大きな子が、「お前が送り帰される時が楽しみだな」と言って席を立ち、去って行くと、オスカルは、飲み物のボトルを大きな子の背中に投げつける。振り向いて怖い顔をした大きな子を、オスカルは睨みつける(3枚目の写真、隣の子の仕草が面白い)。大きな子は、オスカルに寄ってくると、仕返しなどはせず、「お前は、小さな怪物だな。だが、そんな態度だと、為にならんぞ。俺は3回施設を移された。どこもこんな場所だ。奴らは、最後には、送り帰すつもりだ。お前も、審問が終わったら、送り帰される。ここに居させる気なら、こんなひどい施設作ると思うか?」と静かに言う〔最後の言葉は的を射ている〕
  
  
  

その日の夜が、オスカルにとって初めての夜。待機房に “icebox(冷蔵庫)” の異名がある如く 夜は寒い〔最後の裁判の場面で、オスカルの不法入国日が5月10日だと分かる。5月中旬でのフェニックスの最低気温は20℃だが、コンクリートの床の上だと、本当に “冷蔵庫” のように寒いのだろうか?〕。子供たちに渡されるのは大きなアルミ箔(はく)1枚〔体の下に敷くマットレスはある〕。それで全身を覆ってオスカルが震えていると、食事の時に隣に座った子が、「おい、君」と声をかける(1枚目の写真、矢印は、声をかけた少年)。オスカルがそちらを向くと、「こっちへ来いよ。そのままじゃ凍えちゃうぞ」と言う。それでもオスカルが動かないでいると、わざわざオスカルのところまで来て、「一緒に寝よう」と言いながら、オスカルのマットレスを運ぶ。「僕は、ラファエルだ」。「オスカル」。ラファエルは、自分が寝ていたマットレスの横にオスカルのマットレスを置くと、2人で並ぶ。しかし、最初、オスカルは自分だけでアルミ箔にくるまる。これでは、2人で温め合う効果は全くない。そこで、ラファエルは、「こっちに来いよ。君のおちんちんに触ったりしないから」と言い、その冗談に、ようやくオスカルもにっこりして体をくっつけ合う(2枚目の写真)。そのあと、ラファエルは、わざとオスカルの下腹部を触り、2人は笑い出す。これで、オスカルにも友達ができた。
  
  

翌朝、天井灯が一斉に点き、係官が「起きろ!」と声をかける。「今日、ジャーナリスト達が来る」。子供達は、房ごとに全員廊下に出され、その間に、係員が中を清掃する。一列に並んだ子供達に、係官が、「今日のゲストはジャーナリストだ。話しかけるな」と言うと、オスカルが、「電話をかけないと」と言い出す(1枚目の写真)。「今はダメだ」。そして、再び全員に、「覚えておけ。ここの規則に従っていれば、審問の時 不利にならん。ジャーナリストは、お前達に話すことは許されておらん。もし話せば、すぐ警察に通報がいく」。ここで、再度オスカルが割り込む。「どうしても、電話をかけないと! 叔父さん、昨日は不在だった」。「後だ」。係官の訓辞が終わると、まだ通路にいなくてはいけないので、少年達は、少女達が入っている房の前まで行く。前からここにいる少年は、「手本を見せてやる」とオスカルに言うと、フェンスの隙間から尖らせた口を突っ込み、「唇にキスしろよ」と言うが、女の子の1人が素早く手のひらで叩き、危うく当たりそうになる。女の子達から笑い声が起きる。手本を見せようとした少年は、オスカルをそそのかしてキスさせようとするが、その騒音に気付いた係官によって解散させられる。オスカル達が房に戻り、しばらくすると、英語が聞こえてくる。「ここのすべてが待機房〔holding cell〕で、現在満員です。年齢と性別で分けています。ご覧のように過密状態で、人手不足です。それでも、現時点では何とか手を尽くして、全員を管理するよう心がけています」(2枚目の写真)。その時、係官を見たオスカルが、「お願い、電話をかけさせて。叔父さんに連絡しないと」と叫ぶ。「彼は、昨日電話をかけました。新しい入所者は、電話をかけることができるのです」。「電話、つながらなかった」。女性記者が、「家族と話せなかったの?」と訊く。「僕がここにいると、誰も知らない」(3枚目の写真)。係官が、すぐに、「違法行為ですよ」と記者に注意する。オスカルは、「もう一度電話しないと」と係官に訴える。「今すぐ、やめるんだ」。「電話かけたい」。「今やめれば、後で、電話室まで連れてってやる。いいな?」。「いいよ」。「次は、食堂と電話室をお見せします」。
  
  
  

悶着を起こしたお陰で、オスカルは、初日に続いて電話をかけさせてもらえる(1枚目の写真)。しかし、2度かけても、叔父の電話は留守録になっている。オスカルが3度目に挑むと、目の前で取材陣の連続シャッター音が聞こえ、驚いて顔を上げる。叔父と連絡がつかないオスカルは、困惑してしまう。それを見ていた、先ほどの女性記者が、「どこから来たの?」と声をかける。「ホンジュラス」。「ここには、どのくらいいるの?」。オスカルが黙っているので、記者は名刺を置くと、「係官には、弁護士に電話をかけると言いなさい。それは、あなたの権利だから、拒否できないの」と教える(2枚目の写真、矢印は名刺)。その時、係官が、報道機関は全員出て行くよう指示する。
  
  

その夜、房の中で、しくしくと泣く声が聞こえる。全員が眠っているのに、イスに座って泣いているのは、ラファエルだった。オスカルが、「どうした?」と声をかける(1枚目の写真)。「ママとパパが恋しいんだ。弟も」。オスカルはラファエルの隣に座る。「パパは、どんな人?」。「素敵な人。眼鏡をかけてる。絶対叱らない。そして、面白いお話をしてくれる。君のパパはどんな人?」。「素敵だよ。心配症だけど」(2枚目の写真)。「なぜ、ホンジュラスを離れたの?」。オスカルには何も言えない。「言いたくなければ、言わなくてもいいよ。叔父さんに会えたら、何をするの?」。「学校に行くんだ。成績は悪いけど、好きなんだ」。ラファエルが、「クールなもの見たい?」と言い、お腹を出すと、「ここから虫垂を取り出したんだ」と打ち明け、座り直すと、「来てくれてありがとう、アミーゴ」と感謝する。翌日も、オスカルは電話をかけるが、また留守録。そこで、名刺を取り出し、電話する。「パルラです」。「今日は、オスカルだよ。名刺くれたでしょ」。「まあ、素敵。幾つか、質問がしたいんだけど…」。「叔父さんを見つけなきゃいけないんだ」。「私は、援助活動家じゃなくジャーナリストなの」。「そんなこと知ってるよ」。「じゃあ、そこがどんなトコか話して。待遇は?」。「もし、叔父さんを見つけてくれたら、何でも話すよ」。「私の仕事じゃないわ。今は、とっても忙しいの」。ここから、オスカルの逆襲が始まる。「あなたは、僕と話しちゃいけないんだ。係官に、あなたがくれた名刺見せるからね」(3枚目の写真)。そう言うと、実際に係官を呼ぶ。「オスカル、やめて!」。やってきた係官を何とか帰すと、記者は、叔父の名前と電話番号を訊く。そして、「やってみるわ」。
  
  
  

その日の夜も、2人は仲良く体を温め合う。オスカル:「どこから来たんだ?」。ラファエル:「ボコタ、コロンビア」。「なぜ、来たんだ?」。「弟が死んだ。ギャングに殺されたんだ」。「可哀想に」。「なぜ、ホンジュラスを離れたの?」。この質問に、一度はラファエルに何か言おうとしたオスカルだったが(1枚目の写真)、結局、何も言わずに反対側を向いてしまう。それを見たラファエルも、反対を向くが、「お休み」とだけは言う。ラファエルは、それにも答えない。画面は朝となり、係官が、「お早う! 起きろ、寝坊助ども! 今日は、いい日だぞ! シャワーだ! ほら、行くぞ!」と、全員を立たせる。オスカルは、裸になれば入れ墨が分かってしまうので、蒼白になる(2枚目の写真)。そして、房の中にある簡易トイレに隠れようとするが、係官に、「おい、こら、ダメだ。全員シャワーだ。お前もな」と言い、無理矢理に連れて行かれる。シャワー室に行くと、まず、「シャツを脱げ。(頭髪の中の)虱を取る。終わったら、そこにあるタオルを持っていけ」と言われる。オスカルが、虱取りの前をシャツを着たままスルーしようとすると、「おい、どこへ行く?」と制止され、バスタオルを渡されるが、オスカルはそれを叩き落とす。「シャツを脱げ」。もう一度タオルを渡され、「シャツを脱げ」を言われるが、また叩き落とす。「こんな奴に付き合ってる暇はない」と、3度目にタオルを渡し(3枚目の写真)、オスカルがそれを投げ捨てると…
  
  
  

オスカルは、2人がかりでシャツを脱がされる。彼は、入れ墨を見られまいと必死に抵抗し、胸の部分のシャツを両手で押さえるが、それも剥ぎ取られ、遂に「XVII」の文字が丸見えになる(1枚目の写真)。マラ・サルバトルチャ(MS-13)は、ホンジュラスだけでなく、グアテマラ、エルサルバドル、さらには、メキシコからコロンビアに至るまで構成員がいる大規模なギャング団。オスカルがこの組織の一員だと見なされれば、この施設に収容されているすべての子供たちは、オスカルを敵とみなす。しかも、自分達を故国から追いやって、アイスボックスになど収容させた元凶だと。オスカルは、すぐに胸を隠してシャワー室の通路の隅にうずくまるが(2枚目の写真)、既に時は遅い。全員が、この忌まわしい事実を知ってしまった。係官は、他の子供達を、「シャワーに戻れ」と追い返すが、「こいつは問題だぞ」と事態を憂慮する。その夜、オスカルが1人で寝ていると、同房の少年達が周りに集まってくる。そして、1人がオスカルのアルミ箔を、「このクソッタレ!」と言いながら、剥ぎ取る。オスカルを取り囲んだ少年たちは、一斉に彼に殴る蹴るの暴行を加える。肉親を殺された恨み、祖国を逃げ出して両親と別れ別れにさせられた恨みがこもっている。「このギャング野郎!」。騒ぎに気付いた係官が照明を点け、「やめろ!」と怒鳴る。最後までオスカルに馬乗りになっていた少年は、オスカルの顔を思いきり殴りつける(3枚目の写真)。係官が2人がかりでオスカルから引き離し、女性の係官がオスカルを医務室に連れて行く(4枚目の写真)。房に戻されたオスカル。ラファエルは、先程の暴行には 1人だけ加わらなかったものの、オスカルに口をきこうとはしない。結局、オスカルは、房内に2つある簡易トイレの1つに閉じこもる。また、夜となり、簡易トイレ内でオスカルがアルミ箔なしで震えていると、外ですすり鳴きが聞こえる。オスカルは、「ラファエルか?」と声をかけると、バタンと音がし、ドアを開けると、ラファエルがアルミ箔に潜り込むのが見える。
  
  
  
  

翌日か、翌々日、チャリティーで寄せられた古着が子供達に提供される。少しでも暖かいものを求めて激しい奪い合いが始まる。そんな時、助けてくれたのが、例の “大きな子”。自分が獲得した暖かそうなセーターを、「これがいいぞ」と渡してくれる(1枚目の写真)。その夜、オスカルが、1人でアルミ箔にくるまっていると(2枚目の写真)、火災警報が鳴り出す。係官が、「いったい誰が火を点けた!?」と怒鳴る。全員が廊下に並ばされる。その中を、「誰がやった!」と怒りながら係官が歩いて行く。火元は、オスカルの向かい側の房の簡易トイレの中だった」。係官が消火する。「やったのは、お前たちの中の誰だ!?」。少年の1人が、もう1つのトイレを指差す。「あの中か? いるんだな?」。係官が、力まかせにドアを開けると、中に隠れていたのは、“大きな子” で、素早く逃げ出す。しかし、フェンスで囲まれた房の中で、相手が3人の係官では敵うはずもなく、すぐに取り押さえられる。“大きな子”は、引きずるように連行されながら、「みんな、送り帰されるぞ!」と叫ぶ(3枚目の写真)〔映画のこのシーンの意味は、よく分からない〕
  
  
  

翌日、オスカルに電話がかかってくる。女性記者からだ。「叔父さんはとっても怖がりで、あなたが収容されている施設には近寄りたくないって。いい人なんだけど、すごく神経質なの。じゃあ、忙しいから」。オスカルは、必死に、「待って、切らないで! 何でも話すから」(1枚目の写真)「泣いてる子とか、どんなに寒いかとか、ケンカや食事のことも。お願いだから、叔父さんと会って」。「仕方ない、やってみる」。夜になり、オスカルが待っていると、ラファエルがトイレに入って行く。泣くためだ。オスカルはドアをノックし、「ラファエル、そこにいると分かってる」と声をかける。「僕を、出せよ!」。「入れ墨なんかしたくなかった。無理矢理させられたんだ」。「出せ!」。オスカルは、話を聞いて欲しいので、ドアを押さえて出さないようにする。「僕が、なぜ逃げたと思う? ギャングなんかじゃないからだ。もし、判事が僕を国外追放にしたら、僕は奴らに殺される。君の弟みたいに」。この言葉でラファエルは静かになる。そして、ドアが開く。「前に、話さなくてごめん。恥ずかしかったんだ」。ラファエルは、その言葉に頷く。そして、友達らしく、「判事には何て言うの?」と訊く。「分かんない」。「ついてきて。エキスパートを知ってる」。そのエキスパートとは、隣の房にいる、ラファエルよりも小さい子だった。「何なの?」(2枚目の写真)。「僕の友だちに、領事館の人が何を言ったか 話してやれよ」。「その子には、何も話すなとみんなに言われた」。「いいか、言わないと、君が おねしょしたって、みんなに話すぞ」。「おねしょなんかしてない」。「信じてくれるかな」。「分かったよ。何が知りたい?」。ここで、オスカルに替わる。「領事は、審問について何て言った?」。「正直に話せって。なぜ、逃げ出したかを、詳しくね。嘘はなし」。「他には?」。「なぜ恐ろしくて、向こうにはいられないかも、話せって」。それを聞いて、オスカルは、「ありがとう」と言うが、ラファエルと2人だけになると、がっかりする。正直には言えないからだ。ラファエルは、「何て話したらいいか、助けてあげる。練習しよう」と言ってくれる。「僕、こういうのは苦手なんだ」。「僕は、弟の宿題をいつも助けてやった」。オスカルは練習を始める。練習は、ラファエルが寝てしまってからも続く。結局、係官が天井灯を点けにきても続いていた。ラファエルは、「眠らなかったの?」と訊くが、オスカルは、判で押したように、同じ言葉をくり返す。ただし、この練習では、映画を観ている限り、なぜホンジュラスを逃げ出したかの部分が抜けている。そして、ギャングに対して訊かれた時の心構えも全くできていない。
  
  
  

3人の係官が鍵を開けて房に入ってくると、1人が「オスカル・フェルナンデス」と名前を呼ぶ。2人目の係官は、床にしゃがみ込んだままのオスカルのところまで来ると、やさしく、「行こう」と声をかける。物々しい雰囲気なので、ラファエルは、「彼をどこに連れてくの? ちゃんと戻ってくるの?」と心配そうに訊くが、誰も答えようとしない〔ラファエルは、オスカルがギャングとして処罰されないかと心配している〕。オスカルが連れて行かれた先は、予想と違い、最初に連れて来られた車寄せ。そこには、女性記者が待っていた。「領事館の人と話したわ。そしたら、あなたが叔父さんの所に行けるよう手配してくれた」。「叔父さん、どこなの?」。「車の中」。車に走って行こうとするオスカルを記者が止める。「まず、手続きを済まさないと」。女性の係官が、クリップボードにはさんだ書類を見せ、「ここにサインして」と要求する。記者は、「待って。これは何?」と、すべてに慎重だ。「これは、法廷への出頭通知。こっちは、亡命申請書」。「いいわ、サインして」(1枚目の写真)。オスカルはサインする。一方、叔父の車には、男性の係官が近づき、運転席の窓をノックし、サインすべき書類を見せる。すると、“恐怖の虜” のような叔父は、窓をほんの少しだけ開ける。係官は、仕方なく書類をクリップボードから外し、ペンと一緒に窓の隙間から中に入れる。叔父は、窓ガラスを台にしてサインすると、隙間から係官に戻す(2枚目の写真、矢印)。叔父がすぐに窓を閉めたことは言うまでもない。書類を渡された女性記者は、ちらと見て、「この書類は、注意深く読まないといけないわ」と注意する。そして、紙をめくると、「ここに、審問の日が書いてある。2日後よ。書類には、2人でちゃんと書き込むの。あなたと叔父さんと2人で。分かった?」と念を押す(3枚目の写真)。「ここも?」。「ここも、こっちも」。その時、係官が、「彼は、フェルナンデス氏の保護下にあるから、いつ出かけてもいい」と声をかけて行く。オスカルは、「ラファエルに OKだったと伝えて。叔父さんがみつかったって」と頼むが、聞いてくれかどうかは分からない。記者は、さっき係官が英語で言ったことを教え、後は叔父さんと相談するようアドバイスする。オスカルは、感謝を込めて記者に抱き着く。「名刺はまだ持ってるわね?」。「うん」。「叔父さんと行きなさい」。
  
  
  

オスカルが車まで行くと、叔父はとても嬉しそうな顔をする。しかし、すぐに小心な顔に戻り、「急げ! 後ろに乗るんだ」と、一刻も早く この場所から立ち去ろうとする。オスカルは、“係官が車まで持ってきて、叔父がドアを開けるのを拒否したので、置いてあった自分の荷物” を持つと、車に乗り込む(1枚目の写真)。叔父は「会えて良かった」と言うと、すぐに車を出す。施設から離れ、一般道を走り出すと、叔父は、「わお、こんな怖い思いしたの初めてだ」と笑いながら話す。「警官だらけだ」。オスカルは、車の中が暑いので、2日前に手に入れた厚手のセーターを脱ぐ。どのくらい走ったのかは分からないが、やがて車は広大な農園に着く。叔父は、「みんな、まだ働いてる」と言う。オスカルは、畑の方を見るが、広大すぎて人の姿は見えない(2枚目の写真)。叔父に呼ばれたオスカルは、前にある貧相な平屋の建物に入る。叔父は、中にある一つの部屋に連れて行くが、そこは狭い空間に二段ベッドが壁の両側に置かれただけの場所。叔父は、こんな所で暮らしていたのだ〔中南米からの移民の多くは、こんな劣悪な環境で働かされているのだろうか?〕。4人部屋にオスカルが加わったので、叔父は自分のベッドを譲り、床で寝ると言うが、床は、マットレスを敷いたら歩く場所がないほど狭い。オスカルは、上のベッドによじ登る。「電話に返事しなくて悪かった。ごめんよ。注意深くしないといけないんだ。俺は短期滞在ビザで3年いる。あと1年がんばれば、グリーンカードに応募できる。そして5年経てば…」〔映画の最後の方にある台詞から、叔父は、特定の犯罪行為の犠牲者となり、Uビザを取得した可能性が高い。農業従事者向けのH-2Aビザの場合、グリーンカードの取得は困難だが、Uビザなら、3年間所持していればグリーンカードを申請できる。従って、叔父は、最初の1年間 H-2Aビザで働いた後で犯罪に会い、Uビザに切り替わって今は2年目。あと1年頑張ればグリーンカードの申請が可能という状況なのであろう。これならば、叔父の言葉に制度上の矛盾はない〕。そこまで話した時、叔父はオスカルが手にした紙を見る(3枚目の写真、矢印)。叔父の表情がにわかに変わり、書類を手に取ると、「この書類は隠しとけ。お前がどこにいたかは口にするな。みんなが不安になる」と注意する〔審問前の違法入国の子供だと分かると、なぜ嫌がられるのかは不明〕。オスカルは疲れていたので、不安を抱えたまま眠ってしまう。
  
  
  

翌朝、オスカルが物音で目が覚めると、同室の労働者たちが出て行く。代わりに、叔父が、「お早う」と言い、食堂から籠に入れたパンを持ってきてくれる。叔父も、すぐに仕事に出かける。何もすることがないオスカルは、狭いベッドの上にいても始まらないので、外に出て叔父に会いに行く。叔父は、ゴーグルと厚いマスクをはめ、体躯にビニールを巻き、手には厚手のゴム手袋をはめ、農薬を散布していた。オスカルは、袖のない簡単な服を着て、叔父に近寄って行く。甥を見つけた叔父は、畑には毒があるので、建物に戻ってTVでも見て来いと連れ戻す。畑の端まで来た所で、オスカルが書類を取り出し、記者が2人で書くように言ったと、見せると、叔父は昨日のように、「これは、隠しとけと言ったろ!」と叱る(1枚目の写真)。「正気か?」。異常なまでの叔父の気弱さに、“無理矢理でも3週間ギャングの手下にさせられた” オスカルは怒りを隠せない。「裁判で負けちゃうよ!」(2枚目の写真)。叔父は、ゴーグル等を外すと、「もちろん負けないさ」と言う。「分かるはずないだろ」。「お前はいい子だ。また幼い。分かってくれるさ」〔叔父は、ギャングのことを知らないし、オスカルは、母から打ち明けるなと注意されている〕。「これが終わったら、近くに学校がある。一緒に行って見てみよう」。「でも、これ、ちゃんと読んでね」。叔父は、書類を受け取ると、丸めてポケットに入れる。明日は、もう審問なので、その日の夜、2人はトイレに閉じこもる。2人で書類を見るが、叔父は如何にもこうした書類に弱そうだ。オスカルが、「ここに、叔父さんのサインが要るよ」と紙を示す(3枚目の写真、矢印)。「そんなの不要だ」。「でも、ここに、サインしろって書いてあるよ」。「放っとけ。これでいいんだ」。「ちゃんと読んでよ!」。何度も促された挙句、ようやく書類を読む。「サイン… 『責任ある当事者』?」。叔父は、そこに、「Fuck me(最悪だ、チキショウ)」と言いながらサインする〔なぜ、彼がこれほどまでに自分の名前を書くのを恐れるのか全く理解できない〕。叔父の言葉に、オスカルは 「それ、どういう意味?」と訊く。「最悪の事態を表現するアメリカの言い回しだ」。これを聞いたオスカルの心は穏やかではない。
  
  
  

翌朝、審問の日、オスカルは、叔父から白いワイシャツを渡される。オスカルは、叔父に見られないよう、建物内に入って行き、シャツを脱いでYシャツを直接はおる(1枚目の写真)。オスカルは、叔父の車の中で、何とか自分でネクタイを結ぶ。裁判所に着いた叔父は、警官の姿を見ただけでビビる。そして、中に入って行こうとするオスカルを呼び止め、「悪いが、俺は、お前さんと一緒には行けん」と言い出す。「そんな!」。「1人の方がいい」。「嫌だよ」。「判事の印象が良くなる」。「一緒に、来てくれなきゃ!」。「できないんだ!」。「お願い、僕一人じゃ無理だ」。「大丈夫、書類は完璧だ」(2枚目の写真)「俺は車の中で待ってる」〔弱虫で無責任な最低の叔父だ。領事館が叔父にアクセスしているので、ビザの期限切れのような不備は何もないハズなのに…〕。オスカルは1人で玄関から入り、エレベーターで該当の階まで行き、審問の開かれている部屋のドアを開け、中に入る(3枚目の写真)。
  
  
  

1人前の判決が終わると、判事がすぐに、「ファイル番号264-499-838。オスカル・フェルナンデス」と読み上げる。オスカルは書類を持って立ち上がると、係官に指示された席につき、ヘッドホンを耳にはめる。「君は、オスカル・フェルナンデスに間違いないかね?」。女性翻訳者のスペイン語がヘッドホンから聞こえる。「はい、僕の名前はオスカル・フェルナンデスです」(1枚目の写真)。オスカルが、さらに話を続けようとすると、判事は「イエスかノーだけで返事するように」と注意する。翻訳が入る。「理解したかね?」。「はい」。そこから、決まりきった手続き論が始まるので省略し、中核となるシーンを紹介しよう。オスカルは、ホンジュラスから逃げて合衆国に違法入国した理由として、「ホンジュラスはとっても危険だからです」と答える。「なぜ、危険なのかね?」。「悪い人たちです」。「『悪い人達』というのは、犯罪集団のことかね?」。「はい」。「君が合衆国に留まりたいと願う理由は、そうしたギャングに対する恐怖心からなのだね?〔これは、きわめて好意的なコメントだ〕。「はい」。「彼らは、君を脅したのかね?」。ここで、オスカルは、「はい」と返事をすれば事は済んでいた。しかし、その代わりに、「僕の頭に銃を押し付け、ギャングに入らないと殺すと脅しました」と、余分なことを言ってしまう。それは、必然的に、判事の次の質問へとつながる。「それで、君はギャングに入った?」。「はい」。「それ以後、犯罪行為に加担した?」。「強制されたからです」。「君がギャングの一員だった間、どのような犯罪行為に関与したのかね?」。「いろいろです」。「具体的に言うと?」。「僕に盗みをさせました」。「暴力行為を目撃したことは?」。オスカルは黙っている。「質問に答えなさい」。「少年を撃つのを見ました」。「少年の殺害を目撃した?」。オスカルは、しばらく沈黙し、「奴らは、僕の学校で、その子を撃ちました。そして、死体を道路に捨てて行きました。家族ですら、死体に近づけませんでした」と説明する。「少年が撃たれた時、君はどこにいたのかね?」。オスカルには答えられない。「オスカル、君は、その少年の死に、多少なりとも関与したのか?」。黙ったまま。「君は、何かを強制されたのか?」。何も言わない。「質問に答えるよう、もう一度勧告する」。オスカルは下を向く。「質問に答えなさい!」。オスカルはヘッドホンを外す。「直ちにヘッドホンをつけるように」。係官がヘッドホンをつけるが、オスカルはすぐに外す。2回目もすぐ外す(2枚目の写真)。「オスカル、質問に答えなさい」。オスカルは、机に顔をうずめる(3枚目の写真)〔このシーンがよく分からない理由は、①映画の冒頭、オスカルが入れ墨をされ、3週間後に学校に戻るまでの情報が何も観客に与えられていない、②学校でオスカルが逃げた後、ギャングが学校で何かしたのかについても情報がない、の2点にある。オスカルの態度から、彼が少年の死に関与したらしいことは明らかだが、その内容が分からないと、感情移入できない〕。判事は、「オスカル、君が、なぜ、ホンジュラスに戻るのを恐れ、なぜここに来たのかは理解できる。だが、君の合衆国への亡命は承諾できない」(4枚目の写真)「君は、目下、マニュエル・フェルナンデスの保護下にあるため、結果は郵送される」と言い渡す〔却下は当然だろう。常習的盗難犯、特に、殺人に関与した疑いある人間の亡命など許されるハズがない〕
  
  
  
  

裁判所の外で待っていた叔父は、オスカルの異様な様子を見て、「どうした?」と尋ねる。オスカルは何も言わず車に乗り込む。車が動き始め、叔父が「どうなった?」「話してくれ」と言うと、オスカルは急に運転席のヘッドレストを思いきり叩き始める(1枚目の写真)。車を停めた叔父は、「おい、どうしたんだ?」と訊く。「負けたんだ!」。叔父は、「控訴すればいい」と言うが、オスカルは「黙れ! 嘘だ! 初めから追放処分だと知ってたくせに!」と罵る。「もう一度やってみればいい」。「国には戻れない。だから、逃げ出す!」。2人は激しくもみ合う。「何だと! 俺は、あの書類にサインしたんだぞ! だから、お前に責任がある! 縛ってでも、どこにも行かせないからな!」。「逃げ出してやる! 止めることなんかできるもんか!」(2枚目の写真)。叔父は、「俺は、生涯で一度、運に恵まれた。3人の暴漢に襲われた。お陰で、警察はビザ〔先に述べた “Uビザ” のこと〕を出してくれた。犯罪の被害者だったからだ。以来、ひっそりと暮らして来た。お前に、それをぶち壊させるつもりはないぞ! もう一度やり直すんだ」。その言葉を聞き、オスカルはYシャツの前をはだけて入れ墨を見せる(3枚目の写真)。それを見た叔父は、すべてを理解し、車から出ると、「なぜだ?! そんなこと何も知らなかった! お前には、これまで2度しか会ったことがない! お前が逃げたら、俺はすべてを失うんだぞ!」と叫ぶ。怒りを爆発させると、少し冷静になった叔父は、後部座席のドアを開けて中に入る。そして、隅で縮こまっている甥を見ると、それ以上何も言えなくなり、あきらめたように「Fuck me(最悪だ、チキショウ)」と言う。それを聞いたオスカルも、「Fuck me」と言う。叔父は、それを見ると、甥が可哀想になり、「おいで」と言って抱きしめる(4枚目の写真)。叔父が、ようやく、本当の叔父らしくなった一瞬だ。
  
  
  
  

叔父は、オスカルを農場に連れて帰る。まず、ホンジュラスの姉に電話するが、留守録になっていたので、敗訴したことを伝言として残す。その後、ベッドで食事をとっているオスカルの隣に座ると、今後の方針について話す(1枚目の写真)。「アレックスさんに電話した。いい人だ。お前をバスのターミナルまで迎えにきてくれる。あれほど太った人は他にいないから、お前もすぐに分かるだろう。あの人は、俺がアメリカに来た時、助けてくれた。今は、カリフォルニアにある大きな牧場の持ち主だ。お前はそこに住み、働くんだ」〔亡命が認められなかった者が、どうやって働くのだろう? H-2Aビザで働くことのできる最少年齢は18歳。扶養家族に対するH-4ビザは、叔父ではなく両親に対してしか認められない。アメリカの30種類あるビザの中で、該当するものは1つもない。しかし、オスカルが非正規雇用で捕まったら、それを紹介した叔父も責任を問われるハズだ。アメリカの制度に詳しくないので、どうしてこのようなことが可能なのか理解できない〕。働くという言葉に、オスカルは、「学校には行けるの?」と訊く。「ダメだ」。オスカルはがっかりする(2枚目の写真)。「アレックスさんは働き手を求めている。お前の面倒もちゃんとみてくれるだろう」〔アメリカの義務教育期間は小~高までの12年間で、12歳のオスカルは、中学と高校に行く義務がある。この点にも疑問を感じる。H-2Aビザが18歳以上なのは、義務教育が終わっていることを意味する〕。夜になり、叔父は、再度姉に電話をかける。今度は通じる。オスカルは、携帯電話から聞こえてくる母の声に感激する。「ママ!」、「坊や。寂しかったわ」。「僕もだよ、ママ」。「どこに行くか、叔父さんから聞いた?」。ここで、叔父が、「アレックスさんだよ」と口をはさむ。「カリフォルニアのウォトソンビルの牧場主だ。オスカルの世話をしてくれるから」。「心配しないで。叔父さんが ちゃんとしてくれるから」。「坊や、私達、今、必死に働いてるの。アメリカに行くお金を貯めるためよ」。「僕も必死に働くよ、ママ」(3枚目の写真)。
  
  
  

夜、遅く、叔父はオスカルを乗せて車を出す(1枚目の写真)。夜が明け、かなり明るくなってから、2人はバスの前にいる。オスカルは叔父に抱き着く(2枚目の写真)。そして、バスに乗り込む。ウォトソンビルは、サンフランシスコの南南東約110キロにあるので、バスはロサンゼルス、サンノゼ経由でサンフラシスコに向かうのだろう。ほとんど乗客のいないバスで、オスカルは、叔父が真横に見える席に座る(3枚目の写真)。そして、“いつ再会できるか分からない” 別れの瞬間。この節のシーンは短いが、バックグラウンドに、先ほどの母の話が、途切れずに流れている。「坊や… 明日は無理。明後日もね。でも、いつの日か、あなたの妹と、お父さんと、私とあなたは一緒に暮らせるわ。だから、もう怖れなくていいの。あなたは、また家族を持てる。だから、これから大変な目に遭ったり、寂しくてたまらなくなっても、その日のことを考えて」。
  
  
  

ウォトソンビルの とある街角でバスが停車すると、オスカルの窓の向こうには、きれいな小学校が見える。オスカルは、それを羨ましそうに見ている(1枚目の写真)。そして、バスが動き始めると、オスカルは “自分が永久に失ったもの” に対し思いを馳せる。「愛してるわ」。この母の言葉を思い出し、オスカルは勇気を奮い立たせる(2枚目の写真)。映画はここで終わる。前途多難を示す終わり方だ。
  
  

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