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Jasper Jones ジャスパー・ジョーンズ

オーストラリア映画 (2017)

オーストラリアの作家クレイグ・シルヴェイが2009年に出版した同名原作の映画化。思春期の淡いラヴ、家族の問題、人種差別といったありがちな主題に、家族内での陰惨な性的虐待に絡むサスペンスを織り込んだ作品。映画化は、かなり原作に忠実にされている。この映画の魅力は、何と言っても、主役のリーヴァイ・ミラー(Levi Miller)の誠実で純粋な人柄。一般的に、どんな映画でも、一風変わった個性的な役柄が目を惹き、評論家からの受けもいい。リーヴァイが演じるチャーリーのような「良い子」には、昨今の映画でなかなかお目にかかれない。その「良い子」を、リーヴァイはかなり上手に演じていて、観ていても すがすがしい。題名になっているジャスパー・ジョーンズは、イギリス系の父とアボリジニの母との間に生まれた混血児の名前。映画を観ただけでは、小さな写真に映っている母の顔が黒いのでアフリカ系だと思ってしまったが、原作にアボリジニと書いてあったので、ようやく混血の相手が判明した。いずれにせよ、1969年(原作では1965年)の段階では、有色人種との混血児は、白豪主義により 強烈な人種差別の対象となっていた。それが、この映画の大きな基調の1つである。しかし、この映画の中で起きる 若い女性の失踪の原因が、混血の青年と名門(といっても、田舎の村長にすぎないが)の長女との「許されざる恋」ではなく、村長である父親の娘に対する性的虐待による妊娠という設定には、少しがっかりする。

西オーストラリアの田舎町に住む14歳のチャーリー。彼が寝ていると、窓を叩く音がする。出て見ると、それは、今まで口すらきいたことのないジャスパー・ジョーンズという混血の青年だった。白豪主義の時代、アボリジニとの混血の青年が深刻な相談ができる相手など、同族を除けば皆無に近い。チャーリーは白人だが、人一倍誠実で、優しく、ジャスパーもそれを見込んでやって来たのだ。しかし、それは単なる人生相談ではなく、チャーリーが真夜中に連れて行かれた先にあったものは、首を吊った女性の死体だった。おまけに、ジャスパーは、その死体を近くの池に沈める手伝いまでさせる。こうした、異様な状況で映画の幕は開く。死んでいたのは、村長の娘のローラ。死体のことを知っているのはジャスパーとチャーリーの2人だけで、住民は「失踪」したとしか知らない。大規模な捜索も行われる。そんな中、ローラのことを調べにきて偶然図書館で会ったイライザ〔ローラの妹〕は、チャーリーに胸から取り出した「白い紙」を持っていてくれと頼む。ところが、その「紙」は、実は、ローラがジャスパーに宛てた一種の遺書だった。そして、イライザがそれを持っていたのは、姉の最後の場所にいて〔まさか、首を吊るとは思っていない〕、突然の死を止められず遺書だけを拾ったから。イライザは、何が書いてあるか分からない遺書をジャスパーに渡し、その時、内容を知ろうと決意していた。そのチャンスは、大晦日の夜にやってくる。ローラが姉の死を知っていることなど露程も知らないチャーリーは、自分のした行為をすべて打ち明けようと、死体を沈めた池の端までローラを連れて行く。しかし、そこでローラは、逆に、自分の知っているすべてを話し、ジャスパーに遺書を渡し、彼は字が読めないので、代わりにチャーリーが読む。そこには、如何に、父の性的虐待がひどかったか、それから逃れようと、如何にジャスパーに期待をかけていたか、それにもかかわらずジャスパーはいなくなってしまい〔逃亡の旅費を稼ぐため数ヶ月留守にした〕、他に途はないので自ら死を選ぶ、と書いてあった。内容を知ったイライザは、チャーリーと一緒に、母に遺書を見せるが廃棄される。父母の両方に見切りをつけたイライザは自宅に放火する。チャーリーの母は、自分勝手で奔放な性格だったが、不倫が見つかったのを契機に、新たなスリルを求めて家を出て都会へと向かう。

リーヴァイ・ミラーは、『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり』(2015)で一躍有名になった後、『Better Watch Out(気をつけてね)』(2016)、そして、この映画と主演作が続く。、『Better Watch Out』は、最近多いベビーシッター物だが、思いもよらない展開で驚かされ、2つの映画祭で「主演男優賞」を獲得した(下の写真)。私は、両者を比較し、この映画の演技の方が巧いと思うのだが(奇をてらった演技より、地味な演技の方が難しい)、主演賞のノミネート1つに終わっている。
  


あらすじ

チャーリーと隣のベトナム移民の子ジェフリーが、スイカを食べながらスーパーマンとバットマンについて議論を戦わせている。ジェフリーは理屈っぽく、自分は常に正しく、しかも、話しながら、“チャーリーの母が干したテーブルクロス”に向かって、口からスイカの種を吐き付けるような子だ(1枚目の写真、矢印は種の飛ぶ方向)。チャーリーの母が、洗濯物を片付けにきて、「まだいたの? もう帰ったら? でないと、誘拐したと思われちゃう」と言うと、「僕も、うんざりしてたんですよ。あなたの息子さん、とってもムカつくんだから。それに、テーブルクロスに種をペッペしてたしね」と憎まれ口を叩く(2枚目の写真、矢印の種はすべてジェフリーが吐いたもの。右下の種1つだけが、最後にチャーリーが吐いたもの)。実にイヤな性格だ〔映画の中での設定は中国系ベトナム人になっているが、この設定には少し無理がある。オーストラリアでは、1851年に金が発見され、大量の中国人が流入し、それが引き金となって悪しき白豪主義が始まった。しかし、中国系ベトナム人の大量来豪は南ベトナムが北に占領された1975年以降(映画は1969年)。しかも、ゴールドラッシュ時の中国人はヴィクトリア州、ベトナム人が大量来豪はニーサウスウェールズ州が中心で、西部(映画は西オーストラリア州)ではない〕。白豪主義は1973年まで政策として続けられたので、1969年の段階で西オーストラリア州の田舎に住むには、かなりの“覚悟”が要る。ジェフリーの一家は、なぜこんな何もない田舎町にわざわざ住むことにしたのか?〔会社からの赴任ならパースに住むはず。ちゃんとした一戸建てに住んでいるが、職業が定かではない〕 そして、当時蔓延していた強い人種偏見のことを思うと、息子がこんな憎々しい口をきくように育てるは、とても思えない〔息子は虐められ、家族ともども四面楚歌に遭いかねない〕。一方、チャーリーの一家は、この町への新参者ということもあり、白豪主義に染まってはいない。特に、チャーリーは、父に似て心の優しい少年なので、何を言われても快くジェフリーと付き合っている〔1969年という時代を考えると、少し出来すぎのような気もするが…〕


その夜、チャーリーはベッドの中で1冊の本を読んでいた。マーク・トウェインの『Pudd'nhead Wilson(間抜けのウィルソン)』(1894)だ。邦訳は、様々な題名で出版されている(『まぬけのウィルソンの悲劇』『まぬけのウィルソンと かの異形の双生児』『二人の運命は二度変わる』)。内容は、アメリカにおける人種問題のひどさを皮肉った一種のコメディである。それを、人種偏見の時代にチャーリーが読んでいること自体、彼の反・白豪主義的傾向が伺える。チャーリーは、この本で一番有名な一節を頭の中で反芻する。「勇気とは、恐怖に対する抵抗であり、恐怖を克服することだ。ただし、恐怖を忘れてしまうことではない〔Courage is resistance to fear, mastery of fear, not absence of fear〕」。すると、母がノックなしで入ってきて、一言、「寝なさい〔Bed〕」(1枚目の写真)。そして、読書中なのに電気を消す〔母は、読書の虫が大嫌い〕。チャーリーは、仕方なく眼鏡を外し〔字を読む時だけかけるので、遠視か乱視?〕、眠りにつく。場面は変わり、1人の青年が闇の中を必死で走っている。彼の名は、ジャスパー・ジョーンズ。脇役だが、映画の題名になっている。町で唯一の有色混血児。お陰で、除け者にされ、白い眼で見られている。そんなジャスパーが向かったのは、チャーリーの部屋。窓には、ガラスがなく、風通しがいいように、遮光板が縦に並んで付いている〔他に見たことがないので、表現のしようがない〕。ジャスパーは、板の隙間から覗き、「チャーリー」と呼びかける(2枚目の写真)。「誰?」。「ジャスパー・ジョーンズ」。「ここで何してるの?」。「助けて欲しい」。「僕? なぜ僕なの?」〔この質問の理由は、次で分かる〕。「来てくれ。見せたいものがある」。「どこ?」。「急げよ。どうしても行かなくちゃ」。チャーリーは、急いで着替えると、遮光板を3枚外し、そこから身を乗り出して外に出る(3枚目の写真)。…というか、頭から落ちる。




ジャスパーと一緒に歩きながら、チャーリーがどう考えたかが、独白の形で紹介される。「なぜ、ジャスパーは僕に助けを求めるんだ? 今まで、僕に話しかけたことすらないのに。町の人々は、彼が危険だと言ってる。でも、僕は、本当はどんな人間なのかと、不思議に思ってた」。町のメインストリートに近づくと数人の男が話している。2人は見えないよう小走りで逆方向に進み、車の陰で様子を窺ってから、小さなタウン・ホールの前を通過(1枚目の写真、矢印はチャーリー)。ジャスパーは町から離れる。「彼がどこに行くのか、なぜ僕がそれについて行くのか、さっぱり分からない」。向かった先は森の中だった。「帰りの道が分かるとは、とても思えない」。ここで映画の題名が表示される。歩くのをやめたジャスパーは、振り返ると、「お前を信じていいな?」と尋ねる。「信じるって、何を?」。ジャスパーが指差した先には、木の枝で首を吊った女性の死体があった(2枚目の写真)。思わず叫んだチャーリーの口をジャスパーが押える。そして、「俺がやったんじゃない。今夜、見つけたんだ。チャーリー、助けてくれ。頼む」。「それ誰?」。「ローラだ」。「ウィッシャート? イライザの姉さんの?」。「そうだ」。チャーリーは警察に届けようと言うが、ジャスパーは、①殴られた跡があり、②この場所がジャスパーの地所で、③ロープもジャスパーのものなので、真っ先に疑われると指摘する。「ここは、コリガンだ。誰も俺を信じない。お前以外はな。お前は、俺と同じよそ者だ。それに頭がいい。頼む、チャーリー、助けてくれ。やった奴は多分あいつだ」。「誰?」。「気違いジャック」。理由は、彼の家の近くを歩いた時、気違いみたいに手を振ってジャスパーと呼んだり、ローラと一緒のところを見たというだけの曖昧なもの。それだけ言うとジャスパーは木に登り、ローラを吊っていたロープを切断する。そして、重い石をロープに結びつける。「彼女を隠すんだ。俺だってこんなことはしたくない」。そう言うと、自分はローラの遺体を抱きかかえ、チャーリーには錘(おもり)の石を持たせ、そのまま目の前にある池に入って行く(3枚目の写真、矢印は錘の石)。水深は腰まで届かないので浅いが、錘をローラの腹の上に置き、そのまま水中に沈める。




チャーリーは、母の呼ぶ声で目が覚める。「早く起きて! でないと、朝食はゴミ箱行きよ」。この母親、言い方がいつも激しい。チャーリーは、昨夜、外した遮光板を見る(1枚目の写真)。昨夜の悪夢は現実だったんだろうか? 洗面で顔を洗っていると、顎の横に切り傷があるのに気付く〔昨夜の傷なのに赤い→傷が開くとは思えない〕。朝食は、食パンの上に目玉焼きを乗せたものが2個。チャーリーは食べようとせず、ぼーっとしているので、父が、「大丈夫か? イヤなことでもあったか?」と訊く。「元気だよ」。母:「顔、どうしたの?」。「切ったんだ」。「眠りながら?」。父:「ひげ剃りで切ったな」。ヒゲの生える年ではないので、母は「バカ言わないで」と言った後、「そうなの?」と訊く。父:「放っとけ。困ってるじゃないか」〔妻に〕。「後で、正しいやり方を教えてやる」〔息子に〕(2枚目の写真、矢印は傷)。「子供は大きくなるもんだ」〔妻に〕。母:「食べる気がないなら、ジェフリーに会いに行ったら? 今朝、3回も来たわよ」。



チャーリーとジェフリーが自転車に乗っている。チャーリーは昨夜のことしか頭にないので、しゃべるのはもっぱらジェフリー。何を言っても反応がほぼゼロなので、変な質問をする。「どっちがいい? クモでできた帽子か、ペニスの指か?」〔ネットを見ると、「ヴァギナの耳か、ペニスの指か」というのまである。どのみち、1969年の発言とは思えない〕。チャーリーは、「いくら君でも、ひど過ぎる」と相手にしない。ジェフリーはクリケットのチームに入っている。本人は気張っているが、家督からも、チームメイトからも相手にされていない〔人種偏見〕。「あいつ、なんでいつも顔出すんだ?」という声が聞こえるので、ジェフリーの熱意が鬱陶(うっとう)しがられていることは確か。その後、2人は、チャーリーが先導する形で丘の斜面に建っている家に向かう。そこは、昨夜ジャスパーが、「気違いジャック」と呼んでいた老人が一人で暮らしている家だ(1枚目の写真、矢印はチャーリー)。ジェフリーは、「なんで、気違いジャックの家、見てるんだ?」と訊く。「ホントだと思う?」。「何がさ?」。「彼が、誰かを殺したって話」。「当たり前だろ。誰だって知ってる」。「何を?」。「戦争で狂った人殺し中毒だ。だから、畜殺場で働いてた。それから、起きたんだ」。「何が?」(2枚目の写真)。「女の人を撃ち殺し、引きずってって、木から吊るしたんだって」。「吊るした?」〔昨夜と同じ〕。「そう言われてる」。「僕、なんで知らなかったのかな?」。「バカだからだろ」。



その夜、チャーリーは部屋の机の前で考える。「自分でやれること…」。そして、ノートに、「畜殺場を調べる」「動機:」と書く。その時、電話の鳴る音が聞こえ、母が出る。母が何を聞いたのかは分からないが、返事から、何か恐ろしいことが起きたことが分かる。電話を置くと、急に母が入って来る。「ノックしてよ」(1枚目の写真)。「もし明日ジェフリーに会いに行くなら、私から見える範囲にいなさい」。「どうして?」。「私が、そう言うから」。「何かあったの?」。「あんたには無関係」。「何か、あったんだ」。「あんたには無関係」。「大変なこと?」。「そうなるわよ。くどくど訊くのをやめないならね〔if you don't stop giving me the third degree〕。だから、明日は、言われた通りになさい」。そして翌日。チャーリーは「調べる」ことしか念頭になく、母に言われたことなど忘れて、自転車で図書館に向かう。そして、町の新聞 「Corrigan Post」をめくり、「1969年一番のウィッシャート姉妹」という記事の部分を破りとってバッグに入れる(2枚目の写真、矢印)。すると、図書館の受付にイライザが本を受け取りにくる。チャーリーは、バッグを肩にかけ、こっそり出口に向かおうとして、本棚の陰からイライザの方をじっと見る。その顔からは、チャーリーが何を考えているのかが分からない(3枚目の写真)。




そのまま図書館を出ようとしたチャーリーだが、イライザが気付き、嬉しそうな顔で、「チャーリー、待ってて。すぐ、外に行くから」と声をかける〔少なくとも、イライザはチャーリーに好意を持っている〕。チャーリーが図書館の前で待っていると、すぐにイライザが出てくる。持っていたのは、『ティファニーで朝食を』。「読んだことある?」。チャーリーは何とも言わないが(1枚目の写真)、それを「否定」と受け取ったイライザは、「私もよ」と受ける。「映画は3度観たんだけど、ママが本を買わせてくれないの」〔だから、図書館のおじさんに、「オムレツを作るのが上手な女の子の話」だと言って取り寄せてもらった~確かに「朝食」にちょうどいい〕。イライザの話は映画の話から作家の話となり、チャーリーが「僕もなりたいんだ」と話すと、イライザはチャーリーへの評価を上げる(2枚目の写真、バラがきれい)。「私たち、一緒にニューヨークの図書館に行って、あなたの本にサインしましょ」。その時、2人の脇をパトカーがゆっくりと走っていく。今日は、町で見かける警官の数も多い。そのことをチャーリーが話題にすると、「聞いてないの?」。「何を?」。少しためらってから、イライザは、「姉のことなの」と答える。「どうかしたの?」〔チャーリーは首吊り死体を見ている〕。「いなくなったのよ」。「知らなかった」。その時、2人はイライザの家の前に着く。木の柵の中には警官がいっぱいいる。「彼等に居所分かるかな?」。「分かりっこないわ」〔この返事は、一種の伏線になっている〕。窓にいた母に姿を見られたイライザは、胸に大事にしまっておいた白い紙を素早く取り出すと、借り出した本にはさみ(3枚目の写真、矢印は白い紙)、「これ、持ってて」「読まないって約束して。いい?」と言いながら渡す(4枚目の写真)。「いいよ」。「ちゃんとしまっておいてね」。そこに母が飛び出してきて、姉が行方不明なのに外出した娘を強く叱り、連れ去る〔チャーリーのことなど無視~傲慢な母親〕





叱られたのはチャーリーも同じ。「『私から見える範囲にいなさい』って、言ったでしょ!」と責める(1枚目の写真)。「落ち着いてよ」。「私に『落ち着いて』なんて、言わないの!」。そして、「どこにいたの?」と訊く。「ジェフリーの家」。母は「嘘を付くんじゃないの!」と言って頬を強く引っ叩く。「図書館に行っただけだよ」。今度は、夫に向かい、「あなたが悪いのよ」と責める(2枚目の写真、矢印は叩かれて傷む頬)。「本キチガイなんだから」「昨夜、何て言った? 『私から見える範囲にいなさい』って言ったでしょ」。夫は、妻を宥めようとするが、「私を貶(おとし)めないで」〔夫に〕。「これは重要なことなの。女の子が行方不明になったのよ! 分かる? ローラ・ウィッシャートよ。クリスマス以来、誰も見た人がいないの。何かが起きたのよ。だから、近くにいるよう言ったのに」〔息子に〕。この言葉で、この母親のすべてが分かる。状況を何も伝えず、ただ命令し、それに反すると、相手が如何にも状況を知ってて命令に従わなかったように責める。一番嫌いなタイプの人間だ。



ローラ失踪の件で、町中の人がタウン・ホールに集められる。チャーリーの隣に座ったジェフリーは、トランプを拡げ、「1枚ひけよ」。そのあまりの非常識さに、チャーリーは「しまえよ」と小声でたしなめる。壇上には片隅にウィッシャート家の3人と牧師が座り、中央に警察署長が立って事件のことを説明する。その中で、ローラの父のことを“shire president”と呼ぶ。オーストラリアではシャイアは行政区の一種で、1969年のことは分からなかったが、現在の西オーストラリア州は22のシティと11のリージョナル・カウンシル、107のシャイアと12のタウンの計152の行政区から成っている。タウン・ホールに集った人の総数は100名ほどなので、“shire president”は「村長」みたいなものであろう(1枚目の写真、矢印はチャーリー)。署長はさらに、明日、州警の協力で広域調査を行うので、ボランティアでの協力を要請する〔開始時間は、朝の5時半〕。また、18歳以下の住民は全員、日没以後は家に留まるよう指示する。最後にローラの父、「村長」が挨拶に立ち、協力を感謝する旨を伝えるが、その中で、ベトナムで戦死したばかりの息子を持つ家族が出席してくれたことに特に言及する〔オーストラリア軍は約5万人の兵士を派遣した〕。壇上に座ったイライザはチャーリーを見つめ(2枚目の写真)、見つめられたチャーリーもイライザを見る(3枚目の写真)。これは、2人の恋愛感情ではなく、イライザはチャーリーに渡した白い紙〔重大な情報が書かれている〕のことを考え、チャーリーはローラの死体のことを考えていたからであろう。




その後に開かれた、参加者に対する立食パーティの場では、ジェフリーはむさぼるように食べ、チャーリーは何も喉を通らない。その時、問題が起きた。戦死した息子の母親が、ジェフリーを見て、「豚みたいにガツガツ食べて〔Stuffing his face like a pig〕! あんたの息子は元気なのに、私の息子は違う。死んだのよ!」と非難すると、ジェフリーの母の持っていたティー・カップを思い切り突く。中身は飛び散り(1枚目の写真)、ジェフリーの母はパニック状態に。ジェフリーの父が飛んできて、会場から連れ出す。それを見て、誰もが「当然」といった顔をしている。怒ったチャーリーは、会場から出て外のベンチに座る。心配して出てきた父に、チャーリーは、「誰もルーさん〔ジェフリーの母〕を助けなかった。見てただけだ」と批判する。父は「そうだな」「家に帰ろう」と言う。チャーリーは、さらに、警官も見ていたのに、ティー・カップを突いた方の女性に注意もしなかったと不満をぶつける。父は、「分かってる。静かになさい」としか言わない。「ルーさんは、誰にも何もしてないのに」(2枚目の写真)。「話の続きは、家に帰ってからにしよう」。しかし、家に戻った父が話したのは、ローラのことだった。「数年前に教えたことがあるが、超然とした子だった」と話すので、父は高校の教師なのであろう。父は、最初は、ローラが田舎が嫌になって都会に逃げたと思っていたが、ローラの部屋がめちゃめちゃになっていて、床やベッドに血がついていたことを聞いて、もっと重大で深刻なことが起きたのではと心配していると話す。チャーリーが、「容疑者は?」と訊くと、「ジャスパー・ジョーンズの名が上がってるそうだ」。「なぜなの?」(3枚目の写真)。「何でも、あの可哀相な子のせいにしたがるからな」。この節では、人種偏見が主な話題になっている。




自分の部屋に戻ったチャーリーは、バッグの中からイライザに渡された本を開くと、白い紙が滑り落ちる(1枚目の写真、矢印)。チャーリーが急いで紙を本に戻した瞬間、窓からジャスパーが呼ぶのが聞こえる。チャーリーは本をバッグに戻し、窓まで行って質問する。「ジャスパー、どこにいたんだ?」〔集会に出てこなかった〕。「タウン・ホールで何があった?」。「君を捜してる」(2枚目の写真)〔集会ではそんな話は出なかった。父が後から話しただけ〕。「だろうな。奴ら、この2日間、親爺の周りをうろついてやがった」。そして、「出られるか?」と訊く。チャーリーは、「外出禁止だ」と言うが、ジャスパーに同情して、また窓から忍び出る。ジャスパーが向かった先は、「気違いジャック」の家。しばらく見ていた後で、今度はローラを沈めた池端に行って座り込む。ジャスパーは、アイリッシュ・ウィスキーだと思い込んでいる酒をチャーリーにも渡す。当然、アルコールなど飲んだことがない真面目な子なので、むせる。そこで出た話題は、①警察がジャスパーの居所を「親爺」に訊いたが、知らなかった、②「親爺」は、ジャスパーの母が死んで以来、何年も酒びたり〔ウィスキーも、「親爺」から拝借したもの〕、③ジャスパーの母は、彼が小さな時に自動車事故で死んでしまい、記憶もないし、写真すらないの3点(3枚目の写真、矢印はチャーリーがすぐに慣れたウィスキー)。ここから、チャーリーが質問する。「ローラを愛してたの?」。「一緒に逃げることにしてた」。「いつ?」。「すぐにでも」。その先、事情説明が続く。①逃げるにはお金が要る、②そこで、ジャスパーは、数ヶ月ドニーブルック〔パースの南170キロ〕に行って果物摘みをして金を稼いだ、③しかし、そのことはローラには話してなかった。話す機会がなかったから〔村長の娘と、混血の青年が堂々と会うことなど、1969年にはとても無理〕、④クリスマスの夜、逃走資金を持ってローラの部屋の窓に行ったら、彼女はいなかった、⑤彼女の叫び声を聞いて、ここに来たら死体があった。その時、チャーリーが池の端の木の幹に彫られた字に気付く。そこには、「Sorry」と彫られていた。その字すらジャスパーには読めないので、彫ったのは、ジャスパーとチャーリー以外の人間だ。2人は、「気違いジャック」だと信じ込み、怖くなって逃げ出す(4枚目の写真、矢印は彫られた文字の場所)。チャーリーが家に逃げ戻ると、ちょうど母がタウン・ホールでの後片付けから戻ってきた。警察署長の車で送ってもらい、お酒が入って大いにご機嫌〔母は、家族には厳しいくせに、自分には甘い→伏線になるシーン〕





翌朝、父をタウン・ホールまで送っていったチャーリーは、帰りの車の中で、ジャスパーが警官に取り押さえられているのを見てしまう。自分の部屋に行ったチャーリーは、バッグに護身のためのナイフを入れ〔イライザから預かった「白い紙」入りの本も入っている〕、母には、ジェフリーズの家に行くと嘘を付いて家を出る。チャーリーは、自転車に乗ると、犬を連れて捜索している村人たちの前を横切り(1枚目の写真、矢印はチャーリーの乗った自転車)、「気違いジャック」の家に向かう。チャーリーは、ビクビクしながら家に近づく。運悪く、「ジャック」が出てきたので、手前に置いてあった壊れた自動車の中に隠れる。すると、自動車のサイドボードに、「SORRY」と書いてあるのを見つける(2枚目の写真)。昨夜、池の端の木の幹に彫ってあったのと同じだ。その時、「ジャック」に気付かれたので、バッグを車の中に置いたまま逃げ出してしまう。



チャーリーが図書館の前にさしかかると、階段にはイライザが座っていて、チャーリーを見ると、嬉しそうに声をかけて寄ってくる。思わぬ遭遇にチャーリーがドギマギする。「本の貸し出し期間を延ばしにきたの」(1枚目の写真)。その時、初めて、チャーリーはバッグを忘れてきたことに気付く〔イライザの本も「白い紙」も入れたままだ〕。チャーリーは急いで自転車の向きを変える。イライザが、「あなたに会えるんじゃないかと、ここで待ってたのよ」と言い出したので、チャーリーは、びっくりして振り返る(2枚目の写真)。しかし、チャーリーには、バッグを取り返す急務がある。イライザに、「また、家まで一緒に歩かない?」と誘われるが、「できないよ。行かないと」と断って「ジャック」の家に戻る。しかし、離れた木の陰から覗いてみると、廃車に残してきたはずのバッグがなくなっている。チャーリーは、すごすごと引き上げるしかなかった。



その夜、チャーリーは、いつものノートに 思ったことを書いている。最初に書いたのは、「Sorry」。次が、「イライザ」〔彼女が好きなのだろうか? 「白い紙」のことが気になるのだろうか?〕。最後は、「僕は…」。ここまで書いたところで、また窓を叩く音。3度目のジャスパーだ。ジャスパーの顔は殴られて腫れている。「クソ署長が耳を蹴りやがった。まだガーンとしてる」。しかも、ジャスパーは解放されたのではなく、警官に「トイレに行く」と嘘をつき、窓から逃げ出して来たのだった〔実にひどい人種偏見だ/これでますます疑いが濃くなってしまう〕。2人は、「気違いジャック」の家に向かい、チャーリーは真っ先に廃車の中に書かれた「SORRY」の文字を見せる(1枚目の写真)。ジャスパーは、犯人は「ジャック」だと確信し、チャーリーと一緒に家に近づいて行き、窓から覗く。中には「ジャック」がいたが、その目の前のテーブルにチャーリーのバッグも置かれている(2枚目の写真、矢印)。取り戻すには中に入るしかない。その時、チャーリーの脚に虫がとまり、叩いてしまったので、「ジャック」に気付かれてしまう。「誰だ?!」。2人は慌てて逃げ出す。逃げる時にジャスパーは転んで、恐らく足を捻挫する。そこで、チャーリーは、新年のイヴ(12月31日の夜)、村人全員が集って花火で遊んでいる時に、もう一度試してみようと提案する。そして、家に戻る途中、2人の前にパトカーが現れる。チャーリーは、急いでジャスパーを隠し(3枚目の写真、矢印はチャーリー)、自分自身は犠牲となり、パトカーの前に進み出る。日没後は外出禁止なので、「こんな所で何してる?」と注意され、パトカーに乗せられ、自宅へ。家の前では、チャーリーがいないので、「2人目の失踪」ではないかと心配した両親と、隣のジェフリーが家の前に出ている。チャーリーは、パトカーの中で、署長に「僕たち、何も悪いことしていない」と言ってしまい、署長に不審な顔をされ、「、何もしてない」と言い直す。一番にパトカーに駆けつけた母は、「神様ありがとう! どれだけ心配したか!」とチャーリーを抱きしめる。父は、もっと冷静に受け入れる(4枚目の写真)。家に入った母は、急に態度が変わり、激しく責め立てる。「どこにいたの?! こんなに心配かけて!」。そこに、署長が割って入る。「さっき、『僕たち、何も悪いことしていない』と言ったな。『僕たち』とは誰だ?」。チャーリーは、「誰も」と否定するが、署長はそんなに甘くない。詰問され、母からも、「正直に言いなさい」と命令され、「イライザ」と嘘をつく。理由を訊かれ、「彼女のことが心配だったから。大丈夫なのか確かめたくって。お互い、好きなんだ」〔本心にしても、すぐにバレるお粗末な嘘〕。署長が納得して去った後も、母の小言は延々と続く。





母の制裁は翌日になっても続く。実に、陰険で執着心が強く、自分勝手で意地悪な女性だ。何をさせたかというと、チャーリーを庭に連れ出し、シャベルを渡し、「掘って」と一言。「どうして?」。「言われた通りになさい〔Because I said so〕!」。「深さは?」。「やめろと言うまでよ」。チャーリーは仕方なく掘り始める(1枚目の写真)。深さが股の辺りに達した時、上のシャツを脱いで少し休憩していると、「誰が休んでいいと言った?」と叱咤が飛ぶ。深さが胸の辺りに達した時、人影ができる。チャーリーは、母だと思い、「いったいなんで、こんなことさせるの?」と文句を言う。しかし、その影は母ではなくイライザだった。「私こそ、『なんで』って言いたいわ。昼には 私が伝染病患者みたいに避けたくせに、夜には密かにラヴラヴで会ってたなんて言い触らして!」(2・3枚目の写真)「まず、女の子に確かめるのが礼儀じゃないの?」。そこに母が出てくる。イライザは、「返してもらいに来ただけです」〔白い紙を〕と説明するが、この偏屈女は、①息子は厳しい罰の途中なので中断できない、②イライザは「ほっつき歩く」ことなんかやめ、今すぐ家に帰るべき、と のたまう〔ホザく〕。怒ったイライザは、返事もせずに去る。偏屈女は、今度はチャーリーに向かって、「やめてよし。埋め戻しなさい。裏庭に、こんな大きな汚い穴、邪魔じゃじゃないの」と命じる。チャーリーも頭にきて母の後姿を睨み付ける。暗くなって、チャーリーがまだ埋め戻していると、母が新しく勝手に買った自動車(中古?)に乗って帰宅し、派手にホーンを鳴らす。家から出てきた夫が、「それ、何だ?」と訊くと、「自分の車を買ったのよ!」と得意げに答える。夫は、そんな話は全く聞いていないし、今ある車のクランクシャフト交換にお金がかかるので、不愉快だ。自分勝手女は、「ドライブに行きたい人いる? チャーリーは? 体をきれいにして来ないとね。穴は終わったの?」と、浮き浮き気分で訊く。チャーリーも呆れて返事をしない。「そう。じゃあ、一人で行ってくるわ」。父は、チャーリーの代わりに最後の埋め戻しをしてやる。




翌日は、クリケットの試合〔相手は隣のシャイアのチーム?〕。チャーリーが観戦にくると、他の選手と離れて座っていたジェフリーが、「どこにいたんだ? 試合、もう終わっちゃうぞ。僕らボロ負けだ」と言う。そして、誇らしげに、「次、打つんだ」。ジェフリーはいつもレギュラーからは外されてきた。今日は、そのレギュラーの1人が足首を捻挫したので、初めて試合に出してもらえる。そこで、「ジェフリー・ルーのデビュー」だと大喜び。ただし、相手チームとの点数差は60もあり、ジェフリーが最後のバットマン〔敗戦はほぼ確定〕。チャーリーが「緊張してるか?」と訊くと、「ぜんぜん。だけど、君こそ緊張するぞ。あそこのガールフレンド 見えないのか?」と笑顔で言う〔町中の人が知ってしまった?〕。「彼女に詩でも読んでやれよ。僕は集中しないとな。この町には、ヒーローが要る。さあ、行けよ」。チャーリーは、一人離れて芝生に敷いた布の上にあぐらをかいて座っているイライザに近づいていく。彼女は本を読んでいて、チャーリーが真横まで来ても顔を上げない。そこで、「ここに、いて欲しいって願ってた」と積極的に声をかける。「そうなの?」「なぜ?」。「座っていい?」。イライザは肩をすくめる。そこで、同じような姿勢で、横に座る(1枚目の写真)。何となく気まずい雰囲気だ。「何、読んでるの?」。「『不思議の国のアリス』」。「面白い?」。「あのね、アリスはとっても困ってるの。迷子になったのに誰も助けてくれない。誰もが意地悪で身勝手なの」。「『コリガンの町のチャーリー』みたいだ」。「『イライザ』かも」。そして、「癪(しゃく)なんだけど、あなたが会いに来るんじゃないかって期待してたりして」と打ち明ける。これは、チャーリーには福音のようなお言葉。「ホント?」。「私の家、すごく寂しいの」。すると、すすり泣きながら、「私って、いい子じゃないの」と意外なことを口にする。「そんなこと言わないで。素敵だよ」(2枚目の写真)。「そうじゃない。違うのよ」。ますます涙が出てくる。チャーリーは、「これ、使っちゃったけど」と言ってハンカチを渡す。イライザの涙は止まらない。チャーリーは、慰めようと、思わず肩に触れる(3枚目の写真)。そして、元気をつけようと、先日、ジェフリーが口にした「女の子には不適切」な質問をする。「どっちがいい? クモでできた帽子か、ペニスの指か?」。「クモはみんな生きてるの?」。「うん。毒グモで怒ってるんだ」。イライザは、両手を拡げて、「じゃあ、ペニスの指を選ぶしかないわね」。「賢いね」。ようやくイライザに笑顔が戻る。「それで、あの夜、ホントはどこにいたの?」。答えようとした時、「アウト」の声が聞こえ、ジェフリーがバットを手に出てくる。




最初は、誰一人期待していなかったが〔本人と両親以外〕、ジェフリーは次から次へと見事に打っていく(1枚目の写真、矢印はボール)。点数が、「128:153」に縮まると、今までバカにして相手にもしなかったチームメイトも立ち上がって拍手する。勢いは止まらず、遂に「150:153」に。次に4ランを打てば逆転で勝利が得られる。残されたボールは2球。空振りの後、ラストボールを見事に打ってチームは勝利。応援していたチャーリーとイライザも抱き合って喜ぶ(2枚目の写真)。その直後、抱擁を解いたイライザは、先ほど中断した質問を、さらに突っ込んで訊く。「あの夜、ホントに、私と密かに会おうとしたの?」。「そうだよ」〔やむを得ない嘘〕。「じゃあ、今夜はどう? 新年のイヴの花火があるでしょ。その時、私の本を持って来て。とっても大事なことなの」(3枚目の写真)。①新年のイヴの夜はジャスパーと約束している。②本の入ったバッグは「気違いジャック」が持っている。大変な難題を突きつけられたチャーリーは、困ってしまう。




その夜、チャーリーと父母がポーカーで遊んでいると、外で、車をふかす音、何かがぶつかる音が聞こえる。父が、外に出て行き、チャーリーには家に入っているように言う。しかし、問題は、隣のジェフリーの家で起きているので、心配になったチャーリーは見に行く。それは、クリケットの試合で活躍したジェフリーの両親に対する嫌がらせだった。2人の中年のゲス男が、ジェフリーの家の庭に入り込み、物を投げては怒鳴っている。「黄色い肌のくそ野郎!」。ジェフリーの父も「ウチから出てけ、くそ野郎!」と言い返す。1969年で、白人への罵倒は危険な行為だ。当然、「何て口、ききやがる!」と言って思い切り殴られる。そこに、チャーリーの父が、「やめろ」と割り込んでいき、2人を制止する(1枚目の写真、矢印は父。両端に2人のゲス男。しゃがみ込んでいるのはジェフリーの父親)。近くの女性も寄って来て、「頭を冷やしたら? この恥知らず!」と2人を批判する。警察が呼ばれたので、2人は早々に引き揚げる。父は、近くまで来て見ていたチャーリーに、「中にいろと言ったろ!」と叱りはするが、そのまま肩を組んで家に戻る(2枚目の写真)。



チャーリーは、なかなか寝付けないし、先ほどのこともあるので、これまで一度も中に入ったことない父の書斎に入って行く〔父がそこで何をしているかすら知らない〕。父の机の上にはタイプライターがでんと乗っている。そして、その前に置かれた紙の束の上に手を置くと(1枚目の写真、矢印は紙の束)、父は、「これが、ずっとやってきた仕事だ。私の小説だ。やっと完成した。君に、最初の人になって欲しい。最初に読む人だ。そうしてくれるかい?」と語りかける。チャーリーは、「誇らしいよ〔I'd be proud to〕」(2枚目の写真)と答える〔最上級の褒め言葉〕。父もこの反応に感激する〔妻なら、「くだらないことに時間を費やして」とでも批判したかも〕。そして、「君はいい子だ」と褒める。



大晦日の夜、チャーリーと父母は屋外のイベント会場にでかける。そこで3人は別れる(1枚目の写真)。チャーリーは、ジャスパーとの約束があるので、イライザに遭わないよう細心の注意を払い、会場を抜け出す。ジャスパーは「気違いジャック」の家に向かう。チャーリーは、乗り気でないが、ジャスパーは思い切ったことをする。家の前で、「ジャック・ライオネル!」と大声で叫んだのだ。ジャックは、相手がジャスパーだと知ると、「さあ、入れ」と招じ入れる。これは、2人にとって意外だった。先に部屋に入って行ったジャスパーは、前に窓から覗いた時に見つけた銃を持って構え、ジャックを椅子に座らせる(2枚目の写真)。ジャスパー:「お前のやったこと、知ってるぞ」。ジャックは頷く。「じゃあ、認めるんだな? 彼女を殺したって?」。「ああ。会って話したかったが、お前の父さんが許さんかったからな」。「俺の親爺と何の関係がある?」。「俺を絶対に許してくれんかった」。「許すって何をだ? ローラのことか?」。「ローラだと? お前の母さんはロージーだぞ」。ここで、2人の話が食い違っていることが分かる。結論。ジャックは、息子がアボリジニの娘と結婚したことを怒り、息子を勘当した。そこで、生まれたジャスパーは母方のジョーンズを姓にした〔ジャックはジャスパーの祖父にあたる〕。ジャックの妻が死ぬと、ロージーがジャックの面倒を見てくれた。最初は気に食わなかったかもしれないが、最後には感謝し、とても気に入った。しかし、ロージーの具合が急に悪くなったので、車で病院に連れて行く途中で、慌てていて事故を起こし、ロージーは死んだ。だから、「殺した」と認めたのは、交通事故で死なせたことの罪悪感から出た言葉。ローラとは全くの無関係。事故車に書いた「Sorry」は、ロージーへの詫びの言葉。池の端の木の幹の「Sorry」はジャックと無関係。それが分かった段階で、チャーリーがそこにいる必要はなくなり、バッグを回収して(3枚目の写真、矢印)出て行く。




チャーリーは、イライザに返す本(白い紙)を手に入れたので、後は、一刻も早く会場に戻ろうと急ぐ。しかし、会場の手前の野原で見たものは… 母の買ったばかりの車。そして、車の中では2人の男女が酒をラッパ飲みしキスし合っている。車にそっと近づいていったチャーリーは、いきなり後部ドアを開ける。天井灯が点き、母と警察署長の顔がはっきりと分かる(1枚目の写真)。署長はすぐに車を出ると、チャーリーに、「口を閉ざしてろ、いいな?」と脅すが、チャーリーは「黙れ!」と歯牙にもかけない。母は、「ここで何してるの?」といつもの調子で批判を始めるが、これにも、「そっちこそ、ここで何してる?」と食ってかかる。急に下手に出た母は、「あなたが考えてようなことじゃないの…」と肩に手をかけて宥めようとするが、「触るな!」と断固拒絶。母:「家に行くわよ!」。チャーリーは、「隠れて、こんなことするなんて!」〔母に〕、「ちゃんと仕事したらどうだ!」〔署長に〕と怒鳴り、2人を置いて会場へと走る。会場には、まだいっぱい人がいたが、イライザの姿はどこにもない(2枚目の写真)。怒って家に帰ったに違いないと思ったチャーリーは、すぐにイライザの家に向かう。そして、バルコニーの一番奥にあるイライザの部屋の窓をノックする(3枚目の写真)。




当然、イライザは機嫌は最悪。それでも、窓を上げてくれる。「イライザ、ごめん。いろいろあって」。「どこにいたの?」。「イライザ…」。「どうして答えられないの? なぜ正直に言えないの?」。それでも返事をしないチャーリーに対し、イライザは窓を閉めようとするが、チャーリーは、「僕と一緒に来て欲しい。どうしても話さなくちゃいけないことがある。ローラのことだ。どこにいるか知ってる」と必死に訴える(1枚目の写真)。「何ですって?」(2枚目の写真)。「お願いだ、出てきてよ。ちゃんとしたいんだ。見せるから」。これを聞き、イライザは窓から忍び出る。

チャーリーは、イライザを森へ連れて行く。「チャーリー、どうして分かったの?」。「全部、説明するよ」。池の端まで来たチャーリーは、「ローラについて話すことがある。彼女は死んだんだ」(1枚目の写真)と打ち明ける。「彼女は、ここで死んだんだ」。「知ってる」。この言葉に驚いたのは、チャーリーか観客か? イライザ:「私が悪いの」。そこに、なぜか、タイミングよく〔悪く?〕ジャスパーが現れる。ジャスパー:「彼女、ここで何してる?」〔チャーリーに〕。イライザ:「彼を知ってるの?」〔チャーリーに〕。チャーリー:「そのことを話したかったんだ」〔イライザに〕。ジャスパー:「なぜ、ここに連れて来た?」〔チャーリーに〕。イライザ:「ここには、来たことがあるの」〔ジャスパー〕(2枚目の写真)。ここからは、イライザとジャスパーの会話。「私、全部知ってる。なんであんたが姉を捨てたか以外はね。何て ひどい人なの? あんたを愛してたのに」。「捨ててなんかない!」。「捨てたわ」。そして、チャーリーから本を返してもらうと、中から「白い紙」を取り出し、ジャスパーに渡す。彼は文盲なのでチャーリーが代わりに読み上げる(3枚目の写真、矢印)。「ジャスパー・ジョーンズ、あなたは窓辺に来た時、優しくて親切だった。それから、突然、来なくなった。あなたは、窓辺に来ることで私を救ってくれた。なぜなら、あなたが来ない夜には、父が来て、彼は優しくも親切でもなかった。彼は、何度も私をレイプした。そして、私は妊娠し…」。チャーリーは読み続けるの一瞬ためらう。「そして、私は妊娠し、胎児は大きくなっていった。私には彼を許すことなどできない。あなたも許せない。あなたは、私をここから連れ出してくれると約束した。今、私は、自ら去って行くしかない」〔英語の台詞は “He betrayed me again and again(彼は、私を何度も裏切った)” としか言っていない。“betray” に他の意味はない。妊娠の部分も、“betrayal lives and grows inside me(私の中で、裏切りが生まれ育っている)” とだけ。非常に曖昧で分かりにくい。しかし、原作の第7章には、“Pete Wishart had raped Laura many times” とはっきり書かれている。胎児の件も、“impregnating her” で明確だ。映画では、なぜ曖昧な表現にしたのだろう?〕。イライザが、その夜のことを話す。「あの夜、彼は、彼女の部屋に押しかけ、彼女は悲鳴を上げ、彼は黙らせようとしたが止めなかった。そこで、彼は引っ叩いた」〔この部分の原作は、もっと恐ろしい。こう書かれている。「夕食の時、ローラは、父との前で、父親にレイプされ妊娠したと告発した。驚くべきことに、はその言葉を信じるのを拒んだ。夕食の後、父は、ローラの部屋に入って行き、性的虐待のことを誰にも言うなと警告した。ローラは拒み、父を叩き、文鎮まで投げつけた。代わりに、父は容赦なくローラを殴った」〕。イライザ:「それでも彼女は叫び続け、彼も怒鳴り、そして突然静かになった。それから、彼女が抜け出すのが聞こえた。私は後を追って、ここまで来た。彼女は木に登り、しばらく枝の上でじっとしていた〔遺書を書いていた〕。私は、止めるべきだった。そしたら、それ〔白い紙〕が落ちてきた。私は駆け寄ったけど、遅すぎた。誰かが来るのが聞こえたので、紙を拾うと逃げ出した。次の夜、来てみたら、彼女はいなくなってた。彼女はどこ? 彼女に何をしたの?」。ローラを死なせた責任はすべて自分にあると思ったジャスパーは、彼女の眠る池に飛び込んで自殺しようとする。しかし、チャーリーがすぐに後を追って飛び込み、ジャスパーを押し留める。2人の心が通い合う、とても良いシーンだ(4枚目の写真)。





3人は、そのまま朝になるまで池の端で過す。チャーリーはイライザと一緒に帰宅の途につく。「じゃあ、君が『Sorry』って彫ったんだね?」。「そうよ。彼女を救えなかったから」。「誰かに話さなくちゃ。署長は信用できない。でも誰かに相談しないと」。しばらく歩いてから、チャーリーは、イライザの手を持ち「まさか、彼…?」と訊き、彼女は言下に否定する。その後は、手をつないで歩く(1枚目の写真)。これは、親愛の情という意味ではなく、これから立ち向かうことへの結束を表すものであろう。結局、2人がメモを見せたのは、ローラとイライザの母。悪鬼のような父親の妻だ(2枚目の写真、矢印は遺書の書かれた「白い紙」)。それを読んだ母は、紙を細切れに裂くと(3枚目の写真、矢印)、自分のティー・カップに浸し、カップを持ったまま席を立って2人の前からいなくなる〔先に紹介した原作からすれば、母は既に手紙に書かれたようなことは知っていた。だから、内容は驚きでも何でもなく、遺書を破いたのは、夫を守るために証拠を隠滅しただけ〕。チャーリー:「あんなことするなんて!」。イライザ:「チャーリー、今すぐ帰って!」。チャーリーは戸惑いながら、戸口で、「待って」と話しかけようとすると、「すぐに会えるわ」という謎めいた返事とともにドアが閉められる〔伏線〕




その後、イライザは、姉の思い出の品々を 泣きながら缶に納めると(1枚目の写真、矢印は姉妹の写真)、それを地面に埋める。ジャスパーは、祖父に対し親しげに別れを告げると(2枚目の写真)、町を永遠に去って行く。チャーリーは、事件の真相を告げようと 警察署の前で待っている。パトカーが到着すると、チャーリーは署長は無視し、平服の刑事に向かって、「話があります。イライザのことで…」と言い始める(3枚目の写真)。しかし、その時 ドアが開き、部下が「ウィッシャート家が火事です」と急を告げる。




チャーリーは、走ってイライザの家に向かう。そして、庭の柵をまたぎ、火事をじっと見ているイライザに駆け寄る(1枚目の写真、矢印はチャーリー)。火事は明らかに放火で、イライザの母は動転しているので、犯人は平然と火事を凝視しているイライザであろう〔原作では、出火原因は特定されていない〕。自分から姉を奪った父と、それを黙殺・隠匿しようとした母に対する復讐としか思えない。2人はじっと見つめ合った後、火事を見守り続ける(2枚目の写真、バケツ・リレーの消火では、全焼しかない)。そのうち、火傷を負った父親が、消防隊員によって担がれてくる。イライザは、睨むようにそれを見送る。父の姿がなくなると、イライザの方からチャーリーの手を握り、2人はずっとそのままでいる。これが、イライザの登場する最後のシーン。この後、2人がどうなるのかは全く分からない。しかし、イライザにとって父は憎き敵、母はずるい敵となれば、精神的な空白を埋めるのは、すべてを知った上で親切にしてくれたチャーリーしかいない〔2人の仲について、映画では一切踏み込んだ描写はない。欲求不満になるので。原作の8章にある記述を紹介しておこう。「チャーリーは、そわそわしたり、ぎこちなくキスすることはもうなくなった」「ある日、彼はイライザに、何と思っているか本心を打ち明け、彼女も同じ言葉を返した」〕




暗くなってからチャーリーが家に戻ると、母が、「自分用」に買った車に荷物を詰めている。母を無視して家に入ろうとするチャーリーを、母は「チャーリー、待って。お願い」と呼び止める。チャーリーは、冷静に「出て行くの?」と訊く。母は、夫と話し合った結果、そうすることに決めたと答える。「いいね」。その冷淡さに、母は、「ホントにごめんなさい。私がやったことは、恥ずかしいことだったわ」と初めて涙を流す。さらに、「ローラが出奔したんじゃないかって聞いた時、羨ましかった。言うのも恐ろしいことだけど、そう感じたの」と、本音も打ち明ける。そして、最後に、「とっても愛してるわ」と言いながらチャーリーの頬を両手で挟み、「あなたのお父さんも愛してる。だけど、もうここにはいられないの」と、自由への憧れを泣きながら話す。いろんな人間の嘘に翻弄されてきたチャーリーは、魂の正直な叫びを聞き、母に同情して泣いて抱きつく(1枚目の写真)。しかし、それは同情の涙であって、惜別の涙ではない。母が車に乗っていなくなり、戸口で見ていた父が寄ってきて肩に手を置くと、「何とかなるよね〔It's gonna be alright〕?」と声をかけ、父が軽く頷くと、家の中に父と一緒に入って行く。



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