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Mijn Bijzonder Rare Week met Tess
   恐竜が教えてくれたこと/ぼくとテスの秘密の七日間

オランダ映画 (2019)

オランダの児童文学作家アンナ・ウォルツが2013年に刊行した『Mijn Bijzonder Rare Week met Tess(僕とテスのたぐいまれな一週間)』の映画化(2019年)。日本では、原作は フレーベル館から、『ぼくとテスの秘密の七日間』というタイトルで2014年に翻訳出版され、映画は2020年に彩プロにより小規模配給が行われた。その際の邦題は『恐竜が教えてくれたこと』。なぜ、邦題を勝手に変えたのだろう? 翻訳出版された本は、結構好意的に受け止められ、その意味では知名度もあったのに、なぜ、映画の内容が誤解されるような邦題を選んだのか? 原作でも映画でも、主題は2つ。メインになるのが、西フリースラント諸島の島で出会った1つ年上の少女テスの “まだ見ぬ父親との再会” に対するサムの献身的な支援。そして、2つ目が、そのサムの一風変わった性格。家族の中ではサムが一番年下なので、死ぬのは最後になると考え、その “寂しさ” に耐えられるよう訓練しようとする〔映画では触れられていないが、サムのクラスメイトの父親の急死で 「死」と「孤独感」を意識するようになっていた〕。この発想の一環として、映画の中でも、原作同様、「最後の恐竜が死ぬ時、自分が最後だと知っていたか? 悲しかったか?」という言葉が出て来る。邦題は、この “恐竜” から来ている。しかし、恐竜が「教えてくれたこと」は、直接的には何もない。ただ、サムは、常に “他者” の立場から物を考えるようになり、それがテスに対する懸命の手助けにつながっていく。だから、こうしたサムの姿勢が「教えてくれたこと」こそ、この優れた作品の主題だと考えれば、そして、恐竜をその右代表と考えれば、ある程度納得できる。ただ、このサイトでは、副題としてフレーベル館の翻訳タイトルを添えた。原作と映画で一番の相違点は、舞台となる島。原作では、西フリースラント諸島の西から1番目で一番大きなテッセル〔Texel〕島が舞台。映画では、西から3番目のテルスヘリング〔Terschelling〕島が舞台。この島の最大の特徴は、オランダで最も古い1594年に建てられた高さ53.66mの石造灯台があること。

サムは、両親と兄と一緒に、テルスヘリング島での1週間のバカンスを楽しみ始める。ところが、その初日、サムが “黙想” のために砂浜に掘った穴に、ボール遊びをしていた兄が落ちてしまい、足を骨折。サムも医院まで同行するで、時間を持て余し、近くの屋台でフライを買って食べていると、向かいの家の中庭に、自分と同じ年恰好の少女テスがいる。最初は妙にぶっきらぼうだったテスだったが、ちょうど練習中だったサルサの相手にぴったりだと思うと、一緒に踊り始める。その上、サムの父が、兄の治療のためフェリーで “本土” まで行こうと誘った時、テスはサムに手伝ってもらいたいと頼んで一緒にいさせる。ところが、1本の電話がテスを変え、サムの存在は “どうでもよくなる” が、あきらめきれないサムはテスに同行し、テスの母のゲストハウスに、“懸賞” に当選した2人の男女を招き入れるのを手伝う。しかし、途中でパニックを起こしたテスは、サムを放り出して帰ってしまう。2日目、サムは、最初の “孤独の訓練” を終えた後、母と一緒に、港まで父と兄を迎えに行く。兄は足に石膏ギブスをはめ、車椅子に乗っていた。そこで、サムは再びテスに会う。昨日の異常な行動を見ていたサムは、乗り気ではなかったが、父の勧めとテスの母の勘違いから、サムはテスと一緒にピクニックに行かされる。しかし、そのピクニックは、サムのためのものではなく、テスが、母に内緒でゲストハウスに招待した、“テスの父親と目される人物” と仲良くするための工作だった。だから、その男性ユーホからピニクックを断られると、サムに対し急にすげなくなる。サムは2日続けてテスに嫌な思いをさせられた。3日目、サムは、ボーリングに行こうとする3人とは別行動をとり、2回目の “孤独の訓練” に出かける。そこで、奇妙な “飛行帽の老人” に遭って逃げ帰る。すると、家にはテスが待っていて、サムに協力を依頼する。サムに動機を勘違いされたテスは、ユーホは自分の父親だが、いい人間かどうか確かめるまでは名乗らないと説明する。4日目、サムは、テスのために “孤独の訓練” を1回休み、ユーホ達と一緒に “宝探し” で “人物評価” をする手伝いをする。しかし、ゲームの途中でユーホがケガをしてしまい、テスは再びパニックに。というのは、テスの母が看護婦で、ユーホと会えば、すべてがおじゃんになるからだ。サムは、機転をきかせ、テスの携帯を使い、テスの母を医院から自宅に向かわせることに成功する。5日目、サムは、テスがユーホに打ち明ける際、一緒にいるよう頼まれる。しかし、テスが打ち明けかけた時、ユーホが意識せずに テスを傷つける発言をしてしまい、テスは3度目のパニックを起こし、逃げ出す。そして、宥めようとしたサムの心を気付つける。6日目、テスに愛想をつかしたサムは、3回目の “孤独の訓練” に出かける。向かった先が、前2回とは違う南の浜だったため、泥にはまって身動きできなくなる。死を覚悟した時、“飛行帽の老人” に救われる。そして、老人から、思い出をたくさん作るよう言われ、“ユーホとの思い出” を11年分作れなかったテスのことが急に可哀想になり、フェリーに向かう途中のユーホを止め、真実を打ち明ける。ユーホと一緒にテスの前に出たサムは、責めるようなテスの目にいたたまれなくなり、逃げ出す。だが、ユーホが父親になってくれると分かったテスは、感謝を込めてサム一家を内輪のお披露目会に招待する。7日目、サムは、“とても奇妙で、だけど、素敵なテスとの出会い” を一生の思い出に、フェリーに乗っていた。

主役のサムを演じるのは、ソンニ・ファン・ウッテレン(Sonny van Utteren)。2004年7月12日生まれ。映画の撮影は、地元の新聞によれば、2018年7月13日~8月末。だから、撮影時14歳になる。原作のサムは10歳。10歳と14歳では、現代の欧米の少年は随分違うが、ソンニに限ってみれば12歳と言っても通る。だから、原作のイメージを壊していない。そして、常に見せる笑顔がとても素敵だ。映画初出演で初主演。その後の活躍としては、NKT演劇学校が2019年6月20-30日にPurmaryn劇場(550席)で公演したミュージカル『Koekoeksjong(カッコウのヒナ)』で、カッコウのヒナ役の孤児を演じた。このミュージカルのメインキャストは20くらいの成人男女だが、ソンニがタイトル・ロールを演じているので、一番代表的なポスターがカッコウの巣から孵るソンニ(右の写真)。このミュージカルは、https://www.youtube.com/watch?v=XYyd9H5FkrU で最高1920×1080の解像度で無料配信されている(2時間21分)。うち、ソンニの演ずる孤児は、伯父と伯母に引き取られているが、①その意地悪で偉ぶった実の息子の陰に隠れるように歌う場面(0:13:00.79~0:14:16.96)を、360×202に縮小したのが次のファイル(→31MB)。②実の息子のオーディションについて行き、カッコウの鳴き声で亡き母を想い出し、名演を見せて合格する場面(00:31:56.27~00:32:34.72)(縮小)を次のファイル(→10MB)。③大人に伍して活躍していく自信を幻の父母からもらうソロの場面(1:10:19.56~1:14:07.27)(縮小)を次のファイル(→70MB)。④人気が出て、ロメオ役の男優より人気が出て天狗になりかける場面(1:25:27.00~1:25:58.56)(縮小)を次のファイル(→12MB)。⑤ラスト寸前の “ダークサイド” に落ちた長い歌の場面(2:09:58.19~2:14.24.60)(縮小)を次のファイル(→101MB)で紹介する。はっきり言って、歌声は並みだが、演技はこの映画と似ている。笑顔は健在。身長は映画より伸びたが、雰囲気は15歳直前とは思えない。

あらすじ

映画の冒頭、主人公サムの独白が流れる。「最近、僕は考えるようになった。どの人間や動物も、突然死んじゃうことがあるんだって。パパやママや兄さん、それに僕だって例外じゃない〔これは、原作の “3週間前のクラスメイトの父親の急死” を受けての言葉〕。上半身裸のサムがクローズアップされる(1枚目の写真)。カメラが切り替わると、サムは全身が日陰になるように、深く掘られた穴の中に寝ている(2枚目に写真)。そして、カメラは、どんどん上に昇っていく(3枚目の写真、矢印は穴を掘った時のスコップの柄と取っ手)。   

カメラが昇り切ると、周辺で日光浴をしたり、遊んだりしている人の姿が見えるので、ここがビーチの砂浜だとはっきりする。1人の男性が穴の間際まで寄って行き、「サム」と声をかける(1枚目の写真、矢印は父)。「サム、来ないか?」。サムは、父と兄と一緒にボールを蹴って遊び始める。場合により、兄に押し倒される場面もある(2枚目の写真、矢印)。そこまでは良かったが、父が蹴ったボールを取ろうとして、足元をよく見ていなかった兄が、サムが掘った穴に落ちて痛さに呻き声を上げる。2人が駆け寄る。「折れたんじゃないかな」。父が少し触れてみると、兄は苦痛に顔を歪める。サムは 「お医者さんか、ママに電話しようか?」と心配そうに訊く(3枚目の写真、矢印はスコップの柄と取っ手→サムが掘った穴だと はっきり分かる)。兄は 「お前のせいだ」とサムを責め、父は 「誰のせいでもない」とサムを庇う。「あいつが、こんな穴を掘るから…」。「ちゃんと見てれば…」〔砂浜に危険な穴を掘る方が悪い〕。父は 「やめんか」と制止し、「医者に行かないと」と言うと、大きな兄を抱き上げて砂浜を歩き、荷物一切を抱えたサムがそれに続く〔穴は放置〕。「こんな風に僕のバカンスが始まるなんて信じられない。だけど、これは始まりに過ぎなかった」。   

父のレンタカーは、兄とサムを乗せて僅かに起伏のある草原をひた走る。やがて、高い塔〔解説で紹介したオランダ現存最古の灯台〕の見える町に入って行く。車は、ヨットの停泊する港の脇を通る。そして、タイトルが表示される。父は、港の突き当りまで行くと、この町の外周を通るZwarte通りに入って数百メートル北上。医院の前で停まる。3人が薄暗くて狭い待合室で診療を待っていると、看護婦は、ティーバッグを入れたカップを手に持って外に出て行ってしまう。壁には 「Denk nu alvast aan later(将来に備えよう)」という、老後に対するキャンペーンのポスターが貼ってある。サムは、父と兄に向かって 「最後に残った恐竜は、自分が死んだ時、それが絶滅だって知ってたと思う?」〔映画の邦題は、ここから来ている〕と、思いもつかないことを尋ねる(1枚目の写真)。父は、不適切な質問に対し、「サム、外で待ってなさい」と、待合室から追い出す。外に出たサムは、紅茶を片手に休んでいる看護婦に 「看護婦さん」と2度呼びかけ、ようやく 「何なの、ミニ・ツーリスト君?」と訊いてもらえる。「僕の兄さん、二度と立てないと分かったら、僕を殺すかな?」と、これまた変な質問(2枚目の写真)。看護婦は、すぐ治るからと安心させる。サムは、50メートルほど南の窪みに並んでいる2つの “夏場だけの仮店舗” に歩いていく。サムは、最初の店で、「チャツネをかけた魚を下さい」と注文する。そして、待っている間に、「ゴキブリは頭がなくなっても9日間生きられるって知ってました?」と、これまた変なことを質問する(3枚目の写真)。「知らないわ」。「9日後には 飢え死にだよ」。   

サムが医院の方に10メートルほど戻ると、楽しそうなラテン音楽が聞こえてくるので、立ち止まる(1枚目の写真、矢印がテスの家、背後に高さ54メートルの灯台が聳えている)。この場所の、グーグルのストリートビューが2枚目の写真。駐車した車が邪魔になっているが、一番左端の黒い平坦な屋根に白い壁の家が、テスの家。テスの母は、さっきの看護婦だ〔職場と家は40メートルしか離れていない〕。サムが、魚の皿を両手に持って 柵に近寄って行くと、狭い中庭の真ん中にテーブルが置かれ、テスがノートパソコンに見入っている。ラテン音楽はそこから流れている。人の気配を感じたテスは、サムを見る(3枚目の写真)。   

サムが、逃げるように立ち去ろうとすると、テスは 「ゼブラフィッシュ〔熱帯淡水魚〕って、聞いたことある?」と質問する。それに対するサムの返事は、「ニシンが おならでコミュニケートできるって知ってるよ」(1枚目の写真)。2枚目の写真は、グーグルのストリートビューの反対側の景色〔道路が見えるよう、少し斜めにしてある。島で唯一の町の外周道路の “外” は、文字通り、何もない自然だとよく分かる。この場所は普段は自転車置き場だが、バカンスシーズンには、自転車のスタンドを取り外して、映画のように店が出るのだろう〕。テスは、「ゼブラフィッシュと何の関係があるの?」と矛盾した返事を批判する。サムは肩をすくめる。「トランペット 吹ける?」。「ううん、キーボードならできるよ」〔サムは。常に、どこかズレている〕。「もう、行って」。サムが、がっかりして立ち去ろうとすると、再度引き留められる。テスは立ち上がると柵のところまで来て、「サルサ・ダンス〔ラテン音楽のリズムにのりペアで踊るダンス〕、できる?」。「ううん」。テスは 「完ぺき。一緒に練習しましょ」と言い、手を差し出す(3枚目の写真)。   

パソコンの中の “先生” は、「じゃあ、ダンスを始めるぞ。ちゃんと、一緒に踊る奴を見つけたかな?」と言う。これで、テスがサムを引き込んだ理由が分かる。相手が変人でも、1人では練習できない。テスは 「私がリードする」と言い、サムは 「でも、僕は男だよ」と反論するが、無視されただけ。最初はぎこちなかった動きも、笑顔が浮かぶ頃には 様(さま)になってくる(1枚目の写真、矢印はノートパソコン)。しばらくすると、兄を乗せた自動車が家の前で停まり、父が柵の前で立って2人が踊っているのをニコニコ見ている〔さっき、サムに外で待っているよう指示したのに、いなかったので、ゆっくり運転しながら捜していた?〕。そして、「よお、サルサの王様だな」と声をかける。「やあ、パパ」。父は、これから骨折した足の治療のためフェリーで2時間かけてハルリンゲン(Harlingen)の病院に行くので、一緒に来るよう告げる〔ネットで調べると、舞台なっているテルスヘリングには、開業医が2つあるだけで、病院として指定されているのはMCL Harlingenと州都レーワルデンの医療センター〕。テスは、「サムは、ここにいちゃダメ?」と甘えるように訊く。「ダメ」。「今夜までにサルサを覚えないと」(2枚目の写真)「病院に行っても、待ってるだけよ」。父は、「ここにいたいか?」と訊き、サムは嬉しそうに何度も頷く。そこで、父は 「借りた家にちゃんと戻れるか?」と訊き、「うん」という返事を聞くと、兄を乗せて港に向かう。テスはサムをお供に連れて狭い路地を歩いていく。「今度は、何するの?」。「花を買う」。途中で、レンタサイクル屋が 「バイ〔Doei〕」と声をかける。テスも 「バイ」と応じる。“バイ” はさよならの意味なので、サムには意味が分からない〔変な人が多い〕。「2人で町に行くのか? お母さんに会ったら、やあと言っとくれ」。「いいわ」。テスは、サムに、「シルよ。ママによれば、彼は強迫性パーソナリティ障害なんだって」と説明する。「それ何?」。「典型的な男性。ちょっとしたことで、ママに会うため医院に来るの」。「君のお父さんは?」。「死んだわ」(3枚目の写真)「火山の噴火よ〔オランダの火山は、カリブ海のサバ島のみ〕。私が生まれてくる前に死んだわ」。   

すると、花屋に着く前に、テスのスマホに着信がある。テスは 「素敵なB&Bのテスです」と、コマーシャル気たっぷりの顔で電話に出ると、急に難しい顔になり、何ごとかを言われた後、「バイ」で切る。そして、「ブラブラできて良かった」と言うが早いか、サムを放り出して家に戻りかける。「花は買わないの?」。サムはテスを追って家の中に入る。それを見たテスは、「まだいたの? お客を迎えにいかないと」とすげない。「僕も一緒に?」。「いいわ、来て」。テスは、狭いキッチンに置いてあった花瓶のチューリップを、買いに行こうとしていた花の代わりに全部抜き取る。そして、荷台にサムを座らせ、チューリップを持たせ、全力で漕ぐ(1枚目の写真)。テスは、草原の真ん中にあるゲストハウスまで行くと、チューリップを花瓶に差し、壁にはめ込んだベッドを倒して 使えるようにする(2枚目の写真)。準備が完了して2人が外で待っていると、車が下の道に停まる。男女が家の前までやってくると、テスは歓迎の印に、ポンの音とともに筒から紙吹雪を飛ばす。そして、用意したドイツ語の歓迎文をたどたどしく読む。「私、テスです。私たちの小さな平和な島へようこそ。どうぞ、エンジョイして下さい。ピクニックや宝探しなども…」。ここで、女性が、「お嬢ちゃん、オランダ語でいいのよ」と遮り、男性も、「そうだとも、オランダ語でどうぞ」と言う。2人対2人は、お互い握手を交わすが、最後に男性がテスに手を差し出しても(3枚目の写真)、なぜかテスは避けるように手を取らず、逃げて行ってしまう。サムも 「島にようこそ」と言って、後を追う。   

自転車に乗って家に引き返す途中、テスは 「ホントは、こんなことしたくなかった。でも、しなくちゃいけなかった」とブツブツ。「なぜ、したの?」。「前に進むため」。「お客さんを歓迎することが?」。「そうよ。当たり前でしょ」。この、訳の分からない言葉に、サムは、「だから、君はあんなに変だったんだ」と言ってしまう(1枚目の写真)。それを聞いたテスは、急ブレーキをかけて停車。弾みで荷台から降りたサムに向かって、「変? 私、変だと思う?」と訊く。「うん、ちょっと」。「あの人たちも、そう思ったと思う?」。サムは肩をすくめる。テスは、「しばらく一人になりたい」と言うと、自転車を一人で漕いでいく。心配になったサムは、「テス!」と叫ぶが、サムのことなど眼中にないテスは、停まろうとしない(2枚目の写真)。太陽の光が暑いので、サムはシャツを脱いで頭にまき、町に向かってトボトボと歩く。サムが町までどのくらい歩く必要があるかは、ゲストハウスがどこにあるか不明なので分からないが、後で、その家の近くで印象的なY字路が登場し、その場所は特定できたので、サム一家が借りたサマー・ハウスまでの実歩行距離は14キロを超える。炎天下に、こんな格好で3時間は厳しい。   

幸い、乗馬を楽しんでいる2人組が通りかかり、乗せてもらうことに。お陰で、サマー・ハウスのすぐ前まで楽に辿り着くことができた(1枚目の写真)。この家の場所は、2枚目の示す港町のグーグルマップの右上端の○印。一方、最初にテスと会った場所は、同じ地図の左下端の○印。両者の直線距離は1.27キロ。非常に近い。家の中にいたのは 母一人〔父と兄の帰りは翌日〕。ソファに横になっていた母に抱かれたサムは 「片頭痛、良くなった?」と訊く。「まあね」。「ヨーレ兄さんが、穴にはまった」。「聞いたわ。パパからの電話で。あなたのせいじゃないって」(3枚目の写真)「明日、フェリーを迎えに行きましょ。新しいお友だちが出来たそうね。楽しかった?」。あんなことがあったので、サムの返事は憂鬱そのもの。「何したの?」。サムは肩をすくめる。   

その夜のサムの独白。「僕は家族で一番年下だ。だから、みんな僕より先に死ぬだろう」。翌朝、サムは、ナップサックを背負うと、家を出て腕時計を見る。「一人になる練習をしないと」。そして、ストップウォッチを押す。そこから、島の北側にある砂浜に辿り着くためには、森を抜け、草原の小道を歩いて行かなくてはならない。実歩行距離は約4.5キロ。優に1時間はかかる。そして、サムは、誰もいない砂浜に出る(2枚目の写真)。この砂浜は、島の北岸全体に続いていて長さは28キロ。幅は最も狭い所で50メートル、広い所で400メートルある。水泳パンツだけになったサムが最初にしたことは、海に入ってひと泳ぎすること。そのあとは、波打ち際に座り込み、カニと戯れる(3枚目の写真、矢印はカニ)。   

波打ち際でボーッと海を見つめていると、岸の近くに何かが浮いている。サムはそれを取りに行き、砂浜の上を引きずって波打ち際から離すと、逆V字型に置き、一種の日覆いにする。そして、その前に座ると ノートを取り出す(1枚目の写真)。ノートの表紙に、「Alleenheidstraining(孤独の訓練)」と書き、自己満足に浸る(2枚目の写真)。そして、ページを開くと、「deze week(今週)」と書く。「いっぱい練習すれば、一人になっても怖くない」。そして、「今週」の下に表を作る。「maanday(月曜) 2 uur(2時間)、dinsdag(火曜) 4時間、woensdag(水曜) 6時間、donderdag(木曜) 8時間、vrijdag(金曜) 10時間」(3枚目の写真)。   

午前中の “訓練” が終わり 家に戻ったサムは、母と一緒に 港まで父と兄を迎えに行く。フェリーがはっきり映るが、「FROESLAND」号という3583トンの中型フェリーだ〔最北端という意味で地理的に似た 稚内~利尻島のフェリー(3578トン)とほぼ同じ大きさ〕。父は車椅子に乗った兄を押してフェリーを降りる〔車を使っていない→島で乗っていた車はレンタカー?〕。4人になると、兄は 「ひどいバカンスだ。そうじゃないか? サッカーも、バイクも、泳ぎもなし… 死ぬほど退屈だ」と文句。サムが 「車椅子に 恐竜 描いてあげようか?」と訊くと、「お前を殺してやりたい」と口にし、母から諫められる(1枚目の写真)。父は 「お前にもできることがあるぞ。食べることだ」と言い、医院の近くにあった魚料理の屋台に連れて行く〔歩行距離700メートル弱/車椅子だし、途中 町の中心を通るので、レストランに寄ることもできるのに…〕。屋台の若い女性は、サムのことを覚えていて、「まあ、ゴキブリ博士」と笑顔で呼びかける。サムは、前と同じもの注文する(2枚目の写真)。兄は、足のことを訊かれ、「サッカーのキック」と嘘をつき、同情される。屋台の前で料理をつまんでいると、父が 「おい、あの子じゃないか?」とサムに声をかける(3枚目の写真)。ちょうどテスが自転車の荷台に籠を縛り付けようとしていた。「ほら、行くぞ」。「気が乗らないよ」。   

父は、無理矢理サムを連れてテスに歩み寄り、「やあ」と声をかけ、「この子を 世話してくれてありがとう」と、テスが途中でサムをほっぽり出したことも知らずに礼を言う。サムは、悔しいのでそのことは黙っていたが、「僕、赤ん坊じゃないよ」と反論する。すると、中庭で休んでいたテスの母が、サムに「お気に入りの ミニ・ツーリスト君」と声をかける。そして、一緒にいた父には、「その2人、とても息が合ってるみたいよね?」と言い、それを聞いたサムは、照れくさそうな顔になる(1枚目の写真)。父:「まさか」。「そうよ。だって、ピクニック日和ですもの」。父は、「ピクニック?」とびっくりし、1日で、そこまでテスと親しくなったことで、大したものだと サムを見る。テスは 「ママ、何を言い出すの?」と誤解を解こうとするが、その態度は、逆に、母を別な想像に持って行く。「まあ、ごめんなさい、びっくりさせるつもりだったのね」。このピクニックは、昨日チェック・インした2人連れに約束した「ピクニック」だったのだが、母には相手が誰だとは明かしていない〔母に内緒でゲストハウスを2人に提供した〕。これが、いい口実になると気付いたテスは、調子を合わせ、「そうよ、びっくりなの」と、サムに笑顔を見せる。そのあと、サムはテスとレンタサイクル屋に行き、シルから自転車を借りる。シルは 「デートにお出かけか?」と冷やかす。「ピクニックだよ」(2枚目の写真)。「どうやったんだ。教えてくれよ」。サムは、土曜まで自転車を借りることにする。未舗装道路を2人で自転車を走らせる。サムが 「自転車は この島で必需品だね」と声をかけると、テスは 「まだ、謝ってなかったわね」と言い、「ごめんなさい」と謝る。「私、滅多に謝らないのよ」とも(3枚目の写真)。サムは、「こうも言えるよ。『あんなつもりじゃなかった』とか、『荒れ地に一人で放置すべきじゃなかった』とか」と付け加える。「『ごめん』より、ややこしいわ」。   

途中で、テスが、妙なことを言い出す。「ユーホ〔昨日の男性〕の近くだわ。寄ってみない?」。「何だって?」。テスは、ユーホの車が脇道から出て来るのを見つけると、「ストップ!」と叫んで車を停める。そして、運転席の横まで行くと、笑顔で、「一緒にピクニックはどうです?」と誘う。「今からビーチに行くとこなんだ」。「いい考えね。ピクニックに最適なビーチに案内しますよ」(1枚目の写真)。助手席の女性は、「2人だけでいたいの」と テスの申し出を断る。シーンは変わり、ピクニックに最適とは思えない草地で、テスはふてくされて横を向いて寝ている。サムが 「いったいどうしたの?」と訊くと、「別に」とすげない返事(2枚目の写真)。サムは、場を盛り上げようと、「最後に残った恐竜は、死んだ時 寂しかったと思う?」と訊く。「もちろんよ。他の恐竜が死んでいくのを見たんだから。だけど、それほどでもなかったのかも。死んだ時には、一匹しかいなかったから」。「その通り。だから、僕は “孤独の訓練” をしてるんだ」。「孤独の何?」。サムは、ノートを渡す。「僕まだ小さいだろ。だから、地球上で一人だけになった時のために準備しないと」(3枚目の写真)。「なのに、私のことを『変』だって言った」。「明日は、4時間、1人で過ごすんだ」。「訓練の間、眠っちゃいけないの? トイレもダメ?」。「訓練の時間を作る方が難しいよ」。   

ここで、サムは、籠の中の濃い色の飲み物を、赤ブドウ・ジュースかと思ってガブガブ飲み、一気に吐き出す。それは、テスがユーホのために用意した赤ワインだった。「なぜ、ワインなんか?」。サムは 「ピクニックは、僕のためなんかじゃないね?」と、テスを非難する(1枚目の写真)。テスには、返す言葉がない。2人は早々に自転車に乗り、分岐点まで来ると、一緒に帰りたくないので二手に分かれる(2枚目の写真)。3枚目の写真は、この撮影地点のグーグルマップ(航空写真)。深い意味はないが、島の東部の平坦さが分かるので掲載した。   

サムが、サマー・ハウスに戻ると、3人が屋外のテーブルに座って推理ゲームをしていた。そこに4人目が加わったので、父は、「全員 揃った。いい考えがある」と言い出す(1枚目の写真)。「ヨーレは不幸にして足を折っちまったが、一日中ここに座ってたくないだろ。だから、明日は、みんなでボーリングだ」。サムは、「僕、行けない」と断る〔4時間の訓練がある〕。父:「何でだ?」。「テスに会う」(2枚目の写真)。母:「呼んだら?」。「テスは、ボーリングが嫌いなんだ」。「そっちは断って、家族で一緒に行こう」。「約束した」。翌日、一家3人はボーリングに出かける(3枚目の写真)。   

難しい時期だけど、計画はしっかり実行しないと」。サムは、ストップウォッチをセットすると、歩いて昨日の砂浜まで行く。日よけに置いた板はなくなっていた。砂浜と荒れ地の境の “砂丘” でランチを食べ、時間を見る(1枚目の写真)。まだまだ足りない。そこで、砂丘に寝転んで、無為に時間を過ごす(2枚目の写真)。戻る途中で、サムは、変わった一軒家を見つける。家の周りに、浮き輪とか、櫂とか、筒状の網とか、サムの “消えた” 板まで置いてある。まるで、海のゴミの集積場だ。興味を持ったサムは、家に近づき、バルコニーに上がる。そこも、拾ってきた物で溢れている。すると、ドアが閉まる音がして、飛行帽をかぶった老人が姿を見せる。叱られると思ったサムは、全速力で走って逃げる(3枚目の写真、矢印は老人)。その後、何とかサマー・ハウスの前まで辿り着いたサムは、経過時間が4時間ぴったりになるまで待ってから、中に入って行く。   

ところが、そこには思いがけぬ光景が。喧嘩分れしたはずのテスが、兄と楽しそうに遊んでいる。「テスは、何してるんだ? もちろん、ヨーレに首ったけなんだ。僕より3つ年上で、背もずっと高い」。冷たい顔で見ているサムに気付いたテスは、「サム!」と嬉しそうに声をかける。父は 「見つかったか?」と、訳の分からないことを訊く。サムが 「何?」と訊くと(1枚目の写真)、テスは立ち上がって 「双眼鏡のことよ」と言う。「双眼鏡?」。テスは 「ちょっと来て」と言うと、サムの手をつかんで家の中に連れて行くが、その際、兄は 「荒れ地で失くすなよ」と注意する。2人だけになると、サムは 「僕の両親に何て言ったんだ?」と強く訊く。「心配しないで。あんたが、孤独に浸りたくて島をうろついてるなんて誰も知らない」(2枚目の写真)〔失くした双眼鏡を捜しに行った、ことになっている〕。「なぜ、私がボーリングが嫌いだなんて言ったの? 大好きなのに」。「何で ここにいる?」。「あんたを探しに。面白いゲーム 思い付いたの。きっと気に入る」。そして、自分はユーホと、サムは相手の女性とペアになると話す。「突然、僕は理解した。なぜ、テスが変なことばかりするのか。あいつにラヴしたんだ」。サムは、「僕は、バカじゃない」と言うと、テスに背を向け、「参考までに言うと、彼は君には年上過ぎるし、恋人だっている」と、批判する。「サム、あんたが必要なの」。「僕は君の召使じゃない。なぜ、ユーホに直接迫らないんだ?」(3枚目の写真)。「サム、ユーホは私の父さんなの」。そう言い残すと、テスは出て行ってしまう。思い違いに気付いたサムは、自転車に飛び乗って後を追う。   

サムは、勝手にテスの家に入って行き、2階のテスの部屋のドアをノックする〔家にいた母親が教えてくれた〕。中に入れてもらえたサムは、「じゃあ、君のお父さんは、火山の噴火で死んだんじゃないの?」と尋ねる。「ううん。それに、アマゾン川に飲み込まれたわけでも、サメに食い殺されたんでもない」。そう言うと、1冊のアルバムを渡す。最初に映ったのは、アルゼンチンの地図。ブエノスアイレスの文字に丸が付けられている(1枚目の写真)。その下に貼り付けられた搭乗券の上には、同じペンで、「さあ、行くわよ〔daar gaan we〕!」と書いてある〔搭乗券そのものは、いい加減で、名前の欄の「VDBOSCH/MS」のVDBOSCHは、恐らくオランダ領東インドの総督だったJohannes van den Boschの “van den Bosch”。航空会社の “AI” は、エア・インディア。行き先はブエノスアイレス。搭乗日は2007年2月2日。これだと、約9ヶ月後にテスが生まれたので、撮影時(2018年7・8月)には10歳となる〕。「これ、母さんの日記帳なの」「ここで、母さんは父さんに会い、アルゼンチン中を一緒に旅したの」。次に映ったページには、ヤシに囲まれた浜辺の小屋の写真が貼られ、その下に「ユーホは、ここで永遠に暮らしたいって〔hier wil hugo voor altijd blijven〕」と書かれている。次に、テスが見せたのは、名前も何も書かれていないレンタル・オートバイの説明書〔2人が借りたのは、ホンダ・トランザルプ700とスズキVストローム650。問題は、前者の海外での発売開始が2008年と、航空券の2007年2月とかなりズレていること〕。テスは、この紙の裏に、「Hugo Faber」と、唯一 フルネームが書かれていると サムに強調する。そして、「9ヶ月後、私が生まれた」と教える(2枚目の写真)。下で、テスの母が、「夕食の用意ができたわよ」と呼ぶ。テスは、部屋を出る前、「母さんは、あの2人が島に来てるって知らないの。だから、秘密にしておいてね」と約束させる(3枚目の写真)。   

食事中、母は 「食事が済んだら、ちょっと出かけてくるわ。土曜にツーリストが来るから、それまでにゲストハウスの用意をしないと」と、大変なことを口にする。テス:「まだ、4日あるわ」。「でも、ずっと無人だったから、風を通して カビ臭さを取らないと」。サム:「僕たちがやるよ」。テス:「ええ」。「ありがたいけど、自分でしたいの」。テス:「サムに、あのバンガローを見せたかったの」。「うん」。「お願い」(1枚目の写真)。母は、皿を洗っておくことを条件にOKする。そして、2人は、今度こそ仲良く自転車で砂浜に向かう(2枚目の写真)。ビーチでは、2人とも水着になると、仲良く並んで浮かぶ(3枚目の写真)。   

さんざん水際でじゃれ合った後、服を脱いだ所まで行くと、サムは 「君のお母さん、父親が誰か、なぜ教えなかったのかな?」と訊く。「母さんは、いつも言ってた。父親なんか不要だって。最初は信じてたけど、疑問を持ち始めたの。いた方がいいんじゃないかなって。それで、名前が分かったから、捜し始めた」。「捜すのに、ずい分時間かかった?」。「10分よ。フェイスブックで」。「それから?」。「そしたら、何もかも分かった。ベルリンに恋人と一緒に住んでて、旅行が大好き」(1枚目の写真)「そこから、懸賞のことを思いついたの」。「サルサのことも?」(2枚目の写真)。「で、2人をこの島に招待した。“無料での5日間滞在” に当たった、って手紙に書いたの」〔応募もしないのに なぜ当選する?〕。「なぜ、ユーホにすぐ言わなかったの?」。「もし、悪い人だったら? 一旦、真実が分かったら、取り消せない」。テスは、ユーホの人柄をチェックするため、明日、サムの手が借りたいと言うが、サムは 「1人で訓練しないと」と、断る(3枚目の写真)。そして。「お父さんと認めない方がいいんじゃないかな。そしたら、葬式に出なくて済む」と言い、テスから、「ホントに変な子ね」と呆れられる。そして、「あんたの葬式には、ちゃんと出てあげる」とも。その夜、サムの独り言。「恋による罪は許される、って言うよね。孤独の訓練は1日中断しよう」。   

2人は、早朝、ゲストハウスに行き、ドンドンとドアを叩き、「ユーホ! エリーザ!」と名前を呼ぶ。サム:「きっと、いないんだ」。テス:「車があるわ」。サムは、「2人は…」と笑いながら、指で、セックス中のサインをしてみせる(1枚目の写真、矢印)。テス:「イヤらしい」。その時、急にドアが開き、ユーホが顔を出す。2人は、笑顔で 「宝探しのゲームです」と呼びかける(2枚目の写真)。ユーホは、「そんな気分じゃない」とドアを閉めるが、それでは可哀想だと考えたらしく、すぐにドアが開き、「1時間後でどうだ?」と訊く。2人が笑顔でOKしたのは もちろんだ。1時間後、4人は、近くの草地に行く。そして、テスから渡された “吹き戻し” を吹く(3枚目の写真)。その後は、「サクソフォーン奏者のチャーリー・パーカーのニックネームは?」といったクイズ。どこが “宝探し” なのか、よく分からない。   

最後のゲームは、乾燥させた切り株と、ノコギリなどの道具を使って、15分で何が作れるかを、2人ずつのチームに分かれて競うもの。テスとユーホ、サムとエリーザがペアになる。スタートしてしばらくすると、ノコギリを使っていたユーホが悲鳴を上げる。傷を見たサムは、来ていた白いシャツを脱ぎ、手首の傷に巻き付ける(1枚目の写真、矢印はシャツの包帯)。エリーザ:「すぐ 医者に行きましょ」。しかし、唯一 島の住民であるテスは、凍り付いたように動かない。サムは、「テス、来いよ!」と言うが、テスは、小声で 「無理」と言う。「医者に診せないと。来いよ、テス!」。「母さんが いるわ」。サムは、ようやくそれに気付く(2枚目の写真)。そして、とっさに 「携帯渡して」と言う。携帯を受け取ると 「すぐ、自転車で家に」と、“どうしていいか分からない” 状態のテスに指示。テスが走っていなくなると、電話でテスの母を呼び出す。テスの携帯からなので、母親は、てっきりテスからだと思うが、サムは、てきぱきと、「もしもし、サムです」と言う。「誰?」。「『お気に入りの ミニ・ツーリスト君』です。すぐ 家に来て下さい」。「でも、仕事中なのよ。どうかしたの?」。「テスが事故に」。「どんな」。「最悪です」。「テスと話させて」。「できません」。「サム、ちゃんと話して。一体全体 何なの?」。「テスが…」。切羽詰まったサムは 「妊娠しました」と言ってしまう(3枚目の写真)「トイレに閉じこもって、何も言おうとしません」。ここで、電話が切れる。サムは、ユーホとエリーザを追いかける。   

この先の場面… 映画はかなり矛盾している。サムからの “衝撃的” な電話を受けて、母はすぐに電話を切ったのだから、そんなにぐずぐずせずに、医院を出たハズだ。ところが、ゲストハウスはかなり遠い。車で走っても、数分では着かない。しかし、映画では、1枚目のグーグル・ストリートビューの右上の階段を3人が降りてきて、中央の矢印のアーチ型の門から飛び出てきたテスの母を見て、一旦、隠れる。3人は、そもそもなぜ階段を降りてきたのだろう? 車で医院の前に乗り付けるのが当然なのに。そして、2枚目のグーグル・ストリートビューは、1枚目と同じ位置で回転させただけ。右の矢印のアーチ型の門は同じ。ここからテスの母は飛び出て、左端の矢印の方に早足で歩き、僅か40メートル先の自宅に向かう。テスは自転車で向かっている。10分以上はかかるので、到底間に合わない。足をすくって楽しんでいる訳では決してないが、ロケ地がこれほど狭いと、どうしても気になる。因みに、この家は医院ではない。3枚目の写真は、映画のシーンで、テスの母が急いで出て行き(矢印)、その後に、3人がアーチ型の門をくぐって医院に入るところ。   

サムは、女医から、ユーホのケガは、生命に影響を及ぼすようなものでは全くないと言われ、安心して家に向かう。帰宅すると、何も言わずにキッチンで水を飲み始めたので、父が皮肉を言う。「おい、どこから現れた? 見たような顔だな。確か、朝食をここで食べて、その後、1日中いなくなった奴だな。誰なんだ? 分かったぞ! 息子だ」。サムは、それには付き合わず、「ママは?」と訊く。「片頭痛」。ここで、兄が 「何か食べないと」と言い出す。父は 「じゃあ、フライでも買ってきてくれ」と言い、財布をサムに渡す。「我らが石膏の友〔兄のこと〕に、ホットドッグなんか買うんじゃないぞ」(1枚目の写真)。兄は、自分で車椅子を回し、後ろサムが付いていく。サムが気遣って車椅子を押そうとすると、兄は 「触ると 去勢するぞ」と嫌がる。そして、「くそバカンス、くそ石膏、くそ、くそ、くそ」とブツブツ。「『くそ』じゃないものが、何かあるよ」。兄は、気を取り直し、「キスしたか?」と訊く。「え?」。「何だ、まだキスしてないのか?」。「してない」(2枚目の写真)。「いいか、お前が仕切るんだ。女の子は、それを期待してる。知らんのか?」。2人が向かった先は、恐らく港の近くの屋台〔テスの家の前の屋台ではない〕。兄は 「フライ3つ、チーズ、コロッケ、チキン一口」、サムが 「メキシカン料理1皿」を追加、16.40ユーロ〔2018年夏の為替レートで約2100円〕を払う。そこに、「ゴキブリ博士、今日は」との声がする。いつもの売り子が、今日は水着姿で浜からやって来た。女性は、兄に、「今日は、楽しめた?」と訊く。「良かったよ」。「明日、“何でも市(いち)” に来ない?」。「“何でも市”?」。「私も、いろんな食べ物の露店を出すの」。サムは 「面白そうだね」と兄をプッシュ。「うん、見に行くよ」。兄はまんざらでもなく、ご機嫌な様子。そこで、帰りに、サムは 「男が仕切らないと。女の子は、それを期待してる」と、兄の真似をして2人の仲をプッシュする。さらに 「兄さんは恋してる」とはしゃぐと、兄はニヤニヤ。最悪のバカンスに希望の光が見えてきた。だから、最後に、サムが真面目な顔になって 「穴に落ちて足を折ったこと、まだちゃんと謝ってなかったね」と言うと、「忘れちまえ」と許してくれる。   

翌日、サムの一家は全員で “何でも市” に出かける。兄は、松葉杖で歩けるようになっている。サムが3人とは反対側の露店を見ていると、そこにテスが現われる。「順調?」(1枚目の写真)。「妊娠はしてないわ」。サムは、苦笑して携帯を返す。テスは、「ユーホがエリーザと来てる。2人とも怒ってない」と報告し、それを聞いてサムもホッとする(2枚目の写真)。「私、打ち明けることに決めた」。「ホント?」。「ええ、だけど 一緒に来て」。サムは、レコード探しに熱心な3人を見て、声をかけずにテスに付いて行く。2人が、オープン・カフェで食べているユーホとエリーザの前まで行くと、ユーホの手には包帯が巻かれているが、痛そうに振る舞ってはいない。エリーザは、何が欲しいか訊き、サムがブドウ・ジュースと言ったので、席を立つ。   

テスは、勇気を奮い立たせるため、テーブルの下でサムの手をぎゅっと握ると、「ユーホ… 私… 12年前…」と話し始めるが、隣のテーブルの小さな女の子がやんちゃ声で叫んで 食べ物の紙皿を壁に投げつけたので、中断される。「12年前…」。また、つんざくような泣き声を出して、テーブルを叩く。それを見たユーホは、「子供がいなくて良かった」と言ってしまう(1枚目の写真)。その言葉に、テスはショックを受ける(2枚目の写真)。サムは、心配そうにテスを見る(3枚目の写真)。テスは黙って立ち上がると、逃げるように立ち去る。サムは、すぐに後を追う。   

サムは、狭い路地に逃げ込んで泣いているテスを見つけると、中に入って行く。サムに気付いたテスは、「あんたの言った通り。もう、あの人のことなんか知りたくない」と言い出す。「君のことを言ったんじゃない」。「彼なんか要らない」。「お父さんじゃないか」。「私の母さんと寝ただけの男よ」。「もう一度ちゃんと話せよ。こんなのフェアじゃない」(1枚目の写真)。「君が言わないんなら、僕が話す」。「そんなことしたら、殺してやる」(2枚目の写真)「葬式にも出てやらない」。そう強く言うと、テスは 「お別れね、サム」と言って泣きながら去って行く。サムは、後を追おうとするが、背後から、父の厳しい声が響く。「サム! 何してる! ここに来い!」。サマー・ハウスに戻ったサムは、両親の前に座らされる。母は 「この1週間、ずっと一緒にいられると思っていたら、いつもどこかに消えてしまう」と責める。「テスと一緒だった」〔半分は嘘〕。「私たちに、それが分かって?」。父は 「一家でバカンスに来たんだぞ!」と文句(3枚目の写真)。「明日、お前は、1日中 家族と一緒にいるんだ」。「明日は最後の日だよ」。「それが、どうした。分かったな!?」。「OK」。   

翌早朝、サムは、こっそり起き出しメモを書く(1枚目の写真)。そこには、「パパ、ママ、ごめんなさい。1人にならないと。サム」と書かれていた。そして、いつも通リ、家を出た所でストップウォッチを押し、いざ出発。今日は、いつもと逆方向〔南〕に降りて行く(2枚目の写真)。3枚目の写真は、ここと、ほぼ同じ場所のグーグル・ストリートビュー。全体の風景が分かるように、少し、広い範囲を示した〔正確に言えば、ストリートビューではなく、サマー・ハウスの南西30メートルの地点に設けられた「360˚写真」のポイントでの写真。サマー・ハウスは道路から80メートル奥にあり、ストリートビューでは見ることができない。そこで、灯台との位置関係を示す1コマの映像と、グーグルマップの航空写真の屋根の形から、サマー・ハウスを特定した。そして、この「360˚写真」が、2枚目の写真と合致したことで、その特定が間違っていなかったことが判明した〕。因みに、この島の北側はすべて砂浜だったが、オランダ本土に面した南側に砂浜は皆無。南側に拡がるのは、ユネスコの世界自然遺産に登録されているワデン海。非常に浅い海で、「ワドローペン」という「島と島の間、あるいは本土から島までを、引き潮の時間帯にガイドと一緒に歩いて渡るというユニークなツアー」があると、オランダ&ベルギー・フランダース政府観光局の共同オフィシャルサイトに書かれている。この “浅い泥の海” は、後でサムを危機に追い込む。   

そこは、一面の泥が拡がる世界。サムは、波打ち際でカニと遊ぶ(1枚目の写真)。そのあと、足で泥をくぼませながら、ほとんど水のない海に入って行く。双眼鏡で鳥を観察していると、いつの間にか、潮が満ちてきて辺りは一面の海に。戻ろうとして足を動かそうとするが、泥に深くはまった足は、動かすどころか、引き抜くことすらできない。岸からは数百メートルも離れてしまっている〔潮位が高くなったせい/干満の差は3メートル!〕。生きたまま溺れるかもしれないと 恐怖にかられたサムは 「助けて!」と叫ぶ(2枚目の写真)。ここで、独白が入る。「まさか、こんなことが起きるなんて。これじゃ、僕は、地球上最後の人間でなく、一番早く死ぬ人間になっちゃう」。サムが、泣きながら苦闘していると、涙目に近づいてくる人影が見える。「動けないよ!」。男は、サムの背中をつかむと、渾身の力で引き抜く。場面は、3日前サムが逃げ出した “飛行帽をかぶった老人のいた一軒家” に移る〔この老人が、たまたま南の海に漁に来ていた〕。居間の中には、鳥の剥製などが置いてあり、サムは毛布でくるまれて座っている。そこに、老人が暖かい飲み物の入ったカップを持ってきてくれる(3枚目の写真)。「これまでいろんな物を海から取ってきたが、子供は初めてだ。泥の海がものすごく危険だと知らなかったのか?」。「ううん」。   

サムが、飾ってあった夫婦の写真について尋ねた時、最も重要な会話が始まる。「あれ、奥さん?」。「そうだ」。「まだ、ご存命?」。「いいや。そういうもんなんだ。人生とはな」。「一人きりでいるって、寂しい?」(1枚目の写真)。「一日の一瞬一瞬が寂しい。だが、素晴らしい思い出が一杯ある。一緒に過ごした一瞬一瞬はすべて覚えている。もっとあれば良かったのにと思う。いいか、お前さんも、楽しい思い出を できるだけたくさん作っておけ。手遅れになる前にな」。この言葉に、サムは 「思い出…」とハッと気付く(2枚目の写真)。サムは全力で荒れ地を走る。「ユーホとテスは 11年分の思い出を逃した。4015日分にもなる!」。ようやく、ゲストハウスに辿り着くが、そこには、もう誰もいなかった。しかし、車が動き出す音が聞こえる。サムは、車の前に出ようと、再び、丘を全力で越え、車の前に立ちはだかる(3枚目の写真)。   

サムは、びっくりして車から降りた2人に、「行っちゃダメだ」と呼びかける。ユーホ:「フェリーに乗らないと」。サム:「言わなくちゃいけないことがある」。エリーザ:「サム、時間がないの。乗り遅れるわ」。ユーホ:「どいてくれ」。サムは 「テスは、あなたの娘だよ」と、テスの許可なく事実を告げる(1枚目の写真)。ユーホは、自覚がないので大声で笑い出す。「何だと? 何てバカげたこと言うんだ! テスがそう言ったのか?」。サムは頷く。「ナンセンス。テスは想像力が豊かなんだ。それだけさ。サム、悪いんだが、私に子供はいない」。「12年前、アルゼンチンで旅行しなかった? テスのお母さんと一緒に」。その言葉に、今度はユーホが凍り付く。「それから9ヶ月後、テスが生まれた」。ユーホは 「イーダ〔テスの母の名〕」と言って頷くが(2枚目の写真)、突然の事態に当惑し、どうしていいか分からない。その様子を見たサムは 「テスは、昨日、それを話すつもりだったのに、あなたが 『子供がいなくて良かった』なんて言うから」と指摘する(3枚目の写真)。ユーホは、自分の失言を恥じる。「テスは、僕がここにいるって知らない。だから、こんなこと忘れて船に乗ったって構わないよ」。これまで黙っていたエリーザは、「サム、車に乗って。テスを探しましょ」と言ってくれる。   

エリーザは、テスの家の前で車を停める。ユーホとサムは車を降り、柵の前に並んで立つ(1枚目の写真)。中庭では、テスが籐芯で編んだ寝椅子に、力なく横になっている。そして、突然、2人の存在に気付く。ユーホとサムが一緒なので、その意味はすぐに察しがつく。サムは 「何か言ってよ」とユーホを促す。ユーホは 「テス」と呼ぶが、そのあとの声が出ない。そこに、テスの母が家の中から出てきて、ユーホと目が合う。母は、突然の出来事にテスの関与を疑う。テスは、裏切ったサムを見つめ、悲しくなったサムは(2枚目の写真)、その場から走って逃げる(3枚目の写真)。   

サムが、サマー・ハウスに戻ると、父がキッチンで野菜を刻んでいる〔母は また片頭痛?〕。サムを見た父は、サムのメモを見せ、「どういう意味だ?」と訊くが、悲しさで一杯のサムは、父に抱き着いて泣き始める(1枚目の写真)。父は、メモなどどうでもよくなる。「ここにパパがいく、すごく嬉しいよ」。そう言われた父は、「ここにお前がいて、私も嬉しいよ」と応じ、サムの髪にキスすると、泣いた子をあやすように抱き続ける。その後は、外のテーブルで 一家揃っての食事。父の 「ここでの最後の食事に」の音頭で、グラスを合わせる(2枚目の写真)。食事が始まるが、サムは元気がなく 会話に加わらない。その時、玄関のベルが鳴る。見に行った父に呼ばれたサムは、トボトボと玄関に向かう。見の前にいるのが、テスだと分かったからだ(3枚目の写真)。   

サムは 「僕を殺しに来たの?」と訊く(1枚目の写真)。そして、自分が勝手にやったことを謝り始める。テスは、それを止めさせ、「ユーホが、私の父さんになるって」と嬉しそうに報告する。「ホント?」。サムに定番の笑顔が戻る(2枚目の写真)。テスは 「そうよ」と言うと、感謝を込めてサムに抱き着く。「あんたたちを招待しに来たの」(3枚目の写真)。「僕たち?」。「そう。あんたと、家族の皆さん。ユーホと私で ちょっとした会を開くの。1時間後に迎えにくるわ」。   

サムは、迎えに来た車に途中で停まってもらい、飛行帽の老人を呼びに行く。そして、「楽しい思い出を 新しく作ってみない?」と、参加を促す(1枚目の写真)。“ちょっとした会” の場所は、ユーホがいたゲストハウス〔この時点は金曜の夜。テスの母の前の話では、ツーリストが借りに来るのは土曜〕。“ちょっとした会” はサルサで盛り上がる。踊れない兄も、魚料理の屋台の女性と仲良く話している。この場面の最後は、2人だけ離れた場所に座ったサムとテス。サムが優しくテスを見ると(2枚目の写真)、テスがサムの首を回し、サムがテスの頬にキスをする(3枚目の写真)〔このあと、テスとユーホがどうなるのかは分からない〕。   

翌 土曜日。ハルリンゲンに向かうフェリーの手摺にもたれたサムは、テスのいる町を見ている。「僕の人生で、一番変わった、そして、最高の一週間だった。僕は、孤独の訓練なんかもうやらない。できるだけ多くの思い出を作りたいから。頑張って作っておけば、将来、いっぱいの思い出に囲まれていられる」(1枚目の写真、矢印は灯台)。エンド・クレジットが入り始めると、ハルリンゲンに向かうフェリーが映る(2枚目の写真)。フェリーの実際の航路は、3枚目のグーグル・マップ(航空写真)のように、蛇行している。それは、ワデン海が浅く、水深の深い場所〔黒い部分〕を選んで航行するため。   

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