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Montanha モンターニャ/少年期との訣別

ポルトガル映画 (2015)

監督のJoão Salavizaは、ショートフィルムに特化した監督(脚本・編集を兼ねている)。2004年から映画を作ってきたが、2009年の『Arena』でカンヌのパルム・ドール(短編部門)、2012年の『Rafa』でベルリンの金熊賞(短編部門)を受賞している。この作品の後も、ショートかドキュメンタリーしか作っていない。『Arena』では、この映画のダメ父グシュタヴォ役のCarloto Cottaが、『Rafa』では、同じく不良のラファエル役のRodrigo Perdigãoが主役を務めている。この映画の主役は、デヴィッド・モーラト(David Mourato)。88分という、監督として初めて挑戦する「非シュート」の映画の主役を一人で背負っている。デヴィッドが演じる役柄上のデヴィッドは、14歳で、幼い顔立ちながら、もう少年ではないし、そうかといって大人でもない。そう書くと、どこにでもある「coming-of-age」物かと思ってしまうが、そんな生易しい青春物語ではない。デヴィッドが少年でなくなったのは、両親が離婚し、2人ともデヴィッドを見放したから、そして、祖父の面倒を1人でみながら暮らす運命を強いられたからだ。この映画では、何事も明確には表示されず、画面や会話から推し量るしかないが、祖父は、①祖父のアパートには車椅子がある、②祖父は調理、家事、バスでの外出ができた、という相反する事象から、何らかの病気を抱えているらしい。そして、それを本人も自覚している。そうした祖父との2人だけの生活は、デヴィッドの自立心を高め、同い年の少年のように「学校で勉強して」「将来は××になる」などという目的意識や夢を奪い去る。そして、どこかで知り合った年上の不良と親しくなり、悪の道にも足を突っ込む。不登校となり、落第をくり返す。そんな悲惨な状況下で、突然、祖父が病院に行き、行ったきり帰って来なくなる。強制入院だ。ロンドンに移り住んでいた母は、押さない娘(デヴィッドの妹)を連れて看病に帰国する(自分の実父)。母が戻ってくると、家長のように振舞うが、それがデヴィッドには我慢できない。もう、命令に従うような子供ではないからだ。祖父は、結局は亡くなる。それまでに、デヴィッドは何度も病院に行くが、祖父とは一度も会えず仕舞い。それがまた、デヴィッドにとっては不満でもある。そんなデヴィッドは、ラファエルの介在もあり、それまで同じアパートの棟に住んでいながら存在も知らなかった同年のポリーニャという美しい少女に思いを寄せるようになる。そして、その想いが叶った夜の翌日の朝、祖父の死を病院からの電話で知らされたデヴィッドは涙にくれる。この慟哭は、その後のデヴィッドに何をもたらすのだろうか?。

暑くて寝苦しい眠りから醒めたデヴィッドは、祖父入院の知らせを受けたロンドンから急きょ帰国した母と短い会話をしたのち、すぐ一緒に病院に向かう。しかし、祖父の病状はかなり悪く、母は、折角一緒に来たのにデヴィッドを面会させることなく病院を後にする。デヴィッドは、悪友のラファエルにそそのかされて学校の門前でバイクを盗むが、顔を見られてしまう。その後、デヴィッドは、ラファエルの紹介で、同じ棟に住んでいながら、今まで一度も会ったことのないポリーニャと3人で楽しい時を過す。3人は、その夜も遊園地にでかける。新しい経験に興奮しながら帰宅したデヴィッドを待っていたのは、母との離婚後一度も会ったことのない父。父が来た目的は、娘と会いたい一心で、不仲のデヴィッドのことなどどうでもよかった。だから、デヴィッドも相手にしない〔この段階で、デヴィッドは、両親の離婚後、2人のどちらとも暮らさず、祖父と2人だけで暮らしてきたことが判明する〕。父にも母にも愛想が尽き、祖父とは会わせてもらえないデヴィッドは、ポリーニャの部屋に行き、そこで初めてキスをして、彼女のことが好きになる。しかし、楽しいことばかりではない。学校に呼び出されたデヴィッドは、祖父の入院を嘘だと決めつけられ、落第を告げられ、さらに、盗んだバイクを返すよう警告される。しかし、デヴィッドにバイクを盗ませた悪友には、折角手に入れたバイクを返す気などさらさらない。その夕方、祖父が帰宅できるということで病院を訪れた母とデヴィッドに告げられた容態の急変。デヴィッドは、祖父に会わせてもらえないので、ふて腐れてディスコに行き、そこで悪友とキスするポリーニャを見て嫉妬する。3人は、その後、デヴィッドのアパートに行くが、そこでも、デヴィッドは1人で自分のベッドで寝ることに。帰り際。デヴィッドはポリーニャに愛を打ち明けるが、構ってもらえない。むかむかしたデヴィッドは、昨夜ポリーニャと一緒にいた悪友に、バイクを処分するよう強硬に主張し、喧嘩のあげく、最後には2人は訣別。デヴィッドはバイクをガソリンをかけて燃やす。その晩、ディスコで再び出会ったデヴィッドとポリーニャは、ポリーニャのアパートで一夜を共に過ごす。そして、早朝、自分のアパートに戻ったデヴィッドを待っていたのは、祖父の死を伝える病院からの電話だった。

デヴィッド・モーラトは、恐らく、映画の設定と同じ14歳。これが映画初出演にして初主演。最近のどの映画でも取り入れられている細かいカットを嫌い、延々と主人公の心の変化を追う監督の脚本と演出には、よほどの名優でない限り、映画をリードしていく力はない。映画そのものは7受賞、23ノミネートと、ポルトガルでは高く評価され、デヴィッドも、ポルトガル映画だけを対象とした「Coimbra Caminhos do Cinema Português」で驚異賞を受賞した他、3つの映画祭で主演男優賞にノミネートされている。ハンサムな名子役の誕生だが、その後、出演の兆しはなく、これ1作で終わりそう。


あらすじ

映画は、型どおりオープニング・クレジットが表示された後、いきなり上半身裸で寝ている少年の背中が写され、そのまま身動き一つしないまま27秒が経過する。この映画の編集方針を象徴する幕開けだ。ポルトガルの夏は結構暑いのだが、クーラーの普及率は低いので、扇風機が回り続けている。32秒目で、少年は向きを変えてうつ伏せになり、顔だけ上げて扇風機を見つめる。40秒目で、部屋をノックする音が聞こえる。少年は無言だが、部屋が開き、女性が入って来てカーテンを開けると、「デヴィッド」と呼びかける。それでも、少年は黙って寝たフリをする。女性は少年の横に座り、様子を伺ってから、逆方向に横になる。そして、86秒目になって、「昨夜は、どこにいたの?」と訊く〔秒数のカウントは止めるが、如何に余韻をもって作られているかが分かる〕。「そこいら」。しばらくして、「それで?」と訊く。「おじいちゃんは、まだ病院よ」(1枚目の写真)。「デヴィッド」は仰向けになるが、何も言わない。次のシーンでは、2~3歳の女の子が、先ほどの女性と遊ぼうとするが、女性は無視している。ここで、女性は、デヴィッドと女の子の母親だと推測ができる。女の子が手に持った縫いぐるみを母の背中に押し付けると、「ハロー」と英語でしゃべる。女の子は、人形に、「あんた、ポルトガル語が話せないのね」と言う。デヴィッドはベッドから出ると、母と一連の会話を交わす。2人の関係が分かる短いが重要な内容だ。デヴィッド:「いつまでいるの?」。母:「おじいちゃんが良くなるまで数日だけ」。そして、「車は、まだ故障してるの?」「ビンゴにはまだ行ってるの?」と尋ねることから、母がデヴィッドを祖父に預けて去ってからかなりの歳月が経ったらしいことが分かる。「あなたは、どこにいるの?」。「ここか、外」(2枚目の写真)。「何してる?」。「いろいろ」。玄関のドアがノックされる。デヴィッドが出ると、それは恐らくお隣さん。「おじいちゃん、どうなったか連絡あった?」。「ううん、まだ何も」。「ママは来た?」。「昨日」。「おじいちゃんに、この花渡してくれる?」。デヴィッドの祖父は、恐らく昨日か一昨日具合が悪くなり、入院したのだろう。そして、連絡を受けた母は、娘と一緒に飛んできた。
  
  

祖父が入院した病院に行った3人。廊下でずっと待たされる(1枚目の写真、デヴィッドは隣の人が渡した花束を持っている)。ようやく看護婦が病室から出て来ると、母に、「お父さんが目覚めました」と言いに来る。母は、娘に、「デヴィッドと一緒にいなさい」と言い、デヴィッドには「後で、会えるわ」と言い残し、病室に1人で入って行く〔なぜ、3人で行かないのか?〕。デヴィッドは、妹に、「そこにいろ」と声をかけると、窓辺に行って考え込む(2枚目の写真、矢印は花束)。この映画では、デヴィッドの状況も、彼が何を考えているのかも、十分な情報は最後まで与えられない。この後の会話から推測できる状況は、①母は、1年以上前に父と離婚し、幼い娘と一緒にイギリスに住んでいて、時々電話で連絡を取り合っている、②父は、同じ頃からデヴィッドとは分かれて同じリスボン市内に住んでいるが、2人の間に交流は全くない、③デヴィッドは、母方の祖父と2人でリスボンのアパートに暮らし、面倒を見てきた(車椅子を使っていたらしい)、④生活は荒れ、2回放校となり、学校に行くよりは年上のラファエルという不良と遊んで暮らしている。「何を考えているか」は、さらに分からない。窓辺で示す態度は、如何にも祖父を心配しているように見える。しばらくして母が戻ってくる。「で、おじいちゃん、どうだった?」。「帰るわよ」。「具合は? 行ってよ」(3枚目の写真)。「病気のことはもう知ってたけど、黙ってたんだって。あなた、何か聞いてる?」。「泣いてるの?」。「ううん。帰るわよ」。「おじいちゃんも一緒に来るの?」。「いいえ」。母は、娘をあやすのにかまけて、これまで面倒を見てくれた息子には妙につれない。デヴィッドも祖父に会いたいと主張することなく、そのまま病院を後にする。
  
  
  

次のシーン。デヴィッドが真剣な顔をしてバイクを運転している。背後から叫び声のようなものが聞こえる。カメラが少し動くと、デヴィッドの真後ろに2歳くらい年上の、如何にもワルといった顔つきの男(ラファエル)が乗っていることが分かる。「もっと早く!」と言いながら後ろを振り返る(1枚目の写真)。デヴィッドが「顔を見られた!」と話しかける。このことと、叫び声から、2人がバイクを乗り逃げしてきたらしいことが分かる。次のシーンは、デヴィッドと悪友が工事現場の脇で寝転んでいる。先ほどの続きではなく、しばらく後らしい。というのも、デヴィッドが、「僕らがバイクを盗んだこと、誰かに話した?」と訊くからだ(2枚目の写真)。盗んだ直後だったら、こんな質問はしない。「ナンでそう思う?」。「学校の奴らがそう言ってた」。「放っとけ。誰も お前のこと知らん。学校にも行ってないんだろ」。ワルの上に口も軽く、反省もいない嫌なヤツだ。しかし、祖父の面倒を1人で見続けてきたデヴィッドにとって、はけ口は、それが何であろうと必要だったに違いない。
  
  

次のシーン。2人は、デヴィッドの部屋にいる。母と娘はどこかに行っていない。デヴィッドは、車椅子に乗って遊ぶ(1枚目の写真)〔このシーンから、祖父が車椅子生活をしちいたと推測した〕。そのうち、悪友が窓の外を見て、「ポリーニャが下にいる」と言う。「誰?」。悪友は答える代わりに、窓を開けと、「ポリーニャ!」と呼びかける。「上がって来ないか?」。悪友は、デヴィッドに、「彼女、お前のアパートでピカイチだ」と教える。「僕のアパートのヤツ、みんな年上だ」。場面は変わり、ポリーニャが部屋にやってくる。デヴィッドがポリーニャを見る眼差しは真剣だ(2枚目の写真)。少し年上だが、きれいだと心惹かれたのであろう。ポリーニャは置いてあった本を見て、「あんたのガールフレンド 当ててあげる」と言い出す。それは奇人・変人を集めた本で、ポリーニャはヒゲづらの女性をガールフレンドに選ぶ。デヴィッドは、冗談にせよ、バカにされたように感じる(3枚目の写真)。
  
  
  

恐らく、同じ日の夕方。アパートの公共スペースで。手すり壁に座ってタバコを吸っているポリーニャに気付いたデヴィッドは、近づいて行き、壁に座って話しかける。「よく吸うんだね」。返事はない。「何も言わないの?」。「汗かきなのね」。「気になる?」。返事はない。「どこに行ってたの?」。「なんで?」。「別に」。何となく気まずい雰囲気だ(1枚目の写真)。自分のアパートに戻ったデヴィッドは、「汗かき」と言われたためか、シャワーを浴びている(2枚目の写真)。ポリーニャを想いながらのオナニーかもしれない。
  
  

デヴィッド、母、妹の3人が車で移動している。デヴィッド:「グシュタヴォ〔父〕は、母さんが戻ったって、なんで分かったの? 付き合うの?」。「まさか。エマ〔娘〕に会いたいって」。しばらくして、母から話しかける。「ぜひロンドンに来て欲しいの。一緒に戻りましょ」(1枚目の写真)。デヴィッドは、それには答えず、「どこかに変わらないと」と言い出す。「どこに行くの?」。「まだ、ぜんぜん…」。ここで、娘が真剣な話の邪魔をし、母は娘の相手をする。母には何も期待していないデヴィッドは、「信号のトコで降りる」と言い、母が停めると、「バイ」とだけ言って去って行くか〔それにしても14歳の子が、社会の規範を無視し〔孤児院にも入らず〕、1人でホームレスすることを平気で看過するとは、ひどい母親だ。デヴィッドは、遊園地のような場所〔入場料の要らない遊び場〕に向かう。狙ったわけではないだろうが、そこには、ポリーニャと悪友もいて、3人でバンパーカーをぶつけ合って遊ぶ。デヴィッドが、ポリーニャと仲良くぶつけ合っている(2枚目の写真)のを見た悪友は、嫉妬し、「邪魔だ!」と叫ぶとデヴィッドのカーに思い切り体当たりする。遊ぶ金がなくなった悪友は、鼻血でカーを停めたデヴィッドに寄ってくる。「鼻、ヒドいじゃないか」(3枚目の写真、矢印)。「金、持ってないか?」。こんな会話に返事の要はない。「おい、聞いてるのか?」。「ない」。なぜ、こんなクズと付き合うのだろう?
  
  
  

アパートに帰ったデヴィッドを待っていたのは父だった。TVでサッカーを見ながら、「腹、減ったか?」と訊く。「ううん」。「こっちに来て座れ」。「なんで?」。「ピリピリチキンを買ってきた」。デヴィッドは、少し間を開けて座る。「何してきた?」。「別に」。「なぜ、食べん?」。「腹、空いてない」。「食べないと。育ち盛りだ。痩せっぽちはモテんぞ」。「なんで、ここに来たの?」(1枚目の写真)。父はサッカーの話で誤魔化す。「僕のトレイナー、持ってきた?」。「お前こそ、なんで取りに来ん? お前の持ちモンは、自分で取りに来ることになってたハズだろ。忘れちまったのか?」。しばらくして、父は、ここに来た理由は話し始める。「このには、お前の妹に会いに来たのに、俺のことなんか忘れてちまってる。そのうち、英語しか話せなくなるだろう。今度は、お前が イギリス訛(なまり)になるんか?」。デヴィッドは無視。冷蔵庫から出して、何かを食べ始める〔ピリピリチキンは拒否した〕。父が、「タバコを吸うか」と訊きながら、箱を投げて寄こすと、「要らない」と答える。「もらいたくないのか、吸わないのか?」。そして、ようやく、「じいさんの具合は?」と訊く。デヴィッドは父をじっと見る。「何のマネだ? 病院に会いに行ったのか?」。今度は、うつむいたきり〔会っていないから〕。「母さんは?」。これには、無視(2枚目の写真)。「最近、電話してきたか?」。「そんなのカンケーないだろ」。「『関係ない』? 訊いてるんだぞ。俺たち友だちだろ? 俺は、心配だから訊いてる。なんで、そんな風なんだ?」。「僕に構うなよ、グシュタヴォ」。「なんで、俺を見ない? 怒ってるのか? 仲直りしよう」。父は何度もハグしようとするが、「構うな」を連発し、揉み合った挙句、自分の部屋に逃げ込む。デヴィッドと父のシーンはここだけだが、2人の間に〔特にデヴィッドの側に〕大きな溝のあることが分かる。恐らく、母と離婚した父が許せなかったのであろう。
  
  

デヴィッドが、ベランダのハンモックで気を休めていると、母が寄ってくる。デヴィッドは、「なぜ、彼を入れたの?」と批判する(1枚目の写真)。「突然、来たから」。「グシュタヴォはクソだ」。「エマに会いに来たの」。そして、「妹を見ていてくれない? 彼を家に連れて行くから」。母は出かけ、家の中はデヴィッドと妹だけになる。デヴィッドはベッドで横になっていると、妹が、「ハロー」の縫いぐるみを持ってくる(2枚目の写真)。「寝たくないのか?」。「うん」。そして、訳の分からないこと言いながら部屋を出て行く。心配になったデヴィッドは、仕方なく妹の面倒を見に行く。それにしても、こんな「どうしようもない」娘を、母も元父も熱愛し、デヴイッドには目もくれない。唯一の親族の祖父が入院した今、普通の両親だったら、今後の彼の行く末をもっと真剣に考えるのだろうが、それをしないのが、脚本も書いている監督João Salavizaの強い意向なのだろう。
  
  

翌日、デヴィッドは階段を降りて行き、同じ建物の中にあるポリーニャの部屋をノックする。次のシーンでは、ポリーニャがベッドのヘッドボードにもたれて資料を見ている。そこに。デヴィッドが、透明な液体(水? 蒸留酒?)の入った大きなボトルを持ってくる。ポリーニャは、それを受け取ると、少し飲んでからデヴィッドに渡す(1枚目の写真、矢印)。デヴィッドは、少し飲んでから、「飽きないの?」と訊く〔資料のこと〕。「あと、ちょっと」。カメラはそこから100秒かかって室内をゆっくりと一周する。カメラが元に戻ると、2人はキスしている(2枚目の写真、この構図が20秒も続く)。最後は、デヴィッドがベッドに座ってうつむいている。ポリーニャは、「あんたのこと、私たちが9つの時から知ってたわ。一緒には遊ばなかったけど」と言う(3枚目の写真)〔同い年ってことか?〕。デヴィッドは、ポリーニャを名前すら知ってなかったし、年も上だと思っていた。その後、デヴィッドと悪友が横断歩道橋の上で話すシーンが2分半続くが、①会話の内容が映画の本筋と無関係かつ無意味、②遠景のため顔が見えない、の2つの理由で説明は省略する。
  
  
  

次の重要なシーン。デヴィッドは1人で学校に行く。そして、廊下で何かの順番を待っている(1枚目の写真)。デヴィッドが呼ばれたのは、誰もいない教室。手に丸めたノートのようなものを持って、席に着く。教室でのシーンは4分半続くが、その間、カメラは固定されていて、映すのはデヴィッドのみ。女性教師の声は聞こえるが、顔は全く映らない。面白い演出だ。席に座ったデヴィッドは、「ナンの用?」と、そっけなく訊く。「しばらく、見てないわね」。「問題があったから」。「年中、休日じゃないの? お母さんは? 戻って来たの?」。「伝言 持ってきた」。そして、くしゃくしゃのノートを開くと、読み始める。「母親/保護者から担任の先生に。申し訳ありませんが、父が入院しておりますので、デヴィッドの面談には同行できません。ご理解のほど、よろしくお願いいたします」。「君が書いたのね?」。「ママだよ」〔恐らく、本当だろう〕。「騙されませんよ」〔ひどい教師〕。「信じようが、信じまいが、ママが書いたんだ」。「嘘の常習犯だから、とても信じられないわね」〔筆記文字くらい見るべき〕。「嘘じゃない」。「これが3つ目の学校でしょ。いつも最悪の結果。聞いてるの?」。「うん」。「原因は、君自身、それとも、学校?」。「さあ」。「そう…」。「学校は嫌いだ。授業で教室に閉じ込められるなんて、うんざりだ。ここにいると、気分が悪くなる」。「なぜ呼ばれたか、分かる?」。「まあね」。「今年も落第よ」(2枚目の写真)。教師はさらに続ける。「不安にならない?」。「そんな関係ないだろ? 余計なお世話だ」。「将来を、どう考えてるの?」。「考えたことなんかない」。「20年後、自分がどうなると思う?」。「20年後? 食ってけりゃ、それでいい」。「食べるためには、誰かが働かないといけないのよ。私の知る限り、君の家じゃ、誰も何もしていない」。「ナンで、そんなこと分かるんだ? お節介じゃないか」。デヴィッドは怒って席を立つ。教師は呼び止め、「君が、校門でスクーターを盗んだの、見られてるのよ。返す気はないの?」と尋ねる。「スクーターって?」とトボける。「もし、警察から君の住所を訊かれたら、教えますからね」。「教える? 何もしてないのに? ナンだよ? 何もしてないのに、罪きせやがって!」。デヴィッドは教室から出て行く。このシーンは、①祖父との大変な暮らしも、入院したことも理解しようとしない教師への怒り、②束縛された生活を嫌う早熟な独立心、②「今を生きる」ことに必死にならなければならない可哀相な環境、④悪友との不幸な関係を断ち切れないジレンマ、のすべてを物語っている。
  
  

バイク盗難の件で、自分が犯人だとバレている(=ラファエルがバラした)ことに怒ったデヴィッドは、悪友のアパートに直行する(1枚目の写真)。1階のインターホンを押し、「ラファエルに降りてくるよう言って」と告げる。ラファエルがインターホンに出る。「どうした?」。「話がある。降りて来い」。降りて来たラファエルに、デヴィッドは「バイクを戻さないと。トラブってる」と言う。「バカいうな」。「僕は、バカじゃない」(2枚目の写真)。さらに、「君、学校に行ってるか? 非難されたか?」と詰(なじ)る。「俺のこと訊かれたか?」。「ナンで、訊かれるんだ?」。それを聞いたラファエルは、自分の身は安泰なので、「何を怖がってる。俺が裏切ったことあるか?」と宥めにかかる。それにしても、デヴィッドは、ラファエルの行為をなぜ責めないのだろう? バイクのことも、なぜもっと主張しないのだろう? こんな不愉快な不良と仲良くしていたいのだろうか? そんなに寂しいのだろうか?
  
  

次のシーン。母とデヴィッドは、洗車機を通っている車内にいる(1枚目の写真)。母:「タバコの臭いする?」〔車内のこと〕。「おじいちゃんは、気付かないよ」。「そう?」と言いながら、母は、なぜかルームミラーに季節外れのクリスマス・ツリーの飾りをぶら下げる(2枚目の写真、矢印)。「今日、退院なの?」。「そうよ」。洗車が済むと、母は運転席のマットを取り出して何度も叩く。デヴィッドも助手席のマットを同じように叩いてきれいにする〔妹がいない。アパートか? 父のところか?〕。母が、ナースステーションで退院手続きの話をしている間、デヴィッドは1人廊下で待たされる(3枚目の写真)。孤独さの漂う映像だ。母が聞いていた話では、夕食が終わった後、退院してアパートに戻れるということだったが、ナースステーションでの様相は全く違っている。結局、デヴィッドの所に戻って来た母は、「呼吸ができない」とだけ言う。「機械につながれてるの?」。「そう」。それ以上、何も説明せず、「お腹空いた?」と訊く。「今日は、退院できないの?」。返事はない。デヴィッドが、ロンドンに行きたくない気持ちがよく分かる。妹にはべったりで、自分にはきわめてそっけない母親が、どうしても好きになれないのだ。
  
  
  

2人は、そのまま車に乗り、病院の駐車場で待つことに。外は真っ暗。後部座席に座った母が、「何時?」と尋ねる。「11時半。アパートに戻らないの?」。「いいえ。待つのよ。ドクターにもう一度話があるから」。「ずっと待ってるじゃないか」(1枚目の写真)「夜じゅう、こうしてるつもり?」。「ちょっと待ってて。そしたら行きましょ」。しばらくして、場面が替わり、デヴィッドが病院の駐車場で何かを食べている。母は、病院に戻ったきり、ちっとも出て来ない。いいかげん待ちくたびれたデヴィッドは自分一人で帰ろうと、バス・センターまで歩いてくる。真夜中でも、バスに乗る人は結構いる。デヴィッドは、中央扉から見えないように乗り込む〔リスボンのバスは前払い⇒乗車は運転手のいる前扉から〕。デヴィッドは、アパートには戻らず、ディスコに行く。そこで、ラファエルとポリーニャがキスしているのを見つけると(2枚目の写真)、ますますイライラが募る。そこで、大勢の若者の中に混じって踊り始め〔意図的に、デヴィッドだけにスポット・ライトが当てられる映像〕、そのうち隣り合った女の子と踊りながらキスする(3枚目の写真)。
  
  
  

デヴィッドたちは、バスに乗り、今度はアパートの前で降りる。母は、どうせ病院なので、デヴィッドは、ラファエルとポリーニャを自分のアパートに入れる。3人は、居間のソファで重なるように横になる(1枚目の写真)。そのうち、ラファエルとポリーニャはキッチンに行き、ラファエルが何か食べ物〔カップヌードル?〕を持って戻ってくる。そして、デヴィッドに、「お前、ここで寝るのか?」と訊く。「なんで?」。「お前がここにいるなら、俺はお前の部屋に行く。ポリーニャも一緒だ」。「明日、アリスに会いに行く」。「それ誰だ?」。「ディスコにいた女の子」〔キスした子〕。「お前、俺たちに腹立てたろ。顔が死体みたいだったぞ」「彼女、俺が好きなんだ」。「ホントに?」。「一緒にいた時、そう感じた」(2枚目の写真)〔確かめなくちゃ、といった感じ〕。今度は、デヴィッドがポリーニャと一緒になる。そこで、さっそく、「ラファエルとは どうなってるの?」とズバリ尋ねる(3枚目の写真)「とっても仲良さそうだ」。「友だちよ。あなたと同じ」。「時々、君のこと、友だち以上に思えちゃうんだ」。「アリスとはまた会うの?」。「ナンでアリスのこと訊くの?」。「ただの好奇心」。「また会うと思うな」。ここで、ラファエルが呼びに来る。
  
  
  

結局、デヴィッドは、自分のベッドで1人で寝ることに(1枚目の写真)。深夜遅くになり、既にラファエルは帰り、ポリーニャも出て行こうとしている。それを聞きつけてデヴィッドが顔を見せる。「眠れなくて」。「私もよ。帰るわ」。「ポリーニャ、僕には君しかいない」(2枚目の写真)「君は、僕のすべてだ」。「言わないで」。「一緒にいて」。「行かないと」。デヴィッドの渾身の告白は実らなかった。
  
  

朝になり、ベッドに座ったデヴィッドは、じっと考え込んでいる。そして、窓のところまで行って外を見る(1枚目の写真)。ポリーニャのことを考えていたのか、それとも、母が帰ってきたのか。次のシーンは、母と向かい合っての会話。「トレイナーを取って来たわ」。「小さくて着れないよ」「エマは、また『彼女のパパ』と一緒だったの?」〔自分の父親だと言いたくない〕。「そうよ」「今朝、病院から電話はなかった?」。「なかった」(2枚目の写真)。「昨日、あれから、『あなたのおじいちゃん』に会おうとしたの。なかり弱ってたわ」。「ナンで弱ったの? 病院に入る前は、料理したり、雑用したり、バスにだって自分で乗れたのに」〔車椅子で?〕。「おじいちゃんは、どうして病院に行ったの?」。「知らない。検査だと思ってた」。「何か、気付かなかった?」。「ナンで気付くのさ? フツーだった」。愛情のかけらもない「親子」の会話だ。
  
  

デヴィッドは、走ってラファエルのアパートに行く。次のシーンでは、盗んだバイクに乗っているが、運転しているのは悪友の方。デヴィッドは、「昨夜は、ポリーニャと寝たの?」と訊く(1枚目の写真)。「俺の横で寝てたな」。この返事で、少しは安心する。「このスクーター、処分したいんだ」。「ダメだ」。デヴィッドは、線路沿いの野原にバイクを誘導する。「電車に捨てようよ」。「捨てない、と言っただろ。ここに隠したらどうだ」。「こんなバイク、欲しくないんだ」。「もう聞き飽きた」。「君にはウンザリだ」。次のシーン。バイクは止まり、横倒しになっている。そして、キーを持っているのはデヴィッド。隙を見て、取り上げたのだろう。ラファエルは、「キーをよこせ」とポケットに触ろうとする。「ポケットに触るな!」。「よこせ!」。「イヤだ!」。そして、キーを投げ捨てる。怒ったラファエルはデヴィッドを地面に押し倒す。「放せ! このくそ野郎!」(2枚目の写真)。これで、2人の仲は完全に決裂した。ラファエルは、デヴィッドを足蹴にすると、ツバを吐きかけて去って行く。デヴィッドは、バイクのガソリンを地面にこぼすと、ライターで火を点ける(3枚目の写真)。なぜ、最初に言ってたようにこっそり返さず、こんな目立つやり方で処分したのだろう? 必ず警察が介入し、訊かれた教師はデヴィッドの名をあげてしまう。
  
  
  

アパートに戻ったデヴィッドは、浴室の洗面で入念に手を洗っている。すると、そこに母が入って来て、便器に座って用を足す。「僕が終わるまで、待てないの?」。「別に 恥ずかしくもないでしょ」。「別の人と浴室にいるの、好きじゃないんだ」。「シャワーを浴びたら、一緒に出かけるの」。「出かける?」。「そう、病院へ」。「病院で何するの? また待つの?  よく疲れないね」。「私も、怖いの」。「僕は、怖くなんかない」。「今日、会っておきたくないの?」。「何が言いたいの?」(2枚目の写真)。
  
  

この先のデヴィッドの行動が、映画を観ていても理解できない。母と病院に行ったハズなのに、デヴィッドはポリーニャに会いにディスコに行く。ポリーニャは、踊りながら近づいてきたデヴィッドを見て、満足そうな笑みを浮かべる(1枚目の写真、矢印はデヴィッド)。その後、2人が行った先は、ポリーニャの部屋。ベランダに立った2人。ポリーニャが「どうしたの?」と訊く。「家に帰りたくない。ここで眠らせてよ。毛布、貸してくれる?」(2枚目の写真)。場面は変わり、ポリーニャのベッドで2人が顔をぴったりとつけ、抱き合って寝ている(3枚目の写真)。このシーン、2人の顔のクローズアップを交互に映しながら2分も続く。最初は、キスだけだったものが、次第に体を揺らし始める。暗転。そして、デヴィッドはアパートの屋外廊下を歩いて自分の部屋に戻る。夜は、明け始めている。夜景を背景に、デヴィッドがツバを吐く場面(4枚目の写真、矢印はツバ)は、この映画の映像へのこだわりをよく示している。
  
  
  
  

朝になり、デヴィッドは母のベッドの上に置いてある妹の縫いぐるみを押して、「ハロー」と言わせる。その後は、ベッドの脇に置いてあるタバコに火を点ける(1枚目の写真)。すると、電話がかかってくる。「はい」「僕のおじいちゃんです」「母さんはいません。後で戻ります。どうして?」。相手の会話は一切聞こえない。突然、デヴィッドが泣き出す(2枚目の写真)。祖父が亡くなったのだ。デヴィッドは、こころの支えを一切失った。声をあげて激しく泣く〔演技過剰にならない程度に〕。このシーンが40秒続き、最後のシーンへ。デヴィッドが居間に行く。「そこにいたの?」。ソファには母がぐっすり眠っていた〔看病疲れだろう〕。横に腰掛けたデヴィッドは、「母さん」と呼びかける。返事がないので、どうしようかと考える。母の目が開く。「今、何時?」。「まだ、早いよ。眠って」。そう声をかけると、デヴィッドは厳しい顔で宙を見つめる(3枚目の写真)。これが最後のショット。これからデヴィッドはどうするのだろう。母への最後の言葉から、母を許し、一緒にロンドンに行くのかもしれない。そうでなければ、祖父に財産があればアパートには住み続けることができたとしても、14歳の少年が一人で暮らすことが許されるハズがない。
  
  
  

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