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Oorlogsgeheimen 守るべき秘密

オランダ映画 (2014)

第二次大戦末期の2人の少年の固い友情を描いた2014年製作のオランダ映画。1つ前に紹介した『Blutsbrüder teilen alles(友はすべてを分かち合う)』(2012)と並び、①ナチス下の戦争物、②ユダヤ人迫害、③男の子同士の固い友情、④異性に対する興味の4つを含む、特異な “ユダヤ映画” であると同時に、後者が、“ソプラノ” という5番目の要素を強調していたように、ここでは、題名にもあるように “秘密” が鍵になっている。秘密は4つ。登場順に言えば、①主人公のテュールが落ちたことで分かった洞窟内の穴、②テュールの両親と兄がレジスタンスの協力者、③マーチェが隠して飼っている子豚、④マーチェがユダヤ人の4つ。①はテュールと親友のランバートが発見した時から共有し、誰にも漏らさない。②はテュールがマーチェに話すが、ナチスによって村長にされた父を持つランバートには黙っている(最後にバレるが、それはドイツ軍に捕まったレジシタンスの自白によるもの)、③はマーチェがテュールに見せ、それをランバートが知って嫉妬し、父に教えたことで④の発見につながる。④はマーチェがテュールに教え、③が発端となり、マーチェの強制収容所送りにつながる。こうして見てくると、仮題とした「守るべき秘密」のうち、一番軽い③が破られたことで、最も重い④も破られる結果となる。しかし、③も④もマーチェに関わるものでしかない。テュールとその家族を最終的に救ったのは①の秘密。ランバートは、父の生き方のせいで学校の生徒達からは売国奴扱いされ、唯一の親友のテュールを大切にしてきた。そして2人は、双子のように仲良く暮らしている。その関係が、転校してきたマーチェによって崩され、最初はテュールが、後にはランバートが嫉妬に燃える。この嫉妬は、異性に対する嫉妬と言うよりは、友情を奪われたことに対する嫉妬で、その矛先は、親友にではなく闖入者であり友情の破壊者であるマーチェに向けられる。ランバートは、自分を袖にした親友を罰しようと、テュールとマーチェが遊んでいる時に一緒にいた子豚の存在を父に密告する。村中の豚は、ドイツ軍によって強制的に取り上げられ、ドイツ国内の食料難を救うために送致されていたので、1匹でも隠していることは罪になる。ドイツ軍に協力することで村長に祭り上げられたランバートの父は、すぐにドイツ軍に通報する。ドイツ軍は子豚のいた納屋を徹底的に調べ、その結果マーチェが隠していたユダヤの出自を証明する資料も見つかってしまう。しかし、それはランバートの本意ではなかった。だから、マーチェが捕まったことで悲しむのは、テュールだけではなくランバートも同じ。テュールは、最初、殺したいほどランバートを憎むが、ランバートの密告の発端となったのが、ランバートを避けようとして自分が付いた嘘だったと指摘されると、レジスタンスであることがバレて逃走中のテュール一家を救うことで贖罪しようとするランバートを受け入れ、2人の固い友情は元に戻る。2人は終戦までオランダとベルギーで分かれて暮らすが、すぐに連合国軍によってオランダ南部とベルギーは解放されるので、一緒になれるハズだ。ただ、NSB(国家社会主義運動)のメンバーで、ドイツ軍によって村長にもされ、村人の多くをレジスタンス弾圧で苦しめた父親を持つランバートには、耐えがたい数年が待っていることだろう。テュールは、その緩和に尽力したと思いたい。

オランダ南部のマーストリヒト郊外、ベルギー国境近くの村に住むテュールとランバートは大の仲良し。オランダがドイツに降伏して4年が経ち、連合国軍のドイツ本土空襲も激しくなっているが、2人は子供らしく森や洞窟〔正確に言えば廃坑〕の中で遊んでいる。そして、ある日、偶然、洞窟内でテュールが足を滑らせて穴に落ちる。そこは、2人にとって格好の秘密の場所となった。そんな時、村中の豚が1匹残らずドイツ軍に接収される事態が起こる。ドイツ本土の食料不足を救うため、周辺の占領支配地から食料を奪い取ってドイツ本国に送るためだ。それに協力したのがNSB(親ナチを標榜する国家社会主義運動)のメンバーのナイスカンス。ランバートの父だ。ランバートの兄は、父の勧めでNJS(ユースストーム)〔ヒトラーユーゲントのオランダ版〕に入団し、お陰でランバートは学校の生徒達から白い目で見られている。そんな時、クラスに1人の少女マーチェが転校してくる。アムステルダムの西にある海沿いの村から伯父の元に越してきたという触れ込みだった。他の女の子達が相手にしてくれない中、マーチェは1人寂ぼっちのランバートに声をかける(テュールは教室で居残りの罰則中)。ランバートはマーチェに夢中になり、2人の間に割り込んだ形のマーチェにテュールは腹立ちを覚え、その仲の良さは妬ましくもある。しかし、テュールが、同居しているボケた伯母の黒猫を危険を冒して取り戻したことで、マーチェの心はテュールになびく。その背景には、ランバートの父がナチスとつるんいるという事情があったのかもしれない。マーチェは、預かってもらっている農家の納屋に テュール連れて行き、隠している1匹の子豚を見せる。そして、その後、テュールが、両親と兄がレジスタンスを支援者かもしれないという秘密を打ち明けると、誰にも漏らさないとテュールに約束させた上で、自分はユダヤ人だと打ち明ける。ランバートの父は、ドイツ軍によって村長に取り立てられ、それ以後、テュールの父はナイスカンスを避けるようになる。今までは、空爆の際にはナイスカンスの家の防空壕に避難していたのを、ぷっつりと止める。そうした父の姿勢はテュールにも影響し、マーチェの重大な秘密を知ったことで ランバートを避けるようになる。ランバートと「一緒に遊ぶ」と約束した日曜には、嘘の理由を並べて遊ぶのを拒否する。ランバートは、テュールがマーチェと遊んでいるに違いないと思い、こっそり納屋を覗きに行き、2人だけでなく子豚まで見てしまう。大親友の裏切りに怒ったランバートは、豚の隠匿を父に告げ、お陰で、豚だけでなく、マーチェまで逮捕されてしまう。さらに悪いことに、ドイツ軍に捕まったレジスタンスの一員が、村人のほとんどが協力者だと告白し、テュールの一家は森に逃げ込む。心配したランバートは助けようと森に行くが、テュールは、豚を密告し、マーチェを危機に晒した裏切者としてランバートに銃を向ける。しかし、ランバートから、マーチェに類が及ぶとは知らなかったこと、発端はテュールの嘘にあると告げられ、テュールはランバートの勧めで、洞窟の秘密の穴に隠れることに同意する。ランバートが、ドイツ兵の目を盗んで必要な物資を穴に届けると、2人は永遠の友情を誓い、テュールは迷路のような坑道を抜けて一家をベルギーへと導く。

主役のテュールを演じるのはマース・ブロンクハウゼン(Maas Bronkhuyzen)。誕生日は2001.2.26。映画の撮影は2013.7.1-8.31なので、撮影時12歳。子役が最も旬の時期だ。子供らしい豊かな表情が残り、演技力も高くなっている。マースは、そのまさに典型。これほど幅広く、見事な演技にはなかなかお目にかかれない。オランダ映画で、子役が2回主役を務めた例は、ピチェ・ベル・シリーズのQuinten Schram、ケイス先生シリーズのFelix Osinga、クラムチェのRuud Feltkampと、このマースしかいない。このうち前2人は連作なので、別の作品2本と言うのは後の2人しかいない。マースの方がRuudより断然可愛い。そういう意味では、オランダのピカイチの子役と言える。準主役のランバートを演じるのはユース・ブラウワース(Joes Brauers)。1999.8.4生まれなので、撮影は13-14歳にまたがっている。マースと同じくらいの背丈なので、1歳半年上には見えないが、声変わりし、表情は乏しい。因みにユダヤの少女マーチェを演じたピッパ・アレン(Pippa Allen)は2000年生まれで、2人のちょうど中間。DVDのメイキングの中で、マースが如何に悪戯っ子か分かるシーンがあるので、下に紹介しよう。

あらすじ

2人の少年がオランダ南東端部、リンブルフ州の森の中で、木のピストルを使って戦争ごっこをしている。時代は恐らく1944年の夏〔映画の撮影が夏なので、服装が簡易〕。2人のうち、テュール・ラマカースは農家の次男で、勉強はダメだが、それ以外には何事にも積極的な “元気一杯” の12歳の少年。テュールは、自分の姿を見失った相手の背後から、こっそりと忍び寄る(1枚目の写真、矢印は木のピストル)。もう1人はランバート・ナイスカンス。何不自由なく暮らしていうので、おっとりとした性格の持ち主。ただし、こうした遊びには向いていない〔内反足で、あまり早く走れない〕。今も、木に張り付いて隠れた積りになっている。地面を這って背後から接近したテュールは、ランバートの頭に銃を突き付ける(2枚目の写真)。ランバートは両手を挙げ、テュールは、口でバンと言い、「1対0」と嬉しそうに宣告(3枚目の写真)。その目の前で、ランバートは左手で持った木のピストルを素早く上げてバンと言い、「1対1」と訂正し、すぐに逃げ出す。テュールは、すぐに後を追いかけ、そして追い抜く。「テュール、君、追い越したぞ!」。

2人が森から出てくると、線路際に年上の青年が2人いた。青年は、2人の前に立ちふさがると、「ここで何してる?」と訊く。ランバート:「通り抜けるだけ」。「内反足でか?」。そう言うと、足を蹴る。怒ったテュールは、「やい、やめろ!」と文句をつける。「黙れ、虫ケラ」。「そっちこそ、大口閉ざして、さっさと自分の村に帰れ!」(1枚目の写真)。1人がテュールの胸をついて押し返すと、彼は木のピストルを構える。相手は、「偽物じゃないか」と言ってテュールを拘束する。「逃げろ、ランバート!」。青年たちは、捕まえたテュールを前に、「こいつ、どうする?」。「線路に縛っちまおう」などと話しているが、逃げかけたランバートは、パチンコで相手の頭に石をお見舞いする(2枚目の写真)。相手は、あまりの痛さでテュールを放したので、2人は線路の上を走り、勝手知ったる森の中に逃げ込む。こうなったら敵う者はいない。2人は、急な崖をよじ登ると 洞窟に入る(3枚目の写真)〔撮影に使われた洞窟は、ベルギーのオランダ語圏の東端部、ドイツ国境近くにあるデ・クーレン(De Coolen)の泥灰岩採石用の坑道。オランダ南部のマーストリヒト(Maastricht)の周辺を含め、この地域には採石用の坑道が数多く残り、観光地になっている。右の写真はマーストリヒトのZonneberg洞窟〕。2人は、この洞窟の常連なので、入ったすぐのところにロウソクが隠してある。テュールは自由に坑道の奥に進んでいくが、“敵” は、①真っ暗で、②中に入ったこともない、ので追うのをあきらめる。ところが、ランバートの前を歩いていたテュールの姿が急に消え、辺りは真っ暗になる。ランバートは、真っ暗な中で手探りしながら、「テュール、聞こえるか?」と呼びかける。下の方で、「こっちだ」と声がし、マッチを擦る音がして、ぼんやりとした明かりが戻る。ランバートが近づいていくと、そこは坑道の横に開いた “穴” で、中にテュールが落ちていた。「大丈夫か?」。「ああ」(4枚目の写真)。辺りを照らしたテュールは、中に誰かが寝ていた形跡と、英語の漫画雑誌を見つける。テュールは、戦利品として雑誌をポケットに押し込むと、穴を出る。

洞窟の出口まで来た所で、テュールは、外に出ようとするランバートを引き留めると、「あの場所〔穴のこと〕ことは、誰にも言うな。あそこに誰がいたのか、僕らだけで調べよう」と言う(1枚目の写真)。ランバートは笑顔で答え(2枚目の写真)、2人の習わしとなっている複雑な握手のやり取り(3枚目の写真)で、誓いを立てる。洞窟の入口の脇には、「ランバート/テュール」と彫ってあるし、村に帰る2人は仲良く肩を組んでいる。そして、映画の題名が表示される。『Oorlogsgeheimen』は、「戦争の秘密」という意味だが、この映画では、子供同士の秘密の “漏れた、漏れない” が重要なテーマとなっているので、「守るべき秘密」と意訳した。

家の近くまで来たテュールは、父と隣人がドイツ兵と一緒にいるのを見て驚く(1枚目の写真)。テュールが、「パパ」と声をかけると、父は、「家に行ってろ。すぐに戻る」と追い払う。そして、監督をしているドイツの将校に、ドイツ語で、「1・2頭、残してもらえませんか?」と頼み、言下に拒絶される〔以前紹介した『Voor een verloren soldaat(フォア・ア・ロスト・ソルジャー)』では、アムステルダムから田舎に食料疎開したユルームは結構な食料にありつけたが、この映画では、その田舎ですら、ドイツ軍に豚をすべて奪い取られている〕。家に戻ったテュールが手を洗っていると、中に入ってきた兄に「邪魔だ」と押しのけられる。そこに、アルツハイマーの伯母が、「ヤッホー、終わったよ」とトイレで叫んだので、“やらされる” のを嫌ったテュールは、食卓に走って座る。兄から「お前の番だ」と言われても反論するが、母に「反論しないで行きなさい」と言われると、仕方なくトイレに行く。トイレのドアを開くと、便器の陰には黒猫がいて、テュールを見た伯母は、「きれいな白い髪の子が、来たんだね」と言う。禁じられた洞窟の粉が付いていると悟ったテュールは、急いで髪を払う。食卓に伯母、兄、テュール、妹が座る。テュールは、「また?」と食事の内容に不満を漏らす。そこに父が戻ってきて、「全部の豚が持っていかれた」と報告する。一方母は、「また、洞窟に行ったの? 二度と行っちゃダメよ。中で迷ったらどうするの?」とテュールに注意する。「迷わないよ。坑道は全部知ってる」(2枚目の写真)。そして、さっき見た漫画の雑誌を念頭に、「パパ、あそこに誰かいたんじゃ…」と言いかけると、母が、強い調子で、「行くのは禁止。分かったわね」と言い、父も「もう行くんじゃないぞ」と念を押す。父が、食前の祈りの言葉を唱えている間、テュールは、反対側に座った兄とにらめっこをし、変な顔をしてみせる(3枚目の写真)。

その夜、雨が降り出し、テュールはしばらく見ていた漫画の雑誌を枕の下に隠して眠る。そして、真夜中になり、サーチライトが雨雲を照らし、空襲警報が鳴る〔小さな村でも、ドイツに爆撃に行く英軍機が、途中で数発落としていった〕。2階から降りてきたテュールに、母は、「ツワルチェ〔黒猫の名前:くろちゃん〕は、もう外よ。さあ、急いで」と声をかける。一家は、雨の中、防空壕のあるナイスカンス家まで走る。テュールは、逃げることよりも、飛行機の方に興味があので、空を見ていて兄に引きずられる。アルツハイマーの伯母は「イギリス人が自由にしれくれる!」と大声で叫ぶ。兄の手が離れると、テュールは立ち止まって低空で空を飛ぶ爆撃機を見上げる(1枚目の写真)。防空壕の入口では、ナイスカンスと一緒に次男のランバートが立っている。テュールを迎えるためだ。2人は、こんな時も指で挨拶を交わし、一緒に中に入る。階段の途中で、ランバートが「洞窟の穴で 何か分かった?」と訊き、「しーっ、黙ってろ」と、こんな人前で訊いたことをたしなめる。2人は並んで座り、膝に毛布をかける〔1つ前に紹介した『Blutsbrüder teilen alles(友はすべてを分かち合う)』でも、①爆撃機をわざわざ見る、②一緒に防空壕に入る、③毛布を掛ける、など非常によく似たシーンがあった〕。伯母は、「遊園地で花火ね」と言い出し、テュールとランバートは大喜び。そのあと、空襲による振動で防空壕が揺れても、2人は楽しそうに天井(その先の飛行機)を見上げる(2枚目の写真)。空襲が終わり、防空壕から出る時、ナイスカンスは、テュールの父に、「今度いつ飲みに来る? まだシュナップス〔ドイツの蒸留酒〕が残ってる」と誘うが、父は答えず、母が「来週にでも」と言って別れる。家に戻った一家。まず、兄が批判する。「ローランド〔ランバートの兄〕の奴、アホな制服着てやがった」。テュールは、「兄さんの知ったことじゃない」と擁護する。「あれはユースストーム〔Jeugdstorm〕の制服だぞ! あいつは ドイツ野郎が好きなんだ」〔ユースストーム(NJS)とは、ヒトラーユーゲントに似た、青少年団のこと。親ナチス的なNSB(国家社会主義運動)のメンバーと、ドイツ軍のシンパの子女(10~17歳)が入団。12000~16000人いたとされる〕。テュールは「親爺さんがドイツ人と働いてるからだ」と、さらに擁護(3枚目の写真)。母は、「あの人は、牛の検査官〔veecontroleur〕なの。誰かがしなくちゃならないわ」と言って、議論を収める。テュールと兄は、2階に行かされるが、テュールが暗がりでこっそり聞いていると、父母が争う声が聞こえる。「俺は、二度とあそこに行きたくない」。「飲むだけじゃないの。行くのを止めたら、変に思われるわ。疑われるかも」。「お前の言うことも分かるが、俺は、あいつに我慢できんのだ。あの偽善的な顔に」。「分かるわ。でも、危ない橋を渡りたくないの」。

次の短いシーンは、テュールとランバートの仲良さを一番よく表しているので、敢えて紹介する。爆撃の翌朝、テュールはランバートを迎えに行く。父ナイスカンスは、「真っ直ぐ学校に行くんだぞ。勉強もしっかりな」と、息子を送り出す。ランバートは、「テュール」と叫ぶと、嬉しそうに走り寄る(1枚目の写真)。父親は「2人とも、よい一日を」とテュールにも声をかける。彼は、テュールのことを、息子に最適な友達だと思っている。2人は、さっそく、いつもの複雑な手の挨拶を始める(2枚目の写真)。村の教会の前を通る時、ランバートは、「父さんは、僕にユースストームに入団してもらいたがってる。兄さんみたいにね」と打ち明ける。「入団するの? 一体何するのかな?」。「歌ったり、行進したり」。そう言うと、「見てて」と言い、足を跳ね上げて歩く仕草をして見せ、テュールもそれを真似する(3枚目の写真)。テュールの父か兄が見たら激怒したろうが、大好きな親友と遊んでいるだけなので、そんなことはお構いなしだ。

学校に着いたテュールは、ビー玉で勝った後、長い棒を使って1対1で戦って勝った後、棒を持って、大声で「すべてのキャベツ野郎〔moffen/ドイツ人の蔑称〕に死を!」と叫び、最後に棒を向けた先に教師がいた。教師は、「学校で、『キャベツ野郎』なんて言葉は聞きたくない。居残り、反省文だ」と命じる。授業が始まると、テュールはいつも通り、黒板も見ず、ノートもとらず、窓の方を見ている〔いつも、この調子〕(1枚目の写真)。ついでに言えば、教師の話など、一切聞いていない。それを見つけた教師は、「テュール、360引く42は、いくつだ?」と質問する。ランバートに肘で突かれて前を見たテュールは、何のことやら分からない。「何も聞いてなかったのか?」と文句を言われ始めた時、教室のドアが開き、校長(?)が女生徒を連れて入ってくる。「少年少女の皆さん、先生も、この子はマーチェ・ドリッセン、ホートマンス夫妻の姪です」(2枚目の写真)〔本人は、マーヒェと発音する〕と紹介する。テュールとランバートはマーチェを見るが、熱心そうだったのはランバートの方(3枚目の写真)。放課後、テュールが、罰で、「キャベツ野郎とは言いません」と、ノートに何回も書いていると、窓の外では、ランバートが、誰にも相手にされないマーチェと楽しそうに話している。家に戻ったテュールを待ち構えていたのは、怖そうな両親の顔。「どうしたの?」。父は、食卓の上に置いてあった英語の漫画雑誌を手に持つと、「これを、どこで手に入れた?」と尋ねる。テュールは、兄を「僕の部屋に入ったな?」となじるが、母も「どこで手に入れたの?」と訊く。「洞窟」。「持ってるのは危険だ」。「でも、ランバートと一緒だったよ。他にもいろいろあった。パパ、誰かあそこに居たんだ」。「我々の知ったことじゃない」。テュールは怒って部屋に閉じ籠り、母は雑誌をストーブに入れて証拠を消す〔これが、誰のものなのか? 一家と何か関係があるのか、最後まで分からない〕

翌日、学校が終わった後、授業中は元気のなかったテュールが、ランバートと一緒に楽しそうに校舎から出て来る。「今から洞窟に行くぞ。来るか?」。「もう、行っちゃいけないんだろ?」。「構うもんか」。すると、校舎から走って出てきたマーチェが、「ランバート」と声をかける。「今日の午後は何するの?」。テュールにとって、2人の仲に割り込もうとするマーチェの存在は面白くない。そこで、「僕と一緒だ」と、暗に “邪魔だ” と示唆する。その直後、ランバートが、「僕たち洞窟に行くんだ」と余分なことを言う。テュールは、思わず、“余計なことを言うな” とばかりに、マーチェを突く。マーチェは、「洞窟?」とランバートに訊く(2枚目の写真、テュールの顔は,“黙ってろ”)。「ここにあるの? 見たことないわ。一緒に行っていい?」。テュールは、すかさず、「すごく遠い」と言う。「いいわよ」。「6時間歩く」(3枚目の写真)。「10時間でも平気よ」。テュールは、勝手にしろと、1人で歩き出す。ランバートが追ってきて、「何だよそれ。彼女、見たことないんだぞ」と、完全に彼女の側についた発言をする。「知ったことか」。「いい子じゃないか」。「秘密の場所は見せられない」。「もちろんさ。僕だってバカじゃない」。テュールは、仕方なく3人で行くことに同意する。行く途中も、ランバートとマーチェはふざけ合っていて、テュールには面白くない。途中で線路を横切る時、テュールが通りかかった貨物列車をパチンコで撃っていると、マーチェがなぜか悲しそうな顔になる。

洞窟に入る直前(1枚目の写真)、ランバートは、「中には坑道がいっぱいあって、何キロもある。迷路みたいだ」と説明し、それを聞いたテュールが「迷ったら、絶対外に出られない」と、怖がらせるように言う。入口を入ったマーチェが、天井を見て驚くと、ランバートが「泥灰岩だ。何百万年も前の海洋生物の骨が堆積して出来た」と説明していると、ロウソクに火を点けたテュールが、「来るか? 中を見たいんだろ」と声をかけ、中に入っていく。マーチェと一緒にいたいランバートは、「離れないで」と言いテュールの後に続く。ランバートが、「テュールを見失ったら、死んじゃうぞ」と言うと、いい機会だと思ったテュールは、急に振り向いてマーチェを見ると、怖い顔で、「そしたら、君の体はゆっくりと腐り、アリに食べられて骸骨になるんだ」と脅す(2枚目の写真)。しかし、マーチェは、ぜんぜん怖がらず、笑っただけ(3枚目の写真)。テュールは拍子抜けする。そこで、次の手として、わざと火を消す。「テュール、どうした。マッチで火を点けろよ」。「マッチが切れた。持ってないか?」。3人は手をつないで、真っ暗な中を歩く。テュールは、わざと転んで悲鳴をあげ、ランバートを不安にさせる。出口まで無事に戻った時、ランバートは、「僕らを助けてくれた」と感謝し、マーチェも、「でなきゃ、アリに骸骨を食べられるトコだった」と言う。そこで、テュールは、ポケットから、中身の詰まったマッチ箱を取り出して見せる。これで、テュールは、マーチェを3人目の仲間として認める。

その後、森の中で、マーチェは長い倒木の上を歩いてみせて2人をびっくりさせる(1枚目の写真)。それが終わった後、木の根元に座り込んだ3人。マーチェは、「オリンピックに出たいなら、もっとトレーニングしなくちゃ」と自分自身に言う 。テュール:「オリンピック?」。「そうよ。見に行く気ある?」。「金メダルがとれるなら」(2枚目の写真)。その後、3人が、一緒に森の脇の道を歩いていると、行く手をドイツ兵に遮られる。ドイツ兵は、「止まれ。ここから先は通さん」と言うが、テュールには、相手が何を言っているのか全く分からない。「立入禁止だ。我々はレジスタンスの連中を捜している。逃走者〔flüchtlinge/多くはユダヤ人〕を匿っているからな。ここは、誰も通すわけにはいかん。いいな?」。相手が、オランダ人の子供なのに、親切に説明しているのだが、通じないのでは意味がない。そこで、マーチェがテュールを引っ張って、引き返させる。マーチェ:「彼ら、あの先で、逃げた人たちを探してるの。レジスタンスの人たちが、匿ってるから」。テュール:「ドイツ語話せるの?」。「いいえ、ぜんぜん」。「だけど、理解できたじゃないか」。「お祖母ちゃんがドイツ人なの」。テュールは、如何にも嫌そうに、「ドイツ人のお祖母ちゃん?」と訊き直す。「そうよ。それがどうかした?」。「なら、キャベツ女だ」。「もう死んだわ。それに、キャベツ女じゃない。素敵な人だった。ドイツ人がすべて悪いじゃないないわ」〔マーチェの言葉には、多くの “嘘” が含まれているので、これが本気の言葉とは思えない〕。しかし、ランバートは、「父さんも、いつもそう言ってるよ」と言い、親ナチスの一家の一面を出す。この2人の言葉は、テュールの神経を逆なでする。3人が村に入って最初に目にしたのは、村で唯一の教会の牧師がドイツ軍に連行される姿。家に駆け込んだテュールは、すぐに父にそのことを話す。父は、「村長と話してくる」と言って、すぐ家を出ていく〔村長がドイツ軍により取り換えられたのは、恐らく、この牧師を救おうとしたため〕。その時、テュールは他の2人とまだ一緒だったので、母は、「あなた誰?」と、マーチェに訊く。「マーヒェです。しばらく、ホートマンス伯父さんのところにいます」と答える(3枚目の写真)。テュール:「エイマイデン〔IJmuiden〕)に住んでるんだ」。「ホートマンスさんの家族がオランダにいたなんて初耳ね」。これは強い疑いの言葉だったが、そこにアルツハイマーの祖母が床を這いながら、いなくなった黒猫を捜しに来て、うやむやになる。おまけにテュールが、「きっと伯母ちゃんの家に行ったんだ。捕まえてくるよ」と言ったので、母は、「絶対ダメ。アナ伯母さんの家に近づかないで」と言い、マーチェの疑惑は忘れられる。

その夜、テュールがベッドで横になっていると、自動車が家の前で停まり、ドイツ語が聞こえる。そこで、カーテンを開けてそっと覗くと、ホロ付きトラックからドイツ兵が5~6人降りて、お向かいの家に突入していく。そして、一番にドイツ兵に連行されて出てきたのは、級友のフォンス。彼は、「放せ!」と叫びながら、トラックに乗せられた(1枚目の写真)。他の家族全員もそれに続く。1人、帽子をかぶった男が逃げようとして、兵士が馬乗りになり拘束する。この男の存在が一家全員の逮捕の原因のようだ。テュールは、1階に走り降りると、「フォンスと、両親に何が起きたの?」と訊く。父:「戻れ!」。「嫌だ。助けないと」。兄:「助けられん」。「あいつ、誰なんだ?」。父:「構うんじゃない。ベッドに行け」。テュールは、母に「レジスタンスなの?」と訊く(2枚目の写真)。しかし、結局、誰も教えてくれない。翌朝、学校に行くと、子供たちが話している。「フォンスが逮捕されたって?」。シェーン:「ああ、誰かが密告したんだ。ユダヤの男を隠してたんだ」(3枚目の写真)〔左から3人目のシェーンが、『De Groeten van Mike!(マイクから、よろしく!)』で共演したファース・ヴェン〕。この写真で、右にいるベレー帽の少年が、「彼らが悪いんだ。そんなことしなきゃよかったんだ」と見放すように言う〔こういう、反ドイツ、反ユダヤ的な子もいた〕

最初に密告について情報提供したシェーンは、ちょうど現れたランバートに向かって、「偽善的な顔して何を見てる。穢らわしいNSB〔親ナチス政党〕の親爺なんか持ちやがって」と嫌味を言う(1枚目の写真)。ランバートは何も言い返さないが、テュールは、「シェーン、ひどいこと言うなよ」と擁護する。しかし、誰も賛同しない。ランバートは、完全に除け者扱いだ。「あんなの気にするな」。その時、後ろを通っていったマーチェが、ほほ笑みながら、「お早う、ランバート」と声をかけていく(2枚目の写真)。ランバートは、振り向くと、嬉しそうに「やあ」と言うが、それを見たテュールは、「あの子、君にお熱だな」とからかう(3枚目の写真)。「そんなことないよ」。

つまらない授業が終わった後、3人は野原に行き、切った木を組み合わせてツリーハウスを作る。出来上がったハウスの中で3人はじゃれ合う(1枚目の写真)。しかし、その後、森に入って行った時、渓流を真っ先に素足で歩いて渡ったテュールが振り返ると、ランバートがマーチェを背負って渡り始める。それを見たテュールは、全然面白くない。そのあと、渓流に突き出した岩の上で、ランバートはマーチェに交配中のカエルを見せる。「なぜ、片方がもう一方の上に乗ってるか分かる?」〔川を渡った時の2人に似ている〕。「いいえ」。「愛し合ってるんだ。何時間も」(2枚目の写真)。それを見ながら、テュールは背後で憮然としている(3枚目の写真)。テュールにとってみれば、マーチェが、親友のランバートを盗んだとしか思えない。

そのあと、3人はテュールのアルトハイマーの伯母が住んでいた家の脇を通りかかる。テュールは、「待ってて」と言い、中に入って行こうとする。テュールの母の話を聞いていたランバートは、「ダメだよ」と制止しようとするが、そんなことを聞くようなテュールではない。ドアを開けて中に入っていく。奥のキッチンまで行くと、黒猫が窓辺にいた。ところが、この空き家は、ドイツ兵のたまり場となっていたらしく、1人のドイツ兵が入口の前の茂みで用を足すと、ドアが開きっ放しになっているのを見て不審に思い、中に入っていく。ランバートとマーチェは、ハラハラしながら見ているより他にない。中では、テュールが黒猫を抱きかかえ、食卓の上に置いてあった太いソーセージのかけらをポケットに入れたところだった。急にドイツ兵が目の前に立ちふさがる。テュールは、「これ僕の伯母さんの猫。伯母さんがすごく寂しがってるから」と、必死に弁解するが、ドイツ兵にオランダ語が理解できたとは思えない(1枚目の写真、矢印は黒猫)。テュールは、さらに、壁に飾ってある伯母や祖父の写真や、自分が昔の描いた絵を示して説明するが、ドイツ兵が目を留めたのは、テュールがズボンに挟んでいた木のピストルだった。「それ、よくできてる」。テュールはピストルを抜くと、「僕が作ったんだ」と言って渡す。「芸術家〔Künstler〕だな」。「あげるよ」〔この “お互いの言葉が分からない2人” のやり取りは、笑顔が媒介となっている〕。ドイツ兵は、木の銃がすごくお気に召した様子で、同僚が近づいてくる声を耳にすると、急いでテュールと猫を外に出してやる。3人は、誰もいない所まで逃げると、テュールはマーチェに黒猫を抱かせておき、自身は、自慢げにソーセージを出して見せる(2枚目の写真、赤の矢印がソーセージ、黄色の矢印が黒猫)。ランバート:「盗んだのか?」。「奴らだって、伯母さんの家を盗った」。「大胆だな」。肉は入手困難なので、ランバートは喜んで切れ端を口に入れる。テュールがマーチェにも渡そうとすると、「遠慮するわ」と笑顔で答える〔ユダヤ人は豚肉を食べない〕。3人は夕方近くまで遊んだ後で、村に戻って来ると、テュールとランバートはいつもの手の儀式で分かれる。マーチェは猫を抱いたままテュールと一緒にいる。そして、抱いた猫を、そのままテュールに抱き渡す(3枚目の写真、矢印は猫)。この時からテュールがマーチェを見る目が前と違って、そこには “好き” という字が入っている。マーチェが、「じゃあね」と言って去っていた後を見つめる目、ベッドに寝て考えるように見開いた目、それは恋の始まりを意味する。その夜、テュールが物音に気付き、こっそり1階まで降りていってドア板の割れ目から覗くと(4枚目の写真)、母がバスケットに食料を入れ、父と兄がピストルを身に着け、バスケットを持つと、「1時間で戻る」と言って外に出ていくのを目撃する。

翌日、授業中、テュールは斜め後ろにいるマーチェを見る。すると、それに気付いたマーチェがニッコリする(1枚目の写真)。教室から出たところで、マーチェはテュールを呼び止める。「午後、何か用がある?」。「ないよ」。「じゃあ、2人で何もしないでいるってのはどう? 私の家で」。「いいよ」(2枚目の写真)〔テュールの顔は一見嬉しそうだが、少し戸惑っている。「何もしないでいる」って、どういう意味だろう?〕。ランバートが、教師に、「もう少し勉強すれば、よくできるようになる。父さんによろしく伝えてくれ」と言われている間に、2人は消えてしまう。ランバートにはショックだ〔この教師は、前にテュールがドイツ人の蔑称を口にした時、罰を与えたし、ランバートに対する言葉は親ナチスのNSBに媚を売っている。教師として、あるまじき人間だ〕。2人は、そのままマーチェが預けられているホートマンス夫妻の家の広い中庭に入っていく。初めて来たテュールは、「大きいね」と驚く。マーチェは、「見せたいものがあるの」と言い、テュールを納屋に連れて行く。そして、扉を閉めると、手を引っ張り、干し草の方に連れて行く(3枚目の写真)。

干し草の山の裏まで来ると、マーチェは干し草に穴を開け始める。「手を貸して」。「何もしないんじゃなかった?」。「何もしないより、ずっといいでしょ」。そこで、意味は分からないなりに、テュールも干し草に穴を開けるのを手伝い始める(1枚目の写真)。穴を掘っていると、中から動物の鳴き声が聞こえる。「あれ、何?」。「私の小さな秘密〔geheimpje〕」。そして、干し草の山の中にできたトンネルを潜っていくと、中には広い空間があり、子豚が1頭歩き回っていた(2枚目の写真)。「豚って、全部、ドイツに連れて行かれたんじゃないの?」。「伯父さんが、私のために隠しておいてくれたの。可愛いでしょ」。そして、「誰にも言っちゃダメよ」と言う。しかし、テュールは何も答えない。「どうしたの?」。「僕にも秘密がある」。それを聞いたマーチェは、納屋の3階にある秘密の場所までテュールを連れて行く(3枚目の写真)。

そこにも、簡易ベッドが置いてあり、マーチェはテュールに座るよう促す。「秘密って何なの?」。テュールは黙っている。「誰にも言わないから」。テュールは、「父さんと母さん… それにレオ兄さんも… レジスタンスじゃないかと思うんだ」と、昨夜見たことを根拠に打ち明ける。「あなたが知ってるって、向こうも知ってる?」。「ううん」。「いつも、こそこそやってる。なぜ、僕に、ちゃんと話してくれないのか分からない。バカな親だ」。「でも、毎日会えるじゃない」。「君は、寂しいの?」。マーチェは頷く。「母さんは、きっと良くなるよ。そしたら、家に帰れるじゃないか」。マーチェは首を横に振る。「私のお母さんは病気じゃない。それに、お父さんも多忙なんかじゃない」。「なら、なぜホートマンスさんのトコにいるの?」。マーチェは、ベッドの脇に置いてある大きな木の箱を持ち上げると、それには底がなく、中に小さなブリキの箱が隠してある。マーチェは、その箱を手に取ると、もう一度テュールの横に座る。そして、「これが、私の本当の秘密〔echte geheim〕なの」と言う(1枚目の写真)。「誰にも話しちゃダメ。約束する? 誰にもよ」。テュールは頷く。箱の中には写真が入っていた。2枚目は、首からメダルをかけたマーチェの写真。「この時、私、2位だった。次にはチャンピオンになるわ」。そう言うと、テュールに写真を手渡す。他にも写真はあり、その下に隠れていたものは “黄色い星” だった。「私たち、これを全部の服に縫い付けなくちゃいけなかった… 私たちがユダヤ人だって誰にでも分るように」(2枚目の写真、矢印は “黄色い星”)。これほど深刻な話だと思っていなかったテュールは、どう言っていいか分からずに戸惑う。「私の名前はマーヒェじゃない、タマールよ」。テュールは、タマールの顔を見つめる(3枚目の写真)。「タマール・カーツ。住んでいたのはエイマイデンじゃない、アムステルダムよ」。そう言って、家の前で3人で撮った写真を見せる。その時、ホートマンスが呼ぶ声が聞こえる。「ホートマンスさんは、私がこうした物を持ってることを知らないの。誰にも絶対言わないでね」。「もちろんだよ」。「ランバートにもよ」。テュールは真剣に頷く。

ランバートの父の大型鉄道模型ジオラマで、ランバートとテュールが一緒に遊んでいると、それを父が見に来る。そこにさらに兄のローランドがやってきて、「パパ、僕、ユースストームで昇進したよ」と報告する。「おめでとう」。2人は抱き合って喜ぶ。父は、ランバートに触れると、「次はお前の番だな」と言う。ランバートは、嬉しくなさそうだ。テュールを除き、学校で何を言われるか、考えるだに恐ろしいからだ。次のシーンでは、村でユースストームの歌『Trommelmarsch(ドラム・マーチ)』が、ドラムと共に響き渡る。「♪ドラムが国中に響き/ユースストームは行進する/手にした旗が翻る/祖父の地の旗が/嵐の若者! 嵐の若者!」という歌だ。先頭に立って旗を持っているのは、昇進したローランド。家の前を通ったので、テュールも家から出てきて見ている(1枚目の写真、テュールの左はアルツハイマーの伯母、その左は父、さらに小さく母)。テュールに促され、父と母は仕方なくドラム隊の後をついて行く。向かった先は村役場。入口には、ナイスカンス、その妻、その間にランバート、妻の左にドイツ将校の4人が立って、ドラム隊に拍手を送る。すぐ横には、ナチスの垂れ幕もかかっている。テュールは、父に、「なぜ、ナイスカンスが突然村長になったの?」と訊く。代わりに兄が、「お前の一番の友達の親爺が、キャベツ野郎と大の仲良しだからさ」と言う。そこに、ランバートがやってきて、「来ないか? クッキーがあるぞ」と言う。テュールは父を振り返ると、「ちょっとだけ」と頼むが、父は「もうすぐ夕食だ」と すげない。しかし、もう一度テュールがすがるように見ると、「ちょっとだけだぞ」と許可を与える。それを聞いて2人がほほ笑み合う(2・3枚目の写真)。そして、一緒に中庭に走って行く。父は、もちろん参加せず、1人で家に戻る〔参考までに、2019年12月27日付けのオランダのニュースサイト「DutchNews.nl」に、「WW2の終局のオランダで知っておくべき10のこと」と題した記事があり、その中の「報復」という節に、「約400人のNSBの首長が裁判にかけられ有罪を宣告された。残りの約700人は解雇された。150人が死刑判決を受け、40人が実際に処刑された」と書かれている。あんな小さな国に、そんなに首長(市長、町長、村長)がいたのかと驚くが、逆に、親ナチスのNSBのメンバーがドイツ軍によって無理矢理首長にされた現実もよく分かる。ナイスカンスが牛の検査官から突然村長になったとしても、おかしくはない。そして、彼のその後の行動から見て、1945年5月5日にオランダがドイツから解放されると、ナイスカンスは恐らく裁判にかけられたであろう。ローランドは罵倒され、青年用の刑務所に入れられたろうし、残されたランバートと母は四面楚歌の状態に置かれたことだろう〕

家に戻った父と母の間で夫婦喧嘩が起こる。父は、テュールの行為を、「禁止できなかった」と弁解するが、母は「できたわ! 父親でしょ」と責める。「一番の親友だぞ。それに、禁じたら変に思われる」。「誰だって、私たちが、NSBなんかの傀儡村長の所に息子を行かせたくないのを理解してくれるわ」。「危ない橋は渡らん」。そこに、テュールがニコニコしながら戻って来る。「クッキーがもらえたよ。みんなの分までね」。両親のただならぬ顔を見て、「どうしたの?」と訊く。アルツハイマーの伯母が、突然、「この腕白坊主。お前は、あの子とは二度と遊べないよ」と言い出す。テュールは、母に、「伯母さん、何言ってるの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「ランバートのお父さんは村長なのよ」。激怒したテュールは、両親に向かって、「だから? 聞いてよ。ナイスカンスがドイツ野郎と仲良くしようが…」(2枚目の写真)「…ランバートは僕の一番の友だちなんだ。永久にね!」(3枚目の写真)と、怒りをぶつけ、そのまま家から飛び出して行く。このシーンで、テュールは千変万化の表情を見せるが、ここでは3つを紹介した。

テュールは、いつもの森に行き、汽車がやって来るのを見ると、怒りに任せて、何発もパチンコをぶつける。そして、「バカな戦争め!」と、思いきり怒鳴る。さらに、汽車が通り過ぎると、最後尾の貨車に向かってパチンコを向ける(1枚目の写真)。すると、貨車の壁に開いた穴から小さな子供の手が出てきて、ぬいぐるみを落とす(2枚目の写真、矢印)。それを見たテュールは、貨車なんかの中に小さな子供が入れられていることに驚く(3枚目の写真)〔この鉄道はオランダからドイツに向かう路線なので、ユダヤ人の子供がドイツの強制収容所に運ばれていく途中なのだろうが、テュールには、そんなことを知る由もない〕〔とても象徴的シーンなのだが、子供はなぜ ぬいぐみを捨てたのだろう?〕。テュールは、線路に落ちたクマのぬいぐるみを拾うと、家に持って帰る。

テュールは、のんびりと午後の紅茶を飲んでいた3人に向かって、「子供を見たよ! ちっちゃな子だ!」と叫ぶ。「何よ?」。「貨車だよ。手が突然出てきて、これを線路に投げたんだ」と言って、ぬいぐるみを見せる。兄は、「奴らは石を運んでるんだ。子供じゃない」とバカにするが、テュールは、「この目で見たんだ!」と強く否定し、「パパ、なぜ貨車に子供が乗ってるの?」と訊く。「知らんな」。兄:「幻でも見たんだ」。怒ったテュールは、兄の顔にぬいぐるみを突き付け、「そうか? じゃあ、これは何なんだ?」と激しく迫る。母は、「きっと、村の子供が失くしたのよ」と、あくまで信じない。「ちゃんと見たんだ! 貨車から手が出てきた! パパ!」(1枚目の写真、矢印はぬいぐるみ)。誰も何も答えないので、「何で、何も教えないんだ?!」と、レジスタンスの秘密に次ぐ2番目の “情報秘匿” に怒ったテュールは、まだ明るいのに自分の部屋に直行し、ベッドに横になると、ぬいぐるみをじっと見る(2枚目の写真、矢印)。父が部屋に入って来たので、背を向ける。父は、何も言わない息子を見て、ベッドの脇に腰を下ろすと、ぬいぐるみを手に取り、「本当に知らない。できるだけ何も知らない方がいい時もあるんだ」と、諭すように話しかける。

昨日のショックから立ち直れないでいるテュールが、学校で寂しくしていると、そこにマーチェが寄って来る(1枚目の写真)。「なぜ、他の子とビー玉で遊ばないの?」。「気が乗らないんだ」(2枚目の写真)「バカな ひどい戦争め」。授業中に校長が入ってきて、先日逮捕されたフォンスについて報告する。「少年少女の皆さん、先生も、フォンス君とご両親のことが分かりました。全員無事で、労働キャンプにいます〔ナチスは1200万人をドイツ国内で強制労働に従事させた。オランダ人の割合は5.4%、同死亡率は1%〕。午前の授業が終わると、生徒たちの間では情報が錯綜する。ドイツ寄りの少年は、「父さんは、労働キャンプって、柵のあるサマーキャンプみたいな所だって言ってた」と、無責任な嘘をバラまく。テュールが、「ホントはそこで何するんだろう?」と質問すると、シェーンは、「いろんなことさ。とりわけ、重労働だな」と正確に答える。「しかし、ユダヤ人は別だぞ。汽車に乗せられて連れて行かれ、二度と姿が見られないって」。それを聞いたテュールは、マーチェのことが心配でたまらない(3枚目の写真)。

その夜、再び兄が部屋を出ていく音が聞こえる。テュールは、今度こそ真相を突き止めようと、服を着込んで階段を降りて行く(1枚目の写真)。そして、家を出て行った父と兄の後をこっそりとつける(2枚目の写真)。2人が向かった先は洞窟。入口の前で兄が口笛を吹くと、別の口笛が近づいてきて、レジスタンスが姿を見せる。父はレジスタンスと握手を交わすと、3人で洞窟の中に入って行った(3枚目の写真、矢印は洞窟の入口)。これで、推定でしかなかった疑問は、事実となった。

翌朝、テュールが学校で出会ったランバートは、いつもと違っていた。「父さんは、僕がユースストームに入ったら、僕専用の鉄道車両を買ってくれるって。制服もくれたんだ。まだ着てないけど」。それでも、テュールは、昨夜のことを打ち明けようとする。「聞けよ。僕が昨晩、何を見たか分かるか?」。その時、ランバート嫌いのシェーンが、「おい、ランバート、ナチのお友だち。なぜ、ドイツの学校に行かない? 大好きなんだろ?」と嫌味を言う。テュールは、シェーンを突き飛ばし、「やめろよ、シェーン」と言うが、「口を出すな」と命じられる〔彼の方が上級生〕。シェーンは、ランバートが行こうとするのを体で阻む。ランバート:「通せよ」。シェーン:「パパを呼ぶか? それとも制服を着た兄貴か?」。ランバート:「言葉に気を付けろ。父さんは、この村を任されてるんだぞ!」(1枚目の写真)。この言葉で、2人は取っ組み合いのケンカを始める。しかし、ランバートの思わぬ発言はテュールを驚かし、いつものように助けようとはせず、ただ傍観するだけ。争いを止めさせたのは、マーチェだった。争い事が終わったあと、ランバートが、「昨夜のことで、何を言いかけたの?」と質問すると、テュールはランバートの顔を伺い(2枚目の写真)、「何も。眠れなかっただけ」と口を濁す。2人の間に壁ができた一瞬だ。もうランバートは信用できない。親友でもない。授業中、テュールはいつも通り、窓の方を見続け、ランバートにはそっぽを向いたままだった。放課後、テュールはマーチェとツリーハウスに行く。そこで、マーチェは、家族3人がドイツ軍に捕まった時の話をする。テュールは加工しやすい石を削ってせっせと何か作っている(3枚目の写真、矢印は円盤状の白い石)。マーチェの家族は、ユダヤ人を集めた建物に連れて行かれるが、その中から子供達だけが集められ、別の名前を与えられる。マーチェの話からは、誰が、なぜ、“ユダヤの子供を助ける” 行為を行なったのか皆目見当がつかない。話し終えると、マーチェはテュールが作っているものに興味を示すが、テュールは、完成したらあげると言うだけで、何を作っているかは言わない。

その夜、再び空襲警報が鳴る。父は、兄にカーテンを閉めさせる。テュールが「防空壕に行かないと」と言うと、父は、「二度とナイスカンスの所には行かん」と言い、テーブルの下に家族が寄り添って隠れる(1枚目の写真)〔爆撃されたら命の保証はない〕。翌朝テュールが学校に行くと、ランバートが、「なぜ、昨夜は避難しに来なかったの?」と尋ねる。テュールは、こわばった顔で、「父さんが、必要ないからって」とだけ言うと(2枚目の写真)、ランバートの返事など聞こうともせず、ニコニコしながらマーチェに寄っていく(3枚目の写真)。差は、歴然としている。テュールとマーチェは仲良しで、ランバートはもう他人だ。

授業が終わった後、ランバートがテュールに声をかける。「鉄道模型で遊ばないか?」。「今日は、することがある」。しかし、その後、テュールが「日曜のミサの後は?」と提案すると、ランバートはすごく嬉しそうな顔になる(1枚目の写真)。なぜ、テュールが嘘をついたのかは分からない。ランバートが可哀想だと思ったのか? そして、その日曜日。教会に来たテュールは、ランバートの姿を見ると、すぐにそっぽを向く。ミサが始まると、テュールはマーチェとは、席が離れていても無言で楽しそうにやりとりするが、ランバートの方には、一度だけ嫌そうな視線を投げかけただけ。ミサが終わり、教会の外に出ても、テュールが相変わらず無視しているので、我慢できなくなったランバートは近づいて行き、「今日は来るよね。君が言ったんだ」と催促する。「無理だ」。「だけど、言ったじゃないか。日曜のミサの後でって」。「カトリンキェを手伝わないと。宿題だよ」。「気分が乗らないのか?」。「そんなじゃない」。「それとも、マーチェと約束したとか?」。「違う! カトリンキェを手伝うんだ」(2枚目の写真)。この嘘が決定的な破局を招く。唯一の友を失ったランバートが、自宅の中庭で悲しみにくれていると、そこに兄のローランドがご機嫌でやってくる。落ち込んでいる弟を見た兄は、「どうした?」と尋ねる。「別に… 退屈なだけ」。「なら、なぜテュールと遊ばない?」(3枚目の写真)「あいつが 女の子の尻を追いかけるからか?」。この言葉にハッとなったランバートは、事実を確かめようとする。

ランバートは、すぐにマーチェの家に向かう〔森のどこかにいる可能性の方が高いと思うのだが…〕。こっそりと中庭の大きな扉を開けて中に入ると、納屋の方からテュールとマーチェの笑い声が聞こえる。実は、この直前、重要な会話が交わされていた。以前のように干し草の山に穴を開けて中に入ったテュールは、マーチェに、「この子豚 、いつもこの中にいなきゃいけないの?」と尋ねる。「そうよ。外はとっても危険だから」。「ちょっとくらいなら、いいんじゃない?」。ということで、干し草の山の外では、2人が子豚を追いかけたり、干し草をぶつけあったりして遊んでいた。ランバートは、納屋の扉を少し開け、その光景を見てしまう(1枚目の写真)。2人はぶつかりあった拍子に、テュールの上にマーチェが重なる形となり、2人の目が合うと(2枚目の写真)、マーチェはテュールにキスする。その途端、ランバートの近くにあった木の棒が音を立てて倒れ、2人は外に誰かがいると気付く(3枚目の写真)。飛び起きたテュールが扉を開けるが、外には誰もしない。しかし、ぬかるんだ地面には内反足特有の足跡が残っていた。

翌日、学校に行ったテュールは、ランバートの足の格好を注意してみる。お陰で、授業なんか耳に入らない。「ナポレオンは多くの変化をこの国にもたらした〔ナポレオンは1810年にオランダをフランス帝国の直轄領とした〕。誰もが姓を持つようになり、出生日の登録が義務付けられた」。ここで、教師はテュールに、「ナポレオンは、何を大事にした?」と質問する。不意打ちに戸惑ったテュールは、「哀れな子供たち」と適当に答え、居残りの罰則を食らう。家に戻っても、夕食の時の話題は、兄:「セヴェラインの牛も全部持ってかれた」。父:「村には1頭の家畜もいなくなった」という、暗いものだった。その頃、ナイスカンスの家でも夕食中。兄:「南リンブルフの全ユースストームがマーストリヒトに集まる。ランバート、一緒に来ないか?」。ランバートは黙っているし、せっかくのソーセージ入りのスープも手につけない。“村長” の食卓では、ドイツ兵用に配給されたソーセージが、食卓を飾っている。その時、急にランバートが発言する。「ホートマンスさんは、まだ、太った豚を持ってるよ」(1枚目の写真)〔子豚を “太った豚” と言ったのは、2人に対する怒りから〕。ドイツ軍におもねることで村長にしてもらった “売国奴” は、さっそく電話で将校に報告する。その日、テュールは、マーチェへのプレゼントの仕上げをしていると、手が滑って、石を削っていたナイフで手にケガをする。ケガした指を口に入れて立ち上がると、マーチェが門の所にいるのが窓から見える。すぐに走って行き、「どうかしたの?」と訊くと、マーチェは、「ベラ〔子豚〕のこと知ってたの あなただけよ!」と言って、テュールを突き離す。「何なの?」。「見つかって、ドイツ兵に連れていかれたわ!」。「まさか、僕が?」(2枚目の写真)。「他に誰が?」。テュールは内反足の足跡を思い出す。「ランバートだ。ベラを見たんだ」(3枚目の写真)。テュールは、子豚なんかより心配なことを口にする。「あの部屋! 君の箱!」。「もう見たわ。ちゃんとあった」。「あそこじゃ危ない。移さないと。君もだ。洞窟に隠れないと。奴らが、あれを見つけたら、君はユダヤ人の収容所行きだ。できるだけ早く隠れないと。洞窟の中なら安全だ。君を連れて行って、一緒にいるよ」。「いいわ。でも、まず、箱を取ってこないと」。「食べ物なんかを用意したら、すぐ迎えにいくよ」。テュールは、家に入ると、リュックの中に片っ端から食料を詰め込み、ホートマンスの家に向かう。しかし、同じ頃、ホートマンス夫妻とマーチェの3人はドイツ兵に連行されて行った。

テュールが全速で駆けていくと、ホートマンスの家の前には1台のドイツ軍のジープが停まっている。近くにいた人に、「何があったの?」と訊くと、「ホートマンス夫妻を連行した」。「マーチェも」。「豚を隠してたんだ」と教えられる。すると、内庭の扉から、憎っくき村長とドイツ将校が並んで出てくる(1枚目の写真)。それを見たテュールは、心配になって、こっそり納屋の3階まで行く。木の箱を持ち上げると、中にあったブリキの箱はなくなっていた。ドイツ軍が徹底的に調査して発見・押収したのだ。マーチェがユダヤ人だとバレてしまった! 憤怒の怒りに燃えたテュールは、ナイスカンスの家に行くと、「ランバート!!」と大声で怒鳴る。そして、ロンバートが出てくると、「連れてかれちゃった。お前のせいだ!」とつかみかかる(2枚目の写真)。「豚だろ」。「連れてかれたのはマーチェだ!」。「マーチェ?」。「マーチェだ! この裏切り者!」。テュールはランバートを痛めつけようと、地面に押し倒したり、井戸の蓋に頭を押し付けたり、藁山に逃げようとするのを引きずり降ろしたりして争う。そこに、ランバートの父親が出てきて止めに入る。ランバートは、父に、「マーチェのことはホントなの?」と訊く。「マーチェ?」。「ホートマンスの女の子」。「あの子か。今頃、マーストリヒトの刑務所だな」。「何をしたから?」。「何か重罪だ。法に則ってな」。そして、テュールには、「二度とケンカは見たくない。何の役にも立たん」と警告する。テュールは、決然として出ていく。ランバートが、「どこに行くの?」と訊くと、一言、「マーストリヒト」〔この映画で、一番分からないのが、年代の設定。マーストリヒトは、オランダの中でも南に突出した場所にあり、1944年9月14日 アメリカ軍によって解放されている(その他のオランダの解放は翌年5月)。だから、①英軍のドイツ本土空襲が始まっている(1943年冬以降、本格化)。②時期は夏、③マーストヒトが未解放の3点から、映画の舞台は1944年夏と考えた〕

テュールは自転車でマーストリヒトに向かって飛ばす(1枚目の写真)。一方、ランバートは、父の所に行くと、「パパ、マーチェを助けなきゃ」と言う。「私には できん」。「お願い、友だちなんだ」。「あんな子は、友達なんかじゃない。彼女は、ドイツに連れて行かれる。強制収容所〔concentratiekamp〕だ」。「何で? 何をしたの?」。「ユダヤなんだ。アムステルダムのな」。そう言うと、マーチェが持っていたブリキの箱を取り出し、「タマール・カーツ。それが本名だ」と言いながら箱を開け、一番上に乗った黄色の星を見せる。「見てもいい?」。「もちろん」。この唾棄すべき父は、ランバートの肩を叩きながら、「よくやったな。お前が豚のことを言わなかったら、この証拠は絶対見つけられなかった」と褒める(2枚目の写真、矢印は箱)。自分の部屋に行ったランバートは、恐る恐る箱を開け、中に入っているものを見ながら、自分がやってしまった愚かな告発を泣いて悔いる(3枚目の写真、矢印は黄色い星)。

テュールは、マーストリヒトの軍司令部(?)に着くが、門にはドイツ兵が2人立っていて、中に入ることができない(1枚目の写真)。そのうちに、ぞろぞろと “囚人” が建物から出てきて、待機していた幌付きのトラックに乗せられる。その中にマーチェを見つけたテュールは、「マーチェ!」と叫ぶ。それでは通じないので、今度は、「タマール!」と叫ぶ。ようやく振り向いたマーチェ/タマールめがけ、テュールは門を突破しようとする。2人の兵士に阻まれて、中に入れないが、一人の足を蹴り、中に入り込むと、心を込めて作った石のメダルを投げる(2枚目の写真、矢印)。メダルは無事、マーチェ/タマールが受け取る(3枚目の写真)。それは、石を削って作ったオリンピックの優勝メダルに、赤・白・青のリボンをつけたものだった。テュールは2人の兵士につかまれ、泣く泣く引き離される(4枚目の写真)。この映画で一番悲しい場面。

テュールは、そのまま刑務所に拘留される(1枚目の写真)〔ドイツ兵に対する暴行?〕。その日、ランバートは、ユースストームの制服を着て、家から村役場まで歩いて行く。それを見た生徒達からは、キャベツ野郎好き、裏切者、内通者などの罵声が浴びせられるが、無視して役場に入る。そして、村長室に行くと、机の前に立つ。父は、制服姿の息子を見て喜ぶ。テュールは、制帽を取ると、軍隊式に、「テュールがマーストリヒトに行きました」と言う。「なぜ?」。「刑務所です。マーチェを助けに行きました」。「テュールは気が触れたのか?」。「自分が何をしているか、分からなくなったんです。事態が悪化する前に、彼を助けないと」。「できんな」。「あなたは村長でしょ。ドイツ軍は聞いてくれます」。「無理だ」。ランバートは、最後の切り札として、「パパ、僕、ユースストームの式典に、ローランドと一緒に行きます」と宣言する。その言葉を聞いた父は、一種の “お駄賃” として、テュールを助けてやることにし、電話機に手を伸ばす(2枚目の写真)。そして、刑務所では、テュールが釈放される(3枚目の写真)〔なぜ、急に釈放されたのかは知らされない〕。電話機を置いた父は、「済んだ。テュールは、こんないい友達をもって幸せだな」とランバートに言う。テュールが自転車で村に帰り着いたのは、薄暗くなってからだった。家では、全員がテーブルに座ったまま、心配して待っている。そこに、テュールが入って来ると、心配していた母が抱きしめる。テュールは、「マーチェが連れて行かれた」と言って、母の胸で泣く。

事態は急速に変化する。1人のレジスタンスが突然入って来ると、「逃げるんだ。できるだけ早く。ホータマンスが自白した。全員引っ張られる」と警告する。その頃、ドイツ軍もジープを先頭に、兵士を乗せた幌付きトラックが続く。テュールのラマカース一家も家から飛び出る。家の前にも、逃げ惑う人々がいる(1枚目の写真、矢印はテュール)。一家は、ジープを見て逃げる方向を変え、森に向かう。ユースストームの制服を着たランバートは、役場の前で、あまりの争乱状態に呆然とする。村役場から、父が急いで出てくる。「パパ、何が起きてるの?」。「村中がレジスタンスなんだ。ラマカースもな。家に帰れ」。ランバートは、ドイツ兵の間を縫うように歩いてテュールの家に向かう(2枚目の写真)。そして、中に入ってみると、部屋はドイツ兵によって、破壊され尽くしていた(3枚目の写真)。一家が洞窟に向かったに違いないと思ったランバートは 後を追う。

老いた伯母が一緒のテュール達と違い、自転車に乗ったランバートは線路の所で一家に追いつく。「待って!」。その声に振り向いたテュールは、ランバートにピストルを向ける。父は、「テュール、寄こすんだ」と止めさせようとするが、「いやだ」と拒否する(1枚目の写真)。そして、撃鉄を上げ、「今度は、僕らみんなを裏切るのか? マーチェにしたみたいに?」と非難する。「そんなハズないだろ!」。「この嘘つき」。「嘘はついてない。ついたのは君だ…」(2枚目の写真、矢印はピストル)「…日曜日、君は、カトリンキェを手伝うって言った。もし、君が嘘をつかなかったら、僕が、あの豚を見ることはなかった」。この正論で、テュールはピストルを下げる。すかさず、父がピストルを奪う。ランバート:「テュール、君たち急がないと。ドイツ軍は、村中を捜索してる。洞窟を通ってベルギーに行くんだ。道を知ってるだろ」。それを聞いた父は、「一度も試したことがない。食料もランプもない」と否定する。「洞窟に行ってて。僕が全部用意して持ってきます」。返事がないので、ランバートは、テュールに向かって、「ホントだよ〔Echt〕。約束する〔Ik beloof het〕」。そして、「知らなかったんだ。マーチェのこと。ホントだ。誓うよ〔Ik zweer het〕」と言う。これを聞いたテュールは、「洞窟の中で待ってる。例の場所だ」と応じる。ランバートは、それを聞いて急いで自転車で戻る。兄は「罠に決まってる。あっちに行こう」と反対するが、テュールは「ベルギーへの道、知ってるよ」と、ランバートの勧めに従おうとする。「洞窟の中で待ち伏せされるぞ」。「パパ、お願い」。父は、森の中を徘徊しても捕まるだけだと思い、テュールに賛成して洞窟に向かう。

テュールは、洞窟に入ると、いつものようにロウソクに火を点け、偶然見つけた穴に家族全員を隠す。一方、ドイツ軍は、ホータマンスのさらなる自白で、洞窟に隠れた村人を捜しに一隊を差し向ける。しかし、幸い、坑道の下の真っ暗な穴の中にいる一家は、発見されずに済んだ。誰もいなくなったので、テュールがマッチを擦ってロウソクに火を点ける(1枚目の写真)。ここまで、テュールの言った通りに上手くいったのに、兄はすぐにマイナス思考で物を言う。「お前の友だちは来ないぞ」。しかし、父は、息子を安心させるよう、手に触れる。その時、物音がして、懐中電灯の光が近づいてくる。「そこかい?」。その声を聞いたテュールは、「ランバート、ここだ!」と歓喜の声をあげる(2枚目の写真、矢印はランバート)。ランバートがテュールを穴から引っ張り上げる。そして、袋に入れて持ってきたものを家族に渡す。父は、「素晴らしい。ありがとう、ランバート」と礼を言う。さらに、「気を付けるんだぞ」とも。「あなたたちも」。全員が穴から坑道に出て、ランバートから物資を渡される。父が、「テュール、行こうか?」と呼ぶ。「すぐ行くよ」。ランバートは、マーチェの箱を、「これは、君のだ」と言ってテュールに渡す。テュールは、箱を受け取り、再び涙にくれる(3枚目の写真)。

2人は別れなければならない。テュールはランバートに手を差し出す。2人は、昔のように手を握り合い(1枚目の写真、矢印)、手を使った複雑な挨拶もする。いつ再開できるか分からないので、2人とも泣いている。そして、固く抱き合う(2・3枚目の写真)。最高のシーンだ。そのあと、テュールが 何も言わずに去っていくのも自然でいい。

一家は、テュールの先導で坑道内を歩き、途中で一晩寝て過ごす。テュールは、マーチェの箱の中の写真を見て、思い出に浸る。父が、それを見ている。翌日、前方に明かりが見え、テュールが「着いたよ!」と叫ぶ。家族全員が、洞窟から出て、明るい太陽の光を浴びながら、ベルギーの大地を見る(1枚目の写真)。テュールは、洞窟のあるオランダ側を振り向くと、最高の友だちだったランバートに想いを馳せる(2枚目の写真)。一方、オタンダ側では、ランバートがテュールの無事を祈っている(3枚目の写真)。男の子の純粋な友情を、これほどストレートに描いた映画は他にない。一家は、目の前の畑地を進んで行くが、この先どうなるのだろう?〔1944年夏の段階では、ベルギーはまだ解放されていない。解放は、マーストリト解放の10日前の1944年9月4日だが、それ以前なら、一家は逮捕される危険がある。一方、マーチェはもう汽車に乗せられているだろから、ホロコーストの犠牲者になってしまう(ドイツの降伏まで半年以上ある)。しかし、この映画の目的は、ホロコーストを糾弾することではなく、テュールとランバートの友情を描くことにある〕

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