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Wonderstruck ワンダーストラック

アメリカ映画 (2017)

『ピートと秘密の友達』(2016)に続き、オークス・フェグリー(Oakes Fegley)が主演するファンタジックな映画。彼には、こうしたミステリアスなムードの作品が合うのかもしれない。2011年の同名原作の映画化。原作者のブライアン・セルズニックは、以前紹介した『ヒューゴの不思議な発明』(2011)の原作者でもある。「ヒューゴ」では、主人公は父と2人暮らし、そして父を失う。この映画では、主人公は母と2人暮らし、そして母を失う。「ヒューゴ」では、過去との接点は映画作家のメリエスが30年ほど前に手がけた「からくり人形」。この映画では、母が博物館員となるきっかけとなった50年前の『WONDERSTRUCK』の冊子。両方の映画で、少年は「ドブの中」から「星を見る者」へと昇華する。オスカー・ワイルドの名言、「私たちはみなドブの中にいる。でも、そこから星を見ている者だっている」のように。この映画の「現在」は1977年、50年前の「過去」は1927年。前者の主人公はオークス演じるベン、後者の主人公は聴覚障害の少女ローズ。前者の登場場面はカラー映像(色彩を抑え、さらに黄色に偏色)、後者の登場場面は白黒映像。何の説明もなく入れ替わっても、どうちらを描いているかすぐに分かる優れたアイディアだ。映画は、双方を交互に紹介しつつ、ベンはカナダ国境近くの片田舎からニューヨークの自然史博物館に、ローズはマンハッタンの対岸から同じく自然史博物館に、結果的にだが、向かう。50年の時が介在しているのだが、それでも両者は遭う。それがあたかも運命の必然だったかのように。そこにこの映画の感動がある。ベンを助ける脇役ジェイミーをジェイデン・マイケル(Jaden Michael)が、ローズの母と50年後のローズ本人を名優ジュリアン・ムーアが演じている。

母子家庭なのに母を亡くしてしまったベンは、悲しみのどん底にいる。これからどうやって生きて行けばいいのか? 取り合えず引き取ってくれた叔母さんの家でも、やや年上のいとこからは歓迎されていない。そんなベンが、売却されてしまう前に母の家に忍び込んだ時、今まで母からは教えてもらえなかった「父」についての「かすかな情報」を入手する。そして、その「情報」にあった本屋に電話番号にかけている最中に落雷に合い、気を失う。病院で意識を取り戻したベンには、さらなる試練が待っていた。落雷のため聴覚機能が永久に失われてしまったのだ。失意の中にあって、ベンは「かすかな情報」に望みのすべてを賭け、遠く離れたニューヨークに向けて、病室から「家出」する。その50年前、生まれた時から聴覚障害を背負ったローズはマンハッタンの対岸の豪邸に住んでいた。父は厳格な実業家、離婚した母は人気女優として活躍中。ローズは聴覚障害の適切な教育も授けられず、父からは疎外され、母に憧れる毎日だった。その母が、マンハッタンで舞台に立つと知ったローズは、会いたい一心で家出する。ベンが行こうとした本屋は閉鎖されて久しく、ローズが会いに行った母は歓迎してくれなかった。そして、2人が奇しくも向かった先はアメリカ自然史博物館。ベンは、本屋の前でぶつかった親しみの持てそうな少年ジェイミーの後を追って行ったら偶然そこに、ローズは兄からもたった絵葉書の写真にあったから。ベンは博物館の中でジェイミーと親しくなり、ローズは館員だった兄と出会う。博物館を出た後、ベンは引越し先の本屋を訪れ、そこで父に関する決定的な手がかりを得ることができる。そして、ローズは兄のアパートで新しい人生への途が開ける。

オークス・フェグリーは2004.11.11生まれ、撮影は2016.5.4~7.3なので、出演時は11歳(演じているベンは12歳になったところ)。2018-19年にかけて5本の映画が待機中だが本当の意味の主演作は1本だけ。12歳が少年俳優の「華」なので、寂しい気がする。


あらすじ

雪に埋もれた森の中で狼に襲われる! 何度も「ベン」と呼ぶ声で目が覚める。ベン:「何?」。いとこ:「お前こそどうした? 聴こえてんのか? ツンボか?」。「やめろよ、ロビー」(1枚目の写真)。映画の時代は1977年。場所はミネソタ州ガンフリント。カナダ国境近く。スーベリア国立森林公園の中に数多く点在する湖の一つに面した家の中。真夜中。ベンは、自分の部屋から持ち出して枕元に貼ったメモ(1枚目の矢印)を見る。「私たちはみなドブの中にいる。でも、そこから星を見ている者だっている」。オスカー・ワイルドの名言の一つ。酷い境遇にあっても夢や希望を失うなという意味だ。そして、母からもらった「狼の頭」がプリントされた革の財布から取り出したのは、新聞の切抜き。「地元の図書館員、交通事故死」という1977.2.18付けの記事。ベンの母だ。頭を過ぎるのは葬儀のこと。そして誕生日の日の夜の会話。ベンがベッドで星座の本を見ていると、母が部屋のドアを開け、「渡すの忘れてた」と言って投げて寄こす。箱の中にあったのは、あの「狼の頭」の財布。「これ、僕たちがトレイル〔家の前を走る道路、ガンフリント・トレイルのこと〕で見たのに似てるね」(2枚目の写真、矢印は箱)。ベンの部屋には小型の天体望遠鏡も置いてある。それにもリボンが付いているので、そちらが誕生日プレゼントのメインだったのかも。ベンは、「僕の父さん、天文学者なの?」と訊く。「だから、宇宙のことに興味があるのかな」。母が亡くなるまでベンの家は母子家庭。ベンは父のことがずっと知りたかったのに、母はどうしても教えてくれない。この時も、「誕生日おめでとう。私の12歳の坊や。もう寝なさい」と言って誤魔化してしまう。12歳になったベンは、ベッドから出ると、母の書斎に行き、「なぜ、彼のこと教えてくれないの?」と迫る(3枚目の写真)。母の返事はいつもと同じ。「今はダメ。別の時に」。やっぱりダメかとあきらめたベンは、鏡に貼ってあるメモのことも訊いてみる。最初のシーンで枕元に貼ってあったメモだ。ベンはメモを読み上げ、「流れ星を見た夜、こう言ったよね。今はここに貼ってある」と、返事を期待する。それに対しても母はストレートに答えない。「どういう意味だと思う?」。「いつだって、それだ」。
  

ベンは、その日のことを思い出し、枕元のメモをじっと見て考える(1枚目の写真)。「星」という言葉から、満天の星を思い浮かべる。すると、画面が変わり、白黒映像になる。少女ローズが手にしている雑誌の「星(Stars)」という文字が大きく写り、次第に記事が見えてくる。巧みな場面転換だ。その記事は、いま最も輝いているスター(Brightest Stars)の記事で、女優リリアンの特集だ(2枚目の写真)〔映画のパンフレットを見ても、映画の評を見ても、ローズにとっての「憧れの女優リリアン」としか書かれていない。ネタバレでもなでもないのに、なぜ、ローズの「元母」と書かないのだろう? ローズが記事を集めたり、映画を観に行ったりするのは、ミーハー的に女優に憧れているのではなく、母の姿を見たい一心からなのに。だから、「憧れの女優リリアン」と書くのは、悪質なミスディレッション以外の何物でもない。それを配給会社自らが堂々とやっているのはなぜだろう?〕。カメラはさらに引き、ローズが雑誌を見ているのが雑貨店の中だと分かる。彼女はその記事を破り、店から逃げ出す。彼女が住んでいる時代は1927年。場所はニュージャージー州のホーボーケン。ニューヨークのマンハッタンのハドソン川を挟んだ対岸だ。彼女は生まれた時から耳が聴こえない。父とリリアンがいつ離婚したかは分からないが、親権は父がとっている。ローズは、金持ちだが、厳格で、聴覚障害を疎んじている父には疎外感しか持てなず、寂しくてたまらない。映像は、川べりに佇む昼間のローズから、湖畔の家にいる夜のベンに。ボートが桟橋に擦る音で眠れないベンは、こっそり起きると、母の死以来、仮住まいにしている叔母の家を抜け出す。以前住んでいた母の家は、数十メートルと離れていない場所に建っている。誰もいないはずの家に、明かりが点いている。ベンは、母が生き返って戻ってきた可能性まで考えに入れて、どうなっているのか確かめようと家に向かう(3枚目の写真)。
 
  

家に入り、明かりの点いた部屋に近づくと、中からは母の好きだった音楽が聞こえてくる。ベンは、「ママなの?」とドアを開ける。ここで、白黒に。ローズは、兄から来た「誕生日おめでとう」とだけ書かれた絵ハガキを大事そうに置く〔宛先のリバーストリート168番地はハドソン川から100メートル、正面がホーボーケン駅、マンハッタンへのフェリーターミナルまで300メートルの場所〕。盗んできた雑誌の記事は、スクラップブックに丁寧に糊で貼る。ローズは離婚して去っていった母、ベンは天に召された母を求めている。ベンが中を覗くと、そこにいたのはいとこ〔ロビーの姉〕のジャネットだった。ジャネット:「ここで、何してるの?」。ベン:「そっちこそ、何してるんだよ? ここは君んちじゃないし、服だって君のじゃない」。実際、ジャネットは、ベンの母のしゃれた服を身にまとっていた。しかも、タバコまで吸っている。ジャネットは、不法侵入や、服のことよりも、タバコを見られたことで恐慌状態に。「親には言わないで。殺されちゃう」。ベンにとっては、タバコなんかどうでもいい。「何で、ママの服 着てんだよ!」。ジャネットは、ひたすら謝る。落ち着いたベンは、「君の両親、この家、売っちゃうと思う?」と訊く。「そう話してるの聞いたわ」(1枚目の写真)。「何で放っといてくれないんだ。僕の家だぞ。パパの居どころさえ知ってりゃ…」。ジャネットは、嵐が近づいているので一緒に戻ろうと勧めるが、ベンはしばらく残っていると断る。ジェネットが去ると、ベンは母の部屋に行き、何か手がかりがないかと捜す。引き出しの中には、「Café du Monde」のチコリコーヒー〔数年前から日本でも話題〕の缶が入っていて、中には「たんす預金」〔あとで、一部がベンの旅費になる〕が。その奥には古い紙袋に入った冊子がある。題名は、映画と同じ『WONDERSTRUCK』。発行はアメリカ自然史博物館。その時、雷が光って停電。ベンは、懐中電灯を見つけてきて、冊子を読み始める(2枚目の写真)。そこには、キュレーター(学芸員)の仕事の重要性が書かれ、最初期のキュレーターは集めたものを「驚異の棚」と呼ばれる場所にぎっしりと並べて展示していたともある。さらに、「驚異の棚」の写真が見開きページにカラー印刷されていた(3枚目の写真、中央の綴じ目の部分)。
  

ベンが1枚めくると、小さな紙が挟んであった。それは、「キンケイド書店」の栞で、裏には、「Elaine, I'll wait for you, Love, Danny(エレイン、君を待ってる。愛してる、ダニー)」と書かれていた(1枚目の写真、矢印)。エレインは母の名前だ。愛してるということは、「ダニー」は父に違いない。そして、2人はニューヨークの西81番街2750にあるキンケイド書店で会った。これは、父を希求するベンにとって、初めて手にした大きなヒントだった。画面は変わり、ローズは映画館で母の主演映画を観ている。母は嵐に巻き込まれ、小屋の屋根が吹き飛ぶ(2枚目の写真、矢印)。ベンは、栞の電話番号にかけてみる。1977年なので、ダイヤル式の固定電話だ。ベンが、受話器を耳につけてダイヤルを回していると、雷が家の前の電柱に落ち、電話線を伝ってベンを直撃する。ベンは、意識を失って床に倒れる(3枚目の写真)。
  

病室で意識を取り戻したベンだが、どこかおかしい。目の前に叔母がいるのだが、音が存在しない。「僕、どこにいるの?」と訊くが、その声も聴こえない(1枚目の写真)。叔母は、メモ帳に『大丈夫。事故にあったの』と書く。そして、『雷→電話→ベン』と電気が流れた様子を絵で示す。ベンは、「話せないよ!」と叔母にすがるように言うが、叔母がメモ帳に書いた言葉は、『話してるけど、あなたには聴こえないの』。つまりは、耳が聴こえなくなったのだ。ベンにとっては最悪のニュース(2枚目の写真)。一方、ローズは、広大な敷地〔映画の番地通りだとすれば面積5000平方メートル〕に建つ立派な家に帰って行くと、そこには怖い父が待っていて怒ったようにまくし立てる。町の名家の娘なので、雑貨屋での雑誌の破損の苦情はすぐに父の耳に入り、それを踏まえて、明日、教師が来るというメモを見せられる。それにしても、ローズは12歳くらいにみえるが、その歳になっても手話も読唇も教えられていないのは父親の怠慢としか言いようがない。父と娘の間には、血のつながり以外の何の触れ合いも存在しない。翌日、ベンが目を覚まして窓を見ると、ブラインドの隙間から、長距離バスTrailwaysのダルース(Duluth)乗り場が見える(3枚目の写真、矢印はバス)。ダルースはスペリオル湖畔の町で、ベンの家のあるガンフリントの南西185キロにある。ずい分遠くの病院まで搬送されたことになる。ベンは、バスを見て、父の情報を得るため、キンケイド書店に行くことを決心する。
  

翌日の朝食時、ローズは、新聞を切り抜いていたことが父に見つかり、強い調子で叱られる。愛想が尽きたローズは、部屋に戻ると、旅支度を始める。新聞の切り抜きの上に、兄から届いた絵葉書を置き(1枚目の写真、赤の矢印は絵葉書の「Your brother Walter(兄ウォルターより)」、黄の矢印は「Mayhew to star on New York stage(メイヒュー、ニューヨークで舞台に)」の記事)、2つとも鞄に入れる。ローズがドアから出ようとすると、玄関から教師が入ってきたので、ベランダから逃げ出す。一方、ダルースの病院では叔母がナースルームでカンカンに怒っている。「『すみません』じゃ済まないわ。すぐ警察に電話して、ここに来させなさい!」(2枚目の写真)。それを長女のジャネットが見ている。そして、高速道路をひた走るバスが映る。ローズはホーボーケン駅前のフェリーターミナルからマンハッタン行きの船に乗る(3枚目の写真)。
  

ベンは、バスに乗っている(1枚目の写真)。ベンがナップザックの中を見る場面がある。中には、「狼の頭」の財布、『WONDERSTRUCK』の冊子、着替え類が入っている。ベンが財布の中を見ると、かなりの枚数のお札も入っている。ここで大きな疑問。ベンは、どうやって財布と冊子を手に入れたのだろう? 唯一の可能性は、ベンがニューヨークに行く決心をした時、タバコを吸っていたことを内緒にしたお礼にジャネットに持って来てもらったと考えるしかない。確かに、映画の半ばあたりで、「いとこのジャネットが助けてくれた。僕に借りがあったから、いろいろ持って来てもらった。ママの緊急用資金〔rainy-day fund〕からお金も少し」と説明する場面がある。しかし、直線距離で185キロもある遠方まで往復して「家出」の手助けをし、それに叔母が気付かないというのは、かなり無理筋の設定であることは否めない。さて、ダルースからニューヨークまでは、ミネアポリス、シカゴを経由して、2000キロ以上もある。最初は隣の席に座っていた客も、夜になる頃にはガラガラに。バスは、夜明け前にニューヨークのポート・オーソリティ・バスターミナルに到着する。毎日7000台のバスが行き来するアメリカ最大のバスターミナルだが〔1977.11.17付けのニューヨーク・タイムズの記事より〕、明け方に着いたためターミナル内はガランとしている。ベンは、眠いし外は真っ暗なので、待合室で寝ているホームレスの真似をしてイスの上でナップザックを抱えて眠る。ここからしばらくは、音声が全くない。ローズは船から降り、多くの通勤客と一緒に街に向かう(2枚目の写真、矢印、変装のため髪の毛をハサミで切ったため、ざんばら髪)。ローズは、途中で人にぶつかって倒れ、助けてくれた人に新聞の切り抜きを見せ、Promenade劇場への行き方を訊く(桟橋から3.5キロほど離れている)。ベンが目を覚ますと、ターミナル内はもう込み合っている。ベンはドアを開けて通りに出て行く。しかし、そこはベンにとっては無音の世界。人だけが溢れている。街中で無用心に財布を開け、中からキンケイドの栞を取り出す。「西81番街」。近くの街路表示は「西41番街」。マンハッタンの南北の通りは20ブロック=1マイルで規則的に作られている。81と41ではちょうど40ブロックなので2マイル〔3.2キロ〕になる。ベンは「42」の方角に向かって不安げに歩き始める(3枚目の写真、矢印)。
  

ベンは丸1日何も食べていない。そこで、歩道の屋台でSabrettのホットドッグを売っているのを見ると、財布を出してごそごそ。あっという間にひったくられる(1枚目の写真、矢印)。叫んで追っても、相手は大人。幸い、空になった財布だけは投げ捨ててくれた。中には、キンケイドの栞と、母の死亡記事が入っている。しかし一文無し。すぐ横で、タクシーを拾っている女性がいたが、ベンも、最初からタクシーに乗っていればトラブルに遭わずに済んだ。ローズは、賢く路面電車に乗って劇場まで行く〔路面電車の廃止は1956年〕。劇場は降車場の真向かいだ。正面玄関は開場前なので締まっている。そこで、通用口からこっそり中に入り、リハーサル中の舞台まで辿り着く(2枚目の写真、矢印は母)。ローズがもたれかかった脚立が動き、置いてあったガラスビンが床に落ちて大きな音がする。全員がローズの方を見る。母は、娘だと気付くと、リハーサル中にもかかわらず、舞台監督など関係者を押し留め、ローズを楽屋に連れて行く。部屋に入るなり、母は、「何で来たの?」のように批判的なことを口にする。映画はローズの視点からなので、無音の世界で、台詞は一切ない。母は、少しヒステリー気味に何かをしゃべり続ける。ローズは、置いてあった紙に、『寂しかったの、ママ』と書く。それを見た母は、また何かを言い始める(3枚目の写真)。娘にしばらく会っていないので、聴覚障害者の扱いに慣れていないか、読唇が出来ると信じているかのどちらかだ。しかし、娘の反応がゼロなのを見て、紙を取り上げ、『車に撥ねられたり、誘拐されたかもしれないでしょ』と書く。てっきり、『私も会いたかったわ』『来てくれて嬉しいわ』とでも書いてくれると期待していたローズは、母の受け止め方に怒り、『誰だってそうよ!』と書く。母は、鉛筆を数本渡し、リハーサルが終わるまで待っていなさいとでも命じ、ドアに鍵をかけて出て行く。母に絶望したローズは、窓から抜け出す。
  

一方のベンは、ひたすら北に歩き続ける。子供たちが通りで消火栓を開けて水浴びをしている。その前の水溜りをタクシーが通過した時、横を歩いていたベンは、全身ずぶ濡れになる(1枚目の写真、矢印)。そして、目当ての番地まで来ると、キンケイド書店はあったが、閉鎖されて久しく(2枚目の写真、矢印)、入口も完全に封鎖されていた。足元を見ると、穴からネズミが出てきた。慌てて後退すると、ちょうど通りがかった親子連れの少年とぶつかる。ぶつかられた少年は、「気をつけろ!」と怒鳴るが、父親が怖そうな顔をしたので、「ごめん」と謝る〔ぶつかったのは、ベンの一方的な過失〕。そして、親切に、「本屋を探してるのなら、あっちに引っ越したよ」と教える(3枚目の写真、矢印は指差し)。ベンは聴こえないので黙ったままだ。「数ブロック先。74番街」。それでも無反応。父親は、「遅れてるから、行くぞ」とスペイン語で催促する。メキシコ系なのだろうか? ベンは、去って行く少年に、「ねえ」と声をかける。少年は振り向いてにっこりし、父と歩いて行く。
  

唯一の目的地だったキンケイドを失い、絶望の縁にあったベンには、笑顔を見せてくれた少年しかすがるものはなかった。そこで、意を決して少年の後を追う。一方の窓から這い出したローズ。彼女の父の家で女中として働いている女性が、それを見つけ、失踪したことを知っているので、近くにいた警官に知らせる(1枚目の写真、矢印は女中さん)。ベンは少年の後を追い続ける(2枚目の写真)。少年の方も、つけられていることに気付く(3枚目の写真)。
  

追跡はすぐに終わる。地図で見ると、元キンケイド書店の場所から、少年が父親と一緒に入って行ったアメリカ自然史博物館の入口までは600メートルほどしか離れていない(1枚目の写真、矢印は少年)。次のシーンは、ローズの兄から来た絵葉書。今までは宛先の面しか映らなかったが、いきなり裏の写真が映る(2枚目の写真)。1枚目の写真は、1936年に完成した現在の正面入口。いわゆる新古典主義の古代ギリシャの神殿風の建築だが、2枚目の写真は全く違っている。これは1888年に完成した旧本館、ネオ・ロマネスク様式の建物。現在でも、博物館の南側にそのまま残り、見学者の出口として使われている。母が期待外れだったので、ローズは博物館に行けば兄に会えると思ったのだ。館内に入って行った父子。父親は少年に、「じゃあ、3時に私の部屋で」と言う。「うん、パパ」。「面倒を起こすなよ。保安係からまた何か言われるのはごめんだ」。「分かったよ」。こうして2人は別れる。少年の父親は、博物館員だった。キュレーターかもしれない。そこに、ベンが入ってくる(3枚目の写真、矢印)。
  

ベンは、チケットを買おうと財布を取り出すが、中身を掏られたことに気付き、がっかりしてポケットに戻そうとし、床に落としてしまう。ベンはそのまま気付かずに歩いていくが、少年はベンを待ち構えていたので、財布を落としたことにすぐ気付く。そこで、「おい、君」と声をかけ、財布を拾い、ベンのところまで走っていって、財布でポンと肩を叩く。そして、「落としたよ」というように振ってみせる(1枚目の写真、矢印)。ベンは、盗まれたと勘違いし、「それ、僕のだぞ」と咎める。少年が走り出すと、ベンも後を追う。少年は、スタッフ専用口から館内に走り込み、ベンもそのまま館内に入る。入ってすぐに目の前に現れるのが、2階にある「エークリー・アフリカ哺乳類ホール」の象の群れ〔いつの間に2階に上がったのだろう?〕。象の脚の隙間から、少年が財布を振る。少年は、ハマダラカ(蚊)の75倍体模型の置いてある部屋を突っ切り、マンモスのジオラマの前でばったり会う。少年はまた逃げる。どちらかと言えば、追いかけっこをして遊んでいるようだ。ローズはチケットを買って館内に入って行く。最初に目をとめたのはハマダラカの模型。その後、熱心に見たのはジオラマ展示。少年とベンは、1階にある「ミルスタイン海洋生物ファミリーホール」の巨大なクジラのレプリカの下を走り抜ける。少年が次に入って行ったのが、「ロスいん石ホール」。照明を落とした小さな部屋の真ん中に置かれているのは、1894年にグリーンランドで発見された34トンもあるアーニートゥ隕石。星に興味のあるベンは、少年のことなど忘れて隕石に惹きつけられる(2枚目の写真)。ベンは解説板を読む。すると、今度は、それにローズが手を触れ、次に隕石にも触れる(3枚目の写真)。私が最初に映画を観た時は、「二人の物語がひとつになった時、奇跡が起きる」というチラシのキャッチフレーズから、ここで何かが起きると勘違いしてしまった。2人が50年の時を経て同じものに手を触れるのは映画の中でこのシーンだけなのに、結局、このシーンは何ももたらさず、筋の上でも全く意味がない。前評判の割にIMDbが6.3、Rotten Tomatoesが67%、受賞数1という結果になったのは、こうした無駄で冗長な脚本に責任があるのかもしれない。
  

隕石からベンを引き離した少年は、薄暗いジオラマの通路に誘う。そして、あるジオラマの前に立ち止まると、「これ見たいんじゃないかと思って」と声をかける〔ベンの財布に「狼の頭」がプリントされていたので〕。ベンには聴こえないので、いきなりジオラマを見てしまう。そこに悪夢で見た狼の群れがいるので、驚いてたじろぐ(1枚目の写真)。解説板を見上げると、自分の故郷のガンフリントの文字も。偶然の奇妙な一致だ。ベンは床にへたり込む。それを見た少年は心配して、「どうしたんだい? 病気なの?」と尋ねる。ベンは、「何で ここに連れてきたんだ?」と大きな声で訊く。耳が聴こえないので、声の大きさがコントロールできていない。少年は、「しーっ」と言い、「狼が好きなのかと思ったから」と弁解する。そして、「これ入口で落としたろ」と、狼を見せながら財布を返す。ベン:「聴こえないんだ」。「どうして?」。「ツンボだからさ」。「ホントに?」。少年は、最初に出会った時、話しかけたのに無視された理由が分かる。ベンはメモ帳を渡す。少年は、メモ帳に『ジェイミー』と書く。「僕はベンだ」。ジェイミーは手話で離そうとするが、ベンは「手話は知らない」と答える。「なぜ?」。「ツンボになったばかりだから」。「どうやって?」。「雷」。ジェーミー:『雷なら死んじゃう』。ベン:「そうとは限らない」。『怖い?』。「雷に打たれたことが?」。『ツンボなのが』。「ううん… 時々かな。ずっと静かなだけ」。その時、狼のジオラマの前に1人の年輩の女性が現れる。「あの女(ひと)見てみろ。いつもここに来るんだ。まともじゃないよな」(2枚目の写真、赤の矢印が女性、黄の矢印はジェイミーが指した手)。ベンには聴こえない。「君、逃げて来たんか?」(3枚目の写真、矢印)。今度は指で走る動作をしたので、ベンもそうだとばかりに頷く。「どこから?」。「何?」。ジェイミーは慣れていないので、つい普通に話してしまう。『どこから来たの?』。ベンは立ち上がると、解説板の「ガンフリント」を指で示す。
  

博物館の中を自分の家のように熟知しているジェイミーは、ベンを連れてスタッフ限定区域に入って行き、さらにその奥にある許可なく立入禁止の部屋に入って行く(1枚目の写真)。その中にあったのは、ジェイミーの隠れ家。友だちのいないジェイミーは、父と一緒に博物館に来ては、ここで時間を過している。ベンに「ここ、何?」と訊かれ、『僕の秘密の部屋』と書く(2枚目の写真)。「ここに、いていい。ここは…」『君の隠れ家』(3枚目の写真、矢印)。行く当てもお金もないベンにとっては嬉しい申し出だ。「ありがと」。
  

『なぜ、家出?』。ベンは、母の死亡記事を見せる。「パパは?」。そして、『パパ』と書く。「ここまで捜しに来たんだ」。『離婚?』。「ううん」。「ウチは、した」。動作で分かる。ベンは思いつき、財布から栞を取り出す。「あのね、ここにいるかも、って思ったんだ」。「この前、言おうとしたんだ」。そして、『キンケイドは閉店してない』と書きかけ、『営業中』に直す。「君のこと、ツンボだなんて知らなかったんだ。父さんを捜してるのも知らなかった。知ってりゃ…」。「何言ってるんだ? 書けよ」。「そうだった。ごめん。まだ分かんない…」『どうやって、1人でここまで来た?』。ここで、ジャネットが助けたという話が出てくる。『彼女は、君がどこにいるか知ってる?』。「ううん。誰も知らない」(1枚目の写真)。「僕が知ってるよ」(2枚目の写真)。その笑顔を見て、ベンも笑う(3枚目の写真)。ベンが笑うシーンは2回しかないので貴重だ。
  

お腹の虫がキューっと鳴る。先ほどホットドッグを買えなかったベンは、病院を逃げ出してから何も食べていない。「お腹ペコペコ」。ジェイミーは持参したランチ用のサンドイッチを取り出す。2人で仲良く半分ずつ食べ始める。食べながら、ジェイミーは手話のアルファベットをAから順に教えていく(1枚目の写真、矢印は「A」)。食べ終わると、ジェイミーは自分が撮り溜めたインスタント写真を見せる。お返しにベンは『WONDERSTRUCK』の冊子を見せる(2枚目の写真、矢印)。「ママの部屋で見つけたんだ。ここでやったんだ〔この博物館でやったという意味〕。うんと昔だけど」「この中で、キンケイドの栞を見つけたんだ。だから、ここに来たんだ」。冊子を一緒に見ていると、疲れが出てきてベンが大きなあくび。「大丈夫か」。「ごめん、すごく疲れちゃって」。「昼寝しろよ」と寝るサイン。「そうする」。ジェイミーは床に大きな動物の毛皮を敷き、その上にベンを寝せてやる(3枚目の写真)。「後で、戻って来る」。
  

一方のローズ、警備員に目をつけられ、館内に入って来た警官から「家出少女」と知らされ、捜索の対象にされる。ローズが逃げ込んだ先の部屋は、「驚異の棚/博物館の始まり」と銘うたれた展示室。『WONDERSTRUCK』の冊子と同じデザインだ。そして、その展示室の中央に置かれていたのは、冊子の見開きページにカラー印刷されていた「驚異の棚」(1枚目の写真、中央に立っているのはローズ)。ベンは、ジェイミーに起こされる。「起きろ。来いよ、僕、父さんに、友だちんちにお泊りに行くって言ったんだ」。「何て?」。「だから、博物館中、僕らのモンだ」。「聴こえないよ」。「いいから、ついて来いよ」。ジェイミーが懐中電灯を持って出て行くので、意味は分からないがベンもついて行く。ジェイミーが連れて行ったのは、展示室ではなく、館員の作業室。いろいろなものが所狭しと置いてある。ベンは物珍しく、ジェイミーは友だちができて嬉しそうだ(2枚目の写真)。ローズの兄のウォルターは、係の女性から警察が捜索していることを知らされる。兄は、ローズを見つけ出し、自分の部屋に連れて行く(3枚目の写真、矢印は兄)。その前に、係の女性が販売している「驚異の棚」の企画展示の冊子が映る。『WONDERSTRUCK』。ベンとローズの間で見つかった最初の接点だ。
  

隠れ家では、ベンが、狼の写真のアルバムに見入っている(1枚目の写真、矢印)。プリントの端の刻字を見て、「1965年2月だ」とベン。「僕が生まれる前の年だ」。ファイルには、狼の見事なスケッチも入っている。中には、ベンの家のスケッチも入っている(2枚目の写真、あらすじの第2節の3枚目の写真と対比)。ベンは、「これ、僕の家だ」と驚きを隠せない(3枚目の写真)。秘密を解明しようと資料を探すうちに、1通の手紙が綴じられているのを見つける。「ミス・エレイン・ウィルソン。ママだ」。ベンは、さらに手紙を読み上げる。「ウィルソン様。博物館の新しいジオラマの研究のため、ガンフリントで数ヶ月を過したいと思います。町の図書館員として、ご助力いただければ幸いです。上記の宛先までご一報下さい。敬具。ダニエル・ロベル」。栞に書いてあった「ダニー」だ。「パパに違いない」。そして、「君のパパ、覚えてるんじゃないかな。朝になったら訊いてみてよ」と頼む。
  

ローズの出番は急に減ってくる。兄の部屋で、『ここで何してる?』という紙を見せられた短い場面の後は、タクシーに乗せられ兄のアパートに行く(1枚目の写真)。部屋に入って兄が最初に見せた紙は、『警官!!』。しかし、顔は笑っている。『ママは、早晩君を見つけ出すぞ』。最後に、毛布を渡す。この部屋で暮らしていいというサインだ。隠れ家では、ベンは眠りにつき、ジェイミーは『WONDERSTRUCK』の「驚異の棚」をよく見てみる。すると、絵に描かれた床の特徴的な模様が、今、自分のいる場所の床とそっくりなことに気付く。少し離れて隠れ家を見ると、「棚」に雰囲気が似ている。天井を覆っていた幕を引っ張って剥がすと、「棚」の上の半円形の突起が現れる。その右にはキリンの首も。こここそ「驚異の棚」だと確信したジェイミーはベンを起こす。そして、本を見せ(2枚目の写真、矢印)、続いて、キリンに懐中電灯を向ける。ベンは、「同じだ。僕たち、『驚異の棚』にいるんだ」と大喜び(3枚目の写真)。
  

しかし、逆に疑問はつのる。「いったいどうなってる? なぜ、父さんはこの本を持ってたんだ? なぜ、僕んちの絵がファイルの中にあるんだ?」。ジェイミーは、追い詰められたように、メモ帳に『キンケイド』と書く。ベン:「本屋なら、つぶれてる」。ジェイミー:『あの時、引っ越したって言おうとした。まだ、君がツンボだって知らなかったから』。「どういうこと? 君は、僕が父さんを捜してるって知ってたじゃないか。だから、まずキンケイドに行ったんだ。なんで今まで黙ってたんだ?!」(1枚目の写真)。確かに、夜間の博物館散歩は余分だった。ジェイミー:「僕、友だちがいないから…」。「何だって!?」。『君に、いろんなもの見せたかった』。「いろんなもの見せたかった? 何、言ってんだよ!」。「君が、父さんを見つけちゃうのが怖かったんだ。君を連れてっちゃうだろ」(2枚目の写真)。「聴こえないよ!」。「それに、見つからなかったら…」。「分からないって言ってるだろ!!」。「ガンフリントに帰っちゃう」。そして、ベンに分かるようにゆっくりと口を動かす。「君に言うつもりだった」。「言うつもりだった?」。「そうだよ。誓って」。「いつまで待たせる気だったんだ!?」。そう非難すると、ベンはナップザックを背負う。必死になったジェイミーは、『君に、友だちになって欲しかった』と書きなぐった紙を、ベンの顔の前に祈るように差し出す。ベンは、「そうか。もし僕の友だちになりたかったんなら、父さんを捜すのを手伝うべきだったな」と言って、メモ帳を強く叩く。ジェイミーは、去って行くベンの背中に向かって、「でも、助けてるじゃないか!」と叫ぶが、聴こえるべくもない。ローズのラスト・シーン。ソファに横になったローズに兄がお休みを言う。ローズが体を起こして窓の外に目やると、そこには模型のようなビルの窓の光が並んでいる〔ローズが大人になってから作ることになる「ニューヨークのパノラマ模型」が一瞬映る〕。場面は変わり、ベンが早朝のニューヨークを歩いて、キンケイド書店の前に到着する(3枚目の写真)〔ジェイミーとは別れてきたので、どうやって見つけたのだろう?〕
  

ベンは、ドアを開けて恐る恐る店内に入って行く。古本屋なので、本が両側にぎっしりと並んでいる。ドアを開けた時に鈴が鳴ったので、それを聞いた店主が「すぐに参ります〔I'll be right with you〕」と奥から声をかけるが、ベンには聴こえない。誰もいないように見えたので、ベンは子犬がいた2階に上がって行く。そこで、階段の手すりにもたれているうち、夜明け前に起こされたせいで急に眠くなる(1枚目の写真)。それからかなり時間が経ち、年輩の女性が店に入ってくる。店主とは親しげに手話で話す〔何を話しているいかは分からない〕。その時、2階にいた子犬が女性に気付き、嬉しそうに吠えながら階段を駆け下りる。その際、寝ていたベンの足にぶつかり、ベンの持っていたナップザック、博物館から頂戴してきたファイルや写真が床に落ちる。それを見て、2人は、ベンの存在に初めて気付く。店主:「やあ、そんな所にいたのか。起こしてしまったかな?」。ベンは耳に手をやって首を振る。「聴こえないのかい?」。「手話は知らない」。そして、店主に向かって、「聴こえのるの?」と訊き〔返事の「Yes」は聴こえない〕、女性を指して、「その女(ひと) ツンボ?」と訊く〔返事の「Yes」は聴こえない〕。「僕、事故に遭ったんだ。最近。だから、聴こえない」(2枚目の写真)。店主は女性に説明する。「君にはびっくりしたよ」。そして、紙に何か書いて見せる〔可哀相にとでも書いた?〕。「ありがとう。ちょっぴり眠っちゃった」。そして、床に落ちたものを片付ける。女性が手伝っていると、床に『WONDERSTRUCK』が落ちている。それは、驚き以外の何物でもない。茫然として、店主に見せる(3枚目の写真、矢印)。実は、この女性は50年後のローズで、店主はローズの兄ウォルター。2人は『WONDERSTRUCK』の冊子が博物館に並んでいる時、運命の出会いをしていた。驚くのも当然だ。
  

2人の間で真剣な会話が交わされる〔何を話しているいかは分からない〕。ローズは、メモ帳に、『ベン?』と書く。今度は、ベンがびっくりする番だ。「なんで、僕の名前知ってるの?」(1枚目の写真)。この返事は、ローズにとっては、少年がベンであることの確証にもなる。『お母さんはどこ?』。ベンは死亡記事を渡す。ローズはそれを兄にも見せる。「母さん、知ってるの?」。妹兄の間で交わされる目線。今度は、ウォルターが、『どうしてここが分かった?』と訊く。ベンは、キンケイドの栞を渡す。ローズは栞の裏の「ダニーのメモ」を兄に見せる。ローズの顔が泣きそうになる。「僕、父さんを捜しに来たんだ」。その言葉を兄がローズに伝える。「あなたたち誰なの? どうして僕の名前知ってるの?」(2枚目の写真)。『私はローズ。これは兄のウォルター』。「僕、あなたを見たよ。博物館の狼のジオラマの前で。どうなってるの? 教えてよ!」。ベンに優しく微笑みかけたローズは、涙を流しながら兄と相談し、『一緒にいらっしゃい』の紙を見せる。ベンはナップザックを担ぎ、返された『WONDERSTRUCK』を中にしまう(3枚目の写真、矢印は冊子)。出て行く前に、妹兄が互いに腕を交差して見せるのは、「この子の面倒は私がみるわ」「それがいい」という意味なのか?
  

ベンとローズは店を出る。バス乗り場の近くのベンチに座ると、ローズは何枚ものメモ用紙にぎっしりと文字を書いていく。後でベンに読ませるためだ。2人は、「Northren Blvd-82 St., Queens」行きのバスに乗る。これだとクイーンズ地区の中央までしか行かない。場面は切り替わり、2人は、バスの着いた側(博物館の5キロほど西)とは反対側から博物館に近づいて行く。直径37メートル巨大な地球儀ユニスフィアの前を通ると、正面に「クイーンズ博物館」が見えてくる(1枚目の写真)〔この建物はクイーンズ博物館ではない。内部はクイーンズ博物館なのに、なぜ外観だけ変えたのかは理解に苦しむ〕。ローズが連れて行ったのは、この博物館随一の呼び物、ニューヨーク市の大パノラマ。1964年のニューヨーク万博の時に作られたもので、867平方メートルの広さ(約30メートル四方)に1200分の1の大きさで、895,000のビルと100の橋がある〔模型は、その後も「アップデート」されてきたが、9.11で倒壊したツイン・タワーだけは、敢えてそのまま残している〕。閉館時なので中には誰もいない。ローズは普段入館者が入る2階の通路ではなく、パノラマの設置してある1階に連れて行き、ベンチに座る。そして、バスに乗る前に書いたメモを渡す。ベンは読み始める(2枚目の写真)。ローズは、1927年、ニューヨークに初めて出て来て、自然史博物館に勤めていた兄のウォルターに会った。そして、母や父と離れて暮らしたいと頼んだ。兄は、聴覚障害の子供ための学校に入れてくれた。そこでビルに逢った。2人は結婚し、聴覚障害を持たない子が産まれた。兄は、ローズを自然史博物館で展示を担当する職に就けてくれた。そこで、息子と一緒に働いた。1964年の万博でのパノラマ作成のため、自然史博物館を辞めたが、その頃には夫のビルは病死し、息子と2人だけになっていた。万博が終わっても、パノラマは人気があったため残すことになり、ローズがその担当になった。一方、息子は自然史博物館でジオラマの担当に抜擢された。そして、その仕事のためガンフリントに行った。そこまで来て、ベンは、「あなたの息子さんって、ダニー?」と訊く(3枚目の写真)。ローズは、そうよと仕草で示す。「あなた、僕のお祖母ちゃん?」。今度もイエス。「彼、どこにいるの? ミネソタからはるばる会いに来たんだ。どこなの?!」。ローズは、先を読むように勧める。
  

ここから先は、メモではなく、実際にあったらしいことが人形劇のような形で示される。ダニーが母に出した手紙には、手伝ってくれた地元の図書館員が、たまたま持っていた小さな小屋を借りたと書かれ、2人が仲良さそうにしている様子が人形を使って示される。そして、キンケイドの栞を挟んだ『WONDERSTRUCK』の冊子をベンの母に贈ったらしいことも、人形を使って示される〔メモに書いてあったわけではない〕。ローズは追加のメモを渡す。『あなたのパパは病気だったの。父親と同じ心臓病。徴兵は免除されたけれど、ガンフリントから戻って数年後、心臓が…』。ここでベンは読むのをやめる。そして、しばらくローズと見つめ合うと、泣きながら抱き付く(1枚目の写真)。50年の時を隔てて初めて2人の心が通い合う。ローズは、愛しむようにベンに先を読ませる。『このパノラマは、ニューヨークの模型というだけではなく、あなたのお父さんの一生でもあるの』(2枚目の写真)。ローズは、息子の思い出の小さな品々を模型の中に隠していた。場面は、自然史博物館内で行われた息子の死の追悼式の思い出に(人形劇)。そこに出席していた人たちの中に、ローズの知らない人が2人いた。若い女性と幼い少年。ベンと母だ。ベンが狼の夢を見るのは、ジオラマを見た記憶がどこかにあるからで、母が「狼の頭」の財布を贈ったのは、亡き父のシンボルとしてだった。その時、落雷で館内が停電する。真っ暗な中でパニックになるベン。そんな時、外からカメラのストロボの光が当たる。あたかもベンを助けるように。2人がパノラマ室から出てくると、博物館のガラス扉の前でジェイミーがストロボを光らせている。驚いたベンが走って行き、ドアを開けて、「どうやって来たんだ?」と尋ねる。その後は、ジェイミーが後をつけていった様子が映される〔バスをどうしたかは不明〕。ローズは、2人を2階のベランダに連れて行く。そこで、ベンは、ジェイミーのことを、指サインで「FRIEND」と紹介する(3枚目の写真、矢印は「F」)。ベンは、ニューヨークに来て、祖母だけでなく一生の友人も得ることができた。最後に満天の星が映る。「ドブの中」にいた者が「星を見る者」になった瞬間だ。
  

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