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Wondrous Oblivion 素晴らしきボンクラ

イギリス映画 (2003)

①。

②。

③。


あらすじ

1960年5月。デイヴィッド・ワイズマンは、ロンドンの北西部にあるヘンドン地区のパブリック・スクールに通う11-12歳の少年〔1959年9月入学の際は11歳のはず〕。クリケットが大好きでクラブに入っているが、練習中に「自分が試合で大活躍する」白昼夢の状態になってしまう。打たれたボール〔茶色の革製〕が自分の方に転がってくるが、みんなから「起きろ!」と叫ばれ、ハッと気付いた時には、もう間に合わない(1枚目の写真)。「またか!」の声が上がる。教師が「オーバーだ」〔6球投球してボウラー(=投手)が交代になる〕と宣言。デイヴィッドが、拾ってきたボールを持って中央にあるピッチの近くに行くと、次のボウラーに促されてボールを投げる。しかし、投げ方も下手なので中間点にボトリ〔デイヴィッドはバッツマン(=打者)としても、ボウラーとしても、フィールダー(=野手)としてもダメ〕。教師はデイヴィッドに、「楽しんでるか?」と訊く。「はい、先生、とっても」(2枚目の写真)。「素晴らしい〔Wondrous〕。じゃあ、持ち場に戻れ」。その後姿を見ながら、教師は「素晴らしきボンクラ〔Wondrous oblivion〕だな」と独り言。それが、デイヴィッドのあだ名になった。
  
  

次のシーンで、デイヴィッドはヘンドンから鉄道に乗っている(1枚目の写真)。列車のタイプが地下鉄仕様ではないので、今ならテムズリンクだろうが、1960年代末までテムズ川の下をくぐるスノー・ヒル・トンネルは貨物専用だったので、どの鉄道に乗っているかは定かではない。向かっている先はテムズ川の南。1960年代には典型的な下町だった所だ。今でも、直通で40分はかかるルートをなぜデイヴィッドが毎日使って通学しているのか? それは、ヒットラーのドイツから逃れてきたユダヤ人の貧しい両親が住みついたのが南ロンドンの安いテラスハウス〔連続住宅〕で、父は布地を売る店を開いているが、息子のデイヴィッドには労働者階級から抜け出して欲しいという強い希望があったため。だから、デイヴィッドが、せっかく「入れてやった」パブリック・スクールで、クリケットにうつつを抜かしていることには反対だ。デイヴィッドは、駅を降りると、自宅に歩いて向かう(2枚目の写真、矢印は自宅)。一連のテラスハウスの一番隅の家だ。しかし、その先にも別のテラスハウスが続いている。デイヴィッドは自分の部屋に入ると、宝物のように集めているクリケットカード〔各選手の写真が1枚に1人印刷されたカード〕を並べ、カードの選手に話しかけて遊んでいる。デイヴィッドの隣の家が引っ越すことが決まっている。そこで、近所のうるさ型のデブ女〔最低の人物〕がやってきて、後に誰が入居するか知っているかと訊く。デイヴィッドの母が知っているはずがない。デイヴィッドの一家はユダヤ人なので、反ユダヤ主義の労働者階級の隣人からは一歩引いた目で見られている。夕方になり父が帰宅する(3枚目の写真)。写真の上部に写っているのが玄関のドア。ドアを入ると、そこは廊下で、いわゆる玄関のスペースもない。いくらロンドンとはいえ、テラスハウスの住環境の悪さが一目で分かる写真だ。ここには一応照明器具が付いているが、台所には天井に裸電球がぶら下がっているだけだ。
  
  
  

隣の一家が引っ越して行く。Glückstein一家だ。「stein」が付いていることから、ドイツ系ユダヤ人だと分かる。これで、デイヴィッドの一家は、同一民族の臨人を失うことになる。この時、一家を前に、父がデイヴィッドに向って、「皆さんは、持ち家に移られる」と話す。これは父にとっての夢でもある。「もっといい隣人が持てるし、大きな木もある」。学校に行ったデイヴィッドは、他のクラブ員と一緒に部屋に集められ、新しいシーズンのキャプテンが昨年活躍したジェイムズ・リースに指名される。クリケットはイギリスの国民スポーツなので、そのクラブの活躍は学校の誉れでもあることから、ジュニアチャレンジカップでの優勝を目指すよう訓示される。そして、ピュー先生が明日メンバー表を発表することも〔試合に出場する選手は11名、試合中の交代は1名のみ〕。学校の帰り、父の店で、デイヴィッドがウッドベリーという老紳士から、クリケットカードを買っている。出されたものはみんな自分のものにし、「君のお父さんより、満足させるのが難しい〔hard to please〕」と言わせる。どうして父の店で販売しているのかよく分からない。タダであげているかもしれないが、全部終わってから、「これは持ってないだろう」と言って見せ、「店のおごりだ〔On the house〕」と言ってプレゼントするので、最初の分は売っているように思える。そして、デイヴィッドの自宅で。狭い部屋に4人が入り、母がミシンで枕カバーを縫い、父はそれを手伝っている。母は、日中、うるさ型のデブ女のことでイライラして、デイヴィッドに枕を投げつける(1枚目の写真)。「気にするな。ここがイギリスだ。民主主義の国だ」。会話の隙を見て、デイヴィッドは、「リースが、クリケットのキャプテンになった」と話すと(2枚目の写真)、クリケットのことなど何も知らない父は、「なぜお前が選ばれなかった?」と気のない返事。話題はヒットラーからイギリスの民主主義に戻る。そして、明くる日、デイヴィッドのポジションは何とスコアラー。補欠選手ですらない。クリケットの服を着なくてもいいとまで言われる(3枚目の写真)。因みに、ボードの一番上の「Total」は、テームが獲得した「run(ラン)」の総数、「Wickets」は、テームが失ったウィケットの数、「Last Man」は、最後のバッツマンのランの数を示す。ランは、中央のピッチと呼ばれる長方形の芝生(20.12m×2.64m)で、ボウラーが投げたボールをバッツマンが打ってクリース間を走った回数。クリースは、ピッチの両端のウィケット付近にあるリターン区画、ウィケットは3本の杭で、そこにボールが当たるとアウトになる。他にもアウトになる場合は色々あるが、アウトになるまでバッツマンは何度でも打てる。
  
  
  

デイヴィッドが帰宅すると、隣の家への引っ越しが始まっていた(1枚目の写真、矢印は荷物運びとぶつかりかけたデイヴィッド。周りの人も様子を窺っている)。デイヴィッドは、じろじろ見るのは失礼だと注意されたので、自室からこっそり様子を窺っている。部屋の窓から見えるのは、どのテラスハウスにも付いている長方形の細長くて狭い裏庭。そこには、前の家族が中央にバラを植えていた(2枚目の写真)。手伝いに来た男が、「トイレはどこだ?」と訊き、「中よ」と嬉しそうに女性が答え、「冬にカゼ引かなくてすむな」と男が言う。ジャマイカでは、トイレは屋外だったのだろう。デイヴィッドは、クリケットカードで遊び始める。すると、今度は、玄関のある通りからクラクションの音が聞こえ、母親と娘2人が到着する。迎えに出たのは、大男の父親。全員英語を話すが、文法は時々間違っている。アクセントまでは分からない。その光景を、周りの住民が出てきてじっと見ている。新しい住民は、ジャマイカ移民だった。解説で述べたノッティング・ヒルの人種暴動から1年8ヶ月。火種は残っていて、ジャマイカ移民に対する差別意識も強い。ユダヤ人さえ快く思わないこの地区の住民は、あからさまな敵意を持って引っ越してきた一家を迎える。夜は、引っ越してきた家から大音量の音楽が流れ、夕食の頃には母のイライラは募る。父は、「荷解きしてるのさ」と言うが、母は、「歌って叫んで笑って」と不機嫌そのもの。娘が、「寝室3つしかないのに、何人暮らすのかな?」と訊く。父:「さあ、50人かな」。母:「何か、他のことでも話したら?」。
  
  
  

翌朝、デイヴィッドが学校に行こうとして母と一緒に外に出ると、ちょうどお隣の母親も外に出てきて顔があった。さっそく、娘2人を連れて挨拶に来る。最初に、昨夜の騒音のことを詫びる(1枚目の写真)。相手はサミュエルズ一家。娘はジュディとドロシーだった。デイヴィッドは内気なので、「学校さ、どこに行ってるだね?」と夫人に訊かれても黙っている。「話しとうないって〔Him don't want to talk〕」。夫人はデイヴィッドの制服を褒め、良い教育は大切だと言って別れる。3人が去る、さっそく駆けつけたのが、右の家のうるさ型と、左斜め向かいのデブ女。デブ女は、「なぜ大家さんに文句言わないのよ、お仲でしょ?」と言う(2枚目の写真)。大家もユダヤだから、直談判しろという意味だ。母は大家を知らないし、ユダヤ人かどうかも知らないと答えると、もう一人が、「確かよ。ユダヤ人だって聞いたわ」。デブ女は「自分が何したのか知るべきだわ」「あたしはこの通りで生まれた。あたしの子供たちも。あたしたちは貧しいけど、持ってるものは守らないと」と大家との交渉を母に強く催促する。一方、デイヴィッドの帰宅時、ウッドベリーがまたクリケットカードを見せている(3枚目の写真)。一番上は、ソバーズ(Garfield Sobers)〔現在は、サーの称号を持つ英領バルバドス出身の選手〕、2枚目はワレル(Frank Worrell)〔死亡。サーの称号を持つ英領ジャマイカ出身の選手〕〔クリケット選手でサーの称号を与えられた人は22人/俳優の76人よりは少ない〕。「すごいや。あなたって天才だね、ウッドベリーさん」。しかし、ウッドベリーは、自分で持ってきたくせに、「どうして、急にジャングル万歳人間になったんだい。つまり、こうした連中は、いわば陰の部分だろ?」と訊く。「でも、イギリスのチームだよ」。このカードのシーンをわざわざ入れたのは、デイヴィッドに人種的偏見がないことと、後でこの2人〔もちろん、本人ではなく、扮した俳優〕が登場するから。
  
  
  

その日の夕方、隣の裏庭でデニス(大男の名)が重いローラーで地面を均し、長女のジュディが箒で掃いている(1枚目の写真)。一点だけ変なのは、バラはどうなったのか、という点。バラは引っこ抜けるが、そこは円形の地面だった。万一、芝生の上に土が敷いてあった場合は、芝が変色しているはず。しかし、映画では〔特に次の写真〕芝生はとてもきれいな状態だ。翌日デイヴィッドが帰宅すると、デニスが塀際に等間隔に木の棒を打ち込んでいる(2枚目の写真)。そして、恐らく数日後、多くの隣人が注視する中で、高く並べられた木材の間に網が張られていく。網は、上部にも渡された。一番奥に3本の棒を立てようとしたことで、デイヴィッドはそれがクリケットの練習用ネットだと気付く。そして、デニスが投げ、ジュディが打つ(3枚目の写真)。これほど安全な練習場はない〔ただし、ボウラーとバッツマンの距離は20メートル以上。この裏庭はかなり短いので、この映画ほど効果的なのかどうかは分からないが…〕
  
  
  

それを目にしたデイヴィッドは、夕食の準備をしている母のところに駆け下りて行き、「クリケットのネットだ」と興奮して話かかける(1枚目の写真)。しかし、父と一緒にシナゴーグでの礼拝に出かけた折、隣にいた男性から「新しいお隣さんはどうだ?」と訊かれた父。「誰から聞いたんだ?」。「小鳥さ。黒い鳥だがな」〔差別発言〕。「問題なんかない」。その日の夕食時、母は、「話しかけられたら ちゃんと応対しなくちゃいけないけど、その時だけよ〔as far as it goes〕」と隣人に対する対応に念を押す。一見、人種無差別に見えた父も、「我々と同種の人たち〔our kind of people〕じゃないんだ。いいな?」と釘を刺す(2枚目の写真)。「背を向けなくてもいいが、仲良くする必要はない」。翌日、デイヴィッドがクリケットカードと話していると、デニスのジュディを教えている声が聞こえてくる。すごく丁寧な教え方で、デイヴィッドがこれまで一度も見たことのないものだった〔デイヴィッドは、誰からも指導を受けたことがないので、スコアラーにしかなれなかった〕
  
  

親子の練習を見ていて矢も盾もたまらなくなったデイヴィッドは、クリケットの服装に着替えて自分の家の裏庭に現れ、ネットをじっと見ている(1枚目の写真)。それに気付いたデニスは、「プロじゃなか」と声をかける。ジュディは、「一緒にやる?」と訊く。頷くデイヴィッド。「こっちに来て、どんなか見せてくれろ」。そして、塀を超える前に、「母さん、こんこと知っとるよな?」と念を押す。頷くデイヴィッド。今度は嘘だ。サミュエルズ側の裏庭に来たデイヴィッド。「で、お前さんの名は?」。答える前に、ジュディが、「デイヴィッドよね?」と訊く。デニスを見て、「はい」と答える。「巨人を殺したんは、デイヴィッドだったな?」〔ダビデとゴリアテ〕「じゃあ、俺とやってみっか〔have a go at me〕」。デニスは、さっそくデイヴィッドをウィケットの前に連れて行き、バッツマンをさせる。格好からして当然上手だと思っていたが、バットにかろうじて当たったボールは後方に逸れる(2枚目の写真)。デニスは、バッツマンではなくボウラーだと思って、今度はボールを投げさせる。ところが、投げるボールはすべてとんでもない方向に(3枚目の写真)。これで、デイヴィッドが格好だけのずぶの素人だと分かってしまう。
  
  
  

デニスは、デイヴィッドに、「学校じゃ、コーチしてくれてるだか?」と尋ねる。「選手ならコーチしてくれる」。「強いもん勝ちってか? それがお前さんとこの方針なんか? で、お前さん、選手なんか?」。デイヴィッドは、下を向いて、「僕、スコアラーなんだ」と恥ずかしそうに言う(1枚目の写真)。「スコアラーは、すっごく大事で、すっごく役に立つ仕事だでな。だけんど、プレーはできん。プレーしたいんだろ? 選手になりたいんだろ?」。デイヴィッドは熱心に頷く。デニスは、デイヴィッドに、「僕は、選手になりたい」と言わせる。「ゴールが分かってりゃ、より簡単に近づけるだでな」。そして、ジュディに、「この若いもんに、もっと練習させてみるっての、どう思う?」と訊く(2枚目の写真)。「いいわ」。そこで、デニスは、「あした、また来たいかね?」と尋ねる。「はい」(3枚目の写真)。映画の中で一番明るい表情だ。「んじゃ、明日、5時半ちょうど、いいな?」〔午後5時半〕。そして、全部着てくる必要はないと言うが、生真面目なデイヴィッドはその後もフル装備でやってくる。
  
  
  

翌日、帰宅後にさっそく練習が始まる。デニスの指導は、バッツマンから始まった。バットの持ち方から始まり、姿勢、バットをどう振るかまで丁寧に教える(1枚目の写真)。そして、ジュディには定位置にボールを投げさせる。両手を持っての指導で、ボールを前に転がすことができるようになる。デニスは、ジュディを慰めるのを忘れない。デイヴィッドの相手をする分、ジュディの相手ができなくなるからだ。その時、最も効果があったのは、恐らく、「おんなじ年頃の友達、欲しいだろ」というもの。ジュディのボウラー役はずっと続く。ジュディのボールがまっすぐウィケットに当たる。その時は、「ボウラーは、いつも直球を投げるとは限らんでな。最後のはスピンしてたで」と教える。デニスが休憩でいなくなると、ジュディは、「なんで、クリケット そんなん熱心なの? 父さん教えんの?」と訊く。「パパは、クリケットしない。出身地ではやらないんだ。それに、店を持ってるし。いつか、クリケットカード見せてあげる。何百枚もあるんだ。サリー・チーム全員のサイン入りのバットも持ってる」。ジュディには、サリーの名前は通じない。彼女は、クリケットというスポーツが好きなので、チームのファンではないからだ。ジュディは、「4年近く、パパと会わなんだ」と話す。「ママは、一度会いに来た」。「誰が、面倒見てたの?」。「おばあちゃん」。「今、どこにいるの?」。「帰った、ジャマイカに」。「僕には、おばあちゃんはいないんだ」。「なんで?」。「よく知らないけど、戦争中に殺されたんだ」。「ひどい」。「そうでもないよ。知らない人だから。パパは、会ったことのない人を寂しがる必要ないって言うんだ」。「寂しくないんなら、知らんでいいの?」。その言葉に、デイヴィッドはハッとして振り向く(2枚目の写真)。その時、デニスがもう終わりにしようとやって来て、デイヴィッドを家に戻す。そして、運悪く、裏庭に出てきた母とばったり会う。母は、まさか自分の息子がジャマイカ人と付き合っているとは思ってもみなかったので早々に家に戻すが、その途中でデイヴィッドとジュディは手を振り合っている(3枚目の写真、矢印)。2人がいなくなると、デニスは、「息子さん素質あんだが、少し磨かんとあかんで」と話しかける。そして、「練習したけりゃ、いつ来てもええだでな」と暖かく言う。母は、「どうもありがとう」と形式的に言い、早々に引き揚げる。
  
  
  

デイヴィッドは、母に、「サミュエルズさんは、僕をコーチしてくれてる。僕には、コーチが必要なんだって」と説明する(1枚目の写真)。「それで?」。「ジュディのおじいちゃんは、ジャマイカでプレーしてたって。あっちではみんながやってるって。女の子ですら」〔先に紹介したサーの称号を得たクリケット選手22人中10人がジャマイカ出身〕。母は、「誰が、お隣とプレーする許可を与えたの? お父さんに訊いたの?」と非難するが、デイヴィッドは「とってもいい人たちだよ。マンゴーもくれた。メロンや桃みたいな味」と悪びれる様子もない。「私達を面倒に巻き込む気? 次からは、まず訊きなさい。分かったの?」。母の怒りはなかなか収まらない。しかし、その直後、「家の中に入っちゃだめよ。庭にいること」と言ったことで、練習の続行を認めたことになる。「庭にいれば、パパもだめとは言わないと思うわ」。次のシーンでは、父が窓から息子の練習風景を見ている。デニスの熱心な指導ぶりを見れば、認めるしかない。ジュディの母が、休憩時間にとコーラを持って来る。そして、デイヴィッドに、「あんた、ユダヤの子なんだね?」と話しかける。「イエス様とおんなじユダヤの子と 付き合えるなんてね」。ジュディが、「ユダヤ人と会ったことないんよ」と説明する。「聖書の人たちだで。あたしたちに、旧約聖書をくれた人たちさね。創世記からルツ記までの」。それに対し、デニスは、「子供は子供だでな。どの子も、クリケットのプレーの仕方を習う必要さあるで」と言う(2枚目の写真)。しめくくったのは夫人。「お隣になれて嬉しいだで」。
  
  

デイヴィッドが、サミュエルズ家と仲良くしているのは、クリケット・ネットの反対側の裏庭から丸見えだ。デイヴィッドと母が、外出から帰ってくると、口うるさい痩せた方の女の家の前にいたデブ女が、ツバを吐いて立ち去る(1枚目の写真、点線はツバの飛んだ方向)。最大限の侮辱だ。デブ女の左に写っているのは、そのバカ息子。人種差別主義のテッズ族で、後で卑劣な行為をする最低の人間。デブ女よりはましな痩せ女は、「あんたの息子が、新入りと仲良くやってって聞いたけど」と詰め寄る。「勧めた訳じゃありませんわ」。「止めてもいないでしょ」。「私も移民なんです。移民を見下せなどとは言えません」。「移民全体のこと言ってるんじゃないわ」。デイヴィッドと母が、別れて自分の家に向かって歩いて行くと、いつの間にかバカ息子が門の前に先回りしていて、睨みながら門扉を開ける。ハッとして2人は立ち止まる(2枚目の写真、後方にボケで見えるのは、痩せ女と、戻って来たデブ女)。母は、何も言わずに前を通って門の中に入り、門を閉めて玄関に入る〔門扉から玄関までは1~2mしかない〕
  
  

その日か翌日。デイヴィッドは父の店にいる。父の電話が終わると、デイヴィッドは、「パパ、家に帰っていい?」と訊く。「お母さんが店にいる間は、お前もここにいろ」。「でも、サミュエルズさんが待ってる。早番なんだ」。「お前、宿題はどうしてる? この数日、宿題やってるのを見たことないぞ! いい学校に行かせてるのに、お前は、早番のサミュエルズみたいに、工場で働くしか能のない人間になりたいのか、それとも、こんな店で朝から晩まで働き、切り刻んだ布を持って来て返金しろというばかな客にへいこらして過したいのか?!」(1枚目の写真)。この父は、「息子に良い教育を与え、ワンランク上の人生を歩ませたい」とする移民特有の意識に燃えている。人種差別主義者ではないのだが、クリケットに全く無縁のドイツからの逃亡移民のため、デイヴィッドがそんなものにうつつを抜かすことが許せないのだ。しかし、そう叱った後で、「分かった、帰りなさい。だが、彼がいなかったら、戻って来るんだ」と許可したのは寛容さの現われだ。デイヴィッドも「宿題は毎日やってるよ。ほんとだよ」と誤解を解くのに懸命だ。家まで走って戻ったデイヴィッド。次のシーンでは、さっそくクリケット・ネットの中で練習している(2枚目の写真)。最後に、難しいボールも見事に打ち返し(3枚目の写真、矢印は当たったボール)、デニスから褒められる。練習は雨の日も続き、デイヴィッドと2人の姉妹だけの時もある。窓から練習風景を見る母の顔も、笑顔に変わっている。
  
  
  

そして、ある日、遂に、母が飲物を持ってやって来た。子供用にジュースが3つと、デニス用にビールだ(1枚目の写真、左端に母が映っている)。そして、次が、ボウラーとしての練習。デニスと並び、同じように動いて、投げるこつを教えてもらう(2枚目の写真、矢印は2人が持っているボール)。しばらく練習し、ジュディがバッツマンになり、デイヴィッドが1人で投げる。ボールは見事にウィケットに当たる(3枚目の写真、分かりにくいが、矢印はボール)。
  
  
  

練習が終わってデニスが片付けていると、母が「とても感謝しています〔I'm very grateful〕」と声をかける。そして、「お茶でもいかが?」と誘う。デニスは喜んで行くが、紅茶を出されたのは食堂ではなくキッチン。それでも、きれいだと褒める(1枚目の写真)。「若い娘さんみたいだで」。母は、若くして結婚したと話す。一方、キッチンのすぐ外の裏庭では、デイヴィッドがジュディに「お宝」のバットを見せている。以前、ジュディに話していたサリー・チーム全員のサイン入りのものだ。説明しないとジュディにはその価値が分からない。デイヴィッドは、過去3年間のチームの全試合のデータを書いた何冊ものノートを見せる。「あんた、クリケットにどっぷりね」。最後のシーンは、夜遅く帰ってきた父。キッチンには冷めた夕食が置いてあった〔母は、待たずに寝たのだろうか?〕。問題は、それではない。父が玄関を開けた時、ドアの下に突っ込んであった薄青い紙切れを見つけ、キッチンに持ってきていた。一口食べて、その紙を開くと、そこには、「GET RID OF THE DARKIES(黒んぼどもを追い払え)」と書いてあった(3枚目の写真、矢印)。後から分かるが、書いたのはデブ女のバカ息子。こいつは、デニスにも嫌がらせの紙切れを何枚も書いている。
  
  
  

翌日は雨。クリケット場に出ていたクラブ員たちは木の下で寒そうに雨宿り。横には傘をさしたピューがパイプを片手にどうするか考えている。脇には、デイヴィッドがずぶ濡れで立っている。「今日はもう、試合を再開できそうにないな、ワイズマン」(1枚目の写真)。デイヴィッドは、「先生」と話しかける。「もうスコアラーはやりたくありません」。「どういうことだ、ワイズマン? スコアリングが好きだと思ってたぞ」。「そうです。でも、プレーしたいんです」。「そうか? シーズンの途中なのに やっかいだな。まあ、よかろう」。そのことを報告しようとデイヴィッドが家に飛び込んでくると、母が洗濯機の裏で困りきっていた。デイヴィッドの顔を見て、神の助けとばかりに、デニスを呼びにやらせる。洗濯機は購入したばかりで、セッティングが間違っていたため、洗濯の途中で水が溢れ出していたのだ(2枚目の写真)。デニスは取り敢えず噴き出す水を止めることに成功。フロアに溜まった水をタオルで拭き取る仕事まで、嫌がらずにやってくれる。2人で掃除をしながら、デニスは「今度の土曜日、デイヴィッドがチャリティに来てもいいだか?」と尋ねる。「2人のクリケット選手が、サイン会に来るだで」。「さあ、どうかしら。一人ぼっちでしょ」。「あんたさんも来りゃいい」。母は、喜んで行くことに。その時、デイヴィッドが、「ママ、僕、スコアラー辞めた。来週からプレーするんだ」と報告する。それを聞いたデニスは、「やったな、デイヴィッド」と言うと、濡れた手をズボンで何度も拭い、握手をしようと差し出す(3枚目の写真)。2人はがっちりと握手。「どんだけうまくなったか、みんなに見せてやるだ」。そして、土曜の話をする。
  
  
  

翌日の練習試合で、デイヴィッドに出番が回ってくる。部員の一人が「早くアウトになれよ、家に帰りたいから」と意地の悪い声をかける。ボウラーが投げ、デイヴィッドが打ちウィケットに向かって走る〔反対側の選手も同時に走る〕。そして、老齢のコーチが「オーバー」と宣言する。その時、スコアボードは、「Total: 66/Wickets: 9/Last Man: 12」。「オーバー」ということは、それまで投げていたボウラーが6球投球したことを意味する。すると、次回から別のボウラーが反対側のウィケットから投げることになる。ボウラーが交代してもデイヴィッドの好調は続く(1枚目の写真、矢印はボール)。どんどん血得点が増えて「Total: 102」になったところで、寝転んで待っている部員から「どうなってるんだ?」という声が上がる(2枚目の写真)。そして、遂にデイヴィッドが打ち損ねたボールがウィケットに当たり、アウト。ウィケットキーパー(捕手)と、近くにいたフィールダー(野手)は「やった!」と大喜び。スコアボード「Wickets」は38に変わった。この打席でデイヴィッドが上げた得点は38ランということになる。コーチは「大変によかった」と褒める(3枚目の写真)。そして、ピューにもこのことを伝えるとも。
  
  
  

デイヴィッドがサミュエルズ家に招かれて、『シャローム・アレーヘム(שָׁלוֹם עֲלֵיכֶם )』を歌うシーンがある。ここで改めて面白いと思ったのは、この歌の題名は、ヘブライ語で平和を意味する挨拶で、英訳すれば「Peace be upon you(平和があなたちともに)」となる。ところが、「Peace be upon you」はイスラムの普遍的な挨拶『アッサラーム・アライクム(السلام عليكم)』の英訳とも一致する。イスラエルとイスラム諸国は最近ぎくしゃくしているが、基本的な言語で一致しているとは思わなかった。ジュディの母は、その場に居合わせた家族の友人に、デイヴィッドに日曜学校での行事に参加してもらったらと声をかける。「それは光栄ですね」言われたデイヴィッドは、そのことを報告しようと、ジュディと一緒に自宅に戻る(1枚目の写真)。そして、「ジュディにベーグル〔ユダヤのパン〕を見せていい?」と訊くが、折悪しく夫婦喧嘩の真っ最中〔母が新しいドレスを勝手に買った〕。次のシーンは、土曜日のチャリティ。入口に、ワレルとソバーズの写真が貼ってある。母とデニスとデイヴィッドのジュディが一緒に会場に入って行く。母は新しいドレスを着ている。中は全員が黒人。デニスの顔を見て真っ先に声を掛けたのがワレル。デニスは、クリケットのスター選手と知り合いなのだ。デニスは、「この2人の若い衆に、いろいろ話して欲しいだで」と頼む。2人はワレルとソバーズの近くに行って、話に聞き入っている(2枚目の写真)。一方、母は、最初はダンスに加わらなかったが、お酒が入り、曲にムードが出てくるとデニスと幸せそうに踊り出す。体を預けた踊り方は、恋人同士のようだ(3枚目の写真)。その格好が、クリケットのバットの使い方を教えてくれた時に似ていたので、デイヴィッドは、「見て見て、デニスがママにバットの使い方教えてる」と言うが、デイヴィッドほど鈍感でもクリケット狂でもないジュディは、気分を害してデイヴィッドをダンス場から連れ出す。
  
  
  

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