ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

All the Invisible Children それでも生きる子供たちへ
     (Blue Gypsy ブルー・ジプシー)

イタリア映画 (2005)

この映画についての日本語のサイトを見ると、「世界中の子供たちの窮状を救うため」というイタリアの女優マリア・グラツィア・クチノッタの呼びかけにユニセフと国連世界食糧計画が賛同し、7ヵ国から7組8人の映画監督が参加、それぞれの国の子供たちの過酷な現実を独自の視点で描き出したオムニバス・ドラマ」などのように紹介されている。しかし、映画名と女優名を原語で並べて検索しても、このような内容の記事を発見することはできなかった。信頼できる英語版のサイト https://cineuropa.org/ には、イタリアのプロデューサー、キアラ・ティレシが 「忘れられた子供たちの問題に焦点を当て、人々に現在の状況の深刻さに気付いてもらうこと」を目的に、イタリア外務省の開発協力局、国連のWFP(世界食糧計画)、ユニセフの支援を受けて作ったと書かれ、オランダ語のサイト https://www.cinemazed.be/nl/ にも類似のことが書かれている。一体どちらが正しいのだろう? もし、後者だとしたら、日本ではなぜ間違った情報が拡散しているのだろう?

イタリア語のサイト https://www.movieconnection.it/ に、この映画の完璧な紹介記事があったので、それをそのまま転載する。「『ブルー・ジプシー』では、“最も深刻な劇的状況 は 選択の不可能性” だという “逆説的な状況の存在” が主題となっている。ボスニア人の少年ウロシュは少年院から出院することになるが、嬉しくはない。彼にはやりたい夢があるが、それでも出て行きたくない。少年院の外には、アル中で暴力的で ウロシュに無理矢理盗みをさせるような暮らしを強要する父親が待ち受けているからだ」。

ウロシュ役のウロシュ・ミロヴァノヴィッチ(Урош Милованович/Uroš Milovanović)は、1992年生まれ。映画が2004年の撮影とすれば、撮影時12歳。『Zavet(ウェディング・ベルを鳴らせ!)』(2007)と2年の差があるが、だいたい年齢的にも一致している。

あらすじ

映画が始まると、『ウェディング・ベルを鳴らせ!』の終盤にあった、婚儀の列と葬儀の列が同じ道をぶつかるように進んで来る姿が映される(1・2枚目の写真)。この短編の方が先に作られたので、このアイディアに気に入った監督が『ウェディング・ベルを鳴らせ!』で、もう一度使ったのであろう。ただ、違う点は、この映画では実際に2つの列がぶつかりそうになり、急ブレーキをかけたトラクターから花嫁が前方に投げ出され、棺の上にうつ伏せになって落下したこと。この短編では2つの行列は主役でも何でもなく、それを見ていた “少年院への新規収監生” がそれを見て笑いながら鉄扉から院内に入って行くシーンの前座になっているだけ。20人近くの収監生は、引率者に連れられて院内に入って行く(3枚目の写真)。入口に浮いている風船は、マクシノヴィッチがボサに持って来た人魚の風船を思い起こさせる。
  
  
  

新規収監生は、誰も聴衆のいない演壇の上に立って、合唱させられる。指揮をとっているチビ男は、『ウェディング・ベルを鳴らせ!』で活躍したルーニョ。年長の一人が変な声を出したので、チビ男は 「そんな声出すと、2ヶ月独房に入れてやるぞ」と威嚇する(1枚目の写真、矢印)。その次のシーンでは、新規収監生の全員が電気バリカンで丸坊主にされる。その場には所長も来ていて、「君たちの新しい家にようこそ」と歓迎する。1人だけ、まだ12歳くらいなのに、丸坊主にする作業をしている少年がいる。少年の横に来た所長は 「ウロシュ・ペトロヴィッチは3年前、500の有罪判決を受けてここに来た」と話し、ウロシュの顔が綻ぶ(2枚目の写真)。所長はさらに 「彼は、明日自由になる」と続け、ウロシュは 「550です。所長さん」と有罪判決数を増やす。「明日から、何をするのだね? どうやって生活費を稼ぐ?」。「床屋になります」。所長は 「素晴らしい」と拍手する。所長はもう一人の丸坊主にする作業をしている少年に、同じ質問をし、彼は 「盗み続けるよ、所長」とぶっきらぼうに答える。所長は、「彼は、ここに来て長くないから、嘘のつき方を覚えてないんだ」と言い、笑いが起きる。ウロシュも嬉しそうに笑う。
  
  
  

その夜。2段ベッドの上段に横になったウロシュは、マッチに火を点けては天井に投げている(1枚目の写真)。天井には、みんなが投げたマッチ棒がいっぱい刺さり、40個ほどの黒いシミができている。他の連中は、ここを出る時には、誰が迎えに来るか話しあっている。その時、ウロシュの横で立ってマッチを投げていた少年Aが、ウロシュの隣のベッドの下段の少年Bに、いつ釈放されるのか尋ねる。少年Bは、「1ヶ月と半。そしたら、ペンキ屋に直行だ。俺は、こう言うな。『100ディナールあるから接着剤が欲しい。スニーカーがボロボロだけど、新しいのを買う金がないから』。そしたら、いろんな女が頭ん中で飛び回るんだ」〔接着剤(有機溶剤)による酩酊感や興奮を期待したもの〕。ウロシュは、火を投げるのを止めて話に聞き入る(2枚目の写真)。少年Aは、ウロシュの横に腰かけると、「お前、ここから出たくないみたいだな?」と訊く。ウロシュは、「僕が? 出たくない? 冗談言ってるのか?」とバカにする(3枚目の写真)。それに対し、少年Aは 「ここじゃ、いい子でいれば、やりたいことを、やりたいときに、好きなだけやれて、好きなときに止められる。外じゃ、命令に従わないとダメだ。たとえお前がいい奴でも、好きな時に止めることはできん」と、この映画の要(かなめ)となることを言う。
  
  
  

翌日の朝。ウロシュはサッカーでゴールキーパーになる。既収監生、対、新収監生との試合。ウロシュは、ゴールポストに寄りかかると(1枚目の写真)、コートの端にいる七面鳥を見る(2枚目の写真)。七面鳥といえば、『ウェディング・ベルを鳴らせ!』でマフィアのボスのバヨがこよなく愛した獣姦の相手。そして、ウロシュの頭を過去の嫌な思い出がよぎる(3枚目の写真)〔父がビール瓶をウロシュの頭に叩きつける〕
  
  
  

ウロシュがハッと現実に戻った瞬間、ボールが飛んで来て(1枚目の写真、矢印)、何もしないウロシュの横を通ってゴールする。立っていただけのウロシュに対し、1人のワルが寄って来て、「何やってんだ、このバカ! 寝てる間に遊んで欲しいのか?!」と怒鳴る。ウロシュは逃げ、ワルが追いかけ、それを背の高い少年が止めようとする。結局、ウロシュはすぐ横の開いたドアに逃げ込む。部屋の中は風船で一杯。ワルはウロシュを殴ろうとし、ウロシュは 「空手で頭をブチ割ってやる」と息巻き、背の高い方の少年は、2人の中に入って喧嘩をさせまいとする(2枚目の写真)。そこに、コーチが入って来て、「止めろ! ピッチに戻れ!」と命じる。背の高い少年は、ウロシュに 「俺たちは明日ここを出る〔昨日、院長は『明日』と言っていたが、明後日の間違い?〕。こんなバカどもはもういない。『こうしろ、あしろ』と言う奴も看守もいない。自由だぞ!」と喜びを口にする。しかし、ウロシュは、先ほどの一瞬のフラッシュバックが気になり、 「少なくとも、ここには看守がいる。外じゃ、誰も、ロクデナシどもから守っちゃくれない」と言う(3枚目の写真)〔これも重要な言葉〕
  
  
  

ここで、場面は、同じ時点でのウロシュの一家の所業に変わる。彼の一家と仲間の子供達は、みんなジプシー。父は、駅の切符売り場の前の長椅子に監視役として座り、母は小さな女の子〔ウロシュの妹〕を抱いている。そこに、子供たち5-6人の音楽隊が入って来て歌と演奏を始める(1枚目の写真)。父が首を振って指示すると、子供たちは隣の待合室に行き、10人ほどの旅客の前で歌って演奏する。そして小さな男の子〔ウロシュの弟〕が踊りを披露する(2枚目の写真)。切符売り場のおばさんも、演奏に合わせて立って踊り出す。その隙に、母が抱いていた娘は、裏口から切符売り場に侵入し、売上金をつかんでは何度も胸に入れ(3枚目の写真、矢印)、最後は、下に置いてあった厚い本を箱に入れ、その上に残ったお札をばらまき、盗難の発見を遅らせる。音楽隊の中で、簡単な楽器しか持っていない子は、乗客のポケットから財布を抜き取る。次のシーンでは、子供達をスーパーに連れていった父は、子供達が欲しがった物を買ってやる。
  
  
  

少年院では、法務省からの来賓を招いての出院式の準備中。出院者が演壇の上に立って、新規収監生が歌っていたとの同じ歌を練習し、そこに院長が歌いながら入ってきて、ウロシュに 「いつ戻ってくるんだ、ウロシュ?」と訊く。「戻って来ないよ、所長さん」(1枚目の写真)。「そんなこと、誰が信じる?」。「伯父さんがモンテネグロで床屋をやってる」。「君は、いつも嘘ばっかりだ」。「どうして、僕が嘘ついてると思うの?」。「私も嘘をつくから、誰も信じられんのさ」。そして、室内が収監生でいっぱいになると、来賓3名が着席し、院長が挨拶する(2枚目の写真)。そして、院長も一緒になって力強く歌うので、傍聴していつ収監生達も体を左右に波打たせてそれに応える(3枚目の写真)。
  
  
  

合唱がまだ続いているのに、音楽隊を先頭に、ウロシュの父が入って来る。そして、「所長さん、あんたさんと ご家族へのプレゼント。臥虎〔獲物を狙って低い姿勢をとった虎〕には虎を」(1枚目の写真)「所長室には地球儀を。奥さんにはチョコレートを。あんたさんの健康維持には12速の自転車を」と言って色々な物を渡し、ウロシュも笑顔になる(2枚目の写真)。父はさらに、「俺は いつも言うんです、因果応報だと。俺のジプシーに、盗みを止めるよう教えて下さって感謝してます」と言い、小声で、「必要がなくても盗むんですよ。生まれてからずっと。『盗んじゃダメだ』と言ってきたのに」と小声で付け加える。次のシーンでは、映画の冒頭で新規収監生達が入って行った鉄扉から、ウロシュが母と一緒に出てくる。母は、お金を渡して、「モンテネグロにいる あたしの兄さんの所まで走って行くのよ」と言い、別れの抱擁をする。それを見た父は、「何をしとる? 何で泣いとる。自由になったんだぞ」と言う(3枚目の写真)。
  
  
  

母に肩を組まれて歩いて行くウロシュに追い着いた父は、母からウロシュを奪って肩を組むと、「ソンボル〔Сомбор、ベオクラードの北西約150キロ〕にあるゴリラ伯父さんの家に行け。彼は大した男だ。仕込んでもらえ」と言う〔自分のような悪党にするつもり〕。しかし、ウロシュは、「ボーザ伯父さんのトコに行って床屋をやりたい」と反対する(1枚目の写真、矢印はビール瓶)。父は、「床屋だと、このバカもん! 俺たちは、食うにも困っとるんだぞ! 俺は一文無しだ。肝臓の手術には大金がかかる! お前の妹や弟は盗み方を知らん! そんなに嫌なのか?」と訊き、手に持っていたビール瓶をウロシュの頭に叩きつける(2枚目の写真)。そして、「あのメルセデス、見えるな? 中に100ユーロある」と、盗みを指示する(3枚目の写真、矢印は、ビール瓶で切れた頭を押さえている、右目の左には血が見える)。
  
  
  

母は、「殴るのは止めなさいよ、このバカ! 盗ませては殴って酔っ払う!」と本気になって怒るが、ヤクザな夫は、「止めんか! 失せろ!」と追い払い、ウロシュはそれを悲しそうに見ている(1枚目の写真)。母は、「クソ野郎! 子供虐め! 酔っ払い! なぜ、私の子を殴るのよ! このアル中! キチガイ!」と叫ぶと、持っていたカバンで夫を殴る。しかし、覚悟を決めたウロシュは。落ちていた石を投げつけて、メルセデスの運転席の窓に穴を開け(2枚目の写真、矢印)、足で蹴ってガラスを割る。そして、上半身を車内に入れて財布を盗む。しかし、窓から出ている足に気付いた店員が車の持ち主に知らせ、持ち主は拳銃を撃って威嚇しながら、ウロシュの後を追いかける。ウロシュは財布を投げ捨てると、トウモロコシ畑に逃げ込む。どうしようかと迷うウロシュの目に入ったのは(3枚目の写真、血がかなり出ている)、懐かしい少年院の高い塀。
  
  
  

ウロシュは長い棒の付いた鋤を見つけると、それを持って塀に向かって走る(1枚目の写真)。そして、塀の直前で鋤の先端を地面に刺して舞い上がり、塀の上の鉄条網を飛び越えて、サッカーのゴールネットの上に無事落下する(2枚目の写真)。ウロシュは七面鳥を見て笑顔になる(3枚目の写真)。
  
  
  

夜、ウロシュが電気バリカンを使って自分で頭を丸坊主にし始めていると(1枚目の写真)、そこに、2日前の夜、ウロシュの横に腰かけた少年Aが窓をトントンと叩いたので、ウロシュは手を上げる(2枚目の写真)。少年Aは、「俺は、何て言った?」と言うと、2日前に話した言葉を、少し短くしてくり返す。「ここじゃ、いい子でいれば、やりたいことを、やりたいときに、好きなだけやれて、好きなときに止められる。しかし、外じゃ、好きな時に止めることはできん」。それを聞いたウロシュは、振り向いて “だから戻って来たんだ” と悲しくほほ笑む。
  
  
  

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  イタリア の先頭に戻る          2000年代後半 の先頭に戻る