ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Denti da squalo サメとの出逢い

イタリア映画 (2023)

映画の原題『Denti da squalo』は 『サメの歯』。それでは分かりにくいので、『サメとの出逢い』としてみた。何れにせよ、少年とサメの映画のように思えてしまうが、それは映画の前半。そこでは、主人公の少年ヴァルテルが、父の悲惨な事故死後に、ある目的をもって訪れた郊外の別荘にあるプールでサメを見つける場面から始まる。その別荘は、目下、所有者不在で、その隙に、カルロという偽名の青年が管理人と称して、勝手に入り込んでいる。ヴァルテルは、サメの餌の魚を買うのに協力するが、お金がなくなると肉を盗む手伝いをする。こうした前半のストーリーは、如何にも「少年とサメ」という動物映画を連想させる。しかし、後半になり、「今、お前は、2匹の小さな魚のままでカルロと一緒にいるか、捕食者の王サメになるか、決めないといかん」という死んだ父の言葉や、「パパはサメだった。最高に強かった。なのに、どうして引退したの? 労働者なんかになるために」という、ヴァルテル自身の疑問、そして、プールの中で傷付いたサメに対する、別荘を所有するかつての父の盟友の言葉、「怖くなくなったサメは、サメであることを終えた」などは、サメを生物としてではなく、一般人に恐怖を与える強力な犯罪者もしくはマフィアの代名詞として扱っている。こうした展開は、少年が主役の映画としては極めて珍しい方向性で、この映画がコロナ禍の真っ最中に撮影されたという特殊性と合わせ、きわめて特異な存在にしている。

映画は、大きく9つのパートに分かれる。
①ヴァルテルの父の事故死直後の悲しみと母との不和〔かつて “サメ” だった父は、母の要請で “サメ” であることをやめ、清掃員として働いている時に同僚を救って死んだので、ヴァルテルは母を憎んでいる〕
②ヴァルテルが幼児の頃に父と一緒に訪れたことのある郊外の別荘の持ち主に どうしても訊きたいことがあったので直行すると、そこのプールでサメを見つけて好きになる。
③別荘には、カルロという青年が無断で入り込んでいて、ヴァルテルを追い出そうとするが、ヴァルテルがサメの餌を持って来ることで侵入を許す。
④お金がなくなると、カルロが主導して肉を盗もうとして捕まり、それをヴァルテルが助ける〔ヴァルテルに “サメ” らしさが生まれる〕
⑤カルロは、自分が手下になっているテクノにヴァルテルを紹介し、ヴァルテルは、麻薬密売でお金を稼ぐ〔ヴァルテルの “サメ” らしさが大きくなる〕
⑥稼いだお金が母に見つかり、ヴァルテルはサメのプールに行き、その時の父との空想上の会話から、彼がかなり強くなっていることが分かる〔ヴァルテルは、自分が “サメ” になったと思っている〕
⑦カルロとヴァルテルは、テクノとの約束の時間を忘れ、制裁を受けて追放される〔ヴァルテルは、“サメ” として独り立ちする〕
⑧テクノに媚びた小心者のカルロは、禁断の別荘にテクノとその手下を招き、豪邸の中を荒し、プールのサメを傷つける。それを見たヴァルテルは格下と思ったテクノの前に立ち塞がり、サメを救おうとしてプールに突き落とされるが、サメはヴァルテルを格上とみなし襲って来ない〔ヴァルテルの、“サメ” としての自信は深まる〕
⑨そこに、別荘の所有者、マフィアのゴンサロが現われ、テクノに強い制裁を加えて追い払い、ヴァルテルに “サメ” になるか、ならないか、の二者択一を迫る。しかし、その条件が、サメの射殺だったため、ヴァルテルはサメを海に逃すことにする〔ヴァルテルは、“サメ” を捨てた父と同じ決断をする〕

ヴァルテル役のティツィアーノ・メニケーリ(Tiziano Menichelli)に関する情報は、これが映画初出演という以外、何もない。年齢も10歳と書いたサイトと13歳と書いたサイトに分かれる。背の低さと、声の甲高さは10歳を思わせるが、顔の表情は12歳くらいにも見える。何れにせよ、13歳というのは公開時(2023年6月8日)の年齢なので、撮影時ではない。サメがすべてCGなので、画像処理に手間取ったとすれば、10歳というサイトが正しいのかもしれない。映画初出演にしては、元マフィアの父を持つ少年を巧く演じている。

あらすじ

夏、オスティアの海岸は海水浴に来た人々で溢れているが、1人の喪服を着た少年が海辺に立って遠くを見つめている(1枚目の写真、矢印)。小さな男の子と父親が楽しそうに遊んでいる姿を見た少年は、うなだれたまま海辺を去り(2枚目の写真)、タバコを吸いながら待っていた母の方に歩いて行く。母も、喪服を着たままだが、少年と違って悲壮な雰囲気はどこにもない。少年が、母を無視して横を通り過ぎて行っても、声一つかけないし、息子を見もしない。次のシーンは、ダッシュボードに白い花が少し置いてある車の中。会話はない。アパートの2階のドアが開き、真っ先に少年が入って来ると、自分の部屋に直行しドアをバタンと閉める。

部屋に入った少年は、喪服を脱ぐと、上半身裸になり(1枚目の写真)、ボードにピン止めしてある写真をじっと見る。その中には、亡くなった父や、幼い頃の少年の写真もあるが、少年の目線は、煉瓦の塔の写真に向く(2枚目の写真、矢印)。なぜ、こんな古そうな写真が、他の写真の上にピン止めされているのか? それは、この塔のある場所が、少年が “引退して清掃作業員になる前の父” への憧れを象徴する場所だったため〔映画の後半になって分かる〕

少年は、自転車に乗ると、地中海に沿った田舎道を走る(1枚目の写真)。少年は、田舎道から逸れ、林の中の土道に入って行く。そして、海の砂浜に近い地点まで来ると自転車を乗り捨て、行く手を遮っている鉄の門扉まで行くが、鉄の輪がはめてあって開かない。しかし、門扉の横の金網が外れていたので、隙間から中に入る。すると、野道の正面に、ボードにピン止めされていた煉瓦の塔が正面に見える(2枚目の写真)。なぜ、少年は父が死ぬとすぐにここに来ようとしたのか? それは、“引退して清掃作業員になる前の父” がこの別荘を分け合っていた人物と会いたかったため〔映画の最後の方になって分かる〕

少年が塔の近くまで来ると、きれいなプールがあったので、夏の暑い盛りなので笑顔になる(1枚目の写真)。その時のプール側から見た映像が2枚目の写真で、右側に塔が映っている。少年は、さっそくパンツ1枚になり、プールに飛び出た岩場の上に立つ(3枚目の写真)〔プールの上に一杯浮いているのは 落ち葉〕

少年は、水の表面に浮かんでみたり(1枚目の写真)、潜って楽しむが、サメが近づいてきたのを知ると、必死に泳ぎ(2枚目の写真、矢印はサメ)、何とか噛まれずにコンクリートの縁をよじ登るが(3枚目の写真)、その際、左足首の少し上を切ってしまう。

少年は、ケガをした部分に布を巻くと、自転車でアパートまで戻る。ドアをそっと閉めると、小走りに浴室に行くが、ドアを閉めた音で母が気付き、「ヴァン?」と訊く〔少年の名は、Walter。一般には英語圏の名(ウォルター)として知られているが、オリジンは古高ドイツ語で発音はヴァルテル。映画のイタリア語でもヴァルテルだが、母は、縮めてヴァンと呼ぶこともある〕。ヴァルテルは、浴槽の縁に座って傷を洗っている(1枚目の写真、便器の上は、足に巻いてきた布)。母は浴室のドアをノックして、「ヴァン、大丈夫?」と訊くが、ヴァルテルは答えない。そして、次のシーンは夕食。ヴァルテルは、出された料理をフォークでつつくだけで、食べようとしない(2枚目の写真)。「どうしたの?」と訊いても、肩をかすかにすくめるだけで無言。そして、「寝てもいい?」と訊く。その時、聞いていて面白かったのは、母が、「バイバイ」と言ったように聞こえたこと。実際には、「Vai, vai.(お行き)」なのだが、慣れ親しんだ言葉なので間違えてしまう。部屋に行ったヴァルテルは、スマホを出して、サメについて調べてみる(3枚目の写真)。

朝、ヴァルテルが眠っていると、母が入って来て 「坊や」と声をかけるので、目をつむったまま 「う…ん」と答える。「私はレストランに行くわ〔母の仕事内容は不明〕。後で来る?」と訊く。「う…ん」。「お腹が空いた時のために、冷蔵庫に入れておいたわ」。「うん」。母は、半分眠っている我が子を置いて、アパートから出て行く。しかし、ヴァルテルは、母の最初の言葉で完全に目が覚めていたので、ドアの閉まる音と同時にベッドから出ると、すぐに服を着てプールに向かう。そして、水に手を突っ込んで音を立てていると、別荘の敷地内で変な音が聞こえるので、何かと思い、立派な建物まで行くと、それは、窓の外に吊られた大型の風鈴〔ステンレスのパイプ6本〕の音だった。ヴァルテルが、その窓を両手で押してみると、内側に開く(1枚目の写真)。建物の中は、優雅で気品のある巨大な1つの部屋だった(2枚目の写真)。ヴァルテルは写真の右端にあったダブルベッドに横になってみたり、写真には映っていないが、ビリヤードの台に掛けられていた覆いを外して玉を撞(つ)いてみたり、繊細に編まれた木のイスに座ってみたり、有名なサッカー選手のサイン入りの写真を見たり、果ては、勝手に開けた立派な木の箱に入っていた葉巻を持って机の前のイスに座り、両脚を机の上に乗せ、葉巻を吸う真似をしてみたりと優雅な時間を過ごす。すると、驚いたことに、机の上にはヴァルテルの父の若い頃の写真が飾ってある。イスを回転させて右手を見ると、ヴァルテルが見慣れた “上面に模様の彫られた木箱” が置いてある(3枚目の写真、矢印)〔同じものが、ヴァルテルのアパートにある⇒この場面の後、家に戻ったヴァルテルがすぐその箱を探すので〕。そこで、箱を開けてみると、中には2丁の同じ形の拳銃が入っていた(4枚目の写真)〔映画には映らないが、ヴァルテルは そのうちの1丁を拝借する⇒あとで、別の場所で銃を使用する〕。その時、バイクの音が聞こえる。

ヴァルテルは、窓から急いで外に出ると、プールのある場所の近くまで行くが、途中の地面に血痕が残っていて心配になり、様子を見ようとするが何も見えない(1枚目の写真)。そこで、もう少し中の建物の内壁まで入って行き、そこから覗くと、手に血がべっとりと付いたナタを持った男が歩いて行くのが見え、これは逃げるしかないと考え、走って門扉に向かう。しかし、あとちょっとで門扉という所まで走って来て、バッグパックをプールの傍に置いたままにしてきたことを思い出し、自分の失態に天を仰ぐ。そして、仕方なく取りに戻ってバッグパックを手に持った直後、背後で、「ウォルター・ディ・サンティエ」と呼ぶ声がする〔ウォルターと国際標準で読んだのは、後で分かるが、青年がルーマニア人だからかもしれない〕。ヴァルテルが振り返ると、そこには彼の名前を記した物〔バッグパックから取り出した〕を手に持った青年がいる(2枚目の写真)。そして、ヴァルテルの胸ぐらを掴むと、「ここで何してる?」と訊く(3枚目の写真)。「もう一度、サメを見たかっただけ」。青年は、ヴァルテルをプールの縁にまで押していきながら、「誰がお前にサメのこと話したんだ? このこと誰かに話したか?」と訊く。「ううん」。この言葉で、青年は 「俺はここの管理人だ〔嘘〕」と言い、バッグパックから取り出したものを投げ返すと、ヴァルテルを解放する。

アパートの近くまで戻ると、途中の掲示板にヴァルテルの父、アントニオ・ディ・サンティエの悲報の貼り紙があり〔44歳、妻の名はリタ〕、ヴァルテルは自転車を停めて見てみる。この時、外はもう真っ暗〔プールのある場所は、そんなに遠いとは思えないのだが?〕。ヴァルテルが室内にそっと入って行くと、父のDVDやレコードが、廃棄すべく乱雑に積んであり、その横に空のダンボール箱が置いてある。ヴァルテルが物置部屋のドアを開け、ほとんど空にされているのを見た上で、脚立を取り出して、一番上の棚を見ようと数段上がると、後ろから母が、「一日中どこにいたの?」と声をかける。ヴァルテルは、すぐに降りて(1枚目の写真、矢印は脚立)、「ケッコとダニエリーノと一緒だった」と嘘を付く。しかし、母は、もう2人に訊きに行ったので、嘘だとすぐにバレる。「どこにいたの?」。「別の友だちと一緒」(2枚目の写真)。「誰?」。「新しい子。ママの知らない子」。「名前くらいあるでしょ?」。そこで、「エリオ」とまた嘘を付き、自分の部屋に入ろうとする。母は、「隠し事はやめて」と言うが、ヴァルテルは黙ってドアを閉める。

翌日、ヴァルテルは餌を持って行き、それをプールの中に入れて揺らし、サメをもう一度見ようとする(1枚目の写真)。すると、そこに昨日の青年がやってきて、「そこでいったい何してやがる?」と咎めると、ヴァルテルの体をつかんでプールサイドにうつむきに寝かせ、頭を何度も水中に突っ込む(2枚目の写真)。「サメを見たいか!」。「見てよ、プールを! 僕がきれいにしたんだ!」〔確かに、葉っぱは1枚もなくなっている。しかし、サメがいるのにどうやって落ち葉を取り除いたのだろう? そんなことは不可能。このシチュエーションはこの映画で最大の失敗〕。青年は、頭の水漬けは中止したが、「お前は俺を怒らせた。消えろ! 二度と来るな」と冷たい。それでも、ヴァルテルは引き下がらず、「決して迷惑はかけないから。誓うよ! 手も貸すよ。何でも言われた通りにするから。お願い」とすがるように頼む。青年は 「お前がここにいたいのなら、食い物を持ってくるんだ」と言い、サメを指差す(3枚目の写真、矢印)。

アパートに戻ったヴァルテルは、母のバッグに入っていた財布からお札を1枚盗み(1枚目の写真、矢印)、次いで、母が捨てようとダンボールの上に置いておいた父の持ち物をバックパックに入れる。そして、故買商に持って行くが(2枚目の写真)、「こういう物は、新品でもほとんど価値がない」と言われ、もらえたのは僅か20ユーロ。ヴァルテルは、その一部を使って、漁港の露店で獲れたての魚を数匹買う(3枚目の写真、矢印)。

ヴァルテルは、さっそく魚をプールに持って行くが、青年は、魚を奪ってプールに投げ込み、ヴァルテルには餌やりをさせない(1枚目の写真)。「やらせてよ」と頼んでも、「明日は、もっとたくさん持って来い」と言われただけ(2枚目の写真)。ヴァルテルは、冗談半分で、「このサメ、一人の人間を食べるのに、どのくらい時間がかかるかな?」と訊くと、青年はヴァルテルを掴んでプールに突き落とすフリをして、「じゃあ、試してみるか」と言い、ヴァルテルは 必死に 「ダメダメ!」と叫ぶ(3枚目の写真)。

青年は 「冗談だ」と言うと、「ここの伝説を知ってるか?」と訊く。ヴァルテルは、「聞いたことがあるよ。2匹の “サメ” の話でしょ?」と言い、カメラは建物の正面を飾る2匹のサメの彫刻を映す。「この別荘は、少し前、この地域のボス、エル・バラクーダが持っていた。みんな、バラクーダを怖がってた。ある時、彼は一人の若造を殺すことに決めた」。ここで、過去の映像に切り替わる。バラクーダは手下を連れて若者のところに行き、「お前は、金を払わんと言ったそうだな」と糾弾する。「その通りさ」。「それが何を意味するか知ってるな? 俺たちはもう友だちじゃないってことだ」。ここで、再び青年が話し始める。「その若造が誰か知ってるか? 今、この別荘を持ってるエル・コロサロなんだ」。ヴァルテル:「どうなったの?」。「並みの若造なら黙って謝っただろうな。ところが、コルサロはダチに電話をかけた。2人は切っても切れない仲だった。2人は、全く同じ拳銃を2丁持ってたとされてる」。青年はヴァルテルを教会の前に連れて行く。「2人は、バラクーダを待ち伏せした。彼がここに1人で祈りに来ることを知ったから」(1枚目の写真)。再び、過去の映像に切り替わる。1人で教会に入って行ったバラクーダの後に、拳銃を持ってコルサロと “切っても切れない親友”〔実は ヴァルテルの父〕 が現われる。場面は教会の中に変わり、床に跪いたバラクーダに向かって、コルサロは 「お前は正しかった。俺たちはもう友だちじゃない」と言い、バラクーダはコルサロの顔に向かって唾を吐きかける。ヴァルテル:「バラクーダは?」。「二度と彼を見た者はいない」。「殺されたの?」。「たぶん。地下室に連れて行かれたという説もある。そこに何年も閉じ込め、その骸骨は今もそこにあり、コルサロは時々話をしに行くんだとか」。「コルサロの友だちは?」。「失踪して、人生を変えたとか」(2枚目の写真)〔マフィアから清掃作業員になった〕。ヴァルテルは、最後に、青年の名前を訊き、カルロ〔偽名〕と教える。

ヴァルテルがアパートに戻った頃には夕方になっていて、母が屋上で洗濯物を取り入れている。ヴァルテルが 「パパのスーツだ」と言うと、母は 「汚いものは渡せないでしょ」と答える〔古着ゴミとして出すつもり〕。そして、「あなたのお父さんと私が子供だった頃、この辺りにはほとんど建物なんかなかったので、真っ青な海がよく見えた」と過去の話をしたあとで、「シネコンに一緒に行って、甘い物でも食べない?」と誘うが、ヴァルテルは完全に無視(1枚目の写真)。そして、「TV見るから、下に行くよ」と言って離れる。母が、背中に向かって、「映画館に行きたくないなら、別のことしてもいいのよ。あなたが小さかった頃、いつも私と一緒にいたがってたじゃない」と言うと、ヴァルテルは振り向き 「それは、僕がまだ幼かったからだよ」と反論し(2枚目の写真)、そのまま下に降りて行く〔彼は、父をマフィアから清掃作業員に変えさせ、死に至らしめた母が許せない〕

カルロは、ローマでサッカーチームに入るための選考試験を受けたことがあり、その時にもらったボールを大切に持っていて、そのボールを使って足技をヴァルテルに自慢げに見せる。そして、ボールを蹴り合って、このボールを奪えたら、明日は、サメに餌やりさせてやると言い出す。そこでヴァルテルは頑張るが、ぜんぜんボールを奪えない。そこで、カルロが 「もう止めた。相手にならない」と背を向けた瞬間、ヴァルテルは後ろから突進してカルロを腕で押し倒し、残ったボールを蹴る。ヴァルテルは 「ゴール!」と大喜びするが、大事なボールはプールの中に。ヴァルテルは 「こんなつもりじゃ」と謝り、長いタモのようなものをボールに向かって投げて(1枚目の写真)、岸に寄せようとするが、それに気付いたサメがやって来る。間一髪で、カルロはボールを回収することができた(2枚目の写真、矢印)。成功した2人は抱き合う(3枚目の写真)。これ以後2人は、管理人と侵入者ではなく、友人同士になる。

翌日の2人。カルロはミニ・ビニールプールに入り、ヴァルテルがホースで水を入れている。そして、「カルロは、どこの学校行ってるの?」と訊く。学校に行ってないカルロは、「何だと?」と言って誤魔化すと、ヴァルテルは 「ちゃんと聞こえてるだろ?」と言って、ホースの水をかける(1枚目の写真)。「やめろよ。何だって?」。「どこの学校行ってるの?」。「8年生〔中学2年〕の時から、おさらばさ」。「両親は?」。「親爺は、拍手してくれた」。「運がいいね。僕のママは、ホテルの従業員になれってさ。僕には、そんな気さらさらないのに」。一方、プールには、ヴァルテルが “母が働いているレストランで買ってきた魚” 数匹が、食べられないまま浮いている。カルロは 「サメでも 食べたくない時はあるさ」と言うと、ヴァルテルをビニールプールの反対側に入らせる。「クールだろ」。「そうだね」。ヴァルテルはネットで調べたサメの寿命について話す〔グリーンランドザメは400年以上生きる⇒ニシオンデンザメは500年〕。そして、プールのサメの話になり、カルロが 「あとどのくらい生きるか、誰にも分からん」と言うと、ヴァルテルは 「40年か50年」と言い、カルロは 「ここに50年も住むのか」と言う。それを聞いたヴァルテルは、悲しそうに下を向くと、「父さんは、そこまで生きられなかった」と言う(2枚目の写真)。「どうして、死んだんだ?」。「浄化槽の中」。「どうやったら、浄化槽の中で死ぬんだ?」。「同僚を救うため」。「すごい、ヒーローじゃん」。「ヒーローというより、ドジ」。サメの音がし、ヴァルテルはミニ・ビニールプールから出ると、カルロに 「僕もうユーロ持ってない」と打ち明ける(3枚目の写真)。カルロは、「アイディアがある」と言う。「どんなアイディア?」。「リスキー〔危険の可能性あり〕で、デンジャラス〔確実に危険〕かもしれないアイディアだ。今夜やろう。2時間後にサイロに来い」。

まだ明るい時間帯。ヴァルテルが石で造った複数のサイロの前で待っていると、東南アジアで使われているような小型の三輪トラックが現われる。「どこで、手に入れたの?」。「親爺から」。「そこで働いてるの?」。「親爺は、そんな仕事したこと一度もない。雑用は、みんな他人にやらせてる」。「ここから遠いの?」。「連れてくから乗れよ」。三輪車は、陽が沈む頃 海岸沿いに走り、暗くなってから高い柵で囲まれた施設の前に着く。カルロは、肉を持って来た時すぐに逃げられるよう エンジンをかけっ放しにしておけとヴァルテルに命じると、トラックの屋根に上り、そこから高い柵を越えて敷地内に入り込む。ヴァルテルが待っていると、突然、柵の入口が開き、1台のトラックが中に入って行く(1枚目の写真、矢印)。ヴァルテルは三輪車から降りると、すぐにトラックの後ろに付いて門をくぐり、停車している他の車の横をすり抜けて施設内に侵入する。そこは、肉の貯蔵施設で、中ではカルロが床に這いつくばり、2人のトラック運転手がカルロを蹴っている。運転手の1人はカルロの髪を掴んで立ち上がらせると、「肉が食べたかったのか?」と冗談めいて訊く。ヴァルテルは悩んだ挙句、先日盗んだ拳銃を手に持つと 「止めろ!」と命じる(2枚目の写真、矢印)。2人は手を放し、カルロはヴァルテルの横まで逃げて来ろ。そして、小心者らしく 「さあ、行こう」と言うが、ヴァルテルは 「ダメ、そのうちの1個をもらわないと」と言う(3枚目の写真)。カルロは 調子に乗って 「2個にしよう」と言う。1個の肉は、運転手の身長ほどもあるので、恐らく、2人の運転手に2度往復して三輪車まで運ばせたのであろう。三輪車を走らせ始めると、2人は歓声を上げる。カルロは、途中で三輪車を停めると、「ありがとう」と礼を言う。これで2人の立場は完全に対等になる。

翌日、カルロはプールサイドで巨大な肉からナタを使って肉片を切り出している。そして、大きな肉片を2個を持つと、ヴァルテルのところに行き、「よくやったな」と言いながら1個を渡す(1枚目の写真)。そして、2人が並んで肉片をプールの中に入れ、どちらをサメが食べてくれるかを競うことにする。しかし、サメの背が向かってくるのを見ると、気の弱いカルロは逃げてしまう。ヴァルテルは 肉片を水中に入れ続け、サメが肉を口に入れる直前まで持ち続ける(2枚目の写真、矢印)。カルロの完敗だ〔サメはもちろんCG〕

プールの近くにある小さな建物の中には、ベッドとソファとテーブルがあり、そこに、カルロがハンギングチェアとサンドバッグを持ち込んでいる。ベッドに座ったヴァルテルは、ハンギングチェアに座ったカルロに、「僕 思うんだけど、地下室は塔の下にあるよ」と言い出す(1枚目の写真)。カルロは、「どうかな」と答えただけ。「行ってみたい?」。「だけど、中には…」〔骸骨があると言いたい〕と言いかけ、「行きたいけど できない。俺は鍵を持ってない」と打ち明ける。「鍵を持ってない管理人って何?」。「実を言うと、俺もお前と同じで 不法侵入してるんだ」(2枚目の写真)。それだけ言うと、バツが悪くなったのか、忙しいと言って立ち去る。

1人になったヴァルテルは、夕闇迫る頃、塔への階段を上がって行く(1枚目の写真)。そして、怖いので、拳銃を構えて地下に降りて行く。降りきった先には、小さな部屋があり、窓の向こうは水槽になっていて、サメが泳いでいるのが見える(2枚目の写真、矢印)。ヴァルテルはガラスの前まで行くと、サメの泳ぐ姿を満足そうに眺める(3枚目の写真)。

すると、どこかから懐かしい父の口笛が聞こえてくる。ヴァルテルは地下室を出て、階段を駆け上がり、塔を出てプールサイドまで行くと、父が口笛を吹いている。ヴァルテルはすぐそばまで行くと、「パパ」と声をかける。父は振り向くと、「お前のことが心から好きだった。大きくなったな。だが、手は震えてた〔サメに肉片を食べさせた時〕。だろ?」と言う。「ちょっとだけだよ」。そう言って、ヴァルテルは拳銃を父に渡す(1枚目の写真、矢印)。写真の左下隅の緑の印は、ヴァルテルが抱いた空想の世界であることを示している。父は、「素敵なトコだろ?」と言う。「世界中で一番クールなトコだよ」。「コルサロが、どうやって ここのすべてを手に入れたか知ってるか?」。「ううん」。「恐怖だ。相手を怖がらせるほど、お前は高みに行ける。お前が誰も怖れていないなら、お前は誰からも怖れられている。それが唯一のルールだ」。「パパは “サメ”〔誰からも怖れられている人〕になろうとしたの?」。「昨夜、お前とカルロが試みたこと… お前は強くなった。だが、今、お前は、2匹の小さな魚のままでカルロと一緒にいるか、捕食者の王サメになるか、決めないといかん」。「パパはなぜ止めたの?」。「コルサロが、ここを我が物としたのが気に入らなかった。ここは俺のものだった。お前は男になったのだから、奪い返して欲しい」(2枚目の写真)。それだけ言うと、拳銃をヴァルテルに返す。そして、気が付くと、ヴァルテルはプールサイドに拳銃を持って1人で立っていた(3枚目の写真、矢印)。

ヴァルテルが夜遅くアパートに戻ると、母のメモが残っていたので、安心して物置部屋に直行し、脚立を取り出して、一番上の棚から木箱を降ろす(1枚目の写真、矢印)。それは、塔の敷地内の素晴らしい部屋にあった “上面に模様の彫られた木箱” と全く同じもので、違うのは、拳銃の代わりに、たくさんの写真が入っていたこと。そのほとんどは家族のものだったが、中に一枚、“サメ” だった頃の父と、今も “サメ” のままのコルサロのツーショット写真が1枚混ざっていた(2枚目の写真、矢印は父)。

昨日と同じ、プールの近くにある小さな建物の中で会った2人。不機嫌なヴァルテルの顔を見て、カルロは 「俺のこと怒ってるんだな?」と訊く。ヴァルテルは、最初会った時、カルロが “管理者” と言ったので、「あなたがコルサロを知ってるから、僕に紹介してもらえると思ったんだ」と、失望の理由を説明する〔この台詞から、①ヴァルテルは、この建物の所有者がコルサロだと知っていた、②理由は不明だが、会いたいと思っていた、ことが分かるが、なぜかは最後まで分からない〕。カルロにとってはコルサロは雲の上の存在なので、早く話題を切り替えようと、「今夜はインディアナポリスでビールを何杯か飲むつもりだ。一緒に来るか?」と訊いて誤魔化す(2枚目の写真)。そして、一緒に連れて行く理由を、「お前をテクノに紹介して、お前が俺のために働いてると話そうかと思ったんだ」と言う〔テクノはただの麻薬の売人。コルサロに比べれば、サメとニシンくらい違う。そんなテクノにこき使われているカルロはただのメダカだ。コルサロと話し合おうとしているヴァルテルとは格が違う〕。ただ、今夜、ヴァルテルは母と一緒に過ごす約束をしていたので、カルロが断りの詫び電話を母にかける。理由はでっち上げのいい加減なものだが、母は、息子に年上の友だちができたことを知る。そして、夜になり、カルロはヴァルテルを “インディアナポリス・バー” に連れて行く(2枚目の写真)。バーに入る前に、カルロは 「テクノがお前をひどく扱っても心配するな。最初はみんなそうだ。俺の時もそうだった。できるだけ口を聞かない方がいい。黙っているのがベストだ」と、如何にも小心者のアドバイス。ヴァルテルがバーの中に入って行くと、何といっても10歳の子は場違いなので、テクノの妹のラ・ロッシャが、さっそく 「その子、何なの?」とイチャンモンをつける。カルロは、「こいつは俺のダチで、いろんなことしてくれるし、頭のいい子ですよ」と紹介する。一方、テクノはスマホのゲームに夢中になっている。ラ・ロッシャは、カルロに 「ビールを買っといで」と命じるが、カルロが迷っていると、ヴァルテルが 「僕がやるよ」と言うと、ビールを2本買ってきて、テクノのテーブルの上に置く(3枚目の写真、矢印)。これで気が散ったテクノは、ヴァルテルを睨んで 「ゲーム・オーバーだ」というが、そんなことには一切構わず、ヴァルテルはイスを取って来くると、テクノの前に座る。そして 「ヴァルテルです」と名乗る。テクノは 「お前のせいでゲームをミスっちまった。新記録だったのに」と批判する。そう言いながらテクノがビールを瓶から飲むと、ヴァルテルも負けじと瓶から飲む〔かつて “サメ” だった父と、空想上ではあるが話し合ったヴァルテルにとって、テクノは恐れを抱くような存在ではなかった。だからこの余裕〕

夜遅くアパートに戻ったヴァルテルは、母に 「何してるの?」と訊く(1枚目の写真)。母は 「あなたのお父さんの物を片付けてただけよ」と言うと、「で、今夜はどうだった?」と尋ねる。「うまくいったよ」。「それは良かったわね」。「今夜はごめんなさい」。「あのねぇ… エリオの両親ってどんな人?」〔エリオは、最初の頃、ヴァルテルが嘘で言った名前〕。「きれいだよ」。母はヴァルテルを近くに来させると、「あまり早く成長し過ぎないでね」と言う(2枚目の写真)。

翌日は、ヴァルテルとカルロが、自由に遊ぶ。ヴァルテルはスケボーとストリートダンスでカルロを圧倒するが、サンドバッグ叩きでは、頑張ってもカルロには負ける(1~3枚目の写真)。

そのあとで、ヴァルテルはカルロを “優雅で気品のある巨大な1つの部屋” に連れて行き、2人でビリヤードをして楽しむ。そして、次には、友達として 自分のアパートに連れて行くが、名前は 「カルロ」ではなく、母には 「エリオ」 だと言ってあると念を押す。母は、飲み物を持って来ると、昨夜息子を車で送ってくれたカルロの父〔ヴァルテルの嘘〕について感謝し(1枚目に写真)、父の職業についてカルロに尋ねる。カルロは引っ越し業だと嘘を付き(2枚目の写真)、母が、夫の荷物の入った箱2つを持っていってもらうのにかかる費用を尋ねる。カルロは、返答に困ったので、「祖母が待っているので。そろそろ行かないと」と嘘を付く。しかし、母が、「リコッタチーズのタルトを作ったのに残念だわ」と言うと、カルロは タルトの方を優先する。ヴァルテルが、「おばあちゃんはどうするの?」とカルロに訊き、カルロが口を濁していると、母が 「夕食は、ラザニアよ」と言ったので、カルロはヴァルテルに 「おばあちゃんは逃げないし、歩けないんだ」と言い、ラザニアの方を優先する。結局、3人は夕食を楽しむが(3枚目の写真)、そこで何が話し合われたのかは分からない。

翌日、2人がプールの端の岩場に座っていると、カルロの携帯に電話がかかってくる。「はい? いいえ、そう思いますか? 分かりました。彼にそう伝えます」。電話が終わると、ヴァルテルは 「誰だったの?」と訊く。「テクノだった。お前が、手数料を稼ぎたいかどうか知りたいそうだ」(1枚目の写真)。ヴァルテルはOKしたので、カルロはこうした場合に決まっている “すべきこと” を伝える。その結果、次の日、ヴァルテルは1通の封筒を持ってビオンドの店に行き、封筒と交換に包みをもらってくる仕事をさせられる。店に入って行くと、警官が2人カウンターでコーヒーを飲んでいる。そこで、ヴァルテルは店の奥に行き、ビオンドの合図をじっと待つ(2枚目の写真)。合図があったので、カウンターの横に行くと、ビオンドがラップで包んだ紙箱を渡してくれる(3枚目の写真、矢印)。ヴァルテルは警官の後ろを通って店から出て行く。コーヒーを飲み終わった警官もすぐ後に続いて出て来たので、結果的に後を追われる状態になり、ヴァルテルは 紙箱をゴミ箱に捨てようとしたが、警官はヴァルテルを無視して去って行ったので、ホッとしてインディアナポリス・バーに向かう。

バーのバルコニーでは、包みを持って来たヴァルテルと、その前に座ったテクノとラ・ロッシャを取り囲むように手下達が立っている(1枚目の写真、矢印は箱)〔左端から二番目がカルロ〕。テクノは 「誰にもツケられんかったか?」と訊き、ヴァルテルは頷く。テクノは 「いい子だ」と言い、ナイフを取り出すと 「味見するか」と言いながら箱を乱暴に切って開け、中から生クリーム(?)を挟んだパンを取り出し、「ビオンドのは最高だ」と言って食べる。そして、「笑えよ。テストに合格だ」と言い、テストに通った駄賃として50ユーロ札を2枚取り出す。ここがヴァルテルらしいいところなのだが、彼は、2枚のうち1枚だけ取り(2枚目の写真、矢印)、代わりに、箱にもう1個残っていたパンを取ってかぶりつくと(3枚目の写真、矢印)、「そうだね。ビオンドのは最高だ」と平然と言ってのけ、テクノは如何にも “気に入った” といった顔をする。

夜になると、全員が他の客と一緒に飲んだり、踊ったりしているが、ヴァルテルはラ・ロッシャに呼ばれ、奥の狭い部屋に入って行く。そこには、テクノとラ・ロッシャが座っていて、ラ・ロッシャが 「明日から始めて」と命じる。ヴァルテルは 「何するの?」と訊く(2枚目の写真)。そのシーンは、そこで終わり、次は、実際にヴァルテルがしていることが映る。①最初は、バーで踊っている客の1人に何か〔麻薬?〕を手渡し、代わりにカルロがお金を受け取るシーン。②次は、バーの中でストリートダンスを披露するシーン、③手渡し+お金の受け取りを一人でするシーン、④テクノが誰かを制裁し、その礼金をもらうシーン、etc。かくして、ヴァルテルの部屋にある箱は、お札で一杯になる(3枚目の写真)。

しかし、ある日 アパートに帰ると、母が 食卓の上で、ヴァルテルの箱の中のお金を手に持っている。そして、「どこにいたの? いったい何してたの? これは何なのよ?!」と、問い詰める(1枚目の写真、矢印はお札)。ヴァルテルは、「Accanna(やめてよ)、ママ」と言うが、母は、「『やめてよ、ママ』 だって?! 私の顔を見て言いなさい! あんた一体何してるの?! お父さんみたいになりたいの?!」と問い詰める。「だから何なのさ?!」。「『だから何』 だって? あんたの父さんはクソ野郎だったのよ!!」。ヴァルテルも怒鳴り返す。「黙れ!! パパが死んだのは、ママのせいだ!! ママの言うことを聞かなかったら、パパはまだここにいた!!」。そう叫ぶと、母の手を払い除け、床に散らばったお金を拾い出す。母は、「ヴァルテル! 私が、かつて父さんに言ったことは、あんたにも当てはまるのよ! ここに留まりたかったら、私の言う通りになさい。嫌なら、そこから出てお行き!」と厳しい言葉をかける。「分かった。そうする! こんなトコ、いてやるもんか!!」(2枚目の写真)。ヴァルテルはアパートから出て行き、自転車でプールに向かう。

プールに付いたヴァルテルは、「パパ!!!」と叫ぶ(1枚目の写真)。すると、プールの傍に座った父が、「ヴァルテル」と呼ぶ。ヴァルテルが近くに寄って行くと、父は立ち上がり、「いろいろやってるみたいだな? 皆が、お前に一目(もく)置き始めてる。だろ? なのに、その顔は何だ? それは、母さんのせいだろ? 理解してもらえないから。それが分かるまで、俺も時間がかかった。だが、お前にも、遅かれ早かれ分かるだろう」と言う。ヴァルテルは、「パパもママと同じこと言うの? 教えてよ。なぜ あきらめたの? パパは “サメ” だった。最高に強かった。なのに、どうして引退したの? 労働者なんかになるために」と尋ねる。「そんな風に考えたことはなかった。『引退』… サッカー選手みたいだな。だが、これだけは言っておこう。お前は間違っている。お前のママは、俺を変えたのは自分だと勘違いしてる。しかし、ホントはそうじゃない。恐怖だったんだ」(1枚目の写真)。「“サメ” が何を恐れるの?」。「この瞬間だ。いつかこんな時がくると分かってた。その時には、ちゃんと説明するつもりだった。お前が今味わっている楽しい人生は、お前を無敵の気分にさせる。最高にいい気分だ。しかし、じきに、それはお前に一つの見返りを求めるようになる。自由だ」。「パパは自由が欲しくてやめたの? 40歳でクソみたいな死に方する自由が? そんなの自由と言える?」。「お前は、今、自分が強いと感じてるか?」。「うん、強いよ、サメみたいに」(3枚目の写真)。「そうか? なら、そこにいるサメに、自分が強いと感じているかどうか 訊いてみるんだな」。この長い会話は、ヴァルテルの空想なので、自問自答していたことになる。ヴァルテルは、さっそくサメに訊いてみようと、塔の地下室に走って行く。サメは、ヴァルテルに向かって何度も突進し(4枚目の写真)、ガラスに跳ね返される。やがて、サメはあきらめて去って行く。

ヴァルテルは、そのまま地下室のイスで眠ってしまい、起きたら、もう9時59分になっていた。それからしばらくして、ヴァルテルとカルロは、プールサイドのクッション・チェアに横になり、ネットでサメのことを調べている(1枚目の写真)。そのうち、ヴァルテルは重要な情報を見つけ、それをヴァルテルに声を出して読ませる。「サメは、飼育されるのを最も嫌う生物です」。カルロ:「閉じ込められるのを嫌がってる?」。ヴァルテル:「檻の中なんだ、カルロ。僕たちに助けてくれって頼んでるんだ」。「狂ったな? そんなことできん」。「聞いてよ」。「そんなことしたら、最悪の結果になる」。「僕たちが助けなかったら 最悪の結果になるよ。自由にしてやらないと」(2枚目の写真)。しばらく2人は黙って考えていたが、カルロがスマホの時間を見て、「ちきしょう、ヤバいぞ」と言う。「どうしたの?」。「もう11時半だ」。「テクノとの約束があったんだ。しまった!」。

テクノと、その仲間は、時間を守らなかった2人を、インディアナポリス・バーの下にある砂浜に連れ出す(1枚目の写真、矢印は2人)。テクノは、2人を睨みながら、「10時に金を取りに来るハズだったのはどいつだ?」と訊き、ラ・ロッシャが 「彼ら」と、2人を見て言う〔ヴァルテルが起きたのが9時59分だったので、元々間に合わなかった〕。テクノは、「カルロ、てめぇがどこにいたか、教えてくれるか?」と、嫌味に訊く。カルロが黙っていると、ヴァルテルは 「みんな僕のせいです。カルロに手伝ってと頼のんだんですが、時間を忘れてました」と詫びる。テクノは、腰をかがめてヴァルテルの近くまで顔を寄せると、「おれはまだ平静だ、天国の天使のようにな」と言うと(2枚目の写真)、「さっき何て言った?」と訊く。ヴァルテルが 「『時間を忘れてました』 と言いました」と言うと、テクノは他の手下達に向かって、「こいつらは、時間を忘れてたんだ」と言うと、カルロの顔を真正面から強打し、彼は顔を血まみれにして砂地の上に倒れる。テクノは、カルロに 「貴様は俺にこう言った、『こいつ〔ヴァルテル〕は、いろんなことしてくれるし、頭のいい子ですよ』。だから、全責任は貴様にある」と言うと、足でカルロの顔を蹴る。ヴァルテルは、庇うようにカルロにすがりつく(3枚目の写真)。テクノは、「ヴァルテル、これで、お前が何をしたか分かったな?」と言うと、2人に向かって、「起き上がって、消えろ。二度と現れるな」と命じる〔去って行く時に、ヴァルテルがテクノを見る目は蔑視に近い⇒テクノを軽蔑・凌駕している〕

カルロが海辺の石に座っていると、ヴァルテルが 「氷 見つけてこないと」と言う。「いったい何がしたいんだ?」。「『いったい何がしたい』? サメを何とかしないと」。カルロは、立ち上がって反対方向に歩き出す。ヴァルテルは、追い着いて、自分の方を向かせると、「サメを死なせたら、あんたはクソだ」と言い、カルロに突き飛ばされる(1枚目の写真、矢印)。それでも、もう一度追いかけて行き、「サメを解放してやらないと」と言うと、顔を殴られて倒され、「お前もサメもクソだ!」と罵られる。ヴァルテルは何とか立ち上がると、唇を切ったまま海岸に立つと、海を見つめて涙を流す(2枚目の写真)。

翌日、プールサイドでヴァルテルが悩んでいると、愚かなカルロがテクノに取り入ろうとして、テクノの一行をプールのある大邸宅に連れてくる。それを見たヴァルテルは、カルロに 「コルサロが来たら、僕たちボコボコにされるよ」と注意するが、カルロは耳を貸そうともせず、“優雅で気品のある巨大な1つの部屋” は酔っ払った若者たちによって荒される。それを見たヴァルテルは唖然とするばかり。そのうち、愚かなカルロはプールにサメがいると話し、それを聞いたテクノはプールに向かう。プールに行くだけならいいが、酔っ払った若者達は、サメにダーツを投げつけたり、棒を投げつけたりして遊ぶ(1枚目の写真)。見かねたヴァルテルは、「やめて。放っておいてあげて!」「代わりに僕を傷つけて!」と悪い奴らを押し戻す。テクノは、ヴァルテルに顔を寄せ、「何がしたいんだ?」と訊く。ヴァルテルは両手を遮るように広げ、「サメに構わないで」と頼む(2枚目の写真)。テクノは、「ヴァルテル、ヒーローになりたいんか?」と言うと、いきなりヴァルテルをプールに突き落とす(3枚目の写真)。サメはヴァルテルを一周すると、ヴァルテルに触られたまま静かに停止する。ヴァルテルは、彼をプールに突き落として以来横を向いたままのテクノに向かって、「どっかいけ! すぐだ! 全員!」と叫ぶ(4枚目の写真、矢印はサメ)。その言葉に怒ったテクノは、プール際まで来ると拳銃を取り出してヴァルテルに狙いをつける。ヴァルテルは、逃げることなく、睨み続ける。その時、歌が聞こえてくる。

それは、長い髭の中年男〔コルサロ〕。簡単な歌を口ずさみながらプールサイドまで来ると、ヴァルテルに 「出ろ〔Esci〕」と一言。ヴァルテルはすぐにプールから出る。サンダルを履いただけのコルサロは、プールサイドを歩いてテクノの前まで来ると、「ケガをせずに俺の別荘から出られる方法が2つある。今すぐ、俺を撃ってすべてを奪うか、素敵な海の歌を歌うかだ」と、楽しげに、しかし、マフィアの親分だけに、深い脅しを込めて言う。遥かに格上のコンサロを前にして、テクノは、「コンサロさん、俺は海の歌を知りません」と低姿勢で言う。コンサロは、「海賊には譜があるか? 漂流者に音楽の教師がいるか? 好きなように作ればいいんだ」と、テクノをもてあそぶ。テクノは、卑劣にも、「コンサロさん、誓って、あなたの別荘に侵入したのはあの2人です」と言って、カルロとヴァルテルのことを告げ口し、さらに、「俺はあいつらを止めました。あなたを尊敬します。誓います。信じて下さい」と必死に逃れようとする(1枚目の写真)。コンサロは、「楽しくないのな? 笑ったらどうだ? まあ、笑える話じゃないがな」と言うと、サンダルを素早く手に持つと、思い切りテクノの顔を3度殴り、テクノは血を吐いて倒れる(2枚目の写真)。「これなら 笑えるだろ? 貴様はここをメチャメチャにした張本人だ。ガキどもを集めて失せろ」。

ヴァルテルとカルロも出ていこうとすると、ゴンサロが、「君たち2人は行くな。ここにいるんだ」と止める。そして、カルロを見ながら、「あの男の言うことは本当か? ここでやりたい放題やってたのか?」と訊く。ヴァルテルは 「はい」と答え、弱虫のカルロは 「いいえ。俺たちは別荘を維持してました」と答える。ゴンサロは、ヴァルテルの顔を掴んで懐かし気に見ると(1枚目の写真)、カルロには、「お前は帰れ。行け」と冷たく命じる。カルロがそそくさといなくなると、ゴンサロは、「少し話そうか」と親し気に言い、プールサイドでサンダルを脱いで裸足になりながら、「君の父さんが初めて君をここに連れてきた時、君はとても小さかった。あれは特別な日だった。君は覚えてないだろう」と話す。2人は、プールに向かって並んで座る。ヴァルテルは、「僕は、あなたと話したくて、ここに探しに来たんです」と動機を打ち明ける。しかし、ゴンサロはそれとは無関係に、「これは、君の父さんの意向だった。彼は 『サメだ』 と言った。俺は 『サメだと?』 と訊いた。『プールに、サメを入れよう』」と、過去の話をすると、いきなり、ヴァルテルの話に戻って尋ねる。「何を話したかったんだ?」。「僕も、あなたのようになりたいって」。「誰もが “サメ” になれるわけじゃない。俺は君の父さんがすごく好きだった。君がここに来た日、彼は 『出て行きたい、このサメは別れの贈り物だ』 と言った。俺は彼に 『何 言っている? バカなこと言うな』 と言って、笑った。だが、彼は真剣だった。 彼は人生を変えたかったんだ。分かるか? 彼は銃も返した。アルシナッツォに2丁作らせた銃をだ。脳、心臓、睾丸… 君の父さんはすべてを持っていた、だが彼の胃は… 胃が何のためにあるか知ってるか? 決してやらないことをやらせようとするためだ。それが俺と、浄化槽の中で死ぬ哀れな野郎との違いだ」(2枚目の写真)。

ここまで話すと、ゴンサロは、「君は、2 つのことを行う必要がある」と言い出す。「1つ目は… 俺が明け方に戻ってくる時、この別荘がきれいになっていること」。「『明け方』 までに?」。「そう、明け方だ。俺が ここに戻ってきたお祝いをしないとな」。「2つ目は?」。「サメの弱点が何か知ってるか?」。「いいえ」。「目だ」。そう言うと、ゴンサロは元々父のものだった拳銃をその息子に渡し、「これで目を撃つんだ」と言う(1枚目の写真、矢印)。「でも、なぜ?」。「君がさっき水の中にいた時、怖かったか?」。「いいえ」。「怖くなくなったサメは、サメであることを終えた。そいつを殺せば、君は好きな時にここに来ていい。いいか、歯は誰にでもある。だが、君に “サメ” の歯がありさえすえば、君は俺のようになれるんだ」(2枚目の写真)。それだけ言うと、ゴンサロは立ち去る。ヴァルテルは拳銃でサメの目を狙うが(3枚目の写真、矢印)、彼には、どうしても撃てない。

ヴァルテルは、暗くなるまで、プールサイドに横たわって、手を水に入れて考える。すると、カルロに聞いたのか、母がやって来て、「何をしたの?」と尋ねる。「何も」。「『何も』 って、どういうこと? 何があったの?」。「パパがいなくて寂しい」。「何しに、ここに来たの?」。ヴァルテルは こちらの方に泳いでくるサメを指差す。母は、それを見て 「怖いわ」と言う。それを聞いたヴァルテルは、「(ママは)パパが怖かったの?」と訊く。「そうね… 夜になっても彼が帰って来ない時、電話もかかって来ない時… 不安を抱えて生きてたわ。だから、家族が欲しかったら、人生を変えなくちゃと思ったの。分かる? あなたを一人で育てたくなかった。でも… あなたの言うことが正しいかもね。彼が私の言うことを無視したら、あなたの父さんはまだ生きていたでしょう」。その言葉で、ヴァルテルは母を許したのか、「あのサメ、病気なんだ。死んじゃう。僕は、あのサメに死んでほしくない。プールから解放してやらないと」と言う。ダメ母は、最初、息子のこの言葉を無視し、「家に帰りましょう」と、無碍(むげ)なことを言い、立ち上がって去って行く。ヴァルテルは、立ち上がると、「助けてくれないんなら、僕一人でやる」と言う。それでも、ダメ母は、「そんなこと、2人だけで どうやってやるの?」と、反対の姿勢を崩さない。その時、「俺もいるぞ」という声がする。カルロだ。彼は、「俺の言う通りにして」と言う。次のシーンでは、母がヴァルテルを乗せてカルロに指示された場所に向かう。すると、そこにクレーン車がやって来る(1枚目の写真)。3人はクレーン車で別荘に向かう。そこで何をしたかは映らない。映るのは、水の抜かれたプールサイドに立って、空になったプールを見ているゴンサロの姿(2枚目の写真、矢印)。彼は、プールサイドに置かれた2丁の拳銃(3枚目の写真)を見て笑い出す。「この親にしてこの子あり」と思ったのか、それとも、「俺に一杯食わせるとは大した奴だ」と思ったのか?

3人がどうやってサメを捕獲したのかは分からないが、3人を乗せたクレーン車は、海辺に来ると、クレーンを回転させ、サメを海の上に移動させる(1枚目の写真、矢印)。サメを吊った帯は、そのまま降下して海に入るが、サメは帯から離れて自由になろうとしない。そこで、ヴァルテルが空に向かって叫び声を上げる(2枚目の写真)。すると、父が3度目に現われ、サメを帯から出すのを手伝ってくれる(3枚目の写真)。ヴァルテルは、ようやく自由になったサメを抱きしめる(4枚目の写真、矢印はサメ)。サメは、ヴァルテルの手を離れると、沖合に向かって泳いで行く。

それから何日後かは分からないが、浜辺で、ヴァルテルとカルロがサッカーボールを蹴って遊んでいる(1枚目の写真)。母は、それを嬉しそうに見ている。映画は、海に入って行ったヴァルテルが、サメがいるであろう沖合を見てほほ笑むところで終わる(2枚目の写真)。

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  イタリア の先頭に戻る          2020年代前半 の先頭に戻る