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El niño de la luna 月の子ども

スペイン映画 (1998)

『Born a King(ボーン・ア・キング)』(2019)の監督アグスティ・ビジャロンガ(Agustí Villaronga)が、その約20年前に、監督として2作目に脚本も兼ねて作った作品。この映画も、一応、カンヌのパルムドールにノミネートされてはいるが、この監督が真に有名になったのは、『Pa negre(ブラック・ブレッド)』(2010)以後〔次の紹介作〕。だから、この映画もずっと無視され続け、近年になってBLとDVDが同時発売されて、ようやく一般の人が観ることができるようになった。この映画を表現する言葉は、幾つもある。魔法のリアリズム、奇妙なファンタジー、魔法と科学と冒険のユニークな組み合わせなど。その通りなのだが、誰もが問題にするのが、物語の不明瞭さ。ダビッドには、本当に超能力があるのか? なぜ、孤児院の老婆はアフリカの「月の子ども」の伝説を知っていて、それがダビッドだと思ったのか? ダビッドは、奇妙で目的不明で残酷な研究所に送られるが、そもそもこの施設は一体何なのか? 何が最終目的なのか? そこで選ばれた2人の男女(エドガーとジョルジーナ)から何が産まれるのか? ダビッドがジョルジーナを母と呼ぶのはなぜなのか? 一番の問題は、ラストに近く、ジョルジーナの赤ちゃんは一体どうなったのか? すべて分からないこと尽くめ。これでは、映画を観ている人がイライラするのも当然かもしれない。それに、主役の1人、12歳くらいの少年ダビッドを演じるエンリケ・サリダーニャ(Enrique Saldaña)が “ポカン口” で、月の子どもとしての神秘性に欠ける点も、批判の対象となり、映画出演はこれ1作で終わっている。マイナスの評価ばかり書いてきたが、“近年になってBLとDVDが同時発売された” のは、その数奇性が再評価された故。なので、日本ではもう手に入らない、かつての不可思議な公開作を、改めて見てみるだけの価値はある。

両親不明なまま 孤児院で長期間にわたって暮らしてきたダビッドが、奇妙な絵を描いたことから2つのことが起きる。1つは、孤児院の職員の1人の老婆が、彼を月の子どもだとみなし、アフリカのある種の部族では、その出現を長いこと待ちわびていると話す。もう1つは、孤児院の院長が、独立した民間の研究所と契約を結んでいて、超能力と関係のありそうな孤児がいたら、知らせることになっていたこと。ダビッドの描いた絵は、サイコキネシスを表現したものなので、院長はその絵を施設に送り、施設からは調査員のビクトリアが送られ、ダビッドと接触する。その結果、可能性ありということで、ダビッドは研究所、政府にも内緒で謎の研究を行っている殺人も辞さない悪の秘密組織に送り込まれる。ダビッドは、そこで、施設が長年研究してきた成果として、2人の選び抜いた男女1人ずつを満月の光の元で受胎させ、特殊な赤子を産ませようとしていることを、盗み聞きで知る。そして、そのうちの女性ジョルジーナが重度のアルコール依存症なのを利用して接近し、親しくなる。そして、いよいよ受胎の日が来て、それに採用されなかった人たちの多くが殺された後、ダビッドは、ジョルジーナの相手エドガーに、3人でこの悪の施設から脱出する方法を教え、自らの命の危険性を悟ったエドガーも積極的に協力し、3人で逃げる手はずを整える。しかし、エドガーとジョルジーナが脱出し、次にダビッドが逃げようとした時、2人の間につながる精神反応からビクトリアが気付いてしまい、ダビッドは捕らえられる。ビクトリアはダビッドを騙して逃がすようにみせかけ、3人が孤児院の老婆の家に逃げたことを知り、暗殺者を向かわせる。老婆とエドガーが殺された後、ダビッドとジョルジーナは、猟銃で暗殺者の1人を射殺し、逃げる。向かった先は、エドガーの父の陸軍兵士が住む、チュニジアの砂漠の中の村。ダビッドには、彼を気に入った現地の少年ミダミが案内役となり、エドガーの父の村まで行くが、彼も悪の秘密組織の一員で、その上、ビクトリアがジョルジーナの拘束〔ダビッドは抹殺〕に向かっていた。ここからは、砂漠の中の追跡劇になるが、妊娠末期で体力が著しく落ちたジョルジーナは、砂漠の真ん中の岩室で何らかの異常事態に遭遇し、ビクトリアが現われた時には、彼女はすでに死に、いるべき赤ちゃんはどこにもいなかった。ビクトリアはダビッドを責めるが、ダビッドが重大な秘密を離すと、彼女は、悪の秘密組織と手を切り、ダビッドが、最初から目的としていた ある部族の月の子どもになる手伝いを命を賭けて実行する。なお、台詞の翻訳にはスペイン語字幕を使用した。

あらすじ

孤児院の大部屋のベッドで ダビッドは夢を見ている。女性の声で 「まだ何も存在しないのに、彼の心は一筋の月の光を受け入れるために開かれ、母親の膝の上に倒れ込む」「当時も今も、暗黒の大陸では、肌の黒い男たちが光り輝く白い子供の到来を待っている。大いなる炎が空を飛んでそれを告げ、彼らが待ち望んだ神、月の子どもが出現する」と囁く。そして、夜の砂漠の上に置かれたテーブルの前に立つダビッド。「テーブルを飛ばして、ダビッド」。「ママ」。「白い子には熱意があれば何でもできる」。「ママ」。「忘れないでダビッド、あなたの目には月の力が宿っているのよ」。ここで、ダビッドは夢から目覚め、体を起こす(1枚目の写真)。そして、隣の子に気付かれないようにベッドからそっと降りる。次のシーンでは、ダビッドは、裸足のまま外の敷石の上を、孤児院の塀に向かって走る。端まで行き、振り返って、孤児院の建物を見る〔大時計は午後11時10分を指している〕(2枚目の写真)。ダビッドは、満月に目を向けると、両手に思い切り力を込め、念ずるように見つめ続ける(3枚目の写真)。そして、映画のタイトルが表示される。
  
  
  

翌日、ダビッドが芝生に寝転んで孤児院の建物を描いていると(1枚目の写真)〔大時計は午後1時8分を指している〕、いきなり、何かの糞を飛んで来て スケッチブックの片隅に当る。3人の悪戯っ子が、「バカ!」と言って投げたのだ。ダビッドは糞を手で払い除けると、それを見ていたお手伝いの老婆が何もしないでと手で合図する(2枚目の写真)。一方、昼休みで誰もいなくなった教室に靴の音が響き、孤児院の院長がダビッドの机の蓋を開けると、中に置いてあったスケッチブックの絵を持って行く(3枚目の写真)。そして、それを外部から来た黒服の怪しげな男に渡す。男は、孤児院の前に停めた黒い車に乗り込む。車のボンネットの両サイドには換気用の細長い溝が開いていて、車種の特定はできなかったが、この種の構造は1930年代後半に最も多いので、映画の設定時代は、恐らく第二次世界大戦の少し前であろう。車には、ビクトリアという若い女性が乗っていて、車の向かった先は巨大な研究所〔危険な科学カルト〕。そこで、ビクトリアは中年女性の所長に絵を見せる。
  
  
  

孤児院に戻ったビクトリアは、ダビッドを院長室に呼び出し、「あなたは、自分が他の人とは違うと思っているそうね。なぜ?」と訊く。ダビッドは答えず、ビクトリアのすぐ横にある、窓を閉じている “半丸型の最も簡単なフック” をチラと見る。ビクトリアは、タバコに火を点けると、「なぜ私が来たか分かる?」と訊き、それでもダビッドが何も言わないので、「話してもいいのよ」と言う。ダビッドは、「僕を養子にするんだ」と言う。ビクトリアは、ここに来た理由になった絵を見せ、「これ、できるの?」と訊く(1枚目に写真)。ダビッドは再び窓のフックを見て念じると(2枚目の写真)、フックが外れて窓が開き、ビクトリアの持っていた絵が吹き飛ばされる(3枚目の写真)。絵は、ちょうどダビッドの胸に当ったので、彼はそれを掴むと、「僕の絵、持っててもいい?」と訊く。ビクトリアは、「ダメ」というなり、絵をひったくると、黒い革手袋をはめ、ドアノブに手を近づけると、ドアは自然に開く(4枚目の写真、矢印はドアの隙間)。
  
  
  
  

研究所に戻ったビクトリアは、所長に、「驚異的ではないにせよ、彼の心には何か力強いものがあります」と報告する。「なら、彼を養子にしなさい」。一方、孤児院では、ダビッドのことが好きな老婆が、彼を薪小屋に連れて行くと、1枚の絵を見せ、「彼は月の子じゃよ」と指差す(1枚目の写真)。そして、下にいる黒人達を指して、「彼らは、月の子を待っておるんじゃ」と説明すると(2枚目の写真)、紙を折り畳み、「これを持っていなされ」と言う。ダビッドは、「必ず行くと約束するよ」と誓い、「アフリカ?」と訊く。老婆は、万が一の場合用に、自分の家の場所を書いた紙をダビットに渡す。その時、院長が 「ダビッド」と呼ぶ声が聞こえる。老婆は、「覚えておくんじゃよ、デビット。お前さんの目には、月の力があるとな」と、両手で頬を押えながら、諭すように言うと、目に口づけする。院長の呼ぶ声が2度したので、ダビッドは小屋から出て行く。院長は、黒い車の所にいる男女〔ビクトリアと諜報員〕を指し、「今から、2人は君の両親だ」と言う。車の後部座席に乗ったダビッドは、孤児院でただ一人心が通い合った老婆に手でさようならを言う(3枚目の写真)。
  
  
  

研究所に連れて来られたダビッドは、ビクトリアに連れられて階段を上がって行くが、その途中でビクトリアが同僚から呼ばれる。「そこで待ってて」と言われたダビッドは、2階の正面にある屋内バルコニーに向かう。その先には、巨大なホールがあり、ホールの真下は純白のパーテーションで区切られている(1枚目の写真)。ダビッドは、いったい何が行われているのだろうと見ていると、後ろからビクトリアがやって来て(2枚目の写真、矢印)、元来た方に呼ぶ。そして、「すぐ慣れるわ。孤児院にいるより、より良い生活ができるわよ。ここでは、あなたのように変わったことができる人たちに、いろいろ試してもらうの」と言いながら、個室に連れて行く〔孤児院の時は大部屋だったので、その点では改善している〕。個室と言っても、簡単なベッドと小さな戸棚があるだけの狭い部屋。ビクトリアは、戸棚から、白を基調とした制服を取り出すと、大きさが合うかチェックしながら、「ダビッド、もしかしたらあなたは、自分は違うと思っていたから、この数年間怯えながら生きてきたのかもしれないわね。でも、ここでは、誰もが皆どこか変わっているの。あなたに本当に能力があるのなら、いろいろなことを教えてもらえる。でも、私たちがあなたの家族のようなものだということを忘れないで。そして私たちがここで習得したものを、自分のためだけに使うことはできないの。なぜなら、その罰は非常に大きいから」と、一番重要な規則について話す(3枚目の写真)。その後、ダビッドはさっきベランダから見下ろした場所に連れて行かれ、ごく小さな棒を心だけで動かすことができるかのテストを受ける(4枚目の写真、矢印)。ダビッドに出来たことは、長時間棒を睨み続け、やっとのことで隣の机まで持って行けたこと。これで、ダビッドにサイコキネシスの能力があることは分かるが、他の同年齢の少年に比べて能力は遥かに限定的だった。
  
  
  
  

大食堂での夕食の時間。そこには、少年少女から、20歳を超える大人まで、大勢の人がかなり質素は食事を食べている。すると、少し先にある廊下を、大きな月の写真を貼ったスクリーンが運ばれて行く(1枚目の写真)。それを見たダビッドは、食事の載った木のトレイを持って席から立ち上がると、月の写真の方に向かって歩いて行き、食堂の一番端にある返却場にトレイと食べ物を置くと、そのままこっそり廊下に出て行き、月の写真が運び込まれた部屋を覗いてみる。すると、そこは大きな講演会場で、月の写真は、講演者の壇上の中央に飾られ、設置に使われた木製の折りたたみ梯子を持って2人の男が引き上げて来る。ダビッドは、廊下の壁に隠れて2人をやり過ごす(2枚目の写真)。誰もいなくなると、ダビッドは講演会場の壇上に上がり、中央の机の上に置いてある資料を見てみる。それは、成人に達した女性の調書で、ダビッドが見ていると、後ろでドアが開く音がしたので、急いで壇から降り、聴講者のイスの後ろに隠れる。ドアが開くと、女性職員が、丸坊主の初老の男〔身分不明だが、院長の背後の “隠しボス” 的存在〕を乗せた車椅子を押して入って来る。ダビッドは、車椅子の動きに合わせて床を這って壇から離れて行き、最後は、壁に空いた扁平六角形〔悪の機密組織のロゴマーク〕の穴の中に隠れる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

そして、講演会が始まる。出席者はまばら。発言者は所長。彼女は、大きな月の写真を背景に話し始める。「皆さん全員が新しい計画の一員です。ですから、私たちが成功を収めようとしていると、お話しできることを嬉しく思います。皆さんの多くは、驚異の身体を持ち、既にこの組織に所属しており、私たちの限界も知っています。私たち組織は、あらゆる分野に秘密裏に浸透していますが、そろそろ限界を越えねばなりません。その目的のため、皆さんを通して特別な存在を創造しようと、皆さんの身体と精神を使って実験を行ってきました。私たちは、皆さんそれぞれについて、体質、精神力、出生占星図、惑星の配置、星々の影響、とりわけ、月の影響を斟酌しました。すべては、物質的な何か、言ってみれば、未知のものを確実に形にするためなのです。だからこそ、私たちを未来へと導いてくれるであろう道を見つけることを可能にしてくれたすべての皆さんに、こうして集まっていただいたのです」。この時、アル中の女性ジョルジーナが、眠気に耐えられなくなり(1枚目の写真、矢印)イスから横に倒れ、両手で床をついて体を支える。ジョルジーナは、床に落として口が開いたハンドバックに、床に散らばったものを入れて、座り直す。その間、所長の話はストップする。ジョルジーナがイスに座ると、話は再開される。「その存在に到達できるのは、2人だけ、1人の男性と1人の女性〔ジョルジーナ〕です。しかし、選ばれたニ人組以外の方々は、その能力が無価値だなどと思ってはなりません」。ジョルジーナは、ハンドバックに大事なものが一つ欠けているのに気付き、イスの真下に落ちているのに気付く。「限定された目的のための特異な決定であり、選ばれなかった方々の能力不足を示すものでは決してありません」。ジョルジーナは、足の先で拾おうとするができない。そこで、体を徐々にイスの中に潜り込ませていく。「数日後には最終的な結果が出ますので、その後は、この組織に残られるか、元の職業に復帰するか選んでください」。ジョルジーナは完全にイスの下に潜り、手で拾うが、その時、壁の穴に隠れているダビッドに気付く(2枚目の写真、矢印)。「いずれにせよ、皆さんは、私たちと共に始めた経験を忘れることはないでしょう。でも、私たちは前に進まねばなりません」。ダビッドは、指を唇に当てて、黙っててくれるよう頼む。ジョルジーナが、イスの下から顔を出したので、所長はまた話を中断する。ジョルジーナはイスに座り、話は続く。「新たな創造を成し遂げるために、私たちは子どもの懐妊を目指さねばなりません。父を選び、受胎を制御します。この操作は、私たちの組織と密接に絡むため、各段階の如何なる時点でも、中断はありえません。受胎・妊娠・出産を通じて、私たち自身が、新たな存在を創造するのです」。この話を穴の中で聞いているダビッドも、話の内容に驚きを隠せない(3枚目の写真)。
  
  
  

場面は、その日の夜のダビッドに変わる。彼は舗石の上に白墨で円を描き、孤児院の老婆からもらった白い子の絵を置き、円の中に立って月を見上げて、「妊娠・出産を通じて、私たち自身が新たな存在を創造するのです」と院長の言葉をくり返すと(1枚目の写真)、ここからは、自分の言葉で、「月の比類なき光が僕の中に入り、僕を力で満たしてくれますように」と、目を閉じて願い(2枚目の写真)、目を開けて月を見ながら、「僕はあなたの子どもになりたい」と、さらに願う。彼がいたのは、研究所の屋上だったが、どこからか声が聞こえてくる。ダビッドは、暖炉の四角い煙道の真上まで行くと、そこが声の発信源だった〔しかし、何を言っているのかは分からない〕。その下の部屋では、院長が、車椅子の隠しボスに話している。「私たちはバカな人たちを相手にしているわけじゃない。何度も検査をしていれば、全体像に気付く人だっているわ。それが、多いか少ないかに関係なく、何かに気付いたことは確かね」。その頃、ロープを探してきたダビッドは、ロープをどこかに固定し、反対側を自分の体に縛り付け、話を聞こうと、足を下にして煙道の中に下りて行く(3枚目の写真)。最初に耳に入った言葉は、「あなたは、みんな死ぬべきだと言ったわ」という衝撃的な言葉。すると、男の声がする。「それは君次第だ。君が選んだのは、この2人か?」。所長は、「2人は、大した者には見えないし、実際大したことないの。でも、遺伝子的には完璧なのよ。エドガーは、まだ一種の秘学教育を受けている。彼はラヴァルの息子、砂漠の兵士よ。2人は何年も会っていないから、彼を失っても〔悪の機密組織が殺しても〕寂しくはないでしょう。彼女については、寂しがる者なんかいない。もともと、存在していないような女性なの〔悪の機密組織は平気でメンバーを殺す〕
  
  
  

そう言うと、所長は男に、「こんなバカげた女には、素敵過ぎる名前ね」と言いながら、ジョルジーナのファイルを渡す(1枚目の写真)。ダビッドは、ロープに必死につかまりながら、ひどい話を聞き洩らさないように頑張る(2枚目の写真)。「彼女は最初、多くの問題を起こしたわ。今では、管理されているけど。彼女は重度のアルコール依存症で、精神的に錯乱していて、私の判断では 知的発達障害ね。でも、試験では最高だった」。ここで、男が 「一緒に来てくれるか? 疲れた」と言い出し、所長は 「もちろん」と言った後で、「あんな女が月の子どもの母親だなんて皮肉ね」と冷たく言うと、男は、「黒人よりはマシさ」と、候補の2番目が黒人との混血だったので、人種差別な言葉を吐き、“目的のためには殺人を平気で行う” この2人の悪辣な男女は、部屋からいなくなる。ロープにつかまっていることに耐えきれなくなったダビッドは、そのまま火の消えた暖炉の中に落下し、這い出たすぐ前に、ウィスキーの瓶があったので、手に取る(3枚目の写真、矢印は落下してきた方向)。そして、瓶を持ったまま机の引き出しや資料棚を開けてジョルジーナの紙を見つけると、昼間に床に倒れて目が会った女性だった。ダビッドは、そこに貼ってある写真を見ながら、「ジョルジーナ… ママ」と言うと、写真にキスする(4枚目の写真)。
  
  
  
  

何日後かは分からないが、研究所では大量の小型花火に火が点けられ、大人も子供も楽しんでいる。その中で、ダビッドはジョルジーナを探して歩き回る。そして、エドガーと一緒に楽しんでいるジョルジーナを見つける(1枚目の写真)。一方、ビクトリアは、担当している子供達全員を監視している。ダビッドがビクトリアに見つからないよう、ジョルジーナと話す機会を探していると、エドガーが飲み物を取りに行くためにジョルジーナと離れる。ダビッドは早速、茹でたトウモロコンが丸ごと置いてあるテーブルに近づくと、1本取ってエドガーに向かって行き、わざとぶつかる(2枚目の写真、矢印はトウモロコン)。エドガーが飲み物を落としたので、再度取りに戻っている間に、ジョルジーナの下にしゃがみ込んだダビッドは、スカートを引っ張る。ジョルジーナが、「まあ、ここにも鼠がいるわ」と迷惑そうに言うと、ダビッドは 「喉、乾いた?」と訊く。「あたし、あの変なオレンジ水、好きじゃないのよね」。ダビッドは、さっそくウィスキーの瓶を見せる(3枚目の写真)。ジョルジーナの顔が輝き、「どうやって手に入れたの?」と訊くと、ダビッドは、「僕、洗濯場にいるから」と言って、さっといなくなる。
  
  
  

その直後、ビクトリアとエドガーは、それぞれ、姿を消したダビッドとジョルジーナを探している(1枚目の写真、矢印はビクトリア、右半分の大きな顔はエドガー)。そして、洗濯場では、ジョルジーナがダビッドからもらったウィスキーのボトルをがぶ飲みしている(2枚目の写真)。そんなジョルジーナに向かって、ダビッドは、「あなた、月の子どもの母になるんだ。8日後、満月になれば、眼鏡をかけた長髪の男と一緒にされる」と話す。「エドガーと一緒に?」。「うん」。「どうしてそんなことを知ってるの?」。「僕、いろんなこと知ってるよ。だけど、あなたを助けるには、もっと知らないと」(3枚目の写真)。なかなかうんと言わないジョルジーナに、ダビッドは、ウィスキーのある場所を知っていると話し、協力を得ることに成功する。その時、ビクトリアが 「ダビッド」と呼ぶ声が聞こえたので、「明日ここに来て。待ってるから」と言って小屋から出て行く。ビクトリアの前まで行ったダビッドは、「何してたの?」と訊かれ、「おしっこ」と言って誤魔化す。ビクトリアは、花火は終わったので自分の部屋に戻るよう命じる。
  
  
  

翌日、ダビッドが、大ホールの純白のパーテーションで仕切られた一角でタイプを打っていると、ジョルジーナが、この研究所を辞めて元の職業に戻っていく背広の男性に別れを告げている。今度は、自分の席の後ろを振り返ると、ビクトリアが面白くなさそうな顔で、下を向いて仕事をしている。すると、目の前の通路をジョルジーナとエドガーが一緒に歩いて行くが、ダビッドに気付いたジョルジーナは、口実を設けてエドガーと別れると、ダビッドの前を引き返しながら、“待ってるわ” と意思表示する(1枚目の写真)。しかし、ダビッドは、ビクトリアが見張っているので抜け出せない。ジョルジーナが、洗濯室の床に布を強いて横になって眠っていると、ようやく解放されたダビッドが入ってきて、ジョルジーナのお腹に向かって囁くように話しかけ、次いで耳をつける。それに気付いたジョルジーナが 「何してるの?」と訊くと、「彼が僕に話してた」と言って、ウィスキーの瓶を渡す。「なぜ、あたしにこんなに関心があるの?」。「あなたに悪いことが起きて欲しくないから」(2枚目の写真)。「あたしを守ってるの?」。「いろいろ知ってるから」。二度目のその返事に、ジョルジーナが立ち上がって出て行こうとすると、ダビッドは、「今日出て行ったあなたの友だち、どうなったか知ってる?」と訊く。「彼らは出てった。それだけよ」。「彼らは殺されちゃうんだ」。それを聞いたジョルジーナが笑い出す。「笑わないで。本当だよ」。「どうして分かるの? そうか、『いろいろ知ってる』もんね」。「聞いたんだ」。「そう?」。「あなたを助けたいんだ。だから、いつエドガーと一緒にさせられるか教えてよ」。ジョルジーナは、一旦は無視しようとするが、ウィスキーが欲しいので、「次の満月の夜、天文台で」と教える(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、次の満月の夜、望遠鏡のない天文台のドームの真下に設置された台の上に、全裸にされたジョルジーナが、首と胸の間を黒いベルトで固定されて横たわっている。そこに、ガウンを羽織ったエドガーが2人の男に連れて来られ、ガウンを脱がされて全裸になると、天文台の中にジョルジーナと2人だけで取り残される〔ダビッドは隠れて見ている〕。すると、ドームの中央にある “窓” が、螺旋状に旋回しながら開いて行き、そこから月の光が射し込んでくる。月の光は、ジョルジーナが横たわった台を中心として直径4-5メートルの円形に当たる(1枚目の写真、端に立っているエドガーには光が当たらない)。ジョルジーナは、「こっちに来て」と エドガーを呼ぶ。そして、躊躇するエドガーを鼓舞して受胎させるよう促し、じっと見ているダビッドの前で(2枚目の写真)、2人は激しいセックスを始める(3枚目の写真)。しかし、射精が終わったと見るや、すぐに扉が開き、エドガーは連れ出され、代わりに入って来た医師と看護婦が嫌がるジョルジーナの子宮に金具を挿入するが、何のためにそんなことが必要なのかは分からない。何れにせよ、非人道的であることは確かだが、辞めていく人を平気で殺すような悪の組織なので、何をしても不思議ではない。
  
  
  

それから、どれだけの日が流れたのかは分からない。所長が、2人の医師を前にして、「このような妊娠の急速な進行は注目に値します。私は良い兆しだと思っています」と述べる。髭の医師が、「しかし、生命が存在する兆候はまだありません」と発言する。「あなたが何を言いたいのか分かります。しかし、私たちが何を期待しているのか、それがどのように現れるのか、確かなことは誰にも分からないのです。あなたでさえも」。すると、もう一人の医師が、「私は、これ以上言い張るつもりはありませんが、臆病な女性に圧力をかけ過ぎたのではと思っています。彼女は子を産まなければいけないと知っていた。何を期待されているか、それがどれほど重要なことなのか、すべて知っていた。だから、想像妊娠かもしれません」と、心配する。所長は、「あなたの意見では、何が起きるの?」と訊く。「彼女は単に空気を排出するだけでしょう」。それを聞いた所長は、蔑むように 「そんなことをするのは、犬だけよ」と言う。次のシーンでは、いい加減無視されて頭に来たエドガーが、ジョルジーナが止めるのも聞かずに所長の部屋に向かって行く。最後の段階で、ダビッドも 「入らないで」と止めるが(1枚目の写真)、エドガーはノックなしてドアを開けて中に入って行くと、「あんたたちには、もう うんざりだ! あんたたちは彼女を辱めているし、彼女が宿してるのは僕の息子なんだ!」と怒鳴る。部屋にいた、黒服の警備員兼殺人者の男が、声が外に響かないよう、すぐにドアを閉める。中ではエドガーが 「ここから出るための書類を全部、すぐ渡して欲しい! そんな契約なんかない! 法的なものじゃない!」と怒鳴るが、すぐドアが開き、無視されたエドガーは怒って出て来る。後を追おうとした黒服に、所長は、「放っておきなさい。どうせ、彼は死ぬんだから。それが、早くなっただけ」と冷たく言い放つ(2枚目の写真)。その後、エドガーはサウナに行き、ダビッドも服を着たまま一緒に入る。そして、恐らくエドガーからの話を聞いた後で、「僕も聞いてる。前から知ってた。でも、あいつら、今からやる気だよ」と話す。エドガーは、「分かってる。僕は、あいつらにとって邪魔だからな。ジョルジーナも、子供を産んだら、不要になる」と厳しい現実を吐露した上で、「ああ、神様、僕たち、どうやって逃げたらいいのか分かりません」と嘆く。そして、ダビッドに 「僕は、長い間、奴らの行動を見て来た。だが、ここから逃げ方法はないんだ」と言う。それに対し、ダビッドは 「僕、知ってるよ」と答える。
  
  
  

サウナから出ると、ダビッドはエドガーにこの施設の平面図〔ビクトリアから盗んできた〕を見せ(1枚目の写真)、どの部分が警備されていて、どの部分がそうでないかを説明する。そして、どの部屋にも換気口があり、そこを通れば屋上に出られるし、自分もそうしたと教える。屋上まで出れば、あとはロープさえあれば壁を伝って外に出られる。ダビッドは、さらに、孤児院の老婆からもらった自宅の地図を見せ(2枚目の写真)、そこに行けば匿ってもらえると教える。それまで黙って聞いていたジョルジーナは、お腹が大きくなり過ぎたから無理だと反対するが、エドガーは、「だからこそ、行かないと。赤ちゃんが生まれてしまったら、手遅れになる。僕たちは、父さんの家に行けばいい。そこなら安全だ。アフリカの砂漠の中だから」と説得する。それを聞いたダビッドは、「アフリカ?」と興味を示す。そこで、2人と別れてから図書室に行ったダビッドは、アフリカについての本を探し出し、アフリカの地図や、アフリカの呪術について書いてあるページ(3枚目の写真)を見つけると、2ページ分をこっそり破って部屋から出て行く。しかし、破ったことは斜め後ろに座っていたビクトリアに気付かれていて、後を追ってきたビクトリアに、シャツをまくられて、中に隠して持って来た絵について、「それは何なの?」と訊かれる。見つかったのは、地図ではなく、呪術の絵の方だったので、大した意味がないと判断したビクトリアは、図書室の本を破いたことを不問にしてくれる。ダビッドが、「どうして許してくれるの?」と尋ねると、ビクトリアは 「私には、子供が持てなかったから」と答える。
  
  
  

食堂で、夕食の列ができている。そこに並んでいたダビッドにエドガーが近づいてくると、「明日の夜、決行だ。今すぐ、お金を盗んで」と小声で囁く(1枚目の写真)。翌日の夜、エドガーがベッドに座って懐中時計を見ている〔午前1時56分〕。次のシーンではベッドは空で、換気口の金網が外されている。そして、屋上で待っているダビッドの前に、エドガーの手、そして、顔が現われる(2枚目の写真、矢印は登って来た方向)。登り切ったエドガーが、「お金は手に入れた?」と訊いたので、ダビッドはシャツをめくり上げ、お腹に張り付けたお札を見せる(3枚目の写真、矢印)〔いつも通り、ウィスキーのように、所長の部屋から盗んだのか?〕。ジョルジーナは2階の大ホールのバルコニー前をこっそり通り過ぎる。一方、ビクトリアは、施設の平面図の上に、コップの跡がついているのを不審に思い〔先に、ダビッドが持ち出した時、コップを図面に置くシーンなどはなかった〕、図面を拡げると、中に細かなパン粉のような物が付いている〔近くに食べ物もなかった〕。彼女にも幾分かの超能力はあるので、手で目を押えると、ダビッドも同じ反応をする。ジョルジーナが所長の部屋の暖炉の前で待っていると、屋上から投げ込まれたロープが落ちてくる。ダビッドに何かが起きていると思ったビクトリアは、子供たちのいる部屋に通じるドアの前の守衛と一緒に廊下に入って行く。屋上では、2人がかりで、ジョルジーナに結び付けたロープを引っ張り、遂に彼女の顔が屋上に現れる。
  
  
  

3人は、屋上の端まで走って行き、まず、体にロープを縛り付けたままのジョルジーナが、エドガーに支えられながらゆっくりと施設の建物の外壁に沿って降りて行く(1枚目の写真)。同じ頃、ビクトリアと守衛はダビッドの部屋に入り、そこに誰もいなくて、換気口が開いているのを見る。ジョルジーナが地面に着くと、今度は、エドガーがダイナミックに飛び跳ねながら急いで降下する(2枚目の写真)。ビクトリアたちは、屋上に通じる階段を駆け上がる。エドガーが地面に着くと、最後はダビッドの番なのだが、彼が降りようとしていると、またビクトリアに探られている気配を感じる。そして、屋上に設けられたドアに彼女が現われると感じる。そこで、ダビッドは2人を逃がし、ロープを引き上げて逃げた痕跡を隠す。そしてドアが開き、ビクトリアが 「ここで何してるの?」と訊くと、ダビッドは以前と同じように 「おしっこ」と答える(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、所長の前でビクトリアは、褒められていいのに、弁解に追われる。「知りませんでした。彼一人が逃げようとしたんだと思ったのです。気付いた時は手遅れでした」(1枚目の写真)。それに対し所長は、ジョルジーナとエドガーに対する自らの監視責任には言及せず、「妊娠の調整を止めることはできない。あの女は、ここで産まないといけない」と言った上で、「あんたは、あの子と随分親しいようね。私たちは、彼を傷付けたくないけれど、彼が話したくないとあれば… 理解したわね?」と、ビクトリアにダビッドに白状させるよう命じる。ビクトリアは、ダビットが収監されている真っ白な部屋に入って行くと、「あなたの説得に行くよう言われたから来たの。組織は、あなたを罰したがってる。ダビッド、真実を話して。2人がどこにいるか、知ってるの?」と訊く(2枚目の写真)。ダビッドは、うつむいたまま何も言わない。そこで、ビクトリアは作戦を変え、「ダビッド。あなた、あの女性が好きなのね? そうでしょ?」と後ろを向いて静かに言うと、急に振り向き、「どうなの?!」と叫ぶ。そして、「あなたにとってのお母さん、なのよね?」と訊く。ダビッドは 「そうだよ」と答える。「どこに行けば見つかるか、知ってるの? どうなの? イエス、それとも、ノー?」。「知ってるよ」。ビクトリアは鍵を取り出し、「これは厨房のドアの鍵よ」と言うと(3枚目の写真、矢印)、鍵をダビッドの手に握らせる。そして、「じゃあ、幸運を」と言い、なぜかダビッドはそんな明白な策略にまんまんと引っ掛かり、「ありがとう」とお礼まで言う。その夜、ダビッドは鍵で厨房から外へ抜け出し、孤児院の老婆の家に向かう。彼が出て行くのを隠れて見ていた院長は、ビクトリアに 「私たちの名案ね。すぐに、あの女に会えることを期待してるわ」と、自分の成果のように言う。
  
  
  

ダビッドは、小屋のような粗末な家の前で、老婆と抱き合う(1枚目の写真)。老婆は、ジャガイモの皮を剥きながら、「あの2人、アフリカに行くと言うとった」と話す。ダビッドは、「僕もだよ」と打ち明ける。「お前さんが何を考えているかは分かる。あの女は何者じゃな?」。「僕の母さん」。そして、「入ってもいい?」と訊く。「2人とも眠っとるで」。ダビッドが小屋の中に入って行くと、2人は床で眠っていた(2枚目の写真)。小屋の前の灌木の茂みから、ダビッドの跡を付けてきた黒服が様子を伺い、悪の施設に戻ると、所長に 「老婆が1人いるだけです」と報告する。残酷極まりない所長は、「さっさと終わらせなさい。あの女は、ここで出産しないといけない。分かった?」。「はい。残りの2人は? 老婆は?」。「殺しなさい。3人とも。手際よく」(3枚目の写真)。それを横で聞いていたビクトリアの目には、涙が溢れている。一方、小屋の中では、ダビッドが持ってきた地図で、エドガーは父がいる辺りを指で示す(4枚目の写真)〔小さな地図なのでよく分からないが、チュニジアかアリジェリアの北部であろう〕
  
  
  
  

2人の黒服は、野外で作業をしている老婆を、毒針を使った吹矢で倒す。外で苦しんで倒れる老婆を、エドガーとジョルジーナが窓越しに見てびっくりする(1枚目の写真)。自分たちの居場所はバレておらず、悪の秘密組織が殺したとは思わなかったので、エドガーは発作だと思い、助けようと老婆のそばまで駆け寄り、毒針に撃たれて死ぬ。これで、悪の秘密組織が近くに殺人鬼を送り込んだことが2人にも分かる。ジョルジーナは、壁に猟銃が掛けてあるのに気付いて銃弾を調べるが、中には何も入っていない。そこで。ダビッドがあちこち探して銃弾を見つけると、ジョルジーナから猟銃を取り上げ、銃弾を込め(2枚目の写真、矢印)、ジョルジーナに渡す。2人は薄いテーブルクロスで覆われた小さな円形テーブルの中に隠れ、黒服2人が小屋に入って来るのをじっと待つ。そして、ドアがそっと開けられ、2人が入って来る。猟銃が火を噴き、1人の黒服が胸を撃たれて死亡し、もう1人も、撃たれた黒服がぶつかって気絶する(3枚目の写真、矢印は銃痕)。2人は、裏口から逃げ出す。今や悪鬼となった所長は、すべての黒服に 「市内全域と、市から出る鉄道、船、あらゆる交通手段を確認なさい。あの女の家族、及び、故郷に向かうすべての交通路を厳重に調べなさい」と命じる。
  
  
  

ジョルジーナとダビッドの目的地は、亡きエドガーの父がいるアフリカ北部の砂漠地帯だったので、アフリカのチュニスに向かう船に乗ることにし、盗んだお金で、それまでとは全く違った服を購入すると、貨客船の乗船場に直行する。しかし、ダビィッドが水をコップに一杯もらって、これから乗る船を見に行くと、窓越しに黒服の男が見張っているのに気付く(1枚目の写真)。そこで、さっそく、“ウィスキーを飲んで半分意識のない” ジョルジーナの所にそっと戻ると、2人で待合室から外に出て行く。そして、建物の端まで行き、船に積み込む荷物の集積所まで行き、様子を伺う(2枚目の写真)。すると、さっきの黒服が、タラップの下まで来て、乗員にジョルジーナの写真を見せ、乗船したかどうか尋ねている。これでは、普通に乗船するのは不可能だ。その時、ダビッドは、袋詰めにされた荷物が、ロープモッコに吊り下げられて、船に運ばれていくのを見る。これしかないと思ったダビッドは、ジョルジーナと一緒に袋の中に隠れ、ロープモッコで船に無事運ばれ、すぐに袋から出て船内のタラップとは反対側のデッキに逃げ込む(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、場面は一気に変わり、チュニジアの世界遺産カイルアン〔Kairouan、ユネスコの世界遺産サイトでのカタカナ標記を採用、首都チュニスの南約125キロ〕にあるウクバ〔Oqba〕のモスクの前に2人がいる(1枚目の写真)。このモスクは、ウクバ・イブン・ナフィ〔Oqba Ibn Nafi、622-683〕によって、原形が建設され、現在の外観になったのは9世紀の大規模な改築と装飾工事によるものとされる。2・3枚目に、https://www.desdomesetdesminarets.fr/ のサイトにあった、全体像と内部の写真を掲載する。因みに、船が着いたのがチュニスだとすれば、ここまでどうやって2人が来たのかは謎。そのあと、2人は、エドガーの父のいる村に行こうと、通訳を介して地元の隊商と交渉する(4・5枚目の写真)。相手は、「ラヴァル」の名前を知っていて、3日後の夜明け前に隊商が出発すると教える〔2枚目の写真の背後に丘陵上の城壁が見えるが、カイルアンは平原の町なので矛盾がある。ロケ地は不明〕。この時、地元の少年がダビッドに飲み物を差し出し、ダビッドは近づいて行くが、ジョルジーナが連れ戻す。また、母親と一緒にいる別のチュニジアの少年もダビッドを見ている。こちらの方は、映画の残り3分の1のアフリカ・シーンで重要な役割を担う。
  
  
  
  
  

そして、3日後、ラクダの隊商が砂漠に向かって出発していく(1枚目の写真、矢印は2人)。そして、日覆いの布の下で仲良くラクダに乗っている2人が映る(2枚目の写真)。一方、悪の秘密組織では、ビクトリアが、ダビッドがページを破いた本と、破かれていない本の2冊を並べ、彼が何を破いていったのかを調べている。そして、最初の時には気付かなかったが、破いた中に、アフリカの地図があったことに気付く。ここで、映画は再びアフリカに戻り、場面は恐らく旅に出て最初の夜。複数のテントが張られ、中央の焚き火の周りで大勢の人が、暖を取っている。ダビッドだけは、一人離れて砂の上に座ると、じっと月を見ている。すると、出発前にダビッドを見ていた少年が木の陰からその様子を窺っている。それに気付いたダビッドが振り向くと、少年は笑顔になり、それを見たダビッドも笑顔を見せると、少年は、再び月を見上げたダビッドの近くまで這って寄って来る(3枚目の写真)。ダビッドは、自分の真横まで近づいた少年に向かって、「僕…」と言い、次に指で月を指して、「月の子ども」と言う(4枚目の写真)
  
  
  
  

ここでもう一度、悪の秘密組織に戻り、所長の部屋に行ったビクトリアが発見したことを打ち明けると(1枚目の写真)、そこにいた車椅子の隠しボスは、「ロジャーじじいだ」と言って笑い出す。所長が 「何です?」と訊くと、「エドガーの親爺だ!」と言う。これまで、所長は、2人がジョルジーナの出身地か知人の所に行ったと思って探していて何の手がかりも掴めなかったが、実は死んだエドガー父の所に行ったらしいと分かる。ここで場面はアフリカへ。翌日、隊商は途中のオアシスで休憩し、男性は、大人も子供も上半身裸になって浅い小川で水浴し、女性は服を着たまま洗濯をしている。少年は、ダビッドと一緒に小川に入り、ダビッドが体を洗うのを手伝ってやっている。それが終わると、2人は小川の中で立って見つめ合い、少年がダビッドの手を取って自分の胸に当てさせ、次にその手を持つと、ダビット自身の胸に当てる(2枚目の写真)〔これで2人は友達という意味?〕。それが終わると、少年は舌をぺろっと出す。ダビッドが理解できずにいると、少年が舌の先を指で指すように触る。ダビットは、舌を出すと、舌の先端で相手の舌の先端に触れる〔この種の挨拶の情報はなかった〕。そして、「僕、ダビッド。君は?」と尋ねる。相手は聞き取れない長い名前を言うが、最後の部分だけは聞こえたので、ダビッドが 「ミダミ?」と訊くと、相手も 「ミダミ」と答える。映画はもう一度、悪の秘密組織に変わり〔これが最後〕、ビクトリアは、「私はあの少年を知っています。飛行機も操縦できます」と言い、アフリカに旅立つ。隊商は二日目の夜。なぜかジョルジーナはテントに入らず、焚き火の横でヤシの木に寄りかかり、大きく膨らんだお腹の上に、ダビッドが鼓動でも聞くように頭を乗せている(3枚目の写真)。ダビッドがジョルジーナに 「大丈夫?」と訊くと、彼女は 「ええ、でも寒い」と答える。「ミダミは、エドガーの父さんの家までは もうすぐだって言ってた。そこに着けば良くなるよ。暑さも寒さも和らぐだろうし、元気になったら一緒に川に行こう。ミダミは、川沿いに住んでる黒人に会ったことあるんだ。その人たち、僕らが行くのを待ってるよ。月の子どもを待ってるんだ。僕を」。「やめなさい!」。「ママ」。「あたしは、あんたのママなんかじゃない。それに、すごく疲れてるの」。
  
  
  

隊商は、エドガーの父ラヴァルが住んでいる村に着く(1枚目の写真)。真っ昼間なので、2人は暑さにフラフラしながら、家に向かう(2枚目の写真)。予め通報があったのか、家の前に ラヴァルが立って待っている(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

家の中のテーブルに座った2人に対し、ラヴァルは、「じゃあ、息子は死んだのか」と、悲しそうに言う。ジョルジーナは 「はい」と答える(1枚目の写真)。「そして、あんたは彼の奥さんなのか?」。「はい」。そして、膨らんだお腹に手を伸ばし、「これが、彼は息子なんだな?」。「はい」。「見つかるのを、まだ怖れてるのか?」。「はい」。「あんたは重い病気だ。知っとるか?」。「もうすぐ産まれます。休まないと」。「そうだな。部屋だけは十分ある。食事や仕事は少ないが、あんたが暮らす分には十分だ」。一方、チュニスに着いたビクトリアは、単葉機を手配し、パイロットと護衛1人と一緒に乗り込む(2枚目の写真)〔機種不明〕。次のシーンは、現実か、ダビッドの夢なのかは分からない。ダビットが、村の中にいると、巫女のような飾りをつけた女性が現われ、手に持った銀の円盤を月に向け、月の光をダビッドの顔に当てる(3枚目の写真)。
  
  
  

ダビッドが、ラヴァルの家に戻ると、家の前でラヴァルがサーベルを抜いているので、見つからないよう、こっそり部屋に入る(1枚目の写真)。そして、ラヴァルの机の所までいくと、その上に、悪の秘密組織のロゴマークの付いた紙が置いてある。驚いたダビッドはそれを読んでみる。すると、足音が聞こえたので、急いで部屋の奥に隠れる。すると、ドアが開いてラヴァルが入って来る。彼は、サーベルを土壁に立てかけると、机の前のイスに座り、ナイフを取り出して腕を少し切って血を出すが、その時、腕に “悪の秘密組織の焼印” があるのが見える。彼は、完全に組織の一員だった。それを見たダビッドは、こっそりとラヴァルの後ろに忍び寄ると、彼が本部宛てにジョルジーナのことを密告した手紙を封筒に入れ、蜜蝋で封印するのを見ながら、ラヴァルの死を強く強く祈念する。すると、ラヴァルは急に心臓発作を起こしたように苦しみ出し、そのまま机の上にうつ伏せに倒れて息絶える(3枚目の写真)。ダビッドはジョルジーナが横になっているベッドまで行くと、「僕、殺したよ。あの爺さんを殺したんだ。爺さんも奴らの一員だったから。月のお陰でできたんだ。月が僕に洗礼を授けてくれたから。僕は月の子どもなんだ」と話しかける(4枚目の写真)。そして、川沿いに住んでいる黒人が 月の子どもの来るのを待っているし、ここにはいつ奴らが来るか分からないから、即刻出て行かないといけないと主張する。
  
  
  
  

翌朝、ダビッドは、ミダミに頼み、半分意識を失ったジョルジーナをラクダの背中に寝かせ、川沿いに住んでいる黒人に会うための旅に出発する(1枚目の写真、矢印はジョルジーナ)。その頃、ビクトリアを乗せた飛行機は、ラヴァルが住んでいた村に向かって飛んでいる。その日、3人は、砂漠の中に塔のように突き出た岩の室(むろ)に着き(2枚目の写真)、すぐそばにテントを張る。夜になり、あまりに風が強いので、テントにいられなくなったジョルジーナは、外に出ると、岩の室に向かってよろよろと歩き始め、途中で倒れてからは這って行くが、最後には動けなくなってしまう。しかし、ダビッドが現われ、天に輝く満月を見ると、ジョルジーナはなぜか恐ろしくなり、最後の力を振り絞って岩の室に走り込むと、地面に仰向けに倒れる。そして、出産時のように腰を上げて脚を広げる(3枚前の写真)。しかし、どれだけ力んでも、赤ちゃんは産まれないので、ダビッドは心配になる(4枚目の写真)。やがて、ジョルジーナは失神してしまう〔やはり想像妊娠?〕
  
  
  
  

一方、村に着いたビクトリアを持っていたものは、ラヴァルの墓碑(1枚目の写真)。墓碑には、「ピエール・ラヴァル」と刻んであるので、彼は、スペイン人ではなくフランス人。だから、当時フランスの保護領だったチュニジアにいたのだろう。ビクトリアは、操縦士と護衛に向かって、「彼の世話をしていた女性の話では、心臓が悪かったそうね。彼の死に、ダビッドや世話係の女性は無関係だと思う。ジョルジョーナは体調が悪くて、まだ出産していない」と状況を説明する。ビクトリアの方が上司なので、言い方は乱暴だ。そこに、2人の行き先を知っている女性が連れて来られる〔初めて見る顔なので、なぜ彼女が行き先を知っているのかは謎〕。一方、岩の室の中では焚き火の前で、全裸のダビッドが全裸のジョルジーナを後ろから抱き(2枚目の写真)〔なぜ全裸なのか?〕、ダビッドがジョルジーナに歌いかけている。ジョルジーナが目を開けたので、ダビッドは 「ママ」と声をかける(3枚目の写真)。そして、「信じてくれなかったんだね? 生まれ変わったのは僕なんだ」と言う〔ここが、解釈の一番難しいところ。ジョルジーナが苦労して産もうとして失敗したが、その代わりに、ダビッドがもう一度 “生” を受けたと言いたいのだろうか? だから、ジョルジーナから新たに生まれた胎児のように、全裸になったのだろうか? 悪の秘密組織のボスである研究所の所長は、ジョルジーナが産む子が、特別な存在になると信じていた。そして、ジョルジーナの胎児の代わりになったダビッドは、今までとは違った特別な存在、本当の “月の子ども” になった… そう言いたいのだろうか?〕
  
  
  

翌朝、かろうじて息をしているジョルジーナの脇で、ダビッドが心配そうに座っている。彼が、近づいて来る飛行機の音に気付いた頃(1枚目の写真)、ジョルジーナは急に上半身を起こし、テントの縫い目に手を伸ばして破き、目を大きく見開く。本来ならば黄ばんだ青空が映るはずなのだが、ジョルジーナの目には夜の満月が見え、それがジョルジーナにとって生死の境となる〔床に戻った彼女は、息絶えている〕。すると、ミダミがやって来て、指で空を指し(2枚目の写真)、ダビッドをテントから引っ張り出す。飛行機は、テントから逃げ出した2人を発見し、降下を始める(3枚目の写真)。
  
  
  

ビクトリアと護衛に捕まったダビッドとミダミは、テントに連れて行かれる。ダビッドは、それまでに起きたことをビクトリアに話すが、彼女は、「いいえ、ダビッド、それは違う。あなたの言うことはすべて嘘よ。おばあさん〔孤児院の老婆〕は間違っていたの。あなたの目には何の力もない。あなたは、月の子どもでもジョルジーナの子どもでもない。ありえないことよ。あの老兵は心臓が悪かった。月の洗礼も嘘。月はジョルジーナを殺していない。何の関係もない。すべて偶然なの。悪いけど、あなたの話なんかどうだっていいの。私が知りたいのは、ジョルジーナの赤ちゃんがどこにいるのかよ。ダビッド、もう逃げられないのだから、ちゃんと話しなさい」と言う(1枚目の写真)。ビクトリアは護衛を外に出すと 「ダビッド」と優しく声をかける。ダビッド:「ばあちゃんは、僕の目には月の力が宿っていると言った。本当かどうかは知らない。そう言ったんだ。僕は、孤児院や研究所ではない 別の場所に行かなければならないと知っていた。月が僕を待っていたから。誰も理解してくれなかったけど、僕は月の子どもなんだ。月は僕に洗礼を授けた。僕に新しい力をくれたんだ。爺さんが死んだのは 邪魔しようとしたからだ。月と僕が彼を殺した」。ここで、ダビッドは話を変える。「僕は川に行かないといけない。彼らはずっと僕を待っていてくれたし、僕も彼らに会いたい。天空に燃える炎の兆しがそれを告げるんだ」(2枚目の写真)。前半は、先に聞いた話なので、ビクトリアは、「そして赤ちゃんは?」と再度訊く。ダビッドは、ビクトリアに耳に何かを囁くが、観客には何を言ったのかは分からない。ただ、その途中で、ダビッドは両手で “何かをつかむような” 形を作ると それをぎゅっと押し潰す(3枚目の写真)〔これは、一体何を意味するのだろう???〕。ダビッドから真相〔???〕を聞かされたビクトリアの目から涙が溢れる。ダビッドが 「僕は僕だよ〔Soy yo〕」と言うと、ビクトリアは 「あなたはあなたね〔Eres tú〕」と頷き、それまでの態度を一変させる。テントから外を覗くと、「飛行機で逃げましょ」と言う(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ダビッドとミダミが飛行機に乗り込み(1枚目の写真)、ビクトリアはプロペラを手で回し(2枚目の写真)、エンジンをかける。その音で気付いた “敵2人” が走ってくるが、ビクトリアは何とか振り切って(3枚目の写真)離陸することに成功する〔2人は、ラクダが2頭いるので、生きて戻ることはできる〕
  
  
  

飛行機は、ダビッドもしくはミダミが指示した場所に着陸し、ビクトリアはダビッドを前にして、「あなたの望み通りになるよう祈ってるわ」と言う(1枚目の写真)。ダビッドが 「あなたは(どうするの)?」と訊くと、ビクトリアは、ダビッドと同じ目線になるよう膝を立てて座ると、「私? 戻るわ」と答える。「研究所に?」。「ええ、もちろん」。「罰せられない?」。「もちろん されないわ。心配しないで」。近くで聞いていたミダミに 話が理解できたとは思えないが、彼は 胸に両手を当ててお辞儀すると、両手を口に当て、その手をビクトリアに向けて放ち、笑顔になる。ビクトリアは、月を見上げると、「私も天空に燃える炎の兆しを待ってるわ。そうすれば、すべてが満たされたって分かるでしょ」と言う(2枚目の写真)。ダビッドはビクトリアに抱き着き、「大好きだよ ビクトリア」と言う。そして、立ち上がると、ビクトリアを見て 右手で目を覆い、その手を目→鼻→口と下げて行き、微笑む(3枚目の写真)。そして、手を取ると 「さようなら」と言い、ミダミと一緒に茂みの中に走って消えていく。その間、ビクトリアはずっと泣いている。
  
  
  

ダビッドは、ミダミに案内されて茂みから川岸に出る。ミダミは、対岸に築かれた土の斜面に所々で火が燃やされ、煙が上がっているのを指差す。そして、ダビッドが着ているものを脱がせると、以前やったように、ダビッドの手を取って自分の胸に当て、その手をダビッドの胸に当てる。それが済むと舌を出し、ダビッドも舌を出して先端を合わせる(1枚目の写真)。ミダミは ダビッドの腕を掴むと、対岸の火に向かって川を渡るよう促し、ダビッドは川に入って行く(2枚目の写真)。ダビッドが川を渡り終えて対岸に着くと、上空で音がする。それは、ビクトリアの飛行機だった。カメラは機内に変わり、ビクトリアが拳銃を取り出し、背後にある燃料タンク(?)を見る。次に、上空の月を見上げる。ダビッドが見上げていると、月の横で大爆発が起きる(3枚目の写真)。ビクトリアが、ダビッドを月の子どもにするために、飛行機を自爆させたのだ。
  
  
  

予言通りの兆しに ダビッドが笑顔になる(1枚目の写真)。それを長年にわたって待っていた黒人たちの間には緊張が走る。ダビッドが土の斜面を這い上がって来ると、待っていた族長か呪術師が、ダビッドに向かって手を上げる(2枚目の写真)。ダビッドは、それをじっと見ている(3枚目の写真)。黒い手がダビッドの白い胸に触れたところで映画は終わる。
  
  
  

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