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King of the Hill わが街セントルイス

アメリカ映画 (1993)

大恐慌の真っ只中に置かれた、ふがいない父親と成績優秀なアーロンの物語。一家が住みついているのは安ホテルだが、父の訪問販売型セールスマンでは収入がほとんどなく、ホテルには未払いの借金が返せないほど膨らんでいる。このホテルの3階には、大恐慌で収入を絶たれた人々が多く滞在し、お陰でホテルも危機に瀕し、ホテルの経営を銀行が握る。銀行は、多額の未払い金を抱えた入居者の追い出しにかかり、その手下として働く ホテル・ボーイのベンの乱暴な行為で、多くの入居者が着の身着のままで部屋から追い出され、部屋には 南京錠が掛けられ、所持品も回収できない。そんな危機的な状態の中で、アーロンの母は持病の肺結核が悪化してサナトリウムに隔離され、父は新たな会社のセールスマンとなるものの、担当区域は別の州。弟は、もっと前から伯父の家に預けられているので、アーロンは一人でホテルに取り残される。そこに舞い込む 1通の手紙。アーロンは立ち退きを求められる。ベンは退室を強要し、アーロンは部屋に逃げ込んで籠城する。残された食料は小さなパンが1~2日分。そこから、アーロンの生存のための戦いが始まる。

アーロンには、頭がよくて 育ちが悪いことから、平気で上手な嘘をつくという特技がある。金持ちのクラスメイトのビリーを救ったことで、豪邸に連れて行かれた時には、調子に乗って、父はパイロットで 立派な家を新築中だと嘘をつく。彼は、8年生で、すぐに卒業式があり、最優秀な生徒に与えられる賞をもらう。その余勢を駆って出かけたパーティでは、卒業式にアーロンの両親がいなかった理由を 大好きなクラスメイトの女生徒クルスティーナから訊かれたため、困って、両親は考古学者で行方不明だと嘘をつく。ところが、この嘘を真に受けて驚いたクリスティーンが友達に話したことから、この嘘は、女生徒から女生徒へとあっという間に広がり、それが歪曲されてビリーの耳にも入る。パイロットと虎ハンター(歪曲の結果)とではあまりに違うので、ビリーに糾弾されたアーロンは、豪邸から逃げ出す。この映画のメインテーマはアーロンの飢えとの戦いだが、こうしたアーロンの不安定な中学最後の生活が 映画に彩りを添えている。他にも、ホテルの住民3人(レスター、ムンゴ、エラ)との交友関係もあるが、付け焼き刃的で物足りない。それに、下に書いたように、残念だが 主演のアーロンの演技はパッとしない。しかし、全体の雰囲気・緊迫感は、監督が翌年製作した『エリン・ブロコビッチ』と『トラフィック』でアカデミー監督賞にダブル・ノミネートされたスティーヴン・ソダーバーグだけあって、必見に値する。

アーロン役は、ジェシー・ブラッドフォード(Jesse Bradford)。映画の撮影は1992年7~9月。ジェシーは、1979年5月28日生まれなので、撮影時13歳。彼の映画出演はかなり早く、映画初出演は、『Falling in Love(恋に落ちて)』(1984)のデ・ニーロの息子役。この映画は何と9作目。これまで紹介した映画の中では、『The Boy Who Cried Bitch(『やれよ、くそ女』)』(1991)に、この映画のレスター役のエイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)と一緒に脇役として出演しているが、主演のハーレイ・クロス(Harley Cross)の演技があまりに素晴らしかったので、印象はゼロに近かった(エイドリアンの方がまだ目立っていた)。この映画でも、演技が巧いとは一度も感じさせないが、それでも、現在に至るまでTVを中心に出演作は55本に達している。

あらすじ

映画は1933年の5月から始まる。この時代のアメリカは6-8年生を対象とした中学校が設立された時代にあたり、アーロンは8年生なので中学3年生(13-14歳)に相当する。アーロンは、担任が毎日、数名の生徒に発表させるアメリカのヒーローに関するレポート〔report〕を、教壇の脇に立って読み上げている(1・2枚目の写真)。教師はレポートと明言していて、作文〔composition〕ではない。厳密に言えば、レポートは内容に普遍性(事実)が求められるのに対し、作文は個人の体験、意見、感想、空想など交えて文章化したものとされている。アーロンの発表は、6年前(7-8歳)の時に、初の大西洋単独無着陸飛行を控えたリンドバーグから電話があり、「どんな食べ物を持って行ったらいいか?」との問い掛けに、「チーズサンドイッチなら間違いない」と答えたという会話を含む個人的な体験〔もちろん嘘〕を、如何にも事実のようにまとめたもの。これでは、レポートの定義に違反しているが、アーロンを気に入っている教師は、「ありがとう。とても… 創作力があるわね」と、レポートからの逸脱に対して批判はしない。アーロンの発表が終わると、クラスで一番美人のクリスティーナがアーロンを見てニッコリする(3枚目の写真)。これまで親しかった訳ではないので、アーロンが周りをみて、笑顔が自分に向けられたことを初めて知る。次の発表者ビリー〔クラスで一番の金持ち〕の選んだヒーローはロックフェラーで、彼の慈善家としての一面に焦点を当てているので、レポートに相応しい。

アーロンは、弟のサリヴァンが小学校から出て来るのを待っていて、一緒に歩いて住んでいるホテルに向かう。途中で通るのが、映画の最後に出てくるカールトン・コートという架空の高級なアパート(1枚目の写真)。そこからしばらく歩いて、通りに面した煉瓦建ての立派なビルが見えてくる。2枚目の写真を見ると、セントルイスの中心に近いところにある繁華街のような印象を受けるが(矢印には、帝国ホテル〔Empire Hotel〕という看板が掲げてある)、現状は、3枚目の写真。2枚目の写真で1つの建物に見えた煉瓦のビルは2つのビルが並んでいただけで、手前のビルは現在撤去されてしまい、周辺も閑散としている〔ダウンタウンから5㎞も離れた寂れた地域〕。だから、2人が入って行ったホテルも(4枚目の写真)、名前は立派だが、泊っている人々の多くは長期にわたってこのホテルに住みついている “豊かとは言えない” 人々で、世界大恐慌で収入がなくなり、次々と追い出されている。

2人がエレベーターに乗って〔エレベーターガールが操作している〕3階で降りると、廊下の先で、画家の抗議する声が聞こえて来る。「私は、絵の具と数本のブラシが欲しいだけだ」。「俺は、デゾットさん〔支配人〕に言われた通りにしてるだけさ」。2人が、廊下の角から覗いて見ると、画家が部屋から閉め出され、1人しかいないホテル・ボーイのベンが 部屋に南京錠をかけて入れないようにしている(1枚目の写真)。「私にとって必需品だ。それがなきゃ、部屋代を稼ぐこともできない」。「そりゃ、難問だな」。「幾ら払ったら、5秒だけ部屋に入れてくれるね?」。「そんな金、持ってないだろ」。画家は、ベンを押しのけて部屋に入ろうとするが、逆に何度も殴られる。それを見て、2人は怖くなって走って自分たちの部屋に飛び込む。すると、母が深刻な顔で座っている。アーロンが「どうしたの?」と訊くと、父は 「お前たちの母さんと俺とで決めたんだ」と答え、すかさず、母が 「あんたが決めたのよ」と否定し、父は 「同意したろ」と言う。その内容とは、サリヴァンを伯父のネイサンに預けるというもの。理由は、1週間で1ドル節約できるから。アーロンは 「1週間に1ドル、僕が稼ぐよ」と言うが、父は 「たかが8年生で、そんな大金稼げるんか? 大黒柱だな」とバカにし(2枚目の写真)、妻から注意される。アーロンは、サリヴァンが可哀想なので 「小さ過ぎるよ。僕を行かせりゃいい」と言うが(3枚目の写真)、「もう決めた」と けんもほろろ。それどころか、「さっきは何だ、火事でも起きたみたいに部屋に入って来て、二度とするな」と叱られる。アーロンが、「サンドスさんが部屋から閉め出された」と話すと、母は急に心配になり、「3階では、そんなこと起きないと言ったわよね」と 夫に不安をぶつける。夫は、「俺は、デゾットに顔が利くから大丈夫だ。それに、奴は、俺が じきハミルトン時計の訪問販売員になれるって知ってるからな」と答える。

サリヴァンが、飼っている籠の中のカナリアを持って行きたいと言うと、父は、「バスには乗せられんぞ」と言う。それを聞いたアーロンは、「バスで行くの? なぜ車で連れてかないの?」と訊く。その時の父の返事は、ある意味 恐ろしい。「俺の車は、見つけたらすぐに差押えようと待ち構えられてる〔車のローンが未払い〕。どうして運転なんかできる? それに、ガソリン代の金なんかどこにあるんだ? お前の母さんの歯を治療する余裕すらないんだ」。それほど危機的状況にあるとは。バスに乗る前に、サリヴァンは母に抱き締められ、父には 「すぐ会えるさ」と言って、頭を撫でられる(1枚目の写真)。そして、「UNION BUS TERMAL」と表示されたビルの前に停まったシカゴ行きの長距離バスに、サリヴァンが乗ろうとして歩み出す(2枚目の写真、矢印)〔なぜシカゴ行きのバスに乗るのだろう? 後で分かるのだが、サリヴァンの行き先はアイオワ州のKeokukという小さな町(セントルイスの北北西約220㎞)。シカゴ(北東約400㎞)とは方向が違う。州都のデモイン行きのバスに乗るべき〕。なお、このロケ地は、セントルイスでは最も由緒ある農産物市場のSoulard Farmers' MarketにあるGrand Hall(1929年)の前の公園(3枚目の写真)。従って、実際にはバス乗り場ではない。バスの乗車口の階段を一歩上がったサリヴァンが、「僕、行きたくない」と言ったので(4枚目の写真)、アーロンは、「心配するな。僕が金を稼いで、お前を連れ戻してやる」と慰める。しかし、サリヴァンは、そんなことできっこないと思っているので、「どうやって?!」と不審感をぶつける。アーロンは、「まだ分かんない。だけど、レスター〔年上の友人〕ならきっと何か思いつく」と言い、カナリアの世話はちゃんとすると付け加え、少しでも安心させようとする。そして、一番上等のビー玉を渡し、サリヴァンは笑顔になってバスに乗り込む。

恐らく翌日、アーロンが授業を終えて帰ろうとすると、ビリーが2人の上級生から、ビー玉での勝負を迫られている。アーロンは、「ビリー、大丈夫?」と声をかける。すると、上級生の1人が、「このチビの意気地なしは、ビー玉10 個に当ててみせると大口叩いたくせに、今になって逃げようとしてやがる」と言い、ビリーは、「だって、彼らのビー玉は安物なんだもん」と不満を洩らす。それを聞いたアーロンが、ビー玉が得意なので、「こうしようよ。2人で組んで勝負しよう。僕ら対、あんたたちで。僕が5つ、ビリーが5つ、そっちが10だ」(1枚目の写真)。相手もそれにOKし、互いに5つずつ出し(2枚目の写真)、手を下に向けて地面に落とす。最初にビリーがビー玉を1個手に取り、親指で押し出して他のビー玉に当てようとするが、不器用なので外してしまう。次は相手の上級生。しかし、こっちも外してしまい、もう一人から文句を言われる。3人目がアーロン。次から次にビー玉を当てて行き、最後に残ったビー玉は、品質が悪くて、当たった途端、粉々に割れて飛び散る。ビリーは、あまりの凄さにびっくりし、上級生は 「運が良かっただけさ」と言って去って行く。ビリーは、感謝を込めて、帰ろうとするアーロンに、「ソーダか何か 飲みに来ない?」と誘い(3枚目の写真)、アーロンは 一緒に行くことにする。

アーロンは、ビリーを迎えにきた母親の運転するリンカーンModel Lに乗せられてビリーの豪邸に向かう。途中で、母親が車を停めると、「ご覧なさい、ビリー、あのセールスマン。火を点けることもできないロウソクなんて、誰が買うのかしら?」と見下げたように言う〔実際には、ロウソク本体と炎の部分が一体化した透明なガラス製品。何の目的で作られたものなのだろう?〕。アーロンが後部座席から見ると、それは、1個も売れていない箱を公園の階段に置いて 暇そうに座っている父だったので、気付かれないようにシートの奥に小さくなって体を押し込める。そして、次のシーンでは、閑静な高級住宅街の中でもひときわ立派な煉瓦の館の敷地内に車が入って行く(1枚目の写真、矢印は車)。アーロンはビリーの部屋に連れて行かれる。ビリーは、「小鳥は好きかい?」と尋ねる。「好きだよ。カナリアを1羽飼ってる」。それを聞いたビリーは、カナリアの入った立派の籠が一杯ぶら下がっている部屋にアーロンを案内し、「何羽飼ってるの?」と訊く〔アーロンは 「a canary」と単数形で言ったのに、ビリーは人の話を聞いてない子だ〕。「今は1羽だけだけど、僕の唇からブドウを食べたり、ブドウを口から出すと指に飛んでくんだ」と、本当とは思えない嘘をつく。そして、「なぜこんなにたくさん飼ってるの?」と訊く。ビリーは 「飼育するのが 趣味なんだ」と言い、1羽3ドルで売っていると話す。それを聞いたアーロンは、喉から手が出るほどお金が欲しいのでびっくりする。ビリーは、買ってくれる店を紹介してくれ、価値のないメス〔鳴かないので売れない〕を1匹プレゼントしてくれる(2枚目の写真、矢印)〔アーロンはオス1羽なので、つがいにすれば雛が産まれる〕。そのあと、そこにビリーの母が加わり、夕食を食べていくことを勧めるが、アーロンは、「母が麻雀大会を主催するので、僕にもいて欲しいと言ってました」と嘘をつく。ビリーが、「自宅で大会を主催するの?」と驚くと、「ううん、新しい家が完成するまで、ホテルに住んでるんだ」と答える。「どんな家を建ててるの?」。アーロンは、「こんな感じの普通の家」と、如何にも当たり前といった顔で、一番ひどい嘘をつく(3枚目の写真)。自分の館に誇りを抱いている母親は、いったいどんな人物がこんな家を建てられるのだろうと思い、「お父さんは、何をなさってるの?」と尋ねる。アーロンは 「パイロットです」と致命的な嘘をつく〔後で、嘘がバレる〕〔1933年の航空会社のパイロットの給与は、初年度の基本給が、昼間飛行のみの場合年$2000、昼夜両方の場合は年$2400。それに飛行距離に応じて1マイル当たり¢4。1ヶ月10000マイルの場合は$400になる。昼夜両方の場合は基本給と合わせれば$600。基本給は年ごとに年$100昇給 ⇒ Inflation Calculatorによれば、1933年の$400は2020年の約$8000(≒85万円)。全米でパイロット282名しかいなかった割には、決して高給取りではなかった ⇒ このような家を持つことは不可能〕(データは、1953年の「The Development of the Mileage Limitation Concept for the Airline Pilot」という論文による)。ビリーは、「だから、リンドバーグのこと知ってたんだね」と感心する。

アーロンは、車で送ってもらわずに、鳥籠を持って歩いてホテルまで戻るので、豪邸とホテルとは、何㎞も離れていないという設定(1枚目の写真、矢印)。ホテルの前まで来ると、いつもの “豚のように太った意地悪警官” が、小さな子供を虐めてリンゴを奪い、齧って食べている。アーロンは、汚らわしい奴という顔で、警官の行為を見ている。アーロンが3階の廊下を歩いていると、開いたドアから、同じ年頃の眼鏡の少女エラが、アーロンに「今日は」と声をかける(2枚目の写真)。アーロンにとって、彼女は好きなタイプではないが、立ち止まると 「今日は、エラ」と返事をする。「それ、何なの?」。「カナリアだよ」。「1羽いたわよね?」。「うん、だけどこれメスだから、繁殖させるんだ」。「ウチにもカナリアが1羽いたわ。カナリアって、神経質だと思わない? だから、猫でも飼った方がいいわ」。話が長くなりそうなので、アーロンは適当に言い訳をして、部屋に向かう。ドアを開けて中に入ると、母が ベッドメイキングをしながら 「何を持ち帰ったの?」と訊く。「ビリーが、カナリアを1羽くれたんだ」。「もう1羽いるじゃない」。「これはメスだよ。雛1羽につき3ドルで売れるんだ」。「そんなにするの?」。「ビリーの話じゃ、メスは平均4個の卵を産むから、12ドルになるって。サリヴァンを呼び戻せるよ」(3枚目の写真)。「そうなるといいわね」。「父さんはどこ?」。「ロウソク売りよ」。「なぜ、役に立つものを売らないの?」。「お父さんは ベストを尽くしてるわ」。

アーロンは、レスターからの伝言が、ドアの下に入っていたので、お気に入りの帽子をかぶって会いに行く〔帽子に付いているのは、シガー・バンド(葉巻の周りの細い紙の帯)のコレクション〕。アーロンが、「サリヴァンが伯父さんの所に行かされた」と報告すると(1枚目の写真)、レスターは 「お前には、行かされる弟がいるじゃないか」と、変な慰め方をする。レスターが、ゴルフのキャディバッグを持っていたので、それについて訊くと、レスターは、これはアルバイトで、問題は 「最初の数回はキャディマスター〔キャディの監督〕と稼ぎを折半しないといけない」ことだと言い、収入は50セントだと話す〔1933年の¢50は、2020年の$15(≒1600円)。日本のキャディーのアルバイト代は1ラウンド7000~11000円が相場だと書いてあったが、それと比べると、折半でなく全額の$1でも3200円。かなり安い〕。話が一段落すると、レスターは、キャディバッグに入っているゴルフクラブは、すべてベンが管理している物置部屋から盗み出した物で、気付かれる前に戻す必要があると話す。アーロンが、「どうやって物置部屋から持ち出したの?」と尋ねると、レスターは1本の小さなナイフを取り出して見せる(2枚目の写真、矢印)。ここで、場面は変わり、授業の最中に、担任が 「ちょっと外で話したいことがあるの」と言って、アーロンを廊下に連れ出す。そして、学校の書類に記入されているアーロンの住所が、最新のものではないと指摘〔手紙を出したら届かなかった?〕。「ご両親に連絡を取る必要があるかもしれないので、引っ越したら学校に知らせてね。今はどこに住んでるの?」と質問する。「ライリー・ストリート4519番地のカールトン・コートのアパートです〔2番目の節で、アーロンとサリヴァンが歩いていた場所の背後にある高級アパート〕。でも、何かを送られる時には、ドナルド・ミラー〔カールトン・コートに住んでいる父の知人〕名義にして下さい。父さんは、政府で働いてて、時々郵便物が盗まれます。外国のスパイだと思いますが、確かではありません。だから、ドナルド・ミラーにしておけば、誰にも気づかれません」(3枚目の写真)。この会話で、アーロンが嘘つきの常習犯だということが分かる。

学校からの帰り、帽子をかぶって、道路の端にシガー・バンドが落ちていないか探していたアーロンは、Flor Finaの超有名な葉巻のシガー・バンドを見つけて手を伸ばす。すると、豚警官がいきなりアーロンの耳をつかんで、「下層移民のチビ助が、またタバコの吸い殻を拾いおって」と勘違いして罵倒する。アーロンは、「タバコじゃない、シガー・バンドだ」と反論するが、「この嘘つきのチビ泥棒めが。あのユダ公と同じだ。奴は何て名だ」と訊く。「レスター」(1枚目の写真)。「お前のオヤジはどこだ? ザワークラウトの国〔Krautland、ドイツの蔑称〕に帰ったのか? 最近、車で走り回っとらんな。没収されたのか? どこかに隠したに違いない。路地裏か?」。「知らないよ。そうかも」。「『そうかも』だと? 今に思い知らせてやる」。アーロンは、豚警官が去ると、教科書をぶら下げてホテルに入って行く。それを通りで担任が見ている。アーロンが白々しい嘘を平気でついたことが分かってしまう。ホテルに入って行くと、入口で見張っていたベンが、「仕事したいか?」と訊く。そして、貯蔵室と書かれた部屋に入って行くと、酒瓶の入った紙袋を持って出てきて、「310号室に届けろ」と言う(2枚目の写真)。「何くれるの?」。「俺に気に入られる」。その言葉で、アーロンは満足させられ、310号室〔アーロンの部屋の、廊下を挟んで反対側の部屋〕まで行く。ドアを開けた年配の男性は、「やあ、アーロン」と言うので、顔見知りだ。アーロンは、「今日は、ムンゴさん」と挨拶。ムンゴは、アーロンが腕に挟んだ酒瓶を見て、「ベンに徴兵されたか」と笑顔で言う(3枚目の写真)。アーロンは、「はい、そうです」と敬語を使い、瓶をムンゴに渡す。ベンが持っていた杖にアーロンが目を惹かれたので、ムンゴは、「サイの足の骨で出来ている。100ドルしたんだ」と話す。アーロンは、その値段にびっくりする。ムンゴは 「何年も前の話だ。その頃には、私は、お札で葉巻に火をつけるようなことをしてた」と、羽振りの良かった頃の話をする。そして、最後に 「そのシガー・バンドのコレクション、どうしたんだ?」と訊き、「気が付いたら、取っておくよ」と言ってくれる。

アーロンが、向かい側のドアを開けて “帰宅” すると、父と母が揃っていて、母が外出用の一張羅を着ている。不安になったアーロンは、「どうしたの?」と尋ねる(1枚目の写真)。すると、父が 「あのな、お前の母さんは…」と言い始めると、母が夫の発言を止め、自分で説明を始める。「専門のお医者さんがね、しばらくサナトリウム〔結核療養所〕に戻った方がいいって言ったの。でもね、深刻なものじゃなく、僅か1・2ヶ月の療養でいいんですって。心配なのは、あなたをここに一人で置いておくことなの」。さっそく父が、「何を言ってる。彼は一人じゃないぞ。俺が一緒にいるじゃないか」と妻に言う。母:「私が心配してるのは、誰もあなたを世話してくれなくなることなのよ」。父:「あいつなら、自分の面倒ぐらい見れるさ。さあ出かけるぞ。6時までに着かないと。かなり遠いことぐらい知ってるだろ」。父は、そうと言うと、向かい合っている2人の前を横切ってドアに向かう(2枚目の写真)。母は、「毎週日曜に、会いに来ていいのよ。最初の2週間は駄目だけど、それ以降なら」と勇気づけるように言うが、父は 「医者どもは、そいつを中には入れてくれん。如何に厳しいか、お前も知っとるだろ」と、妻に注意する(3枚目の写真)。アーロンは、車まで母にさよならを言いに行くことも許されず、部屋に残るよう言い渡される。

しばらくすると、ビリーからもらったカナリアのメスが5羽の雛を産む。アーロンが、ベッドに腰かけてビー玉でわびしく遊んでいると、ドアがノックされ、「誰?」と訊くと、「エラ」と言う返事が返って来る。そこで、アーロンがドアを開けると、「カナリアの赤ちゃん、見せてもらえるかしら」と言う。エラにまとわりつかれるのが好きでないアーロンは、「まだ孵化してない」と嘘をつく。「じゃあ、孵化したら見に来ていい?」。「いいよ」。アーロンがドアを閉めようとすると、アーロンが好きなエラは、「ホットドッグ 食べない?」と訊く。始終外回りをしている父と2人だけの生活では、垂涎の提案なので、さっそくエラの部屋に行く。鍋では、ソーセージが2本茹でられている。待っている間、エラは、「何か音楽聴かない?」と訊き(1枚目の写真)、返事も聞かずにそのまま立ち上がってラジオのスイッチを入れ、「好きな曲だわ。踊らない?」と誘う。ホットドッグがすべてに優先するので、アーロンは立ち上がると、生まれて初めてのダンスに無理矢理挑戦させられるが、目は、ついつい、ソーセージの方を見てしまう(2枚目の写真)。エラは、幸せ一杯で、アーロンの頭に自分の頭を寄り添わせ〔アーロンより背が高い〕、目を閉じて静かに踊っている〔相手が初心者なので〕。それを隣の部屋から覗いたエラの母は、満足そうな笑顔になる〔3階の他の住民よりは裕福〕。しかし、しばらくすると、エラの具合が急におかしくなったので、アーロンはエラを床に寝かせ、エラの母を呼ぶ(3枚目の写真)。それは、てんかんの発作で、母はアーロンにエラの頭を上げさせ、舌を噛まないよう口の中に棒を押し込む〔映画でよく見るシーンだが、てんかん情報センターのサイトには、「口を無理に開けて箸や棒を挿入してはいけません。このような行為は口内を傷つけたり、歯を折ったりすることになりかねません」と書かれている〕。発作は軽く済んでエラは母に抱かれてよろよろと立ち上がるが、茫然として見ているアーロンに、「びっくりした? 悪いことしちゃったわね」と謝る。アーロンは 「君は病気だったけど、もう良くなった」と慰め、ソーセージは諦めて出て行く。その際、「また、来てくれる?」とエラが必死に言ったお願いに、「もちろん」と返事する〔アーロンは嘘つきだが、優しいところもある〕

同じ日か、別の日かは分からないが、アーロンは、自分と父の食事の用意をしている。生鮮食品やソーセージなどないので、何と、ケチャップを深皿に入れ、それにお湯を注いだだけの料理(1枚目の写真、矢印はお湯)。父は、ハミルトン時計(販売)会社への就職の応募状を書いている。売れないロウソクで懲りているので、アーロンは、「WPAでの仕事はどうなってるの?」と訊く(2枚目の写真)〔WPAは、ニューディール政策の一環として設立された政府機関「雇用促進局」。ただ、大きな問題は、この映画の舞台は1933年なのに、WPAの設立は1935年だという歴史的にあり得ない矛盾〕。「両方通ったら、どうするの?」。「そんなことは、大した問題じゃない〔least of our problems〕」(3枚目の写真)〔WPAの職は収入が保証された安定した地位なので、どちらが通るかは 「大した問題」のハズ〕

次のシーンは、学校で、担任がアーロンに、言われた通りに住所を変更したと伝えるが、なぜ、アーロンが嘘をついたことを咎めず、言った通りに変更したのかは分からない。アーロンが優秀なので、不幸な境遇に同情しているとしか思えないのだが、あり得ることなのだろうか? 学校の帰り、ホテルの前で、アーロンはまた あの豚警官につかまる。道路の反対側には、父の車と同じ型の車が停まり、2人の男が立っている。豚警官は、「下層移民のチビ助め、お前の立場は最悪だぞ。この前、お前は オヤジが車を駐車場に停めてると言ったな。じゃあ、あそこにあるのは何だ?」と耳を引っ張りながら訊く(1枚目の写真)〔以前は、そんなことは言っていない。豚警官が、「どこかに隠したに違いない。路地裏か?」と訊き、アーロンは「知らないよ。そうかも」と答えただけ。だから、これは豚警官の汚い策略〕。アーロンは、「父さんの車のハズがない!」と全否定。豚警官は 「じゃあ、俺を嘘つき呼ばわりか?!」と、アーロンの両耳をつかむ。そして、「いいか、あれはお前のオヤジの車なんだ。だから違反切符を…」。「そんなハズない。父さんの車は デヴィットソンさんちの裏の路地だ!」(2枚目の写真)。これを聞いた豚警官は、トリックがうまくいって大喜び。アーロンは、自分を、「バカ、バカ」と罵るが、事が重大なので、レスターに支援を求める。2人は、アーロンの父の車めがけて全力で走る(3枚目の写真)。

レスターが車に乗り込んで運転しようとするが、ガソリンが入っていない。そこで、アーロンを運転席に座らせ、レスターが後ろから押して道路まで出すことにする(1枚目の写真)。しかし、車が動き出すと、坂になっているので、レスターは 「ブレーキを踏め!」と言うが、アーロンは、両方の足がペダルに届かない。スピードは時速25マイル〔40㎞〕を超えて上がっていくが、ずっと坂道なのでどうしようもない。足元に気を取られていて、前から来たトラックとぶつかりそうになる。車がカーブを曲がって直線区間に入ると、前方の道路で子供達が野球ごっこをして遊んでいる(2枚目の写真)。アーロンはクラクションを何度も鳴らし、子供達は必死に逃げて衝突は避けられたが、すぐその先に交通量の多い道路との交差点がある。何台もの車が行き交っていたが、そこにも構わず突入。幸い、ぶつからずに突破(3枚目の写真、矢印は子供達)。因みに、この撮影場所は、セントルイスではなく〔セントルイスは平坦な場所で、こんな急な坂道はない〕、セントルイスの北約30㎞にあるイリノイ州のAltonという人口3万以下の小さな町の、West 7th st.がBelle st.にぶつかる所(4枚目の写真)。その先は登坂になっていたので、車は自然に停まり、今度はバックしようとするが、アーロンは、後輪を路肩にぶつけて車を停め、ホッとしたあまり気を失いそうになる。そこに、最短コースを走って追ってきたレスターが現われ、「怖かったか?」と笑顔で訊く(5枚目の写真)。そして、ガソリンの入った金属ボトルを見せるのだが、そんなことをしている暇があったのだろうか?。

アーロンが意気揚々と帰ってくると、ちょうど父も帰ってきていて、アーロンが車のことで話そうとするのを遮り、訪問販売員として雇われたと言い、時計を見せる(1枚目の写真)。そして、アイオワ〔セントルイスのあるミズーリ州の真北の州〕、カンザス州〔ミズーリ州の真西の州〕、オクラホマ〔ミズーリ州の西南端と一部接する州〕の代表者になったと自慢する。アーロンは、「ミズーリ州は?」と訊く。「望んだんだが、取れなかった。だがな、分かるだろ、一文なしには選べないのさ」。これで、13歳のアーロンは、お金もないまま、いつ放り出されるか分からないホテルでの一人暮らしとなる。アーロンは、「今すぐ出かけるの?」と尋ねる。父は、今すぐに出かけると言うが、その先の言葉の意味が分からない。それは、スーツケースの中の時計が、「ほとんどの時計はただの見本で、中に器械は入っていない」という言葉。もし、時計が動いていなければ 誰も買わないハズ。ということは、これで注文を取り、交渉がまとまったら、会社が本物の時計を買い手に郵送するというシステムなのだろうか? “火を点けることもできないロウソク” の時と同じで、観客への説明に欠けている。父の言葉はさらに続く。スーツケースの中には、2つだけ本物があったので、その1つをレストランで働いているマニーにプレゼントした。だから、アーロンがそのレストランに夕方行けば、豪華ではないが、毎晩ちゃんと食事を食べさせてくれる。もう1つはホテルの支配人のデゾットに渡した。彼は、未払いのホテル代から17ドル差し引いてくれた。だから、アーロンが無下にホテルを追い出されることはない。これらは、自分がセントルイスからいなくなることで、アーロンを危機に晒さないための配慮だ、というもの。父は最後に、お小遣いだと言って25セント渡す。アーロンは、「卒業式には出ないんだ」と悲しそうに言う。「もちろん、お前が卒業証書を受け取るところは見たい。だが、選択の余地はないんだ」(2枚目の写真)。そして、仕事が終わればすぐ戻ると言うが、アーロンが 万一の際の連絡先を訊いても、町から町に移動しているから無理だと答える。アーロンは、父の不在がデゾットに知られることを怖れるが、17ドル払ったのは、旅に出る許可を得るためだと言われて安心する(3枚目の写真)。

アーロンは、車を停め直した所まで父を連れて行く。当然、その時の経緯を父に話したので、父は、「幸運だった。お前たちは車を救ってくれた。でないと、仕事に行けなかった」と感謝する(1枚目の写真)〔アーロンが、豚警官に騙されなかったら、車は元の位置に安全にあったハズなので、お礼は、空のタンクにガソリンを入れてくれたレスターに言うべき〕〔それにしても、この一件がなければ、車にガソリンは入ってないので、その時は、どうするつもりだったのだろう?〕。父は、町中に行くと差し押さえられるといけないので、アーロンを車で送らず、そのまま立ち去ることにする。そして、別れるに当たり、「お前は賢い子だ」と何度も言ったあとで、変わった話をする。「お前が1歳に満たない時、お前の母さんは肺結核でサナトリウムにいて、お前は毎晩泣いてた。最初の数回、俺が抱き上げると泣き止んだから、お前は 構って欲しいんだと分かった。だから、次の時、コップ1杯の冷たい水を持ってベビーベッドを見下ろし、『これは、コップ1杯の冷たい水だ。泣き止まないと、後悔するぞ』と言った」(1枚目の写真)「だが、お前は泣き止まなかった。そこで俺はお前の顔に水を掛けてやった。すると、お前は泣き止んだ。それからは、お前が泣くと、俺はコップ1杯の冷たい水を見せ、お前は泣き止んだ。賢い赤ん坊だろ?」(2枚目の写真)「お前は、立派な奴だ〔mensch、“ドイツ人” の意味もある〕。それだけ言うと、手を上げて去って行く(3枚目の写真)。

ここからは、アーロン1人になってからの、いろいろな出来事が、短く紹介される。まず、最初は、以前のようにベンの命令で酒瓶をムンゴに届けた時(1枚目の写真)、初めて中に入れてもらえる。中のソファに座っていたのは、リディアという名の売春婦。アーロンが、「ハロー」と声をかけても、憮然とした表情を寸分も変えずに、黙ったままでいる。ムンゴは、「リディアは、ホテルで働いてるんだ」と、アーロンに教える。アーロンが 「何してるの?」とリディアに訊くと、相変わらず表情すら変えないので、ムンゴが 「顧客サービス係にいる。大変な仕事だよ。だが給料は多いし、ある種の野心を持った人には、昇進の機会があるんだ」とアーロンに教え、持って来た酒を2つのグラスに注いで、リディアに差し出すと、1つを受け取ったリディアは、ムンゴの過剰な説明に「皮肉屋〔Smart-ass〕」と一言。ムンゴは、「ありがとう」という(2枚目の写真)。そのあと、ムンゴはアーロンにチップを渡そうとするが、「好意で やっただけ」と断って出て行く。その言葉に、リディアとムンゴも感心する。

次にアーロンが行ったのは、父が話していたマニーのいるレストラン。店内に入って行ったアーロンが、「すみません、マニーはいませんか?」と、準備中のボーイに尋ねると、店の経営者が出てきて、「マニーに何の用だ?」と尋ねる。「僕の父さんが、マニーと取り決めをしたんです」。「奴は、多くの人々と取り決めをしたことが判明した。わしに勝手にな。だから、あのクソ野郎は解雇したんだ」。「でも、僕の父さん、彼に高価な腕時計をあげたんです」(1枚目の写真)。「知らんな、坊主」。「夕食の時間に、僕に食べ物を出してくれるって」。「いいか、さっき言ったろ。あいつは、わしから盗んだ。だからクビにした。話はこれでおしまいだ」(2枚目の写真)。食べないと生きていけなので、アーロンは、「25セントで何が手に入ります?」と質問する。「丸いパン20個だ。長続きするぞ」。

アーロンは、カナリアの雛5羽を売る前に、エラに見せようと、ドアをノックすると、出て来た母は、エラは てんかん発作がまた起きて寝ている。イリノイ州にいる姉の旦那が医者なので、そちらに転居すると話す。アーロンは、ビリーに教えてもらった店までカナリアを持って行くと、何と5羽ともメスだと分かる。店主は メスは鳴かないので売れないと言うが、アーロンを可哀想に思ったのか、50セントで引き取ってくれる(1枚目の写真、矢印は持ってきた雛)。アーロンは店を出て行こうとして子猫に目を留め、エラが欲しがっていたのを思い出し、その50セントで子猫を買う。そして、エラの部屋を再び訪れると、ベッドで寝ているエラの所に子猫を持って行く(2枚目の写真、矢印は子猫)。エラは、猫を抱いて喜ぶ。

次は、学校の昼食の時間。食堂では、各自が持って来た昼食を食べている。アーロンが食べているのは、レストランで買った20個の丸パンを2つだけ(1枚目の写真)。他には何もなし。アーロンが見ているのは、自分の前に座った男子生徒が食べている昼食。内容は、食パンに野菜や肉(?)を挟んだサンドイッチ。しばらくすると、その生徒が、他の生徒に呼ばれて席を立つ。アーロンは、さっそく立ち上がると、男子生徒の席まで行くと、サンドイッチを1つ頂戴し、席に戻って大急ぎで食べる(2枚目の写真、矢印)。しかし、アーロンの1つ後ろのテーブルに座っていたクリスティーナに、そのすべてが見られていた。午後の授業の時間は、この中学での最後の授業。担任が、全員に成績表を渡し、卒業式で何をするかを簡単に説明し、「素晴らしいクラスでした。夏を楽しんでください」で締めくくる〔因みに、成績表は月ごとの成績が9月から6月まで10列示され、科目は、算数、代数、歴史、国語、地理、科学の6項目。アーロンの成績は、代数で3回B、歴史で1回Bがある他は、すべてA〕。授業が終わると、クリスティーナがアーロンを呼び止め、「ビリーの卒業パーティには出るんでしょ?」と訊く。「うん、そのつもり」。「それが終わったら、私の両親が、特別なディナーに連れて行ってくれるの。誰か、一緒に来てもいいと言ってくれたんだけど、あなた、来たくない?」と訊く(3枚目の写真)〔さっきの行為を見て、飢えていると思った〕。アーロンは、「素敵だね」と大喜び。「じゃあ、ビリーの家に一緒に行きましょ」。

アーロンがホテルに戻ると、受付に手紙が届いていた。それは、待望のWPAからのものだったので(1枚目の写真)〔ここに書いてあるホテルのアドレスは正しく、お陰で、冒頭のGoogle street viewが作成できた〕。アーロンが、さっそく、その封筒を別の封筒に入れ、ハミルトン時計社気付で父に送る。それが終わると、卒業式に着ていく服をクローゼットの中から探し出すが、普段着たことがなかったので、久し振りに着てみると、成長した分 服は “ちんちくりん”(2枚目の写真、矢印は短い袖口)。そこで、何にでも頼れるレスターに相談に行く。親切なレスターは、「分かった。何とかする。式はいつだ?」と訊く。「明日の正午」。「なんでもっと早く言わなかった?」。「今、気が付いたんだ」。「仕方ない、これでいくぞ。ヤバイがな」。

レスターは、こっそり階段を降りて行き、ベンがホテルの玄関の脇でだらしなく眠りこけているのを確認すると、アーロンと一緒に物置部屋の前に行き、小さなナイフを鍵穴に突っ込んで解錠する。物置部屋の中は、追い出した “ホテル住民” の持ち物で溢れていた。中には、映画の冒頭で追い出された画家が、アーロンを描いてくれた絵もあった(1枚目の写真)。次に、アーロンが注目したのは、たくさんの南京錠が入った木箱。鍵が付いているので、この先、住民を追い出した部屋のドアに掛けるために置いてある(2枚目の写真)。レスターは、せっかく危険を冒して物置部屋に入ったので、自分用に酒1ダースを確保する。アーロンは簡易な洋服掛けから小ぶりのYシャツ付きのブレザーを見つける(3枚目の写真)。2人が戦利品を持って階段を上がる時も、怠け者のベンは眠り続けていた〔ベンの仕事は、短期宿泊客の案内ではなく、そんな客などいないホテルなので、部屋代未納の長期滞在者の追い出しと、未払いの部屋代の担保としての所持品の接収。もちろん、すべては支配人のデゾットの指示〕。盗んできたブレザーを着て、手持ちのネクタイをはめたアーロンは、これからホテルを離れようとするエラに見てもらう。エラは、アーロンからもらった子猫を抱きながら 「素敵よ」と言うが、ブレザーは大きめで、特にズボンは みっともないほど “ぶかぶか”。エラは、別れの言葉として、「あなたと知り合えたことは、ここで私が経験した唯一つの良いことだったわ」と言うと、アーロンにキスする。

そして、卒業式。男子は黒、女子は白のガウンを着て、1人ずつ演壇の校長の前まで行き、教頭から丸く巻いた卒業証書を渡される。どの生徒も、家族同伴で、その生徒が前に呼ばれた時には、最少でも両親が立ち上がって、拍手する。しかし、アーロンが呼ばれても、そこに両親はいない。代わりに、式場の入口に現れたレスターが、指笛を拭いて会場をびっくりさせる。そして、卒業証書が渡される(1枚目の写真、矢印はレスター)。証書の授与がすべて終わると、校長は、「皆さん、おめでとう。私は今、高等教育を目指す若い諸君に私たちが求めるものを最もよく体現する 学力と人格の双方を有する卒業生に、ジョージ・デューイ提督功績賞を授与できることに大変な喜びを感じます」と述べる〔どうして海軍提督の名前が出てくるのか全く理解できない。そもそも、このような賞は存在しない。最も近いのがジョージ・デューイ海軍提督賞だが、最初の受賞者は2002年で、しかもブッシュ元大統領。また、デューイ・メダルもあるが、対象は1898年の海戦に参戦した海兵のみ〕。そして、アーロンが呼ばれる。校長は、アーロンを自分の横に立たせると、肩に手を置き、「この賞の受賞者は、誰もが、勤勉で創造的、そして、誠実です。アーロン君のように。アーロン君は、諸君にとって模範であり啓示となるでしょう」と語る(2枚目の写真)。全員の長い拍手と一緒に、担任と、クリスティーナと、レスターの笑顔が映される。

ビリーの豪邸のパーティは、大勢の生徒達で溢れている。そんな中、アーロンは、食べることが目的なので、皿にサンドイッチと果物を山盛りにしてイスまで運ぶ(1枚目の写真の矢印は “ぶかぶか” のズボン、2枚目の写真の矢印は小さな四角の銅メダルの入ったケース)。アーロンが、一旦イスに置いた皿を取り上げて食べようとすると、そこにクリスティーナが寄って来て、「私とダンスしたいんじゃないかって思ったの」と声をかける。アーロンは、皿をイスに戻し、クリスティーナの前まで行く。彼女は、「ダンスしたことある?」と訊く。「一度だけ」。クリスティーナは、初心者に配慮してゆっくり動きながら、「受賞、おめでとう」と言ってくれる。そして、さらに、「あなたの両親も夕食に参加なさる?」と訊く。「ううん、無理なんだ」。「卒業式には、いらしてた?」。「ううん」。「街にみえないの?」。「まあね」。「どこなの」。「言えないんだ」。クリスティーナの好奇心はさらに募る。「両親がどこにいるか知らないの? 教えてもらってないの?」。「できないんだ」。「でも、電話かけられるでしょ。それができなくても、手紙くらい…」。ここで、アーロンは決定的なミスを犯す。「行方不明なんだ」。「行方不明? それどういうこと?」。「あのね、僕の両親は考古学者で、探検に出かけてから連絡が途絶えたので、行方不明だと言ったんだ」(3枚目の写真)。「大変ね。無事だといいわね。ちゃんと捜してるの?」。「うん、捜索隊なんかが。でも、心配なんかしてないよ。これまで何度もあったから」。それを聞いたクリスティーナは、「ちょっと、座って来ていいかしら?」と言い、去って行く。クリスティーナは、友達の女の子の横に座ると、さっそくアーロンから聞いた話を伝え、その子は、隣の子に話す。かくして嘘の噂は広まってしまう。

イスの上に置いた皿の中身は、誰かに食べられてしまったので、アーロンは、食べ物の載ったテーブルまで行き、そこから直接口に入れる。すると、アーロンと同じクラスで、彼を嫌っていた男生徒が、アーロンの後ろで悪口を並べている。「僕の成績だって同じくらい良かった。あいつが賞を取ったのは、先生のペットだからさ。それに、女の子たちは、あいつが “カツカツ” の生活してるから同情するんだ。あのひどい服 見たか? あんなの見たの、サーカス以来だ」(1枚目の写真)。こちらの方は、単なる差別発言なので、直接の被害はないが、そこに、クリスティーナから出た “噂” が伝わるうちに改変され、それがビリーの耳にも入る。以前、アーロンがビリーの家に行った時、母は麻雀大会、父はパイロットと嘘をついたが、今回ビリーの耳に入った内容は、180度違っていた。そこで、男子生徒達と一緒になって、アーロンの前にやって来て、「ウォルターやベッティから聞いたんだけど、君の両親は、虎狩りに行って土人に捕まったんだって? だけど、君のお父さんはパイロットじゃなかった?」と疑問をぶつける(2枚目の写真)。嘘を重ねて自滅したアーロンは、「悪いけど、トイレに行かないと」言って、家の中に入って行き、玄関から外に出ようとすると、新しく走って来た家族が、「おめでとう、アーロン」と言ったので、「失礼します」と言いながら、階段を駆け上がる。そして、以前来たビリーの部屋に行くと、窓を開け、そこから、屋根を伝って、玄関の正面にぶら下がり(3枚目の写真)、飛び降ると、そのまま走って逃げ出す。

アーロンがホテルの部屋まで戻ると、ドアの下に 「309号室の占有者へ」と書かれた1通の封筒が差し込まれていた(1枚目の写真)。中に何が書いてあったのかは示されないが、次のシーンでは、アーロンは、支配人の部屋に行き、「でも、父さんは、僕らへの請求書に対し、17ドル支払ったと言いました」と反論している。それに対し、デゾットは、「それは本当だよ、アーロン。だが、まだ、172ドルの未払い残高がある」(2枚目の写真)「時計は、1週間ほど銀行を遅らせたが、遂に対応策を取り始めたんだ」。「3日待ってください。父さんはカンザスに出かけてます」。「分かるが、私には何もできない。私はこのホテルに25年いたが、今では銀行が命令を出すんだ」。「でも、銀行に電話して、父さんが仕事で旅行中だと言えば済むんじゃ?」。「銀行は私が何を言おうが聞く耳なんか持たない。彼らは、3階の住民全員を追い出し、踊り子たちに貸したいんだ。その方が、ずっと儲かるから。最寄りの親戚に連絡して、助けを求めるしかないと思うよ。ごめんな」。

そこで、アーロンは、母が入っているサナトリウムまで電車で行き、柵の外から、母に呼びかける。それに気付いた母は、入院以来初めての訪問に顔が綻ぶが、柵越しで、かつ、1階と2階に離れていては、話をするだけで、アーロンが陥った危機を救う手立てにはならない(1枚目の写真)。しかも、退院がいつになるかは分からないときている。がっかりしたアーロンは、電車に戻ると、席に着かずに出入口に立って外を眺めている(2枚目の写真)。すると、スラムの中に、昔アーロンの絵を描いてくれた画家〔映画の冒頭で、部屋から追い出された男〕の げっそりとやつれた姿が見える(3枚目の写真)。それは、アーロンにとってショックだった。

アーロンがホテルに戻り、自分の部屋に入ろうとすると、ムンゴの声が聞こえたので、ノックする。そして、ドアが開いたので、「迷ってるんですが…」と話し始めると(1枚目の写真)、すぐに中に招じ入れられる。中には、リディアがベッドに横になって本を見ている。ムンゴは、「何か羽織りなさい」と言うが、リディアは 「着てるわよ」とムンゴに言い、アーロンには 「嫌じゃないでしょ?」と言い(2枚目の写真)、アーロンは肩をすくめる。「見た? 気に入ったのよ」。そこに別のノックがあり、ホテルの従業員が、プレートに載せた簡単な食事を持って来て、リディアの前に置く。支払いは、伝票へのサイン。アーロンが食事をじっと見ているので、ムンゴは、「若いアーロンに、一口か二口、食べさせたらどうかね?」とリディアに言う。アーロンは 「いいえ、結構です」と断る。リディアは 「若いアーロンも、あたしみたいに働けば、いくらでも食べられるわ」と言い〔児童買春〕、ムンゴが 「そんなこと、あり得ん」と言うと、リディアは 「あんたが知らないだけ」と答える。変な話題になったので、アーロンは、ここに来た目的を話す。それは、シガー・バンドのコレクションを買ってもらえないか、というもの。ムンゴに理由を訊かれたアーロンは、「お金がほとんどないので… 締め出されちゃう」と答える。「誰に?」。「ホテルの持ち主の銀行に」。「支配人はデゾットだろ?」。「デゾットさんは僕にこう言ったよ。『お金を追加払いしないと、銀行は僕を追い出す』って」。ムンゴは、「明日の午後 来なさい。一緒にデゾットに交渉に行こう」と言い、それを聞いたアーロンは、感謝の言葉を並べて出て行く。

自分の部屋に戻ったアーロンは、1通の手紙を書き始める。宛先は、伯父で、内容は、①サリヴァンのクラスの生徒達が、“腎臓箱熱” という新種の病気にかかっていることが判明した、②症状は数ヶ月現れない、③兄弟からの輸血で簡単に治る、④サリヴァンを至急戻して欲しい、というもの(1枚目の写真)〔こんな手紙を出す理由が全く分からない。いつ追い出されるか分からない部屋に、子供が1人増えてしまったら、もっと危機的な状況になるだけなのに〕。アーロンは、次に、レスターに相談しようと部屋に行くが、誰もいない。そこで、ホテルの外に出ると、ホテルの反対側の空き地では、馬に乗った警官が生活に困った人々を襲っていて、しばらくすると、レスターが、2人の警官(1人は豚警官)に連行されてくる。アーロンが、パトカーに乗せられる直前のレスターに声をかけると、豚警官が、「お前も気を付けろ。この一帯の悪人は一掃してやるからな」と アーロンに警告する(2枚目の写真)。レスターは、いつアーロンに会えるか分からないので、助けてやろうと、「彼に渡す物がある。彼の物だから、返さないと」と言い、小さなナイフをプレゼントしてくれる(3枚目の写真)。

アーロンがホテルに戻ると、出た時にはいたベンがいない。ひょっとしたらと危惧したアーロンは、大急ぎで階段を駆け上がり、途中で道具箱を持ったベンを追い抜く〔アーロンの部屋に南京錠をかけて、入れないようにしようとしていた〕。そして、追いかけるベンより先に部屋に逃げ込むと、ドアを閉めて中からロックする。ベンは 「出てこい!」と怒鳴るが、アーロンは 「ずるいぞ! まだ3日経ってない!」と批判する〔アーロンはデゾットに 「3日待ってください」と頼んだが、デゾットは 「私には何もできない」と言ったので、3日というのはアーロンの思い違い〕。「金もないのに、1日でも2日でも同じだろう」。「デゾットさんと話す」。「どうやって? 伝書バトか?」(1枚目の写真)〔アーロンは部屋から出られない〕。「ムンゴさんが話してくれる」。ベンは 「ムンゴだと? あいつの所には、もう食事は届けん。お前と同じ “すかんぴん” だからな。お前も、いつかは出て来ざるをえん(2枚目の写真)。それまで俺は、1日3回食べて待っててやる。また会おうぜ」と言うと、諦めて去って行く。アーロンは、幸い まだ食べてない丸パンが8個ある。そのうち1個を皿に取ると、水を飲みながら、お腹の中で膨らませて、ゆっくりと食べる(3枚目の写真)。

翌朝、アーロンは音で目が覚める。ベッドから降りると、ドアの下に折った紙が入れてある。アーロンが紙を開いてみると、そこには、「アーロン、君のコレクションに」と書かれ、ムンゴのサインがしてあり、シガー・バンドが1つ添えられていた(1枚目の写真、矢印)。アーロンは台に乗ってドアの上の小窓〔開閉ができる〕から、向かいの小窓に向かって 「ありがとう」と言う。しかし、返事は返って来ない。アーロンが下を見ると、ドアの下から 少量だが水が廊下に流れ出している。一体何だろうと思ったアーロンは、ベンがいないことを確かめてドアを開け、近寄って見ていると、その水に、血が混ざって廊下にまで出てくる。アーロンは、鍵のかかっていないドアを開けて、室内に入って行く。すると、そこには、血で赤く染まった一筋の流れが奥へと続いている。アーロンは、それを辿って部屋の隅まで行くと、ムンゴが、洗面台に顔を乗せて死んでいる。死因は、左手首を切ったことによる自殺で(2枚目の写真、矢印)、流れ出た血が廊下まで達していた。びっくりしたアーロンは、振り返りざま転倒し、右手を血の流れの上に置いてしまう。そのまま走って自分の部屋まで戻ると、同じ位置にある洗面台で血の付いた手を洗い、その横にうずくまるように座り込むと、両手で顔を覆う(3枚目の写真、矢印は洗い流しても残った “血の混じった水滴”)。

次のシーンでは、残った丸パンは、僅か2個。アーロンが、ヘッドホン〔1930年代にも、もちろんあった〕を付けて音楽を聴いていると、ドアがベンの嫌がらせでドンドン叩かれ、「生きてるか?」と意地悪く尋ねる。アーロンは、残った最後の1個の丸パンを食べ、皿に残った粉末状のパンの破片は、カナリアの鳥籠に入れる。そして、遂に食べるものがなくなると、アーロンは手元にあった雑誌の広告の中で、美味しそうな焼肉の写真をハサミで切り取る(1枚目の写真、矢印はハサミ)。そして、他に食べ物の写真を切り取って、料理のように皿に並べ、紙の食べ物をナイフとフォークで切り(2枚目の写真)、それを口に入れて食べる(3枚目の写真)〔この映画で一番印象的なシーン〕。しかし、それでは実際に食べたことにならないので、ベッドに横になると、過去にあったいろいろなシーンが幻覚のように襲いかかる。最後は、ベッドとベッドの間の床に横たわる。そして、ベッドに下に置いてあった “ガラスのロウソク” の入った箱を見つけると、怒りにまかせて壁に向かって投げ付けて割り、窓の外に投げ捨てて粉々にして、泣き伏す。

限界に達したアーロンが、ベッドに倒れていると、ドアを軽くノックする音が聞こえる。アーロンが、ひょっとしたらと思ってドアを開けると、そこにはサリヴァンがいた(1枚目の写真)〔少し気にかかるのは、意地悪なベンが一緒にいて、なぜ アーロンを引きずり出さなかったのだろう、という疑問〕。サリヴァンは、「伯父さんは、父さんからの手紙〔アーロンは、父名義で手紙を出したことになる。子供らしい筆跡でバレなかったのか?〕で僕を送り返したんだ」と言い、アーロンはサリヴァンを抱き締める(2枚目の写真)。サリヴァンは、旅行の途中で食べるようにと、紙袋に食べ物を持って来たので、アーロンは有り難く頂戴し、2人で仲良く食べる。アーロンは、サリヴァンがいない間にホテルの3階で起きた集団追い払いと、ムンゴの自殺について話す。サリヴァンが 「じゃあ、お兄ちゃんが ただ一人残ったの?」と訊くと、「だいたい」と答える(3枚目の写真)〔まだ他にも残っている人がいるのか? それとも、部屋に籠っていたから確信が持てないからか?〕

アーロンが、サリヴァンとビー玉で遊んでいると、ドアを開けようとする音がするので、鍵を開けると、そこにいたのは父。父は、サリヴァンまで一緒なので驚き、2人を抱き締める(1枚目の写真)。父は、2人に会いたかったと言うと、「なぜホテルに戻って来たか分かるか? WPAの仕事に就いたからだ。一級事務職〔clerk, first-class〕だぞ。何がすごいか知ってるか? 給料だ。月65ドル〔2020年の約$1300(≒14万円)〕もらえる」(2枚目の写真)〔以前、WPAは1935年に制定されたという大きな矛盾を指摘したが、ここでの不明瞭な点は、WPAの目的は失業者を公共事業(橋、道路、公共建物、公園、空港の建設)で働かせることにあったという点。つまり、労働者なのだが、一級事務職とは何を意味するのだろう? またWPA の職員の平均月給は$41.57 だった(https://www.history.com/)。$65はその1.5倍になる。労働者でなく事務職だからなのだろうか?/1933年のデータは見つからなかったが、1934年の年間賃金総額は、サービス産業で$825(月$68)、卸売産業で$983(月$82)なので(https://library.cqpress.com/)、$65は妥当な金額〕「母さんを呼んで、カールトン・コートでドナルド・ミラーと会おう」〔1933年の物価に関するサイト(https://www.mclib.info/)によれば、セントルイスではないが、寝室2つ、浴室付きのアパートの家賃は月$19(2020年の約$380≒4万円)〕。アーロンは、ここにある物はどうするの?」と尋ねる。「新しい物を買えばいい。65ドルあるんだぞ」。それを聞いたアーロンは、「ダメだよ!」と反対する(3枚目の写真)「ベンなんかに くれてやるもんか」。父は、①アパートへの引っ越しは今日で手配済み、②ホテル内の物は、未払い金を払わないと持ち出せない、と言って反対するが、アーロンは、「僕たちで何とかする」とこだわる。父は、“僕たち” という言葉から、サリヴァンを意味すると思い、サリヴァンに一緒に来るように言うが、サリヴァンは、「アーロンと一緒にいる」と反対し、父は一人で部屋を出て行く〔アーロンを一人残して苦労させたくせに、結局、何もしてくれないダメな父親〕

荷物を搬出するには、窓からしかないので、カナリアの籠を先頭に、大事にしてきた個人的な持ち物を、紐や布をつないで3階からホテルの裏の路面で待っているサリヴァンに向けて慎重に降ろし(1枚目の写真)、壊れるものがなくなると、一気に落とす。また、何枚もある自分のセーターや上着は、重ね着して すべて身にまとい、長年住んだ部屋に別れを告げる(2枚目の写真)。そして、玄関から出る前に、物置部屋に行き、ベンにさんざん虐められた仕返しに、未使用の南京錠の鍵を全部奪い取り(3枚目の写真、矢印)、南京鍵を使えないにする。そして、自分の絵を描いてくれた画家にプレゼントしようと、筆箱を取ると(4枚目の写真)、重ね着した服の中に隠す。

アーロンは、玄関の手前にベンに呼び止められ、「そんなに寒がりなんか?」と、意地悪く訊かれると、「僕の友だちは、犬は教えれば後ろ脚で歩けるって言ったけど、犬ってことに変わりないんだ」と、ベンの卑屈さを揶揄すると(1枚目の写真)、玄関から堂々と出て行く。すると、ベンと似たり寄ったりの豚警官が 道路の反対側で 小さな子を虐めている。それを見たアーロンは、豚警官に向かって、「おい、デカ尻!」と叫ぶ。それを聞いた豚警官は、子供を離す。アーロンは、さらに、「足元に気を付けろ、このデカのろま」と野次る。アーロンを逮捕するチャンス到来と喜んだ豚警官は、自分が一番偉いと思っているので、「思い知らせてやるからな」と言いながら、左右を見ずに道路を渡り出す(2枚目の写真)。すると、各種の果物を満載したトラックが、急ブレーキをかけたので、積んであった果実が豚警官目がけて飛んでくる(3枚目の写真)。最初は豚警官が、トラックの2人に向かって怒鳴り出すが、損害を受けたのは2人の方なので、2人がかりで豚警官に落ちた果物を叩きつけて復讐する。それを見たアーロンは、いい気味だとニヤニヤしながら立ち去る。ベンは、アーロンの部屋に南京錠を掛けようとして、物置部屋に行くが、すべての南京錠から鍵が抜かれているので、困ってしまう。そして、アーロンの部屋に行ってみると、中にはホテルの備品以外、何一つ残っていない。

父は、母をサナトリウムから連れ出す(1枚目の写真)。一方、アーロンとサリヴァンは、一足先にカールトン・コートに行き、ドナルド・ミラーに案内されて、自分達の部屋に行く。2人は、部屋があまりにも広いので びっくりする(2枚目の写真)。2人は、広い部屋の中で遊び始める。そこに、両親が入ってくる。サリヴァンは、久し振りなので、さっそく母のところに走って行って抱き着く。父は、ベッドに座っているアーロンのところまで来ると、アーロンは立ち上がって父の前までくる。父は、苦労をかけたことへの謝意を込めて、アーロンの肩に手を置く(3枚目の写真)。そして、仲良く、玄関にいる母の方に歩いて行き、アーロンは柵越しでなく、直接母に抱き着く。映画は、ムンゴにもらったシガー・バンドの付いた帽子を映して終わる。

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