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La tutora 家庭教師

アルゼンチン映画 (2016)

ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』の、イヴァン・ノエル(Iván Noel)監督らしいリメイク。イヴァン・ノエル監督作品は、これまでに、『En tu ausencia(いない間に)』(2008)、『Vuelve(ブエルベ/戻ってきて)』(2013)、『Nine Meals from Chaos(終末の混沌を如何に生き抜くか)』(2018)の3作品を紹介してきたが、何れも、思春期の前の美少年が登場し、裸体を見せるのが共通の特徴であった。この映画でも、同様の特徴が踏襲されている。『ねじの回転』では、“まばゆいばかりに美しい女の子フローラ”(妹)と “信じられないほど美しい少年マイルズ”(兄)の2人のうち、前者の方が重んじられていて、登場も早かったが、映画では、“姉か妹か区別のつかない生意気で少し怖い少女エマ” と、“兄か弟か区別のつかないホモの美少年アンヘル(スペイン語の天使)” の2人のうち、後者が歴然たる主役。原作の舞台は19世紀末だったが、映画の舞台は現代。家庭教師の名前は、原作では1人称なので不明だが、映画ではモナ。家庭教師が2人の面倒を見る館の家政婦は、原作ではグロース、映画ではクララ。原作では、生前、マイルズをある意味支配していた “館の主人の世話係” クリントの幽霊が、なぜか家庭教師にだけ見えていたが、映画では、生前、その息子ホセアンヘルがホモ友関係にあった “館の庭師(名前不明)” の幽霊が、モナだけでなく、アンヘルエマにも見えているらしい。原作では、マイルズが学校を退学になるが、映画では、最初、アンヘルエマは学校に全く通っていないように描かれているが(彼は読み書きができない)、最後になって、アンヘルが変態的行為のため、学校をやめさせられたとか(読み書きができない設定と反する)、今でも、同様の行為を近所の少年と行い、その祖父からモナが殴られるシーンもあり、訳がわからなくなる。最後に、原作では、前任の家庭教師ジェッセルフローラの関係が大きな意味を持っているが(彼女の幽霊も現れる)、映画では、モナ前任者は、最後になって、アンヘルエマの両親を殺したかもしれない悪人、もしくは、アンヘルエマに辛く当たったために殺されたかもしれない悪人として語られるだけで、ほとんど存在しないに等しい。原作のフローラマイルズは、表面上、とても素直で、勉強もよくでき、家庭教師に親切な “いい子たち” だが、家庭教師が、何度もクリントジェッセルの幽霊と出会うにつれて家庭教師と対峙するようになり、最後には、フローラは、家庭教師の命令でグロースが館から連れ出し、マイルズは、家庭教師本人がクリントから引き離そうとして死に至る。映画のアンヘルエマ、特にアンヘルは、モナの授業には全くついていけない。映画で描かれるのは、2人が如何に野性的なのかを示したり、2人がモナをどんどん嫌いになっていく様子を示すシーンばかり。それに対し、モナは、2人に対してますます態度を硬化させ、クララとの関係も悪化の一途を辿る。だから、クララは、原作とは逆に、“モナを雇った伯父” と共謀してモナに制裁を加える。イヴァン・ノエルらしさは、アンヘルが常に上半身裸で、時には全裸も見せ、性的にも倒錯している点にある。これは、原作への冒瀆と言えなくはないが、原作も、1世紀後に読んでも かなり異常な内容で、ある意味、“どっちもどっち” と言えなくはない。ただ、映画には、途中何度も、回想シーンや悪夢のシーンが細切れの形で入り、最後に行くほど分かりにくくなるという欠点がある。そして、原作とは全く違うラストは、衝撃的とも言える。なお、訳出にあたっては、スペイン語字幕を参照した。

アンヘル役のValentino Vincoについては、何の情報もない。そこで、DVDのメイキングに入っていた、最初の撮影シーン(左)と、エマ役と一緒に枝からぶら下がるシーン(右)を参考までに添えた。

あらすじ

都会の精神科医の部屋に、求人の広告に応募したモナが訪れる(1枚目の写真)。医師は、「残酷に聞こえるかもしれないが、弟の死後、残された兄妹の父親代わりにはなれなかった。子供たちはいい子なのだが、私にとっては患者の方が大切だ。遠くからでもできることをやっている」と、家庭教師の求人に対する説明をする。モナは、「私は児童心理学の学位を持っています」と言うが、「これまでに、家庭教師の経験は?」と訊かれると、「実はこれが初めてです」と打ち明ける。医師は、「分りました。そんなことは重要じゃない。人は仕事を通じて学ぶものだ」と大らかなところを見せ、さらに、「あまり多くのことも期待していない。単に読み書きができるようになればいい」と、驚くようなことも付け加える。「書けないのですか?」。「学校がとても遠いので通っていない」。そして、精神科医らしく、こうも述べる。「悲劇(両親の死)の後、2人はお互いに慰め合ってきた。この共生関係は、対処不能なトラウマに直面した子供たちにとって、正常な反応と言える」。そして、最後に、「2人が、あなたを怖がらせないといいんだが」と言うと、モナは、「私は権威を押し付けることができ、また良き友人になれます」「両親は私に良い価値観だけを教えてくれました」と、ある意味、独善的な一面を覗かせる。この “押し付けがましさ”、“誤った価値観の押し付け”、“反省のなさ” が、モナの最大の欠点。映画の最後の方で、モナが、別の精神科医に患者としてかかっていたことが、この依頼主の精神科医によってすっぱ抜かれ、モナの行為が、“強迫的” で “道徳的な毒をまきちらした” と非難されるが、その萌芽は、既にこの時点から見えている。モナは、この面接で家庭教師としての採用が決まり、人里離れた場所にある大きな館(2人の子供の死んだ両親の祖父母が建てた)に行き、1人ですべてを切り回している家政婦のクララに迎えられる(2枚目の写真、矢印)。広大だが、旧式なキッチンに連れて行かれたモナが 「美しくて品格のある家ね」と言うと(3枚目の写真)、クララは 「小さな問題はあるけど、とても快適よ」と応じるが、その時、モナに出されたコーヒの受け皿の上にゴキブリが天井から落ちてくる。

そこに、モナと最初に会った時、クララが、「エマ! アンヘル!」と叫んで呼んだ2人の子供がキッチンに入って来る(1枚目の写真)。そのラフな格好、特に、薄汚れたアンヘルの姿は、モナにとって予想を遥かに下回る、唾棄すべき状態として印象付けられた。それでも、モナが笑顔を見せたので、エマは笑顔になってモナのところに走って行って抱き着く(2枚目の写真)。アンヘルは、同じ表情のまま、動こうとしないので、モナの方から近づいて行き、頬に優しく触って 「あなたがアンヘル」と言い(3枚目の写真)、「私はあなたたちの先生であり、友だちよ」と 2人に自己紹介する。その後、クララは2人にパンを与え、2人は、テーブルに一杯パン粉を散らかしながら、むさぼるように食べる〔皿もないので、テーブル・マナーはゼロ〕。そんな2人に、モナは、「何してたの? インディアン〔パンパ・インディアン(南アメリカ先住民)〕ごっこ?」と訊く。クララが2人のことを 「仔豚みたいでしょ」とモナに冗談を言うと、アンヘルは 「豚、あんた、デブ!」と言い返し、モナを不安にさせる。クララは、それに構わず、「明日は、2人とも お風呂に入るわ」とモナに教え、モナは、こんなに汚いのに、「明日」と言ったことに驚く。クララは、「配管の具合が悪くて」と弁解する。

モナは、エマに先導されて寝室に連れて行かれる。天蓋付きの立派なベッドのある部屋は、モナを満足させる豪華なものだった(1枚目の写真)〔モナがこの館に着く前に、クララがこのベッドの準備をする場面があるが、その際、真っ白なシーツの下に、麻袋で使うような薄茶色の分厚くてラフな布が一面に敷いてあることが分かる→重大な伏線〕。モナが、革鞄を開けながら、エマに 「あなた本は好き?」と訊くと、「人形持って来た?」と訊き返される。「人形? いいえ。でもなぜ?」。「伯父さん、いつも人形くれるから」。エマは、モナがベッドの上に置いたスマホを手に取ってみるし、アンヘルは、机の上に置かれたノートパソコンを開いてみる(2枚目の写真)。モナは、「ゲームで遊ぶ時間じゃないわ。明日はやることが一杯よ。寝てらっしゃい」と、2人を行かせる。その日の夜は雷雨で、モナが雷の音で目が覚め、スタンドを点けると、配線が悪いのか、停電なのか、真っ暗になってしまう。心配になったモナが子供部屋に行ってみると、2人は、足を交差させて、ほとんど裸で寝ている(3枚目の写真)。モナは、その姿にショックを受ける。

翌朝、子供達は、森に行って気ままに遊ぶ(1枚目の写真)。その間、モナは、教室に小さな黒板を吊るし、授業ができるように準備をする。準備が終わっても子供達が戻って来ないので、モナはクララと話をして時間を潰す。モナが、昨夜、変な音が森から聞こえたと話すと〔何かの動物の鳴き声〕、クララは、森にはいろいろな動物がいると言う。その話題のあと、モナは 「1人に1部屋ないの?」と訊く。「未使用の部屋が3つか4つあるわ。でも、2人は子猫みたいなものね。ママのいない子猫。お互いが必要なの」。それに対し、モナは 「それが、2人の生育にとって理想的かどうかは疑問ね。個性を伸ばす必要があるわ」と、状況を正確に把握せずに、勝手に持論を展開する(2枚目の写真)。そのあと、モナは 2人の子供達に連れられてプールだった場所に連れて行かれる。そこには、大木が中央に倒れ込んでいる(3枚目の写真、矢印は3人)。アンヘルは、一言、「稲妻」とだけ説明する。エマは 「クララは、この方が好きみたい」と付け加える。

モナは、プールの次に、森の中の2人の秘密の場所に案内される。エマは 「クララも、知らないのよ」と言い、アンヘルは 「太ってるから登れない」と 理由を教える。そこには、数多くのキューピー人形が枝や地面に投げ捨てられていて、中央にマットレスが1つ置かれた奇妙な場所だった(1枚目の写真)。モナが館に戻った後も、2人は森に残り、弓矢を持ち出して遊ぶ(2枚目の写真)。アンヘルは、鳥が好きなのでワザと外すが、エマは残酷なので、平気で鳥を射落とす。2人は、モナがクララと一緒に待っていたキッチンに入って行くと、エマが、血の付いた手でモナに抱き着き、モナの服の背中に血を付ける。2人はテーブルに座ると、置いてあった果物にかぶりつく(3枚目の写真)。あまりに原始的なので、モナは、クララに 「2人のマナーに落ち度はないわね。そもそも、ないんだから」と批判する。そして、両親は亡くなってからの年月を尋ねると、クララは 「ほぼ2年弱」と答える。その言葉の直後、アンヘルが食べようとかじった小さく丸い果実の中に、蛆(うじ)が1匹いたので、彼はクララを睨む。そして、その果実をクララの顔に投げつけると、立ち上がり、睨みながらクララの目の前まで歩み寄る。しかし、「ごめん」と謝ると、犬の真似をしてクララの足元でじゃれ回り、それを見たエマはクララに抱き着く。それを見て我慢の限界に達したモナは、「そろそろ授業の時間よ。だから、お風呂に入ってきれいにしてらっしゃい」と、止めさせる。

その言葉を聞いた2人は、いきなり外に飛び出して行く。モナは、風呂は室内だと思い込んでいたので、「どこに行くの?」と声をかけるが、2人は走りながら半ズボンを脱いでいき、全裸になって 屋外に置いてあったバスタブに向かう(1枚目の写真)。「クララ、あの子たち何してるの?」。「あれが、お風呂なの」。2人は楽しそうにバスタブに入ると(2枚目の写真)、水を掛け合って遊ぶ。モナが 「水はきれいなの?」と訊くと、「もちろん。先週変えたから」と言うので、どう考えてもきれいとは言えない。過敏なモナは 「心理学的に容認できないわ。あの子たちは、(誘惑に)さらされているのよ」と批判する。鈍感なクララは 「さらされているって、何に?」と不思議がる。アンヘルは中にいたカエルを手に取ると(3枚目の写真、矢印)、キスする。

そこに、タオルを手にしたモナが寄って来て、体を覆おうとすると、エマはバスタブから出ると、「タオル汚いから、触らないで。アンヘルが淫らなこと〔cosas sucias〕に使うから」と言って逃げ回る。一方、遠くの茂みから1人の少年がアンヘルを見ている(1枚目の写真)。それに気付いたアンヘルは、バスタブから出ると、半ズボンを履きながら(2枚目の写真)、少年の方に走って行く。それを見た少年は、森の中に入って行く。結局、初めての授業に出席したのは、エマだけ。モナが、「彼、どこに行ったの?」と訊くと、「友だちと一緒」と答える。「それ、誰?」。肩をすくめただけ。「すぐ戻る?」。「ええ」。しばらくすると、茂みの中からアンヘルが走ってくるのが窓から見える。戻って来たアンヘルに、モナが 「どこにいたの?」と訊いても(3枚目の写真)、彼は黙ったまま。エマは、2人に向かって、「あなたたちが、ちゃんとした教育を受けてこなかったことは聞いてるわ。それは悲しいことだけど、これからは変わらないと。伯父さんは、あなたたち2人に対する責任を私に負わせました。だから、私の言うことを聞いて、それに従わないといけないのよ。アンヘル、私が来なさいと言ったら、すぐ来なさい」と、強く指導する。

モナの厳しい口調に対し、アンヘルが涙を浮かべたので、モナは 「アンヘル、どうしたの?」と尋ねる。エマは 「彼は拘束されるのがイヤなんです。赤ちゃんだから」と正直に答えると、ここに来たばかりで何もしらないくせに、モナは 「そうは思わないわ。何か悩みがあるのよ。あなたたちは、大変な思い〔両親の死。しかし、それは2年も前の話〕をしたものね。でも、今、ここに私がいるから、あなたを一人になんかしない。約束するわ」と、見当違いで自分勝手な意見を押し付ける。アンヘルは、そうしたモナの顔をじっと見ているが(1枚目の写真)、何を考えているかは分からない。夜になり、クララがモナに、この館の先代の住民について話している(2枚目の写真)。①アンヘルとエマの祖父母が大きな財産を築いた、②2人の父は大学教授であり、アーチェリーの選手としても国内外で活躍した。それを聞きながら、エマは、レースカーテン越しに、アンヘルの顔を優しく撫でている(3枚目の写真)〔どちらが年上か分からない男女の間での一種の愛情表現〕。愛撫が終わると、アンヘルは、「夜が始まった。光がなければ、何もない」と変わったことを言い出す。モナが 「光ならここにあるわ」と言うと、「信じられない。あんたの記憶じゃないの? 死ぬ時と同じだ」と続ける。キリスト像をも感じさせる目を閉じたアンヘルを見たエマは、ニヤリとすると、持っていたキューピット人形の股間から、勃起したペニスのように指を付き出して見せ、それを見たアンヘルは、その指を貪るようにしゃぶる〔アンヘルが、先ほどの少年に何をしていたかの暗示〕

2人が眠ってからモナが様子を見に行くと、前夜と同じように、2人は脚を絡ませたまま眠っている、モナが2人の脚を分離し、それぞれのベッドに寝かせつけながら、ふと窓の外に目をやると、遠く離れた大木の陰から1人の男が出て来て(1枚目の写真)、まるで見られていることを承知しているように、手を上げて挨拶する。モナは部屋に戻る途中で、廊下にいたクララに会ったので、「たった今、外に男がいたわ」と言うが、クララは 朦朧としてはっきりとした意識がない。クララが当てにならないので、モナは2人の部屋に戻り、先ほどの木を見てみるが、もう誰も現れない。翌朝、森の中の秘密の場所で、マットレスに横になったアンヘルの背に エマが絵の具を塗っているが、アンヘルが起き上がると、真ん中に「TONTO(バカ)」と赤く書かれている(2枚目の写真)。アンヘルが兄だとしたら、随分失礼な妹だ。アンヘルが弟だとしたら、本当のことを書いただけかも。いずれにせよ、彼はいつも上半身裸なので、書いた内容は誰にでも見えてしまう。その頃、モナは、昨夜の体験について、いつもの状態に戻ったクララに話して聞かせる。クララは、「そんな男は、かつての庭師しかいないけど、ずっと前にいなくなった」と言った上で(3枚目の写真)、「心配しないで。きっと泥棒か密猟者よ」と言う〔泥棒なら、かなり心配すべきだと思うが…〕

モナは、家にはいない子供たちを探しに森の中に入って行く。すると、茂みの中で、アンヘルが1人の男の子と一緒に走っているのが見える。モナが木の陰から窺っていると、2人は何か話していて(1枚目の写真、矢印は昨日アンヘルがバスタブから出て追いかけた子、アンヘルは珍しくシャツを着ている〔背中のTONTOを隠すため?〕)、その後、2人はしゃがんでしまい、姿が消える。すると、いきなりエマが横にいたので、びっくりする。エマは、「あの2人、バカよ」と言いながら、モナの手を引いて、その場から立ち去る。そして、2人で歩きながら、「あいつの頭に矢を打ち込んでやる」と激しいことを言う。「あの2人、何してたの?」。「あそこにウサギの巣穴があるから、捕まえようとしてたの」と嘘をつく。2人がしばらく話してから家に戻ると、そこに1台の小型トラックがやって来る。運転席から降りた男に、モナが自己紹介しようとすると、いきなり強く顔を殴られる。男は 「これが、あのクソガキに対する、俺からの警告だ」と言うと、トラックに乗り込むが、助手席には、さっきの少年がしょげた顔で座っている(2枚目の写真、矢印はさっきの少年)〔2人は、何らかの異常性愛行動をしていた〕。モナが、エマに 「あれ、誰なの?」と訊くと、「さっきの男の子のお祖父さん」という返事。モナは口をかなり切ったので、クララが渡したタオルで口を押えながら、「アンヘルは何をしたのかしら、そんなに悪いこと?」と訊く。クララの返事は、「きっと、何かが起きて、あの男の孫が、アンヘルの悪口を言ったのね。アンヘルは、とってもいい子なのに」というもの。その頃、エマは、アンヘルが、モナの部屋の衣装戸棚の中に隠れているのを見つけていた(3枚目の写真)。そして、後でモナに、「見つからない」と嘘を付く。

モナの口の怪我が治っているので、ある程度の日数が経過したあとで、彼女は、また、アンヘルを探して比較的開けた場所を歩いている。すると、例の “庭師” らしい男が、煉瓦でできた古い納屋跡から出てくるのに気付く(1枚目の写真、矢印)。しかし、納屋の近くまで行って見回しても、男の姿はどこにもない。そこで、窓から中を覗いてみると、一番奥で、アンヘルが半ズボンのボタンをはめている(2枚目の写真)〔それまで脱いでいた?〕。庭師による児童性愛を疑ったモナは、納屋跡に入って行き、背を向けたアンヘルに、「ここで何してるの?」と声をかける。アンヘルは、天井を見上げたまま、「ぼくのコウモリたち。ここに眠りに来るんだ」と返事する(3枚目の写真)。「ここにいた男は誰?」。「どの男?」。「1分前に ここから出て行った男よ」。「エマがそう言ったんだろ? あいつ、いつも僕を困らせるんだ。嘘つきだから」。「見たのは私よ。私たち、真面目に話し合わないと。私を殴った男を、あんなに怒らせたのは、何があったからなの?」。アンヘルはコウモリの生態の話をして誤魔化す。モナは、アンヘウの腕の切り傷を見て、「これは何? 誰がやったの?」と訊くが、それに対しても無視を続ける。

アンヘルから何も聞き出せなかったモナは、クララのところに行き、「あの男、今朝、まだ現れた。あの庭師よ」と相談する。すると、返って来た言葉は、「死んだ庭師?」という意外なものだった。「死んだ? いなくなったじゃないの?」。「ええ、そうよ。この世からいなくなったの」〔庭師の死を小出しにするクララのやり方は、『ねじの回転』と同じ〕「彼は、妻と2人の息子を残したの」〔これも同じ〕。そして、クララは、庭師の古い写真を見せる(1枚目の写真)。それを見たモナは、「この男よ。どうしてこんなことが可能なの? 戻ってくるなんて」と、問いかける。「戻って来た? だけど、どうすれば、そんなことができるの?」。「なぜ、戻ってきたのかしら?」。「アンヘルはホセを愛してた。2人は、何時間も一緒にいたわ」(2枚目の写真)。「何時間も?」。「ええ、茂みの中で」。「誰も、止めなかったの?」。「なぜ? ホセはとってもいい人だった。彼は、自分の息子以上にアンヘルを愛した〔José era muy bueno. Lo quería más que a su propio hijo〕。アンヘルのために戻ったのね」。この、クララの言葉では、“ホセ=庭師” になってしまう。しかし、映画の最後の方で、庭師本人がモナに対して、「俺の坊主ホセを見なかったか〔¿No viste a José, mi nene?〕?」と訊くので、こちらの方が正しいと判断し、冒頭の解説では、“ホセ=庭師の息子” とした。クララが、わざと、もしくは、混乱して発言したのか、脚本の愚かなミスなのかは分からない このシーンのあと、モナは2人を探しに行くが、2人は、モナが近くを通っても無視。モナの “一方的に自分の考えを押し付けるやり方” は、2人に嫌われ始めている(3枚目の写真)。

モナは、ようやく2人を発見し、無理矢理授業に連れて行く。エマは、一語一語つかえながらも読んでくれたが、アンヘルは机に腕を置き、その上に自分の頭を乗せてぼんやりしているだけなので、見るに見かねたモナが、「アンヘル、やってみて」と言うが、何もしない(1枚目の写真)。モナは、「子供たち、これまで誰が教えたのか知らないけど、何も学んでないのね。トイレの使い方すら知らない」と批判する。エマは、「惑星がやりたい」と言い出す。「天文学のこと?」。エマは嬉しそうに そうだとばかりに首を振る。モナが太陽系の絵を描き出すと、アンヘルも黒板を見始め、話しが冥王星まで来ると、変な質問をする。「死んだ人はどこへ行くの?」。「誰も、ここには来ません」。「じゃあ、黒板の外?」。「それって、宇宙のこと?」。そして、モナは話題を宇宙に変え、それが無限に拡がっていると話す。アンヘルは、再び変な質問をする。「最後の惑星〔último planeta〕って、何なの?」。「そんなのはないの。宇宙は膨張してて無限だから」。「最後の惑星があるはずだ!」。「宇宙が膨張を終えることはないのよ」〔2020年の研究で、膨張率が場所により秒速65~77km/Mpcと差のあることが判明した〕。すると、いきなりアンヘルが怒り出す。「なんでそんなこと言うんだよ!」。「何が?」。「無限だよ! それが終わらないって!」(2枚目の写真)。エマは、アンヘルの授業妨害をなじり、怒ったアンヘルはエマを床に押し倒して首を絞める。モナはやめさせようとし、エマはアンヘルの腕に噛みつく。モナは何とか2人を分けるが、立ち上がったアンヘルは、モナのを 「あんたはクソッタレだ! 他のクソッタレと同じだ! 殺してやる!」と喚く。モナは、そんなひどいことを言われても、「興奮しないで」と アンヘルを抱きしめる(3枚目の写真)。

アンヘルの興奮が収まると、モナは直ちにクララのところに行き、「あなた、隠してましたね。今すぐ、教えてちょうだい。なぜ、アンヘルは 『他のクソッタレと同じ』なんて言ったの? 『他の』って、誰のこと?」と 問い詰める。クララは、「2人の伯父さんは、何もかも話してなかったみたいね。もし、話していたら、あなたが断るんじゃないかと思われたんでしょう」と話す〔原作では、伯父は最初から、「若い娘が見事に2人の世話をしてくれていたのだが亡くなってしまった」と話している〕。しかし、それはモナの質問に対する答えにはなっていなかったので、モナは 「あなたは、私の質問に答えてないわ。『他の』って、誰なの? ここに どのくらいいて、なぜ去ったの?」と、再度訊き直す。クララは、「彼女は、いい先生じゃなかった。この仕事には適していなかった。トイレの使い方も教えなかった」とだけ答える〔彼女が死んだことは伏せている〕。モナは、それ以上、前任者のことを追及せず、「あの伯父は、2人の両親がどうして亡くなったのかも、話してくれなかった」と、クララに話すよう要求する〔原作では、伯父が 「甥と姪はインドで両親を亡くした」と話している。そこには、映画と違い、何の謎もない〕。クララは、重い口を開く。「恐ろしかった。あんなことが起きるなんて。あれ以来、変圧器を交換できてないの。2人の目の前では両親は亡くなり、誰もそれを責められなかった」。「事故じゃなかったの?」。「何かの間違いね」(1枚目の写真)。それを聞いたモナは、間違った決断を下す。2人が自由気ままに暮らしてきた2年間を無視し、両親が生きていた頃の生活を2人にさせようとしたのだ。2人にちゃんとした服を着せ、立派な食堂に座らせ、「家族だった頃は、きっとこうして食べていたのね」と言い、皿に入れた野菜スープをスプーンで飲ませようとする。その料理は、菜食主義のモナ自身が作ったもので、肉は入っていない。アンヘルが、「肉はどこ?」と訊くと、「幸いなことに、今日、私たちのために死んだ動物はいないわ」と答える。モナが刻んだニンジンを食べると、クララは 「ニンジンを傷つけちゃった」と冗談を言い、それを聞いたエマも笑顔になる。その、不実なクララの態度に腹を立てたモナは、「子供たちを教育してるのよ。ここには、何かが欠けているから」と批判する。すると、アンヘルがおならをし(2枚目の写真)、しばらく真面目な顔でエマを見ていたが、「おならをするとクモも来ないね」と言い出し、それを聞いたエマが笑い出す。すると、アンヘルがバカ笑いを始め、初めての正餐を台無しにする。モナが 「アンヘル!」と言うと、「ごめん」と言って黙るが、今度は、顔をスープ皿に突っ込んで、バカ笑いを再開する。ここで、モナの欠点が一気に吹き出す。食卓をドンと叩くと、「あなたたちの伯父さんは、私を責任者にしました。だから、そのことを忘れないように。これ以上の無作法や悪いマナーは許しませんよ! 分かった?!」と、ヒステリックに怒鳴る。すると、エマが、「あんたが死んだら、骨をしゃぶってやる」と言い、ショックを受けたモナは席を立って食堂を出て行く。3人だけになると、クララは、「イサベラとそっくりになったわね」と不気味なことを言う〔イサベラは、以前の教師〕。アンヘルは、モナが泣き伏せっている部屋の入口まで行くと、「ぼく、あんたを殺さないって約束する」と、以前の 「殺してやる!」発言を詫びるが、「骨をしゃぶる」発言に動転しているモナにとっては、救いにならず。「アンヘル、これ以上、火に油を注がないで」と鳴き続ける(3枚目の写真)。

アンヘルは、部屋の中に入って来ると、ノートパソコンを見ながら、「あんたがいなくなったら、これもらえる?」と尋ねる。モナは、「私はどこにもいかないわ」と否定する。アンヘルは、ベッドに入ると、モナの横に寝る。モナは、愛し気にアンヘルの頭に手を置き、アンヘルは、「ごめんね。ぼくが悪かった」と素直に謝る(1枚目の写真)。「あなたが、故意にしたんじゃないことは、分ってる。あなたは、そんな子じゃない」。アンヘルは、モナの顔を見上げると、「ぼく、悪い子?」と訊く。「あなたは悪くない」。「ううん、きっと悪い子なんだ」(2枚目の写真)。アンヘルは、体を起こすと、「モナ、ぼく、時々出血する」と言う。「どこから出血するの?」(3枚目の写真)〔庭師によるアナル・セックスを疑っている〕。その時、遠くの方から、動物の鳴き声か、それを真似た呼び声が聞こえ、アンヘルはベッドから飛び出ると、夜の森を目指して一目散に走って行く。

翌日、アンヘルとエマが、半分倒木で遮断されたプールで泳いだり、潜ったり、浮かんだりして遊んでいる。クララから渡され睡眠薬を飲んだモナは、正午になってようやくベッドから出て来て、子供たちの居場所を聞くと、「知らない」と答える。モナが、子供たちの居場所を把握しておくのは家政婦としての責任だと指摘すると、「今思うと、プールのことを話してた」と、無責任に答える。モナがプールまで見に行くと、そこでは、倒れた木の上に2人が全裸で座っている。モナが 「アンヘル!」と呼ぶと、アンヘルは立ち上がって手を振る(1枚目の写真)。「子供たち、そんなとこに素っ裸でいるなんて異常ですよ!」。それを聞いたアンヘルは、プールに飛び込み、それに続いてエマも飛び込み、枝にしがみついて笑っている。どうしようもなくなったモナが。プールの端から1メートルほど後ろの草地の上に腰を下ろすと、それを見たアンヘルが階段を上がって(2枚目の写真)、モナの前に立つ。モナは、アンヘルの顔を見て、「昨夜、部屋を飛に出して、どこに行ったの?」と訊く(3枚目の写真)。「誰かがいるってあんたが言ったんで、見に行ったんだ」と、嘘の答え。「彼と話したの?」。「誰と?」。「男の人」。アンヘルは、男になったつもりで、笑顔になって、「ぼくは、あんたの夢の中の男だよ」と茶化す。モナは、「なんで、目の前に立ってるの? 私を感心させたいの? もっと大きなの〔ペニス〕見てるわよ。さあ、服を着てらっしゃい」。「彼氏なんかいないくせに。クララから聞いたよ」。「他には、何を聞いたの?」。

その時、枝が折れる音がしたので、モナは立ち上がる。すると、素早く後ろに回ったアンヘルが、モナの背中を押してプールに落とす(1枚目の写真、矢印の方向に転落)。暑い中、冷たい水に入ったモナは、気持ちがいいので、子供たちと水遊びを楽しむ(2枚目の写真)。しかし、モナがアンヘルとばかり遊んでいるので、エマは不服そうな顔になる。プールから出たモナが、ずぶ濡れになった服を、脱がずに絞ってある程度水気を取っていると、アンヘルは楽しそうに手を振り、エマは相変わらず不機嫌そうに見ている(3枚目の写真)。

モナは、アンヘルが手を振っているのは、自分に対してではなく、ひょっとしてと思って 振り返ると、今までで一番はっきりと庭師が見える(1枚目の写真、矢印)。モナは、まずアンヘルに 「あの男のために ここに来たの?!」と訊き、すぐに反対側の庭に、「とっとと消えなさい!」と怒鳴る。そして、アンヘルに向かって、「今すぐ、ここを離れるわよ!」と命じる。庭師には、「なんで、あの子たちを見てるのよ。早く消えて!」と再度怒鳴る。次のシーンでは、2人は半ズボンはき、エマはシャツを着て、モナに手を引かれてプールから立ち去る。しばらくすると、エマが、「アンヘルと私は 赤ちゃんを作るわ」と言い出し、モナをますます動転させる。館に着いたモナは警察に電話をかけ、パトカーがやってくる。モナは、髭を生やし、庭師みたいな服を着た男が、子供たちに、特にアンヘルを虐待していると訴える(2枚目の写真)。そこで、警官はアンヘルに、「最後に、その男を見たのはいつだね?」と質問する。アンヘルは 「そんな人、見てないよ」と、存在そのものを否定する。モナは、「嘘つかないで。ホントのことを話して。でないと、あなたを助けられない」と言うが、アンヘルは黙ったまま。そこで、モナは警官を脇に連れて行き、否定するのは トラウマを抱えた少年にはよくあることで、それは罪悪感から来ていると説明する。警官は、その後 クララと話し、クララは首を横に振っていたので、アンヘルの味方をしたに違いない。その間、モナは、もう1人の警官〔あとで再登場する〕と話し込んでいる。翌朝、モナは、クララに心配を打ち明ける。「2人は、ある種の問題について、とても大人びてるの。性的なレベルで」。しかし、クララは問題にしない。「2人は動物の子と同じ。羊みたいなものなの。一緒になると、すぐにじゃれ合うけど、それは、自然で無邪気な衝動で、野原でふざけてるだけ」。しかし、モナがその無責任な放任主義を批判すると、急にシビアとなり、「可哀想な子供たち。2人は学校にも行けない。持て余す暇は、すべての邪悪さの母ね」と言う(3枚目の写真)。

アンヘルとエマは弓を持って狩りに行き、最初のシーンでは、アンヘルがエマの指した鳥に向かって射るが(1枚目の写真)、当たらない。エマは、「ワザと外したのね。小鳥を傷つけるのが怖いのよ」と言う。一方、館の中で、2人が弓を持っているのを見たモナは、「スポーツで鳥を殺すなんて。食べるためじゃなければ 残酷だわ」と言うと、窓を開け、「子供たち、止めなさい!」と命じる。アンヘルは、そのまま球状の石にもたれて座り込む(2枚目の写真)。その姿を見たモナは、クララに、アンヘルのような美しい子は画家が描きたがると言うが、実のところ、アンヘルは、その姿のまま 反対側の洗濯物目がけておしっこをかけていた(3枚目の写真)。

その後の昼食では、2人は、相変わらず、手づかみで骨付きの鳥肉にかぶりついている。そして、午後は、三度目の “森の中の秘密の場所” のシーン。多くのキューピッドに火が点けられ、アンヘルは、憑かれたように踊っている(1枚目の写真)。すると、そこにやって来たモナは、木の幹に刻まれたハートの彫り込みに気付く。そこには、「アンヘルとホセ」と刻まれていた(2枚目の写真)。モナは 「誰が書いたの? これは深刻な問題よ!」と、糾弾する。エマは、「誰だと思う?」と言うと、キューピッドにいっぱいキスしてみせる。「庭師ね。そうに決まってる。警察には言わなくても、私にはホントのことを話してちょうだい!」。エマは、「庭師は死んだのよ」と言って笑う。モナ:「2人とも止めなさい! 庭師が ここにいるって知ってるくせに! 彼は、何でこんなこと書いたの?」。エマは、アンヘルに向かって、「あんたは赤ちゃん。だから書くことなんかできない」とバカにし、モナは、アンヘルには字が書けないことを忘れたのか、「アンヘルが自分からこんなこと書くはずないでしょ。庭師が書くよう強制したの?」と アンヘルに訊く。その間、アンヘルは、耐え難そうな顔をしていたが(3枚目の写真)、モナのこの発言をきっかけに、走って逃げ出す。それを見て笑ったエマに、モナは、「今夜からは、別々のベッドで寝なさい」と命じる。

モナが、森から出てくると、一人の男が柵の外にいたので、「あなた誰?」と訊き、「ああ、あの時のお巡りさんね」と言い直す。モナが、「庭師のことで何か分かったの?」。警官はそれを否定し、いくつか重要な話をする(1枚目の写真)。箇条書きにすると、①モナはイサベラと違って良い教師のようなので、この館から出て行った方がいい。②2人の両親が殺されてから4回この館に呼ばれた〔殺されたというのは、モナには初耳〕。③殺したのはイサベラ。④殺した理由には、2つ説がある。1つは、「イサベラは正気ではなかった」。もう1つは、「子供たちに変なことをする両親から守ろうとした」というもの。⑤イサベラは両親が連れに来て、どこかの施設に入れられた。⑥イサベラは、2人の伯父の患者だった。これらの真摯な話にもかかわらず、モナは、“庭師の友だちだから自分を去らせようとしている” という間違った判断から、親切な警官を愚弄する。一方、館の窓から、モナと警官が話しているのを見たクララは、伯父に緊急の電話をかける(2枚目の写真)。

モナはアンヘルの部屋に行き、「なぜあの男〔トラックの男〕、私を殴ったの? なぜ。あんなに怒ったの? ちゃんと話してくれたら、あなたとお友だちになるわ。何か盗んだの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「ううん。盗んでない」。「あなたが、他の男の子と 何かしてるのを見つけたの?」。アンヘルは僅かに頷く。「あなた、何をしたの? 心配しないで。他の男の子たちとも同じことしたの?」。「ぼくが好きな子だけ〔ホモ友〕」(2枚目の写真)。「なぜ泣いてるの?」。「悲しくなったから。みんながぼくを嫌ったんだ」〔この言葉で、かつてはアンヘルが学校にいたことが分かるが、それならなぜ読み書きができないのか理解できない〕。「誰が?」。「みんなだよ。学校中のみんな。だから、ぼくは学校にはもう戻れないんだ。ぼくは ガラスにぶつかった鳥みたいなものさ。ボロボロなんだ」。「あなたが悪いんじゃない。誰かが、あなたの頭に悪い考えを吹き込んだのよ」。「『悪い考え』って?」。「あなたには、庭師の黒い魂が取り憑いているの」。その時、映画では何が起きているのかは分からないが、アンヘルが両足を合わせて力を入れている場面だけが映る。そして、ずっとアンヘルの顔を見ていたモナが、アンヘルが手で何をしていたのかに気付くと、「アンヘル、いったい何してるの?! こんなこと間違ってる! やっちゃダメよ! 彼が、そんなこと教えたのね!?」〔オナニー?〕と、強い調子で叱る。怒ったアンヘルは、ベッドから飛び出ると、「あんた、また、ぼくをムカつかせたな! 勝手に人の部屋に入って来て、好きなこともさせてくれない!」と怒鳴ると(3枚目の写真)、エマの部屋に逃げて行く。モナは、エマの部屋を開けようとするが、中から鍵が掛けてあって開かない。モナは、反対側の窓まで行き、中に入れるように命じると、エマが窓の向こうに現れ、「今から、アンヘルと赤ちゃんを作るわ」と笑いながら言う。気が動転したモナが、横を見ると、通路の向こうに庭師が立っている。モナは、狂乱状態になって喚き、それを聞いたクララがやって来る。モナは、クララに、庭師を去らせようとするが、クララには幽霊の姿が見えない〔幽霊が 家庭教師にしか見えないというのは、『ねじの回転』と同じ設定⇒ある意味、極めて不合理、不自然だが、すべて原作の責任〕。庭師は、居場所を瞬時に変え、最後は、庭に現れる。モナは、クララを庭に行かせ、庭師の位置を教えるが(4枚目の写真、矢印は庭師の幽霊)、クララは戸惑うばかり。その夜、クララは、興奮したモナに強い睡眠剤を与えて眠らせる。

翌朝、エマは、うつ伏せになって寝ているアンヘルの背中に翼を描き(1枚目の写真)、目が覚めた時、ペンを強く当て、「翼を切り落とすわよ」と言って、ペンを動かす。昨夜、廊下で、アンヘルが “ガラスにぶつかった鳥” と言っていたのに、対応したのかもしれない。睡眠薬で遅く目が覚めたモナは、昨夜寝る前に、クララから、2人の両親を殺したのは前任の家庭教師と訊き、警官の話が正しかったことを確認し、同時に、死因は変圧器とも聞いていたので、プールまで1人で歩いて行き、壊れた変圧器を見てみる(2枚目の写真、矢印)。すると、庭師の幽霊が、これまででも最も至近距離に現れる。モナが 「消えろ!」と言うと、庭師は 「俺の息子を見なかったか?」と訊く。モナが 「消えろ!」とくり返すと、庭師は 「俺の息子のホセを見なかったか? 捜してるんだ」と言う(3枚目の写真)〔これが、ホセが庭師本人でなく、その息子だとみなす唯一の根拠〕。「子供たちは、街に連れて行くから、放っておいて!」。「あんたは殺される!」。

エマは、「翼を切り落とすわよ」と言っておきながら、なぜか、そのあと、アンヘルの背中に極彩色の鳥の絵を描く。そして、アンヘルが、「ホセ!」と呼びながら木々の間を探し回っていると、弓矢を持って追って行き、どのくらいの本気度かは分からないが、アンヘルの背中の鳥を狙って矢を放つ。かなり離れた所に当ったので、エマの腕から見て、ワザと外したことが分かる。2本目の矢は、すぐ横の木に命中したので(1枚目の写真、矢印)、怒ったアンヘルはエマ目がけて走って行き、飛びかかって押し倒し、喧嘩になる(2枚目の写真)。エマの悲鳴を聞いたモナは、2人を分けると、クララには内緒で街に連れて行こうと、手をつないで歩き出す(3枚目の写真)。そして、先日警官と会った柵まで来ると、木の扉を固定していた針金を外し、一般道に出ると、バス停を目指して歩き始める。すると、前方から1台の乗用車が来たので、乗せてもらおうと手を上げて止める。しかし、中が見えないほど濃い色の運転席の窓ガラスが下がると、そこに座っていたのは、クララが電話を掛けて呼んだ伯父で、助手席には、クララも座っている(4枚目の写真)。結局、全員が車に乗って館に向かうことになる。

館に戻ると、伯父はモナを呼び出す。伯父は座り、モナはその前に立っているので、身分の差は明らかだ。伯父は、「私はあなたに対価としてお金を払っている。私を困らせないためだ」と、わざわざ遠くまで来るような事態を招いたことで、モナを批判する。モナは、「申し訳ありませんが、子供たち、特にアンヘルの安全に係わる問題で、彼は危険にさらされています」(1枚目の写真)。「あなたは、幽霊から嫌がらせを受けているそうだが?」。「いいいえ、幽霊ではありません。庭師なんです」。「庭師は2年前に死んだ。あなたは心理学的に退行しつつある。私は失望した。私はあなたのセラピストを知っている。彼は私の同僚で友人だ」。「彼と話したの? 彼には、私ついて他人に話す権限なんてないわ。倫理に反するじゃない!」。「医師の意見交換は別で、君を雇う以上、それは必要だった。君は、パラノイア〔特定の妄想(庭師の出現)を持ち続ける精神病〕状態に退行してしまった。君はアンヘルが天真爛漫だと思ってるのか? それが、幽霊を信じさせる要因だろう。結局、君がやったことは、子供たちを怖がらせることだけだった。荷物をまとめて出て行きたまえ」。その夜、アンヘルは、野原に作った大きな焚き火の周りで、「ぼくは火の鳥だ!」と叫びながら飛び跳ねている。最後には枝に火を点けてぐるぐると回す(2枚目の写真)。それを見たモナは、アンヘルを後ろから羽交い絞めにし、「来なさい。あなたは取り憑かれてる!」と、ある意味虐待し、背後には庭師の幽霊も現れる(3枚目の写真、矢印)。見かねたエマが棒で殴ってモナを気絶させる。

次のシーンは、自分のベッドに横たえられたモナから〔クララが運んだ?〕。クララは、何かの薬剤をモナの鼻に近づけ、強烈な臭いで意識を戻させる。モナ:「子供たちは?」。クララ:「大丈夫」。「伯父さんは?」。「もう帰った」。「アンヘルに会わないと」。「会いたがらない。あんたを嫌ってる」。クララは、部屋の隅に立っている庭師の幽霊に向かって、「あいつが、嫌わせたのよ」と言う(1枚目の写真)。クララは、①目の前で両親が殺されるのを見た子供たちのトラウマについて話し、②それを行った前任者は2人を両親から守ろうと錯乱したからだと原因を話し、③伯父は、反省し、子供を自由に生きさせたと擁護し、最後に、④モナのしたことは2人をバカにし、恥を教えただけだと強く批判する。クララが飲ませた睡眠薬が効き、モナは眠りに落ちる。すると、クララは、モナが館に初めて来る前に、ベッドメイキングした時、シーツの下に敷いておいた “麻袋で使うような薄茶色の分厚くてラフな布” でモナを覆い始める(2枚目の写真、矢印が布)〔こうなる事は、モナの来訪前から計画されていた?〕。それをドアの外から伯父と2人が見ている。完全に覆い尽くと、伯父が入って来て、麻紐で脚の部分を縛る。そして、クララと一緒になって脚の部分を持つと、ベッドから床に降ろし、そのまま廊下を引きずり(3枚目の写真、矢印は頭の部分)、館の前の階段もガタンガタンと引っ張り落し〔モナはとっくに目が覚めているので、1段落ちるごとに、呻き声を上げる〕、さらに野原を越えて、プールまで引きずって行く。

伯父とクララは、プールサイドまで運んだ “モナを包んだ麻布” を、プールに落とす(1枚目の写真、矢印)。そして、横に立っている電柱を2人で力任せにプールに倒そうとする。その間、2人はモナのノートパソコンに夢中になっている(2枚目の写真)。遂に電柱が倒れると、プールの水面で火花が飛び散り、モナは感電死する(3枚目の写真)。それにしても、伯父は、解雇すると言っておきながら、なぜこのような行為を主導したのか、さっぱり分からない。以前の、2人の両親のプールでの感電死も、伯父とクララが主犯ではなかったのかと疑ってしまう。そして、罪をモナの前任者に擦り付けた。となると、庭師の殺害もこの2人に違いない。こうした設定は、『ねじの回転』を冒瀆するものだと言っていいであろう。かくして、イヴァン・ノエル流の『ねじの回転』は、大失敗に終わった。

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