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Le jouet ル・ジュエ/おもちゃにされた新聞記者

フランス映画 (1976)

1970年代半ば、高い失業率の真っ只中にあったフランスで作られた上質のコメディ。主演の新聞記者フランソワ・ペランは17ヶ月失業していて、ようやく大手の新聞社に就職が内定する。しかし、そこは、巨万の富で多くの会社を支配しているランバル=コシェというCEOの傘下の新聞社だった。フランソワは、正式採用の前に、同社のカメラマンと一緒に、傘下のデパートで翌日から開催されるおもちゃセールの取材に訪れる。一方、ランバル=コシェの一人息子のエリックも、父から「好きなものを選びなさい」と言われ、店長他を引き連れておもちゃフロアを闊歩 していた。そして、たまたま悪戯をしていたフランソワが気に入り、彼を指して「あれ」と、購入を指示する。この突飛な行動の結果、最初、フランソワはエリックから “おもちゃ” として乱暴に扱われるが、エリックは、いくつかの経験の後、これまでとは違った人間像をフランソワの中に見出し、それに好意を抱くようになる。フランソワは、エリックに新聞作りの楽しさを味合わせようとし、結果的にエリックが編集長となって見出しを選び、フランソワが記事を書くことになる。最初に選んだのは、ランバル=コシェの傲慢さをテーマにした内容で、テーマを選んだのはエリックだったが、父はフランソワに止める代償に昇進を約束する。しかし、エリックとの約束を破りたくないフランソワは、第二の見出しに、ランバル=コシェの社員への過酷な扱いを選び、フランソワは解雇され、エリックは1年に1ヶ月だけ認められている親権〔ランバル=コシェはエリックの母と離婚し、若くて “腐ったメギツネ” と暮らしている〕を放棄して、エリックを母の元に帰そうとする。しかし、どうしてもフランソワと別れたくないエリックは、逃げ出し、父よりフランソワを選ぶ。この映画は、当時の世相を反映して大ヒットし、アメリカで 『The Toy』(1982)がリメイクされ、昨年には、『Le nouveau jouet』(2022)が公開された〔フランスで最も裕福な男の1人エティエンヌの、甘やかされて育った1人息子アレクサンドルが、デパートの夜間警備員サミを “おもちゃ” に選ぶ〕

映画の最初の17分は、1年半以上も失業していた元記者のフランソワ・ペランが、ようやく、ある新聞社の編集長と面会し、髭を剃ることを条件に就職が内定する場面〔そのせいか、髭を剃ることを拒んでいる記者が1人解雇される〕と、カメラマン〔翌日解雇される〕と一緒に、新聞社を所有するCEOランバル=コシェの傘下のデパートが開催するおもちゃセールの事前取材に出かける場面に費やされる。そして、出向いた先のおもちゃのフロアで、フランソワが仮装した子供マネキンの頭部を叩いて遊んでいると、そこにCEOの一人息子エリックがやってきて、店長におもちゃとしてフランソワを渡すよう要求する。異常な要求に困惑した店長は、フランソワに、エリックの屋敷まで一緒に行けば すぐに帰宅できると言って何とか事を収めようとする。しかしエリックは、フランソワを箱詰めにして配達するよう固執する。そこで、店長は、最後の手段として、箱詰めか失業かの選択をフランソワに迫り、フランソワは仕方なく箱詰めにされることを了承する。そして、フランソワは、屋敷内のエリック専用の遊び場に、木箱に入れられて運び込まれる。ランバル=コシェは、事情を聞くと、フランソワに エリックと話してすぐ帰宅させると言うが、エリックは父の要請も無視し 「僕のものだ。ここに置いておく」と主張したので、CEOは数日間の滞在か解雇かをフランソワに迫り、ここでもフランソワは滞在をOKする。そのあと、フランソワは、屋敷内で、わがまま一杯に育ったエリックに振り回される。2階の長い廊下を、子供用のスポーツカーに同乗して走ったり、西部劇のガンマンの格好をして連れて行かれた乗馬クラブでは、生まれて初めて馬に乗って落馬したり、屋敷に戻れば、テーブルクロスを引っ張られ食事をすべて床に落とされたり… しかし、フランソワを心底から激怒させたのは、エリックの若い継母で、大勢の一流の来客の前で味あわされた屈辱に、解雇も覚悟の上で逃げ出し、アパートに戻る。しかし、その頃までにはフランソワのことが気に入りかけていたエリックの頼みで、父は、編集長に命じて、屋敷に戻るようフランソワのアパートまで説得に行かせる。翌日の野外パーティで、フランソワとエリックは大暴れして会場から出るように命じられる。屋敷内の遊び場に行ったフランソワは、エリックに新聞作りの楽しさを話し、エリックの興味をつなぎとめるため、“母を捨てて、大嫌いな継母と再婚した父” を罰することもできると示唆する。エリックが編集長になった新聞『おもちゃ』は、初刊で父の傲慢さを取り上げ、あくる日は、父の犠牲となっておもちゃ化した社員を題材に取り上げる。怒ったランバル=コシェはフランソワを解雇し、エリックの1ヶ月の預かり期間を短縮してカンヌに住んでいる元妻のところに帰そうとする。反抗したエリックは、逃げ出し、フランソワに救いを求める。なお、この映画の英語字幕は内容が半分に圧縮され、存在する2つのフランス語字幕は、片方が間違いの多いヒヤリング字幕、片方が圧縮された字幕。今回は、英語字幕は無視し、2つのフランス語字幕を併用したため、作業に時間がかかった。

エリック役は、ファブリス・グレコ(Fabrice Greco)。1965年2月10日生まれ。1975年夏の撮影とすれば、撮影時10歳。出演した映画は、これ1本のみ。

あらすじ

目下失業中の40歳くらいジャーナリスト、フランソワ・ペラン〔Pierre Richardが演じている。現在89歳ながら、2022年に6本、2023年に4本の映画に出演と依然大活躍の俳優〕は、フランス・エブド新聞社のドゥ・ブレナック編集長に面会の約束を取って会いに行く。編集長は、髭面のフランソワを見ると、すぐに、「生まれつき、髭が多いのかね?」と尋ね、異常な問い掛けに答える前に、さらに、「髭は剃った方がいい。ムッシュー・ランバル=コシェは髭が嫌いなんだ。これだけは覚えておきたまえ。ムッシューは、この新聞を含めた複合企業体のCEOなんだ」(1枚目の写真)「私は編集長だが、ムッシューが全てを統括されていて、それを楽しんでおられる。ムッシューは、毎日ここに来られる。さあ、剃ってきたまえ!」と言われる。次のシーンでは、先輩のカメラマンと一緒に会社の車に乗ってランバル=コシェの複合企業体の1つの巨大な工場に向かう。車の中で、カメラマンは、この新聞社で働いて19年5ヶ月になると言い、来歴を聞かれたフランソワは、17ヶ月と6日間失業していたと答える。車が工場に着くと、巨大な塔の下の砂利広場に白いテーブルクロスが掛けられた長いテーブルが3つ並んで置かれている。その異様な光景を初めて見るフランソワに、カメラマンは「俺たちは、これを社内の義務だと呼んでる。出席者は、最初から決まってるんだ。他では見られない独創的なもの… ランバル=コシェの工場内での昼食会という変わった儀式さ。ランバル=コシェCEOが主要な協力者に感謝するんだ」と説明する。しばらくすると、工場長が、CEOが少し遅れるので、先に始めておいて欲しいとの指示があったと伝える。そこで、全員がテーブルに座って食べ始める。しばらくすると、黒塗りのリムジンが到着し、工場長が走って出迎えに行くと、全員が立ち上がる(2枚目の写真、矢印はフランソワ、慣れていないので座ったまま)。ランバル=コシェは、「マダム、ムッシュー、今日は。どうか座って続けて下さい」と、丁寧に挨拶すると、中央のテーブルの先端に置かれたイスに座り、イスとテーブルの距離が離れていたので、立ち上がってイスをテーブルに寄せるのではなく、テーブルを両手で引っ張り、自分の方に寄せる(3枚目の写真、矢印)。そのため、中央テーブルで食事中の人々の間では大混乱が起きる。ランバル=コシェの傲慢さが一目で分かる “考えもつかない” 面白いシーンだ。
  
  
  

カメラマンと一緒に新聞社に戻ったフランソワは、まだ正式採用されていないにもかかわらず、「実は、お金の問題を抱えてて、前払いを頼もうと思ってる」と相談する。するとカメラマンは、「それはどうかな。正社員として雇用されてないと」と否定的な発言をし、たまたまその背後にいたピニエというジャーナリストがカメラマンからタバコを頼み、フランソワと握手する。フランソワもカメラマンからタバコをもらうと、「毎日銀行から電話があるんだ。多額の当座貸越〔普通預金の残高を超えた払い戻し請求に対し、定期預金等を担保に行う融資〕してるから」と打ち明ける(1枚目の写真)。ピニエが 「大銀行か? 小さな支店か?」と訊いたので、「小さな支店だけど、どうして?」とフランソワが訊くと、「なら、行員をランチに招待すりゃいい。俺はいつもそうしてる」と入れ知恵する。そして、収入が期待できると話した上で、面白い話をして笑わせるといいとも。翌日、フランソワはさっそく支店の行員をランチに招き、面白い話をするが、相手はにこりともしない。そこで、クルミを1個手に取ると、テーブルの上に置き、「手の先でナッツを割る方法を知ってます?」と笑顔で言い、実行すると、テーブルを叩いた衝撃で行員の前に置いてあったカップからヨーグルトのカップが落ち、行員のスボンが白く汚れてしまう(2枚目の写真)。行員は、「では、こうしましょう。当座貸越を月末に返済すると保証してもらえますか? 6000フラン〔1975年夏の為替相場で36万円。現在の約70万円〕ほどです」と汚された腹いせに厳しい条件を言う。フランソワは現金がないので、小切手でランチ代を払おうとするが、行員は 「小切手は使えませんよ。レジ係にあなたの小切手を受け取らないよう指示してあります。現金で払って下さい」と注意する。フランソワが 「昨日銀行で5フラン下ろそうとしたら、追い出されました」と言ったので、結局 行員が支払うことに。フランソワが新聞社に入ろうとしていると、右手の歩道をカメラマンが歩いてくる。その時、社屋からでてきた女性〔ランバル=コシェの妻〕がカメラマンを睨んで出て行き、リムジンに乗り込む。フランソワがトイレにいると、CEOからの電話を受けた編集長が呼びに来て、急いでCEOの部屋まで連れて行かれる。CEOは微笑みを浮かべながら、「来週、君の雇用契約に署名する。君も、スタッフの一員だ」と告げ、フランソワはホッとする。その時、CEOに息子から電話が入り、急に優しい声になった父親は 「好きなものを選びなさい」と言って電話を切る〔重要な伏線〕。CEOは編集長を呼び出すと、「ムッシュー・ピニエに退職金を払いなさい」と命じる。編集長が了解した上で理由を伺うと、「手が汗ばんでいる」と奇妙な理由を告げる〔解雇の理由は、恐らく口髭〕。その次の場面では、解雇を通知されたピニエが、同僚に向かって、「俺は、手に汗などかいたことがない。汗ばんでるか?」と言って、何人か、そして、新米のフランソワにも手を握らせる(3枚目の写真)。ピニエは、組合は何もしてくれないと不平をもらして去って行き、カメラマンは、ピニエの手が汗ばんでいると言ってあざ笑う〔カメラマンは翌日解雇される〕
  
  
  

フランソワとカメラマンは、編集長の命令で、ランバル=コシェ傘下のデパートに取材に行く。デパートの窓には、「おもちゃの2週間セール」と書かれた大きな布が掲げられている。2人は女性の係員に案内されて おもちゃの階に案内される。この日は、オープン前の休業日なので、他には誰もいない。2人は別れ、フランソワは子供サイズのマネキンが、子供の喜びそうな衣装をまとっている壇の上を歩きながら、怪傑ゾロの帽子を傾け、インディアンの羽根に触り、ソ連風の毛皮の帽子で悪さをした後、宇宙服のヘルメットを叩いて首ごと落下させてしまい、慌てて元通りにしようとする。すると、その壇から真っ直ぐ伸びたデパート中央通路を、店長以下7名を引き連れた少年エリックがやって来る。そして、落とした首を直しているフランソワを見て、「あれ」と指示する(1枚目の写真)〔父が、「好きなものを選びなさい」と言ったので、「あれ」を選んだ〕。店長は、「ゾロ?」と笑顔で訊く。「違う」。「宇宙飛行士?」。エリックは、「違う。あれ」と言いながら、フランソワを指差す(2枚目の写真)。すると、騒がしいのでフランソワが振り向く(3枚目の写真)。「あのムッシュー?」。「そう」。「いいえ、あれは差し上げられません、坊っちゃま」。「どうして?」。「その… だって… 彼はムッシューだからです」。「なぜ?」。「こちらへ。店内でもっと素敵なおもちゃを選びましょう」。「あれが欲しい」。「はい、どうか怒らないで、坊っちゃま。何とか致します」。
  
  
  

店長は、フランソワのところまで壇を上がって行くと、「私は店長です。あなたは、ムッシュー・ランバル=コシェの新聞社で働いているのですか?」と尋ねる。「はい」。「なら、この店もムッシューが持たれていることは知っていますね」。「それで?」。「あの子は、ムッシュー・ランバル=コシェのご子息です。あの子が何を考えているのか想像もつきませんが、あなたを家に連れて帰りたいそうです。だから、あなたもあの子に同行するのです。屋敷に着いたら、私たちが説明しますから、あなたは新聞社に戻って下さい」(1枚目の写真)。フランソワは、「あの子は、病気か何かですか?」と訊く。自分のクビがかかっている店長は、「私たちは、大きなリスクを抱えてる。私は ムッシュー・ランバル=コシェに、息子を喜ばせて欲しいと指示された。あの子は、敏感な子でね、ヒステリーを起こすかもしれない」。長い交渉にイライラしたエリックは、大きな声で、「それで?!」と訊く。店長は笑顔で振り返り、「今すぐです、坊っちゃま」と言う。フランソワは、それでもしばらく抵抗するが、最後にはOKし、店長は感謝する。そして、吉報を届けに、フランソワと一緒にエリックの前まで行くと、エリックは 「梱包して」と要求する(2枚目の写真)。「冗談ですよね、坊っちゃま。このムッシューを箱詰めになどできません」。「なぜ?」。それを聞いたフランソワは、呆れて立ち去ろうとするが、すぐに店長が駆け寄り、「ゲームのつもりで遊びましょう。愚かなことはなさらないで」と宥める。「冗談でしょ? 僕は、木箱に入るつもりはないからね。気は確か?」。「緩衝材と呼吸用の穴があって快適です。 肘掛け椅子に座っているようなものですよ」。これに対し、フランソワは猛烈に反駁するが、それに止めを刺したのは、店長の 「あなたは、失業したいのですか?」という言葉。これを聞いたフランソワは、ハッとして自分の立場に気付く(3枚目の写真)。
  
  
  

ランバル=コシェの豪邸(1枚目の写真)に、デパートから木箱が配送されてくる。エリックは、ガヴァネス〔住み込みの家庭教師〕が横に座って見守る中で、巨大なテーブルの端に座って食事をしている。そこに、正面のドアが開き(2枚目の写真)、女中が、「エリック坊ちゃまへの贈り物が届きました」と告げる。それを聞いたエリックは、食事など無視し、イスを倒して “お遊び部屋” に向かって走って行く。ガヴァネスは、食事を食べさせるのも仕事の一つなので、「ムッシュー・エリック!」と叫ぶが、エリックは完全に無視。上半分がY字型に分岐した中央階段を駆け上がり、2階にある “お遊び部屋” まで行くと、部屋の真ん中に大きな木箱が置いてある(3枚目の写真)。
  
  
  

そこに、気の強いガヴァネスがやってきて、「後で開けなさい。食事中に席を立ってはいけません!」と強い調子で言う。後から分かることだが、父はエリックの母と離婚し、法律上、エリックは年に1ヶ月だけ父と暮らすことになっている。億万長者の父に過剰に甘やかされてスポイルしたエリックだが、1ヶ月しか滞在しない “お坊っちゃま” 用のガヴァネスがこんな厳しい口調で命令するものだろうか〔違和感を覚える〕? エリックは完全無視なので、ガヴァネスは 「聞いてるの? テーブルにすぐ戻って、明日、開けなさい!」と怒鳴る。その “明日” というバカげた指示に頭に来たフランソワが、「おい、何 バカ言ってる!」と箱の中で叫ぶ。そこに父が入って来て、「ここで、何が起きてるんだね?」と優しく訊く。エリックは 「僕にプレゼントを見させないんだ!」と文句を言う。父が、エリックの頭を優しく撫でていると、箱の中から、「すみませんが、ここから出たいんです」という声が聞こえ、父はガヴァネスに、「これは何だ?」と訊く。エリックは 「僕へのプレゼント」と答え、父は息子を一瞬恐ろしそうな顔で見ると、すぐに 「事務所でペンチを」と命じるが、ガヴァネスがぼんやり立っているので、「急がんか」と叱る。役立たずがいなくなると、父が、箱に向かって 「誰だね?」と訊くと、「ムッシュー社長さん、フランソワ・ペラン、見習いジャーナリストの一人です」と返事が返ってくる。父は、息子に 「どういうことだね?」と訊き、エリックは 「別に。僕へのプレゼントだよ」と答える(2枚目の写真)。そこに、レバーと金槌を持った使用人がガヴァネスと一緒に現れると、箱の蓋を停めていた棒を外し、蓋を取り去る。すると、中からフランソワが現われ、ランバル=コシェに向かって 「デパートで取材していたら、あなたの息子さんが、ここに連れて来るよう命じたのです」と、相手がCEOなので、笑顔で説明すると(3枚目の写真)、箱から出る。父は、息子に、食事を済ますよう命じる。
  
  
  

ランバル=コシェは、相手が、今朝、新聞社のCEOの部屋で会ったばかりなので、「ムッシュー・ペラン、私は、息子にユーモアのセンスがあることが分かって嬉しいよ。彼はいい子だったから褒美を与えたかった。彼は、私たちに冗談を演じて見せたんだ。それでは、彼のちょっとした冗談で私たちが大笑いしたと彼に話したら、君は帰宅していい。この迷惑行為に対し、君にボーナスを払うよう、編集長に話しておこう」。この言葉で、事態は円満に解決した雰囲気になる(1枚目の写真)。2人は食堂に入って行き、父がエリックに向かって、「私は、このムッシューに、君がユーモアのセンスがあると分かって嬉しいと話した。私たちは大笑いしたから、彼は帰宅する。だから、坊や、彼に感謝して、さようならを言いなさい」と言う。それに対するエリックの返事は、「彼は僕のものだ。ここに置いておく」という異常なもの(2枚目の写真)。それを聞いたランバル=コシェは、フランソワに、「一緒に来て」と声をかけて、食堂から連れ出す。そして、廊下を歩きながら、「あなたは、ここに数日間滞在することになる。問題じゃないですね? 新聞社には行かなくても、編集長にはよく言っておきます」と、先ほどとは打って変わって冷たい口調で命じる。フランソワが、「こんなのバカげてます」と反論すると、「会社を辞めたいのかね?」と訊かれ、それ以上何も言えなくなる。ランバル=コシェは、ちょうど前まで来ていたドアを開けると、フランソワをそこに入れる。その部屋は、エリックの遊び場として作られたもので、中は、フランソワの身長の倍以上もある大きなスーパーヒーローの切り抜き絵や、数え切れない玩具で溢れている。
  
  
  

すると、そこに、子供用のスポーツカーに乗ったエリックが、部屋の一角に積んであった大きな紙箱のゲートをバラバラに崩壊させて中に突入してくる(1枚目の写真)。そして、フランソワの横に停まると、「乗らない?」と誘う。「どこへ?」。「家のあちこち」。この半強制的な問い掛けに従ってフランソワがエリックの横に体を押し込めると、安全のためにヘルメットを渡される(2枚目の写真)。スポーツカーが最初に急停車し、エリックが足で蹴ってドアを開けたのは、「僕の部屋」(3枚目の写真)〔映画の中では二度と出て来ない〕。次にエリックがドアを開けて中を一瞬見せたのは、執務中の父の仕事部屋。
  
  
  

スポーツカーは、廊下の角を90度曲がり、壁際に置いてあった観葉植物の鉢植えにぶつかり、その後、配膳室から白衣のウェイターがエリックの昼食の後片づけのテーブルを廊下に押し出したのにぶつかり(1枚目の写真)、配膳用の台車は破壊され、載っていた食器や果実、残った料理が廊下に散らばる。それを片付け始めたウェイターに向かって、エリックは 「そっちが悪い」と言うと、今度は、フランソワに 「キップを切って。事故処理して来ないと」と言い、フランソワの頭にフランス警察のケピ〔円筒型の帽子〕のおもちゃを被せる(2枚目の写真、矢印)。ウェイターは、フランソワに向かって、財布を見せ、「これが私の免許証と車検証です、お巡りさん。オレンジで進入していません〔フランスでは信号の色は緑、オレンジ、赤〕」と、ケピを被ったフランソワが警官のように話しかける。それを聞いたエリックはオレンジ色の風船を渡し、アルコールテストをすると言い、ウェイターに膨らませ、おもちゃの拳銃で撃って風船を割る。ウェイターは、それでも笑顔で、「皿を拾ってもよろしいですか?」とエリックに尋ねる。エリックは、「いいよ、来て」と言う〔最初の言葉はウェイターに、2つ目はフランソワに〕。ウェイターは散乱した物を拾い始めるが、フランソワはスポーツカーに乗らずに、タイヤを蹴ると、警官のフリをして、エリックに、「タイヤが摩耗してる。車から降りろ」と怖い顔で命じる。エリックが その態度に怒って車から降りる、「署まで一緒に来てもらう」と強い口調で言う。「僕は、エリック・ランバル=コシェだぞ!」。「署だ! あれは何だ?」〔最初の言葉はエリックに、2番目はウェイターに〕。「物置きです、ムッシュー」。フランソワはエリックの腕を掴むと、嫌がるのを無視して(3枚目の写真)、物置きに閉じ込める。それを見たウェイターがフランソワに笑顔で握手を求める。
  
  
  

すると、エリックの叫び声を耳にしたランバル=コシェ本人が、「どうした?!」と、強い調子で詰問する。フランソワは、「何も。私たち、遊んでるだけです、ムッシュー社長さん」。ランバル=コシェが、フランソワを押しのけて扉を開けると、エリックが飛び出してきて(1枚目の写真)、フランソワに向かって、「このキチガイ!」怒鳴る。しかし、父が 「どうした、エリック?」と訊くと、“好きでもない父” がいるのに初めて気付いたエリックは、笑顔になり、「何も、遊んでるだけ」と言い(2枚目の写真)、フランソワの手を取り、「行こ」と言ってスポーツカーに乗せる。車が走っていると、騒音を聞きつけた若い継母が部屋の前でエリックを睨みつける。エリックは、彼女の脚に向かってハンドルを切り、直前になって気付いたフランソワがハンドルを切って衝突を避け(3枚目の写真、矢印は脚)、出発点に戻る。
  
  
  

エリックは、「あんた、何て名なの?」と訊く。「フランソワ」。「ううん、ジュリアンがいい。僕の仲間のジュリアンだ」(1枚目の写真)。フランソワは、「どれくらい、ここにいなくちゃいけない? 家では妻が待ってる。人生もあるんだ」と訊くが、エリックは、テーブル・サッカーゲームの前で、「遊び方知ってる?」と尋ねる。「質問に答えて」。「僕がゴーリを決める度に、1年ずつ増える。始めて」。「勝ったら?」。「出て行っていい」。子供の頃、上手だったフランソワは、OKしてゲームを始めるが(2枚目の写真)、やり方を思い出すまでに2敗して「2年」。そこから、フランソワは挽回を始め、「2-1」、「2-2」、「2-3」と連続してゴール。フランソワ:「勝ったから、行ってもいい?」。エリック:「パパはたくさんお金をくれるよ」。「君はゲームに負けた」。「ここにいないと、パパを呼ぶよ」。「君は、むかむかする金持ちのガキだ。君に必要なのはお尻を叩くことだ」(3枚目の写真)。「叩いていいのは、あんたじゃない」。そこに、父が入ってきて、「乗馬の時間だぞ」と言う。
  
  
  

エリックは 「仲直りする?」と訊き、フランソワは 「何を期待してるんだ?」と訊き返す。「一緒に乗馬クラブに行くこと」。「馬なんかには乗らないぞ」。しかし、エリックは、そんな言葉など無視し、衣装箱の中から、西部劇のガンマンの服装一式を取り出してフランソワに投げつける。「これ、何だ?」。「あんたのコスチューム」。父と若い継母が中央階段の下で待っていると、ガンマン姿のフランソワと乗馬服姿のエリックが踊り場に現れる(1枚目の写真)。フランソワは、階段を半分ほど下りていくと、ランバル=コシェに、「あなたの息子さんに、乗り方を知らないと警告しました」と言うと、足を滑らせて階段の下まで転がり落ちる。エリックは 「彼は、階段の下り方も知らない」と首を振る。乗馬が嫌いな継母は、「良かった、私なしで行って」と言うと、階段を上がって自分の部屋に向かう。乗馬クラブに着くと、多くの女性が馬に乗っているが、フランソワはそもそも馬に乗れない。何度も挑戦してようやく馬に跨ることに成功。それまで、ニヤニヤしながら見ていたエリックは、「歩かせて!」と催促する。馬がゆっくり歩き始めると、エリックが近づいて行き、馬のお尻を乗馬鞭で叩く(2枚目の写真、矢印)。馬は走り出し、馬に乗るのが初めてのフランソワは、途中で派手に落馬する。父は、「君が ぶち壊したんだぞ」と諫める。一方、新聞社では、勤続歴19年のカメラマンが不機嫌な顔で同僚の部屋に入って来ると、「解雇された」と伝える。「どうして?」と誰かに訊かれると、「分からん。もしかして、ペランと一緒にデパートにいたからかも」と、責任をフランソワになすりつける(3枚目の写真)。
  
  
  

フランソワが、頭に包帯を巻いて、エリックの遊び場に1人で座っていると、そこに編集長が入って来て、「ちょっと落馬したとか?」と声をかけ、①フランソワの奥さんに電話して、今夜は仕事で帰宅できないと知らせ、②ランバル=コシェが予定を早めてサインしたフランソワの雇用契約書を見せ、③さらに、色々と被った負担に対する補償金の小切手の金額を見せるが、フランソワは編集長の顔をじっと見続ける。そして、編集長が出て行こうとする時、「ジャーナリストがおもちゃのように扱われるのが普通だと思いますか?」と尋ねるが、それに対する返答は、先ほどのカメラマンの解雇を反映して、それまでの笑顔とはがらりと変わり、「報道機関には 2千人の求職者がいる」という厳しいもの。しばらくすると、別のドアをバタンと倒してエリックが入って来ると、フランソワに買い物袋を渡す。「これ何?」。「開けて」。中に入っていたのは、ウォーターマンの超高級ボールペン。エリックは、「馬のことはごめんね。自分で買ったんだ、きれいでしょ?」と笑顔で言う。それを聞いたフランソワは、「きれいだな」と笑顔で応え、2人は仲直りする。そこに、ガヴァネスが入って来て、エリックにお風呂の用意ができたと告げる。エリックは、フランソワに 「一緒にお風呂に入ろうよ」と声をかける。ガヴァネスは、誰かと一緒に風呂に入るには、大きくなり過ぎていると強く反対する。それでも、エリックは ガヴァネスに向かって 「彼と一緒にお風呂に入る」と言い張り(1枚目の写真)、ガヴァネスは 「お父様を呼んできますよ」と警告する。エリックは 「あっちに行けよ!」と反論し、フランソワも、「なんでここにいるの? ガヴァネスも失業かな?」とエリックを援助し、エリックには 「お風呂はどこ?」と訊き、2人でお風呂に向かう。ガヴァネスは、その後も、一緒にお風呂のある大きな部屋までついてくると文句を並べるが、誰も聞いていない。いざ、お風呂の所まで行くと、エリックは、冗談で言っただけで、自分一人で入ると言うが、フランソワは、背広を着たままで泡で一杯のバスタブに入り(2枚目の写真)、その冗談が気に入ったエリックも、そのままの格好でバスタブの反対側に入る。そして、「会えて良かったよ、ジュリアン」と笑顔で言うと、手を差し出し、2人で何度も握手する(3枚目の写真)。
  
  
  

夕食の時間となり、日中とは別のウェイターが、白いテーブルクロスで床まで覆われた円形テーブルの上にワインとメイン料理を入れた銀器などを乗せて廊下を押している。すると、隠れていたエリックが、「待て」と命じたのでウェイターが停まる。エリックは姿を見せると、テーブルクロスの中に隠れる(1枚目の写真。矢印の方向)。「進め」。ウェイターは再びテーブルを押し始める。エリックの遊び場のドアがノックされ、夕食が運ばれてくる。フランソワは、スーツごと風呂に入ったので、上下ブルーのパジャマを着ている。ウェイターは、「ムッシューがご自分でどうぞ」と言って出て行こうとしたので、フランソワは 「怪物はどこだ?」と訊く。「今、何と?」。「チビの怪物はベッドか?」。「存じません」。フランソワは、ウェイターがセットしておいたイスに座ると、バターを皿に取り、パンに付けて食べ始めると、エリックがイスと反対側のクロスを引っ張り始めたので、フランソワから一番遠くにあった赤ワインと、料理の銀器から床に落ちて行く(2枚目の写真、矢印の方向)。3分の2くらい落ちた所で、フランソワがイスに座ったままテーブルの下を覗くと、エリックが、「ワン!」と言って脅かしたので、びっくりしたフランソワは、イスごと後ろに倒れる。すると、中から出てきたエリックがフランソワの前に立ち、「怖かった?」と訊く。怒ったフランソワは、無言で立ち上がると、床に落ちた物をテーブルの上に拾い上げる。エリックが、「あんたって、食事に運がないね」と言っても、フランソワは無言で作業を続ける。「怒ってる?」。メインディッシュの皿を叩きつけるようにテーブルに置きながら、「いいや、すごく嬉しいよ!」(3枚目の写真、矢印は後述するクリーム入りのパイ皿)。「怒ってるんだ」。そう言うと、エリックは、テーブルの上に残っていたクリーム入りのパイ皿を手に持ち、「これ美味しいよ。これだけでも食べて」と言う。パイ皿を受け取ったフランソワが、エリックの顔にぶつけてやろうと構えると、ガヴァネスが就寝時間だとエリックを呼びに来たので、願いは叶わなかった。
  
  
  

その後、フランソワが廊下に出てトイレを探していると、ドアが開き、エリックの継母が出て来て、「何を探してるの?」の訊く。フランソワが 「トイレ」と言うと、「こっちよ」と言い、中央階段を下りて1階に連れて行く〔個室はすべて2階にあるので、トイレも2階にあるハズなのだが、これほどの豪邸なら、すべての個室に専用トイレが付いているかもしれないので、フランソワも変に思わなかったのかも〕。エリックの継母=腐ったメギツネは、立派な両開きのドアの前で、「ここから」と言い、フランソワは 「ご親切にどうも。あなたは、この家で、ただ一人のまともな人です」と感謝してドアを開けると、中では、16人の客と、ランバル=コシェが晩餐会の真っ最中。茫然と立ちすくんだフランソワの横に立った “腐ったメギツネ” は、「これが、今日、チビ君が買ったムッシューです」と紹介する(2枚目の写真)。フランソワは逃げ出し、ランバル=コシェは席を立つと、「失礼」と言い、長いテーブルの脇を歩いて妻の所まで行くと、妻を連れ出し、中央階段を早足で上がって部屋まで連れて行く。フランソワは、遊び部屋に戻ると、テーブルを片付けに来ていたウェイトレスに、「僕のスーツ!」と要求する。洗濯して、まだ乾いていないと聞くと、「すぐ、取ってくるんだ!!」と怒鳴る。様子が変なので、エリックが 「何してるの?」と入って来る。フランソワは、「誰にも、人を見下す権利などない! 僕は出て行く。君は、これを父さんに返せ」と言い、雇用契約書を見せ、「もう、どうなろうと構わん!」と言いながら、紙を丸めて床に投げつける。「あんたは、ここにいろ。お店で買ったから、僕のものなんだ。スーツは返さないよ」。フランソワは、ちょうど手元にあったクリーム入りのパイを皿ごと手に取ると、それをエリックの顔にぐいぐいと押し付ける(3枚目の写真)。そして、青いパジャマの上からコートを羽織ると、邸宅から走って逃げ出す。
  
  
  

夜、フランソワの妻がベッドで横になっていると、居間で音がするので見に行くと、勤務中だと言われた夫が、奇妙な格好をしてお酒を飲んでいるのでびっくりする。一方、ランバル=コシェは新聞社の編集長に電話をかけ、「すぐ会いたい」と、夜にもかかわらず緊急に呼び出す。フランソワが、妻に今後について慰められていると、アパートのベルが鳴る。フランソワが 何事かとドアを用心深く開けると、そこにいたのは睡眠薬を飲んで寝ていたところを叩き起こされた編集長。部屋に入って話そうとするが、フランソワは部屋には入れない。編集長は、「君を煩わせて悪いんだが、CEOが来させたんだ。彼は、君に戻ってもらいたがってる」と話す。フランソワは 「彼に言ってやれよ、息子をあんな風に甘やかすなんて、どうかしてると。お休み」と言うと、ドアを閉めようとする。編集長は、ドアが閉まるのを押し留めると、「彼は可哀想な子なんだ。彼は、最初の結婚の子で、ランバル=コシェCEOは、1年に1ヶ月だけあの子と過ごしてる。あと1週間で、母親のところに帰るんだ。もう少し頑張れないか? 長くない。1週間なんだ」(1枚目の写真)。それを聞いたフランソワは、編集長を部屋に入れて話し合う。そして、編集長の車がランバル=コシェ邸の前に付き、フランソワが車から降りる。それを、エリックと父が窓から見ている。フランソワが遊び部屋のドアを開けると、ドアの上に置いてあったクリーム入りの大きな椀が落ちてきて、フランソワは頭からクリームを被る(2枚目の写真)。何てガキだと思いつつ、中に入って行き、仮設ベッドの脇のスタンドを点けると、ライナスの絵の枕の上には、「よく寝て、ジュリアン」と書いた紙が置いてある(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日は、邸宅の広大な庭園を使った野外パーティ。門の外に、昨日の午後解雇されたカメラマンがやってきて、駐車を注意したウェイターに、“昨日箱に入って連れて来られた男” と会いたいと話す。すると、昨日と同じ西部劇のガンマンの格好をしたフランソワがやって来る。フランソワが「やあ」と陽気に声をかけると、「俺は、お前さんのせいで解雇された」と、根も葉もない勝手な思い込みで、批判する。そして、「だが、俺は対抗してやる。もうすぐ皆がここに来る」。「誰が?」。「組合の連中だ。服を着て、俺たちに参加しろ」(1枚目の写真)。フランソワがカメラマンの方を向いた時、エリックがこっそり近づいて、フランソワの腰につけた銃を抜き取ると、「手を上げろ、ジュリアン」と命じる。フランソワは両手を上げると、「やり直させてくれる、ジム?」と言い〔いつから、ジムが呼称になった?〕、エリックは了解する。その後のフランソワの行動は、エリックと遊んでいるのか、カメラマンを助けているのかよく分からない〔どう見ても、前者に見える〕。フランソワは、ガンマンらしい “いつでも撃てるような決闘スタイル” で、パーティに集まった客に向かって真っ直ぐ歩いて行き、その不気味さに客は避ける。そして、一番奥〔邸宅寄り〕にいたエリックを見つけると、ガンマン同士向かい合う(2枚目の写真、パーティの雰囲気が分かる構図で選んだ)。2人は撃ち合い、撃たれた方の役のフランソワは、撃たれて苦しむフリを派手、かつ、長々と演じて、パーティの雰囲気を壊し(3枚目の写真)、「やり過ぎないように、ムッシュー・ペラン」とランバル=コシェに注意される。フランソワは、「息子さんを楽しませるためです、ムッシュー。お望みなら、出て行きます」と言い、ランバル=コシェはそれ以上 何も言えない。
  
  
  

パーティが再開してしばらくすると、労働組合員を乗せた車が2台到着し、門の前で、プラカードを掲げ、不当解雇に対する抗議運動を始める(1枚目の写真)。フランソワとエリックは銃撃戦を始め、フランソワは大声で叫んだりラッパを吹き鳴らし、エリックはパーティ用の食べ物が載ったテーブルを次々と転覆させ(2枚目の写真、矢印の方向)、あまりのひどさに、門の外での抗議活動も、呆れて停止する。そこに、サイレンを鳴らしながら警察のバスが2台やって来て、エリックは 「騎兵隊だ」と喜ぶ。デモ参加者は、全員バスに乗せられる。2人は、パーティを台無しにして、カメラマンの怨念を晴らしたのか? 抗議行動の邪魔をしたのか? 何れにせよ、あまりのやり過ぎに、ランバル=コシェが再びやって来て、「どこか他で遊んで来なさい」と2人に命じる。2人は、嬉しそうに会場から去って行くが、フランソワは、途中で、ランバル=コシェの “腐ったメギツネ” を見つけると、「知らない人たちでいっぱいの晩餐室にパジャマ姿で押し込むなんて、どうなるか分かっているでしょうね」と言うと、そのまま噴水池に押し倒す(3枚目の写真)。それを見たエリックは、“いい気味だ” と蔑むように 憎っくき継母を見る。
  
  
  

エリックの遊び場に行った2人。大きな鉄道模型のジオラマの前で、フランソワは 「新聞を作ろう」と提言する。「報道するんだ。簡単だよ。脱線から始めよう」。そう言うと、目の前の高架橋の上に差し掛かった客車を2台手で叩いて落下させる(1枚目の写真、矢印は客車)。「脱線事故だ」と言うと、立ち上がり、「僕が編集長だ。君を部屋に呼び出す」と言いながら、小さなイスを机の前に置き、その後ろの大きなイスに座る。「入って」。エリックが机の前に立つと、「ココ、座って」と言い、右脚を机の上に乗せる。「マスコミじゃ、誰もがココって呼ばれてるんだ」(2枚目の写真)。そして、「ココ、アメリカで大きな鉄道事故が起きた。すぐ取材に飛んでくれ」と、おもちゃの葉巻をくわえながら、偉そうに命じる。ところが、エリックは、「アメリカじゃダメだ」と冷静に言う。「何?」。「事故はフランスで起きないと」。「どうして?」。「読者の関心を呼ぶには、フランス人が死なないと」。エリックは、立ち上がってフランソワの前に行き、「あんたは何も分かっちゃいない。僕が編集長だ」と言うと、フランソワを追い出して自分が大きなイスに座ると、両脚を机に乗せる。フランソワは、その前の小さなイスに座る。エリック編集長は 「話したまえ、ココ」と命じる(3枚目の写真)。
  
  
  

「見出しが必要です。こう提案します。『リヨン近郊で深刻な鉄道事故。犠牲者80人』。どうですか?」。エリックは、葉巻のおもちゃを手に持つと、「『鉄道事故』というのは冴えないな。こうしよう。『パリ~リヨンの急行列車脱線。死者80人』。これが見出しだ」(1枚目の写真)。フランソワは、「プロの記者を15年やってるから、見出しについては熟知しています」と反論するが、エリックは 「見出しを熟知してるんなら、ココ、あんたは僕の代わりに編集長になってるさ」。そう言うと、エリックはイスから下りると、隣の机の上からスペースマイナー〔2本の棒を操作して金属球を目的地に落とすゲーム〕を取って来て、遊び始める。「もう新聞作りは止めたの?」。「僕が、あんたに勝ったから」。「これはゲームじゃない。新聞を作るのは楽しいよ」。エリックは、ゲームをしながら首を横に振る。「君は、誰かになりきって、その物語を書くことができる。CEOを例にとって考えてみよう。彼は大金持ちで、とっても権力があり、自分のお金で何でも買える人だ。君は、毎朝、新聞でCEOの冒険を伝えることができる。面白いと思わない? CEOには家族もいる。彼よりずっと若い女性。ママを追い出した彼女や、憎んでいる小さな男の子も。パパは、その若い女性を買ったんだと悟った少年は、パパを罰するために、同じようなことをしてやろうと、ある日、パパのデパートに行って一人の男性を買うんだ」(2枚目の写真、矢印は金属球)。この言葉と同時に、スペースマイナーの金属球は、一番手前の最高得点の穴に落ちる。エリックは、「わが友、ジュリアン。僕らはやるよ。その新聞」と、すごく乗り気になる(3枚目の写真)。
  
  
  

エリックは、タクシーを呼び、フランソワと一緒に大きな家の門まで行き、「ここだよ」と教える(1枚目の写真)。その先に見えたのは、大きな屋根のある家(2枚目の写真)。エリックは首から下げたカメラで家の写真を撮ると、画面は、いきなり、その家の中で食事中の一家の場面となり、食堂のドアがいきなり開いてランバル=コシェとエリックが入って来る。ランバル=コシェは自ら名乗り、突然の乱入を詫びた上で、「この家は幾らですか?」と突拍子もないことを訊く。この変な質問にも、主人は勝手に入って来たランバル=コシェを追い出さず、「売り物ではありません、ムッシュー」と答える。「私はそれが売りに出されているかどうかを尋ねているのではなく、その価値を尋ねているのです」。「分からない。5年前に6000万払いました〔1975年の円~フラン為替レートの平均値で約40億円(現在の約70億円)に相当するが、あまりに高額すぎるので、映画の設定ミス〕。今なら、8000万から9000万の価値があるでしょうな」。「2億〔現在の約230億円〕払いましょう」。「冗談でしょ?」。「いいえ」。「2億というのは、非常にいい価格です」。「3億〔現在の約350億円〕」(2枚目の写真)。「何ですって?」。「今すぐ明け渡せば、3億払います。1分間考えて下さい」。あまりの高額なので、主人は家族と相談し(3枚目の写真)、「今日中に、出ていくよう手配します」と答える。しかし、ランバル=コシェは、「今すぐ。売るか止めるか、残り時間30秒です」と言う。主人は、3億-(購入費の6000万)-(新規購入費の9000万)-(放置する家具その他の費用1000万)=1億4000万フラン〔現在の約160億円〕の利益を優先し、率先して部屋を出て行く。
  
  
  

エリックは、そうした父の態度を、バケモノでも見るような顔で見ている(1枚目の写真)。そして、翌日、新聞社のCEO室にいるランバル=コシェの元に、エリックからの大きな封筒が届く。ランバル=コシェが封筒を開けると、中に入っていたのは、映画の原題と同じ 「LE JOUET(おもちゃ)」という名前の新聞。ウサギの人形の下には、「編集長: エリック・ランバル=コシェ」と大きく印刷され、その下に、すごく小さな字で 「記者: フランソワ・ペラン」と書かれている(2枚目の写真)。ランバル=コシェが1枚だけの折った紙を開くと、左面にはエリックが撮った昨日の家の写真が掲載され、その上に、「ランバル=コシェCEOが、自分の不動産を購入する方法」という見出しが付いている(3枚目の写真)。さっそく邸宅に戻ったランバル=コシェは、ガヴァネスに、「エリックはどこだ?」と尋ねる。「出かけました、ムッシュー」。「どこへ?」。「分りません、ムッシュー、2人で出かけました」。
  
  
  

その頃、2人は、アイスクリームを手にして、仲良くブルタイユ通り〔アンヴァリッドから真っ直ぐ南に伸びる幅60m超の大通り〕の中央にある公園の端の歩道を歩いている。そして、ふざけているうちに、フランソワのアイスクリームがコーンから外れて地面に落ちる(1枚目の写真、矢印はアイスクリーム)。2人は、その後、解雇されたピニエ〔手に汗ばむジャーナリスト〕に会いに行き、エリックが顔写真を撮影。そして、何事かといぶかるピニエに、新しい新聞「LE JOUET」の目的を話し、エリックを紹介する。2人は、仲良く握手する(2枚目の写真)。別れた後、エリックは、「確かに、彼の手は汗ばんでる」と言う。次に向かったのは、初めて登場する解雇された “工場の技術者” のアパート。彼は、フランソワのインタビューに対し、「彼は私に 『髭を剃りなさい』と言った。私は 『髭を生やしていれば優秀な技術者になれる』と答えた。そしたら、彼は私を解雇した」と話す(3枚目の写真)。エリックは、彼の顔も撮影する。
  
  
  

そのあと、2人は、ランバル=コシェ邸の広大な庭園を散歩する。エリックは、「月末に母のところに一緒に来てくれない? 僕たち、カンヌの高台にプール付きの大きな家を持ってるんだ。僕たち一緒に泳げるよ」と誘う(1枚目の写真)。返事に困ったフランソワは、落ちていたサッカーボールを一人で蹴って遊び始める。返事がもらえなくて不満なエリックは、もう一度、「一緒に来てよ」と言うが、フランソワは 「僕のことは心配しないで」と言う。エリックは、「もし父が気になるなら、カンヌまで電話して。戻ってくるから。忘れないで、フランソワ」と、ジュリアンではなくフランソワと言う(2枚目の写真)。フランソワは、「ジュリアンは、止めたの?」と訊くと、またサッカーボールを一人で蹴って遊び始める。その時、難しい顔をしたランバル=コシェがこちらの方に歩いて来るのが見えたので、フランソワはワザとボールを彼の胸に蹴り当て、「ゴール!」と言う。ランバル=コシェは、「話がある」と言ってフランソワを連れて行き、エリックも一緒に付いて行くと、「ちょっと待っててくれんか」と言うが、それでも付いて来る。そこで、父は 「聞こえたのか?」と言い、心配したフランソワは 「部屋で待ってて」と言う。2人だけになると、「LE JOUET」を手にしたランバル=コシェは、「どうして、このような馬鹿げた挑発をするんだ?」と訊く。フランソワは、「社員だった時、僕には怖れることしかできませんでした。今、僕はもう社員ではありません。何者でもなく、ただの “おもちゃ” です。だから、何でも言えるんです」と答える(3枚目の写真)。ランバル=コシェは、フランソワがニュースの編集者にぴったりだと分かったので、必ず新聞社に戻すと言い、暗黙のうちに 「LE JOUET」の廃刊を示唆する。
  
  
  

フランソワが、遊び部屋に戻ると、そこでは、エリックが、今日行ったインタビューを元に作った見出しを貼り付けている。そこには、「CEOのおもちゃ。6000人の社員、6000個のおもちゃ」という見出しだけが貼ってある。そして、右の方には、これから貼る顔写真が置いてある。編集長、継母、ピニエ、カメラマン、技術者の5枚だ。エリックは、「どうだった?」と心配する。「とても親切だった。僕が優れたジャーナリストだと言ってくれた。これを止めたら、僕をニュースの責任者にしてくれるそうだ。だから、もう止めよう、わが小さな同志君」(1枚目の写真)。それを聞いたエリックは、「止めるよ。困らせたくないから。家に帰りたいなら、そうしてもいいよ、フランソワ」と言う(2枚目の写真)。その優しい言葉を聞いたフランソワは、エリックが作った見出しを口にすると、「いい記事だな」と言い、急に気を変え、「ここにコピー機ある?」と訊く(3枚目の写真)。
  
  
  

その結果、翌朝の新聞社では、ランバル=コシェが部屋に入って行くと、社員が集まって、「LE JOUET」の最新版を読んでいる(1枚目の写真)。ランバル=コシェが、「LE JOUET」を開くと、そこには2人に対する告発と、3人の解雇者に対するインタビューが掲載されている(2枚目の写真)。フランソワは、エリックへのプレゼントの包みを持って門から入って行く。彼が遊び部屋に入って行くと、そこにはエリックはおらず、代わりにランバル=コシェが座っていた。そして、フランソワの顔を見るなり、「帰っていいよ、ムッシュー・ペラン。我々には、もう君は必要ない」と言ったあと、息子との間で、如何にフランソワが間違った人間かで合意ができたと話し、「彼は、君に二度と会いたくないと言った」と嘘を付く。フランソワは、エリックに持って来たプレゼントの箱を仮設ベッドの上に置くと(3枚目の写真、矢印)、箱を開け、中から、自分を模した人形を取り出すと、それをベッドに寝かせて出て行く。
  
  
  

翌日、エリックは、予定より早く車に乗せられ、小型飛行機専用の空港に連れて行かれる。父は、①カンヌの母の家のプールにジェットストリームが付いたから楽しい、②出発を1週間繰り上げたから、その間、ディズニーランドに行くのも悪くないと話すが、エリックの表情は曇ったまま(1枚目の写真)。そして、自家用飛行機に乗せようとすると、いきなり走って逃げ出す(2枚目の写真)。空港から戻る車の中で、ランバル=コシェはフランソワに電話し、「エリックが逃げ出した。彼はきっとあなたの家に向かっている」と話す〔移動無線電話システムは1960年代から実用化されている〕。アパートの前でフランソワが待っていると〔エリックは、どうやってアパートの場所を知ったのだろう?〕、タクシーが乗り付け、エリックが、「タクシー代払って。お金ないんだ」と言う。フランソワは、ドライバーにお金を渡しながら、「君のパパが来るぞ」とエリックに教える。エリックは、「心配しないで。僕たちはこれからも一緒にいて、新聞を続けていこうよ」と言う。しかし、フランソワは、「いいや、もう僕はやりたくない。いいか? 君と君のパパには、もううんざりなんだ」。「一緒にいたい」。「でも、それは不可能なんだ」。「どうして?」。「君には家族がある。パパにママ。2人とも君を愛してる」(3枚目の写真)。「セーター、裏返しだよ」。「もう、一人にしてくれよ」。「一緒にいたいんだ」。「僕には、もう何もない。仕事もお金もだ。たとえ、君のパパが認めても、君を置いておくなどできん。僕は貧乏なんだ。分かるな?」。そこに、父の車がやって来る。
  
  
  

それを見たエリックは逃げ出すが、フランソワは追いかけて捕まえ、「いったいどうしたんだ?」と尋ねる。「彼と一緒に行きたくない!」。そこに、車から降りたランバル=コシェがやって来ると、フランソワに 「彼に、言い聞かせてやって」と言う(1枚目の写真)。「この30分、ランバル=コシェ親子にはもううんざりだって言い続けてたんですよ。無駄にする時間なんてない。こっちも食べてかないといけない。どこか別の場所に遊びに行けってね」。そう言うと、エリックの腕を取り、無理やり車に乗せる。それを見たランバル=コシェは、「ありがとう、ムッシュー・ペラン。明日、電話してくれたら、何ができるか考えてみるよ」と言うと、再び車に乗り込む。そして、車は再び動き始め、ランバル=コシェは、「私の人生で、これまでしてきたことのすべては、大好きな君のためだ。分かるね?」と言ったあとで、フランソワの悪口を並べる。「彼は、他の何百万もの人々と同じように、何一つ貢献できない貧しい男だ。君には何ももたらさない。彼と一緒にいたら、多くのものを失ってしまう」。ここで、車が交差点で停車する。エリックは、素早くドアを開けると、走って来た方に向かって全速で走り始める(2枚目の写真)。そして、フランソワの背中を押してこちらを向かせると、抱き着く(3枚目の写真)。映画は、ここで終わる。このあと、2人がどうなったのかは、誰にも分からない。
  
  
  

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