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The Client 依頼人 ザ・クライアント

アメリカ映画 (1994)

ジョン・グリシャムが1992年に刊行した同名原作の映画化。映画化にあたり、3人の主役に、程度は違うが変更が加えられた。一番変更が少ないのが、ブラッド・レンフロが演じる11歳の少年マーク。原作では、もう少し、おとなしく、心優しく、正義感のある少年だったが、映画では、より活発で、やや批判的で、少し不良っぽい少年になっている。変更がやや大きいのが、スーザン・サランドンが演じる弁護士のレジー。原作では52歳の初老の女性で、弁護士として第二の人生を歩み始めてからかなりの年月が経っているが、映画ではサランドンの実際の年齢より若く、中年の女性に見える。弁護士の経験は僅か2年なので、原作のレジーに比べて、より元気で、より活動的だが、より強引で、より単純な性格。一番違うのが、トミー・リー・ジョーンズが演じる連邦検事のロイ。原作では、筆頭の検事補にまで嫌われている独善的で、エゴイストで 目立ちたがり屋だが、連邦検事として才覚には欠けている。映画でも、自分の意見に固執し、自分最優先で、マスコミ好きの点は同じだが、州知事の座を狙っている実力派〔2024年の共和党大統領予備選の候補者の1人クリス・クリスティは、ニュージャージー州の連邦検事から州知事になった〕。従って、原作では、映画には登場しないFBIの副長官が終盤になるとロイの代わり務め、ロイの影は薄くなっていくばかり。では、どちらが面白いか? マークの場合、前半は、素直で、嘘つきでなく、攻撃的でない原作のマークの方に軍配が上がるが、後半は、マークの活動力、冒険心、勇気に軍配が上がる。ただ、ラストは、原作の涙もろいマークの方が、映画のあっけらかんとしたマークよりは好感が持てる。両方のマークをうまく入れ替えると、もっと素敵な映画になったかもしれない。レジーは、サランドンの演技が見事なので映画の方がずっといい。特に、原作の後半は、老人の弱さが 物語からスリルとサスペンスを奪っているので。映画のロイは、レジーに焦点が当たっている分、一種の引き立て役になっていて、プライベートジェットを持ち、次期知事を狙うなど行動の派手さが目立つが、それはそれで真面目なレジーとバランスが取れている。一方、誰からも嫌われ、疎んじられている原作のロイは、あまりに惨めで読んでいて楽しくない。ロイも映画の方がずっといい。

映画は、マークが弁護士の自殺を目撃してから7日間の出来事を、原作に準じて描写している。
 1日目: メンフィス郊外のトレーラー・ハウスに住む母子家庭の子供2人、11歳のマークと8歳のリッキーは、母が工場での安賃金・長時間労働に出かけると、夏休み中だったので、近くの森まで行き、リッキーに生まれて初めてタバゴを吸わせる。その時、誰も来ないような林道を通って2人のすぐそばまで高級車を乗り入れたのが、直線距離で570キロ南のニューオリンズでマフィア専門の弁護士をやっている通称ローミー。彼は、車の排気ガスを車内に入れて自殺を試みるが、マークは、マフラーからホースを抜いて止めようとする。その試みが2回目に見つかり、車内に監禁され、一緒に死ぬよう強制される。ローミーは一緒に死ぬ仲間ができたことと、泥酔していたため、自殺に至った理由をマークにペラペラと話し、自分の顧客のマルダーノ〔マフィア〕が上院議員を殺し、その死体を埋めた場所まで教える。ローミーは車内にあった銃をマークが見つけて、監禁から逃れるために銃を向けたことを怒り、銃を取り上げて発砲、その隙にマークは車を逃げ出すが、監禁と発砲を外から心配ながら見ていたリッキーは重いストレス障害を負う。ローミーは、車から降り、逃げた2人の近くで銃をくわえて自殺する。マークは、押し黙ってしまったリッキーを連れてトレーラー・ハウスまで戻ると、すぐに警察に、死体を見つけたと通報するが、その際、名前を言うことを拒否する。マークは、その後、どうなったか知ろうと リッキーを残して森に戻り、警察の調査を見ていると、巡査部長に見つかり、疑いの目で見られる。巡査部長は、マークをトレーラー・ハウスまで届け、そこでリッキーを見つけ、すぐに病院に入院させる。巡査部長は、車内に、子供の指紋が多数見つかったことから、マークが死ぬ前の弁護士と車内に一緒にいたと確信し、証拠を得るため、指紋採取を目的に清涼飲料の缶をマークに渡す。一方、上院議員の失踪事件を捜査していたニューオリンズの連邦検事ロイは、この一報を聞き、部下の検事補とFBIを連れてプライベートジェットでメンフィスに行き、メンフィスのFBIと連携して捜査を指揮する。
 2日目: 病院の中でセールスしていた交通事故による外傷の損害賠償専門の弁護士が置いて行ったビラを見たマークは、自分が大事件に巻き込まれたことを朝刊で知ると、誰にも内緒でビラに書いてあった弁護士事務所が集まっているビルに行く。ビラの弁護士は、交通事故以外は扱わなかったので、他の弁護士を探すうち、レジー〔男性名〕・ラヴの事務所のドアが開いていたので、中に入って行き、窓を拭いていた女性に声をかける。レジーが女性だと分かると、マークは失望して出て行こうとするが、呼び止めたレジーと話すうち レジーに依頼することに決める。レジーに事情を訊かれたマークは、本来なら弁護士には事実を話すべきなのに、警察についたのと同じ嘘をくり返す。マークは、病院に戻り、ロイと2人の検事補、2人のFBIの前で、尋問を受ける。マークは、レジーの指示通り、弁護士の必要性を訴えるが、TVの見過ぎ、弁護士など邪魔、などの言葉で相手にされない。そして、車内で見つかった指紋と、巡査部長が採取したマークの指紋の一致を知らされると、トイレに行きたいと中座する。代わりに入って来たのがレジー。マークの体に付けておいた録音機を再生し、弁護士の同席を鼻で笑った違法行為を責め、明日、再度会見すると言って出て行く。一方、マフィアは、マークを監視するためグロンキーを送り込み、グロンキーは、地元の悪徳私立探偵ナンスを雇う。その夜、マークは病院内でナンスに会い、怪しいとにらんだのですぐに立ち去る。そして明け方、マークが24時間営業の病院内のカフェテリアに行こうとエレベーターに乗ると、グロンキーにナイフを突き付けられ、明日FBIに洩らしたら、殺すと脅される。
 3日目: マークは、ロイと2回目に会う前にレジーの事務所に行き、FBIとは会わないと宣言する。レジーは、直後に訪れたロイ一行に、面会のキャンセルを伝える。ロイは、マークの付いた嘘を、証拠を上げて説明し、尋問の重要性を指摘するがレジーは公民権侵害で訴えると拒否。ロイは戦法を変え、レジーがかつて薬物とアルコールの乱用で施設に収容されたことを指摘し、経歴2年の弁護士には無理だと言い、レジーは初回尋問の録音テープのマスコミ公開で対抗する。しかし、それを隣の部屋で聞いていたマークは、かつて、自分達がロクデナシの父と離婚訴訟を起こした時の無能な弁護士のことを思い出し、レジーも同類だと思い込み、クビを宣言し、事務所から出て行く。レジーは、病院に向かうマークを車で追いかけ、最初 マークは乗車を拒否するが、病院の前まで来てマスコミが押し寄せると、車に逃げ込む。一方、レジーに恥をかかされたロイは、何が何でもマークを今夜中に収監させるよう、部下に命じる。レジーは、マークを自分の家に連れて行くが、マークは反発して入ろうせず、ヒッチハイクで病院に戻ろうとする。しかし、停まった車に乗っていた男は、昨夜、病院内で会った怪しい男ナンス。エレベーターでの恐怖と合わせて危険を感じたマークはレジーの家に入る。そこで、しばらくレジーと言い合うが、レジーが施設に収容された理由を聞くと、レジーを信用し、死体の隠し場所以外のすべてを打ち明ける。夜明け前、グロンキー達がトレーラー・ハウスに火を点け全焼させる。
 4日目: 翌朝、刑事と巡査部長が病院を訪れ、マークの母に 「明日の10時に少年裁判所で行われる公聴会への召喚状」を見せ、レジーに病院まで帰されていたマークを、刑務所に拘留するため連行する。マークが連れて行かれたのは、女性監房の中の使われていない独房。マークは、借りた電話で、“病院での拘留時に床に落ちた刑事のクレジットカード” を使って大量のピザを刑事に届けさせ 復讐する。
 5日目: 翌朝、レジーは、刑務所までマークを引き取りに行き、10時からの裁判に臨む。裁判で、マークは真実を話せば殺されるので、黙秘権を行使し、保護留置処分となる。刑務所に戻されたマークは、こんなところで、何日も過ごしたくないので、夜になってから独房内で1時間走り回り、リッキーと同じような症状になったとみせかけ、病院に救急車で運ばれる。そして、ストレッチャーから抜け出して、リッキーの病室に行こうとするが、グロンキーに見つかり、殺されそうになるが、知恵を働かせて、逆にグロンキーを霊安室の冷凍庫に閉じ込める。そして、レジーの家に電話をかけ、迎えに来てくれるよう頼む。レジーの車に乗ると、マークは ニューオリンズに行って、ローミーが言った場所にボイエットの死体があるかどうか調べたいと言い出す。最初は反対したレジーだが、最後にはマークの求めに応じる。そして、夜を徹してニューオリンズに向かう。
 6日目: マルダーノは、マフィアのボスで伯父のジョニーに、殺害した上院議員の死体を、最初に埋めた場所〔自殺した弁護士のボート小屋〕から移したと願い出、ラストチャンスとして許可される。一方、ニューオリンズの郊外のモーテルに着いてしばらく眠っていたレジーは、秘書に電話をかけ、居場所を告げる。レジーの事務所の電話を盗聴していたFBIは、直ちにその情報をロイに伝え、ロイはプライベートジェットでニューオリンズに戻る。その日の夜、マークとレジーは、自殺した弁護士のボート小屋に行き、レジーの制止を振り切ってマークが小屋に忍び込む。ところが、死体を移すためにマルダーノとグロンキーが小屋に入って来たので、マークは巧く隠れて死体の掘り起こし作業を見る。2人が死体を覆ったビニー部分に達した時、小屋から逃げ出そうとしたマークが見つかり、小屋の外でレジーが殺されそうになるが、マルダーノがうっかり落としたピストルを拾ったマークが撃つと脅してレジーを救う。マークからピストルを取り上げたレジーは、近くの豪邸の保安装置を狙い撃ちし、警報が鳴り出し、マフィアの3人は逃げ出す。
 7日目: 翌早朝、レジーはロイを呼び出し、死体の場所を教えるのと引き換えに、マークの一家に証人保護プログラムを適用することを認めさせる。直ちにロイのプライベートジェットがメンフィスに飛び、病院の屋上からヘリで運ばれたリッキーと母を乗せ、ニューオリンズに戻る。そこで、母が書類にサインすると、レジーは死体の場所をロイに告げる。一家を乗せたプライベートジェットは飛び立ち、ロイはマスコミに大成功を伝える。

ブラッド・レンフロ(Brad Renfro)の出演した映画の初めての紹介。ブラッドは1982年7月25日にテネシー州ノックスビルで生まれ、しばらくして両親は離婚し、母が再婚した5歳から、教会事務員をしていた父方の祖母ジョアン・レンフロに育てられた(父とは無関係)。ブラッドは、11歳の時に、ノックスビルの元警察官のデニス・ボウマンが教えるD.A.R.E.(薬物乱用防止教育)のクラスに入るが、態度が悪く、入った日に追い出された〔将来のブラッドを暗示〕。しかし、その後は、D.A.R.E.の作成したビデオで麻薬売人役を演じ、それが『The Client』のキャスティング担当の目に留まり、5000人の中からマーク役を射止めることにつながった(https://news.amomama.com/https://www.knoxnews.com/、映画パンフレット)。『The Client』が興行的に大成功を収め、ヤング・アーティスト賞を受賞後は、12歳の時の『The Cure(マイ・フレンド・フォーエバー)』(1995)でヤングスター賞を受賞。その後は、13歳で『Tom and Huck(トム・ソーヤの大冒険)』(1995)、14歳で『Sleepers(スリーパーズ)』(1996)、15歳で『Apt Pupil(ゴールデンボーイ)』(1998、東京国際映画祭の最優秀主演男優賞)と順調だったが、5本目の映画が公開された1998年10月より前の6月に麻薬所持の容疑で逮捕・起訴された。11歳の時のD.A.R.E.のクラスは、結局、彼に麻薬をやめさせることはできなかった。ブラッドは、その後も、重窃盗、保護観察違反、未成年者の飲酒などの不良行為をくり返し、最終的に2008年1月15日にヘロイン/モルヒネの過量摂取により死亡した(わずか25歳)。『The Client』の女性弁護士役でアカデミーの主演女優賞にノミネートされた(英国アカデミー賞の主演女優賞受賞)スーザン・サランドンは、ブラッドの死を受けて、「『The Client』で 11歳だったブラッドと一緒に仕事ができて光栄でした。彼が、その当時、最も素敵で 最も才能に恵まれた若手俳優であることは誰の目にも明らかでした」と、彼を讃えている(https://people.com/)。なお、ブラッドには、日本人の妻との間に生まれたヤマト・レンフロという息子がいるが、情報はゼロで、facebookで見つけたRenfro Yamato(右の写真)が、彼の息子かどうかは分からない。

あらすじ

映画は、朝のトレーラー・ハウスから始まる。安い賃金で長時間工場で働いている27歳の母には、11歳のマークと8歳のリッキーという息子がいる〔15-16歳の時に妊娠したことになる〕。若気の至りで結婚した若い夫は重度のアル中になり常時暴力を振るったので離婚し、その後は生きていくのがやっとの母子家庭だった。マークは、母のバッグからタバコを2本かすめ取り(1枚目の写真、矢印)、それをリッキーが見て “盗んじゃった” という顔をする。母は、森に行かないようマークに注意して仕事に出かける。今は、夏休み中なので2人に学校はない【原作では夏休み中ではない】。マークがトレーラー・ハウスを出て行くと、リッキーが 「ねえ、マーク、ぼくにもタバコちょうだい」と言って付いて来る(2枚目の写真、矢印はマークのトレーラー・ハウス)。マークは走り出し、リッキーも遅れながら追い、マークも弟が追い着けるように手加減して走る。そして向かったのは、母が禁じた森。マークは、水がよどんで流れていない小川の川原〔ゴミがかなり放置してある〕の倒木の上に座ると、タバコを口にくわえて火を点ける。そして、それをリッキーに渡し、初めてタバコを吸う弟に吸い方を教える。リッキーが、不味そうな顔で 「かんたんだ」と言うと、自分の分にも火を点けたマークは、「そうか。だから、吐きそうな顔してるのか」と言う(3枚目の写真)。

2人のいる川原の縁の高さ2-3mの崖(というか段差)の上の森の中を、こちらに向かってくる車の音が聞こえ、マークはリッキーから吸い始めのタバコを取り上げ、自分のタバコと一緒に砂地の上に捨てる(1枚目の写真)。すると、車は崖の真上を通り過ぎていく。リッキーは 「どこに行くのかな?」と訊き(2枚目の写真)、「しっ」と制止させられる。車は、そこから少し森に入った所で停車する。マークは、崖から顔を出して、車の様子を窺う。「何してる?」。「しっ」。2人は、見つからないように這って車に近づいて行く。そして、茂みの中から車の様子を監視する(3枚目の写真)。

すると、車から1人の太った中年男が下りて来ると、ホースを取り出し、マフラーに片方の口を入れ〔もう片方は運転席の窓〕、排気ガスが漏れないように布を詰める(1枚目の写真)。それを見たマークは、「何て奴だ、自殺する気だ」と言うと、リッキーに 「ここにいろ。動いたら、ボコボコだ」と命じ、車まで這って行くと、マフラーからホースを抜き(2枚目の写真)、すぐリッキーの所に戻る。排気ガスが車内に入って来ないことに気付いた男は、車から出ると、もう一度マフラーにホースを入れる。リッキーは 「もう行こうよ、おねがい」と頼むが、マークは 「イイヤ、ダメだ。あいつが自殺して、僕らがそれを知ってたことがバレたら、面倒なことになるぞ」と言うと、リッキーの制止を振り切って再度ホースを抜きに這って行く。しかし、男がたまたまサイドミラーを見たことで、さっきもマークの仕業だったことが知られてしまい、マークがホースを抜こうとした瞬間、男に襟を掴まれる(3枚目の写真)【原作(第1章)では2回目ではなく3回目】。そして、トランクに押し倒されると、「この野郎!」と怒鳴られて頬を殴られ、そのまま運転席から助手席に放り込まれる。

男は、運転席の自動ロックで助手席のドアが開かないようにし、マークに向かって、「ごめんよ。だが、お前が悪いんだ」(1枚目の写真、矢印は男の髑髏印の指輪で殴られて傷付いた頬)「くだらんちょっかい出しおって。だから、俺たちは一緒に死ぬ。お前と俺で仲良く、おとぎの国〔la-la land〕へな。いい夢見ろよ」と言う(2枚目の写真)【この長い台詞は、原作(第1章)と全く同じ】。マークが座席に置いてある拳銃に目を留めると、「銃が欲しいか?」と訊く。「いいえ」〔怖いので、敬語をつかっている〕。「なら、なぜ見た?」。「見てません」。男は、銃をマークに付き突け、「嘘付くな! 俺は正気じゃない。嘘つきやがったら、殺すぞ」と脅す。「お願い、殺さないで。母さんと弟の面倒をみないと」。「選ばせてやる。お前の脳を吹き飛ばして、今すぐ殺してもいいし、俺と一緒にガスでゆっくり死ぬかだ。お前が決めろ」。その間にも、排気ガスはどんどん車の中に入って来る。男は、銃を置くと、「何て名だ?」と訊く。「マーク・スウェイ」。「ジェローム・クリフォード。弁護士。俺たちは、今や親密なんだから、ローミーと呼んでいいぞ」【原作(第1章)では姓(クリフォード)は言わないし、職(弁護士)はもう少し後で言う。ローミーの部分はもっと長いが、後半は映画とほぼ同じ】。マークは、「なぜ、こんなことするの?」と尋ねる。「自殺しなきゃ、あいつにやられる」。「あいつって?」。「ザ・ナイフ。バリー・“ナイフ”・マルダーノだ」。「なぜ、ナイフ野郎があなたを殺すの?」。「有名な死体がどこに埋めてあるか、俺が知ってるからだ」(3枚目の写真)。「誰の死体?」。「俺の依頼人がボイド・ボイエット上院議員を殺し、死体を隠した。だから、その依頼人が俺を殺そうとしてるのさ。死体はどこに埋まってると思う? 奴は、死体を隠し、FBIはニューオリンズの半分を掘り返したのに、まだ見つかっていない。話がそこまで来た時、マークはとっさに銃を手に取ると、ローミーに銃口を向ける。ローミーは、死ぬ気でいるので、笑顔で 「マーク、撃てよ。引き金を引くんだ」と言うと、撃ち易いように頭をマークの方に倒す(4枚目の写真)。

銃は奪っても、マークに人殺しは出来ないので、ただ銃を向けているだけ。しびれをきらしたローミーは、「引き金を引きやがれ!」と、顔を近づけて怒鳴るが、マークが何もしないので、銃を奪うと、その銃をマークに向ける(1枚目の写真)。そして、「この銃、ちゃんと弾が出るかな? 試してみよう」と言い〔この銃は買ったばかり〕、マークのすぐ左の窓目がけて撃つ。マークは悲鳴を上げ(2枚目の写真)、それよりもっとひどかったのは、ちょうどその時、リッキーが何とか兄を助けようと、ホースに手を伸ばしたところだったので、彼は恐怖のあまり精神に大きなダメージを受ける【原作(第1章)では、リッキーがホースを早めに外したので、2人は死なずに会話が長く続いた】。マークは、助手席のロックを外してドアから外に逃げると、マフラーの脇で縮こまって震えているリッキーをかかえて川原に逃げる。ローミーは追いかけるが、運動機能が低下しているので2人を見失い、マークはリッキーが声を出さないよう両手で顔を押さえ、崖の隅に隠れる。崖の上までやって来たローミーは、どこにもマークの姿がないので、「戻って来い! 俺がお前に話したと “ナイフ” が知ったら、お前は必ず殺されるぞ!」と叫び、銃を撃つ(3枚目の写真、矢印)。そして、銃口を口に入れると(4枚目の写真)、引き金を引いて自殺する【原作(第1章)では、崖の上でなく 車(リンカーン)のトランクの上に仰向けに横たわって引き金を引く】

夕方になり、ローミーの死体が警察によって運ばれて行く(1枚目の写真、矢印はローミーの頭)。回収を指揮していた巡査部長は、死体が見つかった崖のすぐ下の川原に、一口吸っただけで、落ちてから数時間しか経ってないようなタバコを2本発見する(2枚目の写真)。そして、辺りを懐中電灯で調べていると、隠れていたマークに光が当たる(3枚目の写真)。巡査部長は、「何してる、坊主?」と質問する【原作(第3章)では、巡査部長はマークが911に無名で通報した子だと確信する。そして 「その顔どうした?」と訊き、マークは 「学校でケンカしただけ」と嘘を付く。「あの男が自殺する前、見たか?」の質問にも、「いいえ」。「銃声を聞いた時、どこにいた?」。「聞いてません」。「911で、なぜ名前を言わなかった?」。「さあ、怖かったんだと思う」と、嘘を並べる。映画より、かなり早い段階での聴取だ】

場面は、トレーラー・ハウスに変わり、仕事から帰って来た母が、親指を口に咥えたまま、何も言わずに横になっているリッキーを発見し、「何を怯えてるの? 悪い夢でも見たの?」と心配する(1枚目の写真)。そして、指をしゃぶるのを止めさせようとするが、指を口から離さない。そこに、マークが帰ってきたので、「どこにいたの? 弟は一体どうしたの?」と訊くが、すぐに、マークに続いて巡査部長が入って来る。母は、立ち上がると、マークに 「今度は、何したの?」と責めるように尋ねる。巡査部長は、「少年は、自殺を目撃したんですよ、奥さん」と状況を説明する。マークは、「僕とリッキーが森で遊んでたら、男が口に銃をくわえて死んでたんだ」と嘘の説明をする。そして、ここからは本当の話。「だから、家まで走って帰ると、911に電話した」。「リッキーはどうしたの?」。「ベッドに横になると、親指をしゃぶり始め、何も話そうとしない」。リッキーの様子を見た巡査部長は、すぐに警察無線で救急車を呼び、母には 「この子は、すぐに入院させないと」と説明する。「健康保険なんか、ないわ」。「大丈夫です。聖ペテロ病院【原作(第6章)では、聖ペテロ慈善病院】は貧困者も受け入れてくれます。今夜は病院で泊まりますから、荷造りして下さい」。救急車にはリッキーと母が乗り、後ろから付いて行くパトカーにマークが乗る。巡査部長は、運転しながらマークに、「本当のことを話したのか?」と訊く。「信じないの?」。「信じないとは言ってない。ただ、どこか変なんだ。君は911に電話したが、名前を言わなかった」(2枚目の写真)【原作(第3章)には、電話のやり取りも書かれている。マークが 「死んだ男が森にいる。回収に行ってよ」と言い、受付けの女性に 「お名前をどうぞ」と言われ、「言いたくないんだ」と答える。「あなたの名前が必要なんです」。「死体について知りたくないの?」。「死体はどこです?」。マークは詳しい場所を言う。そして、「男は、撃たれてる。口に入れた銃で。死んでたことは確かだ」と言って、電話を切る】。「怖かったんだ。死体なんか見たの初めてだから」。「なぜ、こっそり戻って、茂みの中で隠れて見てた?」。「説明しにくいけど、ただ見たかったんだ」。「男が自殺する前に、君は何か話したか〔Did you talk to the man before he killed himself〕?」〔この質問は絶対におかしい。マークは死体を発見したと言っているのに、この質問は、生前に会っていたことを前提としている〕【原作(第3章)では、このようなミスはない。ただし、これらの会話は、前述のように、マークが森から家まで連れてこられる間に交わされる】。これに対し、マークは、「ううん、僕 話してない」と答える〔死体を発見しただけなので、こういう返事も間違っている。彼なら 「死体と話せるか?」くらい、皮肉を込めて言ってもいいと思うが〕。巡査部長は、「ジェローム・クリフォードって名前に心当たりは?」と質問する。「ううん」。「死体の近くにタバコのまだ新しい吸い殻が幾つかあった。君のママのタバコと同じ銘柄だ。死体を見つけてから、タバコを吸ったとは思えないな」。「いいかいお巡りさん。僕たちがローミーの死体を見つけたのは、森の中をただ歩いてた時なんだ」〔これは、マーク最大の失言〕【原作(第4章)は、映画と同じ、救急車の後を追うパトカーの中での会話。この中で、巡査部長は、タバコについて、「君たちは、木の下でタバコを吸っている時、何もかも見たと、私は考えてる」と言われ、マークは 「タバコを吸ったから、逮捕される?」と訊き、「いいや。だが、警官に嘘を付いた子は、大変な目に遭う」と言われたので、「僕、嘘なんかついてない。僕がタバコを吸ったのは、今日じゃない。僕たちは、ただ森の中を歩いてただけで、そしたら、ローミーの車があったんだ」と答え、ここでも、うっかりローミーと言っている】。これを受けた巡査部長の言葉は、映画も原作も、「ローミーって?」〔警官も、ローミーという通称(ジェロームの後ろ半分からの転用)は知らない〕。「男の名だろ?」。「私は、ジェローム・クリフォードって言ったんだ。ローミーなんて、いったい誰から聞いたんだ?」。

4人は病院に着く。病院のTVでは、ちょうどニュースが流れている。「ニューオリンズの弁護士ジェローム・R・クリフォードが、数時間前にメンフィス郊外で自殺とみられる死体となって発見されました。この良く知られたマフィアの弁護士は、未だ行方不明のルイジアナ州上院議員ボイド・ボイエットの事件で、来月、マフィアの殺し屋バリー・“ナイフ”・マルダーノの弁護をする予定でした。議員の遺体も発見されていない段階でマルダーノを立件するのは困難な状態でしたが、クリフォードの死により、さらに遅れる見通しです。ある情報筋によれば、連邦検事ロイ・フォルトリッグにとって事態はますます悪化しているようです。遺体も犯罪の証拠がなければ有罪判決もあり得ません。これは、フォルトリッグ連邦検事お気に入りの第一面の写真がなくなることを意味します〔彼は、マスコミに取り上げられるのが大好き〕〔DVDの日本語字幕では、「彼が狙っている政界への道も閉ざされ」となっていて、ロイの本性を先取りして意訳している〕。これを聞きながら、マークは自分の置かれた立場の恐ろしさを実感する(写真)。

ニューオリンズからメンフィスに向かって、4人がプライベートジェットに乗り込む(1枚目の写真)。ルイジアナ州東部地区の連邦検事ロイ・フォルトリッグと、あと3名だ(1枚目の写真)【原作(第5章)では、車で5時間かけて向かう。飛行機を使わなかった理由は、18種類もの書類が必要だったことと〔ロイはプライベートジェットなど持っていない〕、ロイが飛行機嫌いだったため。ロイに同行したのは、特別捜査官のラリー・トルーマンとスキッパー・シェルフ、連邦検事補のトーマス・フィンクとウォリー・ボックスの5人〔映画で飛行機に乗ったのは、このうち、トルーマン、シェルフ、フィンク〕。検事補というと偉そうに感じられるが、原作(第12章)には、ロイには検事補が47名いると書かれている】。この段階では、ローミーが自殺したことしか判っていない。場面は変わり、巡査部長が、「スプライトだ」と言って、マークに缶を渡す(2枚目の写真)〔マークの指紋を取るため〕【映画では、巡査部長は意地悪な策士として描かれているが、原作(第6章)では、リッキーが入院した後、何もすることがなくなったマークに、巡査部長が 「腹が減ったか?」と訊き、カフェテリアに連れて行き、フレンチフライとチーズバーガーを一緒に食べる。その時、偶然、マークはスプライトを飲む】。巡査部長は、マークの頬の傷について質問し、マークは 「学校でケンカした」と嘘を付く。さっそく、「夏休みだ。学校はない」と指摘され、「学校の友だちってことさ」と言い逃れるが、相手の名前を訊かれ、言えないので反撥する【前に書いたように、原作では夏休みではない。それ以外は、原作(第6章)の食事中の会話とほぼ同じ】。そこに、若くてきれいな看護婦がマークを呼びに来る。病室に入ったマークは、「彼、いったいどうしたの?」と医師に訊く(3枚目の写真)。「心的外傷後ストレス障害と呼ばれるものだ。何か恐ろしいことに出会うと、こうなることもある」【原作(第6章)では全く違い、医師は、「何か恐ろしいこと」が何だったのか確かめようと、マークに質問をする。「今日の午後、彼に何が起きた?」。「秘密にしてもらえるの?」。「君が私に話すことは、すべて極秘にする」。「警察が知りたがったら?」。「何も言わない。約束する」。そこでマークが話した内容は、事実のごく一部。マフラーからホースを外したこと、男が車から飛び出し、トランクの上を這って自殺したということだけで、今まで言っていた「死体を見た」のではなく、「自殺するところを見た」に変更した。その時の、男とリッキーの距離を訊かれ、「約40フィート〔12m〕」と答え、医師はそれで納得する】

マークが、病室の開いたドアから振り返って見ると、巡査部長が、缶の表面に触れないよう、指を飲み口に突っ込み(1枚目の写真)、それを慎重にビニール袋に入れている。恐ろしくなったマークは病室から廊下に出ると、エレベーターに向かう巡査部長の後を追う(2枚目の写真)。エレベーターに乗り込んだ巡査部長は、マークがいるのを見ると、にんまりとした笑顔を見せる(3枚目の写真)【原作(第6章)の巡査部長はこんな意地悪ではない。逆に少し抜けているのかも。地元のFBIの特別捜査官ジェイソン・マクスーンに、管轄がFBIになったと言われ、さらに、ローミーの車の中の指紋を調べたら、大人のものより小さな指紋が多数見つかったので、「クリフォードが死ぬ前に、あのガキが車に乗っていた強い疑惑がある」と教えられる。それを聞いた巡査部長は、マークが飲んでいたスプライト缶のことを思い出し、マクスーンはすぐに缶をゴミ箱から回収する】

マークは 夜になっても帰るわけにはいかないので、1人で待合室で時間をつぶしていると、ケガを負った患者に弁護士が寄ってきて、名乗り、「私は弁護士です。トラぶりましたね。私が解決します。私は、自動車事故、特に大型トラック専門です。あなたは、脚の骨折、脳震盪、肋骨数本、そして鎖骨の骨折ですね。最低でも、60万ドルは勝ち取ってあげますよ、明日訴訟を起こしましょう」と誘う【原作(第6章)と金額まで同じ】。ケガをした男は、弁護士が渡した紙を捨てて去って行ったので、マークはその紙を拾って読んでみる(1枚目の写真、矢印)。一方、ロイ一行を乗せたリムジンは、メンフィスの政府機関のビル〔Clifford Davis-Odell Horton Federal Building〕に到着する。出迎えたのはFBIのメンフィス支局長ジェイソン・マクスーン【原作(第7章)では、リムジンになんか乗らないし、他の州の検事など 誰一人出迎えに行かない】。マクスーンは、ロイと並んで歩きながら 状況を説明する。「子供の名前は、マーク・スウェイ。彼は、弟と森の中で死体につまずいて警察を呼んだと話してしますが、嘘だと思います。私たちは、彼の指紋をスプライトの缶から採取し、それは 車の中と外にいっぱい付いていた指紋と一致しました。彼は、クリフォードが自殺する直前まで車の中にいたと思われます。指紋の数からみて、かなりの時間」(2枚目の写真)。「なぜ嘘を?」。「第一に、彼は怖がっています。第二に、彼は子供で、子供はいつも嘘をつきます。そして、第三に、ローミー・クリフォードは、恐らく彼に、知ってはならないような何かを話したからでしょう」。「人は、秘密を持ったまま死にたくないからな。よくやったマクスーン」【映画は 原作(第7章)の説明を短くしただけで、要点は同じ。抜けている大きな情報は、検死の結果 多量のダルメーン〔精神安定剤〕、コデイン〔鎮咳剤〕、ペルコダン〔鎮痛剤〕、血中に0.22%のアルコール〔血中アルコール0.03%で酒気帯び運転なので⇒酩酊状態〕が検出されたこと】。この後で、マクスーンが メンフィスにはうんざりしたので、「あなたのスタッフに空きはありませんか?」と尋ねる部分がある。DVDの字幕では、「配転していただけませんか?」となっている。これは誤訳。FBIと連邦検事局とは別組織なので、人事権はない【原作(第7章)では、マクスーンはロイと初対面で、「噂によれば、(ロイは)独善的で思い上がった最低男だ」と批判的に見ている】

翌朝、母は医師に、リッキーを家に連れて帰りたいと話す。理由は、トレーラー・ハウスのレンタル料は週単位【原作(第3章)では、1ヶ月280ドル】なので、仕事にいかないといけないから。しかし、医師は、「今、リッキーは暗い場所にいて、そこから何とか抜け出そうとしています」(1枚目の写真)「とても大事なことは、彼が出口を見つけた時に、最初にあなたの顔を見ることなのです。それまで、1日か2日だと期待しています」と、強く要請する。母は、「また、別の仕事をみつけないと」と、がっくりする。医師が、「リッキーの父親に連絡するとか…」と言い始めると、マークが、「元、父親だ! リッキーに近寄せるな!」と強く反対する【原作(第8章)では、医者の説明は似ているが、母は素直に了解する。医師はマークにも、できるだけここにいるように求め、マークも頷く。映画にはない重要な会話は、母の 「このような症状、ご覧になったことは?」という質問に対し、医師は 「こんなに悪い例はありません。彼は、ほとんど昏睡状態で、これは少し異例です。通常なら、十分睡眠を取った後に、目を覚まし、食べるものです」と答える。“この病院の、リッキーのような症状改善への経験不足” が 映画の最後に提示される決定につながるので、本当は、映画にも入れた方が良かった】。医師は、朝刊を母に見せ、「これをご覧になったか知りませんが、警官や記者が大勢下に来ています。FBIは10時にマークと話したいそうです」と言う。マークは新聞の大見出し 「マフィア弁護士が自殺/殺人容疑者の弁護士の死体がメンフィスで発見」を見て(2枚目の写真)、「ママ、僕、FBIなんかと話したくない」と嫌がるが、医師は 「断れない」と言う。

マークが病室から一歩外に出ると、待ち構えていた巡査部長が、「FBIだぞ」(1枚目の写真)「俺が聞いた話じゃ、“牧師”・ロイ・フォルトリッグ本人もおいでになるとか〔“牧師” は “ナイフ” と同じ、通称〕。マズいぞ。FBIは法律を破ったガキを刑務所にぶち込むんだ。そして、もしそのガキが殺人に関わった場合には、ガキサイズの小型電気椅子に座ることになる。一度見たことがある。このくらいの高さのイスだ」(2枚目の写真、矢印はイスの高さ)「電気椅子で処刑されるとどうなるか知ってるか? すごく強い電流だから、血管の中で血が沸騰する。ベーコンを炒めるみたいにな」と脅す。マークは、「あんたは、ブタ野郎だ」と、巡査部長の下劣さを批判すると、廊下を走ってエレベーターに向かう【原作(第8章)では、先に引用したように「管轄がFBIになった」ので、巡査部長はもういない。従って、この残酷な台詞もない。マークは、母から5ドルもらってカフェテリアまでドーナッツを買いに行き、病室で食べる。そのあと、この病院が寄付金で造られているため、何度も建て増しされたので、棟が複雑に入り組んでいること、そして、マークがそれに慣れてしまったと書かれている〔後で絡んでくる重要な設定〕

ロイと部下を乗せたリムジンが病院の前に乗りつけ、報道陣が取り囲む(1枚目の写真)【原作では、ロイは病院に行かないし、こんな派手なパフォーマンスもしない】〔この建物は、実際には The Med (メンフィス地域医療センター 〕。その頃、マークは、出口専用の通用口から外に出て、少し離れた場所から、リムジンを見る(2枚目の写真)。そのあと、昨夜拾った弁護士のビラを取り出すと、そこに書いてある住所目がけて走り出す。着いた先は20数階建てのネオ・ゴシック様式のビル〔1930年代に建てられたSterickビル 〕。そして、弁護士事務所が集中している3階に行き、案内板を見る(3枚目の写真、マークの最初の目的地ではないが、最後に行ったラヴ事務所の名前も 矢印の位置にある)。

マークは、最初にビラの弁護士の事務所に行ったが、受付の女性に 「ウチはケガだけよ」と言われて、他の事務所を当ってみる。2つ目は、不愛想な中老年の男性だったので、すぐにドアを閉める。3つ目のドアには、「レジー・ラヴ/弁護士/離婚・DV・親権」と書かれている。そして、ドアが開くと若い男性(秘書)が、「食べ物を買ってから、郵便局に行ってくる」と言って、ドアを開けたまま出て行く。マークは代わりに中に入って行くと、奥の部屋で女性が窓を拭いている(1枚目の写真、矢印は弁護士)。マークは、「ねえ、ボスはいつ帰るの?」と声をかける。女性は、振り向きもせず、「どうかしたの?」と訊く。「レジー・ラヴに会わないと」。「また、どうして?」。「僕とラヴさんの問題さ」。ここでようやく中年の女性が振り向く。「私がレジー・ラヴよ」。マークは、「女の弁護士かよ。がっかり」と言って(2枚目の写真)、背を向けて出て行こうとする。レジーは、「どうして、弁護士が必要だと思ったの?」と訊く。「僕が、マーク・スウェイだからさ」。「それが?」。「死体を発見したガキだよ。有名なんだ。新聞読まないの?」。「まだ、質問に答えてないわ」。「あと10分で、“牧師”・ロイとかいう奴と話すからさ」。「“牧師”・ロイ・フォルトリッグ?」。「うん。なんで、みんな そんな呼び方するの?」。「法廷で聖書を引用するのが大好きで、聖書にすごく詳しいからよ」。「彼、勝つの?」。「常に」。「どうして、みんな僕をほっといてくれないの? 汗だくのデブが頭を吹き飛したからって」(3枚目の写真)。「なぜ警察に嘘付いたの?」。「ついてない」。「この新聞には、君がジェローム・クリフォードの死体を発見したと書いてある」。「そうさ」。「死んだ人間は汗をかかないでしょ?」〔汗をかいた直後に自殺したのかもしれない〕。マークは、「もしあんたが僕の弁護士だったら、話したこと洩らさない?」。「洩らさないわ」。そこで、マークは、①ローミーが車で来たのを見た、②銃をくわえて自殺した、とだけ打ち明ける。それでも、警察に話した内容とは違うので、レジーは嘘をついた理由を尋ねる。「分んない。多分、怖かったんじゃないかな。弟は昏睡状態だし、ママは失職するかもしれないし、僕はFBIに追いかけられて、どうしていいか分からないから」。そして、「弁護料は?」と訊く。「幾ら持ってるの?」。マークがポケットから出したのは1ドル札1枚だった(4枚目の写真)【ここから、原作(第8章)と大きく違い始める。マークがレジーのドアを開けると、机に座っていたのは、男の秘書。そして、レジーは外出中だと言う。そして、「私は、彼女の秘書だ」と言い、その言葉でマークはレジーが女性だと知る。しかし、映画と違って、マークは弁護士が女性であることに変な偏見を持ってはいない。そこで、レジーの帰りを待つと伝える。秘書は、相手が子供なので邪魔扱いするが、マークが 「お昼にFBIと話さなくちゃいけないから、弁護士が要るんだ」と言うと納得し、レジーが早く戻るよう手配する。そして、現れたレジーは、映画と違い、52歳の初老の女性。マークはレジーに 「初めまして」と丁寧に挨拶する。レジーがいろいろ簡単な質問した後、マークは、「僕があんたに何か話したら、漏らしたりしない?」と尋ねる。「もちろんしないわ。君が漏らしていいと言うまで、絶対に洩らさない」。マークは守秘に拘るが、レジーは不安がるマークを極力安心させる。そして、そのあと、マークは、上院議員の死体の場所以外のすべてを話す。死体の場所についても、隠そうとしたのではなく、レジーが知りたいか訊き、今は話さないでと言われて、言わなかっただけ。原作のような “嘘の小出し” とは全く違う。それに、映画のマークのような生意気さは全くなく、ずっと不安におののいている】

バリー・“ナイフ”・マルダーノが、組織のボスのジョニー〔マルダーノの伯父〕に呼び出されるシーン。彼は、伯父から叱咤される。「ボイエットをバラすなと言ったのに、殺した。ローミーにベラベラ喋るなと言ったのに、話した」。甥という地位と、根っからの暴力性だけで可愛がられてきたマルダーノは、叱咤の意味が理解できず、「いいザマでさ。脳天が吹っ飛んだんですぜ」と自慢する。伯父は、「バリー、ガキが2人奴を見つけた。ひょっとして死ぬ前にな。奴が何か話したかもしれん。ボイエットの死体はサツに見つからん場所にあるんだろうな?」と訊く(写真)。「サツには見つけられねぇって」。「バリー、死体を移せ」。「やるよ、ジョニー伯父貴。ただ、今はできねぇ。死体の場所の周りには、サツがウヨウヨいやがる。だけど、心配いらねぇ。奴らには絶対みつけられねぇ。あのガキが何か知ってたとしても、話さねぇって。どのみち、俺がメンフィスに行って始末してくるから」。それを聞いて、甥のバカさ加減を悟った伯父は、「お前は、どこにも行かんで座ってろ。グロンキー、お前がメンフィスに行け」と、写真の中央右にいた男に命じる【原作にはこのような場面はない。グロンスキーは第17章に書かれているように、マルダーノの子供の頃からの友人なので、マルダーノがニューオリンズを離れられないので代わりにメンフィスに行っただけ】

マークは、病院内にある会議室に呼び出される。そこにいたのは、連邦検事ロイと3人の配下、そしてFBIのメンフィス支局長のマクスーンの5人【原作(第9章)では、ニューオリンズから来たトルーマンと、地元のマクスーンの2人だけ】。全員の紹介が済んだ後、ロイが「座れよ」と言う。マークが座ると、マクスーンが 「君のお母さんも見えると思っていたが、どこだね?」と訊く。「弟の病室です。目が覚めた時のためにいないといけないので。これ、2・3日延ばしますか?」(1枚目の写真)。ロイ:「このままでいいよマーク、私たちだけで数分話そうじゃないか」。マークの顔を見て、ロイは 「緊張してるのか?」と訊く。「少し」。ロイが笑い、マークは 「弁護士、いた方が?」と訊き、ロイはまた笑い、マクスーンが 「何のために?」と訊く。「僕の権利を守るため」。「TVの見過ぎだ」。「いくつか質問するだけだよ」。「弁護士は邪魔するだけだ。何にでも反対する」と3人3様の反応。マーク:「もし僕が質問に答えなかったら?」。マクスーン:「君をダウンタウンに連れて行く。お母さんも一緒にな」。ロイ:「司法妨害って聞いたことがあるか、マーク? それは連邦法違反行為なんだ。つまりだな、犯罪について何か知っていながら、FBIや警察に情報を提供しなかった場合、罰せられる可能性がある。刑務所もしくは類似の場所に入ることになる」。マーク:「それって、もし僕が質問に答えなければ、ムショ送りになるってこと?」。ロイ:「多分な」。マーク:「わあ、そんな立場に置かれたら、誰だって弁護士が要るよね?」。ロイ:「いいや、お荷物になるだけだ。弁護士なんか要らん」。ここで、フィンクが本来意図していた質問を始める。「君がジェローム・クリフォードを見つけた時、本当は死んでなかったんだろ?」。「死んでたよ」。ロイは 「君が車に乗ったことは分かってるんだ、マーク」と言うと、指紋を採取したスプライトの缶〔ポリ袋入り〕をテーブルの上に置く。「君とローミーは長いおしゃべりを楽しんだ、だろ? 何の話だ? どこに死体を埋めたって話か?」(3枚目の写真)。それを聞いたマークは、「トイレに行かないと」と言い出す。「まず、質問に答えるんだ」。「我慢できないよ」(4枚目の写真)。「じゃあ、行った方がいいな」。マークが飛び出て行くと、ロイは 「あの子は、全部吐くぞ」と、笑顔になる【原作(第9章)では、人数が少ないだけで、会話はかなり似ている〔もちろん、本の方がずっと長い〕。ただ違うのは、トルーマンが 「君がジェローム・クリフォードを見つけた時、彼はもう死んでいたのか?」と、映画よりは控え目な質問をした時、マークは 「黙秘権を行使します」と、専門用語で応酬する。「君は、TVの見過ぎだよ」。「じゃあ、黙秘権は使えないの?」。「当ててみようか? 君は 『L.A.ロー 七人の弁護士』〔8シーズン続いた人気TVドラマ〕を見てるだろ?」。「毎週」。「だろ? いいかい、質問に答えてくれないか? そうじゃないと、他の手段に訴えることになる」。「どんな?」。「裁判所に行き、判事に話して、君が私たちと話すよう説得してもらう」。このあと、マークはトイレ行きを要求する】

5人が喜びに浸っていると、ドアがノックされ、その礼儀正しさをロイが褒める。ところが、ドアから入って来たのは、見たこともない中年の女性(1枚目の写真)。マクスーンが 「部屋をお間違えではありませんか?」と訊くと、「そうではありません。私はレジー・ラヴ。弁護士で、マーク・スウェイの代理人です」と答えたので、ロイは急いで缶を隠す。そして、「いつ、雇われましたか?」と訊くが、「あなたには関係のないことです」と一蹴される。レジーは、全員の身分証を確認すると(2枚目の写真)、「あなた方は、私の依頼人を、母親のいない場所で尋問しようとしましたか?」と問いかける。それに対し、トルーマンが、直ちに 「いいえ」と答える。「彼は、あなた方がそうしたと言っています」。「彼は混乱してるんだ。私たちは、彼の母親がじき降りて来ると思ってた〔病室は上の階〕」。「トーマス、あなたは弁護士と話すべきだと、彼に助言しましたか?」。代わりにマクスーンが、「そう言えば、一度TVの話が出て、マークは弁護士が必要かもしれないと言ったが、私はただの冗談かと」と 言い逃れようとする。「それでは、彼は、弁護士が必要かあなた方に尋ねなかったのですね?」。トルーマン:「記憶にありませんな」(3枚目の写真)。「黙秘権の行使について助言されましたか?」。マクスーン:「何のために? 彼は犯罪者じゃない。私たちは、2・3質問したかっただけだ」。「では、母親抜きで尋問しようとしたんですね?」。「いいえ」。「まさか」。「違う」。大量の否定を聞いたレジーは、「ふざけないで」と言い、それに対し、ロイは 「慎重に行きましょう。私たちは、あなたの依頼人が、車に乗っていたのに嘘をついたことを知っています」と指摘する。この重要な情報は、マークがレジーにも打ち明けていなかったことなので、レジーは動揺してもいいハズなのに〔絶対に変〕、レジーは、平然と、「目くそ鼻くそを笑う〔the pot calling the kettle black〕って言うわね」と言うと、バッグの中からカセットテープの入った録音機を取り出し、マークが弁護士について話し、それに対して弁護士を否定した部分の録音を再生する。そして、「あなた方は、母親のいない場所で、母親の同意なしに尋問しようしたでしょ。弁護士と言われて、『弁護士は邪魔するだけだ。何にでも反対する』と答えた」と追及する(4枚目の写真、矢印は録音機)。そして、「依頼人と相談し、明日の午後3時頃、私の事務所であなた方とお会いできればと思います」と言い、会談を終える【原作(第9章)では、ロイがいない分、2人のFBIの抵抗は弱く、最後には謝罪すらする。そして、レジーはマークからほとんどすべてを打ち明けられているので、「彼、あなたにすべて打ち明けましたか?」というマクスーンの質問にも、「依頼人との会話は極秘事項です」と自信をもって応じる。再会合の時間は、明日の午後3時ではなく、今日の午後3時。マクスーンは、ロイの同席を求め、レジーから歓迎される】

次のシーンでは、マークの母が、初めてレジーと会い、話しながら廊下を歩いている。母は 「私たちには弁護料を払う余裕なんかないわ」と言い、レジーは 「お金のことは心配しないで」と言うので、無料奉仕のつもりだとはっきりする。母はさらに、「今朝、クソボスに解雇されたわ。坊やが昏睡状態なのに、平気で解雇するの」と打ち明ける【映画では、この話を聞いてもレジーは何もしない。しかし原作(第16章)では、レジーはすぐに母を雇っていた工場の社長室に強引に入って行くと、マークの母の代理人として、損害賠償要求額200万ドル〔当時の2億2000万円〕の訴状を見せる。恐れをなした社長に、レジーは ①解雇撤回、②時給6ドルから9ドルへの昇給、③しばらく病院を離れられないので、その間も週給を届ける、④病室に花束を贈るという代案を提示する。この方が遥かに安く済むので社長はOKする】。レジーは 「赤ちゃんを産んだ時、あなたかなり若かったんでしょ?」と訊く。「私って、夢の中で生きてた愚かな子だったの。私がずっと欲しかったのは、ウォークインクローゼットのある白い家だけだったわ。バカみたいでしょ?」。「夢を持つことは決してバカなことじゃないわ。あるがままを受け入れて過ごす〔Take it one day at a time〕。それでいいのよ」(1枚目の写真)。一方、母が留守の間は、マークがリッキーに付き添っている。しかし、彼が何といって話しかけても(2枚目の写真)、リッキーは指を咥えたまま、身動き一つしない。最後は、ニューオリンズから送り込まれたグロンキーが、喫茶店で地元の悪徳私立探偵ナンスと出会うシーン(3枚目の写真)。ナンスは報酬として2000ドルを要求し、「ガキは好きか?」と訊かれたところで、場面が変わる【原作(第12章)では、グロンキーがナンスの事務所を訪れて仕事を依頼する。手付金は同額。プラス、料金は1時間につき100ドル】

がらんとした病院の待合室で、レジーはマークに、「フォルトリッグはなぜ君がクリフォードの車に乗っていたと確信してると思う?」と訊く(1枚目の写真)。「さあ」。「私は君の弁護士なのよ。信頼して」。「信頼してるよ、レジー。誓って、車には乗ってなかった」。レジーは、なぜか話題を変えて、「レッド・ツェッペリン、好き?」と訊く。「好きだよ、あんたは?」。「好きよ。最高のバンドね」。「一度も聴いたことないくせに。僕みたいなパンク〔ロック好き〕のガキを てなずけようと言ってるだけだろ」(2枚目の写真)「ツェッペリの何が好きなのさ?」。「『モビー・ディック』よ。明日、2時半に迎えに来るわ」【原作では、マークはほとんど全てを打ち明けているので、存在しないシーン。音楽の話題も映画だけ。マークの笑顔が少ないので使っただけ】。レジーがいなくなると、隅の方に座っていたナンスが マークの近くに来て座ると、メンフィスといえばエルヴィス・プレスリーなので、彼の顔付きの容器に入ったタブレット菓子を見せ、「1つどうだ?」と勧める。面白いので、マークがもらうと、ナンスは マークが点けたTVを見て 「彼女、面白いな。息子も大好きだ」と笑顔で言った後、急に手で顔を覆うと 「息子は自動車事故だ。飲酒運転の奴に。助かるかどうか。まだ8歳だ」と言う〔そんな男が、一瞬でも、TVを見て笑うだろうか?〕。マークは 「僕の弟も8つ。重い病気なんだ」。ナンスは 「君は、自殺した奴を見た子じゃないよな? TVで見たんだ。怖かったろう」。「僕は、怖くなんかない」。「銃を口に突っ込むなんて、正気じゃないよな。なぜなんだ? そいつ、変なこと叫んでたのか?」(3枚目の写真)。マークは、①死体しか見ていないことになっている、②自分の息子が瀕死なのに、くどくど訊くのはおかしい、そして、最大の理由は、③男の手の甲に鉄条網のような入れ墨があるのに気付いたので、これは危ないと感じ、「行かなくちゃ」と席を立つ【原作(第13章)に、ほぼ似たシーンがある。しかし、ナンスはくどくど質問はせず(入れ墨は不明)、「息子の様子を見に行かないと」と言い、疑われずに席を立つ。目的はマーク本人を確認し、次回に備えるため】

一旦眠ったマークは、異常を感じて目が覚める〔何者かがドアを開けて覗いた〕。そこで、廊下に出て夜間看護婦に、「ここで、何か食べる物手に入る?」と訊く。看護婦は、「カフェテリアは24時間オープンよ」と教える。そこで、マークがエレベーターに向かうと、ドアが開き、“翌朝入院患者に配布される新聞(朝刊)” が運ばれてくる。そこには、マークとリッキーの写真が一面を飾り、見出しは 「2人の少年: 自殺した弁護士の目撃者」となっていた(1枚目の写真)【原作(第14章)によれば、書いた記者は、昨日の自殺を報じた記者と同じ。2人の写真は、小学校の年鑑アルバムから流用された1年前の物だが、映画の写真は、記者が直接撮った物のように見える。記事の内容は、①マークが911で連絡したが名前を隠した、②マークの指紋が車内の至る所で見つかった、③マークが弁護士を雇った、というもので、マークを疑惑の主とするようなものだった。原作では、看護婦がサインちょうだいというが、映画では写真を運んでいる男がサインをくれとねだる】。マークが新聞をもらって、そのままエレベーターに乗ると、閉まろうとするドアを白い医師用のゴム手袋をはめた手が止め、白いマスク姿の医師が入って来る。医師は、ポケットからナイフを取り出し、それを見たマークには戦慄が走る。次の階でエレベーターのドアが開くと、医師はマークの肩をつかんで出られないようにし、乗り込んだ2人の看護婦に助けを求めないよう、ナイフを横腹に突き付ける(2枚目の写真)。そして、2人出て行き、ドアが閉まると、すぐに非常停止ボタンを押し、エレベーターが真っ暗になり赤いランプが点く。男は 「よく聞け、マーク・スウェイ。俺は、ローミーがお前に何を話したかは知らん。だが、聞いたことを一言でも誰かに話せば、お前を殺す。お前は、明日、FBIと話す。その時、俺のことを洩らしたら、じっくり殺してやる。分かったか?」と、ナイフを頬に付けて脅す(3枚目の写真)【この時、マークを脅したのはグロンキー。原作(第14章)でも、マークはほとんど同じ言葉で脅されるが、それだけでは終わらず、男はマークのズボンのベルト通しをすべて切断し、「次は、はらわたをえぐり出してやる」と脅すので、マークの受けたショックはもっと大きい】

マークは、翌日、ロイとの会合前にレジーの事務所に行き、「僕はFBIとは話さない。最終決定だ」と宣言する(1枚目の写真)。レジーは、「マーク、FBIと話さないと、あいつら君を召喚する〔少年裁判所に訴える〕わよ」と警告する。しかし、召喚の意味を知らないマークは、先ほどの強烈な脅しへの恐怖の方が勝っていたので、「僕、ノーと言ったろ。あんた僕の弁護士なんだから僕の言ったことに従えよ」と、生意気な言い方で要求する。そこに、ロイ一行が廊下を事務所に向かって来るのに秘書が気付く。マークは 「追い払って。お願い」と、真剣に頼む。レジーは、マークを自分の部屋に残し、秘書の部屋でロイに対応することに決める。そして、ロイが意気揚々と入って来ると、「ロイ、申し訳ないけど、面会はキャンセルになったの」「あなたも私も、彼が何も知らないことは知ってるでしょ?」と言う。それに対し、ロイは ①マークが車の中にいたことを示す指紋があると指摘し、それはレジーにも寝耳に水の話だったにもかかわらず、レジーは ❶どうやってマークの指紋を採取したかを訊き、スプライトの缶からだと教えられると、プライバシーの侵害だと批判する。ロイはさらに ②マークの頬の傷と、クリフォードの指輪についていた血液型の一致を指摘。それに対しても、レジーは ❷マークの血液型の情報の入手方法を批判し、「私の許可なくまた依頼人に近づいたら、あなたとFBIを公民権侵害で訴える」と強く抗議する(2枚目の写真)。奥の部屋でそれを聞いていたマークはニヤニヤするが(3枚目の写真)、ここで風向きが一変する。ロイが、部下に徹底的に調べさせたレジーの過去の記録に基づき、「マーク・スウェイの母親は、あなたが薬物とアルコールの乱用で施設に収容されていたことを知ってるのかね?」と、嫌味な顔で訊く(4枚目の写真)。個人攻撃に怒ったレジーは、ロイに 「出てって」と言うが、ロイは 「あなたは2年間弁護士をやっただけ。この事件を扱うのは無理だ。私たちは、あなたの依頼人の行動を、あなたよりずっと詳しく把握している。あなたの依頼人は重大な危険にさらされている。そのドアを開けて、彼と話させてくれたまえ」と、話しかける。それに対し、レジーは、「私は、この子を使って、あなたに知事への階段を登らせるつもりはないわ」と批判し、TVにマークを出演させ、その場で、先日のテープを公開すると反撃するが、ロイは、「一つでもミスしたら、叩き潰してやる〔I'll eat you alive〕」と言って出て行く【原作(第11章)では、ロイも参加した2回目の会合に、レジーは45分遅刻して事務所に現れる(彼女は遅刻常習者)。そして、マークはいない。ロイは、映画の①と②を指摘し、さらに、③クリフォードが上院議員の死体を隠した場所を話した可能性が高いことも指摘する。レジーはマークから死体の場所以外のすべてを聞いているので、逆に、マークからかなり詳しい話を聞いていると ロイに告げる(どこまで聞いているかは話さない)。レジーが❶と❷を咎める点は同じだが、もっと落ち着いている。レジーの過去の記録について、ロイは詳しい調査はしているが、それを口に出すことはない。なお映画では、テネシー州にあるメンフィスまで自らのプライベートジェットでやって来て、メンフィスでは豪勢にリムジンを乗り回しているが、メンフィスにはテネシー州東部地区の連邦検事ジョージ・オードがいるので、ロイは他州からの押し掛け人であり、歓迎されざるべき存在。だから、早々にニューオリンズに戻る】

ロイが出て行った後、レジーは、マークが嘘を付いていたことに対し、怒り心頭に達し、「あのガキ、殺してやる」と呟くと、奥の部屋に入って行き、「よくも嘘付いたわね! 3秒あげるから、真実を言いなさい。1、2…」と数え始める。すると、マークは 「嘘つきはあんただ! あんたはクビだ!」と怒鳴ると(1枚目の写真)、部屋から走って出て行く。レジーは、中古(20年くらい前)のMGB Roadsterに乗ってマークを追いかける【原作では、マツダ RX-7なのに、なぜ変えた?】。レジーは、マークの横をゆっくり走りながら、「マーク、車に乗って」と言うが、マークは病院に向かって歩く。しかし、病院の玄関前に集まっていた報道陣がマークの姿を見て駆け寄って来ると(2枚目の写真)、急いで車に飛び乗る(3枚目の写真)【映画のみのシーン】

レジーの事務所を追い出されたロイ達は 今後の対策の相談をしている。ロイ:「あの子は、死体の場所を知ってる」。シェルフ:「マフィアですら、彼が知っていると知ってます。だから、グロンキーを送り込んだ」。ロイ:「マフィアより先に、あの子を手に入れないと」。フィンクが探してきた本を見たシェルフは、全員にむかって 「あった! 少年には監視が必要だと主張して、少年裁判所に訴えることができる」(1枚目の写真)。トルーマン:「保護もだ。グロンキーがいる」。シェルフ:「彼を保護留置することが、子供にとって最良の措置だと判事に説明すればいい」。トルーマン:「判事が、彼に話すよう命じる」。シェルフ:「子供が法律を犯していると主張する」。ロイ:「司法妨害だ。今夜中に収監させろ」【原作(第17章)では、この状況が、もっと正確に書かれている。アメリカの司法制度を知っていないと、このあとの展開が分かりにくいので、引用しておこう。筆頭検事補のボビーは、「我々は、子供が何か悪いこと、法律を犯すようなことをした、もしくは、していると申し立てないといけません。そして、この子の行為で僅かなりとも違反しているものといえば、司法妨害です。だから、我々は 子供が死体の場所を知っているという、確信の持てない根拠に基づき、申し立てを行わないといけません」と言うと、ロイは、「あの子は、死体の場所を知っている」と直感だけに基づいて決めつける。ボビーは 「少年裁判所の召喚状は子供の母親に送られ、審問は7日以内に行われます。率直に言って、子供に話をさせる最短の方法でしょう」。ロイ:「もし、彼が証人席で話すのを拒んだら?」。「処遇は判事に一任されます。我々が判事に、子供が何かを知っていると確信させられれば、判事は子供に話すよう命じるでしょう。その場合、もし子供が証言を拒めば、法廷侮辱罪に問われる可能性があります」。ロイ:「侮辱罪に問われたら?」。「確定はできませんが、判事は、子供が侮辱罪を解消するまで、少年裁判所の施設に収監することができます」】

一方、レジーは、マークを 自分が母と一緒に住んでいる家まで連れて行く。車の音を聞きつけた母(ママ・ラヴ)がやって来ると、マークは 「病院に戻せよ」と文句を言う。「いいこと、君と私は まず話し合わないと」。「うるさい。あんたはクビだ!」(1枚目の写真)。「いいわ。勝手になさい」。「これは誘拐だ! すぐ戻せ! ヒッチハイクして帰るぞ!」。「行けば」【原作(第18章)には、レジーはRX-7に乗せてマークを自宅まで連れて行く。マークはママ・ラヴが作ってくれたラザニアに舌鼓を打ち、あとで胃が苦しくなるほど食べる。映画と雰囲気は全く違う】。映画では、マークが怒ったシーンのあとに、グロンキーの借りた部屋を ボノという男が訪れる。男は、「ガキはどこだ?」と訊き、グロンキーは 「スベタの弁護士と一緒だ。私立探偵につけさせてる」と言う。「FBIは?」。「2人。病院を見張ってる。昨夜、ガキを脅しておいた」。「これが指令だ。病室、弁護士事務所、あらゆる場所を盗聴しろ。ガキが何を知ってるか見つけ出せ。失敗したら、全員殺せ」(2枚目の写真)【原作(第12章)では、マルダーノの伯父が、ボノとビリーニの2人を送り込むが、メンフィスに着いてから何をしたのかは書かれていない】

マークが道路で立っていても、なかなか車が通らない。やっと1台やってきたので、手を上げて停めると、運転していたのは、病院の待合室で話しかけてきた怪しい男。男は、「病院にいた子だな。乗れよ」と言うが(1枚目の写真)、マークは危険を察知して逃げ出し、レジーの家に向かう。家に入ったマークは、「病院まで戻せよ」と要求する。「話し合うまでは、どこにも連れてかない」。「電話は? タクシーを呼ぶ」。「ここからだと40ドルかかるわよ。45かな? チップも要るし」。「あんたはクビなんだ。鈍い頭じゃ、分んないのか?」。「クビで結構。隠し事ばっかりじゃ、何もできないものね」(2枚目の写真)。「あんたを雇う前に息を嗅ぐべきだった。そうすりゃ、酔っぱらいだって分かったのに」。「3年間、禁酒してきたわ」。「酔っ払いは、みんなそう言う。しらふになってから。愛してるなんて言うけど、そんなのは嘘。疲れて帰って来ると、僕や母さんを殴るから、野球のバットで顔をぶっ叩いてやった」。「お父さんのことね」。「ああ、僕が追い出したんだ。離婚しようと、母さんと一緒に法廷に行った時。弁護士は最低だった。だから、僕は証人席に行き、判事に全部の暴行と、路上で眠らされたことを話してやった。だから、あいつは、元・オヤジになった。こんどは、あんたを雇った。だけどあんたも酔っ払いで悪い弁護士だった。だからクビにしたんだ。僕が自分で何とかする」【映画だけのシーンだが、こんな生意気なマークより、原作の素直なマークの方が好感が持てる】

マークの苛立った気持ちを静めたのは、レジーのこの言葉。「私は自分で何でもできると思ってた。でも、強くなるためには助けを求めないといけない時もあるのよ」【原作には、この喧嘩がないので、この言葉もない】 。このあと、レジーはなぜアル中で施設に入ることになったかを話す。①夫は、レジーが働いて学費を稼いで医者にしてやったのに、成功したら若い女と結婚。②離婚するにあたって、夫は凄腕の弁護士を雇い、娘と息子の親権を奪った、というもの。レジーはタバコに火を点けてから(1枚目の写真)話を始めていたのだが、話がレジーの自殺未遂まで来ると、マークも同情して聞き入る(2枚目の写真)。③レジーは3年前に立ち直り、禁酒し、法律学校に行き、弁護士の資格を取った。すべての話を聞いた後、マークは、レジーの吸っていたタバコを受け取って深く吸うと(3枚目の写真)、それをレジーに返す。これは、レジーを信頼することにしたという意思表示。だから、すぐに、一番の核心を打ち明ける。「ローミーは僕に話したんだ。どこに死体を埋めたかを」。「埋めた場所 私に話す? 警察に電話すれば、こんなこと、今すぐ終わるわ」〔話すことの危険性を認識していないのは奇妙〕。「でも僕、誰にも言わないって誓ったんだ。話したら、あいつらに殺されちゃう。TVで見たよ。『マフィアは決して忘れない〔The Mob never forgets〕』って」【原作(第11章)にも、場所は違うが 同じ引用が出てくる】。「何てこと! マフィアに襲われたのね?」。「うん。レジー、怖いよ」【レジーの最低の夫の話は、原作では、マークがRX-7でレジーの家に来た時(第18章)に、レジーからではなく(レジーは夜なのに急用で外出した)、ママ・ラヴが打ち明ける。ただ、レジーが映画より年長なので、離婚もずっと前の話だし、弁護士としての経験も長い】

レジーの家の前に集まった悪の3人。グロンキーがナンスに 「どんなだ?」と訊くと、ナンスは 「ガキは中だが、スベタが2人いる」と報告する。グロンキーがボノに 「どうする?」と訊くと、ボノは 「いいアイディアがある」と答える(1枚目の写真)。次のシーンはレストラン。ロイのところにフィンクが来て 「子供を保護留置するには最低でも1週間かかります」と報告する。ロイは 「明日、証人席に立たせるんだ」と要求する(2枚目の写真)。一方、ボノとグロンキーは、マークのトレーラー・ハウスに行くと、火を点けてずらかる(3枚目の写真)【最後のシーンは、原作(第19章)に、1人の男が小さい段ボールをトレーラー・ハウスのドアの前に置き、30分後に箱が爆発してトレーラー・ハウスが全焼した、と書かれている】

翌朝、トレーラー・ハウスの全焼を知ったレジーが病室まで慰問に来る〔母はずっと病室でリッキーに付き添っている〕。混乱状態にある母は、「火災保険には入ってる?」と訊かれ、「関係ないでしょ」と冷たく言う。レジーが 「ごめんなさい、気を悪くさせるつもりはなかったの」と言いながら、着る物や下着の入った紙袋を渡そうとすると、「このガラクタ何なの?」と訊き、「当座に要りそうな物を少し持って来たの」と言われると、「施しは要らない」と、投げ捨てる。そして、「出てって!」と怒鳴る【原作(20章)では、レジーが自宅で一泊させたマークを連れ帰ったところなので、息子を招待してくれたことをレジーに感謝する。レジーは、その直前に火災のことを聞かされたばかりなので、慰問の品は持っていない。保険の話は21章。「保険は何をカバーするの?」と訊いたのはマーク。母は、トレーラー・ハウスの持ち主が建物に掛けている保険と、母が家財にかけている保険があると話すが、後者についてはよく覚えていないと話し、マークは母がよく忘れるので、家財保険はかかってないと思う。いずれにせよ、映画のこのシーンでの母の言動は、度が過ぎている】。レジーが出て行ったのを確認して、刑事と巡査部長が病室に入って来る。そして、刑事が書類を出し、「明日の10時に少年裁判所で行われる公聴会への召喚状です。召喚状によれば、直ちにマークを拘留すべきとあります」と命令口調で告げる。それに対し、母は、「何ですって? 連れてなんて行かせない」と反対する(1枚目の写真、矢印はレジーが持って来た紙袋)。そして、「何て卑劣なの! 絶対させないわよ!」と断固阻止しようとし、口論になり、巡査部長の顔を引っ叩く。その瞬間、刑事が母を後ろから拘束し、巡査部長がマークに手をかける。母が暴れたので、2人は床に倒れ、刑事のポケットから数枚のクレジットカードが床に落ちる。マークは、巡査部長と争いながら、そのうちの1枚を確保する(2枚目の写真、矢印)。そして、そのまま部屋から連行される【映画では、直前のシーンで、「子供を保護留置するには最低でも1週間かかります」と言っていたので、それが説明なく翌朝になるので、観ていて戸惑う。原作(20章)では、①メンフィスのあるシェルビー郡の少年裁判所のハリー・ローズヴェルト判事が 転任を断り22年間も同じ職を務めてきたこと、②子供を守ることに専念してきたレジーとは非常に仲が良かったことが紹介される。そして、ローズヴェルトを、その日の朝8時半に3人の人物が訪れる。メンフィスの連邦検事のオード、ロイの部下の検事補のフィンク、FBI副長官のK.O.ルイス。オードは、①マークは上院議員の死体の所在地を故意に隠匿している可能性が高い、②マークを非行少年として告訴する訴状を持参している、③マークの罪は司法妨害(不当な証言による捜査活動の妨害)に当る、④緊急審問会を開催し、マークが宣誓証言で知らないと証言すれば訴状は取り下げる、と話す。それを聞いたローズヴェルトは、マークが何も知らないのなら、早く解放した方がいいと思い、「今日の昼休み」を提案する。もちろん、誰も反対はしない。ここでルイスが、マークを即座に拘留する必要があると進言する。理由は、①グロンキー、ボノ、ピリーニの3人が潜伏していて、マークは重大な危険にさらされている、②4時間ほど前にマークの住むトレーラー・ハウスが不審火で全焼したという緊急性。ローズヴェルトは、もしマークが本当に死体の場所を知っていて、それを証言したらどうなるか訊く。フィンクは、家族全員を証人保護プログラムの対象にする準備を進めていると話す。これを聞いたローズヴェルトは、マークを未成年者拘留所に収容し、監房に単身で拘留することを条件に、命令書に署名する。映画でも、恐らく同じようなことが行われたのであろうが、ルイスは登場せず、フィンクの提案した証人保護プログラムは、レジーの提案になっている。そして、映画の「マーク連行」は原作(21章)では、2人の刑事によって行われる。マークの母の抵抗は映画より厳しく、口汚く罵る。母が刑事の頬を殴り、それをきっかけに刑事が母を捉え、床に倒れるところは映画と同じ。マークは、クレジットカードなど奪わないが、部屋の出口で会った新聞記者に 「おいマーク、どこ行くんだい?」と訊かれて 「刑務所」と言い、エレベータの中では、朝なので乗り合わせた大勢の看護婦や医師に 「僕たちの住んでたトレーラーが全焼しちゃったのに、このチンピラどもが現われて、母さんの目の前で僕を逮捕したんだ。僕の弁護士が、このウドの大木を訴えるから、明日の今頃には2人とも失業者さ」などと訴え、刑事2人は早くエレベータから降りたくなる】

マークが連れて行かれたのは、「未成年者拘留所」ではなく刑務所。ただし、女性監房の中の使われていない独房室ブロック。その入口で、マークは、「好きなベッドに寝ていいわ」と言われ、出口の鉄格子が閉められる。元気のないマークを見た女性看守は、「大丈夫?」と心配する。マークは、「母さんに電話できない? 僕がどこにいて、大丈夫なんだって知らせたんだ。きっと、僕のこと心配してるから」と、殊勝な子供を装って頼む(1枚目の写真)。優しい看守は1回だけと断り、電話を持って来ると言ってくれる。次のシーンでは、マークが独房で、電話帳でピザ店を探すと、最上の大型ピザを20個注文し〔248ドル10セント〕、北分署のナッサー刑事まで届けるように依頼する。支払いはクレジットカードで、先ほど床から奪い取ったカードの番号を伝える(2枚目の写真、矢印はカード)。北分署では、ナッサーが、巡査部長に1枚だけカードが見つからないと話していると、大量のピザが配達されたので(3枚目の写真)、誰がやったかが分かる【原作(第21章)では、未成年者拘留所の独房は、幅12フィート(3.65m)、奥行き20フィート(6.10m)で、二段ベッド。薄い絨毯が敷かれ、便器はステンレス製。ピザの注文は、北分署のクリックマン刑事の代理として。1つの店について4枚ずつ注文し、それを10回繰り返して40枚にし、さらに、10人前の中華料理のランチボックスも。合計金額は約500ドル。ただし、クレジットカードを使っていないので、窃盗罪や詐欺罪の対象にはならないのかも。マークは盗みをはたらくような少年ではないので、原作のマークの方が本来の姿に近い】

次のシーンでは、その日の夕方、レジーと秘書の間に交わされる会話。レジー:「今夜はマークを出せない。フォリトリックが拘留を申請したから。ローズヴェルトは明日10時に審問を入れたわ」。秘書:「普通なら、訴状提出から数時間じゃなく、3日から7日はかかるのに」と不満を洩らすと、レジーは 「あのフォリトリックなら、なんだってやってのける」と言うが、これが、原作に書いてあった複雑な手順の説明の代わり。レジーは、翌朝、裁判所内のローズヴェルトの部屋を訪れ、「拘留命令にサインなんかしなくても、私がここに連れて来たのに」と言うと、「FBIによれば、グロンキーとボノという男がこの街に来たそうだ。知ってたか?」と訊かれる。「いいえ」。「君の依頼人は危険にさらされている。あの子は、何を知ってるんだ?」。「個人情報保護の権利よ」。「じゃあ彼は、重大事項を知ってるのか?」。「彼が知ってるとしたら、一家3人に証人保護プログラムを適用してもらえる?」。「それは基準外だな」〔この発言が納得出来ない。そもそも少年裁判所の判事が判断するものではなく、原作で紹介したようにFBIが手配するもので、フィンクは「家族全員を証人保護プログラムの対象にする準備を進めている」と話している。なのに、映画では、決定権のない判事が、こんな変な判断を示す〕。そのあと、レジーは刑務所まで行き、マークを引き取り、少年裁判所に連れて行く。マークは、「どうして、何も知らないって言ったらダメなの?」と質問する。「法律に違反するわ。それに、誰も信じてくれないし。マフィアも、FBIもね」(1枚目の写真)。「ホントのこと話したら、僕、殺されちゃう」(2枚目の写真)。「証人保護プログラムって聞いたことある?」。マークは知っていたが、TVで見た映画では、「結局、マフィアに見つかって脚を吹き飛ばされて終わり」。だから、「あいつらに、質問させないで」とレジーに頼む。「やってみるけど、もし、証人席に立たされたら 嘘はつけないわ」(3枚目の写真)【原作では、早朝3人が判事を訪れ、判事はその日の昼に開廷を決める。判事はそのことをレジーに知らせようとするが、レジーの定例の診察日のため、彼女が秘書から審問のことを知らされたのは、午前11時(第23章)。その際、「法律では、3時間から7時間じゃなく、3日から7日と決まっているのに」と言うのは、秘書ではなくレジー。逆に秘書が、「でも、迅速な審理の規定があるでしょ?」と言う。「それは、極端な特例よ」。このあと、レジーはローズヴェルトの部屋に行く。そこでの会話は映画とよく似ているが、レジーは判事に証人保護プログラムの依頼などしない】

そして、開廷。ローズヴェルトは巡査部長と新聞記者を退廷させる。検察側にいるのは、ロイと3人、プラス、メンフィスのマクスーン。検事側を代表して発言するのはフィンク。ロイが口を出そうとすると、ローズヴェルトは ①発言は、私から話しかけられた時のみ、②いい気になってしゃべりまくる人物〔聖書を引用して自慢げに話すことで知られる “牧師” ロイ〕の声など聞きたくもないと、条件を付ける。判事は、まず弁護人に発言させる。レジーは、「子供は、根拠のない告発に対し、棄却を申し立てます。訴状は、子供が知っているかもしれないことを探るために提出されたものです」と言うが、マークは 「僕を 『子供』なんて呼ばないで」と文句を付ける(1枚目の写真)。レジーは、「フォルトリッグ氏とフィンク氏は、この審問を 情報を得るための探り出しとして利用しています。私の依頼人がクリフォード氏と法的に重要な会話をしたという彼らの推測は、単に状況証拠に基づいたものです。訴状は棄却されるべきです」と主張する。それに対し、フィンクは 「私どもが求めているのは、潔白を証明するために子供が証言することだけです」と、当初マークが付いた嘘は無視し、この一点に絞って要求する。そのため、判事は、レジーに 「あなたの依頼人に証言させて、このバカげた状況を終わらせてもらえないか?」と尋ねる。レジーは 「もし、拒否すれば?」と尋ねる。「残念だが、この問題が解決するまで、彼を拘留することになる」。そして、判事はマークを証人席に座らせ、真実を述べることを誓わせる。そして、フィンクが、「マーク、君はクリフォード氏が死ぬ前、無理やり車に乗せられましたか?」と質問する。「はい」。「君は、クリフォード氏と話しましたか?」。「はい」。「クリフォード氏は、バリー・マルダーノかボイド・ボイエット上院議員について言及しましたか?」。ここで、マークは判事に、「修正第 5 条〔黙秘権を行使することを認めた修正条項〕を使うと、嘘を付いたことになる?」と尋ねる(2枚目の写真)。「いいや、違う」。そこで、マークは 「黙秘権を使います。質問には答えられません。僕や家族に何かあると怖いから」と述べる(3枚目の写真)。判事は、「やむを得んが、君を保護留置する」と言って検事側を無視して閉廷。その直後、「悪いなマーク、君を守るためだ」と謝る【原作(第24章)では、検察側はフィンク、オード、マクスーン、ルイス〔ロイはニューオリンズに戻り、出席していない〕。本格的な質疑に入る前に、レジーは幾つか複雑な申し立てを試みるが、最後には、判事が検察側の証言を聞くことを認める。最初の証人は巡査部長。ここで、FBIのマクスーンとルイスが退廷を命じられる。巡査部長の証言は、マークが嘘ばかり付いたという内容。2人目の証人は、退廷させられたマクスーン。証言内容は車内で見つかった指紋と血痕。3人目の証人はフィンク本人。証言内容は、クリフォードが死体の所在地を知っていたらしいという本人の実体験。4人目の証人としてフィンクが求めたのはマーク。判事はレジーと話し合い、マークを証人とすることを認める。ここから先は第25章。フィンクは、クリフォードを見つけたいきさつを尋ね、マークは正直に答える。車内に閉じ込められたあとに、脅かされ、殴られ、発砲されたことも話す。クリフォードとの会話の一部も話す。しかし、上院議員について訊かれると、「修正第 5 条の黙秘権を使えませんか?」と判事に尋ねる。判事は、「駄目だ。質問に答えなければ拘留所に戻す」と言うが、マークは 「修正第 5 条を行使します」と譲らない。マークは、質問に答えた場合の危険性を訴えるが、判事は、①拘留所に戻し、②法廷侮辱罪を新たに科し、その適用期間中は勾留すると判決を下す。そして、気が変わったかどうか知るため、毎日裁判所に来るよう命じる。さらに、ニューオリンズが本拠地のフィンクにも、毎日出廷を命じ、しなければ法廷侮辱罪を科すと命じる。判事は、マークを退廷させた後で、ルイスを呼び、マークの安全を確保すれば秘密を打ち明けるかもしれないと言い、提案を求める。ルイスは、証人保護プログラムの準備(他の都市に引っ越しさせ、新しい身分を与え、母には新しい仕事、ちゃんとした住む家、支度金、FBIによる保護、リッキーの専門医による治療)について話す。プログラムの実施までに必要な日数を訊かれると、最優先事項として実施するので1週間以内と答える。判事は、レジーに、マークの母がこの方針を認めるよう説得することを求める】

裁判が終わると、ナンスは廷吏のあとからトイレに入って行くと札を1枚渡して 「どうなった?」と訊く。廷吏が 「今回は、もっともらえると思ったんだが」と言うと、ナンスは廷吏の顔を壁に押し付け、「さっさと言え」と脅す(1枚目の写真、矢印はマークが見て危険を察した “鉄条網のような入れ墨”)。「ガキは拘留所に戻った。ローズヴェルトがガキの安全を優先したんだ」。「ガキは何を知ってる」。「何もかも。判事は一晩でガキの考えが変わるかもと考えて、明日の正午にまた開廷だ」。壁から解放された廷吏は、「こんなちょっぴり、冗談だろ」と札を見せるが、ナンスは札を奪うと便器に投げ込む〔この行為は奇妙。こんなことをすれば、この廷吏から情報は二度と得られなくなる〕【原作(第25章)では、同じようにトイレで廷吏からもっと詳しい話を聞かされる。聞き終わると、ナンスは100ドル札を1枚ポケットから出して廷吏に渡す】。一方、ニューオリンズでは、マルダーノが伯父のジョニーと行きつけのレストランに入る。FBIは、注文を取りに行ったウェイターに盗聴装置の入った塩とコショウの瓶をテーブルに置かせる(2枚目の写真、矢印)。2人だけになると、マルダーノは 「サツがガキを捕まえた。まだ死体は動かせねぇ」と言う。「お前はバカモンだ」。「もうたくさんだ。俺はちゃんとやってる。ドジったのは1回だけだろ。死体はサツがいなくなったら すぐ動かす。あのガキは何かを知ってやがる。弁護士に話したかもしれん。電話は盗聴してる。頼むよ、俺にガキをヤラせてくれ」。この時までに、なぜか伯父は盗聴に気付く。そこで、話題を180度変え、「ガキのことは心配するな。なにもかも止めるんだ」と言うと、塩とコショウの瓶を指して、「隠しマイクだ」と教える。盗聴していたFBIはこれであきらめる。ジョニーは紙に何か書くと、それをマルダーノに見せ、火を点けて燃やす(3枚目の写真、「全員殺せ」と書いてある)【原作(第27章)には、バーでマクダーノとグロンキーが密談した時、FBIがバーテンに塩とコショウの瓶をテーブルに置かせて、盗聴を試みる場面がある。ただし、会話の内容は全く違うし、盗聴はバレない。一方、ジョニーとマルダーノの密談は、もっとあとの第35章。場所はジョニーのオフィス。盗聴はないが、①マルダーノの死体の置き場所、②マルダーノがそれをクリフォードに話したことに対し、「お前はバカモンだ」と罵る。マルダーノは怖くて反論などしない。マルダーノは死体の移動の許可を求める】

毎日独房で暮らさなくてはならなくなったので、これからどうしたらいいかマークは考える(1枚目の写真)。そして、次のシーンでは、マークが独房から床に倒れた上半身を出して苦しんでいる。それを鉄格子の外から見回りきた女性看守が見つけ、慌てて駆け寄る(2枚目の写真)。医者が呼ばれるが、マークは汗ぐっしょりで意識がなく、心臓がドクドクと早鐘のように打っているので、救急車が呼ばれ、リッキーが入院している病院に搬送される。しかし、そこは救急患者で溢れていて、外傷のないマークは後回しにされる(3枚目の写真、矢印)【原作(第31章)では、映画と違い、フォルトリッグが策を弄して ニューオリンズにあるルイジアナ州の大陪審からの召喚令状をマークに届ける〔大陪審の召喚の方が、少年裁判所の拘留判決より優先する。従って、マークはニューオリンズに行かなくてはならなくなる〕。それを受けて、第32章で、マークは独房の中を30分程度走り回って全身汗びっしょりになり、リッキーと同じ心的外傷後ストレス障害になったフリをして監房内で倒れる。映画と同じで救急車が呼ばれ、病院に搬送されるが、精神科の急患ということで後回しにされ、廊下に放置される】

マークは、ストレッチャーからこっそり降りて(1枚目の写真)、使用禁止の古い階段を登ってリッキーの病室に向かう。階段のドアの窓からは、警官2名に付き添われて廊下を歩く母が見える。マークは、ドアを開け、這いつくばって廊下に出て、最初は母が歩いて行った方を見、次に反対側を見ると(2枚目の写真)、廊下の突き当りの「礼拝所」と書かれたマリア像の横に、怪しい男〔グロンキー〕が壁にもたれてタバコを吸っている。しかし、マークの存在に気付くと、じっとマークを見つめる(3枚目の写真)【原作(第32章)では、マークはそのまま霊安室に向かう】

グロンキーは、マークを確認すると、走って向かってくる。マークは、入って来たドアから階段に戻り、途中何度も飛び降りながら、階段を駆け降りる。グロンキーは全力で後を追う(1枚目の写真)。地下まで降りて、パイプの横を走り抜け、解剖学教室の中に逃げ込み座席の陰に隠れる。グロンキーがナイフを剥き出しにして入って来たので、隙を見て抜け出し、霊安室の並んでいる廊下に逃げ込む。廊下の右側には白い布を被せられた遺体が並んでいて、左側には霊安室〔冷凍庫〕が並んでいる。グロンキーは、マークがワザと少し開けておいた霊安室に入ろうとすると、隠れていた白い布から這い出て(2枚目の写真、矢印)、グロンキーが完全に霊安室に入ると、ドアを閉めてドアをロックする(3枚目の写真)〔グロンキーは、朝まで閉じ込められる〕【原作にはないシーン】

レジーとママ・ラヴの家には、今夜は秘書がいる。外で警護に当っている警官2名は、たまたまママ・ラヴが用意したコーヒーを室内で飲んでいる。そこに電話がかかってくる。すぐにレジーが取ると、「レジー、僕だ。刑務所から逃げ出した。助けに来てよ」とマークが言う。レジーは、警官に悟られないように、女友達からの電話に思わせようと、「ジャネット、こんなに遅くにどうしたの?」と大きな声で言う。マークは、すぐにピンと来て、「僕、聖ペテロにいて、隠れてる。1時間走って、心的外傷後ストレス障害の発作をマネしたんだ。奴ら、僕をすぐここに運んだ。チョロイもんさ」と状況を説明する(1枚目の写真)【以前紹介した、原作(第31章)と比べ走った時間が倍になっただけ】。「大丈夫なの?」。「大丈夫じゃない。僕を殺そうとしたマフィアを霊安室に閉じ込めた」(2枚目の写真)。その頃には、警官達が外に出て行ったので、レジーは自由に話す。「マーク、今すぐ警官を探しに行くの」。「刑務所なんかに戻るもんか。迎えにきてくれないんなら、僕は一人で行くべきところに行く。本気だよ。迎えに来なくちゃ。今や、僕の友だちはあんただけだ。あんたもそれを知ってる。がっかりさせないで」。その言葉で、レジーは、①正面の駐車場で待つ、②グレーのホンダ〔秘書の車〕で行くと伝える。秘書は反対するが、車と当座の現金を借り、どうやって2人の警官を誤魔化したのかは分からないが、病院に向かう。そして、正面玄関の脇の1台ずつしか横列駐車できない場所に潜んでいたマークを車に乗せる(3枚目の写真)【原作(第32章)の内容の簡略版。違うのは、迎えに行く場所が、映画よりは安全な駐車場。秘書の車はホンダのアコード。秘書から借りたのは現金40ドルとクレジットカード】

車に乗ると、マークは 「橋の方へ」と言い出す〔この橋は、特徴ある形のヘルナンド・デ・ソト橋。ミシシッピ川を渡って対岸のアーカンソー州に行くための長さ約6キロの橋〕。レジーが 「なぜ」と訊くと、マークは 「あのね、僕 考えてたんだ。証人保護ってやつ なかなかいいよね」(1枚目の写真)「でも、ローミーはへべれけで薬も飲んでた。彼が話した場所に死体がなかったら、保護受けられる?」。「死体の場所を教えて、幸運を祈るしかないわね」。「なら、先に、死体がちゃんとあるか確かめないと。だろ?」。「何が言いたいの?」。「ニューオリンズに行って、ローミーが言った場所にボイエットの死体があるかどうか調べないと」(2枚目の写真)。レジーは、大きな声で、「君は何を言ってるのか、分ってるの? 問題外。絶対ダメ」と拒否する。それを聞いたマークは、パーキングブレーキを思い切り引いて車を停めると、ドアを開けて遠くに見える橋に向かって歩き出す。レジーは、危険だからと止めるが、マークは、「ヒッチハイクで行く」と言ってレジーの手を振り切る。「マーク、お願いだから止めて」の声に、マークは、「前に言ったよね、助けを求めないといけない時もあるって。だから、今、頼んでるんだ」(3枚目の写真)。この言葉で、レジーはOKする〔残念ながら、この橋を渡ってもニューオリンズへは行けない。映像効果のために使用しただけ〕【原作(第33章)では、ローミーの話の信憑性と、だから確かめないといけないと主張する部分はほぼ同じ。その先、レジーが強く反対する部分はない。なぜかと言うと、映画と違い、2人にはルイジアナ州の大陪審からの召喚令状が届いていて、2人ともそれには出たくない。それには、絶対捜索されない場所(つまり、大陪審が行われるニューオリンズ)に行くのが一番安全だというマークの言葉に、レジーが同意したため。ただし、死体の掘り出しにまで同意したわけではない】

次のシーンは、翌朝。ニューオリンズのジョニーのオフィス。ジョニーは 「ガキは脱獄、弁護士は行方不明、グロンキーは一晩冷凍庫、誰も始末できず、死体も元のままだ。釈明できるか、バリー・“ナイフ”?」と、失態を強く責める。マルダーノは、「ジョニー伯父貴、死体はローミーのボート小屋のボートの下に隠しやした。ローミーを震え上がらしてやろうと、冗談のつもりで」と打ち明ける。「下らん」。「ローミーが死んだ後、あそこはサツで溢れていやしたが、今なら死体を掘り出せやす」(1枚目の写真)。ジョニーは 「バリー、お前がやったことはバカの極みだ。お前に、俺のファミリーを道連れにさせるワケにはいかん」と、さらに強い言葉で非難する。マルダーノは、「お願いだ、ジョニー伯父貴、死体を掘り出させてくれよ。二度とドジを踏まねぇと誓うから」と 必死に頼む。ジョニーは 「グロンキーとボノを連れて行け。後始末に一度だけチャンスをやる。これが最後と思え」と、甥だから与える1回限りの生き残りの機会だと強調する【以前、紹介した原作の第35章。ジョニーが甥を厳しく愚弄するのは同じだが、映画と違う点は、①ボート小屋ではなくガレージ。ただし、ガレージに放置してあるボートの下なので、場所が海沿いでないことを別とすれば、小屋の中での状況は似ている。映画に述べられてない点は、死体はコンクリートの下。掘り出すのに要する時間は1-2時間。②ジョニーは3人助っ人を貸すが、グロンキーとボノではない〔わざわざ遠いメンフィスから2人を呼び戻すのも変〕

ミシシッピ川に架かるグレーター・ニューオリンズ橋を車が渡って行くシーンが映る(1枚目の写真)。バックグラウンドに、レジーが秘書にかける電話の声が流れる。「マークの母に電話して、彼は無事で、私と一緒だと伝えて」。しかし、この時代には、携帯電話は一般には普及していなかったので、橋を渡る車の俯瞰映像と音声とは一致しない。秘書は、「今どこに? FBIはカンカンですよ」。「ニューオリンズ郊外のモーテルよ。もう行かなきゃ。明日、戻るわ」。ここで、映像と音声が一致し、ツインベッドの1つでは、マークが眠っている〔レジーは夜の間ずっと運転してきたことになる〕。事務所の電話はFBIによって盗聴されていたので、マクスーンがロイに情報を伝えると(2枚目の写真)、ロイは部下にプライベートジェットの手配を命じる【原作(第35章)では、FBIは秘書がマークの母にかけてきた電話を盗聴し、2人がニューオリンズにいることを知る】

夜になり、マークとレジーは地図を頼りにローミーのボート小屋を目指す(1枚目の写真)。付近は海に面した高級住宅地で、鉄条網付きの金網が張り巡らされている。2人は金網に沿ってボート小屋に向かうが(2枚目の写真)、途中で、ローミーの隣の家の敷地内を通らざるをえなくなる。ローミーはマフィアの弁護士だったので、隣の家には、安全を確保するため、広大な芝生の手前に、「武装対応」「侵入すれば撃つ」などの警告板が立てられている。2人は、それを無視して駆け抜け(3枚目の写真)、その先にあるボート小屋に辿り着く【この辺りの描写は、映画の方がストレートで分かりやすい。原作(第36章)では、老齢のレジーが反対してガレージに近づかない】

ボート小屋を発見すると、マークはすぐにドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。マークが見上げると、屋根の妻の部分に通気口が見えたので、ドアの上の庇(ひさし)に登り(1枚目の写真)、通気口から懐中電灯で中を見ると、ボートが置いてあり、カバーが掛かっている。そこで、マークは、通気口の邪魔な木の棒を下に落とすと、レジーの反対を押し切って潜り込む。マークは中に入ると、天井の梁を伝って奥に入り、床に飛び降りる。そして、ドアを開けてというレジーを無視し、「死体を探す」と言ってボートに近づく。その時、マルダーノ達3人を乗せたモーターボートが ボート小屋の桟橋に着く(2枚目の写真)。それを小屋の反対側から見たレジーは、中にいるマークに、「誰か来た、きっとマルダーノだわ」と知らせる。マークはドアを開けようとするが、南京錠がかかっていて開かない。一方、海側のドアは、マルダーノが銃で南京錠を吹き飛ばす。マークはボートを覆うカバーの中に隠れ、心配になったレジーは通気口まで登る。マルダーノは、壁にあるスイッチを押して ボートをカバーごと上昇させる。ボートがかなり上がって、空間ができると、マルダーノとグロンキーは床を掘り始める。マークは、カバーから顔を出して、下の様子を窺う(3枚目の写真、矢印は、それを通気口から見ているレジー)。数センチくらいのコンクリートをノミと金槌で破り、その下の地面を20センチほど掘ると、死体を入れたビニール袋が見えてくる(4枚目の写真)。マルダーノは、「復活の時だ、この野郎」と、袋に向かって嬉しそうに声をかける。それを聞いたマークは、本当に死体があると知って大喜び。レジーは早く戻れと手で合図する。

マークは、ボートが持ち上がって梁に近くなったので、梁に上がると、そのまま後退してゆっくりと通気口へとバックする。レジーが、通気口まで届いたマークの足を引っ張る。マークの下半身が外に出た所で、耳ざといマルダーノがかすかな音に気付き、作業をやめてボートから顔を出し、マークと目が合う(1・2枚目の写真)。マークはとっさに壁にあるスイッチを反対に倒し(3枚目の写真、矢印)、ボートは一気に下がり、グロンキーは体の半分が挟まれるが(4枚目の写真)、マルダーノは脱出し、裏口の南京錠を銃で吹き飛ばす。マークとレジーが小屋の背後の茂みに逃げ込んだのと、マルダーノがドアから飛び出したのは、ほぼ同時。マルダーノは、すぐに2人の後を追う。

マルダーノは、レジーに飛びかかり、その弾みで、銃も吹き飛んで地面に落ちる。マルダーノは、飛び出しナイフを出すと、レジーに向かって、「お前は死ぬんだ、くそ女」と言うが、その前に落ちた銃を拾っていたマークが、銃を向け、「彼女を放せ、今すぐだ」と命じる(1枚目の写真)。マルダーノはレジーを放す。「ナイフを捨てろ」。ナイフはレジーが拾う。マルダーノは、「マーク・スウェイ君、お前さんは大人か? てめぇには誰も撃てやしねぇ」と、からかう。マークは、「撃てるとも」と言うと、銃を向けたままレジーの横に行く。レジーは 「マーク、銃を渡して」と言うが、マークは 「奴は、あんたを殺そうとした。僕や、母さんや弟も殺そうとした」と、恨みをぶつける(2枚目の写真)。マルダーノは、「てめぇは、ただの怖がりのチビ助だ。もう小便 漏らしたか? 大人なら、引き金を引きやがれ」と挑発する。レジーは、嫌がるマークから銃を奪うと(3枚目の写真)、「ガキに撃たせるべきだったな、クソ女。おめぇには肝っ玉なんかねぇ」と脅す。レジーは、微笑むと、「そうかしら?」と言い、マルダーノの後ろの邸宅にある警報装置目がけて撃つ(4枚目の写真)。

すぐに大きな警報音が鳴り響き、邸宅に煌々と非常灯が点く。そして、「このクソ泥棒めが!」と叫び、大口径の銃を持った寝間着姿の主人が出て来ると、マルダーノの方に向かって撃つ(1枚目の写真)。駆け付けたグロンキーとボノが応戦したので、主人と妻は邸宅の中に逃げ込み、主人が 「警察を呼べ!」と叫ぶ。警察が来ると聞いたので、3人はモーターボートで逃げ去る(2枚目の写真)。マークとレジーはボート小屋に戻り、マークが黒いビニールを破ると、中には蛆虫の大群。強烈な悪臭にレジーが手で鼻を覆う(3枚目の写真)【ここまでの一連の流れは、原作と全く違う。映画の方が迫力たっぷりだが、一部の評論家が言っていたように、こんなことが11歳の少年にできるかと言えば、確かに疑問がなくはない。原作(第37章)では、マフィアの3人がコンクリートを砕いているので、カチンカチンという音がする。ガレージの中に誰かがいるとわかったので、マークは地面を這ってガレージに近づくが、中を覗くことはできない。そこで、石を3個拾うと、隣の邸宅の窓に石を投げてガラスを割る。警報が響き、ショットガンを持った主人が飛び出してきて、威嚇の意味で1発ぶっ放す。さらに、妻が呼んだパトカーの音も聞こえる。そこで3人はすぐに逃げ出す。次の第38章では、騒ぎが収まってから1時間以上待った午前2時に、2人はガレージに入って行き、死体が上院議員のものだと確認する】

翌朝、レジーは、ロイと2人の検事補を郊外のカフェに呼び出す。ロイが、「本当にボイド・ボイエットの死体を見たのか?」と訊くと、レジーは 「臭いまで嗅いだわ」と答える。「どこだ?」。「ここに、子供専門の精神科病院のリストがある。このうちのどれかに、昼までにリッキーを入院させて」。「あんたが、交渉上強い立場にいるとは思えない。死体がどこにあるか知っているなら、私に話すべきだ」。「死体がどこにあるかは知ってるけど、3時間後にどうなってるかは分からないわ。このまま駆け引きを続ける? それとも、取引する?」。「分かった。望みは?」。「自家用機ある?」。「あるよ」。「メンフィスに飛び、リッキーと母親と医師を乗せたら、空港で会いましょ。マークが飛行機に乗り、飛び立ったら、死体がどこにあるか教えるわ。これまでのところ、どう?」。「無理なところはどこにもない」。「リッキーが良くなり次第、一家は証人保護プログラムの対象になる」。「分かった」。「身分を完全に変え、小さいけど素敵な白い家を与える。ウォーキングクローゼット付きのね」(1・2枚目の写真)「母親には、ある程度の支度金と、ちゃんとした新しい職を与えること。これを、2人のどっちかにタイプで打たせて。彼女が署名すれば、決まり」。「一つ助けて欲しい。死体までは遠いのか?」。「12分ってとこね」。「ありがとう、レジー」。「どういたしまして、ロイ」【原作(第38章)では、レジーが連絡を取ったのは、FBIのトルーマン。45分後に レインツリー・インのレストランで待ち合わせるよう指示する。トルーマンはルイスの同席を求める。ここから先は第39章。レジーの条件は、映画とほとんど同じ。追加事項は、「この女性は、子供が大きくなるまでしばらく家にいないといけないから、毎月4000ドルを3年間支給すること。プラス、支度金として2万5000ドルを現金で。一家は火事ですべてを失ったから」「ある時点で、彼女が仕事に戻りたいと希望したら、責任がなく、労働時間は短く、給料は高額な、素敵で気楽な政府の仕事を用意してあげること」「彼女たちが引っ越したいと希望したら、あなた達の費用負担で、引っ越しさせること」「彼女には車が要るわ」「リッキーには、退院後も長期治療が必要かも」「マークにも一度精神科医の検査を」。映画にあって、原作にないのは、ウォーキングクローゼットだけ。レジーは、最後に、ロイに対する司法上の復讐をトルーマンに要望し、ロイを嫌っているトルーマンは、大賛成する。レジーには、しばらくしてFBI長官から電話がかかってきて、レジーの要求に100%従う確約と、ロイへの制裁を保証する】

リッキーと母は、病院の屋上に着陸したヘリに乗せられ(1枚目の写真、矢印)、ヘリはそのまま空港に直行し、ロイのプライベートジェットに乗せられる(2枚目の写真、矢印)。一方、死体の移動に失敗したマルダーノは、あの世に送られる(3枚目の写真)【映画では、母親は証人保護プログラムに反対しないが、原作では結構嫌がる。また、マルダーノが最終的にどうなったかは書かれていない】【メンフィスからの飛行機を待つ間、FBIの副長官ルイスはマークのことを 「勇敢な子だ」と褒める(第41章)〔将来、FBIの特別捜査官になるかも〕。レジーは、ルイスに、フェニックスの病院でも完全な秘密保持を要求する。リッキーは仮名で入院させ、母とマークについても同様とする。永住の地について、レジーは、マークが山岳地帯に住みたいと言っていたと話す。ルイスはバンクーバーを勧める】

ロイのプライベートジェットは関係者が待つニューオリンズに到着する(1枚目の写真)。ジェットから降りた母は、リムジンに乗せられて来たマークと抱き合う(2枚目の写真)。2人に近寄ったレジーは、「来て下さって嬉しいわ」と声をかける。「他に選択肢があったとは思えないわ」。それを聞いたマークは、「フェニックスの小児病院は凄いし、リッキーが良くなれば、どこでも好きな所に行けるんだ」と、利点を強調する。母も 「ホントの家に住めるって聞いたわ」と言い、レジーが 「支度金やウォーキングクローゼットも」と付け加える。「いい仕事も?」。「ええ」。「息子たちの成長を見守れるし、もしかしてPTAにも参加できるかも」。それを聞いて、マークが映画の中で一番の笑顔を見せる(3枚目の写真)【レジーと母が抱き合うシーンは、第41章。その後のレジーと母の会話も原作と似ている】

レジーが合図し、トルーマンが “母がサインする紙” を持って来て、ペンを渡す。母はすぐにサインする(1枚目の写真)。ロイが現われ、「おめでとう、ミス・スウェイ。マクスーンがあなたをフェニックスまでエスコートします」と握手する。母がマクスーンと一緒にジェットに向かうと、ロイはマークの肩に手を置いてジェットに歩いて行く。マークは、この時とばかりに 「どうも、ロイ牧師。あんたには、ホントにイライラさせられたよ」と言い(2枚目の写真)、ロイも 「ありがとよ、坊主、幸運を祈るぞ。正直言って、君にはどれだけイライラさせられたことか」と言い返し、2人は笑いながら、掌をパチンと合わせて仲直りする。一旦はジェットに近づいたマークだが、レジーが元の位置にいるのを見ると、レジーのところまで戻り、「一緒に来れないよね?」と訊く。「証人保護プログラムに入ったら、君は、すべての縁を切ることになるのよ」(3枚目の写真)。「二度と会えないんだね?」。「そう」【母がサインする合意書には、第41章によれば、すでに、ローズヴェルト判事とマクスーン・メンフィス支局長のサインがしてあり、そこに、レジーもサインし、最後に母がサインする。レジーは合意者を持って別の部屋に行くと、トルーマン・ニューオリンズ支局長と副長官のルイスもサインする。映画のような簡単な書類ではない】【マークとロイのユーモラスな言い合いは、原作では、マークとルイスの間で交わされる。「どうも、K.O.。あんたには、ホントにイライラさせられたよ」。「幸運を祈るぞ、マーク。君にはどれだけイライラさせられたことか」】【マクスーンがトルーマンに1通の封筒を渡し、ローズヴェルト判事が今朝発行したロイ宛の召喚令状だと話す。そして、「ローズヴェルトは、メンフィスでフォルトリッグに会うのをとても楽しみにしている」と言い、トルーマンは、ロイがこてんぱんにやられることを予見してニヤニヤする】

レジーは、ママ・ラヴからもらった小さなコンパス(方位磁針)の付いたネックレスをマークに渡し、「このコンパス、大事にしてくれる? そうすれば、君が道に迷うことはなくなるわ」と言う(1枚目の写真)。「大好きだよ、レジー」。「分ってるわ。私も君が大好きよ」。そう言うと、マークを抱きしめる(2枚目の写真)。マークは、ジェットに向かう時、「電話するよ」と笑顔で言う〔フェニックスからレジーに電話をかけるのは問題ないが、この顔の様子では、証人保護プログラムが始まってから電話をかけると言う意味にも取れるので、かなり危険だが、マークならやりかねない〕【原作によれば、マークは 「過去24時間、彼はレジーが飛行機に乗らないなんて一度も考えなかった」と書かれている。だから、レジーが一緒に来ないと分かると、マークは涙を流して心から嘆く。ある意味では、映画よりずっと感動的だ】

全員が飛行機に乗ると、レジーはロイ、トルーマン、フィンクに囲まれる。レジーは、「死体は、ローミー・クリフォードの家の裏にあるボート小屋の中よ」と教える(1枚目の写真)。ロイは、「よくやってくれた、ミズ・ラヴ」と言い、レジーは、「レジーよ。ありがとう、ロイ」と、ちっとも正しく呼んでくれないのでイライラする。ロイは、冗談代わりに、「君は一つ言い忘れたな。違法行為に対する免責も要求すべきだった」と言うと、レジーは、マークとの最初の会見の際、弁護士を罵った際の隠しテープを取り出し、「目には目を。『出エジプト記』21:24」と、“牧師” の真似をする(2枚目の写真、矢印)。ロイは 「言わせてもらうが、私がルイジアナ州知事になったら、仕事が欲しいかね?」と訊き、レジーは 「もうあるわ、ありがとう」と断る。ロイは、最後に 「ありがとう、レジー」と真顔で言うと、レジーは 「マークに言って」と返す。その直後、この大きな建物の片隅で、記者を集めてロイの会見が始まる。そして、「徹底的な調査を行った結果、ボイド・ボイエット上院議員の遺体を発見したことを発表できるに至りました」と述べる(3枚目の写真)【原作(第42章)では、最後の最後に、レジーがトルーマンに死体の場所を教える。トルーマンが 「ありがとう、レジー」と言うと、レジーは 「私に言わないで。マークに言って」と答え、それが原書の最後の文章となる】

1枚目の写真は、夕陽を浴びてフェニックスに向かうプライベートジェット。2枚目の写真は、それを見送るレジーと秘書。秘書が、レジーの肩を抱いて 「大した子でしたね」と言うと、レジーは 「彼を子供なんて呼ばないで。彼、怒るわよ」と言う。3枚目の写真は、映画のラスト。リッキーを見てほほ笑むマーク。【原作(第42章)では、2人の会話も違う。「大した子でしたね」。「辛いわ」。「分ります」】

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