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Wickie und die starken Männer 小さなバイキング ビッケ

ドイツ映画 (2009)

スウェーデンの児童文学作家ルーネル・ヨンソンによる大ヒット・シリーズの映画化。1963年に第1巻が刊行されてから、1994年に第7巻が刊行されるまで31年を要した(第5巻は1969年、第6巻は1975年なので、第7巻が異常に遅い)。1972年から74年にかけて、『小さなバイキングビッケ』と題して全78話のTVアニメが日本で製作され、日本だけでなくヨーロッパを中心に多くのファンを作った。実写版としては、ドイツで製作されたこの作品が最初で、ドイツでは空前の大ヒットを記録した。2年後の2011年には、続編となる『Wickie auf großer Fahrt(ビッケと神々の秘宝)』も製作されたが、3作目は、スベン役の俳優の突然の死と、ビッケ役の子役が大きくなり過ぎて雰囲気が変わってしまったため中止された。人気は衰えず、2015年には、『Wickie de Musical』というドイツでTV放映されたミュージカル(https://www.youtube.com/watch?v=5Q92X7weMww)が製作され、2020年には、『Vic the Viking and the Magic Sword(小さなバイキング ビッケ)』というアニメ映画も製作された。

映画は、1095年の夏、小さなバイキングの村に、各地を略奪して首領ハルバルが戻ってきたところから始まる。息子のビッケが、自分の跡継ぎとしては細くてか弱いことからビッケを軽視する父に対し、いつも一緒に暮らしている母は、その賢さを認めていて、それが父と子の “石の競争” という形で試されることに。重い石を遠方までたくさん運ぶ競技で、ビッケはすぐに筋肉での競争を諦め、知恵を使うことにし、誰も思いつかない方法で父に僅差で勝利する。しかし、この喜びも、村人が総出で略奪成功の祝いをしている時に、怪物の乗った幽霊船に襲われ、ビッケを除く村の子供全員が拉致される〔ビッケは凧を使って空を飛ぶことに夢中だった〕。後継者がいなければ村は衰退するしかないので、ハルバルは直ちに子供達を取り戻しに出航する。ビッケは、その船にこっそり入り込む。その先は、村人に “怪物” だと誤解させた “仮面” の出どころになった宋から来た曲芸団の廃船と遭遇し、その際、一時ハルバル一族の強敵 “いじわるスベン” に捕まるが、水上スキーで逃げ戻り、重要な情報を2つ父に伝える〔子供達を拉致したのはスベンの手下。目的はトーレの角笛を子供に吹かせて財宝を手に入れるため〕。廃船の中で1人生き残った宋の女性は、ハルバルの一族の誰も知らないトーレの角笛のある場所を知っていたが、相手が先行していて追いつけそうにない。そこで、ビッケが再び知恵を働かせ、ショートカットで島を横断する案を出す。その先は、あまりにも現実離れした出来事の連続だが、結果的には、拉致された子供達は全員取り戻し、凧を使って飛ぶ船で帰途に就く。なお、会話の訳出には、すべてドイツ語字幕を使用した。

ビッケ役のヨナス・ハンメルレ(Jonas Hämmerle)は、1998年1月4日生まれ。撮影は2008年夏なので 10歳。『Das Morphus-Geheimnis』(2008)という映画で主役を演じたのが子役としてのスタート。その後、『Vater aus Liebe』(2008)というTV映画で脇役を務めた翌年に、本作に主演する。さらに、TVドラマと映画2本の端役を経て、ビッケの続編で主役を演じる。その後は、恐らく学業のための空白期をはさみ、2015‐19年にかけてTVドラマに出たあとは、スコットランドのグラスゴー大学へ。ミュンヘン国際映画祭で最優秀子役賞を受賞。右の写真は、最初の映画 『Das Morphus-Geheimnis』に出演時のもの。髪の毛は、金髪ではなく茶髪。

あらすじ

深い森の中にビッケとチッチがいる。洞窟の前で、ビッケは怖そうな顔で 「あそこなの?」とチッチに訊く。「そうなの。オオカミがビルテ〔ワラ人形〕をひったくって洞窟の中に連れてったの」。「僕、あの中には入りたくないな」。「お願い、ビルテをあそこから助け出して」。この、チッチの人命を無視した無理な要請に嫌々応じたビッケは、如何にも気弱そうな少年のように、恐る恐る中に入って行くが、運よくワラ人形を見つけて掴むと、不用意に 「手に入れたよ!」を叫んだので、オオカミに気付かれてしまう。そして、洞窟からオオカミに追われて飛び出して来ると、ぬかるみで滑り、そのまま急勾配の斜路を滑落し(1枚目の写真)、低い崖から草地に着地すると、再び森の中を疾走。行く手に見えた高さ4mほどの一枚岩をよじ登ると、ワラ人形を抱きしめたままホッとする。オオカミがどうして他のルートから追って来なかったというと、弱虫だが、頭が抜群に切れるビッケが、木の棒の先端に靴を履かせて岩の端から出し、そこにいるように見せかけておいて(3枚目の写真)、安全な所まで逃げたため。
  
  
  

一方、入江の奥に造られた小さなバイキングの村に向かってバイキング船が向かう(1枚目の写真)。村の外れにある見張りの塔の上では、長さ1.5mはある大きな角笛が吹かれ、首領の帰港を知らせる。ここで、なぜか、スペイン王立派遣部門のラモン・マルティネス・コンガスによる解説が入る〔バイキングの調査にスペインから派遣されたという、この映画だけの あり得ない設定〕。「時はAD1095年。バイキング族は遥か北に住んでいる。彼らの勇気は賞賛され、襲撃は恐れられている。彼らは昼も夜も、日曜も祝日でさえ強奪し略奪する。航海から戻ると、フラーケ〔村の名〕の女と子供たちは、夫たちが持ち帰った豊かな戦利品に喜び合う〔因みにADはAnno Domini(主の年)で、6世紀の修道士ディオニシウス・エクシグースが始めたキリスト紀元のこと。現在の西暦は1582年にローマ教皇グレゴリオ13世により導入された太陽暦〕。船が桟橋に着くと、首領でビッケの父でもあるハルバルは、船の降り口に立ち、部下にそれぞれに見合った報奨を与える。そこに、「父さん!」叫びながらビッケが走ってきて父に抱き留められ、「とっても寂しかった」と久し振りの再開を喜ぶ(2枚目の写真)。次の場面では、ハルバルが、部下に比べれば圧倒的に大きな木箱を持って家に行き、「見てみろ! 俺たちの分の略奪品だ。純金と銀だぞ!」と自慢し、次にフォークを取り出し、「これが何なのかは分からんが、頭を掻かんでもよくなるかもしれん〔虱(シラミ)対策〕」と言うと、3番目に小さな布袋を取り出し、「袋一杯の塩だ」と自慢する。そのあと、ハルバルはビッケに対し、女の子と2人だけで森の中に行った時の心構えについて話し始める。「突然、オオカミが現われるかもしれん」。ビッケは、さっき遭ったばかりなので びっくりする(3枚目の写真)。
  
  
  

ハルバルは、「女の子なら逃げて当然だ。逃げても許される。だが、男の子は許されん」と言うと、自分が子供時代に如何に勇敢だったかを話し始める。しかし、口で言っていることと、過去の映像とは全く違っていて、ハルバルが望遠鏡で洗濯中の半裸の女性達を見ていると、急に現れたオオカミから逃れようと、最初の節のビッケと同じ急勾配の斜路を滑落し(1枚目の写真)、そのあと、オオカミを捕まえるために枯葉の中に置いておいた棒をドジって自ら踏んでしまい、そのまま網に捉えられて宙吊りになる(2枚目の写真、矢印は子供時代のハルバル)。自慢話が終わると、妻が塩の入った袋を開けてみて、「これ、砂じゃないの。あんた騙されたのよ」とバカにし、それを見たビッケは思わず笑ってしまう(3枚目の写真)。ハルバルは 「何を笑っとる」と叱るが、妻は 「ビッケならこんなことは起きなかった。あんたよりずっと賢いから。腕力がすべてじゃないの」と、夫をたしなめる。それに対しハルバルは、「もう十分だ! 頭脳と腕力のどちらが強いかは競争で分かる。男同士の真剣勝負だ!」と、ビッケに挑戦する。ビッケは 「殴り合いなんかは嫌だよ」と反対するが、父は 「いいや、もっとずっといい」と言う。
  
  
  

フラーケの長老ウローブが、「バイキングの昔からの伝統に則って、“石の競争〔Steinwettkampf〕” を始めるでな。決まりは単純じゃで。小川を越えて、目標の旗まで石を運ぶだけじゃ。石の山を最初に運び終えた方が勝者となる」と、応援に来た村人全員を含めて説明する(1枚目の写真)。そして、2人に 「他のバイキングに助けてもらうことはできんと分かっておろうな?」と訊く。ハルバルは 「俺は馬鹿じゃない」と言って観衆を笑わせ、一方、ビッケは 「もし僕が勝ったら、バイキング兜(かぶと)もらえる?」と訊く。それを聞いた父は 「聞こえたか? 兜が欲しいだとさ」と言って笑い、観衆も チッチ以外は笑う。笑いが収まると、父は、真面目な顔になり、「もしお前が勝てば、俺の髭にいる虱より多くの兜をくれてやる」と言い、ビッケは 「約束だよ」と応じ、2人は拳をぶつけ合って約束が成立する。そして、銅鑼(ドラ)が叩かれ、“石の競争” が始まる。ハルバルは、1回に2個の石を持って小走りに旗に向かうが、ビッケは、石1個を持ち上げるだけでやっと(2枚目の写真)。ハルバルが、計4個を運び終えた時、チッチが 「あなたならできる〔zeig's ihnen〕!」と叫び、一番の悪ガキのギルビーは 「花摘み競争なら、お前が一番だ!」と冷やかす。その2つを聞いたビッケは5mほど必死で運んだ石を落とすと、自分の真後ろに生えている白樺の木を振り返って見る。そして、指で鼻の両横と鼻の下を擦って考え(3枚目の写真)〔有名な、ビッケの思考法〕、「分かった〔Ich hab's〕!」と満面の笑顔になると、競争を投げ出して走り去る。それを見た 一番巨人で一番心優しいファクセが、「彼、何してるんだ?」と不思議がると、ギルビーは 「おしっこ漏らしたんさ」と言って笑いを誘い、チッチに足を蹴られる。
  
  
  

ビッケは、すべてが木で出来た4輪の台車を自分の家の戸口の前に持ってくると、次から次に必要な物を投げ入れ、最後に、曲がった枝と板でできた簡単な橇(ソリ)を一番上に置く。そして、台車を牛に牽かせて競争の場に向かう(1枚目の写真)。父の旗の周りには、既に20個以上の石が積んである。ビッケは白樺の木の後ろに鉄の横棒の付いた木の棒を地面に込み、その鉄棒の下に、白樺の木のY字型になった枝の部分に縛り付けたロープを通す。ロープを牛に牽かせ、白樺が地面近くまで曲がると、ロープの先端をもう1つの金具に引っかける。そうしておいて、橇をY字型の枝の上に置くと、そこに試しに石を1個置き、金具の片方を木槌で叩いて白樺を元に戻すと、その反動で石は飛んで行き、ビッケの旗の所に落下する〔童話の映画化だからいいが、①1発目で正確な距離を飛ばすのは不可能、②そもそも、白樺の木が90度近く曲がって折れないのか? ③2種類の特殊な金具は、もともと何のためのものなのか? などの疑問が沸く〕。それが成功すると、劣勢を挽回するため、1回に3個の石を飛ばす(2・3枚目の連続写真、矢印は飛ぶ方向)。
  
  
  

最後の1個。父は必死になってジャンプするが、ビッケが放った石の方が、一瞬早く目的地に落下する(1枚目の写真、矢印は方向)。勝利したビッケは、木槌を持ったまま勝利の雄叫(おたけ)びを上げる(2枚目の写真)。ビッケが競技に戻って来てからは、全員がビッケの応援者だった観衆は、観客席から降りてビッケの周りに集まり、ファクセがビッケを肩に抱き上げて勝利を称える。そこに、戻って来た父が、大人気なく、自分の勝利を主張する。理由は、ビッケのルール違反。それに対し、ビッケは、「雄牛はバイキングじゃない!」と反論する。それでも、父は、雄牛には角があるからバイキングだとバカげた主張を続けるが、そこに、見かねた妻が割り込み、「あんたが牛なのよ。だから、ビッケに兜をあげて。約束したじゃないの」と、兜を持って抗議する(3枚目の写真、矢印は兜)。ハルバルは、仕方なく兜を取ると、それをビッケの胸に押し付け、お祝いも何も言わず立ち去る。それを見送るビッケは、正当に勝利を認めてもらえなくて悲しくなる。
  
  
  

“石の競争” が終わったあと、ビッケとチッチが話し合っている。「僕は、恐らく絶対本物のバイキングにはならない」。「必ずなるわよ」。「どうかな。父さんは、バイキングは強くて勇敢じゃなくてはならん、といつも言ってる。僕には、バイキングがどうしてあんな風に大声で叫ぶのか分からない。他の国の人たちから奪う前に、まず、そうしていいか尋ねないと」。「他の国の言葉なんか知らないでしょ」。「僕を分かってくれてるのは、ブリとバリ〔ともに、ビッケが餌の魚を投げてやっているアザラシ〕だけだ」。「私もあなたのこと分かってるわ。あなたは夢を信じないと。そうすれば夢は必ず叶うわ。私にも夢があるのよ」。「ほんと? それ何?」(1枚目の写真)。「あのカモメのように、空を飛びたいの」。ビッケは名案がひらめたいので、アザラシの餌の魚の入った木の杯をチッチに渡すと、もうすぐ略奪成功の祝賀会が始まるのを無視してどこかに行ってしまう。夕方になり、辺りが薄暗くなると、集会所では盛大な祝賀会が始まり、少なくとも、大人の男性はミード〔蜂蜜、水、スパイスから作られた甘い発酵飲料〕と強いビールで酔っ払っている(2枚目の写真)。宴会の夜が終わって、朝になると、ビッケはチッチの寝ている屋根裏の板窓に石を投げてチッチを起こす。そして、一晩考えて作った、動物の皮を張り付けた大型の凧を頭上に掲げると、体に巻き付けたロープの片方をチッチに持たせ、絶対に放すなと命じて、風の吹き始めるのを待つ。そして、強い風が吹き始めると、斜面を駆け下りて行き、空に舞い上がる(3枚目の写真)。
  
  
  

ビッケが好きなだけで頭の良くないチッチは、放してはいけないロープのことを忘れて手を叩き、「放さないで!」と注意される。木々の上まで上がったビッケはあちこち見回しているうちに、怪しい船が入江に入って来たのを見つける。「どうしたの、ビッケ?」。「船が向かってくる! 平和そうじゃない!」(1枚目の写真)。「冗談でしょ?」。「ううん。僕たちすぐ見張りの塔に行き、みんなを目覚めさせないと!」。それを聞いた愚かなチッチは、ビッケが「僕たち」と言ったのに、ロープを放して1人で見張りの塔に向かう。お陰で、ビッケは風に流されて木に引っ掛かってしまい、降りられなくなるし、チッチが登った見張りの塔の上では、見張りが酔っ払って眠っているし、チッチの小さな体では、大きな角笛を吹いても音は全く出ない(2枚目の写真)。だから、折角ビッケが事前に危機を発見したのに、チッチのせいで怪しい船から火矢が一斉に放たれ、それが村の藁葺き屋根に火を点け、燃え上がる(3枚目の写真)。
  
  
  

戦いは一日中続いたが、相手の先制攻撃から始まった不利な戦いだったため、敵に、子供たち全員を収奪されてしまう。ビッケは、木に絡まって出られないので、それを見ているしかなかった(1枚目の写真)。襲ってきた敵は、今まで見たこともない奇怪な顔をしていたため、誰もが悪魔に襲われたと思い込む。その日の夜の集会所で、ウローブは 村人に、「黒い帆の幽霊船の恐ろしい伝説があるんじゃ。世界の奈落にある大滝から上がってきて、海を彷徨い、火の巨人に捧げる純粋な子供たちの魂を探し続けておるという。ほんの時たま、逃げ出した子が、魂のない幽霊として空を飛んで戻ってくることがあるそうじゃ」と話す。すると、急に両開きの扉が開き、滝のように雨が降る暗闇の中に立っている子供〔顔は見えない〕が 「飛べた!」と叫ぶ。ファクセは 「幽霊の子だ!」と驚き、村人全員は恐怖に慄く。しかし、ビッケの母は、声から息子だと気付き、「ありがとうオーディン〔バイキングの最高神〕」と言ってビッケに駆け寄ると、抱き上げて室内に入れる。ビッケは 「ほんとに飛んだんだよ、母さん。船が近づいてくるのが見えたんだ。警告したかったんだけど…」と言いかけるが、父は、「息子よ、お前が戻ってきてくれてほんとに嬉しい。だが、バイキングは常に真実を語らねばならん」(2枚目の写真)「だから、臆病者のように木に隠れたのなら、白状するんだ」と言う。ビッケが反論する前に、「子供たちを取り返したい」との言葉が方々から上がる。ビッケは、「チッチは?」と母に訊き、「チッチも連れ去れたわ」と言われ、ビッケはびっくりする(3枚目の写真)。「あなたに、何も起きなくてよかったわ」。ハルバルは、前に進み出ると、「このまま放っておくわけにはいかん。フラーケの男ども、あの卑劣な悪魔どもを徹底的に叩きのめしてやるぞ! 明日の朝、出航だ」と宣言する。
  
  
  

翌朝、桟橋にハルバルを見送りに来たのは、妻だけ。父は 「あいつは、俺にさよならも言いたくなかったのか?」と言い、妻は 「あなた、あの子を怒らせたから。繊細な子なの。分かってあげて」と弁護する。「もう少し度胸があればいいんだが」。そして、復讐のバイキング船は、女性達に見送られて出航していく。入り江から海に出ると、オールで漕ぐのは止め、帆が張られる。母が、家に戻って、ビッケのベッドのカバーを取ると、呆れた顔になる。カメラは、その時のベッドの中を映さず、代わりに、船の中に置いてあった樽の蓋を取ったファクセに、中に隠れていたビッケが 「しーっ」と言う場面を映す(1枚目の写真)。「ここで何してるんだい?」。その時、樽を開けているファクセを見て、ハルバルが 「おやつの樽には近づくなと言ったぞ」と言って、蓋をバタンと閉める。樽の縁に指を掛けていたビッケは 「痛い!」と叫び、蓋を開けた父は、「餓鬼がこっそり乗り込んどる。お前が手助けしたんだな!」とファクセを責める。ビッケが 「チッチを助けたいんだ」と言うと、父は 「船は子供の遊び場じゃない」と叱る。マストの見張り台の男が、「船が見えます!」と叫ぶ。それを聞いたハルバルと乗組員が船尾に行くと、2隻のバイキング船がこちらに向かって来るのが見える。望遠鏡で見たハルバルが、「“いじわるスベン” だ」と警告する。戦えば負けるし、降伏すれば恥を曝(さら)すので、逃げるが勝ちで、全力で漕ぐよう命じる(2枚目の写真)。見張り台の男が、前方に霧があると告げ、ビッケが、「霧の中に隠れようよ」と提案すると、父は、「霧は危険すぎる」と反対するが、「“いじわるスベン” より危険なの?」と訊くと、霧の中に隠れることに同意する(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

しばらく霧の中を進むと、目の前に、前日村を襲った “幽霊船” が漂流している。ハルバルは、「今すぐ、盗まれた子供たちを取り戻す。あの船に乗り込むぞ」と命令を下す。ビッケは、「僕も行きたい」と言い出す。「だめだ。膝が震えてるだろ」。「そうだけど、チッチも船にいるかもしれない。お願い父さん、一緒に行かせて」(1枚目の写真)。「よし。だが母さんには内緒だぞ。殺されちまう」。一行は、バイキング船とは違った異様な作りの船に、近づくと、7人がロープにぶら下がって飛び移る。その時、ビッケは運悪く絡まったロープの中に落ちてしまう。他のバイキング6人は、ハルバルを含めて船内の捜索に当たろうとする。しかし、ビッケがロープから出ようとして暴れると、ロープの先にあった巨大な木の竜が現われ、さらに悪いことに、驚いた父が持っていた火の点いた棒を放り出した先に花火の箱があったため、火花が飛び散る。6人は逃げ惑い、バイキング船に残った大勢も恐怖に襲われる。ビッケがロープから出られなくなっていることに気付いたファクセは怪力でビッケを振り回すうち、ビッケはロープから離れて吹っ飛び、置いてあった木箱にすっぽり入り(2枚目の写真)、その衝撃で蓋が閉まってしまう。ハルバルが、花火から逃げようとして開いた扉から なぜか海水が溢れ出し、船は急速に沈み始める。ハルバルはマストにしがみついて 「ビッケ!」と叫びながら、海中に引きずり込まれそうになる(3枚目の写真)。“幽霊船” に捜索に行った7人は、結局、ビッケ以外はバイキング船に戻ることができたが、ビッケを失ったハルバルは悲しみにくれる。
  
  
  

一方、ビッケの箱は、“いじわるスベン” の船に拾われ、一番の手下ボッカによってスベンの前まで連れて行かれる。ボッカが、「こいつを海から吊り上げました」と報告すると(1枚目の写真)、ビッケはボッカに 「僕を父さんに帰せ」と暴れる。それを聞いたスベンは、「お前の親爺は誰だ?」と訊く。「ハルバル。フラーケのハルバル。世界最強のバイキングだ!」。スベンは、「ハルバルの餓鬼がなんでここにいる?! 餓鬼どもは全員かっさらって来いと言ったはずだ!」と、ボッカを叱りつけ、ビッケを閉じ込めておくよう命じる。ビッケは船倉に投げ込まれる(2枚目の写真)。しかし、そこで、壁に掛けられた乾燥させたノコギリエイを見つけ、これっきゃないと考える(3枚目の写真、矢印)。しばらくして、ボッカがビッケにジャガイモの皮むきをさせようと船倉に入って来ると、船腹に大きな穴が開いていた。
  
  
  

その頃、ビッケは、イルカ2頭に引っ張ってもらい、高速の水上スキーでハルバルのバイキング船を目指していた(1枚目の写真)〔ビッケの行く先に、船影は見えない。360度、どの方向にでも行けるのに、ビッケはどうやって正しい方向が分かったのだろう??〕。一方、ハルバルのバイキング船では、“幽霊船” が沈んだ時に拾い上げた木箱から異国の若い女性が出てくる。彼女は、船は “幽霊船” ではなく、宋の曲芸団の船だったが、海賊に襲われ、海賊は仮面を盗み姿を消したと話す。彼女が、箱に入っていた仮面を見せると、それは、正に、昨日村を襲った悪魔と同じ物だった〔因みに、AD1095年の中国は、宋王朝の時代。https://academic-accelerator.com/ によれば、「宋時代(960~1279年)の経済は、当時世界で最も豊かな経済でした。商人は遠く離れた東アフリカの港に貿易を運ぶために貿易船に投資しました」「宋海軍は甲板に 1,000 人を乗せることができる大型の船を持っていました」と書かれている。宋は、その時代では、世界で最も高度な船舶を有し、南西太平洋、ヒンズー教世界、イスラム世界、東アフリカとの海上貿易を行っていたが、バイキングのいた北欧に宋の船が現れることはあり得ない〕。その時、ビッケが吹いた角笛が聞こえ、「父さん!」と叫ぶ声も聞こえてくる。その姿を望遠鏡で確認した父は、「お前たち、息子が帰って来たぞ! 水の上を走っておるわ」と歓声を上げる。そして、船まで辿り着いたビッケを高く持ち上げ、「ビッケ、俺のちび助、よく戻って来てくれた!」と喜びを直接伝える(2枚目の写真)。ビッケは、「誰が、子供たちをさらったか分かったよ。“いじわるスベン” だったんだ。今は、トーレの角笛に向かってる」と重要な情報を教える。さっそくウローブがやって来て、トーレの角笛について説明を始める。要約すると、トーレ王には13人の子供がいたが全員が嘘つきだった。正直な子供に財産を継がせようと決心した王は、トロール〔妖精〕に魔法の角笛を作らせた。一度も嘘をついたことのない子供だけが、角笛から音が出せるというもの。だから、スベンは、ハルバルの村の子供達をさらって角笛を吹かせ宝物を奪おうとした。全員がその話をじっと聞いている(3枚目の写真)。
  
  
  

問題は、ハルバルの村の誰もトーレの角笛の場所を知らないこと。その時、“幽霊船” で一人生き残った宋の女性は、なぜか、その場所を知っていた。その頃、そこから95海里(176km)〔海里という単位の考案者は、エドマンド・ガンター(1581-1626)で、映画の設定の500年後〕離れた場所で、ハルバルの村から子供達をさらってきた3隻目のバイキング船が、スベンの2隻に合流する。そして、トーレの角笛のあるパンプ島に向かう。その日の夜、宋の女性は、なめし革に自分で描いた島と塔の地図を示しながら、「島の東側を回ります。風が良ければ4日ぐらいで到着します」と話す。ビッケが、「角笛はどこにあるの?」と訊くと、「塔のてっぺんに吊るしてあります」と答える。それを聞いたビッケは、「スベンは子供たちを塔に連れていくから、そこを攻撃すればいいんだ」と言うが、仲間の1人が、「ビッケ、スベンは少なくとも1日先に行ってるから、何とかして先に着かないと」と言い、ハルバルは 「より早く漕ぐしかないな」と言う〔バイキング船の好条件下での最大速度は15ノット(時速15海里)なので、もし、スベンが10ノットで航行していれば、95海里の差は19時間で取り戻せるが、なかなか難しい〕。ここで、ビッケは指で、鼻の両横と鼻の下を擦って考え、名案を思い付く。「スベンが湾に着くまで、少なくとも4日かかるよね。それまでに、僕らの船を塔まで運べばいいんだ。どうやればいいかは分かってる」(1・2枚目の写真)。そして、「スベンは島を迂回して南の湾まで行くのに4日かかったが、バイキングたちは近道をした」の言葉と同時に、地図上にスベンの迂回ルートと、ビッケの提案した陸上ルートが示される(3枚目の写真)。
  
  
  

バイキングの陸上ルートは、歩いて行くのではなく、船首から伸びたロープを持ったファクセが、ウローブが持っている料理を食べようと前に進もうとし、船尾では、ハルバル、ビッケ、宋の女性とラモン・マルティネス・コンガス以外のバイキングが押している(1枚目の写真)〔童話だから可能な、実際にはあり得ない設定〕。そして、遂に、トーレの角笛のある石塔が見えてくる(2枚目の写真、矢印)。船が、予め決められた位置まで来ると、ちょうど、スベンの3隻が崖で囲まれた湾に入って来たところだった(3枚目の写真)。
  
  
  

スベンの船からは、拉致された子供たちが兵士に囲まれて塔に向かって登って行く(1枚目の写真、先頭を歩くのはスベン)。ハルバルは、ビッケの当初計画を無視して、先制攻撃をかけようと船から降りて敵の兵士に向かって行く。船に残ったのは、ビッケとウローブと宋の女性の3人。まず、ビッケが、強力な弓を持って一人で船から降り(2枚目の写真)、塔に向かって走って行く〔その頃には、塔の最上部まで、スベンとボッカに率いられた子供達が上がって行き、銅でできた角笛を1人ずつ吹くよう命じられている〕。ビッケは、敵味方が争っている間をくぐり抜けて塔への階段を駆け上がる(3枚目の写真)。それに気付いた父が、敵兵に続いて後を追い、敵兵2人をやっつけ、ビッケと一緒に塔の最上部に向かう。
  
  
  

2人が角笛のある所まで来て、スベンとボッカがびっくりすると、その瞬間、チッチが吹いた角笛が凄まじい音で鳴り出す(1枚目の写真、チッチの後ろで耳を押えているのはスベン)。チッチが吹くのを止めると、ハルバルとスベンの命をかけた戦いが始まる。2人は、勢い余って下の階に落ちて、戦いを再開する。一方、ハルバルを助けに塔に入って行った2人のバイキングが、角笛が鳴ったことにより1階の床が持ち上がり、宝物が出てくるのを待ち構えるが、出て来たのは、金貨が1枚だけ。ボッカは子供達に鎖でぐるぐる巻きにされ、自由に行動できるようになったビッケは、塔の窓からバイキング船目がけてロープ付きの弓を射る(2・3枚目の写真)。船では、宋の女性がロープを木の床から引き抜き、船べりに結び付ける。そして、ウローブが大きな布をロープに縛りつけ、それを2人で持って、ロープにぶら下がって滑り降りてくる子供たちを安全に受け止める準備をする。
  
  
  

塔の上では、子供達の両手を結ぶ鎖を、ビッケが1人ずつ剣で切断する。そして、まだ腕に残った鎖を “塔に縛り付けたロープ→船べりに結び付けたロープ” の上を通して、もう一方の腕で持ってぶら下がると、順番に、バイキング船めがけて滑り降りて行く(1枚目の写真)。降りて来た子供は、ウローブと宋の女性が拡げて持っている布で衝撃が吸収され、そのまま放りだされて安全かつ迅速に船上に帰着できる(2枚目の写真、矢印)。その頃には、敵と争っていたバイキング達も船に戻って来る〔なぜ敵はすぐに追って来ない?〕。塔の最上階では、チッチが、一緒に降りようとしたビッケに愛を告白しようとして手間取り、その間にボッカが鎖から脱して話が不必要にややこしくなるが、運良く、スベンが自分の失策で気絶したことで、父が助けに来てくれる。そこで、チッチはビッケに抱き着いたまま、一緒にロープを滑り降りる(3枚目の写真)。ビッケは、塔の窓にいる父に向かって、「僕たち行かなくちゃ!」と叫ぶ。父は、窓から身を乗り出してロープを掴む。その時、船の下に残っていたファクセが、「ビッケ、何て言った?」と訊くと、船上の男が、「『僕たち行かなくちゃ』と言ってたぞ」と教える。それを自分に言われたと早合点したファクセは、坂道で船が動き出すのを止めていた “つっかえ棒” を蹴飛ばして取り去る。すると、船はゆっくりと前進を始める。それに気付いたビッケが、「駄目だよファクセ、早過ぎだ!」と言うが、動き出した大きな船は誰にも止められない。ビッケはマストを立てるよう命じ、一方、ロープを滑り降りてきた父は、船腹にぶつかって地面に投げ出される。
  
  
  

ハルバルは、すぐに起き上がって船を追いかけ始めるが、船のスピードの方が早く、しかも、後ろから敵軍に追いかけられ、窮地に陥る(1枚目の写真、矢印はハルバル、後ろから敵軍)。船の行く手に断崖が近づいて来ると、ビッケは用意しておいた “動物の皮を張り付けた大型の凧” を仲間のバイキングに命じてすべて空に向け投げ上げさせる。船が崖の先端まで来た時、ビッケは、「これ、つかんで!」と叫んで、父目がけてロープを投げる。父は崖の先端からロープに向かってジャンプする。幸い、ロープの先端を掴むことができたので、船は父をぶら下げたまま空を飛んでいく(2枚目の写真、矢印はハルバル)〔こんなに小さく少ない凧では、船が浮くハズはないが、これも童話なので〕。ハルバルは部下によって引き上げられると、ビッケに 「やったな、息子よ! 誇りに思うぞ!」と称える(3枚目の写真)。
  
  
  

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