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Zavet ウェディング・ベルを鳴らせ!

セルビア映画 (2007)

この映画は、これ以上ないほどハチャメチャな〔論理を無視して、映画に都合よくいろいろなことが起きる〕コメディだが、この映画を監督したエミール・クストリッツァ(Емир Кустурица)はカンヌ国際映画祭でパルムドールの受賞とノミネートをくり返している名監督。『Otac na sluzbenom putu(パパは、出張中!)』(1985)で受賞、『Dom za vesanje(ジプシーのとき)』(1989)はノミネートで終わるが監督賞を受賞、『Underground(アンダーグラウンド)』(1995)で受賞、『Life Is a Miracle(ライフ・イズ・ミラクル)』(2004)はノミネート。そして、この映画もちゃんとパルムドールにノミネートされている。だから、愚作だとバカにしてはいけない。名監督が作った、考えらないほどユニークな、そしてある程度平和を取り戻しつつあった2006年当時のセルビアへの愛情と皮肉を込めた作品として評価されるべき。どうか 矛盾だらけのハリウッドの三流コメディ映画と比較しないでもらいたい。方や穴だらけのミスった脚本、こちらはワザと偶然を積み上げることで楽しさを盛り上げた脚本。クストリッツァ監督はほとんどの作品で監督と脚本の両方を手掛けているが、この映画でも本人が脚本を書いている。だから、ちょっと異端的な内容も、彼のユーモアなのだ。バカ丸出しに見えるマフィアのボスを演じているミキ・マノイロヴィッチ(Мики Манојловић)にしても、パルムドールを受賞した『パパは、出張中!』と『アンダーグラウンド』で主役を演じている。

映画は、大きく5つのパートに分けることができる。①セルビアの寒村に住む14歳くらいのツァーネと、祖父ジヴォインの生活ぶりの紹介と、自分が死んでしまったらツァーネが一人になってしまうことを心配した祖父が、孫をお嫁さん探しに街に行かせるまで。②街に行ったツァーネが年上のヤスナに一目惚れし、ジヴォインの死んだ兄か義兄の孫トプズとルーニョと会い弟分になるまで。③ヤスナの母は街のマフィアのボス、バヨの売春宿で働かされていて、その男は、母に飽きてヤスナを働かせようとするまで。④ツァーネは兄貴分2人と一緒にヤスナを助け、ヤスナの母の姉の家に逃げ、そこでマフィアと一戦を交え勝利するまで。そして、最後に、⑤ツァーネとヤスナは、兄貴分に連れられて故郷の村に戻り、結婚する。きわめて単純な流れだが、これに、(a)ツァーネの学校の先生だったボサに、学校を閉校に来て一目惚れした役人マクシノヴィッチの、くり返される失敗談、(b)ジヴォインの能力を受け継いだツァーネの機械工作能力、(c)ツァーネの機械的催眠法、(d)トプズとルーニョの強大な戦闘力、(e)ツァーネとヤスナの人工呼吸式キス、(f)バヨの変態的な性癖、(g)飛び続ける人間大砲などの “あり得ない要素” が粉飾され、ハチャメチャと言っていい映画が誕生した。映画の中では、“絶対に起こらないこと” が多発するが、そのほとんどは名監督が作り上げた幻想の世界だと思えば楽しく鑑賞することができる。ただ、⑤でバヨと人間大砲が現われる部分だけは、失敗だと断言できる。この映画が、カンヌのパルムドールを取れなかったのも、他の映画祭でも一つも賞を取れなかったのも、このラストが大失敗だったからではないだろうか? あらすじの作成にあたっては、英語字幕が全く役に立たなかったので、9割を、セルビア語に一番近いロシア語字幕、1割をドイツ語字幕に頼った。

この映画の主役を演じているウロシュ・ミロヴァノヴィッチ(Урош Милованович/Uroš Milovanović)についてはほとんど何も分かっていない。公開されていることは、1992年にベオググラードで生まれ、7人の監督によるオムニバス映画『All the Invisible Children(それでも生きる子供たちへ)』(2005)の中で、この映画のクストリッツァ監督が担当した『Blue Gypsy(ブルー・ジプシー)』で主役を演じ、その名演ぶりが認められて、本作の主役にも抜擢されたこと。映画の最初の公開は2007年5月のカンヌなので、2006年の撮影とすれば、撮影時14歳。ヤスナ役の19歳の女性に求婚するのは違和感を感じるが、それも監督のユーモアなのだろう。

あらすじ

雪の山道を旧東ドイツ製のボロ車トラバント601(1963年から1980年代まで製造)が、タイヤチェーンを付けて走っている。遥か遠くを走っていたその車を、窓越しに偶然見つけた老齢のジヴォインは、さっそく、かまどの下に置かれた “双眼鏡の画像を見る2つのレンズ” の横に付いた木のハンドルを回し、屋根の一角に設けた “監視装置の金属の蓋” を開け、そこから “小型なのに あり得ない解像度を持った双眼鏡” を上昇させ、車のフロントに照準を合わせる。この映画では、現実には不可能なことばかり起きるので、「こんなことはあり得ない」という、コメントは行わない。車には3人が乗っていて、中で偉いのは運転しているマクシノヴィッチという教育スポーツ省の役人、助手席には彼好みの女性職員が座り、役人は 「君は可愛いな」と言いながら彼女の口にスナックを入れている(1枚目の写真、矢印は官吏)、後部座席は書記。マクシノヴィッチが探しているのは、ジヴォインが暮らしている辺ぴな山村の学校。ジヴォインは、さっそく “ある装置” を起動させる(2枚目の写真)。車は、家がまばらな立つ村に入って来ると、道に設けられた板が開いて穴に突っ込む(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、話しは前後するが、ジヴォインは道路の罠をセットすると、まだ惰眠を貪っている孫のツァーネの頬に触って、「よお眠っとるわい」と言うと(1枚目の写真)、ベッドの上の砂時計を反転させ〔タイマーをセット〕、罠が巧く働くか見に家から出て行く。砂が全部落ちると、ベッドの脇に置いた時計が2つとも鳴り出す。ツァーネが時計を止めようとベッドから手を伸ばして時計を引っ張ると(2枚目の写真、矢印はチェーン)、時計に結び付けられていたチェーンが外れ、ベッドの下に置かれた強力なバネによって、ツァーネが横になっていたベッドが90度垂直に跳ね上がり(3枚目の写真)、ツァーネは床に投げ出される。その音を聞いて、ジヴォインはニヤニヤし、ツァーネは 「じっちゃん、何でさ?」とブツブツ。そのあと、ツァーネは自分で朝食を食べるが、ミルク〔乳牛を飼っている〕を飲みながら、天井の棒からぶら下がっている円形に丸めたソーセージを見上げると、飼っている猫を呼び寄せ、左足首に乗せると、天井目がけて猫を跳ね上げ、ソーセージをつかんだ猫が落下したので、ソーセージも朝食に加える。
  
  
  

結局、外来者3人は、目的地の学校に行き、ツァーネがドアを開けて入って行った時には、ジヴォインはストーブに石炭を入れて寒い室内を暖めていたが、3人は室内の端のテーブルに陣取ると、マクシノヴィッチがギターを弾き、女性職員が騒々しく歌っている。そこに、女性教師のボサが入って来る。教師は、待っていたツァーネに向かって、「スタニミール〔姓〕、今日は、ロシア語の名詞の格について勉強しましょう」と言う〔主格、属格(生格)、与格、対格、具格(造格)、前置詞格(前置格)の6格がある〕。ボサは黒板に「Шапка〔帽子〕」と書く。しかし、ツァーネは全然できない(1枚目の写真)。ボサは、教室の端で騒いでいる2人のせいだと思い、「あんたたち誰よ? 何してる? ここは学校なのよ」と、女性職員と書記に文句を言う。女性職員は、「もう違うのよ。一緒に飲みましょ」と誘い、怒ったボサは書記を床に投げ飛ばし、女性職員の髪に 3人が食べていた鳥肉の塊を載せる。マクシノヴィッチは、ビール瓶の蓋をこじ開けようとして、学校のドアを壊し、今度はボサの胸のペンダントの十字架で蓋をこじ開けようとして、ジヴォインに瓶ごと取り上げられる。自らの非常識な行動にも関わらず、怒ったマクシノヴィッチは、書記に向かってタイプしろと命じ、共産主義の下っ端役人の威張り腐った口調で、「この学校には一人しか生徒がいないため、もはや法的要件を満たしていないと判断する」(2枚目の写真)「従って、セルビア共和国教育スポーツ省はこの学校の閉鎖を正式に決定した。教師は追って通知があるまで待機。唯一残った生徒は、近隣の学校に転校。署名。教育スポーツ省検査官」。それを聞いたツァーネは泣き出す。祖父のジヴォインが 「なぜ泣く? 学校がなくなるからか?」と訊くと、「ううん、そうじゃない。先生に同情してるんだ」と答える(3枚目の写真)。ろくでなしの役人は、「国家の石炭の無駄遣い」だと言い、「バカな農民に教えてやる」とジヴォインを侮辱すると、ストーブの中の石炭にバケツの水をかける。
  
  
  

シーンは冬から夏に変わり、ジヴォインは2004年8月に行われたアテネオリンピックの女子走幅跳で、ロシアが金銀銅を独占して表彰台に立っている姿を旧式の白黒TVで見て感動している。一方、ツァーネは、屋根の上の双眼鏡を使って(1枚目の写真)、ボサ元先生が、小さな屋外プールで水と戯れている姿を拡大して見ている(2枚目の写真)。ロシア国歌が流れ始めると、ユーゴスラビア連邦人民共和国時代にはチトーとスターリンの確執からソ連の衛星国にはならなかったのに、ジヴォインはなぜかTVの前に直立不動で立って涙を流す。その間も、ツァーネは双眼鏡を操作して、ボサの乳房を拡大して見ている〔手元のレンズは、直径僅か2センチほどの大きさ/2枚目の写真のように大きく見えるわけではない〕。祖父は表彰式が終わると、ベッドに横になってしまったので、ツァーネは 「じっちゃん、何? なんで泣いてるの?」と訊くが、祖父は 「泣いてなんかおらん。眠らせてくれ」と言って反対側を見る。この先のシーンは、次の節で紹介するとし、関連する場面を先に紹介しておこう。ツァーネは、仕返しが済むと、1頭しかいない牛を連れて、ボサ元先生の裸を間近で見ようと、小さなプールのそばまで行って、草陰から盗み見る(4枚目の写真)。
  
  
  
  

祖父は、ベッドの中で 「頭の中で何かが壊れちまった。涙が止まらん」と言う。それを聞きながら(1枚目の写真)、ツァーネは、ベッドの右脇に置いてある時計をセットすると、チェーンとつなぐ。「頭の中の何がどうなったの?」。「わしには、もう泣くことしかできん。頭ン中が、脈打っとる」。ツァーネはベッドの下を潜って、反対側に顔を出すと、祖父は、「じゃちゃんは、死んじまう」と言い出す。「今すぐ?」。「今じゃない。だが、じきじゃ」。ツァーネはベッドの下に戻ると、バネの部分をセットする(2枚目の写真)。祖父は、「何しとるんじゃ、早く眠らせてくれ」と催促する。ツァーネはベッドの下から出ると、黒い円盤に白い渦巻を描いた装置を祖父の目の前に置くと、足でペダルを踏んで回転させ、その催眠効果で祖父は眠ってしまう。祖父が眠ると、ツァーネはそっと家から出て窓から覗くと、目覚ましが鳴り始める。祖父の腕が伸びて時計を引っ張って止めたので、ツァーネは窓から覗くのをやめる。すぐに装置が働き、ベッドが垂直になり、祖父の頭が窓ガラスを突き破って出てくる(3枚目の写真)〔冬にやられた仕返し〕。ツァーネは、このあと、牛を連れてボサ元先生の裸を見に行く。
  
  
  

祖父は、村の教会の屋根の一部に穴が開いたので、それを修理に出かける。すると、冬にやって来た時のボロ車を、鉄枠で補強した車がやって来るのが見える(1枚目の写真、矢印)。車を1人で運転してきたマクシノヴィッチは、冬に落ちた穴の手前で車を停めると、落ちた所が板張りになっているのを確かめる(2枚目の写真)。そのまま真っ直ぐいくとまた落ちるので、車はその横を抜けて元の道に戻り、運転席から屋根の上にいる祖父に、中指を立てて “ざまみろ” の意思表示。祖父に気を取られて道から外れて直進すると、もっと大きな穴に車ごと落ちてしまう(3枚目の写真)。一方、祖父の方は、教会が老朽化していたため、修復のために登っていた屋根ごと床に転落し、屋根に大きな開口部ができる。ツァーネは大きな音と、穴に気付き、教会に駆け付ける。そしてドアを勢い良く開けると、それが、何とか入口まで這ってきた祖父の頭を直撃する。びっくりしたツァーネが、「じっちゃん、生きてる?」と声をかけ、キスすると目を開けたので、「生きてたね」と笑顔になる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ジヴォインが家に戻ると、窓が開いて、村の老人が雄牛と一緒に姿を見せる。そして、牛の去勢を依頼する。さっそくツァーネが黒い円盤に白い渦巻を描いた装置を牛を入れた納屋の前に置き、廻し始める(1枚目の写真)。牛を連れて来た老人は、「お前さんの麻酔は本当に強力じゃのう」と言いつつ 目を閉じかける。牛は気を失って倒れる。ツァーネは目的を聞いていなかったので、「蹄鉄付けるの?」と訊く。「いいや、罪を清めてやるんじゃ。牝牛のことを忘れるようにな」(2枚目の写真、矢印は巨大な “やっとこ”)。祖父は、睡眠中の雄牛の睾丸をツァーネに持たせると、やっとこで一気に切断する。牛は、凄まじい悲鳴を上げる(3枚目の写真)〔後の方で出てくる重要な場面の前段階として挿入されたシーン〕
  
  
  

恐らくその夜、ジヴォインは、「ツァーネのことが心配じゃ。わしが死んだら、誰が世話をする?」と悩む。そして、あくる日、ツァーネを “先日、ボサが使っていた小さなプール” に連れて行くと、溢れんばかりのリンゴでプールを埋め尽くす。そして、「お前は、わしに3つのことをすると約束するんじゃ」(1枚目の写真)「まずツヴェトカ〔牛の名〕を街に連れて行って売り、聖ニコラオのイコン〔テンペラ技法を用いた板絵の聖画像〕を買うこと」と言う。ここで、祖父はツァーネの顔にシャワーをかけ、ツァーネはプールの水を吹きかける。「それに、自分へのお土産も買うんだ。好きなものなら何でもいい。いいな?」。「何を買うの?」。「何だっていい。街には気を引くものが溢れてて、お前にはお金がある。自分で決めるんだな」。「イコンとお土産だね。3つ目は何なの?」(3枚目の写真、矢印はツァーネ)〔全景が映るのはここだけ〕。「街で、きれいで優しいお嫁さんを見つけるんだ」。「買うの?」。「売ってればな。だが、それじゃ、幸せにはなれんな」。「じっちゃん、どうして奥さんなんか要るの?」。「お前に要るんじゃ。わしが死んだら、この辺りで生きてるのは、お前とボサだけになっちまう。お前には、奥さん、家族、子供たちが必要なんじゃ」。「でも、僕まだ若過ぎるよ、じっちゃん」。「若過ぎるだと、こっちへ来い」。ツァーネが祖父の所まで行くと、祖父はツァーネの両耳をつかんで、「この嘘つきが、耳を引きちぎるぞ。おとつい、ボサが裸で泳いでたのを覗き見してただろ。それでも、若過ぎるって言うんか?」と言う。「年に1回だけだよ」。「お前には、毎日見るための花嫁が要るんじゃ。毎日、一緒にお風呂に入る… 毎日だぞ… そしたら、何をするか知っとるな?」。同じ日か、次の日、旅仕度をしたツァーネが祖父と抱き合う。祖父は、街に行ったら、橋の近くにトリフンという靴屋〔祖父の兄、もしくは、義兄〕がいるので、困った時には相談しろとアドバイス。そして、ツァーネは牛と、祖父から渡された傘を手に、街に向かって旅立つ(3枚目の写真)〔大事な場面なので、ほぼ全訳した〕
  
  
  

映画のストーリーとは全く関係ないので無視してもいいのだが、映画の最後に、無意味に再登場するので、簡単に触れておこう。場所不明のサーカスで人間大砲の発射が準備完了する(1枚目の写真)。しかし、実際に発射すると、男はサーカスの天幕を破って外に飛び出し(2枚目の写真)、そのまま飛び続ける。ツァーネが牛と一緒に森の中を歩いている時も、木の向こうに飛んでいる姿が見える(3枚目の写真、矢印)。実は、映画の中で、彼が飛んでいる姿は少なくとも10回以上は映るのだが、ここで使用したのは、ラストシーンのみ。しかし、一体何の意味があるのか、さっぱり分からない。
  
  
  

ツァーネが街に向かって坂を下っている時、ロクデナシのマフィアの一団が乗った車〔1990年式のジャガー・ソヴリン〕が後ろから近づいてくる。ボスは、助手席に乗っているバヨ。運転しているのは一番信頼がおける手下のサルジ。後部座席にはパッとしない3人の手下。車がツァーネと牛を追い越して行く時、何度もクラクションが鳴らされ、後部座席から身を乗り出した子分が、ツァーネに向かって、「おい、田舎モン。お前の母さんとヤリな。間違えた。その牛とヤリな」と、笑いながら叫ぶ。それを聞いたボスは、ダッシュボードをピアノの鍵盤代わりにして遊ぶが(1枚目の写真)、さっき暴言を吐いた手下が 「俺の生涯の夢は農民を殺すことなんだ」と他の連中に話すと、ボスは遊ぶのを止め、「農民を殺すのか、人間を殺すのか? 貴様は、人を殺すのは簡単だと思ってるな? いいや、それには綿密な計画が必要だ」と言うが、そのあと、話しの内容はどんどん下劣になっていく。ヤクザの一行は、街に入ったところで、一軒の「賭博場、宝くじ」などの表示のある店に後部座席の手下3人が入って行き、店の主人を捕まえると、路地裏に連れて行って射殺し、所持金を奪う(2枚目の写真、矢印は死体)。このマフィアは、映画の最後まで登場する重要人物。
  
  

ツァーネが街の中心に向かう橋を渡っていると〔ロケ地は人口8万のウジツェ(Ужице)、Ђетиња川に架かる橋〕、生まれて初めて見る巨大なビルが聳え建っているので、階数を1階から順に数え始める(1枚目の写真)〔これは、地元の人がその形からロケットと呼ぶЗлатиборホテル。1960 年代に始まった日本の建築運動「メタボリズム」の影響を受け 1981 年に完成(https://architectuul.com/)。2枚目のグーグル・ストリ-トビューは、川岸からビルとツァーネがいる橋(矢印)を見たもの〕。ツァーネは、9階まで数えたところで、へそ出しファッションの美人が来たので、そちらに目を奪われる。そこで、もう一度1階から数え直すが、今度は3階で別の女性に。3回目の挑戦も3階でダウン。そこで目を奪われないよう、橋の欄干に立って数え始めるが、クラクションの音がしたので、そちらに目を向けると、今までで一番素敵な女の子〔ヤスナ〕が自転車に乗ってこちらに向かって来るので(3枚目の写真、矢印)、思わず見とれてしまう(4枚目の写真)〔実際には、ツァーネ役は1992年生まれ、ヤスナ役は1987年生まれなので5歳も年が違う。この年頃だと子供と大人くらい違ってしまい違和感がある〕
  
  
  
  

マフィアのボスのバヨが、この街にツインタワーを建てようと思い立ち、候補地に残っている工場の大きな煙突を破壊してもらうため、何でもやってのける怪力のトプズと、チビだが頭のいいルーニョの兄弟が住んでいる防弾仕様のトレーラー・ハウスを、ツインタワーの模型を手下に持たせて訪れる。トレーラー・ハウスの中では、トプズが、サンドバッグ代わりに天井から吊った “防護服で固めたルーニョ” をボクシングのグローブで叩いている。そこに、ドアをドンドン叩く音がして、バヨ達が入ってくる。バヨは、模型を2人に見せ、「当局は新しいアイデアより、もう終わっちまった繊維工場に拘ってやがる。伝統だと称しとるが、貪欲で、欲得ずくで、腐りきった連中なんだ」と 協力を頼む。ルーニョは 「俺たち2人で、15日以内に建物を解体する」と言い、トプズは 「別の問題がある。費用の前払いだ」と要求する。「保証する」。「今だ」。それを聞いた手下が銃を取り出しかけ、トプズが睨みつける。結局、25000ディナールの手数料の半額を即金で支払うことでケリがつく(1枚目の写真)。契約が成立すると、ボスは大事そうに持って来た七面鳥と一緒に近くの廃屋に行くと、獣姦したあとに銃で殺すが、その様子を2人とボスの手下が窓から楽しそうに見ている(2枚目の写真)。トプズはルーニョに、「何て商売仲間だ」とあきれる。
  
  

ヤスナの家の前の草地で、彼女のクラスの不良が、錆びた物干しの鉄柱に捉まりながら、「ヤスナ、出て来いよ。ショーが始まるぞ」と大声で叫ぶ。ヤスナが無視していると、「ヤスナ、ママさんが何して働いてるか見てみろよ」と言いながら、鉄柱に股を擦りつける。ヤスナは 「ママは先生よ」と反論するが、「今や夜のスターじゃんか。魅惑のドラギザ・ギッツァ〔ヤスナの母の姓名〕だ」と、大人気の売春婦だと示唆する。そこに、ツァーネが牛に草を食べさせようと 入って来る。不良は、「ヤスナ、見ろよ」と言って、今度は舌でペロペロ舐める真似をしてみせる。怒ったヤスナは、「警察に電話するわよ!」と言い、窓に置いてあった花の咲いた植木鉢を投げつける。不良の言葉は、さらにエスカレートし、「俺のやってること見て学べよ。いつか、お前も同じことするんだから」と言い、それを耳にしたツァーネが、一体どうしたんだろうという顔で ヤスナの家の窓を見上げる(1枚目の写真)。不良は、ツァーネの牛が追い払っていなくなる。ツァーネが、窓に近寄ろうとすると、ヤスナが投げた5個目の植木鉢が降って来たので、慌てて逃げ、6個目の植木鉢を振り上げたヤスナに向かって、「君の母さん 先生だよね。僕、子供たちと一緒にいるの見たよ。橋の上で会ったから、すぐ分かったよ」と声をかける。しかし、ヤスナはツァーネを、さっきの不良の仲間だと勘違いし、二度と来るなと伝えるよう命じ、「ほら行って、でくの坊!」と乱暴な言い方で追う払おうとする。ツァーネは 「僕は 『でくの坊』じゃない」と反論し、ヤスナが 「じゃあ、何なの?」と訊くと、「農民だよ」と答える。ヤスナは 「また、からかうのね!」と言うなり、6個目の大きめの植木鉢を投げつけ、それが、ツァーネの頭を直撃し、その場で卒倒する。自分のしたことの重大さを悟ったヤスナは、慌てて外階段を降りてツァーネの元に駆け付ける(2枚目の写真、矢印)。ヤスナは、人を殺してしまったのかと心配するが、外の水道栓からツァーネの顔に水を掛けるとツァーネの目が開いたので、「ごめんなさい」と謝る。ツァーネに意識が戻ると、彼が最初に心配したのは牛のこと。幸い、少し先の道路を走って行く姿が見えたのですぐに後を追おうとするが、傘を忘れて行ったので、ヤスナは、「農民さん、傘を忘れたわよ」と追って行き、傘を手渡す。その時、ツァーネは、「僕、ツァーネ」と言い(3枚目の写真)、ヤスナも 「私、ヤスナ」と言う。ただし、ツァーネは牛のことが心配なので、すぐにいなくなる。
  
  
  

一方、村では、ジヴォインが教会の鐘を作ろうと、泥で “中子” を作っている(1枚目の写真、矢印)。このあと、中子を金属の箱の中に入れ、周りに砂を投げ込む〔普通なら、中子の外側に鋳型を置き、その隙間に高温で溶かした金属を流し込んで作るのだが、なぜ鋳型の代わりに乱雑に砂を投げ込んだのかは分からない〕。その後、ジヴォインは、自分の失態で穴を大きくした教会の修復に取りかかる(2枚目の写真)。その時も、人間大砲が空を飛んで行き、ジヴォインは “お迎えの天使” だと思って神に感謝する。そこに、ジヴォインに気のあるボサが、スープの入った鍋を持ってやって来る。追い払われても、屋根の上まで鍋を持って来て、飲ませようとする(3枚目の写真)。
  
  
  

街の公園で牛を連れて戸惑っているツァーネに気付いたバヨは、手下に命じて牛を奪わせる。まず、警官の服に着替えたサルジが、「おい、坊主、牛の書類はあるのか?」と職務質問をする。ツァーネは 「そんなもんないよ。僕の牝牛だから」と答える(1枚目の写真、矢印はサルジ)。サルジは、相手が子供なので、適当に、「動物にはカードが必要だ。メディカルカード〔健康保険・疾病保険〕、ブルーカード〔第三国の人がEUに居住し就労する権利を与えるカード〕、グリーンカード〔第三国の人がEU内で運転する際、加入が義務付けられている自動車保険〕」と適当にカード名を並べる〔そもそもセルビアはEU非加盟国〕。ツァーネはグリーンカードのことを知っていたのか、「そんなの車用じゃないか」と反論する。「なら、ID〔身分証明書〕を見せるんだ」。「持ってない」。サルジは、「じゃあ、検疫する」と言い、ツァーネと牛を少し人目から離す。ツァーネが 「牛のツヴェトカに、なんで僕のIDが必要なの?」と訊くが、「生意気言うな。EUの規制だ。牛は隔離、お前は刑務所だ」。そう言った瞬間、後ろからこっそり近づいてきた別の手下2人が、ツァーネの頭から大きな袋を被せ、傘は吹っ飛んで川に落ちる。公園の片隅にテープでぐるぐる巻きにされて放置されたツァーネは、何とか転がって2人の男(トプズとルーニョ)の前まで行くと、「助けて」と口に貼られたテープを通して唸る(2枚目の写真)。2人の背後の鉄扉には、「КРИВОКАПИЋ ТРИФУН〔クリヴォカピチ・トリフン〕/ЧИЗМАР〔靴屋〕」の擦れた文字が見える(3枚目の写真)。トプズは 「どっきりカメラか?」と訊き、ルーニョが 「そうだ」と答え、トプズが 「イタリアだな」と平然を装う。ツァーネは、「トリフン知ってる? 橋のそばに家がある」と必死で話す。ルーニョ:「トリフンって言ってるぞ」。トプズ:「靴屋だな?」。ツァーネ:「そう」。2人はカメラマンがいるかもしれないので、一旦扉の向こうに隠れ、しばらくして扉を開け、カメラマンが現れなかったので、ツァーネを見たトプズが 「ひょっとして腹ペコかもな?」とルーニョに言う。
  
  
  

村を出てからまともな物を何も食べていなかったツァーネは、出された食事にかぶりつく(1枚目の写真)。ルーニョが、「なんでトリフンを探してる、田舎モン?」と質問すると、「あいつら、僕のツヴェトカを取り上げた」と言う。それを “тетка(テートカ、叔母もしくは伯母)” と訊き間違えたルーニョは、外で作業中のトプズから 「何だと?」と訊かれ、「叔母を取り上げられた」と話す。トプズ:「(叔母さんは)何歳だ?」。ルーニョ:「何歳だ、田舎モン?」。「12歳〔ツァーネの年齢〕」。ルーニョ:「12歳だと」。トプズ:「えらく若いな」。トプズは疑うような目でツァーネを見て、ルーニョが送り込まれたスパイかどうか確かめるべく ツァーネの前に座る。嫌な雰囲気を感じたツァーネは食べるのをやめ、荷物をまとめてトレーラー・ハウスから降りる。ルーニョが 「待て、待て、田舎モン。どこに行く?」と訊くと、今度はまともに、「トリフンのトコ」と答える。「トリフンに何の用だ?」。「トリフンは、僕のじっちゃんの兄さんだ」。「もう死んでる。何の用だ?」。「死んだの? 僕、他に誰も知らないんだ。話を聞いてくれる人も、助けてくれる人もいなくなっちゃった」。それを聞いたトプズは、「誰もおらんだと? 俺たちがいるぞ! 兄弟だ!」と言うなり、ツァーネの顔が潰れるほど掴み(2枚目の写真)、そのまま体を持ち上げ、顔中にキスする。そして、「俺のじい様トリフンは、ジヴォインのことをよく話しとった」と言い、今度は、額同士を何度も激しくぶつけ合う。だから、手を離されると、ツァーネは気を失って地面に倒れる。トリフンの店の中に連れて行かれたツァーネは、トプズと肩を組んでジヴォインに乾杯(3枚目の写真)。そのあと、ステンレスで作った長靴に中に入ったトリフンの遺灰を3人で拝む。長靴には、「1929-1997」と刻まれていて、この映画の設定年代がアテネオリンピックの2004年なので、亡くなったのは68歳で、死後7年も経ったことになる。
  
  
  

ルーニョは、「俺たちは 盗っ人のために働いてる。恥ずかしい!」と言い、ジヴォインの孫を助けることに。2人はトレーラー・ハウスの左側面の前方にある小さな丸窓に、小型ロケット砲を装着し、牛のツヴェトカが連れて行かれた家の前まで乗り付ける。ルーニョがトレーラー・ハウスを降り、機関銃と拡声器を持って家の近くの小屋の陰に行くと、バヨの手下の1人がツヴェトカと獣姦するために納屋に入って行くのが見える(1枚目の写真、矢印はツヴェトカ)。ルーニョは、拡声器で牛を返すよう要求し、それを聞いた別の手下が、すぐにルーニョに向けて機関銃を連射し、家の中にいた3人目の手下と、その家の女性も銃をぶっ放す。さっそくトプズが3発の小型ロケットを発射し、1発は納屋を破壊する(2枚目の写真)。大型の機関銃を持ったトプズが、ツァーネと一緒にトレーラー・ハウスから降りると、抵抗した一家の老人を威嚇して降参させ、そのまま納屋に向かう(3枚目の写真)。納屋に空いた大きな穴からは白旗が振られ、全裸で真っ黒になった手下が現われて逃げて行く。かくして、ツァーネはツヴェトカを取り戻すことができた。
  
  
  

トプズはツヴェトカを売ってくれ、その代金をツァーネに渡し、「トリフンのためにロウソクを買って灯せよ。じい様がいなかったら、お前さんは牛を取り戻せなかったんだから」と言う(1枚目の写真、矢印はお金)。「残りは、好きなことに使え」。ツァーネは、それについては、もうジヴォインが ①イコン、②お土産、③お嫁さんを要求したと話す(2枚目の写真、矢印はお金)。「じっちゃんのお嫁さんか?」。「違う、違う。じっちゃんは死にたがってる。僕のお嫁さんだよ」。トプズが何と言ったのかは分からない。
  
  

ツァーネは、お嫁さん探しに本腰を上げようと、夜、ヤスナの家に行く。窓からは、ヤスナが音楽に合わせて1人で踊っているのが見える。ツァーネはリング型のパンを2個持って家に近づくと、家の裏手に停めた車の中から女性の声が聞こえる。「もうやめたいわ。どんな犠牲を払おうが」。次に、男の声がする。「お前さんは、経済のことが分かっとらん。利子、税金、消費税… 金は一杯かかるんだ」。「そんなの無茶よ。あんたのために、いろんなことさせられて。限界を超えてるわ。働けば働くほど借金が増えるじゃないの! あんたは私を破滅させたけど、ヤスナは絶対渡さない!」(1枚目の写真)。「聞くんだ、ギッツァ。解決策は簡単だ。彼女にヤラせて、お前さんが金を受けとりゃいい。いいか、アメリカでだって、高校生がポールダンス〔ストリップクラブで女性が踊る官能的なダンス〕しとるんだ」。クソ男はバヨで、哀れな女性はヤスナの母だ。ツァーネは、ヤスナの危険な立場を知ってしまう。それでもツァーネは、最初にみそめたヤスナに対し、愛していることを示そうと、リング型のパン2個をドアのロッドロックに掛けると、ブザーを押し(2枚目の写真、矢印)、階段を駆け降りて壁の角から様子を窺う。ドアを開けたヤスナは、パンを見て、ツァーネの顔が角からちらりと見えたので、満足そうな顔になる。ベオグラードにあるセルビア科学芸術アカデミーのバルカン研究所のLjubinko Radenkovićの20ページの論文『セルビア人の民族文化におけるパン/汎スラブ的文脈において』〔英文〕を読んでみたが、リング型のパンについては書かれていなかった。
  
  

トプズとルーニョは、バヨから手数料を半額受け取ってしまっていたので、繊維工場の象徴ともいえる煉瓦造の高い煙突に爆薬をセットしている。外で作業していたルーニョの所に、ツァーネが 「兄貴、奴らヤスナを売春婦にする気だ!」と叫びながら走ってくる。極秘の作業中なので、ルーニョは、「しーっ」と言ってツァーネを黙らせ 「俺はツンボじゃない、バカ」と小声で叱る。それでも、ツァーネは止めない。「助けてよ。奴ら、僕からヤスナを奪う気なんだ!」と頼み、また 「しーっ」。工場の建物の中から、トプズが 「あの子、何言ってる?」とルーニョに訊いたので、ツァーネはトプズの所に行くと、「僕、約束したんだ」と訴える。「約束?」。「じっちゃんと。約束は破れない。お嫁さん連れて帰らないと」(1枚目の写真)。しかし、爆破の準備が出来たので、ルーニョが戻ってきて、10ヶ所くらいに埋め込まれた火薬を爆破させる。そこに、バヨが手下どもと一緒にやって来る。トプズとルーニョは、牛を取り返すためにバヨの手下を攻撃したので、両者は目下抗争状態。そこで、2人ともピストルを構え、ツァーネは安全のため、天井の梁の上に銃を持たせて登らされる(2枚目の写真)。先日攻撃された手下は、2人を殺したくて仕方がないが、バヨが(後で殺せと言って)止めさせる。それでも、トプズとルーニョは安全のため、サルジとバヨが建物に入ると銃で狙うが、バヨは2人と握手し、お互い持っているすべての銃を、ツインタワーの模型の上に置かせる(3枚目の写真)。これで、ようやく話し合いが可能となる。
  
  
  

村では、ジヴォインが金型の中に溶かした青銅を流し込んでいる(1枚目の写真)。映画の中での順序は逆転するが、最終的に鐘は見事に完成し、その美しい響きにジヴォインは狂喜する(2枚目の写真)。
  
  

前節の1枚目の写真のあと、マクシノヴィッチはトラバント601を改造したリムジンでやって来て、車の前でエレキーギターをかき鳴らす。車には、人魚が描かれ、人魚の形をした風船が付いている。そこに、音楽に惹かれたボサ が斜面を登ってきて、マクシノヴィッチに大歓迎される(1枚目の写真、矢印は風船)。ジヴォインは家の陰からそれを見ている。ボサが車内に乗り込むと、マクシノヴィッチは反対側のドアから中に入り、冷蔵庫からグラスに入ったアイスクリームを出してボサに渡す。マクシノヴィッチは、さらにプレゼントの箱を渡し、「このリムジンは、ここらの農民やザコにサヨナラして、君を美しい国に連れてってくれる」と言って、シャパンを開ける。そして、ボサが箱を開けると、中に入っていたのは純白のウェディングドレス。マクシノヴィッチは、すぐに結婚式を挙げ、ブリュッセルに新婚旅行に行こうと誘う。ボサは、自宅まで来て、激しいキスをするよう求め、マクシノヴィッチは風船とギターを持ってボサの後を追う。そして、ボサを追い抜いてしまい、見ていたジヴォインに中指を上げる。そして、しばらく走ると、落とし穴に落ち、風船だけが地上に残る(2枚目の写真、矢印は人魚の風船) 。
  
  

ツァーネは、トプズに言われたように教会に行き、ロウソクを買い、灯してトリフンに祈りを捧げる(1枚目の写真)。そのあとで、教会内の店で、祖父に頼まれた聖ニコラオのイコンを買う(2枚目の写真、矢印)。値段は900ディナール。ツァーネが、橋の上でまた階数を数えていると、そこに自転車でヤスナが通りかかり、「農民さん、牛はどこ行ったの?」と声をかける。ツァーネは、走って追いかけながら、「ヤスナ、僕 ツヴェトカを売ってイコンを買ったんだ。最初は、盗まれちゃったんだけど」と言う。「何を?」。「牛だよ。でも取り返した。今はお金持ってる。で、君は?」。「私が何?」。「僕に声かけてくれたよね?」。そう言うと、ツァーネはリング型のパンを自転車のバックミラーにかける。「もうあるわ」。ヤスナは自転車を停めると、「どうやって取り戻したの?」と訊く。「じっちゃんの兄さんが助けてくれたんだ。もう死んでるけど」。「死んだ人が助けたの?」。「バカ言っちゃったね。その人の孫のトプズとルーニョが助けてくれたんだ」。
  
  

ジヴォインは鋳造した鐘を、鐘楼のてっぺんまで自分の体重を利用して引っ張り上げる(1枚目の写真)。しかし、マクシノヴィッチが悔しがりながら去っていく時の悪口に対し、言い返しながら体にロープを巻き付けているうちに、鐘が重みで落下してしまい、ロープでつながったジヴォインがてっぺんまで吊り上げられる(2枚目の写真、鐘は着地せず浮いているので、矢印の方向にロープが引っ張られ、ジヴォインの首を絞める)。さっそく助けに走って来たボサに、ジヴォインは重い石を運び上げるように頼み、ボサは2個の大きな石を両手に抱えて木の梯子を登り、何とかジヴォインの所まで運び上げる(3枚目の写真、矢印は石2個)。順序は逆転するが、最終的には、ボザが鐘に乗り、その次にジヴォインが石を持つと、重さがちょうどつり合う、2人は お互いに上がったり下がったりして罵り合うが、そのうち、ボサがジヴォインと結婚したがっていることが分かる。
  
  
  

ツァーネは、ヤスナの通っている高校の教室(2階)の前まで行く。ちょうど、学校の壁のペンキ塗りの工事中で、壁の外側に足場が組んであり、教室の前の足場には、3つの空のバケツが置いてある。ツァーネは、バケツを吊っているロープを引っ張って、バケツを足場から外すと、ロープをゆっくりと上げ、バケツを地面に降ろす(1枚目の写真、矢印はロープの動く方向)。そして、3つのバケツにシャベルで砂を一杯に入れると、今度はロープを思い切り引っ張ってバケツを足場に戻す〔ジヴォインが鐘を力づくで吊り上げたのと、よく似ている〕。そのあと、ツァーネはロープを自分の体に縛り付け、バケツのロープを引っ張り、バケツが地面に落ちる時の力で、自分を2階まで上げようとする。しかし、地面に落ちていたロープが足に絡まったため、ツァーネは2階には行けたが、上下逆さまになってしまう(2枚目の写真)〔この失敗も、状況は違うが、ジヴォインが鐘の落下で急激に引っ張り上げられたのとよく似ている〕。それまでは、ヤスナだけがツァーネの存在に気付いていたが、窓に逆さまの形で少年が出現したことで、ヤスナは心配して悲鳴を上げ、教室中が注目する。教師がツァーネの向きを変えて、「君は何なんだ?」と訊く。後ろから 先日ヤスナを誹謗していた不良が、「ターボ付き哺乳類。田舎っぺ」と言い、生徒達は笑う。ヤスナは窓まで行くと、ツァーネに向かって 「あんた、私に落第点を取らせたいの?」と非難すると、ツァーネは それにお構いなく、「僕と結婚してよ、ヤスナ」と笑顔で言う(3枚目の写真)。このまま放ってはおけないので、ヤスナは教室を出て、ツァーネの真下まで来ると、バケツ1個の砂を捨て、あとは、ゆっくりと手で引っ張ってツァーネを降下させる。ツァーネは、ヤスナから 「こんな曲芸、あんたの学校でやってよ」と言われたので、廃校になってから学校に通っていないと 悲しい現実を打ち明ける。
  
  
  

ツァーネが、授業の終わるのを下で待っていると、不良が仲間を連れてやって来ると、ツァーネに、「俺の彼女に手を出すな」と因縁をつける。「僕はヤスナを待ってるんだ。君のガールフレンドのことなんか知らない」(1枚目の写真)。不良は、「ヤスナは俺のガールフレンドなんだ。このバカ野郎」と言いながら、ツァーネの頭を何度も叩き、仲間が後ろからツァーネの頭にバケツを被せる。その状態で何度も不良に殴られたので、持っていたイコンが飛んで行き、壁に当たって割れてしまう。遅れてやって来たヤスナが、割れてしまったイコンを拾う(2枚目の写真)。ツァーネは、工事のために置いてあった砂の山に顔を押し付けられる(3枚目の写真)。ツァーネは、落ちていたレンガを取ると不良の頭を叩いて反撃し、そこにヤスナが駆け付け、「止めなさいよ! 警察を通報するわよ!」と叫ぶ。近くに警官がいたので、不良はあきらめて去っていく。ツァーネは、顔の表面だけでなく口の中にまで砂が入っていたが、そんなことよりも 「イコンも壊れちゃったし、お土産も何もない」と嘆く。ヤスナは、ツァーネの顔のケガを見て、「お土産なら大きなの〔怪我のこと〕があるじゃない」と言うと、水道で傷を洗い、消毒用のアルコールを取りに学校まで走って行く。ツァーネが、2つに割れたイコンを見ながら茫然としていると、後ろから口笛がし、ルーニョが “こっちへ来い” と手で呼ぶ。そこで、役目を終わったイコンをその場に捨て、ヤスナが戻って来るまでの間だと思って、トレーラー・ハウスに乗る。
  
  
  

トレーラー・ハウスに乗ると、運転席にいたトプズから、「トリフンのためにロウソクを灯したか?」と訊かれ、「うん」と答える。「よし。なら一緒に来い。気に入るぞ」。ツァーネは 「ヤスナが、アルコールを持ってくるんだ」と言って、ドアに向かうが、ルーニョは 「こっちには、アルコールも女もいるぞ」と押しとどめ 、ツァーネに黒いサングラスをかける(1枚目の写真)。「でも、ヤスナが…」。窓からは、戻って来たヤスナがツァーネを探している姿が見えるが、トレーラー・ハウスは動き出し、ツァーネには何もできない。そんなに遠くまで行ったハズはないのに、トレーラー・ハウスが目的地に着いた時には辺りは真っ暗。トレーラー・ハウスは、停まっていた車を駐車場の端から落として停車する(2枚目の写真)。そして、黒いサングラスをかけた3人組が元気よくトレーラー・ハウスから出て来る。上着は違うが、3人とも同じ黒いカウボーイ・ハットをかぶり、デニムのズボンに、トリフン伝統の靴を履いている。そして、3人は揃ってジャンプしながら、売春宿の玄関へと向かう(3枚目の写真、矢印はツァーネ)。
  
  
  

3人が入口のテーブルに座っていると、バヨが 「よく来た、兄弟」と言ってトプズと頬でキスを交わし、ツァーネには、「どうした? ここは初めてか?」と声をかける。トプズは 「弟には嫁さんが要るんだ」と言い、ルーニョが 「彼のじっちゃんは、もう長くない」と理由を説明する。バヨは、「ここじゃ結婚はできん。セックスだけだ。ダチには割引もあるぞ」と言う。そこに、機関銃を持ったサルジが入ってきたので、ツァーネは 「いいか、僕のガールフレンドに構うんじゃない!」と怒る。トプズは何とか止めさせ、「酔ってるのさ」の庇う。バヨは、サルジを追い払う。バヨは3人をVIP用のテーブルに連れて行く。バヨはツァーネに、「お前さんには特別な女を用意する。極上だ。経験豊富な売春婦。第一級だ。あそこにいる若い子たちには、何もできん。脚を広げるだけだ。コミュニケーションもない。だが、あの女となら、たっぷり楽しんで、いっぱい学べるぞ」と言いながら、一人の女性の後ろ姿を指すが、ツァーネには それがヤスナの母だとは分からない。バヨは、ポールダンスをしている女性と一緒の手下の近くに行くと、「クリヴォカピチ〔トプズの姓〕を、今夜殺(ヤ)れ」と命じるが、その様子を見たトプズは、「兄弟たち、銃撃の匂いがするな」と危険信号を発する。バヨはルーニョを1号室に行かせると、ツァーネの横に座り、「お前さんは2号室だ。勇気を出して行くんだ」と言う(1枚目の写真)。ツァーネが2号室に入って行くと、ヤスナの母ドラギザが現われ、「可愛い坊やね」と言うと、ハイヒールでツァーネの胸をベッドに押し付ける。ツァーネは脚を払い除けてベッドから出ると、「あなたは先生だ!」と言う。「いいから、パンツを脱いで」。ポールダンスの女性と戯れている手下の横にトプズが行くと、トプズの口に銃が突っ込まれる。しかし、怪力のトプズは銃の先端を噛み切ってしまい、さらに、驚いて何もできない手下の口に 小型の爆弾を押し込むと、すぐに爆発する。それでも死なないところがこの映画。場面は2号室に戻り、ツァーネの服を脱がせようとするドラギザに、ツァーネは 「ヤスナのお母さんだ」と言う(2枚目の写真)。「どうして分かったの?」。そこに、別の手下2人が銃を持って入って来て、「くたばれ、ドワーフ!」と叫ぶ〔ルーニョと間違えた〕。ドラギザは、2人に向かって、「ドワーフだって? ただの子供よ!」と怒る。後ろの手下が、「黙れ、娼婦!」と言ったので、ドラギザは、「私が娼婦ですって?」(3枚目の写真)「このクソ野郎! この子に手を出すんじゃない!」と叫んで2人に襲いかかり…
  
  
  

その隙にツァーネは窓から逃げて、庇の先端まで転がる(1枚目の写真、矢印)。ドラギザが最初の男に撃ち殺されそうになった時、2人目の男が 「バカ野郎! ここは1号室じゃないぞ!」と言い、2人は、ルーニョがいる2号室に向かう。そして、ドアを開けると、セックス中のルーニョの背中に向かって拳銃を連射するが、ルーニョはシャツの下に防弾チョッキを着ているのでびくともしない。トプズが運転するトレーラー・ハウスは、バックして、別の車を階段の下に突き飛ばして停車し(2枚目の写真、車はこの後、逆さまになる)、その時を狙ってツァーネがドアを開けて中に逃げ込む(3枚目の写真)。車の持ち主は、怒って銃を連射するがトレーラー・ハウスはびくともせず、ゆっくりと駐車場に中で向きを変え、ルーニョは走って追いかける。
  
  
  

そのままヤスナの家まで行ったツァーネは、シャツを意図的に破り、顔に砂を擦り付け、鼻血が出ているように赤い色を付け、呼び鈴を押すと、玄関の脇に横になって瀕死の状態のフリをする。ドアを開けたヤスナは、心配して 「ツァーネ、どうしたの?」と声をかける。「あいつにやられたのね」。「ううん、悪党どもだよ」。「悪党?」(1枚目の写真)。「空気… 空気…」。「空気って?」。「息ができない。人工呼吸… 口から口へ…」(2枚目の写真)。そこで、2人は口を大きく開けて、人工呼吸を始めるが(3枚目の写真)、途中から抱き合うのでキスに変わる。
  
  
  

家の中に入ったツァーネは、こんなひどい格好になった “戦い” の話を大げさに話し(1枚目の写真)、ヤスナは嘘だと知りつつ楽しそうに聞きながら、ツァーネのために簡単な夕食を作っている。ツァーネが食べ始めると、「嘘が上手ね」と褒める。ツァーネは 「嘘じゃない。誇張してるだけだよ。じっちゃんは、これがないと人生は退屈だって。冬の長い夜、僕たちは恐ろしい話をでっち上げるんだ」。ヤスナは、ツァーネが校庭に残していった物を返そうとするが、ツァーネは、「イコンがないから要らない」と言う。しかし、ヤスナが 「美術の先生が修復してる」と話すと、ホッとする。ヤスナはツァーネの変わった靴のことを聞き、ツァーネは、「兄さんたち」と言った後で、「僕をストリップ・クラブに連れてった」と話す。それを聞いたヤスナは 「娼婦と寝たの?」と訊き、ツァーネは 「ううん、逃げた」と本当のことを言うが、嘘の名人なので、なかなか信じてもらえない。最後に、母がそこで働いていることを知っているヤスナは、「ママは、ただのウェイトレスよ」と教えられた嘘を信じて弁護し、ツァーネも 「そうだね」とドラギザの正体を暴くことはしない。そこに、疲れ切った母が戻ってくるが、2人とも 『タクシードライバー』のクライマックスに釘付けになっているので〔銃声が鳴り響く〕、母の帰宅に気付かない。母が 「ヤスナ」と叫んで、床に卒倒して初めて帰宅を知り、駆け付けてソファに寝かす(2枚目の写真)。ヤスナが氷を取りに行くと、ドラギザは 「ヤスナに何か話した?」と訊き、ツァーネが 「ぜんぜん」と答えると、「何も聞かなかったし、何も見なかった。いい?」と念を押す(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、ツァーネは学校に行き、体育の授業中のヤスナに声をかけると、ヤスナは “向こうに行って” というような仕草をし、それに目敏く気付いた教師は、「ヤスナ、気を散らすな。そこの坊やは、邪魔しない」と注意する(1枚目の写真)。ツァーネは数歩後退し、ヤスナの荷物が掛かったフックにリング型のパンを2個置く。そして、ヤスナがお尻をぐるぐる回す運動をしているのを うっとりと眺める(2枚目の写真)。視線を感じたヤスナが振り向いて 「殺すわよ」と言い、教師も 「こら坊主、叩いて罰するぞ」と言ったので、ツァーネは逃げ出す。彼が階段の途中で待っていると、ヤスナが修復したイコンを渡してくれる(3枚目の写真、矢印は割れた跡~完全な修復は美術の教師には無理)。ツァーネは、「僕、じっちゃんの夢を見た。早く帰って来いって。だから君も急がないと」と言う。「どこに行くの」。「僕の村。君をじっちゃんに見せないと」。「あんた、約束を果たしてないじゃない」。「イコン、あるよ」。「お土産も買わないと。お金あるの?」。「ドラギザにあげた」。「なぜママに? 私をお金で買うつもりなの?」。「ヤスナ、君たちは灰色の口ひげを生やした男に借金があるんだ。その男は、君まで奪い去るつもりなんだ」。ヤスナは、ツァーネの真剣な話も、ツァーネらしい嘘だと思い込み、「あんたのお金なんか要らない」と言って教室に入って行くが、もう一度ドアが開くと、「ベルが鳴るまで待ってて」と言ったので、ツァーネもホッとする。
  
  
  

このあと、写真紹介は省略するが、バヨが市の汚職議員を連れて来て、トプズとルーニョが “いつでも倒れる” ように爆破しておいた巨大な煙突を、サルジが寄りかかっただけで倒壊させる。一方、ヤスナの自転車に乗せられたツァーネは、のど自慢の会場に行く長くてつまらないシーンがある。この会場になぜかバヨがいて、市の汚職議員に、工場計画変更の見返りとしてヤスナを抱かせてあげると持ちかける。そのあと、ツァーネはトプズとルーニョに会いに行く。その頃、マクシノヴィッチがプロペラ機にお金を払って乗せてもらい、村の上空まで来ると(1枚目の写真) パラシュートで飛び降りる。しかし、運悪く 木のてっぺんに降りてしまい(2枚目の写真)、そこからは、枝から枝へと落ちて行き、最後は、ジヴォインが用意した穴に落下(3枚目の写真)〔最初の雪道での仕掛けは理解できるが、回を重ねるごとに、落下の “絶対にあり得ない度” のレベルが上がって行く。しかし、ハチャメチャだと思って観ていれば、どんなナンセンスでも許せる〕
  
  
  

その日の夜、ツァーネが リング型のパン2個を持ってヤスナの家に行くと、ノックしても誰も出て来ないので、ドアを開けて中に入る。そして、家じゅうを探し回ると、トイレの便座の上に、ドラギザが縛られて放置されていた。ツァーネは、「ヤスナは?」と訊くが(1枚目の写真)、何と言われたのかは分からない。カメラは、バヨの売春宿に変わり、強制連行されたヤスナが派手な服を着せられ、金髪のかつらを被せられ、教育係の女性から、「あんたの料金は1時間80ユーロ。他に30分の料金もある。バヨは厳しいけど公平よ」と告げられている(2枚目の写真)。一方、ツァーネはトプズとルーニョに頼み込み、ヤスナの救出作戦を立てる。それには、ドラギザももちろん参加する。ドラギザが店に入っていったのと同時に、3人もトレーラー・ハウスから密かに降りる(3枚目の写真)。
  
  
  

ツァーネは、どうやって登ったのかは神のみぞ知るだが〔建物の中に入っていないことは確か〕、外壁の一番上の開口部に姿を見せると、これも、どうしてあるのか分からないが、大きな鉄パイプの先に滑車のついた装置をその開口部から外に出し、それにロープをつけて、ヤスナのいる部屋まで外壁を伝って降りる(1枚目の写真)。部屋の中では、ヤスナが、「客が何を望もうが、それがいくら変態的でも、あんたが値段を決め、お金を受け取るのよ」と言われ、悲嘆に苦しんでいる。外では、ツァーネが、最後の段階で、わざと逆立ち状態になる。女性は、「最後にもう一つ。逃げたら、撃たれるわよ」と言い、機関銃を持ったサルジを残して部屋を出て行く。ツァーネは拳銃を取り出し、窓からヤスナを見る。そして、ヤスナが気付くと、唇に指を当てて何も言うなと指示する(2枚目の写真)。ツァーネは、ほとんど閉じた模様入り不透明窓ガラスにワザと触って音を立てる。様子を見に来て窓を開けたサルジの額に、ツァーネは銃を突き付け、「武器を捨てろ!」と命じる(3枚目の写真、矢印は拳銃)。ヤスナはサルジの背中を思い切り蹴飛ばす。ヤスナはサルジを縛ると、ツァーネを部屋の中に引っ張り込む。そして、2人は、人工呼吸式のキス(4枚目の写真、矢印はサルジを狙った拳銃)。
  
  
  
  

ドラギザは、“捨てられたバヨが忘れられない娼婦” 役を演じて、バヨが汚職議員をヤスナの部屋に連れて行くのを遅らせる。ツァーネは、サルジに携帯を渡し、ヤスナが指示したドラギザの番号に 「ヤスナは自由の身」というメールを送らせる。ドラギザはバヨにしがみつくのを止める。だから、バヨが汚職議員をヤスナの部屋に連れて来た時には、2人は既に外壁に逃げ、サルジはぐるぐる巻きに縛られ、口には、声を出さないよう長い布が突っ込まれていた(1枚目の写真、矢印は布の先端)。その時、トプズのあり得ない攻撃が始まる。ヘルメットを被り、クレーンに吊り下げられたトプズは(2枚目の写真、矢印は動く方向)、ルーニョの操縦で、かなりのスピードで建物の外壁に頭突きをする。頭がぶつかる度に建物は地震のように揺れ(3枚目の写真)、ドラギザは 「逃げて! 地震よ!」と叫んで混乱を拡げる。5人が、トレーラー・ハウスに逃げ込むと、ドラギザは、シャバツ〔Шабац/映画のロケ地のウジツェの100キロほど北の街だが、これにはあまり意味がない。むしろ、映画は首都のベオグラードを舞台にしていると考えた方がいいのかもしれない。その場合だと、シャバツはベオグラードの西約60キロ〕にいる姉の家に連れて行くようトプズに頼む。
  
  
  

5人が、ドラギザの姉の家に行ったとなぜ分かったのかは不明だし、サルジがどうして家の正確な位置まで知っていたのかも不明だが、すべて不問にして、バヨと手下を乗せたジャガーがドラギザの姉の家の前に着く。そして、電報を届けるフリをしてサルジをドアベルを鳴らす(1枚目の写真)。一方、内容は後から分かるのだが、姉の家では、ツァーネが指揮を執り〔ジヴォインの発明を常に見ていた〕、トプズとルーニョが協力して、特殊な装置が既にセット済み。ツァーネは、最後の仕上げに、黒い円盤に白い渦巻を描いた装置を仕上げている(2枚目の写真)。ドアベルが鳴ったので、姉は1階に降りて行く。裏口から、バヨと2人の手下が侵入したので、ドラギザは仕掛けテーブルにカードを並べて遊び始め、背後では、これから身を隠して敵をやっつけるツァーネと、部屋に囮として残るヤスナが人工呼吸式のキスをしている(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

ツァーネが姿を消すと、バヨがやって来てドラギザの前に座り、逃げた罰として、顔を何度も殴り(1枚目の写真)、席を立たせる。そして、代わりにヤスナに来るよう命じる。すると、テーブルが2つに割れて両側に立つ(2枚目の写真)。驚いたバヨがヤスナの方に歩いて行こうとすると、床が抜け、落下したバヨは、真下に置いてあったタイヤ状のクッションゴムに跳ね返されて再上昇。すると、2本の鋼材がバヨの体を挟んで動けなくなる(3枚目の写真)。真っ先に駆け付けたヤスナは、バヨの顔を足で蹴り、嫌な思いをさせられた鬱憤を晴らす。後は、3人の女性がバヨの顔を手で何度も叩き、ドラギザはビール瓶を3回頭に叩き付けて割る。
  
  
  

ツァーネは、「ダメだよ、殺さないで。タマを切り取るんだ」と言って、それに使う長いペンチの先端をバヨに見せる(1枚目の写真、矢印)。バヨは 「おいガキ、そいつを放せ。さもないと、ぶん殴るぞ」と脅すが、「これはすごく長いから、当たらないさ」と言うと、ツァーネは 黒い円盤に白い渦巻を描いた円盤を、自転車の車輪の外側に取り付け、バヨから見えるようにする。そして、村の雄牛の時のように、ゆっくりと回し始める(2枚目の写真)。バヨが眠ったところで、ツァーネは1階に行き、トプズの肩に乗ると、バヨのズボンを下げ、長いペンチを伸ばして(3枚目の写真)、バヨの睾丸を切断する。その瞬間のバヨの顔(4枚目の写真)は、納屋の雄牛の顔そっくり。
  
  
  
  

順序が異なるものもあるが、バヨの手下とトプズの争いの中で、一番ユニークなのは、手下を空気で膨らませ(1枚目の写真)、その手下が宙に浮かび上がり、そのあと、空気を吐き出しながら部屋中を飛び回るシーン。ルーニョと最後に残ったサルジは 銃撃戦を繰り広げるが、それをかいくぐり、まずヤスナが伯母の車のトランクに逃げ込み、続いてツァーネが入り込む(2枚目の写真、矢印はヤスナと手足)。2人はトランクの中で体を寄せ合うが、ここで覚えておくべきはヤスナの着ている花柄のブラウス(3枚目の写真)。車には、トプズとルーニョが乗り込み、ツァーネの故郷に向けて突っ走る。
  
  
  

トプズは一晩中車を走らせ、翌日、車は森の中の土道を走っている(1枚目の写真、矢印は交差する手足)。トプズは、これからどうしたらいいかツァーネに訊いて来いとルーニョに言ったので、車が停まる。ルーニョがトランクを開けると、2人がセックスの真っ最中なので、顔を叛けて 「おい弟、お前の村はどこだ?」と訊く。ツァーネは 「後でいい?」と訊き返す(2枚目の写真、ツァーネは裸で、破れたヤスナの花柄のブラウスを着ている、ヤスナは下着姿)。ルーニョが車に戻ると、トプズは 「何て言った?」と訊く。「訊かなかった」。「なんで?」。「2人で忙しそうにしてた」。その時、車が大きく揺れる。「揺らすな」。「揺らしてない」。トプズがバックミラーを見ると、トランクのフタが上下に激しく動いている。これを見て、トプズも納得する。
  
  

村の近くまで来て、トプズとルーニョは疲れて車の中で仮眠をとっている。ツァーネとヤスナは相変わらずトランクの中で車を揺らしていたが、ジヴォインが作った鐘が鳴り出す。ツァーネはセックスをやめると、「鐘だ」と言い、トランクから出ながら 「鐘が鳴る時は、ロクナなことがないんだ」と言い、眠っている2人を起こすと、「じっちゃん!」と叫びながら走り出す〔ツァーネは祖父が死んだと思い込んでいる〕。ヤスナがその後を追う。トプズとルーニョも、慌てて車から飛び出す。ツァーネは走りながら、ヤスナに 「誰かが死ぬと、鐘を鳴らして みんなに知らせるんだ。ばっちゃんが死んだ時、そうだった」と説明する。2人の前に、2つの行列が見えている。同じ道を右からやって来るのは葬儀の列(1枚目の写真)、左からやって来るのは婚儀の列(2枚目の写真)。ヤスナは、「結婚式よ」と言うが、ツァーネは 「あの役人だ! ボサと結婚するんだ!」と言う。この時も、人間大砲が真上を飛んでいる。ツァーネは、葬儀の列に向かって、「じっちゃん!」と叫びながら走って行く(3枚目の写真)。
  
  
  

ツァーネは葬儀の列の最後尾から最前列の棺まで、ビリビリに破れた女性服のまま、下着の女性と一緒に駆け付けると、棺を調べ始め、喪主の老人に杖で叩かれる。老人は、「お前の爺さんは死んどらん。これは わしの隣人じゃ!」と叱る(1枚目の写真)。ツァーネは、今度は、前方からやって来る婚儀の列に向かって走る。すると、祝いの車に乗っているのが祖父だったので、ツァーネは ヤスナの抱えてきたバッグの中からイコンを取り出すと、「じっちゃん!」と叫んで駆け寄る。祖父は両手を上げて万歳し、孫の無事の帰還を喜ぶ(2枚目の写真)。祖父は、車から降りるとツァーネを抱き、頬にいっぱいキスする。ツァーネがイコンを見せると、祖父は 「ありがとう。花嫁は連れてきたか?」と尋ねる。ツァーネは目でヤスナの存在を知らせ、祖父は振り向くと帽子を取ってヤスナの間に進み出る。ツァーネはヤスナの肩に手を回し、彼女は 「ヤナスです」と挨拶する(3枚目の写真)〔この写真が、2人の俳優の年齢差を最も感じさせる〕。祖父は、「素晴らしい。なんてきれいなんじゃ!」と大喜び。そこに、葬儀の列の先頭の老人がやってきて、遺体を運ぶ葬儀の列に優先権があるので何とかしろと文句を言う。トプズは、踊って喜んでいる婚儀の列の先頭にいるので、「感動的なシーンを台無しにする気か」と批判し、怒った老人に殴られて転倒する。
  
  
  

ここに、装甲車に乗ったバヨとサルジがやって来る。2人以外は、忍者スーツを着ているが、人数はかつての手下より多い。それにしても、①ペンチで切除された睾丸の手当をしてから、②装甲車を手配し、③トプズの車よりスピードの出ない装甲車を走らせ、④どこあるか分からないツァーネの村に、どうやったら同時に辿り着くことができたのかは、この映画最大の謎。ハチャメチャ度が過ぎるので、この場面は存在すべきではなかったと断言できる。バヨは痛いのを我慢して装甲車から降りると、下にいる村人への攻撃を命じる(1枚目の写真)。婚儀と葬儀と両方の列の村人は、ジヴォイン達も含め、教会に向かって逃げる(2枚目の写真)。教会では、トプズとルーニョが機関銃で応戦し、その間に、結婚式を挙げるための鐘を鳴らそうと、村の老人がドラム缶に入って鐘の紐に歩いて行く(3枚目の写真、矢印は紐)。
  
  
  

鐘が鳴り出し、教会の中では、ツァーネとヤスナが結婚衣装に着替え、ツァーネは持ち帰ったイコンを、教会内の絵が剥げた部分に貼り付ける(1枚目の写真)。ジヴォインは、教会の屋根のてっぺんに装備した小型ミサイルを装甲車に向けて発射する(2枚目の写真)。屋外にある大砲も発射するが(3枚目の写真)、それがどのような成果を上げたのかは分からないし、バヨの “軍隊” が最終的にどうなったのかも、よく分からない。
  
  
  

教会内では、ジヴォインとボサの結婚式が先に行われ、「ボサ、あなたはジヴォインを夫にしますか」の問い掛けにボサが「はい」と答える(1枚目の写真)〔実は、吹奏団の中にマクシノヴィッチがいるのだが、あまりにバカらしいので説明はカットする〕。かくして 2人は正式に夫婦となる。そのあと、バヨは路上に放置された棺の上に乗ると〔睾丸を切断されてから24時間も経っていないのに、棺を荷車から地面に1人で降ろし、それを道路から90度回転させて斜面に向けることができるのか?〕、機関銃を撃ちながら教会向けて滑走して行く(2枚目の写真)。棺は、ジヴォインが用意した穴の中に突っ込んで行き(3枚目の写真)、蓋が閉じる〔このシーンの最大の欠点は、棺の先端に付いたカメラが、罠の扉が開くのを映す3枚目の写真。そのあり得ない偶然性を無視するとしても、カメラの延長線上には丘があるだけで、教会など全くない。バヨは教会に向かって乱射していたので、この撮影が明白な失敗。そういう意味でも、ラストにバヨを入れたことは、監督の大失策〕
  
  
  

次がツァーネとヤスナの結婚式、神父が2人の結婚を宣言し、いつものように人工呼吸式のキスをしようとすると(1枚目の写真)、急に推進力を失った人間大砲が教会の屋根を突き破って落下(2枚目の写真)。「誰か、イタリアとのサッカーの結果知ってる?」と訊くが、それに何の意味があるのか? ちっとも面白くない〔人間大砲も、監督の大失策〕。2人はもう一度キスをやり直し(3枚目の写真)、それを見た村の老人が、「おお、刺激されてしもうた」と言い、それを聞いた多くの村人が笑い出す。
  
  
  

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  セルビア の先頭に戻る          2000年代後半 の先頭に戻る