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Canvas キャンバス

アメリカ映画 (2006)

統合失調症と子役が絡む映画は、ほとんどないのではないか? 病気の子供が主役の映画では、自閉症、白血病、癌、てんかんなどがあるが、統合失調症はないのではないか。ここでは、母が統合失調症で、それに悩む10歳前後の少年が、赤裸々に描かれている。今回、この映画を観るにあたって参考にした映画評は、その際立った映画評論により1975年にピューリッツァー賞を受賞したロジャー・イーバート(1942-2013)が、2007年に書いたもの。その書き出しは、「『キャンバス』は、精神病についての深刻な映画であるとともに、感傷的で心温まる映画でもあり、両方の面で成功している。統合失調症の母親と、誠実で愛情深いものの忍耐の限界に達しつつある父親を持つ、10歳の少年の物語だ」。そして、その次に重要なコメントが書かれている。「映画における統合失調症の描写は、メンタルヘルスの専門家達から、極めて正確で、かつ、同情的だと高く評価されている。少年と彼の父親の物語は、大きなストレスにさらされた愛のポートレート〔生き生きとした描写〕だ」。第3節には、①監督・脚本のJoseph Grecoの母は統合失調症で、彼が少年時代に感じたことが映画に反映されていること、②彼の父もヨットを造った、と書かれているので、映画に説得力があるのは自伝的な側面があるからであろう。あとは、映画の内容についての記述だが、最後の一文に私は暖かい感情で満たされた。「『キャンバス』は、“精神的な病に対する唯一の対応は愛である” と思う親子の感動的な物語だ」。これが、この映画を紹介しようと思い立った理由だ。5つの映画祭で9つの賞を受賞している。

母が統合失調症になって1年半近く経った8月。クリスは、夏休みを過ごしていた叔母の家(アラスカ)から、叔母に連れられてフロリダの父の家に戻って来た。母は家にいて順調そうに見えたが、その夜、幻覚を見て警察に電話、やってきた警官から迷惑電話をくり返すことに対し注意される。母の不自然な行動は、新年度の最初の日に、スクールバスに乗った時にも現われ、クリスはみんなの前で恥ずかしい思いをする。母は、アラスカにいた時にクリスが破いたシャツをパッチワークで直して嫌われ、友達のサムの家に行くのを異常な発想で禁止し、クリスから完全に嫌われる。それが精神のバランスを崩し、その夜、母は近所迷惑な異常行動に走り、クリスを意図せずにナイフで傷付けたことで精神病院に強制入院させられる。悲しくなったクリスは、時々学校をサボって、昔母と楽しく過ごしたビーチに行くようになる。一方、父は、“愛する妻と初めてキスした時に乗っていたヨットを再現すれば 妻が元に戻るかも” とすがるような思いで、これまで使わずにきた介護休暇と有給休暇をフルに使い、ガレージの前でヨットを造り始める。一方、クリスは、母が直したパッチワークのシャツで学校に行き、それが片思いの女生徒の興味を惹き、自分にも作ってと頼まれて嬉しくなる。父のヨット造りは、20年働いてきた建設会社の2代目の屑社長から牽制され、おまけに、隣に住む意地悪女からは、私道で勝手なものを造っていると市に通報され、危機に瀕する。一方、パッチワークの方は、徐々に “顧客” が増えて行き、お礼のお金も増えていく。病院に監禁された母は、感謝祭の日に一時家に帰され、レストランで大騒動を起こす。ヨットの方は、場所を裏庭に移し、仕事の傍ら、何ヶ月もかけてゆっくりと仕上げていく。母が次に帰宅を許されたのは、クリスの誕生日。しかし、クリスがやりたい誕生日のささやかなクラスメイトのお祝い会に、勝手に入り込み、クリスは恥ずかしくてたまらない。そして、翌日学校で、2代目社長の根性曲がりの息子にバカにされ、喧嘩をして、校長室に父ともども呼び出される。これが何らかの引き金となって父は会社をクビになる。母にも父にも絶望したクリスは、アラスカに行って叔母と暮らそうと思うようになるが、父の母に対する愛の深さを知り、それにヨットが関わっていたことを知ると、ヨット造りに協力するようになる。パッチワーク作りでもらったお金も、こっそり父の財布に入れて生活の足しにしてもらう。そして、夏休みが近づいた頃、遂にヨットが完成する。母は、病院から出られなかったが、クリスは、初めてのヨットで爽快感を味わい、父とより親しくなる。その父は、病院の敷地内で台車に乗せたヨットに妻を乗せ、親子3人での “ヨット乗り” を楽しむ。

主人公3人のうちの1人、10歳のクリス役は、デヴォン・ギアハート(Devon Gearhart)。1995年5月5日生まれ。主な出演作は、この映画。他に、主役級として、翌2007年に製作された『Dog Days of Summer』という映画がある。この映画の見事な演技を見て気に入ったので、さっそくアメリカのアマゾンに発注したが、その後、英語字幕が存在しないことが分かり発送前だったのでキャンセルした〔ネットで注文確定後にキャンセルできるのはアマゾンぐらい〕。その他の出演作は『Shorts(ショーツ/魔法の石大作戦)』(2009)、『Changeling(チェンジリング)』(2008)くらいで、いずれも脇役。脇役だが、クリスの友達サムを演じるのは、12歳のマーカス・ジョンズ(Marcus Johns)。1993年4月11日生まれ。子役時代に出たもう1本は『The Punisher(パニッシャー)』(2004)のみ。各種の映画の中でも、これほど “性格の良い子供” の役は珍しい。笑顔もとてもいいが、クローズアップが全くない。

あらすじ

映画は、飛行機がマイアミ国際空港に到着するところから始まる。そして、まだ若いジョアンナ叔母が運転する赤のメルセデスCクラスW203の助手席に10歳のクリスが嬉しそうに乗っている。向かった先は、マイアミ都市圏のハリウッド地区にある1階建てのあまり高級とは言えない家が並ぶ閑散とした住宅街。車は、ガレージへの私道に停まっている古びた(1980年代の)フォードのピックアップトラックの後ろに突っ込んで停まる。車から一足先に降りたクリスは、家に向かって走って行く。部屋に入ってまず映るのは、旧式のブラウン管式TV(とっくに液晶式のTVが普及していた時期)。古いピックアップトラックとブラウン管式TVから、お金に余裕がないことが一目で分かる。クリスは、「やあ、ママ」と言うと、居間で絵を描いている母のところまで走って行く。クリスを見た母は、すごく喜び(1枚目の写真)、抱き締めて、「あなたがいなくて寂しかったわ。楽しかった?」と言って訊く。「うん」(2枚目の写真、矢印は破れたシャツ)。「シャツが破れてるわ。どうしたの?」。「何かで、引っかけたんだ」。「すぐ脱ぎなさい。直してあげる」。母は、シャツを脱がせると、自分の服を渡す。そして、そのまま後ろからクリスを抱くと、「食べちゃいたいわ」と言って、首に何度もキスする(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、それまでは、クリスの写真を見て描いていたので、さっそく、本人を画架の前に座らせ、「笑顔よ」と言い、それまで参考にしていた笑顔の写真を “ほらこんな風に” と、顔の前に付き突ける。あまりに近いので、それを見ようと、クリスの目が寄ってしまい(1枚目の写真)、「そうじゃないの、こんな風よ、と写真を離す。クリスが普通に微笑むと、「微笑むと、あなたってほんとに可愛いわね」と喜ぶ。一方、叔母は父と話している。叔母、“クリスの父” にとっての妹は、「最近はどうなの?」と経済状況を訊く。「万全だ… 良好… 何とか」。最後のが、正直なところ。妹は、さもあらんと用意してきた小切手を出す。父は、兄の沽券(こけん)に関わるだけに、「いやいやダメだよ、ジョアンナ。ありがたいが、受け取れない」と断る。妹は、「だめよジョン。絶対見捨てないから」。「もう、十分してもらってるよ」。妹は、「ジョン、受け取ってちょうだい」と言いながら、強制的に兄のポケットに押し込む」。「ほんと悪いな」。「いいわよ」。2人は、母がクリスの絵を描いているところへ妹を連れて行く。「メアリー、誰が来たか見てごらん」。2人の女性は仲良く抱擁する。ジョアンナ:「まあ、すごく上手なのね」。母:「ぜんぜんよ。これ、3度目の課題で、肖像画を習ってるの」。「でも、上手だわ」。「どうもありがとう」。母は、さらに、息子を旅行に連れて行ってくれたお礼を言う。「このまま一緒にいようかと思ったけど、クリスが魚釣りに飽きちゃったと思ったから。それに、あなたも寂しがってるし」(2枚目の写真)。そう言いながら、ジョアンナはクリスの頭を撫でる(3枚目の写真)。因みに、ジョアンナ叔母は、以後映画には登場しない。叔母が住んでいるのはアラスカで〔赤のメルセデスはレンタカー?〕、クリスはアラスカの叔母の家で過ごして帰ってきた〔マイアミからアンカレッジまでの直行便の飛行時間は7時間半前後。北米大陸の最も南東端から北西端までなので(直線距離6500キロ)、信じられないほど遠い〕。映画の中ほどでジョンは、クリスをジョアンナに預けようと電話で相談するし、映画の最後の方ではクリスも行こうかと迷う。だから、ジョアンナ叔母との関係は深いのだが、電話とハガキで名前が出てくるだけ。
  
  
  

クリスは自分の部屋に行き、疲れていたのでベッドに横になる。そして、深夜になり、外が騒がしいので目が覚め、窓から外を見てみる。外には、パトカーが来ている。巡査が、父に、「ジョン、こんな風に出動を続けることはできん」と注意する(1枚目の写真)。近所の人たちが見守る中、父は、「分ってるって。また、あんたたちに電話するとは思わなかったんだ。よく話しておくから。申し訳ない」と謝って、家の中に戻ると、クリスのベッドの脇に座り、2人で外の様子を眺める。クリスが、「また、起きちゃったんだね?」と父に訊く(2枚目の写真)。「医者は母さんに新しい薬を出してる。良くなってるよ。寝るんだ」。夫婦の寝室に戻った父は、妻に、「明日のクリス用に ミートローフのサンドイッチを作ったわ」と言った後で、「あの人たち、窓の下の足跡 調べた?」と訊く(3枚目の写真)。「ああ、調べた」。「確かめたの? 足跡がないって」。「ああ、確かめた。足跡なんかなかった」。母メアリーに、何らかの異常があることを示す最初のシーン。
  
  
  

アラスカで何日も過ごしてきたというのは、夏休みだったのだろう。次のシーンでは、朝、学校の前でスクールバスから降りたクリスが、友達のサムと話ながら歩いている。「あっちは良かった?」。「うん、でもアラスカは、どこに行っても魚なんだ。あっちじゃ、釣りの餌に何つかってるか、きっと信じないよ」。「何だ?」。「魚の卵。嫌な臭いがするんだ」。「僕が使ったことのあるイカほど悪くないや」。「その上、いとこのアリーが怖がって、捨てちゃったんだ」。「そりゃ、ひどい」(1枚目の写真)。サムに注意されて、クリスがほどけた靴紐を結んでいると、形式不明のすべて平らな鉄板でできたオープンカーに乗った同級生でクリスの憧れのドーンが降りてくる。一方、クリアの父は、年季の入った大工で、水路に沿った現場で働いていると、派手な柄のモーターボートが止まり、若い男(ヘクター)が「おい、ジョニー!」と声をかける。ジョンは、「やあ、ヘクター!」と言葉を返す。ヘクターは、誇らしげに両手を広げ、「すごいだろ!」と自慢する。「何が? ボートか、家のどっち?」。「どっちもだ、このトンカチ」。「すごいな。おめでとう」(2枚目の写真、家は、ボートの向こうの豪邸?)。「ありがとよ。今、手に入れたんだ。君たち家族全員を新居移転祝いパーティーに招待するぞ。メアリーの具合は?」。「実は、そのことで話したくて。先月話したことを覚えてます? 叶うかどうか心配で。メアリーの医者からの請求者は山積み。週にあと数ドル増やしてもらえりゃ、助かるんだがな」。「分かってるって。だが、こっちも金利で危機的なんだ。数週間待ってくれよ。何とかするから。ジョニー。俺のピカイチ野郎!」。この若い浪費男は、父親から建設業を引き継いだ二代目。自分は、こんな立派な家に住み、一番の腕を持つ大工のジョンは生活困窮者として放置。ヘクターは、社員のことなど考えない最悪の経営者だ。一方、学校からの帰りのスクールバスの中では、後ろの席に座ったサムが、クリスの耳に人差し指を突っ込んでふざけている。「今度、放課後にバスケしたいか?」。「いいよ」(3枚目の写真)。その頃、メアリーは、スクールバスの停留所の近くで、ハミングしながら待っている。
  
  
  

そこにバスが到着。母は、バスまで走って行くと、ドアが開くなりバスに乗ってきて、「私のベイビー、坊やはどこ?」と運転手に訊き〔返事はない〕、クリスの顔を見つけると、「クリス、大丈夫?」と言いながら座席まで来ると、「坊や、大丈夫?」と言って席から抱いて立ち上がらせると、「元気だよ!」と嫌がるのを無視して、相手が幼児であるかのように、両手で頬を抱き、「それ本当?」と訊く(1枚目の写真)。「そうだって!」。「分かったわ、ベイビー」。あまりの異様さに、バスに乗っている他の生徒達は、みんな身を乗り出して見ている。ははと一緒にバスから降りたクリスは、恥ずかしくてイライラし、「心配してたのよ」とくどくど言う母に、「大丈夫だって!」と怒りをぶつけ、「帰って来ないんじゃないかと心配してた」の言葉なんか無視し、一人で歩いて行き、母が、「クリス…」と言いながら後を追う(2枚目の写真)。そして、夕食の時間。クリスは、バスで懲りたので、父に、「明日は、自転車で学校に行っていい?」と訊く(3枚目の写真)。父は、「こんな暑いのに?」と笑う。「パパ…」。「ママが心配するぞ」。ここで母が、「車に乗せて行けば。仕事に行く時」と言い、父も即座に賛成する。
  
  
  

翌日、学校のランチの時間。クリスがサムの隣に座ると、昨日のバスに乗っていて “現場” を目撃した “クリスの出来の悪いガキ” が、周りの子に、バスの中での出来事を話し、クリスに、「母さん、どうしたんだ?」と 笑いながら声をかける。クリスは、父に送ってもらっただけで自転車がないので、バスに乗ろうかまよっていると、さっきのガキが乗車口でみんなに何か言っているので、バスは諦め、歩いて帰る。そして、一人で歩道を寂し気に歩いていると、例の変な車がホーンを鳴らして停まり、中からドーンが、「クリス!」と声をかける。運転席の母親が、「乗ってかない?」と言ってくれたので、クリスは助手席に乗る。そして、家の近くまで来ると、また母がいるといけないので、「ここで、降ろしてもらえます?」。「ここが家なの?」。「少し、歩くけど、いいんです」。「いいのよ、どこなの?」。「ほんとに、大丈夫です」。「バカ言ってないで、どこなの?」。「あれです」〔幸い、母は外にいない〕。クリスは、お礼を言って車を降りると、そのまま家に入り、ホッと息をつく。そして、「ママ?」と呼ぶ。返事はないが、ミシンの音が聞こえるので、その部屋に入ってみると、ミシンは動いたままで、母は放心状態。クリスが、すぐ横に立ってママと呼ぶと、ようやく意識が戻り、「学校はどうだった?」と訊く。「良かったよ。何してるの?」。「あなたのシャツを直したの」。そう言うと、シャツの穴を、別のシャツの布でパッチワーク的に繕った物をクリスに見せる(1枚目の写真、矢印)。「それ、僕のお気に入りのシャツなのに!」。「大丈夫、これでいいの。生地が違っても変じゃない」。「変だよ!」。「そお。じゃあやり直すわ」。そう言うと、母は、別のシャツの布を剥がし始める。「どうでもいいよ。もう着れないから」。次のシーンでは、居間で、画架の横に座った妻と同じ部屋で、父が電話をかけている。相手は、彼の会社が加盟しているHMO(健康維持機構)の担当者。質問の要点は、“なぜ、精神疾患は彼のHMOで保障されないのか?”(2枚目の写真)〔アメリカには、日本のような国民皆保険制度はない。個別の企業の健康保険に加入することになるが、その最大手がHMO。しかし、連邦規則集(Code of Federal Regulations)の、医療維持組織に関する第417巻の460条 「HMOによる受益者の登録解除」の(e)正当な理由による登録解除の理由の中に、「HMOは、登録者の行為が精神疾患に関連していないことを確認すべき」という項目が入っている。つまり、2010年に制定されたACA(通称オバマケア)以前のアメリカでは、精神疾患にかかる費用は普通の健康保険ではカバーされない〕。夫の、文句の電話を聞きながら、メアリーは、何度も口を挟む。最後の言葉は、「あなたが、なぜ薬代を払っているのか分からない。そんなの欲しくない。要らないの。分かった?!」(3枚目の写真)。夫が電話を終えると、「政府の人に電話なんかかけて欲しくないし、私の病気のことをぺらぺらとまくし立てて欲しくなんかないの!」と、面と向かって抗議する。
  
  
  

その直後、今度は逆にサムからクリスに電話がかかってくる。それは、サムの家での “お泊まり” に対する勧誘だった。クリスは、父に、「行っていい?」と許可を求め、父も 「もちろん」と言うが、それを聞いた母が、クリスを呼びつける。そして、「いつ行くの? 今夜?」と訊く。「うん」。「他に誰がいるの?」(1枚目の写真)。「サムの両親」。すると、母の様子がガラリと変わる。「ダメ、ダメ、今夜は家にいるの」と言い出し、それを聞いた父も、「ママの言う通りだ」と意見を変える。「でも、行きたいよ」。父:「家にいた方がいい」。「どうして?」。母:「それはね、安全じゃないから。サムにも、安全じゃないって言いなさい」。クリスは父に、「いいって言ったじゃないか! 今日は金曜の夜だよ!」と文句を言うが、それを聞いた母が、人が変わったように、「おやめ!!」と怒鳴って立ち上がる(2枚目の写真)。クリスは、「大嫌いだ! こんな家、帰らなければよかった!」と叫ぶと、悲しくなってベッドに横になる(3枚目の写真)。
  
  
  

過度に母を興奮させた “ツケ” は、その夜に襲ってくる。母は、雷鳴に慄き、ベッドで横になりながら、「来ないで」と囁くが、遂に起き上がり、外に出て行くと、「立ち去らない!」と喚き出す。その声で、クリスの目が覚める(1枚目の写真)。雨が降りしきる外では、父が妻に、「濡れるから、中に入って、メアリー、頼むよ」と言うが、母は、「私は、ここから出たい、他のフロリダに行きたいの」と、マイアミにいながら妙なことを口走る。「フロリダは一つしかないよ、メアリー。さあ、家に入ろう。ここにいちゃ、濡れるだけだ。なぜ、薬を飲まなかった?」。最後の言葉が、メアリーを怒らせる。「薬なんか要らないわ!」と叫んで、夫を突き飛ばす。母の姿に驚いたクリスは、戸口から 「ママ」と呼びかける。父は、すぐに、「中に入ってろ」と指示する。すると、メアリーは何を思ったのか、夫に向かって、「違う、違う、あんたよ! 拘置所に行くのは! 私は、拘置所には行かない! あんたよ! 私は、そんなことしてない!」と、大声で喚く(2枚目の写真)。メアリーは、ピックアップトラックの荷台に上がると、同じ調子で叫ぶので、近所の人達が何事かとドアを開けて覗く。メアリーは、“立ち去らなかった” 奴らの声が聞こえるので、耳を押さえて聞こえないようにする(3枚目の写真)。夫は、「家の中に入れば安全だ!」と言い、何とか妻を家の中に戻す。
  
  
  

家の中に戻ってもメアリーの異常な行動は止まらない。ナイフを持ち出して、自分の描いた絵を切り裂き始める。夫は、「メアリー、何してる。そんなこと止めろ!」とやめさせようとするが、妻は、「止めるもんか! 奴らと戦わないと! 私はそれがしたいの! 奴らは聞いてる。家に配線してるの!」と叫びながら、夫が奪い取った破れたキャンバスに向かって何かを投げつける。「何をする!」。「放っといてよ!」。その先、もっと異常になる。メアリーは、「あんたも、奴らの一人ね!」と言うと〔「奴ら」というのは、これまで何度も彼女の自由を奪ってきた精神病院のスタッフのことか?〕、「みんな嘘つき! あんたも嘘つき!」と言い、今度は、夫の頭に何かを投げつける。「メアリー、止めんか!」。こうした争いを、クリスは茫然として見ている(1枚目の写真)。やがて、メアリーは、ナイフを手に持つと、それを夫に向かって構える(2枚目の写真、矢印)。「お願いだ、それを置いてくれ」。そう言うなり、夫は妻の背後に回り込んで背後に逃げる。クリスは、「ママ、止めてよ!」叫び、母を止めようとして背後から近寄り、振り向いた母に、持っていたナイフで腕を傷付けられて、床に倒れる(3枚目の写真、矢印)。妻が茫然としている間に、「何てことするんだ!」と、父がナイフを取り上げる。
  
  
  

その時、隣に住んでいる、実に嫌な “お節介女” が勝手に警察を呼んでいたので、警官がドアをドンドンと叩き、「警察です。開けなさい!」 と要求する。メアリーは部屋に閉じ籠り、「出てって! 連れてかせないで!」と警官と夫に向かって叫び、部屋の中の何かを壊す音が聞こえる。警官はメアリーにドアを開けるよう要求する。様子を見に来たクリスは、警官が手錠を出して手に持っているのを見て心配になる。ジョンは、手錠なんかする事態を悪化させるだけなので、仕舞うように求めるが、警官は、メアリーがクリスを傷付けたことを問題視する。ジョンは、「妻は危険じゃない。あれは事故だった」と抗弁するが、警官は、「ベイカー法を適用し、彼女を病院に搬送します」とジョンに告げる(1枚目の写真)〔フロリダ州のベイカー法に関するサイトには、ベイカー法の対象になる状況について、「フロリダ州法では、以下の基準を満たす場合、非自発的(involuntary)検査のために受け入れ施設に搬送される」と書かれている。その基準とは、自己の行動を制御できないほど、あるいは、現実を認識できないほど、精神的または感情的に障害を受けている場合(薬物乱用は対象外)〕。メアリーは、2人の警官に連行され、多くの近所の人々が接近して見守る中、パトカーに乗せられる。映画では、適切な角度での映像がなかったので、DVDの「Behind the Scenes」の中にある、パトカーに乗せられる寸前の映像を2枚目に示す〔画質が悪く、サイズも異なる〕。母が連れて行かれた後、クリスはベッドに横になり、母との想い出の貝殻を耳に付ける(3枚目の写真、矢印)〔貝殻との関係は、2つ先の節で明らかになる〕
  
  
  

翌朝、2人は、病院に行く。病院の廊下で、クリスは、「なぜ、ママは家に帰れないの?」と父に訊く。「医者どもはママを監視し、薬をちゃんと飲んでいるか確認したいんだ」。「なぜ、ママは飲まないの?」(1枚目の写真、矢印は母のナイフで切った箇所の包帯)。「分からん」。「どのくらい、ここにいるの?」。「分からん」。クリスは、異常な母に会いたくないので、「ここで待ってる」と言い出すが、父は、「ダメだ。ママは お前に会いたがってる」と言い、一緒に連れて行く。しかし、面会室で看護士に連れて来られた母は、強い薬のせいで、魂が抜けたような虚ろな感じで、ジョンが、彼女を自分とクリスとの間に座らせ、優しい声で 「絵の具と絵筆を持って来たよ」と言いながらキスするが(2枚目の写真、矢印は絵筆)、反応はゼロ。クリスは、それを “どうしようもない不安” を抱きながら見ている(3枚目の写真)。看護士が妻を連れて行った後、父は病院から電話をかける。「彼は、戻った方がいいんじゃないかと思ってたんだ。で、しばらく君と一緒に過ごす。ちょうど学期が始まったところだ。彼にとっては、厳しいかもかもしれんが、その方がいいと思うんだ」。その夜、家に戻ってから、クリスは父に、「電話で誰と話してたの?」と訊く。「ジョアンナ叔母さんだ。何が起きたか話したら、叔母さんは言ったんだ。もし、お前さえよければ、事態が収まるまでアラスカに戻って来るのがいいってな」(4枚目の写真)。悲しくなったクリスは、黙って席を立って部屋に行ってしまう。
  
  
  
  

翌日も、父がピックアップトラックでクリスを学校まで送って行く。前回と違うのは、荷台にクリスの自転車を載せてきたこと。これで、帰りに歩かなくても済む。しかし、次の授業中のシーンでは、窓際の席のドーンがふと窓の外を見ると、クリスが自転車に乗ってどこかに行こうとしている(1枚目の写真)〔授業に全く出ずに出て行くのか、1科目でも受けてから出て行くのかは不明〕。クリスが向かったのは、灯台のすぐ横にある浜辺(2枚目の写真、矢印)〔この灯台は、ケープ・フロリダ(Cape Florida)灯台。マイアミの市街地の沖合6キロにあるキービスケーンの先端に 1825年に造られた高さ29mの灯台で、アメリカ合衆国国家歴史登録財になっている。ただし、クリスの家の南約38キロにあるので、自転車で行けるとは思えない〕。クリスは、靴を脱いで砂浜に立つと、小さい頃、母と一緒にここに来た時のことを思い出す。母は、砂浜にあった巻貝を拾うと、「何が聞こえたか話して」と、幼いクリスの耳に貝を近づける(3枚目の写真、矢印)〔だから、昨夜、クリスは貝を耳に当てた〕。その頃の普通だった母のことを思い、クリスは涙を流す(4枚目の写真)。
  
  
  
  

次の月曜日、クリスが家の前での騒音に目が覚めて外に出て行くと、父が家の前で大きな木枠を作っている。「パパ、何してるの?」と訊くが(1枚目の写真)、電気ドリルの音がうるさくて聞こえない。父の横まで行って同じことを訊くと、質問には答えず、「悪いが、ネジが入ってる そこのブリキの箱を取ってくれ」と頼まれる。箱を取って来て、「何してるの? 仕事?」と訊く。「いいや、病欠を取ってるんだ」。「大丈夫?」。「元気だ。学校に行かなくていいのか? 準備して来い。ランチ作るのも忘れるな」。こうしたやりとりを、“お節介女” がカーテンを開けて、嫌な顔をして見ている。クリスは、母がパッチワーク的に破れを直し、それをまた破いたシャツを着てみて、当て布が剥がれかけているのに気付く。そこで、電動ミシンの前に座り、自分で剥がれかけた布をシャツに縫い付ける(2枚目の写真)。彼がどうやって学校に行ったかは分からないが、父は大工仕事で忙しいので、スクールバスか自転車のどちらかであろう。クリスが廊下を歩いていると、後ろから走って来たドーンが、一緒に歩き出し、「調子は?」と訊く。「いいよ」。「どこに行くの?」。「何のこと?」。「授業をサボる時は、どこ行くの?」(3枚目の写真、矢印は当て布)。「ビーチだよ」。「そう… そこで何するの?」。「さあ。魚と遊ぶとか」。「あなたのママ、精神病院にいるってホント?」。「ううん」。その時、始業のベルが鳴る。「行かないと」。その時、クリスはドーンの方を向いたので、ドーンはすぐ面白い当て布に気付く。「ねえ、カッコいいシャツね。どこで手に入れたの?」。「これ? 僕が作ったんだ」。「ホント? クールね。私にも作ってくれる?」。「モチ、いいよ」。「わぉ、とってもクールね」。「僕に、古いシャツをくれるかい?」。「いいわよ、ちょっと待って」。ドーンは、リュックの中からピンクのシャツを出して渡す。「それ、ジム用で、もう要らないの」。「分かった」。ドーンが去ると、すぐにサムが寄って来て、クリスの顔をニヤニヤ顔で見るので〔仲良くドーンと話していたので〕、クリスも笑顔になる(4枚目の写真、矢印はドーンのシャツ)。「やったな」。「黙れ」。
  
  
  
  

その日の夕方、クリスが家に帰って、冷蔵庫が空なのを父に指摘していると、電話がかかってくる。クリスが電話を取ると、それは母からだった。「クリスね、ママよ」。「やあ」。「元気?」。「いいよ」。「パパと仲良くしてる?」。「まあね。パパ、何か作ってるんだ」。妻からの電話かもと思い、クリスの脇にいた父は、「それママか? あれは、サプライズなんだ」と、勝手に秘密を洩らされて文句を言う(1枚目の写真)。クリスは、「パパだよ、バイ」と言って、受話器を父に渡す。相手が夫になったので、メアリーは、「何を作ってるの?」と訊く。「君にとってサプライズになるハズのものだったんだ」と言うと、話題を変えようと、「調子はどう?」と訊き返す(2枚目は、父の話を聴いているクリス)。「疲れたわ」。「その感じ分かるよ。だが、たっぷり休んでるんだろ? 絵は描いてるか?」。「いいえ」。「描かないと。何かしてるのが一番だ」。「家に帰りたい。ここから出たい。ホントのフロリダに戻りたいの」。この言葉に、夫はがっかりする。「フロリダは一つしかないよ。俺たちは、そこにいる」。「分かった。愛してるわ」。「愛してるぞ」。メアリーが受話器を置くと、それを待っていた看護士が、「メアリー、ここでタバコを吸っちゃダメだって知ってるいでしょ」と穏やかに叱った後で、薬の入った紙コップを渡す。メアリーは、飲むとボーッとするので、錠剤を電話機の隅に隠す(3枚目の写真、矢印)。そんなことはお見通しの看護士は、錠剤をつまみ出すとメアリーに渡し、口に入れさせ、飲み込んだ後、口を大きく開けさせ、どこにも薬が残っていないことを確かめる。
  
  
  

クリスは、そのあとで、母のお古の服(?)を使って、ドーンのピンクのシャツにパッチワークを施す(1枚目の写真、矢印は追加の生地)。父も、“サプライズ” の製作に取りかかる。そこに、ランドローバーが発売するフラッグシップモデルのレンジローバーに乗った、金喰い虫の遊び人経営者のヘクターがやって来る。「君の給与小切手を持って来たぞ。遅くなってごめん。アホな会計士の奴が」。「構わんよ。ありがとう」。ジョンは、小切手を見て、“週に数ドル加算” されているので満足する。「メアリーは、どう?」。「順調。今、休んでる。すぐに戻るさ」。「そりゃいい。君は、元気か?」。「ああ」(2枚目の写真)。「病欠は数日だって言ってたが、もう一週間も経つぞ」。「あのな、前にチェックした時、俺には42日の病気休暇が残ってた〔アメリカでは、「家庭および医療目的休暇法」(1993年)によって、企業は、社員の家族の介護のための休暇を1年に最長12週間(84日)まで与えることが義務付けられている〕。あんたは約束通り昇給してくれ、俺はここにいるいだけで、同じ金がもらえるんだ。42日に加えて有給休暇もあったな。会わせると、8.5週間(60日)だ」。「おいおい、俺を殺す気か? 聞けよ。納期に間に合わないし、作業員も仕事が遅い。一体ここで何してるんだ?」。「ヨットを造ってる」。ヘクターは、スペイン語で 「何とクレイジーな」と言った後で、「私道〔一般車道から各家の車庫に通じる私設道〕で ヨットか?」〔法律違反〕と指摘する。「家には入らないからな」。ヘクターは、「こんなクレイジーなことに、無駄金を使うのは止めるんだ。それがなくても、メアリーの請求書でアップアップだろ。明日は、仕事に出て来いよ」と言って去って行く。ジョンは、クリスを連れて、「ヨットマン」という店に行く。父がカウンターに持って来たのは、ヨットに塗るペンキの缶。その時、店の主人に、「古い帆がどこかに転がってませんか? ヨットを造ってるんです」と訊く。「ヨットをですか? サイズは?」。「24フィート(7.3m)」。「野心的ですな」。そう言うと、捨てるつもりだった帆を持って来て、タダで譲ってくれる。理由は、穴がいっぱい開いているから(3枚目の写真)。帰りの車の中で、父は、「一等航海士には帽子が必要だ」と言って、クリスに帽子を渡す。帽子を被ることを嫌がるクリスに、父は、「ヨットが完成したら、ママをノース湖〔North Lake: クリスの家の北北西約390キロキロ〕に連れて行く。そこで、お前のママに会ったんだ」〔なぜヨットを造るのかの動機が初めて明らかになる。それと同時に、ジョンのメアリーに対する愛情の深さも〕
  
  
  

その日の夜、クリスがミルクを飲みに来て、外の明かりに驚いて窓から見ると、父が、真っ暗な中で、照明を点けてヨット造りに熱中している(1枚目の写真)。翌日、クリスがゴミ袋を捨てに出てくると、そこに、自転車に乗ったサムがやって来て、木の骨組みを見て、「あれ何だ?」と訊く。「訊かないで」。「ボートみたいに見える。素敵だな」。そこに、初登場、ヘクターの息子とその腰巾着がやってくる。親のヘクターよりも、さらに根性の曲がったクソガキだ。「あれ何だ?」。サムが「ボート」と言う。クソガキは、「買えば済むじゃないか」と、金持ちを鼻にかけた高慢ちきなことを笑いながら言って去って行く。クリスは、そんなのは無視し、ゴミ袋をゴミ箱に入れると、すぐ横にある郵便受けを開け、中から1通の封筒を取り出し、思わす「ヤバい」と口にする(2枚目の写真、矢印)。「学校からだ」。サムは、「だから、サボるなって言ったろ」〔ということは、灯台に行った時以外にもサボったのか?〕。この封筒の宛先は、「3307 NW Jefferson Ave. Hollywood. FL 33068」となっている。クリスの家は、マイアミ都市圏のHollywood地区にあるのだが、この住所は存在しない。①Jefferson Ave.ではなくJefferson St.、②Jefferson St.の番地は2034までしかない、③郵便番号の33068は、Hollywood地区ではなく、そこから25キロ北にある、North Lauderdaleの番号なので、この宛先は実在する場所ではない〔North Lauderdaleの方が、クリスの家に似た家が多い〕。クリスが ガレージで図面の解読に悩んでいる父に、学校からの手紙を持って、「話すことがあるんだ」と話しかけると(3枚目の写真、矢印は封筒)、「後にしてくれ」と すげなく断られる。「暗くなる前に、これを終わらせないと」。そう言って、また図面を見つめる。クリスが、脇に置いてあった釣り竿を手に取ると、「それに触るんじゃない」と注意。「これで、魚釣りに行こうかと。一緒に行く?」。「今は、できん」。「いつなら?」。クリスが竿を持って出ようとすると、どこかが引っ掛かって照明器具が倒れて電球が割れる。怒った父は、「触るなと言ったろ!」と竿を取り上げる。さっきから無視され続けたクリスも怒り、「このボートの何がそんなに大事なのさ?! みんなが、このことを話してる!」と批判する。「他の奴らには関係ない!」。「みんなが、パパをクレイジーだと言ってる!」。そう怒鳴ると、クリスは、ガレージを出て行く。
  
  
  

次の日、学校に行く前に、クリスは、母が入院している病院のフェンスの前で、寂しそうに建物をじっと見ている。それから、学校に行くと、ドーンのシャツを持って、彼女が来るのを階段に座って待っている。そして、彼女が友達と一緒に現れると、すぐにシャツを渡す。ドーンは、あまりの変わり様に、「これ、私のシャツ?」と驚く。「やり直してもいいよ」。「ううん、これすごく素敵。ありがとうクリス!」(1枚目の写真、矢印はシャツ)。一緒に来た友達はそれを見て、「これ、どこで手に入れたの?」と訊き、ドーンは、「クリスが作ったの」と教える。「わぁ、あなたが作ったの? 私にも作ってくれない?」。「いいよ」。「幾ら?」。ここで、ドーンが素早く口を出す。「20ドル。それに、古いシャツを一着」。女の子は、「今5ドル持ってる。残りは後であげるわ」と言って5ドル渡す(2枚目の写真)。学校が終わり、家に戻ったクリスは、さっそくミシンに向かう。すると、父が部屋に入って来て、「いいニュースだ」と言ったので、クリスは振り向く(3枚目の写真)。ところが、父は、まずミシンのことを訊く。「それ何だ?」。「シャツを何枚か作ってる」。「『何枚か』だと? いつから始めたんだ?」。「何を?」。「裁縫」。「何の用なの?」。「医者は、ママを、感謝祭のディナーに連れて行っていいと言ったんだが、ママは少し緊張しているかもしれないので、心地良くさせてあげんといかん。いいな?」。「分かった」。
  
  
  

そして、感謝祭の日(2005年11月24日)〔夏休み後の授業の再開が8月14日なので、いつの間にか、3ヶ月以上経っている。病気休暇+有給休暇の8.5週間を超えているので、ジョンは、その間、会社の仕事をするかたわら、ヨットを造っていたのだろうか?〕。一家は、七面鳥とパンプキンパイを食べにレストランに出かける。他の大勢の客と一緒に1時間も待たされ、いい加減うんざりした父が訊きに行くと、あと1時間かかるという話(1枚目の写真、矢印はクリス)。「1週間前に予約したのに」。「皆さん、予約されておられます」。ならば、予約時に、待ち時間2時間だけどいいか、くらい訊くべきであろう。不親切で、無責任この上ない最低のレストランだ。メアリーが、「お腹が空いた」と言い出す。それを聞いたジョンは、妻にストレスを与えたらいけないと思い、パンプキンパイだけ売ってくれたら、すぐこの店から出て行くからというが、受け取ったのはアップルパイ。理由は、パンプキンパイが足りなくなったから。予約した客の数だけ用意しておくのが義務なのに、足りなくなったというのは、嫌がらせ以外の何物でもない。当然、メアリーは文句を言う。「感謝祭なのに、パンプキンパイがないというのは、どういうこと?」。それを聞いたジョンは、妻を興奮させまいと同じ質問をくり返す。メアリーの様子が、最低のレストランのせいで異常になってくる。「パンプイキンパイ。レンストランが欠かすなんて変じゃないの? アップルパイですって? よくそんなことが言えるわね?! 私たちが欲しいのはパンプキンパイなのよ!」。そして、遂に立ち上がり、「私の息子はパンプキンパイが欲しいの!! だから、ここで待ってたんじゃないの!! 七面鳥とパンプキンパイを食べたいから!!」と叫ぶ(2枚目の写真、矢印はクリス)。さらに、「ここに座って、待って、待って、待ってたのよ!! パンプキンパイが食べたい!!」とも。クリスは、母の変わりようを、心配そうに見ている(3枚目の写真)。限界だと思ったジョンは、奥に行ってパンプキンパイを調達してくると、妻に渡し、クリスを連れて店を出る。受付にいた役立たずの男は、ジョンの後ろ姿に向かって、「今度は、警官を呼ぶからな!」と叫ぶが、自分が悪いのに何という態度だろう。ジョンは、手に持っていたアップルパイを投げ捨てて、ピックアップトラックで走り去る。
  
  
  

それからどのくらい日数が経ったのかは分からない。次のシーンでは、ミシンの部屋で、クリスが、母が描いたケープ・フロリダ灯台の絵を見ている。そして、立ち上がると、壁の物入れの扉を開ける。中には、同じ灯台を描いた絵が10枚ほど乱雑に入っていて、その一番手前に 見ていた絵を置く(1枚目の写真)。次のシーンは、病院の担当医の部屋。会話は内容からして途中から。ジョン:「でも、あなたは、この薬は効くって言ったでしょ」。医師:「ジョン、統合失調症は治療が難しい病気です。ある人には効いても、別の人には効かない」。「妻が病気になって18ヶ月です。最初の医者は、薬で良くなると言った。今は、ここ州立病院にいて、あなたは、この薬で良くなるかもしれんとおっしゃった。俺が読んだ薬はどうなんです?」。「まだ承認されていません。治験中です」。「妻は、いつ家に戻れるのです?」(2枚目の写真)。「短時間の帰宅を試すことはできます。将来的には週末を。そのためには、症状の安定の確認が必要です」。医師はクリスに向かって、「クリス、君はどう? 耐えていられる?」と質問する。クリスが、「そうですね…」と言い始めると(3枚目の写真)、そこに父が割り込んで、「彼なら大丈夫。俺たちは大丈夫」と言うので、クリスは何も言えなくなる〔日本の「EPHEMERE HOME CLINIC」というサイトの2022.8.24の記によれば、「統合失調症患者の……約8割の人が回復して通常の生活をしているといわれます」と書かれている〕
  
  
  

次のシーンは、私道でのヨット造り。4つ前のカレージから見たヨットと比べ、ほとんど進行していない。ずっと会社の仕事に携わってきたのだろうか? するとそこに市の職員がやってくる。変なのは、2人の服装。夏のシーンと同じで、2人とも半袖で、ジョンは半ズボン。感謝祭の後なので、既にもう12月。いくら暖かいフロリダでも、平均最高気温は25℃、平均最低気温は18℃。感謝祭の日のシーンを入れたために、全体のバランスが崩れてしまったように思えてならない。あのシーンさえなければ、今はまだ8月のハズなので、ヨットの仕上がり具合や、服装に問題は一切ないのだが… それに、この先のシーン。市の職員が訪れた理由は、“お節介女” が苦情を申し立てたから(1・2枚目の写真)〔市の条例で、私道で、このような固定物を作ることは許されない〕。これも、ヨット造りは8月から始めているのに、なぜ12月になってから? という大きな疑問を抱かせる。クリスは、そのままサムと釣りに行く。サム:「ドーンをデートに誘うのか?」。「まさか」。「彼女、君が好きだぞ」(3枚目の写真)〔サムの笑顔がいい〕。「勝手に言ってろよ? で、それがどうか?」。「もうすぐ誕生日だろ?」。「うん」。「じゃあ、僕の両親にアーケードまで車で送ってもらう時、彼女も招待する。ローラースケート場に連れて行ったら、あとはやりたいことをやればいい。言っていること分かるだろ?」。
  
  
  

2人が釣りから戻って来ると、ガレージの前に置いてあった作りかけのヨットがなくなっている(1枚目の写真)。サムは、「ボートは死んだんだ」と言って、帰って行く。クリスが裏庭まで探しに行くと、そこに父とボートが移動していた(2枚目の写真)。「造るの諦めたんかと思った」。「私道じゃ、ダメだとさ。抜け道を見つけた」。そう言って、父は、“お節介女” に、手に持ったビール瓶で乾杯する。市の職員が来た時には、ザマミロと言う顔をしていた “お節介女” は、渋い顔をしていなくなる。次にボートが映った時、枠組みだけではなく、側面と底面に板が貼られて舟らしくなっていた。父は、大工仲間を呼んで来て、ボートを上下ひっくり返してもらう(3枚目の写真)。「もうすぐ誕生日だろ?」とサムが言った矢先なので、数日で貼り終えたことになる。大工は、“お節介女” の区画と完全に切り離すために、木の柵も立てる。
  
  
  

学校では、サムが可笑しな話をしながらクリスと廊下を歩いていると、角を曲がったところで、ドーンが2人の友達と一緒にいる(1枚目の写真、ドーンのシャツは、最初にクリスが作ったものとは違う)。サムは、「彼女いるぞ。男だろ、行け」と言う(2枚目の写真)。「ううん」。「やってみろ」。「ううん」。「怖いのか?」。「ううん」。「なら、行けよ」。そう言うと、「やあ、ドーン!」と声をかけ、自分はさっと角の向こうに消える。ドーンの2人の女達も事情を察して消える。ドーンは、「クリス、最近どう?」と訊く。「別に、あんまり。君は?」。「週末にボートに乗ってきた。楽しかったわ」。「そりゃいいね。ところで、良かったら、来てくれな…」。ここで、最初に20ドル払った “お客さん” がクリスを見つけ、「私の新しいシャツ、できてる?」と訊く。クリスは、リュックから出して渡す。その子は、「素敵だわ」と大喜び。それを見た別の女の子が、「それいいわね。サウス・ビーチ〔海に面したマイアミの街の正面にある島の南端〕で買ったの?」。「ううん、彼が作ったの。すごいでしょ」。今度は、その子がクリスに訊く。「あなたが作ったの?」。「うん」。「幾ら?」。ここで、ドーンが、「40ドル」と、値段を倍に上げる。「それと、古いシャツ」。その値段でも、女の子は、パッチワークが気に入って同意する。2人が去ると、ドーンは、「何か訊きたかったの?」と訊いてくれる。「うん。ええと… 僕の誕生日に何人かの友だちとアーケードに行くんだけど、もしよければ、来てもらえない?」。「あなたの誕生日? いいわ、もちろん」。クリスは、「ホントに?」と大喜び(3枚目の写真)。
  
  
  

誕生日の日。クリスが、ミシンで作業を終えると、父の声が聞こえる。「クリス、サプライズだぞ」。クリスが飛んで行くと、そこには、ピザの箱を持った父と一緒に、買い物袋を下げた母がいた。クリスは母に抱き着き、母は、「ハッピーバースデー」と言ってプレゼントを渡す。中身は、パッチワークの材料の布。感謝したクリスは、母ともう一度抱き合う(1枚目の写真)。メアリーは、居間から裏庭を見て、「あれ何?」と夫に訊く。そこにあったのは、布(帆?)を被せて見えにくくしたボート(2枚目の写真)〔ジョンは、メアリーに余程秘密にしておきたい〕。ピザの箱を開けた父が、クリスに、「来い、食べるぞ」と言うと、クリスは、「サムはどうなるの?」と訊く。息子の話などいつも耳に入っていない父は、「何だ?」としか言えない。「一緒に食べていいって言ったじゃない」。「そうだった。どこでだ?」。「アーケードだよ、思い出した?」。「そうだったな。忘れてたよ」。母は、「大丈夫。いい考えがあるわ。みんなで一緒に座って食べたらどうかしら。家族のように。私が、きれいなバースデーケーキを焼いてあげる。そしてら、お友だちと一緒に遊べるでしょ」と言うが、ドーンとローラースケート場に行くことが目的のクリスにとっては、ちっとも “いい考え” ではない。しばらくして、クリスが外出用にちゃんとしたYシャツを着ていると、父が、「彼女の名前は?」と訊く(3枚目の写真)。クリスは笑顔になるが、「パパ」としか言わない。父は、鏡の前に一緒に立つと、「カッコいいぞ」と言い、「これを試してみろ」と言ってオーデコロンを頬に付け、嫌われる。その時、外で、車のクラクションが聞こえる。「行かなくちゃ」。「待て待て、サムの両親と話させろ」。2人がいなくなり、できあがったバースデーケーキを持った母が一人残される。外で、父は、「8時までに戻していただければ」と言っているので、ケーキはそれから食べれば十分なのだが…
  
  
  

ローラースケート場で。専用の靴を履きながら、クリスが 「転ばないといいな」と言うと、サムが 「きっと転ぶぞ」と笑顔で言う。「無理するなよ。楽しいぞ。心配するな」とアドバイス。ヘクターの息子とその腰巾着のリンクにいる。「誰が呼んだんだろう」。「僕じゃない。気にするな。楽しんで来いよ。君の誕生日なんだ」。そのあと、おぼつかない滑り方で、滑っているクリスとドーンの姿が短時間映る。一方、家では、母が砂時計とにらめっこして時間の経つのを待っている。そして、ふと目をやると、すぐそばに、ピックアップトラックの鍵が置いてある。夫は、裏庭での作業に熱中している〔妻が久しぶりに帰宅を許された時ぐらい、なぜ一緒にいないのだろう?〕。メアリーが、エンジンをかけて車が出て行く音が聞こえたので、うっかり者の夫は飛び出て来るが、後の祭り。そして、子供用のデザートパーラーで。6人掛けの席に、クリスとドーン、反対側に、パッチワークシャツのお客さん2人とサムが座る。クリスは、まず、2人の女の子に、出来上がったシャツを渡す。ドーンは、「ハッピーバーステー」と言って、紙袋を渡す。中には2つの物が入っている、最初に取り出したのは、釣り針。ドーンは、「ママが言ったの。上手な釣り人は、いくつも釣り針を持ってるんだって」(1枚目の写真)。サムは、「知ってるよ。クリスはいつも失くすんだ」と笑顔で冗談を言う。2番目に取り出したのが『GUCCI / BUSINESS IN FASHION』という、本当にある専門的な本(2001年出版)。クリスは、「ガッキーって何?」と訊き、サムは、「財布みたいなもんだよ。ママが持ってる」と変な教え方をする。一方、本を選んだドーンは、「グッチ。イタリアの有名な服飾デザイナーよ。あなたも、その1人になるんでしょ」と言い、サムは、「財布のデザインを仕事になんかしないんだろ?」と、財布にこだわる。クリスは、冗談の報復として、「君がラッキーだったら、スカートを作ってあげる」と言って笑う。ここまでの楽しいひと時は、母が、歌いながらバースデーケーキを持って来ると終わってしまい、クリスは厳しい顔になる(2枚目の写真、矢印)。母はケーキをテーブルの上に置くと、クリスの頭を撫で、「あなたの誕生日なのに、ここにいないということに耐えられなかったの」と言うと、5人に三角帽子を配る。三角帽子は、アメリカのパーティでは大人も被ることがあるので、別に異常な行動ではないが、クリスは、「やめてよ、ママ!」と反撥し、母が、「ケーキを作ったから、キャンドルを吹き消して」と言うと(3枚目の写真、矢印)、「出てって! 行っちゃって!」と怒鳴り、自ら席を立ってどこかに消える〔どちらかと言えば、異常なのはクリスの方〕。その様子を、ヘクターの息子とその腰巾着もしっかり見ている。
  
  
  

その夜、クリスの枕元に行った母は、「昔の私を覚えてる?」と訊く。「昔?」。「そう。あなたが小さかった頃のこと。覚えてる? よくビーチに行ったでしょ。大きな波がくるごとに、あなたは私のところに走ってきた。笑いながら。覚えてる?」。ここで、クリスが、「なぜ、普通に振る舞えないの?」。「あなたは、あれから大きくなった。私はどこかがおかしい。でも、何とかなると思うの。いい? 誕生日を台無しにしてごめんなさい」(1枚目の写真)。次は、ジョンのベッドで。ジョンは、「俺のベッラ・パッツァ(bella pazza)〔美しき変わり者〕」と優しく言う。「もう一度」(2枚目の写真)。「俺のベッラ・パッツァ」。「愛してるわ」。「俺もだ」。このあとも、短いが、2人が心から好き合っていることが分かるシーンが続く。
  
  

翌日、学校に行ったクリスは、ランチの時間に、待ち構えていたヘクターの息子とその腰巾着に絡まれる。「おい、バースデーケーキ欲しいか?」。「フルーティー・ペブルス〔シリアル〕はどうだい?」(1枚目の写真)。「ココア・パフス〔シリアル〕で頭がおかしくなったぞ〔go cuckoo〕」。「カッコー〔Cuckoo〕! 彼はホモだ。待てよ、だから、お尻に夢中なんだ!」。ここで、クリスの横にいるサムが、「あいつらなんか無視しろ」と注意する。「クリス、何でお前のパパはボートなんか造ってるんだ? どっちがキチガイなんだ? ママかパパか?」。「どうした? 冗談が通じないんか?」。「おい、悪いな。ただの好奇心だ。お前のママは、寝る時、拘束衣 着てるんか」。それを聞いた途端、立ち上がったクリスは、ヘクターのクソガキを後ろに押し倒す(2枚目の写真)。3枚目の写真はDVDの「Behind the Scenes」。押し倒す後ろには、ちゃんと分厚いクッションが置いてある。この後、2人の喧嘩が始まる。
  
  
  

その直後のシーン。クリスは、校長室(?)の前で、頭に冷却材を当てて座っている(1枚目の写真)。そこに父が入って来て隣のイスに座り、「見せてみろ」と言って、頭を触ってみる。そのまましばらく待っていると、ドアが開き、ヘクターの息子と、ヘクターが出て来る。息子は謝りもせずにさっさと消え、ヘクターは高慢な顔でジョンを見下すように見ると(2枚目の写真)、これも 何も言わずに出て行く。クリスとジョンは、代わりに校長室(?)に入る。
  
  

家に戻ったクリスは、父の制止を聞かずに自分の部屋に行こうとするが、「クリス!」と怒鳴られて立ち止る。父は 「たくさんガキがいる中で、寄りによって ボスの息子を選ぶとはな!!」と怒鳴る(1枚目の写真)。クリスは、「そこにいなかった! 何も分かっちゃいない!」と反論する(2枚目の写真)。「分かってるさ。何もかも。お前が授業をサボってることも、喧嘩したこともな」(3枚目は、父にそう言われた時のクリス)「俺は、お前のママさんで手一杯なんだ。なのに、こんなことしやがって! お前は外出禁止だ。部屋に行ってろ!」。しかし、頭に来たクリスは、部屋に行こうとしない。父が、捕まえて、「俺の話を聞いただろ? 部屋に入ってろ!!」。「嫌だ!!」。
  
  
  

クリスは、そのまま裏庭に出て行くと、作業台の上から金槌を取り上げ、ボートの中央部を叩いて木材を割り始める(1枚目の写真、矢印)。その音に気付いた父は、飛んで行って破壊を止めさせ、「何をするんだ?!!」と怒鳴る。「たかがボートじゃないか! ただのクソいまいましいボートだ! 僕なんかどうでもよくて、このバカげた木片の方が大事なんだ!」。「どうして欲しいんだ?! 何なんだ?!! 映画に連れて行って欲しいのか?! 魚釣りか?! それなら満足か?! ママを取り戻したかいか? 俺は妻を取り戻したい。正常になって欲しい。かつての彼女が、何もかも欲しい。最初に会った時のままの彼女が」(2枚目の写真)「俺が愛した女性が。どう思う? 俺だって、彼女がいなくて寂しいんだ。悪かった。ごめんよ。きっと、ママは良くなる」。「やめてよ! やめて! やめて! ママは、ぜったい治らない!」(3枚目の写真)「ママはクレイジーで、パパもそうだ!」。「クリス、いいか、今が最悪に辛いことは知ってる…」。「違う! パパは何も分かっちゃいない! ママがクレイジーにふるまうのを見るのがどんなに辛いか知らないんだ! 友だちに笑われるとどんなに落ち込むか知らないんだ! ここが大嫌いだ! こんなトコにもういたくない! ジョアンナ叔母さんに電話して、二度と戻って来ない!」。それだけ言うと、クリスは自転車に乗ってどこかに向かう。
  
  
  

激しい口論の後、クリスが向かった先はドーンの家。2人はケープ・フロリダ灯台に行き、その先端の岩礁の上に並んで座る(1枚目の写真)。ドーンは、「小さい頃、私、いつも、(地球の)反対側には何があるんだろう、って不思議に思ってたの」と言った後、「ケンカのこと気の毒ね」と同情する。「思うんだけど、僕のママのこと、みんな知ってるんだ」(2枚目の写真)。「あなたのママ、いい人よ。変なのは私のママ。つまりね、いつもおかしなタバコ吸ってて、とっても変な音楽聴いてるの。そうすると、悪魔が寄って来ないんだって」(3枚目の写真は、それを聞いたクリス)。「あなたのママは、あなたの誕生日を楽しくしようとしたのよ」。クリスは、納得して頷く。そして、「反対側にあるのは、アフリカだよね」と言い、2人とも笑顔になる。
  
  
  

一方、クリスの家には、助手席にバカ息子を乗せた最悪の経営者ヘクターがやって来る。そして、「ジョニー」と言った後で、下を向いて、「言い出しにくいな」と呟き(1枚目の写真)、何を言われるか悟ったジョンは、「何てことを… やめて! やめれくれ!」と頼む。「俺は… もう、あんたを雇っておけなくなった」。「冗談だよな?」。「悪いな」。「俺を解雇するのか? 俺たちのガキどもが喧嘩したから? それとも、疾病手当をもらったから?」。「それとは関係ない。酷い護ご時世のせいだ。Kendallにある口座を失ってしまった。それに経済状況も… これは、容易な決断じゃなかった。君は俺の友だちだから」。この言葉で、ジョンの怒りに火が点く。「俺があんたの友だち?」。「友だちだ」。それを聞いたジョンは、笑いを浮かべ、「あんたは厚かましくも〔have the sauce〕高級車で俺の家に来て、俺をクビにして、ひどい目に遭ったからだと? いい加減しろよ。俺は、20年間、あんたの家族のために骨を折って来た〔busted my back〕。最初はあんたの親父さん、そしてあんただ。あんたが、新しい家やボートを買ってる間。週に100ドル余分にくれることが、そうしてくれていれば家族の面倒が見れたのに、そんなに大変なことだったのか〔would it have killed you to〕? 友だちだと? あんたは絶対友だちなんかじゃない」。それを帰って来て聞いていたクリスは、「解雇されたのは、僕のせい?」と心配する(2枚目の写真)。「いいや、何の関係もない。もっと前から、こうなることに気付いておくべきだった」。「僕たち、これからどうなるの?」。「一文なしだ」〔ヘクターは、退職金も払わないつもりなんだろうか?〕。そして、翌朝。クリスの方が先に起きて来て、後から父がやってくる。「パパ、今日はボートで働くの?」。「いいや、お前の方が正しかった。お前の年寄りパパはクレイジーだった。ボートは分解して、裏庭から運び出す。バカなことを考えたもんだ」。そう言うと、アラスカの叔母から来た新しい絵葉書を見せる。「アラスカは、凍えるくらい寒いな」と言う(3枚目の写真)。「老人のために、お前流のシャツを1枚作ってくれんか?」。「もちろん。40ドルだよ」。「40ドルだと? 家族割引はないのか?」。「原価でいいよ」。
  
  
  

その夜、父は、悲しそうに昔の写真アルバムを見ている。そこに映っていたのは、初めて会ったメアリーと、ノース湖のヨットの上で過ごしている2人の愛に満ちた姿だった。それを見ながら泣いている父を、クリスも見てしまう。そして、翌日、父が食料品を買って帰宅すると、裏庭で、クリスが、金槌で穴を開けた部分を木材用パテで修復している(1枚目の写真)。そして、「完成させるべきだと思う」と言う。父が何も言わないと、「どうしたの? 僕たちで造れるよ。まあ、僕は手伝しかできないけど。木材はもうほとんど調達したんでしょ?」。黙っている父に、最後に、「造ろうよ」と言い、父もようやくその気になる。2人は足りない木材を調達に行くが、長年付き合ってきた店の主人は、タダで分けてくれる(2枚目の写真、矢印が追加の木材)。製作過程を映した短いシーンの中で、クリスはノコギリで薄い板を切断して、父は、ヨットの先端のバクデッキと呼ばれる部分を研磨している。一方、学校では、クリスのパッチワークが人気を集め、“お客さん” がどんどん増える(3枚目の写真、矢印は40ドル)。後半2枚の写真の部分には台詞は一切ない。
  
  
  

会計はサムが担当し、売る上げ高を見たクリスは、その金額にびっくりする(1枚目の写真)。そして、①2人で船体に濃い緑色のペンキを塗っているシーン。②2人でテイラー〔舵板の角度を変える〕を取り付けているシーン、③クリスがミシンに向かっているシーン、④多くの女生徒がクリス・パッチのシャツで廊下を歩いているシーンのあと、⑤クリスが売上金の一部を持って父の寝室にこっそり忍び入り、父の財布に入れるシーンがある(2枚目の写真)。翌朝、雨が降っているのでピックアップトラックでクリスを学校まで送ってきた父は、クリスにランチ代を渡した後、財布が膨らんでいるので変だと思い、中からお札を取り出して(3枚目の写真、矢印)、クリスのプレゼントだと分かってニッコリする。
  
  
  

晴れているので、恐らく別の日、クリスとドーンがいつものビーチを裸足で歩いている。そして、「夏の間、何をするの?」と訊く〔いつの間に、冬を通り越して夏が近づいた?〕。「アラスカの叔母さんちで過ごすんだ」。「アラスカ?」。「うん、叔母さん、湖の上に住んでる」。「クールね」。「いつ戻って来るの?」。「戻って来ないつもりなんだ」。「どうして? そのこと、両親は知ってるの?」。「パパはね」。「アラスカって寒いわよ」。「そうだね」。「灯台まで競争よ」。「いいよ」。2人は灯台の基部まで行き、灯台の中に造られた螺旋階段を見上げる(2枚目の写真)。筒状の壁とは無関係に伸びる螺旋階段が特徴的だ。参考までに、日本で一番背の高い日御碕灯台(1903年、高さ63m)では、螺旋階段は壁と連結され、固定されている(3枚目の写真)。日本は地震があるからだろうか? ドーンは、螺旋階段を見上げているクリスの頬にキスする(4枚目の写真)。厳しい映画の中で、一瞬の甘い瞬間。「さよなら。行かないと」。ドーンが去った後、クリスは初めキスされて幸せな気分になる。その夜、ヨットの仕上げの作業をしながら、クリスは、「ママに最初にキスしたのはいつ?」と訊く(5枚目の写真、矢印はテイラー)。「ヨットと何の関係がある?」。「訊いてみただけ」。「じゃあ、話しておこう。簡単じゃなかった。それは3回目のデートの時、ヨットの上でだった」。「写真のヨット?」。「そうだ。別のことも話しておこう。あのヨットがなかったら、今、お前はそこに座っていないだろう」〔メアリーとは結婚しなかった→クリスも生まれなかった〕「ママは、旅人の守護者であり聖クリストファーから、お前の名を付けた。ママはヨットが好きだったから」。
  
  
  
  
  

父は、ヨットが完成したら、3人で楽しい時を過ごそうと言うが、クリスは、「学校は来月終わる〔学年末は5月の最後の週〕。そしたら、僕は叔母さんのところに行くから…」と言う。父は、「なら、そえまでに完成させないとな」と言う。「そうだね」。父は、旧友(?)の助けを借りて、マストを立ち上げる。立てるためのワイヤを引っ張る機械を回すのは、クリスの役目だ(1枚目の写真、矢印はワイヤ)。マストが直立すると、底部を固定し、ロープを前後に張り、帆を取り付ける。最後に、クリスがヨットの名前をきれいに描く。船名は、いつも父が妻を愛おしがって呼ぶ時に使うイタリア語に定冠詞を付けた「ラ・ベッラ・パッツァ」(2枚目の写真)。父は、さっそく病院に電話をかけ、「メアリー、ヨットは完成したぞ。週末に、朝一番で迎えに行く。医者もOKした」と、笑顔で話す。ところが、病院で電話を取ったメアリーは、しばらくボーッとして何も答えないでいた後で、「今は良くないと思うわ」と元気なく言い、看護士が持ってきた薬を素直に飲み、「また今度。2人で行って」と告げる。「大丈夫か?」。「せっかくの楽しみを台無しにしたくないの」。そう言うと、返事も聞かずに電話を切る(3枚目の写真)〔「医者もOK」→いい加減な医師の判断〕。すぐ横にクリスがいるので、息子を心配させまいと、父は、切れた電話に向かって、「いいや、彼ならここにいるよ。君がいなくて寂しがってる。分かった。愛してる。さようなら」と言って電話を切る。クリスは、「ママは来ないんだ」とがっかりするが、父は、2人でも出航すると宣言し、クリスを元気づける。
  
  
  

そして、いよいよ出発。裏庭から、隣の家との間の狭い通路をどうやって通り抜けたのかは分からないが、とにかく、1枚目の写真のように、ピックアップトラックが台車に乗せたヨットを引っ張って、市道まで到達できた。面白いのは、ヨットの台車が市道に出た時の振動で、“お節介女” との間に立てた木の柵がバタンと倒れたこと。そのあと、ヨットを引っ張ったピックアップトラックは、家の前の通りをひた走る(2枚目の写真)。この通りには、幅広い脇道が並行して付いているので、DVDの「Behind the Scenes」では、その撮影状況も紹介されている(3枚目の写真)。
  
  
  

港に着くと、父は、進水用の斜路からヨットを海に滑らせて海に浮かべる(1・2枚目の写真)。グーグルのストリート・ビュー(3枚目の写真、矢印)でこの辺りの街路を見ると、家の前にヨットを置いた家が各通りに数軒あったので、そういう人達はこの種の斜路を使って海に浮かべるのだろう。日本のように、常に海に係留しておく状況とはかなり違っている。ラ・ベッラ・パッツァ号は、モーターで海を滑るように走り出す(4枚目の写真)。
  
  
  
  

帆で走る前に、父は、“一等航海士” のクリスに、舵の取り方を教える。マストの上部に取り付けた風向きを示す矢羽根の存在を教え、「矢が示している風の方に舵を取って欲しい。でないと帆を上げられない。テイラーはできるだけ強く握ってるんだ」(1枚目の写真)。そして、クリスがテイラーを押せば、ヨットは右に、テイラーを手前に引くと、ヨットは左に進むことも教える。父が、帆を張る用意をしていると、ヨットの近くを大型のクルーザーが警笛を鳴らしながら接近してくる。クリスは心配になるが、父は、風に沿って進むよう指示するだけで、慌てない。それでも、すれすれなことに変わりはない(2枚目の写真)。帆が上がった頃、ヨットの前方に石の防波堤が見えて来る。クリスは父に緊急通報し、父は、テイラーを思い切り左に倒すよう指示し、急いでクリスの所に降りて来てテイラーを押さえ続ける。ヨットは、何とか石の防波堤にぶつからずに済んだ(3枚目の写真)。
  
  
  

ここまで来て、父はモーターを止める。ここからが、当方のヨットだ。父は、ロープを引っ張って、ジブ〔先端の三角帆〕を上げる。そこには、母が描いた絵がいっぱい縫い付けてある(1枚目の写真)〔キャンバスは布地なので、パッチワークができる〕。2枚目の写真は、左に旋回したところ。3枚目の写真は、DVDの「Behind the Scenes」の撮影風景。右端が撮影班の乗ったモーターボート。ヨットには、操船のプロが1人見えないように乗っている。因みに、「Behind the Scenes」の中で、監督は、撮影は父と母が最初にヨットに乗って好きになったノース湖で行ったと述べている。
  
  
  

2人は、風を心地良く感じながら、ヨットの楽しさを満喫する(1枚目の写真)。そのあと、ヘクターの豪邸の前に停泊しているヘクターの悪趣味なモーターボートがエンストで動かないシーンがあり、ヨットは、そのすぐ前を通りながら、父が、「よお、ヘクター、ケ・パソ〔Qué paso、どうした〕? ガス欠か?」と スペイン語を交えて、笑いながら訊く。辺りが薄暗くなった頃、航海をやめた父は、ヨットを止め、クリスに母との出会いについて詳しく話す。最後の方の会話は、「彼女は、とても美しかった。今でもな」。「そうだね」。「一緒に来られなくて残念だった」。「きっと、いつか」。「そう思うか?」。「うん」。クリスは、しばらく考え、「アラスカなんだけど、すごく寒いんだよね」と言うと〔アラスカには行かないと暗黙に言った〕、それを聞いた父は笑顔になり、2人は抱き合う(2枚目の写真)。こんなクローズアップ映像なので、近くからの撮影かと思ったら、「Behind the Scenes」では、岸からの望遠レンズによる撮影だった(3枚目の写真)。
  
  
  

映画のラストは、ピックアップトラックに牽引された状態で、州立病院の敷地内を走るヨットに乗った一家3人の姿(1~3枚目の写真)。母は退院したわけではない。本当のヨットの上で楽しむシーンで終わらなかったということは、今後も、母は入院を続けることを暗示しているのか? それとも、できりだけ早くヨットの楽しさを妻に味合わせたいと思ったジョンが取った粋な計(はか)らいで、そのうち元気になって退院できるのだろうか?
  
  
  

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