ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Chef シェフ 三ツ星フードトラック始めました

アメリカ映画 (2014)

かなり前に紹介した 『Abe(エイブ/イブラヒムやアヴィじゃない)』(2019)と同じ、フードトラックとネット活用の双方が主題の映画。どちらが好きかと訊かれれば、100%こちらの映画。なら、なぜ紹介が遅れたかと言えば、未公開作を優先しようとしたため。しかし、日本公開作の未紹介分が貯まってしまい、方針を転換することにした(両者、半々ずつといった感じ)。この映画のどこがそんなに好きか? ①脇役のパーシー役の10歳のエムジェイ・アンソニーがとても可愛く、しかも重要な役を任されている。②アメリカ映画らしいハッピーエンドが、ワザとらしくなくて爽快。③パーシーが父に “こき使われる” 場面があるが、前紹介作の 『父、帰る』 で “文句たらたらの不逞” の息子にげんなりしただけに、その無垢な熱意に感動させられる。④美味しそうな各種料理の調理過程が楽しめる。⑤普通、映画では “食べる真似” がほとんどなのに、この映画では本当にたっぷり食べている。この映画の唯一の欠点は、誤解を招く邦題。なぜ、「三ツ星」という形容詞が付いているのか? 「三ツ星」というと、誰でもミシュランを思い起こすが、監督・脚本・主役のジョン・ファヴロー演じるシェフは、顔を隠したネット上の1人の評論家のブログで批判されるだけ。彼は、マイアミでは新進気鋭だったが、ロスの伝統あるレストランのシェフに招かれ、オーナーの方針で “客に媚びる料理” に専念したためマンネリ化し、酷評され、2つ星に。だから、以前は3つ星だったかもしれないが、それはあくまでも個人のブログ上での評価。 「三ツ星」という言葉が想起させる世界的評価とは全く違っている。ネットに関しては『Abe』はインスタグラムだったが、それは、Abeが作った料理の写真をSNS上で紹介するのが主目的だったため。この映画では、(a)シェフと評論家の罵り合い、(b)パーシーによるフードトラックの宣伝が言葉中心なので、ツイッターが映画の中で大きな役割を担わされている。パーシーがフードトラックの旅を通じて作る1秒動画も親子関係に大きな意味を持つ〔1秒動画なので、ツイッターの140秒制限は十分クリヤーできる〕。映画の前半は(a)、後半が(b)のロードムービーと、映画の性格が途中でガラリと変わるところも、予想外でとても面白い脚本だ。シェフ役のジョン・ファヴローが『アイアンマン』『アイアンマン2』の監督だったことから、ロバート・ダウニー・Jr、スカーレット・ヨハンソンが出演しているのも面白い。名優ダスティン・ホフマンを、シェフを失業に追い込む頑固なレストラン・オーナーという悪役で登場させ、それがきっかけとなってシェフがフードトラックを始め、結局は、息子のパーシーとの親子関係を取り戻させるという展開は、ダスティン・ホフマンが父親を演じた親子関係の名作『クレイマー、クレイマー』に対するリスペクトか?

初登場のマイアミで、新星シェフとして絶賛されたカール・キャスパーは、ロスの老舗レストランに引き抜かれて10年が経ち、マイアミで結婚したイネスとの間に生まれたパーシーは10歳になっていた。しかし、バツイチだったイネスとの関係は良好だったものの、結局は離婚し、パーシーは母が養育権を獲得し、学校との往復や週末だけ父と一緒という生活を送っていた。老舗レストランのオーナーは、キャスパーを招くにあたり、厨房には口を出さないと約束したくせに、メニューは客に媚びて従来路線を踏襲し、キャスパーの自由にさせなかった。そのうっぷんもあってか、あるいは、シェフとしての業務の忙しさのためか、彼は、息子パーシーのことが良く分からない。時々一緒にはいるが、心の通い合わない親子同士だった。そうしたマンネリ状態に、ある日大きな変化が起こる。ロスで最も有名なネット上の料理評論家ラムジー・ミシェルが食べに来るというのだ。キャスパーは張り切って新作料理に挑もうとするが、オーナーに禁じられ、結果として定番料理を食べさせられたミシェルはブログ上で落胆と批判を書き連ねる。それを読んだキャスパーは傷付き落ち込むが、厨房でコックたちがツイッターを見ていたことから、週末で泊まりにきた息子パーシーにツイッターの使い方を訊く。ミシェルは、使い方をよく知らないまま、ミシェルに皮肉を込めた短文を送るが、それは、全フォロワーに拡がってしまい、おまけに、ミシェルの皮肉たっぷりの返事も全フォロワーに拡散する。キャスパーは、何とか事態を収拾させようと、ミシェルに、もう一度店に来いと挑戦するが、その最後の機会すら頑迷で冷淡、自分勝手でシェフを単なる雇用人としか考えないオーナーによって封印される。キャスパーは店を辞めるが、食べに来て再度失望させられたミシェルの手厳しい反応を読み、怒り心頭でレストランに行き、本人の前でわめき散らす。それを何人かの客がスマホで動画撮影し、SNS上に投稿したことで、キャスパーは致命的な打撃を受け、再就職もままなくなる。離婚はしたが、キャスパーに好意をもつイネスは、かつての持論を生かそうと、元夫に頼んで、古いフードトラックを融通してもらった上で、キャスパーとパーシーを “原点” であるマイアミに連れて行く。そこから、父子揃っての奮闘が始まる。フードトラックには、レストランのNo.3のコックだったメキシコ移民のマーティンも加わり、パーシーの巧みな宣伝ツイートにより、マイアミ、ニューオーリンズ、オースティンで大成功。パーシーは夏休みが終わるまで2ヶ月間一緒に働き、父から一人前のコックとして認められ、親子間の心も通い合うようになる。ロスに戻ったキャスパーは、パーシーの1秒ビデオを見て 息子が如何に旅を喜んだかを悟り、学校が始まっても放課後と週末にフードトラックを手伝ってもらうことにする。そして、半年後、キャスパーはイネスと再婚する。

パーシー役のエムジェイ・アンソニー(Emjay Anthony)は2003年6月1日生まれ。映画の撮影は2013年7月なので、撮影時10歳。この映画に出演するまでに、映画やTVに出演しているが、本格的なデビューはこの映画が初めて。他には、『Krampus(クランプス 魔物の儀式)』(2015)、『Incarnate(ドクター・エクソシスト)』(2016)が日本で公開され、重要な役を担っている。この映画では、結構いろいろなものを食べさせられ、メイキングでは、「子供には大変だった」と監督に言わせている。可愛くて表情が豊か。演技はとても自然。

あらすじ

ロサンゼルスのガロワーズというレストランのシェフとして働くカール・キャスパーは、3番手のマーティンと一緒に、朝から気張って料理の下準備をしている。今夜、有名なネット評論家が食べに来るので、久し振りに新作料理を作ろうと意気込んでいる〔ガロワーズでは、信じられないことに、5年間メニューを変えていない〕。カールは、農産物の直売所に行こうとマーティンに時間を訊くと、もう 10時だと言われる。「10時? 子供を拾いに行かないと」。カールの車はメルセデス。お金があるように見えるが、車種はW116。Sクラスの初代モデルで製造・販売は1972~80年。映画の撮影は2013年なので、33~41年も経った中古車〔40代半ばのカールが その車を新車で購入したとしたら、4~12歳の頃に買ったことになるので、彼は見栄で高駐車の中古車を買った〕。あとで、離婚したカールの “棲み処” が映るが、半分倉庫のような場所なので、一流レストランのシェフなのに生活はかなり貧しいことが分かる〔メイキングでも、ファヴローがはっきりそう言っている〕〔「indeed」というサイトによれば、ロサンゼルスのシェフの平均時給(2021年)は19.61ドル。8時間週5日として1ヶ月3137ドル≒34万円。確かにこれでは少ない〕。カールの息子パーシーは、父がちっとも来ないので、家の前の歩道まで出て待っていると(1枚目の写真)、ようやくカールが到着する(2枚目の写真、矢印はパーシー、背後のスペイン風の建物が母とパーシーの家)。パーシーが車に乗ると、「シートベルトを閉めろ〔Buckle up〕、相棒〔buddy〕。遅れてすまん」と謝る。「慣れてるよ」。「なあ、友よ〔pal〕、今日は、映画に行けそうもない」。「批評を受けるからだよね?」(3枚目の写真)。「そうだ。どこで知ったんだ?」。「ママが話してくれた」。「何て言ってた?」。「パパは、ちょっと心配してるって」。「心配してるだと?」。「うん」。「ママは、パパのこと 良く知らないんだ」。「ママは、バッチリ知ってるよ〔spot-on〕」。

「ママは、パパに何をやれって思ってるか、知ってるか?」。「何?」。「フードトラックなんだぞ」。「僕、好きだよ」(1枚目の写真)。「ああ、パパも好きだ。フードトラックが嫌いな奴がいるか? だが、パパがフードトラックを運転してる姿、想像できるか? パパはシェフなんだぞ」(2枚目の写真)。「そうだね」(3枚目の写真)。「これから、農産物の直売所に行って、幾つか食材を買う」。「行ってもいい?」。「レストランで降ろそうかと思ってる」。「一緒に行きたい」。「いろいろ訊いたりしないよな?」。「しない」。「お前の食べ物を買うんじゃない。パパが使う食材を買うんだ」。「分かってる」。

直売所で 父が最初に買ったものはニンジン、次がラディシュ。その時、パーシーが父のお腹の辺りをトントンして、「パパ」と言う(1枚目の写真)。「何だ、パーシー?」。「ケトルコーン〔甘みの入ったポップコーン〕、買ってよ」。「パパは仕事中なんだ。ケトルコーンはダメだ。なぜ、フルーツにしない?」。「食べたくない」。「ケトルコーンなんか、よく頼むな? 材料を知っとるのか? 砂糖をまぶした炭水化物だ。このフルーツを見てみろ。美しいだろ? こんな素敵なフルーツが目の前にあるのに、ケトルコーンなんか よく欲しがるな?」(2枚目の写真)。しかし、その次のシーンでは、パーシーが大きなケトルコーンの袋を手に持って食べ(3枚目の写真、何かを本当に食べる最初のシーン)、父も時々 袋に手を突っ込んで食べている。「どうやら、大物の評論家が送り込まれるようなんだが、彼は 料理についての人気ブログも持ってるらしい。ブログが何だか知っとるか?」。「うん」。「料理について、インターネットで書いてる奴だ。そういう奴らは、パパのことが嫌いだ。駆け出しの頃、マスコミで褒められたから、パパに悪意を持ってるんだ〔got it in for me〕」。「文句言い〔hater〕さ」。「その通り」。

父は、食材を買いにきたのを忘れ、息子にアンドゥイユ・ソーセージ〔フランス起源の豚肉の燻製ソーセージ/フランスの植民地だったニューオーリンズの名物〕を試させる。2人が食べているのは、フィセルのようなパンに、アンドゥイユ・ソーセージ、唐辛子で炒めたタマネギとパプリカ、マスタードを挟んだもの(1枚目の写真、何かを本当に食べる2番目のシーン)。父は、「これは、ニューオーリンズの名物だ。ニューオーリンズって聞いたことあるか?」と訊く。「ルイジアナ州にある、ナポレオンから買った街だ」〔これだけ聞くと大したことないように思えるが、右の地図で分かるように、1803年にナポレオンから購入したルイジアナは緑色の部分で、その右側の “イギリスとの独立戦争で1783年にアメリカとして成立した薄茶色の地域” が、この購入により一気に倍に増えたことを考えると、アメリカの歴史にとっては非常に大きな問題なので10歳のパーシーでも学校で教わっている〕。それを聞いた父は、「そうだが、ずい分 昔の話だな」。「1803年だよ」(2枚目の写真)。「食べ物や文化について話そう。あそこには、アンドゥイユ・ソーセージがある。ベニエ〔揚げた菓子〕もある。聞いたことあるか?」。「今、食べてる」。「同じじゃない。こうして食べるのは、昔あそこに行った時の記憶を思い出させてくれからだ。あそこは全くの別世界なんだ」。「いつか行かなきゃ」。「もちろん」。「それ本気?」。「ああ。今すぐじゃないがな」。父は、パーシーが来月夏休みだと聞くと、「それでいいぞ。ママに訊かないと」と言う。パーシーは即座にスマホで母にメールを送り、「もう訊いたよ。素敵ね、って言ってる」と言い、スマホの画面を父に見せる(3枚目の写真)。「もう訊いたのか? どこで、それ手に入れた? そんな年で、みんなもう持ってるのか?」。

次は、先の場面の直後に入るべき未公開シーン(写真の左下隅に★印)。パーシーが次に食べるのはベニエ(1枚目の写真)。2人はベニエを食べながら車に向かう。父は、「いい批評は保険になる」と話す。「保険?」。「クビにはされん」。「なぜ、クビになるのが怖いの?」。「仕事があれば、自由にできる」。「パパがボスじゃないの?」。「ボスだ」。「じゃあ、好きにしたら?」(2枚目の写真)。父は、レストランを流行らせてオーナーを幸せにしないといけないと話す。パーシー:「彼がボスだ」。「厨房じゃ違う」。「ボスが2人いるの?」。「そうだ」。「ボスは1人と決まってる」。「間違いだ」。「ビデオゲームでも、最後に勝つのは1人だよ。ボスは1人。2人なんて変だよ」。そして、「でしょ?」(3枚目の写真)〔これが、極めて正しい分析であることがすぐに分かるので、カットされたのかも〕

カールが “本戦” に向け準備をしていると、そこにレストランのオーナーが勝手に厨房に入って来て、「メニューを変える気か?」と、難しい顔で訊く。厨房のことには口を出さないという契約だったので、カールが “邪魔者扱い” すると、オーナーは、「外してくれないか」と他のスタッフを遠ざけ、カールと2人だけになる。カールは、「勝手にスタッフに命令してもらっては困る。それは俺の権限だ。客席側はあんた、厨房は俺の領分だろ。それが、あんたが俺を雇った時の取り決めだ」と抗議する。ところが、オーナーは、「雑誌が君のことを将来の期待の星と書いたことなどどうでもいい。君は、私のレストランで働いてる。そうだろ?」(1枚目の写真)「君の前にも 何人も別のシェフがいた。君の次にも他のシェフがいる」。この頑迷で、シェフに対する敬意のかけらもない経営者は、シェフの新しい料理への挑戦を禁じる。カールが、このレストランのメニューを、ひどい “創造的マンネリ〔creative rut〕” と指摘しても、他のレストランと比べ儲かっているからと “恥知らず” な返答をする。ただし、その次のカールの発言は理解できない。「5年間、同じ食事を出している」。そんなことはあり得ない。メニューは季節によっても変わるのが当たり前だし、そもそも、5年も同じ物を出し続けていたら、客が飽きて来なくなる。私は、フランスの「三つ星」の日本の出店に100回以上通ったが、楽しみは、新しい季節のメニューを味わうこと。同じものは二度と食べなかなった。なので、この発言はどうみても可笑しい。そもそもカールがまともなシェフなら、こんな創造性を発揮できない職場に安い給料で雇われ続けること自体奇妙で、オーナーを “マンネリ” と批判する前に、辞職して新しいまともなレストランに転職すべきだった。長々と書いたが、それは、この部分が、この映画の脚本の最大の欠点だから。結局、オーナーは、いつも通りのメニューを出すことを、カールに強制する。評論家が来てからの様子は、映画ではカットされ、代りに、翌日、パーシーと一緒に街に出たカールが、骸骨を使ったストリート・パフォーマーを、放心した様子で見ている場面に変わる(2枚目の写真)。父が、あまりにじっと見ているので、しびれを切らしたパーシーは、何度も「パパ」と呼びかけ、やっと振り向いた父に、「もう行こうよ」と催促する。そのくらい、昨夜の出来事は、カールにとって屈辱だった。

その日の夜、厨房のNo.2、No.3、レストランの案内係 兼 カールの愛人は、行きつけのバーに集まっている。カールは、評論家のレビューがネット上で発表されたので、スマホを見ながら、皆に読んで聞かせる。「10年前、私は、マイアミのビストロで、キャスパー・シェフの啓示的とも言える料理を味わう幸運に恵まれた。彼の大胆不敵とも言える 新鮮で勇敢な料理スタイルは、私が料理評論を職業とするきっかけとなった」。ここまで読んだカールはご機嫌となる。しかし、ガロワーズでの感想になると表現は一変する。「ああ、時はすべてを変える。この10年で、カール・キャスパーは、マイアミで最も先鋭的なシェフから、“好きになって欲しくて 会う度に5ドルくれる優しいだけの伯母さん” に変わってしまった。それも、“弛んで湿った胸の谷間で息苦しくなりそうで、抱擁されたくないと怯(ひる)んでしまうような伯母さん” に」。カールの読み上げる声は徐々に小さくなり、周りにいる仲間もいたたまれない様子だ(1枚目の写真)。そこからは、それぞれのディッシュの手厳しい批判に入る。そして、最後の言葉は、「彼の劇的な体重増加は、彼が厨房に戻された食べ残しをすべての食べているに違いないという事実によってのみ説明できる」と皮肉り、「星2つ」で終わる。このメニューの責任は、すべて、客に媚びって儲けることしか考えないオーナーにあるのだが、それに甘んじて給料をもらっているカールも同罪と判断しての評価だ〔こんな つまらない料理を作ることに耐えられないくらいの良心があるなら、レストランなんか辞めればいい〕。その夜、カールは 案内係の女性と一緒に過ごす。そのせいで、翌朝、カールがパーシーを迎えに遅れて乗りつけると、待っていたパーシーが、「ママが話したいって」と言う(2枚目の写真)。家に入ったカールは、ネット上の評を読んで心配する元妻のイネスに、①評は気に入らない、②傷ついたが、③大丈夫と強がってみせる(3枚目の写真)。イネスは、(a)パーシーが傷ついている。(b)1時間も外で待たされたと話す。それを聞いたカールは、「今から、償(つぐな)ってくる」と言う。

その先、遊園地のシーン(1枚目の写真)と映画館のシーン(2枚目の写真)が入るが、ともに僅か2秒足らず。これは、カールが上の空だったことを暗示している。パーシーを家の前まで送り届けると、「楽しかったろ?」と義務的に訊く。「うん。どこ行くの?」。「メニューの研究だ」。「まだ早いから、見ていい?」(3枚目の写真)。「悪いが、仕事なんだ」。「邪魔しないから」。「マジな仕事なんだ」。「分かった」。「来週、楽しもう」。カールは、“心ここにあらず” だったのは、評論家に再挑戦し、ぎゃふんと言わせるメニューを考えるためだった。その先、カールが斬新な料理を作って行くプロセスが紹介される。カールは徹夜して料理作りに励み、朝やってきた3番手のマーティンが驚いて心配する。そして、彼は、うっかり口を滑らせて、「くだらんツイッター」と言ってしまう。カールに 「何が言いたい?」と訊かれ、適当に口を濁す。そして、カールの作った料理を味見し、絶賛する。その後に入って来たスー〔副〕・シェフも、料理を絶品だと称賛するが、「くだらんツイッター」と口を滑らす。同じ言葉が2人によって使われたことで、「『くだらんツイッター』が、どうした?」と訊く。「ツイッター、しないのすか?」。「しない」。「SNSって聞いたことは?」。「ある」。「それですよ」。カールが、それ以上訊こうとすると、料理の話に逃げてしまう。

先ほどのシーンから、さほど時間が経っていないであろう場面。パーシーが、質素なカールの部屋にいるので、一旦 イネスの家に行き、連れて来たことになる。パーシーは、タブレットのゲーム熱中し、そこからすぐのキッチンでは父がパーシーの食事を作っている(1枚目の写真)〔食パン2枚の間に2種類のスライス・チーズをはさみ、両面にバターを塗って鉄板で焼いたもの〕。「おいしいね」。「当たり前だ〔You bet your ass〕」。カールは、厨房での会話を思い出し、「ツイッター 知ってるか?」と訊く。「うん、アカウント持ってる」。「どういうもんだ?」。「クールだよ。ツイートするんだ」(2枚目の写真)。「それって、テキストメッセージ〔携帯の〕みたいなものか?」。「違うよ」。「パパも入れろ」。「いいよ。どんなユーザー名がいい?」。結局、「@ChefCarlCasper」に決まる。父が、評論家のレビューのその後のことが知りたいと言ったので、探してみたパーシーの言葉は、「Oh, shit〔わお or やばい〕」(3枚目の写真)。 下品なF-wordなので、すぐに、「そんな言葉使うな。ママがいなくてもダメだ。汚い言葉は作って欲しくない」と注意する。「あのレビュー、ネット上で拡散してる」。「どういう意味だ?」。「みんなが見て、リツイートしてる」。パーシーは、父にタブレットを見せて、延々と続くタイムラインのツイートを示す。父は、「こいつらみんな、レビューを読んでるのか?」と愕然とする。「うん」。「Oh, shit」〔パーシーと同じ言葉だが、大人が使うことはOK〕。ここで、パーシーは意外なことを言い出す。「これって、クールだね」。「ぜんぜん」。「違うよ、こうしてることがだよ」。「してるって?」。パーシーは、父と母の離婚協議で、一定時間父と過ごすことになっていたのだが、これまで父がやってきたように、ただ一緒にいるだけでは満足できなくなっていた。だから、「一緒に話したり、教え合ったりするのがいいんだ」「これ楽しいよ。何が起きてるか分かるから。一緒に住んでた時みたいだ」と話す。父は、ようやく気付く。仕事にかまけて、息子をほったらかしにしておいたことに。パーシーは、「なぜ、家に戻って来ないの?」と訊く。「ママとパパは、お互い別の道を進み始めてしまった。今でも、仲のいい友達だ。だが、同じ家には住まない方がいい。もう結婚していないから」(4枚目の写真)。

その後、カールは、パーシーにツイートの仕方を教えてもらう。そして、夜になってパーシーが寝てしまうと(1枚目の写真)、カールはパーシーのタブレットを使い、ツイート一覧を見る(2枚目の写真)。「しらけるぜ。彼の料理はそんなひどくないと思うぞ」という カールに好意的なものもあるが、「秀逸な毒ペンのレビューだ」「金曜の予約はキャンセルね」と、評論家の側に立つものの方が多い。カールが、ツイートの内容を詳しく見たのは、「カール・キャスパーの大失態〔shits the bed〕」と銘打ったツイート。開いたページには、先ほどの大見出しの下に、「ラムジー・ミシェル、最新のレビューで、かつての “FOOD & WINE” のベスト新シェフを激しく批判」という副題が付いている。そして、カールはさらに、ミシェル自身のブログを開いてみる(3枚目の写真、顔の部分にはモザイクがかかっている)。カールは しばらくこのブログを見たあと、ミシェル宛にツイートする(4枚目の写真、空色の矢印は今後とも常にツイッターの投稿を示す)。この英文をどう解釈するかは難しい。フランス語、ドイツ語、オランダ語の字幕を見てみたが、“sat on your face” は直訳している。このフレーズは、後でミシェルが返信に使う “sit on my face” と対をなしている。選択肢としては、直訳、Urban Dictionaryに従う、の2通り。には “what a female say's when she wants oral sex” と書かれている。日本語字幕は、をさらに意訳し、「お前のボけた舌じゃクンニもできんな」となっている。の訳では、「あんたじゃ、料理を顔の上に置いても、料理の出来は分からんだろうな」となる。の訳では、「あんたじゃ、プッシーみたいに舐めたとしても、美味い料理かどうか分からんだろうな」となる。

翌朝、父が朝食を作っている横でタブレットを見たパーシーは、「パパ、昨夜だけで1653人のフォロワーができたね」と言う(1枚目の写真)。「いいことか?」。「すごいよ。何か投稿した?」。「いいや、ある奴に、個人的なメッセージを送っただけだ」。「誰に?」(2枚目の写真)。「くそったれ〔A-hole〕の料理評論家だ」。パーシー、ツイッターの送信ルールについて説明し、「パパ、リプライ・ツイートは公開される。誰でも読めるんだよ。パパの相手は、それを、自分のフォロワー123845人にリツイートしてる」。「奴は、何て言った?」。「読みたくない」。「いいから、読めよ」。パーシーは読み上げる(3枚目の写真)。「I would rather have you sit on my face after a brisk walk on a warm day than have to suffer through that fucking lava cake again」。日本語字幕は、「あのクソまずいケーキをもう一度食うくらいなら、あんたの股に顔を突っ込むよ」となっている。相手が男性なので クンニ云々が使えず、股に顔を突っ込むすることで、フェラチオを暗示している。ここでも出てくる “sit on my face” も、各国語字幕は直訳。Urban Dictionaryでは、(i) A phrase used when one desires to orally please another(ii) The annoying habit of a kitty の2つの違った解釈がある。直訳では、「あのソクみたいな溶岩ケーキをもう一度苦しんで食うくらいなら、暖かい日に早歩きした後で、私の顔の上にあんたを座らせてやる方がまだマシだ」となる。(i)に準じた訳では、前半は同じで、最後が、「あんたのペニスを舐める方がまだマシだ」となる。(ii)を使わないのは、前節の “sat on your face” に対応していないため。父は 「それが、パパへの返信か?」と訊く。「フォロワー全員へのね」。カールは、大変な事態に度肝を抜かれる。

その後、厨房に行ったカールは、No.2、No.3とともにスマホを見る。この段階で、カールのフォロワーは2000を突破。「みんな、あの下司野郎に返事しろと催促してる」。「そんなことしないで、シェフ」。2人の反対を無視して、カールは文章を書き始める。そして、「俺たち3人がOKするまで送らん」と断った上で、文章を読み始める(1枚目の写真、矢印)。「今夜、もう一度来たらどうだ。お前だけのためにメニューは一新したぞ、このクソ野郎」。それを聞いた2人は、反対するが、カールは送信してしまう。「パーシーを送ってから、戻って来る。そしたら、この前作るハズだったメニューを調理する」。次の場面はパーシーを家まで送る車の中。パーシーが、「今日は、どこに行くの?」と訊くと(1枚目の写真)、「家で降ろす。今夜のために買い出しだ。悪いな」と謝る。「一緒に行っていい?」。「ダメだ。ごめんよ」。「僕は どうして厨房に入っちゃいけないの?」。「暑くて、騒がしくて、汚い言葉が飛び交うからだ」。「汚い言葉なら、いつも聞いてるよ」。「どこで?」。「ネットで」。「10歳の子が 汚い言葉を聞くなんて、どんなサイトだ?」。「ユーチューブ」(3枚目の写真)。そして、「買い物だけでも、一緒に行けない?」と頼むが、料理に集中したいと断られる。

車が パーシーの家の前の道路に着くと、珍しく イネスが待っている。お泊まり預かりだったので、母は、「いらっしゃい。寂しかったわ。キスして」と言って、パーシーを招き寄せる(1枚目の写真)。パーシーが家に向かうと、イネスは助手席の窓から覗き込み、「私の広報担当が 相談に乗ってもいいと言ってるわ。話してみたら?」と、親切に進言する。「ツイッターの件かい?」。「あなたの書いたこと、みんなが読んでるわ。その意味、分かってないでしょ?」(2枚目の写真)。そう言うと、家に入って電話するよう勧める。家に入ったカールは、「君は、深刻に考え過ぎだよ」と、折角の援助を断る(3枚目の写真)。「私は、こんな あなたを見たくないだけ」。「こんなって? 別に何とも。仕事に行かないと」。「他人のために料理してたって、あなたは幸せになれない」。「フードトラックのことかい? あの話を蒸し返すなよ」。「どうして? 好きな料理が作れるのよ。自分がボスなんだから」。この再度の提案も、カールは拒否。「今でも、俺の好きな物なら何でも作れることになってるんだ」〔前回、オーナーにメニューの変更を拒否されたのに、認識が甘い〕。そのあと、「広報担当には、俺のペニスの写真なんかツイートしちゃダメなことくらい知ってると、伝えといてくれよ」と言うので、以前の2つの節の2人の投稿の訳は、が正しい。

カールが、レストランに行くと、評論家との “勝負” が広く知れ渡ったので、予約は満杯。カールは、シェフおまかせの特別メニューでいくと張り切る。ところが、そこにオーナーがメニューを持って入って来ると、「カール、メニューはこのままだ、いいな?」と言う。「今夜のために特別メニューを考えてる。食べてみれば…」。「そうかもしれん。だが、開店以来、平日にこれだけ予約が入ったのは初めてだ」。「俺が、ツイッターに書いたからさ」。「今度から、ウェブに投稿する前に、私のOKを取れ。いいか?」。「今夜満杯なのは、俺が ラムジー・ミシェルに挑戦したからで、みんな、奴が鼻をへし折られるのを見に来るんだ」。「君は、ロスで最も尊敬されている評論家をクソ野郎呼ばわりしたことを ツイッターで謝れ」〔オーナーは、ツイッターを読んだ〕。「謝るもんか。あいつ、俺をこき下ろしたんだぞ!」。「何を書こうが知ったことか!」。オーナーは、いつものメニューを出せと迫る。「奴が、こき下ろした〔ripped apart〕料理を出せってか?」。「芸術家になったのか。やるなら、労働報酬時間外にやれ」。「厨房は俺の縄張り。それが取り決めだ」。「取り決めなんか知るか、このボケ〔I don't give a fuck〕! 取り決めは今変えた。ここに留まるか、出てくか、君次第だ。議論終了」(1枚目の写真)〔最悪のオーナー〕。怒ったカールは、スー・シェフを連れて辞めようとするが(2枚目の写真、矢印)、小心者のスー・シェフは、自分がシェフになれる機会だと思い、後に残る。夜になり、レストランにやって来たミシェルは、最初に出されたオードブルを見て、前回の料理と同じなので、案内係を呼び、「これって、前回来た時のメニューじゃなかった?」と訊いた後で、「キャスパー・シェフと話せるかね?」と要求する。すると、最低のオーナーが、「素晴らしい2009年の赤〔カリフォルニアのナパ産〕を、空気に触れさせようと開けたところです」と ご機嫌取りに来る。ミシェルは、「キャスパー・シェフはいるかね?」と訊く。「残念ながら、出て行きました」。「戻って来るのかな?」。「不確かです」。次に取ったミシェルの行動は褒められたものでない。「@ChefCarlCasperは現れなかった。彼の料理に一番足りないのは誠意だろう」とツイートする(3枚目の写真、矢印)〔日本語字幕が名訳だったので、そのまま採用した〕〔それにしても、出て行った理由も確かめず、一方的に決めつけるのは “誠意” のない評論家だ〕

自宅で、その投稿を見たカールは、ただちにレストランに駆け付け、オーナーの制止を 「やめろ、邪魔するな 」と振り切り、ミシェルの前に立つと、怒りをぶつける。「俺は、この愚劣な奴〔prick〕に ずっと言ってやりたかったんだ! あんたは何だ?! そこに座って、ただ食って、毒舌を吐き続けるだけ。受け狙いでな。俺がどれだけ苦労したか知ってるのか?! あんたを喜ばせようとしたのに、ひとりよがりの悪口をばらまきやがって! 傷つくだろ! あんな たわごと書かれりゃな! このクソ野郎め! でたらめ書いて、でっち上げてるだけじゃないか!」(1枚目の写真)。ここで、画面が変わり、レストランの客の1人のスマホ動画に変わる(2枚目の写真)。この動画で、カールが最初に叫んだ言葉が 「You're not getting to me!」。これは、難しい英語だ。日本語字幕は「認めんぞ!」。日本語の吹替えは「俺は負けないぞ!」になっているが、何れも、訳せないから想像して付けただけ。「WordReference.com」というサイトで、この台詞の意味を尋ねていて、それに対する回答に基づいて訳すると、「これ以上、俺を傷つけることは許さん!」となる。動画を撮ったのは1人ではなく、たちまちネット上で拡散する。事ここに至り、カールは イネスの広報担当に頼み込むが、削除不可能と言われる。その時、担当が見ているパソコン上の画面が3枚目の写真。「CELEB CHEF LOSES HIS SH*T!」は、「有名シェフ、感情を爆発!」くらいの意味。担当の提案は2つ。①『Hell's Kitchen(ヘルズ・キッチン~地獄の厨房)』〔FOXの人気TV番組(2005~10年)〕に出演する、②嵐が去るのをじっと待つ 。

そこに、イネスから電話がかかってくる。カールは、「何て言って欲しい? 俺は、料理がしたいだけだ。昔、ガロワーズに行こうとした時、半ダースの店が俺を引き抜こうとした。来週いくつか当たってみるつもりだ」と現況を話した上で、「仕事が上手くいくまで、パーシーを頼めるか?」と打診。イネスは、「でも、ニューオーリンズには連れて行くんでしょ?」と訊く(1枚目の写真)。それを聞いたパーシーが、タブレットから目を離して、母の方を見る(2枚目の写真)。父:「パーシー、そこにいるか?」。母がスマホをパーシーに渡す。パーシーは、父が何か言う前に、「ねえ、パパ、ニューオーリンズには行けないのは、分かってるよ」と言い、父をホッとさせる。「いつか、そのうちね」。「もちろんだとも。ありがとう」。パーシーが、寂しそうに 「じゃあね」と言ってスマホを脇に置くと、彼が見ているタブレットの画面が映る(3枚目の写真)。字は小さくて分からないが、父が、オーナーにレストランから追い出される場面だ。

その夜、カールが 行きつけのバーに行くと、そこには、一番忠実だった3番手のマーティンがいた。「これはこれは、有名人のお越しだね」。「見たのか?」。「あい」(1枚目の写真)。「最悪だ。ありとあらゆる所に出てる」。「二度とシェフになれないかも」。「真面目な話、あちこちから声がかかってる」。「そりゃ 凄い。嬉しいね」。マーティンは、お呼びがかかれば、いつでも今のレストランを止めて駆け付けると保証する。そのあと カールは、案内係で愛人の女性の隣に座る。彼女は、意外なことをカールに進言する。「あなたは、これまでの人生で、顧みるべき多くのことを無視してきたわ。特に、パーシーを。パーシーはあなたを必要としてるのよ」。「俺は、あいつのことがよく分からん。扱いにくい年頃だからな」(2枚目の写真)。「どうして、この機会を使って、もっと良くパーシーを知ろうとしないの?」。

昨夜の進言が効いたのか、カールはパーシーに会いに行く。出てきたメキシコ人のナニー〔乳母〕に、「パーシー、どこ?」とスペイン語で訊く。「部屋ですよ」。「俺が来たって言ってくれないか?」。「もちろん」。そこに、声を聞いたイネスが階段を下りてくる。「久しぶりに、パーシーに会いに来たんだ」。「来てくれたのは嬉しいけど、どうして予め電話くれなかったの?」。そこにナニーが来て、「『眠てる』 って言いました」と言う。「じゃあ、話してくる」。「ちょっと待って」。「彼女は、『眠てる って言いました』 と言った。もしホントに眠ってたのなら、『眠ってました』と言うハズだ。だから起きてる」。イネスは、会う前に、ちょっと話していいかしら?」と言い、カールを玄関の外に連れて行く。彼女は、カールの運命を変える重要な話をする。「パーシーと私は、父に会いにマイアミに行くの。一緒に来ない?」。「何だって」。「3人で行きましょ」(1枚目の写真)。「マイアミなんか行けない。そんな金 ないんだ。仕事を探してるんだが、ネットやツイッターのバカ騒ぎのせいで、全部吹っ飛んじまった」。「あの子、あなたとニューオーリンズに行けなかったので、すごくガッカリしてるの。傷ついて、会いたがってる」。「分かった。俺はどうすりゃいい?」。「ナニーを飛行機に乗せられないから、あなたが一緒に来て、私が仕事してる間 あの子を見てて欲しいの。マイアミにいる間は パーシーのナニーに。マイアミは、パーシーが生まれ、あなたが初めてシェフになった街。気分が一新するんじゃないかしら」。その会話を、パーシーは2階の部屋で聞いている(2枚目の写真)。ここから、場面は一気にマイアミに。3人は向かったのは、フォンテンブロー マイアミ ビーチという高級リゾートホテル(https://www.fontainebleau.com/)。ロビーに入ってすぐ、イネスは、「すぐミーティングに出かけなくちゃいけないから、部屋に行ったら、すべてクリーンなことを確認して、パーシーに食事を注文し、昼寝やお風呂を…」と言い始めたので、パーシーは、「待ってよ、昼寝?」と反対する。「夜が長いから。おじいちゃん〔Abuelito〕の歌を聴くのよ」(3枚目の写真)。「ホイ・コモ・エア(https://hoycomoayermiami.com/)〔有名なナイトクラブ〕でか? パーシーの年齢で?」。「父は、一度は孫に歌を聴かせたいと思ってるの」。

夜になり、イネスは、パーシーとカールを連れてホイ・コモ・エアの前まで来る。「ここで、おじいちゃんはお仕事してるのよ」。「おじいちゃん、まだ働いてる? 何してるの?」(1枚目の写真)。クラブの一番奥では、10人ほどの楽器の演奏に合わせて Perico Hernandez(http://www.pericohernandez.com/)〔キューバ生まれのシンガーソングライター〕が 特別出演で歌っている。最初は戸惑っていたパーシーだったが、父と母の体の動かし方を見習い、楽しく踊り出す(2枚目の写真)。ショーが終わって4人が行ったのがヴェルサイユというキューバ料理の店(https://www.versaillesrestaurant.com/)〔建物の一角には、カフェもあり、後の未公開シーンに出てくる〕。深夜なので、パーシーは祖父にもたれて眠ってしまっている(3枚目の写真)。そこで3人が食べたのがキューバンサンドイッチ。カールは 「実に美味いな」と感激。しかし、イネスは 「あなたの方が上手」と言う。「ロスに戻っても、この種の食べ物、受けるかな?」。「これ、“本物” よ。当然だわ」。「マーヴィン〔イネスの最初の夫〕と話してみるよ。彼は、フードトラックについて、どう思うかな? 今、街にいると思う?」。「さあ、でも、明日見つけるわ。電話して」。「いるって知ってるんだろ? だから、ここに俺を連れて来たんだな?」。「何言ってるのか、さっぱり分かんない」。

翌朝、カールが訪れたのは、「カーディフ/建設機材レンタル」という会社。ドアを開けると、大きな受付けに秘書が1人ポツンと座っている。カールが要件を言うと、「ブーティーは?」と訊く。ブーティーには複数の意味があるが、ここでは “病院の無菌室などで使われる使い捨てのオーバーシューズ” のこと。何のことか分からないカールに、ブーティーを持参しなかった人用に用意している箱を出し、「靴を脱ぎたくなければ、これをどうぞ」と渡す。カールは、空色のブーティーを2つ取ると、靴に被せる。そして、時々滑りながら、秘書に案内されて社長室へ。マーヴィンとカールは、イネスの元夫と前夫という変わった関係だ。親しみを込めた挨拶の後、マーヴィンが最初に話題にしたのが、秘書の妊娠。秘書はマーヴィンの子供だと言っているが、彼は2008年に精管結紮術(パイプカット)を受けている。それでも子供として認めるかどうか迷っている。その後、カールの話題に。「君は、ネットでめちゃくちゃになった。凄かったな。君は激情で尊敬を失った。すべてをな。君は負け犬じゃないんだが、負けたんだ」。そして、イスに座り、テーブルに足を投げ出すと、彼もブーティーを付けている(1枚目の写真)〔『アイアンマン』のトニー・スタークのイメージとは違う〕。そして、いきなり、「正直言って、フードトラックは凄いアイディアだ。意味は分かるよな?」と言い出す。「シンプルさを取り戻そうと思ってる」。それを聞いたマーヴィンは、同じ女性の夫だったことを理由に〔イネスに頼まれた〕、真っ白な1988年型シボレー・グラマン社のフードトラックを提供すると言う。「ありがとう」。「見てから言え」。外で待っていたカールの前にやってきたフードトラックは、20年間使われただけあり、かつては真っ白だったが、今は薄汚れたボロ車だった(2枚目の写真)。外観よりもひどかったのは、汚れ切った車内だった(3枚目の写真)。

カールが中をチェックしていると、そこにマーティンから電話が入り、スー・シェフになったと報告する。ひとくさりお祝いの言葉を聞かされた後で、マーティンは、「で、あんたさんは どうするんで?」と訊く。「きっと笑うぞ。フードトラックを手に入れた」。「嘘でしょ〔Get the hell out〕! タコ〔タコスのこと〕・トラックをやるんで?」。「キューバンサンドイッチ、バナナ、アロス・コン・ポーヨ〔鶏と米の料理〕、普通に家で食べるシンプルな奴だ」。「懐かしいな、今すぐ食べたいよ」。そこに、パーシーとイネスを乗せた車がやって来る〔こちらは、同じメルセデスでもW221。当時の最新型〕。カールは、トラックについて、「いい筋してる。かなり手間がかかるがな」と イネスに言う(1枚目の写真)。パーシーには、「中を見てみたいか、相棒?」と訊く。「どうしても?」。母は、乗り気でないパーシーのお尻を押して、「ほら、行って。パパの新しいトラックじゃないの!」と行かせる。すると、パーシーが 「中で何か死んでる」と言いに来る。母は 「たぶんネズミよ」と軽くいなし、カールには 「仕事に行かないと」と言う。置いて行かれると危惧したパーシーは、「ちょっと待ってよ、行かないで」と母に言うが、イネスは、カールには 「助けてくれる〔パーシーのベビーシッターになる〕と言ったわね」と釘を刺し、息子には 「パパと一緒に頑張って。楽しいわよ」と嘘をつき、車に戻って去って行く。母に見捨てられた形のパーシーは、父に言われた通りに手伝う。ホースを取って来て、車体に水をかけ、父が、ズラシで汚れを落とす(2枚目の写真)。その後は、①タイヤをブラシで擦ってきれいにし、②車内のゴミを次から次に捨て、③ゴム手袋をはめて車内のステンレス板全部を洗剤で擦って汚く変色した油を取る。3枚目の写真は、壁に洗剤を吹き付けているところ。これは、どうみても、“ベビーシッターされている少年” ではなく、“ただ働きでこき使われている少年” だ。それでも、パーシーは、文句も言わず、ただ黙々と手伝い続ける。

問題が起きたのは、そのあと命じられた冷蔵庫内の掃除。パーシーが開けた途端、強烈な悪臭が襲う。思わず、シャツで顔を覆い、「この臭い何なの?」と訊く。父は、「さあな。何だろうと きれいにしろ」と すげない返事。パーシーは鼻を覆ったまま、臭い物の入ったトレイを、丸ごとゴミ箱に捨てる(1枚目の写真、矢印)。それを見た父は、「いったい何したんだ?」と叱るように訊く。「きれいにしたんだ」。「捨てるんじゃない。きれいなホテルパン〔調理用のトレイ〕じゃないか。汚れを刮(こそ)げ落とせ」。「気持ち悪い。やだよ」。「ゴミ箱から出すんだ」。「冗談だろ。あんな汚いもの」。「他の物と同じように、きれいにすりゃいいんだ」。「イヤだ」。「ゴミ箱から出せ」。「イヤだ」。「厨房で働きたいんだろ? これが厨房の仕事なんだ」。「料理してみたかったけど、こんなのイヤだ!」(2枚目の写真)。「ゴミ箱から出せ!」。「イヤだ。このバカ・トラックを丸ごと掃除したじゃないか! なんでそんなに意地悪するの?!」。そう叫ぶと、パーシーはトラックを飛び降りて、正面の倉庫に逃げて行く。カールは、パーシーが捨てたホテルパンにこびりついた数センチの厚さの腐って固まった料理を、起こし金〔平たい金具〕で刮げ落とす。どうみても、パーシーには無理な力仕事だ。汚れ落としが終わった後、反省したカールは、倉庫に座ったままのパーシーに謝りに行く(4枚目の写真)。「おまえはよくやってくれたのに、意地悪言って悪かった。パパが間違ってた〔That wasn't right of me〕」。

父は、「トラックに調理器具を揃えないといけない。ママが電話をくれるまで、一緒に来て、選ぶの助けてくれるか?」と頼む。パーシーは OKするが、先ほどの喧嘩のすぐ後なので、あまり嬉しそうではない。2人が向かった先は、業務用の調理器具店(1枚目の写真)〔ロケ先は、ロスにあるCharlie’s Fixturesという有名店〕。器具を選んでいるうちにパーシーも興味を持つようになる。父は、レジで、“プラスチックハンドルの6インチ〔15センチ〕のシェフナイフ” を要求し、それをパーシーに見せ、「これが シェフナイフだ」(2枚目の写真)と言う。「本物だ。おもちゃじゃない。分かるな? よく切れるから、気を抜くと 救急車が飛んでくるぞ。使い方を教えてやる。このナイフは、厨房のものじゃなく、シェフのものだ。だから、常に、鋭く、きれいに保ち、紛失しないようにするのは、お前の責任だ。できるか?」。「うん」(3枚目の写真)。「これは、いいナイフだ。ちゃんと手入れすれば 長持ちする。失くすなよ」。「大丈夫。ありがとう」。「よく頑張ったな〔You earned it〕〔日本語字幕の「バイト代だ」では、“頑張って手に入れた” というニュアンスが感じられない〕

買ってきた機材をフードトラックに入れようとするが、重くて上げることができない。父は、「マーヴィンは、従業員が手伝ってくれるだろう、って言ってた」と言い(1枚目の写真)、後ろで暇そうにしていた連中に、「やあ、みんな。俺はカール。これは 俺のトラックだ。この機材を入れるのを手伝って欲しい。マーヴィンが手伝ってくれると言った」と声をかける。しかし、彼らは、メキシコからの出稼ぎ労働者だったので、英語が通じない。父は自分一人で何とかしようとするが、そこに、1台のタクシーがやってくる。ドアが開き、マーティンが、「おい、おい、やめなよ。何かを壊しちまうよ」と言う。パーシーは、その姿を見ると、真っ先に走って行き、抱き着く(2枚目の写真)〔厨房に入れてもらえなかったのに、どこで親しくなったのだろう?〕。カールが、「ここで、何してる?」と訊くと、「あんたさんが、新しい仕事を見つけたら、何もかも捨てて駆け付けるって言ったでしょ」と答える。「電話して、すぐ飛行機に?」〔トラックの掃除と買い物に何時間かかったか分からないが、ロス→マイアミのフライト・タイムは約5時間。アクセス+搭乗前の待ち時間+到着後の移動時間を足せば、どう見ても8時間は超える。朝9時にトラックが届いたとしても、午後5時にはなっている〕。重い機材は3人がかりでも動かせなかったので、メキシコ移民のマーティンが、出稼ぎ労働者たちにスペイン語で協力を呼びかける。すると全員が立ち上がり、助けてくれる(3枚目の写真)。

機材を組み立てるのにどのくらい時間がかかったのか分からないが、仮に最短で1時間として午後6時。マーティンは、出稼ぎ労働者の連中に、手伝う代わりに “生涯で最高のサンドイッチを食べさせる” 約束をしていたので、オーブンなどの準備は自分がして、カールには、サンドイッチの材料を買ってきてもらうことにする。作るのは、豚の肩肉のスライスにモホソースを塗り、ハム、チーズ、ピクルス、マスタードをキューバンブレッドに挟み、両面にバターを塗って焼いたもの。モホソース用には、オレンジ、トマティロ〔果実〕、タマネギ、ニンニク、チリ・ペパー、シラントロ〔コリアンダー〕が必要だ。市場に行ったカールは、パーシーにユッカ芋を見せ、買うリストに入れる。次に見せたのは硬くて緑色のバナナで、トストーネ〔未熟な調理用バナナをスライスし油で2度揚げた料理〕を作るため。バナナをパーシーに山ほど持たせる(1枚目の写真)。本編の買い物シーンはこれで終わりだが、未公開シーンには、ヴェルサイユの建物に中にあるカフェにも入って行く。そこで、10本のキューバンブレッドを持ってきてもらい、ついでにコーヒーも飲む。それを見たパーシーは、「僕も飲む」と言い出す。「子供にコーヒーは早い」。「ママはいいって」。それならと、父はもう1杯注文する。ところが、そのコーヒーは、キューバンコーヒー〔深煎りで濃厚〕だったため、パーシーは一口飲んで、「何これ?」と顔を歪める(3枚目の写真、横にパンの山が映っている)。

2人がトラックに戻って来てから、豚肩肉の塊のローストをオーブンで焼き上げる〔買い物も合わせれば、もう午後8時にはなっているだろう〕。出来上がった肉を見て、パーシーが、「こんなのお店でも買えるじゃない」と言ったものだから(1枚目の写真)、マーティンは、「ホントにあんたさんの子かい? パターニティ・テスト〔血液による実父確定検査〕した方がいいんじゃない?」と冗談を言う。カールは、ナイフで小片を切り取って試食。マーティンが焼いた肉を称賛する〔マーティンは、辞めたレストランで焼肉部門料理長だった〕。パーシーは、先ほどの失言をカバーしようと、何度も試食したいと頼み、小さな一切れだけもらう(2枚目の写真)。「結構いいね〔Pretty good〕〔“pretty”  を自分に対して使う時(「調子は?」などと訊かれた時)は「まあまあ」の意味になるが、物に対して使うと「結構」の意味になる/昔学校で習った「かなり」は全くの間違い/日本語字幕の「悪くない」も誤訳〕。マーティンは、当然、この評価にも満足せず、「『結構いいね』、だと? やめてくれよ! お前さんの人生で最高のすぐれ物〔best shit〕だろ?」。そして、サンドイッチ作りが始まる。パンの片割れの上に、鉄板で焼いた豚肩肉のごく薄切り3枚とハム2枚の上にチーズを2枚、ピクルスを2切れ乗せ、マスタードをパレットナイフで もう1つのパンの裏面に塗り、それを具の上に置くと、今度は、パンの表面にバターをこってり塗る。それを両面鉄板で焼く。父は、このパートをパーシーに任せようと、「チーズが溶けて、パンがきつね色になったら、焦げる前にパパを呼べ」と指示する。パーシーは、2枚の鉄板の隙間からじっと見張る(3枚目の写真)。パーシーが 「いいみたい」と言うと、父が鉄板を上げ、「いい色だな。毎回こうして欲しい。ロボットみたいに」と言い、サンドイッチを取り出し、ナイフで三等分する。さっそく試食した大人2人から漏れた言葉は、「エンピンガーオ(最高だな!)」。パーシーも、父から「美味いか?」と訊かれ、「すごいや」(4枚目の写真)。さっそく、手伝ってくれたメキシコ人にサンドイッチをふるまう〔この頃には、午後9時か? 外はまだ真昼のように明るいが、マイアミの7月の日没は午後8時過ぎ。だから、映画のシーンは 残念ながら実現不可能〕

パーシーが何度か目のサンドイッチを焼いた時、表面が焦げてしまう。父に指摘された時のパーシーの返事は、「あの人たち、お金払ってないよ」 だった。その言葉に “教育” の必要性を感じた父は、「ちょっと来い。トラックから下りろ」と命じ、「料理は退屈か?」と訊く。「ううん、好きだよ」。ここから、カールの長い説話が始まる。「パパは大好きだ。料理のお陰で、いいことがいっぱいあった。人生すべてがベストだった訳じゃない」(1枚目の写真)「パパは完璧じゃない。あまり良い夫でもなかったし、悪いが、あまり良いパパでもなかった。だが、料理は巧い。それをお前と分かち合いたい。パパが学んだことを伝えたい。パパは料理を通じて、人々の人生に触れてきた。料理は、パパを励ましてくれたから、大好きになった。お前が試してみる〔give it a shot〕気になれば、きっと好きになると思う」(2枚目の写真)。「はい、シェフ」。「あのサンドイッチ、出すべきか?」。「いいえ、シェフ」。父は、「それでこそ、わが息子だ」と褒め、料理に戻る。場面は、急に夜に変わり、トラックの電気をつけ、3人がイスに座って話している。マーティンは、「ほら、飲めよ、チビ君」と言って、パーシーにビール・ビンを渡す(3枚目の写真、矢印)。パーシーは 父に 「いいの?」と訊く。父が応えないので、マーティンに、「これ、ビール?」と訊く。「もちろん、違うさ。ビールなんかなら、渡さんよ。それは、セルベッサ〔「ビール」のスペイン語〕だ」。「僕、10歳だよ。ビールは飲めない」。「君は10歳じゃない。調理人だ。調理人には年齢なんかない」。それでも、パーシーは 父に 「パパ?」と再確認。「一口だけ」。飲んでみたパーシーは、オエっ。「小便みたいか?」。「もっとヒドい」。「友だちに飲むよう誘われたら、それを思い出せ」。

そのあと、父は、マーティンに、明日、さっそくサウス・ビーチ〔マイアミのホット・スポット〕で試そうと提案。「完全に自信が持てたらロスに戻る」。「途中で、いくつか寄るとか?」。「いいな」。それを聞いたパーシーは、「一緒に行ける?」と訊く。父は反対するが、「途中で、何ヶ所か寄るんでしょ?」と期待する。「学校は?」。「夏休み」。「お前のママと相談しないと」。パーシーは、「もう訊いたよ。構わないって」と言いながら、スマホを見せる(1枚目の写真)。そこには、送信:「ロスまでパパと一緒にフードトラックで戻っていい? 手伝うんだよ!」。返信:「もし、あなたのパパがOKなら、いいわ」とある。これで決まり。マーティンは、2人にホテルに行くよう勧める。彼は、いとこの知り合いに、明日までにトラックを塗装させる、それも、彼のプレゼントとして、と言ってくれる。翌日、恐らくお昼ごろ〔そんなに早く塗装もできないし、乾かない〕、3人が待つホテルの前に派手な塗装のフードトラックが着く(2枚目の写真、矢印はパーシー)。横に書かれた「EL JEFE」は、スペイン語で「ボス」という意味。「CUBANOS」はキューバ料理。母は、パーシーに 「気が変わったら、電話して、どこにいても迎えに行くわ」と念を押す。トラックは、サウス・ビーチを南北に貫くOcean Driveを北上する。車内では、パーシーがさっそくツイッターに投稿。「@ChefCarlCasper が帰ってきたよ!」(3枚目の写真、矢印)〔これは、マイアミがシェフとしてのキャスパーの出発点だったから〕

トラックは、Ocean Driveの海側にある公園の最北端で停車。パーシーは、スマホで動画を撮り、あとで分かるが、ツイッターに投稿し、PRに努める(1枚目の写真)。マーティンはマイクを使い、公園にいる人たちに如何に美味いかをPR。カールは、フードトラックに定番の黒板に、その日のメニューを大急ぎで書いていく。パーシーは、慣れない忙しさで、指を火傷してしまう(2枚目の写真、矢印)。それでも、やる気満々なので、休むことなどしない。トラックの前には人だかりができ、パーシーが追加した投稿、「@ChefCarlCasper が帰ってきたよ! #South Beach#ElJefeFoodTruckを探して」のリツイートが拡散していく(3枚目の写真、矢印多数)。因みに、この場所のグーグル・ストリートビュー(南向き)を4枚目に示す。3枚目の写真でトラックの向こうに見える建物は、4枚目の写真の右端の建物だ。

3人が、何日マイアミに滞在したのかは分からない。次のシーンでは、夜間、次の目的地に向かうトラックの中で、パーシーがフェイスブック上で公開した動画を見ている。次はスマホを触るパーシーと、ツイッターの画面と、ヴァイン〔2016年10月27日に終了決定〕の画面が三分割で表示される(1枚目の写真)。ツイッターには、「ありがとう、マイアミ!! ヴァインでチェックしてね! #ElJefe #Miami」と投稿。パーシーがトラックの後部でスマホを動かしていると、父が、「いったい何してる? ママに写真を送ってるのか?」と訊く(2枚目の写真、矢印)。「ヴァインに投稿してる」。「ヴァイン? ヴァインって何だ?」。「ビデオさ、見て」と言って、父の顔の前にスマホを出したので、思わず顔を背け、あおりでトラックがフラつく。「こら、顔からどけろ!」。「6秒だけなんだ」。父:「誰が そんなの作る? 何て世代なんだ」。マーティン:「信じられん。注意しないと。ADHD〔注意欠如・多動症〕だ」。パーシー:「僕、毎日1秒ずつビデオ撮ってるよ」(3枚目の写真)。父:「1秒だ? 冗談だろ?」。「ううん、1日1秒に編集して、それをつなげて見るんだ。面白いよ」。トラックは、ちょうどディズニーワールドへのIC出口に差しかかる。「ディズニーワールドに寄りたいのは誰だ?」。マーティンは 「俺、行きたい」と言うが、パーシーは 「ニューオーリオンズまでノンストップだ」と言う。「ベニエを食べるのが待ちきれないよ」。

マイアミのサウス・ビーチからニューオーリオンズのフレンチ・クオーターまでの実走行距離は1500キロ。平均時速110キロとしても13時間以上かかる。トラックは途中ノンストップで走るので、運転がカールからマーティンに代わるのは当然だ。トラックがフレンチ・クオーターの東の境界になっているEsplanade Aveを走る頃には明るくなっている(1枚目の写真、矢印は動画撮影中のスマホ)。トラックが最終的に向かったのは、フレンチ・クオーターから少し外れた “Frenchmen StがChartres Stとぶつかる手前”。マーティンは、トラックから下りて、その東南角に停めるよう誘導する。カールは、さっそく、パーシーを連れて、伝説の店カフェ・デュ・モンド(https://shop.cafedumonde.com/)に、ベニエ(Beignets)を食べに行く。距離は僅か800メートル。そこで念願のベニエを買った後、2人は300メートル トラック寄りにあるフレンチ・マーケットと呼ばれる商店街(https://www.frenchmarket.org/)の中を歩きながらベニエを堪能する(2枚目の写真)。父は、「世界中で、ここでしか味わえない」と、その価値を強調する。パーシーが、食べながら、「他には何を買うの?」と訊くと(3枚目の写真)、「何も」という返事。「料理の仕入れは?」。「ない。お前とベニエと食いたかっただけだ」。

しかし、2人がトラックに戻ると、一大事が起きていた。マーティンに言われてトラックの横に回ると、そこには長蛇の列ができていた(1枚目の写真、黄色の矢印は、父と一緒に車の角から群衆を見るパーシー、青い矢印はリツイートの列)。2枚目に、この場所のグーグル・ストリートビューを示す。トラックの中で困惑する2人に向かって、パーシーは、「僕がツイートした」と打ち明ける(3枚目の写真)。そして、2人にツイートした内容を見せる(4枚目の写真、矢印)。そのトップにある「Now you see us now you don’t. El Jefe cruising Frenchmen Street #NOLA #ElJefe」という文章が、1枚目の写真のリツイートの中に書かれていたもの。この文章の前半には正直首を捻ってしまった。マジシャンが、「見えますね、さぁ消えた」という時の決まり文句だからだ。そんな意味のハズがない。そこで、「https://hinative.com/ja」というサイトを見ると、“hope that was helpful to you” と書いてあった。これなら意味が通る。「役に立つといいのですが、El JefeはFrenchmen Stにいます」となる#NOLAの ”NO” は New Orleans、”LA” は ルイジアナ州の略称〕。この文章の下には、お客がすぐ分かるよう、フードトラックの写真もあり、パーシーの説明では、ジオタグ〔ツイートにタグとして追加できる地図上の位置〕まで付いている。付属の写真の中には、ニューオーリオンズに着いてからのものもある。父:「この写真、いつ撮った?」。「カフェ・デュ・モンドに行く途中」。「それをアップしたのか?」。「うん」。マーティンは、「お前さん、天才少年だな」と、べた褒め(5枚目の写真)。父も 「ウチの新しい宣伝部長だ。ありがとう」と言って、頭を撫でる。幸い、マーティンが、2人が帰ってくる前に、集客状況を見て食材を仕入れていたので、フードトラックは大盛況。

何日ニューオーリンズにいたかは分からい。トラックは再び走り出し、パーシーは、「テキサス待ってて、@ChefCarlCasper が行くよ」とツイートする(1枚目の写真、矢印)。すると、父とマーティンが、ラジオの歌に合わせて歌い出す。マーヴィン・ゲイの「セクシャル・ヒーリング」だ。この歌の見事な訳は、https://ongakugatomaranai.com/marvingaye_sexualhealing/ で見ることができる。映画で使われるのは、このうち、「♪ベイビー、僕の体はオーブンのように熱い」から。最初、パーシーは歌詞の意味がつかめず、「何なの?」といった顔をしている(2枚目の写真)。しかし、「♪愛し合うことでの癒しが僕にとっては最高なんだ」の辺りで意味が分かり、恥ずかしくなってニヤニヤしてしまう(3枚目の写真)。

歌が終わった時、フードトラックはテキサス州のオースティンに着いていた。ライブ音楽の盛んな街に相応しい導入だ。トラックが停まったのは、Franklin Barbecue(https://franklinbbq.com/)というテキサス風バーベキューの店の前。そこで、店の裏に行くと(1枚目の写真)、店の創設者Aaron Franklinが自ら出演し、一晩かけて薪で焼いて表面が真っ黒になった肉の塊を出してくれる(2枚目の写真、白シャツの男性は、店のホームページの下の方にあるYouTube動画に出てくるのと同じ人物)。おいしそうに食べたパーシーは、「スライダー〔直径3インチほどのバンを使った小さなサンドイッチ〕を作ろう」と提案する(3枚目の写真)。父も賛成。マーティンは、キューバンサンドイッチの豚肉の代わりに この特殊な牛肉を使うことを提案し、それを聞いたカールは、キューバンサンドイッチのスペイン語名が “media noche”、直訳すれば「真夜中」になることから、料理の名前を「オースティン・ミッドナイト(真夜中)」に決める。

フードトラックを停め直した場所は、Guero's Oak Gardenという野外演奏もできる小広場の前(都心に向かうS Congress Aveという広い道が、Eliabeth St.と交差した40mほど北)。フードトラックの前には いつも通り長い列ができている(1枚目の写真)。矢印のリツイートには、「@ChefCarlCasper @GaryClarkJr #ElJefe on S Congess #Austin」と書かれている。「@GaryClarkJr」は、その日、野外演奏をしている2011年にデビューしたばかりの地元のミュージシャン。「S Congess」は「S Congress」の打ち間違いか? この場所のグーグル・ストリートビューを2枚目に示す。広い道路の正面に見えるのはオースティンの都心。小広場の入口は、左端のアーチ型の門。1枚目の写真には、門の脇の大木が映っている。3人は、長蛇の客に大わらわ(3枚目の写真)。そこに、母からパーシーに電話が入る。「やあ、ママ」。「どこにいるの?」。「オースティンだよ」。「大丈夫?」。「サイコー」。「あなたのパパは?」。「今、代わるから」。ここから、カールとイネスの会話になる。「迎えに行きましょうか?」。「いいよ、千マイルも離れてる」。「平気よ、飛行機で行って、連れて帰るわ」。「来なくていいよ、よくやってくれてるから」。「寂しいの」。「いいか、君の息子は、今や調理人だ」。パーシー:「ライン・クック〔シェフの次のNo.2〕だよ」。「ライン・クックだ」。母:「気を付けてね!」。「学校が始まる前には家に帰す」〔カリフォルニア州の小学校の夏休みは2ヶ月以上続くから、パーシーのフードトラックの旅は、映画から感じるよりは、ずっと長期間に渡っている〕。「あまたは大丈夫なの?」。「最高さ!」。イネスは、パソコンで「EL JEFE」の写真を見て、「みんなとても楽しそうね」と感心する(4枚目の写真)。カールは 「君の息子は、グリルもできるんだぞ」と話し、パーシーは 「ビールも飲んだ」と余計なことも言う(5枚目の写真)。ただ、スマホからは遠いので、イネスが 「何て言ったの?」と訊くと、カールは 「ママが恋しいと言ったんだ」と誤魔化す。

深夜。フードトラックの屋根に座った親子。パーシーが、「自撮りしようよ」と声をかける。父は息子のスマホを手に取ると、フラッシュ機能を使って写真を撮る(1枚目の写真)。パーシーは、「投稿してもいい?」と訊く。「ヴァインにか?」。「ううん、“毎日1秒” ビデオだよ」。「できたら、パパにEメールで送れ」。ここから、本当の意味での親子の会話が始まる。「なあ、話しておきたいことがある。この数週間、お前と一緒で、とっても楽しかった」。「僕もだよ」(2枚目の写真)。「お前は、実にいいコックになった」。「ありがとう、パパ」。「子供としては、じゃなく。ホントに巧くなった。頑張ったからだな。大したもんだ。だが、もうすぐ家に帰り、元の暮らしに戻ることになる。パパは、フードトラックで忙しいし、お前は学校で忙しくなるだろう」。「だけど、僕、まだ、フードトラックで働けるよね? いいコックだって言ったじゃない」。「ごめんよ、パーシー。パパは、すべてが元通りになった時、お前をがっかりさせたくないだけなんだ」。「あの頃には戻りたくない。放課後や週末に働けるよ」。「お前には正直になりたい。2人でとっても楽しかったし、一緒に体験したことを忘れることはない。パパは、お前とホントに知り合えた気がする」(3枚目の写真)。

次の場面では、オースティンを離れたトラックが、一路ロスに向かう。直線距離でも2000キロ弱。最初に映るのがオースティン郊外のPennybacker橋。次が、テキサスらしい石油掘削装置。そして、夜も走り続ける。翌日は、恐らく、アリゾナ州のレッドロック州立公園。そして、多数の風力発電装置の次は、「ようこそ、カリフォルニアへ」の道路標識。大移動シーンが始まって僅か25秒で、もうパーシーの家の前。父は、「家はいいぞ」と言ってトランクを開ける。「ママもいるし、部屋もある」(1枚目の写真)。パーシーは 「寂しくなるね」と言って父に抱き着く(2枚目の写真)。「パパも寂しい。2週間後に来いよ。週末ずっとだ」。「ビデオ、アップした?」〔父が見てから、アップすることになっていた〕。「ごめんよ、まだ見てない」。「忘れないで」。パーシーは戸口で立って待っている母に向かって駆けて行く(3枚目の写真)。

ガランとして殺風景な部屋に戻ったカールにあるのは、一種の喪失感だけ。そこで、スマホを取り出し、パーシーからメールで送られた1秒ビデオを見てみる。1~3枚目の写真は、パーシーが映っている場面。このシーンは64秒続くので、1日1秒なので64日分ということになる。見終わったカールは、心の中に暖かいものが込み上げて来る。そこで、すぐにパーシーに電話する。「やあ、パパ、どうしたの?」。「パパは考えてたんだ… この前、話し合ったことを。ママ次第でOKだ。それを言いたくてな」。「何の話?」。「トラックを手伝ってくれたら とても助かる。週末と放課後、宿題を済ましてからだ。バイト代は、大学の学費に当てる。それでどうだ?」。パーシーが、母に叫ぶ声がスマホから聞こえる。「ママ! パパが、トラックで料理して欲しいって!」(4枚目の写真)。

場面は、急に、夜のロスに。場所は、フードトラック駐車場として知られる、Abbot Kinney BlvdにPalms Blvdがぶつかった左手の空き地(https://www.afar.com/places/parking-lot-los-angeles)。中は、何台ものフードトラックと、食べに来た人々でびっしり埋まっている(1枚目の写真、矢印はカールのトラック)。2枚目の写真は、グーグル・ストリートビューの日中の光景。矢印の “ボクシング姿の男性” の突び出し看板は、1枚目の写真の左上端のものと同じ。この夜は、3人だけでなく、イネスも手伝っている(3枚目の写真)。すると、そこにミシェルが現われる。イネスは 「あなたに出すものなんかない」と言うが、ミシェルは 「シェフとほんの一瞬でいいから、話せないか?」と頼む。カールはOKし、トラックの外に出る。「ここに、何しに来た?」。「あんたの料理を食べに。売ってくれないと思ったから、他の奴に頼んで手に入れた」。「あの件で、俺は心底 衝撃を受けた〔knocked me for a loop〕。あんたは、俺のプライドとキャリアと尊厳を奪い去った。もっとも、あんたたちみたいな人間は、そんなこと気にも留めんだろうが」。「そんなことないと思うよ」。「だがな、俺みたいな人間は、傷つくんだ」。「ののしり合い〔flame war〕を始めたのは、あんたじゃないか。たくさんのフォロワーを持ってる相手〔I buy ink by the barrel〕に喧嘩を吹っかけるなんて〔picking a fight with〕」。「俺は、あんた個人に送ったつもりだったんだ」。「それは、知らなかった。あんたも楽しんでるのかと。ところで、どうしてあんなひどい料理を?」(4枚目の写真)。「メニューを変えられんかった」。ここで、過去の話から、現在の話に変わる。「それはさておき、今度は、自分のために料理してるね。ただのサンドイッチなのに、際立っている。最高に美味い」。「ありがとう」。「ブログに書く気はない。あんたに融資したいんだ。利害関係のある場合 書けないからな」。「何がどうなってるのか、さっぱりだ」。「私は、ウエブサイトをかなりのお金で売り、Roseにある建物を入札した。許可はすべて取ってある。あんたが好きなように使っていいし、好きな料理を作ればいい。急ぐ必要はない、考えて欲しい」。この信じられない申し出に、カールは茫然とする。

「6ヶ月後」と表示される。フードトラックと同じ 「EL JEFE」のネオンの先に、レストランの入口が見える(1枚目の写真)。開け放たれたドアの横のメニューボードには、「CLOSED for Private Event(貸し切り)」と書かれている。手持ちのカメラがレストランの中に入って行く。面白いのは、黒人のコックから料理の入った皿がパーシーに渡されるが、その時、ミシェルが料理をつまもうとして、パーシーに手をぴしゃりと叩かれるシーン。パーシーは、それをウェイターに渡す。カメラはウェイターを追い、料理は宴会中央の大きなテーブルの上に、多くの皿の1つとして置かれる。そして、カメラは大きなウェディングケーキを映す(2枚目の写真)。キューバ音楽が流れ、パーシーの “おじいちゃん” が歌い、カールとイネスが仲良く踊っている。これは、2人の再婚パーティだ。映画の最後は、パーシーが父に肩車されて踊る場面(3枚目の写真)で終わる。

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  アメリカ の先頭に戻る          2010年代前半 の先頭に戻る