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Wszystko będzie dobrze すべてうまくいくだろう

ポーランド映画 (2007)

末期の癌を患う母について、12歳のパヴェルは、担当医から、手術でも救うことはできないと告げられる。そして、医師が 慰めに言った、時として医学の常識を超えたことが起きるかもしれないという「奇跡」に、唯一の希望をかけ、カトリック教会の侍者で信仰心に篤かったパヴェルは、チェンストホヴァの町にあるヤスナ・グラ修道院の黒い聖母にお願いしようと、350キロの距離を走って行こうと決意する。これが映画の主題。ヨーロッパの巡礼地としては、スペインの北西端にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラが有名だが、巡礼事務所発表の2019年の巡礼者数は347,578人。それに比べ、ヤスナ・グラ修道院の黒い聖母は、徒歩巡礼だけで2019年は752,000人(https://dziennikzachodni.pl/)。自動車や交通機関を使った巡礼の総数は450万人に上る。伊勢神宮の参拝者数が2019年、外宮内宮両宮で約973万人(https://www.city.ise.mie.jp)という数値の約半数。日本の3割の人口しかないポーランドで この数値は、伊勢神宮を上回る人気ぶりだと言える。350キロといえば、東名高速の東京~名古屋間とほぼ同じ。とても一人で走れるものではない。パヴェルを助けるのが、彼の通う学校の体育の教師アンジェイ。この映画の もう1人の主役だ。ただ、彼は重度のアルコール依存症。そして、所持金はほぼゼロ。こんな2人が、どうやって350キロを走破できるのか? それを可能にしたのは、パヴェルのひたすらな「母を救わんとする」気持ちと、「聖母マリアに対する揺るぎない信仰」。それが、アルコール依存症のアンジェイを次第に変えていく。このアンジェイの俳優Robert Wieckiewiczは、この演技で、2007年と2008年のポーランド映画賞で2度主演男優賞を獲得している。なお、映像が全体にボケでいるのは、購入したのがDVDではなく、一世代前のVCDという、今では死語となった媒体。2枚組でも容量が1Gしかないので、それだけ情報量が少なく、画質も落ちてしまう。この映画にはポーランド語字幕がなく、①迷訳の多い英語字幕、②意訳だが、時として分かり易いドイツ語字幕、③ポーランド語に近く、時として正しいロシア語字幕の3つを併用した。

末期癌の母は、元々の性格がそうなのか、病気のせいなのか、怒りっぽくて いつもパヴェルに辛くあたる。しかし、病院の担当医から、母がこれほど貧しくなくて、もし、手術を受けたとしても助からないと聞いたパヴィルは、母を救うには「奇跡」しかないと確信する。そして、母が、もっと元気だった頃に、黒い聖母まで歩いて巡礼に行きたいと思っていたことから、自分が代わりに走るから何とか母を救って下さいと、侍者を務めている教会の聖母にすがるように頼む。パヴェルは、元々、走る才能に恵まれていて、ドイツでの試合に出られる可能性もあったが、それを放棄し、学業成績が悪くて追試を受けないと留年すると分かっていても、それも放棄する。そして、母を救うために350キロ離れたチェンストホヴァの町に向かって走り始める。それに気付いて、着の身着のまま、何も持たずにオンボロ車で追いかけて来たのが、パヴェルをドイツ行きの選手に選んだ学校のコーチ、アンジェイ。アンジェイには、重度のアルコール依存症という、公に知られた欠陥があった。パヴィルの父は、かつて、アルコール依存症が原因で死んだので、パヴィルにとって、同じ症状のアンジェイは、何とかしなくてはいけない存在だった。パヴェルによってアルコールを絶たれたアンジェイは、禁断症状に苦しむが、それを克服しようと腕立て伏せを必死でくり返す。アンジェイは、元妻で、地方TV局のキャスターになっていたアンカに、パヴィルの「美談」を話し、TV局もそれに賛同して、その姿を放映するだけでなく、母の手術費用に対する寄付を呼び掛ける。2度にわたる放映で寄付金は手術を可能にする額が集まり、パヴィルが黒い聖母に近づいた時、手術が行われる。しかし、手術は失敗し、母は死ぬ。それでも、パヴィルは、3日目に生き返ったキリストの奇跡の再来の可能性にすがり、ヤスナ・グラ修道院の黒い聖母に直接祈りを捧げる。しかし、当然、そんな奇跡は起きず、母は、埋葬される。母を失ったパヴィルと、知恵遅れの兄は孤児院に入れられることになるが、アンジェイがそれを救う〔映画のラストから推測した希望的観測〕

12歳のパヴェル〔Paweł〕役のAdam Werstakは1990年生まれ。映画の撮影は2006年8月4日に終わっているので、彼が8月5日以降の生まれなら15歳になる。どうみても12歳には見えないので、15歳が妥当なところであろう。Adamが、ある意味可哀想なのは、2007年11月3日の「Gazeta Olsztyńska」の記事によれば、「去年〔2006年〕の初め」にStawigudzieの孤児院に行ったとある。ということは、孤児院にいながら映画に出演したことになる。Adamの父親はアル中で、彼を殴ったこともあり、半年刑務所に入れられた。一方、Adamの母親に対し、裁判所は、子供達(Adam、Adamの姉か妹、Adamの弟)を育てる資格がないと判断した。結果としてAdamと姉か妹はStawigudzie孤児院に、弟は別の孤児院に入れられた。映画の中のパヴェルと、何と境遇が似ていることだろう。

あらすじ

冒頭、12歳のパヴェルは 住まい(長屋)のある田舎町からグダニスクの向かうバスに乗っている。お金がないので、タラを何匹か入れたビニール袋を顔見知りの運転手に渡す。パヴェルが訪れたのは病院。母の担当医と階段を下りながら話す。「もし、お金があったら、母さんは 手術を受けられたんですね?」。「お金の問題じゃない」。「じゃあ、何なんです?」。ここから廊下に。「もっと 年長の人じゃないとな。伯父さんとか伯母さんとか。未成年じゃなく」。「誰もいません」。「すべては、神の手にある」(1枚目の写真)、「それって、ママが…」。「時として、医学の論理とは逆の結果になることがある」。「それって、奇跡ですか?」(2枚目の写真)。「ああ、非常に稀だがね」。この短いシーンから、①母は病気で、それは、②手術を受けても治らないこと、さらに、③パヴェルには頼れる親戚がないことが分かる。次の場面、長屋まで走って戻って来たパヴェルは、ベンチでジャガイモを剥いていた知恵遅れの兄のピォトレックに、「ママは?」と訊く。「眠ってる」。家の中で、母が 「眠ってないわよ! どっちか1人来なさい!」と怒鳴る。パヴェルは、「叫ばないで。来たよ」と言いながら、ベッドの前に行く。「叫んでない。怒鳴ってるのよ。お前のせいで、意識を失ったんだから」(3枚目の写真)。そう文句を並べると、ハンドバッグから処方箋と財布を渡し、薬剤師からすぐもらってくるよう命じる。
  
  
  

パヴェルの通っている学校の体育教師アンジェイが、陸上のリレー大会に出る選手を選んでいる。1人の候補は、オリンピックの400mリレー決勝の時のバトンミスよりもっとひどく、バトンを落としてしまい、アンジェイは激しく叱り飛ばし(1枚目の写真)、選手が何と言って詫びても、ドイツで行われる大会には連れていかと宣言する。その後で、今度はパヴェルの走る速度を ストップウォッチで測り、結果に満足する(2枚目の写真)。「3分25秒だ、悪くない」。「3分20秒は行けるんですが、今朝、走らなくていけなかったので」。「なぜ?」。「どうしても」。「お前は練習のことだけ考えてればいい。3分20秒を切るようなら、誰もお前に追いつけん」(3枚目の写真)。そのあとで、「成績はどんなだ?」と訊く。「歴史はいいけど、算数はダメです」。「一番になるなら、何とかしてやるぞ」。「何とかできます? ママが悪いんです」。「それは、医者の問題だ。明日、10時に来い。遅れるな」。
  
  
  

夜、家で。母は、パヴェルにTVのチャンネルを変えさせ、最後には不機嫌に消すよう命じる。そのあと、母が苦しみに悶える(1枚目の写真)。翌日、パヴェルはカトリックの教会で、ミサの間 侍者を務めている。ミサが終わると、パヴェルは、「神父さま、しばらく残っていてもいいですか? 母さんのために祈りたいので」と頼む(2枚目の写真)。殊勝な申し出なので神父は無論OKする。ただし、あちこち工事中なので、「足場に気をつけなさい」と注意する。「ありがとうございます」。パヴェルは、工事用のビニールを敷いた床に跪くと、聖母マリアの像に向かってこう お願いする。「母さんは、黒い聖母の教会まで歩いて巡礼に行くと100回は誓いました。もし、父さんが酔っ払った挙句に墓に入らなかったら、誓いを果たしていたでしょう。もし、あなたが、母さんを治して下さるなら、僕は、母さんが約束したことは何でも代わりに致します。どうか、母さんを治して下さい。あなたになら できます」(3枚目の写真)。
  
  
  

その夜、パヴェルとピォトレックは、パヴェルの学校に侵入し、運動靴が複数保管されているロッカーから、新品の運動靴を盗み出す。翌朝、新しい運動靴を履いたパヴェルが荷物を引っ張った自転車を牽き、ピォトレックが横を歩いている(1枚目の写真)。ピォトレックは、「じゃあ、留年する気か?」と尋ねる。「母さんの方がもっと大事だ」。「ドイツにも、連れて行ってもらえないぞ」。それを聞いたパヴェルは、「分かってるって。じゃあ、最後に走るよ」と言い、自転車を兄に任せて走り出す。一方、母は、病気の身でありながら、お金がないので、何とか歩いて警察署まで辿り着く。そして、受付の警官に、2人が家出したと訴える(2枚目の写真)〔さっきのは、家出の場面だった〕。最初、警官は、「すぐに 戻りますよ」と相手にしないが、母がパヴェルが残していった紙を見せる(3枚目の写真)〔この手書き文字は読めなかった〕。英語字幕によれば、「母さん。病気が治るよう黒の聖母にお願いに行きます。終わったら戻ります。パヴェルとピォトレック」。警官は、孝行息子たちに感心するが、母は、「だから何? なぜ、何もしないの?」。「なぜ心配するんです? まだ遠くに行ってませんよ」。
  
  
  

その言葉通り、2人の行く手には、すぐに警察車両が停まり(1枚目の写真)〔黒い聖母に行く道は決まっているので、簡単に追いつける〕、2人はすぐに車両に乗せられ、家に連れ戻される。ソファに座ったパヴェルに、母は 「二度とやるんじゃないよ」と釘を刺す。さらに、「効能なんてないの。分かる?」とも。パヴェルは反論する。「母さんは聖母様を騙した。母さんが望んだから、父さんは飲み過ぎて死んじゃった」(2枚目の写真)。「あの人を哀れむの? 何をされたか忘れたのかい? 水槽を窓から投げ捨てられたじゃないの。ピォトレックは殴たれたでしょ?」。「父さんは病気だった」。「病気なのは、私じゃないの!」。「アルコール依存症は病気だって、学校で習ったよ。でも、誰も助けようとしなかった。怒鳴るだけ。一番ひどかったのは、お祖母ちゃんだ」。「お祖母の悪口はやめなさい!」。「母さんが聖地の方に跪いて、父さんが飲み過ぎて死ぬように頼んでたの、僕、聞いちゃったんだ」。「ただの、言い回しよ」。「じゃあ、聖母様が聞いてるのに、嘘ついたんだ!」。「くだらない」。「聖母様は、何もしてくれなかった? したさ! なのに、今度は背を向けてる!」。これを聞いた母は、パヴェルの頬を引っ叩く(3枚目の写真)〔これが、手術をしても助からないほどの重病人? ひどい母親であることは明確だが、そんな母でも “黒い聖母” の奇跡に頼ってまで救おうとするパヴェルは、何と心優しい少年なのだろう〕
  
  
  

その日か、翌日、家の外のベンチで、兄が 「母さんは、お前にダマされたと思うぞ」と言う。「巡礼について話した時、僕は黙ってた」。「なぜ、巡礼団に加わらないんだ?」。「巡礼団は ゆっくりとしか歩かないし、母さんは日ごとに弱ってる」(1枚目の写真)。母が家から出てくると、皮を剥いたジャガイモを見て、「そんな ちょっぴり? それじゃ、半日かかるよ」と嫌味を言い、鍋ごと家の中に持っていく〔この女性、どうしてこう、ひねくれているのだろう?〕。兄:「一緒に行くよ」。「そんなのダメだよ、母さんが一人になっちゃう」。「分かった。だが、お前はどうやるんだ?」。「なんとかするよ。食べ物なら、手に入れればいい」。場面は変わり、店から出てきたアンジェイが、自転車に乗ったピォトレックを見て、呼びつける。「パヴェルが、また練習をすっぽかした。どうなってる?」(2枚目の写真)「また、走ってるのか?」。ピォトレックの答えが曖昧だったため、ピンと来たアンジェイは、すぐにボロ車で追いかける。すると、案の定、町を出た所でパヴェルを発見、パヴェルは、ボロ車を見てアンジェイだと気付き、すぐ横のヒマワリ畑に逃げ込む(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

ヒマワリ畑に入って行ったアンジェイは、パヴェルに、「何を失うか知ってるのか? 機会〔ドイツで試合に出る〕、追試〔受けないと留年する〕、すべてだ!」と呼びかける。姿を現したパヴェルは、「一番大切なのは、母さんです」と 否定する(1枚目の写真)。「警察に電話するぞ」。「あなたに、母さんはいなかったの?」。この言葉は、親不孝だったアンジェイにずしりと重くのしかかる。「電話はせん。なぜ、走り続けるんだ? お母さんが心配するぞ」。「治って欲しいからです」。「心配すれば、悪くなる」。パヴェルは、アンジェイの横に座ると 「これ以上悪くなりようがない病気なんです」と言う。アンジェイは、その機会を捉えて、パヴェルを捕まえようと襲いかかるが、逆に、腕に噛みつかれ(2枚目の写真、矢印)、痛くて放してしまう。アンジェイは、町に戻ると、携帯で元妻のアンカ〔グダニスクの地方TV局のレポーター〕に連絡を取る。そこで何が話されたのか、この時点では分からない。電話を終えたアンジェイは、そのまま店に入って行き、冷蔵ケースからビール瓶を数本出してレジまで行き、顔見知りの女性に、缶ビール4本、チョコバー4本、バンドエイドとオキシフル、タダの紙数枚、レジに置いてあった “小さな金メダルがついたネックレス” のようなものを手に取る(3枚目の写真、矢印)。女性が、「聖堂のプロモーション・ギフトよ」と言ったので、一緒に袋に入れる。
  
  
  

パヴェルが 森の中の道を走っていると、後ろからアンジェイの車が近づいてくる(1枚目の写真)。パヴェルは、立ち止まって じっと車を見る(2枚目の写真)。アンジェイも同時に車を停めるが、何も言わない。パヴェルは もう一度走り始め、車が付いて来るので、すぐに止まる。運転席から顔を出したアンジェイは、「なぜ、止まった?」と訊く。「戻らないよ」。「誰が、戻れと言った?」。「じゃあ、なぜ 僕の後をつけるの?」。「お前が走り、俺は運転する」。「連れ戻さない?」。「いいや」。「名誉にかけて?」。アンジェイは指を2本上げて誓う(3枚目の写真)〔ポーランドの指サインということでポーランド語のWEB上で調べたが、意味不明〕。そして、「とっとと走れ」と請求する。
  
  
  

次の場面では、道路際に停めたワゴン車のトランク部分にパヴェルが座って休んでいる。新品の靴で走ったため、痛くて走れなくなったのだ(1枚目の写真)。「新しい靴でお出かけか?」。「古いのはボロボロで」。「もっと、頭を使え。6時から9時まで走り、その後は、20分ごとに休憩を取れ」(2枚目の写真)。「急がないと」。「途中で へたばるぞ。夜は どこで寝るつもりだ?」。「途中の納屋で」。「食い物は?」。「持ってる」。「どのくらいもつかな?」。「なぜ、付いて来るの?」。「さあな。気が変になったか」。そして、「チョコバー欲しいか?」と訊く。「もち」。運転席まで行くと、4本買った最初の1本を投げて寄越す。「今夜、車の中で寝ていいぞ」。「クールだね。初めてだ。でも、もうちょっと走るよ。距離を稼がないと」。そして、夜。アンジェイは 運転席で缶ビールを開けて 飲み始める。パヴェルは、そんなアンジェイを見るのが初めてなので、「いつも、ビールをカブ飲みするの?」と訊く。「もう、寝ろ。休むんだ」。「父さんも、ビールから始めた。最後は… みんなが知ってる」。「俺は、何もj始めちゃいない」。「みんな そう言うよ。父さんは、最後には、縛らないといけなかった。ビールなしで、2日間ガマンできる?」。「もちろん」。「父さんは、いつも 母さんにそう言ってた。だけど… ガマンできたのは1日だけ」(3枚目の写真)。「俺は、お前の父さんか?」。「ううん」。「じゃあ、寝ろ」〔後で、アンジェイは 深刻なアルコール依存症の患者だと分かる〕
  
  
  

翌日、パヴェルの後を、アンジェイのボロ車がゆっくりと付いていく。運転席ではアンジェイがビール缶を飲み干している(1枚目の写真)。2缶目を開けて飲み始めると、そこにアンカから電話が入る。「上司がOKしたわ。でも、2日目以降ね」。「ありがとう」。「がっかりさせないでね」。「俺が、どうやって?」。「分かってるくせに。その子を、ちゃんと世話するのよ」。パヴェルがふと振り向くと、アンジェイの車が路肩に寄り過ぎている。もう一度振り返ると、完全に道路から出て 草むらに突っ込んでいる(2枚目の写真)。慌ててハンドルを切って元に戻したアンジェイに、駆け寄ったパヴェルは、「駐車してよ」と強く言う。「この先の土道に入って」。アンジェイが、車を脇道に停めると、パヴェルは素早くキーを抜き取る。そして、「僕たち、どこにも行けない。あんた、完全に酔っ払ってる」と言う(3枚目の写真、矢印は鍵)。「鍵をよこせ」。「ダメ。あんた、ベロンベロンに酔っ払ってる」。
  
  
  

夕方になって目を覚ましたアンジェイは、運転席から出ると、飲み干して潰れた缶を投げ捨て、「パヴェル」と呼ぶ。パヴェルは、近くの草むらに跪いて一心に祈っていた(1枚目の写真)。祈っていると分かっていながら、禁断症状のアンジェイは、「ビールはどこだ?」と訊く。「ないよ」。「なんで? どこに隠しやがった?」。パヴェルは顔を上げると、「全部、開けて捨てた」。それを聞いたアンジェイが 殴りかかろうとしたので、パヴェルは素早く避けて、走って逃げ出す。アンジェイは、「待ってくれ! 悪かった」と謝る。それを聞いたパヴェルは、引き返すが、「あんたは、父さんと同じで、我慢ができなかった。何をしたか、思い出せないの? あなたが泥酔してたから、鍵を取り上げたんだ。事故を起こすといけないから」とは話しかける(2枚目の写真)。さらに、「あなたは教師で、犯罪者じゃない。もう、飲んじゃダメだ。分かった? そうじゃないと、聖地に着くのが12月になっちゃう。最悪、車の中では飲まないって約束してよ」。アンジェイは、約束を神に誓わさせられる〔パヴェルは、少年なのに、アルコール依存症の治療に十分役立っている〕。一方、1人残されたピォトレックは、やることがのろく、母の朝食の用意に時間がかかりすぎ、「2時間前に(薬剤師に薬を取りに行くよう)頼んだのよ。こっちは痛くて死にそうなのに」と文句を言われる。「戻ってきたら、あのクソッタレに思い知らせてやる。こんな役立たずに病気の母親を任せていなくなるなんて」。このひどい言葉は、前半でパヴェルを攻撃し、後半はピォトレックを愚弄している。さすがにピォトレックも腹を立て、「言葉に気をつけなよ。彼は、母さんのために走ってるんだ」と文句を言う(3枚目の写真)。「あの子が出てってたのは、私の世話が嫌になったからよ」と、パヴェルを貶める〔最低の母親〕。ピォトレックも頭に来て怒鳴る。「違う! あんただって知ってるハズだ!」。
  
  
  

「あれだけ走ったのに、悪くない」(1枚目の写真)「あとは、軟膏〔マラソン・ワセリン?〕、マグネシウム医薬品〔ランマグ・マグネシウムオイル?〕、ニンジン、バナナがあればな」。「何とかするよ」。そして、車の中でアンジェイが横になっていると、パヴェルはニンジンの束を見せて、「朝食だよ」と言う(2枚目の写真、矢印)。「盗んできたのか?」。「要るんだろ?」。「はっきり言って、泥棒だ」。「でも、甘いよ」。「そうだ、だが、盗みは盗みだ」。アンジェイは窃盗行為をたしなめた後で、パヴェルを背負って、ストレッチをさせる(3枚目の写真)。
  
  
  

最初のシーンでは、走っていたパヴェルが振り返ると、車が追いついて来て、アンジェイがペットボトルを渡す。パヴェルは、それを飲むのではなく、頭からかける(1枚目の写真、矢印)。しばらくして、アンジェイの携帯に電話が入る。それは、アンカからだった。「今、どこにいるの? どこで落ち合うか決めないと」。話しが決まったらしく、アンジェイは、走っているパヴェルと並走しながら、「あと、4キロ走れ」と指令を出す(2枚目の写真)。そして、4キロ先の店のテーブルに2人で座る。アンジェイの手が震えている〔体内のアルコール濃度が下がると手の震えなどの離脱症状が出現する〕のを見たパヴェルが、「止まらないの? 専用の飲み薬があるよ。父さんが そうなった時、母さんが薬屋で買って来たら、震えが消えた」とアドバイス(3枚目の写真、矢印は震えている手)。「金がない。残りは5ズロチ〔当時のレートで約210円〕しかない。「別のやり方もあるよ。すごく疲れるんだ。父さんが薪を切ったら、震えが止まった」。「自分の脚の けいれんでも心配してろ」。それだけ言うと、アンジェイは店に入って行き、薬を買うのではなく。ウォッカを少量コップに入れてもらい〔体内のアルコール濃度を上げることで〕、手の震えを止める〔アンカと会う時に、手の震えを見られたくないから〕
  
  
  

パヴェルは、アンカのロケ班が乗ったバンを見て、初耳だったのでびっくりする(1枚目の写真)。その後の会話は、先ほどの店のテーブルに戻って行われる。話〔内容不明〕を聞いたパヴェルは、「やめとくよ。母さんに観られたら、殺されちゃう」と拒否する。最初に、この案をアンカに持ちかけたアンジェイは、「なぜだ? お前は、母さんのために走っとるんだぞ。この放送が全国に流れたら、誰かがお目を助けてくれるだろう」と言い、アンカは、より分かり易く、「お母さんの治療費を寄付するための銀行口座を開くわよ」と説明する。それでも、パヴェルは、「聖母マリア様だけが救えるんです。お医者さんは、助からないと言いました。奇跡を待つしかないと」と反対する(2枚目の写真)。アンカは、「第一に、医者はよく間違えるわ。第二に、その人にはできなくても、他にできる人があるわよ。試してみないと。いいわね?」と、至極まっとうなことを言う(3枚目の写真)〔癌の治療に、セカンド・オピニオンは必須〕。これを聞いたパヴェルは、ようやく取材にOKする。
  
  
  

翌朝、アンジェイは、スタッフが用意した軟膏をパヴェルの脚に付ける(1枚目の写真)。そして、下脚全体に拡げてマッサージする。横で、TVカメラが撮影しているので、今まで一度もしたことのないサービスだ(2枚目の写真、矢印はTVカメラ)。それが終わると、さっそく走り始める。TVカメラを構えたバンがパヴェルを真横から撮ろうと並走し、アンジェイは少し離れて付いて行く(3枚目の写真、矢印はTVカメラ)。
  
  
  

取材が終わり、アンジェイが最後のペッドボトルをパヴェルに渡す。少し飲んでから、いつも通り頭から水を被ったパヴェルは、ボトルの口の部分の水を帽子で拭いてから、助手席に置く。そのあと、ポケットからアンカにもらったお駄賃のお札を取り出して、嬉しそうに見せる(1枚目の写真、矢印)。そして、そのお札も助手席に放り込む〔実に、私利私欲のない少年だ〕。しばらく走ったパヴェルが、道路端で待っていると、パヴェルからもらったお札で買い物をしてきたアンジェイが戻って来る。そして、「食い物と薬を手に入れたぞ。スプレーと軟膏だ。スウェーデン製だから、効くに違いない」と言いながら、運転席からポリ袋を持って降りてくる。すると、その奥には、“TYSKIE” と印刷された別の袋が見える(2枚目の写真、矢印)〔Tyskieは、ポーランドのビール〕。パヴェルは、せっかくのお金でビールなんか買ったことを咎めるが、「頭がおかしくならないようにするための処方箋だ」と言いながら、ビンを開けてビールを飲む。「脚を見せろ」。「飲まないって約束した」(3枚目の写真)。「運転中は、だ。今日は、ここで寝る」。「あの女(ひと)、あんたについても尋ねたよ」。「何て言ったんだ?」。「あんたなしじゃ、どうにもできない」。「いい答えだ」。
  
  
  

パヴェルが ひたすら走る様子がTVに映る。それを見たピォトレックは、思わず手を合わせる(1枚目の写真)。アンカの解説が入る。「黒い聖母まで、長い葛藤と苦痛が彼を待ち受けています。苦しい時には、『走らなきゃ』と何度も自分に言い聞かせます。パヴェルは母を救えるでしょうか? それは、あなた方の善意にかかっています。私どもは、寄金を振り込んでいただけるよう、専用の銀行口座を設けました」。これを聞いていた母は(2枚目の写真)、「その様子だと、お前、知ってたんだね。あの子が、巡礼団と一緒じゃなく、走って行くって。嘘付いてたんだね。あの子が帰ってきたら、2人とも引っ叩いてやる」(3枚目の写真)〔死の病でいながら、これほど観ていて腹が立つ登場人物は珍しい〕。。
  
  
  

一方のパヴェル、走り方がおかしくなり、しばらく車の窓枠に捉まって走っていたが、それも止めてしまい、道路端に座り込む。それに気付いて車を停めたアンジェイが様子を見に行く。「どうした?」。「分んない。力が出ない」。「脚か?」。「へとへと」(1枚目の写真)。車まで何とか行ったパヴェルは、トランクルームにへたり込む。アンジェイが水を飲ませても状況は改善しない。そこで、アンジェイは、聖堂のプロモーション・ギフトを取り出すと、パヴェルの首にかけてやる。「これ、僕のために買っておいたの?」。「それは、家宝だ」(2枚目の写真、矢印)。「お母さんからもらったの?」。「気分、良くなったか?」。パヴェルは、何とか走る気になる。パヴェルの、“医者も見放した重病に割に、何度も警察まで歩いて行ける” 母は、いつもの警官に、「家内が、TVを見ててな、バカみたいに泣いとったぞ」と言われる。「あの子、何て言ったの? 私、最後しか見てなくて」。「あんたが治るのを願って走っとる。聖母マリアと約束したんだそうだ。コーチが車でフォローしとる」。「誰? あのアル中が?」。「この国で、酒を飲まん奴がおるかね? フォローしてくれとるのは、いいことじゃないか」(3枚目の写真)。「一度、山へハイキングに連れて行った時、子供たちを見失いかけたのよ。あの酔っ払いが!」。「ここは、平地だ」〔こんな人間が死んで、悲しむ人がいるだろうか? パヴェルは別として〕
  
  
  

別の日か? いつも通りパヴェルの後を走っているアンジェイにアンカから電話がかかってくる。「まだ決まった訳じゃないけど、編集部に、2つ目のロケを求める電話があったの。今度はチャンネル・ワンよ。200万の視聴者がいる」。「素晴らしい」。次のシーンでは、アンジェイがパヴェルを連れて、中古品が並んでいる汚い店の中に入って行く。パヴェルは、「2日で100ズロチ〔4200円〕、使っちゃったの?」と、アンジェイを責める。「3分の1は 軟膏とスプレーに果物…」。「それにビールだろ? 4度目だ」(1枚目の写真)。アンジェイは、店の男に、カーラジオを売る。もらったのは、たったの7ズロチ〔300円〕。パヴェルは、「寄こせよ」と要求する。「なんで?」。「全部、飲んじゃうだけだ。そしたら、どうにもならなくなる」。アンジェイは、渋々 お金をパヴェルに渡す。その後、車に戻った2人。パヴェルの足の小指の周囲から出血している。「お前、向こうに着く前にダウンしちまうぞ」。「ううん、痛いだけだ」。「そうだろうな。明日までに治らなかったら、ギブ・アップか?」。「そんなこと、できない」。「俺もだ」(2枚目の写真、アンジェイは傷口に薬草らしきものを張り付け、そこを含めて足に包帯(矢印)を巻いている)。「どうして?」。「俺も、お前と一緒に成し遂げたい」。「あんたの調子は?」〔アルコール依存のこと〕。「いいぞ」。「じゃあ、最悪なんだ」(3枚目の写真)。「なんで?」。「父さんが、『いいぞ』って言った時、飲みに行ったまま1週間戻って来なかった」。
  
  
  

翌日か、翌々日、足の傷が治ったパヴェルが土道を走っていると、後ろから凄い勢いで暴走車が迫ってきて、クラクションを鳴らし、パヴェルを道の端に避けさせる。ちょうどそこは、線路か何かの下を抜ける部分で、道路が下に窪み、水が一杯溜まっていた。非道な車は、溜まった水をタイヤで撥ね散らし、パヴェルは頭から水しぶきをかぶる(1枚目の写真)。頭に来たアンジェイは追って行こうとしたが、相手の方が速そうなので諦め、車を戻すと、トランクにパヴェルを座らせ、タオルを渡して水気を拭き取らせ、カッコいい柄のランニングウエアを着せる〔TV局から渡されていた?〕。パヴェルは、「すごいや。父さんは何もしてくれなかった。全部自分でしないといけなかった」と感謝する(2枚目の写真)。次のシーンは、途中の野外店。先に席に着いたパヴェルが、チョコバーをかじっている。最初に購入した5本はとっくになくなっていたので、それを見たアンジェイは、「どこで手に入れた?」と訊く。「心配しなくていいよ。お金は使ってない」。「また、盗んだのか?」〔前回は、ニンジン〕。「今度やってみろ、吐き出させてやる。分かったか?」。「腹ペコだったんだ」(3枚目の写真)。「お金があるだろ」。「ちょっぴりね」。「なら、盗んでいいのか? お前、これからもTVに出るんだぞ。母親のために走ってる子が、くすねるなんて」。「たかが、チョコバー1本じゃないか。父さんは喉が渇くと 母さんをぶん殴った。それをやめさせるため、僕は店まで走って行って、ビールやウォッカを盗んだんだ」。「今は、そんな時じゃないだろ。捕まったらどうする?」。「心配ないって。ビールを盗む方が ずっと難しいって、知らないの?」。
  
  
  

パヴェルが公道の端を走っている時(1枚目の写真)、横を走るアンジェイにアンカから電話が入る。内容は2つ。いい話は、①パヴェルの母を手術するクリニックの女性院長が見つかった。②母の癌は転移しているが、とにかく手術をしてみる。アンカは、「パヴェルには話さないで」と言うが、アンジェイは、「それを聞いたら、力が湧く」と言い、話を伝える方を選ぶ(2枚目の写真)。悪い話は、①視学官から電話があり、アダムスキーという男がアンジェイに会いに来る。②彼はアンジェイの同行に大反対で、パヴェルと引き離す積もり。アンジェイは、「みんなが、俺を嫌ってる」と答えただけ(3枚目の写真)。電話が終わると、アンジェイはすぐにパヴェルを呼び止める。
  
  
  

アンジェイから母の手術のことを教えられたパヴェルは、笑顔で走り始める(1枚目の写真)。一方、パヴェルの家に2人の女性が訪れる。1人は財団の代表者、1人はクリニックの女性院長。まず、財団の女性が、TVでの紹介で多くの寄付金が寄せられたことを話す(2枚目の写真)。次いで、クリニックの女性院長が、母をクリニックに連れて行き、詳しい検査をしてから、どうするか決めると説明する。この会話の中でも、母のパヴェルに対する感謝の言葉はゼロ。ピォトレックと一緒に、クリニックのバンの前まで来た母は、知能の低い息子を1人で残しておくことを心配しつつ(3枚目の写真)、バンに乗り込む。
  
  
  

その夜、車の中では、お金を握っているパヴェルが一切ビールを買わないので、離脱(禁断)症状に苦しむアンジェイの姿が映る。これはこれで、本人にとって非常に良いことで、巡礼の旅は、パヴェルにとってだけでなく、アンジェイにも良い影響を及ぼしていることが分かる。我慢しきれなくなったアンジェイは、震える手で必死になってドアを開けると、道路の上にへたり込む。助手席から、パヴェルがそれを見ている。アンジェイが苦しんだ挙句に始めたことは、何と、腕立て伏せ(1枚目の写真)〔振戦せん妄状態で、腕立て伏せが 実際に可能かどうかは分からない〕。次のシーンは翌日。アンジェイが カフェでアダムスキーと会う。アダムスキー:「君は、少年の健康を危険にさらしていると知ってるはずだ」。「それは違う。俺がいなくても、あの子は、走り続けていただろう」(2枚目の写真)。「君がいなかったら、ずっと前に、警察に保護されていただろう」。「今は、夏休み中だ。夏のキャンプと呼べばいい」。「我々が承認しなければ、違法だ。少年に何か起きたら、誰が責任を取る?」。「俺はトレーナーのライセンスを持ってるし、13年教えて来た」。「腹蔵なく話すぞ。君には全く信頼が置けん。アル中で、それは周知の事実だ。校長がライプツィヒのトロフィーにあれほど執着していなかったら、君はとっくにクビになってた。少年を車に乗せ、母親の元に帰すんだ」。「俺があんたのウザイ口を殴っても、あんたには何もできん。200万の人が観てるんだ。俺を解雇してみろ、TVはあんたを吊るし上げるだろうな。解雇されるのは、俺じゃなく、あんただ」(3枚目の写真)。カフェを出て行こうとする 敗残の将に向かってアンジェイが投げつけた言葉は、「勘定、払っとけよ」だった。
  
  
  

クリニックで。院長は、「手術をすることに決めました。簡単ではありませんが。あなたが同意すれば」と告げる。母は、「手術しないと死ぬのですか?」と尋ねる。院長は頷く。母は、「同意します」と答える。それを聞いた院長は、「あなた息子さんが、なぜあんなに勇敢なのか 納得でしました」と言うが(1枚目の写真)、この母親は、ここでも、パヴェルのことは話題にせず、神父に懺悔をしたいと頼む。一方、順調に進んでいるように見えた2人組だが(2枚目の写真)、急に車がエンコして、一切動かなくなる。それでも、パヴェルは 「走らないと。時間がない」と主張し、アンジェイは 「何とかしないと」と言い、地図を引っ張り出し、「この辺にいるハズだ」(3枚目の写真)「12キロ先に 大きな村がある。修理屋があるに違いない」と言うが、パヴェルは走って行ってしまう。
  
  
  

パヴェルは12キロ先の村で、修理屋を探して待っていた。そこに、トラクターに牽かれたアンジェイのボロ車が到着する(1枚目の写真、矢印)。パヴェルは、さっそく、「ここには、修理屋なんかない」と知らせる。車を放置はできないので、村長と相談することにして、2人で、近くの店に行き、居場所を訊く。次のシーンでは、パヴェルがポケットから何かを取り出しては食べている。それを見つけたアンジェイは、ポケットからスナックの袋を奪い取り、「これは何だ? 盗んだのか? 今すぐ吐き出せ。でないと、盗んだ店まで連れてくぞ!」と 叱りつける(2枚目の写真、矢印はスナックの袋)。パヴェルも負けてはいない。「放せよ! この嘘つき! この間の男が話してくれた。あんたがクビにならないのは、僕と一緒にいるからだって」(3枚目の写真)。「何だと? お前のことが可愛いから、一緒に付いて来たとでも思ってたのか? 俺は俺、お前はお前、だが、助けてやったじゃないか。さあ、村長のトコに行くぞ」。
  
  
  

アンジェイが。壊れた車を持って行った先は、夫婦だけで経営している小さな工場。そこで、生意気そうな村長の奥さんに、「自転車はあるかね?」と訊く。「当たり前よ」。「貸してもらえんか?」。「なんで? あんたなんか知らないよ。売ったげる」。アンジェイは、自分の腕時計を外し、「70ズロチ〔2900円〕の価値はある」と言って渡す。奥さんは、「あたしは分からんね」と言うと、夫〔村長〕を呼ぶ。「この人が、自転車を買いたいとさ。これで足りるかい?」。時計を渡された、作業服姿の夫は、「足りんな」(1枚目の写真)。アンジェイは、携帯電話も渡す。夫は、中古の自転車を持ってくる。タイヤに空気を入れているアンジェイに、パヴェルは、「一緒に走ってみない? 以前、優勝したでしょ?」と声をかけるが、「あれから、いろいろあってな」と否定。「それって、ウォッカとタバコ?」。「あああ、そうだ」。パヴェルは走り始めるが、ハンドル、荷台、さらに、背中に大きな荷物を背負った姿で自転車を漕ぐのは、アンジェイにとって大変な負荷だ。一方、クリニックでは、母が、パヴェルが走っている写真の載った新聞を見ている。そこに、約束通り、神父が現われる。「あなたの息子ですね」。「こんなに痩せちゃって」。「走り続けているのだから、当然でしょう」。そして、「みな走りはするが、賞を得る者はひとりだけである」と呟く。「今、何て?」。「使徒パウロが『コリント人への第一の手紙』を書きました〔9章24節 「あなたがたは知らないのか。競技場で走る者は、みな走りはするが、賞を得る者はひとりだけである。あなたがたも、賞を得るように走りなさい」〕。「ランニングについても、書いたのですか?」。「ええ」。「教えていただけませんか?」。神父は、「すべて、ここに書いてあります」と言いながら、聖書を渡す(2枚目の写真、矢印)。ここで、もう一度 場面はパヴェル達に戻り、アンジェイが自転車に手こずっている様子が映される(3枚目の写真)。
  
  
  

ある村まで走って来たところで、急にパヴェルの足が止まる。「どうした?」。「これ、みんな僕の想像だったら?」。「何だと? 何を言い出す?」。「多分、奇跡なんか起きないんだ。何のために走ってるのかな?」(1枚目の写真)。「3分の2まで走って来て、疑うのか? 約束したんだろ?」。「うん、マリア様と」。「何が言いたい。お前の母さんは、お前に嘘をついたことがあるか?」。「山ほど。でも、マリア様はないよ」。次のシーンでは、土砂降りの中、アンジェイが電話ボックスから誰かにかけている〔恐らく、放送局の人間〕。自分はアンカの元夫で、携帯電話を盗まれたので、伝言して欲しいという内容だ。言いたかったことは、トゥレク〔Turek〕に向かっているということ。地図を見ると、出発点のグダニスクの郊外と、黒い聖母のあるチェンストホヴァ〔Częstochowska〕の町の、だいたい3分の2地点にある。2人は、TVクルーとドッキングしなければならないので、重要な情報だ。電話が終わった後、受話器を戻そうと思っても、振戦せん妄状態から抜けきれないのか、何度やってもうまく掛からない。頭に来たアンジェイは受話器で何度も本体を殴り、そのまま床にへたり込む(2枚目の写真、矢印は受話器)。ここでも、手の震えを何とか止めようと、アンジェイは雨の中に体を投げ出し、腕立て伏せを始める(3枚目の写真)〔彼なりに、禁断症状と戦っている〕
  
  
  

クリニックで。財団の代表者が母に、「ここに入るのに、何ヶ月も待っている人がいるのよ」と、暗にパヴェルのお陰だと示唆する(1枚目の写真)。しかし、それに対する母の返事は、「パヴェルが、私のために走ってるって ご存じでした?」という、ピント外れのもの〔そのために財団に募金が集まり、そのお陰でクリニックに入院できたのに、よく こんなピンボケな質問ができるものだと思う〕。そして、母は、神父からもらった聖書を取り出し、短い文章を読み上げる。「わたしたちの参加すべき競走を、耐え忍んで走りぬこうではないか」〔『ヘブライ人への手紙』 12章1節の最後の部分〕。「あの子、侍者だったけど、聖書は読んだことがない。でも、知ってたのね」。その頃、アンカを乗せたTVクルーのバンは、パヴェルとアンジェイのペアを発見していた(2枚目の写真)。バンに乗り込んだパヴェルは、アンカに母のことを尋ねる。「もうすぐ手術よ」。「ピォトレックは?」(3枚目の写真)。「分からないわ。誰かを見に行かせましょう。約束する」。しばらくして、ピォトレックのところに若くて美人の女性が訪れ、そんな経験のないピォトレックは大喜び。
  
  
  

そして、いよいよ、2度目のロケ撮影が始まる(1・2枚目の写真)。その時、電話が入り、アンジェイに追いついたアンカは、「今夜、お客さんがあるわよ。あなた、お金が稼げるかもね」と伝える(3枚目の写真)。
  
  
  

「お客さん」 とは、スポーツドリンク会社の人で、社名の入ったTシャツと帽子を被って走れば、7000ズロチ〔30万円弱〕を進呈するという、“金欠病” の2人にとってはいい話だった(1枚目の写真)。しかし、パヴェルは、アンジェイから聞いた話として、このスポーツドリンクがクズだと言い、「茶さじ1杯の塩、ソーダに、ちょっとビタミンを入れただけ」で、「みんなからお金を巻き上げている」ような製品のPRは嫌だと拒否する。担当者は、「アンジェイ氏は、別のドリンクと勘違いされているんでしょう」とパヴェルを説得しようとする(2枚目の写真)。しかし、パヴェルは、「でも、成分は似たようなものでしょ?」と言い、さらに、「僕は、母さんが良くなるように走ってるんで、お金を稼ぐためじゃない」とも言う。お金が欲しいアンジェイは、パヴェルを呼んで、2人だけで話す。「お前、どうかしてるぞ。金があれば助かる」と OKするよう迫る。「だから?」(3枚目の写真)。「欲しくないのか?」。「あんた、欲しいの?」。「ああ、欲しい」。2人は席に戻る。担当者は、「ヒーローのお越しだ」と持ち上げ、アンカは、「それで?」と訊く。「ノー」。アンカは、アンジェイに、「説得したんじゃなかったの?」と訊く。「したとも」。そう答えると、今度は、担当者に向かって、「子供がノーと言うからには、ノーだ。もう消えろ」と、全面的にパヴェルの肩を持つ。
  
  
  

翌朝、アンジェイは、パヴェルに 「7000ズロチが消えちまった」と言う。「怒ってる?」。「いいや。最後に追い払ったのは俺だろ。俺も、どうかしちまったんだ」。「ビール、何日飲んでないの?」。「じき3日だな」。「えらい! これあげる。タブレット〔錠剤菓子〕だよ。買ったんだ」〔昨夜の出来事で、2人の間の信頼関係は より強固となった〕。チェンストホヴァ近づくと、巡礼の通り道には、マラソン競技のように、水が置いてあったり、声援を送ったりする人がいて、TVで有名になったパヴェルが走って行くと、誰もが拍手してくれる(1枚目の写真)。一方、ピォトレックはパヴェルの学校に入って行くと、校長室に行き、前日 紙に書いて何度も練習したことを、すらすらと話す。「僕の弟が、母さんを救けて下さるようマリア様にお願いするため、走っています。でも、歴史と算数の追試があります。延期してもらえませんか? 走り終わったら、試験をちゃんと受けます。僕は、校庭を掃いたり、言われたことをしますから」。それを聞いた校長は、「君のことは知ってるよ、ピォトレック」と言う(2枚目の写真)〔知恵遅れのピォトレックが、これだけのことを間違えずに言えたことに感動している〕。「追試のことは心配しなくていい。君の弟さんのことは、誇りに思ってるよ」。「じゃあ、認めてもらえるんですね」。「もちろん」。ピォトレックは大喜びで部屋を出て行くし、それを見ている校長も 実に嬉しそうだ。最後は、ベッドに載せられて手術室に向かうパヴェルの母(3枚目の写真)。「息子に電話してもいいですか?」。「手術の後で」。「そうよね。電話番号も知らないんだった」。
  
  
  

母が手術室に入った後、どのくらい時間が経ったのか分からないが、パヴェルが突然走るのを止める。アンジェイが、すぐに 「どうした?」と声をかける。「何か あった」。「何が?」。「わかんない」(1枚目の写真)。「もし、何かあれば電話が入るはずだ」。「ホント?」。「もちろん」。その言葉に、パヴェルは気を取り直して走り始める。しばらくして、並走するアンカの携帯に電話が入る。内容〔不明〕を聞いたアンカが 絶望的な表情になり、それを見たアンジェイも動揺し、自転車ごとひっくり返る。それを見て、笑いながら引き返してくると、「すごい宙返りだったね。あっという間に治るよ」と慰める。アンジェイは、「お前の母さんの手術は今日だった」と、真面目な顔で話す。「知ってるよ」。「家に帰ろう」。「約束通り走らなきゃ」。「もう、意味がない」。「走らなきゃ」。「もう、走ったじゃないか」。「あんたは、何も分かっちゃいない」(3枚目の写真)。そう言うと、何が起きたか悟ったパヴェルは、走り去って行った。
  
  
  

パヴェルは、ゆっくりと歩く大勢の巡礼団の横を走り抜け(1枚目の写真)、チェンストホヴァにあるヤスナ・グラ〔Jasna Góra〕修道院に向かう。黒い聖母の祀られている部屋に入ったパヴェルは、跪いて聖母の絵に語りかける。「僕は、もっと早く走るべきでしたか? 試験が終わってすぐ、6月の末か7月に走り始めるべきでしたか?」(2枚目の写真)。黒い聖母は、137cm×97cm(枠を含む)のテンペラ画(右の写真)。頬にある傷は、1430年4月16日に泥棒が侵入した際、剣で絵を3つに切り裂いた時に出来たもの(https://culture.pl/〔当時行われた3度目の修復で絵は1枚に戻されたが、頬の傷までは消すことができなかった〕黒い聖母の名の元となった顔の黒さについては、“嘘のウィキペディア” には、「修道院に火が点けられた時の煤で黒くなっている」と書かれているが、信用できるサイトで、そのように書かれたものはなかった。ポーランドのサイトに書かれていたことで、注目に値するものは、①1948年の修復の際、一番下に残っていた僅かな絵の具から、マリアの顔の元の色は、黒ではなく明るい色だったこと(https://poloniaviva.eu/)、②1430年の修復の際、絵は描き直しになるほどの損傷を受けていたが、その時の修復法が間違っていて、元の作品の表面に下塗りをせずに新しい絵の具を塗り、それが一種の化学反応を生じさせた(https://kultura.wiara.pl/)。これ以外にも、③金色の光輪が相対的に顔の色を黒く見せたり、④火事ではなく 数百年に及ぶロウソクの煤の影響も指摘されていた。。この、ヤスナ・グラ修道院の公式サイトで面白いものを見つけた(http://jasnagora.3d)。左のアドレスをクリックして表示される絵の下に「PANORAMY JASNEJ GÓRY 3D(ヤスナ・グラの3Dパノラマ)」という大きな青い文字があり、その下に、6ヶ所の青い字の場所が並んでいる。その一番目の「Kaplica Matki Bożej(聖母の礼拝堂)」をクリックすると、建物の中の写真に替わる。床に「⋀」と「⋁」の白い印が見えるので、「⋀」をクリックしよう。すると、今度は 「<」印が加わる。そこで「<」をクリック。正面に豪華な物が見えるので 「⋀」を5回クリック。すると、4方向の印に替わる。ここで、どの印を押してもダメ。秘密は、マウスを印の右上(礼拝堂の中)に入れると、斜め上を向いた 別の薄黒い「⋀」が現われる。これをクリックすると、黒い聖母の礼拝堂に切り替わる。そして、1つ前に進むと、3枚目のような画像になり、黒の聖母が置かれた場所が良く分かる。今のは直行ルートだが、矢印やマウスを使い、礼拝堂の中を自由に歩き回れる。残りの5つも修道院の内外の別の場所で、これも自由に歩き回ることができる。さて、祈りを終えたパヴェルは、修道院の前に集まった群集をかき分けて家に向かう(4枚目の写真)〔その先、彼がどうやって家に戻ったのかは分からない。一番ありそうなのが、不憫に思ったアンカが、アンジェイと一緒にバンで連れ帰った可能性〕
  
  
  
  

墓所の近くで。パヴェルはピォトレックに、「死んでから3日目に 母さんは生き返るよ。僕らの信仰を試してるんだ。母さんは午後2時に眠ったから、あと1時間で3日目だ。そしたら、目が覚める」と話す。そのことを耳に挟んだアンジェイは、パンを食べているパヴェルの横に座ると、「お前が 兄さんに話してるのを聞いた。そんなことは起きない」。「どういうこと?」。「奇跡だ。あり得ん」。「聖母マリア様に、何ができて、何ができないか、どうして分かるの?」(1枚目の写真)「信仰、あるの?」。「復活が起きたのは一度だけ、キリストが生き返った奇跡だ」。「だから、可能なんだ」。「無理だ」。「なら、僕は、どうしてマリア様まで走って行ったの? 奇跡をお願いするためだ」。「お母さんが、治るという奇跡だ」。「どこが違うの? こっちの奇跡はよくて、あっちの奇跡はダメ? 奇跡は奇跡だ」。そして、午後の2時が近づき、パヴェルは、奇跡の瞬間を写真に撮ろうと、棺桶の母にカメラを向ける。ピォトレックが、「2時だ」と言う(2枚目の写真)。母の棺は墓地に埋葬され、お金がないので、簡単な金属プレートの墓標が差し込まれる。パヴェルは、それをすぐ後ろ悲しそうに見ている(3枚目の写真、頭の手はアンカ)。
  
  
  

パヴェルは、堪らなくなって逃げ出す(1枚目の写真)。そして、森の中を走り、前方に交通量の多い道路が見えて来たところで止まる。そして、目を閉じ、車に轢かれて死のうと、道路目がけて走り出す。しかし、途中にあった大木の幹に正面からぶつかり、気を失って転倒する(2枚目の写真、矢印はぶつかった所)。一方、アンジェイは、それまで断酒してきたのを止め、ウォッカを何本もガブ飲みする(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、パヴェルとピォトレックが、2人で台車を牽いて歩いている。ピォトレックは、「俺たち、孤児院行きだな」と、寂しそうに言う。その時、2人は、路傍のマリア像の前のベンチで酔っ払って倒れているアンジェイを見つける。ピォトレックは、「何とかしないと。マリア様は、助けて下さらないから」と言う。結局、台車にアンジェイを乗せて、家まで連れて行く(2枚目の写真)。2人は、アンジェイを 母のベッドに寝かせる。しばらくして目を覚ましたアンジェイに、ピォトレックが、熱いコーヒーを持って行く。アンジェイは、「ここ、どこだ?」と訊く。「俺たちの家」。アンジェイが、熱いので 少し飲んだだけでコップを返すと、ピォトレックは、「あんたの荷物も一緒に運んで来た」と伝える。アンジェイは、また眠ってしまう。
  
  
  

パヴェルとピォトレックが、定番のベンチに座っていると(1枚目の写真)、そこに、よろよろと歩いて出て来たアンジェイが座る(2枚目の写真)。「俺の服は? 全部ここに?」と訊く。パヴェルとピォトレックは 2人で何か話していて。答えない。「下らんこと、言っちまったな、諸君。俺だって、面倒くさい」。最後に、「ぴったりだ」と言って、少し笑顔になる。映画は ここで終わる。パヴェルとピォトレックは孤児院に行かず、アンジェイと一緒に暮らすのだろうか?。
  
  
  

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