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Abe エイブ/イブラヒムやアヴィじゃない

アメリカ映画 (2019)

パレスチナ人で無神論者の父と イスラエル人で不可知論者の母の一人息子で 12歳になるエイブの悩みを描いたコメディ。一家には、それぞれ、信仰心や民族主義的思考の強い祖父母がいる(母方だけ祖母でなく伯父)。父の祖父の家に呼ばれる時には、父とエイブが同席し(母はいない)、食べる物はアラブ料理。母の祖父の家に呼ばれる時には、母とエイブが同席し(父はいない)、食べる物はイスラエル料理。エイブの誕生日をエイブの家で祝った時には、双方の祖父母が出席するが、持ち寄ったバースデーケーキの上には、父方が「Ibrahim」、母方が「Avraim」と名前が書かれている。それぞれの愛称は「イブラヒム」と「アヴィ」。このエイブの一番の趣味は料理、二番目の趣味は食べること。だから、エイブは 自分でケーキを焼き、そこに「Abe(エイブ)」と書いて自己主張する。そんなエイブは、母方の祖父を喜ばせようと、バル・ミツワーの儀式を見学にシナゴーグに行ってみるが、父方の祖母に勧められたラマダンの断食と重なっていたため、食事を断る。お陰で、他の子からイスラム過激派だとからかわれたりもする。そんなエイブが双方の融和を図ろうと企画したのが、自慢の料理を使ったフュージョンフードのパーティ。しかし、祖父母たちは、エイブの目的とは正反対の人種的・政治的論争を始めてしまう。この映画は、エルサレムとパレスチナを巡る争いを、一人の少年の葛藤の形で描き、それを深刻な心理劇にしないために、クッキングとインスタグラムを交えてユーモラスに描き、IMDbで7.0、Rotten Tomatoesで79%と、一般視聴者と評論家の双方から高い評価を得ている。特に、エイブが夏休み中に ブラジルのバイーア州のアフリカ系料理とジャマイカ料理とをフュージョンしたコックの店で無給の見習いをする下りは、私の大好きな映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(2014)を思わせ、実に愉快だ。2019年1月にサンダンス映画祭で上映され、チューリッヒ映画祭、サンパウロ国際映画祭を経て、2020年に公開予定だったが、新型コロナの拡大でインターネット配信に切り替えられた。

エイブは、食べることと料理をすることが好きな少年。12歳の誕生日には、自分でバースデーケーキを焼くが、家にベーキングパウダーがなかったため、フワっと膨らまない。誕生会には、父方は祖父母と、母方は祖父と伯父が参加する。エイブにはインスラグラムの友人はいても、学校や近所の友達が一人もいないため、参加者は家族だけ。しかし、その家族が最大の問題だった。というのも、父の祖父母はパレスチナ難民。母の祖父母はユダヤ人〔祖母は亡くなったばかり〕と、現在のイスラエルにおけるパレスチナ問題の縮図が出来上がっている。エイブの両親は、親戚一同の大反対を押し切って結婚しただけあって、普段は、両方の祖父母が同席することはないのだが、孫の誕生日ということで、毎年1回だけ集まっている。席上、エイブがあと1年で13歳になる年になったことから、ユダヤ人の祖父が、バル・ミツワー〔ユダヤの少年が13歳になる時に行われる成人式〕のことを持ち出し、騒ぎとなりかけるが、母が必死に止める。しかし、エイブが父と一緒にパレスチナ人の祖父母の家に行くと、祖母はこっそりエイブにラマダンの断食を勧め、エイブは、両方を満足させるために両方とも試してみようと決心する。一方、料理の方では、イスラエルとパレスチナに共通の料理ファラフェルをネット検索したエイブは、自分が住んでいるブルックリンで毎週開催されている屋台イベントで、おいしそうな店を発見し、食べてみて気に入ってしまう。エイブの夏休みの過ごし方で、母がクッキング・キャンプを提案した時、エイブは飛び付く。しかし、行ってみると、完全な「お子様向き」。そこで、お揃いのTシャツだけもらって逃げ出し、屋台イベントに出店しているチコのレストランに行き、料理を教えてくれるよう頼み込む。それから、週日は毎日、エイブはTシャツを着て両親にクッキング・キャンプまで送ってもらい、中には入らず地下鉄でチコの店に通う。しかし、初めのうち、エイブがさせられたのは皿洗いとゴミ出しだけ。1週間ほど経ってようやくユッカの根の皮剥ぎをさせてもらえる。その頃、エイブは、バル・ミツワーとはどんなものか見ようと、親戚の子の儀式に参列するが、ちょうど、試しに断食を始めたところだったので、大失敗をしてしまう。この直後のエイブと母との会話から、父が無神論者で母が不可知論者であることが観客にも分かる〔だから、パレスチナとユダヤが結婚できた〕。エイブは、チコの店に通い始めて18日目にして、スタッフ・ミールを作る機会が与えられる。エイブは、パレスチナの祖母からもらったラム肉のマリネを焼いたものをタコスにして好評を博し、店のエプロンを贈呈されるが、皮肉なことに、喜び勇んでクッキング・キャンプの前まで行くと、そこには父母がいて、彼がキャンプに行っていないことがバレてしまっていた。エイブは、スマホとラップトップを長期間取り上げられ、夏休み中の外出禁止を言い渡される。そして、11月の感謝祭。エイブは、チコの店で親しんだフュージョンフードで、パレスチナとユダヤをフュージョンさせようと考え、誕生会の時の全員にメールを出して感謝祭の夕食に招待する。エイブは、両方の地域の食材や調理法を混ぜた料理を出すことで、両方の家族が仲良くなれればと考えたのだが、結果は正反対で、会話は、論争から喧嘩、個人攻撃に拡散。絶望したエイブは逃げ出し、誰もいなくなったチコの店に隠れる。一方、エイブがいなくなったことに気付いた家族は、捜し回り、反省し、エイブの料理をちゃんと食べて美味しいと思い、ネットでエイブの投稿を見つけてチコの店に迎えに行く。

主演のノア・シュナップ(Noah Schnapp)は2004年10月3日生まれ。NetflixのTVシリーズ『ストレンジャー・シングス』(2016~)で活躍している子役だが、本格的な映画出演はこれが2本目。1作目は、『Waiting for Anya(アンヤを待って)』(2018)で、第二次大戦末期のスペイン国境近くのフランスの山村に住む羊飼いを演じている。IMDbでは2020年の映画とされ、この映画より後になっているが、実際には、2018年6月にナンタケット映画祭で初上映されている〔アメリカでの公開が2020年2月なので、2020年になっている〕。一方、この映画の初上映は、上で書いたように2019年1月。半年後だ〔撮影は2018年10月以前だろうから、撮影時は13歳となる〕。そして、2020年4月17日にネット配信されたが、IMDbではなぜか初上映の年に基づき2019年の作品としている〔基準が一定ではない〕

あらすじ

1人の少年がパソコンに向かい、独白が流れる。「ある人は、僕をアブラハムと呼び、イーブラヒムと呼ぶ人もいる。僕はエイブがいい」。そして、インスタグラムのプロフィール画像が作成される。エイブの顔の右目に輪切りのオレンジ、口に切ったスイカがはめ込まれて完成(1枚目の写真)。これでプロフィール設定が完了する。窓辺にもたれ掛ったエイブが、アイスキャンディーを食べている映像に切り替わる(2枚目の写真)。「いろんな子がいるよね… 車マニアとかカッコいい服を着たい子とか、自撮りやお金、派手なミュージシャン、セレブが好きな子も。僕は食べるのが好き。我慢できない。夏休みに何するって? ブルックリンで味の追っかけさ」。ここで、エイブが食べたであろう美味しそうな食べ物が紹介される。「ディ・ファラのピザ」〔ニューヨークで大人気のピザ屋〕。「なんでも、彼〔主人のDomenico DeMarco〕の手は、オーブンの熱をもう感じないんだって。これ、すごく胃に心地よかった」。画面に文字が入る。「#MUSICTOMYSTOMACH」。そして、そのまま、「abecooks〔エイブのニックネーム〕」のタイムラインの記事になる。反応は、1つ目が「ケーキ作りは難しいんだぞ、バカタレ」、2つ目が「俺にも明日一切れ寄こせ」と、冴えない。「食べることよりもっと好きなことがある。それがクッキング。幾つかキッチンの秘訣を知ってる。クッキングだとオフラインで話さなくてもいい」。この台詞の際の画像は、3枚目の写真。「#BDAYCAKE」の文字は、これからエイブが挑戦しようとしているバースデーケーキのこと。背後は、エイブが作ろうとしている「レモンとポピーシードのバントケーキ」の作り方のサイト。

そして、エイブは実際にケーキを作り始める。「だからって、友だちがいないわけじゃない。ネット上にいる。オフラインで会ったことはないけど。それがどうした? そろそろ、バースデーケーキに集中しなきゃ」(1枚目の写真)。その時、母と父がキッチンのドアから入って来る〔庭からキッチンに入れるようになっている〕。母は「今日は 誰にも発言して欲しくないわ。何があろうともね」と夫に話す。父:「何を期待してるんだ? 変わりようがない。年寄りで気難しいし、僕らに辛く当たってきた。でも、家族だし、愛してるだろ」。母は、エイブがケーキを作っているのを見てびっくりする。「ケーキなの?」。父も 「誕生日のケーキ、自分で作ってるのか? びっくりだな」。「作りたかったから」。そして、棚を調べ、「ベーキングパウダーないの?」と母に訊く。棚にあったのは重曹〔英語だとbaking soda〕だけ。料理オンチの母は、「同じものよ」と言う。「違うよママ、重曹は重炭酸ナトリウムだ」。「英語を話してちょうだい」。エイブは酒石英の瓶を出すと、重曹に混ぜてベーキングパウダーにすると言い出す〔ベーキングパウダーは、重曹に 酸性剤(酒石英)と水分吸収剤(コーンスターチなど)を添付したものなので、この考え方は正しい〕。ところが、何も知らないくせに、母は 「いい考えだとは思わないわ」と反対し、エイブが化学反応について説明すると(2・3枚目の写真)、母は 「ウォルター・ホワイト〔TVドラマ『ブレイキング・バッド』の主人公の天才化学者〕を産んじゃったわね」と茶化す。そのドラマを見ていたに違いない父は、そのダークなイメージから、「ホントにうまく行くのか? やめろよ」と勝手な口を出し、エイブは重曹だけを使うことにする〔重曹だけでは、ふんわりと焼き上がらない〕

エイブの誕生祝いにやって来たのは、父方のパレスチナ人の祖父母と、母方のイスラエル人の祖父と伯父。新聞の論説委員をしているパレスチナ人の祖父が 「パレスチナ人の考え方が ほとんど知られていない、と論説に書いた」と言うと、イスラエル人の祖父が 「それは違う」と否定する。「見たいと思うものしか見ないからだ。イスラエルは、他の民族を軍事的に占領している唯一の国家だ。50年間もだぞ」。「お前さんの記事は、全体像をつかんどらん」。ここで、母が 「食卓で政治はなしよ」と言い、「ハッピー・バースデー、坊や」とエイブに声をかけ、緑色の飲み物の入ったグラスを上げる。アラビア語とヘブライ語がそれに唱和する。父が 「食べてみて。エイブが丸一日かけて作ったんだ」と言う。イスラエル人の伯父は 「君が作ったのか?」と驚き、母がその奮闘ぶりを話すと、パレスチナ人の祖母が、アラビア語で「ユダヤ人の母は料理が嫌い」と、夫に悪口を言う。伯父は 「この突拍子もない〔crazy〕サンドイッチ、気持ち悪いな〔shit〕」と、平気で批判する。「ラーメン・タコスだよ」〔ラーメンの麺をタコスで挟んだもの/料理のセンスがいいとはとても言えない〕。そこで、急に、イスラエル人の祖父が立ち上がり、「お前が来年バル・ミツワーをすれば、男になるぞ!」と言い出す(1枚目の写真)〔男の子が13歳になった時に行う一種の成人式〕。母は、話が変な方に行くと困るので、すぐに父を座らせる。それでも、祖父は 「干渉する気はないが、そろそろ考えないと。何と言っても、お母さんがユダヤ人だからな」と、くどくど続ける。その言葉が終わるか終わらないうちに、パレスチナ人の祖母が反撃に出る。「何と言ったってイスラム教徒ですよ。お父さんがそうなんだから」。ここで、エイブの父が余計な口を出す。「無神論は、母系かな父系かな?」。ここで母は、もう一度、政治的な話題を避けるよう割って入る。ところが、それを破ったのはエイブ自身。「バル・ミツワーに出たい。モスクにも行きたい。両方ともやれる」と言い出し、うるさ型のパレスチナ人の祖母から、「両方は試せても、両方にはなれない。どちらか選ばないと」とたしなめられる。そこでまた口論が始まり、母が3度目に介入。「ケーキの時間よ」。世界共通の「ハッピーバースデー・トゥ・ユー」を3ヶ国語で歌った後、3つのケーキが映る(2枚目の写真、上はユダヤ人の父が持ってきたケーキ、下はパレスチナ人の両親が持ってきたケーキ)。最後にエイブが作った “ぺしゃんこ” のケーキが映る。これについては、このケーキをタイムラインに投稿した後の画像(3枚目の写真)の方が面白い。「気持ち悪いバースデーケーキ」という見出しの付いた写真に対し、動画が送られてきて、「最低だな。誕生日に自分で焼いといて、膨らみもしなかった? 僕は、6年生〔エイブと同学年〕の料理教室で、もっとマシなもん作ったぞ」と批判する。

仲の悪さが露呈した誕生会の夜、エイブは、部屋にこもってしまう。キッチンでは、母と父が話し合っている。母:「あの子が、バル・ミツワーかモスクにトライしたがるなんて、思ってた?」。父:「彼は、イスラム教徒には絶対ならんし、あの人たちみたいなユダヤ教徒にもならないと思うな」。「僕の家族は、何一つ意見が合わない。ファラフェル〔中東風コロッケ〕みたいに共通の食べ物ですら。片方は ひよこ豆を使うし、もう一方は そら豆を使う。僕はどうしたらいい?」(1枚目の写真)。ネット上でファラフェルを検索していたエイブは、「滅多にお目にかかれないブラジル風ファラフェル」と書かれた美味しそうな写真に惹き付けられる。そのサイトを見ていくと、シェフの名は、チコ・カトゥアバ。キャッチフレーズは、「味のブレンドは、人々を結びつける」というもの。そして、出てきた知らない単語は「Bahia(ブラジル北東部の州バイーア、アフリカ系住民が多く、宗教や音楽などで黒人文化の影響が深い)」(2枚目の写真)。そして、「ブルックリン、ポップアップ広告、混ぜ合わせる」の3つで地図検索して表示されたグーグルマップ上の地点。「12歳。もう一線を越えていい年だ」。エイブは、こっそり外出用の服に着替えると、キッチンで口論を続ける両親を尻目に、玄関から忍び出る(3枚目の写真)。

エイブは、地下鉄を降り、夜の街を歩き、イースト川を挟んで対岸にマンハッタンが見えるウォーターフロントのウィリアムズバーグで、毎週土曜日に開催されているフード屋台イベントに顔を出す。ぎっしりと軒を連ねる屋台のなかで、エイブが目指したのはチコの屋台。ネットで見た顔を見つけると、近づいて行き、置いてあったしゃもじに残ったハーブの匂いを嗅いでみる(1枚目の写真)。その後も、屋台の周りをうろつき、台の上に置いてあったボウルからアマトウガラシを1つつまんで食べてみる。次に隣のコーラナッツに手を伸ばしたところをチコに見つかり、「何してる?」と咎められる。「買いたいのか?」。「手伝ってもいいよ」。「結構だ」。「忙しそうだね」。「要らん。家に帰れ。両親はどこだ?」。ここで、“忙しそうな” ブラジル人のスタッフが、「チコ、その子がここで働いたら、面倒なことになるよな。そしたら、俺たち本国送還されて…」とポルトガル語で声をかける。チコは、離れようとしないエイブを見て、「今すぐ帰れ」と命じる。エイブは少し離れた場所に留まって離れようとしない。夜遅くなり、最後の客がいなくなった時、さっきのスタッフが、「チコ、あの子、まだあそこにいるぞ。アカラジェ〔ブラジル人のソウルフード〕がまだ一つ残ってる。彼にやれよ」と進言する。チコは、寂しそうに座っているエイブに、アカラジェとレモネードを持って行き、「食べてみろ」と渡す。「わあ、ありがとう」。エイブが食べ始める。「そいつはアカラジェだ。ブラジル、俺の国の食べ物だ」。「すごく美味しいね」。「ジャマイカ料理をちょっと混ぜてある」。「フュージョン〔融合〕だね」(3枚目の写真)。「君は何なんだ?」。「ちょっとややこしいんだ。半分 パレスチナのイスラム教徒で、半分 イスラエルのユダヤ教徒。そして、ブルックリンの住民で、グリフィンドール〔ハリー・ポッターの学寮〕」。「そいつは凄いな」。

別な夜、両親がキッチンでいつものように意見を交わしている。そこにエイブが現れたので、父が 「やあ、来たな。お前のキャンプのことで話してたんだ」と声をかける。サマー・キャンプのことなど寝耳に水だったエイブは、「待ってよ。僕、キャンプに行くの?」と訊く。今度は母が 「フード・ツアーみたいなことして、ブルックリンを歩き回われるなんて、まさか思ってないでしょね?」。そう言いつつ、スマホを見ていた母は、「ちょっと待って、これいいんじゃない? クッキング・キャンプよ」と、子供向けの企画を見つける(1枚目の写真、母の手にはスマホ、エイブの手にはアイスキャンディー)。「クッキングしたがる子供たちだから、新しいお友達ができるわ」。「僕が学びたいと思ってる大人向きのトコじゃないね」。「あなた、いつ大人になったの?」。手続きを終わり、エイブがクッキング・キャンプの教室のドアを開けると(2枚目の写真)、そこにいたのは、エイブより小さな子供たちで、黒板には星型スマイルマークが張り付けてあり、危ないのでナイフ禁止の大きなサインも。教師が教えているのは、初歩の初歩。とても耐えられないと思ったエイブは、参加している証拠に、入口に置いてあったTシャツだけ取ると(3枚目の写真)、そのまま教室をおさらばする。「悪いけど、僕はプロのシェフなんだ。あんなこと、目をつむってたってできる。ふざけるな〔Kiss my ass〕」。

エイブは、BMT(ブルックリン・マンハッタン・トランジット)のブライトン線のプロスペクト・パーク駅(高架)に行き、Q系統(各駅停車)の電車に乗る(1枚目の写真、電車の中央頂部に「Q」と表示されている)。そして、スマホでチコの店の場所を調べる(2枚目の写真)。3つ目のアトランティック・アベニュー-バークレイズ・センター駅で降り、BMT4番街線に乗り換え、5つ目の36丁目駅(地下)で降りる。エイブは店の裏口から入り、厨房のドアに忍び込む(3枚目の写真)。

エイブは厨房内を見てまわるが、みんな忙しく、存在を気付かれたのは ユッカの根の切れ端を床に落とした時点。チコは、顔を覚えていたので、「おい、ブルックリンの住民! 何でここにいる?」と訊く。「あなたに食べてもらおうと思って」と言って、バックパックを調理台の上に置こうとして、寸前で止められ、「二度とやるな」と床に置くよう指示される〔衛生観念ゼロ〕。エイブが取り出したタッパーの中に入っていたのは、自作のフュージョンフード。誕生会の時のラーメン・タコスだ。チコは、その名前と、外見から、匂いを嗅いだだけで、「最悪だ」と言い、蓋を被せようとする。エイブは、「待ってよ。食べてもないじゃない。一口だけでも」と頼むが(1枚目の写真)、「お前さんは、フュージョン〔融合〕とコンフュージョン〔混乱〕を混同しとる。とんでもないものを作ったな。次は、食べられるものを作れ」と言われてしまう。エイブは、がっかりして蓋をする(2枚目の写真)〔この時点で、エイブが 以前「食べることよりもっと好きなことがある。それがクッキング」と言っていたのは、口だけで、実は半分素人だとはっきりする〕。あきらめきれないエイブは、「教えてくれない?」と頼む。「金持ちのガキのサマー・キャンプか? どうなんだ?」〔ズバリ!〕。意気消沈したエイブが出て行こうとしていると、コックの1人が、「ユッカに これどうかな」と言って皿を持ってくる。チコは指につけて舐めると、「頭がぶっ飛ぶな」と笑う。エイブは、こっそり皿を取ると、止めるのも聞かずにスプーンで舐め、「これ、シラチャ〔ベトナム由来のピリ辛万能調味料〕?」と訊く。コックが、「そうだ」と言うと、エイブが、「ライムが要るね」と意見する。それを聞いたチコは、「行く当て、あるのか?」と訊き(3枚目の写真)、エイブがもごもご言っていると、「手伝ってくれるとうれしい。毎日来てくれ。平日、数時間だ。手伝え。いくつか教えてやる」と提案する。それを聞いたエイブは大喜び。さっそく明日から実行することに。

翌日の朝、エイブは、両親の出勤の際、クッキング・キャンプの建物の前まで送ってもらう。当然、この時は、キャンプのTシャツを着ている(1枚目の写真)。車が去ると、エイブは建物には入らず、柵の前を走ってBMT駅に向かって走る(2枚目の写真)。乗るのは、いつもとプロスペクト・パーク駅〔プロスペクト公園はブルックリン最大の公園〕

厨房に着いたエイブは、エプロンを渡される〔店の正式エプロンではない〕。バックパックを背負ったままエプロンを首からかけ、「で、何から始めるの?」と訊くと、命じられたのは皿洗い。しかも、彼が非常識なことに バックパックを背負ったまま洗い始めたので、チコに外すよう指示される。そこからは、来る日も来る日も、皿や調理器具を洗うシーンが続く(1枚目の写真)。もちろん、それ以外にも雑用はあり、主なものはゴミ出し(2枚目の写真)。「僕は、もうへとへと。だけど、あのキャンプよりはマシだ」。エイブはゴミを背景に自撮りをし、インスタグラムに投稿する。キャプションは「#Cheflife〔シェフ生活〕」。

ある日の夜、エイブと母は イスラエル人の祖父の家で夕食を共にしている〔父はいない〕。エイブの宗教は決まっていないが、儀礼上キッパを頭につけている。3人はグラスを上げ、「アーメン」と唱和する(1枚目の写真、エイブのコップは空)。2人がワインを口にした後、エイブは 「僕も少しいい?」と訊いてみる。母は即座に「ダメ」と言うが、祖父は「構わん。少しくらいいいじゃないか」と言い、コップに少しだけワインを入れる。そして、グラスとコップをガチャンと合わせて、「ラハイム」と乾杯。エイブが底に注がれた僅かのワインを少しだけ口にすると(2枚目の写真)、母がすぐにストップをかける。食事の後、2人は 祖母サヴタの部屋に行き、母は写真の入った箱を、エイブはレシピカードの入った箱を開けて中を見る。母は 「料理が上手だったわ。一世代飛び越えてあなたに遺伝したのね」とエイブに話しかける(3枚目の写真)。「これ〔レシピカード〕、もらっていい?」。「お祖母ちゃんも、喜ぶと思うわ」。その後で、エイブは祖母と一緒にキッチンで料理をした時の自撮り写真を、「料理する時は、いつも一緒」というコメントを添えて「abecooks」の名で投稿する。写真のエイブが今と変わらないことから、祖母の死はごく最近らしい。

別の日、エイブは、パレスチナ人の祖母のキッチンにいる。エイブは、祖母に 料理の味を訊かれると、「クミンは十分だけど、塩が少し足りないね」と言う。祖母が塩を足すと、「これならいいね」。そう言った後で、「僕、断食してないのに、これ食べていいの? つまり、イフタールが断食後にとる食べ物なら…」と 戸惑う〔ラマダンの日没後、初めてとる食事〕。「もちろん、食べていいのよ」と言った後、祖母は、「あなたは12歳になったのだから、断食していい年頃なのよ」と付け加える(1枚目の写真)〔これは。誕生会の時のバル・ミツワーと同じくらい重要な示唆〕。「断食するの、好きなの?」。「好きよ」。「大変そうだもん」。「心を清め、神様とつながるの」。そして、そして食事の時間になり。席には、祖父母、父、エイブの4人がついている〔母はいない〕。祖母はアラビア語で、「いとも優しく、いとも慈悲深き神の名において〔بِسْمِ ٱللَّٰهِ ٱلرَّحْمَٰنِ ٱلرَّحِيمِ〕、アーメン」と、食前の祈りを捧げる(2枚目の写真)。祖母:「召し上がれ」。父:「豪華だね、ママ」。祖父:「ありがたいことだ」。祖母:「イブラヒム、何か飲む?」。エイブは、「なぜ、イスラム教徒はワインを飲まないの?」と訊く。意外な質問に、父は、「ワイン?」と訊き直す。「うん、シャバット〔ユダヤ教の安息日〕に飲んだんだ。サバ〔סבא、お祖父ちゃん〕が、もう飲んでいいって言ったから」(3枚目の写真)。祖母:「ハビビ〔حبيبي、坊や〕、イスラム教徒は飲まないの」。エイブ:「でも、パパは飲むよ」。父:「俺は イスラム教徒じゃない」。父:「アルコールは知性を鈍らせる。父親を見ていてそう思わんか?」。話が変な方向に行きそうになったので、エイブは、「これ、おいしいね」と言い、話題を変える。

朝、チコの店で。チコは、新たなフュージョンとして、「ブラジル+メキシコ」を考えている。そこに、エイブが いれたてのコーヒーを差し出す(1枚目の写真)。「ちょっと強いけど」。チコにはぴったりだったらしく、皿洗いとゴミ捨てではないことを初めてさせようと思い、「ナイフの使い方知ってるか?」と訊く。「もちろんだよ」(2枚目の写真)。チコはナイフを渡し、ユッカの根の皮を剥がさせる。エイブが 危なっかし気にナイフを使うのを見たチコは、正しい剥ぎ方を教える。エイブが教えられた通りに上手に剥ぐと、「それでいい!」と大げさに褒める(3枚目の写真)。その日の後は、何日もユッカの根の皮剥ぎが続く。

ゴミの処理法、皿の洗い方、ユッカの切り方を学んだ後、2足す2が5や7であるって知った」。ここで、チコが大きなテーブル一面に色々な食材を拡げ、その端でエイブがノートを取る。チコ:「同じ国で採れた食材を使うことから始めろ」。果物の切れ端を手渡されたエイブは、口に入れて思わず顔をしかめる(1枚目の写真)。「そして、味と味を結び付け、ユニークなものを創造するんだ。チコは、フュージョン〔融合〕はハーモニー〔調和〕だと言った。嬉しいのは、いろんな物を試食できること。どれとどれが調和するか見つけないといけないから」。「#CHEESE+HONEY」と表示され、画像も追随する。「5つの基本味、塩味、甘味、苦味、酸味、そして、うまみ〔umami〕」(2枚目の写真)。エイブは、4つの基本味と、うまみとを連結させた絵を描く(3枚目の写真)。「最後のは、プロたちだけのものだ」〔日本初の “うまみ” が、こんなところでも定着しているのは喜ばしい/うまみは、グルタミン酸+イノシン酸+グアニル酸〕。エイブは、その下に、「シナジー〔相乗効果〕」と書き加え、三重のアンダーラインを引く。インスタグラムには 「フレーバーマップを学んだ!」と投稿する。

次のシーンは、シナゴーグ。「バル・ミツワーが どんなものか見てみないと」。儀式の最中に、祖父と伯父に挟まれて座ったエイブのお腹が大きな音でギュルギュル鳴る(1枚目の写真)。その後の食事会で、出されたメニューをさっそくスマホで撮影。そこには、「アダム・ゴールドのバル・ミツワーのメニュー」と書かれた下に、①前菜:マッシュルームと山羊のチーズ包み、②主菜:バターナッツカボチャ〔カボチャの品種〕のラトケ〔パンケーキ〕、暖かいアップルソースとサワークリーム添え、もしくは、茹でたトルテッリーニ〔イタリアン・パスタ〕、アスパラガス、フェンネル、トマト添え、③子供用:マカロニ&チーズ もしくは、シカゴ風ミニ・ピザ、④デザート:チョコレートファウンテン〔噴水状に流したチョコレート〕と記されている〔思ったより質素〕。エイブは、①は食べず、②を何にするか訊かれた時には 「要りません」と断る。母が、「どうたの? マカロニ&チーズ 大好物じゃない」と訊くと、「僕… 断食中」と答える。祖父は、「断食? 何で?」と訊く。「そう… 練習だよ」。母:「何の?」。「あの… ラマダンの」(2枚目の写真)。それを聞いた祖父は、びっくり、がっかり。そのあと、エイブはトイレに行く。「僕のブログを嫌ってる奴らと偶然会うベストな場所は?」。そこには、同年代のユダヤの少年3人がいて、うち一人が、「エイブ、断食してるそうだな」と訊く。「違うよ。僕… 両親が…」。少年は、あとの2人に「こいつ、爆発物を隠してると思わないか?」と言って笑う(3枚目の写真)。

その晩、帰宅したエイブと母。母は 「楽しかった?」と訊く〔楽しいハズがない〕。「さあ、クールだったけど」。「何が?」。「あの一族にとっては お祭りなんだ」(1枚目の写真)。「確かにクールね。いいこと、宗教って複雑なものなの。宗教が生き甲斐の人もいるけど。問題は、それが表面化した時。結局、宗教なんて、メタファー〔明確でないたとえ〕に過ぎないのに。分かる?」。「どういうこと?」。「天国を例にとってみましょ。天国が文字通りの場所じゃなかったら? この地球上で、人々が安らで平和に生きていくためのメタファーだったら?」。「ママは、そう思ってるの?」(2枚目の写真)。「ママが何を信じてるか、関係ないでしょ」〔母は不可知論者=経験を超越する問題を扱わない立場の人⇒夫は無神論者だが、無神論が「神は存在しない」としているのに対し、不可知論では「神の存在は証明できないので論じない」とする〕。エイブがベッドに入ると、両親の口論が聞こえてくる。「いつの日か、こうなるって思ってたわ」。「曖昧な状態で放っておいてはダメだ。守ってやらないと。『神はこれだ、神はあれだ』という洗脳を止めさせないと」。「問題は神じゃない。あの子のアイデンティティ〔自分らしさ〕よ」。口論が終わった後、母がエイブの様子を見に来て、詫びる。「ごめん、聞こえちゃったのね」。「放っといてよ」。しかし、エイブは急に気を変え、怒りをぶつけることに。「どうしたらいいの? 僕には、何もできないよ。イスラムを試せばユダヤが怒るし、ユダヤを試せばイスラムが怒る」(3枚目の写真)「どっちかを試せばパパが怒るし、何も試さなければ今度はママが怒る」。この真剣な悩みに対し、母は、「誰も怒ったりしないわ。気を楽にして。ちゃんと解決できるから」とはぐらかしただけ。エイブは、「ママ、僕の話、ちゃんと聞いてた?」と批判する。

翌朝、チコの店に行ったエイブは、前夜のもやもやが晴れず、作業をしながら悩んでしまう(1枚目の写真)。それを見たチコは、「エイブ、どうした? まともにできてないじゃないか」と訊く。「僕、ラマダンの断食を試してる」。「いろいろあったんだな?」。「まあね」。「いいか、不機嫌な時に調理しちゃいかん」。「どうして?」(2枚目の写真)。「食べ物に入る」。そう言うと、作業を止めさせる。エイブは、以前、思いついて作り、冷凍庫で固めておいたレモン・アイスキャンディーを取り出してきて、「これ、残ったレモネード」と言ってチコに見せる〔底にレモンの輪切りが入っているのがポイント〕。「作ったのか?」。「うん」。一口齧ったチコは 「これはタイムかミントだな。タイムか?」と訊き、味に満足する。エイブは 「僕、一日中でもポプシクル〔アイスキャンディー〕食べてられるよ。真冬でもね。大好きなんだ」と言う。「これは、思い出させるな… 故郷のバイーアを。俺たちは貧しい。エアコンなんかない。めちゃ暑い」。至極満足したチコは、「次のステップに進んでもいいぞ」と言い、鍵を渡す(3枚目の写真)〔鍵の意味は不明〕。そして、スタッフ・ミール〔料理の腕を見るため、作った料理をスタッフ全員が食べて評価する〕を考えてくるよう 指示する。

パレスチナ人の祖母の家に行ったエイブは、料理の本を借りる。そのあと、祖母の調理を手伝おうとして、大量のラム肉が置いてあるのに気付く。「どうして、こんなにあるの?」。祖母は、「私たちは、子羊を神に捧げるの」と話す〔旧約聖書でアブラハムがイサクの代わりに雄羊を神に捧げた「イサクの燔祭」に由来(アブラハム→イブラヒム、イサク→イシュマエル)〕。「私たちが食べるのは3分の1。残りは隣人と貧しき人に半分ずつ。私たちはいつだって分け合うのよ、ハビビ」。そう言うと、祖母は 1キロほどありそうな1切れを手に持ち、ボウルの中のマリネ液を振りかけ 香草を乗せてから 食品用のポリ袋に入れ、「これを持って行きなさい」と渡す(1枚目の写真)。チコの店に行ったエイブは、「これ、スタッフ・ミールに」と言って、ポリ袋を調理台に置く。「シャワルマ〔中東のケバブサンド〕だよ。僕の祖母がマリネしたんだ。子羊も自分で殺したと思うから、新鮮だよ」。「マリネ液の中身は? 識別しろ」。エイブは、袋の外から見て、「ガーリック、シナモン、コリアンダー… ハマってるね。コーントルティーヤ〔メキシコ料理のタコスの皮〕に入れたらどうかな?」と言う。かくして、修行開始18日目にして、エイブが初めて料理に挑戦する。ラム肉は塊のまま鉄板の上で焼き、紫キャベツの千切りをクリーム系のもので和(あ)える。そして、コーントルティーヤの上に焼いたラムの薄切り(厚さ5ミリくらい)を置き、大量の和え物を乗せる。そして、チコと同時に試食(2枚目の写真)。チコは大満足なので、手を握り合う。その後、スタッフ全員(5人)が順に試食する。試食が終わると、チコは用意しておいた包みをエイブに渡す。その場で包みを開くと、中身は 店の正式なエプロンだった。エイブは大喜び。「ありがとう! すごいや! これ持ってていいの?」(3枚目の写真)。チコに首からかけてもらうと、スタッフから拍手が起きる。

絶頂から、どん底へ。エイブがルンルン気分でクッキング・キャンプの前まで来ると(1枚目の写真)、門の前では、両親がキャンプの教師に激しく文句を言っている。お金を払って行かせているのに、キャンプにいないことが判明し、強く抗議していたのだ。そして、エイブは両親に見つかり、車に乗せられ、家に連行される。両親の口論が続く中、エイブは、チコに 「トラブルになるよ。両親は、もう行くなと言ってる。ごめん」とメールするのが精一杯(2枚目の写真)。母は、「調理場? シェフ? あなたを使ってた人、重大な違反行為よ。未成年者を雇ってたんだから!」とエイブに怒鳴る〔賃金の支払いはない〕。エイブが「練習してたんだ! 教えてくれたんだ!」と言っても、母はスマホを取り上げ、チコに苦情の電話をかけようとし、エイブは必死に止める。しかし、スマホは父に取り上げられ(3枚目の写真)、さらに、「ラップトップも終わりだ。学校が始まったら返してやる」として、取り上げられる。エイブは、唯一の社会との接点だった情報端末から完全に切り離される。おまけに、「外出禁止」。キッチンでは両親の口論が延々と続く。ベッドで寝ているしかないエイブの日々が映される。そのうちの1枚が4枚目の写真。なぜ載せたかというと、汚い靴の裏がはっきりと映っているから〔靴を履いたままベッドというシーンはよくあるが、靴の裏がこれほどはっきりと映っている例はあまりない〕。新型コロナで、欧米での感染拡大が激しい理由の1つとして、外出時の靴をそのまま家の中も履き続けているという習慣が衛生上の問題点として指摘されている。この写真を見ると、確かに、欧米のライフスタイルには清潔という概念が欠けているように思われてしまう。

季節は秋となり、新学期が始まる。エイブが学校に入って行くシーンの後は、いきなり、母の祖父の家での食事。祖父がワイングラスを上げて「シャナ・トヴァ〔שנה טובה〕」と言い、母は英語で「ハッピーニューイヤー」。エイブのグラスに入っているワインは、他の大人と同じ量に増えている(1・2枚目の写真)。それにしても、あっという間に3ヶ月以上が過ぎた?? その後、ラップトップがようやく返却される〔「学校が始まったら」というのは、嘘だった?〕。そして、同時に返却されたスマホのスイッチを入れると、11月12日(水)。11月12日が水曜日なのは、近々で2014年。ということは、この映画の時代設定は2014年ということになる(撮影は2018年)。問題は、なぜ11月でハッピーニューイヤーなのか? 唯一の可能性はユダヤ歴の新年だが、2014年は9月25日が新年。唯一可能な組み合わせは、9月2日(レイバー・デーの翌日)に学校が始まり、9月25日にユダヤの新年(ロシュ・ハシャナ)を経て、11月12日にスマホを返却されたという組み合わせ〔釈然としないが…〕。インスタグラムにはたくさんのコメントが貯まっている。そして、エイブは新しいコメントを投稿する。「戻ったぞ」(3枚目の写真)。

自宅の庭で。エイブが「理解できないよ。なぜ? 僕のせい?」と悲しそうに訊く。父は 「誓ってもいい。お前のせいじゃない」と宥めるように話す(1枚目の写真)。母は 「しばらく別れて暮らすのが、いいんじゃないって思ったの」と動機を打ち明ける。「別れて? それって、どういうこと? なぜ、別れなきゃいけないの? 家族じゃないか。いつも一緒なのに」(2枚目の写真)。母:「あなたのお父さんと、私は…」。父:「お前のせいじゃないんだ」。エイブは席を立つ。エイブがベッドで寝ていると、父の言葉が頭を過ぎる。「こんな風に考えろ。お前には2回、感謝祭がある。1つ目は、俺とティータ〔تيتا、お祖母ちゃん〕とジッディ〔جدّي、祖父ちゃん〕、2つ目は、 サバとアリ〔伯父〕と母さんとだ」(3枚目の写真)。エイブは、突然起き上がると、ラップトップで、「人々を一緒にする音楽」とネット検索し、トップに出てきたモーツアルトの『フィガロの結婚』の序曲をクリックする。そして、音楽を聴きながら、母方の祖母が残したレシピカードを見る。

そして、「僕の感謝祭に招待します」と書いたメールを、全員に送る(1枚目の写真)。最初に映るのは、父方の祖母(2枚目の写真)。エイブは、グーグル検索で「パレスチナの食べ物」と打ち込み、出てきた情報をプリントアウトする。次に検索したのが、「中東の食べ物」。母方の祖父と伯父がメールを見る(3枚目の写真)。さらに、「ユダヤの食べ物」。最後に、母と父が、それぞれの場所でメールを見る(4枚目の写真)。エイブは、全員の口に合うような食事を用意し、それによって3家族のフュージョンを図ろうとする。

エイブは、朝から調理にかかりきりになる。メインの七面鳥は母方の祖母のレシピに従う(1枚目の写真、左端が七面鳥)。そして、準備の出来た食卓をタイムラインに乗せ(2枚目の写真)、「幸運を祈ってて!」とコメントした上で投稿する。さらに、「エイブのセム族の感謝祭限りのメニュー!」と題して、料理のリストを書いた小さなボードをセット(3枚目の写真)。この頃には、食事会を開催する午後8時が近づいている。

最初に現れた父が 「すごいな! 素晴らしいアイデアだ。気に入った。みんな幸せになるぞ」と言うが、いつもと違って褒め過ぎなので、エイブに「皮肉みたいに聞こえるけど」と言われる。「違うぞ。ほんとによく考えてある」。そして。全員が揃い、指定された席につく〔誕生会の時は、母方と父方で左右に分かれていたが、今回は、席もミックス〕。エイブは、全員に目を閉じるよう頼み、食前の祈りを、ヘブライ語とアラビア語を交互に唱える。この試みは不評だったようで、笑顔を見せたのは母と父だけ。最初に口をきいたのは、ユダヤの伯父。メニューのトップの「Hummus and Challah Bruschette」を見て、「ホモス&ハーラ。ポルノみたいだな」と心ない言葉〔ホモスはホモ、ハーラはポルノ動画のサイト名〕。出だしから最悪だ。因みに、Hummusは中東料理でヒヨコ豆で作ったペースト。Challahはユダヤ教徒のパン。Bruschetteはイタリア風に炭火で炙った軽食。だから、「ヒヨコ豆で作った中東風のペーストを、ユダヤのパン・ハッラーに塗り、イタリア風に炭火で炙ったもの」となる。3地域のフュージョンだ。パレスチナの祖母は、混ぜて食べるべきものを 別々に食べようとして、エイブから、「混ぜて食べて」と言われるが、「混ぜたくないの」と拒否される。2番目の「ゴマのペースト〔中華〕とディル入りファラフェル〔中東〕」に対しては、ユダヤの祖父が 「イスラエルで食べるのと同じ味がする」と言う。それに対し、パレスチナの祖父が 「イスラエルの味がどんな味なのかは知らん。そもそも、入れてくれないから」と一歩踏み出し、その後すぐ、祖母が「彼らは、最初に土地を、次に食べ物を奪った」と早くも宣戦布告。ここで、エイブが、3皿目の「ポテトのザアタル〔中東〕風味包み」を持って来る。「熱いから気を付けて。1つずつ取って回して」。すると、すぐに、ユダヤの祖父が、「エジプト人、シリア人、イエメン人、ユダヤ人がイスラエルに来た。ファラフェルは彼らの文化の一部だ。中東全域の」と危険な発言。パレスチナの祖父は、さっそく、「あんたたちが、我々の国に来たんだ」と反論〔最初に住んでいたのはカナン人あるいはペリシテ人/ペリシテ人と現在のパレスチナ人との間に関連はないが、ペリシテ→パレスチナと名前を再利用したのはローマ皇帝ハドリアヌス〕。ユダヤの祖父:「パレスチナは、国家とは言い難い」。パレスチナの祖父:「何が言いたい? もちろん、国家だ! ファラフェルを自分たちの食べ物だと言うのは、イスラエルが我々の文化を私物化した一つの証拠だ。自分たちの文化をそうやって作り上げ、我々を抹殺する気だ」。ユダヤの祖父が、ナチスによる大量殺戮の恐怖について被害者を強調すると(2枚目の写真)、「家が火事になったので、逃げようと飛び降り、下にいた人の上に落ちた」と、たとえ話でシオニズム批判。せっかくの感謝祭が、政治論争の場となったことで、エイブはがっかりする(3枚目の写真)。

父と母は、火消しに躍起になる。「もうやめようよ」。「もっと、エイブに協力してやって」。「笑顔だよ」。そこで、七面鳥が登場。ここで、エイブが言葉だけの “シェフ” であることがはっきりする。包丁で切ろうとしても硬くてきれない。原因は、外側が焼けていても、中が凍っていたため〔鳥の丸焼をオーブンで一度も作ったことがないので、火加減や時間を全く知らない〕。この失態に、パレスチナの祖母が 「あの子一人で七面鳥は無理」と言い、立ち上がって手伝おうとする。父は 「ママ、お願い、座って!」と強く言って座らせる。パレスチナの祖母が申し出たことは正解なのだが、料理の経験のない両親にはそれが分からず、母は 「あの子には、一人でやることが大事なの。分かります?」と、余分なことを言ってしまう(1枚目の写真)。パレスチナの祖父:「あの子には助けが必要だ」。母:「それなら、本人が言うでしょ」。祖母:「これが、あなたの子育て法なのね? やりたい放題にさせる」。母:「何ですって?!」。「誰もあの子の面倒を見てない」。「私たちが見てるわ」。「まあ、そう?」。「そうよ!」。「あの子が誰かさんと働いてた時、キャンプに行ってる振りをしてた時、あなたたち どこにいたの?」。この言葉は、無責任な父より、母親を自認している母の心にぐさりと突き刺さる。祖父は 「今は、そんな時じゃない」と妻を鎮めようとするが、祖母は 「今がその時よ!!」と、テーブルを両手で叩く(2枚目の写真)。「今まで、我慢して黙ってきたわ」。母は 「黙ってきたことなんかあって?」と反論し、父も 「もう十分だ」と頼む。「何か起きたらどうするの?」。「何も起きてない」。「言いたくて言ってるんじゃないの。もし誘拐されるか、もっと悪いことになったら?」。「ママ、もうやめて欲しいって頼んでるだろ!」(3枚目の写真)。ここで、奇妙な援軍が登場する。ユダヤの祖父が 「君のお母さんは正しい」と言い出す。すると、今度は、父が、この援護発言に対し、言ってはならないことを言ってしまう。「あんたこそ、宗教や神やでたらめで、あの子を操ろうとしたくせに!」。

これで、話は一気に、両親への攻撃に移行する。ユダヤの祖父は、娘に 「お前は、全員の反対を押し切って結婚した。こうなることを知っててな!」と昔話を持ち出し、母は 「15年後に、そんな話 持ち出すの?」と反論。今度は、パレスチナの祖母が 「あの子が、可哀想だからよ。フェアじゃない!」と言い、ユダヤの祖父は 「フェアどころか、間違いだ!」と協調する。「お前たちの だらしない生活にあの子を巻き込むとは!」。こうして、感謝祭の食卓は罵り合いの場と化した。エイブは調理をやめ、壁に向かって考え込む(1枚目の写真)。そして、チコにもらったエプロンをその場に投げ捨てると、キッチンを出て自分の部屋に行き、バックパックに荷物を詰める、家を抜け出す。伯父が焦げた臭いに気付き、真っ黒になった七面鳥を確認した頃には、エイブはイースト川沿いの遊歩道を歩いていた(2枚目の写真)。エイブが自分の部屋にもいないことに気付いた家族は、家の周りを捜し回る。エイブのスマホには母から電話が入るが、留守録で出ない。エイブの行き着いた先は、チコの店の厨房の片隅。そこで、叶わなかった夢を嘆く(3枚目の写真)。

一旦家に戻った家族。テーブルの上には、エイブが作った料理が残されている(1枚目の写真)。この後、父と伯父が車で捜索に出かけ、女性軍はテーブルの上を片付ける。そして、悲しみにくれる母のため、先ほど激しい言い争いをしていた祖母が、母のためにコーヒー持って来て、「他には?」と訊く(2枚目の写真)。「どうしたらいいの?」。「大丈夫。『親のガイドブック』なんて ないんだから。ハビビは、戻ってくるわ」。「ありがとう」。2人の祖父も、反省するかのように、部屋の片隅で黙って座っている。父と伯父が、成果のないまま戻ってくる。落胆してテーブルに座り込んだ父を見て、ユダヤの祖父は、心配して 「何か食べにゃいかん」と言うが、父は 「とても無理です」と断る。すると、パレスチナの祖父が 「元気を出せ」とアルコールの入ったコップを前に置く。それを見たユダヤの祖父は、冷蔵庫を開けると、料理の載った皿を持ってきて前に置く。そして、父の前に座ると、「わしが、あんたやあの子を傷付けたなら、さっき言ったことすべてを取り消したい」と謝る(3枚目の写真)。それを聞いた父は、祖父と両手を握り合い、「すべきじゃないことをやってしまったという点では、みんな同じだよ」と自分にも非のあることを認め、全員の責任だと悔やむ。

いつしか全員がテーブルに集まり、エイブの作った料理を少しずつ摘(つま)み始める(1枚目の写真)。そして、食べてみれば美味しいので、どんどん食が進む〔さすがに両親は食べない〕。そのうち、伯父がスマホを見ながら、「エイブは、インスタグラムを使ってるぞ。知らなかったな」と言い、投稿された写真を見せる。その中には、今夜の「準備の出来た食卓」の写真もある。その次にあったのが、チコと一緒に映った夏休みの写真(2枚目の写真)。この写真を見せられて(3枚目の写真)、両親はエイブが今どこにいるか ようやく理解する〔伯父の方が、両親より余程勘が良い〕。そして、2人で出かける。

次のシーン。チコが店に入って来て、エイブを見つける〔あんなに息子のことに無理解な両親が、いわば “敵” であるチコの、それも自宅の電話番号をなぜ知っていたのだろう?〕。チコは、エイブの前に座ると、「よお、兄弟」と声をかける。眠ってしまっていたエイブは、目を覚まして「やあ、ごめん」と謝る。「お前さんの家族がこっちに向かってる」。「やり直させようと頑張ったのに… 食べ物を混ぜて、みんなをまとめようとしたんだけど… 混乱させただけ… めちゃくちゃになっちゃった。争い始めて怒鳴り合ったんだ」(1枚目の写真)。チコは 「なあ、エイブ、逃げ出したってどうにもならん。面と向かえ。自分らしくしろ」と教える。そこに、父と母が名前を呼びながら入ってくる。チコは親子3人にして、その場を去る。父と母は、エイブが無事だったことに心から感謝する(2枚目の写真)。波乱に富んだ一夜が過ぎ、キッチンのシンクは食べ終わった皿で一杯だった。「時として、人生って 良くなる前に、悪化するのかも」。エイブは慣れた手つきで皿を洗う。その後で、洗い始める前に撮影した皿の写真を、「全部食べてくれた!」とコメントを添えて投稿する(3枚目の写真)。すぐに反応がある。「すごい!!!」。「良かったわね!!<3」。「まさか!!!〇_〇」。「やってみたい!!!!」。「レシピ教えて!!😏」。「つぎは何?」。それに対するエイブのコメントは、「自分の料理にトライする!!!\(°3°)/」。

ここで、一気に時間が飛ぶ。それが分かるのが、投稿で 「3月。アルバイトで」と書かれたものがある。次が 「4月=散らかっちゃった!!! でも、結果はサイコー!!!」。それを見た 「これ、どこで食べれる?」との問いに 「この夏!!!」との返事。そして料理の写真が映る。①ユッカのラトケス〔メキシコ+東欧系ユダヤ〕、②チョコレート・マッツァー〔イスラエル〕、③シャワルマ〔中東レバント〕。そして、ウィリアムズバーグのフード屋台。エイブは 「アメリカとブラジルの国旗の絵の間に、「究極のブルックリン・フュージョン!」と書き、その下に3つのメニューを書く。①タビオカのサイコロ、②シャワルマ風エンパーダ、③各種フレーバー味のアイスキャンディー(1枚目の写真)。テーブルには親戚一同が座っている(2枚目の写真、マンハッタンがよく見える)。全員に、エイブ特製のアイスキャンディーが配られる。大半の白はヘンプシード〔麻の実〕入り、真っ赤はドラゴンフルーツ入り。フルーツ・パンチもある。会話は、危ない方に何度も行きかけるが誰かがそれを止め、和気あいあいとしたまま(3枚目の写真)。「僕の名前は、エイブラハム・ソロモン・オデ。ある人は、僕をエイブラハムと呼び、アブライムとか、イブラヒムとかアヴィも。だけど僕はエイブがいい。すごく気に入ってる。ただのエイブだ」。

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