カナダ映画 (2008)
アントワーヌ・レキュイエ(Antoine L'Écuyer)が主演する、サイコ的な側面のある家族ドラマ。主人公のレオンは、映画の中で3回も自殺を試み、1回は、嘘を付くためにナイフで自傷する。その上、自宅で放火はするわ、向かいの家にはバカンス中に押し入って破壊の限りを尽くし、別の家には盗みに入る。嘘は日常茶飯事だ。こうして書いてくると、スーパー級の不良少年に見えるが、レオンは決してそんな少年ではない。悪戯の気はあるし、話すことは時に支離滅裂で、学校の成績も良くないが、タフな不良というイメージは全くない。むしろ、繊細で、傷付きやすく、それが、精神のバランスを崩して、とんでもないことをさせる。そうかと言って、精神異常でもない。その、「何と言ったらいいか分からない」不可思議な少年が、巻き起こす様々なトラブルを淡々と描いているところに、この映画の他にはない魅力、というか、特徴がある。この映画のもう一つのテーマは、母と子の関係。人権派弁護士で、清廉潔癖、こどもの単語ミスにも事細かに注意する父親と、ヒッピーを思わせる自由奔放な母。レオンにとっての大問題は、母が、夫に見切りを付け、レオンすら見捨ててギリシャに逃げて行ってしまったことだ。母が去ってからのレオンは、行動に歯止めがかからなくなる。それに輪をかけたのが、近所に住む、不幸な家庭環境で育ち、歪んだ思考の持ち主の少女リア。この2人が共通の目的を見つけた時、それはレオンにとって破局の始まりでもあった。映画の冒頭の首吊り自殺は、悪ふざけか事故だったかもしれないが、破局のあとにレオンが行った2つの行為は、明らかに死を目的としたものだった。映画の魅力の1つは、よく練られた会話や独白にある。それが、突飛もない映画に、一定の信憑性を与えている。ただ、残念なことは、フランス語字幕が存在していないこと。私は、フランス語の訳はできてもヒヤリングはできない。バイリンガルの国カナダのフランス語映画なので、DVDに付いている英語字幕の完成度は高いが、「フランス語でどう言っているか」知りたい箇所が何箇所かあった。
映画は、主人公のレオンが首を吊って苦しんでいる衝撃的なシーンから始まる。レオンは母親によって助けられたが、首にはくっきりと赤い傷が残り、母はそれを隠すために自分のバンダナを首に巻いてやる。レオンには、以前から、隣の家の屋根に生卵をぶつけたり、それに関して平気で嘘を付く悪い癖もあった。一方、レオンの両親の仲はうまくいっておらず、始終ケンカをし、それも近所で話題になっていた。ある夜、両親は今までになく激しいケンカをし、その翌日、精神的にショックを受けたレオンは、母が前夜、父が大切にしていた絵を裂くのに使ったドライバーを手に、バカンスに出かけて無人となったお向かいの家に侵入する。そして、気が付けば、最初から意図した訳ではないにしろ、家の中をめちゃめちゃにしてしまった。そして家から出てきたところを顔見知りの女の子リアに見られてしまう。その翌日、両親はもう一度激しいケンカをし、レオンは何とか止めようと、ショック療法でベッドに放火までしたが、効き目はなかった。そして、レオンが泣いてすがっても、母は家を飛び出して行き、ギリシャへと向かう。母を失ったショックは、レオンを孤独に追いやり、心の隙間にリアが割り込んでくる。彼女は、不幸な家庭で育ったため、善悪に対する感覚がレオン以上に欠けていて、①レオンは留守宅に侵入した、②レオンは母のいるギリシャに行きたがっている、の2点を利用し、留守宅に再侵入してお金を盗むよう勧める。レオンの2度目の侵入では、お金は見つからなかった。逆に、家の中の惨状を見て、レオンは自分のやったことにショックを受け、少しでもきれいにしようと、バンダナを使って掃除を始める。その時に、運悪く 一家が戻って来たため、レオンは慌ててバンダナを落としてしまう。そして、そのまま真夜中過ぎまで地階に隠れていて、やっとの思いで脱出する。しかし、外で待っていたリアから、自分が「行方不明」で警察に捜索されていることを知る。レオンは、言い訳作りのため、ナイフで自分を刺して、「枝から落ちて気を失っていた」ことにする。リアとの交際はその後も続く。そして、リアが作成したプランに沿って、別の家でお金を盗み、リアの兄が働いている旅行代理店でギリシャ行きの切符を購入することに同意。レオンは窓を破ってお金を盗み、リアと一緒に旅行代理店に向かうが、リアの真の目的は川向こうの家に住んでいる「失踪した」父に会うことで、旅行代理店の話は嘘だった。結局、リアは父に会えず、レオンは切符を買えず、お金を盗んだだけで終わる。そして、2人が川を渡って戻ると、そこには父が待ち構えていた。父はレオンにバンダナを見せて責める。レオンは、家宅侵入と破壊行為がバレたと知り、必死で逃げるが、行き場を失い自ら死を選ぶ。幸い、高所から落ちたにも関わらず、レオンは骨折と打撲だけで済んだ。ただし、退院した後、「お詫び回り」で自尊心はずたずたになる。ただ、弁護士の父の機転で、レオンの非行は公にはならずに済んだ。自らの愚行のもたらした結果に懲りたハズのレオンだったが、母が病院に見舞いにも来てくれなかったことは、逆に、母との接触を断とうとする父への反感をつのらせる結果となる。そして、母とは二度と会えないと悲観し、これ以上父と一緒にいたくないと思ったレオンは、3度目の自殺を図る… こう書いてくると非常に暗い映画だと勘違いされる恐れがあるが、実際には、レオンには憎めない初々しさがあり、観応えのある秀作に仕上がっている(IMDbは7.5)。
アントワーヌ・レキュイエは、1997.3.26生まれなので、出演時は11歳。非常に特異な役なので、可愛さではなく演技力が要求される。TVは別として、映画初出演で主演にもかかわらず。難役を見事にこなした。カナダのハリファックスで開催された2008年のアトランティック映画祭では主演男優賞を受賞している。子役時代は、他に、翌2009年の『Pour toujours, les Canadiens!』(準主役)があるだけ〔下記の写真〕。
あらすじ
映画の冒頭、ギリシャのどこかの島の青い海と断崖を背景に、レオンの独白が流れる。「聖書は、『はじめに言葉ありき』で始まる。でも、僕にとっては、はじめに無があった。僕は深い海の中で眠っていた。ある日、神が すべてを破壊して海の水が引くと、トンネル〔産道〕の向こうに命があった。医者は万事順調で、標準的なお子さんだと告げた。僕は、レオン・ドレ… 僕が標準的だって? そんな医者は万死に値する」。そして、画面は、オタワに隣接する郊外のガティノー(Gatineau)の標準的な郊外住宅地に切り替わる〔ロケ地の場所〕。標準的でないのは、松の木の枝に付けられた子供の遊び用の吊り輪で、当のレオンが首を吊って苦しんでいる点。映画としては、思い切ったスタートだ。家のドアが開くと、兄のジェロームが、「レオン!」と叫びながら走ってくる(1枚目の写真)。しかし、腕を伸ばしてもレオンの膝しか持てないので、「ママ!」と叫びながら、もう一度家に走って行く。「レオンが首を吊った!」。クローズアップになったレオン。最初は手で何とかしようとするが(2枚目の写真)、次第に意識が薄れ もがくのをやめてしまう。そこに母が駆けつける。脚を持ち上げて息をさせ、その間に兄が台を持って駈けつける(3枚目の写真)。
必死の思いで息子を助けた母は、レオンと額を合わせながら、「自分で首を吊るなんて… 二度としないで」と言うと、タオルで首の傷を拭く。レオンの首は赤く筋が付いている(1枚目の写真)。母は、その上から、自分のバンダナを巻いてやる。青は、母の好きな海の色だ〔服も青い〕。「ジェロームは、僕が死にかけた事故を憎んだ。ママの命令で禁止事項が増えたから。ジェロームは、標準的は家庭の標準的な兄でいたかったのだ」(2枚目の写真)。母は、斧を持って庭に出て行くと、松の木を切り倒すそうとしたが、あまりに太くてできなかった。その光景を見ながら、レオンが 「とにかく、木で遊ぶのは やめるよ」と兄に言うと、ジェロームは「やめるのは、首吊りだろ?」と言って向こうに行ってしまう。「僕は、時々 死にかけてしまう。ちょうど、プールで寝ちゃった時のように。水の底はとても静かで、産まれる前の海の底のようだった」「もし、その日に死んでいれば、きっとジェロームは幸せだったろうし、ママとパパが別れることもなかったろう」。食事の時間に、父が「首を見せてみろ」とレオンに言うと、母は「バンダナは 付けてなさい」と応じ、父が「ボーイ・スカウトじゃないんだ」と批判すると、「トマト・スープを飲みなさい、レオン」と無視。「そうか、傷跡を隠してれば、お前のママは罪の意識を持たなくて済むからな」。「ケーキを焼いていたの。何もかも同時にはできないわ」。「ケーキか子供か、どっちが大事だ?」。母は、「あなたの『政府のお友達』用のケーキよ」と言うと、レオンのバンダナを外し、「忌々しい交際のためのね」と言って、そのバンダナを夫の首にナプキン代わりに付ける。険悪なムードだ。「僕の家には、政治家がよく訪れた。パパは、彼らに言わせれば有名人。国民的英雄。人権問題活動家。パパは決して嘘をつかない。完璧だ。弁護士をやってる。でも、一旦怒ると、きわめて標準的」。父は、真っ暗な中、松の木に大きなハシゴをかけて登り、枝の上にあったツリーハウス〔屋根のない台だけのもの〕を撤去した。翌朝、レオンは、ゴミ箱の横に置かれたツリーハウスの残骸と吊り輪を見ている(3枚目の写真)。
すると、お向かいが 一家でキャンプに出かける支度をしている。主人が、レオンを見て、「お宅はキャンプに行かないのか?」と尋ねる。レオンは近付いて行くと、「キャンプなんてバカみたいだよ、マリニエさん」と言う。「そうか?」。「何時間も車で苦しんで、着いたら雨ばかり。風が吹いて寒いだけ。だからモーテルへ直行。風邪のおまけまでついてね」〔→結局、その通りになる〕。主人は、そんなマイナス思考のレオンに、「一緒に来ないか?」と声をかける(1枚目の写真)。そして、声を下げると、「ウチの家族は、ケンカなんかしないぞ。ママと別れたくないだろ? なあ、レオン、君の年じゃ…」。憮然としたレオンの顔を見て、「いいバンダナだな」と話を替え、「ウチが海に行ってる間、家を見張っててくれよ、レオン」と言い残して、作業に戻る。代わりに、レオンと同じクラスのフランソワが、「イルカ、見に行くんだ。貝殻欲しいか?」と言いながら寄って来る(2枚目の写真)。レオンは肩をすくめる。フランソワは、声を下げると、「ママは、離婚は罪だと言ってたぞ」と言い、家族に向かっては、「レオン、3週間キャンプに行くんだ」と、今の話がバレないよう、大声で取り繕う。これで、レオンのマリニエ一家に対する悪感情は最悪レベルに達する〔→不在中、レオンはマリニエの家に不法侵入して悪さの限りを尽くす〕。
レオンの家の斜め向かいの角地の芝生に大きな石がポツンと置いてあり、その上にレオンと同じクラスのリアが座っている。そして、マリニエ一家の車が出て行ったのを見て、レオンに向かって手を上げて微笑む(1枚目の写真)。それに対し、レオンは中指を立てて、突き上げる(2枚目の写真)〔最悪の侮辱のサイン〕。映画では、それがリアに対するものなのか、マリニエ一家に対するものなのか分からない。ただ、そのサインを見たリアは呆れたように首を横に振るが、もし、自分に向けられたのだったら もっと怒るハズ。だから、後者なのかもしれない。映画では、その後、2枚目の写真に映っている隣のブリズボワ夫人がレオンに文句を並べるが、ここでは、2分後に流される、「もう1一つのリアの映像」を先に紹介しよう。リアは一緒に住んでいる伯父から、常に、アザができるほどの暴力を受けているが、そうした2人の関係が、さっきの石の上で見られるシーンがある。伯父は、酔っ払って〔酒瓶を手にしたまま〕リアに寄ってくる。リアが、「放っといて!」と言うと、人前では殴れないので、代わりにリアが乗ってきた自転車を2度蹴飛ばしてウサ晴らしする(3枚目の写真、矢印は蹴られた自転車)。リアの家庭環境を示す唯一の映像であり、今後のリアの言動を理解する上でキーとなる場面なので、敢えて紹介する。
さて、レオンが中指を上げた時〔先の写真〕、後ろから近付いたブリズボワ夫人は、いきなり、「私のガレージに卵ぶつけたわね。見てたんだから」と食ってかかる。「今年の冬? 2月の初めのこと?」。「分かってるくせに」。「できないよ、ホンコン風邪だったから」。「卵をぶつけるのは悪いことだけど、嘘はもっと悪いことよ」(1枚目の写真、レオンの後ろに、家から加勢に出てきた母が映っている)。夫人は母に、レオンがまた卵をぶつけたと苦情を言う。母は、「レオンは猩紅熱でしたわ」と庇う。「その子は、ホンコン風邪って言いましたよ」。母は、「近所の男の子は、この子一人じゃないでしょ」と言うと、「行くわよ、レオン」と腕を引いて連れ帰る。そして、家の敷地に入ると、「言ったでしょ、嘘をつく時は、つじつまを合わせないと〔If you lie, keep your story straight〕」。「病気の名前 忘れちゃった」。「ブリズボワさんに、嘘付きだって知られたわ」。「それって困ること?」。「嘘はつかない方がいい。でも、下手な嘘は最悪〔It's better not to lie, but it's worse to lie badly.〕」。レオンの一筋縄ではいかない性格は、ひょっとしたら母親譲りかと思わせる言葉だ〔この論理だと、「嘘も方便」になってしまう〕。母は、左手を上げ、それにレオンが右手を重ねる(2枚目の写真)。この直後、先に紹介したリアの挿話が入る。レオンは、芝生の上に横になって休んでいる母のそばに寄っていく。すると、母は、地面に落ちていた丸味を帯びた小石を拾い、レオンに渡す。片手で石を触りながら、レオンは母をじっと見ている〔伏線〕。バックグラウンドにギリシャ風の音楽が流れる。その間、台詞は何もない。母は、この時、ギリシャに行こうと決心したのかもしれない。
その日の夕方、レオンは Tシャツの前を鼻まで上げ〔顔を半分隠して〕、ブリズボワ夫人の家に近付くと、卵を投げようとする。その時、背後から「レオ」と呼ばれたので振り返ると、母が寄ってきた。そして、顔を隠していたTシャツを引き下げると(1枚目の写真、矢印は鼻まで上ったTシャツ)、レオンが持っていた卵を出させ、そのまま家に戻るかと思いきや、その卵をブリズボワ夫人の屋根に投げつけた(2枚目の写真、円の中が卵)。その後、映画は、激しい夫婦喧嘩のシーンに突入する。暴力的なのは常に母。ベートーベンの胸像を夫に向かって投げ、父はそれを小さなテーブルで防御。その後、母は、父が大切しているMarc-Aurèle Fortinの絵〔同じサイズの絵のオークション価格は50万カナダドル≒5000万円〕を壁から外すと、「偽善者」と言うや否や、手に持ったドライバーでキャンバスを突き刺す(3枚目の写真、矢印はドライバー)。母の手から絵を奪い返した父。「満足か?!」と叫ぶ。「失敗した画家でいるって 楽しいか?!」〔母は昔 絵を描いていた〕。母は、父の顔を思い切り殴る。ジェロームが、「2人とも、なぜそんなに非正常〔unnorma〕なの?」と止めようとすると、父は、「言葉が違う、異常〔abnormal〕と言え」と、些細なことにこだわって叱る。一家は崩壊寸前だ。
レオンは昨夜、母が絵に突き刺したドライバーを拾うと、それを半ズボンの後ろポケットに入れ、家を出る。レオンは、家の前に停まった乳製品の配達用トラックから降りて来た運転手とすれ違う。トラックは無人なので、レオンは勝手に冷蔵室のドアを開けて中に入り、チョコバーの入った紙箱を1個盗んでセーターの下に隠す。そして、キャンプに出かけて空き家状態のマリニエ邸に近付いて行くと、半地下室の明かり取り窓をドライバーでこじ開け(1枚目の写真、矢印はドライバー)、中に侵入する。その部屋には、両側に木の棚が作られ、おもちゃが整理して並べられていた(2枚目の写真、矢印はセーターの中のチョコバー)〔後で、レオンがめちゃくちゃにした後の写真が出てくるので、対比されたし〕。部屋の入口近くには、鉄道模型の巨大なジオラマも作られている。置いてあったパイプを口に入れてイスに座り、スイッチを入れるとジオラマに照明が入る。その時、ニヤリとしながらレオンが口にしたのは、主人が言い遺した「家を見張っててくれよ、レオン」という言葉。レオンはバーに行くと、2種類の酒を同時にコップになみなみと注ぎ、一口飲んで噴き出す。夫人の部屋に侵入した時、急に用を足したくなったレオンは、階段下の棚のドアを開けて中にオシッコをする。途中で目を開けてよく見ると、中には高級そうな毛皮のコートが一杯掛けてある(3枚目の写真)〔実はミンクのコート〕。そうと分かると、レオンは体を何度も振って全体にまんべんなくオシッコをかける。かなり悪質だ。オシッコが終わり、ズボンを見ると、セーターに入れたチョコバーが溶けて、半ズボンがチョコレート色に変色し、膝から下の脚を伝って靴にまで達している。その靴で歩くものだから、絨毯にはチョコレートの靴跡が転々と残る〔靴のサイズが小さいことから 子供の仕業だと分かる〕。その後、レオンは、チェンバロの鍵盤の蓋をドライバーでこじ開け〔壁に掛けられた十字架を見て一瞬ちゅうちょする〕、弾いてみる〔かなり上手〕。演奏が済むと、また絨毯を汚してソファに座り、チョコバーを食べ、溶けたチョコレートで汚れた手をソファのアームになすり付ける(4枚目の写真、矢印はチョコレートで汚れた脚、矢印の下のクッションにもチョコレートのシミが付いている)。映像は、めちゃめちゃになったキッチンへと移行。床に色々な物が散乱しているのは、レオンが陶器や飲物入りの容器を投げつけて割ったからだ。最後に映るのは夫婦の寝室。引き出しはすべて開き、中の服が散乱している。レオンは奥のクローゼットを開ける(5枚目の写真、開けたばかりなのでクローゼット内はきれい)。レオンはネクタイ掛けの後ろにあった「隠し扉?」のノブを揺すってみるが びくともしない。こうして、レオンの1回目の侵入は終わりを告げる。家の中は、強盗に入られた以上に破壊されている〔盗んだわけでないが、被害額は、盗難を遥かに超えている→ジオラマの破壊が最も高価。ミンクのコートは洗濯すればいい〕。これはもう悪戯ではない。偏執的な悪意による大規模な器物損壊行為だ。レオンは、家から出てきたところを、リアに見られてしまう。
レオンが家に戻ると、キッチンでは兄が何か食べていて、奥の電話で母が話している。「法廷には行かない。判事はあなたのお友達でしょ。私は見場のいいウエートレスじゃないの」。そして、最後に「新しい人生を始めるわ」と言うと、ガチャンと切る(1枚目の写真)。母は、キッチンに戻ると、レオンがいるのを見て、「今まで どこにいたの?」と訊く。「老人ホーム」。「午前中ずっと?」。「野原でも遊んだよ」。そして、母に、「頭痛いの? 昼寝する?」と訊く。返事がない。今度は兄が、「どうなってるの?」と訊く。母:「ママは、窒息してるの」。レオン:「『新しい人生』って?」(2枚目の写真)。「明日、ギリシャに発つわ」。「ギリシャってどこ?」。兄は、「どのくらい?」と訊き、返事がないと、「やっぱり… 近所の人も、普通じゃないって言ってる。いいさ、出てけよ。戻ってくるな!」と 捨て台詞を残し、席を立つ。レオンは「ギリシャに何があるの? なぜギリシャなの?」と訊くが、また返事がない。「ママ、答えてよ」。「お兄ちゃんと遊んでなさい」。レオンは母が好きなのに、小さいからと相手にもされない。不満に思ったレオンは、行き付けのボウリング場に行き、奥でピンをセットしている仲良しの店員に会いに行く〔自動のピンセッターがない〕。そこで、ピンデッキ(10本のピンが立っている場所)の背後のピットに入ってしまい、「そこに立つなと言ったろ。そこは、プレイヤーから見えないんだ」〔投げられたボールでケガをする恐れがある→重要な伏線〕と注意される。店員に抱き上げられて、リアークッションに腰掛けたレオンは、「プシャノーさん、遠くから来たんだよね?」と訊く。「アルジャントン=シュル=クリューズだ」。「カナダじゃないね?」。「いいや、フランスだ」。「ギリシャは近い?」。「ここよりは近いな」。「正確にどこにあるの?」。「ヨーロッパの南東部だ」。「遠いの?」(3枚目の写真)。「大西洋を渡らんとな。水の上を歩けても、7ヶ月はかかる」。レオンにとって、母が、そんな遠くにいってしまうことはショックだった。
レオンは、母と一緒のソファーに寝ながら、寝ている母と空想上の会話をしている〔母は、この2日間、夫婦の寝室に入るの拒否している〕。「ギリシャに行っちゃうの?」。「ええ」。ここから、背景の画像はギリシャに変わる。だから、どこまでが空想の会話で、どこから母との実際の会話なのか判別できない。「その場所、知ってるよ。大西洋を飛行機で渡るんだ」。「ユリシーズの国よ」〔ホメロスの『オデュッセイア』の主人公〕。「でも、ママの国じゃない」。「そうね」。「どうして行きたいの?」。「美しいから。空はいつも真っ青で、薄いベールがかかったようになるの」。ここからレオンと母の顔に戻る。「分からないよ」(1枚目の写真)。「空気中のホコリで、光が拡散されるの」。「ホコリのために出て行くの?」。「働きに行くのよ」。レオンは、以前 母に言われた言葉を投げ返す。「嘘をつく時は、つじつまを合わせないと」。そこに父が帰宅し、激しい口論が再会。そんな話など聞きたくないレオンは、ピアノで激しい曲を弾いて、耳に入らないようにする。その背後で、母はスーツケースに荷物を詰めている(2枚目の写真)。そして、夫に向かい、「昨夜は最後のチャンスだったのに、飲みに行くなんて」と批判。「何のチャンスだ?」。「家族を救うチャンスよ」。「僕は、子供達を見捨てない。母親のくせに、君が始めたんだぞ…」。延々と続く言い争いにうんざりしたレオンは、夫婦の寝室に行くと ベッドの上に紙を積み重ね、マッチで火を点ける。そして、火が大きく燃え上がると、「火事だ!」と叫ぶ(3枚目の写真)。レオンの行動は常に異常と思えるほど過激だ。
消火活動を隠れるように見ながらレオンの独白が入る。「時々、僕は戦略上の要で火付けをする。争いを鎮める古くからのインディアンのやり方だ。ポリエステルのベッドカバーで.試したことはなかったけど、パパとママとジェロームは協力して消火した。標準的な家族に見えた。僕は、怯えたフリをしていたが、計略が成功する確信があった。明日には、家族会議が開かれるだろう。ママは、僕の世話をしてくれ、何も変わらないだろう」(1枚目の写真)。しかし、期待は完全に裏切られた。次のシーンでは、レオンは、車に乗ろうとする母のスーツケースを奪おうとし、取り戻そうとする母、レオンを引き離そうとする父の三者で争いになる(2枚目の写真)。最後には、レオンは母から引き離され、母はタクシーに乗り込む。レオンは芝生を口に入れて抵抗するが、母はそれを無視するようタクシーを出し、暴れるレオンを父が全力で芝生に押し付ける(3枚目の写真)。タクシーが行ってしまうと、レオンは泣き出し、父はどこかへ行ってしまう。その時に流れる物悲しい曲。『パルプ・フィクション』のテーマ曲だ。あの映画では、非常に激しいタッチの編曲だったが、ここで使われるのは、その元となったギリシャの民謡「Μισιρλού(ミシルルー)」に近く、それをもっとスローにしたもので、心がズタズタになったレオンの心情をよく現している。
曲はそのまま続き、野原でレオンと兄が凧揚げをしている。そこにリアがやってくる。「いい凧ね。お兄さんが作ったの?」。レオンの返事はすげない。「僕の凧 見るなよ」(1枚目の写真、矢印は凧の糸)。「行っちまえ。バービー人形と遊んでろ」。「赤ん坊じゃない」〔伏線〕。「ママのトコに行ってろ」。「働いてる」。「伯父さんは?」。「飲んでる」。「ここにいたいんなら、パンツ寄こせ」。その破廉恥な要求に、なぜか従うリア(2枚目の写真)。レオンは、元々そんなもの欲しくないので、「パンツ 返して欲しいなら、四葉のクローバー探せ」と言うが、実際にリアが探し始めると、それに気を取られて凧が落ちてしまう。そこで、パンツを捨てて凧の元に行く。そこでは、兄が落ちた凧を調べている。「落ちたの、おかしな女の子のせいなんだ」。「お前は、何でも壊すんだな」。そして、「リアが好きなんだろ」とも。いきなり兄に飛びかかるレオン。兄は、一気にレオンをねじ伏せると、「心配するな、黙っててやる」と言い(3枚目の写真)、解放してやる。「キツネの顔の凧、作ってよ」〔伏線〕。その後、レオンが兄と芝刈りをしている時、丸味を帯びた小石を見つけるシーンがある〔伏線〕。また、ボウリングに父と兄と3人で行った際、レオンが父から母の電話番号を聞き出そうとするが、言を左右されて何も教えてもらえないシーンもある。
レオンがトウモロコシ畑の中に作った隠れ家にいると、リアが現れる。レオンは、当然、「ここで何してる?」と 迷惑そうな顔で訊く(1枚目の写真)。「マリニエさんの家の前で見たわよ」。「僕を? で、僕は 何してた?」。「ぬっと現れた」。レオンはドキっとする。それでも、「リア、君には もう うんざりだ。やることがいっぱいある」と突き放すように言う。「どんな?」。「ギリシャ行きの切符を買う」。「どうやって? マリニエさんの貯金箱を壊すの?」(2枚目の写真)。これで、レオンの杞憂は確信に変わる。「君って、ホント ムカつくな」。「そこって、あんたのママが行ったトコ?」。「君のパパは? どこ行った?」。「仕事よ」。「2年も?」。しかし、そこで、リアの首筋や腕に赤いアザがあるのに気付く。伯父に折檻を受けた跡だ。その時、「レオン」と呼ぶ声が聞こえ、レオンは立ち上がるが、リアが、「兄さんは旅行業者なの」ともちかけ、さらに、「お金捜すの手伝ってあげる」と誘惑。それに対して、レオンは、「お金の在り処(ありか)なら分かってる。マリニエの金庫だ」と本音を打ち明ける(3枚目の写真、隠れ家の空撮風景が美しい)。
かくして、レオンはマリニエ家に再び侵入し、夫婦の寝室のクローゼットに直行する。今度はバールを持参している。壁にかかっていたネクタイをすべてベッドの上に並べると、何もなくなった木の壁をバールでこじって板を無理矢理剥がし、穴を開けていく。しかし、また用が足したくなり、今度はまともにトイレに行っておしっこをする。「キャンプに行ってるがいい。僕が、安全かどうか見張っててやる。お金に宝石…」。その時、バスタブの方で音がする。カーテンを開けてバスタブを見ると壁に穴が開いている。そこを入って行くと、ドアがあり、クローゼットに出た。結局、クローゼットの「隠し扉?」は、浴室と直結するための通路の入口で、レオンはその横の壁に穴を開けていただけだった。そして、隠し金庫などは存在しなかった。それが分かって両手で顔を押さえるレオン(1枚目の写真、空色の矢印はレオンが開けた穴、黄色の矢印はかつてレオンが首に巻いていたバンダナ)。「何てことしたんだ!」。レオンは、服やネクタイを元のように掛け直し、居間の絨毯に付いたチョコレートのシミをバンダナできれいにしようとする。しかし、シミは取れないばかりか、すぐそばで話し声が聞こえる(2枚目の写真、黄色の矢印はバンダナ、空色の矢印は帰宅した家族、左上の天井には照明が点いている)。「照明が点いたままだぞ」。一家が帰って来た!! レオンは慌てて立ち上がると、一目散に半地下室に走る〔その際、バンダナを床に置き忘れてしまう→決定的な証拠〕。侵入口から逃げるためだが、明かり取りの窓の外には、子供達や犬がいて外には出られない。「ママ、キッチン、見に来てよ!」。「私のチェンバロが!」。様々な悲鳴が飛び交う。階段を下りてくる音がしたので、レオンは階段の下に縮こまるように隠れる。「何てこった、大事な鉄道模型が!」。「誰がやったにせよ、ビョーキよ。こんなに私達を憎むなんて」。「プロの仕業よ」。「プロがレゴで遊ぶ?」。「どうやって入ったのかな?」。「私の蒸気機関車が!」。「ミンクのコートは大丈夫ね」。「おしっこの臭いがするわ」。父親が、惨状に耐えられなくなり、「みんな上に行くぞ!」と声をかける(3枚目の写真、レオンの隠れ場所が、見つかるスレスレの場所であることがよく分かる)。全員がいなくなった後、レオンは侵入口に戻るが、窓には外から板が打ち付けられ、脱出は不可能だった(4枚目の写真、1回目の侵入時の同じ場所の写真と比較すると、レオンが如何にメチャメチャにしたかが分かる)。レオンはそのまま階段の下で数時間じっと待ち、暗くなったので階段を登って玄関からの逃走を試みる(5枚目の写真)。1階の廊下に出ると、夫婦で話し合う声が聞こえる。「保険は役に立たん。何も盗まれとらん」。「メチャメチャにされたのは? 私のチェンバロは?」。「明日、証書をよく読んでみよう」。レオンは、音がしないよう忍び足で廊下を歩くと、裏口から脱出に成功。
すると、すぐに、「レオン」と呼ぶ声が聞こえる。リアがずっと待っていたのだ。リアは懐中電灯を持っていて、家からは見えない壁の裏に呼び寄せる(1枚目の写真)。「みんなで、森の中を捜してるわ。警察よ。あんたのパパが、私のママに電話してきたから、私の猫を捜しに行ったって嘘ついたの」。「今、何時?」。「午前1時」。愕然とするレオン。「どうかしたの?」。「リア、ナイフを持って来て」。「どんな?」。「一番切れそうなやつ」。リアは、言われた通り、ナイフを持って来てレオンに渡す。「それで何するの?」。「何も。もう帰れよ。ありがと」。リアは動かずにレオンを見ている。レオンはナイフを両手で握りしめて覚悟を決めると、思い切って自分の左胸に切り付けた(2枚目の写真、矢印は切り付ける直前のナイフ)。血がリアの服に飛び散り、リアはショックで卒倒。レオンに鼻をつままれて意識を戻したリアが真っ先に口にした言葉は、「あんたってビョーキね」、だった(3枚目の写真、赤い矢印は飛び散って血、黄色の矢印は傷口からの出血)。「こうでもしなきゃ、パパに殺されちゃう」。
レオンが家に戻ると、父が警官と話している。レオンは、髪をわざとくしゃくしゃにし、2人の前に姿を見せる。レオンの姿を見つけた父は、「いったい何時だと思ってる」と詰め寄るが、血まみれのTシャツを見て表情が変わる。「どうしたんだ?」。「木から落ちたんだ。カエデだよ。クレマンさんちの裏の森」(1枚目の写真、矢印は拡大した出血範囲)「リアの猫を捜そうとして登ったんだ。でも、手が滑って、地面でぶつかって意識がなくなった」。「すぐ病院に行こう」。自傷作戦は 痛かったが、てきめんに効果があった。それにしても、こんなことを発想し、やってのけるのはレオンくらいだろう。病院で、医者は、傷口を縫いながら 「枝にしては非常にきれいな傷だ」と感想を漏らす。父は、「落ちた後、午前1時まで意識がなかったのか?」と訊く。「帰り道が分からなかった…」(2枚目の写真)。「目が かすんでたから」。「それは重大だな」。「そんなことない。落ちる前からかすんでた」。医者:「どのくらい?」。「2年と3ヶ月」。「2年も?」。「ママは、検眼医に連れてこうとしたんだけど…」。「聞いてないぞ」。「だから、学校でも 黒板の字がよく見えなかったんだ」。「それで、あなんひどい成績だったのか」。
安易に嘘をつくと、ツケを払わされることに… レオンは翌日検眼医に連れて行かれた。嘘がバレないようにするためには、近視を装う必要がある。そこで、視力検査用の文字表で、大きな文字しか読めないフリをする。医者が検眼用めがねを準備している間に、レオンは、文字表の文字を、上から順に記憶する(1枚目の写真)。そして、検眼用めがねをかけると、文字表の文字はボケて何も見えなくなるが、暗記した順に唱えて、「よく見えるようになった」ことを証明してみせる(2枚目の写真)。新調したメガネをかけたレオンに、父は自転車をプレゼントする。兄ですら持っていないので、大盤振る舞いだ。それが兄には面白くない。一方のレオンは、メガネをかけたままではボケて何も見えない。少しでも見えないかと、いろいろと首をかしげてみる(3枚目の写真)。自転車に乗ってみるが、怖いのでヨロヨロ、フラフラとしか進めない。父からはっきり見えないほど離れると、父に向かって無言で手を振る(「仕事に戻れよ。国を救うんだ」)。そして、いなくなったのを確認すると、メガネを頭にかけ、スムーズに漕ぎ始める。
自転車で隠れ家に行ったレオン。一人でタバコをふかしていると、そこにリアがやって来る。リアはレオンのタバコを捨てると、「何か興奮することがしたい」と言い出す。「どんな?」。「じっとママを待ってるなんて 退屈しない?」(1枚目の写真)。「待ってなんかない」。「ギリシャに行くんじゃなかった?」。「電話番号も知らないんだ」。「必要なのはプランよ」。そう言うと、リアは自分で描いたカラフルな行動計画図を見せる(2枚目の写真)。レオンは、「これまで見た、最高の海賊マップだ」と賞賛。そして、「これは心理学的な方法なんだ…」と追加。「はっきり 言いなさいよ」。「…君が好きだ、って言う」。レオンの告白にも リアは無反応で、「私たち、お金が要るの。モローの家はバカンス中よ。会計士だから お金がいっぱいある」。「どうやって手に入れる?」。「あんた達人でしょ。やれるわ」。レオンが精神のバランスを欠いた悪戯っ子だとすれば、リアは確信的なワルだ。「モローのお金を取って、旅行会社に行くの。兄さんはここよ」とマップの上で指し示す。「老人ホームで会いましょ。アリバイになる」。レオンがマップの上辺に描かれた真っ赤な家を指して、「その赤い家は何?」と尋ねると、「ただの飾り」と とぼける〔赤い家が リアの真の目的地=父の家〕。
その日の昼食はスパゲッティ。「見えない」メガネで食べるのは大変で、レオンは何とかメガネを通さずに見ようと四苦八苦(1枚目の写真)。その姿を見て、兄はメガネがはったりだと確信する。レオンは、アリバイ作りのため、父に、「明日、老人ホームに歌いに行くんだ」と話す。父は、ロクに話も聞かず、「来週の月曜から、お前たちはサンソンさんの家で昼を食べなさい」と命じる。レオンが反対し始めると、「じゃあ、ブリズボワさんがいいのか? オムレツが上手だぞ」と牽制。兄が、「マリニエさん、押し込まれた〔broken up〕みたいだね」と話すと、父は すかさず、「『押し入る〔broken in〕』 だろ」と叱る。この父親は 実に細かい。兄は、レオンに、「フランソワは、泥棒が足跡を残してったと言ってた」と言う。「一本足のどろぼう?」。「小さな足だった」〔兄は、レオンが犯人だと疑っている〕。その時、父が、「これが来たぞ」と2通のハガキを渡す。それは母から来た絵ハガキだった。ハガキを見ながら、レオンは「電話番号 残してった?」と訊く。父:「いいや。住所もだ」〔嘘〕。兄は、「ご立派」と言って席を立つ。ベッドに寝転んだレオンは、メガネを頭に移してハガキを読んでいる。「レオンちゃん。ここの光は魔法みたいで、夢のようにきれいです。時々 海辺に座り、ユリシーズの船を待っています」。レオンは 兄に、「そっちには 何て書いてある?」と尋ねる(2枚目の写真、矢印は机の上に置かれた丸味を帯びた小石=母が家を出てからの日数分だけ置いてある)。「嘘ばっかりだ。お前のメガネみたいに」。「見ていい?」。兄はポケットから絵ハガキを取り出すと 4つに割いた。
翌日、レオンとリアは、モロー家の前にいた。2人で塀を乗り越える(1枚目の写真、矢印は後述するガラスの掃き出し窓)。レオンは掃き出し窓のガラスにゴムの吸着カップを取り付けると、サークルカッターでガラスを円形にカットした(積もりだった)。しかし、コンパスを利用して作ったカッターはうまく働かず、レオンが軽く叩いても穴が開かない。そこで少し力を入れて叩くと、すさまじい音がして、ガラスが全部割れてしまう。室内に押し入った2人は分かれて家捜しし、レオンが棚の引き出しの中に預かり金(?)の束を発見する(2枚目の写真)〔3回映ったお札はすべて5ドル〔500円〕札なので、たいした金額ではない〕。「見つけたぞ!」とリアを捜しに行くと、彼女は子供部屋でバービー人形を床に置いて泣いていた。「何してる? 今は人形で遊んでる時じゃないだろ?」。「どうやって遊んだらいいか、分からない」。「僕だって知らないよ」。レオンが 「さあ、行こう」と肩に触れると、「触らないで!」と手をはねのけて、人形をこねくりまわす(3枚目の写真)。リアの家庭環境は、バービー人形で遊べるような雰囲気ではなかったのだが、彼女にとってそれは劣等感につながる「恥」だった。
2人は、そのまま自転車に相乗りして森の中を走る。途中で、何かがいる気配がして、レオンが自転車を停める(1枚目の写真)。それは大型の犬だった。首輪をつけてシッポを振っているので襲ってくるとは思えないが、犬の唸り声にリアは異常に怖がる。レオンはリアにも自転車を降りさせ、地面で三目並べを始める。何回かゲームをやっているうち、犬もすっかりなついてしまった(2枚目の写真)。レオンの作戦勝ちだ。このことに感謝したリアは、キスを交す(3枚目の写真)。このシーンは、すべてカットしようと思ったが、DVDの特典映像で、グリーンスクリーンの前で2人が如何に苦労したかが何度も流されるので、敢えて収録した。
森を出ると、そこには「変人たち」が住み着いた地区がある。レオンが最初、通り抜けを嫌がっていた場所だったが、2人連れで何とか乗り切った。その次が、フェリー乗り場。川には橋が架かっていないので、ここが対岸に渡る唯一の道。レオンはフェリー〔と言っても、車が4台しか乗れない長方形の鉄板のような構造〕の操作係を「キュクロプス」〔ギリシャ神話に出てくる単眼の巨人〕と呼んで怖がっていたが、実際には、体と顔はいかついが、タダで乗せてくれるいい人だった。かくしてフェリーは対岸に近付く。すると、リアの様子が変だ(1枚目の写真)。フェリーが岸に着くと、リアは勝手に歩き出す。そして、フェリー乗り場からの坂道、レオンが自転車を押している間に、リアは全力疾走に入り、差はどんどん拡がる。リアが向かった先は、赤い家だった。ノックに応えて出てきた女性に(2枚目の写真)、リアは、「パパに会いたい」と言うが、昨年の夏にどこかに出かけて以来 戻って来ていないという返事。リアは、何を言われても、「信じないわ」の一点張り〔かなり、ひねくれている〕。それでも、レオンは「赤い家の嘘」〔「ただの飾り」と言った〕を追及することなく、リアを慰めてやる(3枚目の写真)。しかし、その直後、レオンは再度、リアに裏切られることになる。レオンにとっての最終目的地である旅行会社に着いて、「君の兄さん、ホントにここで働いてるの?」と訊くと、「もちろん違うわ、まだ15歳よ」〔謝りもしない〕。これでは、何のためにモロー家でお金を盗んだのか分からない。これまで、レオンの異常な面ばかり見させられてきたが、この場面では、レオンは従順な犠牲者になり、リアの利己的な悪者ぶりが目立つ。こうしたリア像の演出は、この映画の大きな弱点ではないかとも思う。
一大事が起こったのは、帰りのフェリー。対岸に近付いて行くと、3人が待っている。レオンが双眼鏡で覗くと、それは、父と兄と リアの伯父だった(1枚目の写真)。急いでメガネをかけるレオン。フェリーが接岸すると、父はレオンの前に立ち塞がり、レオンのメガネを払いのけるように捨てると、バンダナを突きつけて、「嘘付いても 役に立たんぞ〔Your lying won't get you anywhere.〕」と糾弾する(2枚目の写真)。レオンの目線は兄〔左端のボケた人影〕を睨んでいる。兄が密告したと思い込んだからだろう。切羽詰ったレオンは、自転車を投げ出して逃げ出す。父が走って後を追う。レオンは「変人たちの集落」を通り抜けると、森の中に分け入り、そのまま川に出る。川を締め切る堰堤が見える。レオは階段を駆け上る。しかし、その先には高い鉄柵があって登れない。万事休す!! 「僕は、リアと、生涯で忘れられない時を過した。しかし、それは、静かに幕を閉じる。保育園に隕石が落下するみたいに。僕はイエス様のことを考えた。他に途はない〔I dunno why.〕」。レオンは逃げ道がないと悟ると(「静かな場所に行きたかった」)、そのまま、6~7メートルの高さの天端から倒れるように落下する(3枚目の写真、矢印はレオン)。下は石畳なので、これは明白な自殺行為だ。
レオンは脚と腕の骨折(?)と顔の打撲だけで、奇跡的に助かった。場面は、病室で父と神父に付き添われたシーンに移行(1枚目の写真)。父は、「学校の授業には間に合いそうだ。よかったな」〔今は、夏休み中〕と声を掛けた後、「階段でのことを話してくれ。どうして 飛び降りたんだ?」。レオンは顔を伏せてしまい、何も語ろうとしない。神父は、「神様から電報をもらったかい?」と尋ねる。これは、映画の初め、レオンの首吊り事件が起こった後、自宅で神父を招いた夕食会が開かれた時、レオンが、臨死体験として、「いい子になるか悪い子になるか選べという電報」を神様から受け取ったという話をしたことに対応したもの。神父は「神からの電報」のことなど信じていないので、レオンの頑なな態度を和らげるために言及したのであろう。レオンは、これにも応えなかったが、逆に、「お願いしていいですか」と頼む。「言いなさい」。「壁のイエス様を 外して下さい」。父:「どうしてだ?」。レオンは、神父に「お願い」と頼む(2枚目の写真)。レオンは、以前、マリニエ邸に侵入した時、チェンバロをこじ開けようとして、壁にかかったイエス像を見てためらったことがある。きっと、罪の意識から、いつも壁から見られていることに耐えられなかったのだろう。神父は、十字架を取り外すと、「君の中の悪魔と向き合いなさい」と諭す。
翌日、兄が「キツネの顔の凧」を持って見舞いに来る。以前、レオンが欲しいと言ったのを覚えてくれていたのだ(1枚目の写真)。「4日もかかった」。しかし、レオンの顔は暗いままだ。兄はがっかりし、凧を置くと、レオンの前に置かれた食事の皿の蓋を開けてみる。手が付けられていない。レオン:「僕を密告したの?」。「お前、マリニエの家にバンダナ落としてきたんだぞ」。自分のバカさ加減を知らせれたレオンだが、返事は生意気なものだった。「あんな凧 要らない」。兄はしばらく無言でいて、「お前にはもう疲れた」と本音を語る。「じゃあ、もう寝たら」(2枚目の写真)。兄は、そんな弟に、淡々と言い聞かせる。「いい加減、変われ。ママがいなくなってから、お前が不幸なことは知ってる。だけど、ママは出て行って、もう帰って来ないんだ。パパは僕らと一緒にいて、愛してくれてる。パパは、毎晩泣いてるんだぞ。もう泣き声なんか聞きたくない。分かったか? 僕は幸せになりたい。お前も幸せになれ。幸せになって欲しい。お願いだ、レオン」。その言葉をじっと噛みしめるレオン(3枚目の写真)。その後、「キツネの顔の凧」をベッドの脇に置いて寝ている映像が一瞬映るので、兄の言葉が少しは効いたことが分かる。
レオンが、父の車に乗っている。退院して家に戻る途中だ。これからのことを考えると、レオンの気は重い(1枚目の写真)。車は、モロー邸の前で停まる。「どうしてここで停まったの?」。父は、「鞭を惜しめば子供はだめになる〔Spare the rod, spoil the child.〕」と諺で答え、「行くぞ」と車を降りる。次のシーンは、モロー家の居間。ソファに一家4人が座り、テーブルを挟んで父とレオンが別々のイスに座っている。父は、「単刀直入に言いましょう。ご存知のようにレオンはお宅を破損し、お金を盗みました。これが盗んだお金と損害賠償です」と言って、封筒を差し出す(1枚目の写真)。母親は、レオンの姿を見て、「あなたがなさったんですか?」と訊く。「いいえ、レオンが自分でやったのです」。そして、「もし、この子がお宅の付近でウロついていたら、遠慮なく警察に電話して下さい」と付け加える。それを聞いたレオンは、その厳しさに、驚いて父を見る(2枚目の写真)。次に2人が訪れたのは、これまで一度も出てこなかったデュフォー夫人。「今日は、デュフォーさん。これは私の息子です。遺憾ながら、この子は、泥棒で、破壊者で、嘘付きです」。レオンが何もしなかった隣人にも、こうして紹介するとは、非常に厳しい措置だ。アイスクリーム屋には、「この子は信用できません。何一つ売らないで下さい」。ボウリング場では、「この子を入れないで下さい」と言うが、いつものおじさんは、「レオンはいつでも大歓迎だ」と初めて庇ってくれる。
ようやく家に着いたレオン。兄がドアを開ける。車から降りたレオンを見て、フランソワが近付いて来る。それを見たレオンは、父に、必死の思いで、「止めて、パパ、お願い!」と泣きそうな声で頼む。マリニエ邸でやったことを考えると、合わせる顔がないのだ。父は、恐らく、真っ先にお詫びに行き、賠償はもう済んでいるのであろう。レオンの渾身の要請をOKしてやる。しかし、腹の虫が収まらないフランソワは、レオンに石をぶつける。そして、「キチガイ家族だ」とあざける。兄のジェロームは、フランソワに向かって決然と歩いていくと、芝生に突き倒す(1枚目の写真)。それを見た父は、「ジェローム、こっちに来るんだ!」と命じ、つかつかと道路を渡ってフランソワの手を取って立ち上がらせえると、「よく聞け。今は中世じゃないんだ!」と怒る(2枚目の写真)。レオンは、父の行動をびっくりした顔で見ている(3枚目の写真)。
ある日、ギリシャでひと夏を過した女性が、母からのメッセージを携えて家を訪れた。「お母さんに会ったわ。息子さんたちのことを、いろいろ話してくれた」(1枚目の写真)。子供たちの表情は硬い。女性は、母からだと言って、まず兄に、ユリシーズの船の描かれた布と、パルテノン神殿のジグゾーパズル(?)を渡す。「いい凧ができるわ」〔映画の最後まで、この布で凧が作られることはなかった〕。「なぜ、直接手渡さないの?」。「ママは、今、ギリシャに住んでるの」。ここで、レオンが、「住所知ってる?」と訊くが、父は「いつも移動してる」と口を挟んで〔嘘〕、教えさせない。代わりに、早くレオンへの土産を渡すよう催促する。レオンが渡されたものは、母がギリシャに渡って最初に描いた絵と、真っ白な丸味を帯びた小石。レオンにとっては、小石の方が大事だった(2枚目の写真)。女性が父と話し合っている隙に、レオンはハンドバッグの中を探り、財布からお金を盗む。いつになっても、悪い癖は直らないようだ。女性が家から出て行った後、レオンが双眼鏡で覗いていると、女性が何かを紙に書き、それを兄に渡している(3枚目の写真、矢印は紙きれ)。これは、電話番号か住所に違いない。
学校が始まり、夏休み後の最初の授業のシーンが描かれる。「夏休みの体験」ということで、フランソワが「イルカを見ました。でも、ずっと雨で、僕たちはモーテルに停まりました。ママが風邪をひいたので帰ることにしました」と話す。ここまでは、イルカを除けば、レオンがかつてフランソワの父親に話した「散々なサマーキャンプ」と全く同じだ。その後、フランソワが、帰宅後の大騒動に話を移そうとすると、レオンは手を挙げて 「何も話すなよ」と示威行動。フランソワは、「アライグマに庭の野菜を全部食べられてしまいました」と話を逸らす。フランソワが席に戻ろうとすると、今度はリアが手を挙げる。先生は、先に手を挙げたレオンは話をさせしょうとするが、リアは「席、移っていいですか?」と訊く。「なぜなの?」。「ここ、臭いので」〔レオンへの当てこすり〕。昼休み。誰からも相手にされないレオンは、同じく、誰からも相手にされないリアに寄って行き、声をかける。返ってきたのは、「あんたとは話せない」。「どうして」。「おばあちゃんが、悪影響を与えるって」〔逆だと思うが…〕。そして、「私が、バービー人形で泣いたことは極秘よ」と言って去って行く。マリニエ邸への1回目の侵入を除き、他の悪事はリアが主導したというのに、リアの態度はきわめて不自然で不愉快だ。帰宅したレオンは ピアノを弾いてみるが(1枚目の写真)、以前のように上手ではない〔特典映像では、本人が演奏している〕。部屋に入って来た父は、「散らかし放題じゃないか」と、まず文句。レオン:「手が動いてくれない」。「治ってないんだ。宿題を片付けなさい」。「一緒に弾かない?」。傷の治っていないレオンと、久し振りにピアノの前に座った父の共演が始まる。弾いているうちに父の心が和んでくる良いシーンだ。兄も惹かれて座って見ている(2枚目の写真)。
夜、物音がしてレオンが目を覚ます。ベッドサイドのライトを点けると、机の上は小石でいっぱいだ(1枚目の写真)〔2ヶ月分ほどある〕。物音の原因は、電話のダイヤルを廻す音だった。レオンがそっとドアを開けて覗くと、それは、手に紙切れを持った兄だった(2枚目の写真)。ギリシャからやってきた女性が、最後に兄に渡した紙には、母の電話番号が書かれていたのだ。オタワとアテネの時差は7時間。仮に兄が電話をかけたのが夜の12時とすれば、ギリシャでは朝の7時。きっと、早朝なら母は家にいると思ったのだろう〔午前1時や2時でも、朝の8・9時になる〕。しかし、電話に応答はなかった〔電話が通じていたら、相手が母でなくても、兄は「もしもし」くらいは言ったであろう〕。
次は、レオンのクラスでの、より長くて重要なシーン。10時15分、授業中にレオンが手を挙げる。「トイレに行きたいの?」と先生が訊く。それが「許可」だと思ったレオンは、席を立って教室を出ようとする。しかし、先生は、「文法的に説明なさい」と、黒板に書いた文章を示す。「できません。僕、行かないと」。先生は、「君は、他の子より、かなり遅れてるの」と小声で言い、「黒板に行きなさい」とチョークを渡す。黒板には、「Léa court avec René(リアはルニと走る)」と書いてあった〔本来のフランス語の発音はレアとルネだが、ここではレオンの発音の訛をそのまま用いた〕。なお、板書の中の「court」は、「courir」の直説法・現在の三人称・単数形なので、先生はその答を期待したのであろう。しかし、レオンは、「2人はどこに行くんです?」と およそ無関係なことを訊く。「野原よ。それでいい?」。「ルニって誰?」。「説明なさい」。レオンは「Léa」を消して「Julie(ジュリー)」と書き、「リアならルニとは行きません」と答える。「彼女にはやることがあります」。これを聞いたリアは頭を抱える。レオンは、「もう行っていいですか? でないと、気絶しちゃいます」と先生に言う(1枚目の写真、矢印はリア)。生徒達からは、「♪レオンはリアが好き」との 冷やかしの声が。トイレに行ったレオンは、トイレの窓を開けると、そこから外に出ようとする(2枚目の写真)。その時、先生が様子を見にトイレに入ろうとしたので、レオンは、「下痢なんです。汚いですよ。まっきっきです。調べますか?」と苦しそうに言う〔常習的な嘘付きは 以前と変わらない〕。先生が早々に出て行くと、レオンも窓から外に出る。そして、雨どいを伝って下に降りる(3枚目の写真、矢印はレオンが出てきたトイレの窓)〔特典映像では、命綱を1本付けて本人が演技をしている〕。
レオンは、そのままボウリング場へ向かい、途中で会った親しい店員に、「バービー人形 売ってもらえない?」と頼む。「バービーだと?」(1枚目の写真)。「1ダースくらい。ミニ・ヘアブラシもね」。「学校にいる時間じゃないのか?」。「そうだよ。これ学校のプロジェクトなんだ。僕の役目は、ベトナムの子供たちへのプレゼントの用意」。「先生はどこだ?」。「ホントは、学校じゃない。リアのためなんだ。伯父さんに殴られるから」。「何言ってるのか分からん」。「ママは、嘘をつく時は、つじつまを合わせろと言った。でも、一度くらい、嘘付くのやめる。リアは悲しいんだ。伯父さんに殴られてるから。彼女は、バービーで遊ぶのが夢なんだ。ホントだよ」。レオンの、少し変てこだが真剣な願いに、親切な店員は応えてくれる。そして、紙袋一杯のバービーを持ったレオンは、校舎の出口で授業が終わるのを待っている。リアが出てくると、レオンは 紙袋の中身をアスファルトの上に並べる。何事かと生徒たちが集まってくる。レオンは、「普通の子みたいに遊べるよう、2人でやってみようよ」と声をかける。しかし、リアは、周りの女の子たちを見て(2枚目の写真)、自分の秘密が漏らされたと感じ、「これが最後よ、私に構わないで! 私がバービーに興味あると思ってんの? それに、風船ガムや安物のガラクタに? 警官がウチに来たのよ。心理学者に会いに行かされる。こんな町 出てくわ。終わったの、レオン。分かった?」と、突き放すように言う。リアが拒絶したと分かると、フランソワが真っ先に風船ガムを拾い、他の生徒がプレゼントの山にワッと飛びつく。スクールバスに乗ったリアは、レオンに向かって中指を立てて突き上げる(3枚目の写真)。
その日の夕食の時間。レオンは元気がない。父が、「えらく静かだな。何も話すことはないのか?」と訊く。「学校はどうだった?」。兄:「退屈」。レオン:「今日、ある事が起きたんだ」。「続けて」。「僕、2階の窓から抜け出した。リアは、心理学者のせいで、僕のバービー受け取らなかった」(1枚目の写真)〔レオンの悪い癖で、唐突に一部しか話さないので、内容が支離滅裂になる〕。父は、「分かるように話すんだな」と言った後、「何回、国際電話をかけた?」と訊く。そして、請求書(?)を見せ、「2週間で、ギリシャに11回かけてる」と言う。レオンは兄の方をみるが、父はレオンがやったと思い込んでいる。「お母さんと話したのか?」。兄は隠しているし、レオンには答えようがない。「もう、嘘には我慢できん! お前がかけた時はどうだったか知らんが、私がかけた時 相手はギリシャ語しか話せなかった。彼女はもうそこにはいない」「レオン、どこで電話番号を訊いたんだ?」。兄は「僕だよ」と言うが、レオンは、「僕が、女の人の財布から盗んだ」と言う。「何だと?」。「盗んだよ。他にもいっぱい」。兄:「そんなことない」。レオン:「黙ってろよ!」。そして、さらに、「僕が入院したこと、ママ知ってた?」と問い詰めるように父に訊く(2枚目の写真)。「自殺しようとしたって」。「お前の事故について手紙に書いた」。ここで、兄が、「住所、知ってるの?」と責めるように訊く。レオン:「どうして会いに来なかったの?」。「お前は落ちただけだ。バランスを崩してな!」。兄:「そんなこと どうでもいい。住所、知ってたんだ!」〔レオンは母が見舞いに来なかったこと、兄は父が住所を知っていたのに教えなかったことにこだわっている〕。レオン:「なぜ、来なかったの?」。「ギリシャは遠いだろ。来なくて正解だった」。「誰にさ? もし、ママが死んでも、僕らに教えないつもり?」。「過剰反応するな。死んでないだろ」「家を出たのは、彼女が決めたことだ。会いに来ないのは、私が決めたことだ」「お前たちのママが自分で決めたんだ。お前たちに二度と会わないとな」「私は、これまで軽率な決断などしたことはない。マドレーヌは悪い影響を与えた」。すると、また、兄が、そんな話など聞いていなかったかのように、「嘘付いた。住所、知ってた!」と責め、レオンも、以前母に言われたことを真似て、「嘘は悪いよ。でも、下手な嘘は最悪〔Lying is bad. But lying badly is worse〕!」と 兄を支援する。父:「何だと?」〔レオンの論理はいつも破綻している〕。兄:「ママは僕らを見捨てたんじゃない。あんたが近寄らせようとしないんだ。この嘘付き野郎」〔冷静な兄にしては強い非難〕。そう吐き捨てると、席を立つ。父:「事態は複雑なんだ。理解し難いとは思う。私はベストを尽くそうとした」。レオン:「ママは、戻らないの?」。兄は、ドアをバタンと閉めて出て行ってしまう。父は「どこに行くんだ?」と言って、席を立つ。1人残されたレオンの顔がゆっくりとクローズアップされる。レオンは悩み、そして、これしか途はないと、諦めたように決断する(3枚目の写真)。少し長くなったが、重要な場面なので、ほぼ全文を紹介した。
夜になり、レオンは机の上に置いてあった小石を片づけ、すべてバッグに入れる(1枚目の写真、矢印は小石)。そして、女性がギリシャから持ってきた白い石だけを、大事に持つ。レオンは、母から贈られた絵を兄のベッドの上に置くと〔兄は、さっき怒って出て行ったきり、戻って来ない〕、こっそりと家を出て行く。いつもリアが座っていた大きな石まで びっこをひきながら歩いて行くと、その上に、バッグに詰めてきた小石を捨てる(2枚目の写真、矢印は小石)。そして、そのまま歩き去る。
向かった先はボウリング場。リアークッションの上に座り、ボールが転がってきてピンが倒れると、片付けて ピンを再セットしている〔店員が承知で任せている〕。「今日、僕は2つのことを学んだ。第1は、パパにも嘘付きの才能があること。2人の共通点だ。第2は、リアと僕のことは不幸な出来事だった。方法は良かったが、タイミングが悪かった〔The right place, the wrong time.〕。彼女は、僕の千年分の愛の蓄えを空にしちゃった」「僕はギリシャの哲学者の忠告に従おう。『絶望的な状況には、絶望的な手段を〔Desperate times, desperate measures〕』。新しい人生をスターさせないと」。この時、ボールが投げられ、1番ピンだけが残る。レオンは倒れた2本を片付け、白い石を撫ぜる。「そうすれば、普通の生活を送りたいだけのジェロームや、地球を救うための時間が必要なパパにも都合がいい」。そして、持ってきたお酒(?)を飲む。「やり直すのは、レゴハウスの時と同じでいい。最初の1個を外せば、全部バラバラになる」。レオンはピンデッキを見る。かつて、「そこに立つなと言ったろ。そこは、プレイヤーから見えないんだ」と叱られた場所だ。レオンはピンデッキの背後のピットにひざまずき、残った1番ピンの真後ろに顔を持って来る。「そしたら、すべてが可能になる」。レオンは、顎をピンデッキに乗せ、ボールが顔を直撃するのを待つ。首吊り、飛び降りに継ぐ3度目の自殺だ。
ボールが投げられ、1番ピン目がけて転がる。目を閉じて最後の時を待つレオン。画面は暗転し、やがて、遠くから光が近付いてくる。やがてそれは画面いっぱいに拡がり、真っ白になる。「ママ?」。ギリシャの海をバックにした母の姿が見えてくる(1枚目の写真)。「どんな空なの?」。「あなたの目のようにきれいよ」。「幸せ?」。「ええ」。「ママ?」。「何?」「大好きだよ」。1番ピンが飛んでいき、双眼鏡を覗いているレオンに替わる。双眼鏡を置いたレオンが、カメラを向いて話す。「ボールはピンに当たり、ピンが僕の頭に当たった。生きることは僕に相応しくないけど、僕は 生きるよう運命付けられている〔Life's not made for me but I seem to be made for life.〕。病院で、昏睡状態でいる間、僕はいろいろと考えた。ママは戻って来ないってね… 少なくとも、今すぐには。だから、ちょっと待ってあげることにした。ちょっとが 一生かも〔A bit all my life〕」。そう言って微笑む(2枚目の写真)。「今から、ブリズボワさんの世話をしてあげないと」。そう言うと、芝生の上に寝ていたレオンが右腕を地面に置いて手を拡げると、そこには1個の生卵が。レオンは起き上がると、ブリズボワ邸の屋根目がけて卵を投げる(3枚目の写真、円内が飛んでいく卵)。レオンが家に逃げ戻ったところで映画はエンド・クレジットに入る。レオンは本質的に何も変わっていない。この映画らしいエンディングだ。
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