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Cobardes 卑怯者たち/目には目を

スペイン映画 (2008)

中学校における虐めの問題を正面から取り上げた映画。主人公のガビーが、虐めのグループから遭う執拗な虐めの実態と、それを受けた学校と両親の対応が詳細に描かれている。虐めを受ける少年の映画は多い。そもそも、この映画の主人公の侮辱的なあだ名である「ニンジン」を題名にした映画『Poil de carotte(にんじん)』(2003)でも、そこにあるのは、母親からの絶えざる、理解を超えた虐め。しかし、その種の映画では、虐めの原因と結果が分析されるわけではなく、単に、淡々と映像が積み上げられていくだけ。この映画では、虐められる側のガビー、虐める側のギジェを、愚かな教師、ガビーの無理解な父と、理解しようとする母、ギジェの疑い深い母、一風変わった仲介者のピザ屋の主人が、それぞれの立場から、誤解したり、叱ったり、助けようとしたりする。その相互関係が非常に面白い。しかし、結局、ガビーを真に理解してくれたのは、皮肉なことに、重罪犯として手配され、ピザ屋に変身していたマフィアの親分だった。その言葉が「目には目を」。聖書では、ペアになって登場する「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」という “融和的” な姿勢を無視した、如何にもマフィアらしい一方的な手段。ガビーは、それを実践し、虐められる側から、虐める側に変わる。それが、良いことなのか、悪いことなのか? 孤立無援で、虐められる側でありながら、愚かな教師から 虐める側だと烙印を押され、その間違った判断を元に、ガビーを叱るだけの父親を見ていると、助かるには「目から目を」しかないように思えてくる。この「目から目を」で、ガビーはかなりの傷を負うし、1人だけ味方だった “彼女” にも見放されてしまう。ガビーにとって、大きな犠牲を伴う手段だが、相手をぎゃふんと言わせられたガビーにとっては、大きな救いだったに違いない。ガビーが、身分のバレたマフィアの親分に関する情報を警察に隠すのも、そのお礼だと思えば納得できる。結局、父も母も助けてくれなかったのだから。

ガビーは赤毛のため「ニンジン」というあだ名を付けられ、虐めの対象になっている。映画の中で紹介される虐めを主体とするエピソードを並べると、次のようになる。①黒板に大きく「ニンジン」の文字と絵が描かれている→教師には虐めという認識はゼロ。②下校途中で携帯を奪われる(以前にも何度か奪われている)→父は、何度も失くすことを叱るが、母は新しい携帯を与える。③校庭で顔にサッカー・ボールをぶつけられる→誰も気に留めない。④教師と両親の個別面談の際、ガビーの成績の低下と集中力のなさが指摘される→父はガビーに対する印象を悪くする。⑤トイレに入っている時、ゴミ箱に大量の紙を入れて放火され、ドアを開かなくされる→何とか脱出したガビーがギジェに飛びかかって殴ると、暴行をふるったと判断される→教師は放火の原因を調べようともしない。⑥下校途中に、ド突かれ、ピザ屋の主人に救われる→「目には目を」と教えられる。⑦ギジェの携帯を盗んだ罪を被せられ、2日間の停学になる→教師は、呼びつけたガビーの父に、ガビーを「虐める側」だと間違った示唆をし、父もそのつもりで対応する。⑧ガビーは、虐めについて打ち明けようとするが、父も母も忙しくて聞いてくれない→両親に失望する。⑨停学明けの帰宅時にしつこく追いかけられ、帰宅後精神のバランスを崩す→ピザ屋の主人から、高性能の携帯をプレゼントされる。⑩ガビーの唯一の理解者の同級生の女の子に手伝ってもらい、ギジェに殴打されるシーンを撮影してもらう→ネットに流すと脅し、ギジェから仲間を離反させ、ギジェを孤立させることに成功し、虐めを終らせる。

虐められるガビー役は、エドゥアルド・ガレ(Eduardo Garé)、虐めるギジェ役は、エドゥアルド・エスピニーリャ(Eduardo Espinilla)。2人とも14歳という設定だ。映画の撮影は、DVDのメイキングに映るカチンコには、2007年6月27日とあったので、その前後1ヶ月程度であろう。エドゥアルド・ガレは生年月日不明、エドゥアルド・エスピニーリャは1991年6月11日生まれなので、撮影時16歳。そんな年齢には見えない。エドゥアルド・ガレは、映画出演はこれ1作のみ。エドゥアルド・エスピニーリャは、主としてTVで活躍した子役で、俳優業は子役で終わり。

あらすじ

映画の冒頭、始業前、生徒達が遊んでいる校庭で、ガビーが、携帯で「Bnita kmiseta(Bonita camisetaの略語/ナイスなTシャツ)」と送信する。メールを受け取った女の子カルラが、ガブリエルの方をニッコり笑って、何かを返信し、それを見てガビーもニッコリする。2人はデキている。すると、直後に別のメールが入り、そこには、「M mla t mvl znahoria(Me mola teléfono móvil, znahoria/クールな携帯だな、ニンジン)」 と書かれている。辺りを見回すと、ギジェがこちらを見てニヤニヤしている。始業のベルが鳴り、教師が、「お早う」と言って教室に入って来る。黒板には大きなニンジンの絵が描かれ、絵の上には、「¡¡ZNAHORIA(ニンジン)!!」と書かれている(1枚目の写真)〔ガビーが赤毛なので付けられた “悪い意味でのあだ名”〕。教師は、それがガブリエルに対する虐めの一環だと認識すらせず、ただ「誰にも理解できないわね」と言って消す。ガビーは、あきらめきった顔でそれを見ている(2枚目の写真)。教師は、「昨日の続きからよ。どこからか覚えていますか?」と訊き、いきなり「ガビー」と指名する。ガビーが答えられないと、「ガビー、しゃきっとなさい」と叱る。ギジェは、すぐに手を上げ、「二次方程式です」と言い、「その通りね、ギジェ。二次方程式ですね。いいですか、この前は、ゼロが無限大になる時があるって知りましたが、今日は、判別式がゼロになると 二次方程式は1つの解しか持たないことを覚えましょう…」と続ける。その間、ギジェは、ニヤニヤしながらガビーを見ている(3枚目の写真)。

学校が終わると、ガビーが玄関から出た所で、ギジェを中心とする虐め4人組が待っている。ガビーは、無視して通り過ぎるが(1枚目の写真、右端がガビー)、学校の門を出ると、ガビーは走り始める。捕まったら、何をされるか分からないからだ。ガビーは、バルセロナの街中を必死に逃げるが(2枚目の写真)、悪童に捕まってしまい、今朝ギジェに目を付けられた携帯を奪われる。ガビーは家に辿り着いてドアに鍵をかけると、ドアの防犯装置に暗証番号を入れる。すると、すぐに固定電話が鳴り出す。ガビーが電話を取ると、母が、「携帯はどうしたの? 何度もかけたのよ」と、非難するように話す。母は、バルセロナのMetrópolis TVのニュースキャスターをしていて、結構忙しいのだ。ガビーは、盗まれたとは言わず、「失くしちゃった」と答える(3枚目の写真)。「またなの?」。この言葉から、盗まれたのは、今回が初めてではないことが分かる。「分かったわ。後で話しましょ。妹を迎えに行ってちょうだい。ピザ屋で会いましょ。携帯を失くしたこと、パパには内緒にしておきなさい」。ギジェは、ガビーから奪った携帯に入っている家族の写真をすべて消去する〔ギジェは、市会議員の一人息子なので、貧しくて携帯を盗ませた訳ではない。虐めることが楽しくやっている〕

行きつけのピザ屋に行ったガビーと妹は、両親が来るのを待っている。妹は、「なぜ、いつもここで夕食なの?」と兄に尋ねる。「ウチは、世界一ケチ〔cutre〕だからさ」(1枚目の写真)。「わたしのお友だちは、みんなおウチで食べてる」。「お前の友だちは、みんなバカだ」〔これでは、“ケチ” と “バカ” だけになる〕。そこに、会社を終えた父が入って来る。父は、すぐガビーに、「ママに電話して、今どこにいるか訊いてみろ」と言う〔なぜ、自分で電話しないのだろう?〕。ガビーは、「充電のため、家に置いてきた」と答えるが、父は、「また、失くしたのか?」と疑う(2枚目の写真)。母が来て、食事が済んだ後、ガビーがトイレに行っている間に、父が母に話しかける。「あいつ、また携帯を失くしたんだぞ。顔を引っ叩いてやろうか」〔携帯を失くした原因を調べようともしない〕。家に戻ったガビーが歯を磨いていると、母が、ドアを開けて入ってきて、「枕の下を見なさい。パパに言っちゃダメよ」と言う。ガビーの口元がほころぶ(3枚目の写真)。部屋に行って枕の下を見ると、新しい携帯の入った箱が置いてあった。

昨日に続いて数学の授業の途中で、終業のベルが鳴る。生徒達は、教師が、説明を続けていても、無視して席を立って出て行くし、やる気のない教師はそれを止めようともせず、ダラダラと説明を続ける。次のシーンで、生徒達は、校庭で 様々なことをして遊んでいる。混雑した中でサッカー・ボールを蹴っているのは、ギジェと、その仲間。ガビーが不用心に、携帯の画面を見ながら歩いていると、ギジェの蹴ったサッカー・ボールが顔面を襲う。やってきたギジェは、鼻から血を流したガビーに(1枚目の写真)、「ごめんよ、ニンジン。わざとやったんじゃない」と言い、“わざと” ではない証拠に、ガビーに向かって唾を吐きかける(2枚目の写真)。仲間は、「顔面直撃だな」と、ガビーを褒める。ワルどもを、恨めしそうに睨んでいたガビーは、トイレに行き、顔面の血を洗い落とす(3枚目の写真)。その後は、ずっと洗面に顔をうずめたまま、動かない。悔しくても じっと我慢し、どこかに訴える気はさらさらない。学校では定例の “教師と両親の個別面談” が行われている。ガビーの問題点は学業成績で、この数週間で成績がガタンと下がったのに、その原因は不明。教師の無能な頭には、それが「虐め」によるものだという認識はない。母は、最近奇妙な行動が目立つと言うが、父は、それを思春期のせいにしてしまう。面談が終わった後、父は、「あいつは、気が散ってるだけだ」と無責任に決めつける。こんな状況では、ガビーが救われる見通しはない。

ギジェの家の、その日の夕食。スペインの市会議員は裕福なのが標準なのか? お手伝いさんが配膳している(1枚目の写真)。さっそく父が、個別面談のことを話題にする。父は、ギジェの成績が優秀で、かつ、クラスのリーダー的存在だと言われたので、きわめて満足している。母は、夫に、「ギジェルモ」と たしなめるように呼びかける〔息子のギジェと似ているが、ギジェルモは英語のウィリアム、フランス語のギヨームのこと〕。父は、「目立って何が悪い。控え目になるな。偉いぞ。お前は、パパの血筋だ〔虐めっ子+リーダー〕。それに、お前のお母さんは知性的だしな」と、ひたすら褒める。ここで、母が、「授業中に携帯を使ってるそうね」と批判すると、父は、「些細なことだ。この子は、学校で頭角を現してる」と援護する。それでも、母は、「失礼な行為よ」と許す気配はない。2人の性格がよく分かる。翌朝のガビー家の朝食は、ごく庶民的な雰囲気。母は、昨晩言えなかったことをガビーに注意する。「もっと、努力しないと」。「やってるよ」。「だけど、十分じゃないみたい」(2枚目の写真)。ここで、ガビーの本音が出る。「学校なんか、行きなくない」。不登校は虐めの明らかなサインだが、母は、そのサインに気付かない。「私にだって、やりたくないことは山ほどある」と言い、不登校を勉学嫌いと結び付けてしまう。「いいこと。時には辛いことだってある〔虐めは想定外〕。努力するって約束して」。ガビーは、“何も分かっちゃいないな” と思いつつ、「約束する」と言って、片手を上げる(3枚目の写真)。

ギジェの教師に対する復讐は、すぐに具体化する。教師の白い車の運転席に、後部座席のドアまで達するような大きな字で「CHIVATA(告げ口屋)」と黒いスプレーで書いたのだ。ギジェのことなので、実行犯は一番荒っぽい仲間にさせたのだろう〔2人が、教師が愕然とするのを見て、“やった” と手を合わせる部分がある。告げ口されたと思ったのはギジェなので、自分で字を書いたのなら、手のパチンは不要〕。一方、ガビーは登校の途中でカルラと一緒になる。カルラ:「元気?」。「うん」。「ホントに?」。「昨日は、そんな風には見えなかった」〔ボールをぶつけられた後、カルラに会っても無視した〕。「そのことは、話したくない」。「あんな風にやられて、何とかしなきゃ」。「話したくないって、言ったろ」。「だけど、そんなじゃ、いつまでたってもやられるわよ」。「何かいい手でも? 奴らに話してくれる?」。「嫌よ」。「そうだよね」。「でも、なぜ両親に話さないの? ギジェはクソよ。あんたを、卒業するまで虐め続けるに決まってる」。「心配してくれてありがとう」。「ところで、いつか、一緒に映画に行かない?」。「いいよ」。登校したガビーはトイレに行き、入る前に、壁に付けられたトイレットペーパー入れから50センチほど切り取ると、個室に入る〔個室ごとに、トイレットペーパーが置いてない〕。ガビーが大便をしていると(1枚目の写真)、誰かが乱暴にトイレに入って来て、トイレットペーパー入れから数メートルの紙を手繰り出す。そして、それをダストボックスに投げ込むと、ライターで火を点ける。その直後、ガビーの個室のドアのハンドルを足で蹴り上げて壊してねじ曲げ、中から出られないようにする。ダストボックスの火は燃え上がり、煙が出て来る(2枚目の写真)。ガビーは、煙の充満した個室の中で、ドアを叩きながら、「誰か助けて!」と叫ぶが、授業の前なので誰も来ない。そのうち、天井の火災報知器が作動し、警報が鳴り響く〔スプリンクラーはついていない〕。警報を聞いた生徒達が、一斉に教室を出て校庭に向かう(3枚目の写真)。

ガビーは、ドアを足で蹴破って外に出る、そのまま、生徒達がクラスごとに並んでいる校庭に出て行くと、いきなりギジェに殴りかかる(1枚目の写真)。ガビーは2人の教師によってギジェから引き放される。ギジェは、「この、キチガイ〔colgao〕! 僕が何したってんだ?」と、“無実の被害者” を装う(2枚目の写真)。ガビーは何も言わない(3枚目の写真)。一方、トイレの被害の様子を見に来た教師と用務員。2人の会話には、あきれるしかない。この教師は、ガビーを評価せず、ギジェを称賛するダメ教師だが、彼女は、ダストボックスの火災と、壊れた個室のドアとの関連など最初から考えもしない。用務員の、「今日は くずかご、だが いつか学校に放火するかも」の心配にも、「私は歴史を教えたいから教師になったの。警官じゃない」と言い、原因の究明には全く興味を示さない。さらに、「患者の団体が、手術室に入ってきて外科医に何か言う? 父兄の団体は、学校に規律を押し付ける気よ。私達は蚊帳の外」と、教員に対する業務負担増に文句を言う。「あと、4週間で学期が終わる。私は24頭の乳牛を買ったの。来年は、チーズ作りに専念するわ。動物を相手にした方が、儲かるでしょ」と嬉しそうに話す〔開いた口が塞がらない〕

その日の夜のギジェの家。父は、“殴られた犠牲者” の息子に、「何があったか、話す気があるのか、ないのか?」と訊く。妻が止めても、「私は、何が起きたか知りたいだけだ」と、こだわる。「大げさに考えることないでしょ。子供同士のことよ」。しかし、父は、「今立ち向かうか、将来ずっとボコボコにされて、どうしていいか分からなくなるか」と、問題を深刻に捉えることをやめない。ギジェは、何があったか話す訳にはいかないので、自分の部屋に行きたがるが、父親は、それも許さない。そして、「自分の身を守ることぐらい学べ。そんな風にされて、黙っている気か。お前は私の息子だぞ」と強く言う。ギジェが、「パパみたいに、ボディーガードがいるわけじゃない」と反論すると、父はさらに腹を立てる。「自分を、何様だと思ってる。今、何を言ったか分かってるのか? いつ、誰に撃たれるか分からないでいる、ということの意味も分からんのか?」と叱った後、「部屋に行き、出て来るな。携帯は置いていけ」と命じる(1枚目の写真、矢印は携帯)。一方、いつものピザ屋では、父が、執拗にガビーに絡む。「同じクラスの子を殴ったそうだな。なぜだ?」。ガビーは無言。「話したくない?」。無言。「もう、うんざりだ。説明するのは義務だぞ」。母は、今じゃなくてもと庇う。「この先、こいつは、どうなる? 放っておけないから、話そうとしてるんじゃないか」(2枚目の写真)。翌朝、ギジェの母が1人で朝食をとっていると、置いてあった息子の携帯に着信がある。母が受信ボタンを押すと、「顔を殴れ! 顔だ!」に続き、うめき声。「しっかり押さえろ!」。さらに、殴る音。「もっと殴れ!」。さらなるうめき声が聞こえる(3枚目の写真)〔映像付きだが、観客に何が映っていたのか分からない〕。母は、映像メールを消去する。そして、テーブルに戻ると、真剣な顔で考え込む〔母が、“学校での息子の行動” に疑問を抱いた瞬間〕

学校に行ったギジェは、一番のワルから、「ビデオどうだった?」と訊かれ、「何のビデオ?」と訊き返す。「昨日、俺たちが作った奴だ」。「届いてない。誰かに間違って送らなかったろうな?」。「まさか! 見ろよ、今朝8時20分に送ったんだ」と、発信記録を見せる。学校からの帰り道、ガビーが、スパイダーマンの漫画雑誌を読みながら歩いていると、背後からギジェ達4人が忍び寄り、ワルがガビーを駐車中の車に突き飛ばす。ガビーは、読んでいたマンガのことでからかわれ、その度に、頬を叩かれる。そして、顔を手でつかまれて写真に撮られる(2枚目の写真)。それを救ってくれたのは、ガビーの一家がいつも行くピザ屋の主人シルベリオだった。彼は、ガビーを、開店前の店に連れて行くと、「友達と何してた?」と訊く。「あんな奴ら 友だちじゃない」(3枚目の写真)。「分かってる。そう言ってみただけだ。奴らが怖いか?」。「ううん」。「ガブリエル〔ガビーの本名〕、恐怖を否定しても 消えてはくれんぞ。打つ手は? 何か考えてるんだろ?」。「ううん、相手が多過ぎる」。「そうだな。確かに多い。奴らをやっつけるには、スパイダーマンにでもならんとな。そしたら、最強の子になれる。だが現実には、君がなれるのは、最も賢い子だ。奴らは、そんなことは予想もしていない。知恵のある子なんて稀だからな」。「うん」。「君は、奴らを一人ずつやっつければいい。君は聖書を読むか? 聖書にも書いてある。「Occhio per occhio(目には目)。Ojo por ojo(目には目)だ」〔最初の言葉はイタリア語。シルベリオはイタリア人なので、先にイタリア語が出てきた。これは重要な伏線〕〔この有名な言葉は、旧約聖書の「エジプト記」の21章の「ほかの害がある時は、命には命、目には目、歯には歯、手には手、足には足、焼き傷には焼き傷、傷には傷、打ち傷には打ち傷をもって償わなければならない」に由来する。しかし、聖書では、「マタイによる福音書」の5章で、「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。しかし、私は言っておく。悪人に手向かってはならない。誰かがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」という、有名な言い回しに変わっている〕。ガビーが、「『左の頬をも向けなさい』とも書いてあるよ」と言うと、シルベリオは、「君と私は 同じ聖書を読んでいない」と言って笑わせる〔この、「目には目」が、この映画の主題でもあるので、邦題の副題として付けた〕

翌朝、ギジェが朝食を食べていると、食卓の前に腕組みして立った母が、「あなたは知らないかもしれないけど、人を殴ることは犯罪なのよ」と話しかける。いきなり、そんなことを言われたので、ギジェは、「何?」と、問い返す。「それを携帯で写すなんて、さらにひどい。最低よ」。「ママ、僕、何もしてないよ。クラスの奴が送ってきたんだ」(1枚目の写真)。「私には理解できない… あなた、こんなこと楽しいの?」。「僕じゃないって、話したろ」。「これから、毎日、携帯を調べますからね。同じようなものが見つからないことを祈りなさい」。「パパに話す?」。「心配なのは、それだけ? 私は、あの映像が頭から離れない。殴られてた子は誰なの?」。「知らないよ。僕は何もしてないから。そもそも、僕一人だけじゃないし」。「何が、『一人だけじゃない』の? もし、お父さんがこのことを知ったら… ほんとに、誰だか忘れたの?」。「そればっかり。ママに関係ないだろ」。「息子のことが分からないのが、不安なのよ」。「くどくど、頭がおかしいんじゃない〔se te va la olla〕?」。母は、ギジェの頬を引っ叩く(2枚目の写真)。

同じ朝〔日曜〕、ガビーがTVゲームをしていると、携帯に電話がかかってくる。ガビーは、「5分後に、行くよ」と言って、嬉しそうに電話を切る。ガビーがうきうきして出かけると、外ではカルラが待っていた。2人は仲良く話しながら街中まで歩いて行き(1枚目の写真)、約束通り映画館に入る。映画館から出た後は、手をつないでカフェで幸せ一杯に話し合い、公園に行って 2人仲良く写真を撮る(2枚目の写真)。そして、最後は路上でキス(3枚目の写真)。ガビーにとって、カルラは虐めを忘れさせてくれる大切な存在だ。

月曜の朝。生徒たちが教室に入って来る。教師が「先週は、1492年の話〔レコンキスタの終結〕をしましたね」と発言する。ここで、ギジェが手を上げる(1枚目の写真)。「机の上に置いておいた携帯が、なくなりました」。打合せ通り、隣のワルが手を上げ、「僕が、かけてみれば、鳴ります」と言う。ワルがかけると、教室の中で音がする。音は、壁にかかっている誰かのバックパックから聞こえる。教師は、「誰のバッグなの?」と訊く。ガビーは、ギジェ達に新たな手で虐められるのかと覚悟し、手をあげる(2枚目の写真)。この教師は、当然、ガビーが盗んだと考え、すぐに父親を学校に呼び出す。ガビーは、「個人指導室」の前で、自分が悪者扱いされているのを、じっと待っている(3枚目の写真)。映画で聞こえてくる最初の教師の発言は、「校則に従い、息子さんを2日間の停学とします」。父は、「他の方法もあるのでは?」と言うが、教師は、「これは、重大な犯罪です。他の選択肢はありません」と答える。「ウチは2人とも働いています。2日で、何ができます?」。「ガブリエル君をセラピストに診せては? 最近の振舞いの原因を見つけるべきです」。そして、この無責任で愚かな教師は、「確かではありませんが、私達は、ガブリエル君が同級生に迷惑行為を行っていると考えています」と、100%逆のことを話す。ここで、相手が、ギジェの母に変わる。「虐めについて聞かれたことは?」。「いいえ」。「生徒間での虐めです。言葉による辱めから始まることが多いのです。『四つ目(メガネ)』とか『ダンボ(耳)』とか『ニンジン(髪)』とか…」〔何れも、ギジェとは無関係。『ニンジン』と黒板に書いてあったことも忘れている〕。そして、ガビーには外部の有料のセラピストを勧めたのに、ギジェには無料の校内の精神分析医を勧める。目的は、「息子さんが、どの程度、虐めの犠牲者であるか」を確かめるため。それを聞いた母は、例の暴行ビデオを見ているので、思わず、「犠牲者?」と、教師の不見識ぶりに呆れる〔それにしても、虐めに気付かないことは許せても、加害者と被害者を取り違えるのは、犯罪の幇助に近い最低の行為だ〕

今や、ガビーは、ギジェだけでなく、教師からも虐められる境遇になってしまった。父の車に乗せられて帰宅する途中、2人の間に会話は一切ない(1枚目の写真)。家に着くと、父は、「この2日は、休暇じゃないからな。明日は、7時に起きて俺と一緒に来るんだ」と命令する(2枚目の写真)。ギジェの母は、息子が帰宅すると、携帯を取り上げてチェックする。そして、ギジェが外出すると、部屋に入って行き、「悪さ」をしている証拠がないか捜し回る。翌朝、ガビーが7時に起きてくると、父は、「急げ」と出かける用意をする。母は、「よければ、私と一緒に来てもいいのよ」と言うが、父は、それを拒絶し、自分が連れて行くと主張する(3枚目の写真)。そして、母が、「シリアルは全部食べるのよ」と優しく声をかけると、「甘やかすんじゃない」と文句を言う。母は、「この子は、やってないと言ってるのよ。怒ってばかりいても始まらないでしょ」と、父の態度を咎める。「こいつが停学をくらったのも、俺のせいだと言いたいのか?」。母は、無視して出て行く。

父の車の中。「いいか、ガビー、俺は、息子と友達になりたいと思うような父親じゃない。だが、どうしたのか話してくれれば嬉しい」と、先程に比べると “まっとう” に話しかける。「別に、何もないよ」。「あるに決まってる。嘘をつくな。何か飲んでないよな?」。「飲む?」。「麻薬だ」。ここまで疑われたガビーはムッとする。それでも、父は追及を止めない。「お前の先生の話じゃ、授業に集中はできん、同級生は殴る、おまけに、携帯まで盗んだそうだな。何て奴だ」。「盗んでない」。「お前のバックパックに入ってた」。「誰かが入れたんだ」。「ホントか?」。「うん」。「誓え」(1枚目の写真)。「誓う」。父は、ガビーを連れて会社に入って行く。「いったい、何が起きてる?」。「学校に行きたくない」〔最初は母、今度は父に対する「登校拒否」。しかし、反応は同じ〕。「バカを言うんじゃない。俺だって、好きでここに来てるんじゃない」。そして、「なあ、どうしたのか、話してみないか? 何であろうと、2人で乗り越えようじゃないか」と言う。ガビーは、話す気になり、「パパ…」(2枚目の写真)。しかし、その瞬間、上司が父を呼ぶ。息子がせっかく話す気になったのに、父にとっては上司の命令の方が絶対だ。おまけに、上司は、息子を職場に連れて来たことに文句をつけた後で、仕事がはかどっていないことを責め立てる(3枚目の写真)〔父の仕事は、警報装置や防犯カメラのセールス〕。ガビーの話を聞いている暇など全くない。

午後は母。母は、何も訊かず、「ネットサーフィンしてていいわ」と言っただけ。ガビーは、自分から、「パパと僕、話したんだ」と打ち明ける(1枚目の写真)。「そう? 何を?」。その瞬間、母にセットに入るよう依頼が来る。この日、ガビーは、虐めのことを両親に話そうとして、2人とも、偶然とはいえ、聞いてはくれなかった。落胆したガビーが、これ以後 自分から話す気になるとは思えない。その日の夕方か 翌日、母は、ガビーをセラピストの所に連れて行く。暗いオフィスに連れて来られたガビーに、セラピストは一方的に話しかける(2枚目の写真)。「気まずいだろうとは思うけど、私達でこの小さな問題を解決してみましょう。私の専門家としての経験から言えば、何もかもちゃんと話すことがベストなのよ。ここでは、あなたの行動が、いいか、悪いかの判断などしない。でも、ひとつ教えて欲しい。あなたが同級生を殴った時、どう感じた?」。この訊き方は、明らかに不味い。まるで、ガビーがギジェを殴ったことは悪いことで、その背景が知りたいと思っていると、受けとられかねない。ガビーは、この医者は自分の味方ではないと感じ、黙っている。一方、学校の精神分析医を訪れたギジェは、遥かに上手(うわて)。「日曜〔トイレに火を点けて殴られた翌日〕は、いつもより、神経が高ぶっていました」。「〔月曜に〕彼と顔を合わせるからかね?」〔ここでも、医者は、最初からガビーを加害者と決めつけている〕。ギジェが、ティシュを取って嘘泣きをすると(3枚目の写真)、医者は それで得心がいった気になる。医務室から出た後の、ギジェの態度は、“専門家なんてチョロイもんさ” というもの。

その夜、ギジェが自分の部屋でTVゲームをしていると、母が入ってきて、「9時にお客さんがくるの。降りてきて、挨拶してくれる?」と訊く。「元気かって訊かれたら、精神科医に会いに行ったと答えていい?」。母は止める。「パパは? 話してくれた?」。「お父さんは、一杯 問題を抱えていらっしゃるの。それに、誰かがあなたを虐めてるなんて話、確信が持てないから、話さない方がいいと思うわ」(1枚目の写真)。そのあと、来客4人を交えたディナーが開催される。主な話題は、明日、ガビーの母にギジェの父がインタビューされ、TVで放映されること。この時の会話では、ギジェの母がインタビュアーのことを、「息子さんが、ギジェと同級生なの」と説明するので、ギジェの「加害者/被害者」の名前は、教師も伏せていたことが分かる。ギジェは、9時の挨拶にも現われず、ディナーの様子を寂しそうに見ていただけ(2枚目の写真)。一方、同じ頃、ガビーの一家は、いつものピザ屋に入る。ガビーが、「熱があるみたい」と言うと、父は、「学校に行きたくないだけだ」と切って捨てるように言い、「お前は、明日、学校に行くんだ」と命令する〔ガビーが誓ったことも、打ち明けようとしたことも忘れ、ひたすら悪者扱いしている〕。そこに、シルベリオが注文を取りに来る。3人の注文を聞いた後、シルベリオは ガビーにVIP客用の「マラドーナ・スペシャル」を用意すると申し出る。「甘やかすんじゃない」。「何言ってる。学校に戻る元気を付けさせないと。Ti piace(イタリア語で、「どうする?」の意味)」。ガビーはニッコリする(3枚目の写真)。それを見たシルベリオは、「もし、気に入ったら、君に、『マラドーナ・スペシャル』の秘密を教えてやる」と言う。

翌朝、ガビーはカルラと仲良く登校する。「寂しかった」。「僕も」。「どうだった?」。「何が?」。「セラピスト」。「いいよ」。「良かったわね」。「嬉しそうだね?」。「あんたの夢を見たの」。「どんな?」。「携帯を失くしてた」。笑った後、カルラは、真面目な顔になり、「ガビー、気を付けて」と心配する。授業中、携帯にメールが入る。「T echaba d mns znahoria(Te echaba de menos znahoria/寂しかったぞ、ニンジン)」。ギジェからだ。何をされるか分からない。学校を出たガビーは、全力疾走で逃げる(1枚目の写真、矢印、後ろに4人いる)。ガビーは、ショッピングセンターに逃げ込む。その頃、TVインタビューが行われている。その中の1つの発言から、ギジェが14歳だと分かる。4人は、執拗にガビーを追いかける。ガビーは、走りながらポケットに手を入れ、鍵を取り出し、家に着くとすぐに鍵を開けて中に逃げ込む。ガビーがドキドキと激しく脈打つ心臓を鎮めていると、暗証番号を入力し忘れたので、警報装置が鳴り出す。それを聞いたガビーは、すべてが嫌になり、思わず絶叫する(2枚目の写真、矢印は警報装置)。恐らく、警備員もきたのだろう。夜になり、父と母が話し合っている。母は、「あんなあの子、見たことがない」と心配する。そして、ガビーがTV局に来た時、「パパと僕、話したんだ」と言ったことを思い出し、何を話したか夫に訊く。夫は、自分のせいで “打ち明け話” がストップしたのに、「話したのは俺で、あいつは何も言わなかった」と嘘を付く〔あるいは、ガビーが打ち明けようとした一瞬のことを忘れている〕。母は、「あの子、私達のことも信用していないのよ」と心配し、「怖いわ」と打ち明ける。その頃、居間では、ガビーが虚ろな顔でTVゲームをしている。しかし、それは普通のアクション・ゲームではなかった。1人の男性が、30階ほどのビルの屋上の端まで歩いて行く。すると、「This way is very dangerous. Do you want to continue?」という英語のコメントとともに、YESかNOを選択するボタンが表示される。ガビーは、YESをクリックし、男はビルから飛び降りる(3枚目の写真、矢印)。日本でも、虐めを受け、マンションから飛び降り自殺した中学生が複数いる。ガビーの心境も、それに近いことは、ほうけたような表情から読み取れる。

ギジェの家では、その日のTVインタビューの録画を3人で見ている。見終わった後、父が、「ところで、お母さんが言ってたな。あのキャスターの息子は、お前と同じクラスだって」とギジェに話しかける。「そうだよ。でも、同じグループじゃない」。母が、「話したこともないの?」と訊く。「あいつ、ちょっと変なんだ。だから、『ニンジン』って呼んでる」。この言葉に、強く反応したのが父。「ニンジンだと?」(1枚目の写真)「わしのクラスにも、いたな。哀れなニンジン。いつも殴られてた。それを楽しんでたみたいだった」。その無情な言葉に、母の心配が一気に募る。“息子は父親似。「ニンジン」を虐めているのでは?” という直感だ。同じ頃、ガビーは自分の部屋で、今後どうするか真剣に考えていた(2枚目の写真)。置いてあったバットでギジェの顔を叩くことも考えるが、そんな暴力的な子ではない。場面は、翌日の授業に変わる。そこでは、両親の職業について紹介する宿題を 生徒達が順次読み上げている。ガビーの番がきて、「パパは、アラームの設置が…」と読み始めると、ギジェ達が、警報音の真似をして、教室中が笑う(3枚目の写真)。「それは、人々が怖れているからです。盗まれたり、襲われることを…」。

その日、ガビーは、最近親しみを感じるようになったシルベリオに会いに行く。シルベリオは、暗い店内でグリーンフィットチーネを干している。シルベリオは、「ガブリエル、世界一のピザは、どこで作られてるか知ってるか?」と訊く。「イタリア?」。「みんな、そう考える。だが、違う。世界一のピザは、ブエノスアイレスで作られる。だから、ウチ一番のピザは『マラドーナ・スペシャル』なんだ。マラドーナは王様だ。あらゆる困難を乗り切って、神の如く蘇った。だが、彼は、君や俺のような普通の人だ。だから、誰にでも愛されてる。人には、どんなことでもできるという、生きた証拠だから」〔元アルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナのこと。天才的なサッカープレイヤーとしてだけでなく、マフィアとの関係、コカインの密売、サッカー賭博、売春など様々な問題を抱えるが、英雄視もされている〕。シルベリオから、再度、「世界一のピザは、どこだ?」と訊かれたガビーは、嬉しそうに、「ブエノスアイレス」と答える(1枚目の写真)。その素直さに満足したシルベリオは、「見せるものがある」と言い、引き出しの中から、写真立てを持ち出して見せる。「これは、ディエゴがナポリでプレーしていた時のものだ〔1984-91年〕」。彼が、『マラドーナ・スペシャル』の作り方を教えてくれた」。「なぜ、引き出しの中に入れてるの?」。「見せびらかしたくないからさ。俺には、慎重さも必要なんだ。こっちを見ろ」(2枚目の写真)。そう言って、もう1つの写真立てを見せる。それは、ディエゴがカストロと会っている写真だった〔1987年に会ってから親交を続けている/2000年の心臓発作から復帰できたのはカストロのお陰〕。その直後にシルベリオが話す言葉は重要だ。「もし、俺がピザ屋から消えても心配するな。モヒート〔カクテル〕を飲みながら、浜辺で日光浴してるからな」。シルベリオは、棚から箱を取り出すと、ガビーの前に置く。「君のだ」。箱には、「Sony Ericsson K800i」と書かれている。2006年に販売が開始された世界で初めてのサイバーショット〔デジカメ〕携帯だ。自分の部屋に戻ったガビーは、もらった写真立てを飾り、ベッドに寝転んで携帯を見ている(3枚目の写真)。ニヤリとしているのは、この携帯を使った名案を思い付いたから。

翌朝、ガビーは、カルラを公園に呼び出す。そして、昨日もらったサイバーショット携帯をカルラに渡す(1枚目の写真、矢印)。それは、この場所で、今日の午後、カルラにこの高性能の携帯を使って欲しいからだ。その日の授業が終わる。ギジェは、帰ろうとして壁に掛けてあったバックパックを開けると、中からピザが出て来る(2枚目の写真)。携帯を見ると、画面には映らないが、ガビーからのメッセージが入っている。窓に駆け寄ると、ガビーが階段の途中で立ち止まり、ガビーの方をニヤリとした顔で見る(3枚目の写真)。

ガビーは、学校の外で、入念に運動靴の紐を締め、万全を期してギジェが怒って出て来るのを待つ。そして、4人が走ってくると、いつものように走り出す。途中のコースはいつもと同じだが、違ったのは、今朝カルラと会った公園に向かったこと。そして、人気(ひとけ)のない場所まで来ると、走るのが苦しくなったフリをして、立ち止まる(1枚目の写真)。ギジェは、「こいつを食わせてやる」と、ピザの入ったバックパックを見せる。ガビーは、「1人で、やれるのか?」と煽り立て、頭に来たギジェは、ガビーの顔を思いきり殴る。地面に倒れたガビーは、口から出た血を吐き出し、「お前のパパと同じだ。1人じゃ怖くてどこにも行けない」と言い(2枚目の写真)、完全にキレたギジェは、めちゃくちゃにガビーを殴り始める。最初は、面白そうに見ていた3人は、見境のない暴力に呆れ、ギジェを引き離す(3枚目の写真)。

誰もいない公園には、血まみれになったガビーが、気を失ったまま残された。4人が完全にいなくなると、それを見届けたように、木立の陰からカルラが現れる(1枚目の写真、矢印)。手には、ガビーの携帯が握られている。K800iは、32倍のデジタルズーム(オートフォーカス、手ぶれ補正)が付いているので、遠くからでも暴行がリアルに撮影できたのだ。ガビーは、洗面所で顔の血を流しながら、作戦の成功にニヤリとする(2枚目の写真)。帰宅した母は、ガビーの顔の傷を見て、思わず駆け寄って、「何が起きたの?」と訊く。「大丈夫、心配しないで」。「どうしたの?」。「別に、何も。僕、ママを信じてる。だから、僕を信じて。どうしても。これ1回限りだから」。ガビーは、そう言うと、「誓うよ」と言って手を上げる(3枚目の写真)。1回目に手を上げたのは、母の、誤解の上に成り立った、「努力するって約束して」の言葉に対する、“あきらめの誓い” だったが、今度は、ガビーの主導による、自信に溢れた “心からの誓い” だ。その夜、シルベリオは、二度と戻らない決意で、静かに店を閉めて出ていく。

あくる日、ギジェ達4人が校庭で2Aクラスの女の子の話をしていると、ギジェの携帯に着信音がする。ギジェが受けると、それは、昨日の公園での暴行を撮影した動画だった。まさか、あの暴行が撮影されていたとは考えもしなかったギジェは蒼白になる。他の3人も同じだ。そこに、ガビーが現れ、「クールだろ? お前のオヤジはきっと喜ぶぞ」(1枚目の写真、矢印は携帯)「僕を、ニンジンって呼ぶのは構わない。だけど、またこんな風に殴ったら、ネット上で流してやる」と脅す。ギジェは、「そんなこと、しやがったら…」と反論するが、「偉そうに言うな。お前はオヤジとは違うんだ。あっちには、ボディガードがついてる。お前には、そこの3人だ。彼らは守ってくれるかな?」。そう言うと、ガビーは3人に向かって、「消えちまえ。さもないと、ネットに流すぞ」と脅す。1人はすぐに離れ、残っていた2人も去っていく(2枚目の写真)。2人だけになると、ガビーは、「分かったか? 奴らには、僕の方が怖いんだ」と、ギジェに言う(3枚目の写真)。「目には目を」が達成された瞬間だ。

学校からの帰り道、ガビーはカルラと一緒。カルラは、「あんなやり方、好きじゃない」と言い出す。「うまくいったじゃないか。何をそんなに心配してるんだ?」。「恐怖よ」。「恐怖? 何が怖い?」。「あんたよ」。「分からないな」。「でしょうね」。「説明してくれる?」。「いいこと、あんたには、もう何も期待できないの、ニンジン。殴られるのを撮影するんなら、他の人を捜すのね」(1枚目の写真)。そう言うと、カルラはガビーと縁を切って去っていく〔このシーンは、納得できない。以前、「あんな風にやられて、何とかしなきゃ」「そんなじゃ、いつまでたってもやられるわよ」「ギジェはクソよ。あんたを、卒業するまで虐め続けるに決まってる」と言ったのは、カルラなのに〕。ガビーは、ピザ屋の前まで来ると、パトカーが何台も停まり、大勢の警官もいる。放送局では、母がニュース速報を読み上げている。「今日の午後、マフィアのボス、ジュリアーノ・マリーニを逮捕する警察の大掛かりな作戦が行われました。マリーニは、この8年間、シルベリオ・フィオレリノの名で、市内でよく知られたピザ屋を経営してきました。マリーニは、全ヨーロッパでも最も重要度の高い指名手配者で、数多くの殺人、資金洗浄、搾取、麻薬取引に関与してきた人物でした。マリーニは、既に逃亡していて、行方は掴めていません」。ギジェが自分の部屋に入ると、そこには母がいて、隠しておいた4つの盗んだ携帯が、ベッドの上に並べてある。これで、母が学校に呼ばれた時、愚かな教師から聞かされた、“息子が虐待の犠牲者” という疑いは、“息子が虐待の加害者” である確信に変わっている。「これは、いったい何なの? お父さんには黙っているから、白状なさい」。ギジェは、「ママ、ごめんなさい」と謝る(2枚目の写真)。「ママの心は痛みは、もっとずっと深いわ」。ギジェには、散々な一日となった。一方、ガビーの家に刑事が訪れている。理由は、店内の防犯カメラに、ガビーが単独でシルベリオに会っている姿が何度も映っていたため。刑事は、ガビーに、「シルベリオは、調査に参考になるようなこと、何か言わなかった?」と質問する。「ううん。マラドーナについて話しただけ」。「マラドーナ? なぜ? シルベリオは、マラドーナと友達だったの?」。「知らない」。「シルベルオに捧げるマラドーナの写真を見つけたわ」。「そうなの?」。「ええ」。「それで?」(3枚目の写真)〔如何にも、何も知らないといった感じ〕。「顔はどうしたの?」。「階段から落ちた」。父:「ホントか?」。母:「そうよ。靴の紐が結んでなかったの」〔母は、約束通り「これ1回限り」を信じて 庇う〕。「最後の質問よ。シルベルオは、どこか特別な場所に行くようなこと、話してなかった?」。「ブエノスアイレスの話をしたよ。世界一のピザの街だって」。

映画の最後は、授業中のシーン。あれから、どのくらい日が経ったのかは分からない。1人の生徒の携帯に、マナーモードでの着信振動がある。メールを見た生徒は、最初にギジェの方を振り返って見ると、次にガビーの方を振り返って見る(1枚目の写真)。それに気付いたガビーが、その生徒の方を見て〔生徒は既に前を向いている〕、ニヤリとする(2枚目の写真)。映画は、ここで終わる。ガビーは、虐められる側から、虐める側に転じたのだろうか? DVDにはメイキングがついているが、字幕のないスペイン語なので、最後の「まさか」について説明があったにせよ、残念ながら分からない。

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