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Dirkie ダーキー/砂漠の冒険

南アフリカ映画 (1969)

ヴェイナント・エイス(Wynand Uys)が主演する極限状態でのサバイバル映画。1970年の日本公開時の『砂漠の冒険』は、視聴者を誤誘導する困った題名。「冒険」という言葉は、自発的な行為の結果生じた危険な体験という意味合いで使われる。ヴェイナント扮する8歳のダーキーは、小児喘息の転地療養のため空気のきれいな叔父の農園まで軽飛行機で移動中、叔父の心臓発作で無人の地に不時着。愛犬のロリと、いきなり荒野の真ん中に放り出される。向かった先は広大なカラハリ砂漠。ハイエナに追われ、ハタオリドリやダチョウの卵、遂にはシロアリまで食べ、落石で腕に裂傷、ドクハキコブラの毒液に目をやられ、サソリに刺され、助けてもらったブッシュマンとの誤解から1人取り残され、水もなく砂丘の中で行き倒れになる。これは「冒険」ではない。南アフリカ映画で少年の冒険といえば、2005年の『ぼくのともだちドゥーマ』があるが、こちらは、大きくなったチーターを自然に戻そうという目的で、南アフリカの奥地へ入って行くという物語。そういう意味では冒険だが、危険な目に遭うのはツエツエバエに襲われた時くらいで、それも同行の黒人が庇って助けてくれる。『ダーキー』のサバイバル度は、これまで作られた子役映画の中では最大レベルで、これ以上苛酷な状況は考えられない。映画の中には、『アラビアのロレンス』のように、超遠距離からのショットがくり返し挿入されるが、1969年という時代と、ヴェイナント・エイスが監督の息子という状況を考えると、すべて本人が「やらされた」としか思えない。さすがにシロアリを食べたとは思わないが、断崖の際まで近付いたり、木の先端まで登ったり、なかり危険な撮影だったことを窺わせる。ウイキペディア情報だが、「Hy deel egter nie sy pa se voorliefde vir rolprente nie en het sedertdien nog nie in een opgetree nie.」とアフリカーンス語で書かれており、二度と映画には出ないと決意させるほど、監督としての父親の指示で、幼いヴェイナントが体力と我慢の限界まで要求されたらしいことが分かる。DVDは2005年に発売されたが、35年前のフィルムは変色がひどく、さらに、南アフリカ在住でないと同国内の通販ショップから購入することはできない。DVDには1969年公開のアフリカーンス語版と1970年公開の英語版が入っている。前者には字幕はなく、後者にはインターネット上の英語字幕は存在するが、実際に話している英語とかなり違う。また、両者を比較すると、①イントロ: 前者はピアニストの父の演奏風景、後者は外国人向けにカラハリ砂漠の説明が入る点は明らかに違うが、内容的には、②女性新聞記者の扱いが前者は重く、後者は軽いのが最大の違い。そう考えると、アフリカーンス語版の方が長くなるはずなのだが、収録されている映画は、逆に3分短くなっている。それは、③アフリカーンス語版では最後の部分に大きな欠損があるからである。この点を詳しくみていくと、イントロ後の本編~欠損部までの時間は、アフリカーンス語版1時間15分00秒、英語版1時間12分16秒となっていて、アフリカーンス語版の方が2分44秒長い。これは、主として女性新聞記者の部分に該当する。欠損部分自体は6分24秒。その後~エンドクレジットまでの時間にも、それぞれ、1分32秒と1分07秒と差がある。もし、欠損がなければアフリカーンス語版は英語版より3分長いことになる。今回の紹介では、言語の分かる英語版を使用したが、アフリカーンス語版にしかない画像を4枚追加し、右下に緑色の「」を入れた。また、英語版にしかない場面には右下に青色の「E」を入れた。基本的には最後の欠損部に4枚集中するが、それ以外にも数ヶ所英語版にしかないシーンがあり、ここではそのうち3枚を使用した。最後に、右下に緑色の「A」の入ったものは、英語版の色落ちがひどくて使用に耐えないので、アフリカーンス語版を使用したもので、前半35分~1時間の9割を占める。アフリカーンス語版は、縦幅が英語版の8割しかなく、その分画質が落ちる。ただし、横幅は同じなので、その分、横に長く引き伸ばされており(不自然)、横幅を8割縮めて使用した。

コンサートピアニストを父に持つダーキーは、いつも咳いている。恐らく、ひどい小児喘息だろう。医者の勧告もあって、空気の汚れたヨハネスブルグから田舎に転地療養を勧められる。そこで、現在のナミビアで大規模農園を営む叔父に頼むことになり、叔父が自家用(軽飛行)機で迎えに来る。しかし、帰途の途中で叔父は心臓発作にみまわれ、軽飛行機はナミビアのカラハリ砂漠近くの荒地に突っ込むように不時着し、生き残ったのは頭にケガをしたダーキーと愛犬のロリだけ。父は、事故の連絡を受け、現地司令部のあるウィンドック(ヨハネスブルグ→の西北西1000キロ、現ナミビアの首都)にボーイングで飛ぶ。ウィンドックの基地には3機のヘリがいて、目視での捜索を開始していたが、軽飛行機の無線が通じることが分かり、声を頼りに方向探知機で調べようとしたが3機ではとても無理。そのうちに無線の出力が弱ってきたので、原則通話禁止となる。そして、初めての夜に早くも出現したブチハイエナ。追い払おうと予備の燃料をまいて火を点けるが、運悪く軽飛行機の残骸に燃え移って全焼。翌日は、プレトリア(首都、ヨハネスブルグ近郊)の基地から派遣された軍のヘリ25機が投入される。無線は通じなかったが、赤と白の鮮やかな軽飛行機の色が目標とされた。しかし、昨夜の全焼で機体は真っ黒だ。1機のヘリが上空を通過し、ダーキーを狂喜させたが気付かずに通過。ダーキーは、高台から見渡して、遠くの川を目指すことにする。水の確保が最優先課題だからだ。川は干上がっていたが、少し掘ると水が出て来た。しかし、そこに昨夜のハイエナが襲いかかる。ダーキーは、アロエ・ディコトマの木に登って難を逃れたが、代わりにロリが追われて消えてしまった。お腹の空いたダーキーはアカシアの木に登ってハタオリドリの卵を取り、火で「目玉焼き」を大量に作って一夜を過ごす。翌日、幸いロリと再会でき、さっそくハンザル(スイカの一種)を食べさせてやる。しかし、見つけた小さなトカゲを殺すような残酷なことのできないダーキーは、巨大なシロアリ塚に挑み、石で崩して中のシロアリを生のまま食べる。その日は、ダチョウの大きな玉子を見つけたのが最大の成果。夜はスクランブル・エッグのごちそうだった。一方、ウィンドックで捜索を見守る父は、現地ハンターのスミティの進言を受けて、「ダーキー、心から愛してる、必ず見つける」というビラを広大な捜索地域に空からまくことを決断。200万枚に1万ランド(1970年は1ランド=500円、消費者物価指数の1970年/2015年比は3.12なので、現在価値1500万円)と言われる〔ただし、現在日本でA4のビラ200万枚を刷ると、印刷費は片面カラーでも僅か200万円強〕。しかし、そのビラもなかなかダーキーの目には触れない。ダーキーは水を必死で探していて、深いゴルジュの底に発見。やっとの思いで降りて行くと、ロリが追いかけようとして落とした石で右上腕部に裂傷を負ってしまう。悪いことは重なるもので、しつこく追いかけてきたハイエナにロリが襲われ、歩けないほどの重傷も負う。そして、ようやく見つけたビラ。感動するも、残り半分が破れてしまっている。それを探すうち、身動きできないロリめがけて蛇が近付いていくのを察知。ロリを助けたダーキーの目めがけて、ドクハキコブラの毒液が命中し、左目が開かない状態に。ビラの文面を読みながら、ロリを抱いて、ひとつ所をゆっくり歩くダーキーを襲ったのはサソリ。そのまま地面に卒倒する。そこに、ハイエナが近付く。窮地を救ったのは、ダーキーの上を舞うハゲタカを見たブッシュマンだった。木材を円錐状に立てただけの狩猟用の住居に搬入されたダーキーは伝統的な治療法で回復するが、目覚めた時に渡された焼肉を、ロリの もも肉のローストと勘違いして、ブッシュマンを非難(言葉は通じない)、さらに石まで投げたことがタブーに触れ、怒ったブッシュマンは住居に火を点けて立ち去る。近くでロリを見つけたダーキーは、必死に後を追うが、決して許してもらえない。どんどん距離は開き、疲労困憊したダーキーは、ロリを持つ力も消え、砂丘に倒れて気を失う。

ヴェイナント・エイスの全精力を出し切ったような演技が感動を誘う。しかし、監督に対しては、自分の息子だからといって、こんなことをさせていいのだろうかと真剣に思う。撮影終了後に親子関係が壊れたというのも十分に理解できる。あらすじは、会話が少ない分、画像を多くした〔スペースを減らすためと画質が粗いことから、例外的に、シネマスコープ・サイズをそのまま使用した〕。


あらすじ

英語版では、映画の冒頭にカラハリ砂漠の説明が1分48秒入る。「南アフリカのオレンジ川とザンベジ川の間に広がる27万5000平方マイル(71万2000平方キロ=日本の面積の1.88倍)の不毛の地がカラハリである」。ここからは、J.P.Rafferty編の『The Living Earth/Desserts and Steppes』(2011)により内容を補強すれば、「そこを最初に横断したヨーロッパ人は、1849年、スコットランド人の宣教師 兼 冒険家のデイヴィッド・リヴィングストン(有名なナイルの水源探し途中での死は1872年)。1878-79年には、ボーア人(オランダ系先住ヨーロッパ人)の一行がトランスヴァール(現・南アフリカ北東部)からアンゴラ(現・アンゴラ共和国)に行く途中でカラハリを横断した際、主として渇きのため250人の命と9000頭の牛を失った。それから現在に至るまで、カラハリは地球上で最も人跡未踏の地の一つである」(20世紀に入り自動車が登場するとカラハリでの移動は大幅に改善されたが、1950年台の末になってもほとんどの地域は事実上到達困難で、部外者には閉ざされた場所だった。カラハリが研究者・狩猟家・旅行家に開放されたのは1970年代の半ばである)。そして、映画はヨハネスブルグの自宅マンションで、ダーキーが父のピアニストと一緒に、人差し指2本だけでピアノを弾いている場面へと移行する。8歳にしてこの「腕前」ということは、父がダーキーにピアノの幼児教育を一切させてこなかったことを意味している。2本指でも間違えて、「ごめんなさい」と笑うダーキー(1枚目の写真)。しかし、そのすぐ後、ダーキーはひどい咳に苦しむ。「お医者様に診てもらわないとな」(2枚目の写真)。医者の診断は、「肺が弱っています。しばらく都会を離れた方がいいでしょう。どこか 空気のきれい場所に連れて行かれたらどうですか?」(3枚目の写真)というものだった。しかし、父はリサイタルがあって離れられない。そこで、ピート叔父の農園に飛行機で行くことになった。
  
  
  

出発の準備をする中で、父はダーキーに目覚まし時計を渡し、「この時計は4時間おきに鳴る」(1枚目の写真)「鳴ったら薬を飲みなさい。4時間ごとにティースプーン1杯だ」と注意する。そこに叔父が到着する。自家用機で1000キロ離れた農園から飛んできたのだ。「どうだい? 準備はできたかな?」。叔父は犬を見て、ダーキーに「これは、ガールフレンドかい? 一緒なのかな?」と尋ねる。「うん、お願い、ピート叔父さん」。「いいとも。それに銃もやるぞ。ウサギが撃てる」。それに対し、ダーキーは困ったような顔をする(2枚目の写真)。父は、「ピート、この子に狩猟を強制させないでくれ。動物を殺すのが嫌いなんだ」。「父親と同じで神経質のか? あんたも狩りはしなかったからな」。次のシーンはもう飛行場。叔父の軽飛行機はパイパー PA-28。1960年に型式証明を取得した単発レシプロ機で、現在でも製造・販売されている(巡航速度は時速174キロ。航続距離は1537キロ)。ダーキーは、愛犬のロリを大事そうに抱いて飛行機に向かう(3枚目の写真)。そして、父に「元気なって戻れよ」と頭を撫でられて座席に乗り込む。「ピート。よろしく頼む。たった一人の我が子だ」。そして、機は離陸して行った。
  
  
  

PA-28は、山岳地帯の上を超え、赤茶色に広がる平原の上に出る。その不毛の地に飛行機は降り立った。「着いたの?」。「ちょうど半分かな。コーヒータイムだ」。叔父はイギリス系ではなくオランダ系なので、飲物は紅茶でなくコーヒー。叔父は、ダーキーに やかんの入った箱を持ってくるよう言うと、燃料缶から可燃液体を砂地にまき、そこにマッチで火を点ける。そして、その真ん中に水を入れたやかんを置く(1枚目の写真)。すると、遠くの荒れた草原をスプリングボックの群れが走って行く。それを見た叔父はさっそく猟銃を持ち出し(2枚目の写真)、1匹仕留める。「やった!」。しかし、ダーキーの顔は喜びとはほど遠い。「ごめんよ。父さんの行ったこと忘れてた。気分が悪いんなら、見てなくていいぞ」(3枚目の写真)。「見なくていい」と言ったのは、殺したスプリングボックを機内に持ち込むところ。
  
  
  

PA-28は、再び離陸。ダーキーはくたびれてロリを抱いたまま寝ている。もちろん、シートベルトをしっかりはめている。しばらく飛行していると、叔父は 急に心臓が苦しくなる。はじめは何とか我慢できたが、強い発作で意識は朦朧とし、飛行機は垂直に近い形で急降下。気付いた叔父は必死で機を水平近くに戻し、無線で「メイデイ! 着陸強行!」と伝える。PA-28は、30度近い角度で地面にぶつかり(1枚目の写真)、車輪が折れ、胴体着陸の形で砂塵を巻き上げて減速し(2枚目の写真)、巨岩にぶつかって大破・停止した(3枚目の写真)。1969年の映画なので、どうやって撮影したかは不明だが、結構リアルで迫力がある。
  
  
  

ダーキーは、シートベルトのお陰で、頭に裂傷と額に打撲傷を負っただけで助かった。「ピト叔父さん」と訊くが返事はない。しかし、ロリは無事だった。抱きしめて大喜びするダーキー。ダーキーは壊れたドアを外すが、この時点で、まだシートベルトに固定されていることが1枚目の写真から分かる。ダーキーは外に出て、「ピート叔父さん?」と何度も呼びかける。そして、岩陰にうつ伏せに倒れている叔父を発見。駆け寄って仰向けにすると、完全に死んでいた(2枚目の写真)。ダーキーは、死体のそばにきたロリを抱き上げる(3枚目の写真)。
  
  
  

少し走ったお陰で、ダーキーはひどい咳の発作に襲われる(1枚目の写真)。岩の上からの俯瞰映像で、PA-28の破損の状況がよく分かる。一方、ヨハネスブルブの父の元には、事故の一報が入っていた。不時着と聞き、床に崩れるように座った父は、「どこで?」と尋ねる(2枚目の写真)。「心配なさらないで。息子さんは 生きていますよ。不時着地点はここから遠くありません」。「どこから電話を?」。「ウィンドックです。急げばボーイングに間に合います」。ウィンドック空港でタラップを降りてきた父は、係官に指令本部まで案内される。指揮をとっているのは大佐。捜索用のヘリは1時間前に出発したと伝えられる。「我々にできることは、待つことです」。そこでダーキーの年齢を訊かれ、8歳になったばかりだということが分かる。監督自らの脚本なので、恐らく実年齢なのであろう。その頃、不時着現場では、機内から目覚まし時計のけたたましい音が聞こえる。ダーキーは荷物室の扉を開けてスーツケースを取り出し、ベルを止め、薬の瓶を取り出して慎重にスプーンに入れる(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、捜索に向かったヘリからは、不時着予想地点には痕跡なしとの報告が入る。大佐は、担当係官に「ほんとに そこに落ちたのか?」と詰問すると、「『メイデイ』は7時頃、40-20区画から発信されました。彼らは、この辺りにいるはずです」と自信たっぷりに地図の一点を指す。しかし、大佐は、「分からんぞ。コースから外れたかもしれん」と楽観視を諌める。無線係は、無線が作動中との可能性を示唆し、大佐もそれに期待し、無線で呼びかけを始める。「ダーキー、こちら飛行機の無線機。私が『オーバー』と言ったら、マイクのボタンを押して話しなさい。オーバー」。いても立ってもいられない父は、途中で話すのを替わってもらう。その声に反応したのがロリ。ダーキーは誰か来ないかと、岩の上に登って辺りを見ていた。しかし、ロリが「ワンワン」吠えるので「どうしたロリ、何の用だ?」と言いつつ、降り始める(1枚目の写真)。その時、父の「ダーキー、聞こえるか?」という声が耳に入る(2枚目の写真)。ダーキーは飛び降りて、機体の残骸に駆けつけ、マイクを見つけると、ボタンを押しながら「うん、パパ、僕いるよ。聞こえる?」と叫ぶように話す(3枚目の写真)。喜びのあまり、ボタンを押しっぱなしで一方的にしゃべるので会話が成り立たない。父からの返事がないので、ようやくダーキーはボタンの存在に気付き、それからは会話が順調に進む。
  
  
  

大佐は、ヘリに、無線の声から方向を割り出すよう命じる。そして、ダーキーには、「聞きなさい。ヘリコプターが君の場所を無線から調べる。君の声を追跡するから、話し続けなさい」と頼む。ダーキーが「でも、何を言ったらいいか…」と答えると、九九を1×1から順に唱えるよう命じる。ダーキーが6×10=60まできた時、ヘリからの「残骸発見できず」「方向探知不能」の応答を得て大佐が下した結論は、①PA-28は何100マイルも逸れた可能性がある、②無線機のバッテリーが弱っているので、明日の捜索に備えて即刻マイクを切るべきだ、というもの。しかし、ダーキーはボタンを押したまま九九を唱え続けている。ダーキーは最後の12×12=144まで到達。かなりくたびれた様子だ(1枚目の写真)。そこでストップしてくれ、と念じていた大佐は、ダーキーがまた1×1に戻って唱え始めたのでがっくり。しかし、1×6=6まできて、ダーキーは「おしっこに行ってもいいですか、オーバー」と発言。大佐は、すかさず、「いいかね、ダッシュボードに赤いスイッチがある。それを切ってから機を離れなさい。そして、用を足したら、スイッチを入れて、『戻りました、オーバー』と言うこと」と事細かに指示する(2枚目の写真)。ダーキーが用を足しに行っている間、大佐は壁の地図に半径350マイル(563キロ)の円を描き、3機ではとても足らないのでプレトリアの空軍本部に応援を要請することを決める。明日の捜索には無線の電源が残っている必要があるので、父は、「暖かくして寝なさい。明日の朝はもっと多くのヘリが向かうから、発見されるだろう」「お休み、ダーク〔ダーキーの愛称〕。よく休むんだ」としか言わせてもらえない。大佐は、壁の地図を前に、現地に詳しい民間人のスミティに「子供は このどこかにいるはずだ。場所なんだ?」と尋ねる(3枚目の写真、地図に入っている円が半径350マイルの線、場所はほとんどが現在のナミビア、一番上に見えているのがエトーシャ塩湖。面積4800平方キロ=琵琶湖の7倍)。「すべてカラハリです。赤い砂漠に人間はいません。生存できる環境ではありません」。
  
  
  

辺りが暗くなった頃、部下が大佐を呼びに来る。「大佐、記者が待っています」。英語版では、大佐が父に「失礼」と言って出て行くだけだが、アフリカーンス版には記者会見の様子が入っている(1枚目の写真)。しかし、字幕がないので何を話したかは分からない。英語版では、唐突にに「父に対する記者の質問攻めのシーン」が入る(2枚目の写真)、両方を比べてみると、場所が違うことが分かる。大佐が会見を開いたのは、空港のロビーのような場所。一方、父が取材を受けたのは管制塔の中だ。「明日のヨハネスブルクのリサイタルはどうされます?」。この質問に対し、父は、「明日の朝には発見されるでしょうから、すべて正常に戻ります」と、ごく楽観的に答える。女性記者が、「もし、見つからなかったら?」と突っ込むと、「絶対、見つかります」。それに対する女性記者の質問は、「I hope that this is not a publicity stunt?(一種の 『宣伝』 じゃないですよね?)」というもの。正しい英訳なのかを含めて疑問を感じる。“publicity stunt”の意味は、人気取り、宣伝行為、売名行為。3番目のはずはないが、1・2番目にしろ、飛行機が不時着したことは大佐からすでに説明があったので、こんな礼を失した質問を女性記者が平気でするだろうか? アフリカーンス語の字幕がないので正否は分からない。百歩譲って、父親の「全く心配していない態度」にカチンときたのかもしれないが…
  
  

一方、不時着地点では、ダーキーが重ね着をしてロリを抱いて機内に座っている。すると、変な動物が寄って来るのが見える。歯を剥き出しにして唸る様子は、とても無害な獣とは思えない。しかも、取り外したドアから中に入って来ようとする。ダーキーは、叔父の銃を撃って撃退する(もちろん、当たらない)。そして、大佐からは無線を使うなと命じられていたが、マイクを取って、「パパ、けだものがいる。僕を殺そうとした! また やって来る! 助けて!」と必死に話しかける(1枚目の写真)。「どんな奴だ?」。「犬みたいだけど、斑点がある」。それを脇で耳にはさんだスミティが「そいつは卑劣なハイエナだ! 火を焚かせなさい!」と緊急にアドバイス。父から指示されたダーキーは、昼間に叔父がやったように、燃料缶から可燃液体をまいてマッチで火を点ける(2枚目の写真)。スミティは父親からハイエナのことを訊かれ、「臆あごは強力ですが、ひどく臆病です。お子さんが立ったり歩いたりしている間は寄ってきませんが、座って横になると襲いかかるでしょう」と答える。「火があれば大丈夫?」。「もちろんです。燃えている限り、近付きはしません」(3枚目の写真)。
  
  
  

枯れ枝に火を点けた焚き火ではないので、燃料がなくなれば急速に火の勢いは弱くなる。そこで、ダーキーは缶から小さくなった火に燃料を注ごうとするが、当然、火は注がれている缶に向かって燃え移り、ダーキーが慌てて缶を手放したので、大量の燃料が地面にこぼれ、めらめらと燃え上がる(1枚目の写真)。そして、流れ出た燃料を伝って火は飛行機の残骸まで延びていった。残っていた飛行機の燃料に火が点くと、機体は激しく燃え上がる(2枚目の写真)。これは重大な結果だった。無線が使えなくなったことはもちろん、赤と白の鮮明なカラーの機体が真っ黒になってしまったため、上空から発見される可能性が限りなくゼロになったのだ。先に、叔父が途中で一旦着陸し、コーヒータイムを持ったのは、ダーキーが燃料缶で焚き火をすることへの伏線にするため挿入されたものだろう。叔父の行動を見ていなければ、通常の方法で焚き火をしたはずで、それならば、機体はそれ以上損傷せず、無線も無事で、恐らく翌日には発見されたであろうから。ダーキーは、ハイエナ除けに普通の焚き火を作り、そのまま消えないよう、朝まで眠らずに頑張った(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、父は、空港の管制塔で、ダーキーからの連絡が入らないことに気をもんでいる。さすがに8時になっても連絡がないとなると、寝ているとは思えない。大佐は無線のバッテリー切れだと判断した。プレトリアの空軍基地から派遣された25機のヘリが一斉に飛び立つ(1枚目の写真)。大佐は、パイロットに目視で捜索するよう命じる。赤と白の機体だと思い込んでいたからだ。しかし、実際には機体は真っ黒で、「赤と白」との思い込みは致命的だ(2枚目の写真)。
  
  

岩の下で暑さをしのいで寝ていたダーキーは、ヘリの音に気付いたロリの吠声に起こされる(1枚目の写真)。そして、頭上にヘリが飛んでいるのを見ると、飛び出ていって「ねえ、ここだよ!」と必死で叫び、両手を振る(2枚目の写真)。ヘリの姿が岩山の向こうに消えようとするのを「戻って、ここだよ!」と追っているうち、咳の発作に襲われて地面に倒れこむ(3枚目の写真)。
  
  
  

ダーキーにとって、救助の手がすぐには来ないことが分かった今、緊急の課題は水の確保だった。そこで、近くの岩山のてっぺんまで登り、周辺を見渡す(1枚目の写真)。遠くの方に川らしきものを見つけたダーキーは、ロリに向かって、「あれ、川だと思うけど、すごく遠いな」と話しかける。一方、父は、「発見」との報告がちっとも入らないので、心配になり、大佐に「何日、生きられます?」と尋ねる。「もし、赤い砂漠に入ったら2・3日、入らなければ1週間でしょう」。ダーキーはロリと一緒に、遥かかなたの川に向かって歩き始める。持ち物が旅行用のスーツケースなので、砂漠行とはひどくミスマッチだ。もともと、叔父の農園に行くのが目的だったので仕方がないが、これではバックパックなどと違い、きわめて歩きにくく、疲労も大きいであろう。広大な荒地の中を歩いていくダーキーとロリの俯瞰撮影は迫力がある(2枚目の写真)。もう少しクローズアップした状態で測った犬の大きさと人間の身長比からみて、歩いているのは恐らくヴェイナント・エイス本人。8歳の少年にとっては、炎天下の砂漠を延々と歩かされて さぞや大変だったであろう。
  
  

やっとの思いで「川」に辿り着くと、そこには砂しかなかった。がっくりするダーキー(1枚目の写真)。生死に関わる問題だ。しかし、ロリは脇をすり抜けて「川」まで降りて行くと、前脚で砂を掘り始める。わずか数10センチ掘っただけで、底から湧き出るように水が出てくる。それを見たダーキーも急いで斜面を駈け降り(2枚目の写真、矢印の先では ロリが水を飲んでいる)、自分でも穴を掘り始める。その急ぎようから見て、喉がカラカラだと分かる。ロリの掘った穴を奪って水を飲まなかったことから、如何に心優しい少年かということも。ダーキーは、穴に顔を突っ込んで澄んだ水を飲む(3枚目の写真)。
  
  
  

突然、背後に唸り声がして振り向くと、昨夜のブチハイエナが迫ってくる(1枚目の写真)。ダーキーは、追いかけられながら必死に走り、最初に見つけた高さ10mほどのアロエ・ディコトマの木に登り、枝に絡みつくように体を支える(2枚目の写真)。ハイエナは木に登れないので、木の前に座って待つことにした(3枚目の写真)。
  
  
  

そこに、ダーキーの後を追うようにロリがやって来る。それを見たダーキーは、「ロリ、逃げろ! 戻るんだ!」と叫ぶ(1枚目の写真)。しかし、ロリに気付いたハイエナは、ロリを追って行った。その後を心配そうに見つめるダーキー。一方、管制塔では父がスミティに、「どのくらい生きられる?」と尋ねる。「心配なさらないで。生き延びますよ。生きて見つかります」。「丈夫な子じゃない」。「のたれ死になどしません。あなたに愛されていると知っているので、戻りたいと願うはずです。簡単には諦めませんよ」。その言葉通り、「川」に戻ったダーキーは、ロリが殺されたと思ってひとしきり泣いた後、生き延びるために水を防水性の布袋に入れる(2枚目の写真)。そして、それを右手で持つと、時々「ロリ」と呼びながら、広大な荒地へと歩を進めて行った(3枚目の写真。右手に水の入った袋を下げている)。
  
  
  

ダーキーの父が空港ロビーの電話でエージェントに電話しているのを、たまたま女性記者が聞いてしまう。「今夜のリサイタルはキャンセルできるか? とても行けそうにない」。「もう してるよ。他には?」。「生存に必要な事項を細かく指示したビラを作ろうと思ってる。それを、空から200万枚まいて欲しいんだ」。「200万枚?」(1枚目の写真)。「広大な場所なんだ」。「金がかかるぞ」。「いくら?」。計算の結果は1万ランド。この額の妥当性については解説に述べておいた。「工面してくれ」。「やってみる。だが、あんたの持ち物は全部売るぞ。借金は無理だ」。一方、女性記者は、ヨハネスブルグの本社上司に電話をかけて、新聞社の資金で何とか200万をまかなえないか交渉する。失礼な質問をしたことへの贖罪意識か、単なる同情かは分からない。因みに、アフリカーンス版では、エージェントへの電話の前に、女性記者が、上司と電話をするシーンが追加されている。その中で、子供が見つかった時に読者が涙するハッピーな結末と、見つからなかった場合の美しいも悲しい結末について論じている。この後者を論じたことへの罪悪感が働いたのかもしれない。電話を終えた後で、女性記者は父親の後を追い、「うちの新聞がビラの印刷を検討中よ」と伝える(2枚目の写真)。「無料で?」。「ええ」。「なぜ?」。「助けたい一心で」。「本当の理由は?」。「そうね… 発行部数の伸び」〔この口実は、女性記者が上司を説得するのに使ったもので、女性の意思は「助けたい」が本音〕。この部分に関しては、アフリカーンス版がずっと丁寧に描いている。なかり後のシーンになるが、関連があるので一緒に紹介しておくと、上司との電話の11分後に、廊下で女性記者と父親が会って、これから上司の結論が聞けると話し、その後の上司の厳しい意見は英語版にも入っている。それを受けて、ダメだったと詫びるシーン(3枚目の写真)が挿入され、最後に父親がエージェントに電話をかけて、無料印刷はダメになったと報告する(英語版も同じ)。英語版は、女性記者が大幅にカットされているので、事態が突然進み 分かりにくい。
  
  
  

さて、ダーキーの方は、お腹が空いて荒地をとぼとぼと歩いていると、岩の上にいたオオトガゲと目が合う。「怖くなんかないぞ」と強がるが、先の割れた舌を見て一目散に逃げ出す。次に見つけたのは、アカシアの枝に作られたシャカイハタオリドリの巣。カラハリ砂漠の代表的な風景の1つになっている。この体長約14センチの小さな鳥は、鳥類の中で巨大なコロニー(集団巣)を形成することで知られている。巣の中には100を超えるつがいが生息していて、卵もたっぷりある。木に登って巣の中に手を突っ込み、何とか卵を取ろうとするダーキー(1枚目の写真)。身長から推測して地上7mの枝の上に立っているわけで、1969年の時点でどのような安全策が取られているかは不明だが、本人が登っていることは確かだ。クローズアップでは、卵を口に入れ、あまりに不味いので口から吐き出している。英語版は、このハタオリドリのシーンから急に色が褪せてしまう。従って、この先はほとんどがアフリカーンス版からのスナップショットとなる〔写真の右下に「A」〕。
  
  

ダーキーは不味い卵をおいしく食べるために、石板をフライパン代わりにして目玉焼きを20個近く作る(1枚目の写真)。卵が小さいのですごくたくさんの量だ。でも、食べると(2枚目の写真)、あっという間になくなってしまう。何もない場所で生きていくのは大変なことだ。
  
  

あくる日、荒地に横になってなげいていると、遠く方でロリの吠える声が聞こえる。頭を上げると、遠くからまっしぐらにロリが駈けてくる。ここも雄大な撮影だ。ロリは点にしか見えない(1枚目の写真、矢印の先の点)。ダーキーもロリに向かって駆け出し、ロリをすくい上げたダーキーは、顔を喜びで輝かせ、「ロリ、ロリ」と抱きしめる(2枚目の写真)。「死んだと思ってた」。そして、大事な水を腹いっぱい飲ませてやる。「じゃあ、行こう。パパが心配してるからな」「お腹空いたろ。僕は、昨夜 山ほど鳥の卵を食べたんだ。お前にも何か見つけてやる」。そんなダーキーが発見したのは、砂漠でも実をつけるハンザル。食用になるかどうか分からないので、石に叩き付けて2つに割り、半分食べてみる(3枚目の写真。顔がケガと日焼けでボロボロだ)。ダーキーは、残った半分を、「悪くないぞ」と言ってロリに食べさせてやる。「あまり好みじゃなかったか? もっと美味いもの 見つけてやるからな」。
  
  
  

ロリが関心を持ったのは、小さなトカゲ。噛み付こうとするが、枝に邪魔されてうまくいかない。ダーキーは、しっぽを捕まえて逆さまにぶら下げると、「殺さなくちゃな」とつぶやく(1枚目の写真)。舌なめずりするロリ。ダーキーはトカゲを岩の上に置くと(もちろん、シッポは握ったまま)、石を取り上げて殴り殺そうとするが、3度やっても直前で手が止まってしまう(2枚目の写真)。「お前が、自分で殺すんだな」と言ってロリの顔の前に差し出すが、トカゲに指を噛まれて放してしまう。「やめよう。骨と皮だけだ」。
  
  

次なる挑戦がキノコシロアリの塚。最大高10mメートルというから、ダーキーが挑戦したのはその1/4サイズ。頂上の方は土だけで、中心部に巣室がある。ダーキーがてっぺんを何度も石で叩くと(1枚目の写真)、岩のように固かった塔がようやく崩壊する。その時、上部の「土だけの部分がきれいに落ちてくれて(2枚目の写真)、中の巣室があらわになる。さっそく手を突っ込んで捕ろうとすると(3枚目の写真)噛まれる。かなり痛いと書いてあったので、大変だろう。今度は、噛まれないように、つかんだらすぐに手のひらで揉んで、そのまま口に入れる。現地人は食用にすると書いてあったが、いくらなんでも生きたまま食べはしないだろう。ダーキーの必死さが分かるが、食べた時の顔(4枚目の写真)も「生きるために必死の顔」だ。それでも、我慢して噛み、「おいしいぞ」とロリに話しかける。
  
  
  
  

ダーキーは、両手のひらに50匹ほどシロアリを入れ、「食べろ、ロリ」と鼻先に差し出す。「食べろよ。おいしいぞ」(1枚目の写真)。しかし、どうやってもロリは口にしようとしない(2枚目の写真)。その後のシーンで、ハイエナがしつこく後をつけてくる様子が映される。
  
  

その夜のごちそうは、偶然見つけたダチョウの玉子。大きな平滑な岩の上で玉子を割る。しかし、岩全体が傾いていたため、黄身と白身が流れ始める。ダーキーは、慌てて下手に入り、潰れた黄身の一部を手ですくうと(1枚目の写真)、焼板の上に乗せる。その間に玉子の残りの部分は岩の端から落ちてしまったので、残った液を玉子の殻で受け止める(2枚目の写真)。そして、それも火にかけ、「今夜は、スクランブル・エッグだぞ」。これに味をしめたダーキーは、次の日、ダチョウの巣に近付くと、玉子を3個頂戴してスーツケースに詰めた(3枚目の写真)。
  
  
  

この間、映画では、父とスミティの会話をバックグラウンド音声に、ダーキーの映像が進行する。スミティの回答を拾ってみると、「川はすべて干上がっています。でも、表面の薄い砂の層の下に水が見つかります。いつもではありませんが」「普通の食べ物は一切ありません。でも、何でも食べないと、ここでは生き残れません。蛇も食べられます。長い棒さえあれば、それで叩き殺して食べられます。問題は、それを お子さんが知らないことです」「きっと南に向かいます。西には、赤い砂漠しかありません。確実に死にます。白い荒地には、食べ物や水があります」。そして、空からまくビラには、まず「ダーキー、心から愛してる、必ず見つける」と書いた上で、生存の方法について書くべきだと提案する。一方、ダーキーとロリは、大きな水場を見つけていた。白く濁った水しかないが、初めての大量の水だ。飛び込んで顔に水をかけるダーキー。如何にも嬉しそうだ(1枚目の写真)。そこに大きなアフリカ象が現れ、慌てて逃げ出す一幕もあったが、今度は、象がダーキーの目覚ましの音で逃げ出し、その隙に水を補給する(2枚目の写真)。
  
  

遂に200万枚のビラがヘリからまかれ始めた。広大な地域なので、ダーキーはそんなことなどつゆ知らず、岩陰で体を休めている(1枚目の写真)。サボテンにひっかかったビラが大写しにされる。アフリカーンス版なので書いてある文字は「DIRKIE/EK HET JOU BAIE LIEF/EN SAL JOU KRY」(2枚目の写真)。英語版では「DIRKIE/I LOVE YOU VERY MUCH/AND I WILL FIND YOU」。順序が逆なようだが、映画では、その後にヘリでの配布シーンがある(3枚目の写真)。
  
  
  

ダーキーにとっての深刻な問題は水の確保。ゴルジュ(水で削られた狭く深い渓谷)にぶつかったダーキーは、ひょっとして水がないかと張り出した岩の上から、石を落としてみる(1枚目の写真、矢印は落下する石)。石は途中で崖に4回ぶつかり8秒後に水に落ちる音がする。ゴルジュの底には水があるのだ! それしても、こんな危険な場所に、よく息子を立たせたものだ。足を滑らせたら命はない。スタントではない。その後、ダーキーは降りられそうな場所を探し、谷の底へと降りていく(2枚目の写真、矢印)。これもスタントではない。谷底に近付いた時、「ここで待ってろ」と命じておいたロリがダーキーの真上、ずっと上の斜面に接近し、20センチほどの石を落としてしまう。頭上から落ちてくる石を見て悲鳴を上げるダーキー。しかし、岩場の途中なので身動きできずに思わず顔をそむける(3枚目の写真、黄色の矢印がぶつかる寸前の石、空色の矢印が谷底の水面)。石の直撃を受けたダーキーはそのまま落下。幸いにも落ちた先は水面だった。水面に広がる赤い血。かなりの裂傷だったことが分かる。水面に浮上したダーキーは、「ロリ、下がれ!」と大声で命じ、腕をかばいながら何とか這い上がる。そしてしばらくダウン。元気を取り戻したダーキーは、服を裂き、ケガをした上腕部にぐるぐる巻き付けて止血する(4枚目の写真)。そして、貴重な水を確保する(5枚目の写真)。辺りは血だらけだ。ケガが如何にひどかったかが分かる。こんなケガをして、水袋まで持って、よく崖をよじ登れたものだと思う。このシーンにスミティの声が重なる。「以前、お子さんは、『丈夫な子じゃない』と言われていましたが、砂漠は人を強くするのです。極限の場所での生き方を 学んでいるでしょう。くじけなどしません」。まさに、この言葉通りのことをダーキーは実践している。
  
  
  
  
  

映画は、上空を飛ぶ報道機関のヘリのアナウンサーの声を拾う。「カート・ローレンスが お伝えします。ダーキー・デ・フリース君はまだ見つかっていません。ピアニスト、デ・フリース氏の子息が5日前の不時着で遭難し、軍は25機を超えるヘリコプターを動員して捜索しています。35万平方マイル(90万平方キロ)の地域に200万枚のビラがまかれました〔1平方キロあたりにすると 僅か2枚!〕。多くの自家用機の持ち主が、捜索に協力しています。しかし、このような広大な地域で、空から1人の少年を見つけることは ほとんど望み薄です。従って、最優先事項は不時着した飛行機の発見で、軍は多くの兵士を不時着想定地域に派遣して全力で捜索にあたっています。現時点で少年の生死は不明です」。その頃、ダーキーは、赤い砂漠に入ろうとしていた。これまでの白い荒地と違い、足を踏み入れた途端、ドンというような音が響き、ダーキーは何事かとハッとする(1枚目の写真)。しかし、足を動かす度に音が響くことから、砂が音を出しているのだと分かる(2枚目の写真)。それにしても、泣き砂というのはあるが、こんなに深く響く砂があろうとは。人間はそれで納得できても、ロリは怖くて砂に入って行けない。そこで、仕方なく左手で抱えて歩くが(3枚目の写真)、ダーキーはケガをした右手でスーツケースと水袋を持たなくてはならないので、これは大変な重労働だ。しかし、どこまで行っても砂ばかりなので、結局は引き返すことに。
  
  
  

砂丘の間を歩いていると、急に、目覚ましが鳴り出す。さっそく、スーツケースを開け、薬を飲み始める(1枚目の写真)。しかし、目覚ましの音は、しつこく跡を付けてきたハイエナにダーキーの居場所を知らせてしまう。襲いかかるハイエナを見て悲鳴を上げるダーキー(2枚目の写真)。ハイエナが襲ったのはダーキーではなくロリだった。ロリを咥えて逃げようとするハイエナに向かって、ダーキーはケースの中のものを投げつけて追い払う。しかし、胴体を噛み付かれたロリは重傷を負って歩けなくなってしまう。ダーキーはロリを優しく抱き上げてやる(3枚目の写真)。そして、ロリの胴体に包帯を巻きながら、「明日は、きっと発見されるよ。そしたら、お医者に行って治してもらえる。心配するな、助けてやるから。パパが見たら喜ぶぞ」と慰める。
  
  
  

状況は最悪になっていく。腕をケガしたダーキーには、スーツケースとロリの両方を持って行く力は残っていない。そこで、スーツケースは捨てて、ロリを抱えて荒地を彷徨うことに(1枚目の写真)。くたびれ果てて、ロリを抱いたまま座り込み、「もう、見つけてもらえないな」と話しかける。その時、砂に半分埋もれたビラを見つける。上1/3しかないが、「愛している」の部分だけははっきりと分かる。ビラを見ながらすすり泣くダーキー(2枚目の写真)。その後、カメラはどんどん引いていってダーキーの姿が点になる(3枚目の写真、矢印)。もう絶望的な状況だ。
  
  
  

ダーキーは、破れてなくなったビラがどこかにないかと捜し始める。少し斜面を上がってロリの方を振り向くと、蛇がロリの間近に迫っている(2枚目の写真)。ダーキーは叫び声を上げて戻り、ロリを抱き上げる。蛇に向かって大きく見開かれたダーキーの目(3枚目の写真)。その目にドクハキコブラの毒液が飛ぶ。ドクハキコブラは、資料に、敵の目をめがけて2.5メートルまで正確に毒液を飛ばすとあるので、ダーキーの左目が直撃されても不思議はない。激痛のあまり、ダーキーは両手で顔を押さえたまま地面に倒れ込む(4枚目の写真)。
  
  
  
  

しばらくして、ダーキーは、片目が開かない状態で、ロリを抱き、「お父さんは僕を愛してる。だから見つけてくれる」とおまじないのようにくり返しながら、1つところをぐるぐると回っている(1・2枚目の写真)。どうも、正常な精神状態とは思えない。この1周ルートにサソリが這い出てきて、ダーキーの足が近くを通った時、靴の上の靴下の部分を刺す(3枚目の写真、矢印)。ダーキーの顔が苦痛にゆがみ(4枚目の写真)、そのまま仰向けに倒れて意識を失ってしまう。
  
  
  
  

倒れたままのダーキーに向かって、今度は安心してハイエナが近づいてくる(1枚目の写真、矢印の先がハイエナ)。まさに、絶体絶命の状況だ。よくここまで最悪の状態を考えたと思う。ダーキーの上には、ハゲタカの一群が渦状に舞っている(2枚目の写真)。このハゲタカを見たブッシュマン〔現在の正式名称はサン人、カラハリ砂漠に住む狩猟採集民族〕が、食料が得られる可能性を求めてやってくる。ブッシュマンはダーキーとハイエナの両方に気付き、ハイエナを石で追っ払い、ダーキーを救い上げると(3枚目の写真)、近くに設営した狩猟用の仮住居に運び込む。因みに、2枚目の写真に「E」印が付いているのは、アフリカーンス版にはないシーンだから。この部分がないと、なぜブッシュマンがダーキーの存在を知ったのか分からないので、アフリカーンス版に入っていないのは手落ちだと思う。
  
  
  

ブッシュマンはダーキーを抱き上げた時にサソリを見ているので、まず、靴を脱がせると、火でサソリの刺した箇所を焼く(1枚目の写真)。次いで、息子に掘ってこさせた芋のようなものを潰し、口に入れて唾液でしとらせてからダーキーの目に貼り付け、その上から樹皮のようなもので覆う(2枚目の写真)。腕の落石の傷にも同じ薬を塗りつける(3枚目の写真)。ブッシュマンの伝統的な治療法に関する情報が得られなかったので、この部分の記述には正確さが欠けていることをお断りしておく。
  
  
  

飛行機の不時着から1週間が経ち、エージェントからは「いつ戻って来る?」との督促の電話が入る。「あと数日欲しい」。「分かった。3日待とう」。次のシーンは、ダーキーが、意識不明のまま寝ているのを、ブッシュマンの子が心配そうに見ている場面。その後で、場面はまた空港に戻り、父が大佐に「ヘリコプターはどこだ?」と詰問するシーンへ。「プレトリアに戻した」。「捜索をやめちゃダメだ!」。「この基地の3機は 毎日飛ばす」。「それじゃ見つけられない」。「あなたの息子は、砂漠に2週間いる。もう死んでる」〔エージェントとの電話から1週間が経過したことが分かる〕。「そんな」。「残酷だが、息子の死を受け入れるべきだ。家に帰って 忘れなさい」。ブッシュマンの住居では、子供がダーキーの目の薬を取り除いている。そして、ハンザルの汁を飲ませている。これは意識があることを示している。そして、遂に、ダーキーが体を起こす。目はきれいに治り、長い間日陰にいたせいか、顔もきれいになっている(1枚目の写真)。気配を察したブッシュマンは、食べていた手を休め、石板に置いてあった小動物の骨付きモモ肉のローストのようなものをダーキーに渡してやる。「ありがとう」と受け取り(2枚目の写真)、かぶりついたダーキーだったが、呼んでもロリがいないので、自分が食べているのがロリだと思い込んでしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

愛犬を焼かれて、自分もそれを食べてしまった〔と勘違いした〕ことにショックを受けたダーキーは、大声で「イヤだ!」と叫ぶと(1枚目の写真)、何事かと寄ってきたブッシュマンに「あっち行け、近寄るな!」と怒鳴り、木の隙間から住居の外へと逃げ出す。そして、近寄ろうとするブッシュマンに、「近寄るな!」と石を投げつける(2枚目の写真、赤い円の中に投げた石が写っている)。これも確認できなかったが、ブッシュマンにとっての最大のタブーの1つは、人間が人間に向かって石を投げることらしい。そのようなことをする人間には悪魔が乗り移っているとみなし、忌避の対象となる〔映画の設定〕。そこで、怒ったブッシュマンは、悪魔憑きを看病して穢れてしまった住居に火を点け、去って行く(3枚目の写真)。ダーキーは、住居の裏の丘の上にいたロリを見つけ、ブッシュマンに向かって、「ここにいたよ! 子犬を産んだんだ! 見に来てよ!」と叫ぶが、小屋に火が点けられ2人が去って行くのを見てびっくり。「ねえ、待って! 置いてかないで!」(4枚目の写真)と叫ぶが後の祭り。ダーキーがブッシュマンに親切にされたことは事実だが、不幸にして、ダーキーが目覚めた時には、自分が受けた恩についての記憶は全くなかった(ずっと、意識不明だった)。それに、言葉が通じない同士での誤解と、ダーキーの過剰反応〔石を投げたのは、明らかに行き過ぎ〕が重なり、不幸な結果を招いてしまった。
  
  
  
  

ロリを抱いて2人の後を追うダーキー(1枚目の写真)。しかし、相手は待ってなどくれない。何せ、ダーキーは「悪魔憑き」なのだから。そこで、しつこく後を追ってくるダーキーに向かい、逆に石を投げて警告する(2枚目の写真)。それでも、ダーキーは「そんな、お願い!」(3枚目の写真)とすがるように叫ぶ。
  
  
  

最初30メートルほどだった双方の距離は、どんどん拡がっていく。ダーキーのサソリに刺された方の足は、治療された時のまま裸足だし、ロリを抱いている分 重いからだ。赤い砂漠の砂丘の上を歩いて行く3人のシーン(1枚目の写真)は、絶望感を感じさせ、とても印象的だ。病み上がりの状態で、空腹状態、しかも灼熱、重いロリを抱え、ダーキーは必死の思いで,砂丘を登る(2枚目の写真)。しかし、やがて体力は限界に達し、意識が朦朧として(3枚目の写真)、遂には気を失って砂丘の斜面に倒れ込んでしまう(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ブッシュマンの父親が休息を取って寝ている間に、ダーキーを心配した子供がこっそり戻り、ハンザルの実を口に当ててやるが、意識がないので飲んでいるようには見えない。その時、父親が現われたので(1枚目の写真)、この「親切な救援」も助けにはならなかった。ダーキーは、そのまま半分に砂に埋もれ、死を待つだけの身となった(2枚目の写真)。落石、毒蛇、サソリの後に、こんな悲劇にみまわれようとは、最初観ていて信じられなかった。
  
  

一方、軍は、ようやく不時着した機体を発見する。急報を耳にした父も、スミティと一緒に現地に駆けつける(1枚目の写真)。大佐たちは、すでに捜索に出発していたが、捜索範囲から赤い砂漠は除外されていた。しかし、同行したスミティは、今までの自分の推測は間違っていて、少年は赤い砂漠にいるに違いないと思い、ジープで赤い砂漠に直行する。そして、ブッシュマンを見つけると、「彼らと話さないと。お子さんを見たか、足跡を見たかも」とジープで乗り付ける。訊いた結果は(2枚目の写真)、「少年を見たと言ってます。一昨日です」。父が「まだ、生きていた?」。「少年は 生きていたそうです。そこに残してきた。少年は怒っていたと。それは、悪霊に取り憑かれていたからだとも」。「だが、子供を見捨てて死なせるなんて」。「石を投げたそうです。人に石を投げるのは大きなタブーで…」。「どこに子供がいるか教えてくれたら、大金をやると言ってくれ」。「拒絶しました。子供には 二度と近付きたくないそうです」。「じゃあ、子供を見た近くまで連れて行って欲しいと頼んでくれ」。ブッシュマンはOKする。ジープでは砂丘は登れないので、スミティがジープで砂丘を迂回し、父が徒歩でブッシュマンと同行することになった。スミティは拳銃を渡し、見つけたら、それで合図するよう言う。そして、父は、ブッシュマンと一緒に砂丘へと向かう(3枚目の写真)。
  
  
  

ブッシュマンは途中で忽然と姿を消したが、父は、ロリの鳴き声でダーキーを発見することができた(1枚目の写真)。生存の確認は2日前なので、死を覚悟して「ダーク」と呼びかけると、ダーキーが薄っすらと目を開けた(2枚目の写真)。すごい生命力だ。父は、「生きてるぞ!」と叫んで、ダーキーを抱き上げると、砂丘のてっぺんまで登り、周囲を見渡して拳銃を撃つが ジープの気配はない。父は、下にいたロリを連れて来ると、ダーキーと一緒に抱え上げ、スミティの名を呼びながら砂丘の背を歩いて行く(3枚目の写真)。これが英語版のラストシーン。アフリカーンス版では、最後の部分のフィルムが欠損しているため詳しい事情は分からないが、女性新聞記者がキャンピングトレーラーを付けた普通自動車で砂漠までやってきて、拳銃の音を聞き、砂丘の上まで駆けつけるという設定になっている(4枚目の写真)。この女性、最初のきつい質問とは裏腹に、途中から父に対して非常に同情的になるので、この最後のシーンは、ひょっとしたら、2人が結婚することを暗示しているのかもしれない〔ダーキーの母は亡くなっている〕。
  
  
  
  

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