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Drevo ザ・ツリー/3人の物語

スロベニア映画 (2014)

映画紹介の前に、ちょっと脱線させてもらいます。スロベニア映画など滅多にないので… スロベニアには、ヨーロッパ・アルプスの最東端が聳えています。そこのプリサンクという山に昔登ったことがあります。1枚目の写真右は、山頂(↓)を目前にした尾根道。1枚目の写真左は、そこまでいく途中にある有名な「穴」です。この山を下から撮った写真が2枚目で、先ほどの「穴」は、小さな点になっています。青い矢印が歩いたコースです。左の峰の方が高そうですが、手前にあるので高く見えるだけで、この山は独立峰です。最初1人で登っていたら、途中で地元の5人のグループが一緒に行った方がいいと誘ってくれたので、仲良く同行しました。

さて、本題に戻ろう。この映画は、1本の大きな木で起きる惨劇によって一変してしまう家族の姿を、9歳のヴェリ(Veli)、母のミレナ(Milena)、高校生の兄アレク(Alek)の視点から描いた一種の3部作。以前紹介したギリシャ映画『Kleftis i I pragmatikotita(盗人か空蝉か/宿命と偶然と自由意志)』では、同じ3人の視点でも、同じものを別の視点から描いたものだった。この映画は、そうではなく、3人の視点の時系列がズレている。最初に登場するヴェリの視点は、「事故」が起きてから数日後から6日間の状況を描いたもの。ヴェリは、家の中にいるか、白い壁で囲まれた長方形の何もない空間の中に行動を制限され、外に出ることが許されない。事情が全く分からないし、会話がほとんどないので、状況は謎に包まれている。2番目に登場するミレナの視点は、事故が起きる前の幸せだった時から事故が起き、その結果、復讐が言い渡されるまでを描く。なぜ、ヴェリがどこにも出かけられないかがよく分かる。両者が逆転しているところが、この映画の面白さ。そして、最後に当事者アレクの視点。内容は、ヴェリの6日目から引き継いでいる。6日目は、消える前の火が一瞬きらめくように楽しいが、その後はアレクが事故の張本人だっただけに 暗く絶望的になり、最後は運命に自らを委ねるところで終わる。ストーリーを最初から最後まで順に描いていれば、何の変哲もない映画になっていたかもしれない。それが、順番を②→①→③と変えたことで映画が俄然面白くなる。それぞれのパートごとに、視点が変わるのも面白いし、カメラの長回しも生きている。なお、映画の仮邦題は、最初、「Drevo」の意味する「木」に拘ったが、英訳題名「The Tree」の方が通じやすいと思って変更した。

ストーリーそのものは非常に単純。時系列的に概説すると、父に先立たれた一家3人が、墓参する場面から始まる。9歳間近のヴェリと大人の手前にいる兄のアレクは、とても仲がいい。このアレクには、同じ年頃のドリタンという、切っても切れないような友達がいて、さらに、その妹リリとは恋人同士でもあった。しかし、ある日、2人の友達は、いつも登る大木で話し合っていた時、ちょっとした手違いでドリタンが足を滑らせ、運悪く石に頭をぶつけて死んでしまう。ドリタンの兄は怒ると歯止めのきかない人物で、アレクに罪はなくても、復讐を誓う。復讐の相手は、アレク本人でも、まだ小さいヴェリでもいい。これを聞いた母は、2人を外出禁止にする。兄アレクは当事者なので理由を知っているが、ヴェリは何も知らされないまま、狭い空間に閉じ込められる。カメラは、ヴェリのつまらない日常を6日間にわたって克明に描く。その6日が終わると、事態が動き始める。アレクは、リリとこっそり会い愛情を確認した後、より大胆な行動に出て、撃たれて死ぬ。これだけの単純で、かつ、非常に不条理な話だが、映画の構成を3つに分け、順序を入れ替えることで、不思議な印象を与える作品に仕上がった。

9歳のヴェリ役はLukas Matija Rosas Uršič。彼に対する情報は一切ない。Pronouncekiwiには、スロベニア語が入っていないので、どう発音するかも分からない。ヴェリの物語は、30分33秒〔ミレナは30分11秒、アレクは25分3秒〕と最も長く、他のパートにもよく出てくるので、台詞は少ないが、一番印象に残る。最初のヴェリの物語では、笑顔を一切見せない。事件の起きる前〔ミレナの物語の冒頭〕と、遅れた誕生日のシーン〔アレクの物語の冒頭〕で観られる笑顔が新鮮だ。


あらすじ

映画の冒頭、大きな木が映る(1枚目の写真)。これが物語の行方を左右する悲劇の起きる場所だ。この木とともに、太鼓を叩く音が入り、裸足でこぐ子供用自転車の映像に変わり、ヴェリの鼻歌が聴こえてくる。なぜか、日本調のメロディだ(→ここをクリックすれば冒頭の音楽が聴ける〔最後の方で、子供たちの笑い声が聴こえるが、ここにはヴェリしかいない/映画の中で歌っているのではなく、楽しかった当時を思い出している〕。しばらくすると、ようやく顔が映る(2枚目の写真)。それでも、どんな所を走っているのか見当がつかない〔背景は常に白〕。主演の3人の名前が表示されると カメラはヴェリを追うのをやめ、コンクリートの壁を写しながらゆっくりと回転する。カメラの前を3回ヴェリが過(よ)ぎるので、狭い場所を回りながら自転車をこいでいることが分かる。そして、題名が表示される、4度目に過ぎると同時に、俯瞰撮影に変わり、彼が細長い長方形の空間を回っていたと判明する(3枚目の写真、矢印は小鳥の死骸)。この空間の、手間左側にヴェリの家があり、その中央が迫り出して玄関になっていて、先端に茶色の木のドアがついている。その他の3方のコンクリート(あるいは、煉瓦壁の上に漆喰を塗ったもの)は塀で、外界とを仕切っている。外界と通じているのは、玄関ドアの正面にある青く塗られた頑丈な鉄扉(3枚目の写真の右端)。他に、この空間にあるものは、玄関の右脇にある簡単な木のイス、玄関の左側の塀の一部に設けられた簡単な庇(その下が物置き場になっている)と、そのそばにいる1頭の白い山羊。その反対側の壁の真ん中には切り株の上に小さな鉢が置かれている(3枚目の写真の左上)。
  

ヴェリは、回遊ルートから外れた中央に小鳥の死骸のあるのに気付き、自転車から降りて、何があるのか見てみる(1枚目の写真)。そして、家の中に入って行き、ハンカチくらいの大きさの白い布を持って来る。それを地面に拡げて置くと、鳥をつついて死んでいることを確かめ、そっと手に取る(2枚目の写真)。そして、布の上に仰向けに置くと、布を四つ折りにしてたたむ。死骸を持って、植木鉢の横に行くと、地面を手で掘って浅い窪みを作り(3枚目の写真)、そこに布ごと入れて、土を被せて小丘にし、上に指で十字を描く。
  

ここで、「VELI」というサブタイトルが入るが、場面は連続している。ヴェリのシーンでは1日目にあたる。ヴェリは家の中に入って行く。兄とは部屋が同じ。ヴェリは、兄のベッドの上に飛び乗り、窓に近寄る(1枚目の写真、右側がヴェリのベッド)。ヴェリが、持ってきた枯れ枝でカーテンの下部を少し開けると、兄は「カーテンに触るな」と注意する。ヴェリは兄を見るが(2枚目の写真)、カーテンは開けたまま。「窓から離れろ」。なぜ、薄暗いのに、カーテンが閉めておくのか、なぜ窓辺に立ってはいけないのか、観客には分からない。ヴェリは、言われた通り窓から離れると、自分のベッドに横になる(3枚目の写真)。
  

すると、外で、モーターの音が聞こえる。母のバイクの音だと分かるので、ヴェリが真っ先に飛び出て行き、青い鉄扉の錠を外そうとジャンプするが届かない(1枚目の写真、錠は扉の一番上)。兄は、「家に入ってろ」と言い、ヴェリがいなくなると錠を開ける。えらく慎重だ。鉄扉の隙間から母がバイクを押して入り、鉄扉が閉まるとヴェリが母のそばに寄ってくる。「僕の水鉄砲どこ?」。「他のもの、買ってきたわ」。「何なの?」。母は買い物籠を持って家に入る(2枚目の写真)。母が買ってきたのはコマ。ヴェリは、さっそく地面の上でコマを回して遊び始める(3枚目の写真)。母は、家の中から、じっとその様子を見ている。
  

夜になり、ヴェリは、コマの上面の平らな部分に青い絵の具で模様を描いている。母が寄って来て、「見せて」と言うので、コマを渡す(1枚目の写真、矢印はコマ)。ヴェリが筆をコップの水に入れると、水が一気に空色になる(2枚目の写真)。ヴェリを演じているLukasの「めぢから」は、2つ前のシーンでも感じたが、すごく印象的。そして、夜になり、眠る。いつの段階で顔に絵の具を塗ったのかは分からないが、朝起きたヴェリの顔は青く斑(まだら)になっている。玄関を開けて外に出ると、絵の具のついた手で山羊の白い毛を撫でるので、背中の毛の一部が青くなる。ヴェリは、縞模様の織り布を持って来て、背中にかけてやる(3枚目の写真、矢印は最も青が濃い部分。青は、その右にも拡がっている、ヴェリのズボンのポケットには吹き矢ようの筒が突っ込んである)。
  

ヴェリは手を洗うと、壁から6歩離れ(1枚目の写真)、吹き矢の筒を取りだすと、中に白く柔らかい玉を詰め、壁に描いた同心円に向かって何個も吹き付ける(2枚目の写真、矢印は玉の軌跡)。全部吹き終わると、壁にくっついた玉を地面に落としながら個数を数える(3枚目の写真、矢印の先は白い玉の1つ)。その間、母も兄もベッドで寝ている。
  

ヴェリは、何とか青い鉄扉のロックを外そうと、棒で回そうとするが、滑って動かない。そこで、切り株の上に、斧で割る前の別の切り株を置き、その上に乗って、壁の上に手をかける。最初は、後から乗せた切り株が倒れ、指をケガし、口に入れて傷口を舐めて消毒する(1枚目の写真)。2度目はうまくいき、塀の上にしゃがんで座り、外を眺める。すると、危険な行為に気付いた母が飛んできて、後ろに引き込む(2枚目の写真)。地面に落ちた吹き矢の筒を拾った兄に、ヴェリは、「それ、返すつもりだった」と言う。「返せなんて言ったか?」。母は、「さあ、中に入るわよ」とヴェリを家の中に連れて行く。真っ先に向かったのは、洗面で、ヴェリの顔の絵の具を洗い落す(3枚目の写真)。「シャツを着てらっしゃい」。
  

ヴェリは自分の部屋にいき、シャツを出して着るが、前後ろ反対だったことが分かり、脱がずに、頭と手をシャツの中に入れて回転させる(1枚目の写真)。その頃、兄は、ヴェリが壁に登るのにつかった切り株を2つとも斧で叩き割る〔植木鉢の台はなくなった〕。二度と危険な目に遭わせないようにするためだ。その日の夜、ヴェリは母のベッドに行く。母の横に入ったヴェリに、母は、「なぜ、眠らないの?」と訊く。「お腹が空いた」。「キッチンに行って何か探しましょ」。「もうやった」(2枚目の写真)。ヴェリ:「お話ししてあげようか?」。「いいわよ」。ここで、ヴェリは顔の向きを変えて母の方を見る。「広い原っぱの真ん中に家が建ってた。その家は、何年も何年もずーっと建ってた。その家に、1人の男の子が住んでた。その子は、数えられるものは何でも数えた。1、2、3って。毎日、朝から晩まで。その子は、時間の経つのが分からなくなった。だから、それを見つけだそうとした」。これは、自分のこと。家に閉じ込められて、どこにも出してもらえないことへの鬱憤を語ったものだ。それが分かった母の目からは涙が溢れる(3枚目の写真)。母、何も言わずに電気を消す。
  

3日目。朝。バラバラになった切り株を見たヴェリは、いつもの強い目で兄を見るが、兄は吹き矢に専念してヴェリを見ようとしない。そこで、ヴェリは兄の横に座り(1枚目の写真)、「ナイフ、貸してよ」と頼む。「俺も使うんだ。ナイフなんかどうする?」。「小枝を切る」。兄は、「気をつけるんだぞ」と言ってナイフを貸してやる(2枚目の写真、矢印はナイフ)。ヴェリは、さっそく鉢植えの半ば枯れた枝を1本切り取ると、乾燥しきった地面をナイフで突いて穴を開け、そこに挿そうとする(3枚目の写真、矢印は葉の数枚ついた枝)。ナイフが刺さった周辺にも、枯れた枝が何本も挿してある。その夜、真っ暗な中で、ヴェリは兄に、「パパは、ボクの森〔森というのは、地面に挿した4・5本の枯れ枝のことか?〕気に入ったと思う? 伸びるの待ちきれないよ。ドリタン どうしてるかな? パパと一緒かな?」〔この 唐突に出された 「ドリタン」 という名前には大きな意味がある〕。兄は何も言わない。「眠ったの?」。返事はない。
  

4日目。母は 亡くなって以来しまってあった夫の服を衣装ダンスに戻している。それを見ていたヴェリは(1枚目の写真)、「なぜ、服をタンスに戻すの?」と尋ねる。「こうしておけば、ここを出る時に きれいになってるでしょ」。「二度と出られなかったら?」。「すぐに出られるわ」。「パーティ〔ヴェリの誕生祝いの会〕の時は、ちゃんとした服着るの?」。「そうよ」。「今日は何曜日?」。「金曜日よ」。「何日?」。母は、夫の真っ白なYシャツを丁寧にハンガーにかけることで、返事をはぐらかす。ヴェリは、がっかりしてその場を離れる。その夜、悪い夢を見たヴェリは、ベッドから起きてキッチンに行くと、電気が点いている。ドアの隙間から覗くと(2枚目の写真)、そこには母と兄がいた。母:「彼らに話を付けられような人、誰かいないかしら?」。兄は、それには答えず、絶望的に壁を叩く。そして、母の隣に座ると、頭を抱える(3枚目の写真)。ヴェリは、怖くなってベッドに逃げ帰る。母と兄に、何か重大なことが起きている。ヴェリは、この時、初めてそれを知った。
  

5日目。ヴェリは、ベッドのヘッドボードの木の柵を、ナイフで削りながら(1枚目の写真)、「なぜ、何もしないの?」と兄に尋ねる(2枚目の写真)。「何のことだ?」。「この変なゲームだよ。くだらない砦に隠れてるだけじゃない。塀の外側に攻めてったら、どうかな?」。「いいか、お前は外に出られない。出たら、ゲームは終わりだ」(3枚目の写真)。「ゲームなんかどうだっていい。木に登りたいよ」。「後で、登れる」。「いつ?」。返事はない。「いつなの?」。返事はない。
  

ヴェリは、母の部屋のタンスの中を捜し、その後、大きな袋の中を捜し、ようやく日記帳〔母の〕をみつける(1枚目の写真、矢印)。そこのカレンダーのページを開くと、21日のところに、丸印が付けられ“veli”と書いてある〔4日目に 母はパーティは金曜と言っていた。21日の枠は右から2つ目なので、金曜日なのだろう。ということは、今は5日目なので、誕生日を過ぎてしまったことになる〕。ヴェリの行為を見つけた兄は、「何したんだ?」と咎めるように訊く。ヴェリは、「何したんだ?!」と怒って叫ぶと、玄関から飛び出し、青い鉄扉から出ようとドアノブをつかむが、兄に引き戻される(2枚目の写真)。騒ぎを聞いて飛んできた母は、暴れるヴェリを兄から引き剥がす。ヴェリは、今度は母に向かって、「嘘つき!」と怒鳴る。「何を言ってるの?」〔一杯嘘を付いてきたので、どの「嘘」か分からない〕。「パーティなんかないんだ! ケーキだって!」(3枚目の写真)。「ヴェリ、パーティはやるわ。最高のケーキも作ってあげる」。「僕、もう9歳なんだ!」。
  

夜になり、兄が、ベッドに入ろうとしていると、既にベッドで寝ていたヴェリが、「兄ちゃん」と声をかける。「何だ?」。「お話、読んでくれる?」。「なぜ、自分で読まない?」。「聴いてる方がいい」。「無精だな」。「そんなんじゃない。読んでくれてると 気持ちいいんだ」(1枚目の写真)。こう言われては、兄も読まざるをえない。絵本を渡してもらって読み始めると(2枚目の写真)、「初めからじゃない。戦いのトコからだ」と リクエストが入る(3枚目の写真)。兄は、戦闘の場面を探し、そこから読み始める。
  

6日目。ヴェリのパートの最後の日。母は、出かける用意をし、兄が青い鉄扉を開け(1枚目の写真)、母がバイクを出すと、すぐに閉める。しばらく経ち、兄は玄関で本を読み、ヴェリは山羊から少し離れたところで塀にもたれて座っている(2枚目の写真、矢印は山羊の背に残っている青い絵の具)。兄は、本を読みながら眠ってしまい、ヴェリは立ち上がると、塀を指で触りながら歩き始める。次のシーンでは、ヴェリが、穴から外を覗いている(3枚目の写真)。塀がこんなに薄いはずはないので、この箇所がどこにあるかは分からない。
  

兄が眠っていると、帰ってきた母が揺すって起こし、「ヴェリはどこ?」と訊く。母は、青い鉄扉から外に捜しに行く。兄が塀の隅で心配して待っていると、外で、銃声が響く。しばらくすると、鉄扉が開き、母がヴェリを抱いて中に入って来る(1枚目の写真、矢印は腕についた血)。ヴェリに異常はない(2枚目の写真)。母は、そのままヴェリを抱いて家の中に入って行く。それを見ながら、兄は、自分が眠ってしまったことを後悔する。兄は、母と2人だけになると、腕についた血に触り、申し訳なさそうに悲しむ(3枚目の写真、矢印)。この間、台詞は一切ないので、一体何が起きたのか? 銃声は何だったのか? 血はケガなのか、付いているだけなのか、全く分からない。
  

ここで、「MILENA」というサブタイトルが入る。ここからは、母ミレナの物語となる。母が、町の公衆電話から祖母に電話をかけている。一方、ヴェリは町角でアイスクリームを食べている。兄が店から出てきて、「さあ、戻るぞ」と声をかける。返事がないので、「お前、石になったのか?」と訊き(1枚目の写真)、もう一度「行くぞ」と声をかける。ヴェリは、「おんぶ」と頼む。次のシーンでは、ヴェリを背負った兄が、歩道を走っている。兄は、走りながらくるくると回り、ヴェリを喜ばせる(2枚目の写真)。2人が着いた場所には、母と、もう一人、兄と世代の少女リリがいる(3枚目の写真)。
  

母はヴェリと並んで歩道を歩き、その後を兄とリリが並んで歩く。結構長いシーンだが台詞はゼロ。しかし、表情から2人は恋人同士だと推測できる(1枚目の写真)。4人はタクシーに乗る。後部座席には、兄とリリが座り、真ん中でヴェリがウトウトしている(2枚目の写真)。やがて、ヴェリは、兄の膝の上に頭を乗せて眠ってしまう。リリは、リストバンドを兄にプレゼントし(3枚目の写真、矢印)、兄は、受け取ってリリの手を握る。その後、リリがいつタクシーを降りたのかは分からない。
  

母は夫の墓石に、ペットボトルの水をかけ、愛しむように石を洗う。後方では、兄とヴェリがそれを見ている(1枚目の写真、矢印はペットボトル)。兄とヴェリは近くの池に行く。ヴェリは空になったペットボトルの底に池の水を少し入ると、兄が、蓋をして紐をくくりつける(2枚目の写真)。そして、池に投げ込む。2人は、小石を投げて、幾つ当るかを競う(3枚目の写真)。その夜、母は、夫の愛用していた服を 自分の体に被せると、生きていた頃を想って悲しみに耽(ふけ)る。
  

別の日〔翌日かもしれないし、もっと後かもしれない〕、兄アレクが同い年の友達と田舎道で話している。アレク:「2ヶ月だけだと思ってた。だが、今は違う。ずっとそこ〔祖母の家?〕にいるかも」。友達:「『いる』って、どういうことだ?」。「引っ越すんだ」。「そんなこと、よくできるな?」。「父さんが死んだから、その方がいいと母さんは考えてる。だから、一人じゃここに残れない」。「『一人』? 俺がいるじゃないか。なぜ、母さんとヴェリだけ行かせない?」。「そんなこと、母さんが許さない」。「何て意気地なしだ。いつも言いなりじゃないか。赤ん坊みたいになるな。ヴェリじゃないんだぞ」(1枚目の写真)。「分からないのか? 2人だけで行かせられない」。この時、兄を追って必死で自転車をこいできたヴェリが、「お兄ちゃん!」と叫ぶ(2枚目の写真)。兄は、ヴェリの前まで行くと、「何だ、ヴェリ。靴下だけで外に出ないって約束だろ。ベッドが砂だらけになるじゃないか。すぐ戻れ」と叱る〔ヴェリは、靴下だけ履いて自転車をこいできた〕。ヴェリは、恨めしそうに帰っていく(3枚目の写真)。
  

兄と友達は、大好きな大木に向かって走って行く。そして、2人とも、木に登り(1枚目の写真)、太い枝に寝そべる。再び会話が始まる。友達は、自慢げにライターを取り出す。「見てみろ。兄貴が、必死で探してた奴だ」。受け取ったアレクは、「殺されちまうぞ」と冗談を言う。「殺す? 俺を? お前とリリのことしゃべったら、お前こそ あの世行きだ。兄貴のことは知ってるだろ。怒ると、狂った動物みたいになるんだ」。「もう、何でもない」。「何がだ?」。「リリとの関係」。「お前は、いつか ここに戻ってくる。その時、別の彼女を連れてくる気か? お前の親爺さんみたいに。いいか、今話してるのは、俺の妹のことなんだ。お前には2つの道しかない。真剣になるか、忘れちまうかだ」。こう言いながら、友達は、枝の上を歩いてアレクに近づき(2枚目の写真)、アレクの手をつかむ。アレクは、嫌がって手を引き抜くが、それによってバランスを崩した友達は木から落ちる(3枚目の写真)。アレクが急いで木を降りると、友達は石で頭を打ち、血を流して死んでいた。アレクが友達の家に知らせに行き、10人ほどが木の下に集まる。家に帰ったアレクに、母は、「話してちょうだい。何があったの?」と尋ねる。長い沈黙が続く。「彼が落ちたの?」。再び長い沈黙。夜になり、母は、2人を自分のベッドに連れてくる。しかし、アレクは、母の顔を見ないよう、背を向けて寝る。
  

翌朝。母は喪服を着て1人で家を後にする。その後の、時間の経過がよく分からない。次のシーンは、日中、家の外でヴェリが両手で望遠鏡を作って母を見ていると(1枚目の写真)、その前を11人の葬儀参加者が通っていく(2枚目の写真、矢印は母、先頭の4人が映っている)。母は、その列の最後尾についた。次のシーンでは、帰宅して着替えた母が、タオルで涙を拭っている。寄ってきたアレクを優しく見つめると、アレクはバスタブの端に座る。母:「向こうには、あなたが押したんじゃないって、話したわ。でも、復讐するんだって、言われた。外には出ないで。2人とも」(3枚目の写真)。「そんなこと できっこない。俺たちを殺すだなんて。事故だったんだ。それに、なぜヴェリなんだ? ぜんぜん関係ないじゃないか」。「あなたの弟よ」。
  

夕方になり、母はヴェリを呼び、「よく聞きなさい。外には出ちゃダメ。町まで連れて行ってくれる自動車が来るまで、家の中にいるのよ」と話す(1枚目の写真)。「いつ来るの?」。「すぐよ」。真っ暗になると、3人は、出かける用意をして、玄関で車の来るのを待っている。塀の外で、クラクションが鳴らされる。母が青い鉄扉を開けて塀の外に出ると、10メールほど離れた場所に車が停まっている。母は、鉄扉の前まで車を寄せるよう頼むが、その時、警告の銃声が響く(2枚目の写真)。運転手は、「旦那は家にいるのかね?」と訊き、母が、「死んだわ」と答えると、「家には誰が?」と訊き返す。「子供たちよ。息子が2人」。それを聞いた運転手は、「悪いが、これは、あんた達の問題だ」と言うと、車に乗って逃げてしまう。母は、鉄扉の脇に置いてあったヴェリの自転車を中に持ち込むと、鉄扉をロックする。そして、2人を家の中に戻す。部屋に行こうとするヴェリを呼び止め、「今夜は、もう行かない。他のタクシーを待ちましょ」と告げる(3枚目の写真)。
  

兄アレクは、まだ玄関のところにいた。母は、「あなたのせいじゃない」と慰める。アレクは「ここに一人で暮らしてもいい」と言うが、母がいてこそ、食料が買いに行けるので、母は即座に却下する。「それじゃ、解決にならないわ」(1枚目の写真)。母は、わざとシーツをはがしたベッドの上で一晩考えると(2枚目の写真)、家をそっと抜け出し、事故のあった大木に向かう(3枚目の写真)。木の太い幹には、「ドリタン/アレク」と彫ってある。これで、死んだアレクの友人の名前がドリタンだと判明する。そして、ヴェリが、「ドリタン どうしてるかな? パパと一緒かな?」と兄に言った時、ドリタンの死だけは知らされていたことも分かる。母は、幹を擦り、ある意味、憎たらしいその彫り込みを消してしまう。このあと、「VELI」の物語につながっていく。
  

そして、「ALEK」のサブタイトルが入る。ここからは、兄アレクの物語となる。母が、アレクに、「みんなに頼んでみた。一様に、何もできないと答えるの。警察も… 誰も助けてくれない」と打ち明ける。兄:「どうしよう?」。母は、答えるすべを知らない。ここで、唯一楽しいシーン。「VELI」のパートの日数をそのまま引き継げば、6日目の夜、1日遅れの誕生パーティだ。参加者は3人だけ。母が用意したケーキには9本のロウソクが立っている(1枚目の写真)。塀で囲まれた長方形の空間には、パーティらしく、小さな風船がひもに吊り下げられて雰囲気を出している。そして、ヴェリがロウソクを吹き消す(2枚目の写真)。そのあと、ヴェリは上半身裸になり、胸とお腹に2つの目と鼻を描いてもらい、ベリー・ダンスをした後、母に飛びつき、そのままくるくると回る(3枚目の写真)。この時の3人は(母と兄は装っていただけだろうが)、すごく楽しそうだ。
  

「VELI」から通算して7日目。塀の中には、まだ風船が残っている。山羊の青い絵の具もそのままだ(1枚目の写真、矢印)。バイクが隅に置いてないのは、兄が、ヘッドライトをパーティのスポットライト替りに使ったから。ヴェリは、山羊の耳に赤い風船を吊るし、それにレンズで太陽光線を当てて遊んでいる(2枚目の写真、矢印)。当然、熱で風船は割れ、ヴェリも山羊もびっくりする。ヴェリは、「ごめんね」と山羊を抱くと(3枚目の写真)、バケツに水を汲んできて、絵の具を落としてやろうとする。
  

ヴェリは、「もう、やる気 なくなった」と言って、吹き矢を兄に返す(1枚目の写真、矢印)。兄は、「ちょうど出来上がった」と言い、作り終えた縦笛をヴェリに渡す。ヴェリは、あまり嬉しそうではない(2枚目の写真)。穴を押さえて、水に突っ込んでブクブクさせて遊ぶ。すぐに飽きると、倒れている自転車のタイヤを蹴って遊ぶ。狭い空間に閉じ込められての1週間は長い。何をやってもつまらない。床でコマを回してみても、すぐに飽きて見向きもしない(3枚目の写真)。
  

真夜中になると、兄は、死を覚悟で塀の外に出る。そして、こともあろうに、ドリタンの家に行き、リリの部屋の窓を叩く。2人は大木の下に行く。リリは、「なぜ、逃げないの?」と尋ねる。「分ってるだろ。どこに逃げようと、狩り出されるんだ。俺とヴェリは」。リリは、兄の死の責任がアレクにあるとは思っていないし、今でもアレクのことを愛している。リリは、上着を脱ぐと、上半身裸になってアレクに抱かれ(1枚目の写真)、キスも交わす。通算8日目の朝。塀の中の地面には、大木から折り取ってきた細い小枝が何本も挿してある。それを見た母は、息子が何をしたか悟り、その無謀さに対し、頬を思い切り叩く。そうしておいて、今度は泣いて息子の肩に顔を埋める。アレクもそうした母を抱く(2枚目の写真)。しかし、そんな複雑な感情などヴェリには理解できない。そこで、2人を横目で見ると(3枚目の写真、矢印は大木の小枝)、挿してあった小枝をなぎ払う。母は、そのまま声をあげて泣き続ける。
  

夜。兄が目を覚ますと、ヴェリのベッドが空になっている。家中を捜すがどこにもいない。塀の中に出て見ると、ヴェリはそこにいた。「中に入るぞ」。「見せてあげようか?」。ヴェリは、前に埋めた小鳥を掘り出してみせる。「どこで見つけた?」。ヴェリは指差す。「部屋に行ってろ。後から行く」。ヴェリが家に入ると、兄は小鳥をもう一度埋める。兄は、その後で洗面台の前に立つと、鏡の中の自分を見て、これからどうするかを考える。そして、横に掛けてあった父の真っ白なYシャツを着る(1枚目の写真)。彼は、1人の「大人」としてドリタンの兄と交渉しようと決意し、青い鉄扉のところまで行くが、どうしても開ける勇気が出ない(2枚目の写真)。そのまま部屋に戻ると、Yシャツを脱いで横になって寝てしまう。そして早朝に目が覚める(3枚目の写真)。
  

通算9日目。外は、まだほんのりとしか明るくない。兄は、Yシャツは着ず、玄関から出ると、青い鉄扉を開け、一歩踏み出してみる(1枚目の写真)。銃で撃たれないので、そのまま野道を歩いて行く。途中から走り出す。向かった先が、ドリタンの家なのか、大木なのかは分からない。家の中では、まだ早いので、母もヴェリも眠っている(2枚目の写真)。兄が野道から外れて草むらに入り、画面の一番右に近づいたところで銃声が響く(3枚目の写真)。兄の姿は消える。兄の物語はここで終わる。
  

兄の最後の映像は、胸を撃たれて草むらに倒れた姿(1枚目の写真)。もう死んでいるので、アレクの物語とは言いにくい。画面は切り替わり、タクシーの後部座席に母とヴェリが座っている(2枚目の写真)。復讐は遂げられたので、2人とも解放されたのだ。それにしても、ドリタンの死は、アレクが手を払ったことによる転落が原因としても、せいぜい過失致死。方や確信的な銃による殺人だ。こんなことが許されるのは、映画の中の世界だけだ。映画のラストはヴェリの顔のクローズアップ。これがちょうど1分続く。1分といえば、映画全体の1.1%にあたる。そこには何かメッセージがあるはずだ。これまで、ヴェリには、家から出るなとは命じられていたが、出れば殺されるという裏事情は伝えられてこなかった。だから、兄が死んだ理由も教えられていないはずだ。彼にとっては、ドリタンが死んだのも、兄が死んだのも謎だ。戸惑っているのか? 3人とも父と一緒に天国にいると考えているのか? それとも、脚本上、無垢なヴェリを通じて不条理の世界を強調したいがための長回しなのか?
  

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