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Ekko エコー/記憶のこだま

デンマーク映画 (2007)

ヴィラス・ミルダス・フリッチ(Villads Milthers Fritsche)と、父役のKim Bodniaの2人だけのシーンが圧倒的に多い「父と子」の映画。それに、親権の喪失による我が子の誘拐という社会的ドラマと、父のトラウマによるオカルト的なムードが加わった不思議な感覚の作品。だが、何といっても、映画の魅力は、天真爛漫で、ナイーヴそのものの6歳のルイの存在だ。父役のKim Bodniaは、映画を観た時には気付かなかったが、3年後に制作された『未来を生きる君たちへ』(2010)で、エリアスの優柔不断な父と対峙する外国移民風のならず者ラースを演じた俳優だった〔実際にポーランド・ロシア系〕。映画の設定には、いくつか曖昧でよく分からない部分がある。①父シモンが息子ルイを連れて行ったのは、父シモンが子供の時に住んでいた家だったのか? ②シモンが、見殺しにした自分の父親の幻を見るのはいいとしても、ルイが見るのは何故なのか? ③シモンが見つけ出した「子供時代に隠した家族の写真」が、なぜルイのお絵描きノートに貼ってあり、そこに「FARFAR(祖父)」と書かれていたのか? ④途中で2人に合流したアンジェリックは、シモンと肉体関係を持ったのか? ⑤父とアンジェリックは、ルイを警察の手にゆだねた後。どうしたのか? ①については、(a)家の庭の木の陰にある岩に「シモン」と彫られているのをルイが見つける、(b)シモンが、子供時代に隠した箱を、隠し場所から取り出し、そこには家族の写真もある、などの点から、「父シモンが子供の時に住んでいた家」だったと確定できる〔ただし、その後に改造された可能性大〕。②は、この映画の一番のウィーク・ポイント。すべてはシモンのトラウマの産物なので、ルイが体験を共有することはあり得ない。唯一の可能性は、シモンが幻覚の中で「ルイが見た」と思い込んだとする設定だ〔そうしないと、オカルト映画になる〕。③は、最後に父がノートに書いたルイへのメッセージに書いた「FAR」の字が、先の「FARFAR」と似ているので、共に父が書き込んだのかもしれない。④は多分イエス。⑤は2人で一緒に行ったことは確かだが、具体的には何も分からない〔結婚するのだろうか?〕。以上の分析は、あらすじを見た後で、もう一度ご確認願いたい。最後に、この映画はSKIPシティ 国際Dシネマ映画祭2008で上映されている〔劇場公開はされていない〕

離婚して6歳の息子ルイの親権を失くした父親の警官が、愛する息子と最後のひと時を過そうと人里離れた空き家に入り込む物語。しかし、父は警官なので、自らの行為が「児童誘拐」に当たることを知っており、ルイには近くの海には行かないよう、海にはワニと海賊がいて危険だとう嘘をつく。最初、ルイは庭にネズミの罠を仕掛けて遊んでいた。その時、庭の片隅で岩に「シモン」と彫られているのを見つける。父の名だ。一方、父は、2階のロフトのドアが何故か開いているのに気付き、真っ暗な中に入っていくと、一瞬 他の人間が見える。実は、この空き家は、かつて父が子供時代を過した家で、だから、庭の岩には父の名が彫ってあった。そして、姿を見せたのは、少年時代の自分。それは、幽霊ではなく、父のトラウマが生み出した幻想の存在だった。子供の頃、父シモンの父親は平気で体罰を与える粗暴な漁師だった。父親のことを恨んでいたシモンは、父親が浅瀬で作業していて海底の何かにはまって動けなくなった時、ボートを漕ぎ去って父を溺死させた。この暗い過去が、昔住んでいた家に来たことで、呼び覚まされたのだ。壁のレンガの穴に隠しておいたブリキの箱の中からは、昔の写真や新聞記事も出てきた。家には食べ物がないので、父はルイに女の子の服を着せて買い物に行く。その店で、父と自分の顔が第一面に載った新聞を見つけたルイは、破りとって持ち帰り、お絵描きノートに貼って顔を黒く塗りつぶす。2人を「透明人間」にするためだ。ルイは、父の持ってきた警官のYシャツを着せてもらう。しかし、海に近付いて父に叱られると、父の拳銃を持ち出し、たまたま農道を通りかかった地元少年を拳銃で脅して携帯を奪う。そして、母に電話するが、父からだと思った母の強い言葉を聞き、何も答えずに携帯を捨てる。父は、仲直りにルイを砂浜に連れて行く。そして、誰もいないのを見極めると、ルイの希望通リ、横になって砂で埋められる。うっかり眠ってしまい、目覚めると、顔にはタオルがかかっていて、周りには人が大勢いる。タオルは、報道で父を「誘拐犯」だと知った女性が、他の人にバレないように掛けたものだった。本物の誘拐犯ならこんなことはしないだろうが、親権に絡んでの「誘拐」なので同情したであろう。ここから、映画は、地元の若い女性アンジェリックを加えた3人での物語となる。父のトラウマによる情緒不安定は加速し、不安を覚えたアンジェリックは警官を呼ぶが、お絵描きノートを見て、ルイを父と引き離すことが可哀想になり、嘘を付いたと言って警官を帰す。しかし、父のトラウマは、「自分が見殺しにした父親」が海から出てきてルイを襲そうとする幻覚を生み出し、その激しい行動が、ルイを怖がらせ、父に向かって銃を撃たせる。傷を負った父は、自分がルイに及ぼす悪い影響を恐れて、「ルイ、世界中の何よりも愛してるよ……また会える日まで。パパ」と書き残し、ルイの前から姿を消すのだった。

ヴィラス・ミルダス・フリッチは撮影時7歳 〔1999年9月27日生まれ。映画の初公開は2007年9月27日。ということは、必ず7歳以下〕。『ルーム』のジェイコブ・トレンブレイは8歳で5歳の役を演じたが、ヴィラスは7歳で6歳の役。より自然で、如何にもあどけない。女の子のような長い金髪が特徴だ。


あらすじ

夕暮れ時、野原の向こうから、1人のがっちり体型の中年男性が、小さな子供を肩に乗せて一軒の家に向かって歩いて来る。男は、家の前に着いて子供を降ろすと、「窓が開いてないか、見ておいで」と頼む。「鍵、もってないの?」(1枚目の写真)。「この方が楽しいだろ。ルイ、泥棒ごっこだ」。ルイが家の周りを見に行くと、男(父親)は、玄関脇のセキュリティを無効にし、ドアをドライバーで開けようとする。すると、窓から中に入ったルイが、「わっ!」と言ってドアのガラスに体当たりし(2枚目の写真)、父は心臓が止まるほどびっくりする。地面に尻餅をついた父を見て、ルイは、「おどろかせちゃった?」と申し訳なさそうに訊く。「当たり前だ」。「ごめんなさい」(3枚目の写真)。家の中は真っ暗。家具にはすべてビニールが被せてあるので、人が住んでいないことが分かる。このイントロからは、父が息子を連れて、家に無断で押し入ったことしか分からない。
  
  
  

父が、ヒューズボックスを捜しに行って なかなか戻らないので、ルイは、うす暗い中、階段を見つけ2階へ登って行く。窓のそばに近付き、棚の上に載っているもののカバーを外した時、電気が入って、照明が点く。目に前に現われた鷲の剥製に仰天したルは、「パパ!」と叫び声をあげる。急いで2階に駆け上がった父は ルイを抱きしめる。「どうした?」。「ワシだよ!」。「剥製だぞ」。恐る恐る剥製を見るルイ(1枚目の写真)。その下に鼠の死骸が転がっている。父:「見てみろ、ネズミを獲ったんだ」。「ボクもとれる?」。「気持ち悪いな」。「弱虫だね」。このネズミは伏線の1つ。ルイは持参したノートに、細いマジックで絵を描き始める。父は、「海には絶対入っちゃいかん。危険だ。ワニがいっぱいいる。海賊もいるぞ」と話す。その言葉に合わせるように、ルイが海賊船の船首に追い詰められた2人の絵を描く(2枚目の写真)。ルイのノートは、映画の中で何度も登場する重要な品だ。「もし 見つかったら、殺しにくるぞ」。「撃ち殺せばいいじゃない」(3枚目の写真、髪の毛がすごい)。デンマークでは、銃規制は日本ほど厳しくないが、6歳の子供がこんな過激なことを言うのは、父親が警官で銃を見慣れているからであろう。因みに、父がこれほど水に近寄るなと言う理由は、離婚して親権を失ったにもかかわらず非合法でルイを連れ出したため、人目を避ける必要があったからだ。このお絵描きのシーンは、映画のタイトルと一体化していて、なかなかシャレている。その夜ベッドで、ルイは、「どのくらい ここにいるの?」と訊く。「一週間だ」。「一週間も何するの?」。「楽しむ」。「ママも知ってる?」。「ああ、ママの考えなんだ」。お休みを言って、2人は別々の部屋で寝るが、悪夢にうなされた父は、ルイのベッドに合流。後から分かるが、昔住んでいた家に戻ったことで、子供時代の悪しき思い出がトラウマとなり、父に悪夢を見させたのだ。
  
  
  

朝、父が、シャワーを浴び、持参した銃を小さな棚の後ろに隠してからルイの部屋に戻ると、息子の姿がない。1階に捜しに行くと、ルイは、庭のベンチに座って絵を描いている。父は、「何か一緒にしないか?」と訊く。「いいよ」。父は、昨夜ルイが言っていたことを思い出し、棚の上に置いてあったネズミ捕りを持ってくる〔映画を観ていると、なぜ、ネズミ捕りのあることを、場所も含めて、父が知っているのか不可解に思う → 父と家とのつながりを最初に示唆する場面〕。そして、ルイがお絵描きをしているテーブルの上にネズミ捕りの入った紙箱を置き、「ネズミを獲ろう」と装置をルイに渡す(1枚目の写真)。「これで パパのパパと遊んだの?」。「いいや」。「じゃあ、何して遊んだの?」。「遊ばなかった」〔粗暴なだけの父親だった〕。ルイは興味深げに装置を見ている。「何 考えてる?」。「ボクの勝ちだ」。「ああ、いつもだな。約束だぞ、海には近付くな。庭から出ちゃいかん。いいな?」。こうして、ネズミ捕り競争が始まる。ルイは、装置を2つ持って走る。そして、木の茂みの下に置こうとした時(2枚目の写真)、その奥にあった岩に「SIMON」と彫ってあるのに気付く(3枚目の写真)。シモンは、父の名だ〔父とこの家との関係を2つ目の決定的な証拠〕
  
  
  

父は、最初の1個を設置したところで、家の中で音がしたのに気付く。不審に思い、2階まで上がってふと見ると、ロフトの入口の蓋が外れて床に落ちている(1枚目の写真)。一度蓋を閉めて階段を下りかけるが、またバタンと音がする。父は中を覗き、「ルイ、中にいるのか?」と声をかけ、懐中電灯を持って中に入って行く。そこは、屋根との間にできた空間で、不要になったものが置かれている。父が煉瓦の壁にこだわって捜していると、何か気配がし、懐中電灯を振ると、カメラは一瞬(0.1秒)何者かをとらえるが(2枚目の写真)、父はそれに気付かないまま光を移してしまう。この「何者」かは、後で、父の少年時代の姿であることが判明する。幽霊ではないので、父のトラウマが造り出した幻影と考えればいいであろう。その後、床板に水のしみが映される。これも、父のトラウマの産物で、実際にはシミなどなかった。ただ、こうしたことは、映画の初期段階では分からない。一瞬 第三者が映るので、浮浪者がいるのか、オカルト映画なのか判別がつかない。観る者を不安にさせる演出だ。父は、ロフトから出ると、蓋を閉め、その前に家具を置いて開かないようにする(3枚目の写真)。
  
  
  

父が1階に下りていくと、キッチンでルイが、「バカンスだから、シロップ2倍入れていい?」と訊く。父は、逆に「家の中で誰か見たか?」と訊く。「うん」。「子供か?」。「うん」。「どこで?」。「2階」(1枚目に写真)。ルイが、見た場所へと案内していく。そこは自分の寝室だった。部屋に入って行き、「そこにいるよ、パパ」。父が恐る恐る覗くと、鏡に映ったルイが、「わっ!」と叫ぶ(2枚目の写真)。父は、これで2度もルイに驚かされた。父は それでも叱らず、「これも、お得意の悪戯か?」と尋ねる。ルイは「うん」と嬉しそうだ(3枚目の写真)。この後、父は、「罰」として、ルイをベッドに放り込むと、思い切り くすぐる。父が息子にこんなに寛容なのは、昔、父から受けた暴力に対する裏返しなのだろう。その夜も、父は、海に溺れる悪夢を見て、ルイのベッドに逃げ込む。「パパ、今夜も来たの?」。「今夜だけだ、約束する」。
  
  
  

5日目、父はルイを肩に乗せて野原を歩く(1枚目の写真)。ルイのノートに描かれた絵から、2人でサッカーボールを蹴り合って遊んだことも分かる。その他、ルド(Ludo)というボードゲームやチェスでも遊ぶ。夕方になって、ルイの体をバスタブで洗っている時、父は、「選べるなら、どっちと一緒に住みたい?」と尋ねる。「どうして、今みたいに、パパと半々で暮らせないの? ママったら、パパとはダメだって」(2枚目の写真)。「パパが決めたんじゃない。その方が、お前にとって安心なんだそうだ。お前はどっちが好きだ… ママとパパと?」。「パパ」。「ママはどうなんだ?」。「ママも好きだよ」。「どっちの愛が強いか、知っておかないとな」。返答に困り、肩をすくめるルイ。父は、「悪かった」と謝る。デンマークでは、父と母の両方に親権が認められるケースが多いのに、どうしてこんな優しい父親に、親権が認められなかったのだろう? ルイが就眠した後、父がTVを見ていると、ニュースは、銀行強盗の後、誘拐事件に移った。「5日前、自分の息子を誘拐したとして警官が指名手配されました。息子の親権を否定されたためと思われます」〔この節の冒頭、「5日目」と書いた根拠〕。そして、自分の顔が映される。父は慌ててTVを消し、息子がTVを見ないよう カバーを被せる。
  
  

7日目、父が起きて窓の外を見ると、ルイは庭で赤スグリの実を眺めている。金髪が風で流れて 絵になる構図だ(1枚目の写真)。昨日仕掛けたネズミ捕りを見ると、中に入っている。「このチビ海賊め。板の上を歩かせてやる」〔海賊による板歩行の処刑〕。ルイは、初日に言われた禁止事項など完全に忘れていて、海に突き出た桟橋の先端まで行くと、小さな板切れにネズミを乗せ、「ボクらの島から出て行け」と言って放す〔父子のいるのは、最後に判明するがユトランド半島ではない。恐らく、シェラン島の南に連なる小さな島々の1つであろう〕。2階の自分の部屋に戻って来たルイは、階段を上がってきたところで父とかち合う。その直前、父は、ロフトの蓋を押さえていた家具が動かされ、入口が半開しているのを見つけたばかりなので、ルイに、「なぜ動かした?」と訊く。「ボク、ずっと お庭にいたよ」。「一度も来てない?」。「ない」(2枚目の写真)。ルイが見ると、ロフトの蓋なんか開いていない。このことから、父が昨日「ロフト」が開いているのを見つけ、中に入って行ったことのすべてが、現実だったのか、父の幻想にすぎなかったのかが分からなくなる。父は、「今日は、何をしよう?」と話題を変える。「今日は、家に帰る日でしょ?」〔「7日目」と書いた根拠〕。「もう1週間、家を借りたんだ」。「ママ知ってるの?」。「ああ、ママも大賛成だ」。「おばあちゃんやおじいちゃんに会いに行くんじゃなかった?」。「延期すればいい」。そして、「腹が減ったな。何か食べたいか?」と訊く。「何もないよ」(3枚目の写真)。「何だって?」。「食べる物、何もないよ」。この父、結構いい加減だ。
  
  
  

父は、一人で行けばいいのに、何故かルイを連れて買い物に出かける〔1人で残しておくことが不安だったのか?〕。森の中の道を歩きながら、ルイは、「どうしてこんなドレス着せるの? これじゃ女の子だ」と不満をもらす。「海賊にさらわれないだろ」。「なら、どうしてパパも着ないの?」。「似合ってるじゃないか」(1枚目の写真)。「ルイーズなんて呼んだら、ボコボコだからね」。「分かったよ」。そして、ミニ・スーパーのような店に入る。父は、雑誌コーナーの前に「ここにいるんだんぞ」とルイを待たせておくと、眼鏡を外し、食料品をカゴに入れ始める。しかし、ド近眼なのでよく見えない。男性の店員の前で、棚の缶を落としてしまい、ドイツ語で「すみません」と言い、店員も「いいですよ(Bitte)」と受ける。ルイの方は、雑誌の横に並んでいた新聞の一面に、父の顔と自分の顔が載っているのに気付く(2枚目の写真)。「警官、自分の息子を誘拐〔POLITIMAND KIDNAPPER SIN SØN〕」の大見出しが100%理解できたかどうかは分からないが、良くないこちだとは気付いたようだ。だから、レジに来た父が、レジの女性に「どこかで会った?」と訊かれると〔ニュースで眼鏡をはめた顔を見ていたからであろう〕、ルイは、ハッとして振り向く。父はドイツ語で「分かりません」と、ここでもデンマーク語が話せないフリをする。ルイは新聞の一面を破り取って丸めると、ドレスの首から突っ込む(3枚目の写真)。その後の レジの若い女性と父との会話は、この映画の中で唯一のコミカルパート。女性は、相手がデンマーク語の分からないドイツ人だと思うと、からかい始める。「あんたとセックスしたと思ったの。去年の夏、ドイツ人とセックスしたからよ。彼のあそこ、ソーセージみたいだったわ。ソーセージって分かる。天気よ。いい天気よね」。「ええ」。「あたし5時半でオフなの。そしたら、あんたのアレ見せてくれる?」。父は、警官の地が出て、「ベラベラしゃべらず、金額を言えばいいんだ」とデンマーク語で言ってしまう。レジの女性はドキっとする。その直後、男の店員が、さっき父が缶を拾おうとして下を向いた時に落としてしまった財布に気付き、「ハロー」と呼んで近付いてくる。そして、「これ、あなたの財布ですか?」と尋ねる。それに対して、「どうもありがとう」と答える。レジ係が変な顔をして父にお釣を返す。それにも、「どうもありがとう」と答える。父も、うかつだった。バレる寸前だ。
  
  
  

森を通って家に戻った2人。父は、まだ、ドレスを着ているルイに、「もう二度と着なくていいぞ」と言う。「嫌いなの?」。「そうじゃないが、いつも着るもんじゃない」。「どういうこと?」。「そんなもの着てちゃ、男らしくないだろ」。「寝る時も?」。「ああ。男の子はドレスなんか着ない」。「どの子も?」。「同性愛者は着るがな」。「それなに?」。「男性より女性の方が好きな男だ」。「じゃあ、ボクたちも それ?」。「違う。同性愛者は男性に恋をする」。「だけど、女の子に恋するのも気持ち悪いよ」(1枚目の写真)。「代わりに、いい物 着せてやろう」。父は、警官のYシャツを着せる。もちろんダブダブだ。帽子も被らせる。「これで、お前も、本物のお巡りさんだ」。ルイが おどけて、「シモン、逮捕する」と言うと(2枚目の写真)。父はぎゅっと抱きしめる。
  
  

その夜、桟橋の方から音がする。父が桟橋を歩いていくと、誰も乗っていないボートが近付いてくる。それは自分が子供の頃に乗っていたボートだった〔ボートは、もちろん幻想だ〕。父は、さっそく封印した「ロフト」に行き、以前は途中であきらめた煉瓦壁をもう一度よく捜し、お目当ての煉瓦を1つ外すと、その中から、昔、自分が隠したブリキの缶をそっと出す(1枚目の写真)。中に入っていたものは、父と母と3人で写した古い写真(2枚目の写真、矢印はシモンの父親)、それに、「水難事故」という文字だけ切り抜いた新聞の切れ端だった。この写真や新聞の切れ端は、後で、実在することが分かる。従って、煉瓦壁には、かつて、父シモンが入れた箱が本当に入っていた〔父と この家との関係を示す 3つ目の最大かつ絶対的な証拠〕。父は、久し振りに、ルイのベッドに避難した。翌朝、ルイは、店から持ってきた新聞をノートに貼り、父の顔を、「ボクたち、これで誰からも見えなくなる〔Der er slet ikke nogen, der kan se os〕」と言いながら、マジックで黒く塗りつぶしていく(3枚目の写真)。「透明人間だ〔Vi er nemlig usynlige〕」。そして、自分の顔も同じように塗りつぶす。ルイは、「2人に何か悪いこと起きようとしている」と感じ、それを食い止めようとしたのであろう。
  
  
  

ルイは、ネズミ捕りにかかったネズミを、また桟橋まで捨てに行く。その後、桟橋の先端に座っていると、すぐ前を2人の男性の乗ったカヤックが近付いてくる(1枚目の写真)。2人に手を振るルイ〔男性も手を振ってそれに応える〕。ルイが「ボクたち透明だよ!」と嬉しそうに戻ってくると、父は、「約束、忘れたのか!」と怒鳴りつける。ルイは、「いいことをした〔新聞を塗って「透明人間」にした〕のに叱られた」ことに腹を立て、あり場所を見つけておいた父の拳銃を持ち出すと、家を抜け出す。そして、トウモロコシ畑の中を突き進むうち、いつしか農道に出る。目の前には、地元の男の子が立っている。男の子にとっては、ダブダブの警官のYシャツを着た変な子、ルイにとっては、久し振りに見る自分と同年代の子なので、互いにじっと見合う。先に口をきいたのはルイ。「電話もってる?」(2枚目の写真)。頷く男の子。「貸してくれる?」。「ダメ」。「ボクの情婦になりたかないだろ〔Gider du ikke nok være to en luder〕?」。「お前もだろ、このペドフィリア〔小児愛者〕〔こんな言葉を小さな子が知っているとは…〕。ルイは、父の拳銃を取り出し、少年に真っ直ぐに向ける。「渡せ」。「嫌だ」。「渡さないと、撃つぞ」。「ホントの銃じゃないや」。ルイが目をつむって引き金を引くと、弾が自転車のタイヤを破る。それを見た男の子は、ズボンを漏らす。ルイ:「もし、このこと誰かにしゃべったら、漏らしたってバラした後で、撃ってやる」。男の子は、すぐ携帯を投げて寄こすと、一目散に自転車を引いて逃げる。ルイは、母に電話をかける(3枚目の写真)。母の声がする。「ピクニルです」。その時、遠くで、父が「ルイ!」と呼ぶ声が聞こえる。「もしもし、シモンなの?」「シモン? あの子、大丈夫?」「あんた、何したか分かってんの? 二度とあの子には会いないわよ!」。黙ったまま聞いていたルイは、携帯を切る。これで、ルイにも、父が母の了解を得ずに自分を連れてきたことが はっきりと分かる。「ルイ!」と、必死に声を上げる父に銃を向けていたルイは、口で小さく「バン」と言うと、父の前に姿を見せる。父はルイを思い切り抱きしめると、「悪かった」と誤り、「ホントに家に帰りたいか? もし そうなら、そうしよう」と語りかける。ルイは、父の顔をじっと見て、首を横に振る。「確かにか?」。今度は縦に振る。これは、すべてを知った上での、ルイの父への「赦し」だろう。心温まるシーンだ。
  
  
  
  

子供のように喜んだ父は、ルイと一緒に野原を走り回る。シーンは変わり、2人は砂浜にいる。ルイは薄着で拳銃を入れる場所がないので、家に置いてきたのであろう。それに、どちらを向いても桟橋がないので、家から遠く離れているのかもしれない。ルイは、「今からパパを生き埋めにしちゃう」と言う。父は、誰もいないことを確かめ、仰向けに横になる(1枚目の写真)。長時間横になっていて、父は眠ってしまう。そして、目が覚めると、目の前が真っ赤だ。焦点が合うと、顔の上に赤いタオルが載っているのだと気付く。横からは音楽も聞こえる。そっとタオルの端から覗いてみると、周りには人がいっぱいいる。一体どうなっているのかと焦る父。そして、ルイは? 思わず、「ルイ」と声を出してしまう。それを聴いた、横にいた若い女性が、タオルを少しめくり上げて父の顔を覗く(2枚目の写真、矢印は赤いタオル)。そして、「誰か知ってるわ。だから顔にタオルをかけたの」と、にこやかに話す。誘拐犯に対する反応とは思えない。「息子がどこに行ったか ご存知?」。「ええ、アイスクリームを買いなさいって、20クローネ渡したわ〔≒400円〕」。場面は変わり、ルイがアイスクリームを食べながら森の中を歩いていると、前から車が来たので、シダの影に隠れる。ルイの前で車が停止する。運転しているのは、さっきの女性。助手席に父も座っている。女性:「なに隠れてるの?」。父:「お乗り」。女性は、そのまま車を走らせる。「おいしい?」。「うん。パパ、味見する?」。ルイの頭にスカーフが巻かれているので、父が、「その頭、どうした?」と訊くと、女性の方が、「見つからないようにするため」と答える。女性は、さらに、「これから、着る物を取りに行くの」と話す。車が着いた先は、納屋のようなところ。ドラム缶からはめらめらと火が。女性は、大事なものが燃やされているのではと、慌てて車を降りる。そして、火の傍らにいた女を問い詰めると、中にいる男の指示で服を燃やしていると白状する。どうやら、ホームレスしていた3人(男1、女2)のうち、2人がくっつき、残った1人が邪魔になったらしい。女性は、服だけでなく、大事にしてきたアルバムまで燃やされたことを知り、完全にキレる。そして、ドラム缶から燃えている服の切れ端を取ってくると、近くに置いてあった男の車の中に投げ入れる。そして、近くに置いてあった灯油かガソリンの入ったポリタンクを車に放り込む。女性は、父子の待っている車に逃げ込み、仲間の女の叫び声を聞いた男が納屋から出てくる。自分の大事な車が燃えているのを見て、男は レンチをかざして襲いかかろうとする。その時、ガソリンタンクに引火して車が爆発、ボンネンットが空高く舞い上がる(3枚目の写真、矢印はボンネット)。男は追跡をあきらめ、女性と父子は無事脱出できた。父は、女性の狂気じみた行動を責め、今すぐ車を止めて降ろすよう迫るが、女性は、「なら、警察に行くから、誰が車を爆破したか言えばいい」と開き直る。こうなっては、どうしようもない。
  
  
  

女性は、「家」まで2人を送ってくると、車を大きなビニールシートで覆い始める。父が、「一体、何のつもりだ?」と尋ねると、「借りがあるでしょ」。父は、「ここには住めないぞ」と言うが、女性はルイを連れて さっさと家に入って行く。「一緒で構わないでしょ?」。ルイ:「うん」。それを父が茫然と見送る。家の中に入っても、ルイは女性に寄り添うように付いていく(1枚目の写真)。キッチンに来た女性は、開けてみて「缶詰ばっかりじゃない」と言い、ルイに、「好きな食べ物は?」と訊く。「ソーセージの入ったスパゲティ」。「今夜はそれね」。「うん!」(2枚目の写真、シンクには食べ残しの皿が洗わずに放置してある)。父:「そんなの不可能だ。ここには、ソーセージもスパゲティもない」。「大丈夫だよ、パパ、この人が買ってきてくれる」。女性は買い物に出かけ、ルイはさっき見た自動車の爆発をノートに描いている。すると、父が、「ここから出て行こう」と言い出す。「夕食はどうなるの?」(3枚目の写真)。「お絵描きが済んだら、荷造りだ」。「あの人が帰ってくるの、待たないの?」。ルイはすっかり女性になついている。
  
  
  

ルイは、今朝、「ペドフィリア」と言われたことを気にしている。そこで、父に、「ボクってペドフィリア?」と訊く。「そんなこと、どこで?」。「どんなイミ?」。「小さな子が好きな男性だ」。「じゃあ、パパもペドフィリア?」。「パパは違う」。「だけど、ボク 好きでしょ?」。「お前のことが好きなのは、息子だからだ。ペドフィリアとは別だ」。「パパのパパは、ペドフィリアだった? 死んだ時、その人 いくつだった?」(1枚目の写真)。最後の言葉は、父の心にぐさりと突き刺さるものだった〔放置して 溺死させたのは父自身だったので〕。そこに、女性が買い物から帰ってくる。ルイの前で、冷蔵庫に食品を入れながら、「これで、1年でも食べていけるわ」と話す。ルイは、「泳げるサンバシもあるんだ」と別のことを話題にする。ルイ:「泳いじゃダメなんだ」。女性:「なぜ?」。「ワニがいるから」。話を聞いていた父が、「海に近寄って欲しくなかった」と口をはさむ。「パパは、水が怖いんだ。プールにだって入らない」。女性は、「あたしは怖くないわよ」と言うと、ルイを連れて桟橋に向かう。桟橋の先端にいるルイに向かって、父は「水に入るんじゃない」と言うが、2人はもうその気十分だ(2枚目の写真)。父は、真後ろにあるボート小屋に入り、そこに置いてあるボートの前にたたずんでいると、昔の記憶が一気に蘇る。シモンの父が、胸までつかる浅瀬の中に入って行き 何かの作業をしている。すると、片足が窪みにはまり抜けなくなる。父は、ボートに乗って近くにいるシモンに助けるよう叫ぶが(3枚目の写真)、シモンは片目で父を見ると、そのままンボートで漕ぎ去ってしまう(4枚目の写真)。シモンの左目の周りは黒ずんで閉じたままなので、父親に殴られた可能性を示唆している。こうして、シモンは父を見殺しにした。
  
  
  
  

3人で食卓を囲んでいる。お皿には、ソーセージ入りスパゲティが山盛りだ。ルイ:「聞いてもいい?」。「いいわよ」。「何て名前?」。「アンジェリック」。2人は仲良く会話を続けるが、父はスパゲティに手をつけようとしない。アンジェリックは、そうした父を見て、「なぜ、ここに戻ったの? 金持ち野郎が家を建てる前〔inden de rige svin byggede huset〕、ここに住んでたんでしょ?」と訊く。「住んだことなどない」。「なら、どうしてここに隠れたの?」。アンジェリックの勘は確かに鋭いが、①うして、以前ここに住んでいたと思ったのか? さらに、②家が建て直されている(あるいはリフォームされている)と感じたのか? 父は否定したが、アンジェリックの②の指摘は恐らく正しい。アンジェリックの質問に父が答えないので、ルイも、「前、ここに住んでたの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「いいや、ルイ、住んだことはない」。以前指摘した3つの理由により、父のこの発言は嘘だ。この後、ルイとアンジェリックが、2階に行ってふざけ合う。ルイはアンジェリックのことを「クソアマ〔kælling〕」、アンジェリックはルイを「オカマ〔bøssekarl〕」と呼ぶ〔ルイは年齢の割りに言葉遣いが悪い〕。その騒ぎを見に2階に上がってきた父は、ロフトの蓋がまた開いているのを見つけると、アンジェリックからルイを引き離し、「ロフトに行くなと言ったろ!」と叱り(2枚目の写真)、「痛いよ、やめて」の抗議も無視して、ルイの部屋まで抱えて行ってベッドに放り投げた。その直後、一瞬、ロフトの蓋が閉まっている映像が映るが〔また、父の幻想で、ルイには罪はない〕、父は、「反省するまで部屋にいろ」と言って出て行く。この父親、激しやすくて、一方的だ、こんな性格だから、親権を認められなかったのかもしれない。アンジェリックはルイの部屋に入って行き、泣いているルイを着替えさせてやる(3枚目の写真)。その後、彼女は1階に降りて行き、シモンに「ルイは寝たわ」と話す。シモン:「済まない」。アンジェリック:「怒りを抑えないと」。そう言うと、シモンを優しく抱く。この先、画面が暗くてよく分からないが、アンジェリックがシモンのズボンのチャックを外し、その前にひざまずいたようにも見える。そして、画面はシモンの幻想に変わり、体を揺する裸のアンジェリックと、水の上に仰向けに寝たシモンが交互に映される。シモンの手がアンジェリックの乳房に触れた瞬間、海の中から怪物の腕が出てきてシモンの首を絞める。シモンは汗まみれで悪夢から覚める。アンジェリックとの間に何かあったのかもしれないし、何もなかったのかもしれない〔暗がりでの行動、悪夢の内容、それに、映画の最後に話される2人の会話から、前者のように思える〕
  
  
  

父シモンが1階に降りて行くと、ルイとアンジェリックがパンとバターとジャムだけの朝食をとっている。シモンを見たアンジェリックは、明るく「お早う」と声をかけるが、父は、嫌な顔をして、テーブルの上に置いてあった袋入りの何かをつまみ上げる。「心配しないで。ルイは車の中で待ってたの」。父は、強引にルイを車に戻らせると、アンジェリックの腕をつかみ、「何する気だ?」と迫る。「痛いわ!」。「何が望みだ?」。「やめて、シモン!」。テーブルがひっくり返り、木の陰で様子を伺っていたルイが耳を塞ぐ。「俺は、息子との最後の時を、平和に過したかっただけだ。そこにお前さんが現れて、『パパ、ママ、ルイ』ごっこを始めた。俺は、いい夫じゃなかったかもしれん。だが、いい父親だった。そう努めてきた。あの子を愛してたからな。俺は、親父とは違うんだ! あいつなんか大嫌いだった! お前さんは、何も分かっちゃいない!」(1枚目の写真)。半狂乱のシモンに恐れをなしたアンジェリックは、シモンがいなくなると、携帯を取り出して電話をかける(2枚目の写真)。その後、シモンが中に入って来て、アンジェリックに話しかける。「気にしないで。怒ると、ああなっちゃうんだ」。「ママが恋しくない?」。「ボク、パパが大好き」。そう言うと、アンジェリックの手にキスする。アンジェリックもルイの手にキスし、「柔らかい唇だね」と言われると、ルイを抱きしめる。「あたし、出て行くわ」。「どうして?」。「シモンが、あたしを望んでないから」。それを聞いたルイは、家を出て行く用意をしている父のところに行くと、「アンジェリックをこここに置いてく気? なら、ボク ここにいる」とはっきりと意志を告げる。「お前は、パパと一緒に来るんだ」。「イヤだ。ママのおウチに帰る」(3枚目の写真)。「ちゃんと帰れる。今じゃないが」。「ボク、いつ、ママとユトランドに行くの?」。「今は、パパとバカンス中だ」。
  
  
  

その言葉を聞いたルイが、窓まで行くと、「まさか! パパ、すごいや!」と叫ぶ。「何言ってる?」。「ボクたち、オートバイに乗るんだ!」。父が窓まで行くと、下には警察のバイクが。アンジェリックが通報したのだ。アンジェリックが玄関まで迎えにいくと、そこにいたのは顔見知りの警官。「こんなとこで何してる?。これは没収資産だぞ」。「やめなさいよ、そんな言い方」〔2人は、いっとき愛人同士だったことが、後で分かる〕。「誘拐の件で電話したのは君か? イタズラか?」。「2階にいるわ」。警官は、慎重に階段を上がって行く。一緒について行ったアンジェリックは、ルイの部屋でノートの絵を見る(1枚目の写真)。ルイが、如何に自分を好いてくれているかに気付いたアンジェリックは、「ただの冗談だったの。ここには誰もいない」と警官に告げる。虚偽の通報だったが、警官は、過去の経緯に甘んじて、「荷物をまとめて ここから出てけ」と言うだけに留めた。「びしっとしろ。でないと、お決まりの行く末だぞ」。父とルイは、「ロフト」に隠れてそれを聞いている(2枚目の写真)。
  
  

アンジェリックは、警官が去ると、ただちに車に乗って出て行こうとするが、エンジンがかからない。ルイは、誰もいなくなると、「パパなんか嫌いだ! 全部めちゃめちゃにして!」と叫んで、「ロフト」を飛び出して行く。ここから先が、一番不可解なシーン。ルイは、ネズミ捕りを持って桟橋の先端に向かう〔実際に向かったかどうか不明〕。父は、ルイのノートを見ている。新聞の一面に載った2人の顔を真っ黒く塗り潰したページ。その次には、ブリキ缶にあった新聞の切り抜きが貼ってある〔ルイが、持っているハズがない!〕。そして、ページをさらにめくると、これもブリキ缶にあった古い家族写真が貼ってあり、父の顔の上には「FARFAR(祖父)」と書いてある(1枚目の写真、左上の矢印が「祖父」、その下の矢印が写真の一部~以前の写真と対比されたし)〔百歩譲って、仮に、ルイが写真を盗んだとしても、この人物が祖父だと知るよしもない! さらに、小学校1年生のルイにはまだ字が書けない!〕。その直後、父はいきなリ頬を殴られる。叩いたのは、少年時代の自分(2枚目の写真)。これまでは、姿を見せただけなのに、今度は直接叩かれる。しかも、「あいつを殺すべきだった。もうすぐ、ここに戻って来る」と叫びつつ、何度も叩かれる〔叩かれたことも含め、すべて父の幻想であろう〕。父は、「戻って来る」の言葉に、息子のことが心配になり、「ルイ!!」と大声で呼ぶ。桟橋の先端にいたルイが家の方を振り返る。すると、桟橋の先の海から「シモンが見殺しにした父」が現れ(3枚目の写真)、「シモン、こっちへ来い!」と言いながらつかみかかろうとする。ルイは、「助けて、パパ!」と叫びながら家に向かって走る〔これも、父の幻想であろう。「見殺しにした父」が、今 自分がいるルイの部屋まで来るための「口実」でもある〕
  
  
  

「見殺しにした父」はルイの部屋に入ってくる。父は、それに つかみかかり、何度も 「殺してやる〔Jeg slår dig ihjel〕!」と叫び、相手の頭を棚に打ちつける〔実際には、父は、1人で「殺してやる!」と叫び、棚に向かって暴れていたのであろう。そんな姿は、ルイにとって恐怖でしかなかった〕。ルイは拳銃を構え、「パパ、やめて〔Lad være〕!!」と叫ぶ(1枚目の写真)。父は、さらに、「殺してやる!」と2度続けて叫ぶ(2枚目の写真)。ルイは恐怖の限界を超え、撃ってしまう。弾は左肩を貫通したが、幸い急所は外れた。発射と同時に「見殺しにした父」の姿は消える。これは、幻想を造り出していた父が、我に返ったからだ。父が、痛みに耐えかねて床に倒れ込む(3枚目の写真)。父は、ルイに、「怖がるんじゃない。拳銃を寄こすんだ。何も起きないから大丈夫」と話しかける。「パパ、ごめんなさい」。「心配するな、血が出ただけだ」。そこに、銃声を聴いたアンジェリックが、駆け上がってくる。父は、アンジェリックが救急車を呼ぼうとするのを止め、軽傷だから止血すれば大丈夫と告げる。
  
  
  

ルイは、もう一度、「パパ、ごめんなさい」と謝る(1枚目の写真)。「もしパパが気を失ったら、出血してる箇所を押え続けるんだ」。そう言うと、父はすぐに失神する。アンジェリックは「シモン」と呼びかけ、ルイは「パパ!」と叫ぶ。この場面に続き、夜の桟橋を先端まで歩いてきた父が、靴を脱いで、素足を海に入れる映像が入る。これは、父の夢なのだが、そこには、「父を見殺しにした罪悪感からの解放」が見て取れる。目を覚ました父は、「ルイ」と呼びかける。「ボク、パパを撃っちゃった。ボクのこと嫌いになった?」。「もちろん違う」。「ボクたちのバカンス、これで終わり?」。「ああ」。「こんど会えるのは、いつ?」。「しばらく後だな」。「だけど、また会えるんだよね?」。「ああ、必ずな」。翌朝、ルイの脇腹に手がかかり、やさしく起こされる。「よく眠ったかい?」(2枚目の写真)。それは、警官だった。「怖がらなくていい。ルイ、今から君をママのところで連れて行ってあげる。そうして欲しいだろ?」。その後で、「パパがどこにいるか、知ってるかい?」と尋ねる。首を横に振るルイ。ルイは、ノートを大事そうに両腕で抱えると、そのままパトカーに乗り込む。そして、パトカーの中でノートを開いてみる(3枚目の写真)。バカンスの思い出を辿るつもりだったかもしれないが、そこには新たな書き込みがあった。父からは、「ルイ、世界中の何よりも愛してるよ……また会える日まで。パパ」(4枚目の写真、矢印の “FAR” の字体と、2つ前の節の1枚目の写真の “FAR” の字体はそっくり) と書いてあった。その隣には、アンジェリックからの絵入りの書き込みもあった。「アンジェリックからキスを。2人とも、ソーセージ入りスパゲッティが大好き」。満足げに窓の外の朝日を眺めるルイ。エンド・クレジットが終わった後、画像なしで、声だけが入る。アンジェリック:「シモン、運転できる?」。シモン:「ちゃんとできる。じゃあ、先に行こうか」。ルイの居場所を警察に通報した後、2人は行動を共にしたのだ。
  
  
  
  

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