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Hesher メタルヘッド

アメリカ映画 (2010)

メイキングで、監督が言っている言葉が、一番端的に映画の内容を語っている。「死に直面した父と息子の姿を描いている。母親を亡くした少年の物語。それが骨子。そこにヘッシャーが乱入し、型破りな方法で乗り越える力を与える」。さらに、ヘッシャーについて、「他人と接する方法を知らない。下品な言葉や破壊を好むけど、その言い方より、言っている内容に耳を傾ければ、ある意味 天使のような存在だと気付くはず。強引に引っ張る人間が TJたちには必要なんだ」と話す。ヘッシャー役のジョセフ・ゴードン=レヴィットは、「愛のムチだよ。暴力の奥底には輝く愛がある」とも言っている。しかし、映画を見ていると、とてもそんな “隠された真意” は見えてこない。最後の5分で、ヘッシャーは “天使” になるかもしれないが、それまでは、背中に “中指を立てた拳” の大きな刺青をしたヘビメタ野郎にしか見えない。言うこと、やること、すべてが自分勝手で、とてもTJのことを気にかけているとは思えない。だから、この映画は、監督の語る “骨子” を観るのではなく、型破りなヘッシャーと、それに翻弄されるTJの “珍妙二人組” の “動と静” の見事な演技を楽しんだ方がいい。こんな型破りな映画に、ニコール役のナタリー・ポートマンがプロデューサーとして加わっているのも面白い。ニコールは、小さな役柄だが、撮影当時27歳だったナタリー・ポートマンが、冴えない “おばさん” として登場するのも、笑える。私の大好きな1本だ。

2ヶ月ほど前、一家3人が乗った真っ赤な車に真横から車が激突し、助手席に乗っていた母が死亡する。父は、目立った外傷はなかったが、心に深い傷を負い、強い精神安定剤を飲んでは、1日中ソファでゴロゴロしている。13歳のTJは、左前腕を骨折したが、父のように廃人にはならずに済んだ。しかし、TJが精神を正常に保てたのは、壊れた真っ赤な自動車が家に置いてあり、その中に乗っては母のことを思い出していたからだった。しかし、父は、突然、車を処分してしまう〔映画は、ここから始まる〕。TJは、レッカー車で連れて行かれる車を、自転車で必死に追いかける。車が搬入された先は、なぜか中古車販売店。TJは、すぐ赤い車に乗り込むが、店主は中学生アルバイトのダスティンに追い払わせようとする。TJは窓から突っ込んだダスティンの腕を、パワーウィンドウを上げて入らせないようにする〔ダスティンは痛い〕。これが、TJとダスティンの険悪な関係の始まり。店主は、TJに、車は売り物ではないときっぱり告げる。最後には廃車置場に捨てるだけの車に、店主がなぜ拘るのかは理解できない。がっかりしたTJは、学校に行こうと、ショートカット・ルートを取り、途中で工事中の数軒の家の前を通った時、穴ぼこにハンドルを取られて転倒してしまう。腹を立てたTJは窓に石をぶつけて割るが、驚いたことに、誰もいないはずの家の中からいきなりヘビメタ男が出てきて、TJを建物内に引きずり込み制裁を加えようとする。その時、ガードマンの車が前を通りがかったので、男はダイナマイトを投げ、その隙にバンで逃走する。これが、TJとヘッシャーとの不思議な関係の始まり。ヘッシャーは、そのまま消えたわけではなく、TJが学校に行くと、ちゃんと廊下で待っている。そして、TJがダスティンから虐めに遭うのも見ている。ヘッシャーがなぜTJに加担することに決めたかは分からないが、ヘッシャーは、ダスティンが口汚くTJを罵った言葉を、そのまま絵にして、ダスティンの黄色のスポーツカーにでかでかとマジックで描く〔カリフォリニア州の運転免許は16歳以上なのに、なぜ、同じ中学(13~15歳)に通うダスティンが車を持てるかは不明〕。ダスティンは、絵はTJが描いたと誤解し、車で追い回すが、その時助けてくれたのが、スーパーのレジ係りをパートでしているニコール。これがTJとニコールの友情の始まり。その日、ヘッシャーはTJの家に勝手に入り込み、「TJのダチ」と公言し、住み始める。それにもかかわらず、翌日、TJがダスティンからひどい虐めに遭った時、ヘッシャーは見捨てる。その夜、ヘッシャーは怒ったTJをバンに乗せると、何も言わずにダスティンの家まで行き、スポーツカーにガソリンを大量にかけ、TJが止めるのも聞かずに爆発させる。お陰で、翌日、TJは警察に連れて行かれる〔証拠不十分で釈放〕。一方、TJがスーパーに行ってニコールをこっそり見ていると、お邪魔虫のヘッシャーにからかわれる。そして、スーパーから出てヘッシャーのバンに乗ると、ニコールもパートが終わり、車で帰宅する。それを見たヘッシャーは、人が変わったようにニコールを追跡する。ニコールが運転ミスで口うるさい男の車に追突した時は、ヘビメタぶりを発揮して男を追い払う。ニコールのボロ車がエンコしたので、ヘッシャーは2人をバンに乗せ、中古の建売住宅に無断侵入する。そして、裏庭のプールで狂ったように遊び、2人を残して急に消える。2人は、仕方なく歩いて帰るが、より親しみが湧く。一方、家庭では、TJと父は険悪な関係となるが、寄りによってそんな時に、2人の仲介役でもあった優しい祖母が急死する。祖母と気が合っていたヘッシャーは、ショックでいなくなり、しばらくして、寂しくなったTJはニコールのアパートを訪ねる。すると、何と、ヘッシャーとニコールがセックスをしている。TJは怒り心頭。ヘッシャーのバンをバールで何度も叩き壊し、ニコールのことを売春婦と罵る。そして、寂しさをまぎらせるため、夜になって ダスティンの家に侵入し、足の指を切り落すと脅して、廃車の置き場所を聞き出す。TJは、山積みの車の一番上に置いてあった真っ赤な車まで這い上がると、中に入り、母の死んだ日のことを思い出す。しかし、楽しくも悲しい夢は、車がスクラップになるプロセスに入ったことで一変する。TJは、解体用のパワーショベルにつかまれた廃車から地面に落下するが、僅かのケガで済む。その後は、車がプレスされていく辛い過程を見ているしかない。家に朝帰りすると、父がイライラして待っている。じきに祖母の葬式が始まるからだ。葬式は、参列者のきわめて少ない簡素なスタイルだったが、そこにヘッシャーが登場。自分の猥雑な経験を例に上げ、大事なものを失っても、ゼロになったわけではないと2人を暗に励まし、最後に、祖母との果たせなかった約束を守るため、台車付きの棺を押して、散歩に出て行く。TJと父も一緒に棺を押すが、それは2人にとって、“足枷となっていた過去” と訣別する貴重な体験となった。翌朝、父は廃人から復帰し、ガレージの前には、ヘッシャーからの “さよならプレゼント” として、プレスされた真っ赤な廃車の塊が置いてあった。

デビン・ブロシュー(Devin Brochu)の主演作は、これ1本しかないが、この1本で映画史に名を残した。それほど、彼の演技は見事だ。映画の設定では13歳。撮影時には12歳か13歳のどちらか〔正確な生年月日が不明〕。表情も、感情の出し方も、演技力も、歴代の名子役と比べ遜色は全くない。賞を1つも取れていないのは、審査員が愚かだったのか、映画の存在を見落としていたのかのどちらかしかあり得ない。


あらすじ

映画は、状況説明もなく、いきなり真っ赤なフード付きジャンパーを引っ掛けた少年が、必死に自転車をこぐ場面から始まる。彼が追っているのは、レッカー車に牽かれた真っ赤なワゴン車。助手席の部分が激しく損傷している(1枚目の写真、矢印は真っ赤なワゴン車)。レッカー車といえども、相手は自動車なので、自転車の少年は引き離されまいと、交通法規など無視して突っ走る(2枚目の写真)。急に横から出てきた車を避けきれず、ボンネットに乗り上げ(3枚目の写真)、そのまま地面に叩きつけられるが、素早く起き上がり、また後を追う。
  

レッカーが入って行った先は、中古車販売店だった。少年は、自転車を放り出すと、レッカー車につながれたままの真っ赤な車の運転席に乗り込む(1枚目の写真)。それを目ざとく見つけた店主は、「おい、車から降りろ」「そこのガキ、車から出るんだ」と、乱暴な言い方で注意し、近くにいたアルバイトの中学生に、「おい、トンチキ〔moron〕、奴を車から追い出せ」と命じる〔“moron” の一番の意味は低脳。こんな言葉を平気で従業員にかけることから、この店主の下司男ぶりが良く分かる〕。“トンチキ” は、窓を叩いて 「明けろ」と言い(2枚目の写真、矢印、ピンクの象の下が下司男)、ドアがロックされていたので、半分開いたウィンドウの隙間から腕を突っ込み、「おい、車から出るんだ」と少年の体をつかむ。少年は、対抗措置としてパワーウィンドウを上げ、腕を挟まれた “トンチキ” は、「野郎! ウィンドウを下げやがれ! マジ怒るぞ!」と怒鳴る(3枚目の写真、矢印)。そこで、題名が入る。少年の名は、通称TJ。“トンチキ” の名はダスティン。
  

本編が始まり、薄暗い照明の中でTJと父が夕食をとっている。父親は、ヒゲが伸び放題で、何の感情もない、生きた屍のような男だ。TJは、「なんで車を売らなくちゃいけなかったの?」と責める(1枚目の写真)。「家の前に、このままずっと置いておけないだろ、TJ」。「なぜダメなの?」。「まともじゃない」。自分にとって、一番大切なものを、相談もなく撤去した父に対し、TJは、目の前にあった父の精神安定剤のピルケースを弾き飛ばし、「こんなのもだろ」と批判する〔自分は、薬に頼っているくせに、息子のことはおかまいなし〕。父は、「もうこの話はしたくない」と言い、食べることに専念。薬を飲んで、1日中何もしないでゴロゴロしているだけなのに、食欲だけはある(2枚目の写真、正面にいるのは父の母、TJの祖母。高齢なのに、食事の用意一切をしてくれている)。翌朝になり、TJは、いつものようにソファに寝転がっている父を、TVのリモコンで突いて起こす。「お金ちょうだい。今日はランチを買わないと」。父は謝り、財布からお金を出して渡し、「頑張ってこいよ」と言うが、TJは無視して出かける(3枚目の写真)。
  

TJは自転車で学校に向かうが、途中で道路から離れ、開いたフェンスから近道に入り、建築中の家々の間を通っていると、穴ぼこにタイヤがはまり、自転車ごと宙を舞うハメに(1枚目の写真)。本来は、工事中の私有地を通り抜ける方が悪いのだが、怒ったTJは、地面に落ちていた石を拾い、中央の大きな窓に向かって投げつける(2枚目の写真、矢印は石)。気が済んだTJが、自転車を起こして出かけようとすると、建物の中から半裸の男が出てくる(3枚目の写真)。
  

そして、TJの後ろ襟をつかむと、そのまま地面に引きずり倒し、家の中に連れて行く(1枚目の写真、矢印は割れたガラス)。男は、「立ちやがれ」と、TJを立たせると、そのまま壁に叩きつけ、胸ぐらをつかんで殴ろうとする(2枚目の写真)。しかし、その時、外で車の音が聞こえる。建設会社のガードマンの車が異常を察知して家の前で停まる。男は、「俺をハメやがって」と、せっかくの仮住まいを奪われた恨みをTJにぶつけると、ダイナマイトに火を点け、割れた窓から外に放り投げる(3枚目の写真、矢印はダイナマイト)。すぐに、爆風と砂埃が窓から飛び込んでくる。男は、床に落ちていた大きな袋を持つと、さっさと外に出て行く。TJが窓から見ていると、黒いバンが走り去るのが見える。爆発は、ガードマンを傷つけるためのものではなく、陽動作戦だったので、ガードマンと車に損傷はない。だから、すぐに後を追いかける。2台の車がいなくなると、TJは建物から飛び出し、自転車に乗って学校に向かう。因みに、この “とんでも男” の名はヘッシャー。映画の原題名と同じだ。
  

TJが、学校に着くと、最初に目に入ったのが、昨日、中古車店でトラブルを起こした “トンチキ” ことダスティン。黄色の派手なオープンカーで通学だ。そして、車から出て来たところで目が合う。次のシーンは。TJのクラス。教師が順に名前を呼び、「フォーニー。TJ・フォーニーは来てるか?」と訊き、姿を確認すると、「お帰り〔Welcome back〕、TJ」と言うので、TJが長い間、学校も認める理由で欠席していたことが分かる。TJが左前腕に付けているギブスが、それに関係しているらしいことも。もっと言えば、壊れた真っ赤な車や、廃人のようになった父親の存在も。ただ、映画では、この時点では、何の説明もない。放課中、TJが廊下を歩いていると、突き当たりに、ヘッシャーがいて、じっとTJを見つめている(1枚目の写真)。怖くなったTJは、すぐに向きを変えて戻ろうとすると、今度はダスティンにつかまる。「今日は どうした、暴れん坊〔punk〕? えらくおとなしいじゃないか?」と詰め寄られる(2枚目の写真)。「放っといて」。ダスティンは、「俺のチンポ しゃぶるか?」と侮辱の言葉を投げつけると、TJを床に押し倒し、両手を押さえて馬乗りになる(3枚目の写真)。そして、唾を顔に吐きかける。久し振りに戻った学校は、散々な1日になった。
  

TJが元気なく帰宅すると、家の中は照明ゼロで薄暗い。役立たずの父は、相も変わらずソファで寝ている。祖母の部屋に行くと、彼女は、スタンドも点けずに本を見ている。「お帰り、坊や〔pumpkin〕」。「ただいま」。「学校どうだった?」。「もう最悪」。「どうしてなの、TJちゃん?」。「わかんないけど、最悪」(1枚目の写真)。「明かり、点けようか?」。「なぜ、暗闇の中なのかしら?」。「どうかな、ちょっとね」。「眼鏡が古いせい? 私のじゃないのかも」。「誰のなの?」。「やれやれ、知らないわ」〔少し、ボケているのかも〕。祖母は、「あなたのパパは起きた?」と尋ねる。「どうして? 1日中 眠ってたの?」(2枚目の写真)。「いいこと。人は、悪いことが起きると、心のバランスを崩すの。でも、最後には、また良くなるわ」〔状況の一端が初めて明らかになる〕。次のシーンは、医者に行ったTJ。医者は、骨折部分の石膏を切り外し、手が正常に動くことを確かめる(3枚目の写真)。
  

翌日、TJが授業に出ていると、窓から小さな粒状の物が投げられる。何だろうと思って窓を見ると、そこにいたのはヘッシャー。TJが見ているのを確認すると、ヘッシャーは油性の黒マジックペンを取り出し、自分の顔に当てる(1枚目の写真、矢印)。そして、TJに向かってペンを投げつける。しかし、事はそれでは済まなかった。TJが自転車で自宅に向かっていると、ダスティンの黄色のオープンカーが後を追いかけてくる。そして、「やい、このクズ野郎〔fuckface〕! こんなことしやがって、楽しいか? 貴様のクソ頭を引き裂いてやる!」と怒鳴る(2枚目の写真)。オープンカーにでかでかと書いてある絵と文字は、昨日、ダスティンがTJに投げかけた言葉と同じ。だから、彼は、TJが描いたと思い込んでいる。実際は、そばにいて、それを耳にしたヘッシャーが描いた。TJは、言っても通じないと思ったので、弁解はせず、脇道に逸れる。ダスティンは、執拗に追いかける。そして、巨大スーパーの駐車場に入ったところで、TJに併進しながら運転席のドアを開け(3枚目の写真、矢印)、TJにぶつけて転倒させる。そして車を停止させると、「ここで、貴様を殺してやる!」と言い、倒れたTJに殴りかかる。「あんな落書きしやがって、無事ですむと思ったのか?」。
  

その時、後ろから、「放しなさい!」と声がかかる。そんな言葉など耳に入らないダスティン、「起きろ、このクソ!」とTJを蹴飛ばす。さっき声をかけた女性が、「やめろと言ったでしょ!」と言いながら、ダスティンに後ろから飛び付く(1枚目の写真、赤の矢印が女性、黄色の矢印がTJ)。しかし、女性は、すぐ、舗装の上に投げ飛ばされる。「何しやがるんだ、このオバン〔lady〕?」。女性は、果敢にもボクシングのように両手で握り拳を作り、「あんた、何してるの?」と対抗しようとする。そして、ダスティンがTJを蹴飛ばそうとすると、前に立ち塞がって守る。ダスティンは、その場で続けるのはヤバいと思ったのか、「これで済んだと思うなよ、このクソチビ」と言って車に乗り込む。この勇敢な女性こそ、ニコール。助けてもらったのに、TJはありがとうの一言もない。ニコールから「大丈夫?」と訊かれ、コンクリートで打った腕から「血が出てる?」と訊くが、「平気みたい。私はどう?」と訊き返され、また、返事もしない。転がっている自転車を立たせてみると、壊れていて乗れない。「乗っていく?」と訊かれ(2枚目の写真)、生返事。「ほら、来て」。次のシーンで、TJはニコールの車に乗っている。「あの子、私のこと、『オバン』なんて言った。信じられない。私って、オバサン〔lady〕に見える?」とTJに訊く(3枚目の写真)。TJは肩をすくめ、「かも〔I guess〕」と言う〔27歳の男性がニコールを見てもオバサンとは言わないが、13歳から見れば、18歳以上は全員オバサンかも〕。一旦は傷ついたニコールだったが、次に 変なことを言い始める。「実はね、そのまま家に帰って、あなたを助けなかったことを1日中後悔したり、あなたが駐車場で殴り殺されたってニュースで聴くのがイヤだったからなの。だから、ホント言うと、自分のためにやったの。私って利己的だから」。そして、「そんな私で、ごめん」と謝る。TJは戸惑って何も言えなくなる。
  

家の前で車を降りたTJが後ろを振り返ると、ヘッシャーのバンが後をつけてきたのが分かる(1枚目の写真、矢印)。TJは、急いで家に逃げ込もうとして、壊れた自転車のことを忘れてしまい。ニコールから注意されて大慌てで車から出す。家に入るが、父は珍しく不在。祖母に聞くと、医者に行ったという話。役立たずの精神安定剤でも、もらいに行ったのであろう。それを聞いてから、TJはもう一度窓まで戻り、バンがどうなったか見ようとする(2枚目の写真)。すると、いきなり、背後で、「洗濯室はどこだ?」と声がし、びっくりして振り返ると、ヘッシャーがいつの間にか、家に入り込んでいた(3枚目の写真)。
  

TJ:「父さんが、すぐ戻る」。ヘッシャー:「洗濯室はどこだ?」。「なんで?」。「スカルファック〔ペニスの眼窩挿入〕されたことは?」。「ううん」。「されたいか?」。「その先だよ。だけどなんで? 使っちゃダメだよ」。ヘッシャーは、洗濯室に行くと、勝手に服を脱いで洗濯機に入れ、パンツ1枚になる。「何するの? なんでウチにいるの?」。それを聞いたヘッシャーは、TJを壁に押し付け、手で喉を押さえると、日本流に言えば剪定バサミで鼻を挟み、「俺がここにいるのが当然って顔でいろ、でなきゃ殺す。お前の家族もだ」と脅す(1枚目の写真、矢印は剪定バサミ)。それが済むと、粉せっけんを洗濯槽に放り込む(2枚目の写真)。そして、そのままの姿で、いつも父が寝ているソファに座ると、タバコを吸い始める。TJは、「何してるの? ここじゃタバコは吸えないんだ。消してくれないかな」と頼むが(3枚目の写真)、「お前の口に突っ込んで消すのか?」と言われただけ。
  

そこに父が帰ってくる。自分の定席に変な男が座っているのを見た父は、「TJ、これ誰だ?」と訊く。ヘッシャーは、自ら、「俺の名はヘッシャー。あんたの息子の友だちだ」と、まともな言い方で答える(1枚目の写真、矢印はタバコの煙)〔日本語字幕は、「ヘッシャーが、TJのダチ」となっていて、如何にもヘッシャーらしいが、実は、“My name's Hesher. I'm a friend of your son's.” と非常に「まともな」英語を使っている〕。しかし、父は、TJにしか質問しない。「彼は、ウチで何してる?」。「洗濯してる」。「ちょっと話せるか?」。ヘッシャーはTVを点け、4チャンネルしか入らないのを見る。すると、すぐ立ち上がり、「4チャンネルしかないの知ってたか?」と言うと、キッチンに道具を探しに行く。そこで、TJの祖母と会う。「今日は、お若い方」。「やあ、婆様〔old lady〕」。ヘッシャーはカービング・フォークを取り出すとそのまま家から出て行く。何事かと、TJと父も庭に出て行く(2枚目の写真)。ヘッシャーは、近くの電柱に半裸のまま登ると、TVの配信盤に細工をする(3枚目の写真)。そして、そのまま戻ってソファに座ると、ポルノ映画を観始める。「チャンネルが増えたぞ」。洗濯機のところに戻ったヘッシャーに、TJは、「なぜ、ウチにいるの?」と尋ねる。ヘッシャーは、「そこ、お前の部屋か?」と訊き、「ガレージだよ」と返事されると、そのままガレージに閉じこもる。
  

夕食の時間になり、いつも通り、3人で狭い食卓を囲む。祖母は、「あなたのお友達、夕食を食べなくていいの?」と心配する。「お腹空いてないんだ」。「本当に?」。「うん、ホント」。今度は父が、「彼、ガレージで何してる?」と訊く。「さあ。ギターの練習をしてもいいとは言ったけど」。祖母:「それは素敵じゃない。ウチでもまた音楽が聴けるなんて。新しいお友達?」。「うん。まあね〔Sort of〕」。翌日は日曜日。TJが朝 起きてくると、ソファで眠っている父の横の1人用の応接イスに座ったヘッシャーが、シリアルにたっぷりミルクをかけて食べている(2枚目の写真)。その とばっちりで、TJがシリアルにミルクをかけようとすると、空っぽ。買いに行くのは祖母なので、食い扶ちが1人増えたことでもう支障が出る。祖母は親切に卵料理を持ってきてくれるが、TJは断る。さらに、祖母が、「散歩に行かない?」と誘うと、「できないよ、お祖母ちゃん。やることがある」と、こちらも断る。「今じゃないの。今日の午後よ」。「さあ。帰った時、訊いてくれる」。TJには、祖母と一緒に散歩に行く気は元々ゼロ。TJは “情けない役立たず” が2人になってしまった、とばかりにヘッシャーを見ると(3枚目の写真)、外に出て行く。
  

TJが向かった先は、先日の中古自動車店。真っ赤な車は、まだ、そのままの状態で置いてある(1枚目の写真、矢印)。何とかしようと心に決めたTJは、店長の部屋に入っていく。「車を返して欲しい」。「車は売り物じゃない」。「買い戻したいんだ。いくら欲しいの?」。店長は、TJを自分の前に座らせる。「車の代金は1800ドル〔廃車が、なぜそんなに高い?〕。それに、税金、登録料と手数料」。「払うよ」。「そもそも、有効な免許証が要るが、君は持っていない。その上、保険の証明書も必要だが、それも持ってない。仮に、全部揃えたにしろ、あいつは売り物じゃないから、君には売れない。話はこれでお終いだ」(2枚目の写真)〔恐らくタダで引き取った全損車に、なぜこのような無理難題を吹きかけ、渡さないのだろう?〕。悲しくなったTJは、この前、親切にしてくれたのに、つれない態度を取ってしまったニコールに詫びようと、彼女がパートでレジ係をやっているスーパーを訪れる。そして、ニコールの前にアイスクリームを持って現れる。「調子はどう?」。「アイスクリーム持ってきたよ」(3枚目の写真)。「素敵ね。ありがとう」。「あっちで、お金払ったから」。それだけ言うと、TJは、「じゃあね」と言って立ち去る。
  

TJが帰宅すると、祖母の笑い声が聞こえる。驚いてキッチンに行くと、そこでは祖母とヘッシャーが、“最高に仲の良い2人” を演じていた。そして、夕食。昨夜と違い、ヘッシャーを交えた4人で狭い食卓を囲む。1人猛然と食べているのはヘッシャーだ(1枚目の写真)。その時、祖母が、「明日の朝、誰か、私と散歩しない?」と誘う。父は、何も考えずに、食べ物を口に運んでいるだけの廃人なので、祖母はTJに期待する。しかし、TJは今朝に続いて断る。「できないよ、お祖母ちゃん。明日は学校に行かないと」(2枚目の写真)。「分かったわ。でも、いつでも歓迎よ」。ここで、ヘッシャーがTJを批判する。「それがどうした?」(3枚目の写真)「学校だと? 婆様と散歩に行けよ。婆様は、いつも一人で散歩に行ってる。1時間早く起きたらどうなんだ?」。ここまでは、正論だったが、そのあと、祖母がレイプされる可能性や殺される可能性に話が及ぶと、話が拡散してしまい、結局、TJが1時間早く起きて散歩に同行する話はうやむやに。
  

月曜に登校したTJを待っていたのは、ダスティンによる陰惨な虐め。廊下にいたTJをトイレに引っ張り込む。TJは、トイレのタイルの床の上に投げ飛ばされるが、起き上がると、猛然とダスティンにぶつかって行き、相手をタイルの上に押し倒す。しかし、抵抗はそこままで、立ち上がったダスティンはTJの前に立ち塞がり(1枚目の写真)、体をつかむと、「俺の車をコケにしやがって、このチビ・チンポ野郎」と言うと、TJの顔を小便器の底の部分に押し付けようとする。TJは全力で抵抗する。「顔を突っ込め。消臭剤を食え!」。その時、トイレのドアが開く音が聞こえる。入って来たのはヘッシャーだった(2枚目の写真、矢印の下にTJの顔)。TJは、何度も「やめて!」と頼む〔日本語字幕は、ヘッシャーに「追い払って」と頼むようになっているが、TJはヘッシャーには何も頼んでいない。見捨てられたことは確かだが〕。しかし、危機的な状況を見ても、ヘッシャーは何もせず、トイレから出て行ってしまう。邪魔者がいなくなったダスティンは、小便器の底の排尿口の上に置いてあった消臭剤をつかむと、無理矢理TJの口に押しつける(3枚目の写真、黄色の矢印は消臭剤、赤の矢印は小便器の縁)。
  

TJが帰宅すると、ヘッシャーがのんびり風呂に入っていた。カッとなったTJは、「何か文句でもあんの? いったい、どうなってんだよ?」と突っかかる。「お前こそ、どうした?」。「クソ野郎が、僕の頭を便器の中に入れてたのに、立って見てただけ。何もしなかった! 出てけ! お祖母ちゃんの家から出て行け!」〔この台詞が一番不可解。そして、最後まで真相は分からない。TJの父は、母と結婚して自分たちの家を持たなかったのか? 母を事故で亡くしてから、祖母の家に引っ越してきたのか? 父がいつもソファに寝ているのは、自分の部屋がないからか? 真相は最後まで謎のまま〕。TJはヘッシャーに飛びかかるが、すぐに首根っ子を押さえられ、壁に押し付けられる。ヘッシャーは、ある程度、首を押さえつけると(1枚目の写真)、「俺は、今から服を着る。お前は、バンの外で待ってろ」と命じる。TJを乗せたバンは、夜の町を走る。「どこに行くの?」と訊いても、ヘッシャーは無視して答えない。そのうち、行く手に黄色のスポーツカーが見えてくる。急に心配になったTJは、「何するの? こんなトコ、出てこうよ」と言うが、ヘッシャーはバンを停めて、TJを外に出す。ヘッシャーは、TJが何を言おうがお構いなく、真っ直ぐスポーツカーに歩いて行く。そして、バンから持ってきたポリ容器から、ガソリンをスポーツカーの中一面に撒(ま)く(2枚目の写真、矢印は流れ落ちるガソリン)。ヘッシャーは、耳に挟んでおいたタバコを口に咥えると、ライターで火を点け、一服吸うと、そのままタバコを車の中に投げ込む。最初は、撒いたガソリンに点火して明々と燃え、次の瞬間、車のガソリンタンクに引火して、大爆発が起きる(3枚目の写真)。この間、TJは常にやめるよう説得し続けるが、最後まで何の効果もなかった。
  

いざ、逃げる段になり、TJがバンの助手席から入ろうとすると、ロックされていて乗れない。「ドア、開けてよ!」と頼んでも、ヘッシャーはTJを置いてきぼりにして行ってしまう。仕方なく、TJは、見つからないよう、表通りではなく、連続する裏庭を跨ぎ越えて、かなり離れた道路に出る。すると、その前方、20メートルほど離れた所にバンが停まっていた。そして、今度は、「バンに乗れ」とヘッシャーが命じる。実に気まぐれだ。先ほどの裏切りに怒ったTJは、「イヤだ」と断る。「さっさとバンに乗るんだ。轢(ひ)いちまうぞ」(1枚目の写真)。それは、ヘッシャーの場合、脅しではなく本気だった。バンは急発進するとTJ目がけて突進し、急ブレーキをかけるが、それでもTJを2~3メートル跳ね飛ばす(2枚目の写真)。車から降りたヘッシャーは、TJが生きているのを見ると、笑いながら、「おい、今のメチャ凄かったな。5フィートはぶっ飛んだぞ」〔実際には、その倍〕と言う。立ち上がったTJは、ヘッシャーの股間を思い切り蹴り、今度はヘッシャーが痛くて体を折る(3枚目の写真)。これで “おあいこ” かもしれないが、ヘッシャーは狂気と紙一重だ。
  

翌朝、TJが歯を磨いていると、玄関をノックする音が聞こえ、「お早う、奥さん、私はヘイウッド巡査、こちらはジョーダン巡査、トーマス・フォーニーと話したい」と声が聞こえてくる。「トミー?」。「トーマス・フォーニー。彼はいるかね?」。自分の正式名が呼ばれて何事かと思ったTJが洗面から出て来ると、「君が、トーマス・フォーニーか?」と訊かれる。「はい」。「いくつか訊きたいことがある。ただの質問だ」(1枚目の写真、ヘッシャーは我関せずといった顔でTJを見ている)。TJ:「何のこと?」(2枚目の写真、矢印は歯ブラシの先)。「服を着てもらえるかね?」。TJは警察まで連れて行かれる。2人の警官は、TJを先に歩かせ署内を連行する。「このことは、君に警告しておく。証拠の有無に関係なく、君は有力な容疑者だ」。ここで、TJは指紋を取られ、顔写真を正面(3枚目の写真)、左向きで取られる。そして、署長の前に連れて行かれると、「君の印象は悪い。これは重大な犯罪だ。長期の懲役に相当する」と、お灸を据えられる。
  

次のシーンは、迎えに来た父の車の中での微妙な会話。父の、「やったのか?」という質問に対し、TJは、「そうでもないよ〔Not really〕」と答える(1枚目の写真)。その変な返事に、父は、「『そうでもない』?」と訊き直し、TJは「やってない」と言い直す。「『そうでもない』って、言ったじゃないか。どういう意味で言ったんだ?」。「『やってない』って、言ったろ」。「そうだが、その前に、『やったのか?』と訊いたら、『そうでもない』って言った」。「何言ったかなんて、覚えてないよ」。「なぜ、あんなことをした?」。父もくどい。この言葉とともに車は家に着く。ガレージの前では、ヘッシャーがニヤニヤしながら日光浴をしている。それを見たTJは、父の最後の、“ちっとも息子を信じない” 質問は無視し、ヘッシャーも無視して、家の中に入る。TJが部屋に閉じ籠もっていると、ドアが開き、ヘッシャーが入ってくる。「ポリ公の用は何だった?」。この言葉にTJはカッとする。「何、考えてんだよ?」(2枚目の写真)。「さあな。穴の中まで検査されたか?」。「あっち行けよ」。「何されたんだ?」。「指紋を取られたんだ!」。「そうか、それで?」。「ほっといて」。「分かった。行く。だが、条件がある」。そう言うと、TJの目の前に立つ。何をされるか心配するTJの前で(3枚目の写真)、ヘッシャーは立ったまま腰を10センチほど下げ、オナラをしたような音を口で出す。そして、そのまま出て行く。TJは、思わず笑ってしまう。
  

翌日、学校が終った後で、“優しさ” に触れたくなったTJは、ニコールのスーパーに行き、棚の陰からこっそりとニコールの様子を窺っている。すると、いつの間にか、お邪魔虫のヘッシャーがTJの後ろにこっそり着き、同じ目線からニコールを見ている。そして、突然、「彼女、マンコを剃ってると思うか?」と、声をかける。びっくりしたTJは、「ここで、何してるの?」と訊く。「お前こそ、ここで何してる。何も買わずに、女の子をストーカーか?」。「違うよ」。「ここからじゃヤれん。もっと近づかんと」。TJは、呆れてヘッシャーから離れる。「何だ? お前、彼女に突っ込みたいんだろ?」。「黙れよ」。「突っ込みたいと思うのは、何も変じゃない」。「もう止めてよ」。「お前が突っ込みたいと思うのは自然だ。恥じることなどない。人類は、何百年も、まんこに突っ込んできたんだ」。TJは恥ずかしくなって、ヘッシャーを無視し、スーパーから出ていく。TJが自転車のロックを外していると、ヘッシャーがしつこく寄ってくる。「どこに行く?」。「家さ」。「乗せてやる」。「いいよ」。「俺と一緒に来りゃ5分だが、チャリなら15はかかるだろ?」(3枚目の写真)。「分かった。だけど、僕に話しかけないでよ。いい?」。「だんまりで」。
  

ところが、バンに乗り込むと、ヘッシャーは、「聞いてくれ。この前の夜の火のことは悪かった。タガが外れちまって… バカげてて無責任だった… ごめんよ」と謝る。これが言いたくて、スーパーまで後を追ってきたのだ。TJはヘッシャーの意外な言葉に驚くが、感心したのは一瞬。「だからよ。これ持っててくれ」と言って、渡された “詫びの品” は、典型的なエロ雑誌(1枚目の写真)。TJは怒って払い退ける。TJにしてみれば、“折角の好意” を撥ねつけられたので、「お前、ゲイか? どうなってる?」と呆れる。そして、正面を向くと、さっきTJが見ていたニコールがバンの目の前で、ドアをあけて自分の車に乗り込む。それを見たヘッシャーは、バンのエンジンをかける。今度は、TJが心配する。「何する気?」。ニコールが車を出すと、ヘッシャーもぴったり後について走らせる。TJが、「車、停めて。僕、降りたい」とドアを開けようとすると、「バンから降りてみろ。お前の代わりに、俺があいつに突っ込むぞ」と言われ、TJは何もできなくなる。スーパーの駐車場を出ると、ヘッシャーのバンは金魚のフンのように、ニコールの車の後について走る。ところが、赤信号で停まった時、何を考えたか、ニコールがまだ赤なのに発進して、前の車に追突する。追突された高級車の男は、運転席を降りると、「俺の車の後ろをメチャメチャにしやがって、このバカタレが」と口汚く罵る。文句はさらに続くが、そこにヘッシャーが割り込む。「助けになれると思うぜ。何もかも見てたからな」(2枚目の写真)「彼女が座ってたら、お前さんがバックしてぶつかった」。「何だと?!」。「お前さん、どうかしてるぜ、車に戻ったらどうだ。この低能野郎が」。「いい加減なこと言うんじゃない」。「彼女の車を壊した賠償の話でもしたらどうだ」。「私は、ぶつけてなどいない!」。「俺を嘘付き呼ばわりか?」。そう言うと、ヘッシャーは上着を脱いで上半身裸になって男に近づいていく。ヘッシャーの異常ぶりに身の危険を覚えた男は、慌てて車に乗ると逃げて行く。ヘッシャーは、上着を拾い上げると、わけがわからないまま戸惑っているニコールの前を素通りし、バンに戻る。ヘッシャーとTJが見ていると。今度は、ニコールのボロ車のエンジンがかからない。それを見たTJが、ヘッシャーがまたちょっかいを出すのを恐れ、「ねえ、もう行こうよ」と促すが、ヘッシャーは、「おまえのエロい彼女が困ってるんだぞ」と言うと、バンをニコールの車に横付けする。TJはニコールに見つかりたくないので、助手席に身を屈めて隠れる。運手席から降りたヘッシャーは、わざわざ助手席を開け、ニコールにTJを見せる(3枚目の写真)。そして、わざとらしく、「君ら、知り合いか?」と2人に尋ねる。
  

ヘッシャーは、ニコールを助手席に乗せ、TJを後部座席に追いやり、車は放置し、そのままバンを出す。ニコールは、「運の悪い日ってあるでしょ。これ以上悪くなりようがないと思ってると、突然 新次元にまで悪化したって分かるの」と嘆き節。ヘッシャーは、タバコを勧めるが、ニコールは「結構よ」と断り、TJは「顔の前からどけろ」と剣もほろろ。ヘッシャーは、2つの奇行を披露した上で、FSBO〔売り主が自ら値段を決めて物件を売り出す〕の中古住宅の門の中に勝手に乗り入れる(1枚目の写真、矢印は立て看)。2人は、門の外にあった看板には気付かない。ヘッシャーは、ドアを叩いて誰もいないことを確かめると、バンから2人を降ろし、裏庭に連れて行く。ニコール:「ここ、誰の家なの?」。ヘッシャー:「俺の伯父さん」。「伯父さんはどこ?」(2枚目の写真)。ヘッシャーは、「あそこ」と言うなり立ち上がると、2人にタックルし、プールに突き落とす(3枚目の写真)。TJは慣れていても、ニコールには、こんな変人、初めての経験だ。「何のつもり?」。「汚れてたろ」〔この家に着く前、わざと土埃の中を走った〕。「でも、濡れたわ」。「すぐ、そっちに行く、」。ヘッシャーはプールに飛び込むが、その後、1人ではしゃぎまわり、プール際に置いてあった自転車を投げ込んだり、バーベキュー台(?)を引きずり落したりし始める。怖くなった2人は、プールから出る。
  

ヘッシャーは、その後も、金網でできたガーデン・テーブルや植木鉢をプールに投込む。それを見ていたニコールは、TJに、「どうやって知り合ったの?」と訊く? 「何となく。そんでもって、お祖母ちゃんの家にやって来た」(1枚目の写真)〔ここでも、祖母の家と言っている〕。「それって、部屋でも貸してるわけ?」。「ううん、そうでもない。長い話なんだ」。ヘッシャーは、遂に、小さな燃料缶を見つけ、それを飛び込み台の板に撒く。そして、バーベキュー用のライターで点火。飛び込み台の板が炎で包まれる。ヘッシャーは板の手前に立つと、「どいつもこいつもクソッタレだ!」と叫ぶと、火の上を素足で走り、そのまま空中に飛び出し(2枚目の写真)、1回転して着水する。プールから出たヘッシャーは、2人に向かって、「火の中でジャンプだ」と自慢した後で、「医者に予約がある。小便すると燃えるようだ」〔急性前立腺炎〕と言い残して、さっさとバンに乗っていなくなる。「私達、置いてかれたの?」。「そう思うよ」。「ここから出た方がいいわ」。2人は、大急ぎで立ち去る(3枚目の写真、矢印)〔残っていたら、器物損壊で逮捕されたかも〕
  

2人は、歩いて、ニコールの車に向かう。途中でアイスクリームを買ったらしく、2人とも手に持っている。ニコール:「で、彼の名は?」。TJ:「ヘッシャー」。「ヘッシャー? それってファーストネーム?」。「知らない」。「姓はあるの?」。「知らない」。「何歳?」。「知らない」。「何か、知ってることあるの?」。「ううん、ほとんど何も」。「車で、あの男がカンカンになった時、あなた達が後ろにいて良かった。今、保険が切れてるから、パニくってたの。余分なお金なんかないから、車の修理なんてとても無理。みんな、どうしてるのかしら? つまりね、私には仕事がある。冗談みたいだけど、もう1年もあの店にいる。なのに、いまだに週15時間しか働けない。なんでもっと働かせてくれないの? 私って、どうしようもないほどダメだと思う?」(1枚目の写真)「私が、あなたの買物のレジやった時、下手くそだった?」。「ううん」。「あのね、いまや、家賃すら払う余裕がないの。持ち物を売り始めないと」。TJはポケットから2ドル取り出して渡そうとするが、ニコールは受け取らない。2人がエンコした車まで戻ってくると、窓に駐車違反チケットが置いてある。切羽詰ったニコールにとっては大きな打撃だ(2枚目の写真、矢印)。運転席に座り込むと、どうしていいか分からず、思わず涙いてしまう。TJが助手席に座ると、「なんでこう、私ばっかり、ロクでもない目に遭い続けるの?」と、思わずグチが飛び出る。「私が死んでも、誰一人気付きもしないと思う」。しばらく考えたTJは、「僕は、気付くよ」と言う。「あなたが、今ここで死ねば、気付くよ」(3枚目の写真)〔あまり励みにならない言葉だが、その後が悪かった〕「だって、車に乗ってて、隣に死んだおばさんがいるんだから」。「私を、『おばさん』って呼ばないで」。その先、どうなったのかは分からない。エンストした車は、動いたのだろうか?
  

ヘッシャーが祖母の料理をむさぼるように食べていると、そこにTJが元気なく帰ってくる。ヘッシャーは、「ヤったか?」と訊く。TJは、同じことしか訊かないので、うんざりして、「ううん」と答える(1枚目の写真)。そこに、影のような父がやって来て、「今日、どこにいた?」と訊く。「カウンセリングだぞ。3時半の、私だけだった」。「ごめん、忘れてた」。「ご立派なことで。いいか、あれは、私のためだけでなくお前のためでもあるんだ。学校の外で45分も待っていた」(2枚目の写真)。「行きたくないって、言ったろ」。「次回、出たくないんなら、ちゃんとそう言え」。「言ったじゃないか。出たくないって」。「言ってない」。「言ったよ、千回くらい!」(3枚目の写真)。「言っとらん!」。「言ったさ。聞いてないだけだ!」。「言っとらん。お前は、行きたくないと言ったが、現われないとは言わんかった!」〔ただの詭弁〕。TJは、「どこが違うんだ」とブツクサ。「私には、大違いだ。私は、敗残者でいっぱいの部屋に、1人で座ってたんだぞ」〔なぜ、この敗残者は、息子を敗残者にしたいのだろう? 治療が必要なのは彼1人なのに〕。その時、料理を持って入って来た祖母が、「お願いよ。私、気分が良くないの」と小声で言う。
  

事態をさらに悪くしたのは、ヘッシャーが、TJの皿のマッシュドポテトに指を突っ込み、「彼女の女陰をいじったか?」と訊いたこと。怒ったTJは、ヘッシャーの手をつかむと、「うるさい黙れ〔Shut the fuck up〕!」と怒鳴るが、それを聞いた父が、「TJ!」と叱る。「何だよ!」。「その言葉使いは何だ!」。「彼の言葉、聞いてなかったの?」。「そんなのは無関係だ。あと1回でも口にしたら、部屋に行かせるぞ」。「部屋だ? 今度は、僕を罰する気か?!」。「そうだ。言葉の問題というよりは、責任感の欠如だな。だから、警察まで引き取りに行かされた」。「そうかよ。ソファから無理矢理引きずり出して悪かったな! 何ヶ月ぶりに初めてクソパンツまではかせちまってごめんよ!」(1枚目の写真)。「TJ!」。「何だよ!」。「もう十分だ!」。「僕が正しいと分かると、『もう十分』かよ?」。「お前の言うことなど聞きたくない!」。「そうか…」。TJは、「くそ食らえ〔Fuck this〕!」と怒鳴ると、自分の前にある皿をテーブルから払い落す(2枚目の写真、矢印は皿)。それを見た父が、今度は自分の皿やコップを跳ね飛ばす(3枚目の写真、矢印は皿)。「これで満足か!」。怒ったTJはすぐに席を立つ。自分の母親が大変な時に怒鳴ることしか能のない廃人の父も、力なく席を立ってソファに寝に行く。
  

そこに、具合の悪い祖母が来て、「何があったの〔Did I miss something〕?」とヘッシャーに尋ねる。ヘッシャーは、「大して〔Not really〕」と言い、簡単な説明を始める。「彼〔父/指差す〕がバカなことを言い、彼〔TJ〕が皿を割り、今度は彼〔父〕が皿を割った。彼〔父〕がそうしたのは、言われたことに反論できなかったから。TJの勝ち。だから、きまり悪くて逃げてった」。それを聞いた祖母は、泣き始め、「何かもっとしてあげられたら良かったのに」と悲しむ。その優しい思いやりの言葉に、恐らく生まれて初めて接したヘッシャーは、非常に真面目な眼差しで祖母を見つめる〔これ以後、ヘッシャーにとって、祖母は単なる料理係ではなくなる〕。祖母が、「横になってくるわ。まだ気分が良くないの」と言い、後片付けをせず、ゆっくり寝室に歩いて行く。何とかしなくちゃと思ったヘッシャーは。食べ終わると、祖母の部屋に行く。祖母は、ベッドのヘッドボードにもたれていた。そして、ヘッシャーを見ると、「お願いがあるのよ、いいかしら?」と頼む。「キャビネットの上に載ってる古い容器を手渡してもらえない?」。ヘッシャーが容器の中身を尋ねると、「吐き気を抑える医療用タバコよ」と答え、「マッチを摺って下さる?」と頼む。ヘッシャーは、「ちょっと見せてくれるか?」と訊き、紙巻きタバコを鼻に当て、臭いを嗅ぐ。そして、「すぐ戻るから」と言い、取ってきたものは水パイプ。「紙巻きタバコを吸う、最も健康的なやり方なんだ」と説明し、一度吸い方を実演してみせ、次に祖母に水パイプを渡し、吸わせてみる(1枚目の写真、矢印は水パイプ)。しかし、慣れない祖母はむせてしまい、1回で終わり。親切がアダになってしまったかも。終わった後、祖母は、「あなた、いくつなの?」と訊く。「あんたに、何の関係がある〔Who wants to know〕?」。「あなた、TJといつも一緒にいるには、少し年上過ぎない?」。「そうだな」。そのあと、ヘッシャーは不思議な話をする。昔、蛇を飼っていて、週1回生きた鼠を餌に与えていた。しかし、ある時、餌として入れた鼠がすごく強く、蛇は怖くて食べられなかった。それ以後、週1回鼠を与えても、すべて強いネズミが守ったので、蛇は飢えて死んだという話。いったい何が言いたいのだろう。祖母は、「で、TJは鼠なの?」の訊く。「分からんが、そうかも」。「じゃあ、私は?」。「婆様だ」。「違うわ、お祖母ちゃんよ」。それを聞くと、ヘッシャーは、「お祖母ちゃん、明日の朝、俺、一緒に散歩に行くよ」と言う(2枚目の写真)。祖母は、これまで、孫のTJや息子の “ダメ父” に何度も散歩を打診してきたが、いつも断られてきた。その望みを、ヘッシャーが叶えることにした。重要な一言だ。祖母の部屋から出た後、キッチンに戻ったヘッシャーは、床に散乱する皿や料理を掃除する(3枚目の写真)。それも、敬愛する祖母のためだ。
  

その夜、TJは、最低の父親が寝ているソファの脇のテーブルの上に置いてある財布から、銀行のカードを抜き取る(1枚目の写真)。そして、翌朝、ATMのある店に行き(2枚目の写真)、20ドル札を何十枚が引き出す。そして、3度目に中古車店に行き、店長に、「お金持ってきた」と声をかける。「何の金だ?」。「1800ドル持ってきたら、車が手に入るって言った」。「お前アホか? 1800ドル持ってても、売ることはできん。それに、今はもう ここにはない」。「どういうこと?」。「この話は、もうくどいほどしたから、もう一度くり返す気はない。それに、車はもうない。話は、終わりだ」。TJは、「どこにあるの?」と食い下がるが、「いいか、もう終わったんだ。出てけ」と命じる(3枚目の写真)〔この店主、なぜこう意固地になるのだろう? 廃車場の場所くらい教えても罰は当たらないと思うが、この映画の中で、一番 “いけ好かない野郎” だ〕
  

TJが、がっかりしている頃、ヘッシャーは2人分のシリアルを皿に入れ、一緒に食べようと、祖母の部屋に持って行く(1枚目の写真)。すると、祖母は、衣装ダンスの前で倒れて死んでいた。TJが中古車店から帰宅すると、いつもなら寝ているハズの父が、ソファに座って難しい顔をしている。そこで、思わず、「どうしたの?」と尋ねる(2枚目の写真)。TJは祖母の部屋に行く。次のシーンでは、3人がソファに座り、これからどうするか一心に考えている(3枚目の写真)。しばらくこのシーンが続くと、いきなりヘッシャーが立ち上がり、目の前にある長いテーブルを転倒させ、上に載っていたものが飛び散る。ヘッシャーは、「ここにいると、むしゃくしゃして、何を仕出かすか分からん」と言って、家から出て行く。
  

TJは、赤い車用に下ろしたお金を、生活に困っているニコールにあげることにし、現金の入った封筒に「ニコールの駐車違反チケット基金/愛を込めて: TJ」と書く(1枚目の写真、矢印)。そして、電話をかけると留守録になっていたので、「やあ、TJだよ。邪魔してごめん〔Sorry to bug you〕。ちょっと話したいなって思ったんだ。君にプレゼントがある。だから、ちょっと寄って置いていこうかと思って…」。そして、TJは自転車でニコールのアパートに向かう。2階建てのアパートの2階の外廊下を歩きながら、部屋番号を確認する(2枚目の写真)。ドアを軽くノックするが、すっと開いたので中に入る。すごく狭いアパートで、入ってすぐ左にヘッシャーのものらしきブーツやら、女性の服や下着が散乱している。まさかと思いつつ、すぐ横のドアの隙間から覗くと、2人はセックスの真っ最中。完全にキレたTJは、玄関の右に置いてあった電気スタンドを手に取ると、「くたばれ〔Fuck you〕!」と叫んで、投げつける(3枚目の写真、矢印がセックスしている部屋)。
  

そして、そのまま外廊下を走り、外に出ると、着いた時には気付かなかったヘッシャーのバンが道路反対側の正面に停まっている。TJは鉄筋の棒をつかむと、バンのあちこちを思い切り叩く(1枚目の写真、矢印はバンのウィンカーを叩き割る場面)。上半身裸で追いかけて外に出て来たヘッシャーは、バンの破壊を止めようとするが、逆に鉄筋で殴られそうになり、必死で体をかわす(2枚目の写真、矢印の先に振り下ろした鉄筋)。ニコールが外に出てくると、TJは、「この、クソ売春婦! 死んじまえ! デブのクソ売春婦なんか、死んだって誰も気付くもんか!」と叫ぶ(3枚目の写真)〔以前、「今ここで死ねば、気付くよ」と慰めた言葉の全否定〕。そして、2人に対し、「お前らの、醜い顔なんか二度と見たくない!」と叫ぶと、鉄筋を投げ捨て、自転車に乗って消える。
  

途中から、雷でどしゃ降りとなる。TJはずぶ濡れのままガレージに入っていくと、そこに置いてあったヘッシャーのものを、ギターを含めて「くたばれ!」と叫びながら破壊する。「お前なんか大嫌いだ!」。その時、TJは床に落ちていた剪定バサミを見つけ、ポケットに入れる。TJが外に出ると、ヘッシャーがちょうどバンで乗りつけたところだった。ヘッシャーは、バンから降りると、「話がある」と寄ってくるが、TJは、「汚い手で触るな!」と払いのけ、地面から石を拾うと、運転席の窓めがけて投げる(1枚目の写真、矢印は飛んでいく石)。石は見事に当たり、ガラスは粉々。ヘッシャーは、「お前と話したいだけだ」と言いながら、TJを芝生に押さえつける。「放せ!」。そこに、騒動を聞きつけた父が飛んできて、「おい、息子を放せ! 何するんだ!」と言いながら、ヘッシャーを起こそうとして、顔を殴られて転倒。今度は、TJがヘッシャーの背中に飛びかかり、父のそばに投げ出される。父は、TJを庇うように手を伸ばす。それを見たヘッシャーは、「お前ら2人ともクソッたれ〔motherfuckers〕だ!」と怒鳴り、車に乗る。父は、「大丈夫か?」とTJに訊く(3枚目の写真)。しかし、ヘッシャーが去ると、父のことなど相手にしないTJは、止めるのも聞かず、雨の中を自転車でどこかへ向かう。
  

TJが向かった先は、ダスティンの家。TJは、玄関ドアの下部のペットドアから中に潜り込む(1枚目の写真)。ダスティンは、ソファに寝転がり、ひじかけの上に両足を乗せてTVを観ている。TJは足の側からこっそりと近づくと、左足の親指を剪定バサミで挟む。一旦、挟んでしまえば、いつでも親指を切り落せるので、圧倒的に優位な立場になる。TJ:「僕の車はどこだ?」。ダスティン:「何だと、てめえ〔What the fuck〕!」。「車はどこだ?!」。「狂ったか?」。「もう一度だけ訊いてやる。言わないと指をちょん切るぞ。どこだ?」(2枚目の写真。矢印は見えにくいが剪定バサミ)。「解体業者んトコだ! やめろ! 解体場だ、このバカ!」。「そんなの、でたらめだ〔That's fucking bullshit〕!」。「なんで嘘をつく?」。「お前がサイテーのロクデナシ〔fucking asshole〕だからだ。どこにあるか言うんだ!」。「解体場に持ってかれた! 神に誓う」。TJはハサミに力を入れる。「もし嘘だったら、お前の足の指を1本残らずちょん切るからな。分かったか?」。「ああ」。TJが剪定バサミを外した途端、ダスティンが逆襲に出る。そして、TJを押し倒し、床にねじ伏せる。その時、外との境にある一番大きな掃き出し窓に大きな物が投げつけられて割れ、雨の中からヘッシャーが現れる(3枚目の写真、矢印)。そして、TJが床に落とした剪定バサミを拾うと、ダスティンの鼻を挟んで、血が出るほど切る。「マジかよ、俺の鼻が!」。TJは、今までダスティンにやられていて助けてもらったのに、「何すんだよ!」「いったい何考えてんのさ?!」とヘッシャーに対して怒る。「お前を助けただけだ」。「二度と会いたくないって言ったろ! 何度言わせる気だ! 放っといてくれよ!」。
  

TJは、真っ暗な中を自転車をこぎ、車の解体場まで行く。そして、山のように積まれた未解体の車の中から、てっぺんに置かれた真っ赤な車を見つけ、他の車を這い上がって、自分の車まで登って行く(1枚目の写真、矢印は赤い車、脇にいるのが登っているTJ)。久し振りに大切な思い出と再会したTJは、いつも自分が座っていた後部座席の真ん中に座り、過去を思い出して涙ぐむ(2枚目の写真)。ここから、過去の “魔の時間” の思い出が、映像で再現される。幸せだった最後の日、母の友達の家のパーティに一家揃って出発する。母の友達なので、使うのは母の真っ赤な車だ。父は、相手が自分の知らない人なので、母がプレゼントに、①電子レンジ、②スコッチ、③花束の3つも持って行くことに不満たらたら。一方、TJは後部座席の真ん中に座り、ピザを食べている。口げんかになりそうだったので、TJは、「ママ、ラジオつけてよ」と頼む。その作戦がある意味効を奏し、両親は楽しくラジオに合わせて、ポップな『A Teenage in Love』(1987)を歌い始める(3枚目の写真、3人ともシートベルトをつけていない)。第2節の歌詞は、「今日は、すごく幸せ、明日は、すごく悲しい。人生、楽あれば苦あり〔take the good with the bad〕だって、学ばないと」という、今後の一家を象徴している。そして、その直後、母の座った助手席に1台の車が真横からぶつかってくる〔交差点における、どちらかの信号無視〕。その途端、現実のTJも激しい衝撃を受ける。
  

辺りは明るくなり、山のてっぺんに置いてあった赤い車は、解体用のパワーショベルにつかまれて移動中(1枚目の写真、矢印)。先ほど、TJを襲った衝撃は、ショベルが車をつかんで山から引き出した時のものだった。その後、ショベルはつかんだ車を、運転席を真下に垂直にする。その過程で、後部座席に乗っていたTJは、フロントガラスを突き破り、そのまま地面に落下しそうになり、必死にフレームにつかまる(2枚目の写真)。しかし、すぐに力尽きて地面に叩き付けられる(3枚目の写真、矢印)。写真には、TJに気付いて走り寄る作業員の姿も映っている。
  

作業員は、TJを立たせると、車の真下からできるだけ離す。そして、安全を確保した上で、「いったい、何してるんだ?」と訊くが、TJは赤い車の行方が気がかりだ。かろうじて、「わかんない」と答え〔答えになっていない〕、そのまま立ち去る。しかし、TJは解体場を出て行ったわけではなく、別のルートから赤い車の最期の場所まで行き、エンジンが抜き取られるのを見ている(2枚目の写真、矢印は赤い車)。それを見つめるTJの顔は、寂しさと空しさと無念さに満ちている。
  

TJが帰宅すると、父が、「今まで、どこにいた?」と訊く。「ごめん」。「朝の10時だぞ」〔一晩中帰って来なかった〕「私に含むところでもあるのか?」。「わかんない」。この日は、祖母の葬儀があるので、TJは白のYシャツにネクタイはめようとするが、何度やってもうまくいかない(1枚目の写真)。そこに、父が入って来て、「誰か、お前に会いに来たぞ」と言う。TJが玄関に行くと、そこにいたのはニコール。TJは、「ヘッシャーはここじゃない」と言うが、ニコールは、「あなたに会いに来た」と言う。「来るべきかどうか分からなかった。でも、気なって仕方がなかった。もし、ここに来ても、怒って憎まれているのは変わらない、って思った。だけど、考え直したの。もし、行かなかったら、あなたを無視していると思われて、ますます憎まれるだろうって。だから、来た方がいいって思ったの。もしもってことも、あるでしょ」。それを聞き、ようやくTJがドアから出て来る。「で、何の用?」。「謝りたいの。あんなことして悪いと思ってる」。「かまわないよ」。「かまうのよ。私にはね。私、あなたのことが好きなの。だから、また元のようなお友達にはなれないとしても、あなたを傷付ける気はなかったって言いたかったの。私って、時々… 変よね… でも、ここに来て話すべきだって… 嫌われたままでもいいから…」(2枚目の写真)〔TJの表情が絶妙〕「だから、今言ったわ。じゃあね、バイ」。TJは、「スタンド壊してごめん」と謝る。「いいのよ」。「『デブのクソ売春婦』って、言ってごめん」。「いいのよ」。「デブじゃない」。「じゃあ、売春婦なの?」。「わかんない。たぶん」。ニコールは、それ以上何も言わず、TJに近づいていくと、ネウタイをきちんと結ぶ(3枚目の写真)〔メイキングで、TJが、ニコールのことを、「母親のように慕うんだ」と言っていたが、この時の表情がそれに一番近いのかもしれない〕
  

祖母の葬儀が始まり、葬儀屋が、「本日は、私達は、故マデリーン・フランシス・フォーニーの人生を振り返り 冥福を祈るために、ここに集いました」と開会を宣言する(1枚目の写真、矢印はTJ)。そして、近所に住む友達の老女が呼ばれ、前に立って思い出を語る。老女は簡単なスピーチが終わると、席に戻る途中で、「TJ、あなたも何か言ってあげたら」と声をかける。TJはマイクの前に立つが、どうしても声が出ない(2枚目の写真)。「ごめんなさい」と言って、席に戻る。葬儀屋が、次の段階に移ろうとすると、手を大きくパンパンと叩く音が背後から聞こえる(3枚目の写真)。
  

全員が振り返ると、そこにはヘッシャーがいた。彼は、「あのガキが言おうとしたことを、俺が代わりに言ってやる。あいつも、言いたいだろうと思うから」と言いながら、棺の所まで歩いて行く。父は、「何をする気だ? やめてくれ」と止めようとするが、父の本質を知っているヘッシャーは、追い払う。止めようとした葬儀屋には、「俺に触るな!」と一喝。邪魔がなくなると、ヘッシャーは、パブスト・ブルーリボン〔ビール〕の24オンス〔720cc〕缶を手に持ち、「俺が お呼びじゃないことは知ってるし、俺だって来たくもなかった。ここに来たのは俺のためじゃない、婆様のためだ」と言う(1枚目の写真)。「婆様は、何か言おうとしてたのに、お前らは聞こうとしなかった。だから、お前らが静かにしてたら、俺は言いたいことだけ言い、二度と戻っちゃ来ない」。この言葉に、悪意はないと感じた “役立たず” の父は着席する。それから先のヘッシャーの話は、いかにも彼らしいめちゃめちゃな話。古いシボレーのガソリンタンクを爆破させたら、金属片が飛散し、それがヘッシャーの睾丸を破壊した。彼は、将来に絶望して荒れたが、ある時、よく見たら、失くしたのは左の睾丸で、右の睾丸は健在だった。ここで、ヘッシャーは、喜びを顔に出して言う。「やったぜ! 俺のタマだ! 俺には、まだタマが1つある!」(2枚目の写真)。「だろ! いいタマだ。使える。神か悪魔か誰かが、上等のタマを1つ残してくれたんだ。俺には使えるタマが1つと、使えるサオがある」。ここで、口調が変わり、父を見て、「お前は女房を失った」と言い、TJを見て、「お前はおふくろを失った」と言う(3枚目の写真)。そして、最後に、「俺はタマを失った」と言う〔ヘッシャーは何より大切なものを失ったが、よく見たら、全てが失われたわけではないことに気付き、人生を取り戻した。妻を失っても、母を失っても、人生が終わるわけじゃない。どこかに大切なものが残っている、と言いたかった〕
  

ここで、ヘッシャーの態度が急変する。「くそ食らえ!」と怒鳴ると、缶ビールをいきなり壁に叩きつける。そして、飛び出してきた葬儀屋を追い払うと、祖母の入った移動台付きの棺を動かし、「俺は、お祖母ちゃんに、一緒に散歩に行くと言った」と、外に向かって押し始める(1枚目の写真)。「だから、今、やってる」。そして、TJに向かって、「お前も、お祖母ちゃんに、一緒に散歩に行くと言ったろ。これが最後のチャンスだぞ」と言う。TJは、過去に何度も祖母が誘ったのに、無視し続けたことを思い出し、立ち上がると、後を追いかける。息子につられて、父も後に続く。葬儀の館から棺を出したヘッシャーは、棺の上に置いてあった大きな花束を、邪魔なので払い落す。そのまま棺を押し続けるヘッシャーに、TJと父が追いつき、3人で一緒に最後の “散歩” をする。ヘッシャーは感傷的ではないが、TJと父は、これまで祖母に対して取ってきたすげない態度を思い出し、泣きながらの散歩だ(2枚目の写真)。3人が棺を押して交差点を渡る時は、信号が青でも、車は発進せずに待っていてくれる(3枚目の写真、矢印は青信号)〔異常事態なので、度肝を抜かれたのだろうか?〕
  

TJは、翌朝、父に起こされる。TJは思わず目を瞠(みは)る(1枚目の写真)。父のヒゲがきれいに剃ってあったからだ(2枚目の写真)。「良くなったね」。「ありがとう。ヘッシャーはいなくなった」。「どういうこと?」。「お前も見に来るべきだ」。父は、TJを外に連れ出す。2人がガレージから出ると、そこには、解体場で直方体に押し潰された “母の真っ赤な車” の残骸が置いてあった。カメラが切り替わり、全景が映ると、屋根には、「HESHER WAS HERE(ヘッシャー ここにありき)!」〔ここだけ、気に入ったので、日本語字幕の訳を採用した〕と書かれている。ヘッシャーのお陰で、2人は立ち直ることができた。ヘッシャーは、確かに、「ある意味 天使のような存在」なのかもしれない。ただし、悪魔と同じくらい口が悪くて、荒っぽいが。
  

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