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スイス映画 (2008)

ケイシー・モテ・クラン(Kacey Mottet Klein)を含めた一家5人の不条理な受難の物語。第82回アカデミー外国語映画部門に対するスイスとしての代表作品。工事を中断したまま10年間放置されていた高速道路。その道路脇に住んでいる一家。家へのアクセスには、道路を横断する必要がある。しかし、ある日突然、何の予告もなく急に工事が再開され、高速道路が開通する。家は陸の孤島と化し、日常の通学・通勤にも支障が出るほか、騒音による不眠症が家族を襲う。この映画は、そうした逆境下に置かれた一家が、最初は明るく耐え、次第にストレスが嵩じて極限状態に追い込まれていく様を、センセーショナルに描いている。確かに、見ていて迫力はある。しかし、どうしてもひっかかるのが、こうした状況は起こり得ないという不信感だ。夫婦はいつ、なぜこんな場所に家を建てたのだろう? 妻が夫に、「一度舗装したけど何も起きなかった。10年間ずっと同じまま」と言うシーンがある。また、娘が、「なぜ、仕事に戻らないの?」と訊くシーンもある。この2つを合わせると、この夫婦は、「10年近く放置してあるから大丈夫」と考えて最近家を建てた可能性が高い。もしそうだとすると、なぜわざわざアクセス道路の反対側に家を建てたのだろう? アクセス道とつながっている側に家を建てておけば、万一工事が再開しても困らない。百歩譲って、何らかの特殊事情により、今の場所にしか家が建てられなかったと仮定しよう。その場合でも、既得居住権はあるわけで、アクセス道路に出られるようにするための何らかの安全対策は、建設側によって講じられるはずだ。子供の通学すら危険にさらされるのだから。だから、こうした「あり得ない」状況下での悲喜劇は、前提そのものが非現実的であるため、観ていても白々しくて感情移入ができない。

未完成のまま放置されている高速道路。その脇に住んでいる一家は、道路も生活空間の一部として楽しく暮らしている。映画の冒頭、クレジットとともに、家族が道路上でローラーホッケーを楽しんでいる様子が写される。それだけではなく、道路上には、父が休む肘掛け椅子や、子供用のビニールプールまで様々なものが置かれ、衛星放送用のアンテナも立ててある。そんなある日、一番小さいジュリアンが、「今日、道路で車を見たよ」と言い出す。それも工事用車両だ。誰も嘘だと言って信じないが、翌日には作業員が大勢やって来て、道路上に置いてあった持ち物を無言で庭に片付け、ガードレールを取り付けていった。その朝、車で通勤に出かけた父は、ガードレールで進入がブロックされてしまう。そして、その夜には本格的な舗装工事が実施され、翌日には白い車線も引かれる。そして、いよいよ開通。開通当日は、通過車両が少ないため、歩いて渡って通学ができたが、交通量が増えてくると危険でそれもできなくなり、遠くにある道路下の排水管をくぐるしかなくなる。しかし、交通量はさらに増え続け、騒音、排気ガス、振動が一家の精神と健康を蝕み始める。不眠症でふらふらになる妻は、それでも、引っ越すことを頑強に拒む。次善の策として、夫は、子供たちの助けを借りて、すべての窓をコンクリート・ブロックで塞ぎ、壁全体を分厚い吸音材を覆い尽くす。確かにほとんど音は聞こえなくなったが、閉ざされた真夏の室内は蒸し暑く、換気がほぼゼロなので息苦しい。とてもまともに生活できるような状態ではなくなってしまう。

ケイシー・モテ・クランは、ごく普通の、10歳以下の男の子。この映画で、1998年からスタートしたスイス映画賞の新人賞を獲得している。裸のシーンの多い苛酷な状況下での演技なので、受賞は当然かもしれない。ケイシーの、その後の2つの作品、『ゲンスブールと女たち』『シモンの空/姉の秘密』は、日本で公開済み。後者では賞もたくさん取っている。なお、ケイシーは英語の名前。フランス語では発音できない。恐らく両親のどちらかが英米系なのであろう。


あらすじ

映画はお風呂のシーンから始まる。上の姉のジュディットがタバコを吸いながら入っている前に、ジュリアンが入り込む。姉といっても大人なので、2人とも膝を曲げないと入れない。姉が、ジュリアンの髪をパンク・スタイルにして遊んでいると、ジュリアンが「数えてて」と言って、湯の中に顔を突っ込む。5まで数えたところで、父がタバコを探しに浴室に入ってくる。箱ごと渡した姉はカウントを中断。その直後に我慢できずに顔を出したジュリアンが「いくつだった?」と訊く。「10」。「そんなハズない。数えてなかった」。「数えてた」。「数えてない」。これをきっかけに、2人はキャーキャーと湯を掛け合う(2枚目の写真)。それが終わって、姉がバスタブから出ると、ジュリアンは、父と並んで湯に顔を突っ込む〔あまり衛生的ではないような…〕。止めに入った母に対し、父は「ママを溺れさせてやれ」とジュリアンをけしかける。こうした「遊び」にジュリアンは大喜びだ(2枚目の写真)。たわいもないシーンだが、この家族は、集まってワイワイやるのが好きなこと、ジュリアンはマスコット的な存在であることが分かる。みんなが寝静まると、父は、道の反対側までゴミ出しに行き、道路の真ん中の肘掛け椅子に座って、ゆったりとタバコをふかす。これが日課なのだ。
  
  

朝、ジュリアンの朝食中、父が車で仕事にでかける。母は、次女のマリオンに、「牛肉か、大きな鶏肉を買ってきて」とお金を渡す。そして、いつも通り、2人を学校に送り出す。道路を横断していく2人。ジュリアンはキックボードに乗っている(1枚目の写真)。2人が出かけると、長女はいつものように、ビキニ姿になって、芝生の上の寝椅子で日光浴。母の手伝いなど一切しない。午後、スクールバスの降車場まで迎えに行った母。マリオンは、「大きな鶏買えなかったから、お肉にした」と買い物を渡す。野原の真ん中の一軒家で、車は父の1台しかないので、買い物は次女の役割なのだ。3人で家に着くと、母は、ガードレールの前で靴を脱がせる。ガードレールの上には他にも靴がいっぱい並んでいるので、靴置き場化していることが分かる。ジュリアンはキッチンの窓越しに、母に靴を渡す。母:「ありがとうございます」。ジュリアン:「どういたしまして」。「白のYシャツを もらえますか?」。お店屋さんごっこだ。母は、大声で、「他に誰か白いものある?」と訊く。量が多いので、白物と色物を分けての洗濯だ。シャツ姿になったジュリアンは、自転車で道路にでかける(2枚目の写真)。真っ直ぐで幅広の平らな場所なので、自転車遊びにはもってこいだ。夕方になると父が帰ってくる。車は何の障害もなく(3枚目の写真)、芝生の前まで乗り入れる。父も箱にいっぱい買い物を抱えている。一家の日常生活は、かくも平和だった。
  
  
  

夜、暗くなり、TVを芝生の上に持ち出して、一家5人で仲良く見ている(1枚目の写真)。その時、ジュリアンが、「今日、道路で車を見たよ」と言い出す。父:「それがどうした? 誰かが迷ったんだろ」。母:「どんな車?」。「工事車両。作業員も」。父:「どこだ?」。「すぐそこ。僕の遊び場のそば」。母:「なぜ黙ってたの?」。「忘れてた」。「作り話よ」と席を立つ母。こう決め付ける姿は、ずっと後に見せる頑なな態度と相通じるものがある。この母の「決めつけ」を受けて、長女が「嘘つくつもりなの?」とジュリアンを責める。手で口をつかんで「でまかせなんでしょ」。「信じないんなら、見てこいよ!」。姉は、ジュリアンをくすぐり始める。「嘘だと認めなさい! 白状させてやる」。「お願い、やめて!」(2枚目の写真)。「恥ずかしくないの、嘘付いて?」。「分かった。嘘だよ、やめて!」と仕方なく降参するジュリアン。「ね? 作り話でしょ」と夫に言う妻。しかし、慎重派の父は、ジュリアンを車に乗せて、見たという辺りまで連れて行く。しかし、証拠は何もなかった。
  
  

翌日、真新しい工事車両に乗った多くの作業員がやってくると、道路の上に散らばっている一家の持ち物を、次々と芝生の上に運び始める。寝椅子で日光浴中の姉にも、何の声もかけず、ただ黙々と運び続ける(1枚目の写真)。ジュリアンが自転車に乗ってあちこち覗くが(2枚目の写真)、誰も何も言わない。彼らは、最後に、家の前だけ外してあったガードレールを新たに設け、去って行った。解説にも書いたが、本来、こうした行動は絶対にあり得ない。ショッキングにみせるための意図的な演出で、非現実的だ。もし、本当にこんなことをしたら裁判沙汰になる。ジュリアンが近所の友だちと話していると、「みんな、こんなの見つけた!」と言って、誰かが、まだ暖かいアスファルトの塊を持って来る。「臭いな」「ねばねばする」「むかつく」と言いつつ、みんなで触るものだから、体が汚れてしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

夕方になり、父が帰ってくる。ガードレールがあるので、慌てて急ブレーキをかける(1枚目の写真)。車は、もう永久に家に近づけない。ガードレールを跨ぎ、家に向かう父。芝生の上に散乱する家財。そこに立っている妻に、「奴ら、いつ来たんだ?」と訊く。「お昼過ぎ」。「見たのか?」。「もちろん」。「それで?」。「何よ」。「何か言ってたか?」。「何も。言うと思う?」。「何か言うべきだろ。奴らが、庭に運んだのか?」。「何も言わなかったわ。手早いの」。妻も妻だ。当然、訊くなり、文句を言うなりすべきだろう。実に投げ遣りで無責任。映画の全編を通じて、この妻~母には、共感できる部分が全くなかった。父が、アスファルトで汚れたジュリアンのことを指しても、「仕方ないでしょ。自分でやったんだから」(2枚目の写真)。それでも、母は、風呂場でジュリアンを洗ってやる(3枚目の写真)。しかし、アスファルトの汚れはせっけんでは落ちない。父は、母に「そんなことしても無駄だ。明日、テレピン油を買ってくる」と言い、ジュリアンには「奴ら ホントに来たな」と言う。ジュリアン:「嘘じゃなかったろ?」。母:「ジュリアン、足を上げなさい。洗えないでしょ」。父:「足は 放っとけ! 溶剤を買ってくると言ったろ」。母:「なぜ 怒るの?」。「俺の話 聞いてたか?」。「ええ、聞いてた。奴らが来たって」。「それから」。「私たちがここに移った時から、開通の話はあった」。結局、母は溶剤の話なんか全然聞いていない。そして、会話は別の方向に進んでいく。父:「もし、舗装を始めたら、数日の問題だ」。母:「そんなの分からないでしょ。一度舗装したけど何も起きなかった。10年間ずっと同じまま。蒸し返さないでよ! ここに来て よかったでしょ? 引っ越すつもりじゃないわよね? どこに行けばいい? ここは、我が家よ。様子を見ましょ」。母が家に固執する姿勢が、初めて鮮明になるシーンだ。
  
  
  

その日の夜、大きな音とともに、大型の作業車が2台並び、一気にアスファルト舗装を仕上げていく。その光景を、ただ見ている一家(1枚目の写真)。父親も黙って見ているだけだ。なさけない。工事監督を吊るし上げてもよさそうなものなのに。一家から出た言葉は、母の、「ジュリアンとマリオン、中に入って。明日は学校よ」だけ。翌日、真新しいアスファルト舗装の上を、子供たちがピョンピョン飛んで、道路を渡って行く。途中に中央分離帯の2本のガードレールもあるから、渡るのも結構大変だ。因みに、スイスの高速道路は、特殊な景観地区を除き、中央にガードレールが1本あるだけ。日本の高速道路のような植樹などはない。この映画はブルガリアで撮影されたが、確かにブルガリアの高速道路は中央に2本のガードレールがある。ジュリアンが帰宅すると、アスファルトの上に白線が引いてある。まだ乾いていないので、頬に塗ってみる(3枚目の写真)。
  
  
  

こうなると、さすがの母も、開通を覚悟するしかない。次女、母、ジュリアンの順に、ラジオの道路情報番組に耳を傾けている(1枚目の写真)。そして、「E57の新区間の開通は今夜です」とのニュースが入る。ジュリアンは、浴室のバスタブの上に上がり、小さな窓から外にいる父に向かって、「パパ! 今夜だよ! ハイウェイ・ラジオがそう言ってる」と叫ぶ(2枚目の写真)。父が、ガードレールの前に立って、じっと道路を見ていたからだ。一方、一家の中では、一番独立心の強い(個人主義的な)次女のマリオンが、浴室を掃除中の母と話している。「なぜ、仕事に戻らないの?」。「何が言いたいの? 家にいないと困るでしょ」。「みんなも そうかしら?」。「一緒にいるのは とても楽しいわ」。「一日中、拘束されたくない」。「何のこと? 牢獄じゃないのよ」。この冒頭の「なぜ、仕事に戻らないの?」は、10年も前のことを指しているとは思えない。マリオンの年齢を考えると1~2年前のような感じを受ける。つまり、ここに引っ越してきたのは、そのくらい最近の可能性が高い。芝生の上のソファーに座った父とジュリアンは、最初の車がどちらの方向から来て、色が何色かでもめている。父:「最初の車は… こっちからだ。色は緑」。「赤だよ」。「ウチのと同じ緑だ。賭けるか?」。「赤さ」。「緑だ」。「赤だ」…(3枚目の写真)。この2人は、少し能天気なところがいい。因みに、E57のEは欧州自動車道路(E-road network)のこと。2桁はAクラス、3桁はBクラス。実際のE57は、オーストリアのザットレット~スロベニアのリュブリャナ間の道路なので、架空の道路ならE057とでもすべきだった。さらに、E57に関して2つの地名Favières、Louvignyが出てくるが、何れも、フランスの全く離れた場所にある
  
  
  

結局、夜のラジオで「今夜」と言っていたのは間違いで、食卓を囲んで朝食をとっていると(1枚目の写真)、ラジオが、「赤のVWが 7時きっかりにインターを入って行きました」と伝える。それを聞いたジュリアンが、「僕の勝ちだ! 赤だ! 一番は赤だ!」と自慢げに言う(2枚目の写真)。何にでも細かい次女のマリオンが、「今何時? 正確に」と父に訊く。「7時22分」。「赤のVWがFavières南インターを7時に入ったなら、平均時速120キロとすれば、あと数秒で通るわ」。さっそく、窓まで見に行くジュリアン。実際に10秒ほどして最初の1台が通過したが、色は青だった。ジュリアンはがっかりする。どこかで抜かれたのだ。
  
  

朝、2人が学校に行く時は、開通したばかりで通行量が少なく、簡単に渡ることができた。特に、中央の分離帯の2本のガードレールの中は、安全で、タイミングを計るには便利だった。2人を見送り、家に戻ってから、母はずっとラジオを聴いている。ラジオの解説者は、「信じられませんね。10年前 工事が始まり、突然 中断された。再開されるとは誰も思っていませんでした。この地域の住民にとって、大きな変化でしょう」と話している。「便利になる」という意味での「大きな変化」だが、この一家にとっては、別の意味での大きな変化だ。夫から、子供たちはちゃんと渡れたかと、心配する電話がかかってくる。母は、「もう少し早く帰れない?」と頼み、「子供たちには待つように言うわ」と言って電話を切る。子供たちが道路の反対側に帰ってくる。母は、「お父さんが帰るまで、そっち側にいなさい。軽食を用意したから」と叫ぶ。車の走行音で、声が聞こえず、ガードレールを跨ごうとして、通りかかった車に轢かれそうになるジュリアン(1枚目の写真)。路側帯が狭いので、結構危ない。ジュリアンは、母に向かって「投げて!」と叫ぶ。母は、腕をぐるぐる回して投げるが、路側帯に落ちてしまう。マリオンが取ろうとした瞬間、ぎりぎりに走ってきた車に袋が轢かれてしまう(2枚目の写真)。マリオンは、袋を回収して中味を確かめ、「地面についたトコは食べちゃダメ。袋が破れてないのだけよ」とジュリアンに指図する(3枚目の写真)。言うことが、慎重で細かい。
  
  
  

そこに、父が帰ってくる。車が増えてしまい、とても渡れる状態ではない。ジュリアンに「こっちに、地下道あるか?」と訊く。「少なくとも100回は通ったよ」。「車に乗れ。行くぞ」。そして、高速道路に沿って、「地下道」のある場所まで進む(1枚目の写真)。しかしそこは「地下道」ではなく、道路の下に設けられた排水管だった。子供でも屈まないと入れない狭さだ。ジュリアンは、一人で入って行き、「来てよ。きれいだ」と言う(2枚目の写真)。しかし、これはあくまでジュリアンの見方。2番目に入っていったマリオンは、「汚いわ。すっごく気持ち悪い」。最後に荷物を抱えた父が入る。なかなか出て来ないので、ジュリアンは出口で、「パパ、来れるかな」と心配する。ようやく現れた父(3枚目の写真)。ここからは、車で走った分、歩いて家まで戻らなくてはならない。しかも、この難行はこれから毎日続くのだ。家から一歩も外に出ない母には、この苦労は分からない。
  
  
  

あまりの騒音に、耳栓を試してみるマリオン。ジュリアンに「高い声出して」と、甲高い声で叫ばせ、どのくらい効果があるかを確かめる。それなりの効果はありそうだ。今度は、母が試す。「いいわ。何か言ってみて」(1枚目の写真)。ジュリアンが、わざと口パクで、大声で話している振りをする(2枚目の写真)。「すごい。聞こえないわ」。マリオンはジュリアンのイタズラをバラした後で、「1分間80になったら、どうするの?」と言い出す。「80って?」。「80台よ。今は平均で15から20」。夜、ベッドで、眠れない母。役に立たない耳栓をトイレに捨てる。
  
  

恐らく次の日、マリオンは、トラック、乗用車、バイクの3種類に分けて、通行台数をノートに書いている。トラックは□、乗用車は○、バイクは|の印を、1台ずつ記していくのだ。ジュリアンは、横で見ていて(1枚目の写真)、「どうかしてるよ!」と冷やかす。それでも、「数え始めてから何台?」と訊いてみる。「53,800。誤差は10から15%」。「トラックは?」(2枚目の写真)。「4,700」。さらに、マリオンは、「1日1時間、同じ時間にカウントする。大事なことよ」とすごく真面目だ。ジュリアンは「緑の車は?」と訊き、「バカ」と叱られる。そりゃそうだろう。マリオンは、「道路の近くから、草を採ってきて」と命じる。草をティッシュで拭うと黒くなる。「二酸化炭素、有毒ガス」とジュリアンに教える。家に入り、ジュリアンの上半身をチェックするマリオン。「何も異常ないわね。チェックできるよう、印を付けましょ」と言って、左肩の下に円を描く(3枚目の写真)。そして、ジュリアンに、「排気ガスからの微粒子はどこにでも入り込むの」と説明する。「で、どうなるの?」。「便秘。嘔吐。食欲不振。精神運動の縮小。不妊の危険性。過敏症。不眠」と挙げた後で、「成長が阻害される可能性も」と告げる。心配になったジュリアンが、「ひどくなったら、病気になる? ここに住んでて大丈夫?」と訊くが、マリオンは、「引っ越せない。ママは、ここが好きなの」と否定する。
  
  
  

父が、車の上に大きな荷物を載せてくる。「それ何?」と叫んで訊く母。「休日用のたくわえだ!」と言って、嬉しそうに箱の上に乗る父(1枚目の写真)。子供っぽさはジュリアンといい勝負だ。箱は大きくて、排水管はとても通らないので、深夜、通行量が減ってから運び込む。母を見張りに残しておき、4人で中間点の分離帯まで運ぶ。後は、半分道路を渡れば家だ。車が1台通って行ったので(2枚目の写真)、母がゴーサインを出すかと思いきや、何も来ないはずなのに「何か見えた気が」と言ってストップさせる。母の様子はとても変だ。睡眠不足による神経性の異常行動だろう。深夜、徘徊し、熟睡しているジュリアンに耳栓を押し込み(3枚目の写真)、起こしてしまう。「何してるの?」。「何も。眠りなさい」。不気味だ。
  
  
  

父が、最初に始めたのは、夏休みのピザ・パーティ。電話でピザ屋の配達員を、家の真向かいの郵便受けまで誘導する。食べた後は、1ヶ所にマットレスと枕を集める。父がジュリアンを頭の上で回したり(1枚目の写真)、父と母とジュリアンの3人で絡み合ったり(2枚目の写真)、実に楽しげだ。最後には、ザコ寝状態で一緒に寝る(3枚目の写真)。和気あいあいといった感じだが、一触即発の気配も感じられる。
  
  
  

明くる日、母がふらふらしながら、道路沿いでシーツを干している。それを見たジュリアンが「ダンスしてるみたい」。マリオンは、「ママは眠れないの。疲れ果ててる」と擁護する(1枚目の写真)。物干しが済んで、母が家に入ると、子供たち3人はTVのリモコンの奪い合いをしている。リモコンを取られて大声で叫ぶジュリアン。母が、「騒がないで。おかしくなりそう」とリモコンを取り上げ、「他にすることないの?」と3人を叱る。「他のこと」 と言われ、ジュリアンは逆立ちし、マリオンは髪の毛をいじる(2枚目の写真)。如何にも暇を持て余している感じだ。ユーモラスなシーンだ。結局、ジュリアンはくたびれて、長女のジュディットにもたれてウトウト(3枚目の写真)。
  
  
  

次女のマリオンは、雨がっぱにゴーグルとマスク、ゴム手袋という完全防備で、道路沿いの草の排気ガス汚染を調べている。姉に言われて、同じような完全装備で出てきたジュリアン、姿が似ているので「宇宙からの侵略者」ごっこを始める。しかし、あまりに暑いので、すぐに水泳パンツだけになり、子供用のビニール・プールに飛び込む。さっそくマリオンが飛んできて、「ダメ、出なさい! バカなことして!」とジュリアンを引きずり出し(1枚目の写真)、そのまま浴室に連れて行かれる。マリオンは、プールの水に浸したティシュを見せて、「水が汚染されてる。微粒子が最悪なの」と説明し、「向こう向いて」と命じ、シャワーをかけながら背中をタワシで擦る。「微粒子は毛穴を塞ぎ、どこにでも入り込む」。さらに、「車の数が10倍になってる。この調子だと、夏を生き延びられない。死んじゃうわ。全員」。いくらなんでもオーバーだ。いじくり回されるのに反発するジュリアン。「やめなさい! ゆっくり死にたいの?」と叱る姉。「成長できず、一生 『こびと』 のままでいいの? 良かれと思ってやってるの。愛してるから」。ジュリアンは、争った挙句、姉にバスタブに突き飛ばされて顔を打ち、鼻血が出てしまう。ジュリアンは、姉を睨みつけ、「黙れ、黙れ!」と何度も叫び(2枚目の写真)、そのままの姿で飛び出していく。いつもは朗らかなジュリアンも、遂にキレてしまった。高速道路のガードレールに沿って、水着姿で全力疾走するジュリアン。行き交う車を前に、鼻血を出したままひた走る姿には悲壮感が漂う(3枚目の写真)。遂に疲れて走れなくなったジュリアン。心配した母が追ってくる。それに気付いたジュリアンは、車など無視して中央分離帯まで走り、2本のガードレールに挟まれた隙間を歩き始める。しかし、路側帯に出て、呆然と立ち尽くす母に気付いて立ち止まり(4枚目の写真)、再び車道を走り母の元に駆け寄る。そして、手をつないで家に戻る。しかし、一旦家に戻ると、たまっていた母の怒りが爆発し、ジュリアンは家に入れてもらえない。ドアを叩き、「開けてよ! ママ! お願い!」と頼んでも、母は頑として聞き入れない(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

その夜も、前夜に続き、ザコ寝。ジュリアンが異常を感じて目を覚ます。フトンを剥がして覗いてみると、オネショをしたのだ(1枚目の写真)。慌ててバスタブに入り、パンツを脱いでシャワーを浴びる(2枚目の写真)。その時、背中の赤い点が気になり、鏡で見ていると、父が起きてきて「そこで、何してる?」と尋ねる。「鉛中毒だ」。「何の話だ?」。「中毒の印。ほら、ここにある」。「違うぞ。蚊にくわれた跡だ」。変なことを心配するジュリアンに、「どうした? 何があった?」と訊く。「ウンチ 見てる?」。あまりに変な質問に、「まさか、何で?」と笑う。「マリオンが、野菜の中の鉛で変わるんだって」。「間違いだ。マリオンは でたらめを言ってる。話なんか聞くな」。「おしっこ もらした」と白状する(3枚目の写真)。父は「構わんさ」と言って、ジュリアンの髪を撫でてやり、きれいなパンツをはかせる。父の方が、母より余程まともだ。
  
  
  

次の日は、バカンスへ向かう車で高速は大渋滞。車がぎっしり詰まって全く動かない。母は、キッチンの窓から自分の顔が丸見えなのに嫌気がさし、「マリオン、ジュリアン、出かけるわよ」と2人に声をかける。保冷ボックスと食料を入れ、マットを用意すると、3人は、身動きできない車列の隙間を通って道路を横断する(1枚目の写真)。そして、道路から離れた涼しい木陰にマットを敷いて静かなひと時を過ごす。マリオンもジュリアンも、蚊に刺されて痒いので、母に掻いてもらっている(2枚目の写真)。一方、ジュディットは衆人環視の中で、いつも通り、ビキニ姿で日光浴。夕方、父が帰宅すると、家には誰もいない。3人が帰ってくると、もう渋滞は解消している。道路越しに、父が、「ジュディットは、一緒じゃないのか?」と大声で訊く。
  
  

いつもの夕食。しかし、ジュディットは姿を消したままだ。父:「どうしよう?」。母:「どうしたいの? 警察に電話? 大人だって言われるわ」。ジュリアン:「きっと、轢かれて 死んだんだ」。マリオン:「なぜ そんなこと言うの? バカね」。さらに、マリオンは、父母に「いつも、おっぱいちらつかせてたから、誰かに連れてかれたのよ」と言う。母は怒ってマリオンを叩くが、この推論は正しい。みそめられた彼氏の車に乗って、出て行ったのだ。夜になり、ザコ寝中の母が、隣に寝ているジュリアンを無理やり起こす(1枚目の写真)。そして、あくびを連発するジュリアンにローラースケートをはかせ、路側帯を走らせる。いくら深夜で通行量が極端に少なくても、寝ている小さな子を起こして、スケートをさせるなんて、異常としか言えない。眠たくてつまづきそうになるジュリアンは(2枚目の写真)、母のところに行き、「ママ、もうイヤだよ」と言う。考え事をしている母は「何」と訊き直す。「もうイヤだ。疲れた。眠りたいよ」。「続けなさい。こんな すいた時間、他にないでしょ」。眠たくてどうしようもないジュリアン。「ほら、行きなさい」。「ママ、お願い」。父が気付いて、「何してる?」と寄って来る。「楽しんでたのよね、ジュリアン?」。「起こして、スケートさせたのか?」。母の腕をつかんで問い詰める父(3枚目の写真)。「離してよ、痛いじゃない!」。そして、「ジュディットを待ってたの」とポロリと打ち明ける。
  
  
  

この言葉に、完全にキレた父。いきなり、「ジュリアン、姉さんを起こして荷造りだ。家を出るぞ」と命令する。ジュリアンは、「マリオン、起きて。家を出るんだ」と起こしに行く。そこに父が入ってきて、「マリオン、服を着ろ。1秒たりとも、ここにはいたくない」と命じる。父は荷物を詰め始めるが、ジュリアンは何もしない。「何 やってる? 持ち物をまとめるんだ。急げ。でないと、置いてくぞ」。マリオンが、「ママは? ジュディットは?」と訊くと、「ジュディットは もう戻らん」。しかし、キッチンに居座った母は、「あんたは、子供たちと出てけばいい。私は、出てかない」と拒む。そして、「一から始めなさいよ。私はごめんだわ」「住むのは容易じゃないけど、我が家なのよ」「出てきなさい。止めないわ」。そこから始まる大喧嘩。「お前も 来るんだ」と力まかせに引っ張る父。「離れるもんですか」と断固抵抗する母。最後は、机をつかんで離さない母を、父が机ごと引き倒す(1枚目の写真)。母は、「みんな出てけ! 全部 持ってけ!」とわめきちらす。こうなると気違いだ。しかし、なぜか子供たち2人は母の味方をする。浴室に閉じ籠り、抱き合う3人。全く共感できない場面だ。ジュリアンは、先ほどまで嫌々スケートをさせられていた。だから、母の狂気は体感しているはずだ。そのジュリアンが、泣いて母に抱きついている。マリオンも、排気ガスの中で暮らすのは嫌なはずだ。2人で母を説得するならまだしも、家を離れるのを拒否する母を援護するとは。結局、3対1では、父も折れることを余儀なくさせられる(2枚目の写真)。
  
  

翌日、大量のコンクリート・ブロックと吸音材を買い込んできた父。高速経由で来て、家の前の路側帯に無理矢理駐車し、建設資材を降ろす(1枚目の写真)。まず父がやったことは、ブロックで窓を塞ぐこと(2枚目の写真)。「もっと早くやってれば よかった」とマリオン。壁には、内側から全面に吸音材を貼り付ける。その夜、芝生の上では、父と2人の子供が裸になって体の汚れを洗い流している。というよりは、父がホースで2人に交互に水をかけ、それが一種の遊びになっている(3枚目の写真)。映画は、後半に入ると、加速度的に台詞が減ってくる。この「あらすじ」の場面も、台詞はたった2つだけ。
  
  
  

翌日も作業は続く。芝生に置かれたコンクリート・ミキサーの前にジュリアンがいて、こねたコンクリートをバケツに移している(1枚目の写真)。そして、重いバケツを階段下まで運び、それを2階にいるマリオンがロープで引っ張り上げる。浴室の窓もブロックで塞いでいくが、最後に半個分のブロックを入れずに残しておく。母:「どうして、空けておくの?」(2枚目の写真)。父:「換気のためだ」。マリオン:「それで換気になるの?」。作業が全部終わり、家中を点検する4人。ジュリアンは床に耳を付けて音がしないか確かめる(3枚目の写真)。マリオンが「ここから、まだ音がするわ」と言い、ジュリアンも「ここもだよ」。母が「もう一層 貼った方がよくない?」と言う。その後、どうしたかは不明。作業が終わり、家の前に停めた車をどけた後、父が無念そうな顔をするのが印象的だ。恐らく、殺風景になった、あるいは、要塞のような家の外観を見たのであろう。違っているかもしれないが。
  
  
  

車から戻って来た父が、部屋の蛍光灯を点ける。部屋の中には扇風機が1台あるだけだ。母は扇風機の前でTVを見、マリオンは冷蔵庫を少し開いて読書中、ジュリアンはソファーに座ってヘッドホン(1枚目の写真)。マリオンが、「強さを1まで下げてよ。3は強すぎ。読むのに邪魔なの」と母に頼む。「2では?」。「まだ強いわ」。「悪いけど下げられない。窒息しちゃう」。夜遅くなると、ザコ寝ではなく、自室に戻って寝る。ジュリアンも、パンツ1枚でシーツの上に寝ているが(2枚目の写真)、息苦しくて寝られない。浴室に行き、唯一開いた換気口の前で夜の冷たい空気を吸っている(3枚目の写真)。
  
  
  

母の様子が変だ。コップに入れた水が、自動車の通る振動でカタカタと揺れるのをじっと見ている。隣で熟睡する夫が妬ましくなったのか、頭の上から枕を思い切り押し付け、窒息しそうになった夫がもがいて飛び起きる。詫びるわけでもなく、「まだ 音がする」と文句を言う。母は、眠れないので、キッチンに行って睡眠薬を捜す。テーブルの上は物が散乱しているので、なかなか見つからない。やっと捜して、大急ぎで飲む(1枚目の写真)。その後、テーブルの上に放置してあった食品を棚に入れようとするが、朦朧状態なので、棚の上にTVが載っているのもお構いなく蓋を開け、TVが床に落ちてしまう(2枚目の写真)。すごい音がしても、自分が何をしたのかすら気付かない。開けた棚に食品を入れたところで、遂に気絶する。夫は、気絶した妻を引きずっていき、顔を持ち上げて生死を確かめる(3枚目の写真)。
  
  
  

父とジュリアンが1つの部屋にいる。中は暗いが、2人とも起きているので、多分日中なのだろう。父は考え込み、ジュリアンは相変わらずパンツだけ(1枚目の写真)。人間が正常に暮らせる環境ではない。次のシーンは浴室だ。マリオンは便器に腰掛け、ジュリアンはバスタブで横になっている。この部屋には換気口があるので 逃げ込んだのだろう。それでもたまらず、ジュリアンはバスタブに上がり、換気口を開けようとする(2枚目の写真)。換気口にはいつも布が丸めて詰めてあり、それを取り除かないと空気が入ってこないのだ。布を取り除くと外は真昼だった。次のシーンは廊下だ。自動車の模型を、呆然とした表情で壁に走らせるジュリアン(3枚目の写真)。そのまま母の寝ているベッドに入って行き、母が生きているか確かめる(4枚目の写真)。「眠ってる」。マリオンが、「もちろんでしょ、死ぬはずない」。「きっと、寝てる振りだ」。「バカね」。
  
  
  
  

熟睡していた母が突然目を覚ます(1枚目の写真)。酸素不足で息が苦しい。よたよたと起きて行き、2人の子供を起こそうとするが、2人とも起きない。こんな環境では生きていけないと悟った母は、玄関まで行き、大型のハンマーでコンクリート・ブロックを割り始める。ブロックの1個が壊れ、強烈な夏の日が差し込む(2枚目の写真)。ブロックを全部叩き割り、外に出る母。凄い音で目を覚ましたジュリアンがそれに続く。あまりの眩しさに目を細めるジュリアン(3枚目の写真)。住み続けることを拒否された我が家から脱出した一家4人は、かくして、太陽の輝く野原を歩き続ける(4枚目の写真)。
  
  
  
  

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