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Il ragazzo invisibile
     インビジブル・スクワッド/悪の部隊と光の戦士

イタリア映画 (2014)

イタリアとしては珍しいスーパーヒーローものの主役を、これもイタリア人としては珍しい金髪碧眼のルドヴィコ・ジラルデッロ(Ludovico Girardello)が主演する半分コミカルな映画。少年が主役のスーパーヒーローといえば、アメリカ映画『スカイ・ハイ』(2005)、紹介済みのデンマーク映画『スーパーブラザー』(2009)〔ただし 一時的〕、インド映画『Zokkomon(ゾッコモン)』(2011)、デンマーク映画の『アント・ボーイ1~3』(2013・14・16)などが思い浮かぶ。主演者の年齢は、16、14、14、12~16だ。この他、アメリカ映画『キャプテン・ズーム』(2006)にも複数の超能キッズが登場する。これらの中で、最もスーパーヒーローらしくないのは『スーパーブラザー』、そして、その次が この映画だ。映画の前半は、主人公のミケーレが透明になるまでの経緯や、透明になれることが分かってからの時にコミカルな挿話に終始し、実際にヒーロー・スーツを着るのは映画開始1時間後。それも、いわゆるアメリカ的な派手なアクション・ヒーローではなく、13歳に相応しくおとなしいものにすぎない。しかし、この映画を面白くしているのは、ヒーローになる前の段階だ。いつも悪ガキ2人の虐めの対象にされていた少年が、スーパーヒーローの衣装で仮装パーティに出たら、好きな女の子の携帯での隠し撮り映像が暴露され、逃げ込んだ部屋で「透明になれ」と叫ぶ。すると、朝起きて鏡の前で歯を磨いていると、顔がない。全身を映す大きな鏡の前に立って、着ているものを全部脱ぐと完全に透明だ。そこからのシーンは、透明で何も見えないシーンと、全裸の姿で「透明」を表現している部分が、絶妙に交差する。確かに、すべて透明では、どこで何をしているか分からないし、表情も見えない。といって、いつも姿が見えていては、透明人間には見えない。このバランスが絶妙なのだ。そして、なぜか、透明状態が突然終わり、逆に、突然透明になったりする。特に前者は、好きな女の子の前にいる時に起きるようで、そこがまたユーモラスだ。ミケーレは、実はイタリア人ではなく、本名はアンドレイヴィチ。ロシアの秘密組織「ディヴィジョーネ〔Divisione〕」が10数年前に組織したスペチャリ〔Speciali〕 と呼ばれる超能力者の中で、人の心が読めるアンドレイを父に、透明になれるエレーナを母に生まれた子供だった。ここでは、映画製作国に敬意を表して、イタリア語の発音を採用したが、本来は、ロシアで作られた組織なので、ロシア語の「ディレニア〔деление〕」 と 「スピツァルニ〔специальный〕」を使うべきかもしれない〔映画の中には、ロシア語の台詞が20回出てくる〕。スペチャリは不妊なので、ディヴィジョーネにとってアンドレイヴィチは貴重な存在だった。自分たちの息子を組織に奪われそうになった2人は、決死の思いで逃亡する。途中、エレーナが囮になってアンドレイと息子〔実際には、息子と娘〕を救い、ヨーロッパに逃げたアンドレイはトリエステに住む独身の女性警官に「捨て子」の形で息子を預ける。その後、ディヴィジョーネはアンドレイヴィチの行方を必死になって追跡していた。そして、13年後…

ミケーレは トリエステに住む13歳の少年。弱気で控え目な性格で、いつも2人の虐めっ子にターゲットにされ、転校してきた美少女ステラにはまともに声もかけられず、携帯で動画を隠し撮りしている。警視あらすじの冒頭参照〕である母が、授業中にやってきて同級生の失踪について話した時は、話し終わってからみんなの前で忘れたおやつを渡され、「ありがとう、ママ」と囁き、冷やかされる。ミケーレは、ステラの家で開かれるハロウィーンのパーティをチャンスと捉え、スーパーヒーローの出で立ちで行こうとワクワクしていたが、母から貰ったお金を虐めっ子に巻き上げられた結果、10分の1の予算で入手できたのは、聞いたこともない中国のスーパーヒーローのコスチュームだった。肌色のパジャマみたいなので パーティに行くのをためらっていたのを、母に鼓舞されて行かされる。パーティで待っていたのは、ミケーレの携帯に入っていたステラの隠し撮り映像が映し出されるTV画面。虐めっ子の仕業だ。恥ずかしくなって逃げ出したミケーレは、2階の部屋に閉じこもり、コスチュームに向かって透明になってみせろと叫ぶ。当然、何も変化がないので、そのまま窓から逃げ出して家に戻る。しかし、朝、ミケーレが起きてみると、鏡に自分の顔が映っていない。裸になって鏡の前に立つと、透明人間になっていた。最初は、困惑していたが、意を決して裸のまま教室に入って行く。すると、虐めっ子2人に首尾よく復讐ができた。だが、悪乗りしてステラたちの入ったシャワー・ルームに入ったところで、透明から元に戻ってしまって大騒ぎ。ミケーレは、その後も、突然、透明になったり、元に戻ったりと、不安定な状態が続く。そのため、透明になっていた時に母が突然 帰宅した際は、大慌てで服を脱いで姿を消す。息子がいないと思った母は、祖母からかかってきた電話の中で、ミケーレが養子だという事実を口に出してしまう。それを目の前で聞いていたミケーレは、茫然とした状態で家から出て 海岸に向かう。そこで透明のままブランコをこいでいると、ステラが通りかかり、誰もいなのに動いているブランコに興味を惹かれ、「幽霊? 天使?」と話しかける。結果的に、ステラは「姿の見えない声」に親しみを覚える。翌日の夕方、ミケーレはまた透明になったので、ステラの家を訪れ、親密さが増すが、いい時にまた姿が元に戻り始め、慌てて逃げ出す。この逢瀬の際、ミケーレは2回目のくしゃみをして、それが「透明君」の代名詞にもなった。その夜、ミケーレは、「透明君」としてではなく、「ミケーレ」として認めてもらおうと、ステラが体操の特訓を受けている体育館に向かうが、そこでステラが拉致されていくのに遭遇。何とか防ごうとするが、大人にはとても敵わない。透明になれれば何かできると思っていたミケーレだったが、そこに大きな衝撃が。毎夜着て寝ていたためコスチュームが汚れてしまい、母が勝手に洗濯乾燥機に入れたため、縮んで着られなくなってしまったのだ。「僕の母親じゃない!」と怒鳴って家を飛び出して港に行ったミケーレは、これまで遠くからミケーレのことを見守ってきた実の父親から生誕の秘密を聞かされる。透明になるのはミケーレ自身のパワーによるものだということも。そして、透明になった時に全裸でいなくて済むよう、特別なスーツを渡してもらえる。そこから、ミケーレによるステラの救出作戦がスタートする。後は、お決まりのスーパーヒーロー物語で、書くと長くなるので、あらすじを参照されたい。

金髪碧眼の美少年ルドヴィコ・ジラルデッロは、どう見てもイタリア人には見えない。映画の中でミケーレが憧れるステラも、きれいな金髪の持ち主。舞台となるトリエステに隣接するスロベニアは、トランプ大統領のメラニア夫人の故国で、金髪の子は普通にいる。トリエステらしい設定なのかもしれない。ルドヴィコは、続編の『Il ragazzo invisibile 2』(2017)にも引き続き出演している。16歳と 大きくなり、眼光はますます鋭くなった。
    


あらすじ

映画の舞台となるトリエステは、イタリア北東端にある都市。スロベニア国境から僅か6キロ、1つ飛んでクロアチア国境まで20キロという辺境の地だ。私も、町の北6キロにあるミラマーレ城に行った際、寄ったことがある。何といってもそのシンボルは1756年に造られた運河〔1849年に正面にサンタントニオ・ヌオヴォ教会が造られたことで、長さ330メートルに短縮された〕。映画の冒頭、秘密組織ディヴィジョーネが、スペチャリの1人に、アンドレイヴィチの居場所を壁の漆喰に描かせる。そこに描かれたのがトリエステの大運河(1・2枚目の写真)。その特徴ある風景で、居場所はたちどころに知られてしまう。ディヴィジョーネは港の一角にある工場の中に基地を設け、アンドレイヴィチを発見した際に連行する潜水艦まで用意している。指揮をとっているのは、アルティーリョ(=鉤爪)という老人。人の心を「引っ掻く」ことで、自由に操ることができる。
  
  

2013年10月31日(木)の朝、通学途中、自転車で運河近くの商店街を走っていたミケーレは、ある店の前でスパイダーマンのコスチュームが49.9ユーロ〔当時の相場で6750円〕で売られているのを見つける。母からもらったのが50ユーロなので、ちょうど買うことができる(1枚目の写真)。しかし、店のドアには、営業時間が 「8:30~11:35/15:30~19:30」 と明示してあり、ミケーレが開かないドアをガタガタさせても、50ユーロ札をガラスに貼り付けてみせても、店主は朝食のパンを食べながら、営業時間表示を指で示すだけ。お金を持って学校に行くと、虐めっ子に取られてしまう可能性が高い。そこでミケーレは、自転車を置くと、運動靴のタンとシューレスの間に隠す。その後、ミケーレが上がって行く立派な正面階段(幅が40メートルもある)は、当然、中学校などではない。撮影箇所は学生数2万のトリエステ大学だ。教室もセットではなく、この大学の教室。だから、120人用の階段教室に生徒が24人しかいないという奇妙な状況になる 〔中学校にしては立派すぎたので、Googleの航空写真を立体表示させて場所を捜し大学と判明した。ネットで教室内の写真もチェックできた〕。ミケーレは、最近転校してきたステラが好きなので、後ろの席に陣取り、試験中にもかかわらず携帯で後姿の動画を撮っている(2枚目の写真、矢印は携帯)。しかし、それが教師に見つかり、没収されただけでなく、解答用紙が白紙のままなのが見つかる。「何も書いてないじゃない。カサディーオみたいに3年生を2回やる気?」〔イタリアでは小学校は5年生まで。だから中学3年で13歳〕。イヴァン〔カサディーオは姓〕は、ミケーレの筆頭虐め人だが、「俺、2年生も2回やったすよ」と言い、生徒たちが大笑い。そこに、校長が警官2人を連れて教室を訪れる。「警察の方からお話があります」。それは、ミケーレの母だった〔ミケーレは、父の警官を早くに亡くした母子家庭の一人息子〕。因みに母の階級は、肩章から警視〔ispettore superiore s.u.p.s.〕であることが分かる 〔日本版DVDでは「警部」としているが、警部〔ispettore〕、主任警部〔ispettore capo〕の上が警視。ただし、日本の警察の体系とは異なるので、同じ役職とは限らない〕。母は、同じクラスのマルティノ・ブレッチャという生徒が2日前に姿を消して以来 行方不明なので、注意喚起に来たのだ。説明が終わった後、部下に言われて、ミケーレの席まで上がって行くと、「おやつ、忘れたわよ」と渡す。ミケーレは、他の生徒の手前恥ずかしくてたまらない(3枚目の写真。後ろの席で、2人が笑っている)。小さな声で、「ありがとう、ママ」と言うが、顔の割には幼い声だ〔ハリー・ポッターが第2話から声変わりして、顔の割に低音だったのと正反対〕。母が去ると、虐め仲間のイヴァンとブランドが「母にキス」のマネをしてからかう。いざ、用紙に答えを書こうとすると、鼻血が落ち、中断してトイレに向かう。ミケーレは最近、鼻血がよく出るのだ。
  
  
  

トイレで鼻に栓を込め、両手を洗っていると、終業のベルが鳴る。ミケーレは慌てて個室に隠れる。さっそくイヴァンとブランドがやってくる。「どこに行きやがった?」。「聞かれちゃまずい」。いきなり個室のドアが強打される。ドアの板が破られ、その穴から、ブランドが 「ミキ、僕ちゃん、悪いオオカミだぞ〔Michi, sono il lupo cattivo〕」とニヤニヤしながら言うと、手を突っ込んでロックを解除する。入って来たのは、大柄の暴力的なイヴァン。ミケーレの胸をわしづかみにし(1枚目の写真)、引きずり出して反対側の壁に叩きつけ、ペイントボールガン〔17mmのゼラチン製ペイントボールを炭酸ガスで発射する銃〕の撃鉄を上げる。ブランド:「金を吐き出せ」。イヴァン:「靴だぞ」。「バッチいな」。7000円ともなれば、明らかな犯罪行為だ。ミケーレは「返せ! 要るんだ!」とブランドにつかみかかろうとするが、イヴァンにもう一度叩き付けられる〔鼻血の栓も落ちる〕。ブランド:「ママに逮捕してもらうか?」。イヴァン:「それとも、パパに殴らせるか? わりい、パパはいなかったっけ」。ミケーレ:「刑務所にいるよりマシだ、このバカ」。ミケーレは腹部に強烈な一発をくらう。「ムショにはもういない。昨日出た。それに、俺はバカじゃねぇ」。そして、ペイントボールガンを突きつけ、「10秒やる。お優しいだろ。「そんなのおかしいよ〔Sì, ma così non vale〕」。抗議にはお構いなしに、「10、9…」と数え始める。ミケーレは必死で逃げるが、生徒たちが大勢みている前で、背中から撃たれて廊下に前のめりに転倒。ブランドは、ワザと左手を踏んで行き、痛さにミケーレが叫ぶ(3枚目の写真、矢印はブランドの靴)。イヴァンが、ブランドに「クソを踏んじまったな〔Hai pestato una merda〕」と言うと、生徒たちが笑う。ミケーレにとって、大金を巻き上げられた上に、ひどい屈辱まで味わわされた。
  
  
  

ミケーレが帰宅して最初にやったことは、パソコンでステラのフェイスブックを見て(1枚目の写真)、今夜の20時30分からステラの自宅で開かれるハロウィーン・パーティに、「出席」とクリックしたこと。そして、ブリキ缶の中から手持ちの現金を探すが、あったのは5ユーロ札1枚きり(2枚目の写真、矢印は5ユーロ札)。写真の左に写っているのは、お手伝いさんの娘カンデラで、ミツバチの格好をしている。彼女がつけている「鼻付き眼鏡」は後で再登場する。ミケーレは、そのお金を持って中華街に出向く。お化けグッズを売っている店に入り、出て来た少し年上の店員に、「スーパーヒーローのコスチューム。お金 これだけしかないけど」とお札を見せる。店員が持って来たのは、シン・シャオ(Xin-Xiao)という中国のスーパーヒーロー〔ネットを見ても、Xin-Xiaoではヒットしなかった〕。それを見たミケーレは、あまり乗り気ではない。「どんなパワーがあるの?」(3枚目の写真)。「着れば分かる」。
  
  
  

母が夜 帰ってくると、ミケーレが買ってきたコスチュームを着て、げんなりした顔でソファにかけている。実際に着てみて、パーティに行く勇気がなくなったのだ。母は、「怪物君、ステラのパーティに行ってなかったの?」と訊く。「行かない。カッコ悪い」。「どこが? 50ユーロでしょ?」。そして、姿を見て、「それ何?」。「スーパーヒーロー。中国の」。「他に誰も着てないわ。立ってみて」。うなだれているので、「頭をあげて」(1枚目の写真)。マントも変に短いし、ミケーレが不満なのは十分納得できる。それでも、母は「素敵じゃないの」と褒める。「痒いんだ」。「スーパーヒーローは大変なのよ」と言い、さらに、「多くの人々を危険から救う…」と続けると、ミケーレが「パパみたいに?」と訊く。「ええ、だいたい。私みたいな警官だった」。「じゃあ、みんなを危険から救ったんだ」。「パーティに行きなさい。ステラに悪いでしょ」。ステラの家は、子供たちで溢れんばかりだった。ステラの扮装は、ギロチンにされたマリー・アントワネット。ミケーレの服にさっそくケチを付けたのはブランド。「下痢したのか?」〔淡い黄土色なので〕。「スーパーヒーローだ。中国の」。その場を救ったのはステラだった。中国にいたことがあると言って。話はうまく続きそうだったが、そこにブランドが割って入る。「みんな、注目して欲しい」といい、TVに映し出された映像に注意を向ける。そこにはステラが映っていた。隠し撮り映像だ。不快に思ったステラはTVを消し、「何よ これ?」と前にいたイヴァンに訊くと、「奴に訊けよ」とミケーレを指差す(2枚目の写真)。ブランド:「先生が取り上げた あいつの携帯からコピーしたんだ」。ステラ:「ほんとなの?」。ミケーレは、何も言わずに逃げ出す。みんなに追いかけられ、2階のバスルームに逃げ込むと、大きな鏡の前に立ち、「おバカな中国のコスチュームめ、お前の超能力は何だ?」と鏡に写ったコスチュームに声をかける。その時、ドアを叩く音が強くなり、ミケーレは思わず、「透明になれ〔Fammi diventare invisibile〕!」と叫ぶ(3枚目の写真)。雷鳴が轟き、一瞬真っ暗になり、再び明るくなると、ミケーレの姿がない(4枚目の写真)。コスチュームにパワーがあって、本当に透明になったように見せる演出が面白い。実際は、開いている窓が示すように、ミケーレは窓から桟にぶら下がって飛び降りただけだ。
  
  
  
  

翌11月1日の朝、コスチュームを着たまま、ミケーレはベッドで眠っている。7時に目覚ましが鳴り、渋々ベッドから床に足を下ろすと、愛犬のマリオの様子が変だ。歯を磨きに洗面に入る前に、全身を映す鏡の前を通るミケーレの頭部がないのが一瞬だけ見える〔初見では見落とした〕。ミケーレはコスチュームを脱いでシャワーを浴びる〔映像はない〕。次に映るのは、真っ白なフード付きバスローブを着た上半身の後姿。歯ブラシに歯磨き粉〔そういえば、「粉」でないのに名称は歯磨き粉〕を付け、いよいよ磨き始める。鏡に写っているのは、バスローブと歯ブラシだけだ(1枚目の写真、矢印は歯ブラシ)。鏡を見て、自分の姿がないことにびっくりするミケーレ(2枚目の写真)。本来なら、透明なので顔も見えないはずだが、この映画では、透明になっていても、半分以上の場面で、姿を映し出している。その方が、実際に何をしているか分かり、面白い。ミケーレは思わず歯ブラシを落とし、全身を映す鏡の前に立つとバスローブを脱いで全裸になる(3枚目の写真、赤い矢印は床まで届く大きな鏡、ピンクの矢印は鏡に写った「脱ぎ捨てたバスローブ」、黄色の矢印は鏡に写った「ベッドカバー」)。こうして、注意喚起しないと、鏡でなく、ドアが開いていて、別の部屋があるように見えてしまう。そこに突然、母が「ミキ、準備できた? ほら、怪物君、遅刻よ」と言いながら部屋に入ってくる。誰もいないので、床に落ちているバスローブを拾い上げる。すぐ脇にミケーレもいるが、透明なので見えない。しかし、愛犬のマリオは怖がってベッドの下に入っている。母が、マリオを見ている隙に、ミケーレは「先に行ってる。M」とメモを書いてベッドの上に乗せる。その後、マリオが吠えてミケーレの前に行き、何もない壁に向かって吠えて、それを見た母が近付いて行く「近接遭遇」シーンを、ミケーレの姿を見せたり、透明にしたりして見せる。母が去った後、誰もいない部屋から、「で、どうする?」のつぶやきが聞こる。ミケーレの悩みは深刻だ。
  
  
  

ここから、この映画で最も面白い部分が始まる。「透明」ならではの悩みと楽しみだ。突然、透明になったことに困ってしまったミケーレは、それでも、学校に行こうとし、何重にも着込んだ上に、帽子の上からフードを被り、サングラスをかけ、マフラーを顔に巻きつけ、手袋をはめる。そして、自転車に乗り、学校の大階段の下の自転車置き場まで着くと、変な姿を見られないよう、バンの影から生徒たちの様子を覗う。しかし、こんな格好で学校に入って行く勇気はない。ミケーレはバンの裏にへたり込むように座る。左手の手袋を外してみる。当然、何もない。「僕は、怪物だ」(1枚目の写真)と悲しげに言うと、自転車に乗って帰ろうとする。その時、階段で鞄の中にペイントガンを入れているイヴァンの姿が目に入った。これは、ひょっとしたら、仕返ししてやる いいチャンスかもしれない。ミケーレは、バンの陰で、着ていた服を順に脱いでいった。そして、全裸になると、大階段を決然と上がって行く(2枚目の写真)〔11月1日ともなれば秋本番だ。この日のトリエステの朝8時半の気温は13℃。思ったほど涼しくないが、何も着ていなのは結構寒い〕
  
  

教室に入って行ったミケーレは、イヴァンの座っている連続机の中央通路側に立てかけたペイントガンを確認。音がしないようこっそりと階段を降りて行く。イヴァンはイヤホンをはめて音楽に夢中になっているので何も気付かない。ミケーレはペイントガンを取り上げると、黒板目がけて1発発射し、すぐさまイヴァンに向かって投げる(1枚目の写真)。教師が振り向き、「カサディーオ!!」と絶叫(2枚目の写真)。イヴァンは、なぜか自分の手元にあるペイントガンを手に立ち上がると、「ちゃうぜ、先…」と言うが、現行犯と断定される。その後の教師と校長の会話からすると、停学ぐらいにはなったであろう。かくして、ミケーレの復讐は達成できた。ミケーレは、教師の部屋に入って行くと、昨日の答案用紙の中から自分の用紙を探し出し、多段チェストから模範解答を取り出すと、それを丸写しにする(3枚目の写真、矢印は昨日の鼻血)。透明になって2つ目のイタズラ成功だ。
  
  
  

次のターゲットは、もう1人の虐めっ子ブレンド。彼は、テニスの練習試合中で、父親も見に来ている。ミケーレは、サーブを打とうとするブレンドに近付いて行くと(1枚目の写真)、ボールを上げた瞬間、後ろから背中を叩いて「おい」と声をかける。びっくりしたブレンドは、とんでもないミスショットを放つ。ビデオで撮影していた父親に「何のざまだ!」と怒鳴られ、両手を拡げて「どうしたのかな」と身振りで示すブランドの後ろで、ミケーレがほくそえんでいる(2枚目の写真)。次のサーブでは、ミケーレがブランドの背中を押し、狂乱状態のブランドは誰かそばにいるのではと ラケットを振り回す。結局、試合は惨敗。控え室に戻ったブランドに、父親は、「なんで試合を投げた?!」と叱る。「びびってたな〔Te la sei fatta addosso〕。怖かったのか?」。「パパ、何か起きたんだ」。「歩いて帰れ。じっくり反省するんだな」。1人取り残され、うな垂れるブランド。しかし、ミケーレの復讐は終わらない。ここからは、ミケーレの姿は一切映らない。横のベンチに置いてあったテニスボール入りの筒が突然倒れ、中に入っていたボールが1個、床に落ちる(3枚目の写真、矢印はボール)。ブランドがボールを取って筒に戻すが、また倒れて落ちる。動揺するブランド。ボールを拾おうとするが、勝手に転がって拾えない。ボールは、トイレの個室の中まで転がっていき、ブランドが拾おうと近付いていくと、中から飛んできて額に当たり、「僕と遊びたいか?」と声がする。「助けて!」と逃げ出すブランド。これで復讐は完了。
  
  
  

ミケーレは、イヴァンが 呼び出された父親に殴られ、車に押し込まれるのをじっと見ている。すると、その前の大階段を、体育の教師に先導された女生徒の一団が、走って行く(1枚目の写真)。教師は、生徒たちに、「シャワーに行きなさい」と声をかける。これを聞いたミケーレの顔がほころぶ。ヴィヴァルディの『四季』の「春」の第1楽章が流れ、シャワー室で集う乙女たちの姿が映される。その真ん中に座り、ミケーレは物珍しげに周りを見ている。透明になれた幸運を享受しているように(2枚目の写真)。そして、お目当てのステラに目が釘付けに。その時、女生徒の一人がイスに向かって投げたバスタオルが、ミケーレにすっぽり被さる。こうなっては、透明であるメリットは何もなくなる。部屋中にいた女生徒の目が、部屋の真ん中にいる「タオルをかぶった誰か」に集まる(3枚目の写真、矢印がタオルをかぶったミケーレ)。タオルの中では、さらに大変なことが起こり始めていた。透明のはずの自分の手が見え出したのだ。慌てて、どうしようかと動転するミケーレに、タオルを取ろうと近付いてくる手が見える。タオルをむしり取った瞬間に上がる悲鳴(4枚目の写真、矢印はむしり取ったタオル)。シャワー室に全裸の男の子がいれば、大騒ぎになるのは当然だろう。実に、ユーモラスな展開だ。
  
  
  
  

当然 ミケーレは校長室に連れて行かれ、母も呼び出される。次のシーンは、1件が終わり、母と一緒に車に入ったミケーレ。「説明して。私には、想像もつかないから」「停学にならなかったのは奇跡ね」「ミキ、女の子は 急ぐのは嫌なの」「服を脱ぐのは最後にしなきゃ、言うのも変だけど」「どこか悪いの? どうかしたの?」。ここまで黙っていたミケーレは、一言、「ううん」。母は、話を変えようと、「ロティサリー・チキン〔回転式のチキンの串焼き〕、食べに行く?」と言うが、「おなか減ってない」(1枚目の写真)。ミケーレは絶望の縁に立っている。校長室で叱られたことより、昨夜に続いてステラに嫌われたことの方が重大だ。その時、母の携帯に連絡が入り、ブランドが消えたことが知らされる。2人目の失踪だ。そして、場面は翌日に。教室では警察の心理学者バジリ博士が、同じクラスから2人目の失踪について生徒が安心するよう、もし自発的失踪なら、再発しないよう話をしている。ミケーレは、斜め後ろに座っているステラを申し訳なさそうに見るが、反応は冷たい。そのうち、丸めた紙が飛んで来る。開いてみると(2枚目の写真)、そこには、「シレンツィ/キチガイ〔SIRENZI/MANIACO〕〔マニアックは、日本語と違い、狂人が第一義。シレンツィはミケーレの姓〕と書いてあった。しばらくすると、手が脈打つように光りだす。昨日、シャワー室で起きたのと同じだ。そして、手の先が消える。ミケーレは急いでフードをかぶり、机に顔を伏せて終業のベルを待つ。その時、博士の話は、「家出する歴とした理由があるのか、それとも、単に自分を試しているだけなのか」まできていて、それがちょうどミケーレの席の前だったので、「君は、どう思う?」と尋ねられる(3枚目の写真)。最悪のタイミングだ。その瞬間、ベルが鳴ったので、ミケーレは教室から飛び出して行く。それを見た博士が、「彼には、逃げ出す歴とした理由があるな」と言う。確かに、二重の意味でぴったりだ。
  
  
  

ミケーレが自分の部屋に帰り着くと、ベッドにはカンデラが腰掛けていて、いきなり 「クモは口から糸を出すのに、スパイダーマンはどうして手首から出すの?」と訊く。1人だと思っていたミケーレは、慌ててドアの隅を向くと、「カンデラ、下に行けよ」と言う。「どうして?」。「ママが呼んでたぞ」。「ウソよ」。ミケーレは、壁を叩いて「カンデラ、頼むから!」と強い調子で頼む。カンデラは、ドアの前に行くと「通してよ」と頼む(1枚目の写真)。ミケーレは後ろを向いたまま、左手でドアを開ける。そうした様子を怪しいと思ったカンデラは、「じゃあね」と言いながら、動かず、そのままドアを閉める。カンデラが出て行って1人になれたと思ったミケーレが、顔を覆ったマフラーを外し、フードを下げて振り向く。顔がないので、カンデラが悲鳴をあげる。ミケーレも驚いたが、まず叫び声を止めるのが先決なので、カンデラに飛びかかる(2枚目の写真)。下から、お手伝いさんが、「どうかしたの?」と大きな声と訊くので、ミケーレはカンデラの口を押えたまま「何でもない。大丈夫だよ!」と叫び返す。そして、カンデラに「手を離しても、叫ばないって誓うか?」と小声で訊く。カンデラが頷いたので口から手をどける。カンデラは、黙ったまま手で頬のあたりをそっと触ってみる。ミケーレは、歩きながら、自分に言い聞かせるように話す。「コスチュームを着た時は、異常 感じなかった。ちょっと脚が痒かったけど、アクリル繊維のせいだ… と思う。パワーは、寝てる間に肌に浸み込んだんじゃないかな」。カンデラが、「洗っても消えないの?」と訊く。「ぜんぜん」(3枚目の写真、鼻付き眼鏡は、最初カンデラがつけていたもの)。「じゃあ、これ魔法のパジャマなんだ。夜これ着て寝れば、朝には透明になってるのね」。「魔法のパジャマ? 確かに、パジャマみたいに見えるな」。「長いこと着てれば、それだけ長く透明になれるかも」。その後で、「いつ普通に戻れるの?」と訊くが、これはミケーレの勘に触り、「そんなこと知るもんか」と怒る。「あなた、スーパーヒーローね。インビジブル・ボーイだわ。みんなを危険から救わなきゃ」。「誰を助けられる? 僕は負け犬なんだぞ」。
  
  
  

ミケーレがふてくされてマンガを見ていると、「ミキ」と呼ぶ母の声が聞こえる。ミケーレは、急いで着ているものを脱ぎ捨てる(1枚目の写真、空中を飛んでいるのはセーター)。母が、部屋に入って来た時には、透明になってはいたが、床には脱ぎ捨てたものが散乱。ため息をついて片付けたところで、祖母から電話がかかってくる。話は、ミケーレのことになり、「ミキのことが心配なの。いらいらして、どうかしちゃってて、とげとげしいの〔È nervoso, strano, ostile〕。昨日はとんでもない馬鹿をしでかし、今日は家にいないの。何も言わずによ」。ミケーレは、母の向かい側に座る(1枚目の写真)。その後の、母の言葉は決定的だった。「もしかして、あの子、何かの拍子に養子だって気付いたのかしら?」。あまりのことに驚いたミケーレは(2枚目の写真)、体を動かしてしまいイスが軋る。母が怪しんだので、ミケーレは慌てて部屋を出る。「ミキ、あなたなの?」。ミケーレは黙ったまま正面に立って母を見つめている。このシーンの後半は、本来透明なミケーレの姿が「見える」ので、とても効果的だ。
  
  
  

動転した心を休めるため、ミケーレは海岸に行き、1人でブランコに乗る(1枚目の写真)。そして、茫然としてブランコを漕ぎ続ける〔ここから、姿は見えない〕。と、そこにステラが散歩で通りかかる。すると、誰もいないのにブランコが動いている。ステラが不思議そうに見ていると、突然ブランコが止まった。ステラに見られていることに気付いたミケーレが、ブランコをこぐのを止めたのだ(2枚目の写真、ここだけ顔が映る)。その時、くしゃみの音がし、ブランコが少し揺れる〔この日は、11月2日。時間は、午後の最も暖かい時で18℃はあるが、それでも裸のままでは肌寒い。これからミケーレは 何度もくしゃみをするようになる〕。ステラは、見えない何かがいるのではと思い、ブランコにゆっくりと近付いていくと、隣のイスに腰を降ろす。そして、優しい顔で、「あなた、誰?」と声をかける。「幽霊? 天使? それともただの風さん?」。地面に落ちていた木の棒が、地面に円と小さな点を2つ描く。「これが あなたなの?」(3枚目の写真)。
  
  
  

そう言うと、ステラは、地面に描かれた絵に、口を描き足す(1枚目の写真)。スマイリー・フェイスだ。ステラは、「どっちが高くこげるか競争よ」とブランコを漕ぎ始める。誰もいない方のブランコも同じように動き出す(2枚目の写真)。漕ぐのをやめたステラは、「お友だちにならない?」と訊く。ミケーレのブランコも止まる。「友だち、少ないの。お母さんが、知らない子と話しちゃダメだなんて言うから…」。そして、「ママはいるの?」と訊く。さっき衝撃的な話を聞いたばかりのミケーレは、「ううん」と答えるが、この声で、相手が同年代の男の子だと分かる。同情したステラは、「キャンディー食べる? 最後の1個なの」と差し出すが、返事はない。「食べられるのよね?」。その時、「僕が怖くないの?」と囁き声が聞こえる。「まさか!」。その時、練習の時間を知らせるメールが入る。「また会えるわよね?」。返事がない。「何か言ってよ〔Si fa per dire〕」。返事はまたなかったが、ステラが、「いいでしょ?」と言って立ち上がると、「いいよ」と囁き声。2人が一緒のシーンには、一度もミケーレの姿は映らない。ステラが去った後、満足げに見送るミケーレの顔が映る(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日は雨。昨日のことで勇気を持ったミケーレは、授業中、前の席に座るステラの肩に触れ、「謝りたいんだ…」と言い始めると(1枚目の写真)、ステラは微笑んで「いいのよ」と言ってくれる。そして、ノートにスマイリー・フェイスを描く。ステラの頭は、昨日の素敵な出会いで一杯なのだ。それを見て、ミケーレはにんまりする。
  
  

その日の夕方、ステラが自分の部屋で逆立ちの練習をしていると、窓ガラスが一部曇っているのに気付く。ステラが窓の前に立つと、曇ったガラスに、スマイリー・フェイスが描かれていく。その絵にガラスの反対側から触って微笑むステラ(1枚目の写真)。昨日の謎の友だちが、来てくれたのだ。さっそく、ステラは窓を開ける。「入った?」。真後ろから「うん」という声が聞こえ、ステラがどきっとする。「びっくりしちゃった」と言いながら窓を閉める。微笑みは消えていない。「どこなの?」。ベッドの隅が、重さで沈む。ステラが横に座ると、大きなくしゃみ。「また くしゃみしてる。寒いの?」。「少し」。ステラは、「また会えると思ってた」と言いながら、毛布をかける。「ほんとに存在してるの?」。「そうだよ」。「目を閉じたら、見えるかしら?」。当然、見えない。ステラは、「もっと近付かなきゃ」と言うと、毛布の中に入る。ステラはキスするように、顔を近づけていく(3枚目の写真)。これはステラの立場からの映像で、ミケーレは映っていない。しかし、次の瞬間、今度はミケーレの立場からの映像に切り替わり、毛布の中に2人の顔がぴったりくっついている。その時、また手が脈打つように光り出す。透明から実体に変わりつつある。ミケーレの目が恐怖に見開かれる(4枚目の写真)。素っ裸でステラと一緒にいるのがバレたら! ミケーレは「行かなくちゃ」と言うと、毛布をかぶったまま、窓から地面に飛び降りる。このあたりの青春を思わせる心のときめきも、透明とうまく噛み合って面白い。ただ、学園ドラマ風のインビジブル・ボーイは、残念ながら ここで終了。ストーリーはスーパーヒーローへとスライドしてゆく。
  
  
  
  

帰宅したミケーレはカンデラに 「彼女に話すべきよ」と何度も説得される。悩んだ末、ミケーレは決然と「話すことにする」と宣言(1枚目の写真)。ステラは、夜の体育館で、平行棒の特訓中だ。練習の前半が終わり、コーチがコーヒー・ブレイクで去り、ステラが1人になる。ミケーレは、犬のマリオを連れて体育館に向かう。その間、「なぜ ここにいるの?」と訊かれた時のために、いろいろと言い訳を考えている。そこが可愛い。ステラは1人になっても平行棒に上がって練習を続けている。その時、体育館に不法侵入した男が、麻酔銃でステラを撃ち背中に矢が刺さる。ミケーレが体育館の前に着くと、ステラを担いだ黒ずくめの男がいるのがガラス越しに見える。ミケーレは、「ステラ!」と叫びながら男を追う。そして、出口から出て来た男に、「放せ!」と襲いかかるが(2枚目の写真)、簡単に投げ飛ばされてしまう。2度目の試みも簡単に跳ね除けられるが、マリオは頑張って男の右の手首に噛みつく。男は、犬を振り払い〔子犬なので〕、バンに乗り込む。ミケーレは、ドアにすがって、男の運転の邪魔をしようとするが、車から振り落とされる。ミケーレの通報で母と警察が現場に駆けつける。母は、「大丈夫? 痛い?」と心配するが、ミケーレは「止められなかった」と悔しがる。「十分 やったわ」。その脇を奮闘したマリオが軽い骨折で運ばれていく(3枚目の写真)。「獣医に診てもらえば、明日には戻ってくるわ」。「マリオは偉いよ。手首に噛み付いたんだ」。
  
  
  

一晩中、「ステラを助けなきゃ」とうなされ続けたミケーレは、朝起きると、さっそくコスチュームを捜し始める。しかし、定位置にない。さては、と洗濯乾燥機の中を調べると、すごく縮んでしまっていて、とても着られない〔アクリル繊維は縮まないはず…〕。カンデラ:「まだ、パワーあるかしら?」。「着れないのに、分からないだろ」。そう言うと、ミケーレはカンデラをニヤリと見て、カンデラにコスチュームを着せる。カンデラは、「寒いわ」「ずっとこのまま着てるの?」「きっと、あなたにしか効かないのよ」とやる気ゼロ。憤慨したミケーレは、母の部屋に行くと、「僕のコスチューム洗った?」と詰問する(1枚目の写真)。「臭ったから」。「ダメにしちゃった」。「直してみるわ」。「直せるもんか。大嫌いだ!」(2枚目の写真)。後ろで聞いていたお手伝いさんが、スペイン語で「ミキ、お母さんにそんな言い方ないでしょ」とたしなめると、後ろを振り向き、「僕の母親じゃない」と早口で言うと、今度は直接母を向いて、「あんたは僕の母親じゃない!」と怒鳴る(2枚目の写真)。その声で、母の後ろの本箱のガラスにヒビが入る〔ミケーレの2番目の超能力の最初の兆し〕。ミケーレは、自分が養子だと知っている… 母は愕然とする(3枚目の写真、矢印はヒビの入ったガラス)。ミケーレがドアを荒っぽく閉めて家から出て行くと、ガラスが砕け散る。
  
  
  

ミケーレは、うっぷんを晴らすように自転車をこいで港に向かう。一方、拉致されたステラは、潜在能力を調べられた後、スペチャリではないと分かり、マルティノとブランドが監禁されている部屋に移される。拉致を実行したのは、アンドレイヴィチがトリエステにいることを発見した秘密組織ディヴィジョーネで、少しでも才能のありそうな13歳を拉致しては、それが本人かどうか確かめていたのだ〔便宜上、アンドレイヴィチと書いたが、実は、エレーナは双子の兄妹を産んでいて、ディヴィジョーネには男女の区別がつかなかった。ただし、このことは映画の最後にしか分からない。だから、なぜ女性のステラを拉致したのか、最初に見た時は変に思った〕。画面は、海に向かって石を投げているミケーレに変わる。そこに盲人用の杖をついた男が寄ってきて、声をかける。「コスチュームに意味はない」。警戒するミケーレに、「違う、君の友だちを誘拐したのは私じゃない」。「どうして、僕の考えてることが分かるの?」「いったい誰なの?」。「名前は、アンドレイ。君の父さんだ」。ミケーレは、「父さんは死んだ。警官でヒーローだった」。「そう 聞かされてただけだ」。そして、アンドレイはロシアで13年以上前に体験したことを語り始める。原子力災害があり、多くの人が死に、ごく少数の人間のDNAが突然変異し、スペチャリと呼ばれる超能力者が生まれたと 〔こうした設定は、映画で時折見られるが、広島や福島を体験した日本人にしてみれば、奇妙で侮辱的な設定にしか思えない〕。スペチャリを統括する秘密組織がディヴィジョーネで、スペチャリはシベリアの施設に収容されて特殊能力を伸ばす訓練をさせられた。それが原因でアンドレイの視力も奪われた。ディヴィジョーネにとって最大の懸念はスペチャリが不妊だったこと。これでは組織はいずれ消滅する。しかし、アンドレイとエレーナには生殖能力があり、子供が生まれた〔この段階では、アンドレイヴィチ1人だけに見える〕。ディヴィジョーネは、後継者を育てるために子供を奪おうとするが、それに反抗したミケーレの両親は逃亡を試みる。しかし、透明になれる能力をもつエレーナが、かく乱作戦でアンドレイとわが子を救おうとして射殺されてしまう〔死んだように見える〕。アンドレイは、わが子を連れてヨーロッパ中を逃げたが、このままでは早晩捕まると思い、今のミケーレの母親が、とてもいい人間で、何よりも子供を欲しがっていることを知り〔アンドレイの超能力は読心〕、戸口に置いて後を託した。以来、アンドレイヴィチは、ミケーレの名前で育てられてきた〔1枚目の写真〕。ミケーレは、「誰の心でも読めるの?」と訊く(2枚目の写真)。「近くにいればな」。そして、近くで釣りをしている老人が 児童誘拐ではないかと疑っていて、もうすぐ警察に電話すると、ミケーレに教える。その頃、警察署では、母が、ミケーレが家出したと思い心配している。そして、バジリ博士に「今日、ミケーレは、私が母親じゃないって言ったの」と悩みを打ち明ける。「それが?」。「事実なの」。「知らなかったな」。「誰も知らないわ。どうして知ったのかしら?」。ディヴィジョーネがトリエステに送った捕獲団のトップは、アルティーリョ(鉤爪)という超能力者だった。他人の心の中に入り込み、自由に操れる能力を持ったこの老人は、昨夜、バジリ博士に乗り移り、ステラを拉致していた。博士が、「ミケーレ=養子」だと聞きた段階で、「ミケーレ=アンドレイヴィチ」だということが鉤爪に知られてしまった。一方、港では、ミケーレが自分の超能力について話している。「僕には、パワーなんてない。コスチュームがくれたんだ」。「コスチュームは君の心を解放しただけだ。いつかは起きたことだ。随分大きくなったからな。最近、鼻血がよく出るんじゃないか?」。「そうだよ」。「コスチュームには何の意味もない。パワーは君の中にある」。「コントロールできないよ」。「すぐに覚えるさ」。そして、釣り人のそばを通った時、「児童誘拐」に関する記憶を消去する。そして、アンドレイは、「冬に裸で歩き回るのは良くない」と言うと、同じ悩みを抱えていたエレーナのためにディヴィジョーネが開発した特殊なスーツを渡してくれる。「君が透明になると、スーツも透明になる。いつも素肌の上に着ていなさい」(3枚目の写真)。そこに描かれた赤い「C」の文字は、ロシア語の「スピツァルニ〔специальный〕」の頭文字だ。
  
  
  

記憶を消される前に、釣り人は警察に通報していたので、アンドレイが去るのと入れ替わりに母と、「鉤爪」に操られたバジリ博士がやって来る。警官が釣り人に訊いても、何も覚えてないと答えるので、鉤爪にはアンドレイのせいだと分かる。母は、朝、衝撃的な言葉を投げつけて出て行った息子との初顔合わせになるので、慎重に質問する。「ここで、何してたの?」。「何も」。「何も見なかったのね?」。ミケーレは首を横に振る。バジリ博士はミケーレの様子を窺っている(1枚目の写真、ミケーレの真後ろ)。「家出みたいなこと、もうしないでね。二度とよ」。ミケーレは答えない。母は、自分はこれから獣医の所に行って犬をもらってくるから、先に家に帰るように言う。その時、バジリ博士が「私が送って行こう」と進み出る。ミケーレは家に着くと、自分の部屋に駆け上がる。そして、父からもらったスーツを、床の上に拡げてみる(2枚目の写真)。ミケーレが服を脱ぎ始めると、バジリ博士が階段をそっと上がってくる様子が映される。ミケーレが着終わって、鏡で自分の姿を見ていると〔この時は、まだ透明ではない〕、ドアの外から、いきなり「大丈夫か?」と声がする。ミケーレが大慌てでプルオーバーを着ると、ドアが開いて博士が顔を覗かせる。「悪かった。返事がなかったので」。「聞こえなかった」。「紅茶が入った。スナックでも食べたらどうだ」。ミケーレは、そのままの格好で、一緒にキッチンに下りて行く。
  
  

博士は、年頃の少年の心と体の変化について話すが、ミケーレは聞き流している。しかし、博士がクッキーの入ったビンを差し出すと、右手の手首には包帯が巻かれ、血が2ヶ所から滲み出ている。ミケーレはそれを見て、昨夜マリオが噛み付いた張本人が目の前に座っていることに気付く。逆に、博士も、ミケーレの顔の表情を見て、悟られたことに気付く。博士は、眼鏡を外すと、「君は、自分の能力を発見したようだな?」と、相手がアンドレイヴィチだとして話しかける。ヤバいと思ったミケーレは、「ちょっとトイレ」と言って家から逃げようとするが、ドアが開かない。博士:「ドアには鍵をかけた。外は、悪者で溢れているからな」。ミケーレはキッチンに逃げ込んで内側からロックし、電話をかけようとする。博士:「警察に電話すると、君の友達は死ぬぞ」。ミケーレは包丁の入っている引き出しを捜す。博士:「開けるんだ。ケガをさせたくない」。ミケーレは包丁を取り出して決断する(1枚目の写真、矢印は包丁)。ドアをドンドンと叩く音が響く。ミケーレは服を脱いでスーツだけになる。そして、遂にドアが破られる。中には誰もいなかった。ミケーレは、自分の意志で透明になることができたのだ。床に脱ぎ捨てられたプルオーバーと運動靴を見て、博士は、「おお、若きアンドレイヴィチよ。君は、母親に似たのだな。我々は、君を捜し続けてきた。どのくらい透明でいられる? 力を使う時、痛みを感じるのか? 頭痛は? 吐き気は?」。その時、ゆっくりと引出しが開き、包丁が空中に浮くと、博士に向かって飛んでくる。博士は3度身をかわし、4度目は、構えたイスに突き刺さる(2枚目の写真)。なかなかの迫力だ。それ以上包丁が飛んで来ないので、博士が様子を窺っていると、両開きのドアの片方がきしんで少し開く。ミケーレが出て行ったのだ。それに気付いた博士は、小麦粉の袋を手に取ると、小麦粉を宙に向かって何回もまく。小麦粉がスーツに付いて姿が浮かび上がることはなかったが、足の裏に付いた小麦粉で、ミケーレが2階の自分の部屋に逃げ込んだことが分かってしまう。部屋に急行した博士は、ベランダに出ようとするミケーレの透明な体を勘でつかむと、部屋の奥に向かって投げる。壁に叩きつけられたミケーレは、博士に「まだまだ訓練が足らんな、若きアンドレイヴィチ」と言われると、姿を現す(3枚目の写真)。「そうか、もう巧くコントロールできるのだな。だが、我々はもっと上手にしてやれる。ただの人間と一緒にいて、何ができる? ここは君のいるべき世界じゃない。化け物扱いされるだけだ」。こう話しながら、博士はミケーレのすぐ近くまで寄ってくる。これがミケーレの作戦だった。彼が立っていたのは、一見棚のように見える予備の収納式ベッドの前。博士が直前まで来たところで、飛びのいてレバーを押し、セミダブルベッドが倒れかかる。博士はすぐに気付き、腕で支えるが、ミケーレは股間を蹴り、博士はそのままベッドの下敷きになる。
  
  
  

ミケーレはベランダから飛び降りたところで、再び体を消す。消える寸前に「C」の文字が光るが、これが映画で紹介される最初の「念じて消える」シーン(1枚目の写真)。その後は、ミケーレが海に向かって走る姿が映されるが、基本的にはミケーレのスーツ姿をそのまま映し、通行人が「見えない何か」とぶつかるような場面のみ透明にしている。バランスが絶妙だ。ミケーレは、運河畔でオートバイを停め缶ドリンクを飲んでいるイヴァンを見つけると、彼を前に押し出すようにシート後部に座り、横に付いていたヘルメットをかぶって「イヴァン、行け!」と言う(2枚目の写真)。後ろを見ると、赤いヘルメットが宙に浮いているので、さすがのイヴァンも動転し、姿なき声の「行け、殺されるぞ。これは命令だ!」の強い調子に、軍隊式に「イエス・サー〔Signorsì〕!」と答えると、直ちにオートバイを発進させた。そして、港湾地区の誰もいない倉庫の一角まで来るとオートバイを停める。そして、ヘルメットに向かって、「貴様、何者なんだ!」と殴りかかろうとする。「待てよ」。「俺は、顔ナシの命令なんか聞かん」と宙に向かって拳をふるうが 当たらない。「やめろ!」と声がすると、ヘルメットが地面に転がる。これで、居場所は全く分からなくなった。イヴァンは、殴ろうとするのを止める。背後から、「気が済んだか?」と声がし、ミケーレが姿を現す。黒ずくめのスーツに度肝を抜かれたイヴァンだが、マスクを取った顔に、今度は驚く。いつも虐めていたミケーレだったからだ(3枚目の写真)。一方、帰宅したミケーレの養母は、家の中の惨状に驚いていた。その時、チャイムが鳴り、そこに現れたのはアンドレイ。すべてを説明に来たのだ。
  
  
  

監禁されていたステラは、マルティノとブランドの力を借りて、高い天井に付いた穴から外に忍び出る。一方、ミケーレは、イヴァンに、警察の心理学者がロシアのスパイで3人を拉致したと話す。イヴァンが心理学者にこだわるので、理由を尋ねると彼がADHD(注意欠如多動性障害)だと分かる。イヴァンは、この心理学者が 親友のブランドを拉致したと再確認すると、最新式のペイントボールガンを隠し場所から取り出してみせる。ステラの方は、巡回する見張りの目をかいくぐり、得意の平行棒のバランス感覚を活かし、真上にそびえる鉄骨を登っていく。そこに巨大な投光器があるからだ。因みに、この鉄骨は、URSUSというクレーンで、愛称「Great Bear」。1931年に造られた高さ80メートルもあるトリエステのシンボルで、国の文化財にもなっているとか。ステラが、投光器の前面ガラスに、横に置いてあったタールのようなもので何かを描くと、スイッチを入れる(1枚目の写真)。その頃、どこに助けに行ったらいいのか分からないミケーレは、イヴァンに向かって、「誰かが、場所を教えてくれたらな…」と不満をぶつけていた。イヴァンが 「俺なら、信号を送る」と言った直後、そこは如何にも映画らしく、夜空に 「バットシグナル〔ゴッサム警察署がバットマンを呼ぶために投光器〕」 ならぬ 「スマイリー・フェイス・シグナル」 が浮かび上がる。2人は、シグナルに向かってオートバイを走らせる(2枚目の写真)。
  
  

クレーンの下に到着した時に、ステラは捕まり、ライトは消された。そして、2人が見ている前で、ドアから中に連れて行かれる。ということは、そのドアから中に入っていけばよい。イヴァンは高性能のペイントボールガンで警報装置を狙い撃ちする。警報が、けたたましく鳴り響く。銃を持った警備員が装置の方に駆けつける。透明になったミレーレは、警備員にぶつからないようにドアまで辿りつくが、鍵がかかっていて開かない〔この場面での警備員同士の会話はすべてロシア語〕。その時、ドアが開き、警備主任が出てきて「何があった」と訊く〔これもロシア語〕。ミレーレは、中に戻ろうとする主任の脇を 上手にすり抜けて中に入る(1枚目の写真)。一連のシーンでは、透明化したミケーレの姿をそのまま見せている〔その方が、効果的〕。ミケーレが主任の後を付けていくと、モニタールームにバジリ博士が座っている。モニターには、アンドレイと養母が話し合っている様子が映っている。「あの子は、どこか特別だと思ってたけど、まさかそんな…」。「あなたは、ずっと素晴らしい母親でいてくれた」。「ミケーレは、私にとって、人生最大の喜びよ」。その言葉に感動して、思わず音を立ててしまったミケーレ。博士は、姿は見えないが、そこにミケーレがいると確信する。そして、主任に「あの娘のところに連れて行け」と命じる〔ロシア語だが、自分が動けば、ミケーレも付いて来ると確信している〕。ミケーレは2人の後を追う。2人は、気密ドアの中に入って行く。ミケーレは開けようとするが、ドアのハンドルが固くて回らない。あきらめかけていると、中からドアが開き、主任に連れられてステラが出てくる〔博士の姿はない〕。主任は、ステラを、マルティノとブランドの部屋に放り込むと、主任が「全員、直ちに中に入れ」と携帯で命令しながら、去って行く〔もちろんロシア語。中に入るとは、アンドレイヴィチ捕獲作戦が終わったことを示唆している〕。ミケーレは、廊下にいた見張りの頭を、壁にかかった消火器で叩いて昏倒させると、銃を奪い、駆けつけた別の警備員に銃を突きつけドアを開けさせる。そして、見張りを銃で狙いながら、3人を部屋から救い出す(2枚目の写真、矢印はミケーレの持っている銃)。このシーンでは、ミケーレの姿は見えない〔その方が、面白い〕。見張りを部屋に入れて、ドアを閉め、ロックすると、初めて姿を現す。そして、マスクを脱ぐ。ブランドは驚いただけだったが、ステラは「あなただったの」と満足げだ。ミケーレ:「がっかりしてないといいけど」。マルティノは、「悪いんだけど、話は外でしない?」と言うが、ステラは、老人が1人捕らえられているから助けるようミケーレを促す。そこで2手に分かれることに。ミケーレはステラの後を付いていく。そして、先程、ステラが出され、博士が中に入ったまま出て来ない気密ドアの前まで来る。以前、ミケーレが回そうとしてもびくともしなかったドアのハンドルが、軽々と回る。ミケーレは銃をステラに渡し、透明になると、ステラに手を引かれて中に入って行く。ステラは、複雑な内部を迷わず進み、円形の気密ドアをくぐって中に入る。ミケーレが入ると、ドアは自動的にロックされてしまう。ミケーレ:「閉じ込められた!」。ステラが、ロシア語で、「連れて来た」と言うと、照明が点く。そして、周りを警備員が取り囲み、ステラが銃を構え、「姿をみせなさい、アンドレイヴィチ」と命令する(3枚目の写真)。「ステラ… どうして?」。ミケーレは「鉤爪」の前に連れていかれる。そして、鉤爪が博士にも、ステラにも乗り移っていたと説明される。鉤爪は、ステラが投光器を点けて捕まった際に、腕に触れて入り込んでいたのだ〔補足すれば、ステラが主任と出て来て、バジリが消えた時、バジリは用済みとなり 監禁された〕
  
  
  

「鉤爪」は、「君は、わしと同じだ、ミケーレ。わしらは、スペチャリなのだ」と言うが、ミケーレは「僕は、あんたとは違う」と言い、直ちに透明になる。そして、警備員を殴って大混乱に陥れる〔このシーンでは、完全に透明〕。しかし、鉤爪は落ち着いたもので、「友達がどうなってもいいのか?」と言うと、ぐったりとして意識のないステラの頭に銃を突きつける〔ステラは、鉤爪の意識が抜け出したショックで意識を失った〕。ミケーレは仕方なく全面降伏。ミケーレや鉤爪のいる場所は、潜水艦の中だった。ミケーレを捕獲したことを受け、鉤爪は潜水艦の発進を命じる。そして、港の基地内には、3分後に爆破するとの警報が鳴り響く。そこには、出口をロックされたマルティノとブランドが、まだ取り残されていた。潜水艦は沈降を開始。そこに、アンドレイと養母が到着。詳しくは書かないが、間一髪で、マルティノとブランド、それに、元に戻った博士を救い出す。潜水艦の中では、鉤爪がミケーレに、ステラを脱出用のカプセルに入れて海面に送り出すと説明している。これから仲間になるミケーレが、感情を害さないための配慮だ。ミケーレの前を、意識が戻りかけたステラが運ばれていく(2枚目の写真、矢印はステラの両膝)。ステラがカプセルに運ばれて行くのを悲しそうに見送るミケ-レに、鉤爪は、「君は、ああいった唯の人間どもとは何の関係もない… ただの平凡な生活… 何の意味もない日々のやりくりに費やされて〔spese a cercare di far quadrare i conti che non tornano〕… 父親と同じ人生を歩む ガキどもを育てる。我々は君の家族であり、それが君の運命なのだ」と言うと、手を差し出すが、ミケーレは拳を握り、怒りの波をぶつけようとする。「何ができるか、見せてみるがいい」。余裕たっぷりの鉤爪だったが、ミケーレの第2のパワーは予想を遥かに超えていた。自動的に閉まろうとするカプセルの分厚い気密ドアを一気に開け、計器は破壊され、パイプからは水が噴出し、吹き飛んだバルブのハンドルが警備員の頬に突き刺さる(3枚目の写真)。ミケーレは、素早くカプセルに入り、気密ドアをロックする。
  
  
  

カプセルに入ったミケーレ。「どうしたらいいのかな? 分からないや」。「きっと、あれよ」。ステラは、臆することなく、真ん中の赤いボタンを押す。カプセルは急に浮上を開始、ボートで釣りをしていた2人の前に、空中高く飛び上がる(1枚目の写真)。こんな高いところから、海面に落ちるのだから、中はかなりの衝撃だったと思うが、すぐに天井の気密ドアが開き、ミケーレとステラが 無事顔を見せる(2枚目の写真)。なぜか、もう朝になっている〔クレーンからの投光は、真夜中でなく、明け方だったのかもしれない…〕
  
  

港には、昨夜〔今朝早く?〕の大爆発もあって、警察や関係者が集まっている。その前で、依頼に応えてミケーレが消えてみせる。その後で、ミケーレはステラと仲良くビット(繋船柱)に腰掛ける(1枚目の写真)。恋人同士のようだ。マルティノは、「みなさん、今日から、僕らの街にスーパーヒーローが誕生しました」と宣言。一方、ミケーレはまたくしゃみ。養母がさっそく毛布を掛けてくれる。その時、父アンドレイが、何か言いたげに倉庫の中に入って行くのを見て、ミケーレは後を追う。ミケーレ:「何するか 分かってる」。アンドレイ:「必要なんだ」。「どうして?」。「君が、スペチャリだと知られてしまった」。「でも、本当だ」。「危険にさらされる」。「構わない」。「分かるが、君には、私のような人生を送って欲しくない」。「前のようになんか なりたくない。パワーもなくなるの?」。「パワーが消えることはない。他のパワーも出てくるかもな」。「あなたは? 行っちゃうの?」。「必要に感じた時には、いつでも現れる」。「僕を捜してたのに、なぜステラをさらったの?」〔双子の妹の方も捜していた〕。「気にしなくていい」〔妹の存在を隠しておきたかった〕「重要なことは、この夜のことを 誰も覚えていないようにすることだ」(2枚目の写真)。ミケーレは、「ステラの記憶も消えてしまう」と思い、「1分待って、パパ」と頼み、ステラの元に走る。「ミキ、いなくなったかと思ったわ! まだ混乱してるの。すごい体験だったから」。ミケーレは、辛そうに「僕もだよ」と言う。様子が変なので、「どうかしたの?」と尋ねる。「ステラ… 君、僕のこと忘れちゃうんだ」。「ありえないわ」。「みんなと一緒にいて。後で会おう」。ミケーレの真剣な眼差しに、ステラは軽くキスして(3枚目の写真)、戻っていく。それを見たミケーレは、透明になり、アンドレイは、右手をかざして一群の人々に近づいて行き、全員の記憶を消す。
  
  
  

港にいた関係者全員の記憶は消えたが、拉致された3人の生徒が戻ったことは事実なので、功績はその場にいた警視(養母)のものとされた。ミケーレとカンデラも、TVでそのニュースを見ている〔カンデラの記憶は消えていないので、ミケーレが透明になれることを知っている〕。カンデラが、「あなたがやったのね」と言うと、ミケーレが「しーっ」と口止めする(1枚目の写真)。養母は、「ところで、怪物君、今夜はピザに連れてってあげる。あんなことの後で、頑張ったものね〔Te lo meriti dopo quello che hai fatto〕」と上機嫌で話しかける。「何のこと?」。「数学で8を取ったって聞いたわ」〔模範解答の丸写し〕。ミケーレの顔が変なので、「どうしたの? 丸写ししたのね」。「違うよ!」。「そうよ!」。何度も、「No!」と「Sì!」をくり返す2人(2枚目の写真)。ミケーレは立ち上がると、出て行こうとして振り向き、「立派だね。3人を家に帰したんだ」と褒め、微笑みながら「じゃあね… ママ」と言うと(3枚目の写真)〔ママと呼んだことで、養子から息子に戻った〕、3人の「帰還お祝いパーティ」に向かう。
  
  
  

パーティ会場で、ステラは主賓の3人のうちの1人なのに、早々と帰ろうとする。それを見たミケーレが後を追おうとすると、記憶を失くしイヴァンとブランドのペアがいつものように行く手をふさぐ。イヴァンは、ペイントボールガンで狙うと、「俺に会えて嬉しいか?」と脅すように訊く。しかし、ミケーレは、もう以前のミケーレではない。「くだらない」という感じで溜息をつくと、ニヤリと笑い、「イヴァン、君は頭が悪いんじゃない。注意が散漫なだけだ。大したことじゃない。コントロールすりゃいい」と言い、ブランドには、「次に君だ。誰かに腹を立てたいんなら、親父さんに腹を立てろよ」と囁く。そして、「殴りたいか?」と平然と訊くと、両手を拡げて「やれよ」と言う。相手が何もしないので、小ばかにしたような顔で「じゃあ、失礼して…」と言い、2人の間を突き抜けて(1枚目の写真)、ステラの後を追う。ミケーレは、「ステラ」と呼びかけて近付くと、「パーティは もうやめたの?」と訊く。「誘拐されたことで主賓になるなんて嫌だから」。そして、「じゃ、また」と去りかける。その時、ミケーレがくしゃみをする。その音を聞き、「ブランコに乗っていた透明君」「翌日 部屋に来てくれた透明君」がミケーレだと分かり、ステラが微笑む(2枚目の写真)。そして、ミケーレを振り向くと、「あなたって、いつも寒いのね」と訊く。頷くミケーレ。「一緒に歩かない?」。「もちろん〔Perché no?〕」(3枚目の写真)。「明日の数学のテスト、心配なの」。「ちゃんと策略があるんだ」。「策略?」。「そう、一種のね。思ってるより簡単なんだ」〔また、丸写し?〕。映画のタイトルが出た後、場面はロシアに飛び、将軍の前に部下が報告に行く。「閣下、ミッションは失敗しました。アンドレイヴィチに逃げられました」。部下の前の席には誰も座っていない。しかし、イスが動くと、歩く音がして、突然部下が殴られる。そして、1人の女性が姿を現す。エレーナだ。アンドレイの説明では、撃たれて死んだハズだが、実際には生き残り、ディヴィジョーネを統括している。部下は、「ナターシャは見つけました。モロッコに隠れています」と報告する〔ナターシャは、アンドレイヴィチ=ミケーレの妹〕
  
  
  

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