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Kidnep 誘拐されちゃったけど…

オランダ映画 (2015)

誘拐されたヨーロッパ有数の富豪の一人息子と、ドジで気弱な誘拐犯との間に生じた友情が強い絆にまで発展していくコメディ。似たようなテーマの映画といえば、すでに紹介済みの『パーフェクト・ワールド』(1993)があるが、雰囲気は全く違う。『パーフェクト・ワールド』では、誘拐は脱獄囚のブッチによる単独犯で、目的も身代金ではなく逃亡時の安全担保だった。誘拐されるフィリップは8歳で、事情もよく理解できす、ブッチとの間の関係も「幼児があやされる」的な感じだった。それに対し、この映画では、誘拐計画を立てたのは頭の回転の早いスチュワーデス、実行犯のフレッドは「巻き込まれ」的存在。やることなすことにドジが目立つ。誘拐の目的は多額の身代金。しかし、誘拐自体は、フレッドの勘違いで早い段階で崩れ始める。そこに、第三者であるレオが加わり、誘拐案件は事実上消滅し、「入所中にレオのお金を預かっていたフレッドが、ギャンブルで全額なくしてしまった不祥事」からの逃亡が映画の主題となる。誘拐された10歳直前のボーは、誘拐された少年から、一緒に逃げる少年に変化し、そこに一種の連携プレーが生まれる。さらに、ボーは多忙な父母から疎外された生活を送っていたため、それに同情したフレッドから10歳の誕生日に真心のこもったプレゼントをもらうことで、フレッドに全幅の信頼を感じるようにある。これは、誘拐事件における被害者と犯人との間に生じるケースがあるとされる「ストックホルム症候群」とも違う。真の友情、疎外された少年に初めて提示され、自らも抱いた友情だ。このようなシチュエーションは、コメディ以外では成立困難なので、この映画では事件を徹底的に「非現実」に描いている。しかし、映画は観ていて楽しければそれでいい、という側面を有しているので、この映画もその一環として評価できる。ボー役を務めるタン・ストコ(Teun Stokkel)は、なかなか芸達者だが、いかんせん、かなりの「ブス」。しかし、最後には、それが可愛くなってしまうのだから、人間は顔ではなくて心なんだと実感させてくれる。訳出にあたっては、英語字幕とオランダ語字幕を1:1で併用した(内容が違う場合は、オランダ語字幕を優先した)。

もうすぐ10歳になるボーは、「息子のことなど忙くて構っていられない」両親によって、オーストリアにある全寮制の国際学校に行かされ、毎週末をオランダで過すという変則的な生活を送っている。子供の1人搭乗なので、空港ではアテンダントが世話をするが、たまたま夏季休暇の1週間前のフライトでは、スキポール空港で出迎えたのはスチュワーデスのオーハだった。このオーハは、浪費癖のある女性で、強盗常習犯で収監中のレオと親しい関係にあり、レオの手下のような存在だったフレッドとも知り合いだった。フレッドは昔からギャンブルが好きで、12年前に結婚した女性とは一子をもうけながら、ギャンブルですべてを失い10年前に分かれていた。今回も、フレッドが最後に行った強盗で得た隠し金を預かっていたが、それもギャンブルで95%なくしていた。そこに、レオが繰り上げ釈放されることを知らされ、失態を挽回しようと最後の5%を賭け、それも失ってしまう。困り果てたフレッドに声をかけたのはオーハ。自分が担当したボーが大富豪の息子だと知り、空港内を自由に動けることを利用して誘拐して多額の身代金を奪取しようと考え、フレッドに実行犯を任せる。ボーは、学期末のラスト・フライトでオーストリアの空港にチェックインした後、待ち構えていたオーハのカートに乗せられ、途中でフレッドに麻酔薬をかがされて誘拐される。目覚めたのはアルプスの山小屋の中。しかし、この「誘拐」は、すぐに破綻する。身代金を要求された父親が警察に届けなかったにもかかわらず、たまたま山小屋の近くをヘリが飛んだことから、居場所がバレたと早とちりしたフレッドは、ボーを連れて山小屋から逃げ出したのだ。オーハに指令を仰げばよかったのだが、彼女は、早期に出所してきたレオの対応に大わらわで携帯に応答できなかった。しかも、レオは、改心し、強盗稼業はすっぱり辞めて、魚料理屋を開きたいと言う。オーハは誘拐事件も、フレッドによる預かり金の使い込みも打ち明けられず困惑する。そのレオは、フレッドが不在なので疑惑を持ち、アパートを家捜しして、預かり金がなくなっていることを発見、復讐を誓う。一方、ボーと逃げ出したフレッドは、たまたまボーがTVに映ったのを見て、広域捜査が進行中と思い込み、ボーを変装させ、オランダまで汽車で行くことにする。しかし、切符を買うのにレオのクレジットカードを使ったことから、レオに足取りをつかまれてしまう。そこからは、誘拐ではなく、レオからの逃避行がメイン・テーマになる。ボーはもう誘拐児ではなく、一緒に逃げる相棒で、時にはフレッドを助けたりする。ボーの態度の変化の背景にあったのは、両親の「愛していると口ではいいながら、実際は無関心でちっとも構ってくれない」姿勢。それに対し、フレッドは、事あるごとに、新鮮な喜びを与えてくれる。クライマックスは、ボーの誕生日が明日だと知り、さらに、その誕生日のために両親が用意したものが、「一見豪華だが、ボーを1人で遠くに追い払うのが目的」のプレゼントだと知ったフレッドが、ボーのためにセットした素敵な企画。これにより、ボーはフレッドがたまらなく好きになる。そして、お城のような家に連れ戻された時、フレッドのことを、「助けてくれた恩人」として両親に紹介する…

タン・ストコは、どう見ても、可愛くもなく、ハンサムでもない。そもそも、大富豪のご令息にはとても見えない。そのアンバランスがすごく面白い。オランダ映画では、子供が主役になった非ハリウッド的なコメディ映画が多いが、これもその1本。評価はあまり高くないようだが、十分に楽しめる。


あらすじ

映画の冒頭。ボサボサ頭のフレッドが、強盗の罪で服役中のレオに面会に入って行く。レオは、「じきに出られる。オーハには何も言うな。驚かせたい」と言った上で、「金を取りに行く。お礼はその時だ。ちゃんとしまっておいてくれたよな?」と訊く〔オーハは、仲良しのスチュワーデス/映画の中でそう呼んでいるので、客室乗務員とは書かない〕。フレッドは、「もちろんさ」と答えるが、何となく気もそぞろ。「ちゃんと、しまってあるよ… 俺んちに」。ここで画面は一転、湖畔に建つ城のような国際ボーディング・スクールが映り、タイトルが表示される。そして、部屋でじっと待っているボーに変わる。全寮制の学校の部屋とは思えないような広い個室だ。脇にはスーツケースが置いてある。その時、ベルが鳴る(1枚目の写真)。ボーはすぐに立ち上がると、スーツケースを持って部屋を出る。階段を列をなして降りる生徒たち。壁の時計は13時を指している。出口では、校長(?)が立ち、「楽しい週末を」と声をかけている。生徒たちが出てくると、前には送迎用のマイクロバスが並んでいる(2枚目の写真)。ロケ地は、どこにも書かれていないが、マイクロバスの横に書かれたSt. Gilgenの地名をもとにグーグル・マップの航空写真で調べると、オーストリアのヴォルフガング湖畔にある連邦経済大学(Höhere Bundeslehranstalt für wirtschaftliche Berufe)だと分かった。ここで、画面はまた一転。アパートに戻ったフレッドが床のカーペットをめくり、電動ドリルドライバーでネジを外し、床蓋を開け、レオから預かっていたバッグを取り出す。中に入っていたのは50ユーロの札束5000ユーロ分と、レオ名義のクレジットカード1枚のみ(3枚目の写真)。後から分かることだが、レオは、最後の強盗で盗んだ10万ユーロ〔2015年のレートで約1350万円〕をフレッドに預けていたのだが、トランプ賭博が好きなフレッドはほとんど使い果たしてしまっていた。フレッドは、どうしようかと焦る。
  
  
  

ボーがKLMのビジネスクラスに乗っていると、アテンダントが寄って来て〔青い制服はKLMのもの〕、「すぐに着陸よ」と教えてくれる。真っ先にボーディング・ブリッジに出たボーに、係員が「また来週な、ボー」と声をかける。出口に待ち構えていたのは、真っ赤な制服を着たオーハ。レオやフレッドの友達だ。ここまで一緒に付き添ってきたアテンダントから引継ぎ書類を受け取ると、「ボー・ファン・ミッケンブルフ君? お父さんのところまで行きましょうね」と声をかける。明らかに初対面だ(1枚目の写真)。ムービング・ウォークの上を一緒に歩きながら、オーハは、「一人だけで飛んだ感じは?」と尋ねる。「別に」。「誰かに会いに?」。「ううん、国際学校に行ってるんだ」。「じゃあ、時々飛んでるの?」。「毎週だよ」。迎えに来ていたのは、いつも通り運転手。車は、ロールスロイス・ファントム。しかし、その運転手、無愛想な上、タバコは吸うわ、よく咳くわ、おまけに、窓からツバを吐くわで、ボーは嫌っている。車は、広大な敷地に建つ城館に到着する(2枚目の写真、左端の建物の前はプール)。玄関で父と会ったボーは、「もうすぐ夏休みだね」と嬉しそうに言う。そこに携帯が入る。だから、「スピーチで9もらったんだ」という自慢話は聞いてもらえない。そして、父は車に乗ってすぐに出かける。ボーがプールで泳いでいると母が現れる。2人は玄関の脇で軽いおやつ〔本当なら、1時にザルツブルグ近郊の湖を出れば、空港に着いたのは2時。3時の直行便があったとして、スキポール空港には4時半過ぎの到着。帰宅は優に5時を過ぎる。なので、こうした情景はあり得ない〕。母は、ボーが、小麦若葉のジュースを飲み残したのを見て、「ウィートグラス、ちゃんと飲みなさい」と言う〔ボーに対する母の唯一の関心事〕。そこに父が戻って来て、「お前はもうすぐ10歳だ。人生で重要な節目だぞ」と言って、プレゼントの箱を渡す。「誕生日は来週だよ」。「いいから開けなさい」。中に入っていたのはブライトリングのスーパーオーシャン〔約30万円〕。「わぉ、ダイビング・ウォッチだ!」。「ああ、すぐ必要になるからな。カリブ海で2週間、ダイビングを習うんだ」。大喜びするボー。そこに、また携帯が入る。代わりに母が、「ママとパパは一緒に行けないの。ママの本が出版されるし、パパは合併があるでしょ」と弁解する。ボーがパンフを見て、母に話しかけようとすると、母も携帯。ついでながら、運転手も携帯。ボーの孤独がよく分かるシーンだ(3枚目の写真、矢印はパンフ)。
  
  
  

フレッドは、怪しげな場所で、中国人を相手にテキサスホールデムで賭けている。フレッドの手持ちはクイーンが2枚。場には、A,2,5,6の4枚のカードが出ていて、最後の5枚目(リバー)にQが出される。これだと、フレッドはQのスリーカードになる。相手の手持ちが、もし、AAならAのスリーカード、34ならストレートとなり相手の勝ち、それ以外ならフレッドの勝ちとなる。相手が勝つ確率は、3と4が揃う組み合わせは12通り、Aが2枚揃う組み合わせは3通りなので、(12+3)/52C2=0.005。非常に低い。フレッドは安心して最後の5000ユーロを全部賭ける。しかし、相手はプロの詐欺師。手持ちは「AA」だったので、フレッドはレオから預かっていたすべての現金を失ってしまう。茫然として店から出てきたフレッドは、ばったりオーハと会う。「フレッド、あんた、レオのお金、あんな所で賭けてたんじゃないわよね? もし、バレたら殺されるわよ。でも、名案がある。あたしの言うことをよく聞いて、指示通りにすれば、レオのお金が戻ってくるわ。余ったお金で、あんたの失敗人生 取り戻せるかもね」〔幾らなんでも、飛躍があり過ぎる。賭けで負けた現場を押えたにせよ、その時点で、誘拐計画ができているハズがない〕。こうして、フレッドはオーハの「ボー誘拐」に加担させられる。1週間後の国際ボーディング・スクール。生徒たちは、先を争そって玄関に向かい、立っている校長は「夏休みを楽しんできなさい」と声をかける。ボーが空港に着き、出国審査を通過したところで、電動カートに乗ったオーハが出迎える〔ここはスキポールではなく、ザルツブルクのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト空港〕。「乗りなさいよ、ボー。搭乗口まで乗せてってあげる」。ボーは喜んで乗る(1枚目の写真)。カートは、立入禁止区域に入って行く。ボーが不審に思い始めた頃、カートが急停止し、横のドアが開くと、クロロフォルムのかかった布がボーの口に押し付けられる(2枚目の写真)〔クロロフォルムの即効性は映画や小説だけの架空の話〕。ボーの父の携帯に電話が入る。「あなたの息子は誘拐された。指示に従いなさい。もし、警察に知らせたら、あなたが受け取る写真が、息子の最後の姿になるわよ」とオーハの冷静な声が続き、有無を言わせず直ちに切れる。ボーが意識を取り戻すと、そこは小さな丸太小屋の中だった。口にはガムテープが貼られ、手はイスに縛られている。小屋の外にいるフレッドの携帯に、オーハからの指示が入る〔彼女は、スキポール空港に着いている〕。「あの子が起きたら、すぐ写真を撮って。でも、顔を見られちゃダメよ」。「了解」。「あの子の携帯は壊した?」。「まだ」。「なら、今すぐ壊しなさい」。小屋に入ったフレッドは、ボーの携帯を取り出すが、上等だったので、「もったいないな」と言って自分のポケットにしまう。そして、ニットキャップを被り、ゴーグルをかけると、寝たふりをしていたボーを起こし、ガムテープを剥がし、今日付けの新聞を胸に置き、携帯で写真を撮る(3枚目の写真)〔「De Telegraaf」はオランダの新聞。小屋はオーストリアかドイツかスイスにあるので、わざわざ持ってきたことになる〕
  
  
  

新聞を持ってテーブルに行こうとしたフレッドはイスにつまずく。そのため、ボーの頭に麻袋を被せ、視界不良の原因となっていたゴーグル外す。ところが、フレッドが缶飲料〔Boga Lim〕を飲み始めると、麻袋ごしにその姿がぼんやりと見えたボーは、「すみません。喉が渇きました」と丁寧に頼む。フレッドは、麻袋を外し、缶を突きつける。「手が縛られてます」。フレッドは、ボーの頭を傾け、缶を口にあてて、中味を口の中に注ぎ込む。そして、再び麻袋を被せようとする。ボーは、「お願い、やめて、顔ならもう見ちゃいました」と頼む。おバカなフレッドは、顔を隠さずに飲ませてしまったのだ。フレッドは、自分のバカさ加減に気付いて悔しがるが、今さらどうしようもない。その頃、ボーの父は、「幾ら払っても、あの子は取り戻す」と言い、警察に告げるべきとの母の要請を頑としてはねつける。そこに、メールでボーの写真が送られてくる。フレッドはクロスワードパズルを始める。「vol bloed(血まみれ)で、中東からやってくる。7文字… テロリストだな」。しかし、「terrorist」は9文字。ボーは、「Arabier(アラブ種)?」と示唆する。「volbloed(純血)の馬だよ〔サラブレッドのこと〕」。これは正解だった。「ニキビのあるpaling(ウナギ)。8文字」。フレッドには見当もつかない。再びボーが、「Puberaal(思春期)?」と教える〔palingは英語のeelだが、「ウナギのように捉えどころのない人」という意味もある〕。今度もぴったり符合する。そこで、ボーは、「おしっこがしたいんです」と頼む(1枚目の写真、矢印は縛られた手)。正解を教えてくれたので、フレッドはボーを小屋の外に連れ出す。「急げ」。「でも、手が縛られてます」。フレッドはロープを解く。その時、フレッドの携帯にオーハから電話が入る(2枚目の写真)。「今、小便をしてる… もちろん、してない… 俺はバカじゃない」〔恐らく、逃げられないようにしてるか、顔は見られてないかと、念を押されているのだろう〕。ボーは、フレッドがかなり離れたのを見て、全速で逃げ出す。しかし、10歳の子供の足は大人には負ける。後ろからアタックされ、高山植物の中に倒れ込む。そして、引きずり起こされ(3枚目の写真)、小屋に連れ戻される。
  
  
  

その夜、ボーの父に、身代金の要求が入る。金額は400万ユーロ〔約5億4000万円〕。48時間の猶予付きだ。小屋では、ボーがマットレスに寝かされ、手を縛っていたロープが解かれ、布団もかけてもらえる。ボーは、「僕、誘拐さんたんですか?」と訊く(1枚目の写真)。フレッドは、良心が咎めるのか、答えない。「父と母は、僕がここにいるって知ってるんですか?」。まだ返事はない。「僕、ボーです」。「そうか、俺は… ハイノだ。お休み」〔壁に貼ってあったバリトン歌手の名前を拝借した〕。翌朝、ボーが起きると、フレッドが外で電話している。「彼は払うのか?」。「400万」。「何だって?」。「400万よ。200ずつ。あんたも、百万長者ね」。「いつだ?」。「誰だって、そんな大金すぐには手配できないから…」。その時、オーハのアパートのドアが開いて誰かが入ってくる。オーハは泥棒だと思って花瓶をかざして隠れて待っていると、それはレオだった。「態度が良かったから、早めに釈放されたんだ。もう自由の身だ」。そう言うとキスしようと迫る。オーハは、顔を背けて避ける(2枚目の写真)。電話が通じなくなったフレッドが戸惑っていると、ヘリの飛ぶ音が聞こえて来る。フレッドが慌てて小屋の中に入ると、ボーは、「僕たち、見つかったんだと思うよ」と言い出す(3枚目の写真)。「ありえんな」。「僕の携帯にはGPSがついてるから」。フレッドは、昨日ポケットに入れたボーの携帯を取り出し、オーハの言う通りにしなかった自分を呪いつつ、薪ストーブの中に投げ込む。そして、ボーを手をつかむと小屋を出て、借りてきたレオの車に乗り込む。早とちりもいいところだ。
  
  
  

オーハは、レオに、「ねえ、あんた。すごいプランがあるの。あたしたち、大金持ちになれるわ」と持ちかける。しかし、レオは、「いやいや、俺たちは、もう そんなことしないんだ」と完全否定。「小さな店を始めよう。魚料理の店だ。アカガレイのフライ、生のムラサキイガイ、ニシンのサンドイッチ。俺が料理して お前が給仕する。外のテラスでな…」。オーハにとっては魅力ゼロの生活なので、聞く耳など持たない。ここで、レオが突然、「すぐ、奴に電話しないと」と言い出す。「誰よ?」。「フレッド」。この言葉でオーハは心配になる。レオは携帯で連絡を取ろうとするが、相手がレオだと分かったフレッドは出ない。「なぜ、携帯をとらん?」。「落ち着いて。魚釣りに行ってるのよ」。窓の外を見たレオは、そこにフレッドの赤いバンが駐車してあるのを見てしまう。「なら、奴のバンが何でそこにある?」。「あんたの車を使ってるからでしょ。約束してたじゃない。いつでも車を使っていいって」。オーハは必死でとりなすが、レオの不安は募る。「俺の金、奴んトコだ」。「何で、あたしに渡さなかったの?」。「何で渡さんかだと?」。そう言うと、レオはクローゼットの扉を開ける。そこには、50足近いハイヒールと、あまたの化粧品が棚を埋め尽くしていた。オーハの浪費癖がよく分かる。レイは、フレッドのバンにオーハを乗せ、直ちにフレッドのアパートに向う。レオが車から出て行き、ようやくフレッド→オーハの電話が通じる。「オーハ、20回もかけたぞ」。「レオが釈放されたの。今、バールを持って、あんたんチのドアの前にいるわ」(1枚目の写真、矢印)。万事休すだ。「誘拐のこと、知ってるのか?」。「教えてない。足を洗うつもりよ」。「レオが? 笑わせるなよ」。「両親には、言う通りにしなかったら、息子の指を送るって脅してあるから」。「危害は加えないって約束したろ!」。フレッドは、会話に気を取られて対面するトラックとぶつかりそうになり、クラクションを浴びせられる。それを聞いたオーハが、「どこにいるの? 何の音?」と訊く。「運転中だ」。「何で運転なんか? 小屋にいろと言ったじゃないの」。「なら電話に出るべきだったな。俺は、考えたんだ…」。「あんたは考えちゃダメ。言われた通りになさい。危険を冒してるのはあたしなのよ。スチュワーデスだから、真っ先に疑われる」。「それは、お前さんの問題だ」。「2日後に出国するんだから」。その時、アパートから空のバッグを持って出てきたレオが、バッグを道路に投げ捨てる。「全部なくなってる。クレジットカードもだ。奴を殺してやる」。ストーリーが複雑になってくる。フレッドは、道路沿いの店の前で車を停め、「出るんだ。何か食うぞ」とボーに命じる。そして、革ジャンの下に銃を隠し持っているフリをしながら、「マジで撃つからな」と逃げないように釘を刺す。ボーがソーセージをナイフで切っていると、天井に取りつけられたTVから父の名前が聞こえる。何事かと見上げると、それは、父が合併によりCEOに就任し、新会社の売り上げが年間200億ユーロ〔2兆7000億円〕に達する、というニュースだった(2枚目の写真)。スロットマシンの前にいたフレッドは、ボーの真剣な顔を見てTVに目を向けると、そこには、ゴルフ場でインタビューした時の映像が流れ、一緒にプレーしていたボーの姿も映された(3枚目の写真)。そこだけ見たフレッドは、誘拐が表沙汰となり、ボーの写真が公開されていると早とちりする〔山小屋がどこにあったかは不明だが、空港からそんなに離れていないハズなので、アムステルダムまでは700キロほどある。ここはまだドイツなので、オランダ語放送を店が流しているのは変だが、そこはまあ映画ということで…〕
  
  
  

フレッドがボーを連れて店の外に飛び出すと、警官が、駐禁の標識の真ん前に停まっているレオの車をチェックしている。フレッドには、それが誘拐捜査の一環と見えてしまう。フレッドは車を見捨てると、近くのアパレルショップに行き、ボーを、ネクタイ付きの制服姿から、どこにでもいる少年に変身させる(1枚目の写真)。そして、店を出る時にこっそり頂戴したペイント・スプレーをボーの頭髪にかけ、金髪から黒髪に変える(2枚目の写真)。「これで、母さんにも見分けがつかないぞ」。あまりのことに、ボーは泣き出す。可哀相に思ったフレッドは、ポケットから汚いハンカチを取り出すとツバをつけて皮膚についた黒い染料を拭いて落とす(3枚目の写真)。やり方はお粗末だが、心根は優しいことが分かる。
  
  
  

徒歩で田舎の小さな駅に着いたフレッドは、窓口に行き、スキポールまでの切符を買い求める。駅員はドイツ語しか話さないので、ボーが通訳する〔オーストリアの学校にいたのでドイツ語は普通に話せる〕。片道2人分で186ユーロ〔25000円〕。現金ゼロなのでレオのクレジットカードで払う。次の列車は43分後の発車。待ち時間を潰そうと、フレッドはボーを駅の前のプチ公園にあるテーブルに連れて行く。そして、トランプを取り出すと、見事なカードさばきを披露し、目の前にカードを掲げると、ボーの顔目がけて一斉に発射させる。これにはボーも大喜び(1枚目の写真)。一方、オーハのアパートでは、レオがカード会社に電話し、紛失届けを出す。すると、ドイツでスキポール行きの切符を2枚購入するのに使われたことが判明する。話はボーたちに戻り、ローカル線のディーゼルカーは低地アルプスの山並みを背景にしてノロノロと走っている。車内は、コンパートメントではないが、木のベンチシートが向かい合わせになり、大きなテーブルが間についている。フレッドはさっそくその上で、シットヘッドという簡単なカード・ゲームを始める。賭けたのはキャンディ。80個を2人で分けてスタート。終わった頃には、キャンディはすべてボーに取られていた。フレッドは何をやっても負ける。ボーはご機嫌。「小さいくせに えらく巧いな」。「明日、10歳になるんだ」〔もう、敬語は使っていない〕。そして、「これ、プレゼントさ」と言ってダイビング・ウォッチを見せる。「今日から、ダイビング・ホリデーに出かけるハズだった」。「延期できるんじゃないか?」。「どっちみち、僕1人なんだ。2週間もね」(2枚目の写真、矢印はキャンデー)。「ひどいな」。「ダイビングが?」。「違う。ダイビングはサイコーだ。1人で行くってのがだ」。「そうだね」。そこに、オーハから電話が入る。「レオのカードを使うなんて、何てバカなことしたの? それに、なぜ汽車なんかに乗ったの?」。フレッドは、ボーが公開捜査されているので変装させたと伝える。TVでボーが映っているのを見たとも話す。オーハはフレッドのバカな勘違いを咎めた上で、恐ろしい情報を知らせる。「レオは、あんたの乗っている列車、知ってるわよ」。その時、車掌が、「切符を拝見します」と客車に入って来たのでフレッドはどきりとする〔いつの間にか、窓の外の風景はオランダ風に変わり、車掌もオランダ語を話している。時速100キロ以下の各駅停車では、直行列車があったとしても、10時間以上はかかるハズだが、それも映画なので…〕。次のシーンでは、フレッドの赤いバンに乗ったレオが全速で次の停車駅に向う姿が紹介される〔レオが向ったのは、ドイツ~オランダ間のどこかの駅だろうが、ロケ地の駅には「Maldegem(マルデゲム)」と書かれている。アントワープの西にあるベルギーの駅で、アムステルダムとは逆方向〕。列車が駅に近づくと、プラットホームで待ち構えているレオの姿が目に飛び込んでくる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

レオは車内に乗り込んできて、車両内をつぶさに見て廻る。フレッドとボーは最後尾の荷物室に追い詰められる。「この野郎」。「レオ、全部説明できるよ」。「そいつは誰だ?」。ボーは思わずフレッドを見上げる(1枚目の写真)。「ロビーだ。息子の。シュースとの間の」。「何だと?」。「いろいろあったけど、最後には、シュースは俺と週末を一緒に過したんだ…」。レオは、ダラダラと話すフレッドを壁に叩き付けると、「今すぐ金を寄こせ」と迫る。「もちろんだとも、だけど、ここにはないんだ」。フレッドは、アパートに置いてあるが、近所の治安が悪化したので場所を移したと弁解する。レオは、ボーをつかむと、「ロビーは担保だ」と、連れ去ろうとする。それでは元も子もなくなってしまうので、フレッドはレオに飛びかかる。2人は揉み合いになるが、すぐにレオに組み敷かれる。ボーは荷物室の扉の隙間から逃げることができたのだが、それまでにフレッドに対し親近感を抱くようになっていたので、何とか助けようと考える。そして、近くに置いてあったゴルフバッグからアイアンを抜き取ると、父に対しハンディキャップ8の腕前で振り上げ(2枚目の写真、矢印)、レオの頭を一撃する。ちょうど列車が動き始める。ボーは、すぐにフレッドを立たせ、荷物室の扉を開けると、1,2,3のカウントで飛び降りる(3枚目の写真)。その時、フレッドは携帯を落とし、オーハ→フレッドへの連絡ができなくなる。
  
  
  

フレッドは、駅の前に、レオが乗り捨てていった自分の赤いバンを見つけ、ご機嫌で乗り込む。車の中で、ボーは、「フレッド?」と訊く。先ほど、レオが、「フレッド」と呼んでいたからだ。「そうだ」。「名前、ハイノじゃなかったの?」(1枚目の写真)。「拳銃だって、持ってないよね?」。フレッドはあきらめて白状する。「あんなもん持ってると、ロクなことが起きんからな」。しばらく走っていると、バンの調子が悪くなって停止する〔レオが運転していた時から調子が悪かった〕。2人は、道路際に座り込む。そばで草をはんでいる牛を見て うらやましがるフレッドに、ボーは疑問をぶつける。「子供はいるの?」〔さっき、自分を「息子」と呼んだから〕。「いない」。「レオのお金を盗んだの?」。フレッドは一旦は否定するが、すぐに白状する。「レオは、最後の強盗の金を託し、俺はギャンブルですっちまった。レオは予定より早く出てきたんで、俺はドツボにはまった。そしたら、オーハが、お前さんを誘拐して身代金を取ろうって…」。「それって大金?」。「何が?」。「レオのお金」。「10万〔1350万円〕」。そう言うと、フレッドは、「そもそも、俺なんかに金を預けちゃいけなかったんだ」と自己弁護。ボーは、「なら、なんで預かったんだよ、バカだな」と批判。いづらくなったフレッドは、バンを直すことにする。しかし、フレッドのようにいい加減な人間にとって、それは無謀な挑戦だった(2枚目の写真)。不調の原因は、後で、ディストリビューターのキャップが壊れていたことだと分かるが〔後で、レオが修理屋を呼んで判明〕、この時は、めちゃめちゃに部品を解体した挙句、何とかエンジンがかかって出発した後には、黄色の接続ケーブルが1本道路に落ちていた。その結果、しばらく走った後、バンは完全に動かなくなる。フレッドは布袋にバールなどを突っ込んで外に出る。「何してるの?」。「歩くんだ。見えんのか?」。2人は、バンを放置して歩き出す(3枚目の写真)。
  
  
  

2人をタクシーで追っていたレオは、放置されたバンを発見する。その時に呼んだ修理屋が先程の故障理由を指摘する。レオは、その場での修理を強要する〔前強盗なので、威嚇すると迫力がある〕。2人は雨の中を歩いていると、1軒の農家が見えてくる。農家と言っても、オランダらしくレンガ造りだ〔木材資源や石材のないオランダでは、土を焼いて作るレンガが一番安価な建築資材〕。フレッドは、「ここで待ってろ」と言って農家に向かう。「何するの?」。「夕食に招いてくれないか頼むのさ」。ボーも後を追う。フレッドがしたのは、ノックすることではなく、鍵を上手に外すこと(1枚目の写真)〔なぜ、不在だと分かったのか?〕。中に入ったフレッドは、「冷蔵庫を見つけるんだ。お前さんはあっち、俺はこっちを捜す」と命じる。ボーが行くのを見て、フレッドはオーハに電話をかける〔固定電話から。そのために、家に入った?〕。ボーは小さな貯蔵室を見つけるが、中に置いてあったのは豆の缶詰ばかり。その時、フレッドの話し声が聞こえてくる。心配になったボーはそっと戻り始める。会話の内容は、オーハが一方的にしゃべり〔観客に聞こえない〕、フレッドは安心させるように受け答えるだけ。ただ、オーハを安心させるため、ボーを縛るとか、口にガムテープを貼ると話すので、ボーには不安材料だ。そのため、電話を終えたフレッドに、「食いもの見つけたか?」と訊かれた時の顔は緊張している(2枚目の写真)。「それだけか?」。「うん」。「貧乏人めが」。その時、外で鶏の鳴き声が聞こえる。外に出たフレッドは、「これこそ食いもんだ」と言って鶏小屋に入るが、網戸を開け放しにしていたので、逃げられてしまう。フレッドは追いかけるが、なかなか捕まらない。その奇妙な追いかけっこに、ボーの笑顔が戻る(3枚目の写真)。「フレー、フレー」の声援に応えて何とか1羽を確保。ボーは大喜びするが、その直後、フレッドが鶏の首をねじって殺したことで急に不機嫌になる。
  
  
  

辺りは薄暗くなり、フレッドは焚き火で鶏の丸焼きを作り、1人で食べている。「食べんのか?」と訊いても、「あなたは殺し屋だ」と、顔を背けたまま、吐き捨てるように言う。「何だと? そんなに悲しけりゃ、死んだ動物の肉は二度と食うな」。フレッドは、そう言うと、ボーが見つけた缶詰を投げて寄こし、「豆でも食ってろ」。ボーはフレッドの言い分に納得し、チキンを食べることにする。その頃、レオは、修理の終わったバンで、血眼になってフレッドを捜している。「バンはないし、金もない。ガキと一緒じゃ遠くに行けん」。周囲は真っ暗。フレッドは焚き火の下の土をつつきながら、「こうやってつつくと、空気が入って、よく燃えるんだ」と教える。「よくキャンプするの?」。「ああ、ガキの頃からな」。話は、フレッドの子供時代に。「親爺は死に、お袋は酔っ払いで、俺を里親に預けやがった」(1枚目の写真)。「それから?」。「逃げ出した」。「ロビーはホントにいないの?」。「いるんだ」。「どこに?」。「母ちゃんと」。「シュース?」(2枚目の写真)。「そうだ」。ロビーが1歳になった頃、フレッドはギャンブルで貯蓄をすべて失い、家を持つ夢や、息子の楽しい子供時代も奪ってしまった。妻のシュースからは、二度と顔も見たくないと言われ、以来一度も会っていない… フレッドは淡々と打ち明ける。「今、ロビーは11になってる」。フレッドは、ロビーに贈ろうと思ったプレゼントのことを語る。11の誕生日にはクライミングウォール、10歳の時はペイントボール、9歳は急流下り。しかし、思うだけで実行したことはない。「今年は…」と言いかけたところで、辛くなり、「さあ、もう寝よう」と話を変える。テント代わりのビニールシートの下に横になったボー。真夜中になると本降りになるが、雨には濡れない。後ろに寝ているフレッドに体をぴったり寄せて寝る。まるで、フレッドと一緒にキャンプ旅行に来たみたいだ。朝起きたボーに、フレッドは、「誕生日の子に、フレッシュ・ミントのティーだ」と言って、摘んできたミントでハーブティーを作る。そして、「誕生日おめでとう」と言い、愛用のナイフをプレゼントしてくれる(3枚目の写真、矢印はナイフ)。
  
  
  

2人が野道から出てくると、ちょうど路肩に建設資材の会社の小型トラックが停車し、運転手が脇で歌いながら用を足していた。2人は、その隙に、幌つきの荷台に潜り込む。小さな村に入り、トラックが停止し、運転手が降りて行く。フレッドは、場所を確かめようと、後ろの幌を少し開ける。見えたのはGS。そして、何と、レオが給油ノズルを赤いバンに突っ込んでいる。フレッドは思わず声を漏らしてしまう。レオは、その音に不信感を抱き、トラックに向かって歩き始める。一方、トラックの運転手は、スナックを買って戻って来る。どちらが早いか? エンジンがかかり、それと同時に幌が開けられる。レオとフレッドの目が合う。そして、トラックが動き出す(1枚目の写真)。レオは追いつけない。2人が喜んだのも束の間、バンに戻ったレオは、給油中のノズルを引きちぎり、追いかけてくる。荷台に積んであったのは、25キロ入りのセメントの袋。フレッドは、それを落として、バンにぶつけようとするが(2枚目の写真、矢印はGSの給油ノズル)、レオも巧く避けるので何個落としても当たらない。次にフレッドが落とそうとした時、ボーはそれを止め、プレゼントにもらったナイフを取り出し、袋に何度も突き刺して穴を開ける(3枚目の写真、矢印)。セメントの粉が穴から飛び散り、それがバンの視界を悪くする。レオがうっかりウォッシャー液を噴射させたので、セメントと水が混ざり、フロントガラスはドロドロになってくる。トラックは交差点から敷地に入って行き、それを見逃して直進するレオを見て、2人は大歓声(4枚目の写真、セメントの粉で全身が白っぽい)。レオは、そのままトウモロコシ畑に突っ込んで行った。2人無事逃げ出すことに成功する。
  
  
  
  

2人は、楽しそうに歌いながら、木の茂った野道を歩いて行く(1枚目の写真)。フレッドは、ボーを大きな工場のような場所に連れて行く。「どこに行くの?」。「質問はなし。歩き続けるんだ」。2人は大きなタンクの階段を登って行く(2枚目の写真、矢印)。てっぺんに着くと、そこには金網で作った扉があり、厳重にロックされている。フレッドは、バンから降りる時に入れたバールを取り出し(3枚目の写真、矢印はバールの先端)〔その時点から、既に、ここに来るつもりだった〕、鍵を壊して扉を開ける。「やったね!」。
  
  
  

扉を閉めると中は真っ暗。「ここ、何なの?」。フレッドは、懐中電灯で自分の顔を照らすと、いきなり歌いだす。「♪彼はいいやつだ」。誕生日の時に歌う定番の曲だ。後半は変えてある。「♪ほら脱いで、シャツもズボンも」。画面は途中を飛ばし、2人はシュノーケリング用のスーツや道具をまとっている。そして、フレッドが壁のスイッチを入れると、そこは満々と水を湛えた巨大なタンクだった(1枚目の写真)〔フレッドは、子供用のウェットスーツを なぜ持っていたのだろう?〕。2人は、同時に水に飛び込む。ゴーグルをかけ、シュノーケルをくわえ、そして潜水。ボーは、カリブ海にいかなくても、給水タンクの中でダイバーの初練習をすることができた(2枚目の写真)。最高の誕生日プレンゼント。いつもいない両親の代わりに、フレッドが付き添っていてくれる。水から上がったボーの顔は、喜びに輝いている。フレッドがバスタオルできれいに拭くと、髪も金髪に戻ってしまった(3枚目の写真)〔車の塗装用のスプレーなので、こんなに簡単に落ちるハズはないのだが…〕。「サイコーだった!」。一方のフレッドは、真っ黒になったタオルを見ながら、罪の意識にさいなまれている。「こんなクールな誕生日、生まれて初めてだ」。ボーが服を着終わり、周りを見ると、フレッドの姿はどこにもなかった。
  
  
  

心配になったボーは、タンクから出て、階段を見下ろすが、フレッドの姿はどこにもない。ボーはフレッドを捜して走り回り、一番高い場所まで登り、「フレッド!!」と大声で叫ぶ(1枚目の写真)。一番上から見ても、姿はない。がっかりしたボーは、寂しげに階段を降りる。来た道に戻ると、遠くにフレッドの姿が見える。ボーは泣きながら全速で走る(2枚目の写真)。フレッドはあきらめて、振り向き、両腕を広げる。ボーは、その腕の中には入っていかず、フレッドを突き飛ばす。そして、置いて行かれた悲しみをぶつける。「この臆病者! 最初はロビーを捨て、今度は僕。何て自分勝手なんだ!」。そして、フレッドを殴ったり蹴ったりする。そして、いつしかフレッドに抱かれ、泣き崩れる(3枚目の写真)。ボーが、如何に真剣にフレッドを好いているかがよく分かる。
  
  
  

2人はタクシーに乗っている。フレッドは気もそぞろ。ボーはそんなフレッドを心配している。そして、腕をつかむと、「上手くいくよ」と勇気づける。立場が逆転している。タクシーは長屋住宅の前に停まる。「187ユーロです〔25000円〕」。ボーは、父からもらったダイビング・ウォッチを、「これ最低でも500ユーロするよ」と言って渡す。実際はもっと高いことを知っている運転手は、「わぉ」と言って一発でOK。こんなに旨い商売はない。ボーは1人でドアまで行き、ベルを押す。フレッドは、家の前に置いてあるキャンピング・トレーラーの陰に隠れている。ドアを開けたのは中年の女性。「シュースさんですか?」。「そうよ」。「ロビーいますか? 僕たち、訪ねてきたんです」(1枚目の写真)。「僕たち?」。ボーは振り向いて、「フレッド」と声をかける。フレッドがトレーラーの後ろから姿を見せる。「ごめんよ、シュース」。中から、「ママ、誰なの?」と声がして、ロビーが顔を出す。ボーは、ロビーが持っているタブレットを見て、「古いの持ってるね」と声をかける。「そんな古くないよ」。「どんなゲーム、入ってるの?」。子供同士2人は家の中に入って行く。残されたのはフレッドとシュース。次のシーンでは、フレッドも家の中に入っている。追い払われなかっただけでも幸いだ。それでも、「今になって、いきなり現れるなんて。ロビーに何て言ったらいいの?」と責められる。フレッドはロビーの方を見る(2枚目の写真)。「あの子、あなたの子?」。「もちろん違う」。シュースは、子供用に用意したコーラの入ったコップを両手に持って2人に近づく。ロビーは、「一緒にシットヘッドやらない?」と母を誘う。「ダメよ。トランプなんかすると、ロクなことにならないわ」。フレッドは、「トランプ・ハウスを、作ったらどうかな」と提案する。4人でトランプの家を作り、フレッドは、最後はロビーに花を持たせる。喜ぶロビーをフレッドは抱く(3枚目の写真)。それを見ていたシュースは、いきなり家を出て行く。そして、後を追って来たフレッドに、「何しに来たの?」と尋ねる。「車を借してもらえないか?」。シュースは呆れる。「10年後に顔を見せたら、車を借りるためとはね」。「シュース、頼むよ。ボーを家に帰さないといけないし、俺のバンは… いつか説明するから。すごく大事なことなんだ。どうか信じて欲しい」。
  
  
  

次のシーンでは、2人はシュースの車に乗っている。シュースは、貸してくれたわけだ。車内での2人は、まさに友達同士といった表情(1枚目の写真)。そして、車はボーの城館の正門に着く(2枚目の写真)。「じゃあ、幸せにな。さあ、降りて」。ボーは、「来ないの?」と訊く。「そうだな… 『今日は奥さん、今日はご主人。俺は息子さんの誘拐犯です。お元気ですか?』」。まさか、そんなことは言えない。ボーは、「待ってて」と言って車を降りると、門に駆け寄り、インターホンのボタンを押す。「待っててよ」(3枚目の写真)。インターホンから声が聞こえる。「どなたですか?」。「パパ」。「ボーか?」。ボーは車に飛び乗り、「出して。僕が話すから」と促す。
  
  
  

車が着くと、父と母が飛び出してくる。そして、ボーは2人に抱き付く。そして、すぐに、「彼が助けてくれたんだ」と言ってフレッドを指差す(1枚目の写真)。こうなっては、フレッドも中へ入らざるをえない。母:「何と お礼を申し上げたらいいか」。ボー:「フレッドって、ホントのヒーローだよね?」。父:「もちろんだとも」。フレッドには、あまりに荷が重すぎた。そこで、「ごめんよ、ボー」と言うと、正直に告白する。「俺はヒーローじゃないです。息子さんを助けてもいません」(2枚目の写真)「ボーの誘拐犯の1人です。だから、刑務所に行きます。自業自得です。すんません」。父がさっそく携帯を取り出す。それを見たボーは、「何するの、パパ?」と訊く。「警察に電話する」。「ダメだよ」。「この男は、お前を誘拐したんだぞ、ボー」。母も、「彼は犯罪者よ。400万ユーロ…」と言い始める。ボーは、強く反論する。「彼はしてない。一度くらいちゃんと聞いてよ」。「危険な人よ」。父が電話をかける。「こちらファン・ミッケンブルフ…」。ボーは、怒鳴る。「いつだって同じだ! 僕の言うことなんか聞いてくれない! 僕を追い払うために、ボーディング・スクールなんかに入れるしさ!」(3枚目の写真)。この言葉は、両親の心に突き刺さる。ボーは部屋から飛び出して行き、フレッドが後を追う。フレッドに「ボー!」と呼ばれ、ボーは芝生の途中で止まる。フレッドはボーの前に立つと、両親の方を指し、何かを願うように跪く。そんなフレッドにボーは抱き付く(4枚目の写真)。こんな姿を見たら、両親には何もできない。
  
  
  
  

緊張した面持ちでボーとフレッドが並んで座っている。すると、父の携帯にオーハからの電話が入る。「スキポールの3番格納庫、1時間後にお金を持って来て。息子の居場所を教えます。警察はなし。でないと、二度と生きて会えませんよ」。ボーは、「そいつ、オーハ、スチュワーデスだよ。空港で会ったんだ。計画したのは全部そいつだから、逮捕させないと」と小声で伝える。父は、「だけど、彼は手伝ったんだから、一緒に逮捕されちゃうぞ」と、極めて論理的な判断をする。母は、「その女性を、罰しないなんて許せない」と、これまた極めて心情的な意見を述べる〔父は、携帯の送話口を手で押えているが、すべてヒソヒソ声〕。ここで、フレッドが、「差し出口したくないですが、名案あります」と言う(1枚目の写真)。それを聞いた父は、オーハに、「了解した。1時間後にそちらに行く」と言って電話を切る。フレッド:「いいですか、こうするんです… 全く同じバッグが2つありますか? 長いレインコートをお持ちですか? ボー、帽子を貸してくれるか?」。ここで、場面が切り替わり、空港に着いた車から運転手が全く同じ2つのバッグを取り出して父の前に持って来る。その横には、レインコートを手にし野球帽を被ったフレッドがいる。2人はそれぞれ1個ずつバッグを手にする。次のシーン。格納庫の扉が開き、オーハが現れる。中で待っていた父が、「息子はどこだ?」と尋ねる(2枚目の写真、矢印はバッグ①)。「お金はどこ?」。「まず、息子が見たい」。「まず、お金が見たいわ。バッグを中間点まで持って来て」。父がバッグを途中まで持って来て床に置く。「下がって。後ろを向いて」。オーハは中味を確かめる。オーハは満足し、バッグを持って出口に向かう。父は、「息子は?」と訊く。「安全よ。2分以内に、どこにいるかメールで知らせるわ」〔ボーがどこにいるかすら知らないのに、実に大胆な犯行だ〕。次のシーン。空港内のモニター・ルームで、空港各所のモニター映像をボーと母が見ている。すると、手荷物検査場にバッグを持ったオーハが現れる。そこに、父が入ってくる。「見て、パパ、オーハだよ」。父も食い入るようにモニター見つめる(3枚目の写真)。オーハは、カウンターにバッグ①を置くと、そのまま金属探知機のゲートに向かう。その時、フレッドが現れる。割り込んで前に行くと、オーハのバッグ①の真横にバッグ②を置き、その上からレインコートを被せる(4枚目の写真、黄色の矢印がバッグ①、緑色の矢印がバッグ②)。そして、次の瞬間、レインコートでバッグ①を覆い、かかえたまま引き返す。モニターを見ていた3人は「やった!」と大喜び。
  
  
  
  

自動車のところで、建物から出てきたフレッドを3人は大歓迎。フレッドはバッグ①を父に渡す(1枚目の写真)〔自動車を真上を離陸していく飛行機に、ひょっとしてオーハが乗っていたりして…〕。父は中味を確かめ、改めて、「素晴らしい。どうもありがとう」と感謝する(2枚目の写真)。ボーは、父を傍らに呼び寄せる。「フレッドは、レオにお金を返さないといけないんだ。貸してあげられない?」。「貸すのか」〔タダであげてもいいと思っている〕。「そうだよ、僕たちの運転手になって、稼いで返せばいい」(3枚目の写真、矢印は咳き込んでいる運転手)。「だが、ヘニーがいるじゃないか」。その時、いつものように運転手はひどく咳き込む。そして、地面にツバを吐く。「あれ見てよ」。母も「不作法、無愛想で不快なロクでなし、だと思ってた」と強力に助太刀。これで、問題は1つ解決。次に、母は「3人でカリブ海に行きましょうね」と提案する。これに対し、ボーは「もっといい案があるよ」と応える。
  
  
  

ボーの提案は、城館の広大な庭園の中にある池でのシュノーケリングだった。ボーと父は仲良く泳いでいる。そして、水から上がったところで、クラクションの音がして、フレッドの運転するロールスがキャンピング・トレーラーを牽いて池の近くに入ってくる。それを見て、ボーの一家3人がにこやかに迎える(1枚目の写真)。フレッドは、「すみません、ゲストを連れて来てしまいました」と言って、シュースとロビーを紹介する(2枚目の写真)。6名は、キャンプファイアを囲んで楽しいひと時を過す。中でも、子供たちに受けたのは、フレッドが大西洋で釣りをしていて鯨に遭遇した話(3枚目の話)〔フレッドは、運転手なんかではなく、最近流行のベビーシッターにした方が、ずっと適任だと思うのだが…〕。映画の本編が済んだ後のエンドクレジットの中で、オーハとレオの「その後」が小さな画面で紹介される。オーハの場合は、逃げていった先の南国で贅沢三昧。いざ、お金を出そうと思ってバッグ②を開けると、中に入っていたのは大量のトランプ。必死になって中を見るが、現金はゼロ(4枚目の写真・左上)。その場から逃げ出して砂浜を走っていると、レオから携帯に電話が入る。それは、フレッドが利息を付けて全額返済してくれたので、自分の店が持てたという内容だった。レオは小さいながらも〔本当に小さい〕自前の店の前で、万歳する(4枚目の写真・右下)。
  
  
  
  

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