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Pure PURE ピュア

イギリス映画 (2002)

ハリー・イーデン(Harry Eden)が単独主演する如何にもイギリスらしい生真面目なドラマ。下層階級の底辺に属する10歳の少年ポールが、重度のヘロイン中毒の母を必死になって助けようとする話。かなり前に紹介したグアテマラ映画『Cápsulas(ヘロインカプセル)』は、ヘロインの「製造元」での話だったが、今度は、その消費側の末端での悲劇を鋭い視線で描いている〔残念なのは、脚本が不出来で、不自然な展開が多々見られること〕。ポールの母をヘロイン漬けにする悪役を演じるのは、ちょうどこの映画が封切られた頃、『ロード・オブ・ザ・リング2・3』(2002,2003)でファラミア役を演じていたデビッド・ウェナム。ヘロインに はまりかけた若い女性を演じているのは、エクソンモービル名作劇場版『Oliver Twist(オリバー・ツイスト)』(1999)のローズ役をやった頃には無名で、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)以後ブレークしたキーラ・ナイトレイ。ポールを助けることになる警部補を演じるのが、『リトル・ダンサー』(2000)で無理解な父親役だったゲイリー・ルイス。ところで、映画の主題となるヘロインについて、少し詳しく紹介しておこう。何れも、この方面では有名なDavid J.Nutt他3名による「Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse」(The LANCET, 2007, Vol.369,pp.1047-1053)が出典だ。下のは、「20種類の物質に対する、3つの有害性の観点から見た各々の悪性度」を示したもの。3つの有害性の観点とは、表の上にある①身体的な害〔Physical harm〕、②依存性〔Dependence〕、③社会的な害〔Social harm〕。それぞれの下に書いてある4つの項目は、それぞれ、①悪性度〔Mean〕、急激度〔Acute〕、常習性〔Chronic〕、静脈内〔Intravenous〕、②悪性度、快楽度〔Pleasure〕、精神的依存性〔Psychological dependence〕、肉体的依存性〔Physical dependence〕、③悪性度、中毒性〔Inroxication〕、社会への悪影響〔Social harm〕、医療費〔Health-care costs〕。何れも悪性度が最大値3で示されている。最左欄に並ぶ20の物質は、上から、ヘロイン〔Heroin〕、コカイン〔Cocaine〕、バルビツール酸系催眠薬〔Barbiturates〕、オピオイド系鎮痛薬メサドン(ヘロインの治療薬)〔Street methadone〕アルコール〔Alcohol〕、アリルシクロヘキシルアミン系の麻酔薬ケタミン〔Ketamine〕、向精神薬ベンゾジアゼピンBZD〔Benzodiazepines〕、覚醒剤アンフェタミン〔Amphetamine〕タバコ〔Tabacco〕、鎮痛剤ブプレノルフィン〔Buprenorphine〕、大麻(マリファナ、ハシシ)〔Cannabis〕、溶剤ソルヴェントゥ〔Solvents〕、麻薬4-MTA〔4-MTA〕、幻覚剤LSD〔LSD〕、精神刺激薬メチルフェニデート〔Methylphenidate〕、筋肉増強剤タンパク同化ステロイド〔Anabolic steroids〕、違法ドラッグGHB〔GHB〕、合成麻薬 MDMAエクスタシー〔Ecstasy〕、亜硝酸アルキルRUSH〔Alkyl nitrites〕、常緑樹カートの葉(カチノン、カチン)〔Khat〕。ヘロインがトップで最悪、コカインが2番目、大麻、LSDなども入っているが、アルコールやタバコもリスト入りしている。アルコールは、③の「社会的な害」、タバコは、②の「依存性」で悪性度が2を越えている(ヘロインは唯一、全項目で2.5以上)。

下の左側の図は、3つの悪性度の平均値を数値順に並べたもので、赤色がイギリス議会の薬物乱用法のクラスA、ピンク色がクラスB、パープル色がクラスC(クラスにより禁固刑の最大年数、罰金の最高額が違う)。空色は対象外だが、悪性度の高い順に、アルコール、アリルシクロヘキシルアミン系の麻酔薬ケタミン、タバコ、溶剤ソルヴェントゥ、亜硝酸アルキルRUSH、常緑樹カートの葉(カチノン、カチン)の6つが入っている。右側の図は、論文には示されていないが、上記のをもとに誰かが作成したもので、広く出回っている。横軸に①「身体的な害」の悪性度、縦軸に②「依存性」の悪性度をとり、20の物質を並べたもので、悪性度が高いものをレッド、低いものをイエローで表示してある。アルコールタバコは、中間のオレンジになっている。ヘロインは、もちろん最右翼の右上端。この図は、アルコールやタバコが如何に怖いかを示すためにも使われているが、ここでは、ヘロインが如何に怖いかを認識した上で、あらすじを読んでもらいたい。

10歳のポールは、父を数年前に亡くしてから、母はヘロインにすがるようになってしまっていた。ただ、ポールは、母が注射をうつのは病気のためだと思い込んでいる。母に ヘロインを与え続けているのは、昔、父の親友だったレニーだが、ポールにとっては、母にまとわりつくだけの嫌な存在でしかない。こうした「均衡」が崩れたきっかけは、①母が無断欠勤で首にされた時、再雇用を頼みに言ったポールに、店員が母のヘロイン中毒のことを知らせたこと。②ポールも顔を知っていたヴィッキーという女性が、ヘロインの過剰摂取で死んだこと。ポールは、母が「ジャンキー」と呼ばれるほどの ひどい中毒で、しかも、それを自分に隠してきたことにショックを受け、母に怒りをぶつける。反省した母は、ポールの助けを借りてヘロインを断とうとするが、ポールが目を離した隙に、レニーが入り込んでヘロインを注射してしまい、元の木阿弥となる。かねがねレニーを「ヘロインの売人」として逮捕したがっていた警察は、ポールの家に踏み込み、麻薬中毒ということで母を一晩拘留し、ソーシャル・サービスはポールと弟を 父方の祖父母のところに預ける。お陰で、母の麻薬中毒を祖母が知ってしまい、今まで以上に母のことが嫌いになる〔それまでは、母の脂肪過多の食事が息子を殺したと思い込み、憎んでいた〕。翌日、ポールは釈放された母を迎えに行くが、レニーも迎えにきていて、大ゲンカの挙句 横取りされる。しかし、しばらくして家に戻ると、母はソーシャル・サービスと相談していて、数週間かけて治療するので、祖父母の家で暮らすよう告げられる。寂しくなったポールは、ファーストフードの店で働いているルイーズに会いに行き、ヘロインのことをいろいろ尋ねるが、吸わせてはくれない〔自分の分のヘロインを買うお金すら不足気味〕。面会日に母に会いに行った時、ソーシャル・サービスの何気ない言葉から、母が麻薬治療に消極的なことが分かり、ポールは母の怠慢を罵倒して去り、ルイーズにヘロインを渡し〔母が、最初にヘロインを断とうとした時、レニーが郵便受けに投げ込んでいった〕、体験させてくれと強く迫る。ヘロインで無気力状態になったポールを見た母は、激怒してルイーズに襲いかかり、店から追い出されるが、ルイーズも首になる。母は、これを契機に治療に真面目に取り組む。ポールは、1ヶ月目の審査を前に気弱になった母を勇気づける。そして、悪の根源であるレニーを逮捕させる方法を思いつき、母の検挙以来知り合いになっていた警部補に連絡をとる。レニーは、かつてルイーズが働いていた店で、店長とともに現行犯で逮捕される。そして、審査会。ポールは、祖母だけを行かせても母は絶対解放されないと思い、車椅子の祖父を会場まで押して行き、何とか母の解放を勝ち取る。日本版のDVDには英語字幕が付いていない。最も有名な字幕サイト(OpenSubtitles)から入手できる英語字幕は、間違いだらけのドイツ語字幕を自動翻訳した代物で、使い物にならない。幸い、作業の最終段階になって 正しい英語字幕を発見できたので、あらすじの台詞をすべて改めた。参考までに、母が審査の最後に言う言葉を、①間違いだらけの英語字幕、②正しい英語字幕の順に示そう。
①Whatever you decide now, what I have done, has my boys hurt even more. Clean was to be much easier than me to be clear about what happened.
②Whatever you decide you can't hurt my boys any more than I already have. Getting off gear〔ヘロインを意味する英俗語〕 was easy compared to admitting what I'd done to Paul.
①しか手に入らなかった時点では、正しい訳は不可能だった。

主演のハリー・イーデン(Harry Eden)は、2000年からTVに出演するが、本格的な映画出演はこれが初めて。1990年3月1日生まれなので、撮影の時期は不明だが、トロント国際映画祭での上映が2002年9月なので、1年前の撮影と仮定すれば11歳となる。ハリーは、この映画の見事な演技で、ベルリン国際映画祭で若手俳優を対象としたマンフレート・ザルツゲーバー賞を受賞。英国インディペンデント映画賞では、最優秀新人賞も受賞している。共に、子役を対象とした賞ではないので、ハリーの演技が高く評価されたことが分かる。ただ、残念ながら、その後の「旬の」子役時代に目立った作品がない。『ピーター・パン』(2003)では脇役、『The Lazarus Child』(2005)では主役だが、ポランスキー版の『オリバー・ツイスト』(2005)ではドジャー役。あとは、TVとショートフィルム。もう少し活躍して欲しかった〔いずれの作品も、紹介予定〕


あらすじ

映画の冒頭、ポールが、ウェストハム・ユナイテッドのスタジアム〔2016年にオリンピック・スタジアムに移転する前〕の脇を自転車で走り家に向かう姿が映る。1枚目のGoogleマップ(Earthビューの3Dモード)の ①のところで画像は切れ、次の②の角からポールは出て行く(黄色の実線が走行路)。実は、これは不可能。①の先は、道路の左側にずっと煉瓦壁が続き、マップの最上部の道路まで切れ目がない。唯一、店屋の木戸はあるが、そこから入っても、四周が囲まれていて出られない。だから、ポールが②から出てくるのは「演出」。しかし、その後、角から4軒目の家に入る部分は、マップと 2枚目の写真は完全に一致している。このアパートは、ポールの入ったのが裏口で、手前に小さな庭がある。先のマップの最上部の道路沿いが表玄関。4階建てで、1・2階がポールの家。ポールが帰宅してからまずしたことは、母から、「医療薬」だと言われている注射の準備をすること。いつも母がやっているのを見ているので、やり方はよく分かっている。小さなロウソクに火を点け、その上にスプーンを置いて温める。そのあと、ポールは細身の注射器に「薬」入れ、空気を抜く(3枚目の写真)。そして、「薬」の載ったトレイを母の寝室に持って行き、カーテンを開けて母を起こす。「仕事に行かなきゃ。また遅刻だなんて 許してもらえないよ」。母は、トレイの上の注射器を素早く取って 自分の脇に置くと、ポールが勝手に注射器に触れたことを強く咎める。「ポール、言ってるでしょ。薬には、絶対、絶対、触っちゃダメだって」。「時間をセーブしてあげようとしただけだ」。ポールは、母の横に寝ると、「なぜそんなに大騒ぎするの? もう何度もやり方見てるのに」と尋ねる。「あなたはいい子。助けてくれてることも分かってる。でも、薬には触って欲しくないの。針でケガするかもしれないでしょ」(4枚目の写真)。ポールは、母がぜんぜん気付かないので、「今日は、僕の誕生日だよ」とサジェストする。母は当然 詫びるが、ポールは「いいんだ、ママ、具合が悪いんだから〔you're poorly〕」と慰める〔“poorly”のイギリス英語での意味は、「健康が優れない」〕   

学校に行こうと家から出たところで、ポールは、レニーに会う。彼は、ポールの亡くなった父のごく親しい友人。父が死んでからは、体調の悪い母の面倒を見ていてくれている、とポールは思っている〔実は、母をヘロイン中毒にした張本人/レニーはヘロインの売人だが、母だけは特別に扱っている→恐らく、最初は、母が夫の死のショックで崩壊しそうになったのを助けるため、精神を高揚させようと与えたのだろう→その後も、恐らく無料で与え続けていた(?)〕。レニーは、「誕生日おめでとう。君が生まれた日のことは絶対忘れないぞ」と言うと、お札を渡す(1枚目の写真、矢印はお札)。ピンボケで額面も不明だが、パープルが一瞬見えるので20ポンド札だろう〔当時の為替レートで約4000円〕。「今度の土曜、ママと一緒に試合を見に行くってのはどうだ?」と誘う。「ママは、もう行きたがらない」。「俺が説得してみようか? それともママ抜きで行くか?」〔ここでも、レニーが如何に特別扱いをしているかが よく分かる〕。ポールは「ママと僕はいつも一緒なんだ」と断る。学校に着いたところで、何も食べずに家を出て来たポールは友達に誘われて朝食を食べに行く。友達の目当ては、ある店の17歳の美人ウェイトレスのルイーズを見ること。店には、なぜかレニーが来ていて〔伏線〕、ルイーズにも一言「よお〔Alright〕」と声をかける〔ルイーズも レニーからヘロインを買っている〕。友達は、大量の朝食を注文、ルイーズがポールに「何を食べる?」と訊くと、友達が「あんたのおっぱいが見たいってさ」と口をはさみ、真面目で晩熟(おくて)のポールはすぐに打ち消す。ポールは同じものを注文し、金額は6ポンド60。友達は、ポールの誕生日だからと言って山ほど注文したのに、払ったのはポール。ポールは、さっきレニーからもらった札を出す。それを見たルイーズは、その札をむしり取ると、ポールに、「次の給料日まで10ポンド貸して」と頼む(2枚目の写真、矢印は札)〔ヘロインに使う〕。友達は、「甘ちゃんになるな〔Don't be soft man〕。タバコ〔fag〕もらえよ」と、また口をはさむ。ルイーズは、「チビスケはタバコなんか買えないわよ」と友達をいなし、ポールには、「これでどう〔I tell you what〕」とタバコを3本渡す。 

ポールが公園で、突然、年上のチンピラから話しかけられる。「メル・ジョーンズのガキか?」。「だから?」。「お前もやらされてるのか〔Get you to do her business is she〕?」。ポールが戸惑っていると、「知らねぇのか? 脳たりんだな。お前のママは、腐ったジャンキーだ〔junkie:麻薬常習者〕。腐った、下等な、クズだ」と一語ずつ侮辱の言葉を並べる。ポールは、「ママをバカにするな!」と怒鳴ると(1枚目の写真)〔この時点で、彼は「ジャンキー」の意味を知らない。怒ったのは、他の侮辱の言葉〕、相手の鼻を思い切り殴る。ポールは必死で逃げるが、1対4なので捕まってしまい、頬を殴られる。そこに通りかかったのが、ポールを知っているヴィッキーという女性。不良を一発殴った後、「お前のママこそ、ここらじゃ最も古株の売春婦〔tom〕じゃないか」と罵る(2枚目の写真、矢印は殴られて赤くなったポールの左頬)。ヴィッキーは、それが助けた目的だったかもしれないが、ポールに 今夜のベビーシッターを依頼する。ポールは行きたくないので、母とサッカーを見ると嘘をつくが、ヴィッキーは、「テレビ、売っちゃったんじゃなかった〔Ain't she just flogged your telly〕?」と指摘する〔生活費に消えた?〕。ヴィッキーは、このあとすぐ、レニーに会うので、彼女もヘロイン中毒だと分かる。 

ポールが帰宅すると、母だけでなく祖父母〔病死した父方〕が誕生祝いをしてくれる(1枚目の写真、母はぴろぴろ笛を吹いている)。お祝い気分は ポールの頬の傷で吹っ飛び、トイレの便器の蓋に座らせると、母は、真っ黒で布で顔の汚れを拭く(2枚目の写真、矢印が傷)〔同じ布で傷口に触るのは、かえって不衛生〕。ポールは、ケンカの原因を訊かれ、「別に〔Nothing〕」と、隠そうとする。そのあと、ポールは、レニーのサッカー話をしてみるが、今度は母の方が「レニーには近寄らないで」と一緒に行くのを拒否する。その後、もう一度食卓に戻って誕生会。母が、祖父に肉料理を勧めると、祖母は、「体重には気をつけてるの」と断る。「あなたも よく知ってるでしょ。コレステロールは『忍び寄る殺し屋〔silent killer〕』なの。だから、低脂肪食。デニス〔夫〕も付き合ってるわ」。食後は、2人からのプレゼント。祖母は、セーターに赤いフェルトを貼り付けて、そこに「ウェストハム永遠に」と、ものすごく下手な刺繍がしてある。これでは、恥ずかしくてとても着られないが、ポールは「おばあちゃん、ありがとう」とキスする。母のプレゼントは、今朝指摘されて慌てて買ってきたので「手作り」ではないが、ウェストハムのユニフォーム(オフィシャルグッズ)。これなら、自慢して着ていられるのでポールは大喜び(3枚目の写真、矢印は、祖母の冷たい目)。祖父母が帰り、母がウトウトし始めると、ポールはヴィッキーとの約束を忘れず、ベビーシッターに出かける。  

ヴィッキーは、「仕事次第だけど 12時頃には戻るわ」と予定を説明する。彼女は、ヘロインを煙管に入れて吸っている(1枚目の写真、矢印はポール)。ポールは、昼間に言われたことが気になっていたので、「ジャンキーって何か知ってる?」と訊いてみる(2枚目の写真)。「ジャンキーは、ろくでなし〔waste of space〕。麻薬を買うお金のためなら嘘や騙しや盗みも平気。愛する人を裏切り〔shit on〕、大事にしてきた全てを失う。そして、いつの日か、何も話さなくなるか、死ぬの」。それを聞いたポールは、「なら、よかった」と安心する。「僕を殴った奴が、ママのことジャンキーだって言ったけど、そんなふうじゃないもん」。何も言えなくなったヴィッキーは、「10ポンド〔tenner〕ある。ピザでも取って」と話題を変え、すぐに出かける。真夜中になり、ヴィッキーが半分意識を失った状態で、レニーの手下に抱えられて戻ってくる。ポールが訊くと、「ちょっとやり過ぎた〔overdone〕だけ」という返事。とにかく、役目は終えたので、ポールは家に帰る。 

ポールが家の前に着くと、ちょうどレニーが車で去って行くところだった。何事かと家に入ると、母が絨毯の上に倒れている(1枚目の写真、矢印はポール)。母は、ひどく叩かれたらしく、多量の鼻血を出している。ポールが、「警察に電話する? 救急車は?」と立ち上がると、母がすぐに止める。「何があったの?」。「押し込み強盗〔burglar〕よ」。ポールはレニーが出て行ったのを見ていたので、嘘をつかれたことに悲しくなる(2枚目の写真)。母は、「ローリングスさん〔母が働いている肉屋の店主〕に、具合が悪いって電話してくれる?」と尋ねる。「もう、してある。『お大事に〔get well soon〕』って言ってた」。「いい子ね」。この電話、いつかけたのだろう? 数日前だろうか? 少なくとも、DVDの日本語字幕で「さっき電話した」というのは、真夜中だからありえない。吹替えの「電話したよ」も、かなり最近の雰囲気だ。ポールの誕生パーティで、母は元気だったから、それ以後電話したハズはない。恐らく今朝だろう。 

翌日、生徒たちは、バスに乗って動物園に出かける。ポールは、バスを隠れて見送ってから、肉屋に入る長い行列に並ぶ。順番が来ると、ポールは、「ママを仕事に戻してよ。僕が前に〔earlier〕電話した時、『もう来ていただかなくて結構』と伝えろ、と言ったでしょ」(1枚目の写真)。店主は、ポールを外に連れ出すと、「せっかくチャンスをあげたのに、あなたのママには、がっかりさせられっぱなし。あなたがしょいこむのね〔You're stuck with〕。私はイヤよ」と、きっぱり断る。ポールに同情した店員が出てきて、「ママも可哀相に。パパが亡くなって辛かったのね。でもね、あれを使うのはやめないと」。「『あれ』って?」。「ヘロインよ。ママは何と言ってるか知らないけど、いつも静脈に注射してるでしょ」。この言葉に、ポールはショックを受ける(2枚目の写真)。病気の薬だと思っていたものは、ヘロインだった。 

次のシーン、意味不明。ポールが家に帰ると、母が、ヴィッキーの首の下の血管にヘロインを注射している。あとで、ヴィッキーは麻薬の過剰摂取で死亡していることが分かるが、それは、この時の注射が原因としか思えない。だとすると、母は殺人犯になる。しかし、そのことは映画では一切触れられないので、「意味不明」とした。恐ろしくなったポールは自分の部屋に閉じ籠もる。どのくらい時間が経ったのかは分からないが、母とレニーの声が聞こえる。ポールがドアを開けて覗くと、声がはっきり聞こえてくる。母:「私が帰ってきたら、彼女、もう意識がなかったの」。レニー:「すぐ戻る」。レニーがいなくなった後、声をかけたポールに、母は、「ヴィッキーが、またやり過ぎたの。今から、連れ戻すそうよ」と説明する。「ローズ〔ヴィッキーの娘〕は、今夜ウチに泊まるわ」。そんあと、どのくらい時間が経ったのかは分からない。ローズが部屋にいて、ポールも弟もお腹が空いてくる。母は、ヘロインで眠っている。ヴィッキーのところに行けば食べさせてもらえると思い、ポールは2人を連れてヴィッキーのアパートに行く。しかし、ソファに座ったままのヴィッキーは(1枚目の写真)、体を揺すっても全く反応がなく、明らかに死んでいた。怖くなったポールは、来たばかりなのに、2人を連れて急いで戻る。ポールは、家に戻ると、2階に駆け上がり、「ママ、ヴィッキーが死んだ!」と部屋に飛び込むと(2枚目の写真)、母の横にはレニーがいて、「外に行ってボールでも蹴ってろ」と追い出される。ポールがボールを蹴っていると、そこにレニーが降りてきて、「実はな、ギア〔gear:ヘロインの英俗語〕でジコったんだ」と説明する〔この時点で、ポールがギアの意味が分かっているとは思えない〕。「ママは ジコらない?」。「ジコるもんか。ヴィッキーみたいなノイローゼ〔basket case〕じゃない」。レニーの手下は、「とっとけ」とポールに札を1枚渡す。これも額面は不明だが、赤い色から50ポンド〔約1万円〕だと分かる。一見多いようだが「ローズの面倒を見るから余分に要るだろ」と言うので、子供1人養うのに1万円の一時金ではあまりに少な過ぎる。 

日時は不明。母とポールたち3人がバスの2階に乗っている。58系統のバスで、確かに終点近くでウェストハムのスタジアムも通るが、映画のロケ地は違っているようだ。向かい側の席に座った男が、じっと見つめている。癇にさわった母が、「何なの?」とぞんざいに訊くと、「私は医者だ」と答える。「そりゃ よかったわね〔Bully for you〕」(1枚目の写真)。「お嬢さんを見せてもらえる?」。母は口も聞かないが、動作でOKする。医者は、ローズの顎を一目見て、母に、「感染はいつから?」と尋ねる。「私に訊かないで」。「母親なんでしょ?」。「違う」。「すぐにでも病院に連れていかないと」。そのあと、さらに激しいやる取りがあり、最後は、母が、「ソーシャル・サービスに渡そうと思ってたけど、そんなに心配なら あげるわ」と言い、ローズを医者に渡し、医者の抗議は無視し、さっさとバスを降りる。ヘロインのせいで、忍耐力や判断力が落ちている。ポールは、そんな母の行動に反対するが、付いて行くしかない。3人がバスを降りた場所は不明。家の近くでないことは確か(2枚目の写真、ローズを見送るポール、母は見向きもしない)。バスから降りたポールは、どんどん先に歩いて行く母を後ろから突き飛ばす。「あんなことするなんて信じられない! 何がどうなってもいいんだろ? この嘘つき! 薬じゃない、ヘロインじゃないか! ヴィッキーと同じだ! 麻薬で死ぬんだ!」(3枚目の写真)「ヴィッキーが言ってた、『いつの日か、何も話さなくなるか、死ぬ』って! 彼女、そう言って、次の日、死んだ! ママが死んだら、僕とリー〔弟〕はみなし子だ! ソーシャル・サービスの新しいお客さん! はい、それで、一巻の終わり!」。この、心からの叫びに対し、母は、「おやめ、もう十分」としか言えない。  

しかし、ルイーズの店に入った時、反省した母は、「やめることにする。使うの やめるわ」と本気で言う。「よかった」(1枚目の写真)。「やめるって、簡単なことじゃないのよ」。「やる気があればできないことなんかない」。その後、3人は、一旦家に戻るが、次に、母は、また意味不明の行動に出る。ポールたちを預かってもらうため、嫌われている祖父母の家に連れて行ったのだ。ヘロインの禁断症状を息子たちに見せたくなかったのかもしれないが、施設にも入らず、1人でヘロインを断つことなどできこない。母は何を考えているのだろう? 母のことが大嫌いな祖母は、母に、ヴィッキーの死亡記事を見せ、子供たちを、短期ではなく ずっと預けるよう言い張る。聞く耳を持たない祖母にキレた母は、2人に「帰るわよ」と告げる。しかし、祖父が好きな弟は帰りたがらない。祖母は、ポールも残そうと思い、母に、「ジョン〔母の夫、祖母の息子〕がここにいたら、あんたを懲らしめてるわ」と言うと、母も、そっくり同じ言葉を祖母に投げ返す。それを聞いた祖母は、「ここにはいないわね。あんたが殺したからよ! 何にでもつけたチップスやバターや砂糖のせいでね!」と怒鳴る。母:「心臓発作だったのよ!」。これが、祖母が異様に母を嫌っている理由。30代での心筋梗塞の原因としては、確かに脂質異常症を起こすような食生活も十分に考えられるのだが、子供たちの前で罵倒するように使う言葉ではない。ポールは、祖母に強く勧められても、母と帰ることを選ぶ。母は、リーにキスすると(2枚目の写真)、祖父母の家をさっさと後にする。その映像でも不可解な点が。祖父母の家に入る前には、ポールはスーツケースを牽(ひ)き、母はリーのバッグを持っていた。2人を数日泊めるためだ。ところが、出て行く時、2人は何も持っていない。これは変。ポールは持ってきたスーツケースを持ち帰るべき。この映画、いろいろな箇所で詰めが甘い。 

母は、家に戻ると、準備を始める。ポールが、「何してるの?」と尋ねると、「数千ポンドあれば、クリニックに行けるんだけど、自分でやるしかない」と言い、さらに、「よく聞いて。この先1週間、ママはひどく気分が悪くなるわ〔sick as a dog〕。でも、どんなにおかしくなっても怖がらないで。全部ヘロインがさせてるの。忘れないで。ママが何を言おうと、それは注射〔fix〕が欲しいからなの。何を言っても聞かないで」(1枚目の写真)「家には誰も入れないで、特にレニーは。約束よ。そして、何があっても、ママを1人にしないこと」。ポールは、母の部屋のドアの両側に釘を打ち、その上に棒を乗せ、チェーンで縛って内側から開けられないようにする(2枚目の写真、矢印は棒)。夜になり、ヘロインが切れてきた母は、「ポール、良くなったわ。シャワーを浴びたいから、ドアを開けて出して」と言うが、ポールは約束を守って拒否する。ポールが1階にいると、玄関のチャイムの音が鳴る。波打ったデザインガラスから見える姿はレニーやその手下ではない。ポールは、ドアを開けるのを拒否するが、警察手帳を郵便入れから見せられ、自分の方から外に出る。警部補は、①ローズがいるかと訊き、ポールがいないと答えると、②ローズの母〔ヴィッキー〕は誰かに殺された。犯人はレニーに違いない、と言い、③最後に、何かあったら電話をと名刺を渡す(3枚目の写真、矢印)。  

ポールがウトウトしていると、今度は、レニーがドアを叩く。外が明るくなっているので、ポールは1階で、両膝に頭をつけたまま眠ってしまったのだ。返事をすれば、絶対に中に入って来るので、居留守を装う。レニーは、内ポケットから封筒を取り出すと、郵便受けから中に入れて去る。ポールが、封筒を開けると、中にはヘロインの粉末の入った袋が入っていた(1枚目の写真、矢印)。ポールは、それをニットキャップの中に隠す〔伏線〕。それからどのくらい時間が経ったかは分からないが、ポールは母の呼びかけに応えてドアの前に行く。最初は下手に出て開けてもらおうとするが、ダメと分かると、急に声を荒げる。一番ひどい部分は、「お前なんか 大嫌いだ! この、役立たずのクソガキめ! 捕まえたらタダじゃおかないわよ!」(2枚目の写真)「お前は、役立たずの父親にそっくりだ。あたしたちを残して突然死にやがって!」「小便臭いお前の弟。それに お前! お前くらい役立たずのクズ息子はいない! 不愉快で愚劣なチビゲス野郎〔Stinking, shitty little bastard〕! お前なんか産まなきゃよかった!」。ここまで言われて頭にきたポールは、ドアの外に出て頭を冷やす。外はもう真っ暗だ。 

そこに、自転車に乗ったルイーズがやって来て、「大丈夫、チビちゃん? どうしたの? お腹空いてない?」と声をかける。恐らく、ポールを連れ出せとレニーに頼まれたのだろう。「今、店を閉めてきたトコなの。いらっしゃい、卵焼きでも作ってあげる」と、しつこく誘う。最後の、「半時間くらいなら、ママも寂しくないわよ」の言葉に、ポールもつい心を動かされ、母のいる2階を見上げる(1枚目の写真)。ポールがOKし、ドアに鍵をかけようと後ろを向いた時、ルイーズが左を向いて僅かに首を振る。これはレニーへの合図に違いない。2人は、誰もいなくなったルイーズの店へ。そこで、2人はケチャップを掛け合って遊ぶ。ルイーズが床に落ちたケチャップの汁で滑った時、ポールの手が偶然 胸に触れる(2枚目の写真、矢印)。「いいのよ、続けて」。10歳のポールは、もちろん何もしない。「前にしたことないの?」。「まだ10歳だよ」(3枚目も写真)。「つまむ〔pinch〕のよ」。ポールは思い切りつまみ、ルイーズは悲鳴を上げる。ルイーズは、「デキちゃってから〔up the duff〕、敏感なの」と理由を説明するが、ポールには俗語の意味が分からない。「『デキちゃって』って?」。「赤ちゃんよ」。「赤ちゃんのパパは誰?」。「あんたってことにしてもいいのよ。例の友達、興奮する〔get your mate going〕んじゃない?」。「ママが興奮しちゃうよ」。約束の時間は十分達成したので、急に 「もう帰ったら」と帰宅を促す。ポールは、母のことをすっかり忘れて楽しんでいたので、慌てて帰る。  

しかし、もう遅すぎた。ポールが自転車で着くと、玄関のドアは開いていた(1枚目の写真、矢印)。自転車を放っておいて、2階に駆け上がると、母の部屋も開いていて、中にはレニーがいる。ポールは「彼、どうやって入った?」と母に訊くが(2枚目の写真)、「何してたの?」と聞き返されただけ。母は、ヘロインの注射で、すぐ 恍惚としてソファに横になる。レニーは、「また後でな〔See you later, sweetheart〕」と “sweetheart”を使い、キスするので、母に好意を持っていることがはっきりと分かる〔以前、コメントした〕。レニーは、立ち上がり際に、母のポケットにヘロインの袋を入れる。ポールは、「ママ、ごめん」と母の横に座る。レニーは、「何か買ってこい」と、ポールに札を渡そうとする〔額面不明〕。「あんたの金なんか要らない」。そして、「ママは、ギア〔ポールが、いつの時点で「ギア=ヘロイン」だと悟ったのか不明なので、ギアのままとする〕を やめたがってた。もうちょっとだったのに」と文句を言う。「そんなに簡単じゃないんだ」〔1ヶ月はかかる〕。「できたさ。ギアのせいで、みんなの人生はサイテーだ」。「違ってるな、坊主。みんなの人生は、もうサイテーなんだ。ギアは、それを忘れさせてくれる」。そう言うと、レニーは、もう一度札をポールに渡そうとし(3枚目の写真、矢印)、受け取らないので、部屋の隅の棚に置いて出て行く。  

ポールが母の横で寝ていると、玄関のドアを叩く音がする。それは、警部補で、恐らく、レニーの行動を見張っていて、母が、ヘロインを受け取ったと見て踏み込んだのだ。警部補は、先ほどレニーが母のポケットに入れたヘロインを見つける。「おい、いいか、ロッジ〔レニー〕に こいつを売ったのは誰だ?」。母は、「そんなこと、何で私が知ってるの?」とバカにしたように答える〔母は、恐らく知らないし、興味もない〕。警部補に同行したソーシャル・サービスの女性職員ヘレンが、「子供の前なのよ!」と、警部補のやり方を批判する。警部補は、「その子は、あんたより、麻薬に詳しいんだ」と反論する。母は部下の警官によって連れ去られようとし、ポールは、母と別れたくないので叫んで抵抗する。警部補は、ポールの顔の前に押収したヘロインを突きつけ、「聞くんだ、坊主。もし、誰かが こいつをお袋に売りつけたら、俺ならただじゃ済まさんぞ」と、ポールに事態の重大性を示唆する(1枚目の写真、矢印はヘロイン)。ポールは、女性職員の車で祖父母の家に連れて行かれる。そこで、職員は、祖母に、ポールの母が明日には釈放されると告げる。翌朝、ポールは、祖父母の家を飛び出して警察署まで走る。そして、母が釈放されて出て来ると、「ママ」と声をかける。ポールは、母を祖父母の家に連れて行こうとするが、そこにレニーが車で乗りつけ、母に警察で何があったかを尋ねる。母は、レニーのことをいろいろ訊かれたと話した後、すぐにヘロインが欲しいと言い出す(2枚目の写真、矢印は警部補)。母を見張っていた警部補は、「ガールフレンドのお迎えか?」と声をかける。レニーは、敢えて堂々と会いに行き、「何か、お役に立てることでも?」と訊く。警部補は、「きれいな男は、刑務所でひっぱりだこだぞ」と、皮肉に答える。警部補が車で去った後、レニーの車に乗り込もうとする母を、ポールは、必死に止めようとする。レニーは、母だけ車に乗せる。怒ったポールは、道路端に置いてあった煉瓦を取り上げると、車のトランクを傷つけた後、車から降りて来たレニーから逃げるようにフロントに回ると、煉瓦をフロントガラス目がけてぶつける(3枚目の写真、矢印の茶色のものはガラスにぶつかって跳ね飛んだ煉瓦)。ポールは、2個目の煉瓦を手に取ると、今度はレニーの顔目がけて投げる。額から血を流したレニーは、ポールを捕まえ、「何て奴だ。俺が全力を尽くしてるってのに、こんなもん顔に投げやがって。ママを助けてるだけじゃないか!」と怒鳴る。「ギアを使ってもママは助からない!」(4枚目の写真)。「無理強いは してない! お前はしばらくどっかに行って頭でも冷やしてろ。戻ってきたら、もう一度 家族にしてやる」。「あんたは家族でもパパでもない」。「パパの一番の親友だった」。「違う。パパは あんたに二度と会わないと言ったし、『くず』だとも話してたぞ」。ポールの最後の言葉は、ただの誹謗だろう。レニーのような悪漢が、ポールに煉瓦をぶつけられても殴らずに我慢するということは、レニーはやはりポールの父と懇意の友達としか思えない。そうでなければ、良し悪しは別として、母やポールを特別扱いすることはあり得ない。   

レニーが母を家に連れて行ったので、ポールには行き場所がない。そこで、ルイーズのアパートに行く。ルイーズは、赤ちゃんやレニーのことを話した後、麻薬をやめたいと言い出す。「私は吸ってるだけ。あんたのママとは違う。彼女は、ホントのジャンキーよ」と漏らし、言い方が不味かったと気付く。「ママをジャンキーと言ってごめんね」。「でも、そうだ」。「ええ、そうよね。だけど、あんたにはママがいる。あたしは捨てられた。ジャンキー・ママでも、ゼロ・ママよりマシよ」(1枚目の写真)。この、あまり慰めにならなかった話し合いのあと、ポールは家に戻る。そこには、ソーシャル・サービスのヘレンがいて、母と話し合っていた。母は、ポールに、これからどうなるかを話す。「ママはね、お祖母ちゃんに、あなたとリーをしばらく預かって欲しいと頼むことにするわ」。「僕を捨てるの?」。「捨てたりなんかしない。預かってもらうだけ。いいことポール。あなたは頼れる10歳。でも、わずか10歳でもあるの。その年では、できないこともある」。「僕とリーは、いつ家に戻れる?」。「すぐよ。やめられたらすぐに」。ポールは、毎日会いに行くと言うが、治療に良くないので、母はきっぱり とめる。「数週間で、何もかも昔のようになるわ」。「良くなるんだね?」(2枚目の写真)。「良くなるわ。すべてがね」。ポールは、ヘレンの車で、祖父母の家に連れて行かれる。その後、ポールが優しい祖父と話すシーンがあるが、その中で、「僕、パパがどんなだったか忘れちゃった。顔も思い出せない」と言うので、①父はかなり前に亡くなったこと、②母のヘロイン歴が長いこと、③前節でポールがレニーに「パパは あんたに二度と会わないと言った…」と言ったが、そんな記憶が残っているハズのないことも分かる。  

父を忘れてしまっていたことで寂しくなったポールは、祖父母の家を抜け出し、また、ルイーズに会いに行く。彼女は、ちょうどでかけるところだった。「街に行って、スリと盗みで遊んで来ない? おいでよ。やり方、教えてあげる。行くわよ!」。ルイーズは、乗り物の中で、前に立った女性のショルダーから財布を盗む。ポールはそれをじっと見ている。そのあと、ロンドンの繁華街ピカデリー・サーカスのネオンが映る〔TDKとSANYOのペアは長く続いたシンボル的存在だったが、最後まで頑張っていたTDKも2015年に撤退し、以後、日本企業のコマーシャルはゼロになってしまった〕。2人はポーリング場に行き、青く光るレーン上に、ピンクに光るボールを投げて遊ぶ。そのあとは、ゴーカートをぶつけ合う。遊びと買い物を堪能した2人は、アパートに戻り、ルイーズはヘロインを吸いながら、「吸ってると感じるの」と赤ちゃんを触る〔ルイーズは妊娠5ヶ月/後で、ルイーズはレニーに殴られて早産するが、胎児がヘロイン中毒になっている(知的・精神的障害の可能性を高める)〕。そして、ポールにも触らせる(1枚目の写真、黄色の矢印はストロー、赤い矢印はライターの火、ポールの手はお腹の赤ちゃん)。「デヴィッド・ベッカムだ」。このポールの一言で、赤ちゃんの名はベッカムになる。ルイーズは、そのままベッドに倒れ込み、ポールも隣に横になる。「試させて」。「バカ言わないの」。「どんな感じか知りたいんだ」。「まだ10歳よ。11になるまで待って」。「いいじゃないか」。「お金〔dosh〕あるの?」。ポールは首を振る。「食べさせてあげても、ブラウン〔brown:ヘロイン〕はあげない」。「どんな感じなの?」。「そうね… お腹が空いてる時は、一袋〔bag〕で満腹にしてくれる。眠りたい時は、一袋で眠らせてくれる。抱きしめて〔cuddle〕欲しい時は、一袋で優しく抱いてくれる」(2枚目の写真)。「じゃあ、ボーイフレンドなんか要らないね」。「そんなことない。よければ、ここで寝ていけば?」。一緒に寝るといっても、逆向きにしか寝させてもらえない(3枚目の写真、矢印はルイーズの足)。  

翌朝、ポールがルイーズと一緒に公園にいると、そこにレニーがやってくる。ポールは、遊具の下に隠れる。ルイーズが、20ポンド札を何枚か渡すと、レニーはすぐポケットに入れ、「1時間したらアブー〔手下〕が持ってくる」としか言わない。ヘロインが切れかけているルイーズは、少しでももらえないかとすがりつくが、レニーは彼女を押し倒す。ポールは、思わず「ルイーズ!」と叫び、レニーに見つかってしまう。レニーが最も気にかけていたことは、最近ポールの母がどこにもいないこと。そこで、「ママはどこだ?」と訊く。「知らない。ホントに知らないんだ」(1枚目の写真)。「心配するな。俺が見つける」。そのあと、学校に行ったポール。いつもの友達に、「どこにいたんだ?」と訊かれ、「ルイーズのトコに泊まった」。「嘘だろ!」。「ホントさ。彼女のベッドで寝た」。「すごい! 最後までイッたのか?」(2枚目の写真)。「ぜんぜん」。「なんで?」。「もう妊娠してる」。その時、ポールが無断外泊したので心配して学校にやってきた祖母が、襟をつかむ。「いったいどこにいたの? すごく心配したのよ」。祖母は、次に、ポールの耳をつかむと、「お母さんは、あんたを好き放題にさせてたけど、私は違う。今後は、黙って何かしたら許さないよ」と思い切りねじる。ポールは思わず悲鳴を上げる(3枚目の写真)。  

祖母は、ポールと弟を連れて、母が収容されている施設を訪れる。談話室には、ヘレンも来ている。面会時間は1時間。あと5分で30分遅刻なのに、母は姿を見せない。女性は、「あと5分待って来なかったら、切り上げましょ〔call it a day〕」と言う(1枚目の写真、矢印は母)。その直後に現れた母は、遅れたことを謝りもせず、何も言わずに、子供たちをボーッとした顔で見るだけ。「25分の遅刻よ」と指摘されても、「歩かないと」。「残りの35分を有効に過しましょ。座って」。祖母は、穢れたものでも見るように母を眺める。母は、子供たちの間に腰を降ろす。ポールはイスから降りて母の横に座り込む(2枚目の写真)。映画は、一気に35分後。施設の外まで、母が見送りにくる。別れを惜しむでもなく、意識が半分飛んでいる。母のあまりのヒドさに、ポールは、ヘレンに、「ママを助けるって言ったじゃない」と責める。「そうよ。でも、ママが努力しないと 助けられない」。「どういうこと?」。ポールは事態を理解する。ポール→ヘレン:「そうなのか… 何もしてないんだ。預けたんじゃない、ヘレンが取り上げたんだ。ルイーズの赤ちゃんの時みたいに〔ルイーズの最初の赤ちゃんを保護した(取り上げた)のもヘレン〕」。ポール→母:「この嘘つき! 大好きなのはギアだけ。そうなんだろ? もう1つ好きなのは、レニー。レニーが大好きなんだ!」(3枚目の写真)「そうだ。自分で首に注射すりゃいい。リーも僕もいなくていい。勝手にしたらいい。あんたなんかどうでもいい。僕のママじゃない! ママなら、腐ったジャンキーのハズがない! この、腐ったジャンキーめ!」。そう怒鳴ると、ポールは走り去る。ここでも疑問が残る。専用の施設にいるので、ヘロインの注射などできない。ということは、母は禁断症状と戦っているハズだ。「努力をしない」というのは、どういう意味だろう? この挿話は、ポールに次の行動を取らせるためだけに、無理矢理入れたとしか思えない。  

ポールは、そのままルイーズが働いている店に直行する。そして、テーブルに座り、ルイーズが注文を取りにくると、以前、レニーが郵便受けから入れたヘロインの紙袋をテーブルの上に置く(1枚目の写真、矢印)。そんなヤバいものが置かれたのを見たルイーズは、反対側の席に座り、紙袋を手で覆って隠す。「あんた、私を首にさせたいの?」。「試してみたい」。「これ20袋よ。どこで手に入れたの?」。返事はない。ルイーズは、やむを得ず、ポールを裏路地に連れて行く。「こんなのバカげてる」。「ママが、どう感じてるのか知りたい」。ルイーズは、自分がするやり方で、ポールにヘロインを吸わせる(2枚目の写真)。気持ちが悪くなったポールは、食べた物を全部吐いてしまう(3枚目の写真、矢印)。  

その後、ポールはルイーズの店に戻り、テーブルに座ったまま、ぼんやりと店内を見ている(1枚目の写真)。そこに、なぜか、母が現れる。母は強制的に収容されているのではなかったのか? 万一、出入り自由だったとしても、なぜ、ルイーズの店に来たのだろう? あまりにご都合主義的だ。母が前に座ると、ポールは、「やあ、ママ。これで僕ら同じだね」と単調な声で言う。母は、ポールの異様な目つきでヘロインを摂取したと悟る。激怒した母は、「このアバズレ! よくも息子に麻薬を!」と、ルイーズにつかみかかる。「あんたみたいになりたがってた!」(2枚目の写真)。「麻薬なんか与えて!」。「違う。あの子のギアよ!」。母は、店主によって追い出される。店から出たポールは、幻覚に襲われながら歩いている。最後は、どこかの道端で倒れているところを警部補に保護される(3枚目の写真)。次の映像は祖父母の家。祖母と祖父が奇妙に優しく語りかける部分も、ポールの幻覚の一部なのだろうか? 最後は、ベッドで眠りに就く。  

翌日、ヘロインの作用が抜けたポールは、ルイーズのアパートに行く。鍵のかかっていないドアを開けると、中でルイーズが苦しんでいた。「どうしたの?」。「赤ちゃんが産まれる。救急車を」(1枚目の写真)。救急車の中で、救急隊員がポール〔ルイーズの弟だと思っている〕に、「誰がやったの?」と訊くので、早産は暴力を受けた結果だと分かる。病院に着くが、ポールは子供なので、分娩室への同行は許されない。看護師は、保育器に入れたルイーズの赤ちゃんの写真をインスタント・カメラで撮影し、外で待っていたポールに、「これを お姉さんに」とプリントを渡す。「赤ちゃん、大丈夫?」。「ああ、ヘロインがちゃんと抜ければな」。ポールは、写真を持って大部屋に向かう。ベッドの横のイスに座ると、「大丈夫?」と訊きつつ、写真を渡す(2枚目の写真、矢印は写真)。ルイーズは、救急車を呼んでくれ、写真まで持ってきてくれたポールに、「こんなに早く産まれたのは、あんたのせいよ」と非難する。「あんたのせいで首になった。カフェじゃ、ギアと関わるような奴には用がないって。みんな あんたのせい。レニーに殴られたのも。ベッカムが自分の子だとも知らないで」。ルイーズにはヘロインの禁断症状からの苛立ちがあり、最後には、怒鳴って追い出される。 

ポールが、元ルイーズの店に行き、何も注文せずにテーブルでノートをつけていると、新しく入ったウェイトレスが、何か注文するよう催促する。そこに警部補が入って来て、ポールに「おごりだ〔It’s on me〕」と言うと、満足に食べていないポールは、山ほど注文する。警部補は、「何か、話すことは?」と訊く。ポールは首を横に振る。「レニーを片付ける〔put Lenny away〕には、大量のヘロインを持ってる時に捕まえる必要がある。それには、ブツが届いた直後に逮捕する〔picking him up〕しかない」(1枚目の写真)。「なら、そうしたら」。「彼には監視をつけているが、どこから入手しているか未だにつかめてない。誰かいるハズなんだが」。「僕?」(2枚目の写真)。「かもな」。「それじゃ、捕まえられないハズだ」。この時、ポールの目は、一点を見つめ、カメラは、カウンターの店主を映す(3枚目の写真、矢印はテイクアウト用の箱)。一瞬で終わってしまい、この時点では何の意味もないシーンだが、後で、この店主こそ「誰か」で、このテイクアウト用の箱の中にヘロインが詰まっていることが分かる。右の男は「運び屋」。  

それから何日後かは分からない。ポールと弟が、祖母と一緒に家を出ると、レニーの車が乗りつける。ポールは、駐車していた車の陰に隠れて様子を伺う。祖母は、レニーを「死んだ息子の一番の親友」と思っているので、きわめて愛想がいい。レニーが来た目的はポールだったので、挨拶が済むと、「ポールは?」と訊く。その言葉を聞くと、ポールは見えないように走って逃げ出す。そして、そのまま学校まで走って行くと、柵の前には母が待っていた。先回はあれほど母のことを罵ったポールなのに、すごく嬉しそうに「ママ」といって抱きつく(1枚目の写真)。母は、病院を替ったと打ち明ける。「なぜ?」。「レニーから逃げるため」。「さっき、おばあちゃんのトコに、僕を捜しに来たよ」。「違うわ、私を捜してるの」。母は、話題を変える。「来ちゃいけないんだけど… 数日おきに、我慢できなくて。あなたを見にね。学校が嫌になると、ずる休みしたでしょ。みんな知ってる。一緒に家に戻ったら、許さないわよ」。「戻る?」(2枚目の写真)。「歯が痛いの。他にも痛い。メサドンを始めたから」。「メサドンって何?」。「お薬よ。医者がくれたの。ギアが欲しくなるのを止めるため」。母は、カフェの日から3週間ヘロインはやってないと話す。「カフェの日」というのは、ヘロインを吸ったポールを見て、母がルイーズを怒鳴った日のことだろう。もし そうなら、母は、それ以前、施設にいながらヘロインを注射していたことになるのだが?!

 

その夜、ポールはベッドの中で母のことを心配する。そして、翌朝、学校に行くと、レニーが自分を捜し回っている。ポールは見つからないように逃げ出し、ヘレンに会いに行く。そして、いきなり、「ママ、どこにいるか知ってる?」と尋ねる。「どうしたの?」。「どの施設に入ってるか知りたいんだ」。「面会禁止なの」。「会わないと」(1枚目の写真)。「そんな簡単じゃないのよ」。「すごく大事なんだ」。ヘレンは、ポールを施設に連れて行く。母の部屋に入ると、母は吐いている最中。「どうしたの?」。「メサドンの瓶を落しちゃって、月曜まで手に入らない」。「ここでもらったら?」。「私が使ってること、知らないの。知ってたら入れてくれなかったから」。疑問は幾つもある。ポールが「面会禁止」なくらい管理が厳重なのに、なぜ、母は何度も抜け出してポールを見に行けたのか? そして、どこでメサドン〔薬物乱用法のクラスA〕を出してもらえたのか? 母がいる場所が、麻薬依存症者の治療施設なら、メサドンはヘロインの解毒や維持療法の第一選択肢なのに、なぜ使ってはいけないのか? 本題に戻り、母は、「もうできない。耐えられないの」と言い出す。「あんなに良かったのに」(2枚目の写真)。「あの時はね」。そして、「とても大事な審査〔case review〕を受けないと いけないのに…」と打ち明ける。「審査って何?」。「大勢の人がいて、あなたたちを返してもいいか判断するの」。「すごいじゃない」。「ぜんぜん。見なさいよ、ベッドからも出られない」。「頑張って。僕、家に戻りたい。約束したじゃないか」。「ほんのちょっとだけギアがあれば… 力が出るだけでいい… そしたら、審査に出られるのに」。「審査とやらに行けなかったら?」。「次の機会まで、6ヶ月待たないと」。この返事にも納得できない。半年後? 母がここに来てから3週間。重症のヘロイン中毒からの回復が1ヶ月で「審査」できるのに、なぜ、軽症化した患者の再審査が半年後になるのか? これも、ポールを動揺させて、次のステップに進ませるための「ご都合主義」の脚本としか思えない。ポール:「6ヶ月?」。「6ヶ月よ。ほんの少し元気がつけば、フツーになれるのに」。最後までヘロインにすがろうとするクズのような母を慰めようと、ポールは母に抱かれることで力を与えようとする。けなげなポールの態度が「薬」になったのか、母は、「また一緒に暮らしたい。寂しいわ、ポール」と言い、ポールの目から涙が溢れる(3枚目の写真)。ハリー・イーデンの演技は素晴らしいのだが、お粗末な脚本が足を引っ張っている。  

施設を出たポールは、電話ボックスに行くと、前にもらった名刺を見て、警部補に電話をかける(1枚目の写真、矢印はコイン)。ポールと警部補は何かを計画するが、映像では紹介されない。場面は、ルイーズがいた店に変わる。店の前で待っていたポールは、店に入ろうとするレニーを呼び止める。レニーは、ポールの方から接近してきたのでびっくりする。「テイクアウトするが、お前も何か食うか?」。2人はテーブルにつく。ポールが頼んだのはフライドポテト付きハンバーガー。横に鞄を置いたレニーは、「で、どうした?」と訊く(2枚目の写真、矢印はお金の入った鞄)。「いつもママにギア渡してたよね。今、少しもらえない?」。レニーに訳を訊かれたポールは、ヘロインを断ったせいで、母が廃人のようになり、何もできず、ベッドに寝たきりになってしまったと訴える。それを聞いたレニーは、「いいだろう。分かった。お前とは、このところ最悪だったよな。だが、お前のことは、いつも家族だと思ってたんだ。分かってるだろ?」。「ホントの家族いるじゃない。赤ちゃんベッカムが」。この言葉に、レニーは仰天する。「赤ちゃんベッカムって、何なんだ?」。「あんたとルイーズの子。彼女 言ってた。ギアの代わりにヤッた時できたんだって」。ここで、店主が、ポールのハンバーガー・チップスとレニーとアブー用のテイクアウト箱〔ヘロイン入り〕が2個入った大きなポリ袋を持って来る。そして、レニーの横に置いてあった鞄〔現金入り〕をそっと持って行く。それを合図に私服警官が動き出す。「赤ちゃんベッカムだと?」。店主はすぐに2人の私服に挟さまれ、密かに連行される。レニーは後ろ向きに座っているので、それに気付かない。「あいつ何で黙ってた?」。「あんたが怖いからだよ。みんな怖がってる。僕以外はね」。その時、1人の私服がいきなりレニーを押さえ込み、もう1人がポリ袋を取り上げて、仲間に放り投げ、次いでポールを捕まえて警部補に渡す。暴れるレニーは2人がかりで拘束される。警部補は、暴れるフリをするポールを抱え、レニーに向かって、「このクソガキは、お前の使い走りだな」と言い(3枚目の写真)、その直後、テイクアウトの箱の中にヘロインが発見される。「母親も連行しろ。これで一網打尽だ」。レニーは、「メル〔ポールの母〕には構うな!」と言い、ポールの前を連行される時には、「済まんな」と声をかける〔ポールが補導されると思った〕。極悪人ながら、メル+ポールに特別の想いがあったことは間違いない。誰もいなくなってから、警部補とポールは、にこやかに対面する。「よくやった」。「僕があんたに話したってこと、レニーにバレないよね」。「バレるもんか。俺だって、君の方が俺より切れるだなんて、誰にも知られたくないからな」(4枚目の写真)。   

1週間後の審査の日。祖母は、「私は、家族のために最善を尽くしてきたわ。そう思ってないでしょうけどね。ところで、この1ヶ月、落ち着いた生活が送れたでしょ。だから、このまま続けるのが一番ね。会合が終わったら、パイとウナギでお祝いしに出かけましょ」とポールに言う。ポールは、この言葉に危機感を覚える。祖父も同意見だ。そこで、祖母が出かけると、ポールは祖父の車椅子を押して家を出ると、そのままずっと走って施設に向かう(1枚目の写真)。そして、審査が始まる直前に、ノックなしで 車椅子を先にして押し込む。「ごめん 遅れちゃった。やあ ママ、きれいだね」。祖父は、「わしは、3人の将来について言い分を聞いてもらいに来た」と話す。まとめ役の女性は、「奥様が代弁されるのだと思っていました」と言うが、わざわざ車椅子で現れたので当然OKされる。ポールは部屋を出るよう指示され、祖父に望みを託して出て行く(2枚目の写真)。 

ポールが、雨の激しく降り出した中庭から見守る中〔ポールに声は聞こえない〕、審査は始まった。最初に話したのは祖父で、「息子〔ポールの父〕が死んだ時、彼女〔ポールの母〕もバラバラになってしまった。息子は 家族の支えだったから。息子が逝った時、どうしていいか誰にも分からなかった。特に彼女には。だから、彼女はチャンスを与えられるべきだ」。祖母は、「だけど、彼女 麻薬をやってるのよ」と反論する。ヘレン:「今は、メサドンです」。祖母:「子供たちは、私達と一緒に暮らさないと」。まとめ役の女性は、麻薬から抜けたばかりの女性が、2人の息子を養っていけるかどうかを心配する。母は、「スーパーで働きます。難しい仕事〔rocket science〕じゃありませんから」と提案する。まとめ役の女性から、麻薬依存での失職〔肉屋〕を指摘されるが、母は、「あなたたちが どう決めようと、私がこれまでしてきた以上に 子供たちを傷つけることはありません。私がポールにしたことの責任の重さに比べれば、ギアをやめる辛さの方がずっと軽いんです。私の家族を元に戻すのは正しいことだと思います」と自分の意見をはっきりと述べる。そして採決。ここから、外から見ているポールの視点に切り替わるので、音声は聞こえない。「採決」というからには、母以外の室内にいる全員が1票というのが当然だろう。映画を観ていると、まとめ役の判断はNo、ヘレンはYes、初めて写る中高年の女性はNo、その隣の男性もNo。そして、祖父はYes。それを見た祖母は、祖父に促されてポールの必死な顔を見うると目に涙が溢れ、ポールに向かって頷いてYesであることを示す(1枚目の写真)。それを見たポールは微笑む(2枚目の写真)。すると、母が、「ありがとう」と言って立ち上がり〔Yesが3、Noが3で同数だが、祖父母が優先された?〕、ドアを開けて中庭に出ると、ポールを抱きしめる(3枚目の写真)。映画は、母が、息子2人を連れてサッカーの観戦に行く場面で終わる。  

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