トップページに戻る
  少年リスト   映画リスト(邦題順)   映画リスト(国別・原題)  映画リスト(年代順)

Secuestro ボーイ・ミッシング

スペイン映画 (2016)

マルク・ドメネク(Marc Domènech)が辣腕弁護士の誘拐された息子を演じるクライム・サスペンス。少年の誘拐というテーマは別に珍しくもないが、ここでは、それを逆手にとって一風変わったサスペンス映画に仕立てている。そして、映画の後半になって表面化する2度目の本格的な少年誘拐。なかなか凝った作りだが、「子役」の映画として観ると、マルクは前半にはよく顔を出すが、後半にはばったり姿を見せなくなる。確かに、前半があって、初めて後半があるという2段構えの構成なのだが、前半だけをもっと深化させて、全く違った映画にしても面白かったかもしれない。

額から血を流し、乱れた衣服のまま森の中を茫然と歩いて行く1人の少年。車で通りかかった人は、すぐに病院に連れて行き、警察が呼ばれる。状況から、少年への性的暴行が疑われるが、病院で検査してもそうした兆候は全くないので、次に疑われたのは児童誘拐。少年は何も話さないので、警察は制服から身元を突き止め、辣腕の弁護士の母親に「誘拐の疑い」ということで連絡を入れる。駆けつけた母は、少年ビクトルが聴覚障害のため、他人には口をきけないと説明する。ビクトルは、母にも、何があったかを話さず、早く家に帰りたいとしか言わない。しかし、母がマスコミに「誘拐」と言ってしまったので、事は大きくなる。警察署に連れて行かれたビクトルは、何があったかを追求され、男になぐられ気を失った、と話す。そして、その男のモンタージュ画像を作成。それが90%の確率で一致したことから容疑者としてカルロスが連行される。しかし、物証がないため翌日帰宅を許される。その後も、カルロスはビクトル母子の乗った車を尾行したり、真夜中にビクトルの家に近づいたりと怪しい行動を取り続ける。我慢できなくなった母は、警察不信も加わり、10年前に自分から別れた元夫〔当時は犯罪者〕のところに行き、カルロスに警告を与え、息子を脅すのをやめさせるように頼む。元夫は、その時初めてビクトルが自分の息子だと知らされ、渋々OKする。しかし、この「勇み足」はすぐに破綻する。まず、カルロスには「誘拐」したとされる時間に絶対的なアリバイのあること判明。母はすぐに元夫にストップの電話をかけるが留守録になっている。警察はビクトルに新たな容疑者選びを頼み、それが失敗したことで、ビクトルの証言に疑問を抱くようになる。ビクトルは遂に母に打ち明ける。実は誘拐ではなく虐めだったと。あまりに陰湿な虐めだったので、恥ずかしくて話せなかったのだ。それを知った母は、急いで元夫に連絡を入れるが、カルロスへの「警告」はもう実行中だった。しかも、カルロスが抵抗して2人の暴漢の1人を傷つけたため、撃ち殺されてしまう。事は母の思惑とは全く違った方向へと進んでいく。母は暴漢から多額の金を要求され、元夫に泣きつくが無視される。息子に危害が及ぶと恐れた母は、ビクトルを見つからないように隠すが、暴漢はすべてお見通しでビクトルを拉致する。そして、再度600万ユーロの支払いを要求する。息子の命がかかっているので、母は全財産を処分して600万ユーロを銀行から引き出すが、すべては警察によってフォローされていた。母は、カルロス殺害を指示した犯罪者とされ、身代金を殺人犯に渡したと同時に逮捕されることになっていた。母は、そうと知りながら、息子のために大金を運んで行くが…

マルク・ドメネクは、この1作だけで知られた子役。2016年の映画だが、2018年現在、次回作があるとの情報はない。下がり眉で目も下がり気味。すごく弱々しい印象だ。おどおどした役にはぴったり。


あらすじ

今回に限り、あらすじでは、映画と異なり時系列順に内容を紹介していく。それは、映画の半ばで判明してしまう「ネタバレ」を守るよりは、主人公ビクトルが なぜ嘘をつかざるを得なくなったかを順を追って解説した方が面白いと考えたから。映画の本筋は後半に集中し、こちらの方は時系列順でも映画と変わらないので、映画の落とどころはこのスタイルでも守られる。映画の中で、「もっと後に使われている」が、時系列順にするため「繰上げ使用」した映像は、左側に山吹色の帯をつけて区別する(タイムラインに沿った映像はの帯)。

ビクトルは、敏腕の女性弁護士を母にもつ11歳の少年。父が誰かは聞かされていない。モダンで立派な家には、母とビクトルと住み込みのメキシコ人の保母兼メイドしか住んでいない。ビクトルには生まれた時から聴覚障害があり、耳に付けた補聴器で一部は聞こえるが、話すことは困難で、いつもは手話に頼っている。ビクトルは普通の小学校の、日本で言えば「難聴通級指導教室」に通っていると推定できるが、なぜか虐めグループの被害に遭っている〔特殊教室の生徒がなぜ虐めグループに目を付けられたのかは分からない。ビクトルの障害度では普通のクラスではやっていけないのでクラスメイトということはあり得ない〕。ビクトルは、虐めが原因で学校に行くのが嫌になり、1週間、病気のふりをして登校を拒否していた。本来なら、少人数の特殊教室なので、1週間も休めば学校側はもっと心配すべきなのだが、そのような様子は一切見られない。仕事に忙しい母も、「登校拒否」という息子の必死のサインに全く気付かない。そして、8日目。ビクトルは家にいたいと言ったが、母は強引に学校に連れて行く。ビクトルは、学校で何をされるか分からないので不安でいっぱいだ(1枚目の写真)。車は学校の前に着き、ビクトルは車から降りる。背後には、登校して行く多くの生徒たちが見える(2枚目の写真)。ビクトルは、前方に虐めグループが待ち構えているのに気付いても、前に進まざるをえない(3枚目の写真)。
  
  
  

虐めの首謀者はダニエル。さっそく、「おいダンボ、寂しかったか」とちょっかいを出す(1枚目の写真、右がダニエル)〔ダンボは、大きな耳で空を飛ぶマンガの小象。耳の聞こえないビクトルをからかったあだ名〕。ビクトルが無視するので、「補聴器、壊れてるのか?」と言いながら、仲間同士でビクトルを小突き回す。そして、学校とは反対の方角に集団で連行する。一番小柄なビクトルが逆らえるはずもない。「ダンボ、ほらこっちだ」。ビクトルは林の中に連れ込まれる。突き飛ばされた時に、補聴器が雑草の中に落ちてしまう。必死で逃げようと暴れるビクトルだが、多勢に無勢で、「暴れるんじゃない」と煉瓦アーチの所まで連れて行かれる。仲間の1人がネットで配信できるよう、スマホで動画を撮影している(2枚目の写真、矢印はスマホ/3枚目の写真は、後で再生された動画)。アーチの下の地面には犬の糞が落ちている。悪質な不良たちは、「さあ、食え」と言いながら、ビクトルの顔を糞に近づけようとし、ビクトルは全力でそれに抵抗する(4枚目の写真)。「食うんだ! じたばたするな。美味いぞ」。そして、3人が力ずくでビクトルの顔を糞に押し付ける(5枚目の写真、矢印は地面に押し付けられたビクトル)。「美味いだろ? 気に入ったか?」。
  
  
  
  
  

虐めグループが去った後、ビクトルは何とか家に戻ろうとして森の中を走る(1枚目の写真)。ここで「ツッコミ」。1枚目の写真では、右襟、Yシャツ上部の右前身頃(ともに矢印)に血が付いている。顔には血がついていない。どこから出血したのだろう? 映画では、その直後、2枚目の写真の映像に変わる。ここでは、左襟、Yシャツ上部の左前身頃(ともに矢印)に血が付いている。1枚目の写真と正反対だ。これは衣装係の単純なミス。顔には、左の額から血が流れて顎の下まで達している。次の疑問。いつどこで、こんなひどい傷を負ったのだろう? さて、ビクトルは森を抜け出し、道路をフラフラと歩いているところを対向して走ってきた車の運転手に発見される。発見者は、ビクトルのケガを見て驚き(3枚目の写真)、警察に通報し、救急車を呼ぶ。この3枚目は、映画の冒頭、タイトルが出る前に流される映像だ。だから、映画は、ビクトルの異常な状態が学校での虐めによるものだとは説明されないまま、「森の中の道をケガをした少年がフラフラと歩いていた」という謎めいた状況からスタートする。
  
  
  

病院に搬送されたビクトルの元に、さっそく警官が訪れる。その段階で警部の部下が把握していたことは、ビクトルが、①授業時間中に道路で発見され、②非常に動転していてコミュニケーションが一切取れない、ことだった。ビクトルが聴覚障害だとは知らないので、沈黙の背景には何か事情があるのではと疑われる。病院では、骨折も内部損傷も虐待の形跡もないが呼びかけに答えようとしないと警察に伝える。医師も、ショック状態だと勘違いし、聴覚障害だとは気付いていない。そして、警察は、「ショック状態」=「何かあった」と思い込んでしまう。担当の警部はレクイエナ。名前を訊いても、何が起きたか訊いても答えない(1枚目の写真)。質問が聞こえていないので当然だろう。どこに住んでいる誰かも分からないが、着ていた小学校の制服を頼りに、スマホで撮影したビクトルの写真を持参して校長に会いに行く(2枚目の写真)。校長は6年生のビクトル・デ・ルーカスだと教え、5・6日病気で今日も学校には来ていないと答えるに留まる。最初に書いたように、聴覚障害の生徒の管理に対してずさんな学校だ。警部は、母親の名前を聞き出す。その頃、母親は公金横領とマネーロンダリングの罪に問われた被告の弁護人として無罪判決を得ていた。彼女は、無罪になった依頼人と一緒に記者に説明する(3枚目の写真)。その後の依頼人との会話から、彼女がこの手の裁判専門のダーティで「やり手」の弁護士だと分かる。
  
  
  

貸金庫に資料を預けている最中に警部から電話を受けた母は、警察の「誘拐」かもしれないという言葉を真に受け、すぐにマスコミに流してしまう。この、「立場を利用」した、「早まった」行為が、その後のすべての事件の発端となる。そういう意味では、すべての非は母親の最初の一歩にあるので、後で払わされる高いツケも自業自得だと言える。病院に駆けつけた母は、警部に「息子さんは、学校が嫌いでしたか?」と訊かれ、「その種の問題はありません」と言下に否定する。母は息子の悩みを何一つ理解していない。「授業に出たくないから逃げ出した可能性はないのですか?」。「皆無です。息子は逃げたりしません。何か起きたのです」。誤った先入観の怖さ。病室に入って来た母を見て、心細かったビクトルは嬉しそうに抱き付く(1枚目の写真)。今日は、散々な日だった。今までで一番ひどく虐められた上、警察にこんなところにまで連れて来られたなんて! しかし、次に母が、「何があったの?」と尋ねると、「家に帰りたい」と手話で返事をする。「なぜ学校に行かなかったのか、話してちょうだい。そしたら、オウチに帰りましょ」。「言いたくない」(2枚目の写真)。虐めに遭った子供なら、誰でもこう答えるであろう。その時、ベッドの正面の壁にかかっているTVから臨時ニュースが流れる。アナウンサーが話している言葉はビクトルには聞こえないが、母の顔が映り、下のテロップの文字「有名な弁護士パトリシア・デ・ルーカスの息子の誘拐〔Secuestro del hijo de la prestigiosa abogada Patricia de Lucas〕」は読めたに違いない(3枚目の写真)。ビクトルにとっては青天の霹靂だ。警部が、「なぜ嗅ぎつけたんだろう?」と不思議がると、母は、「私が電話したの。息子の失踪をうやむやにして欲しくなかったから」と説明する。この「生意気で差し出がましく浅はかな」行動は、ビクトルにとっては、迷惑で負担になる行為でしかなかった。犬の糞に顔を押し付けられたなどとは、口が裂けても言いたくなかったから。
  
  
  

「誘拐」の文言がTVに出た以上、警察としても「それ相応」の対応が必要になる。お陰で、病院を出たビクトルの行き先は、自宅ではなく警察署になった。パトカーを待ち受ける大勢の報道陣。ビクトルは、どうしたらよいか分からなくなってしまったに違いない。護送されていく犯人のようなビクトル(1枚目の写真、すぐ左は警部)。母や警部を見上げるビクトルの顔は蒼白で不安に満ちている。母と警部が話している間、ビクトルは、多くの署員が忙しそうに動き回っている広い所内で一人放っておかれる。彼は、きょろきょろと見回しているうちに、1枚の紙に目を留める(2枚目の写真、矢印)。それは、ある犯罪者の正面の顔と横顔がプリントされた紙だった(3枚目の写真)。ビクトルにとって、こんなものを見たのは初めてなので、その顔は強烈に印象に残る。
  
  
  

メイドが予備の補聴器を母に持ってきて、それをビクトルが耳に装着すると、急に周りの音が聞こえ始める。ビクトルに合わせた巧い演出だ。母は、「お巡りさんに話したら、オウチに帰りましょう。約束するわ」と言い、ビクトルを警部の部屋に連れて行く(1枚目の写真)。警部:「君は、校舎に入らなかったね。どうしてかな?」。ビクトルは、「入れなかった」と手話で答える。「どうして? なぜ、入れなかった?」。母が、「気分が悪かったの?」とアシスト。ビクトルは首を振る。警部:「授業に出たくなかった? それならそれでいいんだよ」。母が、「怒らないから」とアシスト。ビクトルは大きく首を振る。警部:「じゃあ、なぜ中に入らなかったんだい? 誰かが邪魔した?」。母:「誰かが入らせなかった?」。ビクトルは頷く。ここまでは正直に答えている。しかし、次の「誰?」という質問に対して、虐めの張本人の名前を言えるハズがない〔それが、学校での虐めの悲惨な実態〕。そこで、ビクトルは、「男が近づいてきた」と手話で嘘をつく。その嘘が映像化される。ビクトルは母の車を降りる。実際に降りた時には生徒たちが一杯いた。しかし、ビクトルの作り話では、いたのは緑色の服を着た庭師だけ(2枚目の写真、矢印)。母:「男の服装は?」。ビクトルが手話で答え、母が「学校の庭師」と警部に説明する。手話はさらに続き、「何もかもがあっという間に起き、すぐに気を失った」と母が説明する(3枚目の写真)。ビクトルは立場上、嘘をつくしかなかったが、嘘を最小限にする努力はしている。警部:「殴られた?」。頷く。「だから、気を失った?」。頷く。「男は、顔を近づけたんだろ?」。頷く。「じゃあ、顔を見たハズだ」。ここで、うっかりビクトルは頷いてしまう。「どんな男だった?」。手話:「普通の人」。「何歳くらい? 背は高い? 低い? デブ? ヤセ?」。手話:「ちらと見ただけ」。「それから、どうした?」。2度目の嘘の映像化。フードを被せられたまま車のトランクから出されたビクトルは、どこかの建物の中に放り出される(4枚目の写真、矢印)。しかし、なぜか窓から簡単に抜け出し(5枚目の写真、矢印)、そのまま走って逃げた。ビクトルとしては、嘘は最小限にし、結局何も見なかったことにするつもりだった。それしか、「虐めグループと犬の糞」の真実をスキップする手段はなかった。母が、初期段階でマスコミに電話していなかったら、ビクトルは嘘をつく必要もなく、万事が丸く収まっているハズだった。
  
  
  
  
  

ビクトルは、犯人のモンタージュ画像を作らされる。コンピュータ上で、顔の輪郭から始めて、髪、目、鼻、口などを選んでいく方法だ(1枚目の写真)。ビクトルは、適当に選んでいったつもりだったが、先ほど見た犯罪者の写真が影響を与えてしまう。ビクトルが選んだ「犯人像」を、コンピュータが所蔵している全写真と比較した結果、先ほどビクトルが見た犯罪者が90%適合した「容疑者」として選ばれてしまう(2枚目の写真)。母は、「この人なの?」と訊く。「この人が、あなたを誘拐しようとしたの?」。ビクトルの最大の過ちは、答えに窮した結果(3枚目の写真)、ついつい頷いてしまったこと。最後まで「違う」「分からない」で通していればよかった。ただ、それを責めるのは酷だろう。
  
  
  

その犯罪者は、カルロス・コロナス。窃盗、暴行、家宅侵入で逮捕され、3年間服役した後は何もしていないが、部屋代を滞納していることから、警部は お金欲しさの誘惑だったと推測する。カルロスは直ちに警察に連行されるが、ビクトルが「誘拐」された朝は妻と一緒にアパートにいたと主張する(1枚目の写真、矢印がカルロス)〔妻には、職探しで面接を受けていたと説明していた〕。警察に同時に連れて行かれた妻も、その時間には一緒にアパートにいたと口裏を合わせる。一方のビクトル。帰宅後も、自分がしてしまったことで気が咎め、食欲はゼロ。メイドが、「手をつけてもいません」と料理を母に見せる(2枚目の写真、矢印はビクトル)。心配した母は、息子の前に座る。ビクトルは、「明日は学校に行きたくない」と口と手話を混ぜて話す(3枚目の写真)。彼はとてもシャイなので、母と2人でいる時にしか口では話さない。「疲れちゃった」。母は、「だけど、明日だけよ」と期限をつける。ビクトルは目を逸らして答えない。母は、「あなたはもう安全なの」と言うが、母への信頼度は地に落ちている。
  
  
  

その時、電話がかかってくる。悪童ダニエルの母からだった。母親は、息子は同じ学校に通っていて、「お見舞いに行きたがってる」ので、訪ねて行っていいかと尋ねる。虐めの首謀者のダニエルは、事が大きくなったので、口封じに脅そうとたくらんだのだ。母から電話の内容を聞いたビクトルは、受話器を受け取ると、何も言わずに電話機の本体にガチャリと戻す(2枚目の写真、矢印は受話器)。これは重要なサインで、息子がこれほどの拒絶反応を示すには「何か訳がある」と察するべきなのに、ダメ母は全く気付かない。一方、電話が突然切られたことで、ダニエルは怒りを覚えると同時に危機感を抱く(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、学校には警察の大々的な捜査が入る。それを見ている虐めグループの悪童どもは不安そうだ。ダニエルだけは決然と、これからすべきことを考えている(1枚目の写真、矢印)。警察は、学校の近くの林の中でビクトルの補聴器を発見する(2枚目の写真、矢印)。これは、ビクトルの創り上げた話を補強することになるが、逆に目撃者〔そもそもいないので〕は発見できない。カルロスの自宅の捜査中に本人が雇った弁護士が到着し、証拠もないのに拘束するのは人権侵害だと主張し、即刻釈放を強く求める。証拠はモンタージュ画像との強い一致だけで物証が何も出て来ないので、カルロスはその日の午後に釈放される。一方、ビクトルは、母に欲しいゲームとボールを買いにショッピングに連れて行ってもらう。車の中で、ビクトルは「明日もショッピングに行ける?」と期待半分で訊くが(3枚目の写真)、返事は、仕事があるからダメ。母は自分の車が何者かにつけられているのに気付く。母が、駐車場に入ると、相手の車は入口で停車する。運転していたのはカルロスだった。カルロスは、なぜ自分が捜査対象になったのか知りたかっただけなのだが〔それにしても、愚かな行為〕、母はすぐに警察に連絡する。カルロスは警察に出頭を求められる。母は、警部に「息子が危険だわ」と言い、拘束を求めるが、証拠がないと断られる。
  
  
  

その夜、母はビクトルの部屋に行き、警察の車が学校まで付いてくるし、母が玄関まで連れて行くので安全だと話す。しかし、ビクトルはダニエルが家に来たいと聞いたことで、母のいない時にダニエルに襲われるのではないかと恐れ、「家にいると時が怖い」と訴える。母は、ビクトルを1人にする時は防犯装置をONにすると話す。「いいこと、目が覚めたら、このボタンを押してOFFにするのよ。こっちを押せば、またONに戻るわ」。そう説明すると、ON/OFFのリモコンをビクトルに渡す〔この部分も、よく分からない。朝は原則母が学校に連れていくので、なぜ「目が覚めた時に解除」する必要があるのか? 母がいない時には、常にONにしておくようにすべきで、OFFにする意味はない〕。最後に、ビクトルは、「明日、学校に行きなくない」と必死の面持ちで頼む(1枚目の写真)。母は、「また、明日話しましょ」と話を逸らす。真夜中になり雷が鳴り出し、目が覚めたビクトルは防犯装置をOFFにしてしまう〔「目が覚めた時に解除」と言われたからだろうが、非常に危険で無意味〕。トイレに行き、階段を降り、1階のダイニングキッチンにある冷蔵庫を開ける。ON/OFFのリモコンは常に携帯している〔なぜ、持ち歩く必要があるのか?〕。ビクトルが飲物を飲んで冷蔵庫を閉め、振り返ってリモコンを手に取った瞬間、天井から床までの全面ガラスの外の雨の中を、黒いレンイコートを着た人物が走っていく(2枚目の写真、矢印は走って行くダニエル、そのすぐ左はガラスに反射したビクトルの背中)。2階に上がろうとして外を見たビクトルは、ガラスの外に人影を見つける。雷が光り、そのシルエットがくっきりと壁に映る(3枚目の写真)。ビクトルは悲鳴を上げる。この先の部分が、2つ目の「ツッコミ」。映画では、後から、この時にダニエルが家の中に侵入し、「もしバラしたら、もうゲームじゃ済まない、殺してやる」と脅したことが分かる(4枚目の写真)。そして、脅されている最中に、ビクトルは必死になってリモコンをONにする。すると、ダニエルが侵入した際に開けたドアが反応して警報が鳴り出し、驚いたダニエルは逃げ出す。さて、2枚目の写真でダニエルは右に走って行った。しかし、ビクトルが悲鳴を上げたのは正反対の左側の全面ガラスを見たから(3枚目の写真でもそれが分かる。左にいたからシルエットが右に映る)。この2番目の人物はカルロス。つまり、①ダニエルが右に走り、建物に侵入し、②その直後にカルロスが左のガラスの前に立って中を覗き、③それを見たビクトルは悲鳴を上げる。④その直後、今度はダニエルが襲いかかって脅す、⑤ビクトルは防犯装置をONにし警報が鳴り出しダニエルが逃げる。⑥音で飛び起きた母がビクトルの元に駆けつけ(5枚目の写真)、⑦その時、植え込みの中に潜り込んで逃げて行くカルロスを見る、という順番だ。第1に、ダニエルとカルロスがほぼ同時に出現するなどあり得ない。第2に、カルロスが真夜中に来る理由が全くない〔映画の中でも説明されない〕。第3に、③→④はどう見ても不自然。悲鳴を上げたビクトルに、ダニエルは襲いかかるだろうか? こうした矛盾が生じたのは、映画の最初に①②③⑥⑦を見せて、如何にもカルロスが3度目の襲撃をかけたと観客に思わせ、後から、④⑤を「実は、こうでした」と示したため。連続して見ると辻褄が合わない。カルロスを登場させた唯一の理由は、母に次の「極限の行動」を取らせるための理由付け。映画のこの段階ではカルロスは「完全な黒」なので、「ビクトルを手に入れるためなら彼は何でもする」と思ってしまうが、カルロスが「白」だと判って観ていると、カルロスの行為は「あり得ない脚本のトリック」でしかない。
  
  
  
  
  

「3度目の襲撃」に動転した母は、警部から「容疑者に偽証を勧めて成功を収める弁護士」と揶揄された人となりを遺憾なく発揮し、警察には頼らず、「犯罪行為に走ったため別れた」元夫を訪ねる。そして、「ある男に警告する必要が生じたの」と加担を頼む。いきなり現れての非常識な要求に、元夫は、「俺は変わったんだ」と関与を断ろうとするが、この強引な女性は「人は変わらない」と言い放ち、「自分でやりたくなくても、やれる男を知ってるハズよ。お金なら弾むから」と畳み掛ける。如何にもやり手の弁護士らしい。しかし、やる気でなかった元夫をその気にさせたのは、誘拐されかけたのが自分の息子だったから。母は、10年前、この男の前から忽然と姿を消し、子供ができたことも打ち明けていなかった。元夫は初めて息子の写真を見せられ(1枚目の写真、矢印はスマホ)、要求を飲む。ただ、息子には自分の存在を知らせていないと言われたので、いい気はしない。その後、映画は警部の捜査を追う。偽証罪に問うと脅されたカルロスの妻は、事件当日の朝、夫は闘犬場で違法な賭けに携わっていたと白状する。警察が道路に設置された防犯カメラの分析を進めると、当日朝9時3分にカルロスが車を運転しているのが映っていて、ビクトルを誘拐することは不可能だったと判定される。警部は、その日の夕方、ビクトルと母を警察署に呼び出す。そして、母に理由を告げ、「誘拐犯」の再特定に着手。困ったのはビクトル。もう済んだと思っていたのに、また、気の重い作業のくり返し。「誘拐した男だと思ったら、そう言うんだよ」と一度に4枚ずつ写真を見せられる(2枚目の写真)。元々、存在しない人間なのだが、ビクトルは1人の男を指差す。髭の感じはカルロスに似ている。警部:「確かかい?」。ビクトルは頷く。資料を見ると、1ヶ月前に刑務所内で自殺した男だった。ビクトルの信頼性が揺らぐ。警部は、「どうなってるんだ? 話してないことがあるんじゃないか?」と問い詰める(3枚目の写真)。
  
  
  

これ以上隠せないと思ったビクトルは、母に事実を打ち明ける。母は、「誘拐した男なんていない。作り話だって」と警部に告げる(1枚目の写真)〔最初に書いたように、悪いのは最初に誘拐事件化してしまった母親自身。「作り話だって」という言い方には、息子への責任転嫁が感じられる。「私が悪かった。最初に誘拐されたと勘違いしたから」とでも補足すべきだった〕。この愚かな母にとっての最重要事項は、先ほど元夫に依頼したとんでもない「制裁」の回避。母は、トイレに行きたいと申し出て、至急電話をかけるが、相手は留守電になっている。母が、計画の即時停止を録音するが、気が気でない(2枚目の写真)。トイレから戻って来た母は、ビクトルに「なぜ作り話をしたの?」と尋ねる(3枚目の写真)。警部他2人の警官に囲まれたビクトルは、とても話せない。警部達は話し易いよう席を外す。
  
  
  

ここで場面は切り替わり、同時間に、カルロスに何が起きているかが映される。カルロスは性懲りもなく闘犬場に出かけて行く。そして乗ってきた車を止め、会場に向かう。その時、後を追うように2台のオートバイが入って来る(1枚目の写真。赤の矢印はカルロス、その右がカルロスの車。黄色の2つの矢印はオートバイの2人)。オートバイの2人は、元夫が手配した「脅し屋」だ。カルロスは闘犬賭博で負け、トイレで間違った情報を教えた相手に文句の電話をかけて個室から出てきたところを2人組に襲われる。母が頼んだ「警告」とは全く違っている。カルロスが、自分を挟むように立ちはだかった男たちに「何のつもりだ?」と問い質すと、「弁護士に訊け」というなり殴りかかる。それも、殴って倒れかかった頭をつかむと、鏡に叩きつけるという荒っぽさ。2人がかりで殴る蹴るの暴行を加え、トイレの床に仰向けに倒れさせると、胸の上に足を乗せる。それで負けるようなカルロスではなく、床に落ちた割れた鏡の破片をつかむと(2枚目の写真、矢印は破片)、胸に乗った足に突き刺す。この余計な抵抗のお陰で、カルロスは首謀者に右胸を撃たれる(3枚目の写真、矢印は血しぶき)。母の軽はずみな暴走が生み出した思いもよらぬ恐ろしい結末だ。
  
  
  

一方の警察署。ビクトルは、「警察の人とは話したくない。怖いから」と頼み(1枚目の写真)、母は「私から話すわ」と安心させる。その時、母のスマホに元夫から電話がかかってくる。息子が目の前にいるので、うかつなことは話せない。そこで、仕事の電話のフリをして応対する。「今は話せないけど、解決した?」。「もう取り掛かってる」。「依頼人はやめて欲しいと思ってるの。間違いだったから。彼は何もしてない」。「間違った標的を教えたのか?」。「その通り。だから、取引はなしね」(2枚目の写真)。「何だと、すぐに電話しないと」。次のシーンでは、警部の部屋で、母が息子から聞いた「本当に起きたこと」を克明に打ち明けている(3枚目の写真)。そこで使われる映像は、これまで左側に山吹色の帯をつけて紹介したもの〔1つ前の節のカルロスが撃たれる映像と、スマホでの録画映像を除き〕すべて。だから、映画の観客は、ビクトルが本当に誘拐されたと思ってここまで観てきて、それが間違いだったと気付かされる。そして、これ以後、映画の「主役」は、ビクトルから100%母になり、「大きな間違い」の後始末が映画の主題となる。ビクトルは小さな脇役になってしまうので、あらすじも、ビクトルの稀な登場場面以外は、ストーリーの流れを簡単に追うに留めよう。翌日、学校で。ダニエルは、ビクトルの家に侵入し、「もしバラしたら、もうゲームじゃ済まない、殺してやる」と脅した罪で、警察に連行される(4枚目の写真、矢印)。
  
  
  
  

その時、母に電話が入る(1枚目の写真、矢印は連行されていくダニエル)。電話を掛けて来たのは、昨夜カルロスを襲い、銃で撃った首謀者。男は、「やばいことになってる」「標的はくたばった」と言い、カルロスが抵抗した様子を話し、撃たざるをえなくなったとも。そして、死体は手元にあり、尻には、警察に見つかった時に分かるよう、母親の名前の刺青を入れたと脅す。さらに、この話は元夫とはもう無関係で、死体を始末する代わりに金を寄こせと脅迫する。金額は600万ユーロ。当時の換算で約7億円の大金だ。男が電話をしている最中に、もう1人が車にガソリンをかけて点火する〔この車は逃走用に盗んだもの(オートバイではカルロスは運べない)。ただし、燃すことに何の意味があるかは不明(爆発音が通報される可能性あり)〕。母は拒否する。すると、撃たれたカルロスの写真が送られてくる(3枚目の写真)。母は、すぐに元夫を訪ね、①「警告」と頼んだのに殺したことを抗議し、②自分の名前を相手に教えたことも抗議するが、元夫は「俺の知ったことじゃない」と責任を転嫁する。息子のためという言葉も、前回、父親だと知らせてないと邪険に言ってしまったので、「俺の人生を破壊するな」「二度と会いたくない」で終わり(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ビクトルの身が心配になった母は、息子をメイドに頼んで隠そうとする。この時、母はメイドに「B道路を通って」と指示する(1枚目の写真)。スペインでBロードがあるのはバルセロナだけなので、この映画の背景となっている都市はバルセロナだと分かる。脱線するが、2014年に東京で開催されたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2014に出場したFCバルセロナのMarc Domènech〔出場時12歳、ビクトル役の子役と同姓同名の別人〕も バルセロナ生まれ。母が、車に乗ったビクトルに「2・3日したら会えるわ」と言うと、ビクトルは逆に、「1人で大丈夫なの?」と母を心配する(2枚目の写真)。母は「とっても寂しいわ」と言って送り出す。一方、警察署では、ダニエルのスマホに入っていた虐め映像〔以前、紹介〕を見ながら、警部が、「ダニエルは、みっちり指導しないとロクな奴にならんな」と言い、一件落着を宣言する。その時、カルロスの妻が来たと告げられる。妻は、夫が昨夜以来 戻って来ないと訴える。警部は多くの部下と一緒に闘犬場に向かう。携帯の信号がそこで消えていたからだ。カルロスの車も残っている〔オートバイも2台。廃屋なので 他には何もない〕。警部は監視カメラのあることに気付き録画映像をチェックさせる。その結果、23:15にカルロスが車を乗り付け、直後に2台のオートバイが入ってきたことが分かる。しかし、闘犬が終わり、全員が引き上げても、3台はそのまま残っている。建物内部に入った警部は、部下にトイレに案内される。そこには、割れた鏡や、銃弾が貫通した跡の大きな血痕が残っている。カルロス及び他2名の指紋も検出される。カルロスに何かが起きたことは確かだ。署に戻った警部は、指紋の照合から2人の悪漢の名前を知らされる。そして、カルロスが消えた日に2人の携帯に残っていたのが元夫との通話記録。この元夫が10年前にゆすりの疑いで逮捕された時の弁護士がビクトルの母だった。これですべてが結びつく。警部は、さっそく元夫のオフィスに向かうが(3枚目の写真)、隙を見て逃げられてしまう。
  
  
  

ビクトル(1枚目の写真)とメイド(2枚目の写真)は隠れ家に着く。しかし、2枚目の写真の右端に写っているように、2人は悪漢に尾行されていた。その頃、母の事務所には至急便で小包が届く。母がエレベーターの中で包みを破り、紙箱を開けると、中には切り取られたカルロスの薬指が入っていた〔中節に「C」の刺青がある〕。動転した母は、箱を床に落としてしまい、母は必死の思いで拾う(3枚目の写真、矢印は指)。これは、母の「すげない態度」に対する、強烈な警告だった。
  
  
  

ビルの地下駐車場に辿り着いた母を待っていたのは警察。そのまま闘犬場まで連れて行かれ、元夫は家族と逃亡したと告げられる。カルロスの死体が見つかれば母の逮捕は免れない。そのまま家に送られた母は、すぐに指を木の根元に埋める。翌日、母が、「警察の動きを知るための強引な工作」をした後、自分の車に戻ると、中には元夫が隠れていて銃を突きつける(1枚目の写真)。そして、悪漢2人の居所は分かるので、そこに連れて行けと命じる。2人は、悪漢が車にガソリンをかけて燃やした現場に到着する(2枚目の写真)。「居所」に入って行くと、中は もぬけの殻。その時、母のスマホに電話が入る。悪漢は、既に起動しているパソコンに、横に置いてあったUSBを接続させ、撮影した画像を見させる。そこには、メイドと一緒に隠れ家に到着したビクトルが映っていた(3枚目の写真)。息子は100%確実に誘拐された。悪漢は、子供に危害は加えないので金を払えと要求する。これでは、要求を飲まざるを得ない。「幻の誘拐事件」が、本当の誘拐事件へと発展する。
  
  
  

母は取引銀行の頭取を訪れ、家、債券、株を全て売り払い、明日までに500ユーロ札で600万を用意するよう依頼する。依頼を受けた頭取は、予め連絡を受けていたらしく、すぐに警察に報告する。母は「警察の動きを知る情報源」に電話をかけ、「金を犯人に渡す時に逮捕される」と教えられる。翌朝、母は、事前に秘書に電話で指令を出して車で家を出る。警察は手ぐすねを引いて待ち構えている。母は銀行に到着。頭取は500ユーロの札束の1つに発信装置を仕込む。頭取の部屋で、母は持参したアルミのアタッシュケースに自分で札束を詰める。最後の1束(発信機入り)は頭取が入れる(1枚目の写真、矢印)。母は、銀行を出ようとして気が変わったフリをしてトイレに入る。そこには予め秘書が待ち構えていて、①白と黒のツーピース→濃紺のブラウス+パンタロンに同色のロングコート、②短髪→長い髪、③裸眼→メガネ、④アタッシュケース→キャスター付きの大型スーツケースへと変身させる。さらに、どうやって場所を突きとめたのかは不明だが、発信装置を外してトイレに残していく〔警察の追跡装置では、母はずっとトイレにいると表示される〕。こうして母は、トイレの前で見張っていた刑事の目をかいくぐって(2枚目の写真、矢印)、銀行の外に出る。あまりに長時間になるので警部が部下をトイレに行かせた頃には、母は秘書の車に乗り込んでいた。しかし、トイレには秘書が残っていたことから、トリックはすぐにバレ、秘書の車が手配される。母はすぐに見つかってしまう。高速道路の高架下で、秘書の車を降りた母は、悪漢が用意したジープにアタッシュケースを持って乗り込む(3枚目の写真、矢印はケース)。警察は、母が600万ユーロを持ってジープに乗ったと思い込む。そして、警察が母の運転するジープを追っていなくなると、そこに悪漢2人が車でやって来て(4枚目の写真)、秘書の車のトランクを開け、残してあった600万ユーロ入りのアタッシュケースを奪い去る。悪漢の方が、警察より うわてだ。母が運転していると、スマホに電話が入る。悪漢の指示に従ってナビをONにすると、進路の誘導が始まる。そして、次の衝撃的な言葉。「お前さんには、死体を処理してもらう。後ろに乗せてある」。母が恐る恐る運転席の後ろを見ると、そこには何かの上に白い布がかけてあり、血のついた足の先が見えている。恐怖に引きつる母(5枚目の写真)。「弁護士さんよ。ナビの通りに進めば、坊主に会えるぞ。死体の処理係にもな」。
  
  
  
  
  

母の運手するジープは終着地に近づく(1枚目の写真、矢印は後で重要な役目を果たすトラック)。正面の建物に入って行くと、ビクトルはケガもなく無事だった(2枚目の写真)。母は、「次に何か怖い目にあったら、隠さないで。話してちょうだい。どんなことでも、恥ずかしがらずに。助けてもらうことを覚えるの。そうすれば、もっと強くなれる。あなたは、これからもっと強くならないと」と話しかける(3枚目の写真)。母は逮捕され、刑務所に入れられると思っているので、その間、息子には強く生きてもらいたいと願っている。ビクトルは、「これをママに渡せって」と小さな象の置物を渡す。それは、母が最初に元夫のオフィスを訪ねた時、机の上に置いてあったものだった。母は、誘拐の裏に元夫がいることに初めて気付く。
  
  
  

場面は切り替わり、悪漢2人が自家用飛行機に乗り込む。中には既に元夫とその妻、娘が乗っている。悪漢は600万ユーロ入りのアタッシュケースを元夫に渡す(1枚目の写真)。すべては元夫の悪だくみだった〔それにしても、いつから元夫が誘拐の首謀者になったのだろう? カルロスが人違いと分かった段階か、それとも、悪漢がカルロスを襲った後か?〕。パトカーが接近する音が聞こえたので、母は観念して外に出て行く。母は、警部にジープのリア・ハッチを開けて、中の死体を見せる。しかし、警部が喜び勇んで布をめくると、中にあったのは血まみれに見せたマネキンの手足だった。「いったいどうなってる?」。母も騙されたことに気付く。その頃、飛行機は離陸。機内から元夫が電話をかける。すると、近くに停めてあったオンボロトラックの中から呼び出し音が聞こえる。警官がトラックの後部を開けると、中にはケガをしたカルロスが生きたまま閉じ込められていた(2枚目の写真、矢印は包帯を巻かれた薬指の切断部、右胸には銃で撃たれた出血痕もある、頭の血はトイレの鏡に叩きつけられた時のもの)。これでは、警察は母を罪には問えない。そして、母は600万ユーロを掠め盗られた。元夫の計略にはまったことを悟った母は、近くの断崖に向かってヨロヨロと歩いて行く。上空には元夫が乗った小型飛行機が飛んでいく。母は飛行機を見ながら、大声で「No!」と叫び声を上げる。全財産を奪われた母とビクトルは、この後、どうやって生きていくのだろうか?
  
  
  

      の先頭に戻る                    の先頭に戻る
     スペイン の先頭に戻る               2010年代後半 の先頭に戻る

ページの先頭へ