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Suburbicon サバービコン/仮面を被った街

アメリカ映画 (2017)

サバービコンはアメリカのどこかの州にある架空のニュータウン。町の名前は、前半の “Suburb” が郊外、後半の “icon” には、「偶像、憧れとなるようなもの、象徴」という意味があるので、「理想の郊外都市」という意味合いで付けられた名前であろう。町の創設は1947年。それから12年が経過し、人口は6万人弱となっている(1959年)。そして、黒人は一人も住んでいない。この映画は、1957年に実際に起きた事件を参考にしている。舞台となったのは、ペンシルベニア州のレヴィットタウン〔Levittown〕という15500戸の町〔下の写真の1枚目は、レヴィットタウンの当時の写真〕。この事件に関しては、「Bucks County Courier Times」という地元紙の2017年8月12日に掲載された「60年後、まだ残るレヴィットタウンの恥」という記事に、詳しい経緯が記載されているので、簡単にまとめてみると、次のようになる。「ことの発端は、1957年8月13日、ペンシルベニア州のレヴィットタウンの地元紙が、『ニグロの一家がレヴィットタウンの家を購入』と報じたことにあった。新聞が街頭に出て数時間で、動揺した小グループがマイアズ〔Myers〕家の前に集まった。夜になると人数が増え、真夜中までに芝庭の前で 200人以上の男女が罵声を浴びせていた。12時半までに、大人2人と10代の若者3人が逮捕された。2日目になると、一日を通して、マイアズ家の前の歩道や芝庭の外側はぎっしりと人で埋まっていた。集まった車は千台を超え、大半が州外ナンバーだった。警察は、午前3時に地元交通を除いて全道路を封鎖した。3日目には、フィラデルフィアやニューヨーク、その他主要都市のマスコミが大挙して押し寄せた。その夜、マイアズ一家を強制的に追い出す法的手段について論じるため、不満を抱いた市民約500人が集まって『レヴィットタウン改善委員会〔Betterment Committee〕)』を結成した。7日目には、その500人がマイアズ家に向かう。喧嘩腰の群衆は、警察から何度も立ち去るよう警告を受けるが、群衆は警察に対して怒鳴り、罵り、結局州兵が動員される。8日目には、別の場所で500人規模の集会が持たれ、暴力行為は警官が重傷を負ったことで中断し 群衆は解散した」。この “暴動” の写真としては、テンプル大学の記録保管所にあるもの〔下の写真の2枚目〕が有名。因みに、マイアズ家は夫婦と3人の子供で、父親は、家の売買を監視している「レヴィット協会」を避け、中古の家を手放した持ち主からフェラデルフィアで直接購入し、レヴィットタウンにいきなり引っ越してきた。映画では、ほとんどスペルや発音が似ているマイヤーズ〔Mayers〕一家が、いきなり引っ越してくる(夫婦と子供1人)。映画では、新聞が書き立てるのではなく、近所の人がじかに見て黒人と知りショックを受ける。そして、「サバービコン改善委員会」が開催され、マイヤーズを追い出せという請願書が提出される。マイヤーズの前の暴徒は日増しに増加し、最後には、マイヤーズの車に放火し、家の窓を割るなどの直接行動に出る。キング牧師の暗殺が1968年なので、それよりも10年近く前、人種差別が如何に激しかったかが分かる〔現在(2020年5月27日)でも、警官による黒人絞殺で “悪しき伝統” が脈々と受け継がれていることが分かる〕。ただ、こういった状況は、映画の主題ではなく、“巧妙な保険金詐欺” を行おうとする男が、マイヤーズ家の裏に住む一家の主(あるじ)という設定のため、絡んでくるに過ぎない。映画をクライムアクションに留めたくない製作者の意図なのであろうが、両者が必ずしも巧く整合しているわけではなく、単なる “背景” で終わっているところに 不満が残る。

映画の主題である、「保険金詐欺」は、ある会社の部長として結構裕福な生活を送っているハズのガードナーという中年の男〔マット・デイモン〕が、妻のローズ〔ジュリアン・ムーア〕に高額の生命保険を掛けて自動車事故で殺そうとするが失敗、重傷で車椅子生活になる。そこで、もう一度殺そうとして悪漢2人に依頼する。2人は、一家全員(本人、妻、妻の姉、息子)に麻酔をかけて眠らせ、その間に強盗を行うという奇妙な行動に出る〔強盗2人が覆面もせずに堂々と顔を見せるところや、単に盗むだけなのに、なぜ麻酔をかける必要があるのかが理解できない〕。そして、妻には多量の麻酔を投与し、今度こそ命を奪う。これで、多額の保険金が入るハズだったが、目算が狂う。それは、犯人の面通しで、本人と妻の姉マーガレット〔ジュリアン・ムーアの1人2役〕は、中に実行犯がいたのに否定したが、こっそり忍び込んだ息子のニッキーは、2人の嘘を見抜いてしまう。その狂いは、保険の調査員が現れたことで極限に達し、マーガレットは調査員を毒殺するが、それを見たニッキーは伯父にSOSの電話をかける。一方、強盗に入った2人組は、謝礼金が支払われないことに腹を立て、制裁としてマーガレットとニッキーを殺すことにし、調査員を毒殺したばかりのマーガレットを絞殺する。そして、ニッキー殺害にかかった時、伯父が助けに現れ、自分の命と引き換えにニッキーを救ってくれる。父は、調査員の死体を廃棄した帰りに、もう1人の悪漢に後をつけられるが、悪漢は、マイヤーズ家の車火災の鎮火に向かう消防車と正面衝突して死亡する。家に戻った父は、ニッキーに、①口封じのために虐殺されるか、②沈黙を守って父と一緒に国外逃亡するかの二択を迫る。しかし、それを宣告する父は、先にマーガレットが、ニッキーを殺すために多量の睡眠薬(?)を入れた夜食を食べてしまい、過剰摂取で死亡する。このクライムアクションの真の主役は、11歳のニッキー〔ノア・ジュープ〕。だから、どうしてもコメディにならざるを得ない。詐欺や殺人の計画自体に齟齬は全くないし、結構愉快なのだが、全体に 不自然な感じが漂うのは否めない。それに、先述した「マイヤーズ」との接点が、ニッキーとマイヤーズ家の一人息子との交遊関係というのは、あまりにも寂しい。天涯孤独の孤児になってしまったニッキーを、マイヤーズ家が養子に迎えることでもすれば、人種偏見に対する風刺という意味合いからも面白かったのに。

最新作『Honey Boy(ハニー・ボーイ)』(2019)で紹介したノア・ジュープ(Noah Jupe)が、最初に主演級の役を演じた作品。マット・デイモンとジュリアン・ムーアという実力・人気とも抜群のスーパー・スターに続き、3番目に名前がクレジットされる。そして、すべての “悪事” を客観的に見ているのはノアが演じるニッキーだし、最後まで生き残るのもニッキーただ一人。表情が少し乏しいように見えるのは、1950年代の “子供は父親に絶対服従” という時代の、前思春期の少年としては、“抑える” ことが必然だったからであろう。マーガレットとの会話で唯一見せるノアらしい笑顔と、父親から虐殺を言い渡された時の悔し涙に、実力は十分見て取れる。

あらすじ

映画の冒頭、新しい町サバービコンの宣伝が流れる。①1947年に町づくりがスタートし、僅か12年で人口6万人の規模になったこと〔よって、映画の設定年は1959年〕、②都市に匹敵する施設が揃っていること、③居住者は全米各地から集まっていること。多くの家は広い芝庭を有する1階建ての家だが、そのうちの1ページが映る。それは中古住宅で、1階は1100ft2〔102平方メートル〕、地下室は508 ft2〔47平方メートル〕、ガレージは377 ft2〔35平方メートル〕。全面改修の費用は別途300ドル〔CPI Inflation Calculatorを使うと2020年の2643ドル≒28万円〕、新品の14インチTV付き、洗濯機は中古のまま〔家の販売価格の欄は見えないが、高級住宅地とはとても言えない。下級中産階級の白人向け住宅地〕。そして、そのまま映画は始まり、陽気な郵便配達が、「新しいお隣さんには、もう会いましたか?」と、主婦に訊く。「いいえ、昨夜引っ越してみえたの。今、持って行く お菓子を焼いてるところよ」。そして、いよいよ隣の家に。家からは、2人の黒人の引っ越し業者が出てきて、ドアの所には黒人の女性が立っている。郵便配達は、「光熱水道料の請求と、新規購読される『Good Housekeeping』〔主婦向け月刊女性誌〕です」と言った後、「マイヤーズ夫人は?」と訊く。黒人女性が 「私がマイヤーズ夫人よ」と言うと、郵便配達の顔は、にこやかなまま凍り付く(1枚目の写真)。そして、「サバービコンにようこそ。楽しい滞在を」と言うと、隣の家に直行。配達物もないのにドアをノックし、出てきた主婦に、真剣な顔で「新しい隣人に会われました?」と訊く。一方、向かいの家で庭の掃き掃除をしていた主婦や、その隣家で買い物から帰ってきた主婦、通行人の夫妻は、黒人の新規入居者を見て凍り付く(2枚目の写真、車が街灯にぶつかっているのは、驚いた主婦がパーキングブレーキをかけ忘れたため)。ここは架空の町なので、現実と照合する必要はないが、ロケ地が書いてあったので、この2軒のグーグル・ストリートビューを3枚目に載せる。左の家は庭木を含めて変わっていないが、右の家は庭が大幅に変わっている。当時の雰囲気ではないので、CGで加工したのか? また、車がぶつかった街灯はなく、代わりに大きく茂った街路樹がある。古い車を並べるだけでは撮影が完了できない大変さが感じられたので、掲載することにした。そして、レヴィットタウンでは3日目の夜に開催された「改善委員会」が、ここでは、その日の夜に開催される(4枚目の写真)。名前は同じ「改善委員会」。正面のテーブル3人は 町の住宅委員会の面々。真ん中で立っているのが委員長。最前列の男が、「この町に、奴らなんか要らん! こんなこと誰が認めたんだ?」と発言する。会長の向かって右の男は、「我々は、みなさんが容認されるかと」と弁明し、会長は 「我々じゃない、君だ」と責任を転嫁。そして、騒ぎを収めようと、マイヤーズ家と両隣の家に間に、委員会の経費で高い塀を設けようと提案する。しかし、もう1人の強硬派は、請願書を読み上げるよう要求する。会長の向かって左の男が立ち上がって請願書を読む。「我々の懸念は事実無根だとするマイヤーズ一家の支援者に、断固反対する。人種差別撤廃には賛成だが、それは、ニグロ〔差別用語〕がそれに相応しい行動をとる場合に限られる。彼らには自己改善の意欲などない。この町は、もう後戻りできないところまで来ている。我々はこの町の住民として住む場所を選び、隣人を選ぶ権利を要求し、勝つであろう!」。ここで、参加者から拍手喝采が起きる。

ここで、場面は一変し、マイヤーズ家の裏に位置するロッジ家では、2人の女性が話し合っている。マーガレット:「ボルチモアで何があったか覚えてる? だから、みんなここに移って来たのよ」〔ボルチモアは、人種差別を規定した「ジム・クロウ法」を1950年代に廃止した⇒だから、黒人から逃げ出した⇒マーガレットは差別主義者〕。車椅子に乗ったローズは、「家の資産価値も下がるんだって。だから、家を売ろうにも売れなくなるとか」。マーガレットの横で、11歳のニッキーが兵隊人形で遊んでいる(1枚目の写真)。マーガレットは、「ニッキー、こっちに来て」と呼ぶと、「ほら、あそこのポーチに、あなたと同じくらいの年の男の子がいるじゃない。あっちに行って、一緒に野球でもしらたどう?」と勧める〔ボルチモア云々で人種差別主義的なことを言ったくせに、甥に人種融合を勧めるのは変〕。ニッキーは 「ママ、しなきゃダメ?」と訊く(2枚目の写真、金髪が母のローズ、茶髪が伯母のマーガレット)。「私に訊かないで」。伯母は、ニッキーにもう一度野球に行くよう強く促す。ニッキーは 「野球なんかやりたくないよ」と言いつつ、家の境界の柵まで行くと 「野球やる?」と声をかける。「ああ」。「ナザレン教会〔“Church of the Nazarene” と “Apostolic Christian Church (Nazarene)” の2つがある/日本では、前者はナザレン教会、後者は使徒キリスト教会と呼ばれている〕の裏でやるんだ」。「うちはナザレンじゃない」〔声をかけられたのに失礼な返事〕。「うちは聖公会〔“Episcopal Church(米国聖公会)/イギリス国教会のアメリカ版〕だ」。「ならいい」。2人は、裏庭から表庭に歩いて行くが、マイヤーズ家の周りに集まり始めた若者からじろじろ見られる(3枚目の写真)。

その夜、ニッキーがベッドで横になって ラジオのドラマに耳を傾けていると、いきなり寝室のドアが開き、知らない男が父と一緒に入って来る。父は、ラジオを消すと、「ニッキー、起きてくれ。男の人たちが家にいる〔There are men in the house/日本版DVDの訳は「泥棒が入った」だが、そんなに直接的には言っていない〕」。ニッキーは意味が分からないまま起き上がる(1枚目の写真)。ニッキーは見知らぬ男を見上げながらドアを出る。父は、一緒に階段を降りながら 「彼らは、欲しい物を取って 出て行くだけだ。すべて うまくいく」と説明する。この説明も曖昧なので、ニッキーには理解できない。居間には、母と伯母以外に、太った男が母の車椅子に座っている。それを見た父は 「車椅子から降りろ」と命じるが、男から 「黙れ」と無視され、逆に 「酒を寄こせ」と命じられる(2枚目の写真)。父は、ニッキーを伯母の横に座らせると、酒を取りに行く。父がグラスに注いで持ってくると、男は 「盆に乗せろ」。それに黙々と従う父を、ニッキーはびっくりして見ている(3枚目の写真)。

その頃、マイヤーズ家の前には、少しずつ人が集まってきていた(1枚目の写真)〔1日目は、レヴィットタウンの方が過激〕。一方、父は、後ろ手に縛られながら、「抵抗しなければ危害は加えない と言わなかったか?」と文句を言う(2枚目の写真)。ここで、ようやく、2人の闖入者が犯罪者だと確信できる。太った男は、「何が危害か、前もって言うことなどできん」と言い、今度は伯母を縛る。次がニッキー。抵抗するニッキーを見て、伯母が、「縛らなきゃいけないの?」と訊くと、「少しは考えろ。質問、イコール、答えだ〔It's a question that answers itself〕」と言う(3枚目の写真)〔縛らなきゃいけないの?⇒縛らなきゃいけない〕〔こんな “回りくどい” 言い方を するだろうか?〕 

最初に クロロホルムをしみ込ませた布で口を塞がれたのは伯母。その時は、普通に見ていたニッキーだったが、次に父の顔が塞がれると 「パパ! パパ!」と心配する(1枚目の写真)〔伯母のことは、あまり好きでない?〕。そして、母とニッキーは同時(3・4枚目の写真)。母には、2回目の布も当てられる〔意図的〕。ニッキーの意識が薄れていく。なお、「クロロホルムを使って簡単に昏睡状態にはできない」ことはよく指摘されるが、この場面では、かなり長時間にわたって顔を押さえているので、効果があったのかも。

ニッキーが目を開けると、そこは病院だった。医者の声が聞こえてくる。「クロロホルムは神経系に影響を与えます。原理上、催眠作用は一時的なのですが、奥さんは大量に摂取されたため臓器が損傷を受けました」(1枚目の写真)。ニッキーの目が覚めたことに気付いた伯母が、「心配したのよ」と言いながらベッドに座る。父も 両手をベッドに置くと、「声が聞こえるか?」と訊き、ニッキーが頷くと、「話しておくことがある。とても悲しいことだ」と言う(2枚目の写真)。ニッキーは、隣のベッドで人工呼吸器を付けられて寝ている母に目を向ける。そして、次のシーンは墓地。母の棺を悲しそうに見るニッキーが映る(3枚目の写真)。次のカットで、棺の前に並ぶ、父、ニッキー、伯母、伯父の4人が順に映される。

この映画で最もコミカルな部分。独身の巨漢 ミッチ伯父は、ニッキーを勇気付ける。「人生は、この先 真っ暗に見えるだろう。ママは死んじゃった。だが、事故の後のママのように、暗い顔して〔pull a long face〕 黙り込んじまう〔button up〕ことだけはやめとけ」。「うん、ミッチ伯父さん」。「それでいい〔Attaboy〕。君を息子のように愛してるのは誰だ?」。自分だと言って欲しかったが、ニッキーは 「パパ?」と見当違いの返事。そこで、「他の誰かに決まっとるだろ」と言い直させる。「ミッチ伯父さん」。伯父は、小銭やお札をニッキーのポケットに入れる。「君のポケットをコインやお金でいっぱいにするのは誰かな?」。「ミッチ伯父さん」(1枚目の写真、矢印はお札)。すると、伯父はニッキーをつかみ上げ、脚をつかんで上下逆さまにして揺らす(2枚目の写真)。すると、ポケットに入れたコインが道路に落ちる。父が運転する車が前までくると、ニッキーは車に入り、伯父は落ちたコインを拾い(3枚目の写真)、自分のポケットに入れる。

家に向かう車の中で、父は、ニッキーに、「マーガレット伯母さんにしばらく一緒に暮らしてもらうのがベストだと決めた。お前もそうしたいだろ?」と言う。ニッキーは反論できないので黙っているが、あまり嬉しそうではない(1枚目の写真)。家に着いた伯母は、食パン2枚の一方にベリージャム、もう一方にピーナッツバターを塗り、両方を合わせて2つに切る〔伏線〕。一方、父は、地下室にベッドを用意し、自分は地下に、これまでの寝室は伯母に使ってもらうことにする。模様替えが済むと、ニッキーの肩に手を置き、「うまくいくさ。強くならないと」と鼓舞する(2枚目の写真)。そのあと、2人は居間に行き TVを見る。父が手にしているのは、ゼニス社のフラッシュマティックという、1955年に開発された世界初の光学式リモコン(3枚目の写真、左の矢印はリモコン(右側に光)、右の矢印は光が当たった絵TVの隅)〔TVの隅に光が当たると、チャンネルが1つ前後する〕

ニッキーが、母の車椅子を畳んで裏庭まで持って行き、椅子に触れて母を想い出していると(1枚目の写真)、マイヤーズ家の子が 「ニッキー」と声をかける。2人は柵のところで会う。「ママ、死んだのか?」。「うん」。「天国かな?」。「たぶん」(2枚目の写真)。「小さな蛇持ってる。見たいか?」。そう言うと、ポケットから取り出す。「噛む?」。「ううん。歯がないんだ。ほら持ってみて」。ニッキーは、小さな蛇を手に持つ(3枚目の写真)〔ground snake: 米国西部の砂漠地帯もしくは半砂漠地帯にすむ、臆病で明るい輪のある小型陸生ヘビ〕。「何、食べるの?」。「バッタやコオロギ。メイソンジャー〔ガラス製の口広瓶〕に一杯あるんだ」。「名前は?」。「名前なんかないよ。蛇だもん。持ってていいよ。エサの虫も持って来る」。2人の友情は確かなものとなる。

その夜、ベッドに横になってメイソンジャーの中の蛇を見ていたニッキーは、物音が気になってドアを開け、下を覗くと〔家の構造は、部分2階で、両端に両親の寝室とニッキーの部屋があり、吹き抜けのリビングに張り出した廊下で結ばれている〕、1階に人の気配がする。心配になったニッキーが、「パパ」と呼ぶと、ナイトガウンを着た父が姿を見せ、「いつからそこにいる?」と訊く。すると、ナイトガウンを着た伯母も姿を見せ、「どうかしたの、坊や?」と訊く。伯母は、ニッキーをベッドに寝せると、「何も怖がることはないのよ」と言い、首にかけたペンダントを見せる。「これ誰か知ってる? 聖パトリック〔アイルランドにキリスト教を広めた司教〕、あなたの守護聖人よ。知ってた?」(1枚目の写真、矢印はペンダント)。「ううん」。「すべてのアイルラン人の守護聖人なの」。「僕、アイルランド人じゃないよ」(2枚目の写真)。伯母はニッキーの母方の祖父がアイルランド人だったと話し、さらに、ニッキーの母が聖パトリックにお祈りしてニッキーが生まれたとも。それを聞き、ニッキーは笑顔を見せる(3枚目の写真)〔この映画の中で唯一の笑顔〕

翌日、ニッキーは伯母と一緒に、彼女が働いているスーパーに行く〔伯母は独身なので、これまでスーパーのレジ係をしていた/ニッキーは日本流に言えば忌引き(absence due to loss of family)で学校に行かない〕。途中で出会った住民からは、お悔やみを言われる(1枚目の写真)。「こんなこと、ここでは一度も起きなかった」「安全な場所だったのに」。悪いのは、マイヤーズ家の存在だ。一方、出社した父〔財務担当執行役員〕は、社長から強く哀悼の意を表されるが、表情をほとんど変えない〔ショックが大きいせいだと解釈される〕。スーパーでは、ニッキーは伯母の後ろにちょこんと座り、伯母の仕事ぶりを見ている。伯母は、客から、「このオバルチン〔粉末麦芽飲料〕、2割引きでしょ。幾らなの?」と訊かれ、49セント×0.8が計算できないので、「半額にしておきます」と言い、ニッキーを呆れさせる(2枚目の写真)。その、口うるさそうな客は、ニッキーを見ると 「名前は?」と訊き、伯母が 「ニッキーです。今日は、手伝ってくれてるんです」と代わりに答えると、「なぜ、学校に行かないの?」と再びニッキーに訊く。伯母は、「私の手伝いで、サボってるんです〔playing hooky〕」と嘘を付き、ニッキーに商品を老婆の買い物籠に入れるよう指示する。老婆は、商品を入れているニッキーに 「月曜からサボるなんて、運のいい子ね」と、心を逆なでするような言葉をかける(3枚目の写真)〔このような発言を招いた伯母の人間性に疑問を生じさせる/伯母は、客に笑顔を振りまき 妹の死を全く悼んでいない〕

会社にいる父に警察から電話が入り、犯人と思わしき人物を見つけたので面通しに来て欲しいと依頼される。父が警察に行くと、そこにはニッキーも伯母と一緒に来ていた(1枚目の写真)。伯母は、ニッキーが同行している理由を、「家に一人でいたくないって言うから」と弁解する。父と一緒に来た署長は、ニッキーにも加わるよう勧める。ニッキーはOKするが、父が強硬に反対する。しかし、初めての体験を逃したくないニッキーは、こっそりと部屋に入り込む(2枚目の写真)。ドアを開けた分、マジックミラーの効果が薄れるので、署長はすぐに閉めるよう命じるが、誰がなぜ開けたのかチェックはしない。3枚目の写真は、ニッキーの側から見た首実検の状況。

ニッキーは、父と伯母の間から7人の男たちの顔を順に見ていく。署長に訊かれた父は 「いない」と答える。伯母も 「いいえ、ここにはいません」。しかし、ニッキーは、あの夜、母を殺した憎い2人が並んで立っていることに気付いてびっくりする(1・2枚目の写真)。なぜ、父と伯母は嘘をついたのだろう? 署長が 「OK。では、これで終わります」と言うと、一緒に室内にいた愚かな部下が照明のスイッチをONにしてしまう。すると、首実検をされている側から、している側が丸見えになってしまう(3・4枚目の写真)〔マジックミラーは、真っ暗な側から、非常に明るい側を見た場合に、鏡のようになって見通せない効果があるが、両方が明るければ、普通のガラスのように透けて見える〕。署長は部下の不始末に 「照明を消すんだ!」と叱咤するが、時既に遅し。2人組にも、ニッキーの存在を知られてしまった。重大な失敗に、父、伯母の2人は顔には出さないが衝撃を受ける。部屋を出ていく時、2人組の首謀者(太った男)は、照明が消され再び有効になったマジックミラーの前で、父を睨みつけ、ニッキーを連れてきた愚かさを非難するとともに、適切な処理を無言で強く促す。

帰りの車の中。父と伯母は、意味のない会話を交わしている。その間、ニッキーは、2人はいったい何を考えているんだろうと、疑心暗鬼にとらわれ、父と伯母を交互に睨む(1枚目の写真)。帰宅し、ニッキーが風呂に入っていると、父がノックもせずに入ってきて、「気分はどうだ?」と訊く。ニッキーは返事をしない。逆に、「パパ、なぜ、あいつらじゃないって言ったの?」と質問をぶつける。「あいつらって?」。「ママを殺した強盗だよ」。父は、2人は犯人ではなかった、見間違いはよくあることだと、嘘を嘘で塗り固めようとするが(3枚目の写真)、その断定的な言い方は、かえってニッキーの疑惑を深めただけだった。

カトリック信者のミッチ伯父が、ニッキーのことが心配だと神父と相談している頃、ニッキーの家では、父と伯母がレコードをかけて親しげにダンスを踊っている(伯母は、妹のように金髪に染めている)。ニッキーは、マイヤーズ家の息子と糸電話で遊び(1・3枚目の写真)、マイヤーズ家の前では以前より大勢の人々が騒いでいる(2枚目の写真)。

日曜日、ニッキーが野球のユニフォームを着て帰宅し、シンクの水道水を飲んでいると(1枚目の写真)、伯母の、「No!」という声が聞こえる。また、強盗が入ったかと思ったニッキーは、包丁をつかむと、声がした地下室のドアに向かう。そして、包丁を構えてドアをそっと開ける(2枚目の写真、矢印)。ニッキーは、音がしないように階段をそっと降り、途中にある電球の紐までくると、引っ張って明かりをつける。ニッキーが見たのは、ベッドの端にいた父と伯母だった。幸い、ニッキーには、それしか見えなかったが、カメラが切り替わって背後からの映像となると、2人が淫らな行為をしていたことが分かる(3枚目の写真、矢印)。この時点で、父がなぜ人殺しを雇って妻を亡き者にさせたのかが分かる。

「改善委員会」が約束した高い塀がマイヤーズ家の両隣の家との境に作られている。近くで虫を捕っていた息子は、危険なので、家の中で宿題をするよう言われる(1枚目の写真、矢印は工事の先端)。ニッキーは、ソファに座って工事の様子をみていたが、そこに伯母が近づいてきて 「今夜の夕食は2人きりよ」と話しかける。ニッキーは 「もう食べない」と断る(2枚目の写真)。「食べないの?」。「引っ越したい。ここには、いたくない」。「そうなの? いいこと、言っておくけど、あんたはまだ小さな子なの。それが、今では、とってもおバカさん。そういうことは、自分で食費を稼ぐことができるようになってから、言うものよ」(3枚目の写真)「なんなら、明日から働く? それなら、今すぐ電話で店長さんに電話をかけ、ニコラスが働きたがってる って訊いてあげる。そうして欲しいの?」。このネチネチした脅しに、ニッキーは降伏するしかない。「二度と、そういう口はきかないように」。伯母には、ニッキーに対する愛情などカケラもない。ニッキーは、ミッチ伯父に助けてもらおうと、職場に電話をかける。出たのは、会社の秘書。「ミッチ伯父さんいます?」(4枚目の写真)。秘書は会議中だと言い、声から相手を女性だと思い込み、電話番号とロッジという氏名〔家族名〕を訊き出す。

一方、殺人犯の2人は、父の会社に堂々と入って行く。父は 「真っ昼間から ここに来るなんて」と文句を言いかけ、太った男に鼻を強打され、眼鏡を壊される。「俺たちをナメてんのか?」「クソガキを警察まで連れてきやがって。どアホウめ。ガキを何とかしろ〔take care of〕。何をどうしようが構わん。だが、お前がやらんなら、俺たちでやる」(1枚目の写真)。その後で、もう一つ重要な言葉を口にする。「それに、金は? 支払い期限はとっくに過ぎてるぞ〔due and payable〕」。つまり、殺人報酬は前払いではなく後払いだが、父はまだ支払っていない。マイヤーズ家では、新しく出来た塀の向こう側に大勢が陣取って、メガホン、ドラム、シンバルを使って、南軍を象徴する『Dixie』を歌う(2枚目の写真)。ニッキーは、黒人の子と一緒に、地下室の出入口の扉を開けてその様子を見ている(3枚目の写真)。黒人の子は、ドラムを叩いている男を見て、「あんなに太るには、よっぽど食べなきゃ」と言った後で、「あいつがやめても、すぐに別の奴が叩くんだ。夜中も昼間も。パパは、怖がってると思わせちゃダメだって」と話す。一方、暴漢が去った後、ミッチ伯父から電話が入る。内容は、「ロッジ夫人から電話があった」という奇妙な件の相談。ニッキーは、ロッジと言い、秘書は女性だと思ったので、それが “殺されたロッジ夫人” になってしまい、ミッチ伯父を動転させたのだ(4枚目の写真)。父は、ニッキーの仕業だと悟り、殺人犯から「何とかしろ」と脅されたことも合わせ、すぐに行動に出るべきだと決心する。

夕方、ニッキーがTVを見ていると、伯母が来て、「お父さんから話があるわ」と呼ぶ(1枚目の写真)。父の書斎に行ったニッキーは、机の前に座らされる。「私は、お前に規律を教えようとした。だが、お母さんがお前を甘やかしてしまった」。そして 「一から始めよう」と言う。ニッキーの顔は完全に醒めている(2枚目の写真)。父は 「Battle Creek Military Academy」という陸軍士官学校〔架空〕の小冊子を見せる(3枚目の写真)。これなら、息子を殺人犯から永久に引き離すことができるし、妻の姉との新生活の邪魔にもならない。

父の魂胆を見破ったニッキーは、冷たい顔で父を見る(1枚目の写真)。そして、自分の部屋に行くと、床に木のブロックをネジ釘で固定し、ドアのハンガーとの間に板を立て掛け(2・3枚目の写真)、誰も入って来られないようにする。

マイヤーズ夫人が 伯母のレジカウンターに数百円程度の商品を1個置くと、店長が 「20ドルです」と割り込む〔現在の176ドル≒19000円〕。夫人が、「表示価格と違うわよ」と抗議すると、「値上がりしました」(1枚目の写真)。商品をカートに戻し、食パンをカウンターに置くと、店長は 「それも 20ドルだったな、マーガレット?」と伯母に訊き、伯母は 「20ドルです」と夫人に言う。夫人:「質問してもよろしい?」。店長:「他の店で買った方が ずっとお得ですよ」。夫人は、じろじろ見ている他の客に気付くと、「そのようね」と言い残して店を出て行く。その夜、マイヤーズ家の前には、これまでで最多の人々が集まり、賛美歌 『The Sweet By-and-By』を歌う。取材に来たマスコミに対し、ある女性は、「白人だけの町だと思ってました。だから、家を購入できて幸せだったのに」と答える。「ニグロの家族がここに引っ越してきたことで、コミュニティに大きな影響があると思いますか?」。「もちろんよ」。「どんな風に?」。「私たち、以前、首都に住んでたけど、同じようなことが起きたのよ。問題は、融合政策とやらにあるわ」(2枚目の写真)。ニッキーは、2階の自室の窓から 心配そうに様子を伺っている(1枚目の写真)。

階段を上がる音に気付いたニッキーは、窓から離れ、今度は、ドアの隙間から覗く(1枚目の写真)〔ドアの建て付けが悪く ドア枠との間に数ミリの隙間がある〕。すると、パジャマ姿の父が、伯母の部屋に入って行く(2枚目の写真)。父は、本来の自分のベッドに横になると、「保険金が入ったら、すべてうまく行く。アルバに行こう」と、嬉しそうに言う。「アルバ? それどこなの?」(3枚目の写真)。「カリブ海にある オランダ領の島だ。犯人引き渡し条約がない」〔ベネズエラの北25キロにある 石垣島や利尻島くらいの大きさの島〕。2人は、南海の楽園での夢のような生活を語り合う〔ニッキーの居場所はない〕

翌日、父の職場を訪れた署長は、2日前に交通事故で死んだリゾーリというマフィアの高利貸しの持っていた秘密のノートに、「ガードナー・ロッジ〔父の名前〕で7000個のリンゴの荷を受領」という暗号めいた記載があったと説明し、心当たりがないか訊く(1枚目の写真)。父は直ちに否定する〔この件については、後述〕。父のいない家には、保険の損害賠償調査員クーパーが訪れる(2枚目の写真)。彼は、最初、如何にも “何の疑いもなく、仕事だから調べに来た” という調子で、親しげに話す。「ミス・オロリーさん〔伯母のこと〕、お住まいはこちらで?」。「今は、そうです」。「一時的、それとも、恒久的にですか?」(3枚目の写真)。「ニッキーには母親が必要ですので」。「そうでしょうとも」。このあと、徐々に本性が現われてくる。問題にしたのは、「偶然の一致〔coincidence〕」。最初に指摘したのが、殺人事件の約3ヶ月前の3月3日〔このことから、殺人が6月初旬だったと分かる〕、保険の契約額がかなり引き上げられたこと〔これは、伯母を動揺させるための嘘〕。この嘘に対し、「それについて、何かご存じでは?」と訊く。伯母は、やすやすと罠にはまり、「ガードナーのアイディアよ」と言ってしまう。

2つ目は、「一つの契約に対して複数回の請求は常に赤信号です」というもの。このやりとりを、ニッキーはリビングの真上の廊下で聞いている(1・2枚目の写真)。「ローズの交通事故のこと?」。「ええ、社としては かなりの出費でした」。3つ目は、「銀行によれば、家のローンを3ヶ月滞納しておられる」という指摘。「ええ、今、ちょっと苦しい時なの。ガードナーが自前でビジネスを始めた時、私たちの貯金を使ってしまったから」。4つ目で最後は、「約5ヶ月前、ガードナー氏は、わが社の5000ドルの終身保険を解約されました」。話がここまで来た時、伯母は、ニッキーが覗いていることに気付く。ニッキーは、すぐ部屋に逃げ込む。その頃、マイヤーズ夫人は、塀の上の男たちから 「元いた場所に帰れ!」「ここから出て行け!」と罵られても、平然とした顔で洗濯物を干している(3枚目の写真、矢印はソックス)〔こんなに ”生意気そうに無視した” な顔が できるものだろうか?〕

5000ドルについて、伯母は、「そのお金は、ニッキーの大学教育用よ」と指摘する。「では、信託ファンドでも購入されたのでしょうな?」。伯母は、話をはぐらかそうと 「コーヒーはいかがです?」と訊く。クーパーは、お粗末な保険金請求詐欺の例をあげて笑った後、いよいよ本題に入る。「私くらい長くこの仕事をやってると、いんちき〔hanky-panky〕が嗅ぎ付けられるんです。ほのかな香りでね。これは悪いぞ、これはいいぞ、って。でも、これは? お宅の件ですが、ほのかな香りなどありません」。伯母は 「良かったわ」とほほ笑む。「それが、悪臭プンプンなんです」(1枚目の写真)。伯母の表情が一変する。さらに、「ガードナーと寝てますよね?」と追い打ちがかかる。「何ですって?」。「いいですか、私の知ったことじゃないが、言っておかないと。愚かなことをすれば、いつか〔down the road〕記憶が蘇り、後悔するものですよ。つまり、彼女を殺していれば」。ニッキーも、ドア越しに熱心に話を聞いている。クーパーは、そうした結論に至った理由として、保険金の増額という “常識ではあり得ない嘘” をついてカマをかけた後、伯母が、「私たち」という言葉を使ったことを一例としてあげる〔「妹たち」と言うはず〕。頭の良くない伯母は、焦って 「私の家から出てって!」と言い、失態を重ね、それを指摘されると、ホウキを振り回してクーパーを追い出そうとする(2枚目の写真)。ニッキーは、再び部屋から出て、その様子を見ている(3枚目の写真)。ここで、もう一度、署長の問いかけに戻ろう。伯母の話の中で、父が、伯母を巻き込んで新規にビジネスを始めようとし、大金を失ったことが分かる。ローンを3ヶ月滞納しているのもそのためであろう。3ヶ月といえば、妻の事故も3ヶ月前。事故死させて保険金を取ろうとし、失敗してケガだけで終わった可能性が高い。そこで、プロを雇い、再度殺させ、お金がないので、殺人の事後報酬も払えていない。闇金業者からの借金も、その穴埋めに使われたのかもしれない。映画のこの部分は、非常に曖昧だが、全く関係がなければ、わざわざ脚本に入れないので、無関係とは思えない。

クーパーは、追い出された玄関の外から、「ロッジ氏に、今夜 来ると話しておいて下さいよ。相談がありますから」と告げる(1枚目の写真、矢印はクーパー、伯母が持っているのはホウキ)。その頃、太っちょの主犯は、シャトルバスの運転手をしている手下の職場のロッカー室に行き、「今夜は休みだ。もっと大事なことをしてもらう」と切り出し、代理はもう頼んであるからと、逃げ道を絶つ。そして、「昨夜、奴は話しの途中で電話を切りやがった〔hung up on me〕。平気でな。俺たちをおちょくる気だ」「あの役立たず〔clown〕が 俺たちをコケにするのを止めさせる。お前は、ガキと女を始末しろ〔take care of〕。奴も考え直すだろう」(2枚目の写真)。父が帰宅すると、待っていた伯母が、「ごめんなさい、愛してるわ、だから怒らないで」と謝る。「何があった?」。話を聞く場面はなく、次に映るのは、真剣な面持ちでクーパーのやってくるのを待つ2人。そして、ドアがノックされる(3枚目の写真)。

クーパーはソファに座ると、伯母に 「よろしければ、コーヒーをいただけると有難いのですが」と、嫌味にバカ丁寧に頼む。そして、すぐに本題に入る。「あんたは奥さんを殺した。保険金が欲しい。私も加わりたい〔“a piece of the action” には “有益なことへの参加” という意味がある〕。不同意は許さん。イエスかノーで答えろ」(1枚目の写真)。「何が欲しい。分け前か〔“a piece of the action” には “不法行為の分け前” の意味もある/どちらも、自分の都合の良いように使っている〕?」。「全部だ。さもなくば、あんたは刑務所に直行だ」。そこに、伯母がコーヒーを持ってくる(2枚目の写真、矢印)。「選択の余地はない。あんたが立場を理解するまで、ここで待つだけだ」。そう言うと、コーヒーを一口飲む。すると、急に苦しみ始める(3枚目の写真)。その恐ろしい姿を、ニッキーも見ている(4枚目の写真)。伯母がコーヒーに入れたのは “lye(苛性アルカリ溶液/洗剤)”。苛性アルカリ溶液が苛性ソーダだとすれば、毒物劇物取締法の劇物に該当し、飲んだ場合、「口内、食道、胃等の粘膜が侵されて死亡することもある」とされる。

この惨劇と同時進行の形で、マイヤーズ家の前では暴動が起こっていた。大勢の市民がわめき、罵声を浴びせ、警官の制止を突破した男がバットでマイヤーズの車の窓を叩き割る(1枚目の写真、矢印は飛び散るガラス)。別の男は、バットで家の窓ガラスを叩き割る(2枚目の写真)。家の中では、夫婦がドアや窓から侵入されないよう、箱を積んで家を守っている。そして、暴動の行き着いた先は、車への火炎瓶の投入。車はあっという間に火に包まれる(3枚目の写真)。これは、レヴィットタウンでの7日目の “500人による” 暴動を思わせる。

惨劇の続き。ニッキーは、苦しむクーパーの様子を見ている(1枚目の写真)。クーパーは、玄関の網戸を突破して通りに逃げる。父は、火かき棒を手にして後を追う。ニッキーは、2階の廊下の真ん中に置いてあった電話機をつかむと自分の部屋に持って行き、入って来られないようドアをつっかい棒で封鎖する。クーパーが出て行った通りは、マイヤーズ家の前の通りと1本ズレているので、暴動のせいで人っ子一人いない。父は、道路の真ん中で 火かき棒でクーパーを叩き殺す(2枚目の写真、矢印は火かき棒)。ニッキーは、ミッチ伯父に電話をかけ、「伯父さん、お願い助けて! 僕、殺されちゃう!」とSOS。「ニッキー、何 言ってるんだ?!」。「2人に殺される!」(3枚目の写真)。すると、電話が急に通じなくなる。廊下では、伯母が、引き抜いた電話線を持って立っている(4枚目の写真、矢印)。

父は、死体を クーパー自身の車のトランクに入れ、その上に、ニッキーの自転車を乗せる(1枚目の写真、矢印は子供用自転車)〔帰宅時に使うため〕。一旦、家に戻った父は、伯母に 「奴の車に入れた。計画は破綻した。すぐ逃げないと」と言い、「ニッキーはどこだ?」と訊く。「ミッチに話したわ」。さらに、難問が増えたので、父はがっくりする。父は、クーパーの車に乗り、死体の処理に出かける〔ミッチ伯父が来ると分かったのに(同じ町なので、すぐに駆け付ける)、なぜ伯母を置いて行ったのだろう?〕。一方、殺人犯の2人は、ビートルに乗って様子を見ていたが〔この車は、先ほど父がクーパーを叩き殺した時にはいなかった/しかし、死体をトランクに入れた時にはいた〕、クーパーの車が動き出すと、運転席にいた太っちょの主犯は、手下を “ニッキーと伯母殺し” のため下車させ、自分は父の後を追う(2枚目の写真、矢印は手下とビートル)。父は、工事中の家の前に車を置くと、まず、自転車を出し(3枚目の写真、矢印は自転車)、次いで死体を運転席に移す〔高跳びする気なので、見つかっても構わないと思ったのだろうか? くり返すが、それだけのことなら、自宅の前に放置して逃げても構わない。なぜ、ミッチ伯父が来ると分かっていて、このような無意味な行動を?  それは、恐らく、“ニッキーと伯母が、父のいない状況下で殺人犯に襲われる” という状況を作りたかったからだろうが、あまりに不自然なので、この脚本の一番の弱点になっている〕。主犯は、父の作業をずっと窺っている。

一方、家に残った伯母は、大量の錠剤を めん棒で粉末状に砕く(1枚目の写真)。それを、ピーナッツバターの上に載せ(2枚目の写真)、ミルクの中にも入れる(3枚目の写真)〔こんなに入れて、噛み応えや、味が変わらないのだろうか?〕

そして、いつものように、ピーナッツバターとベリージャムの食パンを合わせて押し付け(1枚目の写真)、2つに切る。階段の下まで行くと、ニッキーに 「何か食べないと。お腹が空いたまま寝ちゃ いけないわ」と声をかける(2枚目の写真)。しかし、自分が父と伯母に殺されると思ったニッキーは、部屋に閉じ籠って出てこない(3枚目の写真、中央にあるのがドアを支える板)。

その頃には、手下は、もう家の中に忍び込んでいた。そして、伯母が パンの皿とミルクのコップをテーブルに置くと、暗がりから 「俺が悪いんじゃない」と声をかける。「あなたが悪いなんて、誰が言うの? あなたは悪くない」。伯母は、これから起きることを覚悟し、ガードナーと一緒に過ごす夢の暮らしについて話す。手下は、そんな伯母をつかむと、首を絞めて殺す(1枚目の写真、矢印は伯母の頭)。手下は、伯母を担いで 2階の寝室に運ぶ(2枚目の写真、矢印はニッキー殺しに使うナイフ)。ニッキーが 音に気付き、ドアの隙間から覗いていると、あの時の強盗が、伯母の死体をベッドに置いた後、自分の方を睨むのが見える(3枚目の写真)。次はニッキーの番だ。

殺されると悟ったニッキーは、ベッドの下に潜り込む(1枚目の写真)。ドアのつっかい棒は、2度の体当たりで吹っ飛び、手下が中に入ってくる。子供が隠れる場所はベッドの下しかないので、彼は両膝をついて覗く(2枚目の写真)。ニッキーは、一番奥まで逃げる。手下は 「おい、出てこい」と言い、手を伸ばしてニッキーをつかもうとする。届かないので、ナイフを振り回す(3枚目の写真)。すると、いきなり手下の姿が消える。

ニッキーの目からは、二足の靴が絡み合うのが見える。そして、ベッドの上で激しい格闘。最後は銃声が聞こえ、静かになる。一足の靴だけがベッドから降り、「おいで、ニッキー」とミッチ伯父の暖かい声が聞こえる。伯父の手は血で真っ赤だ。その手に引っ張られてベッドの下から出たニッキーは、伯父と一緒に部屋を出る(1枚目の写真、矢印は手下を射殺した拳銃)。伯父は、父の寝室のドアの手前にあるクローゼットのドアを開けると、「中に入って」と、ニッキーを婦人服の間に入れ、「音を立てるなよ。君はいい子だ。元気だせ」と言い、「君を息子のように愛してるのは誰だ?」と訊く。ミッキーは、迷わず 「伯父さん」と答える。伯父は、最後に拳銃を渡し(2枚目の写真)、ニッキーの姿を服で隠し、ドアを閉める。そして、ニッキーの部屋に戻るが、その時、背中に手下のナイフが刺さっているのが映る。伯父は、ベッドの枠にもたれるように座り込むと、受話器を取って警察に通報しようとするが(3枚目の写真、ベッドの上には手下の死骸が)、伯母が電話線を抜いてしまっていたので通じない。

一方、ニッキーの自転車を漕いで家に戻る父の後ろを、ビートルが追う(1枚目の写真、矢印は父)。太っちょの主犯は、父の横にビートルを並行して走らせ、「金を払え」と迫る。父がはぐらかすと、「家に帰ったら、驚くぞ」と脅す。「何をした?」。「金を払う気になる」。「何をした?!」。「金を払う気になる」。「何をした?!」。「金を払う気になる」。その瞬間(2枚目の写真)、前から来た消防車がビートルに激突する〔マイヤーズ家の放火された車を消火するために出動した/ビートルは道路の左側を走っていた/消防車はなぜサイレンを鳴らしていなかったのか?〕。燃えたガソリンに引火し、ビートルは火に包まれる(3枚目の写真、矢印は焼け死んだ主犯)。

家に戻った父は、「マギー!」と何度も叫ぶ。返事がないので、2階に上がって行き、ベッドの上の死体を 悲嘆に満ちた顔でじっと見る。次に、ニッキーの部屋に行き、伯父と手下2人の死体を見つける(1枚目の写真)。ニッキーがいない。「ニッキー」と呼ぶが返事はない。しかし、階段を降りかけた時、クローゼットのドアに血がついているのに気付く(2枚目の写真、矢印)。ドアを開けると、吊られた女性服の下にニッキーの足が見える。そこで、服をさっと分けると、ニッキーが震えながら拳銃を向ける(3枚目の写真、矢印)。父は「寄こすんだ」と言い、拳銃を奪い取る。その頃、マイヤーズ家の前の騒ぎは 警察の強力な介入で収まっていた。

キッチンのテーブルで、父とニッキーは向かい合って座る(1枚目の写真)。「あいつらは獣(けだもの)だ。我々からすべてを奪った。マギー伯母さん、ミッチ、お前のママ」。ニッキーは 「警察に電話する?」と尋ねる。「するとも、この話が終わったらな。いいか、獣(けだもの)どもが、すべてを奪ったんだ」。ニッキーは、「違う。あんただ。あんたが 全部やった」と、何もかも知っていると はっきりさせる(2枚目の写真)。これを聞いた父は、脅すように、両手でテーブルを強く叩くと、自ら 気を落ち着かせようと、伯母がニッキーを殺すために置いておいたサンドイッチを食べる(3枚目の写真、矢印)。「お前に何が分かる?」。そう言うと、毒入りミルクも飲む(4枚目の写真、矢印)。

ここからが、ノア・ジュープの演技力の見せ場。「私は何でも知ってる。大人だからな。決断も必要だ。家族に何が一番かの決断だ。誰が有益で、誰がお荷物〔liability〕なのか…  何が言いたいか分かるか? あいつらは、お前のママを殺した。そして、後始末のため戻って来た。お前の伯母のマギーを殺し、ミッチ伯父を刺し、それでも足りないとばかりに、お前まで殺した」。この驚くべき言葉に、うつむいて話を聞いていたニッキーが顔を上げる。「このキッチンでな。だから、あいつを撃った。その時、何度も刺された。致命傷じゃない」。そして、警察にどう話すかを、演じてみせる。「お巡りさん、息子を助けようと全力を尽くしました。でも、あまりに傷が深くて、ママの元に行き、小さな天使になりました」。こうした残酷な言葉に、最初は、泣いていたニッキーだったが、「お前のことだ。小さな天使」と言われ、体を震わせながら 父を睨みつける(2枚目の写真)。その顔を見て、父は 「それとも、一緒に通報する」と、もう一つの案を提示する。「奴らが、どうやって殺したかを話す。2人とも、幸い殺されずに済んだと」。ニッキーは涙を拭うと、唖然として聞き入る。「アルバのことを聞いたことは? 新聞記者にはこう話そう。保険金なんか欲しくないが、人生の再出発に使うとな。どこか他の、ここからずっと離れた場所でだ。飛行機でアルバに行き、海辺の大きな家を買おう。ゼロからのスタートだ」(3枚目の写真)。そして、①どちらにするか決めるのはニッキー、②決める時間はたっぷりある、と下駄を預ける。ニッキーは下を向いたまま何も言わない(4枚目の写真)。このシーンでは、父の考え方に 幾つもの疑問点がある。①遺棄したクーパーの死体が見つかれば、保険金詐欺が強く疑われる、②焼け死んだ主犯の説明をどうするのか? ③主犯と手下を、首実検の際に否定したことはことの説明が困難、などなど。

翌朝、マイヤーズ家の前で。以前、ニッキーに意地の悪いことを言った老婆が、マイクを向けられて話している。「お巡りさんが1人、頭を割られたわ。消防車にぶつかって死んだ人も。3,4人は入院するでしょうね。それに、ローズさん。こんなこと、マイヤーズが来るまでは起きなかったわ」。若い男性は、マイヤーズについて訊かれ、「いっぱい噂はあるよ。NAACP〔全米黒人地位向上協会〕からお金をもらったとか、アカ野郎やユダヤが裏にいるとか、何かの組織の一員だとか。だけど、どれもこれも噂なんだ。そんなのが、故意に広がってる。ヒステリーじゃないかな」。それを、ニッキーがTVで見ている。カメラが引いていくと、テーブルにうつ伏せになって死んでいる父が映る(1枚目の写真)。外で、壁にボールの当たる音が聞こえる。それに気付いたニッキーは、階段の下に置いてあったグラブを取ると、4人の死体を残したまま裏口のドアを開け、裏庭に出て行く(2枚目の写真)。その音に気付いたマイヤーズ家の息子が寄って来て、2人は柵を挟んでボールを投げ合う(3枚目の写真)。2人にとって、昨夜は最悪の時だった。そして、2人は、お互い、そのことは知らない。レヴィットタウンの前例にならえば〔マイアズは、Harrisburgで新しい仕事に就くまで4年間町に留まった〕、マイヤーズ一家はこのまま住み続けることになるだろう。しかし、ニッキーの行く先は孤児院しかない。

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