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Susa スサ/打ち砕かれた希望

グルジア映画 (2010)

グルジア(ジョージアの呼称は2015年以降)の悲しい現実の一面を感傷を排して淡々と綴ったヒューマン・ドラマ。タイトルロールのスサを、Avtandil Tetradzeが演じている。スサは12歳なのに学校にも行かず、ウォッカの密売ネットワークの一角を細々と担っている。毎日、10本程度のウォッカのボトルを袋に入れて10キロほど離れたトリビシまで運び、あちこちの顔なじみを回っては少額の駄賃を稼ぎ、家計の助けに一役買っている。その稼ぎの一部は、不良グループに、「みかじめ料」として搾取され、帰りは2時間以上かけて歩いて帰るという何の展望もない辛い生活だ。そこに、一つの希望が生まれる。長らく家を空けていた父が戻って来るのだ。そうすれば、一家の稼ぎ手と一家の安全の担い手が同時に生まれ、母は苛酷な密造酒製造所での労働から逃れ、スサも運び屋の仕事から解放される。スサは、期待に燃えて父の帰宅を待った。しかし、戻って来た父は、何の役にも立たない人間だった…

映画は、スサの行動を逐一、そして、淡々と追っていく。朝起きて、一人で朝食をとり、母が辛い仕事をしている密造酒の製造所まで空の袋を持って歩いて行き、そこで10本ほどのウォッカのボトルを袋に詰める。そのまま幹線道路まで歩き、やってきたマイクロバスに乗ってトリビシの駅前で降りる。ウォッカの買い手は、駅前のオープンマーケットのおばさんから、食料品店、食堂、賭け事の店、それに怪しげな男まで様々だ。時には、一人だけいる年上の友達ジュジャの家に行って楽しい時を過すこともある。警官に追いかけられた時には、ジュジャに教わった方法で、罪に問われなかったこともある。しかし、毎回同じなのは、仕事の最後に「みかじめ料」を払うこと。一度、売上金を隠して払わなかった時は、後で大変な目に遭った。そんなスサにとって、唯一の希望は、長く家を空けていた父が帰ってくるというニュース。母は、父が帰れば、今の仕事はやめて、一家でトリビシに引っ越すと話す。スサは、運び屋をやめられると思い、期待を膨らませる。しかし、帰ってきた父は、覚えていた父とは違い、何事にも無関心で、やる気の全くない人間に変わっていた。スサの夢はガラガラと崩れる。スサは、密造酒製造所のボスに初めて抵抗し、そして足蹴にされるように追い払われる。因みに、この映画は台詞の数が極端に少ない。ただ淡々とスサの行動を追っていく。それによって、スサの孤独さ、閉塞感がより重くのしかっかている。演出、映像、そして、演技の3者が結束しないと成り立たない手法だが、うまく成功している。

Avtandil Tetradze(ავთანდილ თეთრაძე)の発音は不明。年齢も不詳だが、恐らく役柄と同じ12歳くらいであろう。整った顔立ちだが、言葉が少なく、感情もほとんど表に出さない。それでも主役として映画を成り立たせているのは大したものだ。あまり有名ではないが、モントリオール・ニューシネマ映画祭で、演技賞を獲得している。映画出演はこの1本のみ。


あらすじ

映画の冒頭、主人公のスサが ガラス片を細かく割り、それを筒の端部に詰めて万華鏡を自作するシーンが映る。着ているものは、映画の最後まで同じで、胸の部分のみチェック柄の入った紺色のハイネックセーター。完成した後、試しに覗いてみる(1枚目の写真)。外側のトレーシングペーパーの中に、青~緑~茶などガラス瓶の細片などが入っている。ペーパーを止めているのは、青いビニールテープ。筒は厚紙を巻いただけの簡単な構造だ。それでも遊ぶものなど買うお金のないスサにとっては、楽しいおもちゃだ。覗いた映像が映るが、中間色で淡い色彩が結構美しい。そして、映画の標題が表示される。「Susa」の下に「სუსა」と表示される。グルジア文字だ〔2015年以降も 言語名はグルジア〕。標題が終わると、スサが肩に袋を担いで土の歩道を歩いている。車道も土でところどころ水溜りができている。旧ソ連圏の国ではよく見かける光景だ〔社会基盤の整備が遅れている〕。スサは塀際に落ちていた平らな石を拾うと、ボトルの入った袋を地面に置き(ガチャガチャと音がする)、歩道にあった大きな石の上にポケットから取り出したコインを置く。コインの種類は分からないが、恐らく2テトリ〔100テトリ=1ラリ≒60円/つまり 1円玉〕であろう。スサは、さっき拾った石を何度もコインに叩きつける(2枚目の写真、矢印はコイン)。すると、表面が剥がれる。さらにそれを叩いて薄くする〔後で、ゲームに使う〕。そして、小型バスに乗る。運転席の後ろには、後ろ向きの席があり、そこに可愛い少女が座っている。12歳のスサは、ついついそちらの方に目が行ってしまう(3枚目の写真)。映画が始まってからここまで台詞はゼロだが、スサの環境と子供らしさがよく分かる。因みに、スサは、2枚目と3枚目の写真で紺色のウールのニット・キャップを被っているが、これが彼の定番の外出姿。だから、顔がはっきり映るのは室内のみ。グルジアの気温から考えて、恐らく11月から3月の間であろう。なお、スサの住んでいる場所は、後の台詞で、首都トリビシの北方のAychalyとなっているが、地図上では発見できなかった。
  
  
  

トリビシに着いたスサが辺鄙な通りを歩いている。コンクリートの壁に1メートル四方くらいの穴が開き、そこに鉄扉がはまっている(ノブも何もない→外からは開かない)。横には、空き瓶が1個吊るしてある。スサが鉄扉を叩くと鍵を開ける音が聞こえ、扉が内側に開き男が姿を見せる。「持ってきたか?」。「うん」。スサは袋を扉の枠に置くと、中から2本のボトルを取り出し相手に渡す(1枚目の写真、左上に映っている空き瓶は、「買うぞ」というサインなのか?)。代わりにお札をもらう。幾らかは分からない。次のシーンでは、スサはオープンマーケットにいる(恐らく、トリビシ駅の近く)。そしてお酒とチーズサンドを売っているおばさんに2本渡し(2枚目の写真)、またお金を受け取る。
  
  

その後、スサは線路の下をくぐって反対側へ。そのアンダーパスも、さっきのマーケットも、道路はすべて未舗装だ。スサがトリビシ駅の跨線橋の反対側に来た時、一人の知人を見つけて嬉しそうに声をかける。「ジュジャ!」。髭の濃い20歳前後の青年だ。「やあ、スサ、家に来いよ」(1枚目の写真)。スサ:「今日はどうだった?」。ジュジャ:「まあまあだ。稼ぎは4ラリ〔240円〕だ」。「なぜ、蒸留酒で商売しないの?」〔スサは、蒸留酒の密売をして家計を助けている〕。「危ない橋を渡るより、空き瓶集めの方が気楽だからな」。2人は道路に落ちていた空き瓶を蹴って遊び、再び線路の下をくぐってオープンマーケットに出る。「ウォッカまだあるか?」。頷くスサ。「じゃあ、急ごう」。2人は、細くて汚い階段状の路地を上がって行く。そして、丘の斜面に沿って掘っ立て小屋のような家が並ぶ路地を突き当たりまで行くと、そこにジュジャの家がある。剥き出しの煉瓦を雑に積んだ手作りの家だ(2枚目の写真)。スサが、「遊ぼうよ?」と声をかける。「勝てっこないぞ」。2人はドアの左に置いてある小さな台の両側に立つ。「スコアは?」。「15対10」。2人はコインを置く。スサは、胸の高さから 今朝作ったコインの薄片を落とし、次にジュジャが同じように落とす(3枚目の写真、矢印はコイン)。スサの落としたコインは離れ離れになったが、ジュジャの落としたコインはテーブルのコインの上に重なって乗る。その後も、スサは数回落とし、重なることもある。どちらが勝ちなのかは分からないが、ジュジャが「練習したな」と言うので、スサが勝ったのかもしれない。「あと1回」。「もう十分だ」。「お願い、もう1回だけ」。「だめだ。食べよう」。
  
  
  

家の中は、煉瓦の上にセメントを塗っただけの殺風景なもの。ジュジャは部屋の片側を占めるキッチンで、筒の中に立ててあったロングパスタ〔フェデリーニかスパゲッティーニ〕を持ってくる。そして、「こんなの食べたことあるか?」と言ってスサに5・6本渡し、自分でも1本折って見せる。スサも嬉しそうに何本か折る(1枚目の写真、矢印)。「もう、いいだろう。食べるのがなくなる」。そう言うと、スサからパスタを取り上げ、ついでに、スサのニット・キャップも外す。ジュジャは、パスタが茹で上がる間に、「いいことを教えてやる」と言うと、空のボトルとタオルを取り出す(2枚目の写真、矢印はタオル)。「俺はいつもこうしてきた。ボトルをタオルで包むんだ」。そして、スサの目の前で首の部分だけ残してボトルをすっぽりとくるんで見せる。「もし、おまわりに追いかけられたら、こうやって捨てるんだ。そしたら、割れないだろ。おまわりも、ボトルがなけりゃ、何もできん。分かったか?」。スサは頷く。次のシーンは、スサが茹で上がったパスタを食べるところ。生まれて初めて食べるパスタ。麺を何とか口に入れようと必死だが、楽しそうだ(3枚目の写真)。それにしても、ほとんどソースらしきものが絡まっていないので、あまりおいしそうには見えない。「もっと欲しいか?」。「ううん、もういいよ」。ジュジャは、「なぜ酒造所で働いてる? 嫌だって言ってたじゃないか」と質問する。「母さんが、ちょっとの間、いて欲しいって」。「『ちょっと』ならいいがな」。「頼りにされてたんじゃないの?」。「多分な。だが、もう仕事には戻らん」。「どうして?」。「一度やめたら もう元には戻れん。それが けじめというもんだ」。最後の頃は、スサは瓶の底のガラス片を目に当てて遊んでいる。ジュジャの話は耳に入っていないようだ。
  
  
  

駅前に戻ったスサは、稼いだお金の中から「みかじめ料」分をポケットに入れる。そして、近くにあるパンの屋台に行き、丸ごと1個買う(1枚目の写真、矢印)〔パンは包んでくれない/翌日の朝食用〕。そして、駅前のバスターミナルに行くと、そこで見張っていた2人の若者に「みかじめ料」を渡す(2枚目の写真)。密造酒を町で売らせてもらうことへの謝礼金だ。払い終わったスサは、家まで延々歩いて帰る(3枚目の写真)。距離は分からないが、感じとして1~2時間はかかりそうだ。
  
  
  

スサが帰宅して夕食をとっている。そして、母に、「父さん、なぜ、もっと早く帰れないの?」と尋ねる。「仕事のせいよ。知ってるでしょ?」〔恐らく、刑務所に入っていた?〕。「いつ帰るの?」。「2日後。準備をしないと」。さらに、「父さんが戻ったら、お酒の配達をしなくていいわ。母さんも酒造所は辞める。みんなで町に引っ越しましょ」と続ける(1枚目の写真)。スサは、毎日、密造酒を売りに行っていたが〔学校はどうなっているのだろう?〕、その すさんだ生活もようやく終わると言われ、期待に胸が膨らむ。翌朝、スサは1人でベッドから起きる。外から鶏の鳴き声が聞こえるので結構早朝だと思うが、母はもう酒造所に出かけていて 不在。スサは、昨日ジュジャから聞いたことを思い出し、厚手の白い布とハサミを用意し、空き瓶を置いて大きさをチェックする(2枚目の写真)。そして、ハサミで布に切れ目を入れると、手で裂いて「瓶を巻くタオル」を何枚も用意する。そして、いつもの服装でいつもの袋を担ぎ酒造所に向かう(3枚目の写真)。正面の白い建物が酒造所。前に停まっている旧式のメルセデスがボスの車。
  
  
  

酒造所の中で働いているのは、母を含め2人の女性。1人は、詰め終った瓶にラベルを貼っている。スサが入って行くと、母は、「早かったわね。今日は頑張らないと」と声をかける。スサは、隅の瓶置き場に行き、積んであった瓶を袋に入れる(1枚目の写真、矢印は酒瓶)。母は、いつもより袋が重そうなので、スサが「平気だよ」というのは無視し、中から2本抜き出して軽くしてやる。そして、「あまリ遅くならないでね」と声をかける(2枚目の写真)。酒造所から出たスサは、建物の角を曲がったところで腰を降ろすと、家から持ってきた厚布で、1個ずつ酒瓶を包み、ストライプ状に割いた厚布で丁寧に縛る(3枚目の写真、矢印は四角に切った厚布)。
  
  
  

作業が済み、スサが道路を歩いていると、小型バスがやって来たので、手を上げて停める(1枚目の写真)。バスは、ぬかるんだ道を町に向かうが、正面には高層ビルが並んでいるのが見える(2枚目の写真、矢印)。トリビシの中心部に高層ビルはないので、恐らくムツヘタ=ムティアネティ(Mtskheta-Mtianeti)の開発地区であろう。小型バスの場所からビル群までは数キロはありそうだし、ムツヘタ=ムティアネティからトリビシ駅までは直線距離でも6キロある。バスに乗ったスサは、窓に息を吹きかけて曇らせて遊んでいる(3枚目の写真)。まだまだ子供らしい。このバスの運転手は、スサが降りる時にお金を払おうとすると、「タダでいいよ。君はいい子だから」と言ってくれる。
  
  
  

スサが最初に行ったのは小さな食堂。「ウォッカ要る?」。「何本持ってる?」。「3本」。「1本もらう。ちょっと待ってろ。お金をとってくる」。待っている間、スサは客の老女がテーブルの上でやっている1人トランプを見ている。スサは、オープンマーケットに行くと、持ってきた万華鏡を取り出し、前面に入れたガラスの砕片を取り除き、何もない状態で覗く。正面の△の部分は、筒を向けた方向の景色がそのまま見えるが、その周りは鏡に反射して面白い映像になっている。このシーンはかなり長い。スサが最後に行ったのは煉瓦の汚いビル。4階の窓から黒い鞄がロープで吊り下ろされてくる(1枚目の写真、矢印)。スサが2本入れると、鞄は引き上げられていく。そして、昨日と同じように、「みかじめ料」を払い(2枚目の写真、矢印)、歩いて帰宅する。この時の背景は、ムツヘタ=ムティアネティの高層ビルだ(3枚目の写真)。
  
  
  

スサが帰宅すると、母は不在で、テーブルの上に1枚のメモが残されていた(1枚目の写真、矢印)。「今夜は遅くなるから、私を待たないで。夕食をとって寝なさい。母」。スサは、何事だろうと、酒造所まで見に行く。そして、朝 酒瓶に厚布を巻いていた横壁の窓から中の様子を窺う(2枚目の写真)。中からはボスの怒鳴り声が聞こえてくる。「この瓶は何だ? こんなもんを作って、売るつもりか? これが上等のウォッカに見えるか? しょんべんみたいじゃないか!」(3枚目の写真、ガラス越しの映像)。ボスの文句は延々と続く。これで、スサがボスを嫌いになったのは当然であろう。
  
  
  

その夜、母は帰って来なかった。翌朝、スサは、心配そうな顔で酒造所に向かう(1枚目の写真)。キャップを被っていると同じような顔に見えるが、これが一番可愛い。後ろに映っているのは羊の群れ。建物に入って行くと、母ともう1人の女性が作業中だ(2枚目の写真、矢印が母)。「朝は食べた?」。「うん」。そして、いつも通り袋に酒瓶を詰める。母たちは、瓶の清掃や、酒のボトル注入に大忙しだ。スサが外に出ると、ちょうどボスがメルセデスで出勤してきた〔自分で運転せず、運転手にさせている/自分は、家に帰って寝て、母たちには徹夜で作業させたことになる〕。そして、スサを、「ちょっと待て。ここに来い」と呼びつける。「袋を寄こせ。チェックする」。そして、手で持ってみて重さをはかり(3枚目の写真、矢印は袋)、「これっぽっちか。まあいい、とっとと行け」と追い払うように行かせる。
  
  
  

スサが最初に訪れた場所は、数字で賭けをする場所。受付に行くと、「持ってきたか?」と訊かれる。「はい」。「4本あるか?」。「はい」。「そこに置け」。しかし、「2・3日後に来い。その時払う」と言われ、「できません。もう辞めてますから」。「辞めるのか。じゃあ、待ってろ」。スサは、賭けが終わり、負けた客の金が手元に来るまで待たされた。その後、線路際に行ったスサは、貨物列車が目の前を通るのを 素通しの万華鏡を通して見て楽しむ。そして、オープンマーケットへ。しかし、そこは いつもと勝手が違っていた。密売屋を監視する警官が待ち受けていたのだ。警官は、袋を担いだスサを見つけると寄って来る。気付いたスサは逃げ出し、警官も追いかける(1枚目の写真、矢印はスサ)。スサは、上手く逃げて警官をまき、ゴミの投棄場まで来ると、ゴミの山の上から、厚布でくるんだボトルを1つずつ丁寧に転がす(2枚目の写真、矢印は酒瓶)。急な斜面なので、瓶は結構勢いよく転がり落ちて行く。スサは、空になった袋を背負って途中まで戻ったところで警官に取り押えられる。オープンマーケット近くの署まで連れて来られたが、袋の中は空なので罪に問いようがない。「署長。彼は逃げようとしました。しかし、捕まえたら、袋は空でした」。署長は警官を去らせ、スサをイスに座らせる。そして、「Aychalyから来たのか?」と訊く。スサは目を伏せて何も答えない。「ボスに言うんだな。そうすれば、毎日誰かを送り込むのは止めるだろう」。無言(3枚目の写真)。署長はあきらめ、「袋を持って出て行け」と言わざるをえない。
  
  
  

解放されたスサは、さっそく ゴミの投棄場に戻る。そして、急斜面を何とか降り、転がり落ちた酒瓶を回収する。最初の2本は首尾よく袋に戻す。よく分からないのは、映像で紹介される3本目、一旦は手に取るが(1枚目の写真、矢印)、すぐ下に戻す。割れていたのだろうか? 回収作業が映されるのはこの3本だけで、袋の中には2本しかないはずだが、後で中身は5本と言っているので、全部を映していないだけであろう。その場合、賭け屋で4本売り、1本は割れたので、酒造所を出た時には最低でも10本は持っていたことになる。750cc入りだと、瓶の重さを無視しても7.5キロ。12歳の子供が背負うには大変な重さだ。残った5本をどこでさばくか? 警官が見張っているのでうかつには動けない。そこで、スサはジュジャに頼ることにして、家を訪れる。家は留守だったが、幸いジュジャは、屋外のトイレにいただけで、すぐに姿を見せた。「やあ、スサ、どうした?」。「何本か売らないと。お金が要るんだ」。「何本ある?」。「5本」。ジュジャは自分では買えないので、スサを友人の家に連れて行く(2枚目の写真。途中の路地が如何に汚いかよく分かる)。ジュジャがドアをノックすると女性が現れる。「ゲナはいるか?」。「ええ」。かくして、2人は中に招じ入れられる。そこでは5本全部買ってくれた。中には若者が8人以上たむろしている(3枚目の写真)。呼ばれて、端っこに座らされたスサは、キャップを取り、物珍しげに様子を見ている(4枚目の写真)。
  
  
  
  

スサは、ジュジャと一緒に駅まで行く。「僕、酒造所で働くのやめるよ」。返事がない。「信じないんだろ?」。返事がない。「信じないなら、行くよ」。なぜ、ジュジャが何も言わないのかよく分からない。スサは1人になると、思い切ったことをする。ウォッカを売ったお金を全部靴の中に隠したのだ(1枚目の写真、矢印)。そして、いつもの2人に呼び止められ、「金はどこだ?」と訊かれると、「今日は、働かなかった」と嘘をつく(2枚目の写真)。「知るか。金を寄こせ」。スサが袋を持っていたのはマズかった。これでは仕事をしなかったと言っても信じてもらえないだろう。そこで、スサは逃げ出す。これで疑いは決定的となる。しかし、体の小さいのを活かして逃げることに成功する(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、家では大掃除が始まる。母と協力して窓ガラスをきれいに拭く。次に、部屋の中の大きな家具の上に載っているものをすべてテーブルに移すと、2人で力まかせにずらして何とか壁から離し(1枚目の写真)、家具の背面を母が箒で掃除する。大掃除で出た可燃物(大半は古い衣類)は庭に積み上げ、火を点けて燃やす(2枚目の写真)。その後、スサは、Yシャツの上にセーターという「一張羅」に着替え、鏡を見ながら髪を櫛でとく。母は、数少ない食器をきれいに磨く。スサは、母に、「もし、帰ってこなかったら?」と尋ねる。「もちろん、ちゃんと帰ってくるわ」(3枚目の写真。薄暗くて残念だが、一番整った顔立ちに映っている)。母は、スサの服をきちんと整えると、ぎゅっと抱き締める。「お風呂に入るのよ〔シャワーのこと〕。それから、パンを2個買ってきてね。父さんは もうこっちに向かってる。早く帰ってくるのよ」。シャワーを浴びて来いということは、スサの家にはシャワーがないことになる。かなり不衛生な住環境だ。
  
  
  

スサが歩いていると、後ろからボスのメルセデスが来て、声がかかる。「どこに行く?」。「町へ」。「乗るんだ」。「バスで行くよ」。「乗るんだ。俺もこれから町へ行く」(1枚目の写真)。「いいよ」。「乗れと言っとるんだ。一緒に来い」。スサは、嫌いなボスの車の後部座席に乗る。「楽ちんだろ?」。返事はない。「今日は休みか?」。「何て?」。「まだ帰っとらんのか?」。「誰が?」。「親父だ」。「ううん、まだ」。スサが如何に話したくないか分かる。しばらく会話が途絶え、「お前、迎えに行くんだな?」。返事はない。「どこで会うんだ?」。返事はない。「終わったら、すぐ仕事に戻るんだぞ」。返事はない。「俺にも嫌な思いをした時期があった。だが、それが今の俺につながってる」。返事はない。「お前も、頑張れ」。返事はない。車から降りたスサは真っ直ぐ床屋に向かう。床屋に座った感じは万国共通(2枚目の写真)。一応ハサミだけを使ってカットし、前髪を直線状に切り揃えて終わり。その後、スサが向かったのは、シャワー場。ロッカーが並んでいて、そこで服を脱ぎ(3枚目の写真)、並んでいるシャワーで洗う。学校の体育館にでもありそうなレベルの施設だ。
  
  
  

スサが、駅の跨線橋を渡り、「駅前」への階段を降り始める。運悪く、その姿を、昨日、「みかじめ料」を踏み倒した2人組に見つかってしまう。2人は物陰に隠れてスサのやってくるのを待ち構える。「金を持ってるだろ?」。スサは、誰もいない場所に連れて行かれ、「今日は仕事してない」と言うのも構わず服を点検され、見つかったお金をすべて奪われる(1枚目の写真、矢印)。事はそれで済まなかった。昨日の「嘘」に対して制裁を加え、二度とズルをしないよう痛い思いをさせる必要がある。そこで、2人はスサを廃工場のような場所に無理矢理連れて行く。「ここなら よさそうじゃん」。「お前も気に入ったろ?」。「カッコいい服着やがって」。「頭に煉瓦でもぶつけてやるか」。母に言われて買ってきたパンの袋も奪われる。そして、「ここに、投げ込むか?」と、ごみ収集ボックスのフタを開けられるが、もう1人が、「もっといい場所がある」と言って奥に連れて行く。もう1人が、いいものをやると言い、ゴミをひとつかみ持ってくると、スサの顔に投げつける(2枚目の写真、矢印は埃の舞っている顔)。そして、奥まで行くと、「これはお仕置きだ」と言って小部屋に入れられ、ドアを閉めて、表からかんぬき状の金具をかけられる。2人はそのまま去ってしまう。スサは、何とかドアを開けようとするが、ドアの上部が固定されていて開かない(3枚目の写真、矢印は固定部)。幸い、何度もガタガタさせているうち、金具が外れ、外に出ることができた。
  
  
  

お陰で、スサは真っ暗な夜道を歩いて家に帰ることになる(1枚目の写真)。一方、父の方は、ずっと前にバスで家に着き、母に靴を脱がされ、ベッドに入れられ、眠りについている〔夫婦、別のベッド〕。ようやく家に着いたスサに、母は、「今まで一体何してたの?」と訊く。「何も」。「どうしたの?」。「後で話すよ。帰ってきた?」。「ええ」。その後、スサが 小さなおもちゃの自動車を検分しているシーンがあるが、父のお土産なのだろうか? それとも、それは 昔父に買ってもらったもので、父の帰宅の喜びの象徴的な行為なのだろうか? 翌朝、起きてきたスサは、ベッドで寝ている父の姿を見る(2・3枚目の写真)。この時点でのスサは、期待に溢れている。
  
  
  

母は、もう酒造所にでかけていない。スサは、父と2人分の朝食を用意する。目覚めた父が、「母さんはどこだ?」と訊く。「酒造所だよ」。父は、「久しぶりだな」とも「大きくなったな」とも言わないし、スサも、「お帰りなさい」と言わない。省略してあるのか? それとも2人とも寡黙なのか? スサは、父が食べているのをじっと見ている(1枚目の写真)。「毎日、こんなに朝早く起きてるのか?」。「うん」(2枚目の写真)。「母さんの帰りは、いつも遅いのか?」。「決まってない」。「塩を持ってこい」。まるで他人同士の会話だ。それに、父の顔は、どうみても善人の形相ではない。だんだんとスサから希望が消えて行く。2人はなぜか一緒に酒造所に向かう。スサは袋を持っている。今日も「配達」に出かける覚悟だ(3枚目の写真)。
  
  
  

仕事場に現れた父。母は、ボスの所に連れていく。ボスは立ち上がると握手し(1枚目の写真)、言葉を交わす(内容は不明)。スサは、それをあきらめたように見ている。父はボスの所から戻ってくると、スサに、「行くぞ」と声をかける。母は、いつもの仕事に戻り、スサもいつも通り袋に酒瓶を詰める(2枚目の写真)。外に出ると、父が、「重いか?」と訊き、「寄こせ」と言う。「いつもと同じだよ」。「寄こせ」。「重くないって」。「寄こせと言っとるんだ」〔ボスそっくり〕。父は、なぜスサと一緒に出かけるのだろう? スサもそう思ったはずだ。母は、父が戻れば、今の不法な仕事はやめて、町に移ると言っていた。しかし、それは叶いそうにない。ひょっとしたら、父も「運び屋」になるのだろうか? こうした疑心暗鬼から、バスの中のスサは、父に話かけようとせず、そっぽを向いている(3枚目の写真)。
  
  
  

町に着き、オープンマーケットを歩く2人。袋はスサが担いでいる。スサが、「店に入らないと」と声をかける。「外で待ってる」。スサは、1人で食料品店に入って行く。店の主人:「3本でいい」。スサは、窓の外の父に目をやる(1枚目の写真)。父は、タバコをくわえながら、何かを買っている(2枚目の写真)。スサが何もしないので、主人が、「何してる。瓶を出さんか」と請求し、スサは商品ケースの上に3本並べる。店から出てきたスサに、父は、「済んだのか?」と訊く。まるで、他人事だ。スサが家計を助けるために働いているという意識など全くない。だから、スサは、父が渡そうとしたお釣のコインを、「いらない」と言って断る(3枚目の写真、矢印はコイン)。次に、スサは一昨日に行った賭け事の店に行く〔前に行った時は、結局、売らなかったのだろうか?〕。この時も、父は遠くで待っていただけ。仕事が終わり、2人は、グルジア名物のヒンカリをオープンマーケットで立ち食いする。まるで赤の他人同士のように。
  
  
  

そして、「みかじめ料」を払うシーン。スサは、「すぐ戻るから」と言って、払いに行くと(1枚目の写真、矢印)、バンの向こうで後ろを向いて待っている父の元に帰る(2枚目の写真、矢印)。昨日やられたことを打ち明け、父に何らかの行動を促すことさえしない。完全に見限った態度だ。帰りは、父が一緒なので、徒歩ではなくバスに乗る。それでも、スサは「げんなり」している(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、早く起きたスサは、まず母の部屋を覘く。母はまだ疲れて寝ている(1枚目の写真)。部屋を出たスサは、次に父の様子を見に行く(2枚目の写真)。そのだらしない寝姿からは(3枚目の写真)、この人物が今後少しでも助けになってくれそうな気配は感じられない。スサの希望は崩れ去った。
  
  
  

スサは、1人で酒造所に向かう(1枚目の写真)。建物の前にはちょうどボスがいて、「戻ってきたか、さあ入れ」と言うが、スサはボスに猛然とつかみかかる(2枚目の写真)。しかし、体力差はあまりに大きい。ボスは、何とかスサをやめさせようとするが、スサは効果のない攻撃を続ける。いい加減うんざりしたボスは、「そんなに嫌なら、土でも食ってろ」とスサを放り出す(3枚目の写真)。映画はここで終わる。スサにはこれからどんな人生が待ち受けているのだろう?
  
  
  

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