アメリカ映画 (2015)
10歳ほどのジャレッド・ブリーズ(Jared Breeze)が主演するサイコ心理サスペンス映画。主人公の少年自らが、超自然現象なしに、周辺環境から異常心理状態に陥っていく映画は、非常に例が少なく、『The Boy Who Cried Bitch(『やれよ、くそ女』)』以外にあまり例がない。少年にそうした演技をさせることが困難なためかもしれない。ジャレッド・ブリーズは、2016年のヤング・アーティスト・アワードを2部門で受賞している。『ルーム』のジェイコブ・トレンブレイ、『リトル・ボーイ』のヤコブ・サルヴァティ、『天才スピヴェット』のカイル・キャトレットを破っての受賞だ。この賞は、時々おかしな選考をするが、2016年は本来ならジェイコブ・トレンブレイが受賞すべきだった。カナダ人であることが響いたのかも知れない。ジャレッドの演技は単調すぎ、『やれよ、くそ女』のハーディ・クロスの名演に比べ、明らかに見劣りがする。精神のバランスが崩れていくプロセス、あるいは、その悪化の程度が見ていて全く分からない。本来なら、細かな動作の違いで表現されるべきなのに。責任は脚本にもある。元々、2011年に同じ監督が製作した『Henry(ヘンリー)』という11分の短編映画を拡大した作品なので、冗長な部分が多く、筋の展開にも無理がある。特例として、『ヘンリー』のヘイル・リトル(Hale Lytle)が、鹿の轢死を思いつくシーンの写真を示す。あらすじの3節の2枚目の写真と比べるとよく似ている。着ているシャツの色も同じなら、座っているビニール・チェアの色も同じ。なお、チラとだが、エイダン・ラヴキャンプ(Aiden Lovekamp)も顔を見せている。
映画は、かつては賑わったが今は立ち寄る客も僅かな潰れる寸前のモーテルが舞台。父と息子のテッドの2人だけで、誰も泊まりに来ない5つの客室を管理する侘しい日々。学校にも行けず、一人だけで何もせず過ごすテッドの夢は、自分がまだ小さい頃逃げ出して行った母を追ってフロリダに行くこと。そのため、モーテルの前の道路で見つかる小動物の轢死体を拾っては25セントもらい貯めている。テッドの変調は、轢死体を「作る」ため道路にエサをまいて動物を轢死させることを思いついた時点から始まる。この行為がエスカレートした結果、大型の鹿を轢かせようと大量のエサをまき、その結果鹿が死に、ぶつかった車は大破し、運転していて怪我をした男がモテルの客となる。死んだ鹿の形見の角、男が持っていた焼死した妻の遺灰が映画進行の鍵となり、高校生のプロムのパーティの夜、テッドの精神のバランスが崩壊し、自ら大惨事を引き起こす。そのきっかけとなるのは、死んだようなモーテルを継がせようとする父への反発と、ディスカウントしてまで貸してやったプロムの学生からテッドが受けたひどい暴力だった。このメイン・ストリームを攪乱するのが、怪我をした男に対する妻の殺人容疑と、その妻がテッドの母かもしれないという可能性。台詞を読む限り、明白な結論は得られず、最後まで不満が残る。
ジャレッド・ブリーズ、エイダン・ラヴキャンプともに、10才以下の整った顔立ちの少年。ジャレッドについては、もう少し演技が巧かったら、あるいは、的確な演技指導がなされたらと残念だ。エイダンについては、ジャレッドとの絡みの部分がもっと長ければ良かったにと思う。
あらすじ
人里離れた山間部。黄色いバケツを持ったテッドが、突然道路に出て来る(1枚目の写真)。そして、道路上をくまなく見る(2枚目の写真)。瞳孔が異様に小さい。道路の路肩に車に轢かれた動物の死体を発見。近付いて行って、ぺちゃんこになったスカンクの死骸を道路から剥がしてバケツに入れる。そして、そのまま道路を歩いて小さなモーテルに向かう。オフィスのドアを開け、「また あったよ、パパ」。「中に持ち込むな」。「お金は?」。「レジの場所は知ってるだろ」。テッドは、25セント玉を1個取り出すと、オフィスの裏にあるゴミ箱に死骸を入れる(3枚目の写真)。映画の始まりとしては、意表を突いている。自分の部屋に行き、ベッドの下の『フロリダ』と書かれた缶にコインを入れる。かなり貯まっている。その後、オフィスに戻り、フロントデスクで電話応対の真似事をするが、その時、「部屋代は22ドルです」と話す。信じられないほど安いモーテルだ。部屋数僅か5つ、お客がほとんど来ない状態でよく暮らしていけるものだ〔宿泊客ゼロでも、夜はネオンを点ける必要がある〕。翌朝、鶏小屋のそばの古タイヤのブランコに乗って遊ぶテッド(4枚目の写真)。父と2人だけの寂しい日常だ。学校にも行かせてもらえない。道路で待っていても動物は来ないし、だいたい車もほとんど通らない。1人で過ごす「何もない」1日ほど辛いものはない。そうした環境がテッドの心を徐々に蝕んでいく。
テッドは、自分の部屋で、母からの古いハガキを見ている(1枚目の写真)。「残してきてごめんなさい。いつか、理解してくれると思うわ。こっちに来てくれてもいいのよ。太陽がいっぱいで気に入るわよ。愛してる。ママ」と書いてある。母の想い出はこれ1つだけ。母は、テッドが小さい頃、モーテルでの寂しい生活に耐え切れず逃げ出したのだ。父のオフィスの外で座っていると(2枚目の写真)、「今はお客少なくて。夏はハイシーズンで9月も少しは見込めるので、10月には払えそうです」と、父が支払いの延期を頼む声を聞こえてくる。父は、将来、自分にモーテルを継がせる気でいることはテッドのよく承知しており、こうした経営不安を知れば、心穏やかでないはずだ。だから、テッドは動物の死骸を集め、お金を貯めている。母のように、いつかは、ここを逃げ出すために。
テッドは、大好きな小屋に行き、秘密のノートに今日の収入を記帳する。「6月15日、スカンク、25¢」(1枚目の写真)。ページの右には、グレイハウンド社の長距離バスの広告が張ってある。貯めたお金でフロリダに行く気なのだ。テッドは、すぐ横のビニール・チェアに座って何事かを考えている(2枚目の写真)。横にいるウサギを見て思い付いたこと、それは、「能動的轢死動物増加法」だった。テッドは、まず、モーテル内の自販機に手を突っ込んでお菓子をタダで抜き取ると(3枚目の写真)、それを細かく砕いて道路にまく(4枚目の写真)。小屋で待っていると、撥ねられる音が。双眼鏡で覗くと、まいたお菓子の真ん中に動物の死骸が見える。さっそく、回収に行き、「また あったよ!」と父に告げる。父から「借用書が要るな、テッド」「ここで金を稼げるのは お前だけだ」と言われ、おまけに、「どうして、1号室から5号室を掃除しない?」と責められる。「誰も泊まってない!」と反論するが、「鶏のエサやりも忘れてるぞ。それに、エサの袋を出し放しにするな。鹿に食われちまう」と叱られる。25セントももらえず、ふてくされて退散する。
それでも、言われた通り、部屋のセッティングに訪れたテッド。ベッド・メイクをやり直し、鏡に向かって、「ここは、ハネムーン・スウィートです。あなた方のような、素敵なカップルにぴったりです」と2回くり返す(1枚目の写真)。客応対の練習ではなく、一種のうっぷん晴らしだろう。そして夕食の時間。父が、「スパゲティとホット・ドッグだ。好物だろ」と言い、「今日が何か知ってるか?」と訊く。「僕の誕生日」。「何歳になった?」。「9歳だよ」。「そうだ。信じられん」。そして父は席を立ち、隣の部屋に行くと「サプライズを用意してある」と言い、音楽をつけ、9本の蝋燭に火を点けたバースデーケーキを持ってくる。しかし、先ほどのことで頭にきていたテッドは、「消してよ」と叫び、「好きな歌だったろ。前は、毎晩歌ってたじゃないか」という父を無視して席を立つと(2枚目の写真)、音楽を止め、ケーキには見向きもせずに部屋を出て行った。
小屋に戻り、イスに座り、しばし考えるテッド。今度は、エサの袋ごと道路に持って行き大量にまく(1枚目の写真)。そして、双眼鏡のある観察場で待機する(2枚目の写真)。夜になり、雨が降り出す。テッドがイスに座ったまま寝ていると、ドンと大きな音で目が覚める。期待しながら、雨の中を停止した車のヘッドランプに向かって歩く(3枚目の写真)。そこには、大きな鹿が道路に横たわり、車は大破している。駆けつけた父と一緒に怪我をした運転者を2号室に運ぶ(4枚目の写真)。父は、「ここから20分の所に病院がある。そこに行った方がいいんじゃ…」と勧めるが、男は「いや、ここでいい。横になりたいだけだ」と言う。
その後で、テッドは、事故現場に放置されたままの鹿を見に行く(1枚目の写真)。鹿は重傷を負うが、まだ生きている。そこに、ライフルを持った父が来る。鹿に、「可哀想に。なぜ逃げなかった?」と話しかけると、今度はテッドに「何するか分かるか? 訳も分かるな?」と話しかけ、ライフルで射殺し楽にしてやる。そして、「肉を無駄にしたくない」と小屋まで運び、すぐに解体を始める。テッドに大きなたらいを、梁から吊るした鹿の真下に置かせる(2枚目の写真)。「こんな風にやるんだ」と言って、大型ナイフで切り裂き、内臓を取り去り、肉と骨だけにする。最後に、「のこぎりを取って」と、持って来させ、角を2本とも切り取ると、テッドに「ほら、お土産だ」と渡してやる。自分が殺したに等しい鹿の角を手にした、何も考えていないようなテッドが怖い(3枚目の写真)。その夜、大破した車は、近くの廃車置場へと運ばれていった(4枚目の写真)。
翌朝、男の泊まっている部屋の窓から中を伺うテッド(1枚目の写真)。男の様子もおかしい。テッドは、父に、「構うんじゃない」と言われ、小屋に行って、昨夜、鹿を吊るしたフックの先端を触っている(2枚目の写真)。一体何を考えているのか分からないが、非常に印象的な構図だ。その後、ゴミ箱に捨てられた鹿の頭部を見て「分かってるよ(I see you)」と呟く(3枚目の写真)。鹿の角は、映画のラストでテッドの怒りと解放の象徴となる。この鹿との「別れ」は、テッドの異常化への儀式と捉えることもできる。一方、男の部屋には、保安官が調査に訪れる。この時点では、何も情報が入っていないので、保安官は簡単な事故処理の質問をしただけで去って行く。ただ、「免許証と登録証を拝見できますか?」の質問に対し、「持ってかれちまった車の中だ」。「車の中を見ても いいですか?」。「見て欲しくないな」。最後の言葉は後の展開にも関係している。男にとって、命の次に重要なものが車の中に置き去りにされているのだ。保安官が去ってから、テッドが「ルーム・サービス」と言って、男の部屋のドアを叩く。中に招じ入れられたテッドに、「俺の車がどうなったか知らないか?」と訊き、「近くの廃車置場だよ」と答えをもらう。
その夜、珍しくモーテルに客が入る。山道で夜になったので、「モーテル」のネオンを見て飛び込んだのだ。テッドと同年代の少年を連れた3人家族。食堂までは遠いので、父の提案で、解体した鹿肉のバーベキューを一緒に食べることにする。男の子を見るテッドは興味津々だ(1・2枚目の写真)。相手の父親に「あなた方は、ここで長いんですか?」と訊かれた父は、「ええ。テッドの祖父が自分で建てたんです。昔はここが娯楽の場所で。みんな、展望を楽しむため、わざわざ ドライブに来たもんです」と答え、「ここは、いつかはテッドのものに。そうだろ、坊主?」と付け加える。借金まみれの物件を譲り渡し、死ぬまで一人で暮らせというに等しい言葉だ。早朝、少年と友達になりたいテッドは、客の車に入り込み(3枚目の写真)、ダッシュボードの下の配線を緩めてエンジンがかからないようする。ついでに、車内に落ちていたナイフもちゃっかり頂戴する。その後、好きなプールで泳いでいたテッド。プールサイドで見ている少年に気付き、「入らないの?」と訊く(4枚目の写真)。「水泳パンツ 持ってないんだ」。「じゃあ、短パンで入ればいい」。その言葉に甘え、少年はプールに飛び込み、テッドとじゃれ合う。しかし、頭を水中に押さえっこしている時、テッドがやり過ぎてしまい(5枚目の写真)、怖くなった少年がプールから逃げ出す。一家は、エンジンがかからなくて、修理屋が来るまで1日余分に滞在することになる。
その日、暗くなってから、廃車置場へ向かう男の後をつけるテッド(1枚目の写真)。テッドは、廃車置場で飼われている犬に吠えられ、所在がバレてしまう。「隠れてないで出て来い」と言われ、男の前に姿を現す。その時、激しく雨が降り出したので、「中に入れ」と車の中に一緒に入る。男は捜していた箱を見つけ、「やった」と満足げだ。テッドは「どこに住んでるの?」と尋ねる。「今は、どこにも」。「じゃあ、しばらくは一緒にいるんだ」。好奇心旺盛なテッドは、さらに、「箱の中は何?」と訊く(2枚目の写真)。しばらく黙っていた後、男は、「人が死ぬと、土葬にするか、火葬にして灰にする」と答える。「誰かが入ってるの?」。返事がない。「どうするの? 炉で?」。「ああ」。「それ見てたの?」。返事がない。「見ていい?」。「ダメだ」。「どうして?」。男は、「もう行くぞ」とはぐらかす。モーテルに帰る途中で、今度は男が、「ここにいるのは、君とパパだけ?」と尋ねる。「うん、ママはフロリダにいる。一年中オレンジが実り、27種類のヤシの木があるんだ」。「いいな」。「ママのこと ほとんど覚えてない。5号室に泊まってたトラックの運転手と出てった」。「フロリダか。行ったことないな」。「行きたい?」。「どっかへ行きたいと思ったことはないな。先のことは分からんが」。「もし直行したら2日で着くね」「どんな車持ってるの?」。「どんな車を持ってるか? めちゃめちゃに壊れた車さ。それしか持ってない」。男の抱える白い箱が印象的だ(3枚目の写真)。この箱も、鹿の角と同じく、重要な存在になる。モーテルに戻ると、父から、「週末に ちょっとした実入りがある」と告げられ、プロムの後のパーティがあると説明される(4枚目の写真)。そして最後に、「近付くんじゃないぞ」との警告も。これも重要だ。
その夜、駐車場で出会ったテッドと少年。「さっきは、ごめん。怖がらせるつもり なかった」と謝るテッド。「いいんだ」。そこで、「いいもの 見たい?」と誘う。テッドが連れて行ったのは、道路の下に掘られたカルバート。円筒状のコンクリートの排水管だ。懐中電灯でテッドが中を照らす。相手の少年は結構嬉しそうだ(1・2枚目の写真)。話が進み、じゃれて抱き合う2人。その先どうなったのかは分からない。自分のベッドに戻ったテッドは、眠れずに天井を見ている(3枚目の写真)。そして。マスターキーを取り出すと、一家の部屋に侵入、両親の寝ている隣のベッドの少年の寝顔にじっと見入る(4枚目の写真)。かなり長いこと見ていた後で、テッドは鹿の轢かれた道路まで出てきて、センターラインの脇に横たわる(5枚目の写真)。そして、真っ暗な夜空を見上げる(6枚目の写真)。明日去ってしまい、二度と会えない寂しさを癒そうとしているのか?
翌朝、車は簡単に修理できて、一家は出発する。遠くから寂しそうに見送るテッド。一家に向かって「また来てね」と叫んだ後、父の部屋を訪れ、「5号室チェック・アウト完了。これを忘れてった」と、以前、車から盗んだナイフを見せる。「持ってていい?」。「取りに戻るかも」。「誰も戻らない」(1枚目の写真)。これは母を示唆した言葉だ。それとなく察した父は、「ここには2人しか住んでない。お前が寂しいのは分かる。同年代の友達が欲しいんだろ?」と訊く。「友達ならいる」。「お客は数えるな」(2枚目の写真)。父は、祖父の背中を見て育った、だからお前もそうしろと言いかけるが、モーテルの経営がこの先どんどん困難になりそうな状況では口をにごすしかない。結局、父は、客の去った5号室のベッド・メイクを命じるのだった。
5号室に向かったテッドは、途中で2号室の男が不在なことに気付く。さっそくマスターキーで侵入し、部屋の中を探し回り、白い箱を見つけ(1枚目の写真)、中から遺灰の入った袋を取り出し部屋から逃げ出す。そして、廃車置場に行き、ミニバスに乗り込むと、袋を開けて遺灰を覗いてから(2枚目の写真)、座席の下に袋を隠す。そして、この前、犬に吠えられたことを思い出し、近くにあった深い穴(3・4枚目の写真)をビニール・シートで覆い、犬に石を投げて、襲いかかったところで穴に落として殺そうする。しかし、この試みは、廃車置場の管理人に見つかり失敗。しかし、落とし穴自体はそのまま手付かずで残された。
テッドと男がコウモリを見に行ったのを見ていた父は、翌朝、息子がいつも通っている小屋を見に行く。そこでテッドの秘密のノートを見つけ、グレイハウンドの広告にも目を留める(1枚目の写真)。放っておいたらモーテルを継がずに出て行ってしまうのではと恐れた父は、テッドが隠しておいた25セント玉の貯金も隠してしまう。以前、可愛い少女連れの家族が宿泊した際、テッドは女の子が好きになり、家族の車にこっそり乗り込んで出て行ってしまった前歴があるのだ。一方のテッド。部屋に隠してあったお金が、いくら捜しても見つからない(2枚目の写真)。父に、「お金 盗んだろ!」と食ってかかる。「資産を凍結したんだ」。「盗んだ!」。「我慢しろ。保管しておく。逃げ出すと困るからな」。カウンターを思い切り蹴るテッド。「2号室に新しいタオルを持っていけ」。「イヤだ!」。テッドは鶏小屋まで登って行くと、柵を乗り越え(3枚目の写真)、鶏を1羽蹴り殺す。死んでも蹴り続けるテッド。
先日の保安官がモーテルの手前に車を停め、じっと様子を伺っている(1枚目の写真)。警察無線から入って来る意外な情報。「オーナーの妻が死亡して2週間になる。彼女の死因は極めて疑わしい。遺体はキッチンで発見された。放火が疑われている。公開捜査に踏み切った。コルビーは容疑者だが、確証はない」。ここで「オーナー」とは、モーテルを経営する父を指しているのだろうか? そしそうだとすれば、「オーナーの妻」は、昔逃げ出した妻になる。コルビーは、鹿と衝突して2号室にいる男のことだ。テッドは以前、母は「5号室に泊まってたトラックの運転手と出てった」と言っている。ということは、コルビーがその時の運転手なのだろうか? そして、コルビーの持っている遺灰は、テッドの母の遺灰なのだろうか? そのことに関してはっきりとした説明は何もない。ただ、もしそうだとしたら、自分が寝取った女性の夫のモーテルにいることぐらい、コルビーだって気付くであろうし、あまりにも偶然が重なり過ぎる設定だ。話変わって、モーテルでは、プール際に座っているテッドにコルビーが近付いて行き、「一緒していいか」と横に座る。そして、意気消沈した様子のテッドに、「大丈夫か」と訊く(2枚目の写真)。「こんなトコから、早く出て行きたい」。「それはどうかな」「ここには子供が望んでるものすべてがある。俺の妻は、こんな場所で育った」。「奥さん、いるの?」。「いたんだ」。「今は どこに?」。「箱に入ってる」。「どうして死んだの?」。「家で火事があって、逃げ遅れたんだ」。「ここを出てく時、一緒に連れてってくれる?」(3枚目の写真)。「この次にな」。「フロリダに連れてってくれると言った」。「俺達は、君みたいな子が欲しかった」。この辺りの解釈も、先の「オーナー」が誰かによって異なってくる。その夜、コルビーの部屋にマスターキーで侵入したテッドは、コルビーの口を押さえる。苦しくて咳込んだので止めて、こっそり出て行くが、ひょっとして殺そうとしたのかも?
翌朝、テッドが寝ていると、激怒したコルビーが部屋に飛び込んでくる。妻の遺灰がなくなっていることに気付いたのだ。「彼女をどうした?!」「袋はどこだ?!」と羽交い絞めにして問い詰める(1枚目の写真)。「持ってないよ!」。「いいか、ふざけるんじゃないぞ! 彼女はどこだ?!」。「廃車置場! 廃車に隠したんだ!」。「案内しろ」。ミニバスに連れて行くテッド。「どこだ」。「後ろだよ」。コルビーが後部まで行くが、何もない。「袋はどこだ?!」と怒鳴る。その間に、途中に隠してあった袋を手に入れるテッド(2枚目の写真)。それを見て、「袋を寄こせ」。テッドは袋を返さず、じりじりと後退する。「どうなるか分かってるのか?」。灰を出して投げつけようとするのを見て、「やめろ、テッド」。テッドは、灰をコルビーの顔に投げつけ、ひるむ間に逃げ出す。追う、コルビー。その先にあったのは、以前、テッドが犬用に造った死の落とし穴。テッドは、わざと穴の方に逃げ、コルビーは穴に落ちる(3枚目の写真)。穴の底に一杯落ちている金属片に刺し貫かれて、コルビーは死んでしまう。
コルビーの部屋に戻ったテッドは、遺灰の袋を箱に戻す(1枚目の写真)。そして、これも理由はよくわからないのだが、コルビーのベッドをきれいにメイクし直す(2枚目の写真)。棚にもきれいに雑巾をかけ、洗面台も掃除し、シャワー室のタイルもきれいに磨く。すべてが終わり、ベッドに仰向けに横になるテッド(3枚目の写真)。何のために掃除をしたのか理解できない。コルビーを殺してしまったことに対する贖罪か? 遺灰に対する敬意か?
その時、クラクションの音がし、プロムの後のパーティのために若い男女が閑散としたモーテルに押しかける。代表者の男が、2号室が使えないのは契約違反だと非難し、父は使用料を10%下げることで妥協する。それを批判がましく見ていたテッドに、父は、「私たちは、死んだモーテルを経営してるんだ」と言い訳がましく説明する。「どうしたらいいの?」。「お前なら解決できるかもしれん」。「出てこうよ」。「母親似だな」。そして酒に酔いつぶれる。経営者としても、父親としても失格だ。テッドは、モーテルの裏に回り、さっきの生意気な代表者の彼女のいる部屋を覗いている。男が出ていったので、窓から忍び込み、酔った女性の口に押し付け、窒息させようとする(1枚目の写真)。これは、先ほどの父への対応の復讐か? しかし、女性が苦しみ出し、股を露出したところに男が戻って来て、「何してやがる?」とテッドを捕まえる。「離せよ!」と叫ぶテッドを部屋から乱暴につまみ出し(2枚目の写真)、「このクソ野郎」と地面に投げ飛ばす(3枚目の写真)。「こいつ、サラを愛撫してやがった」と言うと、もう一度地面に投げつけ、足で思い切り蹴りつける。何度も執拗に。大勢が集まってきたので(4枚目の写真)、蹴るのはやめたが、今度は、頭から酒をかける。皆が部屋に入り、一人地面に倒れたままのテッドは、やっとの思いで体を起こす(5枚目の写真)。傷だらけで痛く、とても立てないので、四つん這いのまま父の部屋へと向かう(6枚目の写真)。
必死の思いで助けを求めた父は、正体もないほどに酔っていて、「なぜ、言うことを聞かんかった?」「彼らに構うんじゃないって、言ったろ」「お前は、自分勝手過ぎるんだ」「お前も、ここを経営したいんだろ? いいか、それなら第1のルールだ。お客さんに構うな」(1・2枚目の写真)。テッドは、こんな言葉をくり返すだけの父に絶望する。そして、自分の部屋に戻り、やっとの思いでシャワーを浴び(3枚目の写真)、体から血を洗い流す(4枚目の写真)。
ベッドで横になったテッドは、コルビーの遺品でもある遺灰の箱を胸に抱き、これからどうすべきかを考える(1枚目の写真)。ひょっとしたら、この遺灰は、もしかしたら、テッドの母の遺灰かもしれないが、彼にはそれを知る由もない。ただ、殺してしまったコルビーの妻の遺灰であることは分かっている。殺してしまったのは鹿も同じだ。そして、このモーテルにはうんざりし、将来経営を引き継ぐ気などさらさらない。自分の体を傷付けた奴らに復讐もしたい。そうした思いが1つに凝縮した時、テッドは決然と体を起こし、遺灰を顔に塗りたくる(2枚目の写真)。そして、鹿の角で作った冠を頭に付ける(3枚目の写真)。
パーティが終わり、全員が部屋で酔って寝静まった頃、テッドはマスターキーで全部屋のドアをロックする(1枚目の写真)。次に、ドアのすべてに灯油をかけ(2枚目の写真)、最後に灯油を浸した布に火を点け、灯油をまいたドアに順番に火を点けて行く(3・4枚目の写真)。すべてのドアに火が点いた段階が5枚目の写真。
灯油のお陰でモーテルはたちどころに炎に包まれる。それを、じっと見入るテッド。遺灰を顔になすり付け、鹿の角を付けた姿は、異様であり、かつ、幻想的で、美しくもある(1~3枚目の写真)。モーテルは完全に焼け落ち、隣接する父の居室も、泥酔した父とともに焼失する。
山奥だし通報もないので、遅れて駆けつけた消防と警察。一人生き残ったテッドは、小さな子供で、奇跡的な生存者でもあり、体中に傷を負っていることから大事にされている。保安官からは、「2号室の男を最後に見たのはいつ?」と訊かれ、「数時間前。あちこちの窓を覗いてました」と嘘を付く。あたかも、彼が放火犯であるかのように。「他に家族はいるかい?」と訊かれ、「フロリダにママが」と答えたところで映画は終わる。先に書いたように、もし、コルビーの妻がテッドの母だとしたら、フロリダには誰もいない。もし、そうでなくても、数年前のハガキ1枚では、今も母がフロリダに住んでいる保証は何もない。精神的に完全にバランスを欠いた少年は、今後、孤児院に入ってどうなるのだろうか?
J の先頭に戻る A の先頭に戻る さ の先頭に戻る
アメリカ の先頭に戻る 2010年代後半 の先頭に戻る