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The Cell ザ・セル

アメリカ映画 (2000)

ジェイク・トーマス(Jake Thomas)が、精神に異常を来たした性犯罪者の少年時代を演じるファンタジックな映像美が特徴のサイコ・スリラー映画。少年時代といっても、医療研究施設キャンベルセンターで開発中の、「他人の潜在意識の中に入って行って治療する」という特殊な装置を使い、連続殺人犯によって誘拐された女性の隠し場所を聴き出そうという試みの中で、殺人犯の「善の面」としての少年像を演じていて、現実世界の話ではない。この設定からも分かるように、ジェイクの登場する場面はすべて、精神異常者カールの歪んだ心の中であり、そこでは映画史上でも、非常に前衛的かつ幻想美に溢れた映像世界が展開される。それに大きく貢献しているのが、アカデミー衣裳デザイン賞を1回受賞し、1回ノミネートされた故・石岡瑛子。監督が「神のような存在」と讃える彼女の衣装は、この映画の最大の見どころ。

昏睡状態になった富豪の息子エドワードの治療のために開発された「潜在意識の内面に入って行き、意識を取り戻させようという先端医療に協力しているキャサリン(ジェニファー・ロペス)が主人公。何度も挑戦するが、エドワードの潜在意識下にある恐怖心が邪魔して成功しない。一方、世間では、残忍な方法で若い女性を虐待した上で溺死させるという猟奇的な連続殺人がFBIを悩ませている。しかし、犯人のカールがわざと発見させるように仕組んだとも思える証拠により、カール宅を襲撃するが、その時には、常用薬の不服用による突発性発作により昏睡状態になった姿で発見される。そして、最後に誘拐した女性が、場所不明の水槽で自動装置により当日中にも溺死させられという危機的状況にある。そこで、FBIはキャンベルセンターに頼み、犯人の潜在意識に侵入し、女性の水槽の場所を聴き出そうとする。危険を承知でそれに応じるキャサリン。1度目の侵入で、最初は、カールの中に潜む善意の断片の象徴としての少年時代のカールに助けられる。しかし、その後、カールの狂気が実体となった化身と遭遇、危ういところで現実世界に戻る。2回目の侵入では、カールが少年時代に受けた父親からの虐待を追体験した後、初犯のカールを経て、狂気の作り出した2番目の化身によって、昏睡状態のカールの潜在意識内に閉じ込められてしまう。キャサリンを救うべくFBI捜査官ピーターが、カールの潜在意識に送り込まれ、3番目の化身によって捕らえられるが、最後にはキャサリンを現実に引き戻すことに成功し、かつ、被害者の隠し場所のヒントも得られる。これらの経験から、キャサリンは、カールの潜在意識に入るのではなく、自分の潜在意識にカールを呼び込むという新しい手段を選択する。カールの潜在意識とは違い、美しい花園のようなキャサリンの意識空間の中で、少年と対話が進む。そこに4番目の化身が現れる。戦う舞台は自分の潜在意識の世界なので、キャサリンは相手を圧倒し、最後には剣で胸を貫く。しかし、それと同時に、少年カールも血まみれとなる。化身を殺すため、少年カールの願いを入れて洗礼のように水に沈め、そのまま溺死させるキャサリン。少年の死によって化身も死に、同時の昏睡状態のカール自身も死んだ。水槽に閉じ込められた女性の方は、FBI捜査官ピーターが、溺死寸前に救出に成功する。映画の最後で、キャサリンは、自分の潜在意識に相手を招じ入れる方法をエドワードにも採用し、見事に意識を回復させる。

ジェイク・トーマスは2000年代の前半に活躍した子役。ルックスもいい。この映画では、出番は少なく、恐怖に満ちた表情が多いが、一定の印象を残している。『A.I.』でヤング・アーティスト・アワードの助演部門を受賞。本作でも同賞の10歳以下部門にノミネートされている。収蔵作品の中では、1番幼い9歳頃の撮影。


あらすじ

映画は、いきなりナビブ砂漠のシーンから始まる。美しい砂丘を背景に黒馬を馳せる真っ白な衣装をまとった女性。これは、昏睡状態になった少年エドワードの潜在意識の中に潜入したキャサリンの姿。この映画では、3人の潜在意識の世界が出てくるが、最初のシーンから感じるのは広大さと孤独。キャサリンは、砂丘を登り少年に会いに行く(1枚目の写真)。尤も、映画では、この場面まで解説は一切ないので、何のために彼女が砂丘を登っていくかは全く分からない。ただ、あまりに砂丘が美しいので、映像に見とれるのみだ。キャサリンは砂丘を乗り越えて、干上がった湖の跡のような場所に到達する。そこに1人の少年がいる。というか、昏睡状態にある少年の自我が実体化したような「存在」がいる。この彼に生きる意欲を与え、昏睡状態から回復させるのがキャサリン、そして、医療研究施設キャンベルセンターの目的だ。だから、キャサリンは積極的に、かつ、優しく声をかける。「馬をありがとう」。少年:「気に入った?」(2枚目の写真)。「ええ、素敵だった。でも、今日は、一緒に船に乗る日よ。約束したでしょ」。そして、地面に転がっている模型の舟を指す。「見た? あれがいいわ。いらっしゃい、ミスター・E」。「壊れてるよ」。「誰が言ったの?」。ここで、少年が怪物に変身し、治療は遮断される。少年がキャサリンに口をきくのは一定の成果だが、怪物の姿になってしまうのは、意識下で抵抗しているからであろう。少年を演じているのは、コルトン・ジェームズ(Colton James)
  
  

映画は、猟奇的な連続殺人犯カールの出現と平行して描かれるが、それらのシーンにジェイク・トーマスは出て来ないので、あらすじではすべて割愛し、彼が出演するカールの潜在意識下の世界のみを紹介する。昏睡状態になったカールから、拉致した女性の監禁場所を聞き出すため、FBIが最後の拠り所としたのがキャンベルセンター。女性は、事前にプログラムされた自動装置で、水槽内で溺死させられるので、時間との戦いでもある。その危機的状況から、危険な「旅」に乗り出すことをOKするキャサリン。少年の心ではなく、変態的な精神異常者の心に入っていくのだから、何が待っているのか分からない。1枚目の写真は、潜在意識に入るための実験装置。2人の被験者(左がキャサリン、右がカール)が、天井から糸で吊られている。赤黒いスーツは、人間の筋肉を表現したものだとか。実験が開始されると、迷宮のようになった極彩色の世界に入って行く。そして出現する「ゲート」。巨大な空間を隔てて、カールの心の中への扉がある。そこに登る高い階段を、誘導するように走っていく少年がいる(2枚目の写真)。この少年は、狂気のカールの中に残った、少年時代の正常だった頃のカールの思い出が実体化したもの。
  
  

キャサリンが扉を開けて中に入ると、そこは煌々と陰もなく照らされた部屋。中に1頭の馬がいる。何を表象しているのかは不明。先ほどの少年カールが馬を撫でている。「やあ、坊や」と言ってキャサリンが近づいていくと、少年は壁際に逃げて行く(1枚目の写真)。キャサリンが馬を撫でながら、「あなたはカール?」と訊く。「馬を持ってる他の子を知ってるわ。エドワードって、名前なの」。その時、壁の大きなタイマーが勝手に動き出す。それを見て焦った表情になるカール(2枚目の写真)。タイマーがレッド・ゾーンに近づくと、いたたまれなくなり、走ってきてキャサリンを突き飛ばす(3枚目の写真)。そして、自分自身も必死で後退する(4枚目の写真)。タイマーが最後まで行くと、天井からガラス板が降りてきて、馬が12等分に輪切りにされる(5枚目の写真)。そして、輪切りにされた部分が横に展開する(6枚目の写真)。もし、意識下に入ったままの状態で死んだら、キャサリンの命も危ないところだった。カールの世界が如何に危険かを、キャサリンが悟る最初の印象的なシーンだ。
  
  
  
  
  
  

逃げていくカールを追ってキャサリンが次に入ったのは、成人して凶器化したカールが狩った女性たちの陳列室。少年はもういない。キャサリンが色々な犠牲者を見ていると、いきなり筋肉隆々とした女性にかつがれ、ゴールドルームの中央に設けられた高い王座に君臨する大人のカールの狂気の化身の前に投げ出される。部屋と一体化したような巨大な紫色の数10メートルの長いマントのようなものを、引っ張り出しながら歩く様は、ワーグナー的だと監督が述べている(1・2枚目の写真)。衣装は故・石岡瑛子。キャサリンは帰還装置を作動させて現実世界に逃げ戻る。
  
  

大変な恐怖を味わったキャサリンだったが、FBI捜査官ピーターの説得で2度目も探索に出かける。今回の「ゲート」は、前回と全く違っていた。キャサリンは、いきなり狭いガラスの箱の中に現れる(1枚目の写真)。そして、逃れようと天井から出ると、いきなり上下逆さまの世界になり、巨大な空間の中を落下。途中から、ゆっくりと円形神殿のようなところに降りて行く。そこにカールの飼っている真っ白な犬が近づいてくる。宙に浮いたまま、キャサリンが犬に「カールの所に連れていってくれる?」と頼む(2枚目の写真)。空中に風に舞うような赤いドレスと、静止した白い犬との対比が印象的だ。
  
  

キャサリンの行く手に1軒の家が現れる。少年時代にカールが父親と継母と一緒に住んでいた家だ。中に入ると、キッチンでカールが皿を拭いている(1枚目の写真)。そんなカールに、キャサリンが「プレゼントがあるの」と話しかける。「私に用があったり、そばにいて欲しかったり、私がいない時は、こうやって、キラキラさせるの」(2枚目の写真)。「持ってて」。もらおうとした拍子に、皿を落として割ってしまう。その音を聞きつけた父親が、「カールか?」と怒鳴る。その声で凍りつくカール(3枚目の写真)。カールは、急いでキャサリンを戸棚に隠す(4枚目の写真)。ここからは、戸棚の板の隙間からの映像になる。パンツ1枚の父親が入って来る。「どうなってる? 皿が勝手に割れるか? お前が割ったんだな?」。「割ったよ」。皿を投げ棚に投げつけて割り、「全部割ってやろうか。どうする?」「人形だ? こんなの女の子のやるこった」。継母:「ただのオモチャよ」。父→継母:「黙ってろ。お前は、こいつの母親じゃない」。父→カール:「こいつは、お前の母親じゃない。あいつは、お前を捨てたんだ、カール。忘れるなよ」。ここで、別の人形が父に見つかる。「こいつは何だ?」(5枚目の写真)。「人形遊びだと、このホモガキ! お前は何だ? 女か? 立て!」。そして、ベルトを抜いて、カールを叩く。痛くて泣くカール。「泣きたいのか? なら、もっと泣かしてやる」。父は加熱したアイロンのコードを引き抜くと、「女みたいに、アイロン欲しいだろ。どうやって使うか、教えてやる」。カールの絶叫が聞こえる。こうした残虐な少年時代を経て、カールは精神異常の変質者になったことが分かる。
  
  
  
  
  

シーンは、大人になったカールが、最初の猟奇殺人を行った現場へと変わる。浴槽の、血で赤くなった水の中には、死んだ女性が横たえられている。「なぜ、ここにいる?」と訊くカールに、「助けに来たの」と言い、さらに、最後の被害者の隠し場所を尋ねるキャサリン。異常な怪物の姿になっていないカールと接触できた最初の機会だったからだが、カールは答えるのを拒否して去り、代りに山羊角の怪物に化身したカールに襲われる(1枚目の写真)。そして、首枷をはめられ、カールの潜在意識の中に閉じ込められてしまう。キャサリンを救い出し、かつ、被害者の隠し場所を知るため、FBI捜査官ピーターが実験に参加する。ピーターがカールの潜在意識に入ると、人が変わったようなキャサリンに迎えられ、彼女を説得している隙に、黄金色の衣装をまとったカールの化身に、後ろから頭に赤い袋を被せられて拘束。ベッドに縛り付けられ、ハサミで腹部を切られ、はらわたをさばかれる。残酷でグロテスクなシーンだ。ピーターの悲鳴で我に返ったキャサリンは、ナイフで怪物の背中を刺し貫く(2枚目の写真の矢印)。すると、場面が変わり、さっき刺した場所を手で押さえた少年カールがいる(3枚目の写真)。キャサリンは、「カール、大丈夫よ。怖がらないで」となだめる(4枚目の写真)。「絶対に傷つけない。お友達よ」。キャサリンに抱き付くカール。「あなたは偉いわ。ジュリアが見つからなくても、助けに戻るって約束する」〔ジュリア=被害者〕。2人の関係はうまくいきそうだったが、ピーターが被害者の居場所に係わる手がかりを見つけたため、そこで切り上げて現実に戻る。キャサリンにとっては、断腸の思いだ
  
  
  
  

カールを治療しようと、3度目の実験は、これまでのように、被験者の潜在意識に入っていくのではなく、キャサリンの潜在意識の中に、カールを呼び寄せるという手段を試みる。一つ間違えば、自分の心を狂気に曝すかもしれない危険な手段だ。装置が作動すると、キャサリンは不思議な世界にいる。床一面に雪が積もり、周りの木にはピンク色の花が満開、正面の祭壇には聖母のようなキャサリンが立っている。それを、何だろうという面持ちで見守る少年カール(1枚目の写真)。「助けに戻るって約束したわね。約束は守ったでしょ」。「一緒に、ここにいていい?」(2枚目の写真)。「ごめんなさい。そういうわけにはいかないの。私には、どうすることもできないから」。そこで、「できるさ」と声がして、カールは大人になっている(3枚目の写真)。「俺が、小さな子供の頃、この鳥を見つけた。ケガをしてて、脚か どこかが折れてた。それを、親爺が見つけた。親爺は、何か恐ろしいことをすると分かってた。時間の問題だった。だから、俺は、流し台で溺れさせたんだ。鳥のためを思って、やった。助けたんだ」。「そんなこと 私にはできない」。再び少年の姿に戻ったカールが、「構わないよ」と言う(4枚目の写真)。しかし、急に雰囲気が怪しくなり、カールが「見つかった。いつも、見つかっちゃう」と、諦めたように言う。
  
  
  
  

祭壇の前の水盤から、カールの化身が現れる(1枚目の写真)。しかし、ここはキャサリンの世界なので、彼女は果敢に攻勢に出て、クロスボウで怪物の手足を床に固定し、「私の世界では、私のルールよ」と宣告する。そして、剣で胸を刺そうと振りかざす。一瞬、普通の顔に戻ったカールが「やって!」と促し、キャサリンは剣で心臓を刺し貫く(2枚目の写真)。しかし、それで怪物が死んだわけではない。笑いながら、「これは現実じゃないぞ。俺様は、あの子。あの子は、俺様。お前には殺せない」と言う。祭壇にいた少年カールも血だらけで、胸には大きな傷がある。キャサリンは瀕死のカールをそっと抱き上げると、「大丈夫よ」と声をかける。「僕を助けて」。「ここで、一緒にいられるわよ」。そう言うと、キャサリンはカールを抱いたまま水盤に入って行き、洗礼を施すようにカールを水に沈めていく(3枚目の写真)。完全に水につけ、カールの息が絶えると、怪物も死に、同時にキャンベルセンターのカール本人も死亡する。実質的に少年カールを殺したことになり、涙を流すキャサリン。
  
  
  
  

最後は、3度目の実験の成果をエドワードの治療に役立てる試み。キャサリンの潜在意識の世界にエドワードを呼び込む。カールの時と同じ祭壇でもいいと思うのだが、現れたのは、エドワードの世界と同じ砂漠。好意的に解釈すれば、エドワードが親しみ易いように環境を合わせたということか? ただ違うのは、砂漠の中にピンク色の花木が満開になっている。この美しい光景にエドワードの心も和んだのか、2人は打ち解ける(1・2枚目の写真)。恐らく、これでエドワードも昏睡状態から醒めるのであろう。
  
  

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