アメリカ・メキシコ映画 (2009)
1957年に実際にあった実話をもとにしたスポーツ+ハートウォーミング+人種差別摘発映画。アメリカは、1964年に「公民権法」が成立する以前、露骨な人種差別が横行していた。そうした社会を背景に、この映画では、被差別民族だったメキシコ人の子供たちからなるリトルリーグ〔12歳以下〕が、ペンシルベニア州ウィリアムズポートで開催されるワールドシリーズで優勝するまでの軌跡を描く。選手は、テキサス州に近い工業都市モンテレイに住む貧しい家庭の子供たちで、手製のボールやグラブを使い、野球の真似事をして育ってきた。そこに、1人のメジャーリーグに関係していた男セイザーが現れ、地元の神父とタッグを組んで、新しいチームを結成し、その年開催されるワールドシリーズに挑戦する。「ワールド」と言っても、実質的には国内戦なので、「メキシコ枠」などなく、テキサス州の州大会に出場しなくてはならない。映画の端々で、メキシコ人だから受ける差別が描かれる。メキシコ人であるセイザーは、同じ被差別人種の黒人の協力を得て、最終的にワールドシリーズのチャピオンとなる。この逸話は今から60年以上前の話なので、ネット上でも決まりきった情報しか得られない。そこから分かることは、少なくとも、モンテレイのチームが全部で13勝して優勝したこと。決勝戦は、4対0で、ピッチャーのアンヘルは11奪三振で完全試合を達成したこと、ここまでは映画と同じ。もう少し、詳しく捜していくと、映画で主要な役割を果たすエステバン神父は、映画の創作だと分かる。また、映画でコーチと呼ばれているセイザーは、スペルが「César L. Faz」なので、映画の中で「メキシコ代表団」の男が使う「セサル」という発音が正しい。このセサル・ファスは、1918年11月6日にテキサス州サンアントニオで生まれた。バットボーイだったことはあるが、アメリカのメジャーではなく、地元の草野球チーム。だから、映画の中でセイザー・コーチがカージナルスに抱く複雑な思いは映画の創作。セサルは、1955年にモンテレイのあるヌエボ・レオン州で、成人のアマチュア野球チームの監督になり、トレオンで開催された大会では敗退。翌1956年の優勝を目指して頑張っている時、英語読みしてハロルド・“ラッキー”・ハスキンズ(Harold "Lucky" Haskins)という男から、モンテレイでリトルリーグを作るので監督を引き受けて欲しいと何度も頼まれる。最初は断っていたセサルだったが、ハロルド・ハスキンズの熱意に負けて監督を引き受ける。だから、映画では「コーチ(coach)」と読んでいるが、本当は「監督(manager)」と呼ばなくてはならない。そして、コーチは別にいた。それは、ホセ・ゴンサレス・トレス(José González Torres)という1926年生まれの男。1957年の時点でセサルは38歳、ホセは31歳だったことになる。このホセは、1997年にLinda Vistaというチームを率いて、リトルリーグのワールドシリーズで優勝している(この時には、アメリカの勝ち残り4チーム、国際(カナダ、ラテン・アメリカ、極東、欧州)の各1チームの計8チームで決勝戦が行われた)。ところで、セサルを熱心に勧誘したハロルド・ハスキンズだが、セサルの言葉を借りると、「ハスキンズは子供たちのために全てを犠牲にし、彼のお陰でモンテレイにリトルリーグが生まれた」と賞賛し、ハロルド・ハスキンズ自身は、「可哀相な子供たちに、我々はもっと目を向け 力を尽くすべきだ」と述べている〔映画のエステバン神父は、お金はないが、子供たちへの暖かい「思い」はハロルド・ハスキンズと同じ〕。ハロルド・ハスキンズはチームの設立と運営(リーグ参加)のため、4つの企業にスポンサーになってもらう。モントレイの優勝の裏には、この3人の貢献があった。セサルは2017年9月に98歳で他界した。もう1人の主役、当時12歳のアンヘル・マシアス(Ángel Macías)は、1944年9月2日にアグアスカリエンテス(モンテレイの南南西460キロ)で生まれ、1955年にモンテレイに引っ越した〔ということは、映画で、父が代々モンテレイの製鉄所で働いていると言ったのは事実ではない〕。アンヘルは、後のインタビューで、「決勝戦では、勝つことに全力集中していたので、完全試合のことは頭になかった」「試合が終わった時、セサル・ファスとペペ・ゴンサレスが大喜びしてくれた。それが一番嬉しかった」と述べている。なお、この時のモンテレイ・チームの選手数は14名で、映画のように9名ではない。アンヘルは17歳でLos Angeles Angels(現・ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム)に雇われるが、翌1963年、Broncos de Reynosa(レイノサ・ブロンコス)の創設に合わせてメキシコに戻り、それから長いプロ野球人生を歩む。セサルが亡くなる直前の2017年8月にはアメリカのリトルリーグの「Hall of Excellence(「野球の殿堂」のリトルリーグ版)」入りした。下の写真は、セサル・ファスが亡くなる数年前に撮影されたもの。青字の名前は、映画に登場する9人のうち、この時点で生存していた6人(ノベルト、バルタザール、フィデルは死亡)。アンヘルがセサルの肩に手を置いているのはいいとして、ペペがセサルと並んでいるのは、プロ・リーグ、「モンテレイ・サルタンズ」のオーナーだから。ヘラルドの字が薄いのは、映画には出ていても、一度も名前が出てこないため。残りの3人は、映画には出て来ないが実際には選手として加わった残り5人(14-9=5)のうちの生存者。順序が逆になったが、下の集合写真は、1957年のもの。ただ、セサル・ファス、ハロルド・ハスキンズ、ホセ・ゴンサレスは分かるが、選手は背番号(?)しか表示されず、番号と名前の対応表は発見できなかった。最後の写真は、アンヘルがリトルリーグの「Hall of Excellence」に入った時の記事から。左が12歳、右が72歳のアンヘル。
1957年のモンテレイ。その一角にある教会では、神父が貧しい子供たちの心を支えようとアメリカから入ってくるメジャーリーグのスペイン語放送を聞かせている。子供たちは、お手製のボールやバットなど使い、空き地の片隅で野球ごっこをして遊んでいる。そんな状況が一気に変わったのは、アンヘルが、「長男が事故死してから変わってしまった」父から、見放すような言葉で罵られ、家を飛び出し、教会の廃墟の前で一晩過した時だった。アンヘルが、朝明るくなって辺りを見ると、何と本物のボールが落ちていた。それは、1年前、カージナルスでタオルボーイをしていて見切りをつけ故郷に戻って来たセイザー〔映画の中でいろいろな呼ばれ方をするし、歴史上は「セサル」が正しいが、劇中本人が「セイザー」と発音しているので、それを尊重する〕が、帰郷当時、怒りに任せて捨てたものだった。アンヘルは、狂喜して神父の元にボールを持ち帰り、他の子供たちも あたかも宝物のようにボールを扱う。もう一つの転機は、その年のリトルリーグに参加するためモンテレイの町に立ち寄ったメキシコシティ・オールスターズの「英姿」を見たこと〔モンテレイは、予選の行われるテキサス州マッカレンと、メキシコシティの間にある最後の都市〕。アメリカを急に身近に感じたアンヘルは、自分を含め友だちがみな12歳で、今年を逃せばリトルリーグで戦うチャンスは二度とないことに気付く。さっそく神父に相談すると、それにはコーチが必要だと言われる。アンヘルは、ボールを発見し、直後に試投をした時に出会った人物(セイザー)が、カージナルスでコーチをしていた〔嘘〕と自慢したのを覚えていて、そのことを神父に告げる。セイザーは「球場がないから」と断るが、アンヘルたちは教会の廃墟の広場を片付けてグラウンドとして整備する。これを見たセイザーはコーチを引き受ける。そして、引き受けた以上は、ある程度まともに戦えるよう、メジャーのタオルボーイをしながら学んだことを子供たちにぶつけ、1ヶ月で出場可能なチームに仕立て上げる。神父、コーチ、9人の選手は、国境を越え、マッカレンの球場に行き、初戦の相手、メキシコシティ・オールスターズを9対2で下す。最初のアメリカのチームも、7対1と寄せつけない〔エンリケ、アンヘルが交代で投げるというピッチャーのローテイションは最後まで貫かれる〕。第3戦は4対3、第4戦は13対1、第5戦は6対1、第6戦は5対0と連勝が続く。その間、州内を転戦し、いろいろな人種差別を目にする。9連勝したところでテキサス州内での戦いは終わり、南部地域トーナメントの開催されるケンタッキー州ルイビルに行く。ここで、地元の人種差別保安官は、ビザが切れていることを理由に強制退去を命じるが、神父はメキシコシティのアメリカ大使館に電話してビザを伸ばしてもらう。しかし、代償として、神父は帰国を余儀なくさせられる。子供たちは、神父のいない試合を拒み、地元の黒人の牧師が代行する。ルイビルでも連勝を続けたチームは、遂にペンシルベニア州ウィリアムズポートで開催されるワールドシリーズに出場が決まる〔ここでは、4チームによる準決勝と決勝が行われる〕。準決勝は、エンリケの力不足もあったが、なんとか踏ん張って2対1で勝ち、勝負は最終戦に。そこでは、2つの大きな山場が用意されていた。最初の山は、0対0で迎えた5回裏〔リトルリーグは6回まで〕。モンテレイは、エンリケの満塁ホームランで4対0とする。そして迎えた6回の表。アンヘルは、簡単にツー・アウトを取った後、後1人で完全試合と優勝の両方がかかった打者を前に、ノー・ストライク、スリー・ボールと追い込まれる…
この映画では、会話はすべて英語で行われる。しかし、モンテレイのチームで実際に英語を話せるのはセイザーと神父(片言)のみ。アメリカ映画のため、便宜上やむをえないスタイルだが、子供たちがアメリカ人と話そうとする時、最初だけスペイン語を使い、その後は、英語にするなど、少しは、子供たちが「スペイン語しか話せなくて、英語は理解できない」のだということを示す努力はしている。
モンテレイのチームに参加するのは9人の少年。その中で目立つのは4人。完全試合を実行してヒーローになる最重要のアンヘル役はジェイク・T・オースティン(Jake T. Austin)。1994年12月3日生まれ。撮影は2007年6月2日~7月15日なので役柄通り12歳。映画出演歴は『ウェイバリー通りのウィザードたち:ザ・ムービー』や『ホテル・バディーズ/ワンちゃん救出大作戦』(2009)など。下の写真は後者。ニューヨーク生まれの少年で、写真から分かるように、ラテン系をほとんど感じさせない。
モンテレイの二番手のピッチャーにして、最終戦に満塁ホームランを打つ、活躍度2番目のエンリケ役はヤンセン・パネッティーア(Jansen Panettiere)。1994年9月25日生まれで、撮影時は12歳。彼もニューヨーク生まれだが、「氏」名はラテン系。映画出演歴は『The Last Day of Summer』(2007)、『The Secrets of Jonathan Sperry』(2008)など。下の写真は前者。顔は、ラテン系だ。
モンテレイの中で一番笑わせてくれる「女の子のプロ」、マリオ役はモイセス・アリアス(Moises Arias)。1994年4月18日生まれなので、こちらは13歳。彼もまたまたニューヨーク生まれだが、「氏」「名」の両方がラテン系。映画出演歴は『ナチョ・リブレ/覆面の神様』(2006)、『Beethoven's Big Break』(2008)など。下の写真は前者。顔は、完全にラテン系。
モンテレイの中で一番年下で、いつも「罰ラン」で笑わせてくれるキャッチャーのノベルト役はライアン・オチョア(Ryan Ochoa)。1996年5月17日生まれなので、撮影時は11歳。サンディエゴ生まれ。「氏」名はラテン系。彼はTVシリーズ専用(もしくは、映画の声優)で、同じ年頃だと『iCarly』(2008-10)がある。TVの場合、場面画像は滅多にないので、ファンが作ったものしか入手できなかった(下の写真)。
あらすじ
1956年のセントルイス・カージナルスのオーナーの部屋。1人のメキシコ人が必死で交渉している。名前はセイザー・ファス〔César L. Faz(1918-2017)〕。「約束してました」。「約束? 誰とだ?」。「エディー・スタンキー〔監督〕です」。「スタンキーは去った」。「タナーさん、ここで何年も働いてきました」。「出直せるかもしれん。だが、ここはメジャーだ。欲しい奴だっているし…」。「『奴』って? メキシコ人なんかじゃなく?」(1枚目の写真)。「いいか、スタンキーが見つけた時、お前はサンアントニオの不良だった。雇ったのはホーンズビー〔選手兼監督〕で、私じゃない。今は私のチームだ、言われた通りにしろ。それだけだ。下がれ」。セイザーは、球団で待遇の改善を求めたのだが、一蹴されてしまい、「話しにならん」と出て行く。そして、オーナー室の前の部屋にいるラッキーという男に、「どこに行く?」と訊かれ、「メキシコのモンテレイ」と答える。「なぜ?」。「俺の故郷だから」。「知った奴なんか いないんだろ?」。「ここでも似たようなもんさ」。因みに、タナーというオーナーは存在しない。次の場面はモンテレイ。現在は、メキシコ第3の大都市圏〔2016年の総人口422万人〕の中心都市だが、映画の舞台となる1956・57年での状況は不明。場所は、テキサス州に近く、アメリカ最初の舞台となるマッカレンとは200キロしか離れていない。モンテレイは1956・57年当時、製鉄の町だったようで、何となく北九州を連想してしまった。北九州も複数の町の寄せ集めで、中心となったのは八幡製鐵のあった八幡市。セイザーは、モンテレイの製鉄所で真っ黒になって働いている〔36歳〕。セイザーに一番辛く当たるのはマシアスという男。「なんでアメリカに戻らん?」「俺たちより偉いと思ってないか、野球男さんよ? それが、そのザマか」といびる。セイザーが、「お前らには、『夢を持つ』ってことが、分からんだろ。失うものが何もないからな」と、工場労働者に甘んじているマシアスたちに反論すると、マシアスはいきり立つ。仲間が押し留め、セイザーに、「数ヶ月前、あいつの長男は、教会の廃墟で死んだ。子供たちみんなで遊んでで、一人だけ死んだんだ」と教える(2枚目の写真)〔マシアスは長男に『夢』を託していた〕。そして、映画は、事故死の後に行われた埋葬のシーンに変わる〔わざと白っぽい色調になっている〕。エステバン神父が祈祷の言葉を述べ、マシアスが沈痛な面持ちで立ち、残された次男のアンヘル〔Ángel Macías(1944-)〕も うなだれている(3枚目の写真)。
アンヘルは、野球が好きな少年。といっても、高価な野球道具を買うお金はない。そこで、仲間数人と、必要なものを作る。まず、溶接工のヘルメットの遮光板を外し、そこに金網を張って捕手用のヘルメットにする。ボールは何かを芯にして、その周りに革紐を巻きつける(1枚目の写真)。バットは木の棒をナイフで削るので、ヘチマのように歪んでいる。3点が揃うと、マシアスがピッチャーとなり、「コーファックス、サインを見ます」〔サンディー・コーファックスは、当時、ブルックリン・ドジャースに入団したばかりのルーキー、アンヘルの憧れ〕と、ラジオの野球中継の言葉を口にすると(2枚目の写真、矢印は革紐ボール)、ワインドアップし、エンリケに向かって投げる〔映画では英語が使われているが、実際にはスペイン語で言っている〕。エンリケは、フルスイングして打つ(3枚目の写真、矢印はヘチマ状のバット)。そして、「1年後」と表示される。ここから1957年になる。
アンヘルは、地元の教会の聖歌隊にも属していて、家で練習をしていると、父が、「やめさせろ! 眠りたい!」と母に文句を言う。「聖歌隊の練習なのよ」。「聖歌隊? あいつを女にする気か? 黙らせんなら、俺がやる」。その言葉を聞いたアンヘルは、練習をやめる。「なぜ止めたの?」。「いいんだ、ママ。ちょうど終わったから」(1枚目の写真)。「お父さんは 悪い人じゃない。ただ、心に余裕がないの」。「もう 治らないの?」。「分からない」。祭壇になった棚の上には、長男ペドロの写真が置かれ、両側にミルクとオレンジジュースの入ったコップが供えられ、蝋燭が何本も灯されている。日曜のミサの合唱(2枚目の写真)が終わると、アンヘルはエンリケら6人で野球ごっこ。1年前と変わらない。アンヘルが投げ、エンリケが今度は空振りする。アンヘルは、「やった! 空振りだ!」と喜ぶが、エンリケは「チップした!」と言い張る。そこに神父が現れ、「みんな、時間だ」と呼ぶ。向かった先はラジオの前。メジャーリーグのスペイン語放送が始まっている〔くどいようだが、放送から聞こえてくるのは英語だが、実はスペイン語という設定〕。野球についての会話が弾むが、その中で、アンヘルは、「僕には、野球は いつだってパーフェクトだ。本塁ベースに立ったと思ってみろよ。球場が見渡す限り広がってる。最終回まで、ずっとプレイし続けられるんだ」と、嬉しそうに話す(3枚目の写真)。
その日、いつもより遅く帰宅したアンヘルは、父から叱られる。「遅いぞ」。「試合が、延長回に入ったから」(1枚目の写真)。「ダメだ。遅れた奴には食わせん。家事の手伝いだ。今から、囲いを掃除しろ。豚が嫌がるほど汚い」。母が、あまりの厳しさに、「ウンベルト」〔父の名〕と諌めると、「俺が お前の年頃には食うために働いてた」とお説教し、「行け!」と、夕食抜きで掃除をさせられる。アンヘルが、外で作業をしていると、窓から父母の声が聞こえてくる。「答えなど見つからないわ」。「どこにある?」。「神よ」。「神は、息子を取り上げた」。「失ったのは1人よ! まだ アンヘルがいる!」。「アンヘルは、ペドロみたいな息子にはならん。絶対だ」。その言葉を耳にしたアンヘルの心は砕ける(2枚目の写真)。そして、そのまま逃げ出すと、兄が死んだ教会の廃墟に行き、扉口の脇に座って一晩を過す(3枚目の写真、矢印は野球のボール)。そして、そのまま朝になり、アンヘルは本物の野球のボールが落ちていることに気付く(4枚目の写真、矢印)。なぜ、ここに野球のボールが落ちているのか? それは、1年前、製鉄所での口論の後、セイザーは廃墟の近くまで来て、「誰かを召(め)したいのか? なら俺にしろ」と、神に怒りをぶつけると、セントルイス・カージナルスから持って来たボールを バットで打ち、そのまま放っておいたからだ。
本物のボールを初めて手にしたアンヘルは天にも登る心地。さっそく投げてみようと、廃屋だと思っている一軒屋の前まで来ると、もう一度、満足げにボールを眺める(1枚目の写真)。そして、廃屋の壁に的になるバケツを立てかけると、バケツ目がけて投げる(2枚目のゴール、黄色の矢印はボールの当たった場所、空色の矢印はバケツ。初めての本物のボールなので完全な的外し)。薄い壁にボールが激突した音で、シエスタ〔昼寝: 午後1-3時頃から4時まで〕をしていたセイザーが起こされる。そして、不機嫌に、「何してやがる?」と訊く。「サンディー・コーファックスだ」。「投手か。コーファックス、お前は、俺のシエスタを邪魔したんだぞ。それに、コーファックスは左腕だ。ユダヤ人だしな」。「どうでもいいや」。「そんなことやっても、上手くはならんぞ」。「何で分かる?」。バラックに戻ろうとしたセイザーだったが、ボールのことが気になり、アンヘルからボールを取り上げる。そして、そのまま、バケツ向かって全力投球。見事にバケツに入る。驚くアンヘルに、ボールを取り出したセイザーは、「どこで、これを?」と訊く。「神からさ」(3枚目の写真)。ボールには、「Property of St.Louis(セントルイスの所有物)」とプリントしてある。セイザーは、自分にとっての記念品を、「大事にしろ」と言ってアンヘルに渡す。
アンヘルは、ボールを仲間に見せる。子供たちは、それが 神々しい何かのように見つめる。「触っていい?」。神父:「もちろん、触っていいとも」。捕手のノベルトは、「思ってたより重いや」と驚く。他の子も手に取って感激する。「神父様、なぜボールが?」。アンヘルは、「神が、僕らに野球をやれってさ」と、代わって答える(1枚目の写真)。言葉を先取りされた神父に、アンヘルは、「僕、そう思うんです」と弁解する。エンリケも、「僕も」と支援。ノベルト:「これ、失くしちゃったら? 神は、新しいの、空から落してくれるかな?」。アンヘル:「神なんだ。何でもできるさ」。エンリケは、「Property of St.Louis」の文字を見せ、「神父様、何て書いてあるの?」と訊く。神父は、意味は知っていただろうが、「St.Louis」が「聖ルイ」とも読めることから、「聖人の持ち物」と教える(2枚目の写真)。アンヘルは、またセイザーのバラックを訪ね、今度はちゃんとバケツの中に投球。シエスタを邪魔されて出て来たセイザーに、「キャッチ・ボールしない?」と声をかけるが、当然、すげなく断られる。アンヘルは、「一人で、練習するよ。毎日かかさず、ここで! 毎日だよ!」と脅し、それでもセイザーが出て来ないので、開いたドアからボールを投げ込む。セイザーは、仕方なく、ベッドの下に1年間眠っていたグラブを取り出し、外に出てくると、「分かった。1度だけだぞ。そしたら、どこか他で投げると約束しろ。いいな?」と念を押す。そして、2人はキャッチ・ボールを始める(3枚目の写真、矢印はボール)。背景はCGだが、当時は公害の街だったようだ。「どこで、投げ方教わったの?」。「カージナルス」。「バシリカの?」〔“cardinal” には、英語でもスペイン語でも「枢機卿」という意味がある。だから、バシリカ(聖堂)と言ったのだろうか?〕。「セントルイスだ」。「セントルイス・カージナルス?」。「そうだ」。「メジャーでプレイしたの?」。「まあな。コーチだった」。この罪のない嘘が、全ての始まりとなる。
子供たちが町の中を歩いていると、エンリケが、突然、「おい! あそこ! 僕の彼女だ」と1人の可愛い少女を指差す。「そうか? なら、話して来いよ」。その少女は、本当は「彼女」でなく 「憧れ」 に過ぎないエンリケは、「まあ待て、タイミングってものが」、と行動で示さない。中に1人、女の子のことなら何でも分かるマリオという小柄な子がいて、エンリケからボールを奪うと、「今なら? エンリケ、捕れよ!」と言い、ボールを少女の足元に転がす。そして、「拾ってよ!」と声をかける。アンヘルに後ろから押されたエンリケは、少女の前に行き、「やあ、グロリア、びっくりしたよ!」と声をかける。ボールを手にしたグロリアは、「これ、何?」と訊く。「野球だよ。本物さ」。周りの子供たちを見て、「あなたの お友だち?」。「チームメイトだよ。野球のチームなんだ。モンテレイで初めてだよ!」。その時、赤白のユニフォームを来た大柄な少年が近づいて来て、「モンテレイは、メキシコで一番女の子がきれいだって聞いてた」と、グロリアに声をかける。「残念だが、僕らはアメリカに行く途中なんだ」。嫉妬したエンリケは、「残念だな」と割り込み、グロリアを誘うが、あっさり断られる。それを聞いたユニフォーム姿の少年は、「キャッチャーフライでアウトか。みじめだな」とからかう。「何様のつもりだ!?」。「メキシコシティ・オールスターズだ」(1枚目の写真)。リカルド:「なぜ メキシコでプレイしない?」。「お前たちみたいな、ニニート〔niñito:チビ助〕と?」。侮蔑発言に「ニニート」達は憤慨するが、ユニフォーム連中に囲まれては、退散するしかない。彼らの捨て台詞、「ユニフォームが汚れる。アメリカに行くんだ」の言葉に、アンヘルは触発され、「アメリカか…」と憧れる(2枚目の写真)。子供たちは、教会まで走って行き、アンヘルが、「神父様。すみません、でも、今すぐチームが要るんです」と声をかける(3枚目の写真)。「アンヘル、何を急いどる?」。「僕ら12です。来年はリーグでプレイできません」。「そうか。なら、コーチが要るな」。エンリケ:「コーチになれますよ」。「私ではダメだ。ボール遊びじゃなく、試合に詳しい人物が必要だ。モンテレイじゃ、誰も 心当たりがない」。その時、アンヘルが、「あります」と言い、セントルイス・カージナルスで「コーチ」だったセイザーの元に、走って行く。
町を歩きながら、アンヘルがセイザーに 「僕ら、リトルリーグのチームを作るんだ!」と興奮して話す。「僕らって?」。「僕の友だちと、エステバン神父。明日、ミサで会えるよ」。「教会? 行かんな」。困ってしまったアンヘルは、マーケットの前にさしかかった時、セイザーが女性に目を留めたのに気付く。それは、いつも教会で歌っていて目に入る女性だった。そこで、作戦を思いつく。「あの女(ひと) 好きなの? 恋に落ちたとか?」(1枚目の写真、矢印がマリア)。「海には、魚がいっぱいいるからな」。「人魚はいないよ」。「知ってる女(ひと)か?」。「ううん。でも、明日の朝、どこにいるかは知ってるよ」。そして、翌日曜日。マリアを見初めたセイザーは、教会のミサに来て、ちらちらと斜め後ろのマリアを見ている。ミサが終わると、それが主目的なので、アンヘルはセイザーを神父に引き合わせる。セイザーにとっては、それは主目的でも何でもなかったので、寝耳に水。「お早う、神父さん」。「メジャーリーグでコーチだったと、アンヘルから聞きました」(2枚目の写真)。「ええ、してました」。「それは、すごいことですな」。肯定したことで、セイザーは後に引けなくなる。神父は、熱心に、「きっと 旋風を巻き起こしますよ。アメリカのリトルリーグでも」と続け、アンヘルも、「セニョール・ファス、コーチになるよね? アメリカに連れてくよね?」と強く頼む(3枚目の写真)。映画は、時たまスペイン語を混ぜ、「俳優が話しているのは英語だが、実際はスペイン語なんだ」という雰囲気を出そうとしている。
セイザーは、「この子たちを 本当のチームにするには奇跡でも起きないと」と、逃げようと必死。神父:「神は、時に、そうしたことをなさいます」。セイザー:「チームを?」。「奇跡です」。「この子たちには、球場もありません」。セイザーは、こう神父に言うと、アンヘルに「ごめんよ」と言って別れる。球場がないのが断られた理由なら、それを造ればいい。アンヘルたちは、さっそく教会の廃墟の脇の広場に落ちているものを全て片付ける(1枚目の写真)。そして、全てが完成すると、セイザーのバラックの屋根にボールを投げておびき出す。セイザーが廃墟跡まで行くと、そこには6人の子供たちが待っていた(2枚目の写真)。近寄っていったセイザーに、アンヘルは、「球場なら あるよ」と言う。「ああ。確かに あるな」(3枚目の写真)。
覚悟を決めたセイザーは、コーチを引き受ける。しかし、1957年のリトルリーグのワールドシリーズに参加するには、もう遅すぎる。そこで、1年前にカージナルスを飛び出た時、最後に会ったラッキーに電話する。「ウィリアムズポートに まだコネあるか? 何とか手を回して、モンテレイを、リトルリーグ選挙権に入れて欲しいんだ」(1枚目の写真)。「リトルリーグ? ガキは嫌いじゃなかったのか?」。「お説教か? 助けてくれるんか?」。「こんなギリギリに、無理筋だと知ってるだろ」。「あんたが、海軍憲兵を殴った後、巧く おだてて、舟まで戻してもらったろ。1日あれば、あんたなら何でもできる」。「そうかい。だが、丸1日 割けるかな」。「割けるだろ」。「やってみる」〔相手が元選手ではなく元タオルボーイだった割には、えらく親切だ〕。難題を済ませたセイザーは、子供たちに、「野球の5つの技能。走る、捕る、投げる、打つ、そして、強打だ」と教える。その時、セイザーは、誕生日を迎えた子が、ピニャータ〔お菓子がいっぱい詰まった人形の形をしたビニールの容器〕を叩き割っているのを見ている。そして、その子の強力ぶりに 思わず、「わぉ」ともらす。ちょうどその時、セイザーの前を横切ったマリアは、それが、自分に向けられた賞賛の声だと勘違いし(2枚目の写真、目線がずれている)、「どうも」と言ってしまう。それがマリアだと気付いたセイザーは大喜び。お互いに名前を交換する。「ここで、何してるの?」と訊かれ、「チームのスカウトを」と答える。「チームって?」。「野球のリトルリーグ」。「この、モンテレイで?」。「何事にも、初めが」。「シーザー・ファスが、教会に来たみたいに?」〔セイザーは、いろいろな発音で呼ばれる〕。セイザーはマリアを散歩に誘うが、逆に、「今夜、家族の夕食に加わらない?」と誘われる。2人の話を聞いていた子供たちは、この展開に思わずニタニタ(3枚目の写真)〔セイザーは、子供たちや神父そっちのけで、マリアと会話を楽しんでいる〕。「素敵だね」。「7時では?」。これで決まり。
マリアがいなくなった後、すぐ横にいたアンヘルたちを見て、セイザーは、「お前ら、ここで 何してるんだ?」 と訊いてしまう。エンリケ:「スカウトだよ、覚えてない?」。ノベルト:「選手じゃなくて、誰かさんのかも」。話がヤバくなったので、セイザーは、「分かったよ。誰をスカウトする?」と、話を軌道に戻す。最初に見つけたのは、露店の主人に追われて目の前を逃げていった窃盗犯。「足が速いな」。神父は、「盗みは罪だと 教えないと」と言うが、「常習犯じゃなきゃ、入れよう」。こうして、フィデルの入団が決まる。セイザーは、マリアと親しくなるきっかけとなったピニャータ割りの子のことを尋ね、「町一番の力持ちだよ」と言われ、バルタザールの入団も決まる。この後、エンリケが、「マリオ、どうする?」と言い、アンヘルが、「うん、マリオは大事だ」と答える。セイザー:「えらいチビだな。いい打者なのか?」。アンヘル:「えーと、あんまり」。「優れた野手?」。エンリケ:「うーん、あんまり」。そこで、本人を呼びつける。そして、「腕っ節が強いんだな?」と訊く。マリオ:「あんまり」。アンヘルたちはセイザーを脇に連れて行く。「何が すごいんだ?」。「女の子のプロだ」(1枚目の写真)。こうして、8人目はマリオになった。「いいか、1時間後に球場に集れ」。さっそく、マリオが本領を発揮する。「花は どうするの?」。「花? 何でだ?」。「マリアの」。「俺は夕食に招かれただけだ」。「そうなの?」(2枚目の写真。「夕食に招かれながら、花もなしで行くの?」といった顔だ)。マリオは、セイザーの常識度を確認する。「じゃあ、どこに住んでる?」。セイザーは知らない。「ディエゴ・マルティニ5番地だよ。花を忘れちゃダメだよ」。そして、9人目の選手が登場したのは、しばらくしてから。1台のシボレー・ベルエア・コンバーチブルが乗り付け、それにセイザーが近づいて行く。メキシコの地方都市で、これだけの高級車に乗っているのは、かなりの金持ちだ。エンリケが、降りて来た少年に、「お前、誰だ?」と訊くと、「ペペ・マイス・ガルシア、左翼を守る」と答える。エンリケ:「コーチは、まだ守備位置を決めてない」。ペペ:「見てろ」。セイザーは車から大きな袋を取り出すと、その他の子供たちの前までペペと一緒に行き、「みんな、新しい左翼手だ」と紹介し、袋の中身を地面の上に拡げる。中には、多くのバット、グラブ、捕手の用具一式、予備のボールが入っていた。さっそく、奪い合いが始まる(3枚目の写真)。ペペの父は、解説で述べたハロルド・ハスキンズの代わりか?
さっそく、球場で練習が始まる。「一死」という状況で、捕手のノベルト以外は、全員が前方に立ち、「二塁手」になったつもりで、セイザーが打った球を拾うというもの。しばらくして、セイザーが「バルタザール」と言い、球を打つ。しかし、ボールは、わざとエンリケの横に飛んで行く〔全員が、散開して立っている〕。ふいを突かれて巧く取れなかったエンリケは、「何してる?」と叱られ、「バルタザールって言った」と反論する。「予期しない時に、予期しないプレイ〔今後、何度も使われる重要な言葉〕。それが練習の根幹だ」。先ほど、エンリケから「パパの金で入団したのか?」と嫌味を言われたペペは、逆に、「ファインプレーだな、チカ〔chica:小さな女の子〕」とエンリケのミスをからかう。2人はケンカになる。止めに入ったセイザーは、「選手には2通りある。チームのためにプレイする奴と、しない奴だ。分かったか! じゃあ、全員5周」と命じる。捕手のノベルトは、「争ったのは2人だよ。全員5周なんて変だ!」と抗議する。「ノベルトは正しい。全員10周。走れ!」。やぶ蛇とは、このこと〔この「走らされる」も、今後、何度も使われる重要なシチュエーション〕。こうして、熱心な練習が進む中、急にマリオが血相を変えてセイザーに走り寄る。「何の用だ?」。「セニョール・ファス、デートだよ!」(1枚目の写真)。「持ち場に戻るんだ! 行け!」。しかし、その頃、マリアの家では、全員がセイザーの来るのを待っていた(2枚目の写真、右が父、マリアの左が弟、さらに、母とムチャチャ〔muchacha:メイド〕)。翌日も、朝から練習は続く。「チーム全員に 『罰ラン』 させた奴は、5周追加だ」。走っていると、マリオだけが球場の端に残っている枯れ草を集めている。その時、セイザーの横で声がする。「アメリカの男性は知らないけど、メキシコなら知ってる。みんな、もっと女性を気遣うわ」。昨日、約束を破って家に来なかったことへの批判だ。「ごめん。練習が遅れて、走らせてたら…」。「忘れちゃったのね」。その時、枯れ草で作った「花束」を持ったマリオが、「セニョール・ファス、ほら、昨日、レディに用意してた お花」と言いながら、2人の間に割り込む。マリアは、「お花?」と訊きながら、花束を受け取り、「私のために用意したの?」と尋ねる。答えに窮したセイザーの代わりに、マリオが、「水に入れとけと言われたの 忘れたから、しおれちゃった」と、枯れ草の束を渡したのを自分の責任にする。「きれいね」(3枚目の写真、マリオがウィンクしている)。マリオの機転で、何とか破局は免れた。
日曜ミサの日、神父が、「幾つか発表があります」と告げる。「モンテーズさんの腫れ物が完治しました。それと、サンタナさんは三つ子を産みました」。その時、教会の扉が少し開くと、セイザーが顔を出し、野球のサインで情報を知らせる。神父は、「最後に、モンテレイは、リトルリーグ選挙権に初参加します!」と発表し、参加者全員マイナス1名から拍手が起こる(1枚目の写真、矢印はセイザー。後列から2つ目の中央通路に座ったアンヘルの父だけがムスッとしている)。ミサが終わってから、教会内に残ったマリアとセイザーが話している。セイザーは、お詫びに、マリアを食事に誘おうとするが、マリアは、「まず父に会わないと、何もできないわ」と断る。「水曜には、テキサスから戻ってくる」〔セイザーは、初戦で負けると考え、日程を決めてしまった〕「その夜に会うって話しといて」(2枚目の写真)。次のシーンでは、子供たちが、教会の小さな中庭に立っているマリア像周りに立っている。セイザー:「彼ら、祈ってる?」。神父:「いいや、ハチドリを見てるんだ」。「なぜ?」。「『ハチドリの羽が見えたら、どんな球でも打てる』 と話したから」。「そんなこと、信じてないでしょ、神父さん?」。「彼らは信じてる」。この伏線の言葉の後、セイザーは、「球場に集合! 5分後だ!」と告げる。子供たちが集まると、セイザーは9人分のユニフォームを見せる(3枚目の写真)。教会のミサに参加する女性たちが手作りしたものだ。
製鉄所では、セイザーがボスに、来週末に戻ると告げる〔マリアには、水曜と言っていた〕。その直後、アンヘルの父に呼び止められたセイザーは、「アンヘルの頭にバカな考えを吹き込むな」と文句を言われる。「『バカ』って?」。「テキサスで野球することだ。身の程を知らんといかん。フンディドーラ〔Compañía Fundidora de Fierro:フンディドーラ製鉄会社(1900-86)〕は、家族を養ってくれる。親爺も、爺さまも、ここで働いた。だから、アンヘルも働く〔働いていたら、1986年倒産なので、41歳で失業〕。「エンジェルには夢がある。それを考えたのか?」(1枚目の写真)〔セイザーは、アンヘルを英語流に発音する。アメリカに行った後は、どのアメリカ人も常にエンジェルと言う〕。「夢じゃ町は造れん。男たちと鉄が造るんだ」。そして、出発の日。母が、アンヘルのユニフォーム姿を見て、「とってもハンサムなスター野球選手ね」と褒める(2枚目の写真)。父は、分かっているのに、「どこに行く気だ?」と訊く。母:「チームとテキサスへ。覚えてるでしょ?」。「許した覚えはないぞ」。アンヘルは、父の前に立つと、「パパ、僕 行くよ」と告げる(3枚目の写真)。「いいだろう。食い扶ちが一人減るからな」。その冷たい言葉に、アンヘルはがっかりして戸口に向かう。母:「行きましょ。バスに遅れるわ」。「シー〔Sí:うん〕」〔チームの子供たちは、常に「シー」と言う→スペイン語で話しているという設定を観客に忘れさせないため〕。
映画では、1957年、バスに乗ってモンテレイを出発する選手たちを撮った白黒映像が流される(1枚目の写真)。国境では、全員がバスを降り、アメリカ側の検問所に向かう〔メキシコ側には何もない/実際の国境はリオ・グランデ川。だから、映画とは違って、彼らは橋を歩いて渡った〕。右の画像は、同じ題材を扱ったメキシコ映画『Los Pequeños Gigantes』(1960)で、選手たち国境の橋を渡るシーン。後ろに見えるのはメキシコの国境検問所。立派な建造物だ。アメリカ側も、もちろん立派な建物で、映画のような貧弱なものではない。道路も舗装されている〔なお、この1960年版では、すべて本人が出演しているので、とても12歳のチームには見えない〕。検問所で、「合衆国に入る目的は?」と訊かれ、セイザーは、「マッカレンでの野球の試合」と答える(2枚目の写真)〔現在の地図では、マッカレン市は国境に接している〕。「10マイル〔16キロ〕以上ある。バスはないぞ」。「みんな、歩き慣れてる」。子供たちは、バッグの中を全部出すように言われるが〔コーチが通訳した〕、中に入っていたのは下着1組だけ。驚く職員に、セイザーは「1試合するだけだろ」と言う。2010年に書かれた略史では、当時を振り返ったペペの言葉として、「マッカレンで試合するだけだと思ってた」(https://www.smithsonianmag.com/history/the-little-league-world-series-only-perfect-game-12835685/)とある。職員は、最後に、「忘れるなよ、ビザの有効期限は3日だ」と告げる(3枚目の写真)。しばらく行くと、「Welcome to TEXAS(テキサス州にようこそ)」の標識があり、そこには赤字で「A Whole Nother Country(全く別の国)」と悪戯書きがしてあった。一行は、砂ぼこりの立つ州道336号線をマッカレン目がけてひたすら歩く。
場面は、マッカレンの球場。画面に7月29日と表示される。アンヘルたちは、この日 早朝にモンテレイを経ち、昼過ぎに国境を越え、午後になって球場に着いた。そこに、地元のチームが様子を見にやって来て、コーチが、「みんな よく聞け。この球場で、我々の力を見せつけるんだ〔we're going to kick some butt〕」と訓示する。すると球場の一部に貼られた芝生の上で、変な選手たちが転がりまわっている。驚いて見ている地元チームに、セイザーは、「芝なんて見たことないんだ」と説明する。それを聞いた 地元チームのコーチは、「最初の試合で敗退するさ」と高をくくる。一方、同じものを見たメキシコシティ・オールスターズのコーチは、「試合前には、いい準備運動だな」と評価する。セイザーは、アンヘルとエンリケを呼び出し、「2人には 頑張ってもらわんとな。だが、投げるのは どちらか1人だ」と話す。彼は、2人を交互に投げさせて、負担を軽くする道を選んだ。そして、今日、どちらが最初のピッチャーになるかは、「自分たちで決めろ」と言う(1枚目の写真)。チームのみんなは、最初の1試合で負けて帰ると思っていたので、今日投げなかったら、永久に投げられない。その時、メキシコシティ・オールスターズの、あの意地悪な選手が、「おい、ニニート、可愛いセニョリータはどこだ?」とエンリケに声をかける。それを聞いたアンヘルは、「お前から やれよ」とエンリケに譲る。「グロリアのためだ」。この後、エステバン神父が少年たちを集める。そして、互いに手をつなぐよう言い、「主よ、子供たちを祝福し、多くのヒットと 勝利をもたらし給え」と祈る(2枚目の写真)。これを見た、意地悪な選手は、「嘘だろ、あいつら手 つないでる」と わざと驚く。そして、別の選手が、「祈ってるんだ」と言うと、「奴らには要るのさ」と貶(けな)す。嫌な性格だ。そして、最初の試合が始まる。モンテレイの相手は、唯一の他のメキシコ人チームということで、メキシコシティ・オールスターズ。試合が始まり、エンリケの初球に対し、オールスターズのバッターはフライを打ち上げ、ペペがキャッチする。すると、野手全員がペペに飛びついて(折り重なって)祝福する。それを見たアンパイアが、「選手たちに思い出させてやれよ。試合はアウト1つで終わりじゃない」 と注意する。セイザーは、「試合したの、初めてなんだ」と弁解する。場面はすぐに5回表になり、スコアボードには、先攻のモンテレイは0が並び、相手には2点入っている。5回裏、オールスターズ最初のバッターがデッドボールになったところで、セイザーはタイムを取り、「お前ら、何してる?」と喝を入れる。エンリケは、勝てると思っていないので、「上出来だよ。2点奪われただけだ」と言い、リカルドは、「僕らより大きいもん」と弁護。ノベルトは、「僕ら12マイル歩いて、5回までプレイしたんだ」と、より論理的な反論。セイザー:「まだ6回があって良かったな」。マリオ:「でも、セニョール・ファス、相手はメキシコシティ・オールスターズだよ!」(3枚目の写真)。ここで、セイザーは、選手たちを発奮させる。「違うな。奴らヤンキースだ。そして、お前らは、最強のブルックリン・ドジャースだ」と、メジャーに喩える。そして、リカルドに、「ギル・ホッジス、一塁に戻れ」と指示。ノベルトには、「ロイ・キャンパネラ〔リーグ最優秀選手を3度獲得した捕手〕、キャッチャーをやれ」。エンリケには、「ドン・ニューカム〔サイ・ヤング賞の初代受賞者〕、マウンドに立て」。こうして、新たな名前をもらった9人は、5回裏を0点に抑える。そして、最終回の6回〔リトルリーグは6回まで〕、モンテレイは一挙9点をあげる猛攻を見せる。最後は、メキシコシティ・オールスターズの意地悪がバッターボックスに立ち、真上にフライを打ち上げるが、わざわざエンリケが走ってきて ノベルトの代わりにキャッチする。アナウンサーの声が流れる。「モンテレイ・インダストリアルズは、7点差で初戦を飾りました!」(4枚目の写真、矢印は「9点」)。エンリケは、最後に仕留めた「意地悪」に、「僕らがメキシコのために戦う。君らと戦えて良かった」と言うが、相手は最後まで根性が曲がっていて、「なら、やってみろ」と突っぱねる。
初めて登場する地元の新聞社。辣腕といった感じの編集長が、部下の提案に、「関心なし。意見なし。却下」と言って部屋に戻ろうとすると、1つ前の席に座った女性が、「見て、マック」と1枚のタイプした紙を渡す。そこには、「宇宙で核兵器開発競争を招く恐れ」と打ってあった。「宇宙で軍拡競争? おい、フランキー。次は何だ? 月面着陸か?」〔ケネディ大統領の月面着陸構想演説は1962年9月12日。この5年後〕。編集長は、フランキー記者にリトルリーグの取材を命じる。「子供の野球試合? 嫌よ。スポーツ担当はライリーよ」。「彼の奥さんが 産気づいてね」。編集長は、無理矢理フランキーに、リトルリーグの取材をOKさせる(1枚目の写真)。「降参。この試合のどこが重要なの?」。「メキシコの子供たちが参加している。それを、『侵略〔invasion〕』 という視点で捉える。祖父の戦いから、我々の子供たちを守るんだ」。テキサス州は米墨戦争(1846-48)の舞台となった場所だけに、反メキシコ感情が強い。1824年のメキシコの版図を見ると、カリフォルニア、ネバダ、ユタ、コロラド(大半)、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、テキサス州はメキシコの一部だった。テキサスがメキシコから独立してテキサス共和国になったのは、1836年。アメリカからの不法移民に占領された結果だ〔TVで、テキサスの農場主がメキシコからの不法移民に対し攻撃的な意見を述べるのを聞くと、逆ではないかと笑えてしまう。何せ、彼らの祖先が、勝手に入植してメキシコから奪い取ったのだから〕。そして、テキサス共和国は、1845年にアメリカに併合された。メキシコとアメリカは、国境をヌエセス川とするかリオ・グランデ川とするかでもめ、翌1846年から戦闘状態に入る。旧式な武器しか持たなかったメキシコは敗れ〔戦闘は、テキサス、及び、モンテレイなどメキシコ北端部で行われた〕、現在の国境線まで後退した。だから、テキサスとモンテレイとの間には因縁がある。一方、マッカレンでは、モンテレイのチームが、初めて対戦するアメリカのチーム(地元マッカレン)と対戦することになった。試合の前、セイザーは、アンヘルに、「お前なら やれる、コーファックス」と励ます(2枚目の写真)〔コーファックスは前にも出て来たが、アンヘルの憧れ〕。アンヘルの最初の投球は、ストライク。マッカレンのコーチは、「大丈夫。まだ、ワン・ストライクだ」と選手たちに声をかける。1人目がアウトになると、「まだ、ワン・アウトだ」。そして、3人目のバッターが空振りする(3枚目の写真、矢印はミットに入る直前のボール)。「大丈夫! まだ1回だ!」。アナウンサー:「メキシコ人たちは芝生の上で転がっていましたが、今や、球場中を駆け回っています」。そして、試合は終わる(4枚目の写真)。フランキーは、「タイムリー・ヒットと水も漏らさぬ守備が、モンテレイ・インダストリアルズをまさかの7対1の勝利に導いた」と、公衆電話から編集長に原稿を読み上げ、「これでいいでしょ。帰るわね」と訊く。「そこに留まって、続きを書いてくれ」。「ホーム・チームは負けたのよ」。「メキシコ野郎〔wetbacks〕の勝利で、新聞が売れる。長くはならん。奴らが負けるまででいい」。
その夜、安ホテルの1室に詰め込まれた子供たちに向かって、セイザーは、ハンドサイズの黒板に内野の四角を描き、「いいか、打球が右に来たら、ショートがセカンド・ベースをカバーする」と教え、翌日、試合の前にも猛特訓する。そのお陰もあって、第3戦も4対3の接戦で制することができた。「モンテレイの 3連勝です。明日対戦するウェスト・ウェーコも、大変でしょう」。その直後、浮かぬ顔の神父が映る。セイザー:「どうかしましたか〔Why the long face〕?」。神父:「ビザが切れてしまった」。「しまった、水曜だ。彼女に殺される」(1枚目の写真)。モンテレイのマリアの家では、以前と同じ光景がくり返された(2枚目の写真)。次のシーンでは、フランキーのタイプライターの文章を編集長が読み上げている。「『小さな巨人』。いいじゃないか。『モンテレイの小さな巨人は、ウェスト・ウェーコとブラウンズビルを13対1、6対1で撃破、5連勝としました』」(3枚目の写真)。編集長は、その後もフランキーに取材するよう命じる。「彼らが負けるまで」。「4試合前に、そう言った」。「読者は、スポーツ欄に釘付けだ」。「そんなに好きなら、自分で書けば?」。「いいか、俺は編集者、君は記者だ」。その後、モンテレイの製鉄所で、選手たちを息子に持つ工員たちが新聞を読んでいる〔アンヘルの父は無視している〕。「8月6日、テキサス州コ-パス・クリスティ。エンリケ・スワレスとアンヘル・マシアスの二枚看板は連勝を続け、ラレドを5対0と初の完封、ウェスト・コロンビアも6安打完封とした」。これで7連勝だ。
短いエピソード。チームは、州内の次の対戦地フォートワースに行こうと、朝、バスの切符売り場に行く。「フォートワースまで11枚、頼む」(1枚目の写真)。「『ウェスト・コロンビア』〔前日、完封勝利したチーム〕の名で、予約が入ってますな」。「信じていい、彼らは来ない」。そこまでは良かったが、窓の外でアンヘルが、「セニョール・ファス!」と呼びかける。「僕とベルト〔ノベルトの略称〕、すぐトイレに行きたい!」(2枚目の写真)。セイザーは、すぐに売り場の男に「トイレの鍵を貸してくれないか?」と頼む。しかし、この頭でっかちのデブは、不潔な物でも見るような顔でセイザーたちを見ると、「半マイル先に1つあるよ」と返事する。「冗談だろ? 外にあるトイレは何なんだ?」。「子供たちは 読めんのかね?」。すると、カメラが外のトイレのドアに切り替わる。そこには、ドア一杯に、「White Only Beyond This Point(この先 白人以外立入禁止)」と書いてあった〔英語なので、アンヘルには読めない〕。だから、その文字の前で、「ハロー」と言ってみる。外に出て来たセイザーは、「行くぞ。他のを捜そう」と促す。「これしかないよ」。「壊れてる」。「男の人が出て来たよ」。「さあ、行こう」。神父が、「これは、白人専用なんだ」と教えると、ノベルトは、泣きそうな顔で、「トイレに分かるの?」と尋ねる。人種差別のよく分かる場面。
次も短いエピソード。食堂に入ったチームに、店長の女性が、「召し上がれ」と言って、フライドチキンを山盛りに持って来る(1枚目の写真、矢印)。その食堂には、偶然、次に対戦するチームも入っている。店長の娘が、キャプテンに、「ほんとにチキン食べないの? ママの自慢なのよ」と訊いている。「僕は、チーズバーガーがいい。クレオンならフライドチキン欲しがるかも。明日やっつけるメキシコ人と同じさ」〔クレオンは、1人爪弾きにされて座っている黒人の選手〕。「じゃあ、チーズバーガー、コーク、付け合せに臓物パイね」。一方、セイザーは、チキンにドロドロのものをかけている。それを見た店長が、「あらまあ、チキンが台無し」とがっかりする。セイザー:「これ、モーレ。メキシコ風チョコレート・ソースなんだ」〔どうやって入手したのだろう?〕。「モーレか何か知らないけど、私なら、チキン・サンデーなんかにしないわ」〔チョコレート・ソースなので、アイスクリーム・サンデーの感じで使った言葉〕。エンリケが、隣に座った神父に、「神父様、なぜ あの子 一人なの?」と訊く。「あの子」とは、クレオンのことだ(2枚目の写真)。「『子供は全て神の御子』と思わない人間もいる」。これでは、エンリケは理解できない。一方、隣のテーブルにいたアンヘルは、「セニョール・ファス、あの子が 僕らと座れるよう、コーチに頼んでよ」と言う。「ここじゃ、できんのだ。悪いなエンジェル」。しかし、アンヘルは、この言葉では納得しない。思い詰めると(3枚目の写真)、無言で立ち上がり、自分の皿を持って遠く離れたクレオンのテーブルに行き、「オラ〔Hola:やあ〕」と声をかけ、「名前、なに?」と訊く。「クレオン」。その頃には、ほぼ全員が自分の皿を持ってテーブルに来ていた。クレオンは、自分のコップを、「ミルク」と言ってアンヘルの方に押す。「ミ… レチェ〔leche:牛乳〕」。クレオンが差し出したビスケットを、みんなでミルクに漬けて食べる(4枚目の写真)。食事が終わり、セイザーが、レジの前でなけなしの小銭を数えていると、店長が、「要らないわ、コーチ」と言う。「損させるわけには いかない」。「心配しないで。ヒューストンのコーチから、倍額もらうから」。チームの食事について、先に紹介した「略史」では、「しばしば、食費にも困り、1日2食にした。見知らぬ人や新しい友人から、食堂での食事や数ドルのお金を贈られた」とある。どこからも資金援助なしで、予想外の連勝を続けるチームは、財政破綻寸前だった。なお、ここでも人種差別がテーマだ。
食堂で会ったチーム(ヒューストン)との対戦はほとんど映像化されない。1957年当時の映像をバッグに、アナウンサーの声が入る。「アラモの戦い以来、テキサスがメキシコに敗北を喫したのは初めてです。スワレス、マシアス両投手は、テキサス州をなぎ倒しました。最新の結果は、ヒューストンに6対4で勝利、ウェーコを13対1で殲滅。8勝目と9勝目です」。「アラモ」とは、1836年2-3月にサンアントニオ(今のテキサス州)にテキサス側によって造られた砦をめぐる有名な戦い。この戦闘では、メキシコ側が砦の制圧に成功した。こうして、テキサス代表となったモンテレイは、南部地域トーナメントに出場することになる。向かった先は、ケンタッキー州のルイビル。モンテレイの大躍進は、当然、地元新聞の一面を飾り、頑なだったアンヘルの父も記事を読むようになる(1枚目の写真)。彼が読んでいる「El Norte」は地元紙。そこには、「Industriales Gana Nueve Partidos Consecutivos. ¡Texas Se Rinde!(インダストリアルズ9連勝。テキサス降伏する!)」という見出しが躍っている。一方、ルイビルにあるニコルズ陸軍病院の体育館は、モンテレイ・チームの宿舎になっている。そこに、1通の電報が届く。ノベルト:「何て書いてあるの、セニョール・ファス?」。電報は、ヒラリック&ブラズビー社からの特別招待状だった。この会社は、元々木工所として1855年に開設され、野球好きだった息子が後を継いだ1894年からバッドの製造を開始し、有名な「Louisville Slugger(ルイビルスラッガー)」のブランドを1905年から発売した〔メジャーリーガー愛用のバット〕。喜び勇んで訪れた11人だったが、そこで衝撃が待ち受けていた。案内係の女性が、「皆さんを びっくりさせることがあります」と言い、たまたま来ていたセントルイス・カージナルスの選手2人と会わせる。神父は、セイザーに、「確かコーチでしたな」と話しかける。セイザーには何も言えない。そこに2人が入って来る。そして、セイザーを見つけると、場所をわきまえず、「よお、チコ〔chico:ガキ〕! タオル持って来いよ。ついでに、俺のジョックストラップ(局部サポーター)も洗っとけ」と話しかける(3枚目の写真)。セイザーは、すぐに、「子供たちを体育館に」と神父に頼む。「見学は まだ終わっとらん」。「見学は終わった」。
その夜、セイザーは泥酔して陸軍病院に戻る。パトカーでセイザーを送ってきたのは、ルイビルが属するジェファーソン郡の保安官〔captainと言っていてsheriffではない。一部の州では保安官や副保安官の補佐と書いてあったが、それはあくまで一部で、しかも現代の話。アメリカの警察では、一般的にはcaptain=警部だが、郡警察では該当しない。正体不明なので、保安官と訳した〕。セイザーが中に入って行くと、子供たちが、「神父様、『お話』 してよ」と頼んでいる。子供たちが選んだのは、「グアダルーペの奇跡」〔日本語のサイトで、一番正確に書いてあるのは→http://www.st.rim.or.jp/~cycle/SEIBO.HTML〕。そして、神父は話し始める(1枚目の写真)。途中まで話したところで、セイザーが割り込み、「その話なら、前に聞きましたよ、神父さん。農民が聖人になった話だ。お伽噺を何度も聞かされた。みんなに言っておく。これは全部、嘘だ」。怒ったアンヘルは、立ち上がると、「嘘は、そっちだ」と言うが、神父に、「アンヘル。セサール〔これが、神父の発音〕は君のコーチだ」と言われる。ところが、セイザーは、「コーチ? 神父さん? コーチになるよう頼まれた覚えはない」と反撥。教育上良くないと判断した神父は、「もう充分だ、セサール。散歩して新鮮な空気を」と言い(2枚目の写真)、外に連れ出す。外に出ると、神父は、「セントルイスで何があったんだね?」と尋ねる。「俺はクラブハウスの従業員だった。何年も我慢して〔bit my tongue〕、汚れたタオルやジョックストラップを拾い続けた。ホテルには 一緒に泊めてもらえなかったので、バスで寝た」(3枚目の写真)と、屈辱の日々を思い出して涙を流す。
その直後、先ほどの保安官が再度やって来て、「お前さんのアミーゴ〔amigo:友だち=神父〕と、子供たちはどうなっとる?」と質問する。「ここで一緒だ」。「必要書類〔ビザ〕のことを訊いとるんだ」。「期限が過ぎてる」。一緒に付いてきた警官が、「なら、故郷に帰るんだな」と冷たく言う。「子供たちは、トーナメントで あと2日試合する」。「ビザがなければ、メキシコで試合するしかないな。戻ってきて、まだいたら、逮捕するぞ!」。何とも非礼で、規則一点張りの連中だ。警察が帰った後で、神父は、「朝一番で、メキシコシティーの大使館に電話する」と言う。「無駄ですよ、神父さん」。「少しくらい信仰を持ちなさい」。「これが最善の道なのかも。無敗で帰れるから」。「あの子たちが負けるとでも?」。「夢は いつか終わる」。「投げ出しては いかん」。そして、翌日、保安官が喜び勇んでやってくる。そして、助手席の部下に、「メキシコ人どもは、5分でアディオス〔Adios:バイバイ〕だ」と言い(1枚目の写真)、警棒を持って玄関に向かう。保安官が出ていくと、すぐに無線が入る。「スレーター保安官、どうぞ」。「やあ、マッジ」。「メキシコ人たちは 行かせて」。「何だって?」。「連絡が入ったの」。助手は、玄関から入ろうとする保安官に、「スレイター保安官、彼らを行かせろと連絡が」と呼びかける。「何だと? 俺は、この郡の保安官だぞ。俺に命令するのは、どいつだ?」。「ワシントンDCの国務長官です」。ザマミロといった感じ。一方、建物の中では、電報を受け取ったセイザーが、「バカげてる」と批判している。電報には、「Visa extendida para un equipo y el entrenador(チームとコーチに対する延長ビザ)」とタイプしてある(2枚目の写真)。これでは、神父は帰らねばならない。しかし、神父は、「私は、モンテレイに帰りたい。その方が、チームの役に立てる」と納得する。「俺は、どうすれば?」。「あなたはコーチだ。コーチなさい」。神父は、病院の子供たちが寝ていた体育館に入って行くと、「子供たち、集まって」と呼び(3枚目の写真)、最後の別れをする。
翌日、試合前の球場。球場の整備係の年輩の黒人が、モンテレイの対戦相手のビロクシ(ミシシッピ州)の投手の投げ方を見て、「おい、ちょっと待て。教えてるぞ〔got a tell〕」と声をかける。「誰に何を?」。「手だ。投球内容をもらしとる」。そして、投手が投げる寸前、「速球」と言い当てる。そこに、コーチが、如何にも黒人をバカにしたような口調で割り込む。「おい、おい、お節介など焼くな〔what don't you mind your own business〕。年寄りの球場整備係が、俺の選手に勝手に口出しするな〔Last thing I need is...〕」。次に投手が投げる寸前、黒人は、今度は「カーブ」と言い、文句を言われないよう手で顔を隠す(1枚目の写真)。「ルイビルでの南部地域トーナメントの開始です」。「プレイ・ボール」が宣言されるが、モンテレイの選手(先攻)が誰も現れない。球審は、セイザーに、「モンテレイ、先頭打者はどこだ?」と声をかける。そこに、ビロクシの嫌味なコーチが、「おい、何を もめてるんだ、アンプ?」と寄ってくる。球審はセイザーを呼ぶ。ビロクシのコーチ:「メキシコで、試合をどう始めるかは知らん、行ったことないからな〔never been there〕… 行く気もないが〔never wanted to go〕… ここじゃ2つの言葉で始める。『プレイ』と『ボール』だ。もう宣言された」。球審は、この差別発言の中で、「行く気もないが」と言った時、それ以上言わないよう止める仕草をするので、公平無私な人間だと分かる。セイザー:「ひょっとして、神父は いないかな?」。相手コーチ:「誰か死んだのか?」。「祝福がないと プレイしない」。「そりゃ、まやかしだろ? 八百長は試合没収だ」。球審は、「なあ、もう一度 説得して来いや」と常識的なアドバイス。そこで、セイザーは、選手たちに 「試合を放棄して国に帰りたいなら、俺は何も言わん」と言うが、「あんたが神父様を失くした。何とかしろよ」と言われてしまう。そこで、「ぜんぜん譲らない」と球審に報告。それを聞いた相手コーチは、「そうか、ならいい。規則12の9、試合放棄」と言う。その時、ネット裏から、先ほどの黒人が、「俺の甥が牧師なんだが、ダメかね?」と声をかける(2枚目の写真)。「また、球場整備係が しゃしゃり出て来たか。極めて不愉快な事態〔steaming pile〕だな、アンプ。いいか、これは野球、アメリカのスポーツだ、教会の礼拝じゃない」。その時、口を出したのがフランキー。「コーチ、お名前は?」。名前を聞いたフランキーは、新聞の記事を読み上げるような口調で、「今日、ルイビルで、サム・ヒックス・コーチは、野球は神より偉大だと宣言した」と言う(3枚目の写真)。相手が記者なので、コーチも慌て、「そんなことは言っとらん、言うはずなかろうが。だが、規則12の9では、最少8人の選手の出場、もしくは、試合放棄だ」と弁解〔リトルリーグは、現在でも、9人でなく8人で開催可能〕。ここで、生意気なコーチは失敗する。球審に向かって、「だから、君に要求する…」と言ったのだ。この「要求」という言葉に、球審はカチンとくる。「私の球場で、あんたは要求などできん! 休息でも取るんだな!」。そして、黒人には、「あんたの甥を、呼んで」と声をかけ、セイザーを「試合ができるよう、頑張れよ」と励ます。到着した牧師は、セイザーに、「決まった祝福でも?」と訊く。「詩編108章」。牧師の祝福が終わると、選手たちは元気に飛び出していく。黒人は、ネクスト・バッターズ・サークルにいるアンヘルに、相手投手の「投げる前の仕草をやって見せ、「ボーラ・ピナ〔Bola pina:速球〕」と教える。投手が投げたのが速球だったので、アンヘルにも意味が通じる(4枚目の写真)。この2人目の「臨時コーチ」のお陰もあって、モンテレイは大量13点を奪って完勝する。
一方、故郷モンテレイでは、アンヘルの父が祭壇上のペドロの写真額にかけてあったコットン紐のメダル・ネックレスを外す(1枚目の写真、矢印)。メダルには聖母像らしきものが彫られている。手に取ったメダルを見て、父は、「アンヘル」と言うので、アンヘル(=天使)という名前から、このメダルとアンヘルとの間には関係があると想像できる〔詳しい由来は一切説明されない〕。父は、「俺は、何てことを?」と後悔する。そして、次の日曜日。帰国したエステバン神父が、ミサの最後に、出席者に呼びかける。「これまで、皆さんは愛情と祈りを与えてこられた。今や、より多くの援助が必要です。子供たちが続けられるように」。アンヘルの父は、回ってきた献金皿に、メダルを入れる(2枚目の写真、矢印)。ミサが終わり、1人になった神父は、セイザーに送ろうと集まったお金を封筒に入れる時、メダルに気付く。事情を察した神父は、メダルに祝福のキスをし(3枚目の写真、矢印)、封筒に入れる。
短いエピソード。セイザーが、子供たちに、ハンドサイズの黒板を使って、別の状況での守備方法を教えていると、そこに牧師がビッグサイスの女性を連れて入ってくる。2人とも よそ行きの服を着ている。牧師:「また会えて嬉しいよ、セイザー」。「嬉しいよ、クラレンス」。「ワイフを紹介する。ミセス・ローズ・ベルだ」。この陽気な女性は、「ユニフォームを渡しなさいよ〔Why don't you...〕。家に持って帰って洗ってあげるわ。兄弟が7人いて、5人の子を育てたのよ。どんなものでも見慣れてるから」と早口で声をかける。セイザーから翻訳してもらった子供たちは、メキシコを出てから一度も洗ったことのないユニフォームを次々と渡す(1枚目の写真)。善意の2人が去った後、セイザーは、中断された課題を問う。「ランナーが1塁と2塁がいる時、どう本塁へボールをつなぐか、分かる者?」。誰も分からない。キャッチャーなのに、いつも走らされるノベルトは、アンヘルに、「こんな格好じゃ、外で走れないもんね」〔下着では外に出られない〕とニンマリする(2枚目の写真)。しかし、コーチは一枚上で、この体育館には、中二階に走るためのコースが設けてあった(3枚目の写真)〔質問に誰も答えられない→「罰ラン」〕。
次の試合。セイザーが、エンリケに、「ひと振りで、試合に勝とうなんて思うな。しぶとく粘ることで、チャンスが生まれるんだ」と、強振するなと諌めている。横にいたマリオは、「キスするのと同じ。目を閉じちゃダメだけど」と別の表現で言う(1枚目の写真)。エンリケはバッターボックスに向かい、セイザーはマリオと話し続ける。セイザー:「女の子に詳しい気で いるんだろ?」。「マリアを勝ち取るには、もっと頑張らないと」。ここで、フルスイングの空振りでワン・ストライク。セイザー:「二度すっぽかした。もう終わりだ」。フルスイングの空振りでツー・ストライク。マリオ:「まだツー・ストライク〔『2度すっぽかし』のこと〕。3つ目があるよ」。「恋は野球と違う」。「そうかな〔Yes, it is〕」。エンリケは3打目で快心の当たり(2枚目の写真、矢印はボール)。「スワレス、ボールを真芯で捕らえました」。その後も、モンテレイの猛攻は続く。相手チームは三振の山。そして、迎えた最終回のツー・アウト。「クライドは左右両打ちで、右腕投手に対して左打ちができます」。バッターが右打ちから左打ちに変えたのを見たアンヘルは、右投げから左投げに変える(3枚目の写真)。それを見たバッターは右打ちに変え、アンヘルも右投げに戻す。これをくり返していると、アンパイヤが、「どっちか選べ」とバッターに注意する。パフォーマンスだけのバッターは、凡フライに倒れ、「モンテレイ、ワールドシリーズ出場です!」。勝った後も、コーチは守備で拙かった点を全て口にして 選手たちを注意する。この中で重要あのは、「ベルトは、リカルドを確実にカバーしろ」と言われ、ノベルトが「ランナーと一緒に、ファーストまで走れって言うの?」と反論する場面〔伏線〕。反論を聞いたセイザーは、「ベルト、いいこと思いついた」と言い、ノベルトが、「分かった。10周だろ」とあきらめたように言う〔同じ伏線〕。「10周、プラス、守備練習1時間だ」。子供たちがランニングに出かけた後、黒人が、「次は、あんたらウィリアムズポートだな」と声をかける。「昨日 子供たちにしてくれたこと、ありがとう。あんた、野球について詳しいみたいだね」。ここで、牧師が伯父の紹介をする。「ニグロリーグのマノアックスでプレイしてた」〔ニグロリーグは、黒人だけのプロ・リーグ(2リーグ制)。1960年まで存続。人種差別の象徴〕。この黒人クール・パパ・ベルは、教会での募金をセイザーに渡す。そして、「なぜ、こんなことまで?」と訊かれると、「あんたと俺は、『負け犬〔underdogs〕』 が何たるかを知っとるから」と答える。その時、10周してきた選手たちが、歓声を上げてセイザーに飛びかかる(4枚目の写真)。
モンテレイが気に入ったフランキーは、ワールドシリーズ〔準決勝と決勝の3試合〕が行われるペンシルベニア州ウィリアムズポートに行く気満々で、編集長に今日の結果を報告すると、「ライリーが出社してるぞ」と言われる。「嫌よ」。「君は、手に負えんな」。「そうかも。でも、これは私のネタよ」。「スポーツ担当はライリーだ。君は、野球が嫌いだったんだろ?」。「家で赤ちゃんと仲良くしてれば、と言っといて」(1枚目の写真)。フランキーがかけている電話ボックスの外では、親切なクラレンス牧師が、古いバスを調達して来てくれた〔牧師が自分で運転する〕。「ウィリアムズポートに行かなくちゃいけないチームがあると、聞いたんでね」。「あんたは いい人だ。どうお礼したらいいか分からない」。「バスの中で子供たちが吐かないようにしてくれれば、貸し借りなしだ」。一方の電話。編集長は、「旅費はびた一文 出さんぞ」と脅す。バスを見ていたフランキーは、乗せてもらうことに決め、「行けるわよ」と返事する。「ハイヒールじゃ、遠いぞ」〔直線距離でルイビルの東北東820キロ〕。「バスで 行こうと思ってる」。バスの中でも、ハンドサイズの黒板を使ったセイザーの講義は続く。それが終わると、「練習だ!」と宣言し、「リカルド」と言うや否やエンリケにボールをぶつける。突然のことで驚くエンリケに、口癖 「予期しない時に、予期しないプレイ」。ノベルトは、「バスの中じゃ、走らなくていいもんね」とニコニコ(2枚目の写真)。ここでも、セイザーの方が一枚上だった。子供たちは、ゆっくり走るバスの脇を走らされる(3枚目の写真)。
ウィリアムズポートに着いた子供たちが、一番驚いたのは、町の中の人工の泉にお金を投げ入れている人がいること〔トレヴィの泉のアメリカ版〕。コーチは、「願いの泉だ。お金を投げ込んで、願いごとをする」と教えた後に、「バカげてる」と批判する。アンヘル:「あの女(ひと)、何 願ってるのかな?」。「さあな、健康か、子供か、何だっていい」。ここで、マリオ登場。「愛だよ」。「かもな」。「マリアのこと願ったら?」。「願えば、全て叶うわけじゃない」。次が、ワールドシリーズの機構が開いた記者会見。正面に立った会長は、「みなさん掛けて下さい」と記者に呼びかけるが、この皆さんは、“Ladies and gentlemen” ではなく、“Gentlemen” だけ。ここでも、差別がまかり通っている。だから、記者なのに、フランキーは立ったままでイスに座れない。その場には、メキシコの代表団(Mexican delegation)なるものが参加しているが、“delegation” にはいろいろな意味があるので、実態は不明。質問に移り、メキシコ・チームが本当に身体検査に合格したかどうか訊かれる。「体重で約35ポンド〔16キロ〕軽く、身長も約6インチ〔15センチ〕低いだけで、他は全てアメリカ人と同じでした」。他の記者が、「ファス・コーチ、あなたの選手は、アメリカの選手の大きさを気にかけてませんか?」と尋ねる(1枚目の写真、背の高さの違いがよく分かる)。セイザーがスペイン語で訊いて、答えを紹介する。「『試合するだけで、担(かつ)ぐわけじゃない』 と言ってます」。この答えは受ける。この会見日は雨なので、試合は延期となる。そして、準決勝は、明日、ダブルヘッダーで行われると知らされる。予定表を見たセイザーは、「順序を変えられませんか? 子供たちは2時半にプレイできません」と尋ねる。会長:「なぜだね?」。「シエスタの時間です」。これにも爆笑。誰にも怒りをぶつけられないセイザーを、牧師は宥める。「あんたは、従うしかない」。「俺の親友のホセは、硫黄島で殺された。小隊全員を救ったのに、それでも足りなくて、故郷の墓地に埋葬された。白人じゃないから」。「私の父は、リンチで殺された。逃れることはできないんだ、セイザー。さらに言えば、誹謗中傷されても、けんかを売ることもできない」。そのあと、さらに面倒が持ち上がる。メキシコ代表団の2人がやって来て、上から目線で、「セザル、明日はエンジェルを使え。彼の方が強い」と命じる(2枚目の写真)〔セイザーの、また別の発音〕。「明日は、エンリケの番だ」。もう1人が言う。「セサル、外国のチームが決勝まで行った例はない。彼が勝てば、歴史を作る」〔また発音が違う→これが正しい発音〕。「トロフィーがもらえる。エンジェルなら可能だ」。脅迫にも、セイザーは屈しない。「我々のローテンションは巧くいってる」。「いいか、はっきりさせておこう。これは命令だ」。いったい何様のつもりなのだろう? モンテレイを財政的に援助もせず、頭ごなしに命令するとは、アメリカ人よりひどい。その夜、宿舎で、セイザーは、ベッドで横になったエンリケの横に行き、「明日は、エンジェルに投げさせる」と話しかける。当然、エンリケは 「なんで、セニョール・ファス?」と反撥する。「いいか、これは俺のチームだ。だから、言われた通りにしろ。お前が どう思おうと関係ない」。それを聞いたアンヘルは、「『どう思うか』 が全てだよ」と批判する。登板予定の最強ピッチャーにこうまで言われると、試合は成り立たなくなる。結局、翌日の試合では、エンリケに投手を任せる(3枚目の写真)。「何 見てる? あっちで、ウオーミングアップして来い」。さっそく、そこに妨害が入る。「代表団」が球場まで入り込み、「セサル、言ったと思うが…」と文句を言いかける。「俺が死んだら、あんたがコーチだ。好きにやればいい」。「アンヘルに投げさせろ、でないと…」。「どうする? 解雇するか? 間に合わん」。「事実を暴露してやる」「セントルイスでのこと、知ってるからな」「セサル、子供たちのことを考えろ」。卑怯な男たちだ。セイザーは、「分かった」と言うと、アンパイアのところに行き、「あのファン、球場で何してるのかな?」と声をかける。2人を見たアンパイアは、「ユニフォームを着ていない者は、球場から直ちに出て行け」と命じる(4枚目の写真)。「誤解するな、私たちは メキシコの代表団だ」。「エルヴィス・プレスリーだろうが 構わん。すぐ立ち去れ!」。因みに、準決勝の第一試合は、モンテレイ対ブリッジポート。午後から午前に変更してくれた。
ここで、今の話を観客席で聞いていたタナー〔映画の最初に登場したセントルイス・カージナルスのオーナー〕が、セイザーに声をかける。「彼らは正しい。今日は、エンジェルに投げさせるべきだ。常に、ベストを尽くせ」。「ここで何してる?」。「君は、何でも個人的に考える。プロ野球はビジネスだ」。「そうかい? ここで、何のビジネスを?」。「君だ。君をスカウトに来た」。タナーの英語は難しいが、この次の言葉を台詞の時間に合わせて短く訳すのは大変だった。「You're causing quite a stir and boys upstairs figured anybody could bring these kids this far might deserve a second look(君らは、一大旋風を巻き起こしてる。あそこの子供たちだって、君がいたから出来たと、気付いてるだろう)」。「それで?」。「この大一番を勝てるかどうか、見てるぞ」。セイザーはダッグアウトに子供たちを呼び集める。「お前たちに、白状することがある。セントルイスで、俺は、本当は、コーチじゃなかった。副コーチでもなかった。タオルボーイだった」。ところが、子供たちは全員知っていた。そして、誰も、そのことを軽蔑などしない(1枚目の写真)。分かりきったことを言われた後のように、ノベルトが、「野球してきていい?」と訊く。準決勝の試合が始まる。「初回は、互いに譲らず1対1です」。次の2回表。「バルタザール、ライトにヒット」「ルイス、セカンドを回る」「ファス・コーチ 止めるが、ルイス サードを回ります」。結局、無謀な暴走は敵の意表を突いてセーフ。「誰が走れと言った?」。「コーチだよ」。「言ってない」。「言ったよ。『予期しない時に、予期しないプレイ』」。ここでも、この言葉が生きている。「モンテレイ、1点リードを死守して最終回を迎えます」「スコアリングポジションにランナー。1打出れば、ブリッジポートの勝利です」。そして、最後の局面。「ツー・アウト、ランナー セカンドとサ-ドで、ジミー・カルテローラがバッターボックスに。彼は、今日、ヒット、ツーベースヒットに続き、3打席目では大ホームランを放っています」。最大のピンチだ。セイザーはタイムを取る。エンリケ:「歩かせる?」。「とんでもない〔Not a chance〕」。「最後の2打席見たでしょ?」。「ああ、見たとも。すごいバッターだ。だが、奴は、誰でも考えるように、『敬遠される』 と思ってる。情けない奴だ」(2枚目の写真)。「ファーストが空いています。コーチは、エンリケに歩かせるでしょう」。観客席では、タナーが、「ファーストが空いとるのに、投げさせるのか? 正気じゃない」とブツブツ。エンリケがワインドアップ。「ヒットかアウトで、決勝に進出するチームが決まります」。結果は、空振りのストライク・ワン。そして、2球目。カルテローラが打ったところで、場面が切り替わる。試合が終わりダッグアウトに1人座ったセイザーに、タナーが近づいてくる。「もし、私がコーチだったら、エンリケには投げさせなかった。ブリッジポートで一番の強打者と勝負などさせなかった。モンテレイは幸いだったな。コーチが私でなく君で」。「カルテローラの当たりが、センター前ヒットになった可能性は?」。ここで、一瞬、回想画面となり、カルテローラの鋭い打球をエンリケが止める。「勇気の要る決定だったし〔decision took guts〕、勝ったじゃないか〔it paid off〕」。「あんたの言う通りだ」。「君には感銘させられた。来週 話そう」。そう言うと、タナーは名刺を渡す(3枚目の写真)。タナーが去った後、アンヘルが、「あれ、誰?」と訊く。「セントルイス・カージナルスのオーナー」。「僕らを見捨てるの?」。「もちろん、違う。今すぐ はな」。「なんで? あんな目に遭ったのに?」。「これは 俺が望んでたことだ、エンジェル」。「仕事?」。「違う、尊敬だ」(4枚目の写真)。バカにされ続けた人生だからこそ、出た重い言葉だ。しかし、それを受けてアンヘルが言った言葉もほろりとさせられる。「こんなに勝つ前から、僕ら 『尊敬』 してた!」。
その夜、「願いの泉」の前で、マリオが、「やるぞ!」と号令をかける(1枚目の写真)。ユニフォームのズボンを脱いだ子供たちは、一斉に泉に飛び込み、中に落ちているコインを靴下に詰め込む。フランキーがタイプを打っていると、部屋のドアが激しくノックされる。恐る恐る開けると、子供たちが靴下に入ったコインを見せる(2枚目の写真)。「テレグラマ〔telegrama:電報〕」。「電報?」。次の短いシーンでは、フランキーが窓口に1ドル札を出し、電報用の紙を受け取る。そして、マリオが手書きした長い原稿を元に電報を出した後、フランキーは、1人で泉に行って、靴を脱ぎ、中に入って余ったコインを戻す(3枚目の写真、矢印は落ちていくコイン)。そして、新聞の一面が表示される。見出しには、「Monterrey Beats Bridgeport 2-1. Faces La Mesa For Championship!(モンテレイ、ブリッジポートを2対1で下す。決勝でラ・メサと対戦)」と書いてある。
8月23日。ダッグアウトでは、選手たちに向かって「アーメン」と言ってお祈りを終えた牧師が(1枚目の写真)、セイザーに、「いつも訊きたいと思ってた。なぜ 詩篇の108なんだね?」と尋ねる。セイザーは、ボールを見せて、「縫い目が108」と教え(2枚目の写真)、牧師も納得する。牧師は、セイザーに、「子供たちが、試合前の 『励まし』 を聞きたがってる」とサジェスト。セイザーは、選手たちに、「エステバン神父が、激励の言葉を残してくれた」と言い、ルイビルで別れる前に、「決勝戦まで来たら読んでくれ」と言われたとも話す。その内容は、「守備についたら、フアン・ディエゴ〔「グアダルーペの奇跡」の主人公の農民〕のことを考えなさい。フアンが司教に脅されたことを。彼は逃げ、妻を失い、瓶の中に隠れた〔※〕。それは、まさに、9回裏ツー・アウトだった。フアン・ディエゴがアンプ〔アンパイア〕を責めようとしても、試合は行き詰まり、彼は丘を越えた。そして、決勝打を放ちヒーローになった。彼のように神への信仰を貫けば、君たちは、ラ・メサ〔対戦相手〕に底力を見せられる」。ノベルトは、「神父さんは、相手がラ・メサだと、なぜ分かったの?」と訊く(3枚目の写真)〔神父は、ルイビルでの南部地域トーナメントの開始前に帰国したので、その時点では、北部地域のことなど予想不可能だった〕。「聖職者だろ」。実は、コーチが神父から、「渡された」と言った紙は白紙だった。全てはセイザーの創作で、だから、※印の部分のようなめちゃめちゃな内容も入っていたし、対戦相手も挿入できた。選手たちは、一斉に球場に出て行く。「国境の南から来たモンテレイは、ウィリアムズポートで開催されたワールドシリーズで、最小最軽量のチームです」。大観衆の中には、マリアと父の姿もあった(4枚目の写真、矢印)。「パパ、彼よ。あれが、シーザー・ファス」。「ずい分 小さいな。教会の中では、高く見えたのに」。
セイザーは、アンヘルに、「どんな感じだ?」と訊く。「こんなに沢山の人の前で投げるの初めてだ」。「沢山? お前と話してる俺しか見えんぞ」(1枚目の写真)。アンヘルを「さあ やれ」と送り出した後、メキシコから駆けつけたラジオ・キャスターが挨拶に来る。「今朝、メキシコを発ち、スペイン語で放送するために来ました。預かり物があります」。預かり物とは、エステバン神父が渡した封筒だった。中を開けると、お金とメダルが入っていた。しかし、セイザーは忙しいので、メダルのことはすぐに忘れてしまう。中継席では、英語とスペイン語が交錯する。英語のアナウンサーは、ラ・メサ寄りで、「ラ・メサは、すべての挑戦者を圧倒。今日の最終決戦に対しても 準備万端で、モンテレイの奇跡に終止符を打つ決意です」と語る。そして、国歌がレコードでかけられる。「プレイ・ボール!」。「ラ・メサの投手ルイス・ライリーがバッターボックスに。身長は5フィート9インチ半〔177センチ〕、モンテレイにとって最も背の高い投手です」「エンジェル・マシアス、ワインドアップ。1957年の決勝戦、投球第一号です」。1球目はボール、2球目はライトにヒット性の当たりだったが、無事キャッチ。一方、モンテレイの製鉄所では、遂に工員の怒りが爆発する〔これまでの試合でも何度も頼んだが、ボスはラジオすら聴かせてくれなかった〕。「ボス、こんなのおかしい! 最後の試合だ! 決勝戦だぞ!」。この言葉を聞いたアンヘルの父は、持っていた鉄板を床に叩き付け、出て行こうとする。ボス:「マシアス、どこに行く?!」。「野球だ!」。「今すぐ持ち場に戻れ! でないと首だ!」。「俺たちの息子が、野球をしてる!」(2枚目の写真)。他の工員もそれに呼応してどんどん出て行く。ボスにはどうしようもできない〔いい気味〕。ラ・メサが1回表、無得点に終わったところで、マシアスたちが町の中心に設けられた「ラジオの周りの応援所」にやって来る。マシアス:「席を取ってくれたのか?」(3枚目の写真)。妻:「ここで 何してるの?」。「これを、逃したくなくてな」。
「試合は、投手対決〔due〕となりました。ルイス・ライリー、エンジェル・マシアスとも、得点を許しません。今までのところ、0対0です」。スコアボードに0の数字がどんどん並んでいく。「エンジェル・マシアスと小人たち〔band of pint sized〕は巨人を寄せつけず〔giant killers〕、ラ・メサのバッターにファーストを踏ませていません〔haven't allowed〕」「決勝戦は、5回裏まで来ました」。ここから、映画は、野球映画らしくなる。「試合は、0対0のまま、モンテレイのリカルド・トレビノを迎えます」。先頭打者のリカルドはデッドボールを受けファーストへ。「モンテレイは、これまでも走者を出してきました。しかし、得点に結びつけられずにいます」「次の打者は、バルタザール・チャール」。セイザーは、「リカルドが 確実にセカンドに進めるよう、バントしろ」と命じる。バルタザールのバントは巧く、セカンド、ファーストともにセーフ。次の3人のバッターに対し、セイザーは、「いいか、思い切り振れ、3人いれば必ず勝てる」と指示する。3人のうち1人目はアンヘル。深いフライでワン・アウト。ランナーは動けない。2人目はペペ。左中間を破るヒット。しかし、セカンドにいたリカルドは、好返球のためホーム上で刺されてツー・アウト。「好守が、ラ・メサを危機から救いました! モンテレイは、絶好の好機を逃しました」。なお、バルタザールはサード、ペペはファースト。そして、3人目のマリオは、「サード方向に高いバウンドのゴロ」。バルタザールは動けなかったが、ペペはセカンドに進み、マリオはファーストを確保。「モンテレイ、満塁です」。そして、バッターボックスに入ったのがエンリケ。このところ、5打席連続ノーヒットと不調。連続して空振りでストライクを取られた後の3球目。投げられたボールを見つめるエンリケの映像に、以前の神父の言葉、「ハチドリの羽が見えたら、どんな球でも打てる」が流れる(1枚目の写真)。「エンリケ・スワレス、ルー・ライリーの速球を捕らえウィリアムズポートの町に運びました。場外満塁ホームランです!」「我々は、ダビデとゴリアテの野球版を、目の当たりにしています」。次のフィデルはフライでスリー・アウト。波乱の5回裏が終わる。「試合の運命は、エンジェル・マシアスの右腕に懸(かか)っています」。ダッグアウトでは、セイザーが、「みんな、最終回だ。やり遂げるぞ。集中しろ」とハッパをかける。リカルドが、「アンヘル、お前のピッチング、今、パーフェ…」と言いかけ、セイザーが慌てて口を押さえる(2枚目の写真、矢印は1人離れて座っているアンヘル)。「いいか、このこと、一言でも彼には言うな。誰もだぞ」。
「モンテレイの守備が踏み留まれば〔hold on〕、勝利は目前です。ウィリアムズポートでは、さらなる奇跡が行われようとしています〔unfolding〕。本塁ベースまでの60フィート〔マウンドまでの距離〕が、エンジェル・マシアスと 『歴史』 とを隔てています。もし、ラ・メサの選手がファーストを踏めば、エンジェル・マシアスの球史に残る不朽の名声〔immortality〕は立ち消えます。誰が、ぶち壊すか?」。そして、中継は続く。「先頭打者が、エンジェルの初球を打った。山のようなポップフライ。エンリケ・スワレスがキャッチ(1枚目の写真、矢印はボール)。矢のような速度で内野に返球します」。次が2人目。代打だ。「シュウィア、内野ゴロ」「ファーストに誰もいない! パーフェクト・ゲーム成らず!」「待って! ノベルトが突如現れ、タッチアウトだ!」(2枚目の写真)。観戦していたタナーは、「リトルリーグのキャッチャーが、ファーストまでランナーを追ったの見たのは初めてだ! すごいコーチの指導だな! 素晴らしい!」と絶賛する。セイザーが、ノベルトに、「信じられん、ベルト! 危機を救ったな〔You saved the day〕!」と褒めると、「もう走らされるの、嫌だから」と返事する〔ワールドシリーズ出場を決めた試合の後の個別注意で、ノベルトが、「ランナーと一緒に、ファーストまで走れって言うの?」と反論し、10周走らされたことが教訓になっている〕。町中で応援しているモンテレイでは、神父が、「あと1人ですぞ」と興奮状態だ。
3人目を迎える前、アンヘルがなんとなく球場を見ると、仲の良い親子が見える(1枚目の写真)。この光景は、アンヘルに、自分を蔑んできた父のことを思い出させてしまう(2枚目の写真)。画面では、家を出る前に、父が、「許した覚えはないぞ」と言い、アンヘルが、「パパ、僕 行くよ」と悲壮な覚悟で言った場面がフラッシュバックされる。そして、第一投はキャッチャーが立ち上がるほどのボール。二投目はもっとひどいボール。三投目は地面ぎりぎりのボール(3枚目の写真、矢印)。セイザーは、たまらずタイムを要求する。「少年にとって重圧は何か? ワールドシリーズでの優勝か? パーフェクト・ゲームの達成か?」。
アンヘルは、セイザーに、「やめさせてくれる?」と頼む。「俺たち、やめるために来たんじゃないだろ?」。「それがどうした? どうせ、見捨てるくせに」。「みんな お前に期待してる〔counting o〕」。「違う。みんな じゃない」(1枚目の写真)。「そいつは誰なんだ?」。「パパだよ。僕を恥じてる」。セイザーは、それを否定し、「渡すの、忘れてた」と言ってメダルを渡す。「どこで手に入れたの?」。「お前の父さんからだ。お前のことを 誇りにしてる」。アンヘルは、首にかけられたメダルを手に取りキスする(2枚目の写真、矢印はメダル)。「お前ならやれる、コーファックス」。アンヘルは、1人になると、「僕は、サンディー・コーファックスじゃない。アンヘル・マシアスだ」と言い切り、投球する。「目の覚めるようなストライク!」。次もストライク。球場からは、アメリカ人の観衆が99%にもかかわらず、偉業達成を目前に、「エンジェル」コールが起きる。そして、3球目は空振りの三振(3枚目の写真、矢印はボール)。アンヘルは飛び上がって喜びを爆発させる(4枚目の写真)。
映画では、4つの喜びのシーンが使われる。一番熱狂的なのが地元モンテレイ(1枚目の写真)。エステバン神父が修道女と抱き合ってしまい、慌てて離れるシーンが微笑ましい。2つ目は、フランキーの新聞社。フランキーは球場にいるので、残りの記者が大喜び(2枚目の写真)。3つ目は、フライドチキンの店。親切だった店の母娘が大喜びする。最後は、アンヘルたちが通った国境検問所(3枚目の写真)。球場では、アンヘルが選手たちに担がれている。セイザーはグラウンドに出て来たマリアを見て驚くが、この機会を利用して、「君に話しがあるんだ」とすかさず言う。「私もよ。初めは腹を立ててたけど、父が、あなたから電報を受け取って、言ったの。ウィリアムズポートに行こう、って」。電報など打ってないセイザーは絶句するが、マリオの顔(4枚目の写真)を見て事情が分かる。「ああ、電報だよな」。ここで、マリアの父が話しかける。「セニョール・ファス、お目にかかれて光栄です」。「こちらこそ、光栄です」(5枚目の写真)。これで、2人の結婚は決まったも同然だ。
「メキシコからやってきた ちびっ子〔little tykes〕が、リトルリーグを制覇した初の外国チームになりました。4週間前、この子たちは砂漠を歩きましたが、優勝した今となっては、歩いて帰ることはありません」。8月25日にニューヨーク州ブルックリンにあったエベッツ球場を訪れたモンテレイ・チームの古写真を背景に、説明が流れる。「最初は、ブルクリン・ドジャースに招かれ、エベッツ球場へ。そこで、ロイ・キャンパネラやデューク・スナイダーと交流。男の中の男スタン・ミュージアルは、エンジェル・マシアスと勝負のパフォーマンス」。背景の写真が変わり、「子供たちは、自由主義世界最大の野球ファンの家に招かれました。アイゼンハワー大統領です。アイク〔大統領の愛称〕は、トロフィーと一緒に記念写真に収まりました」。1枚目の写真・左は、パーフェクトを成し遂げた時の記念のボール。「Monterrey Mexico 4, La Mesa California 0, No Hit No Run – Perfect Game」と書かれている。1枚目の写真・右はアイゼンハワー大統領との記念写真。トロフィーを持っている(矢印)のはアンヘル。その後、一行は飛行機で帰途に着く。実際にはメキシコシティに行き大歓迎を受けるが、映画ではモンテレイに直行する形になっている。空港に着いた飛行機のドアから最初に降りてきたのはアンヘル(2枚目の写真)。そこには父が待っていた。アンヘルは、父の前まで行くと、「パパ、長いこと雑用しなくて ごめんね」と謝る。「チャンピオンは、雑用など後回しだ」(3枚目の写真)「行くぞ。モンテレイが、ヒーローに会いたがってる」。4枚目の写真は、当時の記録映像(矢印はアンヘル(?))。
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