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少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Box 27 ボックス27番

フランス映画 (2016)

パリの地下駐車場の中に並んでいる小さな貸倉庫〔ボックス=箱〕。当然、電気もなければ、水道もトイレもなにもない真っ暗な世界。そこで暮らしている父と10歳の少年。その少年トムは、父と大の仲良しで、性格は素直、心優しくて、成績は抜群。そんなあり得ないくらい幸福な状況は、ある日、1人の意地悪女が、カフェのトイレでいつも洗濯をしている親子がいると、全国危険児童電話受付サービスに通報したことで、児童社会援助事務所の注意を引き、熟練のソーシャルアシスタントが派遣される。彼女は、親子の愛情の深さは、ボックス住まいに優先すると考えて処理しようとするが、対抗意識の強い別の悪いアシスタントが資料を盗み、所長に密告したことで、すべては破綻する。トムは施設に強制収容され、元の学校に通うようになるが、施設でも学校でも一言も口をきかなくなる。父はホームレスとなって路上生活を送らざるをえなくなる。こうした児童社会援助行政の不合理さに反対の手を挙げたのは、トムが通っていた学校の父兄たち。解雇はされなかったが、強制的に有給休暇を取らされることになった、熟練のソーシャルアシスタントと手を組んで、トムとその父を救う手立てを考え、マスコミやネットを利用して救済に乗り出す。この映画は、TV映画ではあるが、児童福祉行政のなかにある非人道性を指摘し、普通はそうしたことに興味を持たない父兄や校長の団結という心温まる行為による、事態を改善に導こうとする姿を描くことで、観客に感動を与えてくれる優れた作品だ。ただ、唯一の問題点は、フランス語の字幕が存在しないこと。あらすじの中で例をあげて指摘したように、英語字幕はどこか変なので、基本的にオランダ語字幕を使用し、補助的に英語字幕を参考にした。

主人公のトム役は、マリウス・ブリヴェ(Marius Blivet)。2015年にTV映画に出演してから、TV映画かTVドラマだけに出演し、2022年に至っている。

あらすじ

タイトルが表示されると、薄暗いベッドの上で、10歳のトムが黄色のスポーツカー〔玩具〕で遊んでいる。そこに、ネズミのパペット人形を左手にはめた父ヴァンサンが、警官の真似をして、「スピード違反だ」言い、トムは 「スピードなんか出してません、おまわりさん。ゆっくり走ってました」と弁解し、父は 「時速350キロは、ゆっくりなのかね?」(1枚目の写真)「この車は、危険運転のため、すぐに路上から撤去しないといかん。パパが仕事に行ってる間」とひょうきんに言って、玩具を取り上げる。それを聞いてトムは笑顔になる(2枚目の写真)。「罰は…」。「くすぐっちゃダメ」。父は、ふざけてくすぐった後、思い切りハグする(3枚目の写真)。2人がすごく幸せな関係にあることがよく分かるスタートだ〔実際はもっと暗いのだが、写真は 表情が見えるよう明るくしてある〕。トムはベッドで寝る準備をしながら、「パパ、僕が起きる前に戻ってくる?」と訊く。「約束する」。そう言うと、いつもトムに言わせるルールを言わせる。「もし、誰かがドアにやって来たら?」。「何もしない」。「ドアから出て行く時は?」。「誰も外にいないって、ちゃんと確認する」。「通りでは?」。「誰とも話さず、ヴァレリーのトコに行く」。「完璧だ」。父は、トムの額にキスすると、ベッドの前にあるカーテンを引く。そして、父がどこかの工場の中で、資材運びの単純労働をしている姿が映る。
  
  
  

朝になり、夜中中の仕事を終えた父は、もう戻っている。そして、トムのベッドの奥にある壁に取り付けた窓を開けると、野原と青空が見える(1枚目の写真)。そして、ぐっすり眠っているトムを優しく起こし、着替えさせると、ドアを少し開け、自動車の音が聞こえたので様子を窺い、問題なしと判断するとドアを開け、トムを外に出す(2枚目の写真)。3枚目の写真は、その直後に映される全景。奥の方には地下駐車場があるが、手前に並ぶたくさんの幅広のドアの施設を何と呼んだらいいのかは分からない〔映画の中やレビューでも目的な正式名称が書かれていない〕。実態は、一種の小規模な貸し倉庫のようなものであろう。だから、1枚目の写真に映っていたのは、父がトムのために用意した偽の窓枠と、そこに貼られた野原と青空を描いた絵でしかない。しかも、後から、この倉庫(映画の題名に合わせて、今後は「ボックス」と表記する)内には、電気も水道も通っていないことが分かるので、この窓は、電池(?)を使って明るくしているだけなので、短時間しか使えない。
  
  
  

フランス政府のサイト https://www.justice.gouv.fr/ の「La protection des mineurs en danger(危険にさらされている未成年者の保護)」という項目では、ASE (l’Aide sociale à l’enfance、児童福祉)部門が担当と書いてあった。その部門の下にある児童保護サービスの会合で、口髭の所長の左隣の席に、ソーシャルアシスタントのパトリシアという女性が会合に遅れて入って来て着席する。そして、話題が、レオンという少年のことだと知ると、すぐに、レオンの母と祖母はアルコール依存症だが、「祖母は、7ヶ月禁酒しています。AA(アルコール依存症匿名)集会に欠席したことは一度もありません」と庇う。それに対し、その左に座っているナディアという女性が 「彼女は2013年に再発しています」と、映画の時点が2015年とすれば、2年も前のことを取り上げて批判する」〔後で、このナディアは最悪の女性(この映画で一番の悪役)だと判明する〕。それに対し、寛容なパトリシアは、「一度の誤りも許されないの? 子供たちを他の場所に預けるのは、最後の手段と考えるのが、私たちの義務ではないですか?」と諫める(1枚目の写真)。これに対し、融通性ゼロの所長は、「私たちの仕事は児童を保護することにあります」と言い、悪辣なナディアに担当させる〔恐らく、レオンは施設に送られる〕。所長は、新しい情報について言及する。上記のサイトによれば、全国危険児童電話受付サービス(SNATED)に電話で情報が入ると、報告書が作成され、家族の状況を評価するために子供が住んでいる部門の関連情報収集室(CRIP)に送られ、それを元にASEでどうするか判断すると書かれている。この場合、カフェの掃除係からの通報があり、父親はヴァンサン・カサーニュ、児童は息子のトム。父親はしばらく働いておらず、子供はいつもカフェにいるという内容だった。そして、パトリシアがその担当となる(2枚目の写真)。
  
  

ここは、1つ飛んで前の節の続き。地下駐車場のボックスから出て、斜路を上がって路上に出た2人は、近くの馴染みのカフェのトイレに行き、狭いスペースの中で父は歯を磨き、トムは手を入れた袋状のタオルで顔を拭いている〔ボックスには水道がないので、こうするしかない〕。そこに客が用を足しに来て、“何だこいつら” というような顔で見られる(1枚目の写真)。2人は、そのあとカフェのテーブルに着く。トムが、学校のクラスでやる劇が『僕の友だちテオフィル』に決まったと話していると、カフェの女性がトム用にクワッサンを持って来たので、トムが 「ありがとう」と言うと、優しいヴァレリーは、「いいのよ〔De rien〕」と言ってトムの髪を撫でていく(2枚目の写真)。父:「どんな役を演じるんだい?」。「分んない。先生が決めるんだ」。2人が店を出て行くと、店に向かうパトリシアとすれ違う〔この時点で、お互い面識はない〕
  
  

カフェの店主と会ったパトリシアは、ヴァンサンの住所や電話番号について尋ねるが、店主は両方とも知らないと答える(1枚目の写真)。「ここには、たくさんの人が来るんだ」。「そうでしょうね。カサーニュさんは、ここの常連ですか?」。「子供と一緒に、時々、朝食を食べに来るくらいかな」。「お酒は飲みます?」。店主が、「ヴァレリー、チビ助の父さんが、酒を飲んでるの見たことあるか?」と訊き、「いいえ」との返事がある。「カフェのトイレで、洗ってると聞きましたが」。「あんな狭いトコで、無理だと思うが、見てみたらどうだね?」。「いいえ、結構です」。それだけ訊いてパトリシアは出て行く。トムの学校では、担任の女性教諭が、『僕の友だちテオフィル』の登場人物について話している。最初にホワイトボードに書いたのは、テオフィル、そして、ポール、シャルロット、動物3匹と続く。その時、教室のガラスのドアから、校長に連れられてきたパトリシアが、トムと、隣に座っている仲良しのマティスを見ている(2枚目の写真)。「みんなに好かれ、屈託のない幸せな少年。成績も振る舞いも、素晴らしいわ」。
  
  

その日の授業が終わると、トムはマティスと一緒に出て行く。マティスは、待っていた母のジュリエットに、「先生は、トムをテオフィルに選び、僕はポールなんだ」と、2人とも主役だったと嬉しそうに報告する。そして、トムは、父に 「マティスの家に泊って練習してもいい? 『いいよ』って言ってよ、パパ」と頼む(1枚目の写真)。しかし、父の顔は明るくならない。「事前に教えてくれたらよかったのに。パジャマも持ってないんだぞ」。それに対し、ジュリエットは、「夕食にいらして、その時、入り用なものを持って来られたら?」と言い(2枚目の写真)、夕食を辞退する父に向かって、トムと、マティスは、両手を合わせて、「お願い」と頼み(3枚目の写真)、父は、飲み物だけもらうことでOKする。
  
  
  

ジュリエットと2人の子が喜んで車に向かっていなくなると、そこにパトリシアがやって来て、自己紹介した後で、「いくつか質問させて下さい」と言う。「質問って、何の?」。「あなたの息子さん、トムについて」。「彼が何か?」。「いいえ、何もしていません。ご安心下さい。あなたの家で、お話ししたいと思うのですが」(1枚目の写真)。「私の家で?」。「ええ。まだ、Allé des Aubépines〔架空〕に住んでおられますか? 電話がつながりませんでした」。「契約を解除しました」。「朝の9時半に、あなたの家でいいですね?」。「どうしても?」。「ええ」。まず、地下駐車場のボックスに行ったヴァンサンは、夜、トムに渡す物を用意する。そして、フレッドという男にスマホで電話するが、留守録だったので、緊急事態なので折り返し電話を欲しいと言って切る。マティスの家では、トムはバスタブの湯の中に潜って幸せな時を過ごす。そして、父がやってくると、ジュリエットと父が並んで座ったソファの前で、マティスと並んで立つと、劇の台本を時々見ながら台詞を言い合う(2枚目の写真)。それなりに上手にできたので、2人はマティスの部屋に遊びに行く。ヴァンサンと2人だけになると、パトリシアが、「マティスに本当の友だちができたのは、これが初めてなんです。人慣れしないタイプなので」と言うと、ヴァンサンは 「面白いですね、トムも同じなんです」と答える(3枚目の写真)。「もう一度、これをしましょう。このくらいの年齢だと、子供たちは友だちの家に泊るのが大好きですもの」。「そうですね」。その時、スマホに着信があったので、相手のフレッドに 「2秒待ってくれないか」と頼むと、パトリシアの親切に丁寧に礼を言い、友好的なムードで家を出て行く。そして、夜遅いにもかかわらず、そのままフレッドのアパートに直行する。
  
  
  

2人の最初の挨拶から、2人が久し振りに会ったことが分かる。それにも関わらず、ヴァンサンはフレッドに、「助けて欲しいんだ。児童保護の連中とモメてる」。「何したんだ?」。「何もしてない。あいつら、私がこの区間にまだ住んでると思ってる」。「なんで、今どこにいるんだ?」。「ちょっとゴタゴタしててね。明日の朝、児童保護の女性と会わないといけない。だから、彼女をここに連れて来たいんだ」。「何だって? 何ヶ月も会ってなかったのに、突然現れて…」(1枚目の写真)。「トムのためなんだ。今、住んでる場所を、彼女に見せることなんか とてもできない。息子を連れ去られたくなんいだ」。この言葉に、フレッドは渋々了解する。その夜、日雇いのヴァンサンは仕事に行くが、終わって日給をもらった後、担当者は全員に対し、「明日は来なくていい」と言う。日雇いの厳しさだ。そして、そのまま歩いてフレッドのアパートに行き、鍵を渡してもらう(2枚目の写真)。さっそくアパートに入って行くと、ボックスから持って来た写真立てを飾ったり、きっと見に入ると思われるトムの寝室〔フレッドの寝室〕のベッドの枕元に、映画の冒頭に出てきたネズミのパペット人形を置き、その他 持って来た物を床にばらまく(3枚目の写真、矢印はパペット人形)。
  
  
  

その時、早くも部屋の呼び鈴が鳴る。パトリシアは会話の冒頭から、①ヴァンサンが写真家のボーモントに解雇され、何年も失業していたこと、②その場合に支給されるハズの生活保護受給について、ヴァンサンが3回連続で会議に欠席し、召喚に応じなかったため、受給資格を失ったことを話す。そして、②の理由を訊く。ヴァンサンは、ちょうどその頃、自分の妻、トムの母が亡くなり、心に大きな打撃を受け、何とか気持ちを切り替えようとしていた時、受給資格を失ったと話す。その後のパトリシアの発言は奇妙。「ここに住まなくなったのは、いつからですか?」(1枚目の写真)〔なぜ、そのことに気付いたのか? 昨日は、「まだ、Allé des Aubépinesに住んでおられますか?」と訊いているので、その段階では、ここに住んでいないとは知らなかった〕〔フランス語の字幕が存在しないので、正確なことは分からない。この箇所はオランダ語字幕の訳。英語字幕では、「あなたが、もうここには住んでいないのは知っています」と、もっと奇妙になるので、使用しなかった〕「あなたのような人たちを、私は職業上毎日目にします。彼らは一人でやりたがり、誰も信用しません。私は敵ではありません。あなたを助けたいのです。難しいことは確かですが、住居であっても私たちは解決策を見つけることができるでしょう。あなた一人では何もできません。私を信頼してください。あなたを助けるのが私の仕事です。そのために給料をもらっています」〔敢えて訳したのは、抄訳する勇気もなかったから。というのも、この重要な会話、唯二存在する英語とオランダ語の字幕が全く違っているから。ここでは、両方混在させて、それらしく訳してみたが、「住居であっても私たちは解決策を見つけることができる」が間違っている可能性がある(この部分はオランダ語字幕。英語字幕の訳は 「住む場所さえあれば、解決策は見つかります」)〕〔何となくオランダ語字幕の方が正しいそうな気がするのは、この映画が最初に公開されたのはベルギー。そして、ベルギーはフランス語圏とフラマン(オランダ)語圏に分かれているので、自国言語の一つ。だから、外国語の英語よりは正しいのではないかと推測される〕。意を決したヴァンサンは、パトリシアを地下駐車場のボックスに連れて行く。優しいパトリシアは、先ほどの話に出ていたトムの母とトムが映った昔の写真を見て感動する(2枚目の写真)〔この先2枚の映像は 実際にはもっと暗い〕。「トムはお母さん似ね。トムは学校が好きだと聞きました」。父は、トムのことを褒める(3枚目の写真)。それを聞くだけでも、パトリシアには、この父と子が非常に巧く行っていることが分かる。パトリシアは、さらに、ヴァンサンの家族についても尋ねる。①トムの母は孤児、②ヴァンサンは自分の父親が誰か知らない、③ヴァンサンは母親と会ったことがない(ヴァンサンはいらない子だった。母はカナダ人と再婚し、カナダに住み、トムの誕生を知らせた手紙に返事も寄こさなかった)。パトリシアは、最後に、「ヴァンサン、このままではダメよ」と、砕けた口調で言う。「『このまま』? 必要な物はすべて揃ってるよ」。「そんなことない。水も電気もないし、寒いわ。このままじゃダメよ、ヴァンサン」。ヴァンサンは、「私はトムの母親に約束した。トムを放っておくつもりはない」と言い、それを聞いたパトリシアは、「今のところ、あなたに関するファイルはそのままにしておきましょう〔ここもオランダ語字幕〕。条件は、あなたと私がトムにとって最善の解決策を探すことよ」と、ボックスに住んでいることは伏せておくという寛大な措置を告げる。
  
  
  

次の3枚は、最初の1枚を別にすれば、それぞれ、少し先の場面なのだが、関連しているため1ヶ所にまとめておいた。1枚目の写真は、事務所に戻ったパトリシアが、愚かなことに、“児童保護に対する暖かい心など一切なく、お役所仕事のつもりでしか対応しようしない” 悪女のナディアに、ヴァンサンとトムのことを話してしまったシーン。「本当に狭いボックスで、そこに、父と息子が持ち物全部を持って住んでるの。子供はいつも笑顔で、学校では良い成績を収め、友達もたくさんいる… 素晴らしいことだわ。父親の愛情さえあれば、子供は、ボックスで暮らすことなど全然気にしていない。私が何年も主張してきたことが証明されてるのよ」。そして、次の節が終わった後で、ヴァンサンとトムにかんするファイルに入った鞄を置きっ放しにして、どこかに行ってしまったパトリシア。悪女ナディアは、そのテーブルに座ると、鞄の中からファイルを取り出し、ボックスについて書かれた紙を1枚抜き出し、残りのファイルを鞄に戻す(2枚目の写真、矢印は1枚の紙)。そして、抜き出した1枚の紙を自分の鞄に入れる。そして、さらに、もう1つの節が終わった後で、事務所の中のナディアのいる部屋に所長が入って来て、「君は、気が狂ったのか? なぜ、私に嘘をつき、情報を隠したのだ? 緊急事態なんだぞ! 10歳の子をボックスなんかに住まわせて!!」(3枚目の写真)。「でも、考慮すべきことがあります」。「その子の成績が良くて、友達がいようが、そんなことはどうだっていい! 彼には水も電気もないんだぞ! 善意だけで、人を助けることはできん! 私たちは困っている人を助けようと努力する。いつもうまくいくとは限らんが、チームとして協力し、ルールは守らんといかん! この件はナディアに引き継いだ。私が直接監督する。児童裁判官には連絡した。この件は忘れろ。有給休暇が残っているだろうから、今すぐ休暇を取って出て行きたまえ」〔この所長も、悪女ナディアと同じくらい、官僚主義的で、児童保護の本質が全く分かっていない〕
  
  
  

前節の1枚目のパトリシアが悪女ナディアにトムのボックス住まいについて話した日の夜、カフェで待っていたトムのところに父がやって来て、「トム、遅れちゃった。大丈夫か?」と訊きながら額にキスする(1枚目の写真)。そして、テーブルに出してあった本をバッグにしまうと、閉店後もトムを置いておいてくれたヴァレリーに感謝する。その時、ヴァレリーは、「児童保護から女性が来たわよ」と注意する。ヴァンサンはパトリシアだと思って何も心配しない。ヴァンサンは 「知ってる。もう話した。ありがとう」と言って、トムと一緒に店を出て行く。ヴァンサンは店の通りに面したガラスを拭いていた年配の掃除婦に、「あんた、児童保護に話したんでしょ?」と非難する。「だから?」。「意地悪な人ね」。「あの子、ここでウロウロして、トイレで洗ったりしてるのよ」。「あの子は、お父さんと一緒ですごく幸せなの」。「幸せ? ここで洗濯してるなら、どんなトコに住んでるの?」(2枚目の写真)「何もしなきゃ、危険にさらされた子供を救えないでしょ」。ヴァレリーは、「メダルが欲しいんだ。チョコレートの。あんたの心みたいに真っ黒な」と皮肉る。それの言葉に対して掃除婦が怒ると、それまで黙っていた店主が口を出す。「そりゃあ、我慢できんだろう。今日は月末だ。給料をもらったら、明日からもう来なくていい」(3枚目の写真)。掃除婦が何と言っても、店主の意見は変わらない〔これには深い理由のあったことが後で分かる〕
  
  
  

児童保護サービスで、所長に今日の成果を訊かれたパトリシアは、「優しい父親、幸せな子供、素晴らしい成績、残るのは居住スペースだけです」と、所長にボックスを悟られないよう報告する。それを聞いていた悪女ナディアが、2節前の資料の盗み出しをする。場面は、ボックスに向かう2人に変わり、トムは、お風呂が最高に良かったと話す。そして、ボックスに戻った父は、夕方に聞いたトムの演技の手伝いをしようと、トムのベッドに座り、台本を見ながら、相手役の台詞を自分が言い、トムに暗記した自分の台詞を言わせ、それをスマホで録画する(1・2枚目の写真、矢印はスマホ)。トムは、時々つかえながら(3枚目の写真)、台本なしで、伸び伸びと台詞を言い終える。それに対し、父は演技指導を行い、もう一度最初からやり直す。そして、トムが上手にこなすと、抱きしめてキスをする。本当に仲の良い親子だ。トムがベッドに入ると、父はまた、トムが起きる前に戻って来るといい、夜の日雇い労働に出て行く。しかし、この夜の仕事は、募集人員が少なく、専門的な内容だったため、ヴァンサンは仕事をもらえなかった。
  
  
  

翌朝、3つ前の節の最後のシーン、パトリシアが所長に怒鳴られて出勤停止にされる場面が入る。そして、トムを学校に送った後で ヴァンサンがスーパーで野菜や果物入った木箱の搬入のアルバイトを行い、すぐ横では、ホームレスの男性が、廃棄された箱の中から何か食べられる物がないか探している場面に変わる(1枚目の写真、矢印)。アルバイトはすぐに終わり、買い物した後でボックスに戻ろうとすると、駐車場の入口にパトカーが停まっている(2枚目の写真)。ヴァンサンは、すぐに地下駐車場への斜路を駆け下り、奥まで入って行くと、斜路の陰に隠れて様子を窺う(3枚目の写真、矢印)。そこでは、児童保護サービスの所長が、ボックス27の南京錠を金具で断ち切っていり、中に入って行く。所長は、懐中電灯で中の様子を見ながら、ひたすら、その狭さに驚いている〔彼にとって大事なのは居住環境だけで、子供の幸福、愛情、成績など、どうだっていい〕
  
  
  

トムが、児童保護サービスによって拉致されることを恐れたヴァンサンは、すぐに学校に向かう。そして、放課中で、校庭で遊んでいたトムを柵越しに呼び寄せ、柵を登らせて学校から連れ出す(1枚目の写真)。そこに、児童保護サービスの車がやってきたので、2人は全力で走って逃げる(2枚目の写真、矢印は所長と悪女ナディアを乗せた車)。そのあと、車はしつこく2人を追って来るが、ヴァンサンは公園の中に逃げ込み、コンクリートの塀の陰に隠れる(3枚目の写真)。その時、スマホの電話がかかってくるが、ヴァンサンは聞いている余裕などないので無視する。それは、パトリシアからで、「あなたのファイルが取り上げられ、私は追い出されました。すぐに会いたいです。トムの家庭外配置については慌てない。法廷では、協力して取り組めば有利に働くでしょう。すべては冷静に行う必要があります。できるだけ早く、折り返し電話して下さい」という内容〔留守録に入ったので、ヴァンサンの行動から後で聞いたらしい〕
  
  
  

この映画は、全編パリ市内でのロケだが、場所はほとんど分からない。2人は歩き続け、ようやく見たことのある場所の前に到達する。そこは、セーヌ河左岸にあるオステルリッツ駅にメトロ5号線が入って行く地点で(1枚目の写真)、メトロ5号線は駅に入る前に、オステルリッツ高架橋でセーヌ河を渡る。両者の関係の分かる適切な航空写真がないので、Google mapの航空写真を斜めから見た映像を2枚目に示す。そのあと、2人がメトロの地下駅から階段を登った背後に、オペラ座が見える〔オステルリッツ駅の1枚目の写真の場所からちょうど4キロ北北西〕。そのあと、暗くなってから、2人は一方通行の狭い道沿いの繁華な商店街を、ポップコーン(?)を食べながら歩く(3枚目の写真)。ショーウィンドウの中のきれいな飾りを見るのはトムにとって楽しい体験だった。
  
  
  

場面は一転。カフェの店主〔恐らく、ボックス27番の所有者であることが判明〕が逮捕されて連行される(1枚目の写真、矢印)。ヴァレリーが、「信じられない。なぜ、こんなことしたの?」と訊くと、店主は、「路上生活よりマシだ」と反駁する。「月に250ユーロも払わせて?」〔2015年夏のレートでは約35000円、ボックスの借り賃が分からないので、慈善行為だったのか、悪徳商法だったのかは判断できない〕。それを見ていた別の男が、「あいつは、地下駐に人を住まわせてた」というと、ここぞとばかり、解雇された掃除婦が、「ホントよ、ヴァンサンって人。彼の息子は、この近くの学校に通ってる。カフェで宿題してたのよ」と、ペラペラ話す。それを、たまたま通りかかったマティスとその母ジュリエットが聞いてしまう(2枚目の写真)。その話を聞いた群衆からは、店主に向けて激しい罵声が飛ぶ。一方、校長からはパトリシアに電話が入る。そして、休憩時間中にトムが父親に連れられて出て行ったことを話す。パトリシアは、ヴァンサンに二度目の電話を掛けるが、再び留守録の応答。
  
  

夜遅くなり、繁華街なのに、人通りはほとんど絶えているが、行き先のないヴァンサンは歩き続ける。そのうち、もう半日近く歩き詰めのトムが疲れてくる。すぐ横の建物の数段の入口に2人で腰を降ろすと、すぐ横で、酔っ払いのホームレス3人が下らない話をしていたので、父は、「さあ、行こう」とトムに声をかける。「家に帰るの?」。その質問には答えず、父は立ち上がる。そして、トムに野宿だけはさせまいと決心した父は、最初に会った時にパトリシアからもらった紙に書いてあった住所に向かって延々と階段を登って行く。そして、かなり登ったところで立ち止り、トムに向かって、「あそこに家が見えるだろ? 鉄の扉がある家だよ。行って、ドアベルを鳴らすんだ。そこには女の人が住んでる。彼女はどうしたらいいか知ってる」と言う。「僕たち、家に帰るんじゃないの?」。「もう帰れない。私たちには、もう家がないんだ。彼女は、パトリシア。優しい人だよ。彼女の言う通りにするんだ。約束するかい?」(1枚目の写真)。「パパは? 一緒に来るよね?」。「さあ、お行き」。「イヤだ」。「言う通りにするんだ。さあ行って」。「パパなしじゃ、行かない」。「問答無用だ。行きなさい」。トムは父にしがみつくように抱き着く。それを引き離した父は、「トム、やめるんだ。いいかい、君は 私と一緒にいることはできないんだ」と諭すように言う(2枚目の写真)「仕方がないんだ、分かるか? 私の言う通りにしてくれ」。「どうして、僕にこんなことするの?」。この必死の質問に対し、父は、言いたくないことを言ってしまう。「分からないか? 私は、君なんか もう欲しくないんだ」。そして、大声で、「とっとと、行け!」と突き放す。泣きながら父から離れたトムは、振り返ると、「あんたなんか、もうパパじゃない」と言うと、門まで行き、ぶら下がっている紐を手を伸ばして引くと、ベルが鳴る。ヴァンサンが隠れて見ていると、ヴァンサンが出て来て鉄扉を開け、「ここで何してるの?」と訊く(4枚目の写真)。「一人なの? いらっしゃい」。ヴァンサンは、悲しくて頭を抱える。
  
  
  
  

行き場を失ったヴァンサンは、雨が降ってもいいようにビルの1階を貫通している河岸道路の脇にビニールシートを被って寝る。しかし、早朝、散水車が通って行って、ビニールが水びたしになり、目が覚める(1枚目の写真、矢印はヴァンサン)。因みに、ここは、シテ島の最上流端から約1.2キロ上流のセーヌ左岸にあるビルの下をくぐっているQuai d’Austerlitzという通り(2枚目のグーグル・ストリートビューは、1枚目の写真より下流側からの映像)。この短い映像の後、市内の児童養護施設の前で、待っていたパトリシアとトムの前に、悪女ナディアが遅刻して現われる。「ごめん、遅れちゃった」。「案件が多すぎるの?」。「パトリシア、あなたの仕事を引き継いだから」(3枚目の写真)。「満足なんでしょ?」。「そんなことないわ」。「そうに決まってる」〔パトリシアは、妨害したのがナディアだと気付いている〕。この口論の後、ナディアは門を開け、トムを施設の中に入れる。別れる時にパトリシアがトムの頬にキスし、トムも別れるのが辛そうな顔になる。ヴァンサンは、地下駐車場まで行くと、27と書かれたボックスの扉に貼られた赤いテープを剥がし(4枚目の写真)、中に入る。そして、貴重な思い出の品をバッグに入れ、隠しておいた現金を取り出す。
  
  
  
  

一方、トムが通っていた学校では、校長、保護者代表のジュリエット、招かれたパトリシア、10数人の父親や母親が集まり、今後どうするかについて話し合いが持たれている。パトリシアは、児童保護サービスの今回の決定が、トムの住居に衛生施設や電気がなかったためだと説明する(1枚目の写真)。そして、住む場所が見つからなかったらどうなるかという質問に対しては、このまま児童養護施設に留まるか、里親を探すかは児童裁判官が決めると話す。この方針は、皆に危機感を与える。1人の母親は、音楽室として使う予定で、放置されたままの部屋の利用を提案するが、校長は、状態が悪く、市の所有物だとコメントする。部屋の掃除については、多くの親がやる気になる。そんな議論の中で、ジュリエットはパトリシアに自分が保護者代表で、息子がトムの親友だと告げ、積極的な協力を申し出る。こうして、第1回目の会合は成功裏に終わる。その頃、ヴァンサンは、前日アルバイトをしたスーパーに行き、今度は、自分がホームレスになって、捨てられた箱の中から食べられそうなものを探す(3枚目の写真、矢印)〔凋落ぶりの早さが怖い〕。学校では、会合が終わった後、校長、ジュリエット、パトリシアの3人がパソコン教室に集まって、今後の具体策を相談している。①校長は、3年間、学校内に、一種の便利屋がいたらいいと考えていたと話す。②パトリシアは、その分の予算の獲得について、もうすぐ市長選があるので、これは市長の評判を上げる絶好の機会だと話す。③ジュリエットは、市の所有の音楽室について、許可を得る努力をすると言う。④校長は、便利屋の依頼をするという。⑤パトリシアは、話題作るため、ソーシャルネットワークを活用することを提案する。
  
  
  

パトリシアが夜になって帰宅すると、門の鉄柵に、ネズミのパペット人形が置いてあった(1枚目の写真、矢印)。トムが一番好きな物なので、届けてもらおうとヴァンサンが置いておいたのだ。一方、そのヴァンサンは、今夜、どこで寝ようかと場所を捜してレールの上を歩いている。そして、良さそうな場所を見つけたので、そこで一夜を明かすことにして横になる(2枚目の写真)。しばらくすると、そこに、その場所の先住者の荒っぽい若者がやってきて、「そこは俺の場所だ!」と怒鳴る。そして、追い出しただけでなく、手に持っていたワインの瓶を叩き割って凶器に変え、「この野郎、殺してやる!」と叫ぶが、そこに親切な仲介者が現われ、狂犬のような男には 「警察を呼ぶぞ」と諫め、ヴァンサンには、「直ちに立ち去れ」と言い、救ってくれる。そして、新米のホームレスに、食事の配給所と、宿泊所を教える。
  
  

1枚目の写真は、食事の配給所。驚いたのは、トレイに載っている料理の少なさ。2枚目の写真は、狭い所に押し込められるように座って食べるホームレスの人々〔ヴァンサンは中央〕。食事のあと、歯ブラシ(?)などが入ったミニパックを渡され、向こうに寝る場所があると教えられる。その際、「シャワーを使えますか?」と訊くが、もう遅すぎると言われ、①シャワーは明朝、②起床は朝食に間に合うように、③全員6時半までにここから出ていかないといけない、と規則を告げられる(3枚目の写真、矢印は何かの入ったミニパック)。
  
  
  

翌朝の児童養護施設で、トムは、トレイに朝食を載せてテーブルに向かう(1枚目の写真)〔ここでも、量の少なさに驚かされる〕。新入りのトムが席に着いたのを見て、男性の指導員が、テーブルの真横にしゃがんで話かける。「食べなさい。ここのは美味しいよ。最初は大変かもしれないが、きっと友だちができるから」と言うが、そう話してすぐ脇から、1人のワルがトムの食パンを盗んでいく(2枚目の写真、矢印は指導員)〔指導員は気付かないのだろうか? トムの目線を見れば、分かると思うのだが。それとも、慣れさせるためにワザと見逃しているのか?(ナンセンスだが、そうとしか思えない)〕。そして、2日後、悪女ナディアは、トムを通い慣れた学校に連れて行く。そして、笑顔でトムを迎えた校長に、「彼は、2日間、一度も口をきかないんです」と、平気な顔をして説明する(3枚目の写真)〔さすが、悪女。ソーシャルアシスタントなら、児童のこうした精神状態に、もっと暖かい心で向き合うべきなのに、何の心配もしていない〕
  
  
  

校長は、さっそくトムを 彼のいたクラスに連れて行き、「トム君が戻ってきました。皆さん、彼を温かく迎えてあげて下さい」と笑顔で話しかける(1枚目の写真)。担任は、トムにいつもの席に行くよう指示し、マティスはトムが座れるようにイスを後ろに下げる。トムがいつまでも座らないので、「座らないの?」と催促する(2枚目の写真)。トムは何も言わずに背を向けると、教室の反対側の空いた机に座ってしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

学校のパソコン教室では、パトリシアとジュリエットが、トムとヴァンサンの問題を、ソーシャルネットワークを通じて社会に訴えようと、受けのいい標題をどうするかで議論している。「父と息子」はあまりにもつまらない、「トムとヴァンサン」は漫画の「トムとジェリー」みたい、「ボックス・ナンバー27」は長すぎる、ということで、パトリシアが口にした「ボックス27番」が、運動の公式名称に決まる(1・2枚目の写真)。因みにパソコン上の新設サイトの右下には、「保護者、隣人、選挙で選ばれた議員… 参加して!」というタイトルの下に、「一緒に、ヴァンサンと息子のトムがまともな住まいを見つけられるよう支援しましょう。私たちの活動により、ヴァンサンは学校内で仕事を見つけることができ、施設に入れられているトムと離れ離れになって、路上で暮らすことを防げるはずです」と書かれている。そこに、校長が一人の女性を連れて入って来ると、「地元紙の記者、エヴリヌ・ラティエを紹介します。彼女はカサーニュさんのために準備されている宿泊施設を見たいそうです」と言い、記者は2人と握手する(3枚目の写真)。パトリシアは、記者に出来上がったばかりのサイトを見せる。マスコミの動員により、この運動はより力を増してくる。
  
  
  

休憩時間中、校庭で、マティスはトムに、「どうして、僕の隣に座らなかったの?」と訊くが、トムは何も言わずに離れて行くと、ベンチに座ってうなだれる(1枚目の写真)。それを、父が、植木で覆われたフェンス越しに、心配そうに見ている。夜になり、児童養護施設の寝室では、2段ベッドが2つ並ぶ狭い部屋の中で、ワル2人が枕を投げて、トムの邪魔をする。指導員が強く注意し、全員の電気が消えた後で、トムはパトリシア経由で渡してもらったネズミのパペット人形に小さな声で話しかける。一方、ヴァンサンは、ホームレス用に用意された長い簡易ベッドの1つに横になり(2枚目の写真、矢印)、ボックスでトムに劇の練習をさせた時のスマホ映像を見て笑顔になっている。ジュリエットの家では、マティスがキッチンでタバコを吸っていた母の所にくると、母が約束を破ってタバコを吸っていたことを非難したあとで、「トムがどうして僕と話さないのか、理解できないよ。僕、何か間違えた?」と悲しそうに訊く。「あなたは、何も間違えてない。トムは、当然、とっても困難な状況に置かれたから、そのせいですごく不幸なの」(3枚目の写真)。
  
  
  

トムの部屋では、さらに不幸なことが起きていた。ワルの2人がトムのベッド〔下段〕まで行くと、トムに向かっておしっこをかけ始めたのだ。それに気付いたトムは、悲しくて涙を流す(1枚目の写真)。そこに入って来た指導員は、トムが何をされたか分かると、抱き上げると、「最初は辛いが、大丈夫だ」と言うと(2枚目の写真)、部屋から連れ出して、自分の部屋に連れて行く。翌朝、目が覚めたトムは、テーブルの上に置いてあったスマホで父に電話するが、留守録なので、何も言わずに切る。
  
  

一方、所長は、パトリシアの家を訪れる。ドアの所には、ヴァンサンが置いていった “トムの母とトムが映った昔の写真” があったので取り上げ、ドアをノックする。ドアを開けたパトリシアに、所長はまず写真を渡す。パトリシアは、「何の用? 休暇中のハズでしょ」と すげない。「外で話すのかね? それとも中に入れてくれる?」。「このままで十分。何の用?」。「カサーニュについての君のインタビュー、読んだよ。ちょっと大げさだけど、興味深かった」。「真実を話しただけ」。「そう、君にとっての真実だ。パトリシア、私が心配しているのは子供たちの不幸な運命だけなんだ」(1枚目の写真)。ここから、パトリシアの逆襲が始まる。「あら、そう? それで、愛し合っている父親と息子を引き離すの? ぬるま湯のオフィスで作られた評価法、基準や規則を再検討すべき時が来たとは思わないの? あなた、街を歩いたことはないの? 引き裂かれた家族が見えないの? 橋の下で廃車に乗ったシングルマザーや、野良犬のように駅の周りをうろつく子供たちを?」「それが真実よ! 耐えられないけど、事実なの!」(2枚目の写真)「これが、子供たちを助ける方法なの? 隔離することが?」。これだけ言うと、ドアをバタンと閉める。所長は、閉まったドアの所の前で少し考えると、もう一度ドアをノックする。パトリシアがドアを開けてくれないので、ガラス越しに、「私は6歳の時に両親から引き離された。両親は薬物中毒だった。それが私の命を救った」と話す〔所長は、不幸な子供時代を送った自らの体験から、親と子の関係に一方的な見解しか持てなかった〕。それを聞いたパトリシアがドアを開ける。所長は、「トム・カサーニュの話に戻るが、ナディアから 彼の具合が悪いと知った。父親から引き離してから、彼は一言も話していない。仕事にとりかかってくれ! 何を待ってるんだ? この時間には、オフィスにいるべきじゃないのか?」と、自分の判断の間違いを認めた上で、パトリシアに助けを求める。
  
  
  

学校では、『僕の友だちテオフィル』の劇の練習が行われている。そして、テオフィルとポールの会話の番になる。マティスが立ち上がって、「テオフィル? テオフィル?」と呼んでも、トムはうつむいて座ったままだ。そこで、担任は、トムに言葉をかけるのはなく、マティスにもう一度同じ台詞を言わせる。トムは立ち上がると、自分の台詞を話しはじめ、それを見た担任と校長はホッとする。トムの台詞は、長い間、一度も練習したことがないのに、劇で使えるほど上手だった(1枚目の写真)。休憩時間中、マティスはもう一度、トムに声をかけてみる。「トム、どうしたの? 怒ってるの?」。すると、トムが初めて口をきく。「ううん。だけど、話したくないんだ」(2枚目の写真)。その時、マティスは、フェンスの外の植え込みにトムの父がいるのに、再度気付く。学校の授業が終わり、母がマスコミと話していると、マティスが寄って行き、「ママ、休み時間にトムのお父さん見たよ」と話す。「見たの?」。「うん、フェンスの向こうの茂みに隠れてたんだ」。それを聞いた母は、校長の所で待っているよう指示し、地元のオンラインTVのインタビューを受ける(3枚目の写真)〔情報発信の方法が上手〕
  
  
  

ヴァンサンが、映画の冒頭でトムが遊んでいた黄色の自動車をパトリシアのドアの前に置いて立ち去ろうとすると(1枚目の写真)、それに気付いたパトリシアがドアから走り出て来て、「ヴァンサン、戻って来て、お願い! 私、また、あなたの担当になったの」 と声をかける。ヴァンサンが足を止めたので、「学校ではいろんなことが起きてる。すべての父兄があなたのことを心配してる。あたなは、もう一人ぼっちじゃないの。私たちにはあなたが必要、トムにもあなたが必要なの」と、状況の進展を説明する(2枚目の写真)。しかし、絶望したヴァンサンは、「私は、トムに家を見つけることもできん」と言う。パトリシアは、「トムにとっては、そんなことどうだっていい」。「トムは、私がいない方が幸せだ」。「そうじゃないことぐらい、あなただってよく分かってるハズよ!!」。しかし、ヴァンサンはそのまま去って行ってしまい、ヴァンサンは、思わず 「くそっ〔Merde〕」とつぶやく。その夜、充電ができなかったヴァンサンのソマホが使えなくなる。
  
  

学校では、最初に集まったメンバーが集まり、3人からの経過報告を聞いている。最初に発言したのはジュリエット。悪いニュースからということで、学校にある音楽室の住居への転用を、「市は安全と保険上の理由から承認を拒否しました」と説明し、女性は 「なんてひどいの!」と お役所仕事を批判する。しかし、あとは良い話ばかり。校長が、「市長はカサーニュさんとトム君の状況にすごく同情し、感動していました」と説明すると、「ホントに感動したなら、感動モンだ」と疑義を呈する意見もあったが、ジュリエットが直ちに否定する。「いいえ、彼はボックス27番が生み出す感動を本当に理解しています。それは、ヴァンサンのために便利屋を創設するための予算を承認したからです」と発言し、全員から 「素晴らしい」と称賛される。「もし彼の気が変わったらどうします?」という心配に対しては、校長が 「私は今から合意書を作成し、市長は今日の午後にそれを受け取るでしょう。今週末までに返事があるはずです」と答える。そして、パトリシアは ダメとなった音楽室に代わるヴァンサンとトムの住居について、「この仕事が実現すれば、カサーニュさんが公営住宅に入居できる可能性が高くなります」と専門家としての意見を述べ(1枚目の写真)、参加者はみな笑顔になる。一方、スマホを何とか充電しようと、偶然、人が出て来てドアが開いたアパートに入って行ったヴァンサンは、玄関内のコンセントにスマホのプルグを差し込むが、すぐに出てきた管理人に追い出される。その夜、明日に劇を控えたマティスは、ベッドで母のジュリエットに、「台詞忘れたらどうしよう?」と心配する。「暗記してるでしょ」。そのあと、マティスは、「いつか、僕たちも家を失うことになる?」と訊き、母は当然、完全に否定する。その質問があったせいかどうかは分からないが、マティスが眠ると、ジュリエットはヴァンサンのスマホ(留守録)に向かって、“本人が出ていたらいいにくい” ことまで長々と話す。「えぇと… ハイ、ヴァンサン、今晩は、ジュリエットよ。言いたいことはたくさんあるんだけど、何を言えばいいのか分からなくなって… 私、いま家のキッチンにいるの。またタバコを吸い始めて、マティスに嫌われちゃった。うーん… そうね… 何だかくだらないことを話してたみたい。聞いて… あなたがどんなトコに住んでいたかは関係どうだっていい。私が知っているのは、あなたが素晴らしい父親だということ。私の息子にこんな父親がいたら良かったのに。夫は素敵なアパートに住んでるけど、息子に会おうとせず、誕生日は祝わず、学校の行事にも一度も来ない… ところで、忘れないで。明日は大事な日よ。トムのリハーサルは上出来だったって聞いたわ。でも、彼は悲しんでて、ステージ以外では誰とも話さないそうよ」(2枚目の写真)。そして、最後に、「ええと、ごめんなさい、きっと変人だと思われるに違いないけど、最後にもう一つだけ伝えたいことが…」。ここで、留守録の容量が一杯にない、自動的にカットされる〔いったい何が言いたかったのだろう? 残念ながら、最後まで分からない〕。最後に、子供部屋のベッドで横になったトムが、パペット人形のポールに向かって、話している(3枚目の写真、矢印、昔の写真と黄色の自動車が脇に置いてある)。すると、黙らせようと思ったワルが人形を取り上げる。怒ったトムがワルに飛びかかってケンカになり、指導員がトムを引き離すが、トムの怒りは収まらない。
  
  
  

その夜、雨の中を朦朧として歩いていたヴァンサンは、配給所の食事を食べるのを止めたせいか、気を失って道路に倒れる。それを見た女性が話しかけても返事がないので(1枚目の写真)、映像にはないが、救急車が呼ばれる。そして、次の場面では、病室で寝ていて、顔の髭はきれいに剃られている(2枚目の写真)。看護師が出て行くと、ヴァンサンは、点滴用の針を抜くと、棚の中からス、アホと充電コードを取り出し、充電を始めるが、看護師が出て行く前に飲ませた睡眠薬のために眠ってしまう。そのため、目が覚めてからスマホを取り上げ(3枚目の写真、矢印は充電コード)、コードを抜くと、新しいメッセージが1件あると表示されたので、ジュリエットからの伝言を聞く。そして、最後のトムのところまで聞いてきと、悲しくなって自分を責めるように泣き始める(4枚目の写真)。
  
  
  
  

その頃、学校では、集まったクラスの父兄の前で校長が挨拶し(1枚目の写真)、『僕の友だちテオフィル』が始まる。映るのは最後の場面、箱の中にいるテオフィル(2枚目の写真)が、煙とともに箱の中に消え、ポールが反対側にいる女の子を見つけるところで劇は終わる。劇が終わり、出演者が舞台上で挨拶する際、主役のトムは一歩後ろに下がり、移動しながら父が観に来ていないか探す(3枚目の写真)。そして、どこにもいないことが分かると、がっかりして舞台からいなくなる。
  
  
  

それに気付いたパトリシアは、学校中を、トイレで探すが、結局見つけたのは学校の門のところだった。パトリシアが 「どこにいたの? 心配したわ」と言うと、トムは 「僕、帰りたい」としか言わない(1枚目の写真)。「もう? でも出演者全員でパーティがあるのよ」。「僕、帰りたい」。「分かったわ。でも、校長先生には、話しておかないと。残念ね」。そう言うと、2人で中に戻る。次の場面は、出演者と父兄を交えたパーティ。そこに、病院を(恐らく)無断で出てきたヴァンサンが現われるが、校長は、「残念ですが 遅すぎました。トム君はすでにルフォールさん〔パトリシア〕と一緒に帰りました」と言う。それを聞いたヴァンサンは、児童養護施設に向かって全力で走る(2枚目の写真、矢印)。そして、門の前で、中に入る寸前で追いつく。それを見たパトリシアは、トムに、「パパと話してらっしゃい」と言うが、トムは断る。それでも、彼女は、「お願いだから、話してきて」と(3枚目の写真)、トムを父のところに行かせる。
  
  
  

トムが 「来なかったね」と責めると、ヴァンサンは 「走ったんだ… だけど、間に合わなかった。劇は終わってしまってた」と詫びる。「来てくれると思ったから演じたのに」。「分かってる。ごめん、許して欲しい。トム、いろいろごめん、劇のことやら… 私はずっと途方に暮れてた。君がいなかったから。分かるかい?」(1枚目の写真)。「ううん」。「私は、あんな父親〔自分のこと〕が好きじゃなかった。そして、自分で自分に腹を立ててた」。「どうして?」。「父親なら、息子にちゃんとした家を与えなきゃならないだろ。暖房、照明、お風呂用の湯が出る家。テレビがあり、本物の寝室と窓のある家を」。「でも、僕、あの家 好きだったよ」。「だけど、あまりにも不十分だった。だから、恥ずかしくなって姿を消したんだ。だけど、いいかい、『君なんか もう欲しくない』と言ったのは、本気じゃなかった。私が欲しくなかったのは、私自身だったんだ」。この言葉で、トムは父を許す(2枚目の写真)。そして、仲直りした2人は、しっかりと抱き合う(3枚目の写真)。
  
  
  

トムは、父と別れる時、持ってきたポリ袋の中からパペット人形を父に返す(1枚目の写真。矢印)〔もともと父の物なので〕。次のシーンで、ヴァンサンとパトリシアが現代的なミニ・パークの中を歩いている。ヴァンサンの質問に対し、パトリシアは、①公営住宅は数が少なく、待機リストがあるが、ヴァンサンに就職の見通しがつけば、申請できる。②そして、それまでの間、トムは児童養護施設ではなく、在宅保育の場所を探すが、これも少数、と実情を打ち明ける(2枚目の写真)。ヴァンサンが悲観して、「数週間かかるかも」と言うと、パトリシアは、「がんばり通さないと。トムとあなたのために行われた多くのこと。団結、運動、それは素晴らしいことです」と、学校の父兄の努力を讃える。そして、「トム君は喜んでいます、もうすぐあなたと一緒になれるから。だから、トムのために全力を尽すべきです。あなた自身のためにも」と言い、最後を、「それに、私たちにも、ハッピーエンドが必要ですから」と閉めくくる。映画の最後で、夜、子供部屋を抜け出したトムは、外が直接見える窓まで行く。すると、待っていた父が、ガラスの向こうから、パペット人形に手を振らせる(3枚目の写真)。トムは体を乗り出すと、人形ポールに向かって〔あるいは、それを操作している父に向かって〕、「君〔パパ〕と僕は一体さ。君〔パパ〕が幸せなら、僕も幸せだよ」と言う。
  
  
  

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