アメリカ映画 (2024)
アメリカ大西洋岸の寒村ジャスパーの入り江に引っ越してきた未亡人の母エヴリンと9歳の息子オスカーの物語。エヴリンは、村一番の長老フランクの息子ダーモットが、父の意に反して漁業を継がずに開いたバーで働き、忙しいので息子のことは放置している。エヴリンがいつ未亡人になったのかは分からないが、映画の中に出て来る古い写真から類推すると、オスカーが生まれて直後のように思われる。その時の事故のせいか〔事故があったかどうかも推測の域〕、壊れてしまった旧式の二眼レフカメラ、マミヤC220を、オスカーは父の形見としていつも首からかけている。引っ越してきたのは夏休みの期間中なので、まだ学校は始まっていない。このジャスパーの入り江は、漁業で成り立ってきた村だが、若者が外に出て行き、漁船の操業が次第に廃れている。それを何とかしようと、フランクは、入江に面した公有地に缶詰工場を誘致しようとするが、その案を住民投票にかける際の説明会の時、ダーモットは、勝手に企業と相談してホテル&温泉の施設の誘致案を、住民投票の対抗馬として提案し、フランクの激怒を買う。オスカーは、虐めっ子から逃げようとして入り込んだ店の主人エリックから、首から下げたマミヤC220を、店から盗んだものだと誤解され、奪われて店から追い出されるが、エリックはカメラの裏に、自分の店のマミヤC220にはない名前が書いてあったことから、すぐ勘違いに気付き、オスカーに謝って店に呼び入れる。そこで、オスカーが口をきけないことを知ると同時に、先ほどの勘違いの罪滅ぼしの意味も兼ねて、壊れたマミヤC220を修理している間、自分のマミヤC220をオスカーに貸し、ついでにフィルムも装填して撮影してくるよう勧める。オスカーが撮影してきた村の様子や自然を撮影した12枚を見たエリックは、テーマが分散しないよう、焦点を絞って撮影するよう指導する。2人の仲は、一旦は破綻しかけるが、それを乗り越えるとより強固なものとなり、一方、オスカーの古いマミヤC220に残っていたフィルムには、生まれたばかりのオスカーが映っていた。町の将来を賭けた2つの案が、片方は行政から、片方は企業から廃棄され、村の未来が危惧される事態になった時、エリックはオスカーの中に素晴らしい写真の才能を発見し、それまでに撮影した名作を大きく引き伸ばし、友人の漁師の助けを借りて、村の空いた塀に十数枚を掲示することに決める。しかし、オスカーや村人がそれを見たのは、運悪くエリックが発作で倒れ、その埋葬が済んでからだった。オスカーの写真は、村人の心を温かくする内容だったため、埋葬の儀から戻ってきた村人たちはオスカーに拍手を贈る。アメリカ映画とは思えない、素直で静かで美しい作品だ。
オスカー役は、ミゲル・ガブリエル(Miguel Gabriel)。これが映画初出演(TVドラマ『Me』に主要な脇役として出ているが、もっと太っていて、まるで別人)。
この映画の最後で、オスカーの作品が並んでいる場面が映画のクライマックスだった。この映画とは全く関係がないが、私の撮影した世界各国(西欧中心だが)各1枚計28枚の写真を、オスカーのように展示させていただく。 ⇒⇒ ここをクリック
あらすじ
映画の冒頭、ナレーションが入る。「面白いのは、私たちが この世界に生を得て、初めてそれを目にする時の驚きと素晴らしさ。私たちは世界のすべてを目にするのです。でも、そのあと、私たちの野心、恐怖、喪失、抑制が見るのを邪魔し、何も目に入らなくしてしまい、その結果、自分を見失ってしまうのです。しかし、時として、時にはですが、世界を、そのすべてをもう一度見るための ちょっとした手助けというチャンスが与えられるのです」。そして、その背景に映るのは、幼い時に死んだ父の形見で、壊れてしまった古い二眼レフカメラ(マミヤC220)を大事に首から下げている9歳のオスカー(1枚目の写真)。彼のノートには、今のオスカーと父が海岸で仲良く座っている絵が描かれているが(2枚目の写真)、これは、オスカーが数週間前に母と一緒に、この辺ぴな漁村に引っ越してからオスカーが描いたもの。なぜかと言うと、湾の向こうに見える岩塊が、この漁村モロ・ベイ〔Morro Bay、サンフランシスコとロサンゼルスのほぼ中間点〕のシンボルになっているモロ・ロック(高さ276mの火山岩栓〔火山の火道を火成岩の塊が満たしたもの、熔岩塔〕)だから。そして、オスカーの父が、彼の誕生後すぐに死んだことは、あとで分かることだが、壊れたカメラに残っていた未現像のフィルムに、生まれた直後のオスカーが映っていたから。そんな貴重な写真なら、写真好きの父ならすぐに現像したであろうから。そして、カメラは、上空から見たモロ・ロックの海辺近くの膨大な数の鳥を映す(3枚目の写真、右下の矢印の黒い点々や、矢印の真上の別の岩の上にも多くの点々が見える。それらは、写真の左側の黒い鳥と同じ鳥)。
冒頭のシーンのあと、オスカーが歩いて行く脇に立った掲示板には、「借地契約 6.7エーカー〔25700㎡〕/経済発展の創出を目的としたプログラム取り組み(商業施設、産業施設、モーテル、レストラン)、ジャスパー郡」と書かれている(1枚目の写真)。そして、2枚目の写真は、上空から斜めに映されたモロ・ベイの全景。正面の岩塊がモロ・ロック。その右側が、モロ・ロック・ビーチ。モロ・ロックの左側手前は、Bay Sand Point公園という巨大な砂洲。モロ・ベイの漁港は、この写真の右下に伸びている。3枚目の写真は、その漁港から見たモロ・ロック〔漁港からモロ・ロックの先端までは1kmほどある〕。
オスカーは、子供などほとんどいない寒村では珍しい存在で、その奇妙な格好〔それほど寒くないのに、真っ赤なマフラーを首に巻き付け、フード付きのジャンパーを着て、半世紀以上前のカメラを首から掛けている〕から、上級生の虐めの対象になっている。一番ワルのデールが、「よお、ぼんくら、元気か?」と言って肩を組むと、「寂しかったぞ。この古いやつ、どこで手に入れた? ゴミ捨て場か?」と訊く(1枚目の写真)。オスカーは隙を見て走って逃げ、3人に追われると、最初に見つけたドアから中に逃げ込む。ドアの外側には 「エリックの修理/配達・置き配」と書いてあり、デールにとって老人のエリックは怖い存在だったので、「逃げることはできても、隠れることはできんぞ」と、脅し文句を言い、ドアの内側では、オスカーがどうしようか迷っている(2枚目の写真)。オスカーのいた場所は倉庫のような場所で、その先の店舗の方から話し声が聞こえてくる。シスター:「このままでは、私たちより先に、村が死んでしまうわ」。エリック:「村は生き残りますぞ、シスター。より良い未来への希望はあるもんじゃ」。「でも、あのちんぴら連中には、希望などありませんよ」。「何たることを。わしらがガキの頃、両親たちも似たようなこと言うとったでしょうが?」。猫を抱いたマーガレット:「小さな子は全然話さないわ。ただ見てるだけ」。「小さな子?」。シスター:「数週間前にハーパーズ・プレイスに引っ越してきたばかりの、ちょっと変わった子なの」(3枚目の写真)。マーガレット:「母親は、その子をほったらかしにしてるのよ」。「ミサには一度も出て来ないけど、チャリティーイベントの缶詰はどんどん持ってくわ」。そして、2人の女性は店を出て行く。
そのあとで、オスカーがうっかり音を立ててしまったので、エリックは何事かと様子を見に行き、そこに子供が隠れているのに気付き、「そこで、何しとる? どうやって、入ったんじゃ?」と訊く。オスカーは口がきけないので何も言えないでいると、エリックは少年が首から下げているカメラに気付き、店に同じ物があり、そんなレアな物が2つも存在するとは思えないので、当然少年が盗んだと思い、「待てよ、それお前の物じゃないだろ?」と指差し(1枚目の写真)、「寄こすんじゃ。それは、お前のもんじゃない。許可なく、手に取っちゃだめじゃ。二度と言わんぞ」。それでも、少年が何も言わず、カメラを返す仕草もしないことから、怒ったエリックはカメラを首から奪い取ると、背中を押して玄関の方に向かわせ、「二度とここに来るんじゃないぞ」と警告する(2枚目の写真、矢印は奪ったカメラ)。カメラに触ってみると、動くべきところが動かないので、「壊しやがって」と文句を言いながら、カメラの裏を見ると、そこに、「TOMMY」と、オスカーの父の名前が書いてある(3枚目の写真、矢印)。
店のカメラではないと分かると、元々善良なエリックは、いそいで表のドアを開け、「ちょっと待って、坊や」と声をかける。オスカーが振り向くと、「このカメラ、お前さんの物だって なぜ言わなかったんだい?」と笑顔で訊く(1枚目の写真)。「トミー。これ、お前さんの名か?」。オスカーはじっと睨んでいる(2枚目の写真)。「わしの言ってること、聞こえてるかな?」。オスカーは少しだけ頷く。「よかった。なあ、坊や、出だしを間違えてしもうて〔we got off on the wrong foot〕悪かった。じゃがな… これは勘違いによるもん〔a case of mistaken identity〕なんじゃ。わしは、これと同じもん持っとるでな」。そう弁解すると、オスカーのカメラを見て、「シャッターがくっついとる。提案じゃが、このお年寄りカメラで写真が撮れるようになるか、詳しく調べてみるってのはどうかな?」と訊く。オスカーは、今度は、積極的に頷く。「わしの名はエリックじゃ。ジャスパー〔郡の名〕で写真家仲間ができて嬉しいよ」(3枚目の写真)。そう歓迎の辞を述べると、店に入って来るよう手招きする。
店に入ると、エリックは、1978年にこの村に来て、この小さな店を構えたと自己紹介し、カウンターの下に並べて置いてある年代物のカメラを紹介した後、オスカーと同じマミヤC220を取り出して、オスカーのカメラの横に並べて置く(1枚目の写真)。そして、オスカーのカメラを手に取ると、「あちこち動かないけど、ずっとこうだったの?」と訊く。オスカーは、そうだとばかりに何度も頷く。オスカーは、自分のノートを見せる。そこには、モロ・ベイに来てから描いた鳥や灯台などの絵があり、そうした物をカメラで撮りたいと意思表示する。エリックは 「写真家というのは、絵を描く芸術家みたいなものなんじゃ。ただし、鉛筆の代わりに光と影を使う」と、写真とはただ単に風景や顔を記録するためのものではないことを強調する。そして、「わしがこのカメラを修理する間、予備のカメラが要るじゃろ」と言うと、自分のちゃんと動くカメラをオスカーに渡し、オスカーは笑顔を見せる(2枚目の写真、矢印)。「使い方は知っとるよな?」。オスカーは、カメラを首から掛けると再び笑顔を見せる〔この映画で、一番問題のある場面。なぜ、オスカーはカメラの使い方を知っているのか? 前にも書いたが、壊れたカメラの中には、オスカーの赤ちゃんを撮ったフィルムが残されたままになっている。つまり、8年前にカメラは壊れ、父もいないのに、オスカーはどうやってカメラの使い方を知ったのだろう? そんなことはあり得ない〕。
この点は、かなり重要なことなので、マミヤC220の撮影方法について詳しく説明してある https://foto-anthem.hatenablog.com/entry/2023/06/18/130000 の記載事項をそのまま引用すると、以下のようになる。
①フィルム送り : ボディ右側面の巻き上げノブを時計回りに回してフィルムを送ります。
②絞り・シャッタースピード設定とシャッターチャージ : フィルムを巻き上げた後に自分でシャッターチャージする必要があります。下側のレンズの左側にシャッタースピード設定リングと絞り設定リング、およびシャッターチャージのレバーがあります。まず最初に絞りリングとシャッタースピードリングを回して所定の撮影条件を設定した後、シャッターチャージ用レバーを押し下げてシャッターチャージします。この手順を逆にして、シャッターチャージした後にシャッタースピードを変更するとシャッター故障の原因になります。
③ピント合わせ : ボディ下側の左右にあるピント合わせ用のノブを右側は時計方向に(反対の左側だと反時計方向)回すと蛇腹部分が繰り出してピント合わせが出来ます。ピントの調整はルーペ付きのウエストレベルファインダーを上から覗きこみながら、スクリーン面で確認しながら行います。
④シャッターリリース : ピント合わせが完了したら、カメラ本体の先端部分にあるシャッターレバーを親指で静かに押し下げます。このレバーはレンズシャッターのボタンと連結しており、「カチャッ」とレンズシャッターが切れます。
こんな複雑なステップを、一度も撮影したことのないオスカーができるハズがない!! 映画に戻り、エリックが、フィルムには12枚しか映らないと注意し、撮り終わったらカメラを持ってくるように言うと、オスカーはバッグからプラスチックカードを取り出し、自分の名が書かれたカードを取り出して見せる(3枚目の写真)。それを見たエリックが、「お前さんに会えて嬉しいよ、オスカー」と言うと、オスカーは、「Thank You」と書かれたカードを見せる 。
オスカーの母エヴリンが働いているバーでは、昼間から漁船のオーナーのマニーと、漁船員の3人がテーブルを囲んでいる。マニーが席を立ってカウンターに向かうと、漁船員の1人が 「今日、蟹の市場価格がどこまで下がったか知ってるか?」と不安げに仲間に話しかける。そこに、エヴリンがビール瓶を3本持ってやって来ると、顎髭の長い漁船員がエヴリンの手をつかんで、「新しくここに来た女の子の指輪を見ると、あんたら2人より頼り甲斐がありそうだな」と2人を冷やかし、こうした場所で働いた経験のないエヴリンは、「今度手を掴んだら、腕を折るわよ」と、お客を相手に “相応しくない” 言葉をぶつける。一方、バーの店主のダーモットはマニーに、「何人かと話したんだが、連中、俺たちを助けてくれると思う」と打ち明ける。マニーが 「どんな連中?」と訊くと、「サイレン・グループっていう、不動産投資家の集団なんだ」と答える。「あんた、港の向こうの地所のこと話してるのか? あそこに何か造るのがホントにベストなんか?」。「ああ、あそこは最高の場所だからな」。「もし、あんたの思い通りに事が運べば、ジャスパーの入り江は、ここに住んでる人のもんじゃなくなっちまうぞ」(1枚目の写真)。「あんた、俺の親爺そっくりだな」〔この会話は、あとで大きな進展を見せる〕。その頃、オスカーはカメラを持って撮る物を探している(2枚目の写真)。森の中の小川や、木洩れ日、アゲハ蝶などが映るが、オスカーがそれ撮影したようには見えない。結局、家に帰ると、郵便箱から郵便物を取り出すと、ポツンと離れて建った一軒家に入って行く。母は、バーで働いているので、家の中には誰もいない。母は帰りが遅いので、夕食も自分で作らないといけない。辺りが暗くなった頃、バーの主人のダーモットは、エヴリンに 「あんたがここに来てから、5・6週間かな?」と訊く(3枚目の写真)。「そんなトコね」。「気に入った?」。「ええ」。「良かった。あんたくらいの年の人はみんな出て行ってしまい、誰も入って来ない。もっと、このコミュニティに馴染んで欲しいな」。「それって、お客にもっと優しくしろってこと?」。「みんなに関心を持って欲しいんだ。ほとんどの男たちは、家族思いの連中だから。それに、あんたには子供がいるだろ?」。
母は夜遅くなって帰ってくると、居間の小さな円形テーブルの上にカメラを置いて誇らしげに待っていたオスカーの前に行くと、「どんな一日だった?」と訊く。今日の最高のニュースは、カメラのことなので、オスカーがカメラを持ち上げて見せると、自分のことで精一杯の母は、「カメラのことなどどうでもいい。あなたの一日について聞きたいの」と、無碍(むげ)な態度を取り(1枚目の写真)、オスカーをがっかりさせる。オスカーが寝る前に歯を磨いたあと、母の部屋から音楽が流れているので、カメラを持って中に入って行き、化粧を取っている母を撮ろうとする(2枚目の写真、矢印)。それに気付いた母は、大きな声で、「やめて! オスカー、ママはそんなこと大嫌い! 自分の部屋に行きなさい!」と叱る。そして、オスカーがすごすごと部屋に入って行くと、母はすぐ後を追ってきて、「ねえ、オスカー、もうすぐ学校が始まる。学校じゃ、そのおもちゃを一日中持ち歩くことは許されないわ」(3枚目の写真)「いいこと、約束しましょ。今年こそ、あなたの本当の趣味を見つけるの。他の子供たちと一緒にできることを。そうやって友だちを作らないと。楽しいわよ。みんなといろいろなことを共有するの」と、先ほどバーの主人から言われたことをオスカーに押し付ける。
その日のさらに夜遅く、ガソリンスタンドで、小さなコミュニティの集会が開かれる。最初に話し始めたのは、バーの主人ダーモットの父、白髪のフランク(1枚目の写真)。「良いニュースは、私と私の仲間がこの提案を投票にかけるのに十分な署名を集めたことです。また、私たちは、建築規制などに迅速に対処するためのロビイストも手配しました。彼は、我々は年明けまでには着工できると言っています。だが、そのためには、この計画を投票で可決させる必要があります」と言い、『ジャスパー入り江の缶詰工場』の立面図を見せる(2枚目の写真)。マニーの漁船員の一人が、「議長、俺たちはどうすりゃいいんです?」と質問すると、フランクは 「11月のカレンダーの第二火曜日に印を付けておき、当日ここに来て投票して下さい。高い投票率が必要です」と答える。そのあと、息子のダーモットが立ち上がると、「話し合うべき別の案があります」と言い、『ジャスパー/ホテルと温泉』の絵を見せる(3枚目の写真)。そして、「私がサイレン・グループや観光局の人たちと連絡を取ってきたことは秘密ではありません。そして彼らは、我々の小さな町の新たなプロジェクトに潜在的な可能性があると考えています」と説明する。父のフランクは、「潜在的な可能性、それは具体的に誰にとってなんだ? 金持ちのツーリストがやって来るお前のバーか?」と批判する。2人の口論は、ダーモットが 「ケツが凍りつく思いをしたり、缶詰工場で魚の内臓を外したりすることに、尊厳などがあるのですか?」と言い、フランクが 「そうだ。漁業がこの町、我らが町、お前の町を築いたんだ!」と強く反論する(4枚目の写真)。この親子2人の争いは、ダーモットがマニーを予め味方に付けておいたことで、怒った漁船員が会場から去って行くことで解散となる。。
あらすじに入れるべきかどうか迷ったシーン。エヴリンの弟、ちゃんとした仕事に就いてなく、1年以上も会ってなかったグータラ男が突然、こんな辺ぴな地に現われ、それでも弟なので、エヴリンは抱きしめる(1枚目の写真)。翌朝、オスカーの世話を頼まれたグータラ男は、オスカーを外に連れ出し、オスカーはさっそく村人の写真を撮る(2枚目の写真)。叔父は、オスカーを港に連れて行くが、そこで3人の漁船員が賭けをしているのを見つけると、「ここで待ってろよ」と桟橋の先端にオスカーを残し、賭けに参加しに行ってしまう。ここで場面が変わり、エリックに健康に関する検査結果が届き、その結果について医者に電話で問い合わせるシーンがある(3枚目の写真、矢印)。検査結果は、何かが “正常範囲内でない” というだけで、重大性には何も触れない。そのあと、店に最初にやってきたのはマニーで、「冬が来たら、トロール船はスクラップし、漁業免許は最高額の入札者に売るよ」と言い、エリックをがっかりさせる。そこに入って来たのが、ダーモットで、昨夜のみんなに見せた『ジャスパー/ホテルと温泉』の絵を、各所に掲示するため、拡大して200枚印刷するよう注文して出て行く。
オスカーは辛抱強く叔父が戻るのを待っていたが、何事にも限界はある。グータラ男の叔父が、ようやくオスカーのいるはずの桟橋を見た時には、そこにオスカーの姿はなかった。姉が怖い叔父は、急いでオスカーを探しに行く。その頃、オスカーは、マニーたち3人が漁船の上と前にいる姿を撮影していた(1枚目の写真、左下にマミヤC220の小さな写真 ⇒ あとで、引き伸ばされ、「傑作」と評価されるもの)〔この場合、写真全体は評価されないが、黄色の点線の枠内が評価される〕〔オスカーの最初の撮影写真12枚の1つで、まだ構図が未熟なためエリックが指導する〕。漁船員の中で、一番若くて、一人だけワルのコナーは、オスカーが自分にカメラを向けているのに気付くと、「おい、ガキ! なにしてやがる!」と怒鳴る。そして、オスカーからカメラを奪うが、それに気付いたマニーが飛んできてカメラを奪い返し、「何が問題なんだ?」とコナーに訊く。「この小悪魔が、俺の写真を撮ろうとしてやがった」。マニーは 「おい、坊主、ここは遊び場じゃない。みんな仕事をしてるんだ。こんなトコで遊んでると、事故が起きるかもしれん」と注意する(2枚目の写真)。しかし、オスカーが何も言わないので、マニーは 「おい、大人に注意されたら、ちゃんと答えるべきじゃないのか?!」と叱るが、コナーが 「赤ちゃんの時に頭から落とされたのか?」とニヤニヤしながら意地悪を言ったので(3枚目の写真)、今度は、「たいていにしろ」とコナーを注意する。そこに、ようやく叔父がやってくるが、このバカは、オスカーが口をきけないと言えば万事解決するのに、①俺の甥だ、②9歳の子供だ、と無関係なことを言い、おまけに、相手に親指を立てて侮辱する〔この叔父は、その後も何度も愚行を見せ、映画の “格” をどんどん下げ続けるので、以後、あらすじではすべてカットする〕。
翌日、叔父は、邪魔なオスカーを一人で買い物に行かせる。村で唯一の商店の並ぶ通りに行ったオスカーは、自転車に乗ったシスターとすれ違う。その時は、相手が動いていたので撮れなかったが、シスターの後を追って行ったオスカーは、彼女が木陰のベンチに座ると、オスカーは好機と捉えてカメラを構える(1枚目の写真、矢印、C220の印付き)。このあと、12枚を撮り終わったオスカーは、嬉しそうに、カメラから取り出したフィルムをエリックに見せ(2枚目の写真、矢印)、エリックは、「お前さんの撮った第一号のフィルムだ」と言って受け取る(3枚目の写真)〔前にも書いたが、オスカーは、どうやってカメラから取り出したのだろう? C220のブローニー判フィルムはカートリッジに入っておらず、遮光紙に重ねてスプールに巻き付けているだけの単純な構造なので、フィルムの取り出しは暗室で行うべきだし、取り出したフィルムをこんな風に明るい所で見せて感光しないのだろうか?〕。
エリックは、「オスカー、我が友よ、ここで魔法が起きるんじゃ」と言うと、オスカーを暗室のドアに連れて行く(1枚目の写真)。中は、エリックが長年使わなかったので、大事な装置2ヶ所にビニールカバーが掛けてあり、それをエリックが乱暴に取り去ると、大量の埃が舞う。エリックは、自作の引き延ばし機を自慢する。エリックは、将来オスカーが自分で現像作業ができるように、白熱電球を点けたまま、不要になった古いフィルムを取り出してみせ、それを金属製のフィルムリールにゆっくりと巻いてみせる。そして、半分ほど巻いたリールをオスカーに渡すと、最初はそのまま巻かせ、次いで、暗闇でも同じことができるよう、タオルを目の周りに縛りつけて、作業を続けさせる(2枚目の写真、矢印)。そして、巻き終わったフィルムリールを円筒状の金属容器に入れさせ、蓋をさせ、目隠しを外す。そして、「次は、魔法の薬じゃ。これで奇跡が起きる。現像液じゃ」と言って瓶を見せると、金属容器の中に注ぎ入れる。そして、古い機械式のタイマーを10分にセットすると、振るように容器を動かし、時々、容器でテーブルをトントンと叩く。そして、すぐにオスカーに代わって作業を続けさせる(3枚目の写真、矢印)。エリックは、「これでフィルムから泡が落ちる」と説明する。タイマーが鳴ると、容器の中の現像液を捨てる。
いつの段階で、練習用のフィルムから、オスカーが最初に撮影したフィルムに切り替えたのかは分からないが、最後は、白熱電球を消し、赤いセーフランプだけにした状態で、現像液に浸したフィルムを水の入ったプレートで洗い、壁の白い金属板に張り付ける(1枚目の写真)。赤いセーフランプが消え、白熱電球が点くと、エリックは12枚の写真が3×4に並んだ紙をオスカーの前に置き、「さて、お前さんはどの写真が一番じゃと思う?」と訊く。オスカーは、桟橋でマニーの漁船を撮った写真を指差す。エリックは、「ちょっと ごちゃごちゃしとらんか? つまりじゃな、何が言いたいのかよく分からんのじゃな」と、批判する。その代わりにエリックが一番気に入ったのが、シスターを撮った写真。エリックはルーペを置き、顔と胴体の拡大した姿をオスカーに見せ(2枚目の写真、以前にC220の印付きのあった写真)、シスターについて話す。「メアリーは、村一番のきれいな女の子じゃった。ボーイフレンドのソニーがメアリーにプロポーズした時、彼は愛の証にと、ピンクのバラの庭を植えたんじゃ。そのあと、ソニーは徴兵され、戻って来んかった。この写真がお前さんの写真の中で一番なのは、シスター・メアリーの生涯を知らずとも、彼女がどんな人かが一目で分かるからなのじゃ。そこにすべてがある」。その後で、ルーペをオスカーが選んだ写真の上に置き、今度はエリックが見てみる(3枚目の写真、以前にC220の印付きのあった写真の黄色の点線の枠内)。マニーの拡大された姿を見たエリックは、そこにエリックのすべてが凝縮されていることに気付き、「わしが間違っとった。被写体にもっと近づけば、素晴らしい写真になっておった」と言う。そして、暗室から出て、さらに店から出ると、エリックは目の前の光景、新聞を頭に乗せた老人をオスカーに撮らせ、上手な被写体の選び方を教える(4枚目の写真、C220の印付き)。
エヴリンがキッチンで洗い物をしていると、ドアがノックされる。エヴリンがドアを開けると、そこにいたのはDCF〔児童家族局、CPS(児童保護サービス)ではない〕の女性。訪れた理由は、桟橋でオスカーがコナーに野卑な言葉で罵られたことに対する通報が局にあったから。そこで、担当者は、子供がそのような環境に置かれるような家庭の状況を調べに来たのだった。担当者は、この漁村に引っ越した理由、オスカーがそれに対してどう思っているか、オスカーが声の出ないことに対し再診断はしたか、など詳細に尋ねる(1枚目の写真)。映画を観る上で重要な情報は、なぜオスカーが口を聞けないかをエヴリンが説明する場面〔役所の資料には、口がきけないとは書いてあってもの、その理由までは書いてない〕。「オスカーは、3ヶ月早く産まれた〔妊娠7ヶ月〕。ICUにいたとき、酸素チューブを何度も挿入〔気管切開〕しなければならなかったので、声帯瘢痕〔声帯の物性が硬く変化して動きが悪くなるため、声が出しにくくなるか出なくなる疾患〕になってしまったの」〔オスカーが常にマフラーを首に巻いているのは、喉の正面にある瘢痕を隠すため〕。早目の家に帰って来たオスカーは、自分に不利なことが話されていそうなので、床下に潜って2人の話を聞いている。そして、DCFの女性が帰って行くと、家に入って来て、母の後ろから抱き着く。そんなことで許すような母エヴリンではなく、昨日、DCFに通報が行くような状況になったのに一言も話さなかったオスカーを叱り、「あなたにとって何か困難なことがあるからといって、それから逃げてもいいというわけじゃない。人生は厳しいの。そして、これからもっと厳しくなる。状況が辛いからといって、私が仕事や請求書やあなたから逃げられると思うの?!」と怒鳴ると(2枚目の写真)、怒ったオスカーは、会話用のメモ帳に、「だから、ママは僕らをここに連れてきたんじゃないか!!!」と書いて、それを母に見せ、それを読んだ母が何も言わずに出て行くと、オスカーもメモ帳をテーブルの上に放り出して(3枚目の写真)、自分の部屋に行く。
翌日、オスカーがエリックの店に行くと、今日はカメラではなく、砂浜に行き、宝物探しをしようと言う。そして、トレジャーハンター用の探知機を持って一緒に砂浜に行くと、最初1回自分でやって見せ、あとは、オスカーに任せる(1枚目の写真)。最初に反応したものをエリックがシャベルで掘ると(2枚目の写真)、出て来たのは死んだ魚。結局見つけたものは、1セントのコイン1枚の他は、ビールの栓2個などのゴミ。中に入っていた石をオスカーが捨てようとすると、エリックは 「ちょい待ち。それは、今日一番の貴重品じゃ」と言ってオスカーの腕を握る(3枚目の写真、矢印はレッドジャスパー)。そして、「これは、レッドジャスパー〔赤~赤茶の碧玉〕、ヒーリングストンーじゃ。あらゆる脅威から お前さんを守ってくれる。バランス、勇気、戦士としての強さをもたらす。竜殺しのジークフリートは、怪物を倒す勇気を得るためレッドジャスパーをはめ込んだ魔法の剣を持っておった」。そう言うと、エリックはレッドジャスパーをオスカーの手袋の中に押し込む。その後で、重要な教訓を垂れる。「お前さんが、カメラをいつも持ちたがるのは分かる。じゃがな、一生、レンズを覗いておるわけにはいかんじゃろ」。そう言うと、カメラがあれば撮りたくなる “顔の形をした岩” を、両方の親指を付け、残りの指で凵の形を作り、カメラがなくても、どんな写真が撮れるかを判断する方法を教える(4枚目の写真、矢印は左右の指)。
その直後の場面、フランクの家に男が現われ、「桟橋に固定されていないあなたの船の上で流し網を一巻き見つけました。遠洋流し網の禁止法に違反しています」と言って、網を見せ、黄色の紙を渡す(1枚目の写真)。フランクは 「わしは、1980年代から流し網なんかやっとらん。どういう積りで、わしの船を嗅ぎまわっとるんじゃ!」と怒鳴ると、相手は、「この港の他の船の半分以上で流し網が見つかったんですよ」と平然とした顔で言い、立ち去る。その日の夜、バーに来たエリックが酔っ払って倒れそうなのを見て、マニーが 「エリック、大丈夫か?」と声をかけると、エリックは 「わしのことは構わんでくれ」と言う。この日は、エリックがまだ若かった頃、息子を亡くした日なので、マニーは 「なあ、今日があんたにとってどれほど辛い日なのかくらい 俺だって分かってるんだ。一緒に飲まないか?」と誘うが、エリックは 「わしなら大丈夫じゃ」と言ってバーを出て行く。代わりに、そこに入って来たのはフランク。「読んでみろ」と言って黄色い紙を息子のダーモットに渡す。それを見たダーモットは、「海上パトロールからの罰金命令だ。それが、どうしたんです? 文句なら彼らに言えばいいでしょ」と言う。フランクは 「罰金が問題じゃない! これは脅迫じゃ! 11月の投票までに、わしらが遭遇するであろう、たくさんの中の一つじゃ! サイレン・グループを有利にするための陰謀に違いない!」。「親爺さん、それは被害妄想ですよ。彼らは不動産業で、海上パトロールとは無関係です」。「被害妄想じゃと? もし わしが大企業で、このリゾートが建設されるかどうかに何百万ドルもの権益は絡んでいるとしたら、小さな田舎町の世間知らずどもに投票を任せておくじゃろうか?」(2枚目の写真)「それとも、こっそり わしに有利になるようするじゃろうか〔put your thumb on the scale〕?」。2人は、また口論を始める。その頃、バーを出て行ったエリックは、夜の海岸に行き、じっと海を見つめている(3枚目の写真)。
翌朝、オスカーは、遠くの方で自転車に乗っている3人のワルにカメラを向けている。すると、それに気付いたデールが向かって来る(1枚目の写真)。そして、オスカーの前に自転車を停めると、「なんで俺たちの写真、撮るんだ? お前、変態か何かなんか?」と言うと、持っていたソーダ水をオスカーの頭から掛ける(2枚目の写真)。不良どもが去ると、悲しくなったオスカーは、「閉店」の札の掛ったエリックの店のドアをドンドンと叩く(3枚目の写真)。
何度叩いても応答がないので、どこに鍵が置いてあるか知っているオスカーは、鍵を取り出してドアを開け中に入る。店の中では、エリックが、額に入った息子のカラー写真と〔昔のカラー写真が、色落ちせずに完璧に保存されているのはあり得ない〕、地元の新聞の一面記事を眺めている。新聞の見出しは 「6歳の少年が溺死/悲嘆にくれるジャスパーズの入り江」で、その下に、カラー写真が白黒になって転載されている(1枚目の写真)〔昨夜、エリックが海を見ていたのは、そのため〕。ドアが開いたことを知ったエリックは、店の奥から出て来て、「今日はダメじゃ、オスカー」と言うが、髪が濡れているのを見ると、「ここで待ってろ。拭く物を持ってきてやる」と言って取りに行く。オスカーは、「ここで待ってろ」と言われていたにもかかわらず、母親の躾が悪いので、エリックが入っていった部屋に勝手に入って行き、テーブルの上に置いてあった数枚の白黒写真を見ると同時に、少年のカラー写真の額を勝手に手に取って見る。そして、メモ帳を取り出すと、「これみんなあなたが撮ったの?」と書いて、2階から降りて来たエリックに見せる(2枚目の写真)。そして、メモ帳をしまおうとして、うっかりテーブルの上に置いてあった栓のしてないウィスキーの瓶を倒してしまい、ウィスキーが白黒写真の上に流れる(3枚目の写真、矢印)。
大事な思い出の品がウィスキーで破損したことから、激怒したエリックは、「何てこった!! 店で待ってろと言ったじゃろ!!」と怒鳴る。そのあと、怒鳴るのを止め、「そうじゃ。みんなわしが撮った写真じゃ」。そして、「写真とは何かを知りたいか?」と言うと、少年のカラー写真の額を見せ、「これじゃ。胸が張り裂ける思いじゃ」と言い、次に、ウィスキーで汚れた、戦争で怪我をした兵士達〔エリックとの関係不明〕の写真を見せ、「苦しみ、辛い記憶じゃ」と言う。そして、写真を置くと、「時間を無駄にするな。何か別のことを探せ」と言いながら、持って来たタオルをオスカーの頭に投げつけ(2枚目の写真、矢印)、倒れたウィスキーの瓶を取り上げると、何も言わずに2階に上がって行く。悲しくなったオスカーは、借りたカメラをテーブルに置くと、店から出て行く。家に戻り、洗濯機から衣類を取り出している母から声をかけられても、無視して自分の部屋に行き、乱暴にドアを閉め、バッグを床に叩き付けるように投げると、イスに座って悲しむ(3枚目の写真)〔エリックに言われたことを守らず、不注意で瓶を倒して貴重な写真を汚したことを謝りもせず(メモ帳に何か書けばいいのに)、家に帰って罰当たりな行動を取るオスカーには、全く同情できない〕〔このあと、エリックからもらった、“最初に撮影した12枚の写真が3×4に並んだ紙” を破り捨てるシーンは、観ていて腹が立つ(だから、あらすじの写真には使わなかった)〕。
マニーの船員たちが今後どうなるかについて話し合っていると、そこにフランクが入ってきて、「罰金を免除してもらおうと、ずる賢い人ロビイストと今まで電話しとった。奴が言うには、缶詰工場の計画は延期されたそうじゃ」と、腹立ちまぎれに話す。船員たちからは、仰天の結果に、「どういう意味です?」「いつまでですか?」と不安の声があがる。「誰にも分からん〔Anybody's guess〕。環境調査が継続中だと言いおった」(1枚目の写真)。「11月には投票でしょ? それまでに、どうやって調査結果を出すんです?」。「分からんのか?! わしらの投票から外れたんだ! 奴らはわしらの嘆願書を無視し、資金を奪い、上前だけ撥ねたんじゃ!」。フランクは村の将来に悲観して、ピールを煽る。一方、エリックはエヴリンの家を訪れる。そして、自己紹介し、「息子さんは家にいるかね?」と訊く。エヴリンが、「何のご用でしょうか?」と尋ねると、「わしの店にこれを置いて行ったんじゃ」と言ってカメラを見せる。エヴリンは、「まあ、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまって」と謝る。「いいや。ただ返しに来ただけじゃ」。それに対し、エヴリンの口調が微妙に変化する。「正直に言って、そうしていただかなかった方がよかったと思うんですよ。あの子ったら、そのカメラを “自分の自由や能力を妨げるように〔around like a ball and chain〕” 持ち歩いてるもんで」。「それで、オスカーは、わしらが一緒に取り組んできたことを話さんかったのかな?」。「どうして息子の名をご存じなの?」。「あんたの息子さんに、写真の撮影について幾つかアドバイスしたんじゃ。それを渡しておいて欲しい。新しいフィルムも入っておるでな」。「エリックに優しくして下さり、ありがとう」。「奥さん、あんたが何〔バーの手伝い〕をされていようが、あんたは立派な若者を育てておられる」(2枚目の写真)。エリックは “不始末の後のオスカーの心ない態度” を不問にして、こう褒めると、帰って行く。母は早速カメラを持ってオスカーに会いに行くと、「正体がバレちゃったわね〔your cover's blown〕。こっそり外出するだけじゃなく、見知らぬ人にも声をかけてるなんて」(3枚目の写真)と、これまでの嘘について批判すると同時に、真面目な老人から褒められことで、息子を若干見直すと同時に、これまで息子に無関心過ぎた自分の態度を少しは反省する。
翌朝、ダーモットのバーで、女性客が新聞を見ている。その2面か3面の大きな記事の標題は 「サイレンがサン・フェリペで6100万ドルの商談成立」というもので、その下には、ダーモットが集会の時に見せたのと同じホテルの絵〔絵だけで地名などの文字はない〕が掲載されている(1枚目の写真、矢印)。女性は、さっそく、「ホテルをめぐってサン・フェリペと入札合戦をしてるなんて、あなた言わなかったわね。なぜ、サイレンは、車で半時間もかからない場所にリゾートを作ろうとするの?」と訊く。この記事に一番驚いたのは、ダーモット。そぐにサイレンの担当者に電話を掛け、「提案を撤回するのか?」「それがどうした? 金勘定に忙し過ぎて、電話も掛けられなかったのか?!」「これで、俺がどんな目で見られるか、考えたことあるのか?!」「それがどうした? 貴様、どの協力者にもこんな仕打ちをするんか?!」(2枚目の写真)「貴様らはろくでなしの集団だ! 貴様らの高級リゾートなんか、くそ食らえ!」と怒鳴りまくる。フランクは、昔、ダーモットが使っていた木のボートを家の中に立てている。フランクは、それを見たマニーの船員の一人に、「あいつが、これを取り戻したいとは思わんじゃろうが、あいつの息子の誰かが いつか欲しがるかもしれん」と言うと、きれいにペンキを塗り直すと話す。そして、漁船で生計を立てることの厳しさについて船員が訴えると、「単に生計の問題じゃないんじゃ。これは、生きているということなんじゃ。顔に冷たい風を受け、肺に塩気を感じ、足元を流れる深い流れを感じながら」(3枚目の写真)「夜、あの星空を見上げるのは最高じゃ。あの星空を見上げていると、5,000年前にも わしと同じようなクソ野郎がいて、同じ星を見上げていたに違いないと思うことがある」と話す。
同じ頃、オスカーは母に内緒でエリックに謝りに行こうと店の前までいくが(1枚目の写真)、エリックが店から梯子を引っ張り出して来て、壁に立て掛けた時、腰を痛めて、すぐ横のイスにぐったり座り込むのを見ると、悲しくなってすごすごと家に引き返す。戻ってきたオスカーに、母は、「あんたと、あんたの父ちゃんの間に割って入ろうと思うなんて、私がバカだった。いいかい、あんたの父ちゃんは、あんたの年頃に、おじいちゃんからこのカメラをもらったんだ。あんたの中には、このカメラ以外にも、彼が一杯いる。あんたの目にも。あんたの物の見方にも。だから、お行き。そして、あんたの父ちゃんの息子になりなさい」と、カメラを渡して励ます(3枚目の写真)。そこで、オスカーは、今度はカメラを肩に掛けてエリックの店に入って行く。そして、エリックが、「やあ、来たな。また、友だちだな?」と言って手を差し出すと、その手をしっかりと握る(4枚目の写真)。そして、この間 問題となった少年のカラー写真を持って来ると、息子のジャックだと紹介する。
エリックが、久々にジャックの額を壁に掛けると、あまりにも偶然に、隣の部屋のラジオからジャックが好きだった曲が流れてくる。それを聞いてますます機嫌の良くなったエリックは、ラジオの部屋に入って行くと踊り始める。それを見たオスカーは、さっそくカメラを向ける(1枚目の写真)。それを見たエリックは、オスカーに向かって、「スナップを撮る時もあれば、踊る時もある。今は、踊る時じゃ」と言う(2枚目の写真、C220の印付き)。オスカーはエリックと一緒に楽しく踊り始める(3枚目の写真)。
カメラを首にかけて1人でスナップ撮影に出かけたオスカーは、林で蝶を撮った後、デールが下手なトランペットを吹き、あまりのひどさに不良仲間も耳を塞いでいる光景を、ボートの陰から(1枚目の写真)こっそりパチリ(2枚目の写真、C220の印付き)。そのあと、遊歩道のような場所で、ピンクのバラの花を見つける。一方、店で他人のラジオを修理しようとしたエリックは、その向こうの開いた引き出しの中に、オスカーのマミヤC220が未修理のまま置いてあるのに気付く。そこで、そちらから先に片付けようと思い、ドライバーで裏蓋を開けると、未現像のフィルムが回収されないまま残っているのに気付く(3枚目の写真、矢印)〔こんな明るい所で開けて、撮影済みのフィルムに悪影響はないのだろうか?〕。
オスカーは、桟橋に行き、今度は見つからないよう、マニーと船員たちを撮り(1枚目の写真、C220の印付き)、桟橋を探索し(2枚目の写真)、別の老いた船員を撮影した後で、フランクがダーモットの木のボートにきれいな青のペンキを塗り、そこに新しいボートの名前を書き入れている姿をガラス越しにみつける(3枚目の写真、矢印はオスカー、C220の印付き)。最後に映るシーンは、シスターがいつもの散歩道を、籠に紫の花を一杯入れた自転車を押しながら歩いていると、いつも座るベンチにピンクのバラの花が置いてあるのを見つけ〔オスカーが、エリックから聞いたシスターについての話 「ボーイフレンドのソニーがメアリーにプロポーズした時、彼は愛の証にと、ピンクのバラの庭を植えたんじゃ」 を覚えていて、シスターのお気に入りのベンチに置いておいた〕、感極まって胸に押し当てる(4枚目の写真、C220の印付き)。
オスカーが、撮影したフィルムを持って行くと、エリックは、「そろそろ自分でフィルムを装填してもいい頃じゃ。わしは、お前さんの助手じゃないからな」と言い、カメラの脇に新しいフィルムを置く。そして、「何だと思う? お前さんの古いマミヤの中に、撮影済みのフィルムが入っておった。見てみたいか?」と、如何にも凄い事のように尋ねる。オスカーは、すぐに頷く。エリックは、すぐにオスカーを現像室に連れて行く。すると、中には6枚の写真がぶら下げてあった(1枚目の写真)。エリックは、右から2枚目の写真の下部を指して、「わが友よ、これは、お前さんに違いない」と言う(2枚目の写真、矢印)。そして、「ママさんも、見たら喜ぶぞ。どう思う?」と訊く。オスカーも頷く。こんな素晴らしいプレゼントをくれたエリックに、オスカーは顔を胸に擦り付けて感謝する(3枚目の写真)。あらすじの最初の節で、カメラのことを 「幼い時に死んだ父の形見」、このフィルムのことを 「壊れたカメラに残っていた未現像のフィルムに、生まれた直後のオスカーが映っていたから。そんな貴重な写真なら、写真好きの父ならすぐに現像したであろうから」と書いたのは、この場面が元になっている。この6枚の中には、他にも、母が妊娠末期で、お腹が大きく膨らんでいる写真や、赤ちゃんのオスカーの背中を大きく映した写真もある〔後から出て来る〕。
同じ日か、次の日、マニーがエリックの店にやって来て、姿が見えないので、奥の倉庫に探しに行く。マニーを見たエリックは、「どんぴしゃ、会いたいと思っておった男じゃ」と言う。「そうかい。何事だね?」。「この前、もう他に手はないって話してたじゃろ? 諦めたいって」〔実際にマニーが言った言葉は、「冬が来たら、トロール船はスクラップし、漁業免許は最高額の入札者に売るよ」だった〕。「ああ」。エリックは、笑顔で 「負けを認め〔throw in the towel〕ようとしとる男にゃ見えんな」 と言うと、オスカーが撮った写真から “要の部分” を拡大した物をエリックに見せる(1枚目の写真)。マニーは、自分が祈りを捧げているネズミの見たいな絵のことを、「親爺は、事業を譲る前に、すべての船にこれを打ち付けたんだ。幸運を祈って」と、懐かしさと恥かしさの混じった表情で説明し、「あんたが撮ったのか?」と訊く。「わしじゃない」。「何で俺を呼んだんだ」。「マニー、あんたに頼みたいことがあってな。仲間も入り用になるじゃろう」(2枚目の写真)。その頃、オスカーはモロ・ロックの下に陣取って海を見ている(3枚目の写真)。
撮影が終わったオスカーがエリックの店に来て、いつも通りカメラを渡すと、「今度は、お前さんの番だ、マエストロ」(1枚目の写真)「何をすりゃいいか全部分かっとるじゃろ。頑張って来い」と言って、一人で現像室に行かせる。オスカーは、嬉しそうに、現像室に走って行く。すると、残されたエリックの気分が急に悪くなり〔脳か心臓かは不明〕、イスに崩れるように座ると、急いで処方された薬の容器をポケットから取り出し(2枚目の写真、矢印)、中身を手に空けて口の中に入れると、あっという間に回復する。しばらくして、暗室のドアがノックされ、もう現像が終っていたので、オスカーはドアを開ける。オスカーが大きく拡大した写真は1枚だけ(3枚目の写真)。それは、仲のいい2匹のラッコだった(4枚目の写真)。
オスカーがちゃんと現像できることに満足したエリックは、オスカーの古いカメラに入っていた写真を持たせ、明日も同じ時間に来るように言い、相棒同士のように別れる(1枚目の写真)。エリックが 「気をつけろよ」と言ったので、オスカーは振り返ると、以前エリックがやってみせたように、指で凵の形を作ってみせる(2枚目の写真、矢印)。家に帰っても、母はまだバーで仕事中なので、エリックからもらった6枚の写真の入った黄色の袋に、「Mom」と書いて、机の上に置く(3枚目の写真、矢印)。
その先、あることが起こり〔オスカーの叔父が絡む不祥事だが、あまりに馬鹿げていて、映画の格を落とすだけなので、無視する〕、オスカーはエリックの店に入って行く。すると、店の前には救急車が停まっていて(1枚目の写真)、すぐに動き出す。オスカーが呆然として立っていると、「開店」の札が下がったドアが開いてマニーが出て来ると、札を「閉店」に変える。そして、1人立っているオスカーに気付く。マニーはオスカーに向かって真っ直ぐ歩いて行くと、何事か話しかける(2枚目の写真)。すると、オスカーが悲観してうつむくので、エリックが亡くなったことが分かる。オスカーは、モロ・ロックの下に行き、岩にもたれて涙を流す。夜遅くなって家に戻ったオスカーは、心配していた母に抱き着き、何も言えないので涙を流すしかない(3枚目の写真)。
牧師が、「私たちの親愛なる友エリックに別れを告げるにあたり、言葉だけでなく行動で彼の思い出を称えましょう」と言葉を結ぶ。墓地での参列者は、オスカーの母を除く集落の全員。全員の手に、エリックの写真付きの哀悼の紙が配布されている。そこには、1951年10月6日~2024年7月15日と書かれている〔この映画のアメリカでの公開は7月23日なので、その僅か8日前、このシーンを撮影したのは当然もっと前なので、公開日が予め決まっていなければこんな冒険はできない。いっそ、撮影した日にしておけばよかったのにと思う〕〔死んだ時の年齢は何と72歳。80歳は超えていると思ったのに、髭が生えていると実年齢より年上に見えるのかと驚いた ⇒ と思ったら、エリック役のボー・ブリッジスは1941年12月9日生まれ。ということは撮影時81歳。実年齢とぴったり一致していた〕。牧師の言葉が終わると、フランクが “エリックが残した別れの言葉〔parting words〕” を読み上げる(2枚目の写真では、オスカーが木の陰で聞いている。なぜ葬儀に加わらないのかは分からない)。この “言葉” はかなり長く、読み上げる “言葉” と映像とはどんどんズレて行く。すなわち、映像の方が早く進行し、“言葉” はいろいろな映像を背景にして流れ続ける。「親愛なる友人の皆さん、本日はここに来て下さりありがとう。しかし、もっと大切なことは、皆さんがいつもそばにいて下さったことです。ジャスパーは、わしと美しいローズが一緒に住もうと決めた所です。そして皆さんはわしらを暖かく受け入れて下さった。皆さんの中で、わしらは人生を築きました」(3枚目の写真)。
この後も無難な “別れの言葉” は続き、次第に時代を反映して変わっていく。「良き時代には、わしらは一緒に祝いました。そして厳しい時代になると、わしらは支え合いました」。実際には、この “別れの言葉” の朗読が終わるまで、全員が座っていたのだが、映像は、“別れの言葉” が終わり、全員が墓所を立ち去り始める。「だからこそ、我が親愛なる友よ、皆さんこそがジャスパーの入り江の本当の魔法なのです。それは、皆さんの笑顔の中にも、笑い声の中にも、涙やハグや握手の中にも、一人で過ごす時間や、愛する人達との時間の中にもあります」〔この部分が一番重要。つまり、エリックは、オスカーが撮ったこうした場面を見て感動した〕。映像は、ただ一人、参加しなかったエヴリンが、家で、オスカーが置いていった黄色の袋の中に入っていた昔の写真を見て、感動している(1枚目の写真、矢印は膨らんだお腹と赤ちゃんオスカー)。写真には、7枚目が入っていて、それはオスカーがマミヤC220を構えて写真を撮ろうとしている現在の姿だった。その時、玄関のドアがノックされる。エヴリンがドアを開けると、そこにいたのはマニー。場面は変わり、1人だけ墓所に残ったオスカーが、棺の上に、「飛び切り一番の友へ」と書いた紙を置き、エリックから大事に持っているようにと言われたレッドジャスパーを、その紙の上に置く(2枚目の写真、矢印はレッドジャスパー)。このシーンの少し前に、一時途絶えていた “別れの言葉” が短く入る。「すべての日の出、すべての日暮れの中にも」。オスカーは、涙を何滴も落として別れを心から悲しむ(3枚目の写真)。「しかし、どういう訳か、わしらが直面する困難な時期の中で、皆さんはそれを見失ってしまいました。わしもそうでした。ある人〔当然、オスカー〕が、わしに思い出させてくれるまで」。
そして、エヴリンを乗せたマニーのトラックが墓地にやってくる。母は、オスカーを抱き締めると、「坊や、ホントにごめんない。知らなかったの、許してね」と、息子とエリックの強い絆に気付かず、葬儀にも出なかったことを、心から詫びる(1枚目の写真)。そして、マニーが、エリックが死ぬ前に修理しておいたオスカーが父から受け継いだマミヤC220を渡す。ジャスパーに戻るトラックの中で、マニーは、エリックがオスカーに残した言葉を伝える。「よって、わしはこう言いたい。お前さんは魔法じゃ。お前さんはジャスパーの魂じゃ。目を凝らして見るんじゃ」。そして、トラックが停まると、「降りて、見に行って欲しい」と言う(2枚目の写真)。オスカーがマニーと一緒に下りると、そこには、歩いてジャスパーまで戻った参列者の人々が、びっくりして眺めている。マニーは、その最前列にオスカーを連れて行く(3枚目の写真)。そこの壁一面に飾られていたのは、エリックが選び、自慢していた引き延ばし機で大きく伸ばしたオスカーの作品群(4枚目の写真)。それを展示用に張り付けたのは、マニー達だった。
1枚目の写真を見たフランクと他の2人は(2枚目の写真)、それを見て笑顔になる。3枚目の写真を見たフランクとダーモットは(4枚目の写真)、これまで不調だった親子の仲を考え直したのかも。
1枚目の写真には、マニーの最悪の漁師で、桟橋でオスカーを虐めたコナーの笑顔が映っている。それを見たコナーは、自分のこれまでを反省したに違いない(2枚目の写真)。3枚目の写真は、かつて、エリックがオスカーに撮るよう勧めたもの。そして、4枚目の写真は、虐めっ子のデールを撮ったもの〔オスカーが撮った時と、全く同じ構図〕。それを見たデールは笑顔になる。
シスターが感動したのは、ピンクのバラを持つ笑顔の自分(1枚目の写真)。オスカーに 「ありがとう」と感謝し、拍手し始める。2枚目の写真の女性も、シスターの隣で同じように拍手を始める(3枚目の写真)。
オスカーは、みんなが喜んでくれて、笑顔になる(1枚目の写真)。オスカーが最も気に入った写真は、エリックとダンスをした時、(今から思えば)オスカーに今後の在り方を示唆してくれたような姿を撮った2枚目の写真。拍手の渦は、今までオスカーに意地悪だったデールやコナーを含め、全員に広がって行く。これが、缶詰工場と、ホテル&温泉の誘致の両方に失敗し、高齢化に悩むジャスパーに、何らかのインパクトになるかもという期待を持たせて映画は終わる。