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City of Dreams 夢の街

メキシコ・アメリカ映画 (2023)

この映画の最後には、監督がこの映画にかける意気込みについて、代理の少年に語らせている。WEB上で映画の題名を入力すると、2番目に出て来るのが、https:// www.cityofdreamsmovie.com/ というサイト。これは、この映画の製作に協力した人々が立ち上げたもので、どうすればアメリカに巣食った悪夢を救えるかについて、「JOIN THE FIGHT」の項では、「あなたにできる10の助ける方法」として、寄付も含めて10の写真が掲示されている。そして、「JOIN THE FIGHT」の隣の「NEWS」の欄の「'CITY OF DREAMS’ ADDS VIVEK RAMASWAMY & COLLEEN CAMP AS EPS」という四角の中に、次のような一文がある。「実話に着想を得たこの映画は、国境を越えて人身売買され、ロサンゼルスのダウンタウンにある労働搾取工場に売られたメキシコの少年を追っている。映画は、現在の国境危機と、アメリカ企業のサプライチェーンにおける移民の子供たちの搾取に触れている。「(この映画は)私たち自身の国における児童の人身売買という最も不快な部分を暴いたが、結果として、すべてのアメリカ人、とりわけすべての親を非常に不快にさせるはずだ。これはアメリカの悪夢だ。あなたが左派であろうと右派であろうと、黒人であろうと白人であろうと、児童の奴隷制や人身売買と戦うことは、私たちにとって最も重要な道徳的義務の一つだ」。しかし、トランプは声高に不法移民の強制送還や、犯罪歴のある移民の国外退去を叫ぶが、この映画が扱っているような、アメリカ人が、不法に連れ込み、奴隷のように働かせている悪漢に対する制裁的措置には一切触れていない。やはり、自分の国で行われている恥ずべき行為には目をつむったり、知らないフリをしたりするのが一般的な風潮なのであろうか。映画評論家のサイト、Rotten Tomatoesでも、評論家のポイントは低い。Dennis Schwartzは、「信頼性テストに絶対合格しない」とだけ書いているし〔そもそも、こんなことがアメリカで行われていることを信じようとしない。だから嘘を本当と偽っていると解釈し、低い点を与えている〕、Dhruv Goyalは、「映画の全体は、文字通りではないにせよ少なくとも比喩的には、監督が批判したいと思っている御都合主義的な搾取を描こうとしているが、説得力がまるでない」、Carlos Aguilarは、「監督の不可解な脚本には、ハリウッドの退屈なラテン系コミュニティの描写の際に繰り返し描かれる、最も明白で定番の人物像が登場する」、Robert Kojderは、「この映画は、非合法な労働搾取工場の残忍さというお膳立てを描く吐き気を催させるやり口に加え、嘘っぽいナンセンスを頻繁に散りばめた脚本で、腹立たしさが倍増する」、Mark Hansonは、「この映画は、アメリカにおける移民の現代的な奴隷制のリアルな覗き見ではなく、拷問ポルノ工場の意図的な暴露だ」と、何れも、映画のような悪辣かつ残虐なことがアメリカで行われているハズがないという前提に立って、評価を下している。誰でもそう思いたくなるのかもしれないが、公平に見るべき評論家としては、この感情丸出しの態度は失格でもあるし、書き方のひどさは最低だ。ただ、https://www.walkfree.org/global-slavery-index/findings/glo bal-findings/ というサイトで、世界の奴隷制に関する2021年の推計結果が記されていて、約2760万人が強制労働、2200万人が強制結婚させられていること。強制労働のうち1200万人以上が子供だと書かれている。そして、160ヶ国を調査した結果として、奴隷制度がまん延している国のワースト10を含めた世界地図が表示されているが、アメリカは結構低い国に分類されている。映画の冒頭の表示 「1,200万人以上の子供たちが現代的な奴隷制の犠牲者になっている。これは反撃した子の物語である」の1200万人以上は、このサイトに書かれた数字で、アメリカの数字ではもちろんない。このサイトには、アメリカに関する調査結果として、「2019年6月から2020年6月までの1年間に、政府は強制労働目的の人身売買の被害児童200人を記録した」と書かれている。僅か200人? この映画が2023年に公開されたことで、“中南米の児童を騙して不法に入国させ、奴隷のように働かせるグループ” の摘発が増えるかもしれない。

主人公のヘソース役は、アリ・ロペス(Ari López)。個人的な情報はゼロ。ショート映画4本(2014~2022年)の後に出演した初めての本格的映画がこの作品。彼が言葉を話すのは、映画の最後の方で僅か3語のみ。だから、もっぱら顔の表現と、肉体的な動きのみでの演技となる。その点に関しては高く評価されている。

あらすじ

映画の冒頭、「1,200万人以上の子供たちが現代的な奴隷制の犠牲者になっている。これは反撃した子の物語である」と表示される。メキシコの中央にあるプエブラ州の辺ぴな田舎に住む15歳のヘソース〔Jesús、イエス〕が、地元の子供たちと一緒に、丘陵の草原でサッカーをしている(1枚目の写真、矢印)。彼の夢はロサンゼルスのBMOスタジアムで、ロサンゼルス・ギャラクシーの選手として活躍すること。その夢を見ながらサッカーをしていると、夢の中でも実際のプレーでも安全を脅かすタックルをしてしまい(2枚目の写真、矢印)、退場処分となる。これがヘソースにとって地元での最後の試合となるので、一番の親友が 「新しい世界でベストを尽くせ。俺たちの誇りになれ」と言って別れを告げる(3枚目の写真)。
  
  
  

荒野に1軒だけ建つ “廃材を集めて作った” 粗末な家の近くにあるヘソースの母の墓の前で、父が 「我らが力強く、感謝すべき主よ、あなたは何でもおできになる。この子を守り、運命へと導いてください」と、アメリカへの希望に満ちた出発に対して神に祈った後で、今度は、それまで語らなかった母の死について、その思い責任をヘソースに語る。「お前の母は、どんなに痛みがひどくても、何度も繰り返して言った。洞窟に着いた時には、彼女はひどく出血しており、シャーマンは子おろしを忠告した。それしか、彼女を救う道はなかった。だが、彼女は拒んだ。毎日、俺は彼女の命乞いをした。そしてお前の命も。そして、復活祭の日曜に彼女は、帰らぬ女(ひと)となり、お前が産まれた。彼女が最後に何て言ったか、知ってるか? 「彼は言うことを聞く時もあれば、聞かない時もある」。すると、遠くで、車のクラクションが乱暴に鳴らされる。ここで画面が俯瞰映像に変わり、赤いマスタングがやって来るのが見える(1枚目の写真、矢印はヘソース、すぐ左にある十字架は母の墓、廃屋に近い粗末な家の屋根が、廃材で出来ていることがよく分かる)。父は、「息子よ、行く時が来た」と立ち上がる。父は、挨拶に行き、ヘソースを迎えにきた男は、どこにも表示がないので迷って遅れたと話す。同じ頃、新調したTシャツを着たヘソースは墓の前から立ち上がる。後ろに固まっているのは、ヘソースより前に生まれた兄4人と姉4人と祖母(2枚目の写真、矢印)。派手な服を着た男は、「それで、チビ助はどうしてる?」と訊く。「準備できてます」。「そりゃ結構。彼のためだけじゃなく、あんたら家族のためにも」。そして、ヘソースに向かって、「今日は、悪魔が踊るほど暑いぞ。だけど、マスタングには秘訣がある。エアコンだ」と言って笑う(3枚目の写真)。その間、ヘソースは、前節の最後の別れの時にも黙ったまま〔彼は映画のラスト近くで、女性警官に抱かれて普通に 「Perdón」「Por favor」「Perdóname」と言うので、社交不安障害なのかもしれない〕
  
  
  

排気ガスをまき散らしてエンジンがかかると、父は、手を挙げて別れを告げるが、ヘソースは窓から身を乗り出して挨拶すらしない(1枚目の写真、矢印)。車が出て行くと、父の目から涙が落ちる。父は、ヘソースの運命を知っているのだろうか? 車内で、ヘソースは置いてあったコーラの缶を開け、これから行くロサンゼルス・コスモスサッカーキャンプ(6月30日~9月1日の期間の中から1回だけ、月曜から金曜までの5日間のキャンプ、参加料165ドル)の案内パンフを見て期待に胸を膨らませる(2枚目の写真)〔実在するキャンプなので、案内パンフをもらってくるだけで、費用は一切かからない〕〔しかし、ヘソースは英語で書かれたパンフに何が書いてあるのか分かるのだろうか??〕。運転をしている男は、ヘソースの方を時々見ながら、こっそりと強い睡眠薬を管の中に入れる(3枚目の写真、矢印)。その後、薬が効いてきたヘソースの目には、男が奇妙な姿に見えるようになり、そのうちに熟睡してしまう。
  
  
  

夜、パトカーがサイレンを鳴らしてマスタングを追い、右端に停車させる。理由はは一時停止違反。警官は、運転手がまともかどうか、指を左右上下に動かして目がちゃんと追うかどうかで簡単にチェックし、助手席で寝ているヘソースを、「あなたの息子ですか?」と訊く。「はい」と答えたので、年齢を聞く。「15」。「学校のある日の夜にしては、遅すぎませんか? 学校はどこですか?」(1枚目の写真、矢印は眠っているヘソース)。「Sherman Oaksの私立学校です」。Sherman Oaksには数校の私立学校があるが、裕福な地域なので、警官も 「よかったですね」と羨む。そして、職業を尋ねると、「自分の会社を持ってますよ」と言って、「Celebrity Travel〔セレブな旅〕」という社名の名刺を渡す。最後に、ヘソースの身分証明書(ID)の提示を求められると、IDではなくパスポートを見せる(2枚目の写真)。姓: 「RAMIREZ」、名: 「JAVIER」、国籍: 「USA」、生年月日: 「2003年12月15日」、出生地: 「ロサンゼルス」、発行日: 「2017年5月6日」、有効期限: 「2027年5月6日」と印刷され、如何にも本物のように見える〔すべて嘘〕〔写真はいつ入手したのだろう? 父親に撮影して送らせたのか? 生年月日と発行日から13歳半の撮影となり、その時点での顔に矛盾はないが、映画の現在は2022年くらいなので、そうなると、今は19歳。とても19歳には見えない。なぜ、発行日を2022年にして、こうした矛盾をなくさなかったのか?〕。警官は、渡された資料で問題なしとし、交通違反のチケットとパスポートを渡し、解放する。そして、後から分かるが、この停車位置が目的地だったので、男はヘソースを起こすと、建物の左側面の勝手口のドアをドンドンと叩き、「セザール!」と呼ぶ。坊主頭の変な男が現われると、パスポートと書類を渡し(3枚目の写真、矢印)、「これはヘソース、特別室を見せてやれ。お前のボスに、国境の豚が今度は3,000ドルを要求したと伝えろ。分かったか、ヘタレ」と言う。予想外の事態にヘソースは戸惑う(4枚目の写真)。
  
  
  
  

男が去ると、セザールが、「来いよ、相棒」と建物の中に連れて行き、大きな部屋に、大人が放射状に寝ている中心の足元の部分を指して、「ここがお前の場所だ。朝食は6時。最初のシフトは6時半。昼食は正午。2回目のシフトは12時半。夕食は7時。最後のシフトは11時まで。深夜に消灯だ」(1枚目の写真)〔英語で言われても、ヘソースには一言も理解できない/なぜスペイン語を話す男を雇わないのだろう??〕〔3回目のシフトの開始が7時半とすれば、1日の労働時間は15時間半。土日などないので、1ヶ月の労働時間は465時間(日本の過重労働の基準は、月100時間なので、1週40時間の標準勤務時間を加えると、月272時間となる。それの1.7倍。過労死ラインを遥かに超えている。しかも、居住環境は劣悪で精神衛生上も最悪)〕。ヘソースは、服を着たまま、中央で横になって眠る(2枚目の写真、矢印)。
  
  

翌朝6時を回り、ヘソースは、これまで触れたこともないミシンの前で悪戦苦闘している。辺りは、夜と同じ真っ暗で、僅かな照明が壁や手元を照らしている。ヘソースが仕上げた穴だらけのワンピース。ヘソースの隣の男性がかなりの熟練のようなので、困ったヘソースが失敗したワンピースを見せると、「ダメ、ダメ… 何だよこれ、坊主」と言って、穴の開いたワンピースを奪うと、「必ず真ん中に置き、強く押し過ぎない。針から目を放すな。そのまま真っ直ぐ」と、基本を教える。しかし、しばらくやっていると、ミシンが動かなくなってしまう(1枚目の写真)。あちこち触り、ミシンをガタガタ揺すっていと、音を聞きつけたセザールが飛んで来て、「おい!」と怒鳴る。そして、「顔を近づけると、何してる、相棒? ここはお前のパパの店じゃない」と言う(2枚目の写真)。困ったヘソースは隣の男性の腕を突く。しかし、男性は縫うのに必死。セザールは 「壊したら買うんだぞ」「おい、俺を見ろ! お前ツンボアホか?」と言うと、持っていた本でヘソースの顔を引っ叩く。その時、「セザール!」と怒鳴る声が聞こえる。この工場の責任者の中高年のセフェ〔スペイン語でボスの意味〕が現われ、全員が作業を止め、神妙にうつむく。そして、ヘソースの隣の男性は、「ごめんちや、セフェ。彼、強う押し過ぎた。わし、そう注意したんやけんど… こがな風にしちまった」と、つたない英語で穴の開いたワンピースをセフェに見せる。セフェは、ヘソースの前に立つと、「よ、大丈夫か?」「お前の名は?」と訊く。なぜ、ヘソースが英語を理解できたのかは分からないが〔15歳なので、いくら片田舎でも学校に行ったことがあり、英語を習った?〕、ヘソースは右手の横に刺青された名を 恐る恐る見せる(3枚目の写真、矢印)。セフェは、「自由の地、プエブラ」と言うと、それ以上ヘソースには何もせず、振り向くと、全員に向かって、「真実とは何だ? 真実とは、俺たちは自由になりたいと願っているが、俺たちは共に生き、共に死ぬ。これがアメリカだ」と言い(4枚目の写真)、作業の再会を命じる。。
  
  
  
  

ヘソースの隣の男性は、「みんなで挽回しないといかんのだ、坊主」と、全員に失敗の責任が押し付けられると、今後はミスするなと警告する。中で一番腹を立てたのは、いい成績を上げると昇格するというセフェの嘘を信じて、必死に1日当たりの製作点数を増やす努力をしてきた男。これで、ポイントが下がってしまったので、トイレの順番を待つ長い列の真ん中にいたヘソースの腕を掴むと(1枚目の写真、矢印はヘソース)、空いたトイレに一緒に連れ込むと、「俺はマネージャーになる寸前なんだ。二度と俺を困らすな」と言うと、職場から持って来た熱いアイロンをTシャツの上からヘソースの胸に押し付ける(2枚目の写真、矢印はアイロン)。夜の11時の作業が終わった後、寝るまでの消灯の間に、ヘソースに向かい合ってミシンを使っている女性が、「大丈夫? 痛い?」と、なぜか訛りのない英語で訊く。ヘソースは何も言わない。「あまり話さないのね? 話したことあるの?」。ヘソースが大事に持っている母の写真を見て、「彼女、どこにいるの? 私の父はメキシコに帰り、長いこと会ってないの」。ヘソースは、母の写真を指差すと、その指を天に向け、天国行ったと表現する(3枚目の写真、上の矢印は天国を指す指、下の矢印はアイロンによる火傷)〔これで、ヘソースには英語がある程度理解できることがはっきりする〕〔それにしても、少女はなぜスペイン語を話さないのだろう? アメリカ暮らしが長いから? それなら、なぜ違法移民の工場で働いているのだろう?〕。セザールが消灯を宣言し、暗くなる前に、少女は 「私、エレナ」と言い、右手を差し出して、「おやすみ」と言い、ヘソースがその手を握ったところで電気が消されて真っ暗になる。
  
  
  

一方、署に戻った男性警官は、なぜか 「2218 South Harvard大通り」の建物に目を付け、その情報を市に依頼して、それが届いた(1枚目の写真)。あの晩、警官が受け取ったのは、「Celebrity Travel」名刺だけで(2枚目の写真)、そこには、市の回答にあるような 「Lucky Fashon Group LLC〔ラッキー・ファッション・グループ合同会社〕」の名はどこにもない。なぜかと思って考えると、あの晩、運転していた男は、一時停止違反で警察の尋問を受けた。恐らく、彼が無視した一旦停止は、3枚目のグーグル・ストリートビューの右下矢印の停止ラインだったに違いない。彼は、そこで止まらず、このT字路を右折して、残酷な工場のある中央上の矢印の建物〔このあらすじの最後から2つ目の節に、俯瞰写真があり、その中央にある建物と同じ〕の前に停車したところを警察に尋問された。恐らく、この男性警官は、その後もパトカーの赤色灯を止め、場所を移動して、男が何をするか見ていたに違いない。そして、男が少年を連れて建物に入っていったところも見ていた。そこで、市に依頼して建物の持ち主を調べ、返答が届いたのであろう〔1枚目の写真の、下の赤線は、この建物の正しい住所〕。警官が、男の名刺の電話番号にかけてみると、「その電話番号は現在使われておりません」と言う音声が流れ、名刺に書いてあったホームページアドレスをパソコンに入力しても 「準備中」 と表示されるだけ。彼はますます怪しいと確信する。
  
  
  

一方、過酷な工場には、まるでヒジャブのように全身を黒い布で覆った白人の女性がやって来る。ランクはセフェよりも上。そして、集まった労働者の中から一番美しい女性の前に立つと、「男の姿をした神が愛について教えてくれることなど何もない」と意味不明のことを言うと(1枚目の写真)、黒いサングラスをかけ、黒いネイルペイントをした手で女性の手を掴んで(2枚目の写真、矢印は黒マニキュアの親指~あとで出てくる)、部屋から一緒に出て行く。女性達は、まだノルマを果たしていないあの女性が、なぜ幸運にも選ばれたかと怨嗟の声が上がるが、実態は、選ばれた女性は、建物の3階で全裸にされ、動画を取られ、記録媒体に録画され、売買されることが後で分かる。
  
  

警官は、あの夜、一緒だった女性警官と一緒に「Lucky Fashon Group」の建物の前にパトカーを停めると、無線で話している。相手が 「テナントの名前はマーカス・ポンセオ。指名手配も令状もなし」と言うと、警官は 「ロドリゴ・ラミレス〔ヘソースを連れて来た運転手。ここで初めて名前が分かる〕という名前の仲間がいないか調べて下さい」と頼み、相手は「10-4〔了解〕」と答える。一方、労働者の誰かが、ポイント稼ぎのため、外に警察がいるとセザールに教え、セザールはすぐに男を邪険に追い払うが、それをヘソースも偶然聞いていた。一方、警官は、令状もないまま、敷地内に入って行き、建物の右側に並んでいる多くの大型ゴミ箱の中に、同じ布の端切れが山のように捨ててあるのを見て不審に思う(1枚目の写真)。そこに、セザールが、「何かご用ですか?」と声をかける。「ああ、ロドリゴを探してるんだ。ロドリゴ・ラミレス」。「ロドリゴなんて知らないよ、おじさん」。「知らんだと? 変だな、彼はお前さんを知ってると思うぞ。先日の夜、彼の車がここに停まったろ」〔先の推定は当たっていた〕。「この辺りは、駐車スペースが少ないもんで」。「IDを見せてくれ」。「お巡りさん、何か問題でも?」。「ただの職務質問だよ」。その時、ヘソースがドアを開けて2人の様子を見始める(2枚目の写真)。その時、女性警官が残ったパトカーに、「211〔強盗発生〕。444 South Flower通り。全車対応。追加支援必要」との連絡が入る。女性警官は 「了解」と答えると、男性警官を呼びに行く。一方、セザールに対しては質問が続いている。「中では、どんな仕事を?」。「忙しい仕事」。「ここはちょっと暑い。中はどうだね?」。セザールはスペイン語と英語を混ぜて 「失せろ。クソッタレ」と警官に対して言うべきでないFワードを連発する。そこに、女性警官がやってきて、無線のことを話すが、男性警官にとっては、Fワードは我慢の限界を超える。セザールはさらに、「令状持って来い、このクソ野郎。なしじゃ、ここには入れてやらん。俺様は自分の権利くらい知ってるからな」。男性警官はセザールの腕を取るが、彼が逆襲に出ると、顔を殴り付けて地面に倒し、拳銃を向ける(3枚目の写真、矢印は拳銃)。しかし、「全車対応」が出ていると女性警官が話したので、2人はセザールがスペイン語で喚くのを放置してパトカーに向かう。そして、セザールはドアから覗いているヘソースを見てしまう。
  
  
  

事もあろうに無断で外に通じるドアを開け、しかも、セザールが警官に殴られるのを見たヘソースが許される訳がない。ヘソースを全裸にし、床に跪かせ、その前に置いた木の台に両手を手錠で固定して逃げられないようにすると、その前に立ったセフェは、奇妙なことを話し始める。最初は、自分の息子クリスチャンについて、牛のミルクを絞るのが毎日の日課だったこと、絞るのに時間がかかったので牛に如何に幸せな気分にしてミルクを出させるかについて教えたと話した後、「だが、息子はいつものろかった。妻は、息子の足を縛り、彼の血でコップが一杯になるまで叩き続けた。こうすれば息子の体から弱さが消えると妻は言った。妻の言ったことは正しかった」と話す。そして、後はヘソースの意志の弱さを消すため、後ろに太く長い鞭を持ったセザール(2枚目の写真、矢印)に任せて階段を登っていなくなる。激しい鞭打ちが延々と続き、ヘソースは気を失ったまま木の台に伏せる(3枚目の写真)。
  
  
  

ヘソースは、牢のような部屋の隅に、手錠を鎖でつながれたまま、着ていた物を頭の下と、腰の上に置かれ、気を失ったまま放置される(1枚目の写真、矢印は腰の上に置かれたズボン)。ヘソースの腕を1本の手が体を揺すって起こす。ヘソースは、とっさに、恐怖に怯えて逃げようとするが、鎖でつながれているので動けない。しかし、目に焦点が戻ってくると、それがエレナだと分かる。エレナも、危険を犯してヘソースを助けに来たのだ。もちろん、手錠を外して逃がすようなことは不可能なので、ただ、ひどく鞭打たれて傷だらけになった背中に塗る薬を持ってきただけ。エレナは、ヘソースに背中を向かせると、「痛いわよ」と言うと、布に付けた薬を一番ひどい傷に塗る(2枚目の写真、矢印は薬を付けた布)。あまりの痛さにヘソースは目をつむって必死に耐える(3枚目の写真)。塗り終わると、エレナは、「お休み、ヘソース」と言って去って行く。
  
  
  

あれからどのくらい日数が経過したのかは分からないが、ヘソースのミシンの腕も上達し(1枚目の写真)、時々、向かい合って座っているエレナと笑顔を交わすようになる。ヘソースは、床に落ちている沢山の布の切れ端を拾ってきては、使えそうなものをハサミで切り、エレナのために花飾りを作ってプレゼントする(2枚目の写真)。そして2人は消灯前に初めてのキスを交わす(3枚目の写真)。
  
  
  

この幸せがどのくらい続いたのかは分からない。工場に、また黒ずくめの唾棄すべき女性がやってくる。そして、「今月はノルマを達成しなければならない。1人たりとも労働者を失う訳にはいきません」と拒否するセフェに分厚い札束を渡すと、下に降りて行き、売れるような女性を探す。そして、気に入ったのがエレナ。黒い “悪魔” は、黒いネイルペイントをした手でエレナの頬の傷に触れる(1枚目の写真、矢印はマニキュア)。エレナが、「ずいぶんの昔のものです」と言うと、女性は、「私にもあるのよ」と言って、腕についた大きな傷跡を見せ、「でも、私は、こんな不快な経験を繰り返すまいと心に決めたの。あなたにも同じことを約束するわ」と言うと、席を外す。エレナは、ヘソースに 「私、いつも母に、父はいつ戻ってくるのって訊いてた。母は 「あなたが大きくなって、世界で名を馳せたら」って言ったわ。だから、それが私の夢だったの。有名なデザイナーになって、誰もが私の名前を知ってたら、父が戻ってくるだろうと。私これをしなきゃいけないわ。ごめんね」(2・3枚目の写真)。そう言うと、エレナは立ち上がり、黒い “悪魔” について行く。
  
  
  

警察署では、先の男性警官が、女性署長〔最後まで姿が映らない/なぜ一方的に署員を責めるのか?/Lucky Fashon Groupから賄賂でも受け取っているのか?〕から厳重注意を受けている(1枚目の写真)。「『警官が敷地内に入り、無許可で捜索を行った』『令状提示を求められた警官が、理由もなく市民に暴行を加えた』。何か付け加えることは? 彼は君の車のナンバープレートを見た。審査会は金曜に開かれる。いずれにせよ、被害者は告発するつもりだ」。そして、最後の言葉は、「あの男やあの場所から100ヤード〔約90メートル〕以内に近づかないで欲しい」。部屋に戻った男性警官の所に、調べるよう頼まれた女性警官が入って来て、「IRS〔国税庁〕の書類、事業税、固定資産税を調べたけど、問題なしよ。この収益を見ると、非常に巧くやってるみたいね」(2枚目の写真)。男性警官は報告を途中で止めさせ、「私だったら、あの通りに戻り、あの建物に出入りする全員の詳細な情報を取るし、車のナンバープレートも記録する。他のどんな場所に現れるかもチェックする」と言う〔彼は、セザールの異様な態度に強い疑念を抱いた〕から厳重注意を受けている(1枚目の写真)。「『警官が敷地内に入り、無許可で捜索を行った』『令状提示を求められた警官が、理由もなく市民に暴行を加えた』。何か付け加えることは? 彼は君の車のナンバープレートを見た。審査会は金曜に開かれる。いずれにせよ、被害者は告発するつもりだ」。そして、最後の言葉は、「あの男やあの場所から100ヤード〔約90メートル〕以内に近づかないで欲しい」。部屋に戻った男性警官の所に、調べるよう頼まれた女性警官が入って来て、「IRS〔国税庁〕の書類、事業税、固定資産税を調べたけど、問題なしよ。この収益を見ると、非常に巧くやってるみたいね」(2枚目の写真)。男性警官は報告を途中で止めさせ、「私だったら、あの通りに戻り、あの建物に出入りする全員の詳細な情報を取るし、車のナンバープレートも記録する。他のどんな場所に現れるかもチェックする」と言う〔彼は、セザールの異様な態度に強い疑念を抱いた〕


エレナが去った夜、ヘソースは集団寝所から起き上がると(1枚目の写真)、危険を覚悟で2階に上がって行く(2枚目の写真)。2階では、セフェとその中年の愛人が議論していたので、3階に向かう。そして、階段を上がってすぐの部屋に入って見ると、部屋の端にはダブルベッドが置いてあり、部屋の真ん中には三脚の上に、液晶モニター付きのカメラが置いてあり、その横にはカメラとつながったTVも画面が点いたまま白く光っている。ヘソースは、ベッドの後部の柱に掛けてあるエレナの服に気付いて近寄って行くと、彼がエレナにプレゼントして、彼女が服に縫い付けていた「花」がある(3枚目の写真、矢印)。これで、脱ぎ捨てられた服がエレナの物であることが確定する。そこで、ヘソースは、エレナの記念にと、その花を服からちぎって取るとポケットに入れる。次に、ヘソースは何も映っていないTV画面を見て、カメラにあちこち触ってみる。すると、突然、ベッドの前に立つ全裸のエレナの姿がカメラの液晶モニターと、TVの両方に映る(4枚目の写真、矢印)。そして、黒い “悪魔” の大きな声で、「価格は4万ドル」と言った後で、「とても良かったよ、可愛い子」とエレナに言い、エレナが 「お願い、やめて。家に帰りたい」という泣き声が聞こえる。「大丈夫よ」。「お願い、やめて」。「誰かに喜びを与えるのは悪いことじゃないわ」。
  
  
  
  

3階で、ビデオが再生されたことに不審感を抱いたセフェが、ゆっくりと2階から3階に上がってくる音が聞こえる。ヘソースは、必死で何とかカメラを停めると(1枚目の写真、矢印はセフェ)、別のドアから部屋から逃げ出す。それと同時にセフェが部屋に入って来る。カメラが故障したのかと触ってみてから、誰か隠れていないか、3階の部屋をすべてチェックする。その時、足が床から飛び出た釘の頭に触れて痛かったので(2枚目の写真、矢印)、そこに座り込むと、危ない釘を中に押し込む。その板張りの床の下には、ヘソースが隠れていて、押し込まれる釘が目に入りそうになる(3枚目の写真)。その時、セフェの愛人がやって来て、「もう行かなきゃ」と声をかけたので、セフェは作業を中断し、出て行く。隠れていたヘソースは、救われてホッとし、カメラから盗んできたメモリーカードをしてやったりと見る(4枚目の写真、左上の矢印は釘、その右下の矢印はメモリーカード)〔複雑なカメラなど触ったこともないヘソースが、映像を再生できただけでも不思議なのに、メモリーカードというものが存在することをなぜか知っていて、それを、逃げるだけでも精一杯の短時間で、取り出せるなんてことがあり得るのだろうか?〕
  
  
  
  

別な日、セフェがやって来て、各労働者に、作ったワンピースの着数を言わせ、それをヘソースが黒板に書く。それを見ると、ヘソースは30、その次が、95、76、97と続き、カルリトス〔ヘソースの胸にアイロンを押し付けたマネージャーになりたい男〕まで来ると、彼は誇らしげに「190」と言う。「よし」。「ノルマを達成したら、昇進させると言いましたよね?」と笑顔でセフェの顔を見る。「ああ、もちろんだ。ただ、事実は、1人で(頑張っても、全体としての)ノルマは達成できん。ノルマは、全員一丸となって達成すべきものだ。それを忘れるな。お前は、将来マネージャーになるだろう」。それを聞いたカルリトスは、「そんな」と言いながら立ち上がる。立つと、身長がセフェより高いので、セフェは 「座れ」と命じる。カルリトスは、それを無視し、「あんたは、俺たちから盗み続けてる。俺たちを、ここから絶対出してくれん! 絶対にだ!」と叫び出す。すると、セザールが床に押し倒し、めちゃめちゃに殴り始める(1枚目の写真)〔どうせ殴られるなら、なぜ、殴り返さないのだろう〕。それを見たヘソースは、セフェもじっとセザールの暴行を見ているので、その隙に、立ち上がると、反対方向に逃げ出す(2枚目の写真、左の矢印がヘソース、右の矢印がセザール、その中央の矢印がセフェ)。ヘソースが逃げ込んだ先は、何が入っているのか分からない “車輪の付いた箱”。その箱は、工場の作業員が来て、吊るしたワンピースと一緒にバンの中に入れられる(3枚目の写真、矢印)〔あまり大したものが入ってなさそうな箱だが、一体何のために工場に持って行くのだろう? それにしても、“偶然” と言うにはあまりに運が良すぎる〕。その様子を、斜め横の場所に停めた覆面パトカーから、男性警官がじっと見ている。
  
  
  

ヘソースを乗せた白いバンが片側2車線の道路を進み、その少し後ろを、覆面パトカーが追って行く(1枚目の写真、右の矢印がバン、左の矢印が覆面パトカー)。バンは、工場の建物内に、直角バックで入って行き、停車すると工場の従業員がバックドアを開け、まずヘソースを入れた箱を降ろし、工場の中の通路を100メートル以上押して、似たような箱の隣に置く(2枚目の写真、矢印)。それにしても広大な工場だ。箱を押して来た男がいなくなると、ヘソースはさっそく箱から抜け出す(3枚目の写真、矢印は箱)。
  
  
  

バンが入って行った工場の入口に、メルセデスのCクラスのクーペが入ってくる。乗っているのは、この悪徳会社の社長と、その息子。社長は、車内電話で父親と話している。社長:「彼らは、ハンガーの色の間違いに激怒してるんですか?」。父親:「今や21は10 億ドル規模の企業だ。彼らが引き下がると思うか?」。社長:「了解。再梱包して再発送します。負担は俺が」。父親:「彼らが30%削減したわしの必要経費で払うだと? わしは、そんな金、払わんからな」。電話が切れる。猛烈に怒った社長は、工場の中に入って行き、そこにいた、部長らしき2人に向かって行く。1人が 「どうしました?」と訊くと、社長は、「俺は霊能者だから、QC〔品質管理〕をパスしないという予感があった。お前たちも霊能者に違いない。俺が、間違った色のハンガーの件で親爺にどつかれた時と同じ反応をしたからな」と怒鳴り付け(1枚目の写真)、「だから、あそこのchinks〔中国人に対する蔑称〕のトコまで走って行って、倍のスピードでやれって言って来い」と命じる。その時、携帯に電話がかかり、「ボス、ハーバード通りの店から電話があり、ガキが1人行方不明になったそうです」と報告がある。その頃、ヘソースは、工場から外に出ようとするが、警備員1人以外にメルセデスが停まって邪魔をしている。ヘソースが思い切って車の前までいくと、助手席に座ったヘソースと同じくらいの年齢の腐ったガキが、皆に知らせようとクラクションを鳴らし続ける。その音で、社長が率先して捕まえようと走って来たので、ヘソースは工場内の “荷物を積み上げて置いておくための鉄金具で出来た “足場” を登って、天井を縦横に走っている梁の上へ逃げ、その後、床に飛び降りて工場内を走り回って逃げ(2枚目の写真)、最後は、裏口から道路に逃げ出す。この時点で、後を追いかけるのは社長だけ。生まれが卑しいだけあって、脚力は誰よりも強い。ヘソースは路地→スーパー→歩道→店舗→道路→ビル→道路と逃げ、男性警官も何とかヘソースを探そうと車を走らせる。ヘソースは、大きな女性服の店に逃げ込み、追ってきた社長が、“隠れているのでは” と思って開けた3つの試着室に1人女性がいたことから店主にこっぴどく叱られている隙に(3枚目の写真)、また道路に逃げ出す。その後、すぐ横のビルに入り、階段を駆け上がって3階まで行く途中で、踊り場に置いてあった物を社長に投げつける。3階の窓から外に出ると、柵を乗り越え、決死の覚悟で、下のゴミ袋の山に向かって飛び降りる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ヘソースが脇道から道路に飛び出した時、あまりに偶然としか言いようがないが、急ブレーキを掛けた男性警官の運転する覆面パトカーのボンネットの上に乗り上げ、一回転して道路に落下する。慌てて飛び出した男性警官は 「大丈夫か?」と心配し、警官を怖がるヘソースを落ちつかせる(1枚目の写真)。そして、ケガをした脚に包帯を巻きながら、「誰かから逃げてるのかい?」と質問する。ヘソースは例によって何も言わないので、「英語話せるか? スペイン語は、ダメ?」と訊くが、返事はない。いつもの女性警官は 「救急車を呼ぶべきじゃ?」と言うが、その時、悪徳会社の社長が嬉しそうな顔、「おいガキ、大丈夫か? 俺から逃げやがって」と声をかける。ある意味、すごく愚かな男性警官は、ヘソースが アメリカに連れて来られてから一度もシャワーも浴びずに臭く、服も洗濯せずに汗と誇りで薄黒く汚れているにもかかわらず、清潔な服装の社長に向かって、「これは、あなたの子ですか?」と訊く。「いや違う、俺のマネージャーの息子だ」。警官はIDを見せるよう要求し、社長は 「彼の父を午後に休ませられんかった。それで、こいつ半キチガイみたいになったんだ」と説明すると」、名刺も見せる。そこには、彼が怪しいと睨んでいた「Lucky Fashon Group」の名前があったので、彼はしてやったりと思い、“少年のID” も要求する。社長は、「彼の父にメールします」と嘘を付くと、会社の極秘資料の中から、ヘソースのパスポートの映像をスマホに出そうとする〔実際には、 セフェにでもメールを出し、「行方不明になったガキのパスポートの写真を送れ」とでも命じたのであろう〕。その時、ヘソースは、大事なメモリーカードが道路に落ちているのに気付いて、急いで拾うと警官に渡そうとするが、それを見た社長は、1メートル以上離れていたにも関わらず、なぜか それが危険なメモリーカードだと分かり、警官の手に渡る前に奪い取る〔①小さいものだから、メモリーカードと認識できたのも変、②それに、メモリーカードだと分かったにせよ、なぜそれが危険だと分かったのか? ③しかも、瞬間的に〕。そして、「失礼、あいつが、俺の部屋から盗んだんです」と嘘を付く。ヘソースが、必死に指を指すので、警官は社長からメモリーカードを奪うと、女性警官にカメラを持ってくるよう命じる。社長は、「ゲームか何かだと思います」と嘘を重ねる(2枚目の写真、矢印はメモリーカード)。警官は、ヘソースの名前を社長に聞き、何も知らない社長は、「セルジオ」と答える。それを聞いたヘソースは、自分の名の刺青を警官に見せる。しかし、それが 「イエス」だったため、社長は、「彼の家族はカトリックだから」と言い逃れる。しばらくして、スマホにヘソースの偽パスポートの映像が送信されてくる(3枚目の写真)。ヘソースが「2218 South Harvard大通り」に着いた時、ロドリゴがこの警官に見せたのと全く同じものだ。この警官が、“少年売買” に関心を持つきっかけとなったヘソースの写真なのに、警官でありながら、この鈍い男は、これがあの時の少年だとは、このパスポートを見ても気付かず、ただ、パスポートに記載されている名がJAVIER〔ハビエル〕で、社長が適当に言った「セルジオ」とは違っていると指摘しただけ〔信じられないほど、不甲斐ない〕。社長は、500人の従業員がいるから覚えていられないと言う〔この表現も、警官は変だと思うべき。社長にとってヘソースは奴隷的従業員だが、警官への説明は「マネージャーの息子」。だから従業員ではない〕。警官は、メモリーカードに取り掛かって間に、社長は、スマホで父に緊急に電話し、覆面パトカーのナンバープレートを教える〔画面には出て来ないが、即刻手を回す(買収済みの署長に、うるさい警官を排除する)よう依頼した〕。警官が、ようやカメラで動画を再生すると、少女が犯される時の悲鳴が聞こえてくる。性犯罪の証拠として、警官がメモリーカードを預かっておくと社長に言うと、社長は、「スティーヴンス警官、悪魔はやることがなくなると、自分の子供たちセックスしたがるって、知ってるか? だから、俺を困らせる〔quit tickling my balls(俺のタマをくすぐる)〕のを止め、俺の物を返すんだ。さもないと、俺があんたのケツに詰め込む訴訟を取るのに肛門科医が必要になるぞ」と、態度を急変させて威嚇する〔社長の父が、署長が “排除” をOKした、というようなメールを送ったので、急に威張り出した。その時、相手の警官の名前も書いてあったのだろう〕。怒ったスティーヴンスは、社長の両手を掴んで背中に回し、体をボンネットに押し付け、逮捕する時の決まり文句を言い、手錠をかける。「何の罪だ?」と訊かれ、「警官への脅迫と児童ポルノ」と言う。その時、署長から女性警官のスマホに電話がかかってきて、スティーヴンスに代わるよう命じる。そして、この買収された汚職署長は、スティーヴンスの越権行為を強く批判し、「その男と、子供を行かせなさい。さもないと、あんたは四つん這いになるわよ〔be the one on all fours〕」と脅す。情けないスティーヴンスは、自分が撥ねたにも関わらず〔人身事故なので、事故を起こした者には何らかの法的処置が必要〕、嫌がるヘソースを社長と一緒に行かせることに同意する。
  
  
  
  

社長は、「くそったれ,ちくしょう、このクソ豚め! バッジさえあれば、何したっていいと思っていやがる」と罵ると〔買収された署長の下では何もできないと悲観したスティーヴンスは、何を言われても後ろを向いたまま〕、嫌がるヘソースを連れ去る(1枚目の写真)。そして、「2218 South Harvard大通り」に連れて行かれると、前回、外のドアを開けて警官とセザールの争いを盗み見た時のように、セザールにこっぴどく鞭打たれ〔映像にはない〕、その時と同じ “牢のような部屋の隅” に放置され、最後に、セザールがやって来て、気を失ったままのぐったりした裸体を、穴倉に落とす(2枚目の写真、矢印は落下する方向)。ヘソースは、長い悪夢を見た後、ようやく気が付き、穴倉の中で目を覚まし、膝を抱いて座り込む(3枚目の写真)。
  
  
  

女性警官は、国土安全保障省の男性の担当者と電話で話している。「確かめたいんです」。「偽のパスポートじゃ、何もできん」。そして、データベースに登録されたパスポート写真の最下部の番号が、偽物だと表示された画像が映る(1枚目の写真)。女性警官は、「はい、分かりました。でも、私たちは、彼があの場所に、連れて来られ、出て行くのを目撃しました。あそこにも、もっとたくさんの人がいるのは分かっています」。「国土安全保障省に任せなさい」。「私はたらい回しにされました〔gave me the runaround〕」。この連中〔Lucky Fashon Group〕には犯罪歴が全くない」(2枚目の写真)。「彼らはペーパーカンパニーを通じて、かつての高級住宅地で活動しており、不法入国者を隠している証拠もあります」。「私が把握しているのはこうだ。今朝、審査会は 君の同僚のスティーヴンスに裁定を下し、彼の望ましくない行為に対し解雇が検討されている」。「それは、全くのでたらめです。私はそこにいました」。「令状請求は却下された」。「はい」。「私だったら、詮索は止めるね。分かったかい?」。そして、ネット上のニュースが映る。悪徳社長が握手しているのはロサンゼルス市長。写真の上には、「Lucky Fashon GroupのCEO、再生可能エネルギープログラムに140万ドルを寄付」、写真の下には、「ロサンゼルス市長がLucky Fashon Groupの倉庫を訪問」と書いてある(3枚目の写真)。悪徳社長は、こうして、表面を取り繕い、善人に見せかけている。
  
  
  

「2218 South Harvard大通り」のワンピース工場に、かつてのヘソースのように、1人の少年が連れて来られる(1枚目の写真)。ロドリゴは、1枚の紙をセフェに渡す。そこには、今回、少年を連れて来るのに要した費用として12500ドルの請求金額が書かれている(2枚目の写真、矢印は金額)。セフェが 「一体これは何なんだ?」と訊くと、ロドリゴは 「国境のブタどもは今、1万ドルを要求してると言ったはずだ。俺たちだって食わないと死んじまう。金を払わないんなら、あんたらの商売も閑古鳥が鳴くぞ」と脅す(3枚目の写真)。
  
  
  

新しく連れて来られた少年は、以前エレナが座っていたヘレースの前のミシンに座る。そして、ヘレースに、「やあ、僕、フアン。君の名は? この後、僕はどこに送られるか知っているかい?」と言うと、ヘレースは何一つ返事をしなかったが、服の下に入れていたパンフレットをヘレースに渡す(1枚目の写真、矢印)。それを手に取ったヘレースは、それが彼のもらったものと全く同じものだと気付く(2枚目の写真)。ヘレースは、ここの連中の汚い手口、向かいのフアンがこれから味わう不幸、いなくなった大好きだったエレナの悲嘆すべき未来を思うと、怒りが収まらなくなり、立ち上がる(3枚目の写真)。それを見たセザールが飛んで来て、「何やってる、相棒? 座れ!」と叱咤・命令する。セザールは、ミシンの機械を持ち上げると、床に投げつける。セザールも、経験したことのない事態に呆然とする。ヘレースは、床に転がったミシンを足で思い切り叩き始め、遂には、座っていたイスでミシンを何度も何度も叩きつけ(4枚目の写真、矢印はミシン)、最後にはイスもバラバラになる。
  
  
  
  

ヘソースは、そこにやって来たセフェと、睨み合う(1枚目の写真)。しかし、ある意味残念なことに、ミシンに対して怒りをぶつけたヘソーンだが、この職場で一番の極悪人のセフェに対して何一つ対抗せず、徹底的に殴られ続け、床に倒れた時には、左目に大きな傷を受け、床は吐いた血で真っ赤になっている(2枚目の写真)。それでも、歯を食いしばって何とか立ち上がると、セフェに向かって絶叫する(3枚目の写真)。セフェは、横のテーブルの上に置いてあった裁縫用の大型ハサミを掴むと、ハサミの先端をヘソースの喉に当てる。
  
  
  

その時、建物のドアが開き、誰か(黒い靴)が中に入ってくる〔靴しか映らない〕。そしていきなり、女性警官が、拳銃を叶え、 「LAPD〔ロサンゼルス市警〕だ! 床に伏せろ!」と叫ぶ(1枚目の写真)〔彼女は、国土安全保障省の対応が不満で、一人でこの建物見張っていたら、叫び声が聞こえたので、入って来たと思われる〕。それに対し、セフェは 弾に当たりにくいようヘソーンを前に出し、首にハナミの先を突き付け、「今すぐ、出てけ!」と怒鳴る(2枚目の写真)。女性警官は、「217〔警察のコードで、“殺人目的の暴行”〕進行中。2218 South Harvard大通り。緊急の応援を要請」と、肩に付けた無線に向かって叫ぶ。警官とセフェの間で、少年の解放と、拒否の繰り返しが続く中、無線が功を奏し、多くのパトカーが集結する(3枚目の写真)。そして、セフェに向けられた銃は10を超えるが(4枚目の写真)、喉のハサミが危険なので、膠着状態に陥る。
  
  
  
  

それを打ち破ったのが、セフェの背後のドアを破壊するために侵入した別動隊(1枚目の写真)。大きな機械がドアにぶつかったのに驚いたセフェはヘソーンを話し、たちどころに、警官によって床にねじ伏せられる(2枚目の写真)。傷ついたヘソーンは、女性警官が優しく顔を抱き起こし(3枚目の写真)、「大丈夫よ」と言い、傷に触れないよう抱きしめる。それに対し、ヘソーンは、「ごめんね〔Perdón〕」「お願い〔Por favor〕」「許して〔Perdóname〕」と、初めて言葉を口にする。
  
  
  

翌朝の現場の様子が、俯瞰カメラによって映される(1枚目の写真)〔以前、紹介したGoogle street viewの映像と対比すると、同じ場所だと分かるが、こちらの写真には、ロスの中心街が映っている(距離は約5キロ)〕。次のシーンでは、ミシンで働かされていた労働者のうち、22人が1台のえらく古く汚い車両の中に乗っている。サッカー場の前で停車した時、横の塀の隅に、「FUTBOL」という文字が見えた。これはスペイン語のサッカーなので、一行は、ロサンゼルスから故郷のメキシコに戻ってきたのかもしれない〔何も説明はない〕。中には、ヘソースの隣にいた男や、マネージャーになろうとした男もいるが、表情は全員が暗い。なぜだろう? ヘソースの目からも、何筋も涙が流れ落ちる。そして、永遠に会うことはないであろうエレナに贈った布の花を、手を開いて見てみる(3枚目の写真)。ここで、一番の不満は、セフェとセザールは逮捕された。しかし、社長とその父は、何らかの責めを負ったのだろうか? 買収された署長に鉄槌は降りたのだろうか? そうした捜査が本格的行われれば、黒の魔女も逮捕され、エレナも助かるかもしれないが、そうしたことが何も教えてくれない。この映画の最大の欠点だ。
  
  
  

観客が教えて欲しいことは無視し、映画は最後に、「ヘソースや他の登場人物がどうなったか知りたければ、ニュースを見て下さい」という文字が出て、映画とは無関係な内容のTVニュースが短時間で多数流れる。①KABC-TV: 「労働省によれば、ケンタッキー州ルイビルのマクドナルド店は10歳の児童2人を雇っていました」。②MSNBC News: 「50人の子供たちが食肉処理場で不法就労させられていました」(1枚目の写真)。③NBC News NOW: 「100人以上の未成年者が危険な状況で働いていました」。④NEWS NATION: 「オハイオ州では160人が告発されました」。⑤TYT Live: 「児童労働法違反が1,200件です」。⑥CBS Mornings: 「ロスのファッション地区には、そうした労働者が何千人もいます」(2枚目の写真)。⑦Kate Coleman Hobbs: 「85,000人の移民の子供たちの失踪…」。⑧Forbes Breaking News: 「10万人の子供たちが、労働もしくは性的な人身売買の対象となりました」(3枚目の写真)。⑨CBN News: 「数十億ドル規模の児童人身売買により、25万人以上の移民の子供たちが合衆国に(違法に)連れて来られました」。⑩MSNBC News: 「政府は、彼らがここにいると知っています。一体なぜなのでしょう?」。最後は、ヘソース役を演じたアリ・ロペスが、監督に代わって観客にエッセージを伝える。「こうしたことが、世界中の多くの国で起きていることは知っていましたが、ここアメリカで起きているとは想像もしていませんでした。私は、アメリカは映画や音楽の国だと思っていた。夢が叶う場所だと。私たちが日々購入する製品を作るために、危険な環境で働かされるような場所ではないと。(しかし、現実は)現在、(アメリカでは)何百万もの人々が束縛されて生きています。こうした問題を解決するためには、強制労働や人身売買を防止に、すべての(アメリカ)人が関心持つべきなのです。それでも何も変わらない? それが、この映画を作ろうと決めた理由です。私たちが衣服や食品をどこで買うかを意識し、その企業に責任を持たせない限り、(強制労働や人身売買された)子供たちに幸せは訪れません。だから、この映画のことを、あなたの知り合いすべてにどうか伝えて下さい。私たちは、こうしたことが二度と起こらないようにする力を持っているのですから。貴重な時間を割いて映画を観ていただき、ありがとうございました」(4枚目の写真)。そして、映画の冒頭と同じように、最後は 「ぜひ戦いに参加して下さい」の表示で終わる。
  
  
  
  

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