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Cloudboy クラウドボーイ/行きたくなかったトナカイの国

ベルギー・スウェーデン映画 (2017)

ベルギーのアントワープに住む12歳のニーラスが主役のファミリー・ムービー。彼がまだ幼児の頃、母は離婚してスウェーデン北部のサプミに住むサーミ族の男性と結婚してしまう〔ニーラスの父との結婚生活は4年くらい続いただけ〕。以来、ニーラスとは一度も会わなかった母が、夏休みに彼をサプミに来るよう招待し、ニーラスの父もそれをOKするが、それをすごく嫌がったのはニーラス本人。9年近く無視され続けた母なんかに会いたくもないのは、何となく理解できる。しかし、父は、いい体験だとばかりに、本人の意志など無視して飛行機に乗せる。今まで見たこともないような人里離れた山の中にバスで連れて来られたニーラスは、下りたバス停で一人ポツンと待たされた挙句、ようやく母が 2人の義妹と義弟と一緒にオンボロ車で迎えに来る。9年ぶりの再会で、幼児と12歳ではまるで別人のハズなのに、母の再会時の態度は1年ぶりくらいの感じ。そのあと、大都会から未知の大自然への移動なので、普通なら環境の変化に慣れるよう、自宅に連れて行くのが親切な行動だと思うのだが、母は、ニーラスを、“トナカイを囲い込み、トナカイの子に耳標を付ける” という、見ていて気持ちの悪くなる場所に平気で連れて行く。当然そこにはテントしかなく、食べるものは燻製にしたトナカイの赤肉だけ。これが、9年ぶりに再会した12歳の父親違いの息子を迎えるのに相応しいやり方なのだろうか? それに、もっと奇妙なのは、3歳の時に分かれた母が話すスウェーデン語を、なぜ、ニーラスが話せるのだろう? 離婚した妻の母国語を、離婚された父が息子に積極的に教えたとは思えない。ありえないとしか言えない状況だ。サプミに来てからも、ニーラスの不満の鬱積は、解消されるどころか、自分に対する配慮のない母の姿勢によってますます貯まっていく。彼が考えていることは、できるだけ早くベルギーに帰りたいということだけ。それが、数百頭の遊牧トナカイを臨時に集めた簡単な囲いの扉を開けっ放しにして、せっかく集めたトナカイを逃がしてしまう不始末につながる。ニーラスは、ますますベルギーに帰りたくなる。そんな時、映画の題名にもなっている、ニーラスのクラウド好きが、そうした現代的ツールに疎い義妹と義弟の興味を引き、事態は改善に向かうように見える。そして、ニーラスのせいで、義弟のチビ・トナカイの母トナカイが行方不明になったことから、責任を感じたニーラスは、ベルギーから肌身離さず持って来た携帯式クラウド音響解析装置を使って、チビ・トナカイの声を録音し、それを森や草原で流して、それに対して母トナカイが反応することを期待し、義妹と義弟を誘って捜索に向かう。しかし、何度やっても失敗すると、義妹はそれが広大な自然のせいだと思わず、機械の〔録音した〕音声にはトナカイは反応しないという間違った考えで4歳も年上の義兄をバカにする。怒ったニーラスは1人で探し始め、あり得ないような奇跡で雄のトナカイが母トナカイのところまでニーラスを連れていってくれる。そこに、どうやって場所が分かったのか謎だが義妹と義弟が現われ、ニーラスがトナカイを投げ縄で捕獲して囲いに連れて帰る。そのあとの夏休みを、ニーラスがどのように過ごしたのかは分からないが、彼はサプミでの野性生活が気に入り、運動神経も上達し、アントワープに帰ってからも、学校の休暇の度にサプミに行きたいと言い出す。これが、不思議な物語の流れだが、観ていて気になるのが、いくら子供向きだからといって、状況設定がまるであり得ない内容になっている “無神経“ とも言えるお粗末さ。これは、例えば、『ホームアローン』シリーズで、子供があり得ないような知恵を発揮するよりも、もっとずっとタチが悪い。この映画で良かったのは、スウェーデン北部のサプミの高原地帯の風景が見られたことと、そこに住むサーミ族の伝統的なトナカイの飼育シーンが見られたことだけ。

主役のニーラスを演じるのはDaan Roofthooft(ダーン・ローフトホーフト)。これが唯一の映画出演。

あらすじ

ベルギーのフラマン語圏最大の都市アントワープ(これは英語発音、正しくは、アントウェルペン)のアパートに、離婚した父と一緒に2人だけで住んでいる12歳の少年ニーラスが、夏休みに入ったある朝、森で追われて怪獣に遭遇する悪夢を見て目が覚める。そして、思わず 「パパ」と呼ぶ。その直後に、ニーラスの部屋の全体が映り、ニーラスはヘッドホンを装着すると、サイドテーブルに置いてあった携帯式クラウド音響解析装置をドアに向ける(2枚目の写真、矢印)。すると、装置から 「Scanning(スキャン中)」と音声が流れ、父が 「ミスター」と呼ぶ声を拾う(3枚目の写真、矢印)〔父は、ニーラスのことをいつも英語の『Mr.』と呼んでいる〕。ニーラスは違うボタンを押し 「Playback(再生中)」と音声が流れ、今度はニーラスが使っている口笛が響く。

朝食が終わった後、父は食器を洗い、ニーラスが先に置いたカップの上に皿を置き〔その下には夕食のグラスや皿〕、“塔” のようにしている(1枚目の写真、矢印は3つの食器の塔)。そして、ニーラスの目線の先には、届いたばかりの大きな紙封筒が食卓の上に置いてある。そこには、「ニーラス・クラース/産業道路 8/2000 アントウェルペン」〔ここは、アントウェルペンの都心の約4キロ北西にある(海ではなく運河に面した)港湾内。すぐあとで、ニーラスが石油タンクの並んでいる道を走るシーンがあるので、場所は間違いない〕と書いてある。父が開封すると、細くて長い赤いビニールロープが入っている。父は 「君のお母さんからの素敵なプレゼントだ」と言い(2枚目の写真、矢印)、同封されていた手紙と一緒に渡し、「投げ縄だと思うよ」と付け加える。ニーラスは、手紙を読んでみる(3枚目の写真、矢印)。そこには、スウェーデン語で、「親愛なるニーラス、あなたに会えるのを心待ちにしています。きっと素晴らしい夏になるでしょう。スンナとポンタスは、あなたに会えるのを楽しみにしています。このプレゼントは、こちらに来たら大いに役立つでしょう。北からたくさんのハグとキス。あなたのママ」と書いてあった。

読み終わったニーラスは 「行かないよ。どうして、今なの?」と言う(1枚目の写真)。「君のお母さんの申し出にパパが同意したからだ。なあ、ニーラス、このことはもう話し合ったじゃないか。だから、行くんだ。いいな?」。ニーラスは、「行くもんか!」と叫ぶと、家から飛び出し、石油タンクやパイプラインの間を走って、不用品置き場、兼、近所の子供達の遊び場になっている広場に行く。そして、遊びには加わらず、放置してある太いビニール管を巻いた物(?)の中に横になると(2・3枚目の写真)、みんなが遊ぶのを見ている。

次のシーンで、子供達が見守る中で、一番の運動神経の持ち主が、左側の台の上から、中央の2段に積まれたコンテナーに向かってジャンプする(1枚目の写真)。彼は、何とかコンテナーの端につかまるが(2枚目の写真)、そのまま落下する〔映画の最後のシーンと関連〕。ニーラスは、父が 「このことはもう話し合ったじゃないか」と言った時の会話を再生している。「だけど、僕、パパと一緒にいたいんだ」。「いつも一緒じゃ、退屈だろ」。その時、遠くから、「ニーラス」と呼ぶ声が聞こえる。ニーラスは、再生を停めると、パイプに体を押し付け、できるだけ見えないようにする。しかし、足は隠せないので、父に簡単に見つかってしまう(3枚目の写真)。父は 「君の気持が分からんわけじゃない。パパを信じてくれ。君にとっていいことなんだ。ホントだぞ」と説得する。ニーラスは 「彼女、僕のことなんか知らない」と、赤の他人のように言う。「だからこそ 君は行くべきなんだ」。「うまくいかなかったら?」。「うまくいったら?」。その夜の短いシーン。父は、ニーラスが肌身離さず愛用しているクラウド関連の器具について、「そんなの持って行くべきじゃない。向こうじゃ、何もできん」と言うが、ニーラスは、父が部屋から出て行くと、バッグの中に詰め込む。

ニーラスを乗せたバスは、スウェーデン北部のサプミ〔Sápmi、旧名称ラップランド〕地方を、北に向かって走っている(1枚目の写真)。どう見ても 嬉しそうな顔ではない。そして、バス停のサインのある木柱のところでニーラスは下車するが、そこには誰もいない(2枚目の写真)。しばらく待っていると、北の方から1台の旧式のボルボ245(1974~93年)が走って来て停まる。最初に、後部座席に乗っていた一番小さなポンタスが降り、次に運転席から母が出て来る(3枚目の写真)。

走って来たポンタスが、「お兄ちゃんなの?」と訊き、ニーラスが何か答える前に、母がやって来て抱きしめ、「やっと来てくれて嬉しいわ」と歓迎する〔ここだけフラマン語〕(1枚目の写真)〔3歳の時に分かれたきりなので、まるで別人のように大きな少年になっているのだが、そんな状況に対する言及が全くないのは不自然、というか、あり得ない〕。ニーラスの顔は一向に冴えない。母は 「こっちは、あなたの弟ポンタス」と紹介するが、ポンタスが自分の友達にしている、ユーホという名前の木の枝〔先端に鼻の突起と、目が2つ描いてある〕を突き出したので、ニーラスは一歩下がる。「怖がらないで、噛みつきはしないわ。スンナ、いらっしゃい」。スンナは車のボンネットに寄りかかったままで、来ようともしない(3枚目の写真)。「ポンタスの姉さんのスンナよ〔なぜ、ニーラスはスウェーデン語が分かるのだろう(聞くだけでなく、話すこともできる)? 母が再婚後にすぐ妊娠して長女スンナが生まれたとしても、そしてスンナが8歳くらいだと低目に見積もっても、離婚時のニーラスの年齢は3歳になる。母がそんな幼いニーラスにスウェーデン語で話していたとしても、9年間も会っていない間に忘れてしまうと思うのだが? 子供向きの映画では、どんな奇跡もあり得るのかも〕

車内で、後部座席にニーラスと並んで座ったポンタスは、「彼、ママに全然似てないね」とユーホに話しかけ、ユーホになりきったポンタスが、「僕もそう思う」と答える。母は、運転しながら、「太陽がまだ輝いているから混乱するでしょ。白夜の地にようこそ」と言う。そして、ポンタスがニーラスに向かって、「ぼくたち、パパのトコに向かってる。トナカイに名札を付けるの助けるんだ」と言う。母はニーラスに、 「ホントはもっと遅いハズなんだけど、今年はトナカイが来るのが早いの」と説明する〔それが何を意味するか、何も知らないニーラスに分かったとは思えない〕。そこに、母が再婚した夫〔ニーラスの継父〕から携帯に電話が入る。「ニーラス、ハロー」。継父は何度も呼ぶが、ニーラスは応えようとしない。スンナは、携帯をニーラスに渡すよう母に勧める。ニーラスは携帯を受け取っても、継父がさらに何度も呼びかけても、何も言わない。継父が 「なあ、いいかい、もし こっちの声が聞こえたら、何かサインを送ってくれないかな?」と言うと、ニーラスはようやく携帯の表面を2回トントンと叩く。「OK。これで行こうじゃないか。1回トンはヤー(Yes)、2回トンはネイ(No)だ。じゃあ、最初の質問。そっちは万事OKかい?」。ニーラスは、1回トンする(1枚目の写真、矢印)。「いいぞ。2つ目の質問。スウェーデン語で大丈夫かい?」。これも1回トン。安心した継父は携帯を戻させる。そして、車の走っている場所が映される(2枚目の写真)。母は、赤いピックアップトラックの横に車を停めると、全員が車を降りる。そして、トナカイのいる囲いにむかって丘を登って行く。ニーラスにとっては、長期間滞在するための荷物を持っての慣れない山歩きなので、あまりに不親切な対応だ。しばらく登ると、上の方の岩場から、1人乗り四輪バギー車に乗った継父がやって来る(3枚目の写真)。ニーラスと継父は初めて会うが、2人の間に会話はない。継父は、全員の荷物を背負うと、それをバギー車の荷台に乗せる。身軽になった4人は、丘をさらに登って行く。

そして、数百頭のトナカイが囲いの中で走り回っている圧倒される光景が見えてくる(1枚目の写真)〔スウェーデン(ノルウェー、フィンランドを含め)のサプミに住む先住民族のサーミ(Samer)だけがトナカイの放牧飼育の伝統文化を継承している/話す言葉はサーミ語〕。ポンタスは、「あのね、トナカイは何千頭もいるよ。山にいたトナカイ集めるのに、5日もかかったんだ」と、ニーラスに説明する。そして、ユーホの棒を群れに向けて、「見て、あれぼくのだ。白い耳と、耳のマーク見える? あのママトナカイの子の耳に今夜マークを刻むんだ。全部のトナカイの子の耳にマークを刻むから、血が飛び散るんだ。どのトナカイが誰のものかわからないといけないから」と説明する。参考までに、耳に刻まれる印(耳標)の例をに示す。その後、辺りが少し暗くなり、作業をしていた一部の家族が集まって焚き火の周りで食事を始める(2枚目の写真)。ニーラスが母から、「スオヴァス」と言って渡されたのは、パンの上に、スオヴァス〔塩漬けにして 8 時間燻製にしたトナカイの赤身の切り身肉〕を載せたもの(3枚目の写真、矢印)〔来たばかりのニーラスに、最初からこんなものを食べさせるのは、特に彼が嫌々来た状況下では、あまりにも酷なやり方のように思える〕。一方、ポンタスは同じ料理に、ケチャップを山ほどかけ(4枚目の写真)、かぶりついて食べる。

食事が終わると、耐えられなくなったニーラスは、テントの中に入り込み、横になってしまう(1枚目の写真)。しかし、すぐにポンタスが 「ニーラス」と呼んだので、テントを開けて顔を出すと、ポンタスが赤いビニールロープを差し出し 「やってよ」と言う(2枚目の写真)。テントの外には、スンナ以外にも、3人の子供が投げ縄を持って立っている。ポンタスは 「ベルギーから来た兄ちゃんだよ」と紹介する。そして、ニーラスの前に少し離れて立つと 「ぼくに投げて」と言い、何度も小さくジャンプしながら 「投げて」と何度も呼びかける。他の4人も同じように催促したので、一度も練習したことのないニーラスは、適当にビニールロープを投げるが、ポンタスにも届かない(3枚目の写真、矢印)。みんなが笑い、ニーラスは走って逃げ出す。

大きな岩の陰に隠れたニーラスがじっと待機していると、そのうちポンタスが、柵に設けられた出入口から中に入って行くのが見える。ニーラスは岩陰から出て来ると、じっと自分を見つめている1頭のトナカイに 「君がどう思ってるか知らないが、僕は家に帰りたい」と言いながら、木で作った簡単な扉の上部に掛けてある針金を上に外し(1枚目の写真、矢印)、扉を全開にする。すると、その音を感知した多数のトナカイが一斉にニーラスに向かって来る(2枚目の写真)。びっくりしたニーラスは(3枚目の写真)、扉を開けたまま逃げ出して倒れ、その脇を、トナカイが囲いを押し倒し(?)、大波のように逃げ出して行く(4枚目の写真、矢印は倒れたニーラス)〔囲いがなぜ突破されたのか、理解できないが、扉の左側の柱の左には 囲いの “粗い格子状の針金”(1枚目の写真の右端、4枚目の写真の右端を参照)が完全になくなっている〕。5日がかりで集めたトナカイを全て失った継父はバギー車で追いかけるが、トナカイの群れはあっという間に山の方に消えていく(5枚目の写真、矢印)〔トナカイは野性ではなく、全て遊牧で飼われていて、季節ごとに集めては、今回の耳標のように決まった作業を行わないといけないので、逃げられると非常に困る〕

母は、トナカイではなく、倒れたニーラスを心配して走り寄ると、彼の不始末には一切触れず、「ケガした?」と心配する(1枚目の写真)。ニーラスは首を横に振る。次のシーンでは、4節前にあった、“車が山に向かって行く写真” と同じ場所を、今度は、車が下に向かって走って行く。後部座席では、ポンタスがユーホでニーラスの頬を何度も押して、バカなことをした義兄を責めている。それを見た母が、「ポンタス、やめなさい」と叱る。「だけど、ぼくたち悪いことなんかしてないよ。パパと一緒にいたかった」と、家に連れ戻されることに不満を漏らす。「パパは、忙しいの。逃げたトナカイを捕まえないといけないから」。そして、車は、空色に塗られた北欧らしい木造家屋に到着する。すると、スンナ、ポンタスの順に、車のドアを開けて勝手にいなくなる。車から出たニーラスは、母の後について家に向かう(2枚目の写真)。自分に割り当てられた部屋のベッドに腰を降ろしたニーラスは、クラウド装置のスイッチを入れ、「Scanning」の音声が流れる(3枚目の写真)。窓の方に向けると、何かの動物の音が聞こえる。

ニーラスは、部屋に来た時のままの姿で立ち上がると、こっそりと階段を下り、玄関のドアをそっと開け、音がしないよう、慎重に閉める(1枚目の写真)。そして、立ち去ろうとして前を見ると、真正面に雄のトナカイがヨーナスをじっと見ている(2枚目の写真、矢印、右の車とほぼ同じ距離だけ離れているので、比べると大きさがよく分かる)。トナカイは、ゆっくりのヨーナスに向かって歩いてきたので、彼は走って家の中に逃げ込むと、そのまま部屋まで行き、ベッドに横になって毛布を被る(3枚目の写真)。

翌朝、ヨーナスが、家の外の小屋の段々に座ってパンにパクついていると、草むらの中をポンタスがユーホを持ってくるくると走りながら、「乗客の皆さま、ベルギーへの直行便ユーホ航空に搭乗願います」と言うと、ヨーナスの目の前までやって来る。そして、ユーホの先端についたナメクジを見せて、「かわいいだろ?」と言って顔に近づける。ヨーナスはナメクジをつまむと、投げ捨てる。それを木陰から観察していたスンナは、逃げ出したヨーナスの前に立ち塞がり、「なに考えてんの?」と批判するが、ヨーナスは横をすり抜けて家に走って行き、2階の部屋に駆け込んでドアに鍵をかける。そして、バッグから携帯と取り出すと、ベルギーの父に電話かける。「よう、ミスター、調子はどうだ? ヨーナス、おい、大丈夫か?」。「パパ」。「ああ」。「パパと一緒にいたい」。「ええと、そうだな、君は、今そっちにいるんだ。言えよ、何かあったのか? 君に良くしてくれるか、ミスター?」。ドアの外では、母が、ドアをノックして、「ニーラス、ドアを開けて」と言う。ニーラスは、ドアから離れる。父は、「ニーラス、何か言えよ。黙り込むんじゃない。何があったか話すんだ。ミスター、自分を修正しないといけないこともあるんだ。何が問題なのか教えろ。ニーラス、何か言えよ」(1枚目の写真)。ニーラスは、自分から掛けた電話を勝手に切る。そして、「Playback」の声で、すぐにヘッドホンをはめる。そこにスンナがやってきて、母をドアからどけて、鍵穴に金属棒を差し込み、鍵を室内側に落とす。そして、部屋の中に入って行くと、ニーラスの態度を批判する。ニーラスは、ヘッドホンをはめているので、何を言われたのか聞こえないのでヘッドホンを外す。すると、スンナの声が耳に入ってくる。「ママは、最善を尽くしてるわ。ママは、もう一度 あんたのママになりたいだけなの」。ニーラスは何も言わないが、機械が 「End of file(ファイル終了)」と言う。それを聞いたスンナは、ニーラスの横に座り、「それ、パパなの?」と訊く。相変わらず返事がないので、「パパがいなくて寂しい?」と さらに訊く。ニーナスは、ようやく、小さな声で 「ああ」と答える。「私もよ。もちろん、私のパパだけど」と言って笑顔になる(2枚目の写真)、それを聞いたニーナスは、初めて笑顔になる(3枚目の写真)。

ベルギーに帰ることをあきらめたニーナスは、初めて荷物を部屋の中で開ける。そして昼食の時には、普通の薄いジャンパー姿で食堂に現れる。料理を作ってきたのはスンナで、それがポンタスには気に食わないので、食べようとせずユーホでトナカイの肉をつつくだけ。スンナが、「なんで食べないの? トナカイの燻製好きでしょ?」と訊くと、「ママがつくった方がいい」と拗(す)ねる。それを聞いたニーナスは、如何にも兄らしく、ケチャップのビンを取ると、焚き火の前でポンタスが自分でやったように、上からケチャップをかけ、それを見たポンタスは食べ始める。食事が終わると、ニーナスは、ベルギーでやっていたように、カップの上に皿をのせ、それを積み重ねていく。それを見たポンタスは、「ピサの斜塔だ。もっと高くしよう」と言い出し、洗い済みのカップやコップも持ってきて、少し傾けて積んでいく(3枚目の写真、ドアの所で母が嬉しそうに見ている)。

そのあと、3人はスンナが先導して森に向かう。森の中に入ると、走るのが早いスンナの姿が見えなくなる。そこで、ニーラスはクラウド装置のスイッチを入れ、「Scanning」が始まと、走る音が聞こえないかと装置をゆっくりと回して行く。ポンタスが、「聴かせて」と頼んだので、ヘッドホンをポンタスの耳にはめる。森のいろいろな音が聞こえてくるので 「森だ」と言う。ニーラスは 「待ってろ」と言い、ボタンを触り、「Playback」の声と共に、ベルギーで録音した電車の音が聞こえ、ポンタスは 「わぁ」とびっくりする。そこに、スンナが、2人がちっとも来ないので戻ってくる。ポンタスは、スンナに 「ニーラスが街を持ってる」と言い、スンナがヘッドホンに耳を近づける(1枚目の写真、矢印)。スンナが 「こんなの気に入ったの?」とポンタスを皮肉ったので、ニーラスはポンタスからヘッドホンを外すが、ポンタスが 「もっと聴きたい」と言ったので、もう一度はめる。。ニーラスがサイレンの音を鳴らすと、あまりの大きさにポンタスは急いでヘッドホンを外す。大自然しか知らないスンナは、装置を切らせると、口に両手を当てて、鳥の鳴き声を出す。しばらくすると、1羽のフクロウが飛んできて、近くの枝にとまる。スンナが、飛び去るような仕草を交えて鳴き声を出すと、フクロウは飛んで行く(3枚目の写真、矢印)。

スンナは、森の中を走りながら、ニーラスに 「木に登れる? 試したい?」と訊く。「うん」。そして、巨木のところに連れて行く。あまりに幹が太くで、どこにもつかめるところがないので、スンナがニーラスの体を押し上げる(1枚目の写真)。幹を抱けるようになるとニーラスはどんどん上がって行き、ポンタスが座っている枝まで到達するが(2枚目の写真)、それでやめようとせず、さらに上を目指す。ポンタスは 「もっと、もっと」と言い、下にいるスンナは 「あんまり高くに行かないで」と言うが、結局、ニーラスは遥か上まで登って行き(3枚目の写真、矢印)、そこから見える雄大な景色を堪能する(4枚目の写真)。

外は、明るいが、時間的には夕方になり、母が、部屋の窓に濃い色のカーテンを付け、「こうすればもっとよく眠れる。少なくとも、白夜は見なくて済むわ」と言うと、ニーラスは、また 「家に帰りたい」と言い出す(1枚目の写真)。母は 「ポンタスとスンナだって、あれほど高くまで登ったことないのよ。もっと誇りに思わないと」と、今日一日で、昨日までとはがらりと変わったニーラスを褒めるが、ニーラスの返事は 「パパに迎えに来て欲しい」。翌朝、ニーラスは、外が騒がしいので目が覚める。それは、ポンタスが父親とじゃれていたからだったのだが、ニーラスが窓から見ていると、ポンタスが大事なクラウド装置を持って走って行く。それを見たニーラスは、取り返そうと、服も着替えずに飛び出して行く。ポンタスは、池に突き出た小さな桟橋の先端にうつ伏せに横になり、クラウド装置に触っている(2枚目の写真、矢印)。ニーラスがポンタスのすぐ後ろまで行くと、ポンタスは振り向いて、「魚の声が聞こえるよ。もう少し持ってていい? 代わりにユーホを貸してあげる」と言うが、何よりも大事なクラウド装置を勝手に持ち出したポンタスが許せないニーラスは、ポンタスの腕を掴んで立たせる。ポンタスは 「やめろよ! でないと池に投げちゃうぞ!」と、小さい子だからやむを得ないとしても、許されない発言をする。ニーラスとポンタスはクラウド装置の奪い合いとなり、ポンタスはニーラスのことを 「しゃべれない赤ちゃん」「ママの小さな赤ちゃん」(3枚目の写真)「ママは僕のママで、あんたのママじゃない」と罵る(4枚目の写真)。頭に来たニーラスは、ポンタスの頬を引っ叩く。

そして、クラウド装置を奪い返して戻ろうとして、喧嘩を聞きつけて駆けつけた母に両腕を掴まれ、「ポンタスが何をしたにせよ、殴っちゃダメ! 分かった?!」と叱られ(1枚目の写真)、さらに 「あんたの態度には、うんざりしたわ!」と、非難される〔勝手に招いておいて、この非難は許されない。母親失格〕。ニーラスは、「こっちこそ、うんざりだ! あんたは、僕の母親だと思ってるけど、そんなじゃない!」と罵倒して走り去る〔当然の反応〕。そして、部屋に戻ると、着替えるが、イスの上にポンタスが残して行ったユーホを見つけると、2つに折る。その時、あとを追ってきたポンタスは、折られたユーホを見て、涙を拭い 「ぼくら、ニーラスなんか大きらいだ!」と言って階段を走り降り、外のピックアップトラックまで行く。継父のトラックは、2人の子を乗せて出かける。それを見ていたニーラスは、母が見上げてこっちを見たので、急いで靴を履く。そして、母が階段を上がって来たので、何も持たずに窓から逃げ出す(2枚目の写真)。そのまま、1階の屋根を走って端から飛び降り、森の中を全速で走る。それを、4輪バギー車に乗った母が追いかける(3枚目の写真)。ニーラスは、バギー車でも追いかけられない、小さな崖を滑り降りて、下に見えるトラス橋に向かって走る。しかし、橋の前方にはまた大きなトナカイがいる(4枚目の写真、矢印)。

前方にトナカイ、後方を母に挟まれ、切羽詰まったニーラスは、手すりの壊れた橋の真ん中から川に落ちてしまう。母は、すぐに飛びこんで息子を岸まで運んで行き(1枚目の写真)、岸の岩場に寝かせたニーラスを抱き締めると、ニーラスも 「ママ」と何度も言いながら泣く(2枚目の写真)。母は、ニーラスを家に連れ帰り、濡れた体をタオルで拭き、シャツを着せた息子を後ろから抱いて一緒に横になる(3枚目の写真)。翌朝、母が車庫でバギー車を整備していると、そこに着替えたニーラスがやって来る。ニーラスが壁にたくさん掛けてある投げ縄に触っていると、「教えてあげようか?」と訊く。次のシーンでは、車庫の外の草むらで、赤いビニールロープを持ったニーラスに、「投げる前に頭の中でイメージして、それから投げるの。捕まえられると信じて」と、コツを教える(4枚目の写真)〔この母は、ニーラスがベルギーから着いた時に、こうやって徐々に慣れさせるべきだった〕

母とニーラスは、ボルボで、前回行った場所まで行き、そこから歩いてトナカイの囲いのそばのテントまで行く。テントの中に入って行ったニーラスは、ポンタスにユーホの代わりの枝を渡す。ポンタスは 「ありがと」と言うが、枝を返し、ニーラスが2つに折ったユーホの頭部を見せて、「胸ポケットに入るから、すごく便利」と言い、ユーホの下半部をハーヴィーと呼び、それも一緒に胸ポケットに入れる。囲いの中は、以前と同じようにトナカイの群で溢れている。テントの中に4人がいると、そこに継父が入って来る。ポンタスが 「ママ、見つかった?」と訊くと、「お前のチビは見つけたが、母親がみつからん」と答える。スンナは、ニーラスに、「ポンタスの トナカイの子のママがいないの。すぐ見つけてやらないと、死んじゃう」と教える。そして、父に向かって 「どこで、見つけたの?」と訊く。「大きな滝のそばだ」。今度は、ポンタスが 「チビはどこ?」と訊く。「囲いの中だ」。それを聞いたポンタスは、チビ・トナカイに会いに行く(2枚目の写真、矢印)。そして 「怖がるんじゃないぞ。ママはすぐ戻ってくるからな」と声をかける。それを、ニーラスがじっと見ている(3枚目の写真)。

ポンタスがいなくなると、入れ替わりにニーラスが囲いの中に入り、チビ・トナカイの口の近くにクラウド装置を置くと、“Record” のボタンを押し、「Recording(録音中)」と音声が流れる(1枚目の写真、矢印)。ニーラスはチビ・トナカイの背中をさすって、できるだけ声を出させる。それが終わると、テントに入って行き、眠っているスンナを起こす。そして 「大きな滝ってどこにある?」と尋ねる。「ここから半日くらい。それがどうかしたの?」。「僕と一緒に来るか? チビ・トナカイのため。ポンタスのためだ」。結局、目を覚ましたポンタスを加えた3人で、チビ・トナカイ探しに出発する。3人は草原を進み(2枚目の写真)、夜が明けた頃に大きな滝に辿り着く(3枚目の写真)。しかし、ニーラスがクラウド装置で、チビ・トナカイの声を再生しても、滝の音が大きくて、何も聞こえない。そこで、滝の上に行くことにして、滝の横を登り始める(4枚目の写真)。

静かな場所に着いたニーラスは、クラウド装置を作動させ、「Playback」の音声のあと、チビ・トナカイが出した音を、できるだけ音を大きくして再生する(1枚目の写真、矢印)。それが終わると、今度は、「Scanning」の音声がし、ニーラスはヘッドホンを耳に付け、トナカイの音を拾えないか試す(2枚目の写真)。しかし、聞こえて来たのは、「水… 鳥… 虫…」だけ。ニーラスは、場所を変えて何度も試してみるが、一向に反応がない。徹夜で歩いたことから、最後には疲れたポンタスを背負って移動するハメに(3枚目の写真)。ポンタスが 「家に帰りたい。降ろして」と言ったので、ニーラスはすぐにポンタスを降ろす。「もう行きたくない」の声に対して、ニーラスは 「さあ、ポンタス行くぞ」と先に進もうとする。しかし、これ以上進んでも仕方がないと判断したニーラスは、浅い洞窟のようになった場所で、一夜を明かすことにし、スンナの助けを借りて焚き火を起こす。

火が起きると、スンナが丸一日してきたことを尋ねる。ニーラスは 「うまくいくと思ったんだ」と言うが、スンナは 「うまくいく? トナカイが機械の音なんか聴く?」と、批判する〔たまたま、歩いた範囲にトナカイがいなかっただけで、ニーラスのやり方は間違ってはいない〕。ポンタスが 「そうじゃないの?」と訊くと(1枚目の写真)、ニーラスは 「僕に何が分かる? 僕はサーミじゃない」と言う。それを聞いたスンナは、さらにひどいことを言う。「あんたを信じた私がバカだった」(2枚目の写真)。助けてやろうと全力でやったことを、このように批判されたニーラスは、腹を立てて洞窟から出て行く。その背中に向かって、スンナは 「またいなくなる。それが、あんたにできる唯一つのことね」(3枚目の写真)〔はっきり言って、最悪の少女。最初は期待していたくせに、運悪くダメと分かると、機械に対する自分の無知を棚に上げ、3歳も年上の義兄の努力を無視して生意気な言葉でこき下ろす。観ていて不愉快にさせる人物を義妹にするという設定は、脚本としても最悪〕

ニーラスは、一人で夜の森をさまよいながら、再生とスキャンをくり返す(1枚目の写真、矢印)。しかし、丸1日使い続けたため、クラウド装置のバッテリーがゼロになり(2枚目の写真、矢印は残量ゼロ)、画面が真っ黒になる。ニーラスは、絶望する(3枚目の写真)。

そこで、ニーラスは、スンナがやっていたように、チビ・トナカイの声の真似をし始める(1枚目の写真)。それでも効果は全くない〔プロが行う正確な真似ではないので、通じるとは思えない〕。洞窟では、朝になり、ポンタスが 「きのうは、2人とも子供みたいだった。お陰で、僕は、チビ・トナカイと兄さんを失っちゃった」と姉を批判する。一方、ニーラスは、あれからかなり歩いて湖畔まで来た時、トナカイの雄が3度目に現われる(2枚目の写真、矢印)。ニーラスは怖がるのをやめ、お互いに近づいて行き、最後には、手でトナカイの鼻を撫でる(3枚目の写真、矢印は手)。

トナカイと意志が通じたのか、トナカイはニーラスを連れて歩き始める(1枚目の写真)。このトナカイが、彼を特定の場所に連れて行こうとしていることは、時々振り返って、如何にも “こっちだよ” と言っているような様子(2枚目の写真)から類推できるが、そんなことが現実に起こり得るとは絶対に思えない〔子供向き映画なので、何でもあり得るかもしれないが、それにしても限度というものがある〕。トナカイが連れて行った先には、チビ・トナカイの母親がいた(3枚目の写真)〔呆れるしかない〕。それを見たニーラスは、にんまりする(4枚目の写真)。

そこにさらに都合のいいことに、ニーラスとポンタスが現われる(1枚目の写真)〔ここも、最初観た時は呆れてしまった。“+7(7歳以上)” の子供向きなので、何でもありかもしれないが、それにしてもひどい〕。生意気スンナはニーラスに謝罪もしないし、ましてやニーラスを讃えもしない。ニーラスは、スンナに反対側から投げ縄でトライするよう指示し、自分は正面から這って母トナカイに近づいて行く(2枚目の写真、矢印は投げ縄)。反対側から近づいたスンナがドジって枯れ木を踏んでしまたため、母トナカイは逃げ出す。ニーラスは、走って追いかけるが、途中で止まり、「捕まえられると信じないと」と母に教わったことを口にする。そして、精神を集中し、12秒も経ってから赤いビニールロープを投げる(3枚目の写真)〔母トナカイはどんどん走って逃げているので、12秒も経てば、投げ縄が届くハズがない〕。しかし、そこは、最悪の脚本なので、ロープは母トナカイの首にしっかりとかかる(4枚目の写真)。

ポンタスは、ニーラスに抱き着くと、「ありがと。お兄ちゃんならできると分かってた」と感謝する(1枚目の写真)。スンナは、相変わらず何も言わない〔最後まで、最悪の義妹のまま〕 。それを見守っていた雄のトナカイは森の中に去って行く。そして、母トナカイは囲いに戻され、チビ・トナカイと一緒にいる(2枚目の写真、矢印)。幸せそうなポンタスの顔を見て、ニーラスも幸せになる(3枚目の写真)。継父も 「よくやった」と褒めてくれる(4枚目の写真)。

恐らくベルギーに帰る前日。雄大な自然の中の岩の上に座った母とニーラスが話し合う(1枚目の写真)。母: 「いつかまた、ここに戻って来る気ある? バカンスとか何かで?」。ニーラス: 「いいの?」(2枚目の写真)。母: 「もちろん」。そして、2人は抱き合う(3枚目の写真)。

そして、場面は、アントワープの自宅近くの近所の子供達の遊び場になっている広場。以前、一人の子が試みた大胆なジャンプにニーラスが挑戦する。左側の台の上から飛び出したニーラスは(1枚目の写真)、右側のコンテナーの上に飛び移ることに成功する(2枚目の写真)。見守っていた子供の一人が、「どうやったら、そんなことできるの?」と訊くと、ニーラスは 「今、やって見せたろ」と答える。その他の、遊び道具も、だれよりも上手に飛ぶことができる。

そこにやってきた父が、「ミスター」と呼びかけ、2人は、遊び場の端で、仮定の話をする。「秋の休暇が終わっても、もし僕が(ママの所から)戻りたくなかったら?」(1枚目の写真)。「ちょっと寂しくなるかもな。ほんのちょっぴりだぞ」。「クリスマス休暇の後は?」。「寂しくなるな」(2枚目の写真)。「イースター休暇の後は?」。「そりゃやりすぎだ。迎えに行くよ」(3枚目の写真)〔ニーラスは、そんなにサプミが気に入ったのだろうか? 不思議でならない〕

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  ベルギー の先頭に戻る          2010年代後半 の先頭に戻る