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Gummi-Tarzan ゴムのターザン

デンマーク映画 (1981)

子供向きの映画だが、1982年のデンマーク映画批評家協会のボディル賞で、最優秀作品賞、主演男優賞、助演男優賞、特別賞を受賞した他、ベルリン国際映画祭のUNICEF賞も獲得している。NHK教育TVで、かつて、『ぼくのターザン』のタイトルで放映されたと書いてあったが、見た人は少ないだろうし、何の媒体も発売されていないので、未公開作品として扱う。主人公のイーヴァン・オールスンという9歳の少年は、父親の過剰な期待から “ターザンのように強くなれ” と鼓舞されるような “典型的な虐められっ子” だ。鍛えようとした父親が、あまりのふがいなさに、「出来の悪いゴムのターザン」と叱ったことから、そのあだ名が虐めっ子たちにも漏れて、ますますバカにされる。だから、タイトルは『ゴムのターザン』とすべきなのに、『ぼくのターザン』などというタイトルを付けるとは、愚かしいとしか言いようがない。この映画には原作があり、国際子ども図書館展示会で平成18-19年に展示された時には、『こしぬけターザン』となっていた。これだと、ターザンの話かと勘違いしてしまう。私は、原題の「Gummi(デンマーク語のゴム)」を活かすべきだと強く思う。この映画が、虐めっ子の暗い物語にならないのは、コンテナ用ヤードクレーンの運転手オーレとの友情が、虐めを乗り越えて映画全体を明るくしているからだ(虐めの映画としては非常に珍しい)。ただ一つ残念なことは、この物語が1981年だから成立すること。現在だと、大人が9歳の子にこんなに親切にすると、小児性愛を疑われてしまい、映画として成立しなくなってしまう。不幸な時代の変化としかいいようがない。イーヴァンは自分の誕生会に誰一人呼ぶ同級生も友達もいないので、暖かく接してくれる港湾労働者のオーレだけを招待するが、その状況に(年齢差を乗り越えた清廉な友情)に 心からの拍手を送りたい。

イーヴァンは、当校すると、年上の5人組に水飲み場まで運ばれて行き、ズボンごと水を掛けられ、右足の長靴に水を注ぎ入れられ、トイレに閉じ込められるという 悲惨な毎日を送っている。担任はわざと気付いていないフリをしているのか、毎日の恒例なのに、誰も注意しないどころか、イーヴァンが何をされているか知っている同級生は、彼をバカにして誰も相手にしようとしない。その辛さもあってか、あるいは、以前紹介した『アーニャのベル』のスコットと似たようなディスレクシア(読字障害)のためか、字を読むことともままならない。最もダメなのは体育で、跳び箱の手前で箱にぶつかって転落するほどの低体力。だから、生徒達からは常に軽蔑の目で見られている。見るに見かねた父は、自分も会社で常に上司から叱られているようなパッとしない人間にもかかわらず、ターザンの漫画本やターザンの目覚まし時計を買って来たり、イーヴァンの部屋の壁に勝手にターザンのポスターを貼ったりして、強くなるよう口酸っぱく注意する。そして、ある日、木の枝にぶら下がらせて、懸垂をさせようとするが、イーヴァンは1回もできずに、逆に、力尽きて落下。それを見た父は、自分のただ一人の息子のことを、「ゴムのターザン以外の何ものでもない」と批判し、それを隠れて見ていた5人組は その悪態を学校にも拡げ、イーヴァンの立場はますます悪くなる。一方、イーヴァンは凧揚げが好きで、手製の凧をコペンハーゲン港のコンテナ埠頭の一角に隠しておいたのだが、その凧が、コンテナ用のヤードクレーンによって運悪く轢かれて壊されてしまう。イーヴァンは、その罪のない運転手オーレを憎たらしいと思うが、オーレが、埠頭から海に落ちたイーヴァンを助けたことで2人は徐々に親しくなり、オーレはイーヴァンにクレーンの運転方法を教えるまでになる。イーヴァンの誕生日が近づくと、母は、級友を誕生日パーティに招待するよう何枚もカードを渡すが、イーヴァンがカードを渡したのはオーレだけ。それは正解で、誕生日の日、それに気付いた担任がイーヴァンにお祝いを言うよう話し始めるが、終業のベルが鳴ったので、生徒達は担任の話など無視して全員いなくなってしまう。オーレはイーヴァンに、誕生会は彼のアパートでするのではなく、両親と一緒に埠頭まで来るように伝える。そして、3人が埠頭まで来ると、オーレは用意した古いモーターボートで、埠頭から1キロほど離れたトロクロナ要塞島まで連れて行く。そして、オーレがプレゼントした凧を使って、イーヴァンは見事な凧揚げの腕前を見せる。

イーヴァン役は、Alex Svanbjerg。1972年9月4日生まれなので、撮影時9歳。主演男優賞はオーレに、助演男優賞は大して上手ではなかった父に取られてしまったが、演技はオーレに勝るとも劣らぬ出来栄え。1983年の『Isfugle』で、主人公の少年時代(右の写真)を演じた後、映画界から忽然と消えてしまう。2020年の「B.T.」の記事によれば、両親は彼が子役としての人生を歩まないよう、最初から、本名のAlex Scheunchenではなく、母の旧姓のAlex Svanbjergという架空の名前を使い、住所も隠し、映画の宣伝にも数回のインタビューしか応じず、送迎用のタクシーも断るという徹底ぶりだったとか。大人になってからの彼の人生は、①クロアチアとボスニアでの職業軍人、②救急隊員(10年)、③空港警備員(14年)、④建設会社の経営者という数奇なもの。映画の中のイーヴァンよりは、よりターザンに近い。

あらすじ

映画の冒頭、コペンハーゲン港のコンテナ埠頭の真上で舞うイーヴァンの凧が映る(1枚目の写真、矢印)。2枚目の写真は、凧を上手に操っているイーヴァン。イーヴァンは大好きな凧揚げが終わると、コンテナの間に置かれたドラム缶の隙間に凧を隠す(3枚目の写真、矢印)。そして、学校に向かって走って行く。ここまでが、オープニング・クレジット。
  
  
  

学校の正門を恐る恐る入って行ったイーヴァン。そこには、いつもの5人組がいて、イーヴァンを見つけと寄って来る(1枚目の写真)。イーヴァンが隅っこにあるベンチに向かうと、そこに座っていた同じ年頃の男の子2人が逃げ出し、イーヴァンは “来るべき虐め” を諦めて待つ(2枚目の写真)。5人のうち “1人だけかなり年長のボス〔名前は最後まで不明〕” がイーヴァンのすぐ前に立つと、「よお、筋肉マンのイーヴァン・オールスン」と、実態の真逆の表現で侮辱する。他の手下が、「大きなナッツみたいだ」「鳥みたいにでかいぞ」と、相槌を打つ。イーヴァンは、「そんなのないの知ってるじゃないか」と言うと、腕を剥き出しにされる。
  
  
  

ボスは、「筋肉をつけるには金がかかるんだ。維持するにもな」と言うと(1枚目の写真)、手下4人にイーヴァンに両手両足を持たせて、嫌がるイーヴァンを水飲み場まで運ばせる(2枚目の写真、矢印は水)。そして、毎日の恒例行事だが、イーヴァンの右足の長靴の中にたっぷり水を注ぎ込む(3枚目の写真、矢印は水)。
  
  
  

そこに教師がやって来るのが見えたので、ボスと4人はイーヴァンを持ったままトイレまで連れて行き、個室の便座の上に座らせると、「こんなに漏らしじゃダメじゃないか」と水で濡れたズボンのことを笑い(1枚目の写真)、個室のドアに鍵を掛けて立ち去る。毎度のことで慣れているイーヴァンは、長靴の中から短い物差しを取り出すと、それで鍵を回して開ける(2枚目の写真)。そして、水飲み場まで戻ると、そこに放置されていた鞄やノート(3枚目の写真)を回収する。
  
  
  

イーヴァンが遅れて教室に入って行くと、教師は、「時間を守らないといけない、イーヴァン」と、優しく叱り、ずぶ濡れの姿を見て、「それ どうしたんだ?」と訊く〔虐めは常態化しているので、なぜ虐めだと気付かないのか?〕。イーヴァンは、「ただの事故です」と答える。教師は、イーヴァンの入室で中断された “生徒による教科書の読み上げ” を続けさせる。その女生徒が終わると、教師は、「イーヴァン、君、つぎ読めるか?」と訊く。「いいえ」。「なぜだい?」。「どこを読むのか分かりません」。教師は、イーヴァンの席まで来ると、教科書のページをめくり、続きの場所を指で示し、「ここだよ。さあ、読んで」と言う。イーヴァンは、「ぼくは文字が苦手です。他に何かできませんか?」と訊く〔イーヴァンが文字を読めないことくらい、教師は知っているハズだが〕。「学校では、教科書から学ばないと」。「どうして?」。「それが決まりなんだ、イーヴァン」。「こんな何千もの文字なんて、ぼくには絶対覚えられません」。その時、イーヴァンの目には教科書がどう見えているか映像が映る(2枚目の写真)。これでは、イーヴァンがディスレクシア(読字障害)だと示唆することになるが、それが本当なのか、イーヴァンの努力不足によるものかは映画では分からない。教師は 「そのうち、きっと読めるようになるよ」と言って立ち上がる。その時、イーヴァンの右足の長靴が脱げて、大量の水が流れ出し(3枚目の写真、矢印)、それを見た生徒達が笑い出す〔クラスでは虐めの対象にはなっていないが、みんなに軽蔑されていて、誰一人イーヴァンの友達になりたがらない〕
  
  
  

イーヴァンが一人寂しく帰宅して、高層アパートの前まで来た時、道路清掃車の巻き上げる粉塵を頭から浴び 全身土埃まみれになる(1・2枚目の写真)。イーヴァンの部屋のドアには、「EOB技術者 T・オールセン」と表示されている〔職業まで書かれているとは? EOBは会社名? TはThorkild(チョーキル)〕。中に入ったイーヴァンは、イスに横になっている夫のそばで電気掃除器をかけている母に声をかけるが、母は 「しーっ。パパは寝てるのよ」と注意する〔掃除機の音の方が継続的でうるさい〕。「どうしたの?」。「頭痛よ」。母はようやく汚れきった息子に気付き、「何て格好なの」と驚く(3枚目の写真)。
  
  
  

シャツとパンツだけになったイーヴァンが 父のそばに行くと、「で、今日は学校で何を学んだ?」と訊かれる。「特に何も」(1枚目の写真)。「特に何もだと?」。そこで初めて息子の汚れた顔を見て、「いったい何があった?」と訊くが、次の質問は、「じゃあ、学校では何も学ばなかったのか?!」と、最初の話題に戻る。「うん、まあ、ぼくはね」。父の怒りはさらに募る。「そりゃ、問題だな。税金を払うのは、息子を学校に通わせて学ばせるためだ。それなら、一体何のために払ってるんだ?!」。「さあ」。「何てバカで無能な息子なんだ!!」。「そうだね」。「虐めっ子が、またズボンを濡らしたのか?」(2枚目の写真)「早く、たくましい男にならんとな」。「それって何?」。「いいか、まず反撃しろ。たくましい男なら、一人で奴らを叩きのめせる」(3枚目の写真)。「ぼくには無理だよ」。「そうだ。お前には何もできん。お前は弱虫〔vatnisse〕だ」。「そうだね」。「弱虫め」。
  
  
  

学校からの帰り、コンテナの間に置かれたドラム缶の隙間に隠した凧を取りに行ったイーヴァンは(1枚目の写真)、凧がなくなっているので心配になる。コンテナ群の中を探し回り、外に出たところで、コンテナ用ヤードクレーンが通り過ぎた背後に壊れた凧を発見する。怒ったイーヴァンは、壊れた凧を持ったままヤードクレーンを追いかける(2枚目の写真、右の矢印は凧本体、左の矢印は凧のしっぽのリボン)。イーヴァンの姿を捉えた運転手は、危ないのでヤードクレーンを停めて、運転席から出ると、下に向かって 「そこで何してるんだ?」と注意する。イーヴァンは、「ぼくの凧を轢いた!」と怒って答える。それを聞いて梯子を降りてきた運転手に、イーヴァンは凧を投げ付け、「凧殺し」と非難して走り去る(3枚目の写真)。
  
  
  

数日後、朝イーヴァンが起きると、母はクリニックに仕事で出かけ、朝食を取っていた父が、食卓に来たイーヴァンに。ターザンのコミックを見せ、「ほら、これがホントに強い男だ」と言う(1枚目の写真)。「その人が?」(2枚目の写真)「いつも奥さんを木の上まで引っ張り上げるの?」。「この人は奥さんじゃなく、ジェーンだ。ターザンは、原生林における類人猿の王様なんだ」。「パンツ1枚で? 王様なら立派なコート着てるんじゃないの?」。「ホントの王様は弱虫なんだ。この人は、男の中の男。健康で強靭で高潔だ」。「ちょっと太ってるね」。「これは筋肉だ」。そして、父は、ターザンの叫び声の文字、「AAAHHHHHHHH」を指差して、「何て言ってる?」とイーヴァンに訊く。「さあ」。「たった2文字だぞ」。それでもイーヴァンが答えられないので、父は、「あー!!」と叫ぶと、「これから、お前に筋肉を付けないとな。すぐ服を着て来い。毎回15分、今日から始める」と強引に押し付ける(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、会社に行く途中で、公園の木の枝にイーヴァンを捉まらせると(1枚目の写真)、懸垂で体を持ち上げさせようとするが、全くできないどころか、枝から落ちてしまう(2枚目の写真)。その姿を見た父は、がっかりして、「お前は、ゴムのターザン以外の何ものでもない」と息子のことを貶す。イーヴァンは、前に父から言われたので、「ぽく、弱虫なんだと思ってた」。「いいや、ゴムのターザンだ」。それを、茂みの中で聞いていたボスと4人の手下は、笑い出す(3枚目の写真)。
  
  
  

次に映るのが、体育の授業時間。全員が壁に付けられた木の梯子状のものにぶら下がり、両脚をくの字状に曲げている。イーヴァンにそんなことができるのは変だと思って観ていると、この運動が終わると、体育室のドアが開いて、イーヴァンが遅刻して入って来る(1枚目の写真)。体育の教師は、「時間を守ったらどうだ」と注意するが、学年が違うのになぜかそこにいたボスの手下が、「お早う、ゴムのターザン」と笑いながらイーヴァンに呼びかけ、担任と違って意地悪な教師は、「ゴムのターザンか」と言ってニヤニヤする。そのあと、教師は全員に跳び箱をさせる。イーヴァンはやるのを渋っていたが、教師が催促し、ボスが「ゴムのターザン」と言い、他の生徒が笑ったので、仕方なくトロトロと走って行き、勢い不足で箱にも上がれず、手前で箱にぶつかって床に転落する(2枚目の写真)。顔を床で打って鼻血が出たので、教師はタオルを渡し更衣室に行かせる(3枚目の写真)。
  
  
  

イーヴァンがコンテナ埠頭で、コンテナの端に積んであったドラム缶2個の上に登り、コンテナの上に顔を出していると(1枚目の写真)、そのコンテナを持ち上げようとするヤードクレーンが急速に近づいてきたので、慌ててドラム缶から飛び降りる。そして、ヤードクレーンを追ってクレーンの海側を走って行く時、埠頭の端に積んであったドラム缶が邪魔なので、海に落としながら突破する(2枚目の写真)。その先には、ドラム缶がロープで固定されていて通れない場所があったので、イーヴァンは1段下に降り、その先端の先にある鉄梯子から埠頭に戻ろうとして、足を滑らせて海に落ちる(3枚目の写真)。
  
  
  

その様子を、ずっと目で追っていた運転手は、イーヴァンを助けようと、ヤードクレーンを停め、鉄梯子を急いで降り、埠頭の1段下まで行くと、イーヴァンを引っ張り上げる。そして、「ここをプールと勘違いしてりゃせんか? 水は泥と排泄物で一杯だぞ。ここで何してるんだ。子供が遊ぶような場所じゃない」と訊く(1枚目の写真)。「もう、家に帰らないと」。「その前に、服を乾かさないとな」。そう言うと、男は、イーヴァンを従業員用のロッカールームに連れて行き、服を脱がせて、ダブダブの作業服を着せる。そして、熱い紅茶を飲ませると、濡れた服をポリ袋に入れると、「何て名前だ?」と訊く。「イーヴァン・オールスン」。「よし、来るんだオールスン。俺はオーレだ。上まで行けば、乾燥させる場所がある。一緒に来るか?」。「うん」。天辺までは結構高い鉄梯子なので、オーレは先にイーヴァンを行かせ、すぐその下を守るように登って行く(2枚目の写真)。天辺に着くと、オーレはイーヴァンを操縦室に入れ、ポリ袋の中身を鉄板の上に広げる(3枚目の写真、黄色の矢印はポリ袋、青の矢印は映画の最後に登場する要塞島の灯台)。
  
  
  

操縦室に戻ったオーレは、エンジンをかけ、イーヴァンを横に置いてヤードクレーンを運転し始める。イーヴァンはそれを嬉しそうに見ている(1枚目の写真、矢印はロープ)。オーレには、こなさなければならない仕事があるので、イーヴァンの服が渇くまでコンテナ移動の作業を続ける。そして、乾いた頃を見計らってヤードクレーンを停めると、乾いた服をポリ袋に入れ、下に降りて着替えるよう指示し、梯子を安全に降りられるよう、イーヴァンのお腹をロープで縛り、オーレがそのロープを持ってイーヴァンに鉄梯子を降りさせる。半分ほど降りたところで、イーヴァンは、「オーレって、クレーンの運転上手なんだね」と笑顔で言い(2枚目の写真、矢印はロープ)、オーレは、「お前さんは、降りるのが上手いな」と言って、ポリ袋を投げ落とす。そして、「誰にでも必ず得意なものがある。それを見つけるんだ」とアドバイス。イーヴァンに “ないものねだり” をするだけの父より、よほどまともだ。下に降りたイーヴァンはロープを外し、ポリ袋を持って立ち去る〔作業着はロッカールームで着替えたのだろうが、そんなに簡単に入れるのだろうか?〕
  
  
  

アパートに戻ったイーヴァンは上機嫌。服が濡れていないことに驚く母に、「誰にでも必ず得意なものがあるんだ。それを見つけないとね」と、オーレの言葉をくり返す。「いつもと違うわね。大丈夫?」。「すごくハッピーなんだ。ママの自転車借りるよ」。しかし、それは大人用の自転車。だから、サドルに座ると足が地面につかないので、怖くて乗れずに跨ってよろよろと歩くだけ(1枚目の写真)。ちょうど、網で覆われたバスケットボールのコートの前にさしかかった時、ボールが転がり出てくる。イーヴァンがボールを拾うと、一番ノッポの少年に 「ゴムのターザンが筋肉を見せに来たのか?」と言われる。「入れてくれるの?」。「まず、ボールを投げ返せ」。喜んだイーヴァンが、ボールを思い切り投げると、ボールはフェンスの柱に当たり、そのまま跳ね返って公園の外の道路の大型のゴミ箱に入り、ちょうど作業をしていたゴミ回収車の中に捨てられる。大切なボールを失くした少年は、「こんなことができるってことは、小遣いたくさんもらってるんだろうな」と嫌味を言う。イーヴァンは 「2.25クローナ〔1981年の約70円〕しか持ってないよ」と答える(2枚目の写真)。「やっぱり、お前は、ただのゴムのターザンだ」。そのあと、イーヴァンは、何とか自転車に乗ろうとして、地下横断歩道の入口の鉄柵に捉まってサドルに乗ろとするが、失敗して道路に投げ出される(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

そこに、地下道をバイクで上がって来た虐めのボスがやってくると、「ゴム、そこで何してる?」と訊く。「自転車に乗ってる」。「止まってるじゃないか」。「動かない」。「ペダルを踏めよ」。「分かってるけど、脚が短いから届かない」。「手伝ってやろうか?」。「ありがとう」。意地悪が、助けるハズなどない。ボスは、イーヴァンがサドルに乗った状態〔足が地面に届かない〕で、自転車を押して走らせる。イーヴァンは、走る自転車に何もできずに乗っているだけの危険な状態になり(1枚目の写真)、そのまま正面の板で囲った私有地に向かい、板を突き破り、その先の、ショベルカーが掘っていた穴の中に自転車ごと転落する(2枚目の写真)。中には泥水が溜まっていたので、全身泥まみれに。イーヴァンは、ショベルカーのバケットに掬(すく)われて穴から出されるが、工事監督から、「ここは私有地だぞ」と叱られる(3枚目の写真)〔大丈夫かとも、ケガはないかとも訊かれない〕
  
  
  

イーヴァンが泥だらけでアパートに戻ると、母は何も咎めずにきれいに洗い、父には内緒にすると言ってくれる。しかし、頭髪をバスタオルできれいにした母が、連れて行った先のイーヴァンの部屋の壁には、これまで彼が大事にしてきたウサギのポスターの代わりに、父が、息子を強くしようと勝手に買ってきたターザンのポスターが貼ってあり、母が 「どう思う?」と訊く(1・2枚目の写真)。「パパは、昼休みの時間に、これを見つけたのよ。気に入った?」。「すごく醜いね」。そこに、父が帰ってきて 「どうだ?」と訊く。おとなしいいイーヴァンは、「ありがとう」とだけ答える。父は、「もっとサプライズがあるぞ」と言うと、居間のテーブルに置いてあった布袋を持ち上げると、置き時計の上に乗ったターザンの人形が、6時の時報にあわせて手に持ったヤシの木を振る(3枚目の写真、矢印)。「傑作だろ?」。「今、何時なの?」。それを聞いた父は、息子が時計の時間も分からないのかとがっかりする。「これで、早起きできるぞ」。
  
  
  

次の日の夜、イーヴァンは目障りなターザン時計に、布袋をかけて見えないようにする。母が、数日後のイーヴァンの誕生日について話しかける。「きっと、いい天気になるわ」。「雨と嵐だよ」。「いいえ、天気予報は晴だって。お友だちを誘いなさい。みんなでチョコレートを食べましょ」。「友だちなんかいない」(1枚目の写真、矢印はターザン時計を隠した布袋)。「いるでしょ。イーヴァン」。「ううん」。父:「考えれば、誰か思いつくだろ」。母:「招待する時のバースデーガードを買ったわ」。そう言うと、3枚取り出してイーヴァンの前に置き、「3人呼べるわよ」と言う。その時、電話が掛かってくる。家では威張っている父も、会社ではダメ社員らしく、上司から “お叱り” をたっぷり聞かされる。お陰で、父が手に持っているターザンのコミックの話は聞かずに済んだ(2枚目の写真)。母が席を立った後、バースデーガードを開いてみたイーヴァンは、どうしようかと困ってしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

恐らく、翌日、イーヴァンはいつものように埠頭に行き、コンテナの隙間にカバンを隠す。すると、オーレが、「やあ〔Hej〕、イーヴァン」と声を掛けてくれたので、イーヴァンも 「やあ」と答える。「急いでるのか?」。「ううん」。「じゃあ、どうして立ち止って 『今日は〔davs〕』って言わないんだ」。「今日は。良い食欲を〔velbekomme〕」。「何だって?」。「ママがそう言えって」。「そうか。ケーキ欲しいか?」。「うん、ありがとう」。「お前さんのズボン、濡れてるだろ。どうしたんだ?」。「何人かの大きな子にやられるんだ」。「バカな奴らだ。きれいな水を使うのは無駄遣いだ。世界には水に困っている人々が大勢いるってのに、それをお前さんに掛けるなんて、どうかしてる」。オーレは、ここで無線機を取り出すと、「バカな奴らだ」と無線機に向かって言う。イーヴァンは、「それ、使ってもいい?」と頼み、オーレは大事に使うことを条件に貸してやる。そこから2人の無線機での会話が始まる。その中で、イーヴァンが、父が自分のことをゴムのターザンだと思っていると話すと(1枚目の写真、矢印は無線機)、オーレは、「俺もゴムのターザンだ」と言い、さらに、イーヴァンが、父は、ターザンが男の中の男だと思っていると話すと(2枚目の写真)、その意見に対してもオーレは 「男の中の男は嫌いだ」と言う。さらに、イーヴァンが自転車に乗れるようになりたいと言うと、「今日、仕事が終わったら、ここに来れば教えてやる」と言ってくれる。イーヴァンは、自転車の練習を楽しみに、手を振って仲良く分かれる(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、アパートに戻ったイーヴァンを待っていたのは、父のむげな “洗車の手伝い” 命令だった。イーヴァンはトイレに立てこもって耳を押さえるが(1枚目の写真)、父はノアをドンドンと叩き、「いい加減にしろ、洗車するんだ!」と怒鳴る。「オーレに行くって約束した」。「いいから手伝え」。「自転車の乗り方を教えてくれる」。「後で教えてやる。洗車は楽しいぞ」。「楽しくなんかない。オーレと約束したんだ」。「お父さんを助ける方が優先だ」。その間、頭に来たイーヴァンは、憎たらしいターザン時計を、洗面台の水の中に入れて憂さを晴らす。そして、仕方なくドアを開けて、父と一緒に洗車を始める(2枚目の写真)〔車は、排気量1196ccの小型車Opel Kadett 1.2N。父の会社での地位を象徴する安車だ〕。イーヴァンは、オーレとの約束の方が、父の命令より大事なので、隙を狙って逃げ出す(3枚目の写真)。
  
  
  

ここからが、考えられないほど異常なのだが、父は、イーヴァンが逃げ出したのに気付くと、洗車中で洗剤の泡の付いた車に乗り込み、バケツを公共空間に放置したまま イーヴァンを追いかける(1枚目の写真、矢印は父の車)。イーヴァンは、埠頭まで行くと、車が入って来られないように、正体不明の巨大な円筒の中を走って逃げる(2枚目の写真)〔この円筒が何なのか、どうしても分からなかった〕。そのあと、イーヴァンはコンテナの並ぶ空間を走り、意固地になった父は、その姿を発見すると、コンテナの隙間に車を乗り入れる。すると、曲がったところで、目の前にコンテナがあり、バックして引き返そうとすると、コンテナの隙間の入口に別のコンテナが持って来られ、閉じ込められる(3枚目の写真)〔いい気味〕
  
  
  

一方、イーヴァンは、作業中のヤードクレーンを追いかけ、停車したところで、鉄階段を叩いてオーレを呼び出し、「今日は、来られなくなった」と伝える(1枚目の写真)。オーレは下まで降りて来ると、「別の日にやろう。家に帰って洗車をするんだ。トラブルのは困るだろ?」と言ってくれる〔洗車中だと気付いたのは、イーヴァンの作業着から?〕。「じゃあ、明日来るよ」。「俺はもう行くぞ」。その時、イーヴァンはバースデーガードを取り出すと、「オーレ、これあなたにだよ、どうぞ。ここに名前も書いてあるよ」と言って渡す(2枚目の写真、矢印)。「どうもありがとう、イーヴァン。俺は、お前さんの誕生日に、アイディアがあるんだ」。「ゲストは、あなただけだよ」。「なら、俺のアイディアにはぴったりだ」。一方、父の方は、中に入ってきたコンテナヤードの監督に苦情を言われた上で、コンテナをどけてもらえる。父がアパートの横の公共スペースに戻ってきたところで、待っていたイーヴァンを見つけ、怒鳴ろうとドアを開けて出てくると、イーヴァンは先手を打って、「用事があったんだ。オーレに伝言しておかないと。そんなに時間はかからなかった」と強く主張する。「オーレは、いつも港にいるのか?」。「うん」。「両親は何を?」〔父は、相手が子供だと思っている〕。「知らない」。「次は、ちゃんと洗車しろよ、ゴムのターザン」。その夜、イーヴァンは、窓をそっと開けると、ターザン時計を窓から落として粉々にする〔部屋のあるのは5-6階〕
  
  
  

翌日も、学校では、ボスの虐めに遭い、鞄は2階から投げ捨てられて中身は飛び散り、ズボンは濡れ、長靴は水浸し。悲しくなったイーヴァンが、コンテナふ頭の先端にある石積みの突堤(長さ約30m)に座ってボーッとしていると、それに気付いたオーレが近くでヤードクレーンを停め(1枚目の写真)、警笛を鳴らす。それでも、イーヴァンが何も反応しないと、操縦室から出てきて、「イーヴァン! 来いよ!」と呼ぶ。イーヴァンは、投げられたロープを体に縛り付けると、鉄梯子を登って行く(2枚目の写真、矢印はロープ)。落ち込んだイーヴァンを見たオーレは、運転席に座ると、膝の上にイーヴァンを座らせ、クレーンを一緒に運転する(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、イーヴァンの落ち込みようは、こんな厚遇を受けても回復しなかった。そこで、オーレは、「今日は幸せじゃないんだな? 俺だって時々そう思うことがある」と慰め、「折り紙付きの提案がある。あの古い錆びたコンテナの中で30分過ごすんだ。これまで何人もが中に潜り込んで、いろんな体験してる。想像力さえありゃ、大丈夫」(1枚目の写真、矢印がコンテナ)。その言葉にほだされて、イーヴァンはコンテナに行き(2枚目の写真)、中に入ると、置いてあった竹籠椅子に座り、これまた置いてあった飛行帽を被ると、横に置いてあったマッチでロウソクに火を点ける(3枚目の写真)。すると、開けっ放しにしておいたコンテナの扉がバタンと閉まる。
  
  
  

この先は、イーヴァンがコンテナの中で目をつむっている間に見た幻想。ゴムでなくなったイーヴァンは 勢いよくコンテナの扉を全開させて外に出ると、以前の公園のバスケットボールのコートに飛び込み、ボールを奪って大活躍(1枚目の写真、矢印はイーヴァン)。次のシーンは、アパートに行く途中の跨線橋の上。イーヴァンは 今度は自転車を持っている。そして、高いサドルを腕で叩いて乗れる位置まで下げた時、バイクに乗ったボスがやってくる。イーヴァンは、ボスを罵り、自転車に乗って逃げ出す。ボスはバイクで追いかけるが、イーヴァンは高速で漕ぐので追い付けず、最後は、小さなスーパーにバイクで突っ込み、店内を目茶目茶にする。アパートに戻ったイーヴァンは、イスに座っていた父からターザンのコミックを取り上げて投げ捨て、父のことを 「弱虫」と呼んで、床に転がす。さらに、ターザンのポスターを叩き、絵の中のターザンを木から落としてワニに食べさせ(2枚目の写真)、父がそれに文句を言うと、居間まで襟をつかんで父を引きずって行くと、天井の照明器具を引き抜いて父のベルトに引っかけ、照明器具のコードを壁から引き抜き、父を天井から吊り下げる(3枚目の写真)。私有地で泥水に落ちた仕返しは、工事監督を泥水に突き落とすこと。校庭にいたボスと手下4人と、意地悪な体育の教師をトイレまで押して行くと、ボスから順に個室に投げ込み(4枚目の写真、矢印はボス)、最後は、イーヴェンのことをゴムと言った体育の教師も個室にぶち込む。そして、コンクリートの校庭の真ん中に黄色のペンキで 「NED MED ALLE TYRANNER 〔すべての虐めっ子をやっつけるぞ〕/ GEMMI TARZAN」と書き、生徒達から拍手喝采を浴びる(5枚目の写真、矢印は逆立ちしているイーヴァン)。楽しい夢はここで終わる。
  
  
  
  
  

イーヴァンはコンテナから出ると(1枚目の写真)、そのままアパートに向かう。途中で父の会社の前を通ると、父の操作ミスで ラインプリンター〔1970年代までのコンピュータ出力用の連続用紙のプリンター〕から際限なく紙が出てきてしまい、父は上司から叱られている(2枚目の写真)〔家では威張っていても、会社では “ゴム”〕。イーヴァンは、上司がいなくなると、窓を軽く叩き、それに父が気付く。恥ずかしいところを見られた父は、早く帰るよう身振りで示し、イーヴァンは、そんな父を悲しそうに見ている(3枚目の写真)。仕事を終えてアパートに戻った父は、新たに買ってきたターザンのコミックの続編を持ってイーヴァンの部屋に入って来ると、「会社では、コンピュータの調子が悪い時には、時々議論するんだ」と、実際とは異なる言い訳をし、「心配しなくていい」と付け加える。それを聞いたイーヴァンは、嘘を見破り、以前、オーレに言われた 「誰にでも必ず得意なものがある。それを見つけるんだ」 を思い出し、「パパにだって得意なことは必ずあるよ」と言い、父は、それ以上何も言えなくなる。そこに、母が入って来て、「誕生日の前の日は早く寝ないと」と言ってベッドに横にならせる。
  
  
  

翌朝、母は、ビスケットの入った缶を息子に渡しながら、「オーレに、来てくれるかどうか訊くのよ」と言う。その間、父は息子の黒い革靴をブラシで磨いている(1枚目の写真、矢印は缶とブラシ)。次のシーン。教室では担任が、「猿は何を食べる?」と質問し、半数の生徒が手を挙げ、担任が指名した女の子が 「バナナ」と答える。「バナナはどこで育つ?」。今度も3分の1の生徒が手を上げるが、イーヴァンはうつむいたまま。担任は、「イーヴァン、君はどう思う?」と質問する。「分かりません」(2枚目の写真)。「今日は、いい服着てるね」。「僕の誕生日だからです」。「イーヴァン、なぜ黙ってたんだ?」と言うと、生徒達に向かって、「イーヴァンの誕生日だ。みんなで旗を持って歌わないと」と言い、戸棚に向かうが、その時、終業のベルが鳴る。担任は、棚から国旗を出すが(3枚目の写真、矢印)、生徒達は、イーヴァンのことなどどうでもいいので、さっさと帰ってしまい、誰一人としていなくなる。担任は、前を通ったイーヴァンに 「誕生日おめでとう、イーヴァン」と言い、イーヴァンは、寂しそうに、「ありがとう」と言って教室を出て行く。
  
  
  

それでも、学校の玄関から走って出て行く時、数人の生徒は、「おめでとう、イーヴァン」とお義理に言ってくれるが、イーヴァンが母の渡したクッキーの缶を出しても、誰も振り向かない。そこに寄って来たのが、ボスと4人の手下(1枚目の写真)。缶を取り上げ、中身をポケットに入れると、トイレに連れ込んだイーヴァンに、ボスは、「お前へのプレゼントは、今日に限り ズボン濡らしを勘弁してやることだ」と言う(2枚目の写真、矢印はイーヴァンの足)。「自転車の乗り方を教えてやってもいいが、ゴムには覚えられっこないからな」。それに対し、イーヴァンは、「ぼくは、クレーンの運転覚えたよ」と言う。そえを聞いたボスは、イーヴァンをバイクに乗せてコンテナ埠頭まで行く(3枚目の写真)。
  
  
  

イーヴァンは、誰もいないヤードクレーンの鉄梯子をロープなしで登って行く(1枚目の写真、矢印)。そして、操縦室に入ると、差し込んだままのキーを回し、横のボタンを押してエンジンをかける。そして、ハンドルの横に付いたシフトレバーを強く押して(2枚目の写真)、ペダルを踏むとヤードクレーンが動き始める。クレーンは、ボスのバイクと手下の自転車の方に寄って行くので、5人は恐ろしくなって後退する。イーヴァンは、そこで方向を変えると、コンテナを挟むように進み、停止すると、今度はコンテナを持ち上げ始める。そこに、休んでいたオーレが戻って来て、5人に 「上に誰がいる?」と訊く。ボスは 「ゴム」と答える。それを聞くと、オーレは、「イーヴァン!」と叫ぶ。その声を聞いたイーヴァンが梯子の所まで出て来ると(3枚目の写真、矢印)、「操縦室に戻り、コンテナを降ろせ。教えたように、ゆっくりとだぞ」と指示する。イーヴァンは、言われた通りに静かにコンテナを降ろす。オーレは 「いいぞ、イーヴァン」と叫ぶと、5人に向かって 「お前たち イーヴァンの仲間か?」と訊く。「ゴムの友だちなんかじゃない」。「なら、とっとと失せろ!」。
  
  
  

5人はいなくなり、オーレは鉄梯子を登って上まで行くと、「気でも狂ったか? クレーンはおもちゃじゃないぞ。命にかかわるかもしれん」と怒る(1枚目の写真)。「ぼく、何もできないと思われてる」。「だから、ズボンを濡らされる? そんなの気にするな。誕生日にクレーンから落ちたら… 愚の骨頂だ」。「覚えててくれたの?」。「もちろんさ。誕生日おめでとう、チビ君」。「ありがとう」。「俺のアイディアのこと、覚えてるか?」。「うん。何をするか教えてくれなかったけど」。「君の家でやるってのは、いいアイディアとは思えない。俺は、特別な場所を知ってる。誕生日の旅行にはぴったりなんだ。君が両親をここまで連れてきたら、なんなで一緒に行ける。楽しいピクニックだ」(2枚目の写真)。そして、しばらくすると、父が運転するする車で 3人が埠頭までやって来る。車から降りた父は、「ホントにここでいいのか?」と息子に訊く。「うん、オーレはそう言ったよ」。「ピクニックをやるのか?」。「そうだよ」(3枚目の写真)。「ここには森なんかないぞ」。
  
  
  

そこに、オーレが古いモーターボートをゆっくり動かし、接岸しようと近づいてくると、「やあ、イーヴァン」と声をかける。イーヴァンも、いつも通り、「やあ」と返事すると、ボートに近寄り、「いいボートだね」と言う。オーレと両親は、「今日は」と互いに挨拶する。父は、息子の 「オーレのお父さんか?」と訊き、イーヴァンは 「これがオーレ。彼のお父さんは来ないよ」と答える。両親にとっては予想外の展開だったが、イーヴァンと一緒にモーターボートに乗り込む(1枚目の写真)。オーレが向かったのは、埠頭からも見える、1キロほど離れたトロクロナ(Trekroner)要塞島。1865年から69年にかけて造られた近代的なコンクリートの要塞で、その中央に建っている1868年の灯台は高さ12m(2枚目の写真)。3枚目の写真は、違う角度から見た人工島の様子〔この映画で、唯一ロケ地が特定できた場所〕。4人は、砲台跡(円形になっている)の端のテーブルで、誕生日の簡単な食事を楽しむ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

食事が済むと、オーレは、予め島に来て木の枝で隠しておいた凧を取り出し、「これは誕生日のプレゼントじゃない… 壊した凧の交換品だ」と言ってイーヴァンに渡す(1枚目の写真、矢印はターザンのコミック)。イーヴァンは大喜びするが、オーレが、「しっぽが短くてね」と、不備な点を白状する。イーヴァンは、「長くするだけじゃない」と言うが、オーレは、「リボンを作るための紙がない」と言う。イーヴァンは、父が執拗に持って来たターザンのコミックを見て、「それ使ってもいいよね?」と父に尋ねる。父は、「もちろんだとも」と言うと、自らページを破って息子に渡し、2人でリボンを作り始める(2枚目の写真)〔父は、息子がターザンのように強くなって欲しいという呪縛から離れることができた〕。出来上がった凧は、4人で走って揚げる(3枚目の写真)〔母は父の後ろに隠れてしまい、ピンクの服の一部しか見えない〕。一旦空に揚がると、イーヴァンは凧揚げの名手なので、1人で楽しむが、風向きが悪くて茂みの中に落下してしまう。
  
  
  

イーヴァンが拾いに行くと、そこには、ターザンがいて、隆々たる筋肉を自慢げに盛り上げていた。イーヴァンは凧を回収すると、3人がお酒を飲みながら笑いながら話し合っている所まで走って行くと、父に、「あっちにターザンがいる」と教える。父は、全く信じない。しかし、今度は、オーレにむかって、そのことを話すと、実の父親よりもよっぽどよくできた人間のオーレは、イーヴァンの言ったことを確かめようと、父の止めるのも構わず後に付いて行く。結局、4人が草むらに隠れて近づいて行くと、ターザンがコンクリートの台の上に立って、身長と同じ高さの台の上から飛び降りようとしていた(2枚目の写真)。そして、実際に飛び降りると、みっともないことに、足を挫いて痛くて苦しみ出す。すると、ジェーンの扮装をした女性が現われ、男性をこき下ろす。2人は、少し変わった趣味のあるアベックのようだ。それを見て、4人は笑い出し、父のターザンに対する幻想は完全に消える。
  
  
  

夕方になり、オーレが凧を揚げるが、あまり上手ではないので、両親があれこれ助言するが、イーヴァンは黙って見ている(1枚目の写真)。結局、見るに見かねたイーヴァンは糸を奪うと、上手な揚げ方を実践して見せる(2枚目の写真)。映画のラストショットは、映画の冒頭と同じ、空を闊歩する凧で終わる(3枚目の写真)。
  
  
  

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