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Kådisbellan スリッグショット

スウェーデン映画 (1993)

この映画の主人公ローラン・シュート(Roland Schütt)と同名のローラン・シュート(1913-2005)が1988年に出版した自伝的同名原作を映画化したもの。スウェーデン映画を対象としたゴールデン・ビートル賞の作品賞を取り、アカデミー外国語映画賞にスウェーデン代表としてノミネートされた。1920年代のスウェーデンの首都ストックホルムを舞台に、ロシアから逃れてきたユダヤ人の母と、スウェーデン人だが熱烈な社会主義者の父を持つ12歳のローランの苦労の物語。彼が通う学校の教師と校長は、ユダヤ人と社会主義者が大嫌い。従って、ローランは常に叱咤の対象となる。家庭は貧しく、そのため、母は違法なコンドームを売って生計を立てようとするが、ローランは、そのコンドームを風船やパチンコにして売って大好きな自転車を手に入れようとする。この映画の最大の問題点は、英語の字幕はあるがスウェーデン語の字幕の正確な訳になっていないこと〔機械翻訳ではないが〕、従って、スウェーデン語の字幕を使用したが、結構スラングが使われていて、訳に手間取ったこと。例えば、通貨のクローナが “bagis”、オーレが “blejd” となっていて苦労したし、題名の “Kådisbellan” も、スウェーデン語の解説では、“Condom slingshot” と書いてあるものの、辞書では出て来なくて困ったことなど、結構大変だった。

ローランの父は、坐骨神経痛がひどくて松葉杖をつかないと歩けない。革命的社会主義に凝り固まっているが、働いているようには見えない。そして、ボクシングが下手なローランの兄を応援し、ひ弱なローランを自分の手足として使っている。ローランは、兄にもパンチの練習台としても使われているが、下手なパンチがローランの鼻を直撃し、時々、鼻にガーゼをつけて当校せざるを得ない。ローランの母は、ロシアの革命から逃れてきたユダヤ人。しかし、スウェーデン人と結婚したため、ローランはキリスト教徒として育てられ、洗礼も受け、割礼もしていないが、世間は、ローランをユダヤ人と見ている。当時のスウェーデン人はユダヤ人に対する差別がひどく、ローランは、プロテスタントのスウェーデン人でありながら、差別と侮りの対象となっている。特に、彼が通っている小学校の意地悪な担任と校長によって。そのローランに変革をもたらしたものは2つ。1つは、壊れた自転車を直したことから、それとは知らずに、“自転車を盗んで部品を取り換え ペンキを塗り変えて売る” 窃盗団の一味に 本人はそれと知らずに組み込まれてしまったこと。もう1つは、映画の題名にもなっているスリングショット。母が経営するタバコ屋で違法なコンドームを売ることに決めた時、ローランは、それが何かとも理解せずに、空気を入れて膨らまして風船として売ったり、それが母に見つかると、今度は、スリングショット(パチンコ)のゴムとして使って売ろうとする。しかし、それはすぐに教師に見つかり、ひどい体罰を受ける。そして、自転車の整備の方は、警察の手入れにより、窃盗団の一味として捕まり、更生施設に送られる。しかし、そのこりが、彼を愚劣な学校から解放し、新しい道を開くきっかけにもなった。最初の解説で述べたように、この映画は、ローラン本人が自伝的に書いた小説に基いている。もしローランが、更生施設に送られずに、彼の同級生と同じような労働者になっていたら、この本は書かれなかった。そう思って観ると、少年更生は重要な役割を持っていることが分かる。

ローラン・シュート役はジェスパー・サレン(Jesper Salén)。情報は僅か2つ。1978年12月5日生まれ。現在は医師。

あらすじ

映画は、12歳の主人公ローランのモノローグから始まる。「気を失う時は、正しく気を失わないと。望む時に、意識を取り戻せるように。静かなほど集中しやすくなる。僕がスウェーデン人になる運命だったなんて、誰に分かる? 僕は知りたい…〔この言葉、特に前半が何を意味しているのかは、映画を観終わった後でも、理解できない。後半は、ローランの辛い生い立ちを物語っている〕。映画は、1920年代の不明の年の冬から始まり、夏~秋~翌年の冬~夏の順にローランの1年半を描いていく。本編に入って最初の画面は、雪で覆われた公園の端に立っている1本の街路灯。ローランより年上の悪ガキが、ローランを虐めてやろうと、「ロレ〔ローランの通称〕」と声をかける。もう一人は、「彼、ひっかからないよ」と言うが、悪ガキは 「あいつは勇気を誇示したがるからな」と否定し、近寄ってきたローランに(1枚目の写真)、「お前 勇敢だろ。そこの鉄柱舐めてみないか?」と けしかける。ローランは、さっそく鉄柱を舐めようとして鼻と舌が鉄柱に触り 瞬時にくっついて離れなくなってしまう(2枚目の写真、矢印)〔皮膚の保有する水分が、低温金属の有する冷熱で一瞬のうちに凍結してしまうために起きる凍着現象〕。近くでガスバーナーを使って作業をしていた男が、周りにいた子供達に呼ばれてやってくるが、すぐにガスバーナーで鉄柱を暖めればいいのに、よほど気が利かないのかバカなのか、ローランの母が駆け付けるまで何もしない。母は、ガスバーナーで間接的に鉄柱の一部を暖め(3枚目の写真、矢印)…
  
  
  

ローランは顔を鉄柱から剥がすことはできたが、当然、鼻の先端と舌が傷付いている(1枚目の写真、矢印)。怒ったローランは、最初に彼をけしかけた悪ガキに飛びかかって行き、雪の上に押し倒して跨ると、顔を殴る(2枚目の写真)。その後で 母にガーゼを貼ってもらったローランは、兄と一緒のベッドに仰向けになって寝る。薪ストーブに薪を追加して室温を下げないようにした兄は、ベッドに横になると、「それ、偽の鼻か?」と笑って冷やかす(3枚目の写真、矢印は鼻のガーゼ)。
  
  
  

最初は、同じベッドのシーンの続きのように見えるが、朝が来てローランが目を覚ますと、ガーゼはどこにもないし、鼻にも傷はない。そして、カメラが窓の外を映すと、そこは、貧しい労働者の家が密集している場所で、雪はどこにもなく、服装も冬ではない。家の中は、全員がシャツ1枚で、父は、右腋の下に松葉杖を入れて歩いてきてキッチンテーブルの前に座る。すると、先に座っていたローランの顔めがけて、ボクサー志望の兄が パンチを繰り出し、父から 「ベンティル、控えろ!」と注意される。ローランは 「当たってたかも」と不満を洩らす。兄は 「精度の問題だ。当てようとしなければ当たらない」と、下手なくせに口だけは達者。一方、父は、前から気になっていた新聞に載っていた公募を読み上げる。「国王の肖像画を描くため、国王のような体格の男性を募集する。外見や年齢は二の次である。14日土曜日に中庭に集合し、画家が精選する」。1枚目の写真は、意外そうな顔でそれを聞いている兄弟(1枚目の写真)。父は、さらに、「これは、国王が交換可能であることを示しとる。体格が同じなら王位に就くことができるってな。こんな機会はまたとない」と、如何にも社会主義者らしい意見を述べる〔スウェーデンは、1920年に社会民主労働者党が政権を握る〕。ローランが 「パパ、王様になるの?」と訊くと、兄は 「アホか?」とバカにし、それに対し、父は 「ベンティル、お前のような文盲が革命を困難にするんだ」と兄を叱り、弟には 「今日、ローランは、封建主義の要塞までわしを護衛しろ」と命じる。そして、父は 妻の店の表通りに面したドアから通りに出て行き、ローランが後を追う(2枚目の写真、矢印はローラン)。その後、2人が乗り込んだ路面電車が行き交う古い町並みが映る(3枚目の写真)〔1990年代のストックホルムには こうした場所は残っていなかったため、プラハで撮影したと書いてあった。しかし、それも30年前なので、今では場所の特定は不可能〕。このあと、王宮まで行った父は、途中で松葉杖を隠し、何とか歩いて検査を受ける。検査は、①襟のサイズ〔首の太さ〕、②身長、③画家本人による選定の3つで、父は、合格者のグループに入る〔モデルを使って立ち姿の全身像を描いておき、あとから国王の顔だけ描き加えて王の負担を減らすため〕
  
  
  

その後の選考は映らないが、父が上機嫌で、「何て仕事だ。ただそこに立って、フランスのフォアグラのことを考えていればいいんだ。何が欲しい?」と言うので、国王の全身像の絵の代理モデルに選ばれたことが分かる。ローランは 「自転車」と言うが、父から 「自転車だと? 気でも狂ったか? わしは、アイスクリームかソーセージのつもりで言ったんだ」と、叱られただけ。そして、1枚コインを渡され、ソーセージを買いに行かされる。ローランは、走って買いに行く途中で1台の古い自転車をチェックしている3人組に会い、見とれていたので、「何を見てるんだ?」と訊かれる。「もちろん、自転車だよ」。3人のうちのボスは、「俺はてっきり、おまんこマルギットを見てるかと」と言って、通り過ぎていった若い女性を示し、ローランも振り向く(1枚目の写真)。もう1人の仲間が、「違うな、スティケン、こいつは割礼してるから、意味が分かんないぞ」と言うが、それでも、スティケンは、「あいつが、パンツ履いてないのに気付いたか? 25オーレ〔1クローナの4分の1〕出せば、靴紐結ばせてくれるぞ。そうすりゃ、素敵なものが生で見られる。プラス25オーレで、毛布の下で指マンもできる」。仲間:「そいつ、ぜんぜん分かってないぞ」。ローランはソーセージを2つ買って父のところに持って行く(2枚目の写真、矢印)。そして、父に 「指マン〔fingerpulla〕ってどういう意味?」と尋ねる(3枚目の写真)。父は、12歳の子がそんな質問をしたこを咎めず、「そのうち分かるようになる」と言っただけ。
  
  
  

それからしばらくして、ストックホルムの若い社会主義女性クラブ〔Ungsocialistiska kvinnoklubben i Stockholm〕で集会で、ローランの母が『Röda Röster〔赤い声〕』という 左派系の新聞を配っている。そして、その日の主役のHinke Bergegrenという実在の急進派の社会主義者が登場し、演壇に立つと全員が彼を見る(1枚目の写真、新聞を抱えているのがローランの母)。Bergegrenは、労働者階級の家族計画のために、当時、スウェーデンでは禁止されていたコンドームの必要性について話し始める(2枚目の写真、矢印はコンドームの入った紙袋)〔Bergegrenは1861年生まれなので60歳を超えている。この俳優は若過ぎる〕。一方、そんなことに興味のないローランは、少しでも、お金を儲けようと、集会に集まった夫人が飲んだガラス瓶を集めている。一抱え集めたので出て行こうとすると、ボトル回収係に呼び止められ、「これは労働者階級の財産だ。ユダヤのガキに横領されるべきじゃない」と言って、すべて取り上げられる(3枚目の写真)〔ローランがユダヤ人だと指摘されるのはこれで2度目(1回目は割礼)〕。ローランは、「ママはユダヤだけど、パパは社会主義者だ」と反論する。一方、集会には、地元警察の署長がやってきて、「スウェーデンの法律では、この集会は違法だ」と宣言し、参加者全員の名前と住所の記入を求める。ローランは、父によって、天井の梁の上に隠れさせられるが、父と母は、制服警官と争う。
  
  
  

争いの帰り道、ローランは、「僕たち、今や犯罪者?」と父に尋ねる。父は、「わしと母さんは奴らの調書に載ってしまたった、ちくしょうめ! 我々は集会の自由を守ったんだ。許可を求める必要なんかない」と気勢を上げる(1枚目の写真)。そとあと、父は、家族をアウグスト・ストリンドベリ〔作家〕の彫像〔ストックホルム市庁舎の北約1km〕の前に連れて行き、「ストリンドベリさん、わしの家族をお見せしたいと思います」と、自慢げに話しかける。家に戻った父は、松葉杖を使わなくてはならない原因の坐骨神経痛が悪化したため、ベンティルにモルヒネを注射してもらいながら(2枚目の写真、矢印)、「いつの日か、祖父のロシア製の銃を使って、すべてを終わらせてやる」と呻く〔ということは、父もユダヤではないがロシアからの移民の孫〕。そして、ローランが新聞のロンドン紹介記事を声を上げて読んでいると、父は、先ほどの争いのさ中、天井の梁の上に隠したローランが、父が警官を殴った時、目を覆って 見ていなかったことを責める。「お前は、この腐った世界をちゃんと見なきゃいかん。革命家は決して目を閉じん」と叱る。「閉じません」(3枚目の写真)。「閉じるな」。
  
  
  

それから、どのくらい時間が経過したかは不明。ローランの家の近くの公園で、前にちらと会ったスティケンが、古い自転車を地面に放り出して蹴飛ばしている。それを見たローランが、「どうかしたの?」と訊くと、「壊れたんだ。新しいチェーンには最低3クローナかかる」とブツブツ。ローランは 「直せるよ」と言うと、ズボンからベルトを外し、金具のツク棒〔ベルトの穴に差し込む棒〕を抜き取ると、自転車をハンドルとサドルを地面に置いて立て、切れたチェーンを手に持つ。そして、チェーンをつないでいた金属棒の代わりにツク棒を差し込んでチェーンが動くようにする〔その代わり、ベルトを締めることができなくなるのだが…〕。それを見たスティケンは、「お前は天才だな」と感心し、自転車がちゃんと機能するのを確かめた上で、「これ、買いたいか?」と訊く。「とっても。だけどお金がない」。「条件2つでお前にやろう。お前が手に入れる25オーレは全部俺の25オーレだ。それから、俺のダチが自転車を塗り直すのを手伝え。12クローナで自転車はお前の物だ〔25オーレ48回分なので、ちっとも安くない〕」。これで、2人の間で約束が成立する。ローランが家に戻ると、いつも通り、ボクサー志望の兄が手製のサンドバッグ〔貧しいので〕を使って練習中。その横を通ろうとしたローランの顔めがけて兄のクローブが繰り出され、直前で止まる。兄は 「かわせ!」と言い、ローランは 「もし殴ったら」と睨む(2枚目の写真)。その後、2人の間で口論が続くが、その中で、兄は 「俺は、クリスマスのジュニア選手権に出場する」と言い、ローランは 「知るもんか」と反駁する。その直後、父が、「ローラン!」と呼ぶ声がし、ローランが 「はい」と振り向いたところを、兄は後頭部めがけてパンチを繰り出すが、その瞬間、頭の向きを戻したローランの顔を殴ってしまい、殴られたローランは、勢い余って、顔面を壁の突起にぶつけ、鼻の先端の少し上を切り、鼻血を出す。怒ったローランは兄に飛びかかり、着ていたシャツを破り、逃げる兄からグローブを取り上げると、それに噛みつき、中からは〔現在のグローブと違い〕ウサギの毛皮のようなものが出てくる。その争いに気付いた父は、理由も訊かずに一方的に傷付いた顔のローランを責める(3枚目の写真)。「何てことだ? 誰が新しいものを買うんだ? お前か?」。そして、父は、2人を連れてクローブを買いに行くと、その帰りに、ローランに残酷なことを言う。「今後は、キャンディーの2オーレもやらん。ソーセージもすべて俺が食べる。それが公平だ」。社会主義者のくせして、息子の負ったケガと たかがグローブとどちらが大切なのだろう。唾棄すべき父親だ。
  
  
  

その日の夜、母は、「明日は、学校の初日だから、鼻をちゃんとしないと」と言う。スウェーデンでは1919年からFolkskolaという6年制の小学校の制度がスタートしたので、ローランが行くのはこのFolkskola。そして新学期は、8月下旬~9月頃。教師は、「私たちが学校でこの讃美歌を歌っていれば、ボリシェヴィキは教室に入り込んで黒板に彼らのスローガンを書くことはない」〔1918年にレーニンが憲法制定会議を解散させ、ボリシェヴィキ一党独裁体制を樹立した。現在の腐れロシアの元となったソビエト連邦共産党を形成する端緒となった諸悪の根源〕と言い(1枚目の写真)、さらに、「ローラン、君はユダヤだから歌わなくてよい」と付け加えた後で、マルティン・ルターの翻訳による旧約聖書の『詩編』のスウェーデン語訳を生徒達と一緒に歌い始める。「♪神は我らが強力な要塞にして安全な武器。あらゆる困難と悲しみのなかで希望が生まれる…」。この辺りから、ローランが別の歌詞で歌い始めるが、字幕が表示されないので、何と言っているのか分からない。「…闇の王子が脅しと怒りで襲いかかる。彼は暴力と傲慢で武装している…」。ここで、ようやく教師の歌詞とローランの歌詞が表示される。教師:「…それでも我らは恐れない〔Likväl vi oss ej frukte〕」。ローラン:「それでも我らは宣言する〔Likväl vi oss förkunna〕」。“宣言” という言葉から、社会主義的な内容だと分かる。教師は、授業が終わった後でローラン一人を残し、「私たちが、お互い嫌っていることは秘密でも何でもない。ローラン どう思う?」と訊く。ローランも、「秘密でも何でもありません」と応じる。「これから、私たちは一緒に新学期を迎える。私には、君の両親がなぜここに来させたのか理解できん。君の母親はロシア系ユダヤ人で、父親はいわゆる革命家だ。そうかといって、私には、君が朝の祈りを妨害することは許さん。君は、私たちの習慣や伝統を学ぶべきだ」。ローランは、「僕はキリスト教徒で、洗礼を受け、割礼を受けていません。先生は、僕のちんぽこ見たいんですか?」と、怒りに任せて 愚かなことを言う(2枚目の写真)。この言葉にカッときた教師は、「この小悪魔め。廊下に出て立ってろ。反キリストめ」と、校長に叱ってもらうよう手配する。ローランが廊下に立っていると、校長が部屋から出てきて(3枚目の写真)、最初の生徒の頬を叩き、次にローランの前にやって来る。そして、「君は、なぜ引っ叩かれる?」と訊く。ローランは、「僕は、割礼を受けてないと先生に言いました。そして、どうぞ ちんぽこを調べて下さいとも」。この言葉でローランは。頬を引っ叩かれる。
  
  
  

服装が完全に同じなので、学校での “反抗” から恐らく数日後、ローランは釣りにでかけ、まず、陸地に引き揚げられた木製の漁船が並ぶ石の浜の間で “飼って” いるカエルに会いに行く(1枚目の写真)。そして、釣り用の餌のミミズを1匹手に取ると、カエルに向かって 「お前をジョン・エリクソン〔スウェーデン出身のアメリカの発明家〕と名付ける。スクリュー、装甲艦『モニター』、蒸気機関車『ノベルティ』を発明した世界最大の発明家だ」と言い、ミミズを食べさせた後、石を被せてその中に隠してやる〔ローランとカエルとの交流は、映画の最後の場面と結びつくほど重要なので、敢えて紹介した〕。別の日、ローランが、地下室で自転車にペンキを塗っていると、スティケンがやって来る。最初の25オーレを徴収に来たのだが、ローランは 「今、もってないけど、すぐ手に入れる」と弁解し、スティケンは 「かまわんさロレ。だが、次にはちゃんと寄こせよ」と言って出て行く。次のシーンでは、ローランは父に命じられて棚を雑巾で拭いてきれいにしている。作業が終わってから、父に、「25オーレ、くれるよね?」と声をかける。父は、25オーレのコインを取り出してローランに見せ(2枚目の写真、矢印)、「お前は額に汗してこれを獲得したが、お前はわしに金を借りているから、これはお前のものじゃない」と言い、渡してくれない〔前にも書いたが、彼は、兄のボクシングのことしか考えていないクズだ〕。そこに、1人の中年の女性がやってきて、母に面会を求める。彼女が持って来た鞄の中にはコンドームの袋が詰まっていて、それを母に店で売ってもらうのが目的だった。それからしばらくして、父はベンティルをボクシングジムに連れて行き、ジム所属の選手とスパーリングをさせる。しかし、ベンティルは、防戦一方で、全く戦おうとしない。それを見かねたジムのオーナーがスパーリングをやめさせる。しかし、父は、ベンティルに無理矢理2人目とスパーリングをさせる。しかし、今度は、1回目以上にパンチを食らう一方なので、ベンティルは 恥も外聞もなくリングから逃げ出す(3枚目の写真、矢印、右では、父とローランがそれを見ている)〔恥さらし〕
  
  
  

自転車のペンキ塗りは完成し、そこにスティケンは、別の錆びた自転車を持ってくる。そして、お金を要求するが、ローランは “仕事” をしても父がお金をくれなかったので、支払いができない。すると、スティケンは、ペンキまで塗らせておいて、そして、その後もローランにタダ働きで古い自転車にペンキを塗らせ続けるのに、ローランが直した自転車をローランに売るのを止める(1枚目の写真)。「そんなのできないよ!」。「これは俺の自転車だ。お前は金を払わなかった」。「ちゃんと払うよ、約束する」。「他のは、1週間以内に取りに来るが、同じ色に塗るなよ」〔何度も書くが、なぜ、ローランは別の自転車のペンキ塗りまで押し付けられたのだろう? 何のメリットもないのに、なぜローランは引き受けたのだろう? これが、この映画の最大の謎〕。家に戻ったローランは、ダーラナの民族衣装を着せられる。母は、「ロシアではロシア人のように、スウェーデンでは本物のスウェーデン人に見えるように着飾るのよ」と言うが、時代錯誤の民族衣装なので、ベンティルは、「スウェーデン人に殴って欲しいと頼んでるユダヤ人に見える」と言って嫌がり、父に殴られる。父は、「ダーラナ人は、クリスチャン2世を追放して、デンマークの帝国主義に終止符を打ったんだ(1521年)」と、母の行為に賛同し、派手な衣装を身に付けたローランの前に立つと、「どうだ?」と訊く。「なかなかいいよ」。すると、ベンティルが 「ローランは学校で殴られる」と言う(2枚目の写真)。しかし、結局、ベンティルも全く同じ民族衣装を着せられ、ローランと一緒に家から出される。兄は、父の姿が見えなくなると、すぐにチョッキのような青い上着と、赤いボールの付いた帽子を脱いで袋に入れ、ローランだけがそのままの格好で教室に入って行く。兄の言葉と違い、誰もローランを殴らなかったが、意地悪な教師は、「ローラン、いったいどういう風の吹き回しだ?」と尋ねる。ローランは、立ち上がると、「僕がスウェーデン人であることを強調したいと思いまして」と誇らしげに主張する(3枚目の写真)。「クラスの笑い者になりたいからかね?」。「いいえ、先生のためにやってるんです」。この言葉に生徒達が笑ったので、人種差別の教師はローランを睨みつける。
  
  
  

ローランが民族衣装のまま家に帰ると、母が店舗内で大勢の女性を前に、「この “靴下〔strumpan〕” は数回使うことができます」と言いながら、コンドームを袋から出して見せている。ローランは、はっきり見ようと、家の中から母の背後に近づき、じっと見ている(1枚目の写真)。母はペニスの模型を取り出し、「このように被せ、これに片栗粉をまぶします」と言って、粉を振りかける(2枚目の写真、矢印)。ここで、母は背後のローランに気付き、カーテンを閉める。それでも、ローランはカーテンを少し開けてこっそりと見続ける。母は、最後に、「使用後は、“靴下” に異常がないか確認することがとても重要です」と言い、コンドームに息を吹き込んで風船のように丸く膨らませ、これがローランに大きなヒントを与える。そして、誰もいなくなってから 店の奥に入って行くと、引き出しの中に隠してあったコンドームの袋を探し出し(3枚目の写真)、幾つかポケットに入れる。
  
  
  

そして、地下室に行くと、コンドームに息を吹き込んで膨らませてみる(1枚目の写真)。そのあと、その自分の左足をコンドームに詰め込み〔母は “靴下” と言っていた〕、そのまま水の中に入れ、足が濡れないことを確かめ(2枚目の写真)、「水中用靴下〔Undervattensstrumpa〕だ」と言って喜ぶ。そのあと、台所に行くと、何かの器械を使ってコンドームに空気を入れて風船のように大きく膨らませ、片端を紐で縛って空中に浮かぶことを確かめる。それを10個作ると、家の裏手の小広場の鉄枠に風船を縛り付け、「こぶ付き風船、25オーレ」と何度も叫んで、売り始める(3枚目の写真)〔こぶがあるのは、コンドームの先端がきれいに膨らまず、コブのように残ってしまうから〕
  
  
  

風船が幾つか売れたところに母が現われると、その風船が自分のコンドームからできたものだとすぐ気付き、頭髪から髪ピンを取ると、「こんなことして、私たちを不幸にするつもり?」と言いながら、次から次へと風船を割って行く(1枚目の写真、矢印は、割れた風船のゴム)。家に入った母に、ローランは 「パパに言わないで」と頼む。「話すつもりはないわ。でも、こんなこと、ママにとってすごく迷惑なの。二度としないと約束して」。2人は、①作らない、②父に言わない、で約束成立し、母は、割った風船をローランに渡し、ゴミ箱に入れてくるよう指示する。ローランは、風船を縛っていた紐のある方を左手に持ち、右手でこぶの方を持つと、そのまま引っ張ってみる(2枚目の写真)。そして、これなら、ゴムのパチンコに最適だと気付く。そこに父が、坐骨神経痛が悪化して、何とか家に辿り着き、いつも注射するベンティルがいないので、ローランにモルヒネを注射するよう頼む。ローランは、初めてなので針を刺すのを躊躇するが、「急いで、突き刺せ!」と言われ、思い切って注射する。それが済んだ後で、風船を幾つか売って得たコインを、「これ、兄さんのボクシングブローブのお金だよ」と言って、父の前に置く(3枚目の写真、矢印)。父は、「なるほど、これで帳消しだな」と笑顔になる。
  
  
  

次の場面は、うって変わって宮殿。国王の肖像画の全体像のモデルに選ばれた父は、ローランを伴って宮殿に行くと、国王と同じ服を着て靴を履き、宮殿の豪華な部屋の端に立ち、画家が描いている間、身動きせずにじっと立っている(1枚目の写真)。しかし、いくら歩かないといっても、これは坐骨神経痛の父にとって、次第に耐え難い苦痛となり、顔の表情が次第に険しくなる。それを見たローランが父のそばに駆け寄ると、父は、「ローラン、わしの上着に注射器がある。それを取りに走れ」と小声で命じる。しかし、ローランが取りに行く前に、我慢の限界を越えた父は、床に転倒する(2枚目の写真)。宮殿内の長椅子に横にされた父の尻にモルヒネの注射を終えたローランに、父は、「よくやった」と褒める(3枚目の写真)〔国王の肖像画の代理役が、無事に終わったのかどうかは分からない〕
  
  
  

次の場面では、ローランが、捨てられた針金をもらいに工場に行き(1枚目の写真)、ぐにゃぐにゃに曲がった1本の太い針金を持って家に帰る。そして、イスの足や背〔いろいろな太さの円形断面〕に針金を押し付けてY字状に加工すると、その先端にコンドームの両端を縛り付ける(2枚目の写真)。最後に、家の裏手の小広場に行き、試し撃ち(3枚目の写真、矢印)。小石は見事に屋根の上の目標に当たる。
  
  
  

ローランは、さっそく先ほどの工場に侵入し、廃棄された針金を何本も手に入れると、母のコンドームも新たに盗み出し、それを使ってたくさんのスリングショットを作る(1枚目の写真)。そして、学校の生徒用のトイレのドアの裏側に、「Kådisbellan EN Bagis/ロレ」と書いた紙を貼る(2枚目の写真)〔「Kådisbellan」は映画の題名。このサイトでは英語の題名「Slingshot」をそのまま使ったが、“Kådis” はコンドームの俗語。“bellan” 単独では意味がないが、“slangbella” は 英語の “slingshot”。なので、コンドーム・パチンコと訳すのがベストかもしれない。あるWEBサイトにも、そう書いてあった。Bagisは1クローナの俗語。コンドーム風船の4倍の値段なので、子供には結構高価だ〕。ローランは、買い手の前で、遠くの標的に特製のパチンコで狙いをつけ(3枚目の写真、矢印)、それが見事に当たったので、さっそく1人が1クローナで購入。
  
  
  

最終的に何個売れたのか分からないが、1人の生徒が飛んで来て、トイレの裏に貼った紙が、清掃係によって剥がされたと報告にくる。当然のことながら、その紙は校長に届けられ、ローランは、校長室に呼び出される。そして、ローランが、紙に書かれた「ロレ」が自分だと認めると、校長は部屋から出て行き、代わりに、ローランを嫌っている教師が入ってくる。彼は、懲罰用の長く細い木の板を手に持つと、「君みたいな社会主義者のろくでなしが、自分で事業を始めるとは、想像もつかなかった。それを望んだのは、君の中のユダヤに違いない。このゴムは、わが国では禁止されている。どこで手に入れた?」と訊く(1枚目の写真、矢印はパチンコのゴム)。ローランが母を庇って黙っていると、「ユダヤ人… 社会主義者… 犯罪人… 私は、良心の呵責なく君を叩くことができるな」と笑顔で言うと、ローラン自らに台を持って来させ、ズボンを下げさせると、そこにうつ伏せに横にならせる。そして、お尻を剥き出しにすると(2枚目の写真)、木の板で何度も叩く(3枚目の写真)。懲罰を終えたローランが部屋から出て、すぐ横にあるトイレに行こうとすると、「中庭に行け。読めんのか?」と命令する。「待てません」。「そこは、教師専用だ。生徒は中庭のトイレを使え」。ローランは、お尻が痛くて早く歩けないので、トイレの前で漏らしてしまう。家に戻ったローランは、教師からの連絡を受けた父が、罰でお尻を叩こうと部屋に連れ込むが、あまりにひどい傷を見て、何もせずにローランを部屋から出し、「何というろくでなしのサディストだ! 奴が息子に何をしたか見てみろ!」と、ローランの受けた残酷な懲罰を妻に見せる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

恐らく、その翌日、ローランはスティケンを探しに行き、公園で自転車に乗っているスティケンを見つけると、駆け寄って行き、12クローナを渡し、自転車を返してもらおうとする。ところが、彼は、「売った。こんなに早く金を手に入れられるとは思わなかったから」と弁解した上で、「これ〔今、彼が乗っている自転車〕なら、9クローナで手に入るぞ」と言うが、ローランが非難がましく、「売っちゃったの?」と訊くと、価格を8クローナに下げる。それでも、ローランは最初の自転車に愛着があったらしく、大声で喚くように叫ぶと、いきなりスティケンにつかみかかる。スティケンは、「お前、頭がおかしいんじゃないか?」と言って、逃げて行く。そこに現れたのが、だいぶ前に登場した “おまんこマルギット”。彼女は、商売道具の毛布を抱え、ローランに 「やあ」と声をかける。ローラン 「やあ」と答えると、「バイバイ」と言って誘うように去って行く。ローランが、「君!」と声をかけると、彼女は、振り向き、片方の靴紐をわざと解き、「靴紐 結びたい?」と訊く。「いいの?」。「1クローナよ」〔スティケンの話では25オーレだった〕。「いいよ」。そして、コインを渡す(1枚目の写真、矢印)。そして、靴の前に跪くと靴紐を結び、結び終わるとスカートの中に頭を入れる(2枚目の写真)。しかし、暗くて何も見えないので、そう言うと、マッチを渡され、ローランはスカートの中でマッチを擦って上を見上げる(3枚目の写真)。
  
  
  

前のシーンでは、公園の木が紅葉していたが、次のシーンでは辺り一面の雪。ローランは、戸外から薪を一抱え持って、地下室に入って行くと、そこには仲直りしたスティケンと、自転車にペンキ塗りを頼んだ少年が、礼金として1クローナ置いて行く〔ローランは、いつからペンキ塗りにお金をもらうようになったのか? 最初からもらっていれば、簡単に自転車が手に入ったのに。説明不足で納得できない〕。ローランは、今は、兄の用を足しているので、薪を抱えたまま奥に入って行く。そこでは、兄が、縦横1m、深さ1.5mほどの大きさの木箱の中に入り、頭だけ箱から外に出している(1枚目の写真、矢印は薪)。そして、ローランが持って来た薪を、横にある専用の薪ストーブの中に全部入れるよう頼む〔一種のサウナ〕。ローランは、「明日までにどうやって体重を減らすの?」と訊く〔これは、以前、兄が言っていた 「クリスマスのジュニア選手権」のこと。ということは、明日はクリスマス〕。兄は、「ボクサーは、みんな前日にサウナに入るんだ。俺は4キロ減らさないと。もっと薪を入れろ」と言う。ローランはもう一度外まで薪を取りに行き、全部薪ストーブの中に入れる。そして、いよいよジュニア選手権の日。リングに入った兄は、最初からフラフラしているが、ゴングが鳴ると、相手が何もしないのに、自分からリングに倒れてしまい(2枚目の写真)、それを見たローランは大声で笑い出す(3枚目の写真)。
  
  
  

この辺り、全部、全く異なる内容のシーンが続くが、その最たるものが、次のシーン。母の店に、いきなりカポウスキーと言う名の、ロシア出身の整形外科医がやって来て、父の症状を治すことができると告げる(1枚目の写真)。父は、半信半疑、教えられた場所に行くと、そこでは2人の男女が天井から吊るされていた。父は、びっくりして逃げ出そうとするが、看護婦が父を部屋に連れ込み、コートを脱がせ、天井から肩を吊り(2枚目の写真)、看護婦が腰に抱き着いて下に引っ張る。すると、大きな音がして、父が悲鳴を上げる。しばらくして、建物から出て来た父は、松葉杖をローランに渡し、雪が凍り付いた歩道の上を歩く(3枚目の写真)。そして、「奇跡だ!」と大喜び〔このシーンが何のためにあるのかよく分からない。というのは、この先、もう父の出番はほとんどなくなるし、牽引療法の有効性が、この映画の設定年代の100年後の現在でも「ある程度効く」「全く効かない」とWEB上で意見が分かれていて、映画のように完治するとは信じられないから〕
  
  
  

ここからが、映画の本筋。季節は夏休み前の初夏。ローランが外から戻って来ると、店のガラス窓から “若い社会主義女性クラブの集会” の時にいた署長が家の中に入って行くのが見える。そこで、ローランは、急いで地下室に行き、残っていたコンドーム・パチンコを回収して薪ストーブに放り込む。そして、安心して居間に入って行くと、署長から、「地下室の作業場は君が使ってるのか?」と訊かれる。「はい」。「自転車もか?」。これは、ローランにとって意外な質問だったので、「自転車?」と問い返す。「そうだ」。「修理して塗装してます」。「君は、自転車はすべて盗品だと知っていたか?」。ローランは、「え?!」とびっくりする(1枚目の写真)。ローランは警察に連れて行かれ、署長は、「わしが聴取した少年たちは、皆、君を雇って仕事をさせたと供述した。君は地下室で、サドル、ハンドルバー、泥除け、ライトなどを交換した」と、指摘する。「僕は、自転車の修理と再塗装を頼まれただけです」(2枚目の写真)。「そういう言い方もあるが、あの地下室は、盗難自転車の偽装場だったとも言える」。「僕は、自転車を売ったことなど一度もありません」〔「盗難自転車だとは知らなかった」と言うべき〕。「自白した方がいいぞ。地下室は証拠で溢れている。10名の少年が 君に対して不利な証言をしている。ここでどれだけ議論しても、無意味だと思うがどうだ? 罪を認めた方がいい。食事も用意しよう。君は未成年だから刑務所には行かなくていい。更生施設に入れられる。だから、そこに署名するんだ」。それまで泣いていたローランは(3枚目の写真)、盗難に関わっていたという自覚など全くないので、「するもんか」と断る〔現在の日本の法律では、盗品だと知らずに盗品に関与した場合は無罪とされるようなので、もし、当時のスウェーデンも同じだとすれば、この署長の行為は勝手な思い込みと、本人からの聴取職務不足による愚行〕
  
  
  

署名を拒否したローランは、意地悪な署長により、他の成人犯罪者と同じように署内の留置施設(地下房)に入れられる。既にそこに入っていた風変わりで気さくな男は、非常に有益なことをローランに教えてくれる。その男は、自分の体についたシラミを取っていたのだが(1枚目の写真)、その目的は、尋問を受ける度にトイレに行き、シラミを便座のあちこちに置いておくこと。そうすれば、署内の警官が全員シラミに取り付かれるから。そのあと、カンカンに怒った父が警察署にやってきて、ローランを取り戻そうとするが、ローランは既に署長が勝手に作った自白書に署名していた。そして、「ちょうどいい時に来られましたな。彼は自由に出て行けます。その後は、児童福祉委員会次第です。判定後、更生方法について連絡が行くでしょう」と告げる(2枚目の写真)〔不十分な捜査と、自白の強要による責任の回避〕。父は、それまでの態度とは一変し、「お前を信じている。無罪だと確信している」とローランを慰め、途中でソーセージを買ってやる(3枚目の写真、矢印)〔ソーセージのシーンは前にもあったが、ローランは、ユダヤ人だと卑劣な教師からは揶揄されているが、母はユダヤ人でも、ローランはキリスト教徒なので、ソーセージも母のいない所で食べることができるのだろう〕
  
  
  

ダメなボクサーの兄は、家に戻って来たローランの前で、パンチをくり出しながら、「何て怖いんだ。小便小僧が、更生施設に行くだと? きっと危険人物になるぞ」と無下なことを言い(1枚目の写真)、ワザとか失敗してか、またローランの顔を叩き、鼻に傷を負わせる〔最低の兄〕。そして、学校では、教師が生徒達に、「もうすぐ学校を卒業する君たちは、職業を決めなければならない」と言い、順番に訊いて行く。「アラン、君はもう決めているか?」。「父さんと同じ鍛冶屋です」。次のイングヴァルの返事は、「路面電車の運転手です。でも、まず父さんが野菜を売るのを手伝います」。意地悪教師は、ローランの前に行くと、「そして、ローラン… 君は更生施設に行くことになった。将来、何になるんだ? 泥棒〔inbrottstjuv〕か?」〔教師として恥ずべき発言〕。「さあね。だけど、クソみたいなことしか教わらなかったから、教師にはなれないな」。「何が言いたい?」。「僕が行くのは更生施設だから、こんな侮辱から解放される。スクルバの更生施設には、まともな先生もいるし」(2枚目の写真)。これらのローランの言葉は、この教師がクソでバカだと批判したことになるので、当然、廊下に立たされる。やってきた校長は、ニコニコしながら、「君の罰の多さには驚く他ないな。ひょっとして、君はそれを楽しんでるんじゃないか?」と言いながら、ローランの前まで来る。ローランは、「そうじゃないけど、叩けよ。校長から楽しみを奪いたくない」と言い、校長をびっくりさせる。「あんたは、ユダヤ嫌いで、社会主義者嫌い。僕は、まさに嫌われ者なんだ。だから、叩けよ。真の独裁者なら、この機会を逃がしちゃ駄目だ」と言うと(3枚目の写真)、叩き易いように顔を前に出す。校長は、この言葉に腹を立ててローランの頬を叩く。
  
  
  

ローランは、教師専用のトイレに、同級生の1人を呼び込むと〔シラミが多くて嫌われている生徒〕、お金を払ってシラミを取っては(1枚目の写真、矢印)、それを便座の上に置く(2枚目の写真、矢印)。家に戻ったローランは、①母が、なぜ、ロシアで最初に愛した人と結婚しなかったのか? ②ロシアから逃げなかったら、どんな子が生まれていたのか? という疑問を投げかけた上で、「こんな僕でいいの?」と尋ねる。それに対し、母は、「神様は、そうだと思われてるわ。私の大切な坊や… あなたはどんな人にでもなれるのよ。それを忘れないで」と語りかける(3枚目の写真)。
  
  
  

鼻のガーゼは取れているが、傷が残っているので、兄に殴られてから数日後、ローランはスクルバの更生施設〔Skrubba skyddshem〕に出発すべく、服を着て、父に別れを告げようと、2人の社会主義者の友人と話し合っている父の所に行き(1枚目の写真)、「パパ、行くよ」と声をかける。父は、2人に 「革命はまだ若い。少年と同じくらい若い」と言うと、ローランを抱え上げてカウンターの上に載せ、「彼を見てくれ。彼の前途には未来がある」(2枚目の写真)「彼は、これからも何度も鼻を傷つけるだろう。でも、それはただのひっかき傷だ。彼は大きく強くなる」と 誇らしげに言う。次のシーンでは、ローランは次の学期からスクルバの更生施設に入る生徒8人を乗せたバスに乗っている(3枚目の写真)。
  
  
  

次のシーンは、実際に起きたことなのか、ローランの想像なのか、区別は難しい。ローランがいた学校では、校長が体のあちこちや手が痒くてポリポリ掻いている(1枚目の写真)。教師失格の担任も、体のあちこちや首が痒くてポリポリ掻いている(2枚目の写真)。便座にばらまいてきたシラミが効いたのだ。そして、バスの中で、急にローランが笑い出す(3枚目の写真)。
  
  
  

バスが木造の建物の前に着くと、そこには、10数名の生徒と、数名の教師、数名の用務員が出迎えるべく立っている(右の写真は、かつてのスクルバの更生施設。手前がDrevviken湖)。バスを降りると、全員直ちに、スクルバの更生施設のすぐ前にある湖に連れて行かれ、着ている服をすべて脱がされる〔服はシラミを殺すために熱湯に入れられる〕。そして、全身に石鹸を塗られてタワシで擦られ、シラミを洗い落とし(1枚目の写真)、最後は、桟橋から湖に飛び込んで石鹸を洗い流す(2枚目の写真)。教師は、全員に「食堂で午後6時に温かい食べ物だ」と呼びかける。その時、1人の先輩の生徒が、ローランに、「おい “鼻〔Kranen、俗語〕”、自分で拭けよ」と言う。すると、教師が寄って来て、「嫌なら、そう呼ぶのを禁止してあげよう」と声をかける。ローランは、そんな配慮を受けたことがないので、「結構です、先生。でないと、ミートボールって呼ばれるかもしれません」と断る。「その鼻、どうしたんだ?」。「兄さんにやられました。ユールゴーデン〔Djurgården〕のボクサーで、僕を練習台にしてるんです」〔ここで初めてローランの家がどこにあったかが分かる。ユールゴーデンはストックホルムの最東端の島〕。教師は、「一度君の兄さんと試合してみたいな。ボクシンググローブなしで」と言い、その言葉にローランはにっこりする(3枚目の写真)。前よりもうんといい “学校” に来られたからだ。しかも、かつての同級生の多くは労働者として働くのに、ローランは、ここで学業を続けることができる。
  
  
  

ローランは、下半身にタオルを巻き付けた格好で施設に走って行く途中、草むらのなかで1匹のカエルを見つける。そして、一度は、自分の不注意で上から石を落として殺してしまったと思い込んでいたので、「知ってたさ! お前が死ぬはずないんだ」と話しかける(1枚目の写真)。そして、カエルを手に持ったまま、湖に入って行き、そのまま水中に潜る(2枚目の写真)。カエルは、ローランの手から離れて泳ぎ始める。映画の最後は、ローランが水中から飛び出してジャンプするところで終わる(3枚目の写真)〔これは、彼のその後の人生での飛躍を示唆している〕
  
  
  

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スウェーデン の先頭に戻る          1990年代前半 の先頭に戻る